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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】発光素子を制御する画素回路
(51)【国際特許分類】
   G09G 3/3233 20160101AFI20240730BHJP
   G09G 3/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G09G3/3233
G09G3/20 624B
G09G3/20 611H
G09G3/20 642A
G09G3/20 680G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020150873
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2021105705
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019236986
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河内 玄士朗
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-257878(JP,A)
【文献】特開2014-109707(JP,A)
【文献】特開2004-126139(JP,A)
【文献】特開2010-224531(JP,A)
【文献】特開2008-151963(JP,A)
【文献】特開2012-014136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0311682(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109448637(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G 3/00- 3/08
G09G 3/12- 3/16
G09G 3/19- 3/26
G09G 3/30- 3/38
H05B 33/00-33/28
H05B 44/00
H05B 45/60
H10K 50/00-99/00
H01L 21/78
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子の駆動電流を制御する画素回路であって、
前記発光素子に駆動電流を供給する、駆動トランジスタと、
前記駆動電流を示すデータ信号が通過する、第1スイッチトランジスタと、
前記第1スイッチトランジスタからの信号を受け、前記駆動トランジスタのゲートに与える電圧を保持する保持容量と、
前記保持容量が保持する電圧を補正するように動作する第2スイッチトランジスタと、
前記駆動トランジスタのドレインと接続された電極と、所定電位が与えられる電極と、を含む第1容量と、
前記保持容量と並列に接続された抵抗と、
下層電極と、上層電極と、前記下層電極と前記上層電極との間の誘電膜と、を含み、
前記保持容量は、前記下層電極の一部と、前記上層電極の一部と、前記下層電極の一部と前記上層電極の一部との間の前記誘電膜の部分と、を含み、
前記抵抗は、前記誘電膜における、前記下層電極のエッジと前記上層電極の前記エッジをオーバハングする部分との間の部分に構成されている、画素回路。
【請求項2】
発光素子の駆動電流を制御する画素回路であって、
前記発光素子に駆動電流を供給する、駆動トランジスタと、
前記駆動電流を示すデータ信号が通過する、第1スイッチトランジスタと、
前記第1スイッチトランジスタからの信号を受け、前記駆動トランジスタのゲートに与える電圧を保持する保持容量と、
前記保持容量が保持する電圧を補正するように動作する第2スイッチトランジスタと、
前記駆動トランジスタのドレインと接続された電極と所定電位が与えられる電極とを有する可変容量である、第1容量と、
を含む、画素回路。
【請求項3】
発光素子の駆動電流を制御する画素回路であって、
前記発光素子に駆動電流を供給する、駆動トランジスタと、
前記駆動電流を示すデータ信号が通過する、第1スイッチトランジスタと、
前記第1スイッチトランジスタからの信号を受け、前記駆動トランジスタのゲートに与える電圧を保持する保持容量と、
前記保持容量が保持する電圧を補正するように動作する第2スイッチトランジスタと、
前記駆動トランジスタのドレインと接続された電極と、所定電位が与えられる電極と、を含む第1容量と、
前記駆動トランジスタへの電流の供給をON/OFFする第3スイッチトランジスタと、
前記駆動トランジスタのゲートに第1リセット電位を供給する第4スイッチトランジスタと、
前記駆動トランジスタと前記発光素子との間において、前記発光素子への電流の供給をON/OFFする第5スイッチトランジスタと、
前記発光素子のアノードに第2リセット電位を与える第6スイッチトランジスタと、
を含む、画素回路。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の画素回路であって、
前記第1容量の容量値を前記保持容量の容量値で割った値は2以上である、
画素回路。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の画素回路であって、
前記保持容量と並列に接続された抵抗をさらに含む、
画素回路。
【請求項6】
請求項1又は5に記載の画素回路であって、
前記保持容量の容量値と前記抵抗の抵抗値との積は0.1秒以上であり、
前記第1容量の容量値を前記保持容量の容量値で割った値は2以上である、
画素回路。
【請求項7】
請求項1、2又は3に記載の画素回路であって、
前記第1容量は、半導体膜上に絶縁層と金属層を積層して構成される、Metal-Insulator-Semiconductor型の容量である、
画素回路。
【請求項8】
請求項1、2又は3に記載の画素回路であって、
前記第1スイッチトランジスタと前記第2スイッチトランジスタとは、同時にONとなり、
前記第2スイッチトランジスタがONであるとき、前記第2スイッチトランジスタは前記駆動トランジスタをダイオード接続状態にし、
前記保持容量に蓄積される電荷は、前記ダイオード接続状態の駆動トランジスタのチャネルを介して供給される、
画素回路。
【請求項9】
請求項1、2、又は3に記載の画素回路であって、
前記第1容量は、
前記駆動トランジスタのドレインと同一の半導体膜に含まれる下層電極と、
前記下層電極の上に積層された絶縁膜及び上層電極と、を含む、
画素回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光素子を制御する画素回路に関する。
【背景技術】
【0002】
OLED(Organic Light-Emitting Diode)素子は電流駆動型の自発光素子であるため、バックライトが不要となる上に、低消費電力、高視野角、高コントラスト比が得られるなどのメリットがあり、フラットパネルディスプレイの開発において期待されている。
【0003】
アクティブマトリックス(AM)タイプのOLED表示装置は、画素を選択するトランジスタと、画素に電流を供給する駆動トランジスタとを含む。OLED表示装置におけるトランジスタは、TFT(Thin Film Transistor)であり、一般に、LTPS(Low Temperature Poly-silicon)TFTが使用される。
【0004】
TFTは、閾電圧や電荷移動度にばらつきを持っている。駆動トランジスタは、OLED表示装置の発光強度を決定するので、こうした電気特性にばらつきがあると、問題となる。そこで、一般のOLED表示装置には、駆動トランジスタの閾値電圧のバラツキや変動を補正する補正回路が実装される。
【0005】
OLED表示装置において、残像が発生することがあり、この現象はイメージリテンションと呼ばれる。例えば、黒と白の市松模様を特定の時間表示した後に、画面全体で中間階調を表示しようとすると、異なる階調の市松模倣の残像がしばらく表示される。
【0006】
これは、駆動トランジスタが持つ履歴効果に起因する。履歴効果とは、電界効果型トランジスタにおいて、ゲートソース間の電圧が、高い電圧から低い電圧へ変化したときのドレイン電流と、低い電圧から高い電圧へ変化したときのドレイン電流が、それぞれ異なる現象を指す。
【0007】
つまり黒から中間階調に切替えたときのドレイン電流と、白から中間階調に切替えたときのドレイン電流が異なるため、OLED表示装置の発光強度に違いが生じる。また、このドレイン電流の違いが数フレーム以上にわたって続くため、残像として視認されるのである。こうしたドレイン電流の振舞いを、履歴効果による電流過渡応答特性と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2016/0165700号
【文献】米国特許出願公開第2009/0115703号
【文献】米国特許出願公開第2010/0309174号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
黒と白の市松模様を表示したあとのイメージリテンションによる残像は、黒であった部分が相対的に暗い場合と、黒であった部分が相対的に明るい場合がある。イメージリテンションは、駆動TFTの履歴効果による電流過渡応答特性と、画素回路による駆動TFTの閾値電圧補正の特性に起因する。したがって、画素回路においてイメージリテンションを低減できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様は、発光素子の駆動電流を制御する画素回路である。画素回路は、前記発光素子に駆動電流を供給する、駆動トランジスタと、前記駆動電流を示すデータ信号が通過する、第1スイッチトランジスタと、前記第1スイッチトランジスタからの信号を受け、前記駆動トランジスタのゲートに与える電圧を保持する保持容量と、前記保持容量が保持する電圧を補正するように動作する第2スイッチトランジスタと、前記駆動トランジスタのドレインと接続された電極と、所定電位が与えられる電極と、を含む第1容量と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、表示装置におけるイメージリテンションを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】表示装置であるOLED表示装置の構成例を模式的に示す。
図2A】ネガ型残像の例を模式的に示す。
図2B図2Aに示す表示画像の変化に対応する副画素の駆動電流の変化を示す。
図3A】ポジ型残像の例を模式的に示す。
図3B図3Aに示す表示画像の変化に対応する副画素の駆動電流の変化を示す。
図4】OLED表示装置におけるイメージリテンションと、駆動TFTの特性及び画素回路のデータ信号補正作用との関係を説明するためのグラフを示す。
図5】本実施形態に係る画素回路の構成例を示す。
図6】1フレーム期間において、図5に示す画素回路を制御する信号のタイミングチャートを示す。
図7】保持容量Cstの容量値と抵抗Rstの抵抗値との積である時定数τstと、残像強度との関係のシミュレーション結果を示す。
図8A】容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値と、残像強度との関係のシミュレーション結果を示す。
図8B】容量Cpの値が保持容量Cstの値より大きい場合のノードN1の電圧波形を示す。
図8C】容量Cpの値が保持容量Cstの値より小さい場合のノードN1の電圧波形を示す。
図9】抵抗Rstの異なる抵抗値における、残像強度の時間変化のシミュレーション結果を示す。横軸は時間を示し、縦軸は残像強度を示す。
図10】抵抗Rstによる、フレーム内輝度変動を模式的に示す。
図11】フリッカ強度Fと時定数τstとの関係のシミュレーション結果を示す。
図12】容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値、時定数τst、及び残像強度の関係のシミュレーション結果を示す。
図13】容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値、時定数τst、及びフリッカ強度の関係のシミュレーション結果を示す。
図14】フリッカ強度が0.5以内となる条件において、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値、時定数τst、及び残像強度の関係のシミュレーション結果を示す。
図15】保持容量Cst及び抵抗Rstを含む構造部を模式的に示す平面図である。
図16図15におけるXVI-XVI切断線での断面構造を模式的に示す。
図17】画素回路における、保持容量Cst、容量Cp及び抵抗Rstを含む部分の模式的な平面図を示す。
図18図17におけるXVIII-XVIII切断線での断面構造を模式的に示す。
図19】容量Cpの構成例を示す。
図20】画素回路における、保持容量Cst、容量Cp及び抵抗Rstを含む部分の模式的な平面図を示す。
図21図20におけるXXI-XXI切断線での断面構造を模式的に示す。
図22】画素回路の他の構成例を示す。
図23】可変容量と引き出し配線を含む画素の平面パターンを示す。
図24図23におけるXXIV-XXIV切断線での断面図である。
図25】可変容量の電圧-容量特性の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、図面を参照して実施形態を具体的に説明する。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。説明をわかりやすくするため、図示した物の寸法、形状については、誇張して記載している場合もある。
【0014】
以下において、OLED(Organic Light-Emitting Diode)表示装置のように、駆動電流により発光する発光素子を使用する発光型表示装置における、駆動電流制御を改善するための技術を開示する。より具体的には、発光型表示装置におけるイメージリテンションを抑制する技術を開示する。
【0015】
[表示装置構成]
図1は、表示装置であるOLED表示装置10の構成例を模式的に示す。OLED表示装置10は、OLED素子(発光素子)が形成されるTFT(Thin Film Transistor)基板100と、有機発光素子を封止する封止基板200と、TFT基板100と封止基板200とを接合する接合部(ガラスフリットシール部)300を含んで構成されている。TFT基板100と封止基板200との間には、例えば、乾燥窒素などの不活性ガスが封入されており、接合部300により封止されている。
【0016】
TFT基板100の表示領域125の外側のカソード電極形成領域114の周囲に、走査回路131、132、ドライバIC134、デマルチプレクサ136が配置されている。ドライバIC134は、FPC(Flexible Printed Circuit)135を介して外部の装置と接続される。走査回路131、132はTFT基板100の走査線を駆動する。
【0017】
ドライバIC134は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いて実装される。ドライバIC134は、走査回路131、132に電源及びタイミング信号(制御信号)を与える。さらに、ドライバIC134は、デマルチプレクサ136に、データ信号を与える。
【0018】
デマルチプレクサ136は、ドライバIC134の一つのピンの出力を、d本(dは2以上の整数)のデータ線に順次出力する。デマルチプレクサ136は、ドライバIC134からのデータ信号の出力先データ線を、走査期間内にd回切り替えることで、ドライバIC134の出力ピン数のd倍のデータ線を駆動する。
【0019】
表示領域125は、複数のOLED素子(画素)及び複数の画素それぞれの発光を制御する複数の画素回路を含む。カラーOLED表示装置において、各OLED素子は、例えば、赤、青又は緑のいずれかの色を発光する。複数の画素回路は、画素回路アレイを構成する。
【0020】
後述するように、各画素回路は、駆動TFT(駆動トランジスタ)と、駆動TFTの駆動電流を決める信号電圧を保持する保持容量を含む。データ線が伝送するデータ信号は、補正されて保持容量に蓄積される。保持容量の電圧は、駆動TFTのゲート電圧(Vgs)を決定する。補正されたデータ信号が駆動TFTのコンダクタンスをアナログ的に変化させ、発光階調に対応した順バイアス電流をOLED素子に供給する。
【0021】
[イメージリテンション]
本明細書のOLED表示装置10は、イメージリテンションによる残像を抑制する構成を画素回路に含める。例えば白と黒の市松模様の固定パターンをOLED表示装置1に表示させた後、表示画像を中間階調の画像に切り替えると、固定パターンに対応する残像がしばらく表示される。
【0022】
残像強度や残存時間は、固定パターンの表示時間(ストレス時間)に依存し、時間経過により消失する。イメージリテンションによる残像は、固定パターンと逆の明暗を示す(逆極性の)ネガ方と、固定パターンと同一の明暗を示す(同一極性の)ポジ方とが存在する。
【0023】
図2Aは、ネガ型残像の例を模式的に示す。OLED表示装置10は、特定の時間、市松模様の初期画像251の表示した後(固定パターンストレスの後)、全域が中間階調の目的画像255を表示しようとする。しかし、イメージリテンションによる残像253が、目的画像255の代わりに表示される。残像253は、異なる中間階調の市松模様である。
【0024】
残像253における明暗のパターンは、初期画像251における明暗のパターンの逆となっている。つまり、残像253における明るい部分は、初期画像251における黒の部分と一致し、残像253における暗い部分は、初期画像251における白の部分と一致している。
【0025】
図2Bは、図2Aに示す表示画像の変化に対応する副画素の駆動電流の変化を示す。駆動電流はOLED素子に流れる電流であり、駆動電流が大きい程OLED素子の輝度が高くなる。図2Bにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は駆動電流を示す。電流I1は、黒から中間階調に変化する副画素の駆動電流を示す。電流I2は、白から中間階調に変化する副画素の駆動電流を示す。
【0026】
時刻T0において、副画素へのデータ信号が、初期画像251の値から目的画像255の値に切り替わる。黒を表示していた副画素の駆動電流I1は、目的の駆動電流I7を超えて増加した(オーバーシュート)後、目的の駆動電流I7に向かって漸減する。反対に、白を表示していた副画素の駆動電流I2は、目的の駆動電流I7を超えて減少した後(アンダーシュート)、目的の駆動電流I7に向かって漸増する。
【0027】
ここで、残像強度IRを以下のように定義する。
残像強度IR=2.0×(I1-I2)/(I1+I2)
図2A及び2Bに示すネガ型残像において、残像強度IRは正である。
【0028】
図3Aは、ポジ型残像の例を模式的に示す。OLED表示装置10は、特定の時間、市松模様の初期画像(固定画像)251を表示した後(固定パターンストレスの後)、全域が中間階調の目的画像255を表示しようとする。しかし、イメージリテンションによる残像257が、目的画像255の代わりに表示される。残像253は、異なる中間階調の市松模様である。
【0029】
残像257における明暗のパターンは、初期画像251における明暗のパターンと対応している。つまり、残像257における明るい部分は、初期画像251における白の部分と一致し、残像257における暗い部分は、初期画像251における黒の部分と一致している。
【0030】
図3Bは、図3Aに示す表示画像の変化に対応する副画素の駆動電流の変化を示す。図3Bにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は駆動電流を示す。電流I1は、黒から中間階調に変化する副画素の駆動電流を示す。電流I2は、白から中間階調に変化する副画素の駆動電流を示す。
【0031】
時刻T0において、副画素(画素回路)へのデータ信号が、初期画像251の値から目的画像255の値に切り替わる。黒を表示していた副画素の駆動電流I1は、目的の駆動電流I7より小さい値まで急激に増加した後、目的の駆動電流I7に向かって漸増する。反対に、白を表示していた副画素の駆動電流I2は、目的の駆動電流I7より大きい値まで急激に減少した後、目的の駆動電流I7に向かって漸減する。図3A及び3Bに示すポジ型残像において、残像強度IRは負である。
【0032】
イメージリテンションの主原因は駆動TFTの過渡応答特性であり、画素回路(TFT基板)の駆動TFTの閾値電圧の補正作用により、イメージリテンション(残像)がネガ型となるかポジ型となるかが決まる。以下に、イメージリテンションと、駆動TFTの特性及び画素回路のデータ信号補正作用との関係を具体的に説明する。
【0033】
図4は、OLED表示装置10におけるイメージリテンションと、駆動TFTの特性及び画素回路のデータ信号補正作用との関係を説明するためのグラフを示す。図4のグラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸はOLED素子に供給される駆動電流を示す。ドライバIC134は、フレーム毎に、画素回路に新たなデータ信号を書き込む。画素回路は、ドライバIC134からのデータ信号(電圧)において駆動TFTの閾値電圧の補正(Vth補正)を行い、保持容量に蓄積する。
【0034】
図4の例において、ドライバIC134は、時刻T0において、画素回路に与えるデータ信号を、黒のデータ信号から中間階調のデータ信号に変化させる。その後、フレーム毎に中間階調のデータ信号を画素回路に書き込む。画素回路は、Vth補正を行ったデータ信号(電圧)を、保持容量に蓄積する。
【0035】
線301は、駆動TFTの黒から中間階調への過渡応答特性(Vth補正なし)を示す。駆動TFTの過渡応答特性301は、時刻T0において黒の値から増加して中間階調の目標の電流値311をオーバーシュートし、その後、漸減して目標の電流値311に近づく。このように、駆動TFT自体は、ネガ型の特性を有している。
【0036】
線303は、理想的な補正が行われた駆動電流の変化を示す。理想的な駆動電流303は、ドライバIC134からデータ信号が書き込まれる毎に、目標の電流値311となり、その後、駆動TFTの過渡特性に応じて変化する。
【0037】
線305は、過補正の駆動電流の変化を示す。補正は、駆動TFTの過渡応答特性を補償するように駆動電流を変化させる。そのため、過補正の駆動電流305は、ドライバIC134からデータ信号が書き込まれる毎に、目標の電流値311よりも低い電流値となり、その後、駆動TFTの過渡特性に応じて変化する。過補正の量は徐々に小さくなり、駆動電流は徐々に目標の電流値311に近づく。過補正の場合、駆動電流の応答は駆動TFTの過渡応答とは逆の極性となるため、イメージリテンションはポジ型となる。
【0038】
線307は、補正不足の駆動電流の変化を示す。補正は、駆動TFTの過渡応答特性を補償するように駆動電流を変化させる。そのため、補正不足の駆動電流305は、ドライバIC134からデータ信号が書き込まれる毎に、目標の電流値311よりも大きい電流値となり、その後、駆動TFTの過渡特性に応じて変化する。補正不足は徐々に解消され、駆動電流は徐々に目標の電流値311に近づく。補正不足の場合、駆動電流の応答は駆動TFTの過渡応答と同じ極性となるため、イメージリテンションはネガ型となる。
【0039】
上述のように、イメージリテンションは、駆動TFTの履歴効果による電流過渡応答特性と画素回路の補正作用に起因する。画素回路の補正作用は画素回路により決まるため、画素回路を適切に設計することで、残像強度(イメージリテンション)をゼロに近づけることができる。
【0040】
本実施形態は、画素回路に補正作用を調整するための回路(素子)を含める。これにより、イメージリテンションの残像を低減するように、画素回路を容易に設計することができる。
【0041】
[画素回路]
図5は、本実施形態に係る画素回路の構成例500を示す。画素回路500は、補正作用調整素子(回路)を含む。画素回路500において、容量Cp(第1容量)と抵抗Rstが、イメージリテンションを抑制するために補正作用を調整する働きをする。なお、抵抗Rstは省略してもよい。
【0042】
画素回路500は、ドライバIC134から供給されるデータ信号を補正し、その補正したデータ信号によりOLED素子の発光を制御する。画素回路500は、ゲート端子、ソース端子およびドレイン端子を持った7つのトランジスタ(TFT)M1~M7を含む。本例において、トランジスタM1~M7はP型TFTである。
【0043】
トランジスタM3は、OLED素子E1への電流量を制御する駆動トランジスタである。駆動トランジスタM3は、アノード電源VDDからOLED素子E1に与える電流量を、保持容量Cstが保持する電圧に応じて制御する。OLED素子E1のカソードは、カソード電源VEEに接続されている。保持容量Cstは、駆動トランジスタM3のゲートソース間電圧(単にゲート電圧とも呼ぶ)を保持する。
【0044】
トランジスタM1及びM6は、OLED素子E1の発光の有無を制御する。トランジスタM1(第3スイッチトランジスタ)は、ソース端子がアノード電源VDDに接続され、ドレイン端子に接続された駆動トランジスタM3への電流供給をON/OFFする。トランジスタM6(第5スイッチトランジスタ)は、ソース端子が駆動トランジスタM3のドレイン端子に接続され、ドレイン端子に接続されたOLED素子E1への電流供給をON/OFFする。トランジスタM1及びM6は、それぞれ、走査回路131又は132からゲート端子に入力される発光制御信号Emiにより制御される。
【0045】
トランジスタM7(第6スイッチトランジスタ)は、OLED素子E1のアノードへのリセット電位(第2リセット電位)の供給のために動作する。トランジスタM7は、走査回路131又は132からゲート端子に入力される選択信号S2によりONにされると、リセット電源Vrstからリセット電位をOLED素子E1のアノードへ与える。リセット電源Vrstのもう一端は、GNDに接続されている。
【0046】
トランジスタM5(第4スイッチトランジスタ)は、駆動トランジスタM3のゲートへのリセット電位(第1リセット電位)の供給の有無を制御する。トランジスタM5は、走査回路131又は132からゲート端子に入力される選択信号S1によりONにされると、ドレイン端子に接続されたリセット電源Vrstからリセット電位を駆動トランジスタM3のゲートに与える。リセット電源Vrstのもう一端は、GNDに接続されている。なお、OLED素子E1のアノードへのリセット電位と駆動トランジスタM3のゲートへのリセット電位は異なっていてもよい。
【0047】
トランジスタM2(第1スイッチトランジスタ)は、データ信号を供給する画素回路500を選択するための選択トランジスタである。トランジスタM2のゲート電圧は、走査回路131又は132から供給される選択信号S2により制御される。選択トランジスタM2は、ONのとき、ドライバIC134からデータ線を介して供給されるデータ信号Vdataを、駆動トランジスタM3のゲート(保持容量Cst)に与える。
【0048】
本例において、選択トランジスタM2(ソース及びドレイン)は、データ線と駆動トランジスタM3のソースM3Sとの間に接続されている。さらに、トランジスタM4(第2スイッチトランジスタ)は、駆動トランジスタM3のドレインM3Dとゲートとの間に接続されている。
【0049】
トランジスタM4は、駆動トランジスタM3の閾値電圧を補正するために動作する。トランジスタM4がONであるとき、駆動トランジスタM3はダイオード接続状態のトランジスタを構成する。データ線からのデータ信号Vdataは、ONである選択トランジスタM2、駆動トランジスタM3及びトランジスタM4のチャネル(ソース及びドレイン)を介して、保持容量Cstに与えられる。
【0050】
保持容量Cstは、駆動トランジスタM3のゲートソース間電圧を保持し、図5の例において、一端は駆動トランジスタM3のゲートに、他端はトランジスタM1のソースとアノード電源VDDとの間のノードに接続されている。
【0051】
保持容量Cstは、駆動トランジスタM3の閾値電圧Vthに応じて補正されたデータ信号(電圧)を保持する。図5に示すように、画素回路500は、一端が駆動トランジスタM3のドレイン(ドレイン側のノード)に接続されて容量Cpを含む。容量Cpの一端(電極)はドレインと同電位であり、他端(電極)には固定電位が与えられる。図5の構成例において、容量Cpの他端は、アノード電源VDDに接続されている。容量Cpの他端に与えられる固定電位の大きさや極性は特に限定されない。
【0052】
画素回路500は、さらに、保持容量Cstと並列に接続された有限の抵抗Rstを含む。抵抗Rstの一端は駆動トランジスタM3のゲートに、他端はトランジスタM1のソースとアノード電源VDDとの間のノードに接続されている。後述するように、保持容量Cst、容量Cp及び抵抗Rstの値を適切に設定することで、イメージリテンションによる残像をゼロに近づけることができる。
【0053】
図6は、1フレーム期間において、図5に示す画素回路500を制御する信号のタイミングチャートを示す。図6は、N番目の行を選択し、データ信号Vdataを画素回路500に書き込むためのタイミングチャートを示す。具体的には、図6は、発光制御信号Emi、選択信号S1、選択信号S2、そして図5に示すノードN1における電圧N1Sの、1フレームにおける変化を示す。ノードN1の電圧N1Sは、駆動トランジスタM3のゲート電位と同一である。
【0054】
時刻T1において、発光制御信号EmiがLowからHighに変化する。これら制御信号に応じて、時刻T1において、トランジスタM1及びM6はOFFとなる。時刻T1において、選択信号S1及びS2はHighである。これら制御信号に応じて、トランジスタM2、M4、M5及びM7は、OFFである。時刻T1の後の時刻T2まで、これらのトランジスタ状態が維持される。ノード電位N1Sは、前回フレームの信号電位にある。
【0055】
時刻T2において、選択信号S1は、HighからLowに変化する。時刻T2において、発光制御信号Emi及び選択信号S2はHighである。選択信号S1の変化に応じて、トランジスタM5がONとなる。トランジスタM1、M2、M4、M6及びM7は、OFFである。トランジスタM5がONとなることで、ノード電位N1Sはリセット電源Vrstの電位に変化する。リセット電位は、時刻T2から時刻T3までノード電位N1Sに与えられる。1フレーム毎にノード電位N1Sにリセット電位が与えられることで、駆動トランジスタのゲート電位も毎フレーム同じ電位になるので、履歴効果による影響を低減することができる。
【0056】
時刻T3において、選択信号S1は、LowからHighに変化する。時刻T3において、発光制御信号Emi及び選択信号S2はHighである。選択信号S1の変化に応じて、トランジスタM5がOFFとなる。時刻T3から時刻T4まで、トランジスタM1、M2、M4~M7は、OFFである。
【0057】
時刻T4において、選択信号S2は、HighからLowに変化する。時刻T4において、発光制御信号Emi及び選択信号S1はHighである。選択信号S2の変化に応じて、トランジスタM2、M4及びM7がONとなる。トランジスタM1、M5及びM6はOFFである。
【0058】
トランジスタM7がONとなることで、OLED素子E1のアノードにリセット電源Vrstのリセット電位が与えられる。トランジスタM4がONであるため、駆動トランジスタM3はダイオード接続されている。トランジスタM2はONであるため、データ線からのデータ信号Vdataは、トランジスタM2、M3及びM4を介して、保持容量Cstに書き込まれる。
【0059】
保持容量Cstに書き込まれる電圧は、データ信号Vdataに対して駆動トランジスタM3の閾値電圧Vthに対する補正がなされた電圧である。時刻T4から時刻T5までの期間において、画素回路500へのデータ信号Vdataの書き込み及びそのVth補正がなされる。
【0060】
時刻T5において、選択信号S2は、LowからHighに変化する。時刻T5において、発光制御信号Emi及び選択信号S1はHighである。選択信号S2の変化に応じて、トランジスタM2、M4及びM7がOFFとなる。トランジスタM1、M2、M4~M7はOFFである。時刻T5から時刻T6まで、制御信号及びトランジスタの状態は、維持される。
【0061】
時刻T6において、発光制御信号EmiがHighからLowに変化し、トランジスタM1及びM6がOFFからONに変化する。選択信号S1及びS2はHighであり、トランジスタM2、M4、M5及びM7はOFFのままである。駆動トランジスタM3は、保持容量Cstに保持されている補正されたデータ信号に基づき、OLED素子E1に与える駆動電流を制御する。つまりOLED素子E1が発光する。
【0062】
上述の画素回路動作によれば、閾値電圧Vthの補正の程度、すなわち時刻T4から時刻T5におけるノード電位N1Sの到達点は、選択信号S2がLowとなる期間を変えることで制御できる。ノード電位N1Sが到達する電位の程度によって、閾値電圧Vthの可補正あるいは補正不足が決まる。
【0063】
しかし、この期間は、データ信号Vdataも書き込む必要があるため、実際において選択信号S2のLow期間を変化させる自由度は狭い。したがって、選択信号S2以外にも残像を制御可能な画素回路を、画素回路の規模を増大させることなく、かつ製造プロセスを増やすことなく構成できれば、OLED表示装置の更なる性能向上をはかることができる。
【0064】
上述のように、保持容量Cst及び容量Cpの容量値、並びに抵抗Rstの抵抗値を適切に設定することにより、残像強度をゼロに近づけることができる。以下において、これら回路要素の設計方法を説明する。
【0065】
図7は、保持容量Cstの容量値と抵抗Rstの抵抗値との積(Cstの値*抵抗Rstの値)である時定数τstと、残像強度との関係のシミュレーション結果を示す。図7のグラフにおいて、横軸は時定数τstを示し、縦軸は残像強度を示す。異なる形状の点は、それぞれ、容量Cpの異なる容量値における、時定数と残像強度との関係を示す。図7のグラフにおいて、容量Cpの容量値及び時定数が同一であり、異なる残像強度の結果は、異なる保持容量Cstの値と抵抗Rstの抵抗値の組み合わせを有している。
【0066】
残像強度が0より大きい場合、残像(イメージリテンション)はネガ型であり、残像強度が0より小さい場合、残像(イメージリテンション)はポジ型である。図7のシミュレーション結果は、時定数τstを小さくすると、ポジ型の残像をネガ型に向かって変化させることができることを示す。逆に、時定数τstを大きくすると、ネガ型の残像をポジ型に向かって変化させることができる。
【0067】
時定数τstが0.05s以上0.1s(秒)以下の範囲601において、残像強度をほぼゼロに調整できる。また、視認されにくい残像の観点から、一般に、隣接した領域の輝度差が1%未満であれば、人間の目には視認できないことが知られているので、一例として、残像強度の絶対値は、0.005以下(-0.005以上+0.005以下)の範囲602にあるように設計される。
【0068】
図8Aは、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)と、残像強度との関係のシミュレーション結果を示す。横軸は、容量比の値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)を示し、縦軸は残像強度を示す。異なる形状の点は、それぞれ、異なる時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)における、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値と、残像強度と、の関係を示す。図8Aのグラフにおいて、時定数及び容量比の値が同一であり、異なる残像強度の結果は、異なる保持容量Cstの容量値と抵抗Rstの容量値の組み合わせを有している。
【0069】
図8Aのシミュレーション結果は、容量Cpの容量値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)を大きくすると、残像強度が、負からゼロに近づいていくことを示す。逆に、容量Cpの容量値を小さくすると、残像強度は、正からゼロに近づいていく。また、図8Aのシミュレーション結果が示すように、容量Cpの容量値が保持容量Cstの容量値より大きい条件(Cpの値>Cstの値)を満たす場合、時定数のより広い範囲で、残像強度を小さくすることができる。
【0070】
容量Cpの作用は、おおよそ以下のように推測できる。図8Bにおいて、破線602は、容量Cpの値が保持容量Cstの値より大きい場合のノードN1の電圧波形を示す。図8Cにおいて、破線604は、容量Cpの値が保持容量Cstの値より小さい場合のノードN1の電圧波形を示す。図8B及び8Cにおける時刻T1~T6は、図6における時刻T1~T6に対応する。
【0071】
時刻T4において選択信号S2がLowになった瞬間、保持容量Cstに保持されていた電荷Qstと容量Cpに保持されていた電荷Qpの間で電荷の再配分が生じる。時刻T4におけるノードN1の電位Vzは、保持容量Csの値と容量Cpの値の比によって定まる次の値となる。
【0072】
【数1】
【0073】
ここで、Vxは、時刻T1直前の駆動トランジスタM3のドレインノードの電位である。Vrstは、リセット電源Vrstのリセット電位を示す。リセット電位Vrstは、通常VEEと同じかそれに近い負を値であるので、Vrst<Vxの関係が常に成立する。式(1)から、保持容量Cstの値>容量Cpの値であれば、Vzはよりリセット電位Vrstに近い負の値となる。容量Cpの値>保持容量Cstの値であれば、逆にVzはVxに近い値となる。
【0074】
この様子は図8B及び8Cに示されている。時刻T4から時刻T5の間に駆動トランジスタM3のチャネルを介して保持容量Cstを充電する電流値はVzの値によって定まる。Vzがより負になるほど充電電流は大きくなり、逆にVzがより正にシフトするほど充電電流は小さくなる。これによってVthの補正の程度が変化し、イメージリテンションも変化することになる。
【0075】
図9は、抵抗Rstの異なる抵抗値における、残像強度の時間変化のシミュレーション結果を示す。横軸は時間を示し、縦軸は残像強度を示す。図9のシミュレーション結果が示すように、抵抗Rstの抵抗値を小さくすると、イメージリテンションによる残像が、ポジ型からネガ型に変化する。逆に、抵抗Rstの抵抗値を大きくすると、イメージリテンションによる残像が、ネガ型からポジ型に変化する。
【0076】
抵抗Rstの作用は、おおよそ以下のように推測できる。抵抗Rstは、保持容量Cstの電荷を放電させるため、駆動トランジスタM3の駆動電流を減少させる。これは、データ信号の補正量を小さくすることを意味し、駆動トランジスタM3の動作状態が、過補正から補正不足の方向に変化する。つまり、イメージリテンションによる残像が、ポジ型からネガ型に変化する。
【0077】
一方、抵抗Rstの抵抗値が小さくなると、保持容量Cst内電荷の放電に伴い、フレーム期間中に発光電流が減少し、輝度変動(フリッカ)が発生する。図10は、抵抗Rstによる、フレーム内輝度変動を模式的に示す。図10のグラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は駆動電流を示す。抵抗Rstによる保持容量Cst内電荷の放電に伴い、フレーム期間中の発光電流の減少量が増加し、より大きな輝度変動が生じる。
【0078】
ここで、フレーム開始時の駆動電流をI3、からフレーム終了時の駆動電流をI4とする。さらに、フリッカ強度を以下のように定義する。
フリッカ強度F=(I3-I4)/(I3+I4)
【0079】
図11は、フリッカ強度Fと時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)との関係のシミュレーション結果を示す。横軸は、時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)を示し、縦軸は、フリッカ強度Fを示す。異なる形状の点は、それぞれ、異なる時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)における、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)と、残像強度と、の関係を示す。異なる形状の点は、それぞれ、容量Cpの異なる容量値における、時定数とフリッカ強度との関係を示す。
【0080】
OLED表示装置10の画像品質の観点から、一例において、フリッカ強度は0.5以下の範囲605に設定される。図11のシミュレーション結果から、対応する時定数τstの範囲は、0.1s以上である。図11のシミュレーション結果が示すように、フリッカ強度は、容量Cpの容量値に依存しない。
【0081】
上述のように、残像強度及びフリッカ強度の双方の観点から、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)と、時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)と、を決定することが重要である。
【0082】
まず、残像強度の絶対値が0.005以内(‐0.005以上+0.005以下)の範囲となる、時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)の範囲と、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値との比の値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)の範囲とを説明する。図12は、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値、時定数τst、及び残像強度の関係のシミュレーション結果を示す。
【0083】
図12のグラフにおいて、横軸は容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値を示し、縦軸は、時定数τstのLog値を示す。図12の法線に沿った軸(不図示)が残像強度を示す。図12のグラフにおいて、破線で囲まれた領域611は、残像強度の絶対値が0.005以内の範囲を示す。
【0084】
図12に示すシミュレーション結果から、残像強度の絶対値が0.005以下の範囲内あるようにするためには、以下の二つの条件の一方が満たされる必要がある。一つの条件は、時定数τstが0.06s以上0.1s未満(0.06s≦τst<0.1s)であることである。
【0085】
他の一つの条件は、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値が2.0以上(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値≧2.0)であり、かつ、時定数τstが0.06以上(τst≧0.06)であることである。このいずれかの条件を満たす場合に、残像強度の絶対値が0.005以内となる、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値と時定数の組み合わせが存在する。
【0086】
次に、フリッカ強度が0.5以下の範囲となる時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)の範囲と、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値との比の値(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値)の範囲とを説明する。図13は、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値、時定数τst、及びフリッカ強度の関係のシミュレーション結果を示す。
【0087】
図13のグラフにおいて、横軸は容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値を示し、縦軸は、時定数τstのLog値を示す。図13の法線に沿った軸(不図示)がフリッカ強度を示す。図13のグラフにおいて、破線で囲まれた領域613は、フリッカ強度が0.5以内の範囲を示す。図13に示すシミュレーション結果から、フリッカ強度が0.5以内の範囲内あるようにするためには、時定数τstが0.1s以上(τst≧0.1s)であることが必要である。この範囲であれば、フリッカ強度が0.5以内となる、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値と時定数の組み合わせが存在する。
【0088】
図14は、フリッカ強度が0.5以内となる条件において、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値、時定数τst、及び残像強度の関係のシミュレーション結果を示す。図14の法線に沿った軸(不図示)が残像強度を示す。図14のグラフにおいて、破線で囲まれた領域615は、残像強度の絶対値が0.005以下の範囲を示す。
【0089】
図14のシミュレーション結果から、残像強度の絶対値が0.005以内の範囲内あるようにするためには、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値が2.0以上である(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値≧2.0)ことが要求される。以上の検討の結果から、以下の条件が満たされれば、残像強度の絶対値が0.005以下であり、フリッカ強度が0.5以下であるようにできる。
【0090】
つまり、容量Cpの容量値対保持容量Cstの容量値の比の値が2.0以上であり(容量Cpの容量値/保持容量Cstの容量値≧2.0)、時定数τst(Cstの値*抵抗Rstの値)が0.1s以上(τst≧0.1s)である。
【0091】
上述のように、保持容量Cst及び容量Cpの容量値と抵抗Rstの抵抗値とを、所定の条件を満たすように設定することで、OLED表示装置10のイメージリテンションをより効果的に低減することができる。なお、有限の抵抗Rstを省略(抵抗値無限大)しても、追加された容量Cpにより、イメージリテンションを低減できる。
【0092】
[デバイス構造]
以下において、画素回路における保持容量Cst、抵抗Rst及び容量Cpのデバイス構造の例を説明する。図15は、保持容量Cst及び抵抗Rstを含む構造部を模式的に示す平面図である。保持容量Cstは、上層電極631と、上層電極631と対向する下層電極633とを含む。上層電極631及び下層電極633の金属材料は任意であり、例えば、Mo、W、Nb、Al等が使用される。上層電極631と下層電極633との間には、図15において不図示の絶縁層が存在している。上層電極631の一部が、下層電極633のエッジに対してオーバハングしている。このオーバハングしている部分635A及び635Bが、抵抗Rstを構成する。
【0093】
図16は、図15におけるXVI-XVI切断線での断面構造を模式的に示す。ポリシリコン膜637を覆うようにゲート絶縁膜639が積層されている。ゲート絶縁膜639は、例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜又はこれらの積層膜である。ゲート絶縁膜639上に下層電極(ゲート電極)635が積層され、さらに、下層電極(ゲート電極)635を覆うように金属層間誘電膜641が積層されている。上層電極631が、金属層間誘電膜641上に、下層電極633と対向するように積層されている。
【0094】
金属層間誘電膜641は、薄い無機膜(例えば100nm)であり、例えば、シリコン窒化膜又はシリコン酸化膜である。薄い金属層間誘電膜641は、有限の抵抗値を持っており、下層電極633のエッジと上層電極631のオーバハング部分との間で抵抗を構成することができる。上層電極631がオーバハングしている下層電極633の周囲長を調整することで、抵抗Rstの抵抗値を調整することができる。具体的には、周囲長を長くすることで抵抗値を小さくすることができる。
【0095】
上述のように、保持容量Cstは、下層電極635の一部と、上層電極631の一部と、それらの間の金属層間誘電膜641の部分と、を含む。また、抵抗Rstは、金属層間誘電膜641における、下層電極635のエッジとそのエッジをオーバハングする上層電極631の部分との間に構成されている。
【0096】
図17は、画素回路における、保持容量Cst、容量Cp、抵抗Rst及び駆動トランジスタM3を含む部分の模式的な平面図を示す。ポリシリコン膜p-Siの一部を覆うように、ゲート電極GMが形成されている。ゲート電極GMは、駆動トランジスタM3のゲート電極である。ポリシリコン膜p-Siは、駆動トランジスタM3のソースM3S及びドレインM3Dを含む。さらに、上層電極MCが、ゲート電極GMを覆うように形成されている。
【0097】
図18は、図17におけるXVIII-XVIII切断線での断面構造を模式的に示す。基板SUB上に、例えばシリコン窒化膜である、下地膜UCが形成されている。ポリシリコン膜p-Siが、下地膜UC上に積層されている。さらに、ゲート絶縁膜GIが、ポリシリコン膜p-Siを覆うように積層されている。
【0098】
ゲート電極GMは、ゲート絶縁膜GI上に積層されている。金属層間誘電膜IMDが、ゲート電極GMを覆うように積層されている。上層電極MCは、金属層間誘電膜IMD上に積層されている。上層電極MCの一部は、金属層間誘電膜IMDを挟んでゲート電極GMと対向し、保持容量Cstを構成している。
【0099】
また、上層電極MCの一部はゲート電極GMのエッジをオーバハングしておいり、この部分に抵抗Rstが構成される。上層電極MCの他の一部は、金属層間誘電膜IMD及びゲート絶縁膜GIを挟んでポリシリコン膜p-Siと対向し、容量Cpを構成している。
【0100】
層間絶縁膜IDLが上層電極MCを覆うように積層されている。層間絶縁膜IDL、上層電極MC及び金属層間誘電膜IMDを貫通するコンタクトホールが形成され、金属線ML2がゲート電極GMと接触している。パッシベーション膜PV及びその上の平坦化膜PNLが、図18に示す素子全体を覆うように形成されている。層間絶縁膜IDL及びパッシベーション膜PVは、例えば、シリコン窒化やシリコン酸化膜等の無機膜である。平坦化膜PNLは、例えば、有機膜である。
【0101】
以上に説明した通り、容量Cp及び抵抗Rstを含む画素回路の構成を行っても、画素回路のレイアウト規模を、ことさら増大させることがない。また、TFTおよび画素回路の製造プロセスを増やすことなく、容量Cp及び抵抗Rstを構成することができるので、コストアップや製造歩留まりの低下なく、イメージリテンションが改善された高画質なOLED表示装置を実現できる。
【0102】
次に、容量Cpの構成例を説明する。図19は、容量Cpの構成例を示す。図19に示すように、容量Cpは、ソース673とドレイン675が短絡されたTFTで構成することができる。ゲート671、ソース/ドレイン673、675及びそれらの間のゲート絶縁膜が容量を構成する。ゲート671には、例えば、リセット電源Vrstのリセット電位が与えられる。図19の例において、TFTはP型であるので、ゲート電位がソース/ドレイン電位よりも低い。この構成により、容量Cpの面積を小さくすることができる。
【0103】
図20は、画素回路における、保持容量Cst、容量Cp、抵抗Rst及び駆動トランジスタM3を含む部分の模式的な平面図を示す。容量Cpは、図19に示す構成を有する。ポリシリコン膜p-Siの一部を覆うように、ゲート電極GM1が形成されている。ゲート電極GM1は、駆動トランジスタM3のゲート電極である。ポリシリコン膜p-Siは、駆動トランジスタM3のソースM3S及びドレインM3Dを含む。さらに、上層電極MC1が、ゲート電極GM1の一部を覆うように形成されている。
【0104】
ゲート電極GM1と同一層のゲート電極GM2は、ポリシリコン膜p-Siの一部を覆うように形成されている。ゲート電極GM2は、TFTで構成される容量Cpのゲート電極である。上層電極MC1と同一層の上層電極MC2が、ゲート電極GM2の一部を覆うように形成されている。
【0105】
図21は、図20におけるXXI-XXI切断線での断面構造を模式的に示す。以下において、図18に示す構成例との相違点を主に説明する。ゲート電極GM2と、ポリシリコン膜p-Siにおいてゲート電極GM2と対向する部分と、それらに間のゲート絶縁膜GIが、容量Cpを構成する。上層電極MC2は、金属層間誘電膜IMDに形成されたコンタクトホールを介して、ゲート電極GM2に接触している。上層電極MC2は、ゲート電極GM2に、リセット電源Vrstからのリセット電位を供給する。このように、容量Cpは、半導体膜上に絶縁層と金属層を積層して構成される、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)型の容量である。
【0106】
図22は、図19をもとにした、画素回路の構成例800を示す。OLED表示装置10の特性は、製造上、ばらつくことが知られている。図12で示したように、残像強度が低く抑えられる時定数とCp値/Cst値比とは、領域611のような関係性を有している。例えばRst値やCst値がOLED表示装置間でばらついた場合、容量Cpが可変であれば、そのばらつきに対応して、Cp値/Cst値比を変えることができるので、残像強度を制御できる。
【0107】
図22に示す画素回路800は、図5に示す画素回路500における容量Cpの代わりに、駆動トランジスタM3のドレインノードに接続された可変容量Cpvを含む。可変容量Cpvは、例えば、MIS型容量で構成することができる。ドライバIC134は、可変容量Cpvのゲート電極に対して、引き出し配線Vctを介して、可変制御電位VCTLを印加する。これにより、可変容量Cpvの容量値を、そのゲート電極電位によって外部から制御できる。制御電位VCTLによって可変容量Cpvの容量値を調整することにより、製品毎にイメージリテンション強度を最小化できる。
【0108】
図23は、可変容量Cpvと引き出し配線Vclを含む画素の平面パターンを示す。図19及び20を参照して説明した構成において、TFTで構成される容量Cpのゲート電極GM2には、リセット電源Vrstからのリセット電位が供給される。これに対して、図22及び23に示す構成において、可変の制御電位VCTLが、配線Vctを介して、可変容量Cpvのゲート電極GCPに与えられる。
【0109】
図24は、図23におけるXXIV-XXIV切断線での断面図である。断面構造は、容量Cpvが容量Cpに代わっている点を除き、図21に示す構造と同様である。可変容量Cpvは、図21を参照して説明した構成と同様な積層構造を有する。可変容量Cpvのゲート電極GCPは、引き出し配線Vctを介してパネル外部に引き出されている。引き出し配線Vctは上部電極MC1と同一の材料で構成される。引き出し配線Vctは、行毎に走査線と平行に引き出され、全ての引き出し配線Vctは、表示領域の外で接続され、同時に制御電位が印加される。
【0110】
図25は、可変容量Cpvの電圧-容量特性の一例を示す。制御電位VCTLによって容量値は15fF~40fFの範囲で可変である。このように、容量Cpvは、Cp/Cst比を外部から調整することを可能とする。現実の製品においては、TFTの過渡応答特性のばらつきや、Rst値、Cst値等のばらつきによって、残像の挙動は製品毎に特定の範囲でばらつきを持つ。製品完成後に可変容量Cpvの値をパネル外部から調整することにより、パネル毎にCpv値/Cst値を最適化し、残像強度が最小になるようにすることができる。
【0111】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0112】
10 OLED表示装置、100 TFT基板、114 カソード電極形成領域、125 表示領域、131 走査回路、134 ドライバIC、136 デマルチプレクサ、200 封止基板、251 初期画像、253、257 残像、255 目的画像、300 接合部、500 画素回路、631 上層電極、633 下層電極、637 ポリシリコン膜、639 ゲート絶縁膜、641 金属層間誘電膜、671 ゲート、673 ソース、675 ドレイン、Cp 容量、Cpv 可変容量、Cst 保持容量、E1 OLED素子、Emi 発光制御信号、GI ゲート絶縁膜、GM ゲート電極、IDL 層間絶縁膜、IMD 金属層間誘電膜、M1-M7 トランジスタ、MC 上層電極、N1 ノード、N1S ノード電位、p-Si ポリシリコン膜、PNL 平坦化膜、PV パッシベーション膜、Rst 抵抗、SUB 基板、UC 下地膜、Vrst リセット電源
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25