(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/076 20060101AFI20240730BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C01B21/076 Z
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2020162004
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】四山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】相場 直幸
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222559(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124100(WO,A1)
【文献】特開2019-112275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/076
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法により測定される比表面積が
100m
2
/g以上かつ200m
2/g以下であって、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークのみを有するか、又は窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有さず、かつ粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、360nmの光透過率Xが少なくとも
34%であり、550nmの光透過率Yが20%以下であって、前記550nmの光透過率Yに対する前記360nmの光透過率Xの比(X/Y)が1.8以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末。
【請求項2】
二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、二酸化ジルコニウムに対する金属マグネシウムのモル比(金属Mg/ZrO
2)で2~6の割合で、二酸化ジルコニウムに対する酸化マグネシウムのモル比(MgO/ZrO
2)で0.3~3の割合で混合して混合物を得た後、前記混合物を窒素ガスとアルゴン、ヘリウム又はネオンの不活性ガスと酸素ガスとを混合した第1反応ガスの雰囲気下、700℃~800℃の温度で一次焼成し、次いで雰囲気をアンモニアガス又は窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガスの第2反応ガスの雰囲気に変えて、この雰囲気下、前記一次焼成温度より高い750℃~900℃の温度で二次焼成することにより、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元して、請求項1記載の窒化ジルコニウム粉末を製造することを特徴とする窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記第1反応ガス中、窒素ガスを50体積%~99体積%と酸素ガスを0.5体積%~5体積%それぞれ含み、前記第2反応ガス中、窒素ガスを10体積%~70体積%含む請求項2記載の窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の窒化ジルコニウム粉末が黒色顔料であって、前記窒化ジルコニウム粉末と分散剤と溶剤とを含む黒色顔料分散液。
【請求項5】
請求項4記載の黒色顔料分散液と感光性樹脂とを含む黒色感光性液組成物。
【請求項6】
請求項5記載の黒色感光性液組成物を用いて紫外線硬化型の黒色パターニング膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の黒色顔料として好適に用いられる窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法に関する。更に詳しくは、黒色顔料としての窒化ジルコニウム粉末を分散剤と溶剤に分散したときの黒色顔料分散液の分散性に優れ、窒化ジルコニウム粉末が沈降しにくく、かつ黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成するとともに形成したパターニング膜が高い遮光性能を有する窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁性の黒色顔料であって窒化ジルコニウムを含むものとして、X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10~60m2/gであることを特徴とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体が開示されている(特許文献1(請求項1、請求項2、段落[0015]、段落[0016])参照。)。この微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、二酸化ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムと、酸化マグネシウムと、金属マグネシウムとの混合物を、窒素ガス又は窒素ガスを含む不活性ガス気流中、650~800℃で焼成する工程を経て製造される。上記微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色系で電気伝導性の低い微粒子材料として使用でき、カーボンブラックなどが使用されているテレビなどのディスプレイ用のブラックマトリクスなどへ、より電気伝導性の低い微粒子黒色顔料として使用することができるとされ、また上記製造方法によれば、上記微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を工業的規模で製造(量産)することができるとされている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に示される微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色顔料として用いる場合、より高い遮光性を得るために顔料濃度を高くして黒色感光性組成物を調製し、この組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィー法でフォトレジスト膜に露光して黒色パターニング膜を形成するときにフォトレジスト膜中の黒色顔料が紫外線であるi線(波長365nm)も遮蔽してしまうため、紫外線がフォトレジスト膜の底部まで届かず、底部にアンダーカットが発生し、高解像度のパターニング膜を形成することができない課題があった。
【0004】
この課題を解決するため、本出願人は、この種の窒化ジルコニウム粉末として、BET法により測定される比表面積が20~90m2/gであり、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有さず、かつ粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも18%であり、550nmの光透過率Yが12%以下であって、前記550nmの光透過率Yに対する前記370nmの光透過率Xの比(X/Y)が2.5以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末を提案した(特許文献2(請求項1、請求項3,段落[0016]、段落[0040])参照。)。特許文献2には、窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が20m2/g未満では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降し易く、90m2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足する不具合がある旨が記載されている。
【0005】
特許文献2の窒化ジルコニウム粉末は、二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、窒化マグネシウム粉末とを、金属マグネシウムが二酸化ジルコニウムの2.0~6.0倍モルの割合になるように、かつ窒化マグネシウムが二酸化ジルコニウムの0.3~3.0倍モルの割合になるように混合して混合物を得た後、前記混合物を窒素ガス単独、又は窒素ガスと水素ガスの混合ガス、又は窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスの雰囲気下、650~900℃の温度で焼成することにより、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元して、製造される。
【0006】
また本出願人は、ジルコニウム、窒素及び酸素を主成分とし、ジルコニウム濃度が73~82質量%、窒素濃度が7~12質量%、酸素濃度が15質量%以下であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも12%であり、550nmの光透過率Yが12%以下であって、前記370nmの光透過率Xに対する前記550nmの光透過率Yの比(X/Y)が1.4以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末を提案した(特許文献3(請求項1、請求項2、段落[0013]、段落[0031])参照。)。特許文献3には、この窒化ジルコニウム粉末が、BET値より測定される比表面積が15~70m2/gであることが好ましく、窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が15m2/g未満では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降し易く、70m2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足し易い旨が記載されている。
【0007】
特許文献3の窒化ジルコニウム粉末は、二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、金属マグネシウムが酸化ジルコニウム粉末の2.0~6.0倍モルの割合になるように混合し、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下で650~900℃の温度で焼成するか、或いは不活性ガス雰囲気に続いて窒素ガス単体の雰囲気下でそれぞれ650~900℃の温度で焼成することにより、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元して、製造される。特許文献3には、この窒化ジルコニウム粉末が、BET値より測定される比表面積が15~70m2/gであることが好ましく、窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が15m2/g未満では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降し易く、70m2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足し易い旨が記載されている。
【0008】
特許文献2及び特許文献3に示される窒化ジルコニウム粉末は、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜は高い遮光性能を有する特長がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-091205号公報
【文献】特開2017-222559号公報
【文献】特開2018-203599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に示される微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は比表面積が10m2/g~60m2/gであるため、また特許文献2又は特許文献3に示される窒化ジルコニウム粉末は、BET法により測定される比表面積が20~90m2/g又は15~70m2/gであるため、粒子径がそれぞれ比較的大きいため、黒色顔料としての窒化ジルコニウム粉末を、分散剤と溶剤とに分散させた黒色顔料分散液において、窒化ジルコニウム粉末が分散液中で沈降し易い課題があった。
【0011】
特許文献2の方法で、二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、窒化マグネシウム粉末とを所定の割合で混合して混合物を得た後、前記混合物を窒素ガス単独、又は窒素ガスと水素ガスの混合ガス、又は窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスの雰囲気下、650~900℃の温度で焼成した場合には、特許文献1と同様に窒化ジルコニウム粉末が分散液中で沈降し易い課題があった。
【0012】
また特許文献3の方法で、二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを所定の割合で混合し、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下で650~900℃の温度で焼成するか、或いは不活性ガス雰囲気に続いて窒素ガス単体の雰囲気下でそれぞれ650~900℃の温度で焼成した場合も窒化ジルコニウム粉末が分散液中で沈降し易い課題があった。
【0013】
本発明の目的は、黒色顔料としての窒化ジルコニウム粉末を分散剤と溶剤に分散したときの黒色顔料分散液の分散性に優れ、窒化ジルコニウム粉末が沈降しにくく、かつ黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成するとともに形成したパターニング膜が高い遮光性能を有する窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明者らは、窒化ジルコニウム粉末のX線回折プロファイルにおいて、二酸化ジルコニウムや低次酸化ジルコニウムや低次酸窒化ジルコニウムのピークが微量でも存在すると、この粉末の遮光性能が著しく低下するため、この粉末を黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成することができず、しかも形成したパターニング膜の遮光性能が低下すること、及びこの粉末の比表面積を大きくすると、粉末の分散液にしたときに粉末が更に沈降しにくくなり、窒化ジルコニウム粉末の比表面積が90m2/g又は70m2/gを超えても200m2/g以下であれば、窒化ジルコニウム単独又は窒化ジルコニウムと金属ジルコニウムのみが存在することから、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足しないことを知見し、本発明に到達した。
【0015】
本発明の第1の観点は、BET法により測定される比表面積が100m
2
/g以上かつ200m2/g以下であって、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークのみを有するか、又は窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有さず、かつ粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、360nmの光透過率Xが少なくとも34%であり、550nmの光透過率Yが20%以下であって、前記550nmの光透過率Yに対する前記360nmの光透過率Xの比(X/Y)が1.8以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末である。
【0016】
本発明の第2の観点は、二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、二酸化ジルコニウムに対する金属マグネシウムのモル比(金属Mg/ZrO2)で2~6の割合で、二酸化ジルコニウムに対する酸化マグネシウムのモル比(MgO/ZrO2)で0.3~3の割合で混合して混合物を得た後、前記混合物を窒素ガスとアルゴン、ヘリウム又はネオンの不活性ガスと酸素ガスとを混合した第1反応ガスの雰囲気下、700℃~800℃の温度で一次焼成し、次いで雰囲気をアンモニアガス又は窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガスの第2反応ガスの雰囲気に変えて、この雰囲気下、前記一次焼成温度より高い750℃~900℃の温度で二次焼成することにより、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元して、第1の観点の窒化ジルコニウム粉末を製造することを特徴とする窒化ジルコニウム粉末の製造方法である。
【0017】
本発明の第3の観点は、第2の観点に基づく発明であって、前記第1反応ガス中、窒素ガスを50体積%~99体積%と酸素ガスを0.5体積%~5体積%それぞれ含み、前記第2反応ガス中、窒素ガスを10体積%~70体積%含む窒化ジルコニウム粉末の製造方法である。
【0018】
本発明の第4の観点は、第1の観点の窒化ジルコニウム粉末が黒色顔料であって、前記窒化ジルコニウム粉末と分散剤と溶剤とを含む黒色顔料分散液である。
【0019】
本発明の第5の観点は、第4の観点の黒色顔料分散液と感光性樹脂とを含む黒色感光性液組成物である。
【0020】
本発明の第6の観点は、第5の観点の黒色感光性液組成物を用いて紫外線硬化型の黒色パターニング膜を形成する方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の観点の窒化ジルコニウム粉末は、比表面積が100m
2
/g以上かつ200m2/g以下であるため、レジストとした場合の沈降抑制効果がより高まり、また特許文献1及び2記載の窒化ジルコニウム粉末の比表面積より大きくても、窒化ジルコニウム単独又は窒化ジルコニウムと金属ジルコニウムのみが存在するという理由で、十分な遮光性を有する効果がある。すなわち、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークのみを有するか、又は窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しないため、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、360nmの光透過率Xが少なくとも34%であり、550nmの光透過率Yが20%以下である特徴を有し、またX/Yが1.8以上である特徴を有する。X/Yが1.8以上であることにより、紫外線をより一層透過する特長がある。この結果、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜は高い遮光性能を有するようになる。比表面積が200m2/gを超えると、窒化ジルコニウム単独であっても、粒子の隠蔽性が小さくなるため、遮光性が低下する。
【0022】
本発明の第2の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法では、ZrO2、金属Mg及びMgOの混合物を第1反応ガスの雰囲気下(N2ガス、Ar等の不活性ガス、O2ガス)で所定の温度で一次焼成すると、下記式(1)の反応が行われる。この反応中、微量のAr等の不活性ガスとO2ガスが存在するため、窒化反応が抑制され、ZrNの他に、ZrとZrON(酸窒化ジルコニウム)の微粒子が生成する。
ZrO2+1/2N2+2Mg→ZrN+2MgO (1)
次に、第2反応ガスの雰囲気下(NH3ガス又はNH3ガスとN2ガスの混合ガス)で所定の温度で二次焼成すると、ZrとZrONの微粒子が窒化され、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しない、比表面積が90m2/gを超えかつ200m2/g以下の微粒子の第1の観点のZrNが製造される。
【0023】
本発明の第3の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法によれば、第1反応ガス中に窒素ガスを50体積%~99体積%と酸素ガスを0.5体積%~5体積%それぞれ含ませ、第2反応ガス中に窒素ガスを10体積%~70体積%含ませることにより、還元反応が更により一層促進され、反応効率がより一層高まって、少ない金属マグネシウム量でも二酸化ジルコニウム、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークのない、窒化ジルコニウム粉末のみを製造することができる。
【0024】
本発明の第4の黒色顔料分散液によれば、窒化ジルコニウム粉末が分散液中で沈降しにくく、製造してから品質が低下せずに使用することができる期間(可使期間)が長い特長がある。
【0025】
本発明の第5の観点の黒色感光性組成物によれば、黒色顔料として窒化ジルコニウム粉末のみであるため、この組成物を用いて黒色パターニング膜を形成すれば、高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜が高い遮光性能を有するようになる。
【0026】
本発明の第6の観点の黒色パターニング膜の形成方法によれば、高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜が高い遮光性能を有するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態の窒化ジルコニウム粉末を製造するフロー図である。
【
図2】本発明の実施例1で得られた窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する窒化ジルコニウム粉末のX線回折プロファイルである。
【
図3】本発明の実施例5で得られた窒化ジルコニウムのピークのみを有する窒化ジルコニウム粉末のX線回折プロファイルである。
【
図4】比較例1で得られた窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークの他に二酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有する微粒子低次酸窒化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0029】
〔ZrO
2、金属Mg及びMgOを出発原料として焼成によりZrNを製造する方法〕
本発明の第1の実施形態は、
図1に示すように、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)粉末11、金属マグネシウム(金属Mg)粉末12及び酸化マグネシウム(MgO)粉末13を出発原料として用い、特定の雰囲気下、特定の温度と時間で焼成することにより、BET法により測定される比表面積が90m
2/gを超えかつ200m
2/g以下である窒化ジルコニウム(ZrN)粉末14を製造する方法である。
【0030】
[二酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末]
本実施形態の二酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末としては、例えば、単斜晶系二酸化ジルコニウム、立方晶系二酸化ジルコニウム、イットリウム安定化二酸化ジルコニウム等の二酸化ジルコニウムの粉末がいずれも使用可能であるが、窒化ジルコニウム粉末の生成率が高くなる観点から、単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末が好ましい。
【0031】
[金属マグネシウム(金属Mg)粉末]
金属マグネシウム(金属Mg)粉末は、粒径が小さすぎると、反応が急激に進行して操作上危険性が高くなるので、粒径が篩のメッシュパスで100~1000μmの粒状のものが好ましく、特に200~500μmの粒状のものが好ましい。ただし、金属マグネシウムは、すべて上記粒径範囲内になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上が上記範囲内にあればよい。
【0032】
〔ZrO
2粉末、金属Mg粉末及びMgO粉末の混合〕
図1に示すように、ZrO
2粉末11、金属Mg粉末12及びMgO粉末13を混合する。二酸化ジルコニウム粉末に対する金属マグネシウム粉末の添加量の多寡は、後述する雰囲気ガス中のアンモニアガス及び窒素ガスの量とともに二酸化ジルコニウムの還元反応に影響を与える。金属マグネシウムの量が少なすぎると、還元不足で目的とする窒化ジルコニウム粉末が得られにくくなり、多すぎると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こす恐れがあるとともに不経済となる。金属マグネシウム粉末を、二酸化ジルコニウム粉末に対する金属マグネシウム粉末のモル比(金属Mg/ZrO
2)で、その粒径の大きさによって、2~6の割合になるように、二酸化ジルコニウム粉末に添加して混合する。モル比が2未満では、二酸化ジルコニウムの還元が不足し、モル比が6を超えると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こす恐れがあるとともに不経済となる。好ましいモル比は3~5である。
【0033】
酸化マグネシウム粉末は、焼成時に金属マグネシウムの還元力を緩和して、窒化ジルコニウム粉末の焼結及び粒成長を防止する。酸化マグネシウム粉末は、その粒子径の大きさによって、二酸化ジルコニウムに対する酸化マグネシウムのモル比(MgO/ZrO2)で、0.3~3の割合になるように、二酸化ジルコニウムに添加して混合する。モル比が0.3未満では窒化ジルコニウム粉末の焼結防止にならず、モル比が3を超えると、焼成後の酸洗浄時に要する酸性溶液の使用量が増加する不具合がある。好ましいモル比は0.4~2である。酸化マグネシウム粉末は、比表面積の測定値から球形換算した平均一次粒子径1000nm以下であることが好ましく、粉末の取扱い易さから、平均一次粒子径500nm以下で10nm以上であることが好ましい。
上記モル比で、金属マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末は、それぞれ別々に、或いは同時に二酸化ジルコニウム粉末に混合する。
【0034】
〔第1反応ガス雰囲気下での一次焼成〕
図1に示すように、続いて、一次焼成を行う。一次焼成は、モル比(金属Mg/ZrO
2)で2~6の割合で、モル比(MgO/ZrO
2)で0.3~3の割合で、二酸化ジルコニウム粉末と金属マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末を混合した混合物を窒素ガスとアルゴン、ヘリウム又はネオンの不活性ガスと酸素ガスとを混合した第1反応ガスの雰囲気下、700℃~800℃の温度で、行う。この一次焼成により、下記式(1)の反応が行われる。
ZrO
2+1/2N
2+2Mg→ZrN+2MgO (1)
この反応中、微量のAr等の不活性ガスとO
2ガスが存在するため、窒化反応が抑制され、ZrNの他に、ZrとZrONの微粒子が生成する。一次焼成温度が700℃未満では、金属マグネシウムの溶融しにくく、また二酸化ジルコニウムの還元反応が十分に生じない。また、温度が800℃を超えると、粒子の焼結が進行し好ましくない。一次焼成温度は700℃~750℃が好ましい。また一次焼成時間は30分~90分が好ましく、30分~60分が更に好ましい。
【0035】
〔第2反応ガス雰囲気下での二次焼成〕
次に、
図1に示すように、二次焼成を行う。二次焼成は、雰囲気をアンモニアガス又は窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガスの第2反応ガスの雰囲気に変えて、この雰囲気下、一次焼成温度より高い750℃~900℃の温度で、行う。これにより、ZrとZrONの微粒子が窒化され、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しない、比表面積が90m
2/gを超えかつ200m
2/g以下の微粒子の第1の観点の窒化ジルコニウム粉末(ZrN)14(
図1参照。)が製造される。
雰囲気をアンモニアガス又は窒素ガスとアンモニアガスとの混合ガスの第2反応ガスの雰囲気に変えるのは、アンモニアガスがより低温での還元反応を促進する効果があるためである。また二次焼成温度を一次焼成温度より高くするのは、確実に窒化反応を進め、酸窒化ジルコニウムをなくすことに有効であるためである。二次焼成温度が750℃未満では、窒化反応が十分に進行しない不具合を生じる。また、温度が900℃を超えると、粒子の焼結が進行し好ましくない。二次焼成温度は800℃~850℃が好ましい。また二次焼成時間は30分~90分が好ましく、30分~60分が更に好ましい。
【0036】
上記還元反応を行う際の反応容器は、反応時に原料や生成物が飛び散らないように、蓋を有するものが好ましい。これは、金属マグネシウムの溶融が開始されると、還元反応が急激に進行し、それに伴って温度が上昇して、容器内部の気体が膨張し、それによって、容器の内部のものが外部に飛び散るおそれがあるからである。
【0037】
[還元反応時の雰囲気ガス]
本実施形態の特徴ある点は、上記還元反応時の雰囲気ガスにある。本実施形態の雰囲気ガスは、一次焼成時には、窒素ガスとアルゴン、ヘリウム又はネオンの不活性ガスと酸素ガスとを混合した第1反応ガスである。上記還元反応は第1反応ガスの気流中で行われる。第1反応ガス中の窒素ガスは、金属マグネシウムや還元生成物と酸素との接触を防ぎ、それらの酸化を防ぐとともに、窒素をジルコニウムと反応させ、窒化ジルコニウムを生成させる役割を有する。第1反応ガス中の不活性ガスは、還元反応を促進し、かつ窒化反応による急激な発熱を抑制する役割を有する。酸素ガスは、微量に含まれることにより、酸化ジルコニウムから金属ジルコニウムへの急激な還元反応を抑制するとともに、粒子の微細化に寄与する。このため、第1反応ガス中、窒素ガスは50体積%~99体積%と酸素ガスは0.5体積%~5体積%をそれぞれ含有することが好ましい。残部が不活性ガスである。窒素ガスが55体積%~90体積%と酸素ガスが1.0体積%~4.0体積%をそれぞれ含有することが好ましい。窒素ガスが50体積%未満では、金属マグネシウムによる二酸化ジルコニウムの還元反応が促進しにくい。99体積%を超えると、微粒子化しない。酸素ガスが0.5体積%未満では酸化ジルコニウムから金属ジルコニウムへの急激な還元反応を抑制しにくく、5体積%を超えると、酸化ジルコニウムが生成し易くなる。
【0038】
また本実施形態の雰囲気ガスは、二次焼成時には、アンモニアガス単独か、又は窒素ガスとアンモニアガスとを混合ガスした第2反応ガスである。第2反応ガスを構成するアンモニアガスは、金属マグネシウムとともに、二酸化ジルコニウムを還元させる役割を有する。第2反応ガスが混合ガスの場合、窒素ガスは10体積%~70体積%含むことが好ましく、10体積%~50体積%含むことが更に好ましい。残部がアンモニアガスである。この還元力のある雰囲気ガスを使用することにより、最終的に二酸化ジルコニウム、低次酸化ジルコニウム及び低次酸窒化ジルコニウムを含まない窒化ジルコニウム粉末を製造することができる。
【0039】
[焼成後の反応物の処理]
二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウムと、酸化マグネシウムとの混合物を上記反応ガスの雰囲気下で焼成することにより得られた反応物は、反応容器から取り出し、最終的には室温まで冷却した後、塩酸水溶液などの酸溶液で洗浄して、金属マグネシウムの酸化によって生じた酸化マグネシウムや生成物の焼結防止のため反応当初から含まれていた酸化マグネシウムを除去する。この酸洗浄に関しては、pH0.5以上、特にpH1.0以上2.0以下、温度は90℃以下で行うのが好ましい。これは酸性が強すぎたり温度が高すぎるとジルコニウムまで溶出してしまうおそれがあるためである。そして、その酸洗浄後、アンモニア水などでpHを5~6に調整した後、濾過、デカンテーション、遠心分離等により固形分を分離し、その固形分を乾燥した後、粉砕して窒化ジルコニウム粉末を得る。
【0040】
〔本実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末の特性〕
本実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末は、BET法により測定される比表面積が90m
2/gを超えかつ200m
2/g以下である。窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が90m
2/g以下では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降し易くなる。また200m
2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足する。100m
2/g~190m
2/gが好ましい。比表面積からは以下の式(2)により一次粒子径を算出することが可能であり、当該窒化ジルコニウムの場合は90m
2/gの時に一次粒子径が11nm、200m
2/gの時に一次粒子径が5nmとそれぞれ計算される。
一次粒子径(μm)=6/[(ZrN密度(6.0)×比表面積値)] (2)
また本実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークのみを有するか(
図3参照。)、又は窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する(
図2参照。)一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しない特徴がある。X線のピーク半値幅よりシェラーの式にて当該窒化ジルコニウムの結晶子径を算出することも可能であり、この場合の結晶子径は上述の比表面積値から算出した一時粒子径とほぼ同じとなる。
【0041】
更に本実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末は、粉末を溶剤又は水に分散したときの粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、360nmの光透過率Xが少なくとも25%、すなわち、25%以上であり、550nmの光透過率Yが20%以下である。
溶剤としてはエタノール、プロパノールなどのアルコール系、メチルエチルケトン、メチルイソブチル、ジエチルなどのケトン系、トルエン、キシレンなどの芳香族系や酢酸ブチル、PGM-Acなどの酢酸エステル系があげられる。また、粉末を効果的に分散するために高分子分散剤を適用することが有効である。高分子分散剤はポリエステルやポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂の高分子主骨格に官能基としてアミンやリン酸、カルボン酸を付与したものが一般的に使用される。
光透過率Xが25%未満では、黒色顔料としてパターニング膜を形成するときにフォトレジスト膜の底部まで露光されず、パターニング膜のアンダーカットが発生する。また光透過率Yが20%を超えると、形成したパターニング膜の遮光性が不足し高いOD値が得られない。好ましい光透過率Xは30%以上であり、好ましい光透過率Yは15%以下である。上記光透過率Xと光透過率Yの二律背反的な特性を考慮して、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末は、前記550nmの光透過率Yに対する360nmの光透過率Xの比(X/Y)が1.8以上、好ましくは2.0以上である。即ち、X/Yが1.8以上であることにより、紫外線透過の効果があり、パターニング膜のアンダーカットを発生しないことが優先される。
【0042】
〔窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いたパターニング膜の形成方法〕
上記窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いた、ブラックマトリックスに代表されるパターニング膜の形成方法について述べる。先ず、上記窒化ジルコニウム粉末を感光性樹脂に分散して黒色感光性組成物に調製する。次いでこの黒色感光性組成物を基板上に塗布した後、プリベークを行って溶剤を蒸発させて、フォトレジスト膜を形成する。次にこのフォトレジスト膜にフォトマスクを介して所定のパターン形状に露光したのち、アルカリ現像液を用いて現像して、フォトレジスト膜の未露光部を溶解除去し、その後好ましくはポストベークを行うことにより、所定の黒色パターニング膜が形成される。
【0043】
上記基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ポリカーボネート、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等を挙げることができる。また上記基板には、所望により、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施しておくこともできる。黒色感光性組成物を基板に塗布する際には、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の適宜の塗布法を採用することができる。塗布厚さは、乾燥後の膜厚として、通常、0.1μm~10μm、好ましくは0.2μm~7.0μm、更に好ましくは0.5μm~6.0μmである。パターニング膜を形成する際に使用される放射線としては、本実施形態では、波長が250nm~370nmの範囲にある放射線が好ましい。放射線の照射エネルギー量は、好ましくは10J/m2~10,000J/m2である。また上記アルカリ現像液としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-5-ノネン等の水溶液が好ましい。上記アルカリ現像液には、例えばメタノール、エタノール等の水溶性有機溶剤や界面活性剤等を適量添加することもできる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗する。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができ、現像条件は、常温で5~300秒が好ましい。このようにして形成されたパターニング膜は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス材、イメージセンサー用遮光材。光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に好適に用いられる。
【実施例】
【0044】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0045】
<実施例1>
BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒径が30nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末10gに、平均一次粒径が100μmの金属マグネシウム粉末7.8gと平均一次粒径が20nmの酸化マグネシウム粉末3.2gを添加し、石英製ガラス管に黒鉛のボートを内装した反応装置により均一に混合した。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムとのモル比(金属Mg/ZrO2)が4であり、酸化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムとのモル比(MgO/ZrO2)が1であった。この混合物を窒素ガス95体積%、アルゴン4体積%。酸素1体積%を混合した第1反応ガスの雰囲気下、700℃の温度で5分間一次焼成して焼成物を得た。次いで雰囲気をアンモニアガス100体積%の第2反応ガスに切換えて、その雰囲気下、800℃の温度で120分間二次焼成を行った。この焼成物を、1リットルの水に分散し、10%塩酸を徐々に添加して、pHを1~2の範囲にして、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した後、25%アンモニア水にてpH7~8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄-アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、さらに2リットルのイオン交換水で洗浄し、設定温度;120℃の熱風乾燥機にて乾燥することにより、窒化ジルコニウム粉末を得た。
【0046】
実施例1の出発原料の混合割合、一次焼成条件及び二次焼成条件を、次に述べる実施例2~11及び比較例1~9の出発原料の混合割合、一次焼成条件及び二次焼成条件とともに、以下の表1及び表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
<実施例2~11及び比較例2~9>
実施例2~11及び比較例2~9では、それぞれ実施例1と同一の出発原料を用いた。二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウムとを、表1及び表2に示す割合でそれぞれ秤量し、一次焼成及び二次焼成を表1及び表2に示す条件で行った。二次焼成後、実施例1と同様にして、窒化ジルコニウム粉末を得た。
【0050】
<比較例1>
特許文献1の実施例1に示された方法に準じた方法で、微粒子低次酸窒化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。即ち、平均一次粒径が19nmの二酸化ジルコニウム粉末7.2gと、平均一次粒径が20nmの微粒子酸化マグネシウム3.3gを混合粉砕して混合粉体Aを得た。この混合粉体0.5gに平均一次粒径が150μmの金属マグネシウム粉末2.1gを加えて混合し混合粉体Bを得た。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムとのモル比で(金属Mg/ZrO2)が1.4であり、酸化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムとのモル比(MgO/ZrO2)が1.4であった。一次焼成を窒素ガス100体積%の雰囲気下に変更し、二次焼成は行わなかった。それ以外は表1に示す条件で焼成し、一次焼成を行った後、実施例1と同様にして、微粒子低次酸窒化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0051】
<比較試験と評価>
実施例1~11、比較例2~9で得られた窒化ジルコニウム粉末、比較例1で得られた微粒子低次酸窒化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体をそれぞれ試料として、以下に詳述する方法で、(1) 比表面積、(2) X線回折プロファイル、(3) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線、(4) 360nmの光透過率X及び550nmの光透過率Y、(5) X/Y、及び(6) 沈降試験を測定又は算出した。それぞれの測定結果又は算出結果を表3に示す。表3において、「Zr2ON2」は低次酸窒化ジルコニウムを意味する。
【0052】
【0053】
(1) 比表面積: 全ての試料について、比表面積測定装置(柴田化学社製、SA-1100)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により測定した。
【0054】
(2) X線回折プロファイル: 実施例1~11と比較例1~9の各試料について、X線回折装置(リガク社製、型番MiniflexII)により、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAの条件にて、θ-2θ法でX線回折プロファイルからX線回折分析を行った。そのX線回折プロファイルから、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)、二酸化ジルコニウムのピーク(2θ=30.2°)、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)の有無を調べた。ピークの有無については、窒化ジルコニウムの最も強度が高い33.95゜におけるピーク強度を100としたときに、相対強度が5以上のときを『有り』とし、5未満のときを『無し』とした。
図2~
図4にX線回折プロファイルを示す。
図2は実施例1で得られた窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する窒化ジルコニウム粉末のX線回折プロファイルを示し、
図3は実施例5で得られた窒化ジルコニウムのピークのみを有する窒化ジルコニウム粉末のX線回折プロファイルを示す。また
図4は比較例1で得られた窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークの他に二酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有する微粒子低次酸窒化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体のX線回折プロファイルを示す。
図4において、「ZrN」は窒化ジルコニウムを、「Zr
2ON
2」は低次酸窒化ジルコニウムをそれぞれ意味する。
【0055】
(3) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線: 実施例1~11と比較例1~9の各試料について、これらの試料を循環式横型ビーズミル(メディア:ジルコニア)に各別に入れ、アミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)溶剤中での分散処理を行った。得られた20種類の試料の分散液を10万倍に希釈し粉末濃度を50ppmに調整した。この希釈した分散液における各試料の光透過率を日立ハイテクフィールディング((株)(UH-4150)を用い、波長240nmから1300nmの範囲で測定し、i線(365nm)近傍の波長360nmと、波長550nmにおける各光透過率(%)を求めた。
【0056】
(4) 360nmの光透過率X及び550nmの光透過率Y: 実施例1~11と比較例1~9の各試料の分光曲線から、それぞれの光透過率X及びYを読み取った。
【0057】
(5) X/Y: 実施例1~11と比較例1~9の各試料の分光曲線から読み取られた光透過率Xと光透過率YよりX/Yを算出した。
【0058】
(6) 沈降試験: 上記(3)の分光曲線を測定する際に用いた20種類の試料の分散液を20質量%の顔料濃度とし、50mlの沈降管に保管した。3か月後の上澄み液濃度(上部1/5)を抜き取り、顔料濃度を測定した。濃度減少率が5%未満の場合を沈降が無かったとして『無し』とし、濃度減少率が5%以上の場合を沈降が有ったとして『有り』とした。
【0059】
図4から明らかなように、比較例1の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)及び金属ジルコニウムのピーク(2θ=35.6゜~36.2゜)のみならず、二酸化ジルコニウムのピーク(2θ=28.3゜、31.6゜)及び低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°)を有した。このため、比較例1の試料では、黒色度が不足する不具合があった。
これに対して、
図2に示すように、実施例1の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムと金属ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有しなかった。また
図3に示すように、実施例5の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークのみを有した。
【0060】
表3から明らかなように、比較例1の試料では、比表面積が30m2/gと大きかったため、沈降試験で沈降性が『有り』であった。また金属Mg/ZrO2のモル比が1.4であったため、二酸化ジルコニウムの還元が不十分であり、光透過率Yが33であり、550nmにおける光透過率が悪く、X/Yが1.2と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0061】
比較例2の試料では、第1反応ガス中の酸素ガス濃度が6体積%と高過ぎたため、酸化反応が起こり、二酸化ジルコニウム(ZrO2)が生成し、ZrO2に相当する位置にピークが現れた。また光透過率Yが30であり、550nmにおける光透過率が悪く、X/Yが1.3と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0062】
比較例3の試料では、比表面積が230m2/gと大き過ぎ、かつ金属Mg/ZrO2のモル比が1であったため、二酸化ジルコニウムの還元が不十分であり、ZrO2に相当する位置及びZr2ON2に相当する位置にピークが現れた。またX/Yが1.2と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0063】
比較例4の試料では、比表面積が19m2/gであって、粒子径が大きかったため、沈降試験で沈降性が『有り』であった。またMgO/ZrO2のモル比が0.2と小さ過ぎたため、粉末の焼結及び粒成長が進行し、光透過率Xが12であり、360nmにおける光透過率が悪かった。
【0064】
比較例5の試料では、MgO/ZrO2のモル比が4と大き過ぎたため、還元反応が十分に進まず、Zr2ON2に相当する位置にピークが現れた。またX/Yが1.5と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0065】
比較例6の試料では、一次焼成温度が850℃と高過ぎたため、粉末の焼結及び粒成長が進行し、ZrO2に相当する位置及びZr2ON2に相当する位置にピークが現れた。光透過率Yが33であり、550nmにおける光透過率が悪かった。またX/Yが1.7と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0066】
比較例7の試料では、比表面積が210m2/gと大き過ぎた。一次焼成温度が600℃と低過ぎたため、金属Mgが溶融せず、二酸化ジルコニウムの還元反応が十分でなかった。このため、ZrO2に相当する位置及びZr2ON2に相当する位置にピークが現れた。光透過率Yが『40』であり、550nmにおける光透過率が悪かった。またX/Yが1.3と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0067】
比較例8の試料では、二次焼成温度が700℃と低過ぎたため、第2反応ガス雰囲気の二次焼成で期待される窒化反応が不十分であった。このため、Zr2ON2に相当する位置にピークが現れた。光透過率Yが『24』であり、550nmにおける光透過率が悪かった。またX/Yが1.6と小さ過ぎ、紫外線を透過しにくかった。
【0068】
比較例9の試料では、比表面積が20m2/gであったため、沈降試験で沈降性が『有り』であった。また二次焼成温度が1000℃と高過ぎたため、酸化反応が起こり、ZrO2に相当する位置にピークが現れた。光透過率Xが『20』であり、360nmにおける光透過率が悪かった。
【0069】
これに対して、実施例1~11の試料では、金属Mg/ZrO2のモル比及びMgO/ZrO2のモル比、一次焼成条件、二次焼成条件、最終製品の比表面積が本発明の要件を満たすため、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークのみを有するか、又は窒化ジルコニウムのピークと金属ジルコニウムのピークとを有する一方、二酸化ジルコニウムのピーク、低次酸化ジルコニウムのピーク及び低次酸窒化ジルコニウムのピークを有さず、360nmにおける光透過率Xは25以上であり、550nmにおける光透過率Yが20以下であり、光透過率の比であるX/Yが1.8以上であり、可視光の遮光性能が高いことに加え、紫外線を透過するためパターニングに有利であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の窒化ジルコニウム粉末は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス材、イメージセンサー用遮光材。光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に利用することができる。