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特許7529500複合成型体及びその製造方法、並びに繊維組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】複合成型体及びその製造方法、並びに繊維組成物
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20240730BHJP
   D21H 13/24 20060101ALI20240730BHJP
   D21J 1/00 20060101ALI20240730BHJP
   D21H 17/67 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H13/24
D21J1/00
D21H17/67
C08L101/00
C08L1/00
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2020154653
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2021165454
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020067905
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】城野 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】小野 博文
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011535(JP,A)
【文献】特開2020-111843(JP,A)
【文献】特開2019-157315(JP,A)
【文献】特開2019-060043(JP,A)
【文献】特開2018-037335(JP,A)
【文献】特開2010-202987(JP,A)
【文献】特開2019-162818(JP,A)
【文献】特開2015-025033(JP,A)
【文献】特開2018-204147(JP,A)
【文献】特開2009-107155(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008868(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0288133(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/18
D21H 13/24
D21J 1/00
D21H 17/67
C08L 101/00
C08L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース微細繊維と、有機フィラーとを含む複合成型体であって、
前記セルロース微細繊維の平均繊維径が5nm以上2μm以下であり、
前記複合成型体中の前記セルロース微細繊維の含有率が3質量%以上90質量%以下であり、
前記複合成型体の目付が50g/m2以上1000g/m2以下であり、
前記複合成型体の平均透気抵抗度が0.5秒/100mL以上100000秒/100mL以下であり、
前記複合成型体の透気抵抗度の標準偏差を前記平均透気抵抗度で除した値である透気抵抗度変動係数が0.5以下であり、
前記有機フィラーの平均短軸径が0.1μm以上100μm以下であり、
前記複合成型体の厚みが100μm以上10000μm以下である、
複合成型体。
【請求項2】
引張強度が0.1kg/15mm以上40kg/15mm以下である、請求項1に記載の複合成型体。
【請求項3】
前記有機フィラーがフィブリル化カット繊維である、請求項1又は2に記載の複合成型体。
【請求項4】
前記複合成型体中のセルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間に、前記複合成型体の平面方向で均一に、架橋剤に由来する反応体が分布しており、
前記セルロース微細繊維と前記有機フィラーとの合計質量100質量%に対する前記反応体の質量比率が0.1~100質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合成型体。
【請求項5】
前記反応体がウレタン結合を含む、請求項4に記載の複合成型体。
【請求項6】
前記有機フィラーが熱可塑性樹脂で構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合成型体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される1種以上を含む、請求項6に記載の複合成型体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂の融点が50℃以上500℃以下である、請求項6又は7に記載の複合成型体。
【請求項9】
シートである、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合成型体。
【請求項10】
湾曲状成型体、箱型成型体、又はコーン状成型体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の複合成型体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の複合成型体の製造方法であって、
セルロース微細繊維と、有機フィラーと、水を含む液体媒体とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程、
前記スラリーを抄造法により脱水して、湿潤した成型体を得る濃縮工程、及び
前記湿潤した成型体を少なくとも乾燥させて複合成型体を得る固化工程、
を含む、方法。
【請求項12】
前記スラリーの固形分比率が0.2質量%~1.5質量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記スラリーが反応性架橋剤を更に含み、
前記スラリー調製工程において、又は前記乾燥と同時に若しくは前記乾燥の後に、前記反応性架橋剤を反応させて、セルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間を架橋する、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記反応性架橋剤がブロックポリイソシアネートであり、
前記反応を、前記ブロックポリイソシアネートにおけるブロック基の脱離温度以上で行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ブロックポリイソシアネートがカチオン性ブロックポリイソシアネートである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記乾燥を80℃以上120℃以下で行った後、前記反応を130℃以上220℃以下で行う、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記スラリー調製工程において、セルロース微細繊維と反応性架橋剤と液体媒体とを混合して予備混合物を調製し、次いで前記予備混合物と有機フィラーとを混合することによって前記スラリーを得る、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記スラリー調製工程において、セルロース微細繊維と有機フィラーと液体媒体とを混合して予備混合物を調製し、次いで前記予備混合物と反応性架橋剤とを混合することによって前記スラリーを得る、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか一項に記載の複合成型体の細断物である、繊維組成物。
【請求項20】
前記細断物が粒状物である、請求項19に記載の繊維組成物。
【請求項21】
前記細断物がペレットである、請求項19に記載の繊維組成物。
【請求項22】
セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、
請求項19~21のいずれか一項に記載の繊維組成物と、樹脂とを混合して混合物を得る混合工程、及び
前記混合物を成型する成型工程、
を含む、方法。
【請求項23】
前記繊維組成物中の有機フィラーが熱可塑性樹脂を含み、
前記樹脂が熱可塑性樹脂を含み、
前記混合工程において前記繊維組成物と前記樹脂とを溶融混合する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記成型が、押出成型及び射出成型からなる群から選ばれる、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、
請求項11~18のいずれか一項に記載の方法で、セルロース微細繊維と、熱可塑性樹脂を含む有機フィラーとを含む複合成型体を形成する複合成型体形成工程、及び
前記複合成型体を、前記有機フィラー中の熱可塑性樹脂の融点以上の温度で成型する成型工程、
を含む、方法。
【請求項26】
セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、
請求項11~18のいずれか一項に記載の方法で、セルロース微細繊維と有機フィラーとを含む複合成型体を形成する複合成型体形成工程、及び
前記複合成型体に、樹脂を含浸、次いで固化させる成型工程、
を含む、方法。
【請求項27】
前記含浸される樹脂が熱可塑性樹脂の加熱溶融物であり、前記固化が冷却固化である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記有機フィラーが熱可塑性樹脂を含み、
前記含浸される樹脂が、前記有機フィラー中の熱可塑性樹脂よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂の熱溶融物である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記含浸される樹脂が、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂の未硬化物又は半硬化物であり、前記固化が硬化である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記成型工程を型プレスにより行う、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記樹脂成型体が自動車部品である、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~10のいずれか一項に記載の複合成型体で構成された、吸音材。
【請求項33】
請求項1~10のいずれか一項に記載の複合成型体で構成された、エアフィルター。
【請求項34】
請求項1~10のいずれか一項に記載の複合成型体で構成された、自動車部品材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成型体及びその製造方法、並びに繊維組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、製造時、使用時及び廃棄時の環境負荷が小さい材料を用いて各種部材を製造することが提案されている。例えば、有機繊維を主体とする材料で構成された部材は、軽量であること、廃棄コストが安価であること等の利点を有する。特に、微細な有機繊維を用いて得られる部材は、機械強度、耐熱性、寸法安定性、透気性等において特異な性状を有し得ることから、材料設計が種々行われてきた。例えば、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバー等ともいう。)は、軽量であるとともに弾性率、耐熱性、寸法安定性等に優れることから、各種部材に好適に配合され得る。
【0003】
特許文献1は、目付が5g/m2以上100g/m2以下の範囲にあり、数平均繊維径が2nm以上300nm以下のセルロースミクロフィブリル(A成分)と、無機繊維、及び高分子繊維からなる群から選択される1種以上のフィラー材(B成分)とを含み、該A成分の分率が30重量%以上90重量%以下であり、かつ、10g/m2目付相当の透気抵抗度が10s/100cc以上2,000s/100cc以下であることを特徴とする複合成型体材料を記載する。
【0004】
特許文献2は、数平均繊維幅2nm以上1000nm未満の第1の繊維と、数平均繊維幅1000nm以上100000nm以下であり、かつ数平均繊維長が0.1~20mmである第2の繊維とを含有する不織布に樹脂を含有させた複合体を記載し、第1の繊維がセルロース繊維であってよいことを記載する。
【0005】
特許文献3は、MFRが0.1g/10min以上200g/10min以下である樹脂からなる、平均繊維長が0.05mm以上50mm以下であり、かつ、繊維径の最小値が0.5μmであり、繊維径の最大値が50μmであるミクロフィブリル繊維が集合してなる、カナディアンフリーネスが300ml以上740ml以下である合成パルプと、前記合成パルプに捕捉されたセルロースナノファイバーと、を含む複合体を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-202987号公報
【文献】特開2015-25033号公報
【文献】特開2018-204147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セルロース微細繊維を単独で部材に成形することは一般に困難であるが、他の材料(例えば他の繊維等)と組合せることで種々の形状に成形できる。しかし、セルロース微細繊維はセルロース分子中の水酸基による強固な水素結合によって極めて凝集しやすいことから、セルロース微細繊維を部材中で均一に分散させることは困難である。特許文献1~3に記載される技術は、セルロース微細繊維が有する利点を維持しつつ、機械特性、印刷適性等の所望の性状が改善されたシート状物を提供しようとするものであり、比較的薄膜のシートにおいて有用であり得るものの、厚み寸法(すなわち物品形状における最小寸法)が大きい部材(厚膜シート、その他各種形状の部材)においてもセルロース微細繊維の均一分散を可能にするものではない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決し、大きい厚み寸法を有しながらセルロース微細繊維が均一に分散している部材の形成を可能にする、複合成型体及びその製造方法並びに繊維組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] セルロース微細繊維と、有機フィラーとを含む複合成型体であって、
前記セルロース微細繊維の平均繊維径が5nm以上2μm以下であり、
前記複合成型体中の前記セルロース微細繊維の含有率が3質量%以上90質量%以下であり、
前記複合成型体の目付が50g/m2以上1000g/m2以下であり、
前記複合成型体の平均透気抵抗度が0.5秒/100mL以上100000秒/100mL以下であり、
前記複合成型体の透気抵抗度の標準偏差を前記平均透気抵抗度で除した値である透気抵抗度変動係数が0.5以下であり、
前記有機フィラーの平均短軸径が0.1μm以上100μm以下であり、
前記複合成型体の厚みが100μm以上10000μm以下である、
複合成型体。
[2] 引張強度が0.1kg/15mm以上40kg/15mm以下である、上記態様1に記載の複合成型体。
[3] 前記有機フィラーがフィブリル化カット繊維である、上記態様1又は2に記載の複合成型体。
[4] 前記複合成型体中のセルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間に、前記複合成型体の平面方向で均一に、架橋剤に由来する反応体が分布しており、
前記セルロース微細繊維と前記有機フィラーとの合計質量100質量%に対する前記反応体の質量比率が0.1~100質量%である、上記態様1~3のいずれかに記載の複合成型体。
[5] 前記反応体がウレタン結合を含む、上記態様4に記載の複合成型体。
[6] 前記有機フィラーが熱可塑性樹脂で構成されている、上記態様1~5のいずれかに記載の複合成型体。
[7] 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される1種以上を含む、上記態様6に記載の複合成型体。
[8] 前記熱可塑性樹脂の融点が50℃以上500℃以下である、上記態様6又は7に記載の複合成型体。
[9] シートである、上記態様1~8のいずれかに記載の複合成型体。
[10] 湾曲状成型体、箱型成型体、又はコーン状成型体である、上記態様1~9のいずれかに記載の複合成型体。
[11] 上記態様1~10のいずれかに記載の複合成型体の製造方法であって、
セルロース微細繊維と、有機フィラーと、水を含む液体媒体とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程、
前記スラリーを抄造法により脱水して、湿潤した成型体を得る濃縮工程、及び
前記湿潤した成型体を少なくとも乾燥させて複合成型体を得る固化工程、
を含む、方法。
[12] 前記スラリーの固形分比率が0.2質量%~1.5質量%である、上記態様11に記載の方法。
[13] 前記スラリーが反応性架橋剤を更に含み、
前記スラリー調製工程において、又は前記乾燥と同時に若しくは前記乾燥の後に、前記反応性架橋剤を反応させて、セルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間を架橋する、上記態様11又は12に記載の方法。
[14] 前記反応性架橋剤がブロックポリイソシアネートであり、
前記反応を、前記ブロックポリイソシアネートにおけるブロック基の脱離温度以上で行う、上記態様13に記載の方法。
[15] 前記ブロックポリイソシアネートがカチオン性ブロックポリイソシアネートである、上記態様14に記載の方法。
[16] 前記乾燥を80℃以上120℃以下で行った後、前記反応を130℃以上220℃以下で行う、上記態様13~15のいずれかに記載の方法。
[17] 前記スラリー調製工程において、セルロース微細繊維と反応性架橋剤と液体媒体とを混合して予備混合物を調製し、次いで前記予備混合物と有機フィラーとを混合することによって前記スラリーを得る、上記態様13~16のいずれかに記載の方法。
[18] 前記スラリー調製工程において、セルロース微細繊維と有機フィラーと液体媒体とを混合して予備混合物を調製し、次いで前記予備混合物と反応性架橋剤とを混合することによって前記スラリーを得る、上記態様13~16のいずれかに記載の方法。
[19] 上記態様1~10のいずれかに記載の複合成型体の細断物である、繊維組成物。
[20] 前記細断物が粒状物である、上記態様19に記載の繊維組成物。
[21] 前記細断物がペレットである、上記態様19に記載の繊維組成物。
[22] セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、
上記態様19~21のいずれかに記載の繊維組成物と、樹脂とを混合して混合物を得る混合工程、及び
前記混合物を成型する成型工程、
を含む、方法。
[23] 前記繊維組成物中の有機フィラーが熱可塑性樹脂を含み、
前記樹脂が熱可塑性樹脂を含み、
前記混合工程において前記繊維組成物と前記樹脂とを溶融混合する、上記態様22に記載の方法。
[24] 前記成型が、押出成型及び射出成型からなる群から選ばれる、上記態様22又は23に記載の方法。
[25] セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、
上記態様11~18のいずれかに記載の方法で、セルロース微細繊維と、熱可塑性樹脂を含む有機フィラーとを含む複合成型体を形成する複合成型体形成工程、及び
前記複合成型体を、前記有機フィラー中の熱可塑性樹脂の融点以上の温度で成型する成型工程、
を含む、方法。
[26] セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、
上記態様11~18のいずれかに記載の方法で、セルロース微細繊維と有機フィラーとを含む複合成型体を形成する複合成型体形成工程、及び
前記複合成型体に、樹脂を含浸、次いで固化させる成型工程、
を含む、方法。
[27] 前記含浸される樹脂が熱可塑性樹脂の加熱溶融物であり、前記固化が冷却固化である、上記態様26に記載の方法。
[28] 前記有機フィラーが熱可塑性樹脂を含み、
前記含浸される樹脂が、前記有機フィラー中の熱可塑性樹脂よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂の熱溶融物である、上記態様27に記載の方法。
[29] 前記含浸される樹脂が、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂の未硬化物又は半硬化物であり、前記固化が硬化である、上記態様26に記載の方法。
[30] 前記成型工程を型プレスにより行う、上記態様25~29のいずれかに記載の方法。
[31] 前記樹脂成型体が自動車部品である、上記態様25~30のいずれかに記載の方法。
[32] 上記態様1~10のいずれかに記載の複合成型体で構成された、吸音材。
[33] 上記態様1~10のいずれかに記載の複合成型体で構成された、エアフィルター。
[34] 上記態様1~10のいずれかに記載の複合成型体で構成された、自動車部品材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大きい厚み寸法を有しながらセルロース微細繊維が均一に分散している部材の形成が可能であり、複合成型体、及び当該複合成型体に樹脂が更に複合化された樹脂成型体において、成分組成の不均一分布に由来する強度低下が起こり難いため、より高強度かつ品質が安定した複合成型体及びその製造方法並びに繊維組成物が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】IRインデックス1730及びIRインデックス1030の算出法の説明図である。
図2】セルロースの水酸基の平均置換度の算出法の説明図である。
図3】実施例4における吸音率測定の結果を示す図である。
図4】実施例9における吸音率測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示の態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0013】
≪複合成型体≫
本発明の一態様は、セルロース微細繊維と、有機フィラーとを含む複合成型体を提供する。一態様においては、セルロース微細繊維の平均繊維径が5nm以上2μm以下である。一態様においては、複合成型体中のセルロース微細繊維の含有率が3質量%以上90質量%以下である。一態様においては、複合成型体の目付が50g/m2以上1000g/m2以下である。一態様においては、複合成型体の平均透気抵抗度が0.5秒/100mL以上100000秒/100mL以下である。一態様においては、複合成型体の透気抵抗度の標準偏差を上記平均透気抵抗度で除した値である透気抵抗度変動係数が0.5以下である。一態様においては、有機フィラーの平均短軸径が0.1μm以上100μm以下である。一態様においては、複合成型体の厚みが100μm以上10000μm以下である。
【0014】
本発明者らは、セルロース微細繊維を含み、高目付でありながら多孔性で樹脂含浸性に優れ、かつ繊維の分散状態が均一である複合成型体を用いることで、厚み寸法が大きくかつセルロース微細繊維が均一に分散している部材を高効率かつ高品質に製造できることを見出した。透気抵抗度変動係数は複合成型体の均質性を反映した指標とみなすことができる。透気抵抗度変動係数が小さいことで、欠陥由来の強度ばらつきが少ないことにより複合成型体全体としての強度そのものを向上させることができ、強度、樹脂の含侵性等の物性を安定に発現させることができるため、高い品質を確保できる。更に、このような複合成型体に樹脂を含浸すること、又は当該複合成型体をプレスすること等によって、各種形状の部材を高効率かつ高品質に形成できる。
【0015】
複合成型体は、種々の形状であってよく、例えば、シート形状(表面は平面、曲面又はこれらの組み合わせであってよい)、又は各種部品形状(例えば、湾曲状成型体、箱型成型体、コーン状成型体等)を有してよい。一態様において複合成型体はシートである。
以下、複合成型体の各構成要素の具体例について説明する。
【0016】
<セルロース微細繊維>
本実施形態の複合成型体はセルロース微細繊維を含む。複合成型体中のセルロース微細繊維の含有率は、セルロース微細繊維の使用による利点を良好に得ること及び複合成型体の均質性の観点から、一態様において3質量%以上、好ましくは、9質量%以上、又は15質量%以上、又は25質量%以上であり、複合成型体の製造容易性の観点から、一態様において90質量%以下、好ましくは、85質量%以下、又は82質量%以下、又は75質量%以下である。複合成型体中のセルロース微細繊維の含有率が3質量%よりも小さくなると複合成型体としての自立性(構造体としてのハンドリング可能な強度)が担保されないため好ましくない。また、複合成型体中のセルロース微細繊維の含有率が90質量%よりも大きくなると、例えば抄紙によるろ過時間が著しく長くなり、本発明の複合成型体の目付を50g/m2以上とすることが実質的に困難になるためやはり好ましくない。
【0017】
セルロース微細繊維の原料としては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等のいわゆる木材パルプ、及び非木材パルプが挙げられる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプ等のコットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプを挙げることができる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプは各々、コットンリント又はコットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のものが多い)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン、及びヘミセルロース除去を目的とした精製工程及び漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。この他、海藻由来のセルロース、ホヤセルロース等の精製物もセルロース微細繊維の原料として使用することができる。さらに、再生セルロース繊維のカット糸及びセルロース誘導体繊維のカット糸もセルロース微細繊維の原料として使用でき、また、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸のカット糸も、セルロース微細繊維の原料又はセルロース微細繊維そのものとして使用することができる。これらの中でも、コットンリント又はコットンリンター、麻系のアバカ、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等に由来した精製パルプは、繊維長の長いセルロース微細繊維が得られ易く、絡み合いによるフィラーとしての補強効果も高いため特に好ましい。
【0018】
上記のような原料を微細化してセルロース微細繊維を得ることができる。一態様において、微細化は、前処理工程、叩解処理工程及び微細化工程を経る。前処理工程においては、100~150℃の温度での水中含浸下でのオートクレーブ処理、酵素処理等、又はこれらの組み合わせによって、原料パルプを微細化し易い状態にしておくことが有効である。これらの前処理は、微細化処理の負荷を軽減するだけでなく、セルロース繊維を構成するミクロフィブリルの表面及び間隙に存在するリグニン、ヘミセルロース等の不純物成分を水相へ排出し、その結果、微細化された繊維のα-セルロース純度を高める効果もあるため、セルロース微細繊維の耐熱性の向上に有効であることもある。
【0019】
叩解処理工程においては、原料パルプを0.5質量%以上4質量%以下、好ましくは0.8質量%以上3質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下の固形分濃度となるように水に分散させ、ビーター又はディスクレファイナー(ダブルディスクレファイナー)等の叩解装置でフィブリル化を高度に促進させる。ディスクレファイナーを用いる場合には、ディスク間のクリアランスを極力狭く(例えば、0.1mm以下)設定して、処理を行うと、極めて高度な叩解(フィブリル化)が進行するので、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件を緩和でき、有効な場合がある。
【0020】
好ましい叩解処理の程度は以下のように定められる。本発明者らによる検討において、叩解処理を行うにつれCSF値(セルロースの叩解の程度を示す。JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法で評価される。)が経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると再び増大していく傾向が確認され、本実施形態の複合成型体の原料であるセルロース微細繊維を調製するためには、前処理として、CSF値が一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けCSF値が増加している状態まで叩解することが好ましいことが分かった。本開示において、未叩解からCSF値が減少する過程でのCSF値を***↓、ゼロとなった後に増大する傾向におけるCSF値を***↑と表現する。該叩解処理においては、CSF値は少なくともゼロが好ましく、より好ましくはCSF30↑である。このような叩解度に調製した水分散体ではフィブリル化が高度に進行し、例えば数平均繊維径が2μm以下、例えば1μm以下の均質なセルロース微細繊維が得られる。また、得られたセルロース微細繊維による複合成型体の引張強度の向上効果が良好である傾向がある。これはセルロースミクロフィブリル同士の接着点の増加によるものと推測される。更に、CSF値が少なくともゼロ又はその後増大する***↑の値をもつ、高度に叩解された水分散体は、均一性が高く、その後の高圧ホモジナイザー等による微細化処理での詰まりを軽減できるという製造効率上の利点がある。
【0021】
上述した叩解処理工程に引き続き、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダー等による微細化処理を施してよい。この際の水分散体中の固形分濃度は、上述した叩解処理に準じ、好ましくは0.5質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上3質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以上2.5質量%以下である。この範囲の固形分濃度の場合、詰まりが発生せず、しかも効率的な微細化処理が達成できる。
【0022】
高圧ホモジナイザーとしては、ニロ・ソアビ社(伊)のNS型高圧ホモジナイザー、(株)エスエムテーのラニエタイプ(Rモデル)圧力式ホモジナイザー、三和機械(株)の高圧式ホモゲナイザー等、超高圧ホモジナイザーとしては、みづほ工業(株)のマイクロフルイダイザー、吉田機械興業(株)のナノマイザー、(株)スギノマシーンのスターバースト等の高圧衝突型の微細化処理機、グラインダー型微細化装置としては、(株)栗田機械製作所のピュアファインミル、増幸産業(株)のスーパーマスコロイダーに代表される石臼式摩砕型、をそれぞれ挙げることができるが、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。
【0023】
一態様では、原料、フィブリル化度、化学処理等の異なるセルロース微細繊維を2種類以上、任意の割合で組み合わせてもよい。
【0024】
セルロース微細繊維の平均繊維径は、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件(装置の種類、操作圧力、パス回数等の選定)又は微細化処理前の前処理の条件(例えば、オートクレーブ処理、酵素処理、叩解処理等)によって制御することができる。
【0025】
また、セルロース微細繊維は、ホモジナイザー等による高剪断下での解繊を経ずに製造されたものであってもよい。高剪断下での解繊を経ていないセルロース微細繊維では、枝分かれ構造部位、及び大繊維径部位の量が比較的多い傾向があるが、本開示の複合成型体においては、このようなセルロース微細繊維も好適に使用できる。
【0026】
なお、例えばTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル)酸化触媒によって6位の水酸基を酸化してカルボキシル基(酸型、塩型を含む)としたセルロース微細繊維、又は表面がリン酸エステル化されたセルロース微細繊維を用いてもよい。これらの方法によれば、高圧ホモジナイザーのような高エネルギーを要する微細化装置を特に使用しなくても均質なセルロース微細繊維を得ることができる。例えば、文献(A.Isogai et al.,Biomacromolecules,7,1687-1691(2006))に記載されるように、TEMPO触媒とハロゲン化アルキルとを共存させ、これに次亜塩素酸のような酸化剤を添加し、一定時間反応を進行させることにより、水洗等の精製処理後、通常のミキサー処理を施すことで極めて容易にセルロース微細繊維を得ることができる。
【0027】
セルロース微細繊維の数平均繊維径は、セルロース微細繊維の寄与によって物性に優れる複合成型体を得る観点から、一態様において5nm以上であり、好ましくは、15nm以上、又は20nm以上、又は40nm以上、又は60nm以上である。数平均繊維径は、有機フィラー間にセルロース微細繊維を均一に分布させる観点から、一態様において2μm以下であり、好ましくは、1.5μm以下、又は1μm以下、又は500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下である。
【0028】
セルロース微細繊維の平均L/Dは、セルロース微細繊維を含む複合成型体の機械的特性を少量のセルロース微細繊維で良好に向上させる観点から、好ましくは、20以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。
【0029】
本開示で、セルロース微細繊維の各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロース微細繊維の水分散液を水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で0.01~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース微細繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。なお上記繊維状物質の本数は、枝分かれ構造のセルロース微細繊維においては幹部位と枝部位とを別個にカウントする。
【0030】
なお、複合成型体又はこれを含む複合体におけるセルロース微細繊維の長さ、径、及びL/D比は、複合成型体又は複合体を測定サンプルとして、又は、複合成型体又は複合体から、セルロース微細繊維以外の成分を、これら成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に溶解させてセルロース微細繊維を分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で置換し、0.01~0.1質量%分散液を調製し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で再分散する。再分散液をマイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。
【0031】
セルロース微細繊維の結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース微細繊維自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、複合成型体の強度及び寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%、又は70%、又は80%である。セルロース微細繊維の結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0032】
植物由来のセルロースのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。セルロース微細繊維中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の複合成型体の変色を抑制する観点からも、セルロース微細繊維の結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0033】
ここでいう結晶化度は、セルロース微細繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
【0034】
また結晶化度は、セルロース微細繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0035】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロース微細繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた複合成型体が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロース微細繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロース微細繊維がより好ましい。
【0036】
また、セルロース微細繊維の重合度は、セルロース微細繊維の引張強度及び弾性率が良好であることで機械強度及び取扱い性が良好な複合成型体を形成できる点で、好ましくは、250以上、又は300以上、又は400以上、又は500以上、又は600以上、又は700以上であり、セルロース微細繊維の入手容易性の観点から、好ましくは12,000以下であり、取扱い性の観点から、より好ましくは、8,000以下、又は6,000以下である。
【0037】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロース微細繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0038】
セルロース微細繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0039】
一態様において、セルロース微細繊維の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは、100000以上、又は200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは、6以下、又は5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース微細繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロース微細繊維、及び複合成型体が得られる。セルロース微細繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロース微細繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
【0040】
ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0041】
セルロース微細繊維の重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、機械的解繊処理及び加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース微細繊維内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
【0042】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース微細繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0043】
セルロース微細繊維が含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース微細繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース微細繊維中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0044】
一態様において、セルロース微細繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロース微細繊維の良好な分散性を得る観点から、セルロース微細繊維100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロース微細繊維の製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0045】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0046】
一態様において、セルロース微細繊維中の酸不溶成分平均含有率は、セルロース微細繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロース微細繊維100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロース微細繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0047】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0048】
また、セルロース微細繊維として、2種類以上の微細化手段によって得られた繊維の組合せを用いてもよい。例えば、酸加水分解により得られるセルロース微細繊維と機械的解繊処理により得られるセルロース微細繊維との混合物が上記組合せに該当する。
【0049】
セルロース微細繊維は化学修飾されていてもよく、例えば、セルロースのエステル(酢酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステル等)、エーテル(メチルエーテル等のアルキルエーテル、カルボキシメチルエーテル等のカルボキシエーテル、シアノエチルエーテル等のシアノエーテル)等であってよい。化学修飾は、所望の修飾基に応じた修飾化剤を用いて行うことができる。修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤(例えばシリル化剤)及びエーテル化剤が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステル、カルボン酸が好ましい。
【0050】
酸ハロゲン化物は、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X (1)
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
【0051】
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0052】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1):
R-COO-CH=CH2 …式(1)
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
【0053】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0054】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0055】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0056】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0057】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0058】
カルボン酸としては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH …(1)
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
【0059】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0060】
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0061】
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニル、酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0062】
本実施形態の化学修飾セルロース微細繊維の修飾度は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾セルロース微細繊維のDSは0.01以上2.0以下が好ましい。DSが0.01以上であれば、熱分解開始温度が高い化学修飾微細セルロースを含む複合成型体を得ることができる。一方、2.0以下であると、化学修飾微細セルロース中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた化学修飾微細セルロースを含む複合成型体を得ることができる。DSは、より好ましくは、0.05以上、又は0.1以上、又は0.2以上、又は0.3以上であり、より好ましくは、1.8以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下である。
【0063】
化学修飾セルロース微細繊維の修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロース微細繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図1及び2参照)。エステル化セルロース微細繊維のDSは、後述するエステル化セルロース微細繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0064】
固体NMRによるエステル化セルロース微細繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロース微細繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0065】
化学修飾セルロース微細繊維の繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、他の成分(有機フィラー、樹脂等)との複合時の当該他の成分との親和性の向上、及び複合成型体の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0以上であり、化学修飾セルロース微細繊維の製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは、0.1以上、又は0.2以上、又は0.3以上、又は0.5以上であり、好ましくは、3.0以下、又は2.5以下、又は2.0以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
【0066】
化学修飾セルロース微細繊維のDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、複合成型体の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロース微細繊維を得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
【0067】
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾セルロース微細繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
【0068】
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0069】
一態様においては、化学修飾されていないセルロース微細繊維と上述した化学修飾されているセルロース微細繊維とを混合して用いることもできる。このような混合物を用いる場合の前述の置換度の値は、一態様において化学修飾されているセルロース微細繊維のみの値であってよく、又は一態様において当該混合物全体の平均値であってよい。
【0070】
<有機フィラー>
本実施形態の複合成型体はセルロース微細繊維に加えて有機フィラーを含む。本開示の有機フィラーは、セルロース微細繊維とは異なる成分であり、一態様において、カット繊維、不定形粒子、若しくは球状粒子、又はこれらの2種以上の混合物である。有機フィラーの平均短軸径は、一態様において0.1μm以上であり、好ましくは、0.3μm以上、又は0.5μm以上、又は1.0μm以上である。また当該平均短軸径は、一態様において100μm以下であり、好ましくは、80μm以下、又は60μm以下である。有機フィラーとしてのカット繊維、不定形粒子、及び球状粒子の各々の平均短軸径は後述のように定義される。
【0071】
有機フィラーは、廃棄物の有効利用の点で、リサイクルによって得られるものであってもよい。ここでいうリサイクルとはマテリアルリサイクル又はケミカルリサイクルを指す。例えばペットボトルの再生利用によって得られるポリエチレンテレフタラート製のカット繊維、建材等の産業用資材として用いられる発泡体を回収後、粉砕して得られる不定形粒子等を使用できる。
【0072】
有機フィラーは、一態様において、熱可塑性樹脂で構成されてよい。熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される1種以上を含む。熱可塑性樹脂のより具体的な好適例は、カット繊維、不定形粒子及び球状粒子の各々について後述する。
【0073】
熱可塑性樹脂の融点は、複合成型体に良好な特性を与える観点から、好ましくは、50℃以上、又は100℃以上、又は140℃以上であり、複合成型体の製造容易性の観点から、好ましくは、500℃以下、又は400℃以下、又は280℃以下、又は230℃以下である。なお本開示の融点は、示差走査熱量計を用い、昇温速度10℃/分で測定したときの吸熱ピーク(吸熱ピークが複数現れる場合には最も高温側の吸熱ピーク)のピークトップ温度を意味する。
【0074】
[カット繊維]
一態様において、カット繊維は、平均繊維長20mm以下を有する。カット繊維は、好ましくはフィブリル化カット繊維であってよい。フィブリル化カット繊維としては、紡糸後カットした状態の繊維を叩解処理等によりフィブリル化させたフィブリル化繊維、及びフラッシュ紡糸又はエレクトロスピニング法による紡糸等により得られる多分岐構造の繊維を紡糸した後に裁断したフィブリル化繊維を例示できる。
【0075】
有機フィラーがカット繊維である場合、平均短軸径はカット繊維の平均繊維径を意味する。カット繊維の平均繊維径は、カット繊維の入手容易性の観点から、好ましくは、0.1μm以上、又は0.3μm以上、又は1.0μm以上であり、セルロース微細繊維との均一混抄、及びそれによる均質な複合成型体の形成が容易である点で、好ましくは、50μm以下、又は40μm以下、又は25μm以下である。カット繊維が比較的小さい平均繊維径(例えば、10μm以下)を有する場合、セルロース微細繊維とカット繊維との繊維径の差が小さいため、透気抵抗度変動係数が低く、複合成型体内の構造の均一性が良好になる。一方、カット繊維が比較的大きい平均繊維径(例えば、40μm超)を有する場合、セルロース微細繊維とカット繊維との繊維径の差が大きく、複合成型体内の構造のばらつきが大きくなる傾向にはあるが、本開示の複合成型体は高目付であり、十分低い透気抵抗度変動係数を示すことができる。
【0076】
カット繊維の平均繊維長は、機械特性が良好な複合成型体を得る観点から、好ましくは、0.5mm以上、又は1.0mm以上、又は1.5mm以上であり、セルロース微細繊維のカット繊維間への均一分散を容易にする観点から、好ましくは、20mm以下、又は15mm以下、又は10mm以下である。
【0077】
カット繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、カット繊維を光学顕微鏡で計測して求める。具体的には、少なくとも20本のカット繊維が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ20本のカット繊維の繊維径及び繊維長を計測し、20本の数平均値を平均繊維径及び平均繊維長として算出する。なお、カット繊維がフィブリル化繊維である場合、繊維径は、乾式粉砕処理によってばらばらにした状態での光学顕微鏡による観察において、フィブリル化繊維一本ごとに確認できるすべての幹繊維及び枝繊維の中で最大の繊維径を繊維径と定義して、少なくとも20本(一態様において20本)のフィブリル化繊維に対する数平均値を平均繊維径と定義する。同様にカット繊維がフィブリル化繊維である場合の繊維長は、乾式粉砕処理によってばらばらにした状態での光学顕微鏡による観察において、フィブリル化繊維一本ごとの異形形状における最大の繊維径を有する幹繊維の長さを繊維長と定義し、少なくとも20本(一態様において20本)のフィブリル化繊維に対する数平均値を平均繊維長と定義する。カット繊維の繊維径又は繊維長の測定において、上記の光学顕微鏡による計測が分解能の問題で困難な場合には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。
【0078】
カット繊維としては、天然繊維、合成繊維及び半合成繊維のいずれも使用できる。カット繊維を構成するポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド(芳香族又は脂肪族)、アクリルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等の熱硬化性樹脂、等を例示できる。好ましい一態様において、カット繊維は熱可塑性樹脂で構成されている。好ましい一態様において、熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタラート等)、ポリアミド(PA6、PA66、PA4、PA12、芳香族系ポリアミド等)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群から選択される1種以上を含む。セルロース微細繊維との親和性が高く均一混抄が容易である点で好ましいポリマーは、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリ乳酸、ポリアクリロニトリル等である。また、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、芳香族系ポリアミド等は耐熱性を要する用途において好適である。カット繊維が熱可塑性樹脂を含む場合、複合成型体を、加熱(例えば溶融プレス等)することによって当該熱可塑性樹脂の一部又は全部を溶融させ、次いで固化させて、後述の樹脂成型体を形成してもよい。このような溶融及び固化によってセルロース微細繊維間に熱可塑性樹脂を含浸できる。このような樹脂成型体(すなわち複合成型体の加熱処理物)中のカット繊維は、一態様において繊維形状をなお保持していることができ、又は一態様において繊維形状を保持していなくてもよい。熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは、50℃以上、又は100℃以上、又は140℃以上であってよく、好ましくは、500℃以下、又は400℃以下、又は280℃以下であってよい。
【0079】
[不定形粒子及び球状粒子]
(不定形粒子)
一態様において、不定形粒子は、平均短軸径100μm以下を有する。不定形粒子は、例えば、フォーム状成型体を粉砕処理することによって得られる不定形粒子であってよい。有機フィラーが不定形粒子である場合、平均短軸径は不定形粒子の光学顕微鏡による観察において、個々の不定形粒子に対し、粒子の外周が完全に収まり、かつ面積が最小である楕円で近似し、該楕円の短軸径を粒子の短軸径と定義して、少なくとも20個(一態様において20個)の粒子に対する短軸径の数平均値を不定形粒子の平均短軸径と定義する。同様に、個々の不定形粒子の外周が完全に収まり、かつ面積が最小である楕円で近似し、該楕円の長軸径を粒子の長軸径と定義して、少なくとも20個(一態様において20個)の粒子に対する長軸径の数平均値を不定形粒子の平均長軸径と定義する。
【0080】
不定形粒子の平均短軸径は、複合成型体の厚み寸法を大きくする観点から、好ましくは、0.1μm以上、又は0.3μm以上、又は1.0μm以上であり、セルロース微細繊維との均一混抄、及びそれによる均質な複合成型体の形成が容易である点で、好ましくは、100μm以下、又は80μm以下、又は60μm以下である。不定形粒子が比較的小さい平均短軸径(例えば、10μm以下)を有する場合、セルロース微細繊維と不定形粒子との短軸径の差が小さいため、透気抵抗度変動係数が低く、複合成型体内の構造の均一性が良好になる。一方、不定形粒子が比較的大きい平均短軸径(例えば、50μm超)を有する場合、より厚み寸法の大きい複合成型体が得られる。セルロース微細繊維と不定形粒子との短軸径の差が大きい場合には、複合成型体内の構造のばらつきが大きくなる傾向にはあるが、本開示の複合成型体は高目付であり、十分低い透気抵抗度変動係数を示すことができる。
【0081】
不定形粒子の平均長軸径は、厚み寸法が大きな複合成型体を得る観点から、好ましくは、0.2μm以上、又は0.6μm以上、又は2.0μm以上であり、機械特性が良好な複合成型体を得る観点から、好ましくは、500μm以下、又は250μm以下、又は100μm以下である。
【0082】
不定形粒子の平均短軸径及び平均長軸径の測定においては、上記の光学顕微鏡による計測が分解能の問題で困難な場合には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。
【0083】
(球状粒子)
一態様において、球状粒子は、平均短軸径50μm以下を有する。有機フィラーが球状粒子である場合、平均短軸径は球状粒子の平均粒子径を意味する。
【0084】
球状粒子の平均粒子径は、複合成型体の厚み寸法を大きくする観点から、好ましくは、0.1μm以上、又は0.3μm以上、又は1.0μm以上であり、セルロース微細繊維との均一混抄、及びそれによる均質な複合成型体の形成が容易である点で、好ましくは、50μm以下、又は40μm以下、又は25μm以下である。球状粒子が比較的小さい平均粒子径(例えば、10μm以下)を有する場合、セルロース微細繊維と球状粒子との径の差が小さいため、透気抵抗度変動係数が低く、複合成型体内の構造の均一性が良好になる。一方、球状粒子が比較的大きい平均粒子径(例えば、25μm超)を有する場合、より厚み寸法の大きい複合成型体が得られる。セルロース微細繊維と球状粒子との径の差が大きい場合には、複合成型体内の構造のばらつきが大きくなる傾向にはあるが、本開示の複合成型体は高目付であり、十分低い透気抵抗度変動係数を示すことができる。
【0085】
球状粒子の平均粒子径は、球状粒子を光学顕微鏡で計測して求める。具体的には、少なくとも20個の球状粒子が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ20個の球状粒子の粒子径を計測し、20個の数平均値を平均粒子径として算出する。上記の光学顕微鏡による計測が分解能の問題で困難な場合には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。
【0086】
(不定形粒子及び球状粒子の構成材料)
不定形粒子及び球状粒子の各々としては、例えば天然由来又は合成の高分子の粒子を使用できる。不定形粒子及び球状粒子の各々を構成するポリマーとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を例示でき、より具体的には、セルロース、セルロース誘導体等の天然由来高分子、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド(芳香族又は脂肪族)、アクリルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等の熱硬化性樹脂、等を例示できる。不定形粒子及び/又は球状粒子が熱可塑性樹脂を含む場合、複合成型体を、加熱(例えば溶融プレス等)することによって当該熱可塑性樹脂の一部又は全部を溶融させ、次いで固化させて、後述の樹脂成型体を形成してもよい。このような溶融及び固化によってセルロース微細繊維間に熱可塑性樹脂を含浸できる。このような樹脂成型体(すなわち複合成型体の加熱処理物)中の不定形粒子及び球状粒子の各々は、一態様において粒子形状をなお保持していることができ、又は一態様において粒子形状を保持していなくてもよい。熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは、50℃以上、又は100℃以上、又は140℃以上であってよく、好ましくは、500℃以下、又は400℃以下、又は280℃以下であってよい。
【0087】
一態様において、複合成型体中のセルロース微細繊維と有機フィラーとの合計質量に対するセルロース微細繊維の質量比率は、セルロース微細繊維の使用による利点を良好に得る観点から、好ましくは、9質量%以上、又は15質量%以上、又は26質量%以上であってよく、複合成型体の製造容易性の観点から、好ましくは、93質量%以下、又は88質量%以下、又は84質量%であってよい。
【0088】
複合成型体中のセルロース微細繊維と有機フィラーとの合計質量は、一態様において、80質量%以上、又は85質量%以上、又は90質量%以上であってよく、一態様において、100質量%以下、又は99質量%以下、又は98質量%以下であってよい。
【0089】
<架橋剤及び架橋構造>
一態様においては、複合成型体中のセルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間に、架橋剤に由来する反応体が分布している。架橋剤を用いることで、複合成型体及びこれを用いて形成される各種部材の機械特性を顕著に向上させることができる。また、セルロース微細繊維は本質的に親水性であるところ、セルロース分子の水酸基を架橋反応させると複合成型体を疎水化でき、耐水性が要求される部材用途において当該複合成型体を好適に使用できる。更に、複合成型体の疎水化は複合成型体内への樹脂含浸性の向上という利点も与える場合がある。架橋の様式は、セルロース微細繊維及び有機フィラーの各々が有する官能基に応じて選択できる。セルロースが有する水酸基との反応性が良好であり優れた架橋効果が得られる観点から、ウレタン結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、シリルエーテル結合等が好ましく、特にウレタン結合が好ましい。したがって、好ましい態様においては、架橋剤に由来する反応体が上記例示した結合を含む。架橋剤としては、反応性架橋剤、例えば、ブロックポリイソシアネート、ポリイソシアネート、エピクロロヒドリン、ホルムアルデヒド等が好ましい。ブロックポリイソシアネートは、セルロース微細繊維に対する架橋効果が特に良好であり好ましい。
【0090】
ブロックポリイソシアネートは、ポリイソシアネート(すなわち1分子当たり2つ以上のイソシアネート基を有する多官能性化合物)のイソシアネート基がブロック基でブロックされた構造を有する化合物であり、常温(具体的には30℃以下)では実質的に非反応性である一方、ブロック基の脱離温度以上では遊離のイソシアネート基を1分子当たり2つ以上生成して、イソシアネート基との反応性を有する官能基(例えば活性水素を有する官能基)との反応による架橋構造を形成する。セルロース微細繊維は、イソシアネート基との反応性を有する官能基である水酸基を有するが、ブロックポリイソシアネートはブロック基を保持しているため、セルロース微細繊維とは反応せずにセルロース微細繊維に吸着して当該セルロース微細繊維の分散剤として機能し、有機フィラー間へのセルロース微細繊維の均一分散に寄与する。固化工程において、ブロック基の脱離温度以上で加熱されると、ポリイソシアネート同士、及びセルロース微細繊維とポリイソシアネートとが化学的に結合して、ポリイソシアネート-ポリイソシアネート間、及びポリイソシアネート-セルロース微細繊維間の架橋構造が形成される。また有機フィラーが活性水素を有する官能基を有する場合には、ポリイソシアネート-有機フィラー間の架橋構造も形成される。ブロックポリイソシアネートの使用によって形成される上記のような架橋構造により、セルロース微細繊維は複合成型体中でその微細構造を保ちつつ(すなわちセルロース微細繊維同士の凝集が回避されつつ)安定な3次元ネットワークを形成し、更には水酸基の(イソシアネート基との反応による)減少によって耐水化されるため、当該複合成型体の物性をより顕著に向上させることができる。
【0091】
架橋されている複合成型体は、セルロース微細繊維及び/又は有機フィラーが、単に分散しているのみでなくブロックポリイソシアネート由来の架橋構造によって3次元ネットワークを形成しているものであることができる。このような複合成型体は、所望の形状を有して成形されていることができるとともに、良好な機械強度、耐水性及び耐溶剤性を有することができる。したがって、当該複合成型体を用いて種々の形状の部材(例えば湾曲状成型体、箱型成型体、コーン状成型体等)を形成できる。
【0092】
ブロックポリイソシアネートは、ポリイソシアネート(すなわち分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物)のイソシアネート基をブロック基で置換してなる化合物から選択される。ポリイソシアネートの基本骨格としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。中でも、黄変性が少ないという観点から、脂環式ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネートがより好ましい。
【0093】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート及びその混合物(TDI)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、3,3-ジメチル-4,4-ビフェニレンジイソシアネート、粗製TDI、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、粗製MDI、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0094】
ブロックポリイソシアネートの基本骨格としてのポリイソシアネート誘導体としては、例えば、上記のポリイソシアネートの多量体(例えば、2量体、3量体、5量体、7量体等)の他に、活性水素含有化合物を1種類又は2種類以上反応させて得られた反応生成物が挙げられる。上記反応生成物としては、アロファネート変性体(例えば、ポリイソシアネートと、アルコール類との反応より生成するアロファネート変性体等)、ポリオール変性体(例えば、ポリイソシアネートとアルコール類との反応より生成するポリオール変性体(アルコール付加体)等)、ビウレット変性体(例えば、ポリイソシアネートと、水又はアミン類との反応により生成するビウレット変性体等)、ウレア変性体(例えば、ポリイソシアネートとジアミンとの反応により生成するウレア変性体等)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、ポリイソシアネートと炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオン等)、カルボジイミド変性体(ポリイソシアネートの脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体等)、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体等が挙げられる。
【0095】
活性水素含有化合物として、例えば、1~6価の水酸基含有化合物(例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等)、アミノ基含有化合物、チオール基含有化合物、カルボキシル基含有化合物等が挙げられる。空気中又は反応場に存在する水、二酸化炭素等も活性水素含有化合物であり得る。
【0096】
1~6価のアルコールとしては、例えば、非重合アルコールと重合アルコールとが挙げられる。非重合アルコールとは重合を履歴しないアルコールであり、重合アルコールはモノマーを重合して得られるアルコールである。
【0097】
非重合アルコールとしてはモノアルコール類、ジオール類、トリオール類、テトラオール類等が挙げられる。モノアルコール類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i―ブタノール、s-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、n-ノナノール、2-エチルブタノール、2,2-ジメチルヘキサノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール等が挙げられる。ジオール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2-エチル-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、フロログルシン、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等が挙げられる。トリオール類としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。また、テトラオール類としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリトリトール、1,3,6,8-テトラヒドロキシナフタレン、1,4,5,8-テトラヒドロキシアントラセン等が挙げられる。
【0098】
重合アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール等のポリオールが挙げられる。
【0099】
ポリエステルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸の単独又は混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコールの単独又は混合物との縮合反応によって得られるポリエステルポリオールや、多価アルコールを用いてε-カプロラクトンを開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0100】
ポリエーテルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等の水酸化物、アルコラート、アルキルアミン等の強塩基性触媒、金属ポルフィリン、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体等の複合金属シアン化合物錯体等を使用して、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの単独又は混合物を、多価ヒドロキシ化合物の単独又は混合物に、ランダム又はブロック付加して得られるポリエーテルポリオール類や、エチレンジアミン類等のポリアミン化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類が挙げられる。これらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られる、いわゆるポリマーポリオール類等も挙げられる。
【0101】
前記多価アルコール化合物としては、
(1)例えばジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等、
(2)例えばエリトリトール、D-トレイトール、L-アラビニトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、ラムニトール等の糖アルコール系化合物、
(3)例えばアラビノース、リボース、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等の単糖類、
(4)例えばトレハロース、ショ糖、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオース等の二糖類、
(5)例えばラフィノース、ゲンチアノース、メレチトース等の三糖類、
(6)例えばスタキオース等の四糖類、
等がある。
【0102】
アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸-2-ヒドロキシブチル等の活性水素を持つアクリル酸エステル等、グリセリンのアクリル酸モノエステル若しくはメタクリル酸モノエステル、トリメチロールプロパンのアクリル酸モノエステル若しくはメタクリル酸モノエステル等、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシブチル、メタクリル酸-3-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-4-ヒドロキシブチル等の活性水素を持つメタクリル酸エステル等の群から選ばれた単独又は混合物を必須成分とし、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド、及びメタクリル酸グリシジル、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、フマル酸ジブチル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニルモノマー等のその他の重合性モノマーの群から選ばれた単独又は混合物の存在下、又は非存在下において重合させて得られるアクリルポリオールが挙げられる。
【0103】
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン等が挙げられる。更に、炭素数50以下のモノアルコール化合物である、イソブタノール、n-ブタノール、2エチルヘキサノール等を併用することができる。
【0104】
アミノ基含有化合物としては、例えば、炭素数1~20のモノハイドロカルビルアミン[アルキルアミン(ブチルアミン等)、ベンジルアミン及びアニリン等]、炭素数2~20の脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びジエチレントリアミン等)、炭素数6~20の脂環式ポリアミン(ジアミノシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン及びイソホロンジアミン等)、炭素数2~20の芳香族ポリアミン(フェニレンジアミン、トリレンジアミン及びジフェニルメタンジアミン等)、炭素数2~20の複素環式ポリアミン(ピペラジン及びN-アミノエチルピペラジン等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等)、ジカルボン酸と過剰のポリアミンとの縮合により得られるポリアミドポリアミン、ポリエーテルポリアミン、ヒドラジン(ヒドラジン及びモノアルキルヒドラジン等)、ジヒドラジッド(コハク酸ジヒドラジッド及びテレフタル酸ジヒドラジッド等)、グアニジン(ブチルグアニジン及び1-シアノグアニジン等)及びジシアンジアミド等が挙げられる。
【0105】
チオール基含有化合物としては、例えば、炭素数1~20の1価のチオール化合物(エチルチオール等のアルキルチオール、フェニルチオール及びベンジルチオール)及び多価のチオール化合物(エチレンジチオール及び1,6-ヘキサンジチオール等)等が挙げられる。
【0106】
カルボキシル基含有化合物としては、1価のカルボン酸化合物(酢酸等のアルキルカルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸)及び多価のカルボン酸化合物(シュウ酸やマロン酸等のアルキルジカルボン酸及びテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等)等が挙げられる。
【0107】
ブロック基は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものである。このブロック基は、常温において安定であるが、所定の脱離温度(通常約100~約200℃)まで加熱するとブロック基が脱離し遊離イソシアネート基を再生しうるものである。
【0108】
このような要件を満たすブロック基を与えるブロック剤としては、
(1)メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等のアルコール類、
(2)アルキルフェノール系:炭素原子数4以上のアルキル基を置換基として有するモノ及びジアルキルフェノール類であって、例えばn-プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n-ブチルフェノール、sec-ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、n-ヘキシルフェノール、2-エチルヘキシルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ノニルフェノール等のモノアルキルフェノール類、ジ-n-プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ-n-ブチルフェノール、ジ-t-ブチルフェノール、ジ-sec-ブチルフェノール、ジ-n-オクチルフェノール、ジ-2-エチルヘキシルフェノール、ジ-n-ノニルフェノール等のジアルキルフェノール類、
(3)フェノール系:フェノール、クレゾール、エチルフェノール、スチレン化フェノール、ヒドロキシ安息香酸エステル等、
(4)活性メチレン系:マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等、
(5)メルカプタン系:ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等、
(6)酸アミド系:アセトアニリド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等、
(7)酸イミド系:コハク酸イミド、マレイン酸イミド等、
(8)イミダゾール系:イミダゾール、2-メチルイミダゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール等、
(9)尿素系:尿素、チオ尿素、エチレン尿素等、
(10)オキシム系:ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等、
(11)アミン系:ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルエチルアミン等、
これらのブロック剤はそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0109】
ブロックポリイソシアネートは、アニオン性、ノニオン性、カチオン性のいずれであってもよいが、好ましくはカチオン性ブロックポリイソシアネートである。カチオン性ブロックポリイソシアネートは、静電相互作用によってセルロース微細繊維及び/又は有機フィラーに吸着しやすい点で有利である。すなわち、一般的なセルロース繊維表面はアニオン性(蒸留水中ゼータ電位-30~-20mV)であることが知られている(非特許文献1 J.Brandrup(editor) and E.H.Immergut(editor)“Polymer Handbook 3rd edition”V-153~V-155)ため、ブロックポリイソシアネートがカチオン性であることが静電相互作用の点で好ましい。
【0110】
しかし、ブロックポリイソシアネートがノニオン性であっても、当該ブロックポリイソシアネートの親水基のポリマー鎖長、剛直性等を調整することで、セルロース微細繊維及び/又は有機フィラーにブロックポリイソシアネートを良好に吸着させることが可能である。さらに、アニオン性のブロックポリイソシアネートのように、セルロース微細繊維及び/又は有機フィラーとの静電反発により吸着がより困難なブロックポリイソシアネートであっても、一般的に周知なカチオン性吸着助剤又はカチオン性ポリマーを用いることで、セルロース微細繊維上及び/又は有機フィラー上にブロックポリイソシアネートを吸着させることができる。
【0111】
複合成型体中、架橋剤に由来する反応体の量は、セルロース微細繊維と有機フィラーとの合計100質量%に対して、架橋剤の使用による利点を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.3質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上であり、複合成型体中の未反応の架橋剤の残存を低減して、複合成型体を用いて形成された部材中へのクラック発生等の不都合を良好に防止する観点から、好ましくは、100質量%以下、又は90質量%以下、又は80質量%以下である。なお架橋剤に由来する反応体の量は、複合成型体のTOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)で確認できる。
【0112】
一態様において、複合成型体は、反応性架橋剤を反応前の状態で(例えば、ブロックポリイソシアネートとして)含んでいる、未架橋のものであってもよい。例えば、複合成型体は、反応性架橋剤を、セルロース微細繊維と有機フィラーとの合計100質量%に対して、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.3質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上の量で含んでよく、好ましくは、100質量%以下、又は90質量%以下、又は85質量%以下の量で含んでよい。
【0113】
一態様においては、架橋剤又はこれに由来する反応体が複合成型体の平面方向で均一に分布している。本開示で、「架橋剤又はこれに由来する反応体が複合成型体において平面方向で均一に分布」とは次のように定義する。
平面方向の均一性は、複合成型体の表面上の任意の点での架橋剤又はこれに由来する反応体の量(W1)とセルロース量(W2)の比(W1/W2)が常に一定であることをいう。ここで、「常に一定」とは、複合成型体の表面上で1cm×1cmの領域を4か所選択したときに、任意の4か所におけるW1/W2のバラツキが50%以下の変動係数であることを意味する。
【0114】
架橋剤又はこれに由来する反応体の分布の平面方向における上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は30%以下、又は20%以下である。変動係数が50%以下である場合、同量の架橋剤又はこれに由来する反応体を含み当該変動係数が50%超である複合成型体と比べ、引張強力(乾燥及び湿潤)、耐生分解性等の物性が良好である。なお、変動係数とは相対的なばらつきを表す値であり、以下の式:変動係数(CV)=(標準偏差/相加平均)×100、により算出できる。上記変動係数は小さい程望ましいが、複合成型体の製造容易性の観点から、例えば、1%以上、又は2%以上、又は4%以上であってもよい。
【0115】
複合成型体において、上記の架橋剤又はこれに由来する反応体の量(W1)とセルロース量(W2)との比は、例えばスパッタエッチングを伴うTOF-SIMSによる3次元組成分析から求められる。TOF-SIMSは試料の極表面の元素組成及び化学構造を分析できる。超高真空下で試料に一次イオンビームを照射すると、試料の極表面(1~3nm)から二次イオンが放出される。二次イオンを飛行時間型(TOF型)質量分析計へ導入することで、試料極表面の質量スペクトルが得られる。この際に一次イオン照射量を低く抑えることにより、化学構造を保った分子イオン及び部分的に開裂したフラグメントとして表面成分を検出することができ、極表面の平面方向の元素組成及び化学構造の情報が得られる。また、この時にスパッタエッチング銃によるスパッタエッチングと一次イオン銃による二次イオンの測定を繰り返すことで深さ方向の元素組成及び化学構造の情報が得られ、3次元での組成・化学構造分析ができる。
【0116】
TOF-SIMSによるW1/W2の算出は例えば次のように実施する。1cm×1cmの複合成型体内の等分割した4か所について、0.5cm角のサンプルを採取する。その4つのサンプルの3次元TOF-SIMS組成分析を実施する。架橋剤又はこれに由来する反応体の量とセルロース量の比は、架橋剤又はこれに由来する反応体に由来するカウント数(C1)(例えば、ブロックポリイソシアネートの場合、m/z=26(フラグメントイオン:CN)のカウント数)とセルロース由来のm/z=59(フラグメントイオン:C232)カウント数(C2)よりW1/W2=C1/C2として求めることができる。ブロックポリイソシアネート又はその架橋体由来の他のフラグメントイオンとして例えばCNO(m/z=42)を用いてもよい。また、セルロース由来の他のフラグメントイオンとして例えばC332(m/z=71)を用いてもよい。なお、観測されるフラグメントイオンは、架橋剤の組成、セルロースの原料の違い等により異なることがあるため、上記のフラグメントイオンに限定されるものではない。
用いるTOF-SIMSの測定条件は例えば以下のとおりである。
【0117】
(測定条件)
使用機器 :nanoTOF (アルバック・ファイ社製)
一次イオン :Bi3 ++
加速電圧 :30 kV
イオン電流 :約0.1nA(DCとして)
分析面積 :200μm×200μm
分析時間 :約6sec/cycle
検出イオン :負イオン
中和 :電子銃使用
(スパッタ条件)
スパッタイオン :Ar2500+
加速電圧 :20kV
イオン電流 :約5nA
スパッタ面積 :500μm×500μm
スパッタ時間 :60sec/cycle
中和 :電子銃使用
【0118】
<追加の成分>
複合成型体は、上記のセルロース微細繊維、有機フィラー、及び任意の反応性架橋剤又はその反応物、に加え、分散剤、無機フィラー粒子、追加の繊維(本開示のセルロース微細繊維及びカット繊維以外の繊維)、機能化剤等の追加の成分を含んでよい。
【0119】
(分散剤)
分散剤は、複合成型体中でのセルロース微細繊維及び有機フィラーの分散状態を向上、制御することによって、複合成型体の機械特性及び熱安定性を向上させることができる。複合成型体の総質量に対する分散剤の質量比率は、複合成型体の機械特性及び熱安定性の向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.01質量%以上、又は0.05質量%以上、又は0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上であってよく、複合成型体中のセルロース微細繊維及び有機フィラーによる所望の特性を良好に発揮させる観点から、好ましくは、20質量%以下、又は10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下であってよい。
【0120】
分散剤としては、界面活性剤が好適である。界面活性剤は、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有していればよく、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α‐オレフィンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン性界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸グリセロールエステル等のノニオン性界面活性剤を挙げることができる。セルロース微細繊維と有機フィラーとのより均一な混抄に有利である点で、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0121】
特に有機フィラーがポリオレフィンのような疎水的な樹脂である場合、複合成型体の作製時に分散剤は有効に作用する。
【0122】
無機フィラー粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、炭酸カルシウム粒子等が挙げられる。複合成型体において、無機フィラー粒子の質量比率は、例えば、1~30質量%、又は3~20質量%であってよい。
【0123】
追加の繊維としては、ガラスファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノ繊維、カーボンナノ材料(例えばグラフェン等)を含む繊維、等の無機繊維、セルロース再生繊維、セルロースフィブリル化繊維等の有機繊維、等を使用できる。追加の繊維の量は、セルロース微細繊維、カット繊維及び追加の繊維の合計質量100質量%に対して、追加の繊維の比率が例えば1~30質量%、又は3~20質量%、又は5~15質量%であってよい。
【0124】
機能化剤は、例えば、撥水加工剤、撥水撥油加工剤、抗菌性ポリマー、油性化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂及び難燃剤からなる群から選ばれる1種以上であってよい。複合成型体において、機能化剤の固形分基準での質量比率は、例えば、0.1~20質量%、又は0.2~15質量%、又は0.3~10質量%であってよい。
【0125】
撥水加工剤又は撥水撥油加工剤としては、例えば、フッ素を含有する各種の有機系樹脂を挙げることができる。特に、パーフルオロアルキル基を含有するアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アルキルアクリルアミド、アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン等の不飽和モノマーの重合物、又は上記パーフルオロアルキル基含有不飽和モノマーとアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、塩化ビニル、アクリロニトリル、マレイン酸エステル、ポリオキシエチレン基含有不飽和モノマー等のパーフルオロアルキル基を含有しない不飽和モノマーとの共重合体が好ましい。また、フッ素系化合物を含有しない撥水加工剤又は撥水撥油加工剤として、シリコーン系化合物、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン、反応型(OH基末端)ジメチルポリシロキサン等、ワックス系化合物、通常の蝋等のワックス、合成パラフィンワックス、パラフィン蝋等が挙げられる。また、パラフィンとアクリル酸エステル系の重合物との混合物も所望の作用効果を発揮させるために活用できる。また、ワックス-ジルコニウム系化合物、すなわち前述のワックス系化合物とジルコニウム系化合物(具体的には酢酸ジルコニウム、塩酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、水酸化カリウム等による塩基性ジルコニウム等)との反応生成物、アルキレン尿素化合物(例えば、オクタデシルエチレン尿素又はその変性物)、脂肪族アマイド系化合物(例えば、N-メチロールステアリルアマイド又はその変性物)等の高級脂肪酸アマイド誘導体等が挙げられる。これらは、単独で使用されても二種以上組み合わせて含有してもよい。
【0126】
抗菌性ポリマーとして、例えば、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩、クロロヘキシジン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸塩と硫酸亜鉛の配合物、リン酸エステルモノマーの共重合体の4級アンモニウム塩化合物、ジシアンアミド・ジエチレントリアミン・塩化アンモニウム縮合物、ジシアンジアミド・ポリアルキレン・ポリアミンアンモニウム重縮合体、(ポリβ-1,4)-N-アセチル-D-グルコサミンの部分脱アセチル化合物とヘキサメチレンビス(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライドとの反応生成分、アクリロニトリル・アクリル酸共重合物銅架橋物、アクリルアミドージアリルアミン塩酸塩共重合体、メタクリレート共重合物、ヒドロキシプロピルキトサン、架橋キトサン、キトサン有機酸塩、キトサン微粉末(ポリグルコサミン)、キチン繊維、キチン、N-アセチル-D-グルコサミンが挙げられる。例えば、これら抗菌性ポリマーが複合成型体中にブロックポリイソシアネートにより固定化されていることも好ましい。抗菌性ポリマーによる加工の方法としては、例えば、上記複合成型体に抗菌性ポリマーを塗工する方法が挙げられ、具体的には、複合成型体の表面に抗菌性ポリマーを塗布又は噴霧する方法、抗菌性ポリマーの溶液に複合成型体を浸漬する方法、抗菌性ポリマーを含む樹脂を複合成型体に含浸させる方法が挙げられる。
【0127】
抗菌性評価は、例えばJIS-1902-1998で制定の繊維製品の抗菌性試験法(統一法)で行うことができる。具体的には、密閉容器の底部に予めサンプルを2g置き、このサンプル上に予め培養した1/50ブロースで希釈した黄色ブドウ球菌(試験菌種:AATCC-6538P)の菌液0.2mlを蒔き、37℃のインキュベーター内に18時間静置した後、20mLのSCDLP培地を添加して十分に振とうして菌を洗い落とす。これを普通寒天培地に置き24時間後に菌数を計測し、同時に実施した無加工試料布による菌数値と比較し抗菌性を判断する。
D=(Ma-Mb)-(Mc-Md)
式中、
Ma:無加工試料の18時間培養後の生菌数の対数(3検体の平均)
Mb:無加工試料の接種直後の生菌数の対数(3検体の平均)
Mc:加工布培養18時間培養後の生菌数の対数
Md:加工布培養の接種直後の生菌数の対数
D:静菌活性値
である。
静菌活性値D≧2.2の時、抗菌性があると判断される。したがって、複合成型体も静菌活性値D≧2.2であることが好ましい。
【0128】
油性化合物としては、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下である油性化合物が好ましい。油性化合物は、エマルジョンの形態でスラリー中に0.15質量%以上10質量%以下の濃度で分散していることが好ましい。油性化合物のスラリー中の濃度は0.15質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。油性化合物の濃度が10質量%を超えても複合成型体を得ることはできるが、製造プロセスとして使用する油性化合物の量が多くなり、それに伴う、安全上の対策の必要性やコスト上の制約が発生するため好ましくない。また、油性化合物の濃度が0.15質量%以上である場合透気抵抗度を低くでき好ましい。
【0129】
なお、油性化合物は、乾燥時(すなわち複合成型体製造時)に除去されることになるため、油性化合物は乾燥で容易に除去できることが望ましい。したがって、油性化合物の沸点は、大気圧下での沸点として、50℃以上200℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは、60℃以上190℃以下である。沸点が上記範囲である場合、工業的生産プロセスとして抄造スラリーを操作し易く、また、比較的効率的に加熱除去することが可能となる。油性化合物の大気圧下での沸点が50℃未満であると抄造スラリーを安定に扱うために低温制御下で扱うことが必要となり、効率上好ましくない。さらに、油性化合物の大気圧下での沸点が200℃を超えると、乾燥工程で油性化合物を加熱除去するのに多大なエネルギーが必要となるため、やはり好ましくない。
さらに、上記油性化合物の25℃での水への溶解度は5質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であることが油性化合物の必要な構造の形成への効率的な寄与という観点で望ましい。
【0130】
油性化合物として、例えば、炭素数6~炭素数14の範囲の炭化水素、鎖状飽和炭化水素類、環状炭化水素類、鎖状又は環状の不飽和炭化水素類、芳香族炭化水素類、炭素数5~炭素数9の範囲での一価かつ一級のアルコールが挙げられる。特に、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いると特に好適に本実施形態の複合成型体を製造することができる。これは、エマルジョンの油滴サイズが極めて微小(通常の乳化条件で、1μm以下)となるため、高空孔率かつ微細な多孔質構造を有する複合成型体の製造に適していると考えられる。
これらの油性化合物は単体として配合してもよいし、複数の混合物を配合してもよい。さらには、エマルジョン特性を適当な状態に制御するために、抄造スラリー中に水溶性化合物を溶解させてもよい。
【0131】
熱可塑性樹脂として、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の数平均分子量は一般に1000以上、好ましくは5000以上500万以下、さらに好ましくは1万以上100万以下である。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上を含有してもよい。2種以上の熱可塑性樹脂を含有する場合、その含有比によって樹脂の屈折率を調整することが可能であるので好ましい。例えば、ポリメタクリル酸メチル(屈折率約1.49)とアクリロニトリルスチレン(アクリロニトリル含量約21%、屈折率約1.57)を50:50で含有すると、屈折率約1.53の樹脂が得られる。
【0132】
熱硬化性樹脂としては、例えば、特に制限されるものではないが、具体例を示すと、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等、その他工業的に供されている樹脂及びこれら樹脂の2種以上を混合して得られる樹脂が挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂等は透明性を有するため、光学材料として使用する場合に好適である。
光硬化性樹脂として、例えば、潜在性光カチオン重合開始剤を含むエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂は、単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0133】
なお、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂とは、常温では液状、半固形状又は固形状等であって常温下又は加熱下で流動性を示す比較的低分子量の物質を意味する。これらは硬化剤、触媒、熱又は光の作用によって硬化反応や架橋反応を起こして分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成してなる不溶不融性の樹脂となり得る。また、樹脂硬化物とは、上記熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が硬化してなる樹脂を意味する。
【0134】
硬化剤、硬化触媒は、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂の硬化に用いられるものであれば特に限定されない。硬化剤の具体例としては、多官能アミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール樹脂が挙げられ、硬化触媒の具体例としてはイミダゾール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として本発明に含有されていてもよい。
【0135】
難燃剤としては、無機系難燃剤、無機リン系化合物、含窒素化合物、塩素系化合物、臭素系化合物等を例示でき、例えば、ホウ砂とホウ酸の混合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸アミド、塩素化ポリオレフィン、臭化アンモニウム、非エーテル系ポリブロモ環状化合物、等の水溶液若しくは水に分散可能である難燃剤が挙げられる。難燃剤による加工の方法としては、例えば、上記複合成型体に難燃剤を塗工する方法が挙げられ、具体的には、複合成型体の表面に難燃剤を塗布又は噴霧する方法、難燃剤の溶液に複合成型体を浸漬する方法、難燃剤を含む樹脂を複合成型体に含浸させる方法が挙げられる。
【0136】
上記機能化剤は、本開示の反応性架橋剤(例えばブロックポリイソシアネート)と結合していることが好ましい。一態様においては、反応性架橋剤が化学的結合(共有結合)を形成するための加熱処理が施されることによって、このような結合が形成されている。反応性架橋剤(例えばブロックポリイソシアネート)がセルロース微細繊維及び/又は有機フィラーと化学的に結合するとともに、機能化剤とも結合することにより、本実施形態の複合成型体の内部及び/又は表面において、機能化剤が固定化されていることができ、これにより、例えば水中での長期間の使用を経ても機能化剤由来の機能が良好に持続する。
【0137】
≪複合成型体の製造方法≫
本発明の一態様は、複合成型体の製造方法を提供する。一態様において、当該方法は、
セルロース微細繊維と、有機フィラーと、水を含む液体媒体とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程、
前記スラリーを抄造法により脱水して、湿潤した成型体を得る濃縮工程、及び
前記湿潤した成型体を少なくとも乾燥させて複合成型体を得る固化工程、
を含む。
【0138】
<スラリー調製工程>
本工程では、セルロース微細繊維と、有機フィラーと、液体媒体とを含むスラリーを調製する。液体媒体は、水を含み、任意に、有機溶媒(例えば、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ブタノール、イソプロパノール、1-プロパノール、エタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルエチルケトン、及びアセトンから選ばれる1種以上)を含み得る。一態様において、液体媒体は水である。スラリーは、当該スラリーの配合成分を混合することで調製できる。配合成分を均一に混合分散するための装置はスラリーの粘性や状態に応じて適宜選択するが、セルロース微細繊維と有機フィラーとが液体媒体中に分散した分散液において、セルロース微細繊維と有機フィラーとを均一に分散させることが重要である。このような観点から、好適な装置としては、例えば、スラリーが低粘度(流動性がある状態)である場合には、アジテーター、ホモミキサー、パイプラインミキサー、ブレンダーのようなカッティング機能も待ち得る分散機、ディスクリファイナー、高圧ホモジナイザー等が挙げられ、組成に応じた均一分散に有効な装置及び分散条件を選択する。スラリーが流動性がない程度に高粘度である場合にも、一旦は高剪断場での分散(例えば、ホモミキサー、ブレンダー、ディスクリファイナー又は高圧ホモジナイザーを用いた高剪断分散等)を経て均一分散処理を行った後に、高剪断場により構造崩壊するような成分を添加し低速駆動である各種混練機を使用することが好ましい。例えば、水分散性ブロックポリイソシアネート等のエマルションを用いる場合には、過剰な剪断応力がかかることによるエマルションの崩壊を防止する観点から、高圧ホモジナイザー、グラインダー型微細化装置、石臼式摩砕型装置等の、高剪断場を与える装置は、エマルション添加後に使用しないことが好ましい。例えば、予め(すなわちエマルション添加前に)上記のような高剪断場での分散処理を行い、エマルション添加後には、アジテーター等の比較的低剪断場での分散処理を行うことが好ましい。
【0139】
スラリーの固形分比率は、良好な抄造性を得る観点から、好ましくは、0.2質量%~1.5質量%、又は0.3質量%~1.2質量%、又は0.4質量%~1.0質量%であってよい。
【0140】
スラリー中のセルロース微細繊維の質量分率は、複合成型体製造時の濾水時間を過度に長くせず、生産性を良好にするとともに複合成型体内の構造の均一性を良好にする点で、0.04質量%以上、又は0.08質量%以上、又は0.1質量%以上であってよく、粘度が過度に高くならず、セルロース微細繊維をスラリー中に均一に分散でき、均一な構造の複合成型体が得られる点で、1.0質量%以下、又は0.9質量%以下、又は0.8質量%以下であってよい。
【0141】
スラリー中の有機フィラーの質量分率は、複合成型体製造時の濾水時間を過度に長くせず、生産性を良好にするとともに複合成型体内の構造の均一性を良好にする点で、0.1質量%以上、又は0.12質量%以上、又は0.16質量%以上であってよく、粘度が過度に高くならず、有機フィラーをスラリー中に均一に分散でき、均一な構造の複合成型体が得られる点で、0.8質量%以下、又は0.75質量%以下、又は0.7質量%以下であってよい。
【0142】
スラリー中の液体媒体の質量比率は、好ましくは45質量%以上99.9質量%以下であってよい。液体媒体の質量比率は、粘度が過度に高くならず、セルロース微細繊維及び有機フィラーをスラリー中に均一に分散でき、均一な構造の複合成型体が得られる点で、好ましくは55質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、複合成型体製造時の濾水時間を過度に長くせず、生産性を良好にするとともに複合成型体内の構造の均一性を良好にする点で、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.4質量%以下、さらに好ましくは99.2質量%以下である。
【0143】
例えば、反応性架橋剤(例えばブロックポリイソシアネート)を用いて架橋された複合成型体を製造する場合には、スラリー中に反応性架橋剤を含有させてよい。スラリー中、セルロース微細繊維と有機フィラーとの合計100質量部に対する反応性架橋剤の量は、反応性架橋剤の使用による利点を良好に得る観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、複合成型体中の未反応の反応性架橋剤の残存を低減して、部材中へのクラック発生等の不都合を良好に防止する観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。
【0144】
また、スラリー全体に対する反応性架橋剤(好ましくはブロックポリイソシアネート)の量は、反応性架橋剤の使用による利点を良好に得る観点から、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、更に好ましくは0.005質量%以上であり、複合成型体中の未反応の反応性架橋剤の残存を低減する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
【0145】
反応性架橋剤は、水分散型の形態(例えばエマルション)でスラリー中に存在することが好ましく、この場合、反応性架橋剤のスラリー中での分散性がより良好である。エマルションとしては、自己乳化型エマルション、強制乳化型エマルション等が挙げられる。自己乳化型、強制乳化型いずれのエマルションにおいても、表面にアニオン性、ノニオン性、又はカチオン性の親水基が露出している。
【0146】
自己乳化型エマルションは、反応性架橋剤に対して親水性化合物(例えば、アニオン性基、ノニオン性基又はカチオン性基を有する活性水素基含有化合物)を直接結合させ、乳化して得たエマルションである。アニオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、1つのアニオン性基を有し、かつ、2つ以上の活性水素基を有する化合物が挙げられる。
【0147】
アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ベタイン構造含有基等が挙げられる。より具体的には、カルボキシル基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、2,2-ジメチロール酢酸、2,2-ジメチロール乳酸等のジヒドロキシルカルボン酸、例えば、1-カルボキシ-1,5-ペンチレンジアミン、ジヒドロキシ安息香酸等のジアミノカルボン酸、ポリオキシプロピレントリオールと無水マレイン酸及び/又は無水フタル酸とのハーフエステル化合物等を挙げることができる。
【0148】
スルホン酸基を有する活性水素基含有化合物としては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸等が挙げられる。
また、リン酸基を有する活性水素基含有化合物としては、例えば、2,3-ジヒドロキシプロピルフェニルホスフェート等を挙げることができる。
また、ベタイン構造含有基を有する活性水素基含有化合物としては、例えば、N-メチルジエタノールアミン等の3級アミンと1,3-プロパンスルトンとの反応によって得られるスルホベタイン基含有化合物等を挙げることができる。
【0149】
アニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることによってアルキレンオキサイド変性体としてもよい。アニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0150】
ノニオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ノニオン性基として通常のアルコキシ基を含有しているポリアルキレンエーテルポリオール等が使用される。通常のノニオン性基含有ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオール等も使用される。
高分子ポリオールとしては、数平均分子量500~10,000、特に500~5,000のものが好ましく使用される。
【0151】
カチオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、特に制限されるものではないが、ヒドロキシル基又は1級アミノ基等の活性水素含有基と、3級アミノ基とを有する脂肪族化合物、例えば、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン等が挙げられる。また、3級アミンを有するN,N,N-トリメチロールアミン、N,N,N-トリエタノールアミン等を使用することもできる。なかでも、3級アミノ基を有し、かつイソシアネート基と反応性のある活性水素を2個以上含有するポリヒドロキシ化合物が好ましい。
【0152】
カチオン性基を有する活性水素基含有化合物は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることによってアルキレンオキサイド変性体としてもよい。カチオン性基を有する活性水素基含有化合物は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0153】
カチオン性基は、アニオン性基を有する化合物で中和することで、塩の形で水中に分散させやすくすることもできる。アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等が、スルホン基を有する化合物としては、例えば、エタンスルホン酸等が、リン酸基を有する化合物としては、例えばリン酸、酸性リン酸エステル等が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物が好ましく、更に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。中和を行う場合の反応性架橋剤に導入されたカチオン性基:アニオン性基の当量比率は、好ましくは1:0.5~1:3であり、より好ましくは1:1~1:1.5である。また、三級アミノ基を導入する場合には、当該三級アミノ基が硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等で四級化されることもできる。
【0154】
例えば、反応性架橋剤としてブロックポリイソシアネートを用いる場合、当該ブロックポリイソシアネートと上記活性水素基含有化合物とを反応させる比率は、イソシアネート基/活性水素基の当量比が、好ましくは1.05~1000、より好ましくは2~200、さらに好ましくは4~100の範囲である。当量比が1.05以上である場合、親水性ポリイソシアネート中のイソシアネート基含有率が低くなり過ぎず、ブロックポリイソシアネートの硬化速度の低下及び硬化物の脆弱化を回避できる他、セルロース微細繊維とイソシアネート基との架橋点を多くして、ブロックポリイソシアネートが耐水化剤及びセルロース微細繊維の固定化剤として良好に作用する。当量比が1000以下である場合、界面張力を下げる効果が良好であり、親水性が良好に発現する。なお、ポリイソシアネート化合物(すなわち、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有する化合物)と活性水素基含有化合物との反応方法としては、両者を混合して通常のウレタン化反応を行う方法を用いることができる。
【0155】
上記強制乳化型エマルションは、反応性架橋剤を界面活性剤等で強制乳化させて得たエマルションである。強制乳化型エマルションは、周知一般の乳化剤(例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等)で乳化分散された化合物であってよい。乳化剤の中で、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤は、コストも低く、良好な乳化が得られるので好ましい。
【0156】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルカルボン酸塩系化合物、アルキルサルフェート系化合物、アルキルリン酸塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、炭素数1~18のアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、1級~3級アミン塩、ピリジニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ハロゲン化アルキル4級アンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0157】
これらの乳化剤の使用量は、特に制限されないが、反応性架橋剤1質量部に対する質量比で、0.01質量部以上であると良好な分散性が得られ好ましく、0.3質量部以下であると耐水性、及び機能化剤又は固定化剤としての作用が良好に発揮され好ましい。上記使用量は、より好ましくは0.05~0.2質量部である。
【0158】
尚、上記水分散型の反応性架橋剤は、自己乳化型及び強制乳化型ともに、水以外の溶剤を例えば20質量%以下の量で含むことができる。溶剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等を挙げることができる。これら溶剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。溶剤の水への分散性の観点から、溶剤としては、水への溶解度が5質量%以上のものが好ましく、具体的には、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジプロピレングリコールジメチルエーテルが好ましい。
【0159】
上記水分散型の反応性架橋剤の平均分散粒子径は、好ましくは1~1000nm、より好ましくは10~500nm、更に好ましくは10~200nmである。なお上記平均分散粒子径は静的光散乱法レーザー式粒径測定法で測定される値である。
【0160】
スラリーが、セルロース微細繊維と、有機フィラーと、反応性架橋剤と、液体媒体とを含む場合、例えば
(1)セルロース微細繊維と反応性架橋剤と液体媒体とを混合して予備混合物を調製し、次いで該予備混合物と、有機フィラー(有機フィラー単独でも有機フィラー水分散体等の形態でもよい)とを混合すること、又は
(2)セルロース微細繊維と有機フィラーと液体媒体とを混合して予備混合物を調製し、次いで予備混合物と反応性架橋剤とを混合すること、
により、スラリーを調製できる。
【0161】
上記(1)及び(2)の方法のうち、(1)の方法は、反応性架橋剤を有機フィラーに先立ってセルロース微細繊維と混合することになるため、反応性架橋剤をセルロース微細繊維に対してより多く(すなわち選択的に)吸着させることができ、反応性架橋剤によるセルロース微細繊維の分散性向上効果及び架橋効果が良好になるため好ましい。特に、反応性架橋剤がカチオン性反応性架橋剤であることによってセルロース微細繊維との静電相互作用を有する場合等、ブロックポリイソシアネートとセルロース微細繊維との親和性が高い場合において(1)の方法で反応性架橋剤をセルロース微細繊維に予め吸着させておくことは、セルロース微細繊維周辺への反応性架橋剤の局在化において極めて有利である。一方、上記(2)の方法であっても、セルロース微細繊維は、その微細構造に起因して、例えば有機フィラーと比べて単位質量当たりの表面積が大きいことから、反応性架橋剤の総量のうち相当割合をセルロース微細繊維に吸着させることは可能であり、また例えば反応性架橋剤をセルロース微細繊維及び有機フィラーの両者に吸着させる場合には上記(2)の方法が有利であることもある。したがって、スラリーの製造における各含有成分の添加順序及び添加態様は、スラリーの含有成分の種類及び量、並びにスラリーの用途等に応じて適宜設計されてよい。
【0162】
例えば複数種の添加剤を添加する場合であって添加剤同士が凝集するような系(例えば、スラリー中にカチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとが存在し、これらがイオンコンプレックスを形成するような系)においては、添加剤の添加順序によってスラリーの分散状態、ゼータ電位等が変わる可能性がある。添加剤の添加量及び添加順序は所望されるスラリーの分散状態に応じて適宜選択される。
【0163】
反応性架橋剤を含むスラリーを調製する際の混合温度は、混合効率の観点から、好ましくは、5℃以上、又は7℃以上、又は9℃以上であり、反応性架橋剤の反応を防止する観点から、好ましくは、60℃以下、又は55℃以下、又は50℃以下である。例えば、反応性架橋剤がブロックポリイソシアネートである場合、上記条件は好適である。なお一態様においては、スラリー調製工程において反応性架橋剤を反応させてもよい。この場合の混合温度は、反応性架橋剤の反応温度以上(例えば、ブロックポリイソシアネートの場合にはブロック基の脱離温度以上)に設定してよく、130℃以上220℃以下、又は140℃以上210℃以下を例示できる。
【0164】
<濃縮工程>
本工程では、スラリーを抄造法により脱水して、湿潤した成型体を得る。抄造法は、セルロース微細繊維同士の乾燥収縮を低減する点で有利である。一態様においては、スラリーを多孔質基材上で濾過することで脱水を行う。抄造法においては、スラリーを脱水し、セルロース微細繊維及び有機フィラーが留まるようなメッシュサイズのワイヤーを備える任意の抄紙機を使用できる。抄造装置としては、平坦シート形状の複合成型体を得る場合には、抄紙機として、傾斜ワイヤー式抄紙機、長網式抄紙機、円網式抄紙機のような装置を用いると欠陥の少ない平坦シート形状の湿潤した成型体を好適に得ることができる。また、平坦シート形状以外の各種形状の複合成型体を得る場合には、所定の形状に成型されたパルプモールド用の金属製金型等を用いることで所望形状の湿潤した成形体を得ることができる。抄造は連続式であってもバッチ式(例えば、バッチ式抄紙機による抄造及びパルプモールド法)であっても目的に応じて使い分ければよい。
【0165】
平坦シートを得る場合には、工業的観点からは抄紙機を用いた連続式抄造により長尺シートを作製し、ロール状の製品形態とすることがコストの面では好ましい。特に抄紙機を用いた連続式抄造の場合、通常の抄紙(例えば、叩解されたパルプ繊維又はカット糸を用いた抄造)においては、抄紙用ワイヤー上に投入された繊維の水分散体と、走行するワイヤーベルトとのずり応力の発生により、該水分散体中の繊維がワイヤーベルトの走行方向に配向し、その結果、得られる平坦シートにおいては、繊維の配向に起因して、走行方向(Machine direction, MD)とその直交方向(Transverse direction, TD)との間で物性(強度、弾性率など)の異方性が発生する。一方、本実施形態で得られる複合成型体においては、連続式抄造であっても、MD方向とTD方向との物性の差異が現れにくいという特徴がある。この特徴は、本実施形態の複合成型体である平坦シートを抄紙機で作製する際に、抄紙機に投入されるセルロース微細繊維と有機フィラーとを含む水分散体中で、セルロース微細繊維が繊維間会合に基づく等方的な軟凝集体を形成しており、該軟凝集体中に有機フィラーが取り込まれてセルロース微細繊維と有機フィラーとが一体化された複合軟凝集体を形成しており、該複合軟凝集体中では、仮に有機フィラーが異方的な形状を有するものであっても無配向(無秩序で異方性の無い状態)で取り込まれていることに起因すると考えられる。該複合軟凝集体は、先述した通常の抄紙におけるベルト走行時に水分散体にかかる剪断応力によっては崩壊しない程度の強度を保有しているため、有機フィラーが無配向で固定されている該複合軟凝集体の状態のまま、ベルト上で堆積、脱水され、その後の乾燥処理等により異方性のないシートを形成する。通常、連続式抄造では、例えば引張強度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率、線熱膨張係数等の物性のMD/TD比が、抄造時の走行速度(通常は5m/min以上)に応じて大きくなる(例えば、本開示の[実施例]の項の比較例8参照)。一方、本実施形態の複合成型体を連続式抄造法で作製した際には、引張強度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率、及び/又は線熱膨張係数のMD/TD比が、一態様において1.6以下、好ましくは、1.4以下、又は1.2以下であり得る(例えば、本開示の[実施例]の項の実施例27の引張強度参照)。また本実施形態の複合成型体は、パルプモールド法のような三次元成形によって製造した場合であっても、平面性の高い部分のみでなく曲率の高い部分においても異方性が現れ難いという特徴がある。
【0166】
一態様において、複合成型体と追加の部材(例えば有機高分子シート)との複合部材を製造するために、複合成型体と追加の部材との複合部材を形成する場合には、当該追加の部材を支持体として抄造を行ってよい。この場合、例えば抄紙機のワイヤー又は濾布として、当該支持体との組み合わせで、歩留まり割合及び水透過量に係わる要件を満足できる素材を選択できる。
【0167】
濃縮工程による脱水では、高固形分化が進行して、湿潤した成型体が得られる。湿潤した成型体の固形分率は、抄造のサクション圧(ウェットサクション又はドライサクション)又はプレス工程によって脱水の程度を制御し、好ましくは固形分濃度が6質量%以上50質量%以下、より好ましくは固形分濃度が8質量%以上45質量%以下の範囲に調整する。湿潤した成型体の固形分率が6質量%以上である場合、湿潤した成型体の自立性が良好で、工程上の問題を回避できる。また、湿潤した成型体の固形分率が50質量%以下である場合、湿潤した成型体においてクラックが生じ難く好ましい。
【0168】
また、ワイヤー又は金型中のメッシュ上で抄造を行い、湿潤した成型体中の水を有機溶媒への置換工程において有機溶媒に置換させ、乾燥させるという方法を用いると乾燥後に多孔質性の複合成型体となるため、複合成型体の透気抵抗度を制御できるとともに、例えば断熱性を付与することもできる。この方法の詳細については、本発明者らによる国際公開2006/004012号パンフレットに従う。
【0169】
バッチ式抄造における濾過時の濾水時間は、複合成型体の製造効率の観点から、例えば180秒以下であってよく、好ましくは120秒以下、より好ましくは60秒以下である。濾水時間は、高品質の複合成型体を得る観点から、例えば、1秒以上、又は3秒以上、又は5秒以上であってよい。濾水時間の評価は次のように実施する。80メッシュ相当の金属製メッシュをセットしたバッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン 25cm×25cm、80メッシュ)に、目付50g/m2の複合成型体を目安に調製したスラリーを投入し、その後大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄造(脱水)を実施する。この時の脱水に掛かる時間を濾水時間とし計測する。スラリーの濾水時間は、減圧度を増減することによって調整することも可能である。
【0170】
本実施形態に係る、厚み寸法が大きい複合成型体を良好に形成するためには、抄紙スラリーを固形分0.4質量%以上の濃度で調製することが有利である。
【0171】
なお、複合成型体と追加の部材との複合体を製造する場合において、当該追加の部材を支持体として用いる際には、例えば、ワイヤーをセットした抄紙機に当該支持体を載せて、抄造スラリー中の水の一部を該支持体上で脱水(抄造)し、該支持体上に、湿潤した成型体を積層させ、一体化させることにより、少なくとも2層以上の多層の複合成型体を有する多層化成型体を製造することができる。また、支持体上で2層以上の複合成型体を多段抄造して3層以上の多層成型体としてもよい。
【0172】
<固化工程>
本工程では、湿潤した成型体を少なくとも乾燥させて複合成型体を得る。乾燥は、ドラムドライヤー、ピンテンター等の方法で、湿潤した成型体の幅を定長とした状態で、液体媒体を乾燥し得るタイプの定長乾燥型の乾燥機を使用して行うことができる。この乾燥方法は、透気抵抗度の比較的高い複合成型体を形成するのに適している。乾燥温度は、条件に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは45℃以上180℃以下、より好ましくは60℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上120℃以下の範囲とすれば、好適に通気性のある複合成型体を製造することができる。なお、複合成型体の透気抵抗度は、スラリーを構成するセルロース微細繊維と有機フィラーの組成比、全体の目付、原液の分散方法、各種添加剤の配合条件、微細繊維の平均繊維径等でコントロールすることができる。乾燥温度は、乾燥効率の観点(特に液体媒体の蒸発速度を高くして良好な生産性を得る観点)から、好ましくは80℃以上、又は85℃以上、又は90℃以上であり、複合成型体を構成する親水性高分子(具体的にはセルロース微細繊維及びその他の成分)の熱変性の防止、コストに影響するエネルギー効率の低減防止、更に、反応性架橋剤を用いる場合には当該反応性架橋剤の反応防止の観点から、好ましくは、120℃以下、又は115℃以下、又は110℃以下である。例えば、まず100℃以下の温度での低温乾燥を行い、次いで100℃超の温度で乾燥する多段乾燥を実施することも、均一性の高い複合成型体を得るうえで有効である。例えば反応性架橋剤としてブロックポリイソシアネートを用いる場合、上記条件は好適である。
【0173】
一態様において、反応性架橋剤を用いる(例えば反応性架橋剤を含むスラリーを用いる)場合には、スラリー調製工程において、又は乾燥と同時に若しくは乾燥の後に、反応性架橋剤を反応させて、セルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間を架橋する。反応温度は、反応性架橋剤の種類に応じて選択すればよい。例えば、ブロックポリイソシアネートを用いる場合の反応温度は、ブロック基の脱離温度以上とする。ブロックポリイソシアネートは、ブロック基に応じた所定の脱離温度以上で加熱されるとブロック基を脱離させて遊離のイソシアネート基を生成し、該イソシアネート基は、系中の、活性水素を有する官能基(水酸基、アミド基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基等)と反応して共有結合を形成する。この共有結合は少なくともセルロース微細繊維の水酸基に対して3次元で形成されることができる。また有機フィラーが活性水素を有する官能基を有する場合には当該有機フィラーに対しても3次元の共有結合が形成される。このような共有結合の形成によって、複合成型体に良好な機械強度、耐水性及び耐溶剤性が付与されるとともに、ブロックポリイソシアネート及びこれに由来するポリイソシアネートの溶出(例えば水中又は溶剤中への溶出)が抑制される。
【0174】
ブロックポリイソシアネートを用いる場合の反応温度は、当該ブロックポリイソシアネートのブロック基の脱離温度以上に設定され、一態様において、130℃以上220℃以下、又は140℃以上210℃以下であってよい。脱離温度未満では、イソシアネート基が再生しないため架橋反応が進行しない。一方、220℃超ではセルロース微細繊維及びブロックポリイソシアネート、種類によっては有機フィラーの熱劣化が生じて着色する場合があるため、220℃以下が好ましい。反応時間は、好ましくは5秒以上10分以下であり、より好ましくは7秒以上3分以下である。反応温度がブロック基の脱離温度より十分に高い場合は、反応時間をより短くすることができる。一態様においては、固化工程において、乾燥を80℃以上120℃以下で行った後、反応を130℃以上220℃以下で行うことができる。
【0175】
典型的な態様において、ブロックポリイソシアネート由来構造(具体的には架橋体)は、複合成型体中で集合体として存在する。このような集合体は、ブロックポリイソシアネートとして例えば前述の水分散型ブロックポリイソシアネートを含むスラリーを用いて複合成型体を製造した際に顕著に形成される。集合体は、一態様において塗膜状にセルロース微細繊維上及び/又は有機フィラー上に形成されている。
【0176】
一態様においては、複合成型体中のセルロース微細繊維間、有機フィラー間、及び/又はセルロース微細繊維と有機フィラーとの間に、複合成型体の平面方向で均一に、架橋剤に由来する反応体が分布している。
【0177】
複合成型体において、親・疎水性は適切に制御されていてよい。複合成型体の親・疎水性は、例えば用途に応じた所定の目的のために親水性化合物又は疎水性化合物を複合成型体上に塗工したり、複合成型体を含浸させたりする際の、親水性化合物又は疎水性化合物の塗工量又は含浸量、及び塗工又は含浸の操作性に影響を与える。例えば、反応性架橋剤の種類及び添加量によって、複合成型体中の架橋(したがって疎水化)の程度は大きく異なり得ることから、反応性架橋剤の選択又は設計によって、複合成型体の親・疎水性を制御することが可能である。
【0178】
さらに、反応性架橋剤が反応し得る疎水的又は撥水的性質を有する化合物を添加したスラリーを用いて複合成型体を製造することも、乾湿強度比を向上させ、又は親・疎水性を制御する手段として有効である。疎水的又は撥水的性質を有する化合物としては、撥水加工剤又は撥水撥油加工剤として前述したような化合物を例示できる。
【0179】
親・疎水性は相対的な指標であるため、基準となる物質に対する比較によって評価できる。例えば、セルロース微細繊維及び有機フィラーのみで構成される複合成型体を基準物質として、反応性架橋剤及び各種機能化剤を添加した成型体の親・疎水性の判断をする。評価方法として、例えば、水滴の静的接触角測定が挙げられる。具体的には、4μLの蒸留水(20℃)をサンプル上に滴下し、着滴1秒後の静的接触角を自動接触角計(例えば、商品名:「DM-301」、共和界面化学株式会社製)で測定する。この時、静的接触角が小さいほど親水的、大きいほど疎水的といえる。また、水滴が吸液するのにかかる時間を測定する方法も挙げられる。4μLの蒸留水(20℃)をサンプル上に滴下し、液滴が吸水されるまでにかかる時間を測定する方法である。吸水される時間が長いほど疎水的と判断する。
【0180】
複合成型体を、構成する有機フィラーのガラス転移点以上の温度で加熱プレス装置により処理することで、複合体表面を平滑化しつつ複合成型体を高強度化することができる。有機フィラーがカット繊維であり鞘芯構造を有する場合、低融点の鞘部分を溶融させてカット繊維同士を融着することによっても高強度な複合成型体が得られる。
【0181】
<複合成型体の特性>
複合成型体の厚みは、一態様において100μm以上であり、好ましくは、150μm以上、又は200μm以上であってよく、一態様において10000μm以下であり、好ましくは5000μm以下、又は3000μm以下であってよい。なお複合成型体の厚みとは、複合成型体の代表的な部位における最小寸法を意図する。厚みは、(1)厚み計(例えばMitutoyo製のModel ID-C112XB)を用い、複合成型体上の異なる9点(より具体的には、複合成型体を9等分にエリア分けし、各エリアの中央、計9点について測定した厚みの数平均値であること、(2)但し、上記厚み計での計測ができない場合には以下の代替法によって得られる値であること、を意味する。代替法においては、複合成型体の表面上の1点を測定点として定め、当該測定点における複合成型体の最小差し渡し長さをノギスを用いて測定し、複合成型体表面の全域に亘り測定点を定めて求められる最小差し渡し長さのうちの最大値を、複合成型体の厚みとする。
【0182】
複合成型体の目付は、広範な用途への適用を可能にする点で、一態様において50g/m2以上であり、好ましくは、70g/m2以上、又は80g/m2以上、又は90g/m2以上であり、複合成型体の製造容易性の観点から、1000g/m2以下であり、好ましくは、700g/m2以下、又は500g/m2以下、又は400g/m2以下である。なお複合成型体の目付は、複合成型体の質量を、複合成型体の一方側(より具体的には、上記厚みの方向に複合成型体を投影視したときの表側)の総面積と逆側(より具体的には、上記投影視における裏側)の総面積との数平均値で除した値を意味する。したがって、複合成型体が複雑形状(各種部品形状等)を有する場合、目付値は便宜上の値となるが、当該目付は複合成型体全体の性状を表す指標となる。
【0183】
複合成型体の平均透気抵抗度は、複合成型体内の空隙を多くして、例えば複合成型体内への樹脂の含浸を容易にし、及び/又は樹脂をより多く含浸する観点から、一態様において、0.5秒/100mL以上、好ましくは、1.0秒/100mL以上、又は1.5秒/100mL以上であり、複合成型体内の構造の均一性を良好にして複合成型体内に樹脂を均一に含浸する観点から、一態様において、100000秒/100mL以下、又は60000秒/100mL以下、又は30000秒/100mL以下、又は10000秒/100mL以下、又は8000秒/100mL以下、又は3000秒/100mL以下である。平均透気抵抗度は、用いるセルロース微細繊維及び有機フィラーの平均短軸径の選択、平均短軸径の異なる複数種の有機フィラーの混合比の選択、スラリー調製工程において調製されるスラリー中の液体媒体の組成(有機溶剤の種類及び量)、スラリー中の界面活性剤の種類及び量、等によって制御できる。平均短軸径が小さいほど緻密な複合成型体が形成される傾向がある。反応性架橋剤を用いる場合には、当該反応性架橋剤の種類及び添加量によっても透気抵抗度を制御できる。
【0184】
本開示の透気抵抗度は、ガーレー式デンソメーター(例えば(株)東洋精機製、型式G-B2C)を用いて、100mLの空気の透過時間を測定した結果を意味する。平均透気抵抗度は、前述の厚みの測定と同様に選定される複合成型体上の異なる9点について上記いずれかの方法で求めた厚み方向の透気抵抗度の数平均値である。但し、平均透気抵抗度が1,000秒/100mLを超える透気抵抗度のサンプルについては、ガーレー式デンソメーターに代えて、王研式透気抵抗試験機(例えば旭精工(株)製、型式EG01)を用いた測定を室温(23℃)で行うものとする。透気抵抗度は、(1)測定装置規定のサイズ(200mm×200mm)のサンプルを用いて上記測定を行ったときの値であること、(2)但し、上記サイズのサンプルを確保できない複合成型体については、サンプルサイズを50mm×50mmとし、複合成型体上の異なる5点について上記いずれかの方法で得られる値であること、を意味する。複雑形状の複合成型体においては、当該成形体を構成する平坦部をハサミ等でカットして透気抵抗度を測定してもよい。
【0185】
複合成型体の透気抵抗度の標準偏差を平均透気抵抗度で除した値である透気抵抗度変動係数は、複合成型体内の構造の均一性が良好である点で、一態様において0.5以下、好ましくは、0.42以下、又は0.35以下、又は0.2以下である。透気抵抗度変動係数は小さい程好ましいが、複合成型体の製造容易性の観点から、例えば、0.01以上、又は0.015以上、又は0.02以上であってもよい。透気抵抗度変動係数は、上記方法で求められる9点の透気抵抗度の標準偏差を平均透気抵抗度で除した値である。
【0186】
複合成型体の引張強度は、複合成型体を独立の成型体として容易に取り扱うための物性を得る観点から、好ましくは、0.1kg/15mm以上、又は0.2kg/15mm以上、又は0.3kg/15mm以上であり、複合成型体の製造容易性の観点から、好ましくは、40kg/15mm以下、又は30kg/15mm以下、又は25kg/15mm以下である。引張強度は、長さ20cm×幅15mmに切り出した複合成型体について、JIS P 8113に準拠し、室温20℃、湿度50%RHに制御された環境下に24時間保管した後に測定される値(すなわち乾燥引張強度)である。
【0187】
複合成型体の湿潤引張強度は、その目付の大小に影響されるが、複合成型体を液体中で使用する用途でも使用時に破損し難い点で、好ましくは、0.07kg/15mm以上、又は0.21kg/15mm以上、又は0.35kg/15mm以上であり、製造容易性の観点から、好ましくは、30kg/15mm以下、又は25kg/15mm以下、又は20kg/15mm以下である。上記湿潤引張強度は、複合成型体を、該複合成型体を浸すのに十分な量の水を張った容器内に5分間浸漬した後、上記乾燥引張強度と同様の方法で測定したときの引張強度の値である。
【0188】
複合成型体の引張強度の乾湿強度比は、好ましくは0.4~1.2である。複合成型体を水等の液体中で使用する用途でも耐久性が良好な複合成型体を得る観点から、乾湿強度比は、好ましくは、0.4以上、又は0.5以上、又は0.6以上であり、複合成型体の他の特性を容易に維持する観点から、乾湿強度比は、好ましくは、1.2以下、又は1.1以下、又は1.0以下である。なお乾湿強度比は下記式にて算出される値である。
乾湿強度比(%)=(湿潤引張強度)/(乾燥引張強度)×100
【0189】
複合成型体は、典型的には単層であるが、互いに構成が同じ又は異なる複数層であってもよい。例えば、複合成型体の2つ以上を加圧プレス等によって一体化させてよい。
【0190】
複合成型体には高い弾性率を有するセルロース微細繊維が含まれる。したがって、複合成型体は、セルロース微細繊維の含有率に依存して、また複合成型体内部でセルロース微細繊維が形成するネットワーク構造に起因して、高い弾性率を有することができる。複合成型体の引張弾性率は、好ましくは0.05GPa以上、又は0.07GPa以上、又は0.1GPa以上であり、複合成型体のハンドリング性を維持する観点から4GPa以下、又は3GPa以下、又は2.5GPa以下である。複合成型体の引張弾性率は、縦型テンシロン測定装置を用い、幅15mm及び長さ125mmの長方形×全厚の短冊状に切り出したサンプルを、チャック間距離100mmにて固定して測定される。なお引張弾性率は、室温20℃、湿度50%RHに制御された環境下に24時間保管した後に測定される値(すなわち乾燥引張弾性率)である。
【0191】
また、複合成型体は小さい線熱膨張係数を有することができる。複合成型体の線熱膨張係数は、好ましくは、0.1ppm/℃以上、又は0.5ppm/℃以上であり、好ましくは、100ppm/℃以下、又は70ppm/℃以下、又は40ppm/℃以下である。線熱膨張係数は、熱機械分析(TMA)装置を用い、測定温度範囲-40℃~100℃で、ISO11359-2に準拠して測定し、0℃~60℃の間での平均の線熱膨張係数として得られる値である。複合成型体が凹凸を有する等平面形状でない場合(パルプモールド法による成型の場合等)には、平面形状サンプルよりも小さいサイズでも測定が可能であり、任意のサイズにて引張強度、引張弾性率、及び線熱膨張係数を測定することができる。
【0192】
なお、複合成型体が、その製造工程によって生じるMD方向及びTD方向を有する場合(例えば連続式抄造を経ている場合)には、その形状によらず、上記の引張強度、引張弾性率及び線熱膨張係数の数値範囲は、MD方向とTD方向との少なくとも一方が当該数値範囲を満たせばよい。MD方向及びTD方向を有する複合成型体においては、MD方向を長さ方向とするサンプルをMD方向の測定に用い、TD方向を長さ方向とするサンプルをTD方向の測定に用いる。一方、MD方向及びTD方向を有さない複合成型体においては、任意の方向に切り出したサンプルを測定に用いる。
【0193】
<複合成型体の用途>
本実施形態の複合成型体は、自動車用部品(例えば、外装材用としてのボンネット、ドア、ルーフ、トランクリッド、フロントフェンダー、リアフェンダー、フレーム向けのFRP用芯材、内装材用のルーフ用ヘッドライニング材、サンシェード材、エンジン用サイレンサー材、室内用サイレンサー材、吸音材、断熱材、放熱材等)の他、自動車以外のモビリティ用部材、通信用デバイス(携帯電話、タブレット端末、PC)用の筐体、家電用の筐体、音響製品用のスピーカーコーン、吸音材、断熱材、放熱材、各種フィルター、医療用材料等の広範な用途に好適に使用できる。本発明の一態様は、本開示の複合成型体で構成された、吸音材、エアフィルター、又は自動車部品材料を提供する。本開示の複合成型体は、例えば後述のように樹脂と更に組合されて、自動車部品等として好適な樹脂成型体を形成することもできる。
【0194】
例えば、本実施形態の複合成型体は、吸音材として使用した場合に、吸音率の周波数依存性を有し、特定周波数で比較的シャープな吸音ピークを示すため、特定の周波数域の吸音材として好適に使用できる。また、複合成型体を複数枚重ねて使用すると、厚みが大きくなるに従って吸音ピークが低周波側にシフトするが、この際に厚みを増大させても吸音率が低下しにくい傾向がある。したがって、本実施形態の複合成型体は、複数枚重ねて使用することにより、高い吸音率を保ちつつ目的の吸音周波数域を制御でき好ましい。
【0195】
本発明の一態様は、本実施形態の複合成型体の細断物(具体的には乾式粉砕物)である、繊維組成物を提供する。繊維組成物は、複合成型体を、スリッター又はシュレッダー等で、例えば、粒状、ペレット状、短冊状、シート断片状等にカットすることによって製造できる。一態様において、細断物は粒状物又はペレットであってよい。繊維組成物は、例えば幅1mm~300mm程度の短冊状又はシート断片状の形状であってもよい。このような繊維組成物は、例えば他の材料と混合(例えば溶融混練)することで各種部材を形成できる。
【0196】
<樹脂成型体>
本発明の一態様は、セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、本開示の繊維組成物と、樹脂とを混合して混合物を得る混合工程、及び該混合物を成型する成型工程、を含む方法を提供する。一態様においては、上記繊維組成物中の有機フィラー、及び上記樹脂が、それぞれ熱可塑性樹脂を含んでよく、上記混合工程において上記繊維組成物と上記樹脂とを溶融混合してよい。上記成型は、例えば、押出成型又は射出成型であってよく、成型条件は、用いる有機フィラー及び樹脂の種類、樹脂成型体の所望の特性等に応じて適宜設計してよい。
【0197】
本発明の一態様はまた、セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、本開示の方法で、セルロース微細繊維と有機フィラーとを含む複合成型体を形成する複合成型体形成工程、及び、該複合成型体に、樹脂を含浸、次いで固化させる成型工程、を含む方法を提供する。
【0198】
樹脂成型体の製造に用いる樹脂としては、熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル等)、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂等)等を使用できる。樹脂は必要に応じて硬化剤成分を含有していてもよい。セルロース微細繊維及び有機フィラーと樹脂との混合、次いで成型により、平板又は他の所望形状の部材の樹脂成型体に容易に成形でき、このような樹脂成型体は例えば自動車部品等の広範な用途に好適に適用できる。樹脂の種類と、有機フィラーを構成するポリマーの種類との組み合わせを適宜設計することにより、樹脂成型体の特性を制御してもよい。例えば、有機フィラーにアラミド繊維を用い、樹脂としてポリプロピレンを用いることで、高弾性率を有する複合成型体を形成できる。
【0199】
樹脂成型体において、複合成型体100質量部に対する樹脂の量は、所望の特性に応じて適宜選択できるが、例えば、10質量部以上、又は15質量部以上、又は20質量部以上であってよく、また例えば90質量部以下、又は85質量部以下、又は80質量部以下であってよい。
【0200】
複合成型体に樹脂を含浸、次いで固化する場合、所望形状の部材を形成する方法としては、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)の製法であるモールド成形を利用することができる。例えば、複合成型体を所望形状の型に沿って配置し、樹脂を脱泡しながら含浸する方法(ハンドレイアップ法及びスプレーアップ法)、含浸すべき樹脂のシートを予め作製し、当該シートと複合成型体とを金型内に重ねて圧縮成型する方法(SMCプレス法)、複合成型体を敷き詰めた合わせ型に樹脂を注入する方法(RTM法等のインジェクション成形)、オートクレーブで熱硬化性樹脂を硬化させて成形する方法、近年普及してきているオートクレーブを使用しない脱オートクレーブ成形法、等を適用できる。以下、例示の態様として、部材の所望の形状に応じたモールドを用いたモールド成形方法の例について説明する。
【0201】
モールド成形に先立ち、含浸用の樹脂(任意に添加剤成分と単軸混練機、二軸混練機等で混練されていてもよい。)を、流動状態(例えば、熱可塑性樹脂においては溶融物、溶液若しくは分散液の形態、又は熱硬化性樹脂若しくは光硬化性樹脂の未硬化物の形態)でモールドに供給する。次いで、樹脂を、溶媒除去(溶液又は分散液の場合)、冷却(熱可塑性樹脂の溶融物の場合)、又は硬化(熱硬化性又は光硬化性の樹脂の場合)によって固化する。固化の条件は用いる樹脂の種類等に応じて適宜設計すればよい。例えば減圧下での固化(例えば真空熱プレス等)は、複合成型体の内部への樹脂の良好な含浸の点で好ましい場合がある。
【0202】
含浸用の樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、当該樹脂の加熱溶融物を含浸した後、冷却固化させてよい。一態様においては、有機フィラーが熱可塑性樹脂を含み、含浸される樹脂が、有機フィラー中の熱可塑性樹脂よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂の熱溶融物である。
【0203】
また、含浸用の樹脂として熱硬化性又は光硬化性の樹脂を用いる場合、当該樹脂の未硬化物又は半硬化物を含浸してよい。例えば、含浸後固化前、又は含浸前に、未硬化物を一旦半硬化物まで硬化してよい。なお半硬化とは、流動性がなくなる程度に硬化しているがモールド形状に追従できる程度の可撓性はなお維持している状態を意味する。特に、樹脂未硬化物を複合成型体に含浸、次いで半硬化させることで形成されるプリプレグは、樹脂含浸成型体の製造時の取り扱い性の点で有利である。含浸後には、例えば型プレス等を用いて当該樹脂を硬化させて固化してよい。一態様においては、当該プリプレグを、好ましくは、20枚以下、又は15枚以下、又は12枚以下の範囲で積層してプレス成形した後に硬化反応を行うことにより、例えば最大で30mm厚みのような、厚みの大きい樹脂成型体を得ることができる。プリプレグの積層枚数が上記範囲であることは、欠陥発生抑制の観点で有利である。
【0204】
本発明の一態様はまた、セルロース微細繊維と樹脂とを含む樹脂成型体の製造方法であって、本開示の方法で、セルロース微細繊維と、熱可塑性樹脂を含む有機フィラーとを含む複合成型体を形成する複合成型体形成工程、及び、該複合成型体を、有機フィラー中の熱可塑性樹脂の融点以上の温度で成型する成型工程、を含む方法を提供する。この方法によれば、セルロース微細繊維間に有機フィラーの溶融物が含浸された後当該溶融物が固化されることで、有機フィラー由来の樹脂中にセルロース微細繊維が良好に分散してなる樹脂成型体を得ることができる。樹脂成型体中で有機フィラーはフィラー形状をなお保持していてもフィラー形状を保持していなくてもよい。この方法で樹脂成型体を製造する際には、複合成型体を、好ましくは、20枚以下、又は15枚以下、又は12枚以下の範囲で積層して成形することにより、例えば最大で15mm厚みのような、厚みの大きい樹脂成型体を得ることができる。複合成型体の積層枚数が上記範囲であることは、欠陥発生抑制の観点で有利である。成型方法は限定されないが、例えば所望形状の型を用いた溶融プレスは、上記方法による所望形状の樹脂成型体の製造が容易であり好適である。溶融プレスは、手動油圧真空加熱プレス装置、加熱式カレンダー装置等を用い、バッチ式又は連続式で行ってよい。成型工程は、有機フィラー中の熱可塑性樹脂の融点よりも、10℃~40℃、又は15℃~30℃、又は20℃程度、高い成型温度で行うことが好ましい。その後、熱可塑性樹脂を冷却固化することで、所望形状の樹脂成型体が得られる。冷却条件としては、溶融プレス後の樹脂成型体を金属板で挟んで空冷することが好ましい。
【0205】
一態様において、本実施形態の樹脂成型体は、本実施形態の複合成型体を骨格構造として有するとともに内部に樹脂を含浸している。これにより、樹脂成型体は、含浸される樹脂そのものと比較すると、より高い強度、より高い弾性率、及びより低い線熱膨張係数を有することができる。
【0206】
一態様において、樹脂そのものの引張強度に対する樹脂成型体の引張強度の比率は、好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.4以上であり、好ましくは、5以下、又は4以下、又は3以下である。
【0207】
一態様において、樹脂そのものの引張弾性率に対する樹脂成型体の引張弾性率の比率は、好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.4以上であり、好ましくは、8以下、又は6以下、又は5以下である。
【0208】
一態様において、樹脂そのものの線熱膨張係数に対する樹脂成型体の線熱膨張係数の比率は、好ましくは、70%以下、又は65%以下、又は60%以下であり、好ましくは、2%以上、又は4%以上、又は6%以上である。本実施形態の樹脂成型体の引張強度、引張弾性率、及び線熱膨張係数の測定方法は、それぞれ前述した本実施形態の複合成型体の引張強度、引張弾性率、及び線熱膨張係数の測定方法に準ずる。樹脂成型体が凹凸を有する等平面形状でない場合には、同等組成の平面形状の樹脂成型体を成型して引張強度、引張弾性率、及び線熱膨張係数を測定する。
【0209】
本発明の一態様は、複合成型体又は樹脂成型体と、追加の部材との複合体も提供する。例えば、複合体は、複合成型体又は樹脂成型体と、追加の部材としての有機高分子シート(以下、単に有機高分子シートともいう。)との積層体であってよい。このような積層体においては、有機高分子シートによって引張強度等の機械強度が更に強化されていてよい。有機高分子シートの材質は、特に規定されるものではないが、目的とする積層体の形状、硬さ、機械的性質、熱的性質(例えば、温度変化に対する寸法安定性等)、耐久性、耐水性、透気抵抗度等の要求性能、又は積層体の用途に応じて適宜選択される。一態様において、複合成型体又は樹脂成型体と追加の部材とがブロックポリイソシアネートによって化学的に架橋されていてもよい。この観点から好ましい追加の部材の材質としては、活性水素を有する官能基を有する材質、具体的には、セルロース、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸等が挙げられる。なお、活性水素を有する官能基を持たない材質(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル等)の場合は、コロナ放電処理、プラズマ処理等の表面活性化処理によって該官能基を導入可能である。複合体は、例えば、ブロックポリイソシアネートを含む複合成型体と、追加の部材とを積層した後、ブロックポリイソシアネートを前述の条件で架橋させて、複合成型体と追加の部材とがブロックポリイソシアネートの架橋体によって架橋されている複合体であってもよい。
【実施例
【0210】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、物性の主な測定値は以下の方法で測定した。
【0211】
<材料>
[セルロース微細繊維]
(スラリー製造例1:セルロース微細繊維スラリー1)
原料として日本紙パルプ商事(株)より入手した天然セルロースであるリンターパルプを用い、リンターパルプが4質量%となるように水に浸液させた。その後、オートクレーブ内で130℃、4時間の熱処理を行い、得られた膨潤パルプを複数回水洗し、水を含浸した状態の精製リンターパルプを得た。その後、得られた精製リンターパルプを固形分1.5質量%となるように水中に分散させて400Lの分散体を得た。ディスクレファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして、400Lの該水分散体を20分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで段階的に低減させた条件下で叩解処理を続けた。経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値を評価したところ、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった。さらに叩解処理を続けると、CSF値は増大していく傾向が確認された。クリアランスをゼロ近くとしてから10分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値が100ml以上の叩解スラリーを得た。得られた叩解水スラリーを、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NS015H)を用いて操作圧力100MPaにて5回微細化処理し、セルロース微細繊維スラリー1(固形分濃度:1.5質量%)を得た。セルロース微細繊維スラリー1に含まれるセルロース微細繊維の平均繊維径は98nmであった。
【0212】
(スラリー製造例2:セルロース微細繊維スラリー2)
双日(株)より入手した再生セルロース繊維であるテンセルカット糸(3mm長)を洗浄用ネットに入れて界面活性剤を加え、洗濯機で何度も水洗することにより、繊維表面の油剤を除去した。その後スラリー製造例1と同じ方法でセルロース微細繊維のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。セルロース微細繊維スラリー2に含まれるセルロース微細繊維の平均繊維径は390nmであった。
【0213】
(スラリー製造例3:セルロース微細繊維スラリー3)
高圧ホモジナイザーを用いた微細化処理を行わなかった以外はセルロース微細繊維スラリー1と同様にして、セルロース微細繊維のスラリーを得た。セルロース微細繊維スラリー3に含まれるセルロース微細繊維の平均繊維径は118nmであった。
【0214】
(スラリー比較製造例)
セルロース微細繊維スラリー1の製造例におけるディスクレファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとした叩解処理工程において、CSF値が減少していき600程度となったところで叩解処理を終了し、その他高圧ホモジナイザーを用いた微細化処理を行わなかった以外はセルロース微細繊維スラリー1と同様にして、セルロース繊維のスラリーを得た。セルロース繊維スラリーに含まれるセルロース繊維の平均繊維径は15000nmであった。
【0215】
[カット繊維]
(カット繊維1)
ポリエチレンテレフタラート製のカット繊維(3.0mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維1のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は3.0μmであった。
【0216】
(カット繊維2)
ポリエチレンテレフタラート製のカット繊維(3.0mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維2のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は10.0μmであった。
【0217】
(カット繊維3)
PA6製のカット繊維(5.0mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維3のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は11.0μmであった。
【0218】
(カット繊維4)
PA66製のカット繊維(3.0mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維4のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は11.0μmであった。
【0219】
(カット繊維5)
ポリプロピレン製のカット繊維(5.0mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維5のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は5.9μmであった。
【0220】
(カット繊維6)
ポリフェニレンスルフィド製のカット繊維(5.0mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維6のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は9.3μmであった。
【0221】
(カット繊維7)
ポリエチレン製のフィブリル化カット繊維(0.9mm長)を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、カット繊維7のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中のカット繊維の平均繊維径は8.0μmであった。
【0222】
[不定形粒子]
(不定形粒子1)
フェノール樹脂製の発泡体を粉砕して得た不定形粒子1を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、不定形粒子1のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中の不定形粒子1の平均短軸径は10.0μmであった。
【0223】
(不定形粒子2)
フェノール樹脂製の発泡体を粉砕して得た不定形粒子2を秤量し、水を加えて、家庭用ミキサーで4分間撹拌して、不定形粒子2のスラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。スラリー中の不定形粒子2の平均短軸径は50.0μmであった。
【0224】
<複合成型体の作製>
[実施例1]
セルロース微細繊維1及びカット繊維1を用い、以下の手順で複合成型体1を作製した。
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で10:90になるように混合し、固形分濃度0.8質量%まで水で希釈し、家庭用ミキサーで4分撹拌することで800gの抄紙スラリーを調製した。抄紙スラリー781.25gをスリーワンモーターで撹拌しながら、カチオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「メイカネートCX」、明成化学工業株式会社製、固形分濃度1.0質量%まで水で希釈)を3.75g滴下した後3分間撹拌を行い、抄紙スラリー(合計785g)を得た。添加したカチオン性ブロックポリイソシアネート質量比率は、セルロース微細繊維固形分質量に対して、3質量%であった。PET/ナイロン混紡製の平織物{敷島カンバス社製NT20、大気下25℃での水透過量:0.03ml/(cm2・s)、セルロース微細繊維を大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力あり}を支持体としてセットしたバッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン 25cm×25cm、80メッシュ)に目付115g/m2の複合成型体を目安に、上記調製した抄紙スラリーを投入し、その後、大気圧に対する減圧度を50KPaとして抄紙(脱水)を実施した。
【0225】
得られた濾布上に載った湿潤状態の濃縮組成物からなる湿紙を、ワイヤー上から剥がし、1kg/cm2の圧力で1分間プレスした。湿紙面をドラム面に接触させるようにして、湿紙/濾布の2層の状態で表面温度が130℃に設定されたドラムドライヤーに湿紙がドラム面に接触するようにして約120秒間乾燥させた。得られた乾燥した2層体のうち、複合成型体から濾布を剥離して、180℃に加熱したオーブンにて5分間熱処理を行い、白色の複合成型体S1(25cm×25cm、目付115g/m2)を得た。
【0226】
[実施例2]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S2(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
【0227】
[実施例3]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S3(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
【0228】
[実施例4]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーを固形分質量比で60:40になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S4(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
【0229】
複合成型体S4について、1枚で、又は、3枚、6枚若しくは10枚積層させた状態で、吸音率測定を行った。結果を図3に示す。図3に示すように、吸音率ピークはシャープな形状を有しており、ピークの吸音率の値が極めて高かった。また、シート状の複合成型体の積層枚数が増加するに伴い、吸音率ピークが低周波数側にシフトしたが、吸音率の低下は殆ど見られなかった。以上の結果より、複合成型体S4は特定の周波数域の吸音に適用可能であることが示された。
【0230】
[実施例5]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で80:20になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S5(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
[実施例6]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合し、固形分濃度1.25質量%のスラリーを1520g調製した他は実施例1と同様にして、複合成型体S6(25cm×25cm、目付310g/m2)を作製した。
【0231】
[実施例7]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S7(25cm×25cm、目付110g/m2)を作製した。
【0232】
[実施例8]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で60:40になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S8(25cm×25cm、目付110g/m2)を作製した。
【0233】
[実施例9]
スラリー製造例3のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S9(25cm×25cm、目付120g/m2)を作製した。
【0234】
複合成型体S9について、1枚で、又は、3枚、6枚若しくは10枚積層させた状態で、吸音率測定を行った。結果を図4に示す。図4に示すように、吸音率ピークは、複合成型体S4(実施例4)と同様、シャープな形状を有し、ピークの吸音率の値が高いもののS4よりは若干低かった。また、複合成型体S4と同様、シート状の複合成型体の積層枚数が増加するに伴い、吸音率ピークが低周波数側にシフトしたが、吸音率の低下は殆ど見られなかった。以上の結果より、複合成型体S9は特定の周波数域の吸音に適用可能であることが示された。
【0235】
[実施例10]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維2のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S10(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
【0236】
[実施例11]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維2のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S11(25cm×25cm、目付110g/m2)を作製した。
【0237】
[実施例12]
複合成型体S6を手動油圧真空加熱プレス装置により130℃、40kNで1分間処理することにより複合成型体S12(25cm×25cm、目付110g/m2)を作製した。
【0238】
[実施例13]
複合成型体S8を用いた以外は実施例12と同様にして複合成型体S13(25cm×25cm、目付110g/m2)を作製した。
【0239】
[実施例14]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維3のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合し、ブロックポリイソシアネートの添加と熱処理を行わなかった他は実施例1と同様にして、複合成型体S14(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0240】
[実施例15]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維3のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S15(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0241】
[実施例16]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維3のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S16(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0242】
[実施例17]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維3のスラリーとを固形分質量比で60:40になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S17(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0243】
[実施例18]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維4のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合した他は実施例1と同様にして、複合成型体S18(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0244】
[実施例19]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維5のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合し、ブロックイソシアネートの代わりに抄紙用分散剤(商品名「メイカサーフMK-37」、明成化学工業株式会社製、固形分濃度1.0質量%まで水で希釈)を添加(添加した抄紙用分散剤質量比率はセルロース微細繊維とカット繊維の合計固形分質量に対して、3質量%であった。)した他は実施例1と同様にして、複合成型体S19(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0245】
[実施例20]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維5のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合し、固形分濃度0.4質量%まで水で希釈した他は実施例19と同様にして、複合成型体S20(25cm×25cm、目付50g/m2)を作製した。
【0246】
[実施例21]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維6のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合した他は実施例19と同様にして、複合成型体S21(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0247】
[実施例22]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維7のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例19と同様にして、複合成型体S22(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
【0248】
[実施例23]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維7のスラリーとを固形分質量比で60:40になるように混合した他は実施例19と同様にして、複合成型体S23(25cm×25cm、目付115g/m2)を作製した。
【0249】
[実施例24]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維7のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合し、固形分濃度0.4質量%まで水で希釈した他は実施例19と同様にして、複合成型体S24(25cm×25cm、目付50g/m2)を作製した。
【0250】
[実施例25]
スラリー製造例2のスラリーと不定形粒子1のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合し、ブロックポリイソシアネートの添加と熱処理を行わなかった他は実施例1と同様にして、複合成型体S25(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0251】
[実施例26]
スラリー製造例2のスラリーと不定形粒子2のスラリーとを固形分質量比で40:60になるように混合し、ブロックポリイソシアネートの添加と熱処理を行わなかった他は実施例1と同様にして、複合成型体S26(25cm×25cm、目付100g/m2)を作製した。
【0252】
[実施例27]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合、固形分率0.8質量%となるように水で希釈し、タンク内でアジテータによる攪拌を行った後、均一混合処理のためにラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1.5mmとして、1200Lの該水分散体を15分間分散処理を行った。処理後の抄紙スラリーをタンク内でアジテータによる攪拌を行いながらカチオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「メイカネートCX」、前述、固形分濃度1.0質量%まで水で希釈)をセルロース微細繊維に対し3質量%となるように添加し、さらにアジテータによる攪拌を10分間続け、抄紙パート、脱水プレスパート、乾燥パートの各々独立したパートからなる抄紙及び乾燥プロセスによる長尺シートの作製を行った。
傾斜角2°に設定された幅0.65mの傾斜ワイヤー型連続抄紙装置(斉藤鉄工所(株)作製)を用いて、ポリマー製のワイヤー(日本フィルコン社製LTT-9FE)上に、予めポリエチレンテレフタラート製カット繊維/セルロース繊維の混抄紙(幅0.7m)(バインダー加工したもの)のロールを支持体として抄紙分散液投入部の手前に設置、連続的にワイヤー上に沿わせて、その上に上記で得た抄紙スラリーを65.4L/minの供給速度で供給し、抄紙速度を走行方向に7m/minとし、ウェットサクション(傾斜部)及びドライサクションを作動させて、連続式抄紙を実施した。抄紙後に連続的にポリエチレンテレフタラート製カット繊維からなる機能紙(幅0.7m)(熱溶融加工したもの)を合紙として複合成型体湿紙/支持体の上部から被せ、合紙/複合成型体湿紙/支持体の三層構造として金属ロールによる脱水処理を行い、三層構造のまま乾燥パートへ搬送した。乾燥パートでは、表面温度が100℃に設定されたドラムドライヤーで乾燥し、乾燥直後に上下の合紙及び支持体から複合成型体を剥離させることにより複合成型体の長尺品S27(約15m長)を作製した。
【0253】
[比較例1]
固形分濃度0.4質量%まで水で希釈した他は実施例20と同様にして、比較の複合成型体RS1(25cm×25cm、目付100g/m2)を得た。
【0254】
[比較例2]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で2:98になるように混合した他は実施例1と同様にして、比較の複合成型体RS2(25cm×25cm、目付115g/m2)を得た。
【0255】
[比較例3]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合し、固形分濃度0.36質量%まで水で希釈した他は実施例1と同様にして、比較の複合成型体RS3(25cm×25cm、目付45g/m2)を得た。
【0256】
[比較例4]
スラリー比較製造例のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で20:80になるように混合した他は実施例1と同様にして、比較の複合成型体RS4(25cm×25cm、目付115g/m2)を得た。
【0257】
[比較例5]
スラリー製造例1のスラリーとカット繊維1のスラリーとを固形分質量比で95:5になるように混合した他は実施例1と同様にして抄紙を実施したが、濾水が進行しなかったため比較の複合成型体RS5を得ることはできなかった。
【0258】
[比較例6]
抄紙用分散剤を添加しなかった他は実施例24と同様にして、比較の複合成型体RS6(25cm×25cm、目付50g/m2)を作製した。
【0259】
[比較例7]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維7のスラリーとを固形分質量比で10:90になるように混合した他は比較例6と同様にして、複合成型体RS7(25cm×25cm、目付50g/m2)を作製した。
【0260】
[比較例8]
カット繊維1を固形分率0.8質量%となるように水で希釈し、タンク内でアジテータによる攪拌を20分間行った。
傾斜角2°に設定された幅0.65mの傾斜ワイヤー型連続抄紙装置(斉藤鉄工所(株)製)を用いて、ポリマー製のワイヤー(日本フィルコン社製LTT-9FE)上に、上記で得た抄紙スラリーを65.4L/minの供給速度で供給し、抄紙速度を走行方向に7m/minとし、ウェットサクション(傾斜部)及びドライサクションを作動させて、連続式抄紙を実施した。抄紙後に金属ロールによる脱水処理を行い、得られたシートを乾燥パートへ搬送した。乾燥パートでは、表面温度が100℃に設定されたドラムドライヤーでシートを乾燥し、長尺品RS8(約15m長)を作製した。
【0261】
複合成型体中のセルロース微細繊維とカット繊維の組成比は、ミキサーによって複合成型体を水中に強分散した後静置することで比重差により分離し、各繊維の乾燥後重量を秤量することで特定した。なお架橋剤量は、繊維成分の歩留まり率を100%と想定し、複合成型体総重量から繊維成分の重量を差し引いた値として見積もることができる。
【0262】
<樹脂成型体の作製>
[実施例28]
複合成型体S22を10cm角に切り出し、これを両面から、複合成型体S22に近い側から順に、ポリエチレンテレフタラート製のフィルム、鏡面SUS板、厚紙、及び鉄板で挟み、手動油圧真空加熱プレス装置にて、真空下、180℃、80kNで30分間プレス処理を行った。熱プレス後、サンプルを上記のプレス装置から取り出し、もう一台のプレス装置で10kNに加圧したまま20分かけて室温まで冷却した。冷却されたサンプルをポリエチレンテレフタラートのフィルムから剥離し、透明性の高い樹脂成型体S28(厚み100μm)を得た。樹脂成型体S28の0~60℃における線熱膨張係数を測定したところ、86ppm/℃であり、ポリエチレンフィルム単体の線熱膨張係数(後述の比較例9)の53%まで低減されていた。
【0263】
[実施例29]
複合成型体S27を10cm角に切り出し、これを両面から、50μm厚のポリプロピレンフィルムの片面4枚ずつで挟み、さらにこれを両面から、複合成型体S27に近い側から順に、ポリエチレンテレフタラート製のフィルム、鏡面SUS板、厚紙、及び鉄板で挟み、手動油圧真空加熱プレス装置にて、真空下、180℃、80kNで30分間プレス処理を行った。熱プレス後、サンプルを上記のプレス装置から取り出し、もう一台のプレス装置で10kNに加圧したまま20分かけて室温まで冷却した。冷却されたサンプルをポリエチレンテレフタラートのフィルムから剥離し、樹脂成型体S29(厚み400μm)を得た。樹脂成型体S29の0~60℃における線熱膨張係数を測定したところ、49ppm/℃であり、ポリプロピレンフィルム単体の線熱膨張係数(後述の比較例10)の58%まで低減されていた。
【0264】
[実施例30]
複合成型体S27を10cm角に切り出し、ポリエチレンテレフタラート製のフィルム上で、イミダゾール系の硬化剤を含むビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂のワニスをバーコーターにより塗工、複合成型体S27に含浸させ、120℃に加熱したオーブンで15分間処理した。得られた微硬化後のフィルム(厚み450μm)をポリエチレンテレフタラートのフィルムから剥離し、微硬化後のエポキシ樹脂複合フィルムを両面から、新しいポリエチレンテレフタラート製のフィルム、及び金属板で挟み、手動油圧真空加熱プレス装置にて、真空下、120℃、30kNで10分間プレス処理した。この後、50kNで加圧したまま10分間かけて190℃まで昇温した。190℃に到達した後60分間、50kNで加圧し続けた。この後サンプルを上記のプレス装置から取り出し、室温まで冷却した後、ポリエチレンテレフタラートのフィルムから剥離し、樹脂成型体S30(厚み400μm)を得た。樹脂成型体S30の0~60℃における線熱膨張係数を測定したところ、25ppm/℃であり、エポキシ樹脂フィルム単体の線熱膨張係数(後述の比較例11)の19%まで低減されていた。
【0265】
[比較例9]
スラリー製造例2のスラリーとカット繊維7のスラリーとの混合物に代えてカット繊維7のスラリーのみを用いた他は実施例22と同様の手順で成型体を作製し、当該成型体から実施例28と同様の手順でポリエチレンフィルムを作製した。得られたポリエチレンフィルム(厚み100μm)の0~60℃における線熱膨張係数を測定したところ、161ppm/℃であった。
【0266】
[比較例10]
実施例29で使用したのと同じポリプロピレンフィルム(厚み400μm)の0~60℃における線熱膨張係数を測定したところ、84ppm/℃であった。
【0267】
[比較例11]
ポリエチレンテレフタラート製のフィルム上で、実施例30で使用したのと同じエポキシ樹脂のワニスをバーコーターにより塗工し、120℃に加熱したオーブンで15分間処理し、更に、得られた微硬化後のフィルム(厚み450μm)をポリエチレンテレフタラートのフィルムから剥離し、微硬化後のエポキシ樹脂フィルムを両面から、新しいポリエチレンテレフタラート製のフィルム、及び金属板で挟み、手動油圧真空加熱プレス装置にて、真空下、120℃、30kNで10分間プレス処理した。この後、50kNで加圧したまま10分間かけて190℃まで昇温した。190℃に到達した後60分間、50kNで加圧し続けた。この後サンプルを上記のプレス装置から取り出し、室温まで冷却した後、ポリエチレンテレフタラートのフィルムから剥離して得たフィルム(厚み400μm)の0~60℃における線熱膨張係数を測定したところ、130ppm/℃であった。
【0268】
≪性能評価≫
<セルロース微細繊維>
[平均繊維径]
セルロース微細繊維スラリー中の水を段階的にtert-ブタノールに置換して得た分散液から濾過法により湿紙シートを作製、乾燥し、繊維径評価用サンプルを得た。該繊維径評価用サンプルの表面に関して、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を、微細繊維の平均繊維径に応じて10000~100000倍相当の倍率で行った。得られたSEM画像から、個々の繊維の繊維径を計測し、数平均値を平均繊維径とした。
【0269】
<カット繊維>
[平均繊維径及び平均繊維長]
カット繊維の水分散液から濾過法により湿紙シートを作製、乾燥し、繊維径評価用サンプルを得た。該繊維径評価用サンプルの表面に関して、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を、繊維の平均繊維径及び平均繊維長に応じて250~2000倍相当の倍率で行った。得られたSEM画像から、個々の繊維の繊維径及び繊維長を計測し、20個の数平均値を平均繊維径及び平均繊維長とした。
【0270】
<不定形粒子>
[平均短軸径及び平均長軸径]
不定形粒子の水分散液から濾過法により湿紙シートを作製、乾燥し、粒径評価用サンプルを得た。該粒径評価用サンプルの表面に関して、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を、粒子の平均短軸径及び平均長軸径に応じて250~2000倍相当の倍率で行った。得られたSEM画像から、個々の粒子の短軸径及び長軸径を計測し、20個の数平均値を平均短軸径及び平均長軸径とした。
【0271】
<複合成型体>
[厚み]
室温20℃、湿度50%RHの雰囲気下で調湿したサンプルについて、ハイブリッジ製作所製のオートマティックマイクロメーターで9点厚みを測定し、その数平均値を該サンプルの厚みとした。
【0272】
[目付]
シートの目付は、JIS P 8124に準じて算出した。
【0273】
[引張強度]
複合成型体から長さ200mm、幅15mmに切り出したサンプル2点を用いた。実施例27及び比較例8(すなわち連続式抄造例)の各々については、長さ方向がMD方向であるサンプル2点及び長さ方向がTD方向であるサンプル2点を切り出した。その他の例(すなわちバッチ式抄造例)の各々については、任意に選んだ一方向を長さ方向としてサンプル2点を切り出した。まず、乾燥時引張強度を、JIS P 8113にて定義される方法に従い、熊谷理機工業(株)の卓上型横型引張試験機(No.2000)を用いて測定し、2点のサンプルの数平均値を乾燥強度(kg/15mm)とした。
【0274】
[透気抵抗度及びその変動係数]
20cm×20cmの複合成型体を、室温23℃、湿度50%RHの雰囲気下で調湿した。調湿したサンプルはガーレー式デンソメーター((株)東洋精機製、型式G-B2C)又は王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)で、直径2.5cmの円を測定領域として透気抵抗度を9点測定し、その数平均値を該サンプルの透気抵抗度(平均透気抵抗度)とした。また、透気抵抗度の標準偏差を前記平均透気抵抗度で除して、透気抵抗度の変動係数を算出した。
【0275】
[空孔率]
セルロース微細繊維と有機フィラーとを質量比でX(%):Y(%)で含有する複合成型体の空孔率はセルロース微細繊維の密度を1.5g/cm3と仮定し下記式より算出した。
空孔率(%)=100-([目付(g/m2)/{複合成型体の厚み(μm)×(1.5(g/cm3)×X/100+有機フィラーの比重(g/cm3)×Y/100)}]×100)
【0276】
[剥離性]
乾燥した複合成型体の濾布からの剥離性について目視判定を行い、剥離性が良好なものを「〇」、中程度のものを「△」、不良なものを「×」とした。
【0277】
[地合い]
得られた複合成型体の地合いについて目視判定を行い、地合いが良好なものを「〇」、中程度のものを「△」、不良なものを「×」とした。
結果を表1~3に示す。
【0278】
[吸音率]
複合成型体サンプルより16.5mm径の円形ディスクを切り出し、日本音響エンジニアリング製垂直入射吸音率測定システムWinzac-MTXを用いて、15mm管(有効周波数:400~12000Hz)条件で測定を行った。緩支持ホルダーを使用し、背後空気層0(無)で複合成型体を1枚で又は複数枚積層させた状態で測定した。
【0279】
[線熱膨張係数]
得られた樹脂成型体を80℃で24時間加熱処理した後、任意に選んだ方向にて幅3mm×長さ25mmに切断し、測定サンプルとした。熱機械分析(TMA)装置(TAインスツルメント製 Q400-EM)を用いて、引っ張りモードでチャック間8mm、荷重0.05N、窒素雰囲気下で-40℃から100℃まで5℃/min.で昇温したときの0~60℃の間の平均の線熱膨張係数を求めた。
【0280】
【表1】
【0281】
【表2】
【0282】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0283】
本発明に係る複合成型体は、繊維強化樹脂用の芯材や吸音材等として好適に適用され得る。
図1
図2
図3
図4