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特許7529540含水比測定装置、含水比推定式設定プログラム、及び含水比測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】含水比測定装置、含水比推定式設定プログラム、及び含水比測定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/02 20060101AFI20240730BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E02D1/02
G01N21/27 F
G01N33/24 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020183611
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073554
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】520428786
【氏名又は名称】株式会社計測企画
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】室山 拓生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦仁
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-196960(JP,A)
【文献】特開2018-205179(JP,A)
【文献】特開平11-083627(JP,A)
【文献】特開2015-028446(JP,A)
【文献】特開平10-293027(JP,A)
【文献】特開2020-007730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00- 3/115
G01N 21/27
G01N 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の含水比を、移動しながら測定する装置であって、
前記地盤上を移動する移動体と、
前記移動体に取り付けられる分光計と、
前記地盤の波長別反射強度と、あらかじめ設定された含水比推定式と、に基づいて該地盤の含水比を推定する含水比推定手段と、を備え、
前記含水比推定式は、含水比が異なる複数種類の試料土の前記波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって求められ、
前記波長別反射強度は、前記分光計で測定した波長ごとの測定値に基づいて、波長ごとに求められる、
ことを特徴とする含水比測定装置。
【請求項2】
前記含水比推定式を設定する含水比推定式設定手段を、さらに備え、
前記含水比推定式設定手段は、
含水比が異なる複数種類の前記試料土の前記波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって、複数の該波長別反射強度と含水比との関係を示す暫定含水比推定式を、波長ごとに求め、
波長ごとの前記暫定含水比推定式と複数の前記波長別反射強度によって、複数種類の前記試料土の推定含水比を求めるとともに、含水比と該推定含水比との相関の程度を波長ごとに求め、
波長ごとの相関の程度に基づいて、前記試料土の特定波長を決定するとともに、該特定波長に係る前記暫定含水比推定式を該試料土の前記含水比推定式として決定する、
ことを特徴とする請求項1記載の含水比測定装置。
【請求項3】
前記移動体に取り付けられ、前記特定波長を含む光を照射する照明手段と、
前記移動体に取り付けられ、開口部を有する遮光手段と、をさらに備え、
前記分光計と前記照明手段は、前記遮光手段内に配置され、
前記遮光手段は、前記開口部を前記地盤に向けた姿勢で取り付けられ、
前記分光計は、前記遮光手段によって暗室状態とされ、しかも前記照明手段による照明を得ながら、前記地盤の前記測定値を取得する、
ことを特徴とする請求項2記載の含水比測定装置。
【請求項4】
前記移動体に取り付けられる振動吸収手段を、さらに備え、
前記分光計は、前記振動吸収手段を介して前記移動体に取り付けられる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の含水比測定装置。
【請求項5】
試料土の含水比推定式を設定する機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
含水比が異なる複数種類の前記試料土の波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって、複数の該波長別反射強度と含水比との関係を示す暫定含水比推定式を、波長ごとに求める暫定式算出処理と、
波長ごとの前記暫定含水比推定式と複数の前記波長別反射強度によって、複数種類の前記試料土の推定含水比を求めるとともに、含水比と該推定含水比との相関の程度を波長ごとに求める相関値算出処理と、
前記相関値算出処理によって求められた波長ごとの相関の程度に基づいて、前記試料土の特定波長を決定するとともに、該特定波長に係る前記暫定含水比推定式を該試料土の前記含水比推定式として決定する推定式決定処理と、を前記コンピュータに実行させる機能を備え、
前記波長別反射強度は、分光計で測定した波長ごとの測定値に基づいて、波長ごとに求められる、
ことを特徴とする含水比推定式設定プログラム。
【請求項6】
前記暫定式算出処理では、複数種類の前記試料土を第1グループと第2グループに分類し、該第1グループに対して前記暫定含水比推定式を求めるとともに、該第2グループに対して前記暫定含水比推定式を求め、
前記相関値算出処理では、前記第1グループの前記暫定含水比推定式と前記第2グループの前記波長別反射強度によって相関の程度を求めるとともに、前記第2グループの前記暫定含水比推定式と前記第1グループの前記波長別反射強度によって相関の程度を求め、
前記推定式決定処理では、前記第1グループの波長ごとの相関の程度に基づいて前記試料土の第1特定波長を決定するとともに、前記第2グループの波長ごとの相関の程度に基づいて前記試料土の第2特定波長を決定し、さらに該第1特定波長と該第2特定波長に基づいて前記特定波長と前記含水比推定式を決定する、
ことを特徴とする請求項5記載の含水比推定式設定プログラム。
【請求項7】
前記暫定式算出処理では、複数種類の前記試料土を第1グループと第2グループに分類し、該第1グループに対して前記暫定含水比推定式を求めるとともに、該第2グループに対して前記暫定含水比推定式を求め、
前記相関値算出処理では、前記第1グループの前記暫定含水比推定式と前記第2グループの前記波長別反射強度によって決定係数を求めるとともに、前記第2グループの前記暫定含水比推定式と前記第1グループの前記波長別反射強度によって決定係数を求め、
前記推定式決定処理では、同じ波長帯に係る前記第1グループの決定係数と前記第2グループの決定係数との積である決定係数積を求め、最大の該決定係数積を与える波長帯を前記特定波長として決定するとともに、前記試料土の前記波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって前記含水比推定式を決定する、
ことを特徴とする請求項5記載の含水比推定式設定プログラム。
【請求項8】
地盤の含水比を、移動しながら測定する方法であって、
移動体で移動しながら、分光計によって前記地盤を測定して波長ごとの測定値を取得する本測定工程と、
前記本測定工程で得られた前記測定値によって求められる波長別反射強度と、あらかじめ設定された含水比推定式と、に基づいて該地盤の含水比を推定する含水比推定工程と、を備え、
前記含水比推定式は、含水比が異なる複数種類の試料土の前記波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって求められ、
前記波長別反射強度は、前記分光計で測定した波長ごとの前記測定値に基づいて、波長ごとに求められる、
ことを特徴とする含水比測定方法。
【請求項9】
含水比が異なる複数種類の前記試料土を用意し、前記分光計によって該試料土の前記波長別反射強度を取得する試験測定工程と、
前記試験測定工程で得られた複数種類の前記試料土の前記波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって、複数の該波長別反射強度と含水比との関係を示す暫定含水比推定式を、波長ごとに求める暫定式算出工程と、
波長ごとの前記暫定含水比推定式と複数の前記波長別反射強度によって、複数種類の前記試料土の推定含水比を求めるとともに、含水比と該推定含水比との相関の程度を波長ごとに求める相関値算出工程と、
前記相関値算出工程によって求められた波長ごとの相関の程度に基づいて、前記試料土の特定波長を決定するとともに、該特定波長に係る前記暫定含水比推定式を該試料土の前記含水比推定式として決定する推定式決定工程と、をさらに備え、
前記含水比推定工程では、前記推定式決定工程で決定された前記含水比推定式に基づいて前記地盤の含水比を推定する、
ことを特徴とする請求項8記載の含水比測定方法。
【請求項10】
前記地盤が、撒き出された盛土であり、
前記含水比推定工程で推定された前記盛土の含水比に応じて、転圧機械の起振力及び走行速度を含む該盛土の転圧条件を決定する転圧条件決定工程と、
前記転圧条件に基づき前記転圧機械によって前記盛土の転圧を行う転圧工程と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項8又は請求項9記載の含水比測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地盤の含水比を把握する技術に関するものであり、より具体的には、分光計によって得られるスペクトルデータを用いて、含水比の推定式を設定する含水比推定式設定プログラムと、地盤の含水比を推定する含水比測定装置、地盤の含水比を推定する含水比測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
宅地用の造成や道路の路体、河川堤防などを構築する場合、盛土が行われることがある。この盛土は、宅地造成や、道路、河川堤防などそれぞれ用途に応じてあらかじめ要求性能(強度や、変形・圧縮特性、透水性など)が設定されており、この要求性能を満足するため盛土は適切な締固めが行われる。具体的には、盛土材をあらかじめ定めた所定厚(以下、「計画撒き出し厚」という。)だけ撒き出し、これを振動ローラなどの転圧機械があらかじめ定めた回数(以下、「計画転圧回数」という。)だけ転圧する。
【0003】
転圧は、要求性能を満たす盛土となるように行われるが、この要求性能を直接的に確認することは難しい。そこで、「密度管理方式」によっていわば間接的に盛土の品質を確認することがある。この密度管理方式は、現地(現場)で行われる実施工(本施工)に先立って室内試験を行う手法であり、室内試験で得られた盛土材の最大乾燥密度と本施工時に測定した乾燥密度の比率(締固め度)を指標として、締固められた土の品質を管理するものである。
【0004】
しかしながら密度管理方式は、本施工の結果をサンプリングすることで得られるいわば点の情報であるため、サンプリング数によっては施工範囲全体を適切に評価できるとはいい難い。施工範囲を網羅的に評価するためには、多点数(高密度)のサンプリングを行う必要があるが、その分手間と時間を要し施工コストを押し上げることから現実的ではない。さらに密度管理方式は、事後的に結果を確認する手法であるから、施工に手戻りが生ずるおそれもある。
【0005】
一方、密度管理方式のように現地での測定を伴わない「工法規定方式」によって盛土の品質管理を行うこともある。この工法規定方式は、試験施工を行うことによって、盛土の転圧作業に用いる転圧機械や、計画撒き出し厚、計画転圧回数といった施工法そのものを規定する方法であり、これらの仕様で転圧を行えば目的の品質が達成されると考えるわけである。
【0006】
盛土の品質管理を行う手法としては、工法規定方式のほかにも様々な手法がこれまで提案されている。例えば特許文献1では、試験施工を行うことによってあらかじめ複数ケースの転圧条件を設定し、移動しながら盛土の含水比を測定するとともに、その含水比に応じて適切な転圧条件を選定して転圧作業を行う、いわば改良型の工法規定方式について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-007730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
振動ローラで転圧を行う場合、特許文献1でも開示しているように、盛土の締固めの程度、すなわち盛土の品質は、振動ローラの締固め性能(走行速度や起振力、振幅など)と盛土材の含水比の組み合わせによって大きく異なることが知られている。ところが従来の工法規定方式では、試験施工等で測定された値をそのまま本施工の盛土に適用して品質管理を行っており、しかも本施工の盛土全体が同じ含水比として取り扱う管理手法が主流であった。しかしながら試験施工における盛土の含水比と本施工における盛土の含水比は相違することも多く、また現地での盛土の含水比は気温や湿度、降雨等によって常に変化している。そのため実際の施工現場では、過転圧や転圧不足が生じた、いわば品質不良の盛土が構築されることも少なくなかった。
【0009】
そこで特許文献1では、スペクトルカメラなど非接触の含水比測定器を用いて現地での盛土の含水比を測定し、その測定値に応じて転圧条件を選定することとしている。これにより、含水比に適した締固め性能で転圧を行うことができ、従来技術に比べ過転圧や転圧不足を回避することができるわけである。
【0010】
ところで特許文献1では、スペクトルカメラで盛土試料のスペクトル強度を取得し、これを分析することによって、スペクトル強度と盛土材の含水比との関係を示す含水比推定式を設定することとしている。本願発明者らは、含水比推定式を設定するための改良技術に取り組み、より高い精度で盛土材の含水比を推定することができる発明を創案した。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち分光計によって得られるスペクトルデータを用い、より高精度で地盤の含水比を推定することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、分光計によって得られる複数種類の試料土の波長別反射強度を用い、波長ごとに重回帰分析を行うことで含水比推定式を設定する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の含水比測定装置は、移動しながら地盤の含水比を測定する装置であり、地盤上を移動する移動体と、移動体に取り付けられる分光計、含水比推定手段を備えたものである。このうち含水比推定手段は、地盤の波長別反射強度と、あらかじめ設定された含水比推定式と、に基づいて地盤の含水比を推定する手段である。なお含水比推定式は、含水比が異なる複数種類の試料土の波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって求められる。また波長別反射強度は、分光計で測定した波長ごとの測定値に基づいて、波長ごとに求められる。
【0014】
本願発明の含水比測定装置は、含水比推定式を設定する含水比推定式設定手段をさらに備えたものとすることもできる。この含水比推定式設定手段は、次の手順によって設定される。まず、含水比が異なる複数種類の試料土の波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって、複数の波長別反射強度と含水比との関係を示す暫定含水比推定式を、波長ごとに求める。次に、波長ごとの暫定含水比推定式と複数の波長別反射強度によって、複数種類の試料土の推定含水比を求めるとともに、実測含水比と推定含水比との相関の程度を波長ごとに求める。そして、波長ごとの相関の程度に基づいて、試料土の特定波長を決定するとともに、特定波長に係る暫定含水比推定式を試料土の含水比推定式として決定する。
【0015】
本願発明の含水比測定装置は、照明手段と遮光手段をさらに備えたものとすることもできる。この照明手段は、移動体に取り付けられ、特定波長を含む光を照射するものであり、遮光手段は、移動体に取り付けられ、開口部を有するものである。なお、分光計と照明手段は、遮光手段内に配置され、遮光手段は、開口部を地盤に向けた姿勢で取り付けられる。また、分光計は、遮光手段によって暗室状態とされ、しかも照明手段による照明を得ながら、地盤の反射強度を取得する。
【0016】
本願発明の含水比測定装置は、振動吸収手段をさらに備えたものとすることもできる。この場合、分光計は、振動吸収手段を介して移動体に取り付けられる。
【0017】
本願発明の含水比推定式設定プログラムは、暫定式算出処理と、相関値算出処理、推定式決定処理と、をコンピュータに実行させることによって試料土の含水比推定式を設定するプログラムである。このうち暫定式算出処理は、含水比が異なる複数種類の試料土の波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって、複数の波長別反射強度と含水比との関係を示す暫定含水比推定式を、波長ごとに求める処理である。また相関値算出処理は、波長ごとの暫定含水比推定式と複数の波長別反射強度によって、複数種類の試料土の推定含水比を求めるとともに、実測含水比と推定含水比との相関の程度を波長ごとに求める処理である。推定式決定処理は、相関値算出処理によって求められた波長ごとの相関の程度に基づいて、試料土の特定波長を決定するとともに、特定波長に係る暫定含水比推定式を試料土の含水比推定式として決定する処理である。なお波長別反射強度は、分光計で測定した波長ごとの測定値に基づいて波長ごとに求められる。
【0018】
本願発明の含水比推定式設定プログラムは、含水比が異なる複数種類の試料土を第1グループと第2グループに分類し、第1グループに対して暫定含水比推定式を求めるとともに、第2グループに対して暫定含水比推定式を求めるものとすることもできる。この場合、相関値算出処理では、第1グループの暫定含水比推定式と第2グループの波長別反射強度によって相関の程度を求め、第2グループの暫定含水比推定式と第1グループの波長別反射強度によって相関の程度を求める。そして推定式決定処理では、第1グループの波長ごとの相関の程度に基づいて試料土の第1特定波長を決定するとともに、第2グループの波長ごとの相関の程度に基づいて試料土の第2特定波長を決定し、さらに第1特定波長と第2特定波長に基づいて特定波長と含水比推定式を決定する。
【0019】
本願発明の含水比推定式設定プログラムは、含水比が異なる複数種類の試料土を第1グループと第2グループに分類し、第1グループに対して暫定含水比推定式を求めるとともに、第2グループに対して暫定含水比推定式を求めるものとすることもできる。この場合、相関値算出処理では、第1グループの暫定含水比推定式と第2グループの波長別反射強度によって決定係数を求め、第2グループの暫定含水比推定式と第1グループの波長別反射強度によって決定係数を求める。そして推定式決定処理では、同じ波長帯に係る第1クループの決定係数と第2クループの決定係数との積(決定係数積)を求め、最大の決定係数積を与える波長帯を特定波長として決定するとともに、試料土の波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって含水比推定式を決定する。
【0020】
本願発明の含水比測定方法は、移動しながら地盤の含水比を測定する方法であり、本測定工程と含水比推定工程を備えた方法である。このうち本測定工程では、移動体で移動しながら、分光計によって地盤を測定して波長ごとの測定値を取得し、含水比推定工程では、測定工程で得られた測定値によって求められる波長別反射強度とあらかじめ設定された含水比推定式に基づいて地盤の含水比を推定する。
【0021】
本願発明の含水比測定方法は、試験測定工程と暫定式算出工程、相関値算出工程、推定式決定工程をさらに備えた方法とすることもできる。このうち試験測定工程では、含水比が異なる複数種類の試料土を用意し、分光計によって試料土の波長別反射強度を取得する。暫定式算出工程では、試験測定工程で得られた複数種類の試料土の波長別反射強度と含水比を用いた重回帰分析を行うことによって、複数の波長別反射強度と含水比との関係を示す暫定含水比推定式を、波長ごとに求める。相関値算出工程では、波長ごとの暫定含水比推定式と複数の波長別反射強度によって、複数種類の試料土の推定含水比を求めるとともに、実測含水比と推定含水比との相関の程度を波長ごとに求める。推定式決定工程では、前記相関値算出処理によって求められた波長ごとの相関の程度に基づいて、試料土の特定波長を決定するとともに、特定波長に係る暫定含水比推定式を試料土の含水比推定式として決定する。そして、推定式決定工程で決定された含水比推定式に基づいて地盤の含水比を推定する。
【0022】
本願発明の含水比測定方法は、転圧条件決定工程と転圧工程をさらに備えた方法とすることもできる。このうち転圧条件決定工程では、含水比推定工程で推定された盛土の含水比に応じて、転圧機械の起振力及び走行速度を含む盛土の転圧条件を決定し、転圧工程では、転圧条件に基づき転圧機械によって盛土の転圧を行う。
【発明の効果】
【0023】
本願発明の含水比測定装置、含水比推定式設定プログラム、及び含水比測定方法には、次のような効果がある。
(1)盛土上を移動しながら含水比を測定することにより、リアルタイムかつ面的に含水比を得ることができる。
(2)含水比に適した締固め性能で転圧を行うことができ、従来に比べ過転圧や転圧不足が生じ難く、より高品質の盛土を構築することができる。
(3)本願発明の含水比測定装置が照明手段と遮光手段を備えることによって、太陽光等の影響を受けることなく屋内や屋内などあらゆる場所で安定して分光計による測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本願発明の含水比測定装置の主な構成を示すブロック図。
図2】振動ローラを移動体とした含水比測定装置を模式的に示す側面図。
図3】移動体に設置された計測機器を模式的に示す部分断面図。
図4】本願発明の含水比推定式設定プログラムのうち「波長別反射強度算出」から「重回帰分析」までの処理の流れを示すフロー図。
図5】本願発明の含水比推定式設定プログラムのうち「推定含水比の算定」から「特定波長と含水比推定式の決定」までの処理の流れを示すフロー図。
図6】(a)は波長別反射強度を算出する手法を説明する数式図、(b)は波長別正規化反射強度を算出する手法を説明する数式図。
図7】(a)は「暫定含水比推定式」を示す数式図、(b)は暫定含水比推定式を構成する「波長ごとの係数」を求める手法を説明する数式図、(c)は波長ごとに暫定含水比推定式を求める手法を説明する数式図。
図8】複数の小領域でメッシュ分割された対象地盤を模式的に示す平面図。
図9】本願発明の含水比測定方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明の含水比測定装置、含水比推定式設定プログラム、及び含水比測定方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0026】
1.全体概要
本願発明は、分光計で地盤を計測して得られるスペクトルデータに基づいて、その地盤の含水比を推定することをひとつの技術的特徴としている。ここでスペクトルデータとは、分光計によって得られる波長ごとの計測値(以下、「波長別強度」という。)の集合である。対象となる地盤と同種の試料土に基づいてあらかじめ「含水比推定式」を設定しておくことで、現地で取得されたスペクトルデータとこの含水比推定式を用いて地盤の含水比を推定するわけである。
【0027】
2.含水比測定装置と含水比推定式設定プログラム
本願発明の含水比測定装置について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の含水比測定方法は、本願発明の含水比測定装置や含水比推定式設定プログラムを用いて地盤の含水比を測定する方法であり、したがってまずは本願発明の含水比測定装置と含水比推定式設定プログラムについて説明し、その後に本願発明の含水比測定方法について説明することとする。
【0028】
図1は、本願発明の含水比測定装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の含水比測定装置100は、移動体101と本測定用分光計102、含水比推定手段103を含んで構成され、さらに含水比推定式設定手段104や振動吸収手段105、遮光手段106、照明手段107、照度計108、測位手段109、液晶ディスプレイやプリンタといった出力手段110、含水比データ記憶手段111などを含んで構成することもできる。
【0029】
含水比測定装置100を構成する主な要素のうち含水比推定手段103と含水比推定式設定手段104は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。ディスプレイを具備したコンピュータ装置を利用する場合は、そのディスプレイを出力手段110として利用するとよい。
【0030】
また、含水比データ記憶手段111は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバーとすることもできる。
【0031】
以下、含水比測定装置100を構成する主な要素ごとに説明する。
【0032】
(移動体)
図2は、振動ローラを移動体101とした含水比測定装置100を模式的に示す側面図である。なお便宜上ここでは、振動ローラを移動体101とする例で説明するが、移動することができるものであればダンプトラックやバックホウなど種々の機械や車両等を含水比測定装置100の移動体101として利用することができる。
【0033】
図2に示すように移動体101には、測位手段109を設置することができる。この測位手段109は、移動体101の現在位置を計測する手段であり、例えば測位衛星STからの電波を受信するGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を利用するとよい。あるいは、移動体101の走行距離をカウントする距離計や、トータルステーションのターゲット(ミラー)など、移動体101の位置を測定するための様々な機器を測位手段109として用いることができる。
【0034】
また移動体101には、本測定用分光計102が設置され、さらに振動吸収手段105や遮光手段106、照明手段107、照度計108(これらを総称して「計測機器」という。)、含水比推定手段103、出力手段110を設置することもできる。なお、移動体101が自動運転(無人運転)を行うものであれば、含水比推定手段103と出力手段110は対象地盤(施工現場)から離れた管理事務所等に配置することもできる。
【0035】
(計測機器)
図3は、移動体101に設置された計測機器を模式的に示す部分断面図である。図2図3に示すように本測定用分光計102を含む計測機器は、移動体101のうち地盤に対向する下面側に設置するとよい。この本測定用分光計102は、移動体101の移動中に定期的あるいは断続的、連続的に地盤のスペクトルデータを取得することができるものであり、従来用いられている分光計や分光器付きカメラなど、スペクトルデータを取得する種々の計器を利用することができる。
【0036】
ところで、一般的に分光計による測定は、室内など照明を含む測定環境が整った条件の下で実施される。一方、本願発明の含水比測定装置100は盛土など屋外の地盤の含水比を測定することを想定しており、したがって本測定用分光計102は太陽光の影響を受けながら(つまり光量が安定しない状況で)測定することになる。そのため図3に示すように移動体101の下面側に遮光手段106を設置するとともに、遮光手段106内に照明手段107を設置するとよい。遮光手段106によって暗室状態を確保した状態で、しかも照明手段107による安定した光量を受けながら、すなわち太陽光の影響を排除しつつ本測定用分光計102で測定することができるわけである。
【0037】
遮光手段106は、遮光性の部材で形成され、また本測定用分光計102とて照明手段107を収容するため内部が空洞となっており、さらに本測定用分光計102が地盤を測定することができるように下方には開口部が設けられる。また後述するように地盤の含水比を推定するためにはある特定範囲の波長帯(例えば、400~700nm)の波長別強度を利用することが望ましく、したがって照明手段107は当該範囲の波長帯(特に、後述する「特定波長」)を含む光を照射するものを利用するとよい。例えば、LEDやハロゲンライトなどが照明手段107として好適に利用できる。
【0038】
図3に示すように遮光手段106内には、本測定用分光計102と照明手段107が設置され、さらに照度計108を設置することもできる。なお、移動体101が移動中に振動することが予測される場合は、移動体101と計測機器との間に防振ゴムなどの振動吸収手段105を設置するとよい。例えば図3では、移動体101の下面側に振動吸収手段105を設置し、この振動吸収手段105の下端に固定された基盤FDに遮光手段106や本測定用分光計102、照明手段107、照度計108を設置している。
【0039】
(含水比推定式設定手段)
含水比推定式設定手段104は、粘性土や砂質土など土質ごとに「含水比推定式」を設定する手段であり、具体的には本願発明の含水比推定式設定プログラムの各処理をコンピュータに実行させることによって含水比推定式を設定する手段である。以下、本願発明の含水比推定式設定プログラムの各処理について詳しく説明する。
【0040】
(含水比推定式設定プログラム)
図4は含水比推定式設定プログラムのうち「波長別反射強度算出」から「重回帰分析」までの処理の流れを示すフロー図であり、図5は含水比推定式設定プログラムのうち「推定含水比の算定」から「特定波長と含水比推定式の決定」までの処理の流れを示すフロー図である。
【0041】
含水比推定式設定プログラムで「含水比推定式」を設定するにあたっては、あらかじめ試料土データと標準白板データ、そしてダークネスデータを揃えておく。このうち試料土データは、対象地盤に対応する土質の試料土を分光器で測定した結果得られるスペクトルデータ(すなわち、波長別強度の集合)である。より詳しくは、種々の含水比を有する複数種類の試料土(含水比は既知)を用意し、これら複数種類の試料土に対して測定された結果が試料土データであり、換言すれば試料土データは、種々の含水比を有する複数種類のスペクトルデータによって構成される。ただし、必ずしも複数種類の試料土の含水比がすべて異なっている必要はなく、8タイプの含水比の試料土を4体ずつ、あるいは6タイプの含水比の試料土を6体ずつ用意してもよい。なお便宜上ここでは32種類の試料土を用意する例で説明する。一方、標準白板データは白板を分光器で測定したスペクトルデータであり、ダークネスデータは光を遮断した状態(真っ暗な状態)を分光器で測定したスペクトルデータである。試料土データと標準白板データ、ダークネスデータの測定は、対象地盤(施工現場)ではなく試験室等で行うとよい。
【0042】
本願発明の発明者らは、ある特定範囲の波長帯における波長別強度を用いるとより正確に含水比を推定することができることを見出した。そのため、まずはスペクトルデータのうち特定範囲の波長別強度を抽出する。便宜上ここでは、特定範囲の波長帯が400~700nmの例で説明する。また、測定に用いる分光器によっては取得される波長別強度の波長帯ピッチが異なることから、400nmから一定の間隔(例えば3nm)ごとの波長別強度(400nm、403nm、406nm、・・・700nm)に読み替える。この場合、3nmごとの波長別強度の周辺にある測定値(実測値)を用いて換算することができる。もちろん、特定範囲の波長帯の抽出や波長別強度の読み替えは、32種類すべてのスペクトルデータに対して繰り返し実行される。
【0043】
試料土データと標準白板データ、ダークネスデータが取り揃うと、波長別反射強度を算出する(図4のStep101)。図6(a)は波長別反射強度を算出する手法を説明する数式図である。波長別反射強度λは、この図の式(1)に示すように波長別強度Sとダークネス強度S(ダークネスデータの波長別強度)、標準白板強度S(標準白板データの波長別強度)に基づいて求められる。なお、分光器で測定した段階でダークネス補正をする場合は、図6(a)の式(2)によって波長別反射強度λを求めることもできる。
【0044】
図6(a)の式(1)や式(2)によって求められる波長別反射強度λを用いて後続の処理を行い、最終的に「含水比推定式」を設定することもできる。一方、照明の影響や明暗の要素を除くために、波長別反射強度λを正規化した「波長別正規化反射強度」を用いて後続の処理を行うこともできる。図6(b)は波長別正規化反射強度を算出する手法を説明する数式図である。波長別正規化反射強度xλは、この図の式(3)に示すように波長別反射強度λと波長別反射強度の平均値λaveに基づいて求められる。なお波長別反射強度の平均値λaveは、試料土ごと(つまり32試料土のうちの1試料土)に対して得られたすべて(この場合、400nm~700nmの101個)の波長別反射強度λの平均値である。波長別反射強度λと波長別正規化反射強度xλは、図4に示すように用意した試料土の数(この場合は32回)だけ繰り返し求められる。なお上記したとおり、波長別反射強度λを用いて後続の処理を行うこともできるが、便宜上ここでは「波長別正規化反射強度xλ」を用いた例で以下説明する。
【0045】
用意した32種類の試料土は、あらかじめ第1グループ試料土と第2グループ試料土の2つのグループに分類しておく(図4のStep102)。例えば、32種類の試料土を含水比の低い順に並べ、奇数番目の試料土を第1グループ試料土とし、偶数番目の試料土を第2グループ試料土とすることができる。もちろん2つのグループに分けることができれば、種々の手法で分類することができる。便宜上ここでは、16種類の試料土が第1グループ試料土に分類され、残り16種類の試料土が第2グループ試料土に分類されたこととする。
【0046】
2つのグループに分類すると、第1グループの重回帰分析を行うとともに(図4のStep103)、第2グループの重回帰分析を行う(図4のStep104)。以下、図7を参照しながら第1グループと第2グループの重回帰分析を実行する手順について説明する。なお図7(a)は「暫定含水比推定式」を示す数式図であり、図7(b)は暫定含水比推定式を構成する「波長ごとの係数」を求める手法を説明する数式図、図7(c)は波長ごとに暫定含水比推定式を求める手法を説明する数式図である。
【0047】
「暫定含水比推定式」は、図7(a)の式(4)に示すように、複数の波長ごとの係数(以下、「波長別係数」という。)と、複数の波長別正規化反射強度xλによって設定される。例えば図7(a)では、各グループの試料土の数よりも1つ多い17個の波長別係数(a~an+15)と、各グループの試料土の数と同数の波長別正規化反射強度xλ(xλ~xλn+15)によって暫定含水比推定式が設定されている。なお、暫定含水比推定式は波長ごとに設定され、式(4)における2項目の波長別正規化反射強度xλがその暫定含水比推定式の波長帯となる。
【0048】
暫定含水比推定式が設定できると、図7(b)の式(5)に基づいて17個の波長別係数(a~an+15)を決定する。各グループには16種類ずつの試料土があり、すなわち含水比とスペクトルデータ(つまり、波長別正規化反射強度xλの集合)との組み合わせが16種類あり、これらを暫定含水比推定式に与える(代入する)ことで16個の数式を作ることができ、図7(b)の式(5)を作成することができる。そしてこの行列式を解くことによって、波長別係数(a~an+15)を決定し、暫定含水比推定式を完成させる。なお、式(5)を解くにあたっては最小二乗法などを利用するとよい。
【0049】
既述したとおり、用意した試料土ごとにスペクトルデータが得られ、特定範囲の波長別強度(400~700nm)が抽出されて一定の間隔ごとの波長別強度(400nm、403nm、406nm、・・・700nm)に読み替えられている。すなわち第1グループ、第2グループともに、16種類×101個(400nm、403nm、406nm、・・・700nm)の波長別正規化反射強度xλが得られており、換言すれば、1つの波長別正規化反射強度xλに対して16種類の含水比が与えられ、この組み合わせが波長別正規化反射強度xλの数(101個)だけある。そして、1つの波長別正規化反射強度xλに対して与えられた16種類の含水比を用い、図7(b)の式(5)の行列式を解くことによって波長別係数(a~an+15)を決定し、図7(a)の式(4)に示す暫定含水比推定式を設定する。すなわちこの暫定含水比推定式は、図7(c)に示すように波長別正規化反射強度xλの数だけ設定することができるわけである(ただし、暫定含水比推定式の式には16個の波長別正規化反射強度xλが用いられるため実際には87個)。したがって図4に示すように、第1グループの波長別の暫定含水比推定式(以下、「第1波長別暫定含水比推定式」という。)は波長帯の数(87個)だけ繰り返し設定し、第2グループの波長別の暫定含水比推定式(以下、「第2波長別暫定含水比推定式」という。)もやはり波長帯の数(87個)だけ繰り返し設定する。
【0050】
87個の第1波長別暫定含水比推定式が設定されると、それぞれの第1波長別暫定含水比推定式を用いて暫定的な含水比(以下、「第1推定含水比」という。)を算出する(図5のStep105)。このとき、第1波長別暫定含水比推定式に「第2グループの波長別正規化反射強度xλ」を与えて第1推定含水比を算出する。第1波長別暫定含水比推定式は第1グループの波長別正規化反射強度xλに基づいて設定されていることから、第1波長別暫定含水比推定式に第1グループの波長別正規化反射強度xλを与えることは同じ処理を実施していることになり、試料土の含水比を推定する方法としては適切でない。そのため、第2グループの波長別正規化反射強度xλを与えるわけである。図5に示すように第1推定含水比の推定処理は、第1波長別暫定含水比推定式ごとに第1グループ試料土の数だけ繰り返し行い、すなわち87×16個の第1推定含水比が得られる。
【0051】
同様に、87個の第2波長別暫定含水比推定式が設定されると、それぞれの第2波長別暫定含水比推定式を用いて暫定的な含水比(以下、「第2推定含水比」という。)を算出する(図5のStep106)。このとき、第2波長別暫定含水比推定式に「第1グループの波長別正規化反射強度xλ」を与えて第2推定含水比を算出する。図5に示すように第2推定含水比の推定処理は、第2波長別暫定含水比推定式ごとに第2グループ試料土の数だけ繰り返し行い、すなわち87×16個の第2推定含水比が得られる。
【0052】
16個の第1推定含水比が得られると、第1波長別暫定含水比推定式ごとに第1クループの相関値を算出する(図5のStep107)。第1クループの相関値は、16個の第1推定含水比と、これら16個の試料土の実際の含水比(以下、「実測含水比」という。)との相関の程度を示す値であり、例えば16個の第1推定含水比と実測含水比によって求められる相関係数や決定係数(Rで表される値で、通常は相関係数の2乗)などを第1クループの相関値とすることができる。図5に示すように第1クループの相関値を算出する処理は、第1波長別暫定含水比推定式の数(87個)だけ繰り返し行い、すなわち87個の第1クループの相関値が得られる。
【0053】
同様に、16個の第2推定含水比が得られると、第2波長別暫定含水比推定式ごとに第2クループの相関値(相関係数や決定係数など)を算出する(図5のStep108)。図5に示すように第2クループの相関値を算出する処理は、第2波長別暫定含水比推定式の数(87個)だけ繰り返し行い、すなわち87個の第2クループの相関値が得られる。
【0054】
87個の第1クループの相関値と87個の第2クループの相関値が得られると、同じ波長帯(波長別正規化反射強度xλに係る波長帯)に係る第1クループの相関値と第2クループの相関値に基づいて「含水比推定式」を決定する(図5のStep109)。以下、その手順について詳しく説明する。まず、同じ波長帯に係る第1クループの決定係数と第2クループの決定係数との積(以下、単に「決定係数積」という。)を求める。次に、全ての波長の決定係数積(つまり、87個の決定係数積)のうち最も大きな決定係数積を与える波長帯を「特定波長」として決定する。続いて、この特定波長を波長別正規化反射強度xλとする暫定含水比推定式(図7(a)の式(4))を設定し、32個(第1グループと第2グループ)の試料土の実測含水比に基づいて重回帰分析を行い、すなわち図7(b)の式(5)に示す行列式を解く。そして、ここで得られた波長別係数(a~an+15)を暫定含水比推定式に与えることによって、「含水比推定式」を決定する。
【0055】
あるいは「第1特定波長」と「第2特定波長」を決定したうえで、「特定波長」と「含水比推定式」を決定する(図5のStep109)こともできる。以下、その手順について詳しく説明する。まず、87個の第1クループの相関値のうち最も大きな相関値(例えば最大の相関係数)を有する波長帯(波長別正規化反射強度xλに係る波長帯)を「第1特定波長」として決定するとともに、87個の第2クループの相関値のうち最も大きな相関値を有する波長帯を「第2特定波長」として決定する。次に、第1特定波長に係る16種類の第1推定含水比と実測含水比を、第1軸を推定含水比、第2軸を実測含水比とする座標系にプロットしたときに形成される回帰直線の傾きを求めるとともに、第2特定波長に係る16種類の第2推定含水比と実測含水比を、同様の座標系にプロットしたときに形成される回帰直線の傾きを求める。続いて、第1特定波長と第2特定波長のうち、回帰直線の傾きが1(つまり45°)に近い方を「特定波長」として決定する。そして、この特定波長(波長別正規化反射強度xλ)に係る第1波長別暫定含水比推定式あるいは第2波長別暫定含水比推定式を「含水比推定式」として決定する。なお、ここで決定された特定波長と含水比推定式は、含水比データ記憶手段111(図1)に記憶される。
【0056】
(含水比推定式手段)
含水比推定手段103は、本測定用分光計102によって取得された地盤のスペクトルデータと、含水比推定式設定手段104によって設定された含水比推定式によって、地盤の含水比を推定する手段であり、地盤のスペクトルデータを取得すると即時的に(リアルタイムで)含水比を推定する。
【0057】
本測定用分光計102が取得したスペクトルデータが含水比推定式設定手段104に伝達(送信)されると、特定範囲の波長別強度(400~700nm)が抽出されるとともに、一定間隔(例えば3nm)ごとの波長別強度(400nm、403nm、406nm、・・・700nm)に読み替えられ、さらに波長別反射強度λや波長別正規化反射強度xλが算出される。そして含水比推定式設定手段104は、ここで算出された波長別正規化反射強度xλを事前に決定された含水比推定式に入力することによって地盤の含水比を推定する。
【0058】
既述したとおり本測定用分光計102は、移動体101の移動中に定期的あるいは断続的、連続的にスペクトルデータを取得する。また含水比推定手段103も、これに応じて含水比を推定する。このように含水比推定手段103は、リアルタイムかつ面的に含水比を推定することから、推定された含水比はその推定位置(つまり本測定用分光計102の測定位置)と関連付けて記録するとよい。例えば、本測定用分光計102で測定した時刻と、測位手段109が移動体101の現在位置(つまり測定位置)を計測した時刻に基づいて(例えば同期させて)、含水比と測定位置を関連付けて記録することができる。これにより、図8に示すように対象地盤Awをいわゆるメッシュ分割した小領域Msごとに含水比をプロットすることができ、すなわち含水比分布図を作成することができる。なお、本測定用分光計102によって取得されたスペクトルデータや含水比推定手段103によって推定された含水比は、含水比データ記憶手段111(図1)に記憶される。
【0059】
3.転圧方法
次に本願発明の含水比測定方法について図を参照しながら説明する。なお、本願発明の含水比測定方法は、ここまで説明した含水比測定装置100や含水比推定式設定プログラムを用いて地盤の含水比を測定する方法であり、したがって含水比測定装置100や含水比推定式設定プログラムで説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の含水比測定方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.含水比測定装置と含水比推定式設定プログラム」で説明したものと同様である。
【0060】
図9は、本願発明の含水比測定方法の主な工程を示すフロー図である。まず、複数種類(例えば32種類)の試料土を用意し、それぞれ分光器で測定して試料土データを取得するとともに、白板を分光器で測定して標準白板データを取得し、光を遮断した状態(真っ暗な状態)を分光器で測定してダークネスデータを取得する(図9のStep211)。なお、用意する試料土はその含水比が既知であり(あるいはその時点で計測し)、複数種類の試料土は種々の含水比を有している。
【0061】
試料土データと標準白板データ、ダークネスデータを取得すると、含水比推定式設定手段104や含水比推定式設定プログラムを用い、第1波長別暫定含水比推定式と第2波長別暫定含水比推定式を設定するとともに(図9のStep212)、第1クループの相関値と第2クループの相関値を算出し(図9のStep213)、特定波長と含水比推定式を決定する(図9のStep214)。なお、試料土データと標準白板データ、ダークネスデータの取得(図9のStep211)~特定波長と含水比推定式の決定(図9のStep214)は、事前準備として本施工前に行い、また対象地盤(施工現場)ではなく試験室等で行うとよい。
【0062】
特定波長と含水比推定式が決定すると、含水比測定装置100を用いて地盤の含水比を測定していく(図9のStep221)。具体的には、振動ローラなどの移動体101が移動しながら、本測定用分光計102によって地盤のスペクトルデータを取得するとともに、測位手段109によって移動体101の現在位置を計測する。また、本測定用分光計102によって地盤のスペクトルデータを取得すると、含水比推定式設定手段104によってリアルタイムで含水比を推定する(図9のStep222)。
【0063】
移動体101が移動しながら、含水比推定式設定手段104が地盤の含水比を推定していくと、図8に示すような含水比分布図を作成し、出力手段110に出力することもできる(図9のStep223)。また、対象地盤が撒き出された盛土であって、移動体101が振動ローラなどの転圧機械である場合は、推定された盛土の含水比に応じて盛土の転圧条件を決定し(図9のStep224)、その転圧条件の転圧機械に基づいて盛土の転圧を行うこともできる(図9のStep225)。ここで転圧条件とは、転圧機械の起振力と走行速度を含む条件であり、そのほか転圧機械の振幅や転圧回数、撒き出し厚などを含めることもできる。この場合、複数の転圧条件を用意しておき、転圧条件ごとに地盤の含水比の範囲(レンジ)を設定しておくとよい。これにより、地盤の含水比に対応した適切な転圧条件を選定することができ、盛土範囲のうち部分的に転圧条件を変更しながら転圧作業を行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本願発明の含水比測定装置、含水比推定式設定プログラム、及び含水比測定方法は、造成盛土や、道路、河川堤防、海岸堤防、ダム、堰堤などの土構造物のほか、地盤改良等に広く利用することができる。本願発明が、社会インフラストラクチャーとして高品質の土構造物を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0065】
100 本願発明の含水比測定装置
101 (含水比測定装置の)移動体
102 (含水比測定装置の)本測定用分光計
103 (含水比測定装置の)含水比推定手段
104 (含水比測定装置の)含水比推定式設定手段
105 (含水比測定装置の)振動吸収手段
106 (含水比測定装置の)遮光手段
107 (含水比測定装置の)照明手段
108 (含水比測定装置の)照度計
109 (含水比測定装置の)測位手段
110 (含水比測定装置の)出力手段
111 (含水比測定装置の)含水比データ記憶手段
Aw 対象地盤
FD 基盤
Ms 小領域
ST 測位衛星
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9