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特許7529537電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びモータ駆動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240730BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020179565
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070477
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】平山 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-308244(JP,A)
【文献】特開昭64-064567(JP,A)
【文献】特開2009-296858(JP,A)
【文献】特開2017-195735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行う電力変換装置の故障を検出する故障検出装置であって、
各前記スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせからなる指令パターンを複数生成する指令生成部であって、複数の前記指令パターンの各々は、互いに異なるオン指令及びオフ指令の組み合わせを有する、指令生成部と、
前記ブリッジ回路に流れる電流の検出値を取得する電流取得部と、
前記指令パターンにおける各前記スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと、前記電力変換装置の直流側に直流電圧が印加されかつ前記電力変換装置の交流側に負荷回路が接続された状態において各前記スイッチング素子に対して前記指令パターンを指令して各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記電流の検出値とに基づいて、前記電力変換装置の故障を判定する故障判定部と、
前記電力変換装置の直流側の電圧の検出値を取得する電圧取得部と、
前記電圧取得部が取得した前記電圧の検出値と、前記スイッチング素子がオン指令されている時間と、前記負荷回路のインピーダンスとに基づいて、各前記スイッチング素子に流れる電流の推定値を計算する電流推定部と、
を備え
前記故障判定部は、前記電流取得部が取得した前記電流の検出値の各々とこれに対応する前記電流推定部が算出した前記電流の推定値の各々との差または割合のうち、少なくとも1つの差または割合が所定の範囲外である場合、前記電力変換装置に設けられた電流検出部に故障が発生していると判定する、故障検出装置。
【請求項2】
前記ブリッジ回路は、三相ブリッジ回路であり、
前記指令生成部は、6つの前記指令パターンの各々として、前記ブリッジ回路を構成するいずれか1つの上アームの前記スイッチング素子と当該上アームが属するレグとは異なるいずれか1つのレグ内の下アームの前記スイッチング素子とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子以外の前記スイッチング素子に対するオフ指令と、の組み合わせからなる第1の故障判定用指令パターンを生成する、請求項1に記載の故障検出装置。
【請求項3】
前記故障判定部は、6つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記電流の検出値のうち、少なくとも2つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した前記電流の検出値が第1の閾値未満である場合、当該少なくとも2つの第1の故障判定用指令パターンのうちの2つにおいてオン指令されていたスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定する、請求項2に記載の故障検出装置。
【請求項4】
前記故障判定部は、6つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記ブリッジ回路の直流側の前記電流の検出値のうち、2つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した2つの前記電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、当該2つの第1の故障判定用指令パターンにおいてオン指令されていたスイッチング素子が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子に関係するショート故障が発生していると判定する、請求項2または3に記載の故障検出装置。
【請求項5】
前記故障判定部は、6つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記ブリッジ回路の直流側の前記電流の検出値のうち、3つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した3つの前記電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、当該3つの第1の故障判定用指令パターンのうちの2つにおいてオン指令されていたスイッチング素子が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子に関係するショート故障が発生していると判定する、請求項2~4のいずれか一項に記載の故障検出装置。
【請求項6】
前記故障判定部は、6つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記ブリッジ回路の前記直流側の前記電流の検出値のうち、4つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した4つの前記電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、当該4つの第1の故障判定用指令パターンのうちの2つにおいてオン指令されていた2つのスイッチング素子の各々が属するレグ内の各々においてオフ指令されていたスイッチング素子に関係するショート故障が発生していると判定するとともに、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせとは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンにおいてオン指令されていたスイッチング素子が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子に関係するショート故障が発生している可能性があると判定する、請求項2~5のいずれか一項に記載の故障検出装置。
【請求項7】
前記故障判定部は、6つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記ブリッジ回路の直流側の前記電流の検出値の全てが第2の閾値より大きい場合、前記スイッチング素子に関係するショート故障が、前記ブリッジ回路の前記上アームの前記スイッチング素子の全てまたは前記ブリッジ回路の前記下アームの前記スイッチング素子の全てについて発生していると判定する、請求項2~6のいずれか一項に記載の故障検出装置。
【請求項8】
前記ブリッジ回路は、単相ブリッジ回路であり、
前記指令生成部は、4つの前記指令パターンの各々として、前記ブリッジ回路を構成するいずれか1つの上アームの前記スイッチング素子といずれか1つの下アームの前記スイッチング素子とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子以外の前記スイッチング素子に対するオフ指令と、の組み合わせからなる第1の故障判定用指令パターンを生成する、請求項1に記載の故障検出装置。
【請求項9】
前記故障判定部は、4つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記電流の検出値のうち、2つまたは3つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した2つまたは3つの前記電流の検出値が第1の閾値未満である場合は、当該2つまたは3つの第1の故障判定用指令パターンのうちの2つにおいてオン指令されていたスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定し、4つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した4つの前記電流の検出値が前記第1の閾値未満である場合は、4つの前記スイッチング素子のうちの少なくとも2つのスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定する、請求項8に記載の故障検出装置。
【請求項10】
前記故障判定部は、2つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記ブリッジ回路の直流側の前記電流の検出値のうち、1つの前記第1の故障判定用指令パターンの下で前記電流取得部が取得した前記電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、当該1つの第1の故障判定用指令パターンにおいてオン指令が指令されていたスイッチング素子の各々が属するレグ内においてそれぞれオフ指令されていた2つのスイッチング素子のうちのいずれかに関係するショート故障が発生していると判定する、請求項8または9に記載の故障検出装置。
【請求項11】
前記故障判定部は、2つの前記第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各前記スイッチング素子を動作させたときに前記電流取得部が取得した前記ブリッジ回路の直流側の前記電流の検出値の全てが第2の閾値より大きい場合、前記スイッチング素子に関係するショート故障が、前記ブリッジ回路の前記上アームの前記スイッチング素子の全てまたは前記ブリッジ回路の前記下アームの前記スイッチング素子の全てについて発生していると判定する、請求項8~10のいずれか一項に記載の故障検出装置。
【請求項12】
前記ブリッジ回路は、三相ブリッジ回路であり、
前記指令生成部は、6の前記指令パターンの各々として、前記ブリッジ回路を構成する上側または下側のアームのうちのいずれか1つのアームの前記スイッチング素子と当該アームが属するレグとは異なるレグ内の当該アームとは異なる側のアームの前記スイッチング素子とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子以外の前記スイッチング素子に対するオフ指令と、の組み合わせからなる第2の故障判定用指令パターンを生成し、
前記故障判定部は、前記電力変換装置において前記スイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障を判定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の故障検出装置。
【請求項13】
前記故障判定部は、前記第2の故障判定用指令パターンの下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがある場合、当該第2の故障判定用指令パターンの下でオン指令されていたスイッチング素子のうち過電流が流れたと判定されたスイッチング素子に対応する前記過電流検出部は正常であると判定する、請求項12に記載の故障検出装置。
【請求項14】
ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行うことで、モータの駆動に用いられる電力を生成する電力変換装置と、
前記電力変換装置の故障を検出する、請求項1~13のいずれか一項に記載の故障検出装置と、
を備えるモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PWM制御方式のインバータ並びにPWM制御方式及び120度通電方式のコンバータは、ブリッジ回路の上アーム及び下アームの各々に設けられたスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行う電力変換装置である。例えば、工作機械内やロボット内に設けられるモータの駆動を制御するモータ駆動装置では、交流電源から入力される交流電力をPWM制御方式または120度通電方式のコンバータにて直流電力に変換してDCリンクへ出力し、さらにPWM制御方式のインバータにてDCリンクにおける直流電圧を交流電力に変換し、この交流電力をモータの駆動電力として出力している。DCリンクとは、コンバータの直流出力側とインバータの直流入力側とを電気的に接続する回路部分のことを指し、「DCリンク部」、「直流リンク」、「直流リンク部」または「直流中間回路」などとも称されることもある。
【0003】
電力変換装置において発生し得る故障には、例えば、スイッチング素子に関係するオープン故障、スイッチング素子に関係するショート故障、電力変換装置に設けられた電流検出部に関係する故障、スイッチング素子に対応して設けられた過電流検出部に関係する故障などがある。
【0004】
このうち、オープン故障は、スイッチング制御部がスイッチング素子に対してオン指令(クローズ指令)を行ったにもかかわらずスイッチング素子がクローズせずにオープンしたままとなる故障である。また、ショート故障は、スイッチング制御部がスイッチング素子に対してオフ指令(オープン指令)を行ったにもかかわらずスイッチング素子がオープンせずにクローズしたままとなる故障である。これらオープン故障及びショート故障は、スイッチング素子自体が正常に機能しなくなることに起因する場合と、当該スイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を印加するドライブ回路が正常に機能しなくなることに起因する場合と、ドライブ回路を制御するスイッチング制御部が正常に機能しなくなることに起因する場合などがある。以下、スイッチング素子自体、ドライブ回路、及びスイッチング制御部のうちのいずれかに起因してスイッチング素子に発生するオープン故障を、まとめて「スイッチング素子に関係するオープン故障」と称する。同様に、スイッチング素子自体、ドライブ回路、及びスイッチング制御部のうちのいずれかに起因してスイッチング素子に発生するショート故障を、まとめて「スイッチング素子に関係するショート故障」と称する。
【0005】
電力変換装置に発生する故障を検出する方法として様々なものが知られている。
【0006】
例えば、直流電圧を交流電圧に変換して交流機に出力するインバータ装置であって、直列接続された上アームスイッチ素子及び下アームスイッチ素子を有し、前記交流機に結線されるインバータ回路と、前記インバータ回路を流れる電流を検出する電流検出手段と、前記インバータ回路の異常、及び、前記交流機又は前記結線の異常を診断する診断装置とを備え、前記診断装置は、前記上アームスイッチ素子及び前記下アームスイッチ素子のON/OFFを制御して前記交流機に単パルス電圧を出力して、前記電流検出手段により得られた電流値から前記交流機又は前記結線の短絡故障を診断するものであり、前記インバータ装置は、前記下アームスイッチ素子がONされることにより前記上アームスイッチ素子を駆動するための電圧が充電されるコンデンサを有し、当該コンデンサに充電された電圧により前記上アームスイッチ素子を駆動するブートストラップ回路と、前記ブートストラップ回路のコンデンサに充電された電圧を検出するコンデンサ電圧検出手段とを更に備え、前記診断装置は、前記上アームスイッチ素子及び前記下アームスイッチ素子のON/OFFを制御して、前記コンデンサ電圧検出手段により得られた電圧値を用いて、前記インバータ回路の異常、及び、前記交流機又は前記結線の異常を診断する、インバータ装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
例えば、複数相の上下アームを構成するスイッチング素子(70)としてのハイサイドのスイッチング素子(700H,701H)及びローサイドのスイッチング素子(700L,701L)とともに半導体モジュール(40)を構成し、前記スイッチング素子の駆動を制御する制御装置であって、各アームを構成する前記スイッチング素子の主電極間の電圧、又は、各相上下アームの相電圧を検出する電圧検出部(82)と、前記電圧検出部により検出された電圧値に基づいて、前記スイッチング素子にショート故障が生じているか否かを判定する判定部(84)と、前記判定部により故障が生じたと判定されると、故障が生じた前記スイッチング素子をオフさせるとともに、故障した前記スイッチング素子とは別の相であって同じサイドの前記スイッチング素子をオンさせる駆動部(85)と、を備える制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
例えば、モータに電力を供給するためのインバータ回路(20)と、前記インバータ回路を駆動するドライブ回路(30)と、前記ドライブ回路を制御する制御素子(40)と、前記インバータ回路に流れる電流を検出して検出結果を前記制御素子に出力する電流検出部(70)と、を備え、前記インバータ回路は、検査モードにおいて、所定の負荷(90)に接続され、前記制御素子は、前記検査モードにおいて、前記所定の負荷に応じた検査用信号を前記ドライブ回路に出力して前記インバータ回路を動作させ、前記検査用信号によって動作した前記インバータ回路の電流値適正判定及び電流保護の故障検出のうちの少なくとも一方を前記電流検出部の検出結果を用いて行い、前記インバータ回路の故障の有無を判定して故障検出の判定結果を外部に出力する、インバータ基板が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
例えば、エミッタ電極と、前記エミッタ電極に流れる電流に応じたセンス電流を出力するエミッタセンス端子とを有し、直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換するためのスイッチング動作を行うパワー半導体素子と、前記センス電流に基づいて、前記パワー半導体素子に流れる過電流を検知する過電流検知回路と、前記過電流を模擬した模擬信号を前記過電流検知回路に出力する過電流模擬回路と、を備える電力変換装置が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2020-080645号公報
【文献】特開2019-075959号公報
【文献】特開2018-061328号公報
【文献】国際公開第2016/021329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
モータ駆動装置内に設けられる電力変換装置においては、スイッチング素子、電流検出部、及び過電流検出部など様々な箇所で故障が発生し得る。特にスイッチング素子については、電力変換装置内に複数設けられることからその故障箇所も様々であり、また故障の種類もオープン故障とショート故障とで分かれる。このため、電力変換装置の故障箇所及び故障内容の特定には、時間と手間がかかる。また例えばモータ駆動装置の出荷試験時においては、モータ駆動装置によりモータを実際に駆動させてモータ回転数やモータ電流を検出し、これら各値に異常があれば一律に不良品と判定している。このため、モータ駆動装置内に設けられる電力変換装置の故障箇所及び故障内容を特定することはできない。したがって、モータ駆動装置内に設けられる電力変換装置の故障箇所及び故障内容を迅速かつ正確に検出することができる技術の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様によれば、ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行う電力変換装置の故障を検出する故障検出装置は、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせからなる指令パターンを複数生成する指令生成部であって複数の指令パターンの各々は互いに異なるオン指令及びオフ指令の組み合わせを有する指令生成部と、ブリッジ回路に流れる電流の検出値を取得する電流取得部と、指令パターンにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電力変換装置の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置の交流側に負荷回路が接続された状態において各スイッチング素子に対して指令パターンを指令して各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部が取得した電流の検出値とに基づいて電力変換装置の故障を判定する故障判定部と、電力変換装置の直流側の電圧の検出値を取得する電圧取得部と、電圧取得部が取得した電圧の検出値と、スイッチング素子がオン指令されている時間と、負荷回路のインピーダンスとに基づいて、各スイッチング素子に流れる電流の推定値を計算する電流推定部と、を備え、故障判定部は、電流取得部が取得した電流の検出値の各々とこれに対応する電流推定部が算出した電流の推定値の各々との差または割合のうち、少なくとも1つの差または割合が所定の範囲外である場合、電力変換装置に設けられた電流検出部に故障が発生していると判定する。
【0013】
また、本開示の一態様によれば、モータ駆動装置は、ブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行うことで、モータの駆動に用いられる電力を生成する電力変換装置と、電力変換装置の故障を検出する上記故障検出装置と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、モータ駆動装置内に設けられる電力変換装置の故障箇所及び故障内容を迅速かつ正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置を示す図である。
図2】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために用いられる第1の故障判定用指令パターンを示す図である。
図3】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障の検出処理を示すフローチャートである。
図4】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子に対して第1の故障判定用指令パターンが指令されたときに形成される閉回路を例示する図である。
図5】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるオープン故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。
図6】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるショート故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。
図7】本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置を示す図である。
図8】本開示の一実施形態による単相の電力変換装置内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために用いられる第1の故障判定用指令パターンを示す図である。
図9】本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障の検出処理を示すフローチャートである。
図10】本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるオープン故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。
図11】本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるショート故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。
図12】電力変換装置のブリッジ回路内のスイッチング素子を流れる電流と、当該スイッチング素子のオン時間との関係を示す図である。
図13】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障並びに電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャートである。
図14】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障を検出するために用いられる第2の故障判定用指令パターンを示す図である。
図15】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャートである。
図16】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子に対して第2の故障判定用指令パターンが指令されたときに形成される閉回路を例示する図である。
図17】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置における過電流検出部と第2の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。
図18】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障、電流検出部の故障、並びにスイッチング素子に対応して設けられる過電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャート(その1)である。
図19】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障、電流検出部の故障、並びにスイッチング素子に対応して設けられる過電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャート(その2)である。
図20】本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障、電流検出部の故障、並びにスイッチング素子に対応して設けられる過電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャート(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照して、電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びモータ駆動装置について説明する。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。図面に示される形態は実施をするための一つの例であり、図示された実施形態に限定されるものではない。
【0017】
まず、三相のブリッジ回路からなる電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置について説明する。
【0018】
図1は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置を示す図である。
【0019】
本開示の一実施形態によるモータ駆動装置100は、三相のブリッジ回路を構成する6つのスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行うことでモータ(図示せず)の駆動に用いられる電力を生成する電力変換装置2と、電力変換装置2の故障を検出する故障検出装置1とを備える。
【0020】
三相の電力変換装置2は、三相のブリッジ回路と、スイッチング制御部21と、ドライブ回路22と、電流検出部23と、電圧検出部24とを備える。電力変換装置2の直流側には正極端子25及び負極端子26が設けられる。
【0021】
電力変換装置2の例としては、例えばPWM制御方式のインバータ、PWM制御方式のコンバータ(整流器)、及び120度通電方式のコンバータ(整流器)などがある。電力変換装置2がインバータである場合は、電力変換装置2の交流側には交流モータなどの交流負荷回路が接続され、直流側にはコンデンサを介してコンバータが接続されるかあるいは直流電源が接続される。電力変換装置2がコンバータである場合は、電力変換装置2の交流側には交流電源が接続され、直流側にはコンデンサを介してインバータが接続されるかあるいは直流モータなどの直流負荷回路が接続されるかあるいは直流電源が接続される。詳細については後述するが、故障検出装置1にて電力変換装置2の故障を検出する際には、電力変換装置2の交流側には故障検出用の負荷回路3が接続され、電力変換装置2の直流側には故障検出用の直流電源が接続されて直流電圧が印加される。
【0022】
電力変換装置2内の三相のブリッジ回路は、三相の各相に対応する3つのレグを有する。各レグは、上アーム及び下アームを有する。各上アーム及び各下アームには、スイッチング素子とこのスイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードとからなるパワー素子が設けられる。ここでは、各上アームに設けられるスイッチング素子をS1、S2及びS3とし、各下アームに設けられるスイッチング素子をS4、S5及びS6とする。スイッチング素子の例としては、IGBT、FET、サイリスタ、GTO、トランジスタなどがある。IGBTはその端子としてゲート、エミッタ及びコレクタを有する。FETはその端子としてゲート、ドレイン及びソースを有する。サイリスタ及びGTOはその端子としてゲート、アノード及びカソードを有する。トランジスタはその端子としてベース、エミッタ及びコレクタを有する。なお、スイッチング素子としてトランジスタを用いる場合は、「ベース」は「ゲート」に読み替えられて本開示による実施形態が適用される。
【0023】
スイッチング制御部21は、上位制御部(図示せず)から受信した駆動指令または後述する指令生成部11から受信した指令パターンに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。
【0024】
なお、ここで説明したスイッチング制御部21及びドライブ回路22の構成はあくまでも一例である。例えば、スイッチング制御部21を、位置指令生成部、位置制御部、速度制御部、電流制御部、トルク指令作成部などのうちのいくつかを含めて規定してもよい。また例えば、スイッチング制御部21とドライブ回路22とを一体化して構成してもよい。また例えば、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子を、IPM(インテリジェントパワーモジュール)にて構成してもよく、この場合、IPMはドライブ回路22の機能や過電流検出機能などの機能を有する。また、ドライブ回路22として、DESAT検出回路とよばれる過電流検出機能を有するドライバICが使用してもよい。DESAT検出回路は、スイッチング素子ごとに設けられる。例えば、DESAT検出回路にて駆動されるIGBTにおいて、オンされたスイッチング素子に過電流が流れた際にコレクタ-エミッタ間の電圧が正常時のオンの場合よりも上昇することをDESAT検出回路にて検出することで、過電流を検出することができる。
【0025】
電力変換装置2のブリッジ回路の交流側の三相の電力線のうちの少なくとも二相分にはプローブ(図1に示す例では2つのプローブT1及びT2)が設けられ、電流検出部23は、プローブT1及びT2を介して電力変換装置2のブリッジ回路の交流側の電流を検出する。また、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の正負の電力線のうちの少なくとも1つにはプローブ(図1に示す例では正側の電力線にプローブT3)が設けられ、電流検出部23は、プローブT3を介して電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の電流(特に過電流)を検出する。電流検出部23による電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の電流の検出処理に代えて、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子をIPMにて構成する場合はIPMの過電流検出機能を用いてもよく、あるいは、ドライブ回路22がDESAT検出回路を有するドライバICにて構成される場合はDESAT検出回路の過電流検出機能を用いてもよい。
【0026】
また、電圧検出部24は電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の電圧を検出する。電流検出部23によって検出された電流の検出値及び電圧検出部24によって検出された電圧の検出値は、電力変換装置2における電力変換制御や電力変換装置2を有するモータ駆動装置100におけるモータ駆動制御に用いられるとともに、故障検出装置1の故障検出処理にも用いられる。
【0027】
本開示の一実施形態による故障検出装置1は、指令生成部11と、電流取得部12と、故障判定部13とを備える。また、故障検出装置1が検出すべき故障内容に応じて、故障検出装置1は、電圧取得部14と、電流推定部15とを備える。故障検出装置1は、モータ駆動装置100内に内蔵されてもよく、電力変換装置2と取り外し可能に接続されてもよい。また、故障検出装置1を既存の電力変換装置2に接続することもできる。
【0028】
指令生成部11は、三相のブリッジ回路における各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせからなる指令パターンを6つ生成する。6つの指令パターンの各々は、互いに異なるオン指令及びオフ指令の組み合わせを有する。なお、詳細については後述するが、指令生成部11は、スイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために第1の故障判定用指令パターンを生成し、スイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部(図示せず)の故障を検出するために第2の故障判定用指令パターンを生成する。すなわち、指令生成部11により生成された指令パターンは、故障を検出するために用いられるものであり、上位制御部(図示せず)から指令される電力変換装置2の通常の電力変換制御やモータ駆動装置100の通常のモータ駆動制御に用いられる指令パターンとは異なる。指令生成部11により生成された指令パターンは、故障判定部13及びスイッチング制御部21に送られる。スイッチング制御部21は、指令生成部11により生成された指令パターンに基づいて、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。
【0029】
故障検出装置1にて電力変換装置2の故障を検出する際には、電力変換装置2の交流側には故障検出用の負荷回路3を接続するとともに、電力変換装置2の直流側には正極端子25及び負極端子26を介して故障検出用の直流電源(図示せず)を接続して直流電圧を印加する。故障検出用の直流電源は、バッテリであってもよく、交流電源に接続されたコンバータ(整流器)であってもよい。
【0030】
負荷回路3は、誘導性負荷または抵抗性負荷であり、例えば交流モータ、リアクトル、及び抵抗などがある。電力変換装置2の交流側への負荷回路3の接続及び当該接続の解除は、電路を開閉するスイッチ部(図示せず)を介して行われてもよい。電力変換装置2やモータ駆動装置100の出荷時やメンテナンス時にはスイッチ部を閉動作させて電力変換装置2の交流側に負荷回路3を接続し、電力変換装置2やモータ駆動装置100の通常の運転時にはスイッチ部を開動作させて電力変換装置2の交流側と負荷回路3との接続を解除してもよい。
【0031】
電流取得部12は、電流検出部23による電流の検出値を取得する。
【0032】
故障判定部13は、指令パターンにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせの内容と、電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態において各スイッチング素子に対して指令パターンを指令して各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した電流の検出値とに基づいて、電力変換装置2の故障を判定する。すなわち、図1に示す例では、三相の電力変換装置2の故障を検出するため、互いに異なる6つの指令パターンのそれぞれを指令して各スイッチング素子を動作させる。6つの指令パターンの各々に対応して、電流取得部12は電流の検出値を6種類取得する。スイッチング素子にオープン故障またはショート故障が発生していたりスイッチング素子に対応して設けられた過電流検出部が故障していた場合には、電流取得部12が取得した電流の検出値に何らかの変化が現れる。そこで、本開示の一実施形態では、故障判定部13は、指令パターンにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した電流の検出値との対応関係に基づき、三相の電力変換装置2の故障の発生箇所及び故障の内容を判定する。
【0033】
故障判定部13による判定結果は、故障検出装置1の検出結果として外部へ出力される。故障検出装置1の検出結果は、例えば表示部(図示せず)に表示される。表示部の例としては、単体のディスプレイ装置、上位制御部に付属のディスプレイ装置、電力変換装置2に付属のディスプレイ装置、モータ駆動装置100に付属のディスプレイ装置、並びに、パソコン及び携帯端末に付属のディスプレイ装置などがある。またあるいは、表示部に代えて、故障検出装置1で検出した検出結果報を、例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器にて出力させてもよい。これにより、作業者は、電力変換装置2の温度を迅速かつ正確に実に把握することができる。よって、作業者は、例えば、電力変換装置2またはモータ駆動装置100を緊急停止させたり、電力変換装置2内の故障箇所に係る部品を交換または修理するといった対応をとることが容易となる。
【0034】
電圧取得部14は、電圧検出部24が検出した電力変換装置の直流側の電圧の検出値を取得する。取得された電圧の検出値は、電流推定部15に送られる。
【0035】
電流推定部15は、電圧取得部14が取得した電圧の検出値と、スイッチング素子がオン指令されている時間と、負荷回路3のインピーダンスとに基づいて、各スイッチング素子に流れる電流の推定値を計算する。算出された電流の推定値は、故障判定部13に送られる。
【0036】
図2は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために用いられる第1の故障判定用指令パターンを示す図である。
【0037】
図1に示す三相の電力変換装置2のオープン故障及びショート故障を検出するための第1の故障判定用指令パターンとして、互いに異なる6つの指令パターンが指令生成部11によって生成される。6つの第1の故障判定用指令パターンの各々を、識別番号N(ただし、Nは1~6の自然数)を用いて識別する。6つの第1の故障判定用指令パターンPNの各々は、ブリッジ回路を構成するいずれか1つの上アームのスイッチング素子と当該上アームが属するレグとは異なるいずれか1つのレグ内の下アームのスイッチング素子とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子以外のスイッチング素子に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。より詳細には次の通りである。
【0038】
第1の故障判定用指令パターンP1は、上アームのスイッチング素子S1と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S5とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS5以外のスイッチング素子S2、S3、S4及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0039】
第1の故障判定用指令パターンP2は、上アームのスイッチング素子S1と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S6とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS6以外のスイッチング素子S2、S3、S4及びS5に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0040】
第1の故障判定用指令パターンP3は、上アームのスイッチング素子S2と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S6とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S2及びS6以外のスイッチング素子S1、S3、S4及びS5に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0041】
第1の故障判定用指令パターンP4は、上アームのスイッチング素子S2と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S4とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S2及びS4以外のスイッチング素子S1、S3、S5及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0042】
第1の故障判定用指令パターンP5は、上アームのスイッチング素子S3と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S4とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S3及びS4以外のスイッチング素子S1、S2、S5及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0043】
第1の故障判定用指令パターンP6は、上アームのスイッチング素子S3と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S5とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S3及びS5以外のスイッチング素子S1、S2、S4及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0044】
図3は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障の検出処理を示すフローチャートである。
【0045】
故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100におけるスイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障の検出処理は、三相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態で実行される。
【0046】
まず、ステップS101において、指令生成部11は、初期設定として、第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nを1に設定する。ステップS101における第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nの1の設定は、例えば、作業者の故障検出装置1への入力装置を用いた入力操作によって行われてもよく、あるいは故障検出装置1による故障検出処理の開始時に自動的に行われてもよく、あるいは故障検出装置1の電源投入時に自動的に行われてもよい。
【0047】
ステップS102において、指令生成部11は、スイッチング制御部21に対して第1の故障判定用指令パターンPNを指令する。スイッチング制御部21は、指令生成部11から受信した第1の故障判定用指令パターンPNに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。三相の電力変換装置2の直流側には直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側には負荷回路3が接続されているので、6つのスイッチング素子のうちオン指令された2つのスイッチング素子が正常にオン動作していれば、当該オン動作している2つのスイッチング指令を介して電力変換装置2の直流側の正極端子25、負荷回路3及び電力変換装置2の直流側の負極端子26に閉回路が形成される。なお、指令生成部11により生成された第1の故障判定用指令パターンPNは、故障判定部13にも送られる。
【0048】
ステップS103において、電流取得部12は、第1の故障判定用指令パターンPNに対応する電流検出部23による電流の検出値を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値は、故障判定部13に送られる。故障判定部13は、電流取得部12から送られてきた電流の検出値と、当該電流の検出値の取得の際に用いられていた第1の故障判定用指令パターンPNとを対応付けて記憶する。
【0049】
ステップS104において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であるか否かを判定する。第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であると判定された場合はステップS106へ進み、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であると判定されなかった場合はステップS105へ進む。
【0050】
ステップS105において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nを1つインクリメントする。その後、ステップS102へ戻る。
【0051】
ステップS106において、故障判定部13は、6つの第1の故障判定用指令パターンPNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した電流の検出値との対応関係に基づき、三相の電力変換装置2のオープン故障またはショート故障の発生箇所を判定する。その後、一連の故障検出処理を終了する。
【0052】
上述した第1の故障判定用指令パターンPNは、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために用いられる。続いて、第1の故障判定用指令パターンを用いて三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障を検出する場合について説明する。
【0053】
故障判定部13は、6つの第1の故障判定用指令パターンPNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した6つの電流の検出値との対応関係に基づき、三相の電力変換装置2のオープン故障の発生箇所を判定する。より具体的には、故障判定部13は、6つの第1の故障判定用指令パターンPNのそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した6つの電流の検出値のうち、少なくとも2つの第1の故障判定用指令パターンPNの下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合、当該少なくとも2つの第1の故障判定用指令パターンPNのうちの2つにおいてオン指令されていたスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定する。
【0054】
図4は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子に対して第1の故障判定用指令パターンが指令されたときに形成される閉回路を例示する図である。三相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態において、一例として、図4(A)では、各スイッチング素子に対して第1の故障判定用指令パターンP1が指令されたときに形成され得る閉回路を例示し、図4(B)では、各スイッチング素子に対して第1の故障判定用指令パターンP2が指令されたときに形成され得る閉回路を例示している。なお、図4においては、故障検出装置1については図示を省略している。
【0055】
図4(A)に示すように、第1の故障判定用指令パターンP1では、上アームのスイッチング素子S1及び当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S5に対してオン指令され、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS5以外のスイッチング素子S2、S3、S4、S6に対してはオフ指令される。したがって、仮に6つのスイッチング素子が全て正常に機能していれば、正極端子25、スイッチング素子S1、負荷回路3、スイッチング素子S5、及び負極端子26からなる閉回路が形成される。
【0056】
図4(B)に示すように、第1の故障判定用指令パターンP2では、上アームのスイッチング素子S1及び当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S6に対してオン指令され、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS6以外のスイッチング素子S2、S3、S4、S5に対してはオフ指令される。したがって、仮に6つのスイッチング素子が全て正常に機能していれば、正極端子25、スイッチング素子S1、負荷回路3、スイッチング素子S6、及び負極端子26からなる閉回路が形成される。
【0057】
このように、第1の故障判定用指令パターンP1及び第1の故障判定用指令パターンP2のいずれにおいても、スイッチング素子S1に対してはオン指令されている。したがって、スイッチング素子S1が正常に機能していれば、図4(A)及び図4(B)のいずれにおいても、スイッチング素子S1を介して閉回路に電流が流れ、電流取得部12が取得した電流の検出値はゼロよりも大きい正常値となる。しかしながら、仮にスイッチング素子S1がオープン故障していたとすると、第1の故障判定用指令パターンP1及び第1の故障判定用指令パターンP2の下でスイッチング素子S1に対してオン指令されていたとしてもスイッチング素子S1はクローズせずにオープンしたままとなるので閉回路には電流が流れず、電流取得部12が取得した電流の検出値はゼロに近い値となる。他の第1の故障判定用指令パターンとスイッチング素子に対しても同様のことがいえる。そこで、本開示の一実施形態では、この現象を使用してオープン故障の発生を検出する。
【0058】
故障判定部13は、6つの第1の故障判定用指令パターンPNの各々に対応して電流取得部12が取得した6つの電流の検出値のうち、2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2の下で電流取得部12が取得した電流の検出値がゼロに近い値となった場合には、当該2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2においてオン指令されていたスイッチング素子S1に関係するオープン故障が発生していると判定する。なお、ゼロに近くかつゼロより大きい第1の閾値(例えば数十ミリアンペア)を予め設定して故障判定部13内に記憶しておく。電流取得部12が取得した電流の検出値がゼロに近い値であるか否かの判定は、電流取得部12が取得した電流の検出値と第1の閾値との比較結果に基づき行えばよい。すなわち、故障判定部13は、電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満であることをもって、電流取得部12が取得した電流の検出値がゼロに近い値であると判定する。
【0059】
6つの第1の故障判定用指令パターンPNの各々に対応して電流取得部12が取得した6つの電流の検出値のうち、3つ以上の第1の故障判定用指令パターンの下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合も、同様に当該3つ以上第1の故障判定用指令パターンのうちの「2つ」においてオン指令されていたスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定することができる。
【0060】
図5は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるオープン故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。図5において、第1の故障判定用指令パターンP1~P6に関して、電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満(すなわちゼロに近い値)である場合を「×」で示し、第1の閾値以上(すなわちゼロよりも十分に大きい正常値)である場合を「〇」で示す。また、図5において、各スイッチング素子S1~S6に関して、オープン故障が発生していると判定される場合を「×」で示す。故障判定部13は、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子S1~S6のオープン故障を図5に示す対応関係に基づき検出する。
【0061】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値の全てが第1の閾値以上である場合、故障判定部13は、全てのスイッチング素子S1~S6はオープン故障していないと判定する。
【0062】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値のうち、2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合、故障判定部13は、当該2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S3に関係するオープン故障が発生していると判定する。
【0063】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値のうち、3つの第1の故障判定用指令パターンP4~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合、故障判定部13は、当該3つの第1の故障判定用指令パターンP4~P6のうちの、2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5の下でオン指令されていたスイッチング素子S4に関係するオープン故障と、2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6の下でオン指令されていたスイッチング素子S3に関係するオープン故障とが発生していると判定する。
【0064】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP3~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP3~P6のうちの、2つの第1の故障判定用指令パターンP3及びP4の下でオン指令されていたスイッチング素子S2に関係するオープン故障と、2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5の下でオン指令されていたスイッチング素子S4に関係するオープン故障と、2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6の下でオン指令されていたスイッチング素子S3に関係するオープン故障とが発生していると判定する。
【0065】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値の全てが第1の閾値未満である場合、「上アームのスイッチング素子S1、S2及びS3に関するオープン故障」のみが発生、「上アームのスイッチング素子S1、S2及びS3に関するオープン故障」に加えて「下アームのスイッチング素子S4、S5及びS6の少なくとも1つに関するオープン故障」が発生、「下アームのスイッチング素子S4、S5及びS6に関するオープン故障」のみが発生、並びに、「下アームのスイッチング素子S4、S5及びS6に関するオープン故障」に加えて「上アームのスイッチング素子S1、S2及びS3の少なくとも1つに関するオープン故障」のうち、いずれかのオープン故障が発生している。そこで、第1の故障判定用指令パターンP1~P6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値の全てが第1の閾値未満である場合、故障判定部13は、少なくとも、「上アームのスイッチング素子S1、S2及びS3に関するオープン故障」または「下アームのスイッチング素子S4、S5及びS6に関するオープン故障」が発生していると判定する。
【0066】
続いて、第1の故障判定用指令パターンを用いて三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するショート故障を検出する場合について説明する。
【0067】
図4(A)に示すように、第1の故障判定用指令パターンP1では、上アームのスイッチング素子S1及び当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S5に対してオン指令され、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS5以外のスイッチング素子S2、S3、S4、S6に対してはオフ指令される。したがって、仮に6つのスイッチング素子が全て正常に機能していれば、正極端子25、スイッチング素子S1、負荷回路3、スイッチング素子S5、及び負極端子26からなる閉回路が形成される。
【0068】
図4(B)に示すように、第1の故障判定用指令パターンP2では、上アームのスイッチング素子S1及び当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S6に対してオン指令され、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS6以外のスイッチング素子S2、S3、S4、S5に対してはオフ指令される。したがって、仮に6つのスイッチング素子が全て正常に機能していれば(すなわちオープン故障が発生していないのであれば)、正極端子25、スイッチング素子S1、負荷回路3、スイッチング素子S6、及び負極端子26からなる閉回路が形成される。
【0069】
このように、第1の故障判定用指令パターンP1及び第1の故障判定用指令パターンP2のいずれにおいても、スイッチング素子S1に対してはオン指令されている。したがって、スイッチング素子S1が正常に機能していれば、図4(A)及び図4(B)のいずれにおいても、スイッチング素子S1を介して閉回路に正常な電流が流れ、電流検出部23はプローブT3を介してこの正常な電流を検出する。すなわち、電流取得部12が電流検出部23から取得した電流の検出値は正常値となる。しかしながら、仮にスイッチング素子S4がショート故障していたとするとスイッチング素子S4はオフ指令したままにもかかわらずクローズしたままとなる。第1の故障判定用指令パターンP1及び第1の故障判定用指令パターンP2の下でスイッチング素子S1に対してオン指令されるとスイッチング素子S1はクローズするので、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側からみて、正極端子25と同一のレグに属するスイッチング素子S1及びスイッチング素子S4と負極端子26とからなるショート回路が構成される。その結果、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側に直流電圧が印加されると、正極端子25とスイッチング素子S1とスイッチング素子S4と負極端子26とからなるショート回路に過電流が流れる。他の第1の故障判定用指令パターンとスイッチング素子に対しても同様のことがいえる。そこで、本開示の一実施形態では、この過電流の発生に基づきショート故障の発生を検出する。
【0070】
電流検出部23はプローブT3を介してこの過電流を検出する。電流検出部23から取得した過電流の検出値は電流取得部12によって取得される。故障判定部13は、6つの第1の故障判定用指令パターンPNの各々に対応して電流取得部12が取得した6つの電流の検出値のうち、2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2の下で電流取得部12が取得した2つの電流の検出値がともに過電流を示した場合、当該2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2においてオン指令されていたスイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4に関係するショート故障が発生していると判定する。なお、正常値(例えば定格値)よりも大きい値(例えば定格値の1.2倍程度)である第2の閾値を予め設定して故障判定部13内に記憶しておく。電流取得部12が取得した電流の検出値が過電流を示すか否かの判定は、電流取得部12が取得した電流の検出値と第2の閾値との比較結果に基づき行えばよい。すなわち、故障判定部13は、電流取得部12が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい値であることをもって、電流取得部12が取得した電流の検出値が過電流を示すと判定する。
【0071】
なお、正極端子25とスイッチング素子S1とスイッチング素子S4と負極端子26とからなるショート回路に流れる過電流は、プローブT3を介して電流検出部23によって検出される。電流検出部23による電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の電流の検出処理(プローブT3を介した電流検出処理)に代えて、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子をIPMにて構成する場合はIPMの過電流検出機能を用いて過電流を検出するようにしてもよく、あるいはドライブ回路22がDESAT検出回路を有するドライバICにて構成される場合はDESAT検出回路の過電流検出機能を用いて過電流を検出するようにしてもよい。
【0072】
6つの第1の故障判定用指令パターンPNの各々に対応して電流取得部12が取得した6つの電流の検出値のうち、3つ以上の第1の故障判定用指令パターンの下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい値となった場合についてもこれに類似してスイッチング素子に関係するショート故障が発生していると判定することができる。
【0073】
図6は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるショート故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。図6において、第1の故障判定用指令パターンP1~P6に関して、電流取得部12が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい値である場合(すなわち過電流を示す場合)を「×」で示し、第2の閾値以下(すなわち正常値)である場合を「〇」で示す。また、図6において、各スイッチング素子S1~S6に関して、ショート故障が発生していると判定される場合を「×」で示し、ショート故障が発生している可能性があると判定される場合を「△」で示す。故障判定部13は、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子S1~S6のショート故障を図6に示す対応関係に基づき検出する。
【0074】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5の下で電流取得部が取得した2つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5においてオン指令されていたスイッチング素子S4が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S1に関係するショート故障が発生していると判定する。
【0075】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、3つの第1の故障判定用指令パターンP3~P5の下で電流取得部が取得した3つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該3つの第1の故障判定用指令パターンP3~P5のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP3及び4においてオン指令されていたスイッチング素子S2が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S5に関係するショート故障と、当該3つの第1の故障判定用指令パターンP3~P5のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP4及び5においてオン指令されていたスイッチング素子S4が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S1に関係するショート故障とが発生していると判定する。
【0076】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P3及びP6の下で電流取得部が取得した4つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P3及びP6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S5が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S2に関係するショート故障と、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P3及びP6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP2及びP3においてオン指令されていたスイッチング素子S6が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S3に関係するショート故障とが発生していると判定する。
【0077】
このように、スイッチング素子S2のショート故障の検出に用いた第1の故障判定用指令パターンの組み合わせP1及びP6と、スイッチング素子S3のショート故障の検出に用いた第1の故障判定用指令パターンの組み合わせP2及びP3とで、4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P3及びP6の全てを、ショート故障の判定処理で「使い切った」ことになる。しかしながら、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P1及びP6」並びに「P2及びP3」以外に、スイッチング素子S1をオン指令する2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2の組み合わせも存在する。4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P3及びP6の全てをショート故障の判定処理で使い切っていることから、第1の故障判定用指令パターンP1及びP2については、「スイッチング素子S1をオン指令するもの」としてたまたま表れているにすぎず、実際にはスイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4に関係するショート故障が実際には発生していない可能性がある。一方で、スイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4に関係するショート故障が実際に発生している可能性も残されている。そこで、故障判定部13は、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P1及びP6」並びに「P2及びP3」とは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2においてオン指令されてスイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4については、「ショート故障が発生している」とは確定せず、「ショート故障が発生している可能性がある」といったような推定にとどめた判定を行う。
【0078】
上記と同様に「ショート故障が発生している」とは確定せずに「ショート故障が発生している可能性がある」にとどめた判定を行う第1の故障判定用指令パターンの組み合わせとしては、「P1及びP4~P6」、「P2~P5」、「P1~P4」、「P1、P2、P5及びP6」、並びに「P3~P6」がある。
【0079】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP4~P6の下で電流取得部が取得した4つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP4~P6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5においてオン指令されていたスイッチング素子S4が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S1に関係するショート故障と、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP4~P6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S5が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S2に関係するショート故障とが発生していると判定する。故障判定部13は、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P4及びP5」並びに「P1及びP6」とは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6においてオン指令されてスイッチング素子S3が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S6に関するショート故障が発生している可能性があると判定する。
【0080】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP2~P5の下で電流取得部が取得した4つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP2~P5のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP2及びP3においてオン指令されていたスイッチング素子S6が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S3に関係するショート故障と、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP2~P5のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5においてオン指令されていたスイッチング素子S4が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S1に関係するショート故障とが発生していると判定する。故障判定部13は、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P2及びP3」並びに「P4及びP5」とは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンP3及びP4においてオン指令されてスイッチング素子S2が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S5に関するショート故障が発生している可能性があると判定する。
【0081】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P4の下で電流取得部が取得した4つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P4のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2においてオン指令されていたスイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4に関係するショート故障と、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P4のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP3及びP4においてオン指令されていたスイッチング素子S2が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S5に関係するショート故障とが発生していると判定する。故障判定部13は、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P1及びP2」並びに「P3及びP4」とは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンP2及びP3においてオン指令されてスイッチング素子S6が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S3に関するショート故障が発生している可能性があると判定する。
【0082】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP1、P2、P5及びP6の下で電流取得部が取得した4つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1、P2、P5及びP6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2においてオン指令されていたスイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4に関係するショート故障と、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP1、P2、P5及びP6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S3が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S6に関係するショート故障とが発生していると判定する。故障判定部13は、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P1及びP2」並びに「P5及びP6」とは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP6においてオン指令されてスイッチング素子S5が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S2に関するショート故障が発生している可能性があると判定する。
【0083】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、4つの第1の故障判定用指令パターンP3~P6の下で電流取得部が取得した4つの電流の検出値が第2の閾値より大きい場合、故障判定部13は、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP3~P6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP3及びP4においてオン指令されていたスイッチング素子S2が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S5に関係するショート故障と、当該4つの第1の故障判定用指令パターンP3~P6のうちの2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S3が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S6に関係するショート故障とが発生していると判定する。故障判定部13は、当該ショート故障が発生していると判定した際に用いられた2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせ「P3及びP4」並びに「P5及びP6」とは異なる組み合わせを有する2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5においてオン指令されてスイッチング素子S4が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S1に関するショート故障が発生している可能性があると判定する。
【0084】
例えば、6つの第1の故障判定用指令パターンP1~P6のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値の全てが第2の閾値より大きい場合、1つのスイッチング素子をオン指令する2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせは、「P4及びP5、P1及びP6、P2及びP3」と、「P1及びP2、P3及びP4、P5及びP6」との2種類ある。このうち、第1の故障判定用指令パターンの「P4及びP5、P1及びP6、P2及びP3」の組み合わせについていえば、スイッチング素子に関係するショート故障が、2つの第1の故障判定用指令パターンP4及びP5においてオン指令されていたスイッチング素子S4が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S1、2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S5が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S2、2つの第1の故障判定用指令パターンP2及びP3においてオン指令されていたスイッチング素子S6が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S3、で発生している。第1の故障判定用指令パターンの「P1及びP2、P3及びP4、P5及びP6」の組み合わせについていえば、スイッチング素子に関係するショート故障が、2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP2においてオン指令されていたスイッチング素子S1が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S4、2つの第1の故障判定用指令パターンP3及びP4においてオン指令されていたスイッチング素子S2が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S5、2つの第1の故障判定用指令パターンP5及びP6においてオン指令されていたスイッチング素子S3が属するレグ内においてオフ指令されていたスイッチング素子S6、で発生している。そこで、故障判定部13は、スイッチング素子に関係するショート故障が、ブリッジ回路の上アームのスイッチング素子S1、S2及びS3の全て、またはブリッジ回路の下アームのスイッチング素子S4、S5及びS6の全てについて発生していると判定する。
【0085】
このように、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100によれば、第1の故障判定用指令パターンを用いて、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障の発生箇所を迅速かつ正確に検出することができる。
【0086】
続いて、単相のブリッジ回路からなる電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置について説明する。
【0087】
図7は、本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置を示す図である。
【0088】
本開示の一実施形態によるモータ駆動装置100は、単相のブリッジ回路を構成する4つのスイッチング素子のオンオフ動作により直流から交流への電力変換または交流から直流への電力変換を行うことでモータ(図示せず)の駆動に用いられる電力を生成する電力変換装置2と、電力変換装置2の故障を検出する故障検出装置1とを備える。
【0089】
単相の電力変換装置2は、単相のブリッジ回路と、スイッチング制御部21と、ドライブ回路22と、電流検出部23と、電圧検出部24とを備える。電力変換装置2の直流側には正極端子25及び負極端子26が設けられる。
【0090】
単相の電力変換装置2の例としては、例えばPWM制御方式のインバータ、PWM制御方式のコンバータ(整流器)、及び120度通電方式のコンバータ(整流器)などがある。単相の電力変換装置2の交流側及び直流側に接続される各種回路の例については、三相の電力変換装置に関する説明において挙げたものと同様である。
【0091】
電力変換装置2内の単相のブリッジ回路は、単相の各相に対応する2つのレグを有する。各レグは、上アーム及び下アームを有する。各上アーム及び各下アームには、スイッチング素子とこのスイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードとからなるパワー素子が設けられる。ここでは、各上アームに設けられるスイッチング素子をS1及びS2とし、各下アームに設けられるスイッチング素子をS3及びS4とする。スイッチング素子の例については、三相の電力変換装置に関する説明において挙げたものと同様である。
【0092】
電力変換装置2の単相のブリッジ回路の交流側の電力線のうちの少なくとも一相分にはプローブ(図7に示す例ではプローブT1)が設けられ、電流検出部23は、プローブT1を介して電力変換装置2(のブリッジ回路)の交流側の電流を検出する。また、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の正負の電力線のうちの少なくとも1つにはプローブ(図1に示す例では正側の電力線にプローブT3)が設けられ、電流検出部23は、プローブT3を介して電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の電流(特に過電流)を検出する。電流検出部23による電力変換装置2のブリッジ回路の直流側の電流の検出処理に代えて、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子をIPMにて構成する場合はIPMの過電流検出機能を用いてもよく、あるいは、ドライブ回路22がDESAT検出回路を有するドライバICにて構成される場合はDESAT検出回路の過電流検出機能を用いてもよい。
【0093】
単相の電力変換装置2におけるスイッチング制御部21、ドライブ回路22、電圧検出部24、正極端子25及び負極端子26については、三相の電力変換装置2に関して説明したものと同様である。電流検出部23によって検出された電流の検出値及び電圧検出部24によって検出された電圧の検出値は、電力変換装置2における電力変換制御や電力変換装置2を有するモータ駆動装置100におけるモータ駆動制御に用いられるとともに、故障検出装置1の故障検出処理にも用いられる。
【0094】
本開示の一実施形態による故障検出装置1は、指令生成部11と、電流取得部12と、故障判定部13とを備える。また、故障検出装置1が検出すべき故障内容に応じて、故障検出装置1は、電圧取得部14と電流推定部15とを備える。故障検出装置1は、モータ駆動装置100内に内蔵されてもよく、電力変換装置2と取り外し可能に接続されてもよい。故障検出装置1を既存の電力変換装置2に接続することもできる。
【0095】
指令生成部11は、単相のブリッジ回路のスイッチング素子に対して指令パターンを生成するので、互いに異なる4つの指令パターンを生成する。なお、指令生成部11は、スイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために第1の故障判定用指令パターンを生成し、スイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部(図示せず)の故障を検出するために第2の故障判定用指令パターンを生成する。すなわち、指令生成部11により生成された指令パターンは、故障を検出するために用いられるものであり、上位制御部(図示せず)から指令される電力変換装置2の通常の電力変換制御やモータ駆動装置100の通常のモータ駆動制御に用いられる指令パターンとは異なる。指令生成部11により生成された指令パターンは、故障判定部13及びスイッチング制御部21に送られる。スイッチング制御部21は、指令生成部11により生成された指令パターンに基づいて、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。
【0096】
故障検出装置1にて電力変換装置2の故障を検出する際には、電力変換装置2の交流側には故障検出用の負荷回路3を接続するとともに、電力変換装置2の直流側には正極端子25及び負極端子26を介して故障検出用の直流電源(図示せず)を接続して直流電圧を印加する。負荷回路3の例については、三相の電力変換装置に関する説明において挙げたものと同様である。
【0097】
電流取得部12については、三相の電力変換装置2に関する説明において挙げたものと同様である。
【0098】
故障判定部13は、指令パターンにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせの内容と、電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態において各スイッチング素子に対して指令パターンを指令して各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した電流の検出値とに基づいて、電力変換装置2の故障を判定する。すなわち、図7に示す例では、単相の電力変換装置2の故障を検出するため、互いに異なる4つの指令パターンのそれぞれを指令して各スイッチング素子を動作させる。4つの指令パターンの各々に対応して、電流取得部12は電流の検出値を4種類取得する。スイッチング素子にオープン故障またはショート故障が発生していたりスイッチング素子に対応して設けられた過電流検出部が故障していた場合には、電流取得部12が取得した電流の検出値に何らかの変化が現れる。そこで、本開示の一実施形態では、故障判定部13は、指令パターンにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した電流の検出値との対応関係に基づき、単相の電力変換装置2の故障の発生箇所及び故障の内容を判定する。故障判定部13による判定結果は、故障検出装置1の検出結果として外部へ出力される。故障検出装置1の検出結果は、例えば表示部(図示せず)に表示される。表示部の例については、三相の電力変換装置に関する説明において挙げたものと同様である。
【0099】
図8は、本開示の一実施形態による単相の電力変換装置内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために用いられる第1の故障判定用指令パターンを示す図である。
【0100】
図7に示す単相の電力変換装置2のオープン故障及びショート故障を検出するための第1の故障判定用指令パターンとして、互いに異なる4つの指令パターンが指令生成部11によって生成される。4つの第1の故障判定用指令パターンの各々を、識別番号N(ただし、Nは1~4の自然数)を用いて識別する。4つの第1の故障判定用指令パターンPNの各々は、ブリッジ回路を構成するいずれか1つの上アームのスイッチング素子といずれか1つの下アームのスイッチング素子とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子以外のスイッチング素子に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。より詳細には次の通りである。
【0101】
第1の故障判定用指令パターンP1は、上アームのスイッチング素子S1と下アームのスイッチング素子S4とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS4以外のスイッチング素子S2及びS3に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0102】
第1の故障判定用指令パターンP2は、上アームのスイッチング素子S2と下アームのスイッチング素子S3とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S2及びS3以外のスイッチング素子S1及びS4に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0103】
第1の故障判定用指令パターンP3は、上アームのスイッチング素子S1と下アームのスイッチング素子S3とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1及びS3以外のスイッチング素子S2及びS4に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0104】
第1の故障判定用指令パターンP4は、上アームのスイッチング素子S2と下アームのスイッチング素子S4とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S2及びS4以外のスイッチング素子S1及びS3に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0105】
図9は、本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障の検出処理を示すフローチャートである。
【0106】
故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100におけるスイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障の検出処理は、単相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態で実行される。
【0107】
まず、ステップS201において、指令生成部11は、初期設定として、第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nを1に設定する。ステップS201における第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nの1の設定は、例えば、作業者の故障検出装置1への入力装置を用いた入力操作によって行われてもよく、あるいは故障検出装置1による故障検出処理の開始時に自動的に行われてもよく、あるいは故障検出装置1の電源投入時に自動的に行われてもよい。
【0108】
ステップS202において、指令生成部11は、スイッチング制御部21に対して第1の故障判定用指令パターンPNを指令する。スイッチング制御部21は、指令生成部11から受信した第1の故障判定用指令パターンPNに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。なお、指令生成部11により生成された第1の故障判定用指令パターンPNは、故障判定部13にも送られる。
【0109】
ステップS203において、電流取得部12は、第1の故障判定用指令パターンPNに対応する電流検出部23による電流の検出値を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値は、故障判定部13に送られる。故障判定部13は、電流取得部12から送られてきた電流の検出値と、当該電流の検出値の取得の際に用いられていた第1の故障判定用指令パターンPNとを対応付けて記憶する。
【0110】
ステップS204において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが4であるか否かを判定する。第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが4であると判定された場合はステップS206へ進み、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが4であると判定されなかった場合はステップS205へ進む。
【0111】
ステップS205において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nを1つインクリメントする。その後、ステップS202へ戻る。
【0112】
ステップS206において、故障判定部13は、4つの第1の故障判定用指令パターンPNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した電流の検出値との対応関係に基づき、単相の電力変換装置2のオープン故障またはショート故障の発生箇所を判定する。その後、一連の故障検出処理を終了する。
【0113】
上述した第1の故障判定用指令パターンは、単相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障を検出するために用いられる。続いて、第1の故障判定用指令パターンを用いて単相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障を検出する場合について説明する。
【0114】
故障検出装置1にて単相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障を検出する場合、故障判定部13は、4つの第1の故障判定用指令パターンPNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した4つの電流の検出値との対応関係に基づき、単相の電力変換装置2のオープン故障の発生箇所を判定する。
【0115】
図10は、本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるオープン故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。図10において、第1の故障判定用指令パターンP1~P4に関して、電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満(すなわちゼロに近い値)である場合を「×」で示し、第1の閾値以上(すなわちゼロよりも十分に大きい正常値)である場合を「〇」で示す。また、図10において、各スイッチング素子S1~S4に関して、オープン故障が発生していると判定される場合を「×」で示す。故障判定部13は、単相の電力変換装置2内のスイッチング素子S1~S4のオープン故障を図10に示す対応関係に基づき検出する。
【0116】
故障判定部13は、4つの第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した4つの電流の検出値のうち、2つまたは3つの第1の故障判定用指令パターンの下で電流取得部12が取得した2つまたは3つの電流の検出値が第1の閾値未満である場合は、当該2つまたは3つの第1の故障判定用指令パターンのうちの2つにおいてオン指令されていたスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定する。なお、単相の電力変換装置2の場合も、三相の電力変換装置と同様、ゼロに近くかつゼロより大きい第1の閾値(例えば数十ミリアンペア)を予め設定して故障判定部13内に記憶しておく。電流取得部12が取得した電流の検出値がゼロに近い値であるか否かの判定は、電流取得部12が取得した電流の検出値と第1の閾値との比較結果に基づき行えばよい。すなわち、故障判定部13は、電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満であることをもって、電流取得部12が取得した電流の検出値がゼロに近い値であると判定する。
【0117】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P4の下で電流取得部12が取得した電流の検出値のうち、2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP3の下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合、故障判定部13は、当該2つの第1の故障判定用指令パターンP1及びP3においてオン指令されていたスイッチング素子S1に関係するオープン故障が発生していると判定する。
【0118】
例えば、第1の故障判定用指令パターンP1~P4の下で電流取得部12が取得した電流の検出値のうち、3つの第1の故障判定用指令パターンP2~P4の下で電流取得部12が取得した電流の検出値が第1の閾値未満である場合、故障判定部13は、当該3つの第1の故障判定用指令パターンP2~P4のうちの、2つの第1の故障判定用指令パターンP2及びP3の下でオン指令されていたスイッチング素子S3に関係するオープン故障と、2つの第1の故障判定用指令パターンP2及びP4の下でオン指令されていたスイッチング素子S2に関係するオープン故障とが発生していると判定する。
【0119】
故障判定部13は、4つの第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した4つの電流の検出値が第1の閾値未満である場合、1つのスイッチング素子をオン指令する2つの第1の故障判定用指令パターンの組み合わせは、「P1及びP3」、「P2及びP4」、「P2及びP3」、並びに「P1及びP4」の4種類ある。これら4種類のうちの少なくとも2種類を、1つのスイッチング素子をオン指令する第1の故障判定用指令パターンとして採用すれば、4つの第1の故障判定用指令パターンP1~P6の全てを、オープン故障の判定処理で使い切ることができる。ここで、第1の故障判定用指令パターンP1及びP3は、スイッチング素子S1をオン指令している。第1の故障判定用指令パターンP2及びP4は、スイッチング素子S2をオン指令している。第1の故障判定用指令パターンP2及びP3は、スイッチング素子S3をオン指令している。第1の故障判定用指令パターンP1及びP4は、スイッチング素子S4をオン指令している。そこで、故障判定部13は、4つの第1の故障判定用指令パターンのそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した4つの電流の検出値が第1の閾値未満である場合は、4つのスイッチング素子のうちの少なくとも2つのスイッチング素子に関係するオープン故障が発生していると判定する。
【0120】
なお、第1の故障判定用指令パターンP3及びP4はいずれも、同一のレグ内の上アーム及び下アームのスイッチング素子をオフ指令して強制的にショートさせるものであるので、第1の故障判定用指令パターンP1及びP2の下で電流取得部12により取得された電流の検出値が第1の閾値以上(すなわちゼロよりも十分に大きい正常値)である場合は、第1の故障判定用指令パターンP3及びP4の下での電流取得部12による電流の検出値の取得処理を省略してもよい。
【0121】
続いて、第1の故障判定用指令パターンを用いて単相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するショート故障を検出する場合について説明する。
【0122】
故障検出装置1にて単相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するショート故障を検出する場合、故障判定部13は、2つの第1の故障判定用指令パターンPNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した2つの電流の検出値との対応関係に基づき、単相の電力変換装置2のショート故障の発生箇所を判定する。
【0123】
図11は、本開示の一実施形態による単相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるショート故障が発生しているスイッチング素子と第1の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。図11において、第1の故障判定用指令パターンP1及びP2に関して、電流取得部12が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい値である場合(すなわち過電流を示す場合)を「×」で示し、第2の閾値以下(すなわち正常値)である場合を「〇」で示す。また、図11において、各スイッチング素子S1~S4に関して、ショート故障が発生していると判定される場合を「×」で示す。故障判定部13は、単相の電力変換装置2内のスイッチング素子S1~S4のショート故障を図11に示す対応関係に基づき検出する。なお、第1の故障判定用指令パターンP3及びP4はいずれも、同一のレグ内の上アーム及び下アームのスイッチング素子をオフ指令して強制的にショートさせるものであるので、スイッチング素子に関係するショート故障の判定には用いられない。
【0124】
仮にスイッチング素子S4がショート故障していたとするとスイッチング素子S4はオフ指令したままにもかかわらずクローズしたままとなる。第1の故障判定用指令パターンP2の下でスイッチング素子S2及びS3に対してオン指令されるとスイッチング素子S2及びS3はクローズするので、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側からみて、正極端子25と同一のレグに属するスイッチング素子S2及びスイッチング素子S4と負極端子26とからなるショート回路が構成される。その結果、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側に直流電圧が印加されると、正極端子25とスイッチング素子S2とスイッチング素子S4と負極端子26とからなるショート回路に過電流が流れる。また、仮にスイッチング素子S1がショート故障していたとするとスイッチング素子S1はオフ指令したままにもかかわらずクローズしたままとなる。第1の故障判定用指令パターンP2の下でスイッチング素子S2及びS3に対してオン指令されるとスイッチング素子S2及びS3はクローズするので、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側からみて、正極端子25と同一のレグに属するスイッチング素子S1及びスイッチング素子S3と負極端子26とからなるショート回路が構成される。その結果、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側に直流電圧が印加されると、正極端子25とスイッチング素子S1とスイッチング素子S3と負極端子26とからなるショート回路に過電流が流れる。また、仮にスイッチング素子S1及びS4の両方がショート故障していたとしても、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側に直流電圧が印加されると、同様に、正極端子25とスイッチング素子S1とスイッチング素子S3と負極端子26とからなるショート回路及び正極端子25とスイッチング素子S2とスイッチング素子S3と負極端子26とからなるショート回路に過電流が流れる。他の第1の故障判定用指令パターンとスイッチング素子に対しても同様のことがいえる。そこで、本開示の一実施形態では、この過電流の発生に基づきショート故障の発生を検出する。なお、正常値(例えば定格値)よりも大きい値(例えば定格値の1.2倍程度)である第2の閾値を予め設定して故障判定部13内に記憶しておく。電流取得部12が取得した電流の検出値が過電流を示すか否かの判定は、電流取得部12が取得した電流の検出値と第2の閾値との比較結果に基づき行えばよい。すなわち、故障判定部13は、電流取得部12が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい値であることをもって、電流取得部12が取得した電流の検出値が過電流を示すと判定する。
【0125】
電流検出部23はプローブT3を介してこの過電流を検出する。電流検出部23から取得した過電流の検出値は電流取得部12によって取得される。第1の故障判定用指令パターンP1及びP2のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、第1の故障判定用指令パターンP2の下で電流取得部が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい場合(過電流を示す場合)、故障判定部13は、第1の故障判定用指令パターンP2においてオン指令が指令されていたスイッチング素子S2及びS3の各々属するレグ内においてそれぞれオフ指令されていた2つのスイッチング素子S4及びS1のうちのいずれかに関係するショート故障が発生していると判定する。すなわちこの場合、故障判定部13は、スイッチング素子S4に関係するショート故障またはスイッチング素子S1に関係するショート故障のうちのいずれかが発生していると判定する。
【0126】
同様に、例えば、第1の故障判定用指令パターンP1及びP2のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値のうち、第1の故障判定用指令パターンP1の下で電流取得部が取得した電流の検出値が第2の閾値より大きい場合(過電流を示す場合)、故障判定部13は、第1の故障判定用指令パターンP1においてオン指令が指令されていたスイッチング素子S1及びS4の各々属するレグ内においてそれぞれオフ指令されていた2つのスイッチング素子S3及びS2のうちのいずれかに関係するショート故障が発生していると判定する。すなわちこの場合、故障判定部13は、スイッチング素子S3に関係するショート故障またはスイッチング素子S2に関係するショート故障のうちのいずれかが発生していると判定する。
【0127】
また例えば、第1の故障判定用指令パターンP1及びP2のそれぞれに基づいて各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得したブリッジ回路の直流側の電流の検出値の全てが第2の閾値より大きい場合、第1の故障判定用指令パターンP1においてオン指令が指令されていたスイッチング素子S1及びS4の各々属するレグ内においてそれぞれオフ指令されていた2つのスイッチング素子S3及びS2のうちのいずれかに関係するショート故障が発生している可能性と、第1の故障判定用指令パターンP2においてオン指令が指令されていたスイッチング素子S2及びS3の各々属するレグ内においてそれぞれオフ指令されていた2つのスイッチング素子S4及びS1のうちのいずれかに関係するショート故障が発生している可能性と、スイッチング素子S1、S2、S3及びS4に関係するショート故障が発生している可能性とがある。このうち、同一のレグにおけるスイッチング素子S1及びS3のショート故障が同時に発生する場合、及び、同一のレグにおけるスイッチング素子S2及びS4のショート故障が同時に発生する場合は、電力変換装置2の直流側が既にショートしている状態にあるので電力変換装置2はそもそも動作せず、すなわち「電力変換装置2が動作しない」ことをもってスイッチング素子S1、S2、S3及びS4に関係するショート故障が発生していることを作業者は把握することができ、故障検出装置1による故障検出処理を実行するまでもない。そこで、スイッチング素子S1、S2、S3及びS4に関係するショート故障は故障検出装置1のショート故障検出対象から除外する。故障判定部13は、スイッチング素子に関係するショート故障が、ブリッジ回路の上アームのスイッチング素子S1及びS2の全てまたはブリッジ回路の下アームのスイッチング素子S3及びS4の全てについて発生していると判定するようにする。
【0128】
以上説明したように、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100は、スイッチング素子に関係するオープン故障またはショート故障を検出することができる。
【0129】
続いて、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100において、さらに電流検出部23の故障を検出する例について説明する。
【0130】
図12は、電力変換装置のブリッジ回路内のスイッチング素子を流れる電流と、当該スイッチング素子のオン時間との関係を示す図である。
【0131】
電力変換装置2の交流側には故障検出用の負荷回路3が接続され、電力変換装置2の直流側には故障検出用の直流電源が接続されて直流電圧が印加されている状態において、第1の故障判定用指令パターンのいずれかに従ってスイッチング素子を時刻t1から時刻t2までのΔtにわたってオンすると、オン時間(ゲート電圧印加時間)の経過に合わせて、当該スイッチング素子と負荷回路3とを含む閉回路に流れる電流が徐々に増加する。負荷回路3は、誘導性負荷または抵抗性負荷であり、例えば交流モータ、リアクトル、及び抵抗などがある。スイッチング素子と負荷回路3とを含む閉回路についてキルヒホッフの法則を適用すると、式1に表されるようなスイッチング素子のオンが終了する時刻t2におけるスイッチング素子に流れる電流の推定値Iestが得られる。式1において、電圧検出部24により検出される電圧の検出値をVdc、スイッチング素子のオン時間をΔt、負荷回路3のインピーダンスのうち抵抗成分をR、インダクタンス成分をLとする。
【0132】
【数1】
【0133】
負荷回路3のインピーダンスについては事前に取得して電流推定部15内の記憶部に格納しておく。また、電流推定部15は、電圧検出部24によって検出された電圧の検出値を電圧取得部14から取得する。また、電流推定部15は、スイッチング素子のオン時間に関する情報を、指令生成部11が生成した第1の故障判定用指令パターンから取得する。三相の電力変換装置2では、6つの第1の故障判定用指令パターンのいずれかを用いれば、6つのスイッチング素子のオン時間に関する情報を取得することができる。同様に、単相の電力変換装置2では、4つの第1の故障判定用指令パターンのいずれかを用いれば、4つのスイッチング素子のオン時間に関する情報を取得することができる。電流推定部15は、電圧取得部14が取得した電圧の検出値Vdcと、スイッチング素子がオン指令されている時間Δtと、負荷回路3のインピーダンスとに基づいて、各スイッチング素子に流れる電流の推定値Iestを計算する。算出された各スイッチング素子に流れる電流の推定値は、故障判定部13に送られる。
【0134】
電力変換装置2の交流側には故障検出用の負荷回路3が接続され、電力変換装置2の直流側には故障検出用の直流電源が接続されて直流電圧が印加されている状態において、第1の故障判定用指令パターンに従ってスイッチング素子をオンしているときに当該スイッチング素子に流れる電流は、プローブT1、T2またはT3を介して電流検出部23によって検出される電流と同じである。電力変換装置2内の各部が正常に機能していれば、電流検出部23によって検出される電流の検出値は電流推定部15によって計算された電流の推定値Iestとほぼ同じである。一方、電力変換装置2内に何らかの異常が発生すると、電流検出部23によって検出される電流の検出値と電流推定部15によって計算された電流の推定値Iestとの間にずれが生じる。電力変換装置2において発生し得る故障には、例えば、スイッチング素子に関係するオープン故障、スイッチング素子に関係するショート故障、電力変換装置2に設けられた電流検出部23に関係する故障があるが、スイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障の判定処理を行ったにもかかわらずこれらオープン故障及びショート故障が検出されなかった場合には、電流検出部23が故障していると考えられる。
【0135】
そこで、故障判定部13は、まず複数の第1の故障判定用指令パターンの下で電流検出部23によって検出される電流の検出値が電流推定部15によって計算された電流の推定値Iestを比較し、電流の検出値と電流の推定値Iestとの間にずれがあるか否かを判定する。電流の検出値と電流の推定値Iestとの間にずれがあるか否かは、電流の検出値と電流の推定値との差が所定の範囲外であるか否か、あるいは電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲外であるか否かに基づいて、判定すればよい。例えば、電流の検出値と電流の推定値との差が所定の範囲外である場合(例えば±数アンペアの範囲に収まらない場合)、電流の検出値が電流の推定からずれていると判定する。また例えば、電流の検出値と電流の推定値との割合(電流の検出値を電流の推定値で除算した値)が所定の範囲外である場合(例えば80%から120%の範囲に収まらない場合)、電流の検出値が電流の推定からずれていると判定する。なお、ここで挙げた数値はあくまでも一例であって、それ以外の数値であってもよい。故障判定部13は、電流の検出値と電流の推定値Iestとの間にずれがあると判定した場合は、次にスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障が発生しているか否かを判定する。そして、故障判定部13は、オープン故障及びショート故障が検出されないのであれば、電流検出部23に関係する故障が発生していると判定する。例えば、図2に示す第1の故障判定用指令パターンP1の下でオープン故障及びショート故障を検出しなかった場合には、スイッチング素子S1を含む電流経路に設けられるプローブT1またはT3が故障していたと特定することができる。例えば、図2に示す第1の故障判定用指令パターンP1、P2、P4及びP5の下でオープン故障及びショート故障のいずれも検出しなかった場合には、スイッチング素子S1を含む電流経路に設けられるプローブT1またはT3が故障していたと特定することができる。また例えば、図2に示す第1の故障判定用指令パターンP1、P3、P4及びP6の下でオープン故障及びショート故障のいずれも検出しなかった場合には、スイッチング素子S1を含む電流経路に設けられるプローブT2またはT3が故障していたと特定することができる。
【0136】
図13は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障並びに電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャートである。ここでは、一例として、三相の電力変換装置2についての故障検出理処理について説明するが、この説明は識別番号Nの最大値を6から4に変更することによって単相の電力変換装置2についての故障検出理処理にも同様に適用可能である。
【0137】
故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障並びに電流検出部の検出処理は、三相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態で実行される。
【0138】
まず、ステップS301において、指令生成部11は、初期設定として、第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nを1に設定する。ステップS301における第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nの1の設定は、例えば、作業者の故障検出装置1への入力装置を用いた入力操作によって行われてもよく、あるいは故障検出装置1による故障検出処理の開始時に自動的に行われてもよく、あるいは故障検出装置1の電源投入時に自動的に行われてもよい。
【0139】
ステップS302において、指令生成部11は、スイッチング制御部21に対して第1の故障判定用指令パターンPNを指令する。スイッチング制御部21は、指令生成部11から受信した第1の故障判定用指令パターンPNに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。なお、指令生成部11により生成された第1の故障判定用指令パターンPNは、故障判定部13にも送られる。
【0140】
ステップS303において、電流取得部12は、第1の故障判定用指令パターンPNに対応する電流検出部23による電流の検出値を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値は、故障判定部13に送られる。故障判定部13は、電流取得部12から送られてきた電流の検出値と、当該電流の検出値の取得の際に用いられていた第1の故障判定用指令パターンPNとを対応付けて記憶する。
【0141】
ステップS304において、電圧取得部14は、電圧検出部24が検出した電力変換装置の直流側の電圧の検出値を取得する。取得された電圧の検出値は、電流推定部15に送られる。
【0142】
ステップS305において、ステップS304において電圧取得部14が取得した電圧の検出値と、ステップS302において第1の故障判定用指令パターンPNに従いスイッチング素子がオン指令されている時間と、負荷回路3のインピーダンスとに基づいて、各スイッチング素子に流れる電流の推定値を計算する。算出された電流の推定値は、故障判定部13に送られる。
【0143】
ステップS306において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であるか否かを判定する。第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であると判定された場合はステップS308へ進み、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であると判定されなかった場合はステップS307へ進む。なお、図13に示す例では、一例として、三相の電力変換装置2についての故障検出理処理について説明したのでステップS306において「第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であるか否か」を判定したが、単相の電力変換装置2についての故障検出理処理についての場合は、「第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが4であるか否か」を判定すればよい。
【0144】
ステップS307において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nを1つインクリメントする。その後、ステップS302へ戻る。
【0145】
ステップS308において、故障判定部13は、電流取得部12が取得した6つの電流の検出値の各々とこれに対応する電流推定部15が算出した6つの電流の推定値の各々との割合(すなわち電流の検出値を電流の推定値で除算した値)のうち、少なくとも1つの電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲外であるか否かを判定する。電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲内であると判定された場合は、ステップS309へ進み、電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲内であると判定されなかった場合は、ステップS310へ進む。なお、ステップS308においては、「電流の検出値と電流の推定値との割合」に代えて「電流の検出値と電流の推定値との差」を判定処理に用いてもよい。
【0146】
ステップS309において、故障判定部13は、電力変換装置2は正常であるという判定結果を出力し、処理を終了する。
【0147】
ステップS310において、故障判定部13は、スイッチング素子に関するオープン故障が発生したか否かを判定する。オープン故障が発生したと判定された場合はステップS311へ進み、オープン故障が発生したと判定されなかった場合はステップS312へ進む。オープン故障の判定処理の詳細については、図1図5を参照して説明した通りである。
【0148】
ステップS311において、故障判定部13は、オープン故障が発生したスイッチング素子に関する情報を出力し、処理を終了する。
【0149】
ステップS312において、故障判定部13は、スイッチング素子に関するショート故障が発生したか否かを判定する。ショート故障が発生したと判定された場合はステップS313へ進み、ショート故障が発生したと判定されなかった場合はステップS314へ進む。ショート故障の判定処理の詳細については、図1図4及び図6を参照して説明した通りである。
【0150】
ステップS313において、故障判定部13は、ショート故障が発生したスイッチング素子に関する情報を出力し、処理を終了する。
【0151】
なお、ステップS310~S314におけるオープン故障判定とショート故障判定とは順序を入れ替えて実行してもよい。
【0152】
ステップS314において、故障判定部13は、電力変換装置2に設けられた電流検出部23に故障が発生したとの判定を出力し、処理を終了する。
【0153】
このように、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100によれば、第1の故障判定用指令パターンを用いて、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障並びに電流検出部の故障の発生箇所及び故障内容を迅速かつ正確に検出することができる。
【0154】
続いて、図1に示す三相の電力変換装置2内のスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障を検出する場合について説明する。
【0155】
ドライブ回路22として、DESAT検出回路とよばれる過電流検出機能を有するドライバICが使用されることがある。DESAT検出回路は、スイッチング素子ごとに設けられる。また、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子を、過電流検出機能を有するIPMにて構成することができる。このように、DESAT検出回路及びIPMのいずれの場合においても、過電流検出部がスイッチング素子ごとに設けられることになるが、この過電流検出部も、何らかの原因により故障することがある。本開示の一実施形態では、過電流検出部の故障を、オン指令及びオフ指令の組み合わせからなる第2の故障判定用指令パターンを用いて検出する。
【0156】
図14は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障を検出するために用いられる第2の故障判定用指令パターンを示す図である。
【0157】
図1に示す三相の電力変換装置2内のスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障を検出するための第2の故障判定用指令パターンとして、互いに異なる6つの指令パターンが指令生成部11によって生成される。6つの第2の故障判定用指令パターンの各々を、識別番号N(ただし、Nは1~6の自然数)を用いて識別する。6つの第2の故障判定用指令パターンQNの各々は、ブリッジ回路を構成する上側または下側のアームのうちのいずれか1つのアームのスイッチング素子と当該アームが属するレグとは異なるレグ内の当該アームとは異なる側のアームのスイッチング素子とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子以外のスイッチング素子に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。より詳細には次の通りである。
【0158】
第2の故障判定用指令パターンQ1は、ブリッジ回路を構成する上アームのスイッチング素子S1と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S5及びS6とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1、S5及びS6以外のスイッチング素子S2、S3及びS4に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0159】
第2の故障判定用指令パターンQ2は、ブリッジ回路を構成する上アームのスイッチング素子S2と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S4及びS6とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S2、S4及びS6以外のスイッチング素子S1、S3及びS5に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0160】
第2の故障判定用指令パターンQ3は、ブリッジ回路を構成する上アームのスイッチング素子S3と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S4及びS5とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S3、S4及びS5以外のスイッチング素子S1、S2及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0161】
第2の故障判定用指令パターンQ4は、ブリッジ回路を構成する下アームのスイッチング素子S4と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S2及びS3とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S2、S3及びS4以外のスイッチング素子S1、S5及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0162】
第2の故障判定用指令パターンQ5は、ブリッジ回路を構成する下アームのスイッチング素子S5と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S1及びS3とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1、S3及びS5以外のスイッチング素子S2、S4及びS6に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0163】
第2の故障判定用指令パターンQ6は、ブリッジ回路を構成する下アームのスイッチング素子S6と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S1及びS2とに対するオン指令と、当該オン指令されたスイッチング素子S1、S2及びS6以外のスイッチング素子S3、S4及びS5に対するオフ指令と、の組み合わせからなる。
【0164】
図15は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャートである。
【0165】
故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100におけるスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障の検出処理は、三相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態で実行される。
【0166】
まず、ステップS401において、指令生成部11は、初期設定として、第2の故障判定用指令パターンの識別番号Nを1に設定する。ステップS401における第2の故障判定用指令パターンの識別番号Nの1の設定は、例えば、作業者の故障検出装置1への入力装置を用いた入力操作によって行われてもよく、あるいは故障検出装置1による故障検出処理の開始時に自動的に行われてもよく、あるいは故障検出装置1の電源投入時に自動的に行われてもよい。
【0167】
ステップS402において、指令生成部11は、スイッチング制御部21に対して第2の故障判定用指令パターンQNを指令する。スイッチング制御部21は、指令生成部11から受信した第2の故障判定用指令パターンQNに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。三相の電力変換装置2の直流側には直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側には負荷回路3が接続されているので、6つのスイッチング素子のうちオン指令された3つのスイッチング素子を介して電力変換装置2の直流側の正極端子25、負荷回路3及び電力変換装置2の直流側の負極端子26に閉回路が形成される。なお、指令生成部11により生成された第2の故障判定用指令パターンQNは、故障判定部13にも送られる。
【0168】
ステップS403において、電流取得部12は、第2の故障判定用指令パターンQNに従いオン指令されたスイッチング素子に流れる電流の検出値に関する情報として、当該オン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたか否かを示す情報を取得する。例えば、電流取得部12は、スイッチング素子に流れる電流の検出値そのものを電流検出部23から取得する場合は、当該電流の検出値が第3の閾値(過電流検出レベル)より大きいときは過電流が流れた子を示す情報を生成し、当該電流の検出値が第3の閾値(過電流検出レベル)以下であるときは過電流が流れなかったことを示す情報を生成する。また例えば、ドライブ回路22としてDESAT検出回路とよばれる過電流検出機能を有するドライバICが使用される場合は、当該オン指令されたスイッチング素子に対応するDESAT検出回路から、当該オン指令されたスイッチング素子に流れる電流の検出値に関する情報として、過電流が流れたか否かを示す情報を取得する。また例えば、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子をIPMにて構成する場合は、当該オン指令されたスイッチング素子に係るIPMから、当該オン指令されたスイッチング素子に流れる電流の検出値として、過電流が流れたか否かを示す情報を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値に関する情報(過電流が流れたか否かを示す情報)は、故障判定部13に送られる。故障判定部13は、電流取得部12から送られてきた電流の検出値に関する情報(過電流が流れたか否かを示す情報)と、当該電流の検出値の取得の際に用いられていた第2の故障判定用指令パターンQNとを対応付けて記憶する。
【0169】
ステップS404において、指令生成部11は、第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nが6であるか否かを判定する。第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nが6であると判定された場合はステップS406へ進み、第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nが6であると判定されなかった場合はステップS405へ進む。
【0170】
ステップS405において、指令生成部11は、第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nを1つインクリメントする。その後、ステップS402へ戻る。
【0171】
ステップS406において、故障判定部13は、第2の故障判定用指令パターンQNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した電流の検出値に関する情報(過電流が流れたか否かを示す情報)との対応関係に基づき、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障の発生箇所(すなわち、どのスイッチング素子に対応する過電流検出部が故障しているか)を判定する。その後、一連の故障検出処理を終了する。
【0172】
ここで、ステップS406における過電流検出部の故障の判定処理について、より詳細に説明する。
【0173】
図16は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置内のスイッチング素子に対して第2の故障判定用指令パターンが指令されたときに形成される閉回路を例示する図である。一例として、図16では、各スイッチング素子に対して第1の故障判定用指令パターンQ1が指令されたときに形成され得る閉回路を例示している。なお、図16においては、故障検出装置1については図示を省略している。
【0174】
図16に示すように、三相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態において、第2の故障判定用指令パターンQ1では、上アームのスイッチング素子S1と当該上アームが属するレグとは異なるレグ内の下アームのスイッチング素子S5及びS6に対してオン指令され、当該オン指令されたスイッチング素子S1、S5及びS6以外のスイッチング素子S2、S3及びS4に対してオフ指令される。これにより、第2の故障判定用指令パターンQ1の下では、正極端子25、スイッチング素子S1、負荷回路3、スイッチング素子S5、及び負極端子26からなる閉回路(以下、「第1の閉回路」と称する)と、正極端子25、スイッチング素子S1、負荷回路3、スイッチング素子S6、及び負極端子26からなる閉回路(以下、「第2の閉回路」と称する)とが形成される。仮に6つのスイッチング素子が全て正常に機能していれば(すなわちオープン故障及びショート故障のいずれも発生していないのであれば)、第1の閉回路及び第2の閉回路に共通して含まれるスイッチング素子S1には、第1の閉回路のみに含まれるスイッチング素子S5及び第2の閉回路のみに含まれるスイッチング素子S6のそれぞれに流れる電流の約2倍の電流が流れるはずである。例えば、スイッチング素子S1に流れる電流の値とスイッチング素子S5またはスイッチング素子S6に流れる電流の値との間に、スイッチング素子S1に対応して設けられた過電流検出部の過電流検出レベルが設定されている場合、第2の故障判定用指令パターンQ1の下で各スイッチング素子を動作させることによってスイッチング素子S1に流れる電流の値は当該過電流検出レベルを超えるので、スイッチング素子S1に対応して設けられた過電流検出部が正常に機能していれば過電流の発生を検出することができる。一方、スイッチング素子S1に流れる電流の値とスイッチング素子S5またはスイッチング素子S6に流れる電流の値との間に、スイッチング素子S1に対応して設けられた過電流検出部の過電流検出レベルが設定されている場合であっても、当該過電流検出部が故障していたときには、「スイッチング素子S1に流れる電流の値は当該過電流検出レベルを超えている」と判定することはできない。第2の故障判定用指令パターンQ2~Q6のそれぞれの下で各スイッチング素子を動作させた場合においても、スイッチング素子S2~スイッチング素子S6のそれぞれについて、同様のことがいえる。そこで、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100においては、上述の性質を利用してスイッチング素子ごとに設けられた過電流検出部の故障を検出する。より詳細には次の通りである。
【0175】
過電流検出部が有する過電流検出レベルを第3の閾値として設定する。また、第1の閉回路及び第2の閉回路に共通して含まれるスイッチング素子に流れる電流の値と、第1の閉回路のみに含まれるスイッチング素子または第2の閉回路のみに含まれるスイッチング素子に流れる電流の値との間に、第3の閾値(すなわち過電流検出レベル)が存在することになるよう、電力変換装置2のブリッジ回路の直流側から印加すべき直流電圧の値及びブリッジ回路の交流側に接続すべき負荷回路3のインピーダンスの各値を事前に調整しておく。またあるいは、負荷回路3が誘導性負荷(例えば交流モータまたはリアクトル)の場合は、スイッチング素子のオン時間を調整することによっても、第1の閉回路及び第2の閉回路に共通して含まれるスイッチング素子に流れる電流の値と、第1の閉回路のみに含まれるスイッチング素子または第2の閉回路のみに含まれるスイッチング素子に流れる電流の値との間に、第3の閾値(すなわち過電流検出レベル)が設定されるように調整することもできる。
【0176】
また、電流検出部23については各スイッチング素子を流れる電流を検出できるように構成し、電流取得部12は、電流検出部23による電流の検出値を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値は、故障判定部13に送られる。
【0177】
故障判定部13は、第2の故障判定用指令パターンQ1~Q6のそれぞれの下で各スイッチング素子を動作させたときに電流取得部12が取得した情報に基づき、オン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがあるか否かを判定する。スイッチング素子に過電流が流れたものがあるか否かの判定は、電流取得部12が取得した電流の検出値と第3の閾値(過電流検出レベル)との比較結果に基づき行えばよい。すなわち、故障判定部13は、電流取得部12が取得した電流の検出値が第3の閾値より大きい値であることをもって、電流取得部12が取得した電流の検出値が過電流を示すと判定する。
【0178】
なお、例えば、ドライブ回路22がDESAT検出回路からなる場合は、電流取得部12は、ドライブ回路22を介してスイッチング素子に過電流が流れたか否かを示す情報を取得してもよい。また例えば、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子をIPMにて構成する場合は、電流取得部12は、IPMの過電流検出機能を用いて当該スイッチング素子に過電流が流れたか否かを示す情報を取得してもよい。これらいずれの場合においても、故障判定部13は、電流取得部12が取得した「スイッチング素子に過電流が流れたか否かを示す情報」を過電流検出部の故障判定に利用する。
【0179】
故障判定部13は、過電流が流れたスイッチング素子があると判定した場合、当該第2の故障判定用指令パターンの下でオン指令されていたスイッチング素子のうち過電流が流れたと判定されたスイッチング素子に対応する過電流検出部は正常であると判定する。

【0180】
図17は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置における過電流検出部と第2の故障判定用指令パターンとの関係を示す図である。図17において、第2の故障判定用指令パターンQ1~Q6に関して、オン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがある場合(電流取得部12が取得した電流の検出値に第3の閾値より大きいものがある場合)を「〇」で示し、オン指令されたスイッチング素子のいずれにも過電流が流れなかった場合(電流取得部12が取得した電流の検出値がいずれも第3の閾値以下である場合)を「×」で示す。また、図17において、各スイッチング素子S1~S6に関して、対応する過電流検出部に故障が発生していると判定されるスイッチング素子を「×」で示す。故障判定部13は、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子S1~S6に対応して設けられる過電流検出部の故障を図17に示す対応関係に基づき検出する。
【0181】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ1~Q6の全てについて、オン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがある場合(第2の故障判定用指令パターンQ1~Q6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値の全てについて、第3の閾値より大きいものがある場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S1~S6のそれぞれに対応する過電流検出部は全て正常であると判定する。
【0182】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ1の下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがなかった場合(第2の故障判定用指令パターンQ1の下で電流取得部12が取得した電流の検出値について第3の閾値より大きいものがなかった場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S1に対応して設けられていた過電流検出部が故障していると判定する。
【0183】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ2の下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがなかった場合(第2の故障判定用指令パターンQ2の下で電流取得部12が取得した電流の検出値について第3の閾値より大きいものがなかった場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S2に対応して設けられていた過電流検出部が故障していると判定する。
【0184】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ3の下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがなかった場合(第2の故障判定用指令パターンQ3の下で電流取得部12が取得した電流の検出値について第3の閾値より大きいものがなかった場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S3に対応して設けられていた過電流検出部が故障していると判定する。
【0185】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ4の下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがなかった場合(第2の故障判定用指令パターンQ4の下で電流取得部12が取得した電流の検出値について第3の閾値より大きいものがなかった場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S4に対応して設けられていた過電流検出部が故障していると判定する。
【0186】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ5の下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがなかった場合(第2の故障判定用指令パターンQ5の下で電流取得部12が取得した電流の検出値について第3の閾値より大きいものがなかった場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S5に対応して設けられていた過電流検出部が故障していると判定する。
【0187】
例えば、第2の故障判定用指令パターンQ6の下でオン指令されたスイッチング素子に過電流が流れたものがなかった場合(第2の故障判定用指令パターンQ6の下で電流取得部12が取得した電流の検出値について第3の閾値より大きいものがなかった場合)、故障判定部13は、スイッチング素子S6に対応して設けられていた過電流検出部が故障していると判定する。
【0188】
このように、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100によれば、第2の故障判定用指令パターンを用いて、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に対応して設けられる過電流検出部の故障の発生箇所を迅速かつ正確に検出することができる。
【0189】
図18図20は、本開示の一実施形態による三相の電力変換装置の故障を検出する故障検出装置及びこれを備えるモータ駆動装置におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障、電流検出部の故障、並びにスイッチング素子に対応して設けられる過電流検出部の故障の検出処理を示すフローチャートである。
【0190】
故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100におけるスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障、電流検出部23の故障、並びにスイッチング素子に対応して設けられる過電流検出部の故障の検出処理は、三相の電力変換装置2の直流側に直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側に負荷回路3が接続された状態で実行される。
【0191】
まず、ステップS501において、指令生成部11は、初期設定として、第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nを1に設定する。ステップS501における第1の故障判定用指令パターンの識別番号Nの1の設定は、例えば、作業者の故障検出装置1への入力装置を用いた入力操作によって行われてもよく、あるいは故障検出装置1による故障検出処理の開始時に自動的に行われてもよく、あるいは故障検出装置1の電源投入時に自動的に行われてもよい。
【0192】
ステップS502において、指令生成部11は、スイッチング制御部21に対して第1の故障判定用指令パターンPNを指令する。スイッチング制御部21は、指令生成部11から受信した第1の故障判定用指令パターンPNに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。なお、指令生成部11により生成された第1の故障判定用指令パターンPNは、故障判定部13にも送られる。
【0193】
ステップS503において、電流取得部12は、第1の故障判定用指令パターンPNに対応する電流検出部23による電流の検出値を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値は、故障判定部13に送られる。故障判定部13は、電流取得部12から送られてきた電流の検出値と、当該電流の検出値の取得の際に用いられていた第1の故障判定用指令パターンPNとを対応付けて記憶する。
【0194】
ステップS504において、電圧取得部14は、電圧検出部24が検出した電力変換装置の直流側の電圧の検出値を取得する。取得された電圧の検出値は、電流推定部15に送られる。
【0195】
ステップS505において、ステップS504において電圧取得部14が取得した電圧の検出値と、ステップS502において第1の故障判定用指令パターンPNに従いスイッチング素子がオン指令されている時間と、負荷回路3のインピーダンスとに基づいて、各スイッチング素子に流れる電流の推定値を計算する。算出された電流の推定値は、故障判定部13に送られる。
【0196】
ステップS506において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であるか否かを判定する。第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であると判定された場合はステップS508へ進み、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nが6であると判定されなかった場合はステップS507へ進む。
【0197】
ステップS507において、指令生成部11は、第1の故障判定用指令パターンPNの識別番号Nを1つインクリメントする。その後、ステップS502へ戻る。
【0198】
ステップS508において、故障判定部13は、電流取得部12が取得した6つの電流の検出値の各々とこれに対応する電流推定部15が算出した6つの電流の推定値の各々との割合(すなわち電流の検出値を電流の推定値で除算した値)のうち、少なくとも1つの電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲外であるか否かを判定する。電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲内であると判定された場合は、ステップS509へ進み、電流の検出値と電流の推定値との割合が所定の範囲内であると判定されなかった場合は、ステップS514へ進む。なお、ステップS509においては、「電流の検出値と電流の推定値との割合」に代えて「電流の検出値と電流の推定値との差」を判定処理に用いてもよい。
【0199】
ステップS509において、故障判定部13は、スイッチング素子に関するオープン故障が発生したか否かを判定する。オープン故障が発生したと判定された場合はステップS510へ進み、オープン故障が発生したと判定されなかった場合はステップS511へ進む。オープン故障の判定処理の詳細については、図1図5を参照して説明した通りである。
【0200】
ステップS510において、故障判定部13は、オープン故障が発生したスイッチング素子に関する情報を出力し、処理を終了する。
【0201】
ステップS511において、故障判定部13は、スイッチング素子に関するショート故障が発生したか否かを判定する。ショート故障が発生したと判定された場合はステップS512へ進み、ショート故障が発生したと判定されなかった場合はステップS513へ進む。オープン故障の判定処理の詳細については、図1図4及び図6を参照して説明した通りである。
【0202】
ステップS512において、故障判定部13は、ショート故障が発生したスイッチング素子に関する情報を出力し、処理を終了する。
【0203】
なお、ステップS509~S512におけるオープン故障判定とショート故障判定とは順序を入れ替えて実行してもよい。
【0204】
ステップS513において、故障判定部13は、電力変換装置2に設けられた電流検出部23に故障が発生したとの判定を出力し、処理を終了する。
【0205】
ステップS514において、指令生成部11は、第2の故障判定用指令パターンの識別番号Nを1に設定する。
【0206】
ステップS515において、指令生成部11は、スイッチング制御部21に対して第2の故障判定用指令パターンQNを指令する。スイッチング制御部21は、指令生成部11から受信した第2の故障判定用指令パターンQNに基づき、各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令を生成する。生成されたオン指令及びオフ指令は、ドライブ回路22に送られる。ドライブ回路22は、オン指令及びオフ指令に応じてスイッチング素子をオンオフするためのゲート電圧を各スイッチング素子に印加する。三相の電力変換装置2の直流側には直流電圧が印加されかつ電力変換装置2の交流側には負荷回路3が接続されているので、6つのスイッチング素子のうちオン指令された3つのスイッチング素子を介して電力変換装置2の直流側の正極端子25、負荷回路3及び電力変換装置2の直流側の負極端子26に閉回路が形成される。なお、指令生成部11により生成された第2の故障判定用指令パターンQNは、故障判定部13にも送られる。
【0207】
ステップS516において、電流取得部12は、第2の故障判定用指令パターンQNに従いオン指令されたスイッチング素子に流れる電流の検出値に関する情報として、当該オン指令されたスイッチング素子に過電流が発生したか否かを示す情報を取得する。例えば、電流取得部12は、スイッチング素子に流れる電流の検出値そのものを電流検出部23から取得する場合は、当該電流の検出値が第3の閾値(過電流検出レベル)より大きいときは過電流が流れた子を示す情報を生成し、当該電流の検出値が第3の閾値(過電流検出レベル)以下であるときは過電流が流れなかったことを示す情報を生成する。また例えば、ドライブ回路22としてDESAT検出回路とよばれる過電流検出機能を有するドライバICが使用される場合は、当該オン指令されたスイッチング素子に対応するDESAT検出回路から、当該オン指令されたスイッチング素子に流れる電流の検出値に関する情報として、過電流が流れたか否かを示す情報を取得する。また例えば、スイッチング素子及びダイオードからなるパワー素子をIPMにて構成する場合は、当該オン指令されたスイッチング素子に係るIPMから、当該オン指令されたスイッチング素子に流れる電流の検出値に関する情報として、過電流が流れたか否かを示す情報を取得する。電流取得部12により取得された電流の検出値は、故障判定部13に送られる。故障判定部13は、電流取得部12から送られてきた電流の検出値と、当該電流の検出値の取得の際に用いられていた第2の故障判定用指令パターンQNとを対応付けて記憶する。
【0208】
ステップS517において、指令生成部11は、第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nが6であるか否かを判定する。第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nが6であると判定された場合はステップS519へ進み、第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nが6であると判定されなかった場合はステップS518へ進む。
【0209】
ステップS518において、指令生成部11は、第2の故障判定用指令パターンQNの識別番号Nを1つインクリメントする。その後、ステップS515へ戻る。
【0210】
ステップS519において、故障判定部13は、第2の故障判定用指令パターンQNにおける各スイッチング素子に対するオン指令及びオフ指令の組み合わせと電流取得部12が取得した電流の検出値に関する情報(過電流が流れたか否かを示す情報)との対応関係に基づき、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子の各々に対応して設けられた過電流検出部の故障が発生したか否かを判定する。過電流検出部の故障が発生したと判定された場合はステップS520へ進み、過電流検出部の故障が発生したと判定されなかった場合はステップS521へ進む。過電流検出部の故障の判定処理の詳細については、図14図17を参照して説明した通りである。
【0211】
ステップS520において、故障判定部13は、過電流検出部の故障に関する情報を出力し、処理を終了する。
【0212】
ステップS521において、故障判定部13は、電力変換装置2は正常であるという判定結果を出力し、処理を終了する。
【0213】
このように、本開示の一実施形態による故障検出装置1及びこれを備えるモータ駆動装置100によれば、第1の故障判定用指令パターンを用いて、三相の電力変換装置2内のスイッチング素子に関係するオープン故障及びショート故障、電流検出部の故障並びに過電流検出部の故障の発生箇所及び故障内容を迅速かつ正確に検出することができる。
【0214】
上述した指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)は、演算処理装置のみで構成されてもよく、あるいはアナログ回路と演算処理装置との組み合わせで構成されてもよく、あるいはアナログ回路のみで構成されてもよい。指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)を構成し得る演算処理装置には、例えばIC、LSI、CPU、MPU、DSPなどがある。例えば、指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)をソフトウェアプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのソフトウェアプログラムに従って動作させることで、指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)の各機能を実現することができる。またあるいは、指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。またあるいは、指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)を、各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ記録媒体として実現してもよい。また、指令生成部11、電流取得部12、故障判定部13、電圧取得部14、電流推定部15、スイッチング制御部21、ドライブ回路22、及び上位制御部(図示せず)は、例えば工作機械の数値制御装置内に設けられてもよく、ロボットを制御するロボットコントローラ内に設けられてもよい。
【0215】
電流検出部23及び電圧検出部24は、アナログ回路と演算処理装置との組み合わせで構成されてもよく、あるいは演算処理装置のみで構成されてもよく、あるいはアナログ回路のみで構成されてもよい。電流検出部23及び電圧検出部24については、電力変換装置2またはモータ駆動装置100に一般的に設けられるものを流用してもよい。
【符号の説明】
【0216】
1 故障検出装置
2 電力変換装置
3 負荷回路
11 指令生成部
12 電流取得部
13 故障判定部
14 電圧取得部
15 電流推定部
21 スイッチング制御部
22 ドライブ回路
23 電流検出部
24 電圧検出部
25 正極端子
26 負極端子
100 モータ駆動装置
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