(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
B65H 57/14 20060101AFI20240730BHJP
B65H 54/32 20060101ALI20240730BHJP
B65H 57/28 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B65H57/14
B65H54/32
B65H57/28
(21)【出願番号】P 2020178038
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】米倉 踏青
(72)【発明者】
【氏名】田中 竣也
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023787(JP,A)
【文献】国際公開第2016/180679(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 57/14
B65H 54/32
B65H 57/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取軸に装着された複数のボビンに、前記巻取軸の軸方向に並んだ複数の支点ガイドを支点に複数の糸を綾振りしながら巻き取る糸巻取機において、
前記複数の支点ガイドは、中心軸を有するローラ状であって、その外周面に前記糸が掛けられるとともに、糸巻取時に前記中心軸周りに回転しないように構成されており、
前記複数の支点ガイドを、糸巻取時の巻取位置と糸掛作業時の糸掛位置との間で移動させる移動機構と、
前記移動機構によって前記複数の支点ガイドを前記巻取位置と前記糸掛位置との間で移動させると、1つ以上の前記支点ガイドを前記中心軸周りに自動で回転させる回転機構と、
を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記1つ以上の支点ガイドには、前記軸方向における両端の2つの前記支点ガイドが含まれることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記1つ以上の支点ガイドには、すべての前記支点ガイドが含まれることを特徴とする請求項2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記回転機構は、
前記支点ガイド、又は、前記支点ガイドを保持する保持部材に形成されたギア部と、
前記複数の支点ガイドの移動時に、前記ギア部を作動させることによって前記支点ガイドを回転させる作動部材と、
を有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記移動機構は、
前記複数の支点ガイドを支持する複数のスライダと、
前記複数のスライダが摺動可能に取り付けられ
、長手方向に延びる案内レールと、
前記案内レールに沿って前記複数のスライダを移動させる駆動部と、
を有することを特徴とする請求項4に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記複数の支点ガイドが前記巻取位置から前記糸掛位置に移動するときに、前
記長手方向において互いに隣り合う前記スライダ同士が近接することを特徴とする請求項5に記載の糸巻取機。
【請求項7】
前記作動部材は前記スライダに設けられており、
前記作動部材は、
前記複数の支点ガイドが前記巻取位置に位置するときに、前記スライダから突出している突出部と、
前記複数の支点ガイドが前記巻取位置から前記糸掛位置に移動するときに、前記突出部が隣の前記スライダに押圧されると前記ギア部を作動させる作動部と、
を有することを特徴とする請求項6に記載の糸巻取機。
【請求項8】
前記突出部が前記スライダから突出する方向に前記作動部材を付勢する付勢部材が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の糸巻取機。
【請求項9】
糸巻取時に前記ギア部を作動させないようにする係止部材が設けられていることを特徴とする請求項4~8の何れか1項に記載の糸巻取機。
【請求項10】
前記作動部材は変形可能な弾性材料からなり、
前記複数の支点ガイドが前記巻取位置から前記糸掛位置に移動するときに、前記突出部が隣の前記スライダに押圧されると、前記作動部材が変形することによって前記作動部が前記ギア部を動かし、
前記複数の支点ガイドが前記糸掛位置から前記巻取位置に移動するときに、前記作動部材の復元力によって前記突出部が前記スライダから突出することを特徴とする請求項7に記載の糸巻取機。
【請求項11】
糸巻取時に前記ギア部を係止させる係止部が、前記作動部材に一体形成されていることを特徴とする請求項10に記載の糸巻取機。
【請求項12】
前記作動部材が前記案内レールに設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載の糸巻取機。
【請求項13】
前記作動部材は、前記複数の支点ガイドが前記長手方向の一方側に移動するときにのみ、前記ギア部を作動させることによって前記支点ガイドを回転させる作動部を有することを特徴とする請求項12に記載の糸巻取機。
【請求項14】
前記作動部は、前記長手方向に延び、且つ、弾性変形可能であり、
前記作動部の前記一方側の端部は、前記一方側に向かうほど前記ギア部から離間する形状を有することを特徴とする請求項13に記載の糸巻取機。
【請求項15】
前記保持部材と前記スライダとの間の摩擦力は、糸巻取時に前記糸によって前記支点ガイドが回転しないように調整されていることを特徴とする請求項12~14の何れか1項に記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取軸に装着された複数のボビンに、巻取軸の軸方向に並んだ複数の支点ガイドを支点に複数の糸を綾振りしながら巻き取る糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された複数の糸を、巻取軸に装着された複数のボビンに綾振りしながら巻き取る糸巻取機が知られている。このような糸巻取機では、糸を綾振りする際の支点となる複数の支点ガイドが巻取軸の軸方向に並んで設けられている。例えば、特許文献1、2では、巻取軸の軸方向と直交する方向に延びる中心軸を有するローラ状の支点ガイド(特許文献2では案内ローラ)が設けられており、支点ガイドの外周面に糸が掛けられる。特許文献1では、支点ガイドが糸巻取時に中心軸周りに回転しないように構成されている。また、特許文献2では、支点ガイドが中心軸周りに自由回転可能なローラとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-23787号公報
【文献】特表2008-531438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように支点ガイドが糸巻取時に回転しない場合、高速走行する糸が支点ガイドの外周面の同じ部分に接触し続けることによって、支点ガイドの局所的な摩耗が進行しやすい。その結果、糸と支点ガイドの接触状態が変わってしまい、糸の品質低下をもたらすおそれがあった。この点、特許文献1では支点ガイドを回転させるガイド回動機構が設けられており、支点ガイドを回転させることによって、糸との接触位置を変更することができる。しかしながら、ガイド回動機構を作動し忘れると、支点ガイドの局所的な摩耗が進行してしまうという問題があった。
【0005】
一方、特許文献2の支点ガイドは自由回転可能に構成されているため、糸巻取時に糸との摩擦によって支点ガイドが常時回転し、局所的な摩耗を抑えることができる。しかしながら、糸が高速走行していると支点ガイドも高速回転するため、支点ガイドの軸受けが必須となる。しかしながら、支点ガイドの高速回転によって軸受けが早期に破損しやすく、そのメンテナンスにコストや手間を要するという問題があった。
【0006】
以上の課題に鑑みて、本発明では、支点ガイドの局所的な摩耗を確実に低減でき、且つ、支点ガイドの軸受けが不要な糸巻取機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、巻取軸に装着された複数のボビンに、前記巻取軸の軸方向に並んだ複数の支点ガイドを支点に複数の糸を綾振りしながら巻き取る糸巻取機において、前記複数の支点ガイドは、中心軸を有するローラ状であって、その外周面に前記糸が掛けられるとともに、糸巻取時に前記中心軸周りに回転しないように構成されており、前記複数の支点ガイドを、糸巻取時の巻取位置と糸掛作業時の糸掛位置との間で移動させる移動機構と、前記移動機構によって前記複数の支点ガイドを前記巻取位置と前記糸掛位置との間で移動させると、1つ以上の前記支点ガイドを前記中心軸周りに自動で回転させる回転機構と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、支点ガイドは、移動機構によって巻取位置と糸掛位置との間で移動可能に構成されている。そして、移動機構によって支点ガイドを移動させると、1つ以上の支点ガイドを自動で回転させる回転機構が設けられている。したがって、支点ガイドへの糸掛作業を行うたびに、1つ以上の支点ガイドを確実に回転させることができ、支点ガイドの局所的な摩耗を確実に低減することができる。また、糸巻取時に支点ガイドは回転しないように構成されているため、糸の走行による高速回転にさらされることがなく、支点ガイドの軸受けを不要とすることができる。なお、局所的な摩耗があまり問題とならない支点ガイドを回転させることは必須ではないので、回転機構は局所的な摩耗が問題となりやすい1つ以上の支点ガイドを回転させるものであれば十分である。
【0009】
本発明において、前記1つ以上の支点ガイドには、前記軸方向における両端の2つの前記支点ガイドが含まれるとよい。
【0010】
一般的な糸巻取機では、巻取軸の軸方向に並んだ複数の支点ガイドのうち端に近いものほど、糸の巻掛角が大きくなることで糸から受ける面圧が大きくなり、摩耗が問題となりやすい。したがって、回転機構によって少なくとも両端の2つの支点ガイドを回転させるようにしておけば、支点ガイドの局所的な摩耗の問題を概ね解消できる。
【0011】
本発明において、前記1つ以上の支点ガイドには、すべての前記支点ガイドが含まれるとよい。
【0012】
こうすれば、すべての支点ガイドに関して確実に局所的な摩耗を低減することができる。
【0013】
本発明において、前記回転機構は、前記支点ガイド、又は、前記支点ガイドを保持する保持部材に形成されたギア部と、前記複数の支点ガイドの移動時に、前記ギア部を作動させることによって前記支点ガイドを回転させる作動部材と、を有するとよい。
【0014】
このような回転機構であれば、例えば1回でギア部の歯1個分だけ支点ガイドを回転させるといったように、支点ガイドの回転量の調整が容易となる。
【0015】
本発明において、前記移動機構は、前記複数の支点ガイドを支持する複数のスライダと、前記複数のスライダが摺動可能に取り付けられた案内レールと、前記案内レールに沿って前記複数のスライダを移動させる駆動部と、を有するとよい。
【0016】
このような移動機構であれば、スライダを案内レールに沿って移動させれば、支点ガイドを移動させることができる。
【0017】
本発明において、前記複数の支点ガイドが前記巻取位置から前記糸掛位置に移動するときに、前記案内レールの長手方向において互いに隣り合う前記スライダ同士が近接するとよい。
【0018】
このような構成によれば、複数の支点ガイドが糸掛位置に位置するときには、複数の支点ガイドが近接した状態で集合しているので、糸掛作業が容易となる。
【0019】
本発明において、前記作動部材は前記スライダに設けられており、前記作動部材は、前記複数の支点ガイドが前記巻取位置に位置するときに、前記スライダから突出している突出部と、前記複数の支点ガイドが前記巻取位置から前記糸掛位置に移動するときに、前記突出部が隣の前記スライダに押圧されると前記ギア部を作動させる作動部と、を有するとよい。
【0020】
このような構成によれば、支点ガイドが糸掛位置に移動するときに、作動部材によって確実に支点ガイドを所定量だけ回転させることができる。
【0021】
本発明において、前記突出部が前記スライダから突出する方向に前記作動部材を付勢する付勢部材が設けられているとよい。
【0022】
このような付勢部材を設ければ、支点ガイドが巻取位置に移動するときに、自動で突出部がスライダから突出した状態に戻すことができる。
【0023】
本発明において、糸巻取時に前記ギア部を作動させないようにする係止部材が設けられているとよい。
【0024】
このような構成によれば、糸巻取時にギア部の回転を確実に防止することができ、糸巻取時に意図せず支点ガイドが回転しまうことを回避できる。
【0025】
本発明において、前記作動部材は変形可能な弾性材料からなり、前記複数の支点ガイドが前記巻取位置から前記糸掛位置に移動するときに、前記突出部が隣の前記スライダに押圧されると、前記作動部材が変形することによって前記作動部が前記ギア部を動かし、前記複数の支点ガイドが前記糸掛位置から前記巻取位置に移動するときに、前記作動部材の復元力によって前記突出部が前記スライダから突出するとよい。
【0026】
このような構成によれば、支点ガイドが巻取位置に移動するときに、自動で突出部がスライダから突出した状態に戻すことができる。また、作動部材の復元力を利用することで付勢部材が不要となるので、部品点数を抑えることができる。
【0027】
本発明において、糸巻取時に前記ギア部を係止させる係止部が、前記作動部材に一体形成されているとよい。
【0028】
このような構成によれば、糸巻取時にギア部の回転を確実に防止することができ、糸巻取時に意図せず支点ガイドが回転しまうことを回避できる。また、係止部が作動部材に一体形成されているので、部品点数を抑えることができる。
【0029】
本発明において、前記作動部材が前記案内レールに設けられているとよい。
【0030】
作動部材を案内レールに設けるようにすれば、各スライダに作動部材を設ける場合と比べて、作動部材の数を減らすことができる。
【0031】
本発明において、前記作動部材は、前記複数の支点ガイドが前記長手方向の一方側に移動するときにのみ、前記ギア部を作動させることによって前記支点ガイドを回転させる作動部を有するとよい。
【0032】
このような構成によれば、支点ガイドが長手方向の他方側に移動するときには、作動部材が支点ガイドを回転させることがなく、支点ガイドの回転量の調整が容易となる。
【0033】
本発明において、前記作動部は、前記長手方向に延び、且つ、弾性変形可能であり、前記作動部の前記一方側の端部は、前記一方側に向かうほど前記ギア部から離間する形状を有するとよい。
【0034】
作動部がこのような形状であれば、支点ガイドが長手方向の他方側に移動するときに、作動部がギア部と接触することでギア部から遠ざかるように変形するので、作動部が支点ガイドを回転させてしまうことを回避できる。
【0035】
本発明において、前記保持部材と前記スライダとの間の摩擦力は、糸巻取時に前記糸によって前記支点ガイドが回転しないように調整されているとよい。
【0036】
このような構成によれば、糸巻取時にギア部の回転を防止するための係止部材をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本実施形態に係る紡糸引取装置の側面図である。
【
図3】第1実施例の回転機構の動作を示す図である。
【
図4】第2実施例の回転機構の動作を示す図である。
【
図6】第3実施例の回転機構の作動部材を示す上面図である。
【
図7】第3実施例の回転機構の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る糸巻取機を紡糸引取装置に適用した実施形態について説明する。
【0039】
(紡糸引取装置)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取装置の側面図である。本明細書では、
図1に示す前後左右上下の各方向を、紡糸引取装置の前後左右上下と定義する。
【0040】
紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数(本実施形態では16本)の糸Yを引き取る装置であり、ゴデットローラ3、4及び糸巻取機10を備えている。紡糸装置2は、紡糸引取装置1の上方に配置されており、合成樹脂からなる複数の糸Yを紡出する。ゴデットローラ3、4は、紡糸装置2の下方に配置されており、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、ゴデットローラ3、4を経由して、糸巻取機10へ送られる。
【0041】
糸巻取機10は、ゴデットローラ3、4の下方に配置されている。糸巻取機10は、機台11に内蔵されたターレット12によって片持ち支持された2本のボビンホルダ13(本発明の巻取軸に相当)を有する。ボビンホルダ13は前後方向(本発明の軸方向に相当)に延びており、その後端部がターレット12によって支持されている。ボビンホルダ13には、前後方向に複数のボビンBを装着することができる。ボビンホルダ13は、不図示のモータによって軸周りに回転駆動される。
【0042】
ターレット12は、前後方向に平行な回転軸を有する円板状の部材であり、周方向に180度異なる上位置と下位置とのそれぞれにボビンホルダ13が取り付けられている。ターレット12を回転させることによって、2本のボビンホルダ13が上位置と下位置との間で移動する。上位置のボビンホルダ13では、複数の糸Yを複数のボビンBに巻き取って、複数のパッケージPを形成する。一方、下位置のボビンホルダ13では、複数のパッケージPの回収、及び、新しい複数のボビンBの装着が行われる。
【0043】
糸巻取機10は、機台11に片持ち支持された支持フレーム14を有する。支持フレーム14は、その後端部が機台11によって支持されている。支持フレーム14の上方には、ガイドユニット15が配置されている。ガイドユニット15には、糸Yの本数と同じ数(本実施形態では16個)の支点ガイド16が前後方向に並んで設けられている。支持フレーム14には、糸Yの本数と同じ数のトラバース装置17が前後方向に並んで設けられている。トラバース装置17は、対応する支点ガイド16を支点として糸Yを前後方向に綾振りさせる。
【0044】
支持フレーム14の下方には、支持フレーム14によって回転可能に支持されたコンタクトローラ18が配置されている。コンタクトローラ18は、上位置のボビンホルダ13に保持されている複数のパッケージPの外周面に接触する。糸巻取時に、コンタクトローラ18がパッケージPに所定の接圧を付与しながら回転することで、パッケージPの形状を整えることができる。
【0045】
(ガイドユニット)
ガイドユニット15の構成について説明する。
図2は、ガイドユニット15の側面図である。
図2のa図は、複数の支点ガイド16が巻取位置に位置する状態を示し、
図2のb図は、複数の支点ガイド16が糸掛位置に位置する状態を示す。巻取位置とは、複数のボビンBに複数の糸Yを巻き取るときの複数の支点ガイド16の位置である。糸掛位置とは、複数の支点ガイド16に複数の糸Yを掛けるときの複数の支点ガイド16の位置である。複数の支点ガイド16は、移動機構20によって巻取位置と糸掛位置との間で移動可能に構成されている。
【0046】
ガイドユニット15は、複数の支点ガイド16及び移動機構20を有して構成されている。移動機構20は、複数のスライダ21と、案内レール22と、エアシリンダ23(本発明の駆動部に相当)とを有する。スライダ21は、支点ガイド16と同じ数だけ設けられており、支点ガイド16を回転可能に支持する。
【0047】
支点ガイド16は、スライダ21から右方に突出しており(
図5参照)、ボビンホルダ13の軸方向と直交する方向(左右方向)に延びる中心軸を有するローラ状の部材である。糸Yは支点ガイド16の外周面に掛けられており、糸巻取時に、糸Yは支点ガイド16の外周面に接触した状態で走行する。後で説明するように、支点ガイド16は、糸巻取時には糸Yの走行によって中心軸周りに回転しないように構成されている。
【0048】
案内レール22は、前後方向(本発明の長手方向に相当)に延びる部材であり、不図示のブラケットを介して支持フレーム14に固定されている。案内レール22には、複数のスライダ21が前後方向に並んだ状態で摺動可能に取り付けられている。前後方向において互いに隣り合うスライダ21同士は、不図示のベルトによって互いに連結されている。最も後側のスライダ21には、エアシリンダ23のロッド23aが連結されている。
【0049】
図2のa図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが縮んでいるとき、複数のスライダ21は互いに離間した状態で前後方向に並んでいる。つまり、複数の支点ガイド16も互いに離間した状態で前後方向に並んでいる。このときの複数の支点ガイド16の位置が巻取位置である。複数の支点ガイド16が巻取位置に位置するとき、糸Yと各支点ガイド16との接点、すなわち、糸Yの綾振り支点が等間隔となっている。
【0050】
ゴデットローラ4から巻取位置に位置する複数の支点ガイド16に分配される複数の糸Yの糸道は、前後方向において複数の支点ガイド16の中心を通る鉛直面に関して対称になっている。前側半分の8本の糸Yは、支点ガイド16の前側に掛けられるのに対し、後側半分の8本の糸Yは、支点ガイド16の後側に掛けられる。また、複数の支点ガイド16のうち端に近いものほど、糸Yの巻掛角が大きく、その結果、糸Yの面圧が大きいため摩耗が生じやすくなっている。
【0051】
複数の支点ガイド16への糸掛作業を行う際には、エアシリンダ23を駆動してロッド23aを伸長させる。すると、ロッド23aに連結された最も後側のスライダ21が前方へ移動する。続けて、最も後側のスライダ21がその前隣りのスライダ21に当接して前方に押圧し、同様に各スライダ21がその前隣りのスライダ21に当接して前方に押圧する動作が繰り返される。なお、ここでの「当接する」という表現は、例えば
図3のb図に示すように、他の部材(後述する作動部材33の突出部33a)を介してスライダ21同士が間接的に接する形態も含む。
【0052】
最も前側のスライダ21が、案内レール22の前端部に設けられた不図示のストッパに当接すると、エアシリンダ23は停止する。その結果、すべてのスライダ21が案内レール22の前端部に互いに近接した状態で集合する。このときの複数の支点ガイド16の位置が糸掛位置である。糸掛位置に位置する複数の支点ガイド16は、互いに近接した状態で案内レール22の前端部に集合しているため、複数の支点ガイド16への糸掛作業が行いやすい。なお、上記のようなストッパの代わりに、案内レール22の前端部がストッパとして機能するように構成されていてもよいし、エアシリンダ23のロッド23aがストッパに当接して停止する構成であってもよい。
【0053】
糸掛作業の終了後に、エアシリンダ23を駆動してロッド23aを収縮させると、最も後側のスライダ21が後方へ移動する。最も後側のスライダ21とその前隣りのスライダ21とを連結しているベルトが伸びきると、前隣りのスライダ21が後方へ引っ張られる。以降、同様に各スライダ21が後方へ引っ張られることにより、複数の支点ガイド16は
図2のa図に示す巻取位置に戻る。なお、スライダ21を移動させる駆動部は、エアシリンダ23に限定されず、モータ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0054】
(回転機構の第1実施例)
回転機構の第1実施例について説明する。
図3は、第1実施例の回転機構30の動作を示す図である。
図3のa図は、支点ガイド16が巻取位置に位置する状態を示し、
図3のb図は、支点ガイド16が糸掛位置に位置する状態を示す。
図3に示す支点ガイド16は、最も前側の支点ガイド16を示したものである。
【0055】
本実施例では、各スライダ21に回転装置31が設けられており、各スライダ21に設けられた回転装置31の集合体が回転機構30である。回転装置31は、支点ガイド16を保持する保持部材32に形成されたギア部32aと、ギア部32aを作動させる作動部材33とを有して構成される。支点ガイド16は、保持部材32に固定されており、保持部材32と一体回転可能である。保持部材32は、支点ガイド16の中心軸周りに回転可能にスライダ21に取り付けられている(
図5の保持部材52参照)。これによって、支点ガイド16は中心軸周りに回転可能に構成されている。本実施例では、ギア部32a、作動部材33及び後述の係止部材35が、すべてスライダ21の表側(右側)に設けられている。しかしながら、これらがスライダ21の裏側(左側)に設けられてもよい。
【0056】
作動部材33は、突出部33a、作動部33b及び接続部33cが一体形成された部材である。突出部33aは、支点ガイド16が巻取位置に位置するときに、スライダ21から後方に突出する部位である。突出部33aは、スライダ21の後側に向かって伸びており、支点ガイド16が糸掛位置に移動するときに、後隣りのスライダ21によって前方に押圧される。作動部33bは、ギア部32aを作動させる部位であり、その先端部によってギア部32aの歯を押圧する。接続部33cは、突出部33aと作動部33bとを接続している部位である。作動部材33は、ばね34(本発明の付勢部材に相当)によって後方、すなわち、突出部33aがスライダ21から突出する方向に付勢されている。なお、突出部33aが後方に突出することは必須ではなく、後隣りのスライダ21によって押圧される位置であれば、他の方向に突出していてもよい。
【0057】
図3に示す支点ガイド16は、糸巻取時に糸Yの走行によって
図3の反時計回りにトルクが加えられる。このトルクによって糸巻取時に支点ガイド16が回転しないように、ギア部32aを係止させる係止部材35が設けられている。係止部材35は、支点35a周りに揺動可能であり、ばね36によってギア部32aに向かって付勢されている。係止部材35は、その先端部がギア部32aの歯と歯の間に位置してギア部32aを係止することで、ギア部32aが反時計回りに回転することを防止し、ひいては、支点ガイド16が反時計回りに回転することを防止する。なお、係止部材35及びギア部32aの歯は、ギア部32aが時計回りに回転する際に、その回転が係止部材35によって妨げられない形状とされている。
【0058】
支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するとき、後隣りのスライダ21によって作動部材33の突出部33aが前方に押圧される。すると、作動部材33の作動部33bがギア部32aを時計回りに回転させ、これによって、支点ガイド16も時計回りに回転する。このとき、時計回りに回転するギア部32aの歯に押圧されることによって、係止部材35は反時計回りに揺動し、係止部材35がギア部32aの回転を妨げることはない。
【0059】
本実施例では、作動部材33が支点ガイド16すなわちギア部32aを回転させる角度が、ギア部32aの歯1個分となるように調整されている。ここで、複数の支点ガイド16のうち最も端の支点ガイド16では、糸Yの巻掛角が最大となり、摩耗が生じる周方向範囲が最も広い。したがって、支点ガイド16を回転させる角度(ギア部32aの歯1個分)を、最も端の支点ガイド16における糸Yの巻掛角以上とすると、端の支点ガイド16での摩耗の進行を効果的に抑制できる。ただし、支点ガイド16をどれだけ回転させるかはこれに限られず、適宜変更が可能である。
【0060】
支点ガイド16への糸掛作業を終え、支点ガイド16を糸掛位置から巻取位置に戻すと、後隣りのスライダ21が離れる。すると、ばね34の付勢力によって作動部材33が後方に移動し、突出部33aがスライダ21から後方に突出する。支点ガイド16が巻取位置に戻り糸Yの巻き取りが始まると、糸Yの走行によって支点ガイド16には反時計回りのトルクが作用するが、上述のように、係止部材35によって支点ガイド16の回転は防止される。
【0061】
なお、ここでは最も前側の支点ガイド16に対して設けられた回転装置31について説明してきたが、前側に糸Yが掛けられる前側8個の支点ガイド16は同様の構成である。一方、後側8個の支点ガイド16では、後側に糸Yが掛けられるため、糸巻取時に糸Yの走行によってトルクが加わる向きが前側8個の支点ガイド16とは逆の時計回りとなる。このため、後側8個の支点ガイド16に対して設けられるギア部32a、作動部材33及び係止部材35は、
図3に示すものとは前後対称に配置される。なお、ここで説明した形態は一例にすぎず、前側に糸Yが掛けられる支点ガイド16の数と、後側に糸Yが掛けられる支点ガイド16の数は、適宜変更することが可能であり、必ずしも同数でなくてもよい。
【0062】
(第1実施例の効果)
本実施例の効果について説明する。本実施例では、支点ガイド16は、移動機構20によって巻取位置と糸掛位置との間で移動可能に構成されている。そして、移動機構20によって支点ガイド16を移動させると、1つ以上の支点ガイド16を自動で回転させる回転機構30が設けられている。したがって、支点ガイド16への糸掛作業を行うたびに、1つ以上の支点ガイド16を確実に回転させることができ、支点ガイド16の局所的な摩耗を確実に低減することができる。また、糸巻取時に支点ガイド16は回転しないように構成されているため、糸Yの走行による高速回転にさらされることがなく、支点ガイド16の軸受けを不要とすることができる。
【0063】
本実施例では、上記1つ以上の支点ガイドには、軸方向における両端の2つの支点ガイド16が含まれる。一般的な糸巻取機10では、ボビンホルダ13の軸方向に並んだ複数の支点ガイド16のうち端に近いものほど、糸Yの巻掛角が大きくなることで糸Yから受ける面圧が大きくなり、摩耗が問題となりやすい。したがって、回転機構30によって少なくとも両端の2つの支点ガイド16を回転させるようにしておけば、支点ガイド16の局所的な摩耗の問題を概ね解消できる。
【0064】
本実施例では、上記1つ以上の支点ガイドには、すべての支点ガイド16が含まれる。こうすれば、すべての支点ガイドに関して確実に局所的な摩耗を低減することができる。
【0065】
本実施例では、回転機構30は、支点ガイド16を保持する保持部材32に形成されたギア部32aと、複数の支点ガイド16の移動時に、ギア部32aを作動させることによって支点ガイド16を回転させる作動部材33と、を有する。このような回転機構30であれば、例えば1回でギア部32aの歯1個分だけ支点ガイド16を回転させるといったように、支点ガイド16の回転量の調整が容易となる。
【0066】
本実施例では、移動機構20は、複数の支点ガイド16を支持する複数のスライダ21と、複数のスライダ21が摺動可能に取り付けられた案内レール22と、案内レール22に沿って複数のスライダ21を移動させるエアシリンダ23と、を有している。このような移動機構20であれば、スライダ21を案内レール22に沿って移動させれば、支点ガイド16を移動させることができる。
【0067】
本実施例では、複数の支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するときに、案内レール22の長手方向(前後方向)において互いに隣り合うスライダ21同士が近接するとよい。このような構成によれば、複数の支点ガイド16が糸掛位置に位置するときには、複数の支点ガイド16が近接した状態で集合しているので、糸掛作業が容易となる。
【0068】
本実施例では、作動部材33はスライダ21に設けられており、作動部材33は、複数の支点ガイド16が巻取位置に位置するときに、スライダ21から突出している突出部33aと、複数の支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するときに、突出部33aが隣のスライダ21に押圧されるとギア部32aを作動させる作動部33bと、を有する。このような構成によれば、支点ガイド16が糸掛位置に移動するときに、作動部材33によって確実に支点ガイド16を所定量だけ回転させることができる。
【0069】
本実施例では、突出部33aがスライダ21から突出する方向に作動部材33を付勢するばね34が設けられている。このようなばね34を設ければ、支点ガイド16が巻取位置に移動するときに、自動で突出部33aがスライダ21から突出した状態に戻すことができる。
【0070】
本実施例では、糸巻取時にギア部32aを作動させないようにする係止部材35が設けられている。このような構成によれば、糸巻取時にギア部32aの回転を確実に防止することができ、糸巻取時に意図せず支点ガイド16が回転しまうことを回避できる。
【0071】
(回転機構の第2実施例)
回転機構の第2実施例について説明する。第1実施例と共通する構成については適宜説明を省略し、第1実施例と異なる点を主に説明する。
図4は、第2実施例の回転機構40の動作を示す図である。
図4のa図は、支点ガイド16が巻取位置に位置する状態を示し、
図4のb図は、支点ガイド16が糸掛位置に位置する状態を示す。
図4に示す支点ガイド16は、最も前側の支点ガイド16を示したものである。前側に糸Yが掛けられる前側8個の支点ガイド16は同様の構成であるが、後側8個の支点ガイド16に関しては、ギア部42a及び作動部材43は、
図4に示すものとは前後対称に配置される。
【0072】
本実施例では、各スライダ21に回転装置41が設けられており、各スライダ21に設けられた回転装置41の集合体が回転機構40である。回転装置41は、支点ガイド16を保持する保持部材42に形成されたギア部42aと、ギア部42aを作動させる作動部材43とを有して構成される。支点ガイド16は、保持部材42に固定されており、保持部材42と一体回転可能である。保持部材42は、支点ガイド16の中心軸周りに回転可能にスライダ21に取り付けられている(
図5の保持部材52参照)。これによって、支点ガイド16は中心軸周りに回転可能に構成されている。本実施例では、ギア部42a及び作動部材43がスライダ21の裏側(左側)に設けられている。しかしながら、これらがスライダ21の表側(右側)に設けられてもよい。
【0073】
作動部材43は、変形可能な弾性材料、例えば、樹脂からなる。作動部材43は、固定部43a、第1アーム部43b、第2アーム部43c、突出部43d、作動部43e及び係止部43fが一体形成された部材である。作動部材43は、第1アーム部43bと第2アーム部43cとによってギア部42aを囲むように配置されている。
【0074】
固定部43aは、ボルト等によってスライダ21に固定されており、第1アーム部43b及び第2アーム部43cの基端部となっている。第1アーム部43bは、固定部43aから下方に延びてから屈曲して後方に延びている。第2アーム部43cは、固定部43aから後方に延びている。突出部43dは、第1アーム部43bの先端部に形成されている。突出部43dは、支点ガイド16が巻取位置に位置するときに、スライダ21から後方に突出する部位である。作動部43eは、第1アーム部43bの先端部から分岐してギア部42aに向かって延びている。作動部43eは、ギア部32aを作動させる部位であり、その先端部によってギア部42aの歯を押圧する。係止部43fは、第2アーム部43cの先端部に形成されている。係止部43fは、糸巻取時に糸Yの走行によって支点ガイド16が
図4の反時計回りに回転しないように、ギア部42aを係止させる部位である。
【0075】
支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するとき、後隣りのスライダ21によって作動部材43の突出部43dが前方に押圧される。すると、固定部43aが固定されている作動部材43は、第1アーム部43bが
図4のb図に示すように変形する。その結果、作動部材43の作動部43eがギア部42aを時計回りに回転させ、これによって、支点ガイド16も時計回りに回転する。このとき、時計回りに回転するギア部42aの歯によって、係止部43fが後方に押されるように第2アーム部43cが変形し、係止部43fがギア部42aの回転を妨げることはない。
【0076】
支点ガイド16への糸掛作業を終え、支点ガイド16を糸掛位置から巻取位置に戻すと、後隣りのスライダ21が離れるにつれて、作動部材43の復元力によって第1アーム部43bが元の形状に戻り、突出部43dの一部がスライダ21から後方に突出する。支点ガイド16が巻取位置に戻り糸Yの巻き取りが始まると、糸Yの走行によって支点ガイド16には反時計回りのトルクが作用するが、上述のように、係止部43fによって支点ガイド16の回転は防止される。
【0077】
(第2実施例の効果)
本実施例の効果について説明するが、第1実施例と共通する構成による効果の説明は省略する。本実施例では、作動部材43は変形可能な弾性材料からなり、複数の支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するときに、突出部43dが隣のスライダ21に押圧されると、作動部材43が変形することによって作動部43eがギア部42aを動かし、複数の支点ガイド16が糸掛位置から巻取位置に移動するときに、作動部材43の復元力によって突出部43dがスライダ21から突出する。このような構成によれば、支点ガイド16が巻取位置に移動するときに、自動で突出部43dがスライダ21から突出した状態に戻すことができる。また、作動部材43の復元力を利用することで付勢部材が不要となるので、部品点数を抑えることができる。
【0078】
本実施例では、糸巻取時にギア部42aを係止させる係止部43fが、作動部材43に一体形成されている。このような構成によれば、糸巻取時にギア部42aの回転を確実に防止することができ、糸巻取時に意図せず支点ガイド16が回転しまうことを回避できる。また、係止部43fが作動部材43に一体形成されているので、部品点数を抑えることができる。
【0079】
(回転機構の第3実施例)
回転機構の第3実施例について説明する。第1実施例と共通する構成については適宜説明を省略し、第1実施例と異なる点を主に説明する。
図5は、第3実施例の回転機構50を示す断面図である。
図6は、第3実施例の回転機構50の作動部材53を示す上面図である。
図7は、第3実施例の回転機構50の動作を示す図である。
図7のa図は、支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するときを示し、
図7のb図は、支点ガイド16が糸掛位置から巻取位置に移動するときを示す。
【0080】
本実施例の回転機構50が、第1実施例の回転機構30及び第2実施例の回転機構40と大きく異なる点は2点ある。1点目は、糸巻取時に支点ガイド16を回転させないようにギア部52aを係止させる係止部材(あるいは係止部)が設けられていないという点である。2点目は、作動部材53が各スライダ21に設けられているのではなく、案内レール22に設けられているという点である。以下、詳細に説明する。
【0081】
本実施例の回転機構50は、各支点ガイド16を保持する保持部材52に形成されたギア部52aと、ギア部52aを作動させる作動部材53とを有して構成される。支点ガイド16は、保持部材52に固定されており、保持部材52と一体回転可能である。
図5に示すように、保持部材52は、スライダ21の表面(右面)に形成された取付穴21aに取り付けられている。保持部材52とスライダ21との間の摩擦力は、糸巻取時に糸Yが走行しても、それによって支点ガイド16すなわち保持部材52が中心軸周りに回転しない程度に調整されている。このため、本実施例では係止部材が省略可能となっている。ギア部52aは、スライダ21の裏側(左側)に設けられており、案内レール22に固定された作動部材53によって作動される。
【0082】
作動部材53は、変形可能な弾性材料、例えば、金属や樹脂からなり、ギア部52aの下端部近傍に配置されている。
図6に示すように、作動部材53は、固定部53a及び作動部53bが一体形成された部材である。固定部53aは、ボルト等によって案内レール22に固定されている。作動部53bは、案内レール22の長手方向(前後方向)に延びている。作動部53bの前部は、略水平な面とされており、前後方向から見るとギア部52aの下端部と重複している(
図5参照)。これによって、作動部53bの前端部によってギア部52aの歯を押圧することができる。作動部53bの後端部は、後側に向かうほどギア部52aから離間する傾斜部となっている。なお、作動部53bの後端部は、後側に向かうほどギア部52aから離間する形状であれば、傾斜ではなく湾曲していてもよい。
【0083】
図7のa図に示すように、支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するとき、ギア部52aが作動部53bの傾斜部に当接すると、作動部53bはギア部52aによって下方に押圧される。その結果、作動部53bは、下方に撓むように変形し、ギア部52aを回転させることはない。一方、
図7のb図に示すように、支点ガイド16が糸掛位置から巻取位置に移動するとき、ギア部52aの歯が作動部53bの前端部によって相対的に押圧され、ギア部52aは時計回りに回転し、これによって、支点ガイド16も時計回りに回転する。保持部材52とスライダ21との間の摩擦力は、ギア部52aが作動部53bの前端部によって押圧されたときに回転できる程度に調整されている。つまり、保持部材52とスライダ21との間の摩擦力は、糸巻取時の糸Yの張力よりも大きく、且つ、作動部53bの前端部がギア部52aを押圧する力よりも小さい。
【0084】
本実施例によれば、支点ガイド16が巻取位置と糸掛位置との間で移動するときに、案内レール22に設けられた作動部材53によって支点ガイド16が中心軸周りに回転する。このため、すべての支点ガイド16(スライダ21)が通過する位置に作動部材53を設ければ、作動部材53の数は1つで足りる。ただし、作動部材53の個数は1つに限らず、2個以上設けてもよい。また、本実施例では、支点ガイド16が糸掛位置から巻取位置に移動するときに支点ガイド16を回転させる構成としたが、支点ガイド16が巻取位置から糸掛位置に移動するときに支点ガイド16を回転させるようにしてもよい。あるいは、最終的に支点ガイド16が元の位置から回転しているのであれば、巻取位置から糸掛位置に移動するとき、及び、糸掛位置から巻取位置に移動するときの両方において、支点ガイド16を回転させるようにしてもよい。
【0085】
(第3実施例の効果)
本実施例の効果について説明するが、第1実施例と共通する構成による効果の説明は省略する。本実施例では、作動部材53が案内レール22に設けられている。作動部材53を案内レール22に設けるようにすれば、各スライダ21に作動部材を設ける場合と比べて、作動部材53の数を減らすことができる。
【0086】
本実施例では、作動部材53は、複数の支点ガイド16が案内レール22の長手方向の一方側(後側)に移動するときにのみ、ギア部52aを作動させることによって支点ガイド16を回転させる作動部53bを有する。このような構成によれば、支点ガイド16が他方側(前側)に移動するときには、作動部材53が支点ガイド16を回転させることがなく、支点ガイド16の回転量の調整が容易となる。
【0087】
本実施例では、作動部53bは、案内レール22の長手方向(前後方向)に延び、且つ、弾性変形可能であり、作動部53bの一方側の端部(後端部)は、一方側(後側)に向かうほどギア部52aから離間する形状を有する。作動部53bがこのような形状であれば、支点ガイド16が他方側(前側)に移動するときに、作動部53bがギア部52aと接触することでギア部52aから遠ざかるように変形するので、作動部53bが支点ガイド16を回転させてしまうことを回避できる。
【0088】
本実施例では、保持部材52とスライダ21との間の摩擦力は、糸巻取時に糸Yによって支点ガイド16が回転しないように調整されている。このような構成によれば、糸巻取時にギア部52aの回転を防止するための係止部材をなくすことができる。
【0089】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0090】
上記実施形態では、支点ガイド16を保持する保持部材32、42、52の外周面にギア部32a、42a、52aが形成されているものとした。しかしながら、支点ガイド16の外周面にギア部を形成するようにしてもよい。
【0091】
第1実施例では係止部材35を設け、第2実施例では係止部43fを設けるものとした。しかしながら、係止部材35及び係止部43fを設ける代わりに、第3実施例のように、保持部材32、42とスライダ21との間の摩擦力を大きくすることで、糸巻取時に支点ガイド16が回転しないようにしてもよい。反対に、第3実施例において、係止部材を設けるようにしてもよい。
【0092】
上記第1~第3実施例では、回転機構30、40、50によってすべての支点ガイド16を回転させるものとした。しかしながら、回転機構30、40、50は、局所的な摩耗が問題となりやすい一部の支点ガイド16(例えば両端の支点ガイド16)のみを回転させるものでもよい。
【0093】
上記実施形態では、複数の支点ガイド16が糸掛位置に位置するとき、複数の支点ガイド16が互いに近接した状態で案内レール22の前端部に集合しているものとした。しかしながら、第3実施例のように、作動部材53が案内レール22に設けられている場合には、複数の支点ガイド16が糸掛位置で互いに近接することは必須ではない。つまり、複数の支点ガイド16が互いの間隔を変えずに、巻取位置と糸掛位置との間で一体的に移動する場合でも、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
10:糸巻取機
13:ボビンホルダ(巻取軸)
16:支点ガイド
20:移動機構
21:スライダ
22:案内レール
23:エアシリンダ(駆動部)
30、40、50:回転機構
32、42、52:保持部材
32a、42a、52a:ギア部
33、43、53:作動部材
33a、43d:突出部
33b、43e、53b:作動部
34:ばね(付勢部材)
35:係止部材
43f:係止部
B:ボビン
Y:糸