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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車両用警報装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240730BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240730BHJP
   G08B 21/00 20060101ALI20240730BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240730BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240730BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20240730BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
G08B21/00 U
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
B62D119:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020179143
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022070108
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】南部 彰
(72)【発明者】
【氏名】アブヅルラヒム ムハッマドイクマル ビン
(72)【発明者】
【氏名】田代 貴文
(72)【発明者】
【氏名】松元 涼
(72)【発明者】
【氏名】江崎 之進
(72)【発明者】
【氏名】井戸 雄一郎
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-041308(JP,A)
【文献】特開2013-056636(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109835332(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0152234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 - 6/10
B62D 5/00 - 5/32
G08B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵に連動する車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータと、
運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、前記警報として前記ステアリングホイールが振動するように前記モータの駆動を制御する制御装置と、を有し、
前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールの振動の開始方向を前記ステアリングホイールの操舵方向と同じ方向に設定するように構成され、
前記ステアリングホイールの操舵方向は、操舵角速度が正の値となる正の操舵方向と、前記操舵角速度が負の値となる前記正の操舵方向とは反対方向である負の操舵方向とを含む車両用警報装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールを振動させるべく正と負の値が変化する波動として前記モータに発生させるべきトルクである警報トルクを演算する警報トルク演算部を有し
前記警報トルク演算部は、前記特定の状況が生じたとき、前記警報トルクが前記ステアリングホイールの操舵方向と同じ方向へ向けて変化を開始するように前記警報トルクの符号を設定する請求項1に記載の車両用警報装置。
【請求項3】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された構造を有するものであって、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と同方向のトルクであるアシストトルクを演算するアシストトルク演算部と、
前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記アシストトルク演算部により演算される前記アシストトルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有する請求項2に記載の車両用警報装置。
【請求項4】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離された構造を有するものであって、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力トルクを演算する操舵反力トルク演算部と、
前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記操舵反力トルク演算部により演算される前記操舵反力トルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有する請求項2に記載の車両用警報装置。
【請求項5】
前記警報トルク演算部は、前記ステアリングホイールの操舵方向を前記操舵角速度に基づき判定する請求項2~請求項4のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【請求項6】
前記特定の状況は、自車両が走行路から逸脱する状況を含んでいる請求項2~請求項5のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記特定の状況を判定する車載の上位制御装置により生成される警報指令が受信されることを契機として、前記警報としての前記ステアリングホイールの振動を開始させる請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行路から逸脱する場合、運転者に対して警告を行う装置が存在する。たとえば特許文献1の警報装置は、ステアリングシャフトに駆動力を付与するモータ、およびモータを制御する制御装置を有している。ステアリングシャフトにはステアリングホイールが取り付けられている。制御装置は、車両が走行路から逸脱する旨判定される期間、ステアリングホイールが振動するようにモータに対する給電を制御する。
【0003】
制御装置は、ステアリングホイールの操舵角に応じてモータへ供給される電流に微小振動成分を重畳させる。微小振動成分は正弦波状に変化する電流であって、その電流の値はあらかじめ制御装置に記憶されている。微小振動成分がモータの電流に重畳されるとモータのトルクが微小変化するため、ステアリングホイールが微小振動する。この微小振動を通じて車両が走行路から逸脱する状況であることを運転者に認識させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-251171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の警報装置を含め警報としてステアリングホイールを振動させる従来一般の警報装置においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、車両が走行路から逸脱する状況に至った場合、ステアリングホイールの操舵方向あるいは振動の開始方向によっては運転者に違和感を与えるおそれがある。たとえば、運転者がステアリングホイールを右方向へ切り込んでいる場合に左方向から振動が開始されるとき、運転者は切り込んでいる方向とは逆方向である左方向へ向けてステアリングホイールが叩かれるような違和感を覚えるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、警報としてのステアリングホイールの振動を開始する際の違和感を低減することができる車両用警報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る車両用警報装置は、ステアリングホイールの操舵に連動する車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータと、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、前記警報として前記ステアリングホイールが振動するように前記モータの駆動を制御する制御装置と、を有している。前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールの振動の開始方向を前記ステアリングホイールの操舵方向と同じ方向に設定するように構成される。前記ステアリングホイールの操舵方向は、操舵角速度が正の値となる正の操舵方向と、前記操舵角速度が負の値となる前記正の操舵方向とは反対方向である負の操舵方向とを含む。
【0008】
この構成によれば、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、警報としてのステアリングホイールの振動の開始方向が運転者によるステアリングホイールの操舵方向と同じ方向に設定されることにより、操舵感触としての違和感を緩和することができる。ステアリングホイールの操舵方向と反対方向へ向けた、いわゆる叩かれ感も抑えられる。
【0009】
上記の車両用警報装置において、前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールを振動させるべく正と負の値が変化する波動として前記モータに発生させるべきトルクである警報トルクを演算する警報トルク演算部を有していてもよい。この場合、前記警報トルク演算部は、前記特定の状況が生じたとき、前記警報トルクが前記ステアリングホイールの操舵方向と同じ方向へ向けて変化を開始するように前記警報トルクの符号を設定するようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、正と負の値が変化する波動として演算される警報トルクに応じてステアリングホイールが振動する。警報トルクの符号の設定を通じて、より簡単に警報としてのステアリングホイールの振動の開始方向を運転者によるステアリングホイールの操舵方向と同じ方向に設定することができる。
【0011】
上記の車両用警報装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された構造を有するものであってもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と同方向のトルクであるアシストトルクを演算するアシストトルク演算部と、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記アシストトルク演算部により演算される前記アシストトルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有していてもよい。
【0012】
この構成によれば、アシストトルクを発生するモータを利用して、ステアリングホイールに警報としての振動を発生させることができる。
上記の車両用警報装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離された構造を有するものであってもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力トルクを演算する操舵反力トルク演算部と、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記操舵反力トルク演算部により演算される前記操舵反力トルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有していてもよい。
【0013】
この構成によれば、操舵反力トルクを発生するモータを利用して、ステアリングホイールに警報としての振動を発生させることができる。
上記の車両用警報装置において、前記警報トルク演算部は、前記ステアリングホイールの操舵方向を前記操舵角速度に基づき判定するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、ステアリングホイールの操舵方向をより正確に判定することができる。
上記の車両用警報装置において、前記特定の状況は、自車両が走行路から逸脱する状況を含んでいてもよい。
【0015】
この構成によれば、警報としてのステアリングホイールの振動を通じて運転者に自車両が走行路から逸脱する状況であることを認識させることができる。
上記の車両用警報装置において、前記制御装置は、前記特定の状況を判定する車載の上位制御装置により生成される警報指令が受信されることを契機として、前記警報としての前記ステアリングホイールの振動を開始させるようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、上位制御装置からの警報指令に基づき、警報としてのステアリングホイールの振動を発生させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用警報装置によれば、警報としてのステアリングホイールの振動を開始する際の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両用警報装置を操舵装置に具体化した第1の実施の形態の構成図。
図2】第1の実施の形態の操舵装置の制御装置のブロック図。
図3】警報トルクの経時的な変化の比較例を示すグラフ。
図4】第1の実施の形態の警報トルクを演算する処理手順を示すフローチャート。
図5】第1の実施の形態の警報トルクの経時的な変化を示すグラフ。
図6】車両用警報装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施の形態>
以下、車両用警報装置を車両の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。この操舵装置は電動パワーステアリング装置である。
【0020】
図1に示すように、操舵装置10は、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との間の動力伝達経路として機能するステアリングシャフト13、ピニオンシャフト14および転舵シャフト15を有している。これらステアリングシャフト13、ピニオンシャフト14および転舵シャフト15は車両の操舵機構を構成する。転舵シャフト15は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト15の両端にはタイロッド16,16を介して転舵輪12,12が連結されている。ピニオンシャフト14は、転舵シャフト15に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト14のピニオン歯14aは、転舵シャフト15のラック歯15aに噛み合わされている。ステアリングホイール11の回転操作に連動して転舵シャフト15が直線運動する。転舵シャフト15の直線運動がタイロッド16を介して左右の転舵輪12,12に伝達されることにより、転舵輪12,12の転舵角θが変更される。
【0021】
また、操舵装置10は、運転者による操舵を補助するための力であるアシストトルクを生成する構成として、モータ21および減速機構22を有している。モータ21は、アシストトルクの発生源であるアシストモータとして機能する。モータ21としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ21は、減速機構22を介してピニオンシャフト23に連結されている。ピニオンシャフト23のピニオン歯23aは、転舵シャフト15のラック歯15bに噛み合わされている。モータ21の回転は減速機構22によって減速されて、当該減速された回転力がアシストトルクとしてピニオンシャフト23を介して転舵シャフト15に伝達される。モータ21の回転に応じて、転舵シャフト15は車幅方向に沿って移動する。
【0022】
ちなみに、操舵装置10は、転舵シャフト15にアシストトルクを付与するタイプでなくてもよい。操舵装置10は、たとえばステアリングシャフト13にアシストトルクを付与するタイプであってもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、モータ21は、減速機構22を介してステアリングシャフト13に連結される。ピニオンシャフト23は割愛してもよい。
【0023】
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づきモータ21を制御する。センサには、トルクセンサ51、車速センサ52および回転角センサ53が含まれている。トルクセンサ51は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト13に加わる操舵トルクTを検出する。車速センサ52は、車速Vを検出する。回転角センサ53はモータ21に設けられている。回転角センサ53はモータ21の回転角θを検出する。制御装置50は、モータ21に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じたアシストトルクを発生させるアシスト制御を実行する。制御装置50は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ52を通じて検出される車速V、および回転角センサ53を通じて検出される回転角θに基づき、モータ21に対する給電を制御する。
【0024】
ここで、車両にはその安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能を実現する運転支援システムが搭載されることがある。運転支援システムとしては、たとえば車線逸脱警報システムが挙げられる。この場合、車両には車線逸脱警報システムの制御装置が制御装置50に対する上位制御装置500として搭載される。上位制御装置500は、たとえばフロントガラスに設置したカメラを通じて車線を認識し、車両が車線を踏み越えるおそれがある旨判定されるとき、制御装置50に対する警報指令Sを生成する。警報指令Sは、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとして制御装置50に警報の出力を促すための電気信号である。上位制御装置500は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作を通じて、自己の運転支援機能をオンとオフとの間で切り替える。すなわち、上位制御装置500は運転支援機能がオンされている期間だけ動作する。ちなみに、上位制御装置500は、先のカメラに設けられることもある。
【0025】
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、マイクロコンピュータ50Aおよび駆動回路50Bを有している。マイクロコンピュータ50Aは、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づき電流指令値Iを演算する。駆動回路50Bは、マイクロコンピュータ50Aにより演算される電流指令値Iに応じた駆動電力をモータ21へ供給する。
【0026】
マイクロコンピュータ50Aは、アシストトルク演算部61、操舵角速度演算部62、警報トルク演算部63、加算器64、および電流指令値演算部65を有している。これらの演算部はマイクロコンピュータ50AのCPU(中央処理装置)が制御プログラムを実行することによって実現される機能部分である。ただし、各演算部がソフトウェアによって実現されることはあくまでも一例であって、少なくとも一部の演算部をロジック回路などのハードウェアによって実現してもよい。
【0027】
アシストトルク演算部61は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づきモータ21が発生すべきトルクであるアシストトルクT1を演算する。アシストトルク演算部61は、操舵トルクTの絶対値が増加するほど、また車速Vが遅くなるほど、より大きい絶対値のアシストトルクT1を演算する。
【0028】
操舵角速度演算部62は、回転角センサ53を通じて検出されるモータ21の回転角θに基づきステアリングホイール11の操舵角θを演算し、その演算される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。操舵角θは、ステアリングホイール11の中立位置に対応する0°を基準として左方向へ回転するときには正方向へ向けて増大し、右方向へ回転するときには負方向へ向けて増大する。したがって、ステアリングホイールが正の操舵方向としての左方向へ操舵されているとき、操舵角速度ωは正の値となる。また、ステアリングホイールが負の操舵方向としての右方向へ操舵されているとき、操舵角速度ωは負の値となる。
【0029】
ちなみに、先の図1に二点鎖線で示されるように、製品仕様によっては、ピニオンシャフト14に回転角センサ54が設けられることがある。また、回転角センサ54は先のトルクセンサ51と統合されたトルクアングルセンサとしてピニオンシャフト14に設けられることもある。この場合、操舵角速度演算部62は回転角センサ54を通じて検出されるピニオンシャフト14の回転角を操舵角θとして取得し、その取得される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。これは、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト13およびピニオンシャフト14は一体的に回転するため、ピニオンシャフト14の回転角はステアリングホイール11の回転角である操舵角θと等しい値となるからである。
【0030】
警報トルク演算部63は、上位制御装置500により生成される警報指令Sを取り込む。警報トルク演算部63は、警報指令Sが取り込まれるとき、運転者に注意を促す警報を発するための処理として警報トルクT2を演算する。警報トルクT2は、モータ21が発生するトルクに微小な振動を発生させる観点に基づき設定される微小振動成分である。警報トルクT2は、時間に対して正と負の値が周期的に変化する波動である正弦波として設定される。警報トルク演算部63は、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、定められた出力パターンで警報トルクT2の出力を継続する。警報トルク演算部63は、上位制御装置500からの警報指令Sが途絶えたとき、警報トルクT2の出力を停止する。このとき、警報トルクT2の値は「0」である。
【0031】
ちなみに、警報トルクT2の出力パターンは、設計段階であらかじめ設定されるものであって、警報トルクT2の出力の継続と休止とが交互に組み合わせられてなる。警報トルクT2の振幅、警報トルクT2の振動周波数、警報トルクT2の出力を継続する継続時間、および警報トルクT2の出力を休止する休止時間は、制御装置50の図示しない記憶装置に記憶されている。
【0032】
加算器64は、アシストトルク演算部61により演算されるアシストトルクT1と、警報トルク演算部63により演算される警報トルクT2とを加算することにより目標アシストトルクT3を演算する。上位制御装置500により警報指令Sが生成されないとき、アシストトルク演算部61により演算されるアシストトルクT1がそのまま目標アシストトルクT3として使用される。
【0033】
電流指令値演算部65は、加算器64により演算される目標アシストトルクT3に基づきモータ21に対する電流指令値Iを演算する。電流指令値Iは、モータ21が目標アシストトルクT3を発生するために必要とされる電流の目標値である。
【0034】
警報トルク演算部63により微小振動成分である警報トルクT2が演算される場合、電流指令値Iは警報トルクT2の出力パターンに応じて振動する。このため、駆動回路50Bからモータ21へ供給される駆動電流、ひいてはモータ21が発生するトルクも警報トルクT2の出力パターンに応じて振動する。これにより、ステアリングホイール11が微小振動する。運転者は、操舵感触としてステアリングホイール11の微小な振動を感じることにより、車両が走行路から逸脱する状況であることを認識可能となる。
【0035】
つぎに、警報トルクT2の出力パターンについて詳細に説明する。まず、出力パターンの比較例として、つぎのような出力パターンが考えられる。
図3のグラフに示すように、上位制御装置500から警報指令Sが出力されることを契機として警報トルクT2の出力が開始される(時刻t0)。警報トルクT2は、継続時間ΔTcだけ継続して出力された後(時刻t1)、休止時間ΔTpだけ出力が休止される。休止時間ΔTpが経過すると(時刻t2)、再び警報トルクT2が継続時間ΔTcだけ継続して出力される。以後、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、この警報トルクT2の出力と休止とが交互に繰り返される。
【0036】
ただし、警報トルクT2は正弦波であるところ、図3のグラフに示される比較例の出力パターンにおいては、継続時間ΔTcの開始時(時刻T0,T1)、警報トルクT2の値は常に正方向へ向けて変化を開始する。ちなみに、正の警報トルクT2は、ステアリングホイール11に対する左方向へ向けたトルクである。負の警報トルクT2は、ステアリングホイール11に対する右方向へ向けたトルクである。
【0037】
ところが、この比較例の出力パターンを採用する場合、つぎのようなことが懸念される。
すなわち、車両が走行路から逸脱する状況に至った場合、ステアリングホイール11の操舵方向によっては運転者に違和感を与えるおそれがある。たとえば、運転者がステアリングホイール11をその中立位置を基準として右方向へ操舵している場合、警報トルクT2に基づきステアリングホイールの振動が操舵方向と逆方向である左方向から開始されるとき、運転者は操舵方向と逆方向である左方向へ向けてステアリングホイール11が叩かれるような違和感を覚えるおそれがある。
【0038】
そこで、本実施の形態では、警報トルク演算部63は、つぎのようにして警報トルクT2を演算する。
図4のフローチャートに示すように、警報トルク演算部63は、警報を開始するタイミングであるかどうかを判定する(ステップS101)。警報トルク演算部63は、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間であって、定められた継続時間ΔTc内であるとき、警告を開始するタイミングである旨判定する。また、警報トルク演算部63は、上位制御装置500から警報指令Sが出力されていないとき、警告を開始するタイミングではない旨判定する。また、警報トルク演算部63は、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間であっても定められた継続時間ΔTc外であるとき、すなわち休止時間Tp内であるとき、警告を開始するタイミングではない旨判定する。
【0039】
警報トルク演算部63は、警報を開始するタイミングではない旨判定されるとき(ステップS101でNO)、処理を終了する。警報トルク演算部63は、警報を開始するタイミングである旨判定されるとき(ステップS101でYES)、ステップS102へ処理を移行する。
【0040】
ステップS102において、警報トルク演算部63は、操舵角速度ωの値が「0」以上であるかどうかを判定する。すなわち、警報トルク演算部63はステアリングホイール11の操舵方向を判定する。操舵角速度ωが正の値であるとき、ステアリングホイールの操舵方向は左方向、すなわち正の操舵方向である。操舵角速度ωが負の値であるとき、ステアリングホイールの操舵方向は右方向、すなわち負の操舵方向である。
【0041】
警報トルク演算部63は、操舵角速度ωの値が「0」以上である旨判定されるとき(ステップS102でYES)、符号Sdを「1」に設定する(ステップS103)。
警報トルク演算部63は、操舵角速度ωの値が「0」以上ではない旨判定されるとき(ステップS102でNO)、符号Sdを「-1」に設定する(ステップS104)。
【0042】
つぎに、警報トルク演算部63は、制御装置50の図示しない記憶装置に記憶された警報トルクT2の絶対値に先のステップS103またはステップS104で演算される符号Sdを乗算することにより最終的な警報トルクT2を演算する(ステップS105)。したがって、継続時間ΔTcの開始時に操舵角速度ωの値が「0」以上の正の値であるとき、警報トルクT2の値は正方向へ向けて変化を開始する。また、継続時間ΔTcの開始時に操舵角速度ωの値が「0」未満の負の値であるとき、警報トルクT2の値は負方向へ向けて変化を開始する。
【0043】
以上で、警報トルクT2の演算処理が完了となる。
つぎに、本実施の形態の作用を説明する。
図5のグラフに示すように、上位制御装置500から警報指令Sが出力されることを契機として警報トルクT2の出力が開始される(時刻t0)。この場合において、操舵角速度ωが「0」以上の値であるとき、警報トルクT2の値は正方向へ向けて変化を開始する。すなわち、ステアリングホイール11の操舵方向が左方向であるとき、ステアリングホイール11の振動は操舵方向と同じ左方向から開始される。
【0044】
警報トルクT2は、継続時間ΔTcだけ継続して出力された後(時刻t1)、休止時間ΔTpだけ出力が休止される。休止時間ΔTpが経過すると(時刻t2)、再び警報トルクT2が継続時間ΔTcだけ継続して出力される。この場合において、操舵角速度ωが「0」未満の値であるとき、警報トルクT2の値は負方向へ向けて変化を開始する。すなわち、ステアリングホイール11の操舵方向が右方向であるとき、ステアリングホイール11の振動は操舵方向と同じ右方向から開始される。
【0045】
以後、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、警報トルクT2の出力と休止とが交互に繰り返される。ただし、警報トルクT2の出力を開始するときのステアリングホイール11の操舵方向に応じて警報トルクT2の値の正負、すなわちステアリングホイール11の振動の開始方向が決定される。
【0046】
したがって、第1の本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)警報としてのステアリングホイール11の振動の開始方向を運転者によるステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向に設定することにより、操舵感触としての違和感を緩和することができる。また、ステアリングホイールの操舵方向と反対方向へ向けた、いわゆる叩かれ感も抑えられる。
【0047】
(2)運転者に対して警報を発するべき特定の状況として、車両が走行路から逸脱する状況が生じたとき、正と負の値が周期的に変化する波動として演算される警報トルクT2に応じてステアリングホイール11が振動する。警報トルクT2の符号の設定を通じて、より簡単に警報としてのステアリングホイール11の振動の開始方向を運転者によるステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向に設定することができる。
【0048】
(3)操舵角速度ωに基づきステアリングホイール11の操舵方向が判定される。このため、ステアリングホイール11の操舵方向をより正確に判定することができる。
ちなみに、操舵トルクThに基づきステアリングホイール11の操舵方向を判定することも考えられる。ただし、この場合、ステアリングホイール11の操舵方向を正確に判定することが困難となる状況が想定される。ここで、ステアリングホイール11がその中立位置を基準として左方向へ向けて操舵されるとき、操舵トルクTは正の値になる。また、ステアリングホイール11がその中立位置を基準として右方向へ向けて操舵されるとき、操舵トルクTは負の値となる。そして、たとえばステアリングホイール11がその中立位置を基準として左方向へ切り込まれている状態から右方向へ切り返される場合、ステアリングホイール11の回転位置が中立位置を右側へ越えるまでの期間、操舵トルクThはステアリングホイール11が切り替えされる前後でいずれも正の値になる。このため、操舵トルクThに基づきステアリングホイール11の操舵方向が反転したことを判定することが困難である。この点、操舵角速度ωは、ステアリングホイール11の操舵方向が反転した際、正負の符号が反転する。このため、操舵角速度ωに基づきステアリングホイール11の操舵方向をより正確に判定することができる。ただし、製品仕様によっては、操舵トルクTに基づきステアリングホイール11の操舵方向を判定するようにしてもよい。
【0049】
(4)アシストトルクを発生するモータ21を利用して、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
<第2の実施の形態>
つぎに、車両用警報装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付してその詳細な説明を割愛する。
【0050】
図6に示すように、ステアバイワイヤ式の操舵装置100は、ステアリングホイール11に操舵反力トルクを付与する反力ユニット100Aを有している。操舵反力トルクとは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力トルクをステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0051】
反力ユニット100Aは、ステアリングホイール11が連結されるステアリングシャフト13、およびステアリングシャフト13に設けられるトルクセンサ51を有している。ただし、ステアリングシャフト13は、車両の操舵機構を構成するものであって、転舵輪12との間の動力伝達が分離されている。
【0052】
また、反力ユニット100Aは、反力モータ101、減速機構102、回転角センサ103および制御装置104を有している。
反力モータ101は、操舵反力トルクの発生源である。反力モータ101は、減速機構102を介して、ステアリングシャフト13に連結されている。減速機構102は、ステアリングシャフト13におけるトルクセンサ51を基準とするステアリングホイール11と反対側の部分に設けられている。ステアリングシャフト13における反力モータ101が発生するトルクは、操舵反力トルクとしてステアリングシャフト13に付与される。
【0053】
回転角センサ103は反力モータ101に設けられている。回転角センサ103は反力モータ101の回転角θを検出する。
制御装置104は、反力モータ101の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力トルクを発生させる反力制御を実行する。制御装置104は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力トルクを演算し、この演算される目標操舵反力トルクを反力モータ101に発生させるべく反力モータ101への給電を制御する。制御装置104は、回転角センサ103を通じて検出される反力モータ101の回転角θに基づきステアリングシャフト13の回転角である操舵角θを演算する。
【0054】
制御装置104は、先の図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。すなわち、図2に括弧書きの符号を付して示すように、制御装置104は、マイクロコンピュータ104Aおよび駆動回路104Bを有している。マイクロコンピュータ104Aは、操舵反力トルク演算部161、操舵角速度演算部162、警報トルク演算部163、加算器164、および電流指令値演算部165を有している。
【0055】
操舵反力トルク演算部161は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づきモータ21が発生すべきトルクである操舵反力トルクT11を演算する。操舵反力トルク演算部161は、操舵トルクTの絶対値が増加するほど、また車速Vが遅くなるほど、より大きい絶対値の操舵反力トルクT11を演算する。
【0056】
操舵角速度演算部162は、回転角センサ103を通じて検出される反力モータ101の回転角θに基づきステアリングホイール11の操舵角θを演算し、その演算される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。
【0057】
警報トルク演算部163は、上位制御装置500により生成される警報指令Sを取り込む。警報トルク演算部163は、警報指令Sが取り込まれるとき、運転者に注意を促す警報を発するための処理として警報トルクT12を演算する。警報トルクT12の出力パターンとしては、先の図5に示される第1の実施の形態と同様の出力パターンが採用される。
【0058】
加算器164は、操舵反力トルク演算部161により演算される操舵反力トルクT11と、警報トルク演算部163により演算される警報トルクT12とを加算することにより目標操舵反力トルクT13を演算する。上位制御装置500により警報指令Sが生成されないとき、操舵反力トルク演算部161により演算される操舵反力トルクT11がそのまま目標操舵反力トルクT13として使用される。
【0059】
電流指令値演算部165は、加算器164により演算される目標操舵反力トルクT13に基づき反力モータ101に対する電流指令値Iを演算する。
さて、警報トルク演算部163により微小振動成分である警報トルクT12が演算される場合、電流指令値Iは警報トルクT12の出力パターンに応じて振動する。このため、駆動回路104Bから反力モータ101へ供給される駆動電流、ひいては反力モータ101が発生する操舵反力トルクも警報トルクT12の出力パターンに応じて振動する。これにより、ステアリングホイール11が振動する。運転者は、操舵感触としてステアリングホイール11の微小な振動を感じることにより、車両が走行路から逸脱する状況であることを認識可能となる。
【0060】
また、警報トルクT2の出力が開始される際、そのときのステアリングホイール11の操舵方向に応じて警報トルクT2の値の正負、すなわちステアリングホイール11の振動の開始方向が決定される。具体的には、警報としてのステアリングホイール11の振動は、ステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向から開始される。ステアリングホイール11の操舵方向が左方向であるとき、ステアリングホイール11の振動は左方向から開始される。ステアリングホイール11の操舵方向が右方向であるとき、ステアリングホイール11の振動は右方向から開始される。
【0061】
したがって、第2の実施の形態によれば、ステアバイワイヤ方式の操舵装置において、先の第1の実施の形態の(1)~(3)と同様の効果に加え、つぎの効果を得ることができる。
【0062】
(4)操舵反力トルクを発生する反力モータ101を利用して、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0063】
・第1および第2の実施の形態において、運転支援機能として車線逸脱を防止するための警報の他、居眠り防止あるいは衝突回避のための警報としてステアリングホイール11に振動を発生させてもよい。
【0064】
・第1および第2の実施の形態において、何らかの運転支援機能が停止される場合、その機能停止を警告するための警報としてステアリングホイール11に振動を発生させてもよい。たとえば、車両に車線維持支援システムが搭載されている場合、車両が走行路から逸脱する状況に至ったとき、車線維持支援システムの機能が実行停止される。このとき、ステアリングホイール11の振動を通じて車線維持支援システムの機能が実行停止されることを運転者に警告するようにしてもよい。ちなみに、車線維持支援システムとは、たとえば高速道路を走行する際、運転者の運転負荷を軽減することを目的として、車両が車線の中央付近を維持して走行するようにステアリングホイール11の操作を支援するシステムをいう。
【0065】
・第1および第2の実施の形態では、警報トルクT2を正と負の値が周期的に変化する正弦波として設定したが、これに限らず、振幅値として正と負の値が所定の回数だけ繰り返される信号であればよい。たとえば、警報トルクT2を指数関数と三角関数との積で表される減衰曲線のような非周期の波動として設定してもよいし、三角波あるいは矩形波のような非正弦波として設定してもよい。
【0066】
・第1の実施の形態では、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるために微小振動成分である警報トルクT2をアシストトルクT1に加算したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、アシストトルクT1に基づき演算される電流指令値に微小振動成分である警報電流を加算する。このようにしても、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
【0067】
・第2の実施の形態では、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるために微小振動成分である警報トルクT12を操舵反力トルクT11に加算したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、操舵反力トルクT11に基づき演算される電流指令値に微小振動成分である警報電流を加算する。このようにしても、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
【0068】
・第1の実施の形態では、アシストトルクを発生するモータ21を利用してステアリングホイール11に警報としての振動を発生させたが、このモータ21とは別個にステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための専用のアクチュエータを設けてもよい。このアクチュエータはモータを含む。
【0069】
・第2の実施の形態では、操舵反力トルクを発生する反力モータ101を利用してステアリングホイール11に警報としての振動を発生させたが、この反力モータ101とは別個にステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための専用のアクチュエータを設けてもよい。このアクチュエータはモータを含む。
【符号の説明】
【0070】
10…操舵装置(車両用警報装置)
11…ステアリングホイール
21…モータ(アシストモータ)
50…制御装置
61…アシストトルク演算部
63…警報トルク演算部
64…加算器
100…操舵装置(車両用警報装置)
101…反力モータ
104…制御装置
161…操舵反力トルク演算部
163…警報トルク演算部
164…加算器
500…上位制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6