(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240730BHJP
F26B 3/30 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01L21/304 651M
H01L21/304 651J
F26B3/30
(21)【出願番号】P 2020169886
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000134028
【氏名又は名称】株式会社SCREEN SPE テック
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】松田 将平
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-162923(JP,A)
【文献】特開2011-071213(JP,A)
【文献】特開2015-133444(JP,A)
【文献】特開平02-156531(JP,A)
【文献】特表2003-528444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
F26B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板に対して一括して処理を行う基板処理装置であって、
複数の基板を収容したキャリアが搬入される貯留槽と、
前記貯留槽に処理液を供給する第1ノズルと、
有機溶剤を吐出して、前記貯留槽に貯留された処理液の液面に前記有機溶剤の液膜を形成する第2ノズルと、
前記貯留槽から処理液を排出する排出部と、
前記貯留槽、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルを収容する筐体と、
前記筐体の上端部を開閉する板状の蓋と、
前記貯留槽に搬入された前記キャリア内の前記複数の基板に対して赤外光を照射する
、前記貯留槽の上方に配置された照射部と
を備え
、
前記照射部は、複数の単位照射部を有し、
前記複数の単位照射部は、前記蓋の下面に水平方向に向け平面上に配列され、
前記第1ノズルおよび前記第2ノズルは前記照射部の下方に配置され、かつ、平面視において前記複数の単位照射部の外側に設けられている、基板処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理装置であって、
前記複数の基板はその厚み方向に並んだ状態で前記キャリアに収容され、
前記照射部は、前記厚み方向に垂直な方向において前記キャリアと対向する位置に設けられている、基板処理装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の基板処理装置であって、
前記キャリアを揺動させる揺動部をさらに備える、基板処理装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の基板処理装置であって、
前記揺動部は、所定の回動軸のまわりで所定の角度範囲で前記キャリアを互いに反対側に回動させる、基板処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一つに記載の基板処理装置であって、
前記貯留槽、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルを収容するチャンバと、
石英によって形成され、前記チャンバ内の雰囲気から前記照射部を保護する保護部材と
を備え、
前記赤外光は、3μmの波長の光を含む、基板処理装置。
【請求項6】
複数の基板に対して一括して処理を行う基板処理装置であって、
複数の基板を収容したキャリアが搬入される貯留槽と、
前記貯留槽に処理液を供給する第1ノズルと、
有機溶剤を吐出して、前記貯留槽に貯留された処理液の液面に前記有機溶剤の液膜を形成する第2ノズルと、
前記貯留槽から処理液を排出する排出部と、
前記貯留槽に搬入された前記キャリア内の前記複数の基板に対して赤外光を照射する照射部と、
前記キャリアを揺動させる揺動部と
を備え、
前記複数の基板はその厚み方向に並んだ状態で前記キャリアに収容され、
前記照射部は、前記厚み方向に垂直な方向において前記キャリアと対向する位置に設けられており、
前記揺動部は、所定の回動軸のまわりで所定の角度範囲で前記キャリアを互いに反対側に回動させる、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、基板処理装置および基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の基板を一括して処理するバッチ式の基板処理装置が提案されている(例えば特許文献1)。この基板処理装置は、貯留槽と、第1吐出ノズルと、第2吐出ノズルと、排出部とを含む。第1吐出ノズルは貯留槽に処理液を供給する。これにより、貯留槽には処理液が貯留される。処理液は例えば純水である。貯留槽には、複数の基板を収容したキャリアが搬入される。これにより、複数の基板が処理液に浸漬し、処理液に応じた処理が複数の基板に対して一括して行われる。
【0003】
第2吐出ノズルは貯留槽よりも鉛直上側に配置され、有機溶剤の蒸気を吐出する。有機溶剤の蒸気は、貯留槽に貯留された処理液の液面に接触して液化し、当該液面に有機溶剤の液膜を形成する。有機溶剤は処理液よりも揮発性の高い液体であり、例えばイソプロピルアルコールである。
【0004】
排出部は貯留槽から処理液を排出する。これにより、貯留槽内の処理液の液面(有機溶剤の液膜)は時間の経過と共に下降する。このとき、有機溶剤の液膜が基板に対して上側から順次に接触する。これにより、基板の表面の処理液が上側から順次に有機溶剤に置換される。その後、基板処理装置は、複数の基板に向けて乾燥用の高温ガスを供給することで基板を乾燥させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、乾燥させにくい基板が登場している。例えば、MEMS(微小電気機械システム)デバイスは高性能化に伴って、デバイスの微細化、積層化および3次元化が進行している。当該デバイスの製造中の基板の表面には3次元構造が形成され、当該3次元構造の内部には空間が形成され得る。このような3次元構造の内部空間に処理液が入り込むと、基板を乾燥させにくい。なぜなら、処理液は内部空間から排出されにくく、処理液を有機溶剤に置換しにくいからである。よって、基板の乾燥に要する時間が長くなる。
【0007】
そこで、本願は、より短時間で複数の基板の乾燥を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
基板処理装置の第1の態様は、複数の基板に対して一括して処理を行う基板処理装置であって、複数の基板を収容したキャリアが搬入される貯留槽と、前記貯留槽に処理液を供給する第1ノズルと、有機溶剤を吐出して、前記貯留槽に貯留された処理液の液面に前記有機溶剤の液膜を形成する第2ノズルと、前記貯留槽から処理液を排出する排出部と、前記貯留槽、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルを収容する筐体と、前記筐体の上端部を開閉する板状の蓋と、前記貯留槽に搬入された前記キャリア内の前記複数の基板に対して赤外光を照射する、前記貯留槽の上方に配置された照射部とを備え、前記照射部は、複数の単位照射部を有し、前記複数の単位照射部は、前記蓋の下面に水平方向に向け平面上に配列され、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルは前記照射部の下方に配置され、かつ、平面視において前記複数の単位照射部の外側に設けられている。
【0009】
基板処理装置の第2の態様は、第1の態様にかかる基板処理装置であって、前記複数の基板はその厚み方向に並んだ状態で前記キャリアに収容され、前記照射部は、前記厚み方向に垂直な方向において前記キャリアと対向する位置に設けられている。
【0012】
基板処理装置の第3の態様は、第2の態様にかかる基板処理装置であって、前記キャリアを揺動させる揺動部をさらに備える。
【0013】
基板処理装置の第4の態様は、第3の態様にかかる基板処理装置であって、前記揺動部は、所定の回動軸のまわりで所定の角度範囲で前記キャリアを互いに反対側に回動させる。
【0014】
基板処理装置の第5の態様は、第1から第4のいずれか一つの態様にかかる基板処理装置であって、前記貯留槽、前記第1ノズルおよび前記第2ノズルを収容するチャンバと、石英によって形成され、前記チャンバ内の雰囲気から前記照射部を保護する保護部材とを備え、前記赤外光は、3μmの波長の光を含む。
基板処理装置の第6の態様は、複数の基板に対して一括して処理を行う基板処理装置であって、複数の基板を収容したキャリアが搬入される貯留槽と、前記貯留槽に処理液を供給する第1ノズルと、有機溶剤を吐出して、前記貯留槽に貯留された処理液の液面に前記有機溶剤の液膜を形成する第2ノズルと、前記貯留槽から処理液を排出する排出部と、前記貯留槽に搬入された前記キャリア内の前記複数の基板に対して赤外光を照射する照射部と、前記キャリアを揺動させる揺動部とを備え、前記複数の基板はその厚み方向に並んだ状態で前記キャリアに収容され、前記照射部は、前記厚み方向に垂直な方向において前記キャリアと対向する位置に設けられており、前記揺動部は、所定の回動軸のまわりで所定の角度範囲で前記キャリアを互いに反対側に回動させる。
【発明の効果】
【0016】
基板処理装置の第1の態様および基板処理方法によれば、赤外光を照射するので、基板に残留した処理液を直接に加熱することができ、処理液を蒸発させることができる。よって、たとえ基板の3次元構造の内部空間に入り込んだ処理液が有機溶剤に置換されずに残留したとしても、当該処理液をより効果的に蒸発させることができる。したがって、より短時間で基板を乾燥させることができる。しかも、キャリアにほとんど遮られずに赤外光を基板に照射することができる。
【0017】
基板処理装置の第2の態様によれば、照射部が複数の基板の側方から基板に向かって照射できる。比較のために、照射部が赤外光を基板の厚み方向に沿って照射する場合について考察する。この場合、赤外光は基板を透過して各基板に入射する。よって、各基板における赤外光の強度は照射部から遠いほど小さくなる。つまり、赤外光の強度の基板間のばらつきは大きくなる。これに対して、第2の態様によれば、照射部が複数の基板の側方から基板に向かって照射できるので、赤外光の強度の基板間のばらつきを低減できる。
【0019】
基板処理装置の第3の態様によれば、赤外光の強度の空間分布にばらつきが生じていても、より均一に基板に赤外光を照射することができる。
【0020】
基板処理装置の第4および第6の態様によれば、キャリアが回転軸のまわりで回動するので、キャリア内の基板を照射部の照射方向に対して傾斜させることができる。よって、基板の主面に赤外光を照射させやすい。
【0021】
基板処理装置の第5の態様によれば、保護部材は照射部を保護しつつ、赤外光を透過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】基板処理装置の構成の一例を概略的に示す側断面図である。
【
図2】照射部の構成の一例を概略的に示す平面図である。
【
図3】基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】処理液の排出中における基板処理装置の様子の一例を概略的に示す図である。
【
図5】基板処理装置の構成の一例を概略的に示す平面図である。
【
図6】照射部および揺動中の基板の一例を概略的に示す図である。
【
図7】基板処理装置の構成の他の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略および構成の簡略化がなされるものである。また、図面に示される構成の大きさおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。また各図において、構成要素の位置関係を明確にするため、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。以下では、Z軸方向の一方側(ここでは鉛直上側)を+Z側と呼び、Z軸方向の他方側(ここでは鉛直下側)を-Z側とも呼ぶ。X軸およびY軸も同様である。
【0024】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様のものとする。したがって、それらについての詳細な説明を、重複を避けるために省略する場合がある。
【0025】
また、以下に記載される説明において、「第1」または「第2」などの序数が用いられる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上用いられるものであり、これらの序数によって生じ得る順序などに限定されるものではない。
【0026】
相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば「一方向に」「一方向に沿って」「平行」「直交」「中心」「同心」「同軸」など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。等しい状態であることを示す表現(例えば「同一」「等しい」「均質」など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。形状を示す表現(例えば、「四角形状」または「円筒形状」など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲で、例えば凹凸や面取りなどを有する形状も表すものとする。一の構成要素を「備える」「具える」「具備する」「含む」または「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。「A,BおよびCの少なくともいずれか一つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A,BおよびCのうち任意の2つ、ならびに、A,BおよびCの全てを含む。
【0027】
<基板処理装置>
図1は、基板処理装置10の構成の一例を概略的に示す側断面図である。この基板処理装置10は、複数の基板Wに対して一括して処理を行うバッチ式の処理装置である。
【0028】
処理対象となる基板Wは平板状の形状を有しており、
図1の例では、基板Wの厚み方向に沿って見て、略円形状を有している。基板Wの直径は例えば200mm程度であり、その厚みは例えば数百μm程度である。基板Wは例えば半導体基板である。半導体基板としては、例えばシリコン基板または炭化ケイ素基板等の基板を採用できる。基板Wの主面には種々の3次元構造が形成され得る。基板Wは、例えばMEMSデバイスの製造途中の基板である。この3次元構造の内部には、液体が入り込むことが可能な空間が形成され得る。
【0029】
複数の基板WはキャリアCに収容された状態で基板処理装置10内に搬送される。このキャリアCは、少なくとも+Z側および-Z側に開口する内部空間を有しており、この内部空間に複数の基板Wが収容される。キャリアCは例えばPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)等のフッ素系樹脂によって形成される。
【0030】
複数の基板WはキャリアCの内部空間において起立姿勢をとっており、基板Wの主面の法線方向(つまり、基板Wの厚み方向:ここではY軸方向)に沿って並んで収容される。起立姿勢とは、基板Wの主面の法線方向(厚み方向)が水平方向に沿う姿勢である。キャリアCに収容される基板Wの枚数は特に限定される必要はないものの、例えば数十枚(例えば25枚)程度である。複数の基板Wは基板処理装置10の外部において、キャリアCの+Z側の開口部を通じてキャリアCの内部に挿入され、また+Z側の開口部を通じてキャリアCの内部から取り出される。
【0031】
基板処理装置10はチャンバ1と貯留槽2と処理液供給部3と排出部4とガス供給部6と照射部8とを含んでいる。以下では、各構成を概説した後に詳述する。
【0032】
チャンバ1は筐体11と蓋12とを含んでいる。筐体11は、+Z側に開口する箱状の形状を有している。蓋12は開閉可能に筐体11の+Z側の端部(上端部)に取り付けられている。蓋12の開閉は制御部7によって制御され、蓋12が閉じることで、チャンバ1の+Z側の開口部が閉塞する。
【0033】
チャンバ1の内部には、貯留槽2が配置されている。貯留槽2は、+Z側に開口する開口部を有しており、この開口部から貯留槽2の内部に処理液が供給される。貯留槽2は、供給された処理液を貯留する。
図1の例では、貯留槽2は筐体11の底部から離れた状態で固定部材21を介して筐体11に固定されている。
【0034】
複数の基板WはキャリアCに収容された状態で、不図示の搬送機構によってチャンバ1内に搬送される。具体的には、キャリアCは蓋12が開いたときの筐体11の開口部を通過して、貯留槽2の内部に搬入される。
図1の例では、基板処理装置10には、載置部5が設けられている。載置部5は、貯留槽2の内部に設けられて、キャリアCが載置される載置台51を含んでいる。
図1の例では、載置台51は固定部材52によって吊り下げられた状態でチャンバ1に連結される。
【0035】
処理液供給部3は貯留槽2に処理液を供給する。これにより、貯留槽2には処理液が貯留される。処理液は、例えば水を含む液体であり、より具体的な一例として純水(脱イオン水とも呼ばれる)である。貯留槽2には、キャリアCが処理液に浸漬する程度に処理液が貯留される。キャリアCが処理液に浸漬することにより、複数の基板Wを一括して処理(例えば洗浄)することができる。なお、基板Wの主面に、内部空間を含む3次元構造が形成されている場合には、キャリアCが処理液に浸漬することにより、処理液は当該内部空間に入り込む。
【0036】
排出部4は貯留槽2内の処理液をチャンバ1の外部へ排出する。貯留槽2内の処理液を外部に排出することにより、貯留槽2を空にすることができる。
【0037】
処理液供給部3は複数種類の処理液を順次に貯留槽2に供給してもよい。例えば処理液供給部3は処理液としてフッ酸等の薬液を貯留槽2に供給してもよい。複数の基板Wが薬液に浸漬することにより、当該薬液に応じた処理(例えばエッチング処理)を複数の基板Wに対して一括して行うことができる。
【0038】
例えば薬液による複数の基板Wに対する処理が終了したときに、排出部4が貯留槽2内の薬液をチャンバ1の外部に排出する。その後、処理液供給部3が処理液として純水等のリンス液を貯留槽2に供給する。貯留槽2内において複数の基板Wがリンス液に浸漬することにより、基板Wに付着した薬液を洗い流すことができる。
【0039】
ガス供給部6は有機溶剤ガス供給部61を含んでいる。有機溶剤ガス供給部61はチャンバ1内において、貯留槽2よりも+Z側の空間(以下、上部空間と呼ぶ)に、有機溶剤の蒸気を供給する。この蒸気は上部空間で広がり、その一部が貯留槽2に貯留された処理液の液面で液化して有機溶剤の液膜を形成する。
【0040】
有機溶剤は例えば処理液(具体的にはリンス液、以下、同様)よりも表面張力が小さい溶剤である。また、ここでは基板処理装置10は基板Wを乾燥する乾燥処理を行うので、その乾燥のために処理液よりも蒸発潜熱が小さい有機溶剤が採用される。より具体的な一例として、例えばIPA(イソプロピルアルコール)が採用される。なお、有機溶剤ガス供給部61はキャリアガスとして不活性ガスを有機溶剤の蒸気とともに供給してもよい。不活性ガスとしては、基板Wと化学反応を起こしにくい気体(例えば、ヘリウムおよびアルゴン等の希ガスならびに窒素ガスの少なくともいずれか)を採用できる。
【0041】
排出部4は、貯留槽2内の処理液の液面に有機溶剤の液膜が形成された状態で処理液を排出する。これにより、処理液の液面(有機溶剤の液膜)が時間の経過とともに下降する。この液膜が各基板WおよびキャリアCの表面と接触することで、各表面に付着した処理液が、蒸発潜熱の小さい有機溶剤に順次に置換される。ただし、基板Wの3次元構造の内部空間に入り込んだ処理液は排出されにくいので、有機溶剤に置換されにくい。よって、当該内部空間には処理液が残留しやすい。このような処理液は蒸発しにくく、基板Wの乾燥を困難にさせる。
【0042】
図1の例では、ガス供給部6は高温ガス供給部62も含んでいる。高温ガス供給部62は基板WおよびキャリアCに向けて高温ガスを供給する。高温ガスとしては例えば不活性ガスを採用できる。高温ガス供給部62は、処理液の排出後に高温ガスを供給する。これにより、基板WおよびキャリアCの乾燥を促進させることができる。ただし、高温ガスは基板Wの3次元構造の内部空間に残留した処理液には接触しにくく、当該処理液を直接に加熱しにくい。
【0043】
照射部8は基板WおよびキャリアCに向けて赤外光を照射する。より具体的には、照射部8は、処理液の排出後に赤外光を照射する。つまり、照射部8は高温ガス供給部62による高温ガスの供給と並行して赤外光を照射する。基板WおよびキャリアCに赤外光が照射されると、基板WおよびキャリアCに付着した処理液が赤外光により加熱されて蒸発する。たとえ3次元構造の内部空間に処理液が入り込んでいても、赤外光が当該処理液に照射されることにより、当該処理液は加熱される。これによれば、より短時間で基板Wを乾燥させることができる。
【0044】
赤外光の波長範囲としては、赤外光に対する処理液の吸収係数が高くなる範囲を採用することが望ましい。処理液が水を含む場合には、赤外光として、例えば波長が3μmである光を含む赤外光を採用するとよい。波長が3μmである光に対する水の吸収係数は高いので、処理液を効果的に加熱して蒸発させることができる。
【0045】
このような基板処理装置10によれば、基板Wの乾燥に照射部8が用いられている。照射部8から照射された赤外光は、基板Wに残留した処理液を直接に加熱することができるので、高温ガスのみが用いられる場合に比して、より短時間で基板Wを乾燥させることができる。
【0046】
次に、基板処理装置10の各構成の一例について詳述する。なお、薬液の供給は本実施の形態の本質ではないので、以下では、説明の簡単のために、薬液の供給に関する説明を省略する。
【0047】
<載置部>
載置部5は載置台51と固定部材52とを含んでいる。載置台51は板状の形状を有しており、その厚み方向がZ軸方向に沿うように、貯留槽2の内部に配置される。載置台51の+Z側の主面の上には、キャリアCが載置される。載置台51は平面視において例えば略矩形状の形状を有し、その一辺がX軸に沿うように配置される。
図1の例では、固定部材52は載置台51を吊り下げた状態で筐体11に連結する。固定部材52の詳細な一例は後に述べる。
【0048】
<処理液供給部>
処理液供給部3は液ノズル(第1ノズル)31と供給管32とバルブ33とを含んでいる。液ノズル31はチャンバ1内の上部空間(貯留槽2よりも+Z側の空間)に配置されており、例えば筐体11の内側面に固定される。また液ノズル31は供給管32を介して処理液供給源34に連通接続されている。つまり、供給管32の一端は液ノズル31に連通接続され、他端は処理液供給源34に連通接続される。バルブ33は供給管32の途中に設けられており、供給管32内の流路の開閉を切り替える。バルブ33が開くことにより、処理液が処理液供給源34から供給管32の内部を流れ、液ノズル31から貯留槽2へと吐出される。バルブ33が閉じることで、液ノズル31からの処理液の吐出が終了する。
【0049】
<排出部>
図1の例では、排出部4は排出管41,42とバルブ43,44とを含んでいる。排出管41は、貯留槽2に貯留された処理液を貯留槽2の外部に排出するための配管である。
図1の例では、排出管41の一端は貯留槽2の底部と連通接続されており、他端は筐体11内において開口している。バルブ43は排出管41の途中に設けられており、排出管41内の流路の開閉を切り替える。バルブ43が開くことにより、貯留槽2の内部の処理液が排出管41の内部を通って、排出管41の他端から筐体11の底部へと流れ出る。バルブ43が閉じることにより、貯留槽2からの処理液の排出が終了する。
【0050】
排出管42は、筐体11の底部に溜まった処理液をチャンバ1の外部に排出する。排出管42の一端は筐体11の底部に連通接続されており、他端は排出ドレイン45に連通接続されている。バルブ44は排出管42の途中に設けられており、排出管42内の流路の開閉を切り替える。バルブ44が開くことにより、筐体11内の処理液が排出管42の内部を通って排出ドレイン45へと排出される。バルブ44が閉じることにより、筐体11からの処理液の排出が終了する。
【0051】
<有機溶剤ガス供給部>
図1の例では、有機溶剤ガス供給部61はガスノズル(第2ノズル)611と供給管612a,612b,613とバルブ615と加熱部616とを含んでいる。ガスノズル611はチャンバ1内の上部空間に配置されている。
図1の例では、ガスノズル611として、一対のガスノズル611a,611bが配置されている。ガスノズル611a,611bは例えばX軸方向において互いに離れている。平面視において(つまり、Z軸に沿って見て)、ガスノズル611aは貯留槽2の中心に対して-X側に配置され、ガスノズル611bは貯留槽2の中心に対して+X側に配置される。
図1の例では、ガスノズル611a,611bは略同じ高さ位置に配置されている。ガスノズル611a,611bは例えばY軸方向に沿って延在しており、Y軸方向に沿って並ぶ複数の吐出口を有していてもよい。
【0052】
ガスノズル611aは供給管612a,613を介して有機溶剤ガス供給源614に連通接続される。具体的には、供給管612aの一端はガスノズル611aに連通接続され、供給管612aの他端は供給管613の一端に連通接続され、供給管613の他端は有機溶剤ガス供給源614に連通接続される。有機溶剤ガス供給源614は供給管613の他端に有機溶剤の蒸気を供給する。有機溶剤ガス供給源614は有機溶剤の蒸気とともにキャリアガスを供給管613の他端に供給してもよい。ガスノズル611bは供給管612b,613を介して有機溶剤ガス供給源614に連通接続される。具体的には、供給管612bの一端はガスノズル611bに連通接続され、供給管612bの他端は供給管613の一端に連通接続される。
【0053】
バルブ615は供給管613の途中に設けられ、供給管613内の流路の開閉を切り替える。加熱部616は例えばヒータであり、バルブ615よりも下流側において供給管613に設けられている。加熱部616は供給管613の内部を流れるガスを加熱する。
【0054】
バルブ615が開くことにより、有機溶剤の蒸気が有機溶剤ガス供給源614から供給管613,612a,612bの内部を流れる。この蒸気は加熱部616によって加熱された上で、ガスノズル611a,611bから吐出される。
【0055】
<高温ガス供給部>
図1の例では、高温ガス供給部62はガスノズル621と供給管622a,622b,623とバルブ625と加熱部626とを含んでいる。ガスノズル621はチャンバ1内の上部空間に配置されている。
図1の例では、ガスノズル621として、一対のガスノズル621a,621bが配置されている。ガスノズル621a,621bは例えばX軸方向において互いに離れている。平面視において、ガスノズル621aは貯留槽2の中心に対して-X側に配置され、ガスノズル621bは貯留槽2の中心に対して+X側に配置される。
図1の例では、ガスノズル621a,621bは略同じ高さ位置に配置されている。
図1の例では、ガスノズル621はガスノズル611よりも-Z側に設けられているものの、ガスノズル611よりも+Z側に設けられてもよい。ガスノズル621a,621bは例えばY軸方向に沿って延在しており、Y軸方向に沿って並ぶ複数の吐出口を有していてもよい。ガスノズル621aは例えば+X側かつ-Z側の斜め方向に高温ガスを吐出し、ガスノズル621bは例えば-X側かつ-Z側の斜め方向に高温ガスを吐出する。
【0056】
ガスノズル621aは供給管622a,623を介してガス供給源624に連通接続される。具体的には、供給管622aの一端はガスノズル621aに連通接続され、供給管622aの他端は供給管623の一端に連通接続され、供給管623の他端はガス供給源624に連通接続される。ガス供給源624は供給管623の他端に不活性ガスを供給する。ガスノズル621bは供給管622b,623を介してガス供給源624に連通接続される。具体的には、供給管622bの一端はガスノズル621bに連通接続され、供給管622bの他端は供給管623の一端に連通接続される。
【0057】
バルブ625は供給管623の途中に設けられ、供給管623内の流路の開閉を切り替える。加熱部626は例えばヒータであり、バルブ625よりも下流側において供給管623に設けられている。加熱部626は供給管623の内部を流れるガスを加熱する。
【0058】
バルブ625が開くことにより、不活性ガスがガス供給源624から供給管623,622a,622bの内部を流れる。この不活性ガスは加熱部626によって加熱された上で、ガスノズル621a,621bから高温ガスとして吐出される。
【0059】
<照射部>
照射部8は貯留槽2内のキャリアCおよび基板Wに向けて赤外光を照射する。
図1の例では、照射部8は貯留槽2よりも+Z側に設けられており、より具体的には、チャンバ1の蓋12に設けられている。照射部8は蓋12が閉じた状態で-Z側に向けて、つまり基板WおよびキャリアCに向けて、赤外光を照射する。
【0060】
図1の例では、照射部8よりも-Z側に保護部材82が設けられている。保護部材82は、照射部8が照射する赤外光についての透光性を有している。よって、照射部8からの赤外光は保護部材82を透過して基板WおよびキャリアCに照射される。保護部材82は例えば石英(より具体的には、無水合成石英)によって形成される。石英は、波長が3μm付近の赤外光についての高い透光性を有している。無水合成石英の透光性は特に優れているので、保護部材82の材料として無水合成石英を採用することが好ましい。
【0061】
保護部材82は照射部8をチャンバ1内の雰囲気から保護することができる。
図1の例では、照射部8は蓋12および保護部材82によって囲まれている。
図1の例では、保護部材82は蓋12の-Z側の面を構成しており、蓋12の一部であるともいえる。保護部材82は例えば板状の形状を有しており、蓋12が閉じた状態において、その厚み方向がZ軸方向に沿う。保護部材82の周縁は蓋12に固定されており、照射部8はチャンバ1の内部空間に露出しない。チャンバ1内の雰囲気には処理液の蒸発成分および微小液滴、並びに、有機溶剤の蒸気および微小液滴の少なくともいずれかが含まれるところ、これらは保護部材82によって遮られて照射部8に接触しない。つまり、保護部材82は照射部8をチャンバ1内の雰囲気から保護する。よって、当該雰囲気による照射部8の汚染を回避することができる。
【0062】
照射部8が赤外光を照射することにより、基板WおよびキャリアCには赤外光が入射する。赤外光の一部は基板Wに残留した処理液に入射する。赤外光は基板Wの3次元構造の内部空間に入り込んだ処理液にも入射する。基板Wが赤外光についての透光性を有している場合には、より多くの赤外光が処理液に入射する。例えば基板Wがシリコン基板または炭化ケイ素基板を含む場合、赤外光の基板Wに対する透光性は高い。この場合、赤外光はシリコン基板または炭化ケイ素基板を透過して処理液に入射する。赤外光の一部は処理液に吸収されて熱に変換されるので、処理液が加熱されて蒸発する。つまり、照射部8は3次元構造の内部空間に入り込んだ処理液を直接に加熱して効果的に蒸発させるができる。よって、基板Wの乾燥を促進させることができ、より短時間で基板Wを乾燥させることができる。
【0063】
図1の例では、照射部8は複数の単位照射部81を含んでいる。単位照射部81は例えばLED(発光ダイオード)である。各単位照射部81は赤外光(例えば3μmの波長を含む赤外光)を照射する。単位照射部81は例えば平面視において円形状を有し、その直径は例えば3mm~5mm程度である。
【0064】
複数の単位照射部81は平面視において、間隔を空けて並んで設けられている。
図2は、照射部8の構成の一例を概略的に示す平面図である。
図2の例では、複数の単位照射部81はX軸方向およびY軸方向をそれぞれ列方向および行方向としたマトリクス状に配列されている。
【0065】
図2の例では、キャリアCが貯留槽2の内部に搬入された状態での、基板WおよびキャリアCも示されている。
図2に例示するように、単位照射部81のY軸方向におけるピッチは、キャリアC内での複数の基板Wのピッチと同じであってもよい。
図2の例では、Y軸方向に並ぶ単位照射部81の個数は基板Wの枚数と同じである。また、各列の両側に位置する単位照射部81のX軸方向における位置は、基板WのX軸方向の両端とそれぞれ同じであってもよい。なお、単位照射部81の配列態様は
図2に限らず適宜に変更し得る。例えば、Y軸方向に並ぶ単位照射部81の個数は、基板Wの枚数よりも多くてもよい。
【0066】
<制御部>
制御部7は基板処理装置10を統括的に制御する。具体的には、制御部7は蓋12の開閉制御、バルブ33,43,44,615,625の開閉制御、加熱部616,626の加熱制御および照射部8の照射制御を実行する。また制御部7は不図示の搬送機構も制御してもよい。この搬送機構は、複数の基板Wを格納したキャリアCを外部からチャンバ1内へ搬入したり、あるいは、チャンバ1から外部へ搬出したりする。
【0067】
この制御部7は電子回路機器であって、例えばデータ処理装置および記憶媒体を有していてもよい。データ処理装置は例えばCPU(Central Processor Unit)などの演算処理装置であってもよい。記憶媒体は非一時的な記憶媒体(例えばROM(Read Only Memory)またはハードディスク)および一時的な記憶媒体(例えばRAM(Random Access Memory))を有していてもよい。非一時的な記憶媒体には、例えば制御部7が実行する処理を規定するプログラムが記憶されていてもよい。処理装置がこのプログラムを実行することにより、制御部7が、プログラムに規定された処理を実行することができる。もちろん、制御部7が実行する処理の一部または全部がハードウェアによって実行されてもよい。
【0068】
<基板処理装置の動作>
図3は、基板処理装置10の動作の一例を示すフローチャートである。この一連の手順の実行前において、バルブ33,43,44,615,625は閉じている。まずステップS1にて、制御部7はバルブ33を開いて処理液を貯留槽2に供給する。これにより、貯留槽2に処理液が貯留される。ステップS1では、基板Wが完全に処理液に浸漬される程度の量の処理液が供給されたときに、制御部7はバルブ33を閉じる。バルブ33が閉じることにより、処理液の供給が終了する。
【0069】
貯留槽2に十分な処理液が貯留されると、ステップS2にて、制御部7は搬送機構を制御して複数の基板Wを基板処理装置10内に搬入させる。具体的には、制御部7は蓋12を開き、その状態で搬送機構にキャリアCをチャンバ1内に搬入させて載置台51の+Z側の主面の上に載置させる。これにより、キャリアCおよび複数の基板Wが処理液に浸漬される。そして、制御部7は搬送機構の一部(ハンド)をチャンバ1から引き抜いた上で、蓋12を閉じる。なお、ステップS2はステップS1よりも先に行われてもよく、あるいは、ステップS1,S2が互いに並行して行われてもよい。
【0070】
次にステップS3にて、制御部7は、有機溶剤ガス供給部61に有機溶剤の蒸気をチャンバ1内に供給させる。具体的には、制御部7はバルブ615を開き、加熱部616に有機溶剤の蒸気を例えば70℃以上に加熱させる。これにより、ガスノズル611a,611bからチャンバ1の上部空間に有機溶剤の蒸気が吐出される。この有機溶剤の蒸気は上部空間で広がり、その一部が、貯留槽2に貯留された処理液の液面で液化して有機溶剤の液膜L1を形成する。
【0071】
次にステップS4にて、制御部7は排出部4に貯留槽2内の処理液を排出させる。具体的には、制御部7はバルブ43,44を開く。
図4は、ステップS4における基板処理装置10の構成の一例を概略的に示す図である。
図4では、処理液の排出を排出管41,42付近の破線の矢印で模式的に示している。この処理液の排出によって液膜L1が時間の経過とともに下降する。液膜L1が各基板Wの表面およびキャリアCの表面と接触することで、各基板Wの表面およびキャリアCの表面に付着した処理液の多くが有機溶剤に順次に置換される。ただし、基板Wの3次元構造の内部空間に入り込んだ処理液は有機溶剤に置換されにくく、当該内部空間に残留しやすい。
【0072】
ここでは、処理液が貯留槽2から排出されている期間においても、チャンバ1内に有機溶剤の蒸気が供給され続ける。これにより、各基板Wに付着した処理液が有機溶剤に置換されることによる液膜L1の厚みの減少分を補充することできる。したがって、各基板WおよびキャリアCに付着した処理液の多くを有機溶剤に置換することができる。処理液が貯留槽2およびチャンバ1から十分に排出されると、制御部7はバルブ43,44を閉じる。また、有機溶剤ガス供給部61は有機溶剤の蒸気の供給を終了する。具体的には、制御部7はバルブ615を閉じる。
【0073】
次にステップS5において、照射部8は赤外光を照射する。具体的には、制御部7は照射部8に照射を指示する。照射部8は当該指示に応答して赤外光を照射する。赤外光は保護部材82を透過して基板WおよびキャリアCに照射され、その赤外光の一部は、基板WおよびキャリアCに残留した処理液によって吸収されて熱に変換される。このように赤外光により処理液を直接に加熱することができるので、たとえ処理液が基板Wの3次元構造の内部空間に残留していたとしても、当該処理液の蒸発を効果的に促進させることができる。つまり、基板WおよびキャリアCの乾燥をより効果的に促進させることができる。基板Wが例えばシリコン基板または炭化ケイ素基板を含む場合には、赤外光が該基板を透過するので、赤外光をより高い強度で処理液に入射させることができる。よって、基板WおよびキャリアCの乾燥をさらに効果的に促進させることができる。
【0074】
またステップS6において、高温ガス供給部62は高温ガスを基板WおよびキャリアCに向けて供給する。具体的には、制御部7はバルブ625を開き、加熱部626に不活性ガスを例えば100℃から200℃の範囲で加熱させる。これにより、ガスノズル621a,621bから高温の不活性ガスが基板WおよびキャリアCに向かって吐出される。高温の不活性ガスは基板WおよびキャリアCを加熱し、基板WおよびキャリアCの乾燥をさらに促進させる。
【0075】
ステップS5による赤外光の照射およびステップS6による高温ガスの供給は互いに並行して行われ得る。赤外光の照射開始のタイミングと、高温ガスの供給開始のタイミングとは互いに同じであってもよく、互いにずれていてもよい。両タイミングはどちらが先であってもよい。
【0076】
基板WおよびキャリアCが十分に乾燥すると、制御部7は照射部8の赤外光の照射を停止させ、高温ガス供給部62に高温ガスの供給を停止させる。具体的には、制御部7は照射部8に赤外光の照射停止を指示し、バルブ625を閉じ、加熱部626の加熱動作を停止させる。赤外光の照射停止のタイミングと、高温ガスの供給停止のタイミングとは互いに同じであってもよく、互いにずれていてもよい。両タイミングはどちらが先であってもよい。
【0077】
次にステップS7にて、基板Wを搬出する。より具体的には、制御部7が蓋12を開いた上で、搬送機構がキャリアCを基板処理装置10の外部へと搬出する。
【0078】
以上のように、本基板処理装置10では、複数の基板WおよびキャリアCに付着した処理液の多くを蒸発潜熱の低い有機溶剤に置換させてから、基板WおよびキャリアCを乾燥させている。よって、ウォーターマークが発生する可能性を低減できる。
【0079】
しかも、本基板処理装置10においては、照射部8が赤外光を基板WおよびキャリアCに照射する。これによれば、基板WおよびキャリアCに残留した処理液(例えば純水)を赤外光によって直接に加熱することができる。したがって、例えば基板Wの3次元構造の内部空間に残留した処理液をより速やかに蒸発させることができる。
【0080】
また、上述の例では、照射部8は貯留槽2よりも+Z側に設けられている。つまり、照射部8は基板Wよりも径方向外側に位置している。言い換えれば、基板Wの厚み方向(ここではY軸方向)に沿って見て、照射部8は、貯留槽2内に搬入されたキャリアC(あるいは複数の基板W)の側方に位置している。さらに言い換えれば、照射部8は、基板Wの厚み方向(ここではY軸方向)に垂直な方向(ここではZ軸方向)においてキャリアC(あるいは複数の基板W)と対向する位置に設けられている。要するに、照射部8およびキャリアC(あるいは複数の基板W)は同一のXY平面内に設けられている。これによれば、赤外光は基板Wの側方から基板Wに向かって照射される。
図1の例とは異なって、照射部8が基板Wの主面と向かい合う位置に設けられている場合、照射部8から照射された赤外光は複数の基板Wを透過する。赤外光が基板Wを透過すると、徐々にその強度が低下し得るので、基板Wに照射される赤外光の強度の基板W間のばらつきは比較的に大きくなり得る。これに対して、
図1の例では、照射部8が基板Wよりも側方(径方向外側)から基板Wに向かって赤外光を照射する。これによれば、各基板Wに対してより均一に赤外光を照射することができる。よって、赤外光の強度の基板W間のばらつきを低減させることができる。
【0081】
複数の基板WはキャリアCの+Z側の開口部からキャリアCの内部に挿入されるので、キャリアCの+Z側の開口部は、平面視において、キャリアC内の複数の基板Wよりも広く形成されている。つまり、複数の基板Wの直上では、キャリアCを構成する部材が存在していない。よって、照射部8から照射される赤外光はキャリアCによってほとんど遮られずに、複数の基板Wに照射される。したがって、キャリアC内の複数の基板Wに対してより広い範囲でより均一に赤外光を照射することができる。
【0082】
また、上述の例では、照射部8はガスノズル611,621の両方よりも+Z側に設けられている。これによれば、照射部8は、ガスノズル611,621から基板Wに向かうガスの流れをほとんど阻害しない。また、ガスノズル611,621は複数の基板Wの直上を避けて設けられるとよい。これによれば、ガスノズル611,621は照射部8からの赤外光をほとんど阻害しない。
【0083】
また、上述の例では、照射部8が設けられた空間をチャンバ1の内部空間から仕切る保護部材82が設けられている。よって、照射部8をチャンバ1内の雰囲気から保護することができる。
【0084】
<揺動部>
上述の例では、照射部8は、平面視において並んで設けられた複数の単位照射部81を含んでいる。
図2の例では、複数の単位照射部81はX軸方向およびY軸方向の各々において並ぶ。これによれば、複数の基板Wに照射される赤外光の空間的な強度分布にばらつきが生じ得る。具体的には、赤外光はX軸方向およびY軸方向において、各単位照射部81の位置をピークとする周期的な強度分布を有する。このような強度分布に起因して、基板Wの各位置における乾燥状態にばらつきが生じ得る。このような乾燥状態のばらつきは望ましくない。
【0085】
図1の例では、基板処理装置10に揺動部9が設けられる。揺動部9は、貯留槽2の内部に搬入されたキャリアCを照射部8に対して相対的に揺動させる。例えば揺動部9はキャリアCを、所定の回動軸Q1のまわりにおいて所定の角度範囲で交互に反対方向に回動させて、キャリアCを揺動させる。
【0086】
図5は、基板処理装置10の構成の一例を概略的に示す平面図である。
図1および
図5の例では、回動軸Q1はX軸、Y軸およびZ軸のいずれとも交差するように設定される。つまり、回動軸Q1は、キャリアCにおいて複数の基板Wが並ぶ配列方向(Y軸方向)、鉛直方向(Z軸方向)およびこれらと垂直な水平方向(X軸方向)のいずれとも交差する。
図5の例では、回動軸Q1は平面視において傾斜角θxzでX軸と交差している。この傾斜角θxzは例えば10度以上かつ80度以下であり、より好ましくは、10度以上かつ45度以下である。ここでは一例として、傾斜角θxzは30度程度である。
【0087】
図1および
図5の例では、揺動部9は載置部5と回動駆動部59とを含んでいる。回動駆動部59は載置部5を回動軸Q1のまわりで揺動させることにより、載置部5の載置台51に載置されたキャリアCを回動軸Q1のまわりで揺動させる。回動駆動部59は制御部7によって制御される。載置台51は固定部材52によってチャンバ1に連結される。
図1および
図2の例では、固定部材52は垂直板53,54と垂下部55,56と軸受57,58とを含んでいる。
【0088】
垂直板53はZ軸方向に延在しており、その-Z側の端部は載置台51の端部(
図5の例では-X側かつ+Y側の端部)に連結されている。垂直板53は載置台51から貯留槽2の内壁に沿って+Z側に延在しており、その+Z側の端部は貯留槽2の+Z側の端部よりも高くに位置する。垂下部55はY軸方向に沿って見て、L字状の形状を有している。垂下部55の+Z側の端部は垂直板53の+Z側の端部に連結されており、垂下部55は貯留槽2の外側を-Z側へと延在する。垂下部55は軸受57を介して筐体11の-X側の側壁に連結される。軸受57は回動軸Q1上に配置されており、垂下部55を回動軸Q1のまわりで回動可能に筐体11の側壁に固定する。具体的には、垂下部55には、回動軸Q1に沿って延在するシャフト部(不図示)が設けられており、このシャフト部が軸受57の内輪に連結され、軸受57の外輪が筐体11の側壁に固定される。
【0089】
垂直板54はZ軸方向に延在しており、その-Z側の端部は載置台51の端部(
図5の例では+X側かつ-Y側の端部)に連結されている。垂直板54は載置台51から貯留槽2の内壁に沿って+Z側に延在しており、その+Z側の端部は貯留槽2の+Z側の端部よりも高くに位置する。垂下部56はY軸方向に沿って見て、L字状の形状を有している。垂下部56の+Z側の端部は垂直板54の+Z側の端部に連結されており、垂下部56は貯留槽2の外側を-Z側へと延在する。垂下部56は軸受58を介して筐体11の+X側の側壁に固定される。軸受58は回動軸Q1上に配置されており、垂下部56を回動軸Q1のまわりで回動可能に筐体11の側壁に固定する。具体的には、垂下部56には、回動軸Q1に沿って延在するシャフト部(不図示)が設けられており、このシャフト部が軸受58の内輪に連結され、軸受58の外輪が筐体11の側壁に固定される。
【0090】
このような固定部材52によれば、載置台51を回動軸Q1のまわりで回動可能にチャンバ1の筐体11に固定しつつ、その回動軸Q1を基板Wの中央(Z軸方向における中央)付近に設定することができる。
【0091】
回動駆動部59は、垂下部55に設けられたシャフト部を回動軸Q1のまわりで所定の角度範囲で交互に回動させる。これにより、載置台51、固定部材52およびキャリアCが一体に揺動する。回動駆動部59は例えば不図示のエアシリンダおよびリンク部材を有している。リンク部材は例えば棒状の形状を有しており、その一端が垂下部55のシャフト部に連結されている。リンク部材は回動軸Q1についての径方向に延在しており、その他端がエアシリンダのピストンロッドの先端に連結される。エアシリンダはピストンロッドの先端を回動軸Q1の周方向に沿って進退させる。これにより、リンク部材が所定の角度範囲で回動軸Q1のまわりを交互に揺動し、リンク部材に連結されたシャフト部が当該所定の角度範囲で回動軸Q1のまわりを交互に回動する。したがって、載置台51、固定部材52およびキャリアCが回動軸Q1のまわりで所定の角度範囲で交互に回動する。
【0092】
なお、回動駆動部59は必ずしもエアシリンダおよびリンク部材を有している必要はなく、他の駆動機構(例えばモータ)により垂下部55のシャフト部を回動させてもよい。また、回動駆動部59は垂下部56のシャフト部を回動させてもよい。回動駆動部59が回動軸Q1のまわりでシャフト部を回動させることにより、キャリアCは揺動方向D1に沿って往復移動する。
【0093】
このような揺動部9によるキャリアCの揺動方向D1は、単位照射部81が並ぶ方向成分を含む。ここでは、複数の単位照射部81はX軸方向およびY軸方向の各々に沿って並んでおり、揺動方向D1はX軸方向の成分およびY軸方向の成分の両方を含む。
【0094】
揺動部9は照射部8による赤外光の照射中に、キャリアCを揺動方向D1に沿って揺動させる。
図6は、照射部8および揺動中の基板Wの一例を概略的に示す図である。
図6では、照射部8からの赤外光の空間強度分布が模式的に破線で示されている。キャリアCの揺動によって、各基板Wの各位置に照射される赤外光の強度はキャリアCの位置に応じて変動するので、各基板Wの各位置に照射される赤外光の平均強度をより均一化させることができる。したがって、各基板Wの各位置における乾燥状態のばらつきを低減させることができる。
【0095】
しかも、キャリアCが回動軸Q1のまわりで揺動すれば、基板Wの主面がZ軸方向に対して傾斜する。言い換えれば、基板Wの主面が照射部8の照射方向に対して傾斜する。これによれば、赤外光が基板Wの主面に照射されやすい(
図6参照)。よって、基板Wの主面の3次元構造の内部空間に入り込んだ処理液に赤外光を照射しやすい。
【0096】
なお、揺動部9は必ずしも回動軸Q1まわりでキャリアCを揺動させる必要はない。例えば、揺動部9は、X軸方向に沿って載置部5を往復移動させる直動機構(不図示)と、Y軸方向に沿って載置部5を往復移動させる直動機構(不図示)とを含んでいてもよい。直動機構は、例えば、リニアモータ、ボールねじ機構またはエアシリンダを含む。これによっても、揺動部9が赤外光の照射中にキャリアCをX軸方向およびY軸方向に往復移動させることにより、各基板Wの各位置により均一に赤外光を照射することができる。
【0097】
<基板処理装置の他の例>
図7は、基板処理装置10Aの構成の一例を概略的に示す図である。基板処理装置10Aは照射部8の位置を除いて、基板処理装置10と同様の構成を有している。基板処理装置10Aでは照射部8として、照射部8A~8Cが設けられている。照射部8Aは基板処理装置10と同様に、貯留槽2よりも+Z側に設けられており、照射部8Bおよび照射部8Cは貯留槽2に対してX軸方向の両側に設けられている。言い換えれば、照射部8Bおよび照射部8Cは基板Wに対して筐体11の側壁側に設けられている。
図7の例では、照射部8B,8Cはチャンバ1の側壁よりも外側において、チャンバ1の両側に設けられている。
【0098】
図7の例では、照射部8B,8Cの各々も複数の単位照射部81を含んでいる。照射部8B,8Cにおいて、例えば複数の単位照射部81はY軸方向およびZ軸方向をそれぞれ行方向および列方向としたマトリクス状に設けられる。
図7の例では、支持部材83がチャンバ1よりも-X側において、例えば床面に立設される。支持部材83は例えば板状の形状を有しており、その厚み方向がX軸方向に沿う姿勢で設けられる。支持部材83の+X側の面には照射部8Bが設けられる。
図7の例では、支持部材84がチャンバ1よりも+X側において、例えば床面に立設される。支持部材84は例えば板状の形状を有しており、その厚み方向がX軸方向に沿う姿勢で設けられる。支持部材84の-X側の面には照射部8Cが設けられる。
【0099】
ここでは、チャンバ1の側壁、貯留槽2、載置部5およびキャリアCは赤外光についての透光性を有している。これらは、例えば石英(より望ましくは、無水合成石英)によって形成される。照射部8は基板WおよびキャリアCに向けて赤外光を照射する。照射部8B,8Cからの赤外光はチャンバ1の側壁、貯留槽2、載置部5およびキャリアCを透過して、複数の基板Wに照射される。
図7の例では、照射部8B,8Cはチャンバ1の両側にそれぞれ設けられているので、複数の基板WにはX軸方向の両側から赤外光が照射される。
【0100】
このような基板処理装置10Aにおいても、照射部8A~8Cからの赤外光が複数の基板Wに照射される。よって、キャリアCおよび基板Wに残留した処理液を直接に加熱することができ、当該処理液を効率的に蒸発させることができる。
【0101】
また、照射部8が複数の方向から基板Wに赤外光を照射するので、基板Wに照射される赤外光のパワー(強度)を増加させることができる。よって、さらに短時間で基板Wを乾燥させることができる。
【0102】
また、照射部8B,8Cも、基板Wの厚み方向(ここではY軸方向)に垂直なX軸方向においてキャリアCと対向する位置に設けられている。よって、照射部8B,8Cの各々からの赤外光も、複数の基板Wの側方(径方向外側)から複数の基板Wに照射される。よって、照射部8Aと同様に、赤外光の強度の基板W間のばらつきを低減させることができる。
【0103】
また、上述の基板処理装置10Aによれば、照射部8B,8Cはチャンバ1の外側に設けられているので、照射部8B,8Cはチャンバ1の内部空間で露出しない。よって、照射部8B,8Cがチャンバ1の内部空間に露出することの起因した照射部8B,8Cの汚染を回避することができる。また、照射部8B,8Cがチャンバ1の外側に設けられるので、照射部8B,8Cに接続される電気配線の引き回しも容易である。一方、基板処理装置10によれば、チャンバ1よりも外側に照射部8を設ける必要がないので、装置サイズ(フットプリント)を低減させることができる。
【0104】
なお、基板処理装置10Aにおいて、チャンバ1の側壁、貯留槽2、載置部5およびキャリアCの各々は、その全体が赤外光についての透光性を有している必要はなく、基板Wに照射される赤外光が透過する領域のみ、透光性を有していればよい。
【0105】
以上のように、基板処理装置10,10Aおよび基板処理方法は詳細に説明されたが、上記の説明は、全ての局面において、例示であって、この基板処理装置10,10Aおよび基板処理方法がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施の形態および各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【0106】
例えば、照射部8は貯留槽2よりも+Z側に設けられ、照射部8Bは貯留槽2よりも-X側に設けられ、照射部8Cは貯留槽2よりも+X側に設けられている。しかしながら、照射部8の設置位置は適宜に変更してもよい。
【0107】
また、上述の例では、複数の単位照射部81がマトリクス状に配置されているものの、必ずしもこれに限らず、その配列態様は適宜に変更し得る。例えば、単位照射部81の各々が一方向に長い長尺状の形状を有し、複数の単位照射部81がその短手方向において間隔を空けて並んで設けられてもよい。この場合も、揺動部9は、単位照射部81の配列方向を成分として含む揺動方向に沿って、キャリアCを揺動させるとよい。揺動方向は、例えば配列方向に沿う方向であってもよい。これによっても、各基板Wの各位置により均一に赤外光を照射できる。
【0108】
また、上述の例では、揺動部9はキャリアCを揺動させているものの、照射部8を揺動させてもよい。
【符号の説明】
【0109】
10,10A 基板処理装置
1 チャンバ
11 筐体
12 蓋
2 貯留槽
31 第1ノズル(液ノズル)
4 排出部
611,611a,611b 第2ノズル(ガスノズル)
8,8A~8C 照射部
81 単位照射部
82 保護部材
9 揺動部
C キャリア
Q1 回動軸
W 基板