(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】主筋を含む中空プレキャストコンクリート部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/32 20060101AFI20240730BHJP
E04C 5/02 20060101ALI20240730BHJP
E04C 5/18 20060101ALI20240730BHJP
B28B 7/10 20060101ALI20240730BHJP
B28B 23/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B28B7/32
E04C5/02
E04C5/18 105
B28B7/10 G
B28B23/02 A
(21)【出願番号】P 2020201320
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河井 慶太
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 孝一
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-111866(JP,A)
【文献】特開平04-064666(JP,A)
【文献】特開平07-148717(JP,A)
【文献】特開昭56-055212(JP,A)
【文献】特開平05-016131(JP,A)
【文献】特開平08-072042(JP,A)
【文献】特開平07-088826(JP,A)
【文献】特開2000-094422(JP,A)
【文献】特公昭59-024756(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00-7/46
B28B 21/20
B28B 23/02
E04C 5/01
E04C 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主筋を含む中空プレキャストコンクリート部材の製造方法であって、
前記主筋を含む鉄筋を組み立てるステップと、
前記鉄筋の少なくとも一部が外型枠内に配置され、かつ前記主筋の延在方向に延在して伸縮可能な1又は複数のバルーン体が内型枠として前記外型枠内に配置されるように、前記外型枠及び前記バルーン体を設置するステップと、
少なくとも一部の前記バルーン体に対して、前記バルーン体が前記鉄筋に密接して前記バルーン体の表面に凹凸が生じるように前記バルーン体に流体を注入して前記バルーン体を膨張させるステップと、
上記の全てのステップの後に実施される、前記外型枠内にコンクリートを打設するステップと、
を備え
、
前記バルーン体は、前記流体が注入されて膨張する袋体と、前記袋体の側周面を覆って伸縮可能な筒体とを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記バルーン体は、前記筒体の外表面に互いに周方向に離間して配置された複数のストッパ平板を更に含み、
前記外型枠及び前記バルーン体を設置するステップは、前記バルーン体が膨張した時に少なくとも一部の前記ストッパ平板が前記主筋に当接するように前記バルーン体を配置することを含むことを特徴とする請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記筒体は、スポンジ状をなすことを特徴とする請求項
2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記主筋は、前記外型枠内で鉛直方向に延在し、
前記バルーン体は、底部にフックを含み、
前記外型枠及び前記バルーン体を設置するステップは、前記外型枠の底部に前記フックを係合させることを含むことを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主筋を含む中空プレキャストコンクリート部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建物において、建築現場での施工期間を短縮するため、柱や梁にプレキャストコンクリート部材を使用することがある。また、プレキャストコンクリート部材を使用する上で、搬入車両や揚重機を小型化するために、プレキャストコンクリート部材を中空にして軽量化する場合がある。中空プレキャストコンクリート部材は、工場で製造後、建築現場に搬入され、所定の位置に設置後、中空部にコンクリートを打設することにより柱や梁等になる。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、中空プレキャストコンクリート部材を型枠として使用し、主筋は建築現場で組み立てることが記載されている。また、特許文献4には、主筋を含む中空プレキャストコンクリート部材が記載されており、空気を注入した袋体を内型枠として用い、中空プレキャストコンクリート部材を製造することが記載されている。袋体は、中空プレキャストコンクリート部材の内周面にシアコネクターを設けるため、表面に凹凸を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-216747号公報
【文献】特開平7-305449号公報
【文献】特開平11-247288号公報
【文献】特開昭62-233206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載の発明では、中空プレキャストコンクリート部材とは別に建築現場で主筋を設置する必要があるため、建築現場での施工期間の更なる短縮が求められていた。特許文献4に記載の中空プレキャストコンクリート部材は、主筋を含むため、特許文献1~3に記載の発明に比べて建築現場での施工期間を短縮できる。しかしながら、袋体を再利用するためには袋体を洗浄する必要があるところ、袋体に凹凸があるため、洗浄に手間がかかった。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、施工性の良い、主筋を含む中空プレキャストコンクリート部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態は、主筋を(5)含む中空プレキャストコンクリート部材(1,21,31)の製造方法であって、前記主筋(5)を含む鉄筋(2)を組み立てるステップと、前記鉄筋(2)の少なくとも一部が外型枠(9,36)内に配置され、かつ前記主筋(2)の延在方向に延在して伸縮可能な1又は複数のバルーン体(10,32)が内型枠として前記外型枠(9,36)内に配置されるように、前記外型枠(9,36)及び前記バルーン体(10,32)を設置するステップと、少なくとも一部の前記バルーン体(10,32)に対して、前記バルーン体(10,32)が前記鉄筋(5)に密接して前記バルーン体(10,32)の表面に凹凸が生じるように前記バルーン体(10,32)に流体を注入して前記バルーン体(10,32)を膨張させるステップと、上記の全てのステップの後に実施される、前記外型枠(9,36)内にコンクリートを打設するステップと、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、バルーン体の外表面が滑らかであっても、バルーン体の表面に凹凸が生じて、中空部を画成する内表面にシアコネクターを形成することができ、バルーン体の洗浄が容易となるため、施工性が向上する。
【0009】
本発明のある実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(1,21)の製造方法は、上記構成において、前記鉄筋(2)は中子筋(7)を含み、前記内型枠は、複数の前記バルーン体(10)によって構成され、前記外型枠(9)及び前記バルーン体(10)を設置するステップにおいて、前記バルーン体(10)は、前記主筋(5)の前記延在方向から見て、前記中子筋(7)によって区切られた領域毎に配置されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、複数のバルーン体を内型枠として使用するため、中空部を中子筋が横切る中空プレキャストコンクリート部材を製造することができる。
【0011】
本発明のある実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(1,21)の製造方法は、上記構成において、前記バルーン体(10)を膨張させるステップは、少なくとも一部の前記バルーン体(10)が前記中子筋(7)及び隣接する他の前記バルーン体(10)に密接するように、前記流体を注入することを含むことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、互いに隣接するバルーン体が密接しているため、コンクリートの打設時にバルーン体同士の隙間にコンクリートが浸入することが防止される。
【0013】
本発明のある実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(31)の製造方法は、上記の第1の構成において、前記バルーン体(32)は、前記流体が注入されて膨張する袋体(33)と、前記袋体の側周面を覆って伸縮可能な筒体(34)とを含むことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、流体が注入される袋体を筒体によって保護することができる。
【0015】
本発明のある実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(31)の製造方法は、上記構成において、前記バルーン体(32)は、前記筒体(34)の外表面に互いに周方向に離間して配置されて前記主筋の延在方向に延在する複数のストッパ平板(35)を更に含み、前記外型枠(36)及び前記バルーン体(32)を設置するステップは、前記バルーン体(32)が膨張した時に少なくとも一部の前記ストッパ平板(35)が前記主筋(5)に当接するように前記バルーン体(32)を配置することを含むことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ストッパ平板が主筋に当接することにより、主筋がコンクリートに覆われやすくなるとともに、筒体の直線性が確保できる。
【0017】
本発明のある実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(31)の製造方法は、上記構成において、前記筒体(34)は、スポンジ状をなすことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、バルーン体を膨張させた時、筒体における鉄筋に当接した部分が圧縮されるため、バルーン体の表面に凹凸が生じやすくなる。
【0019】
本発明のある実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(31)の製造方法は、上記構成の何れかにおいて、前記主筋(5)は、前記外型枠(36)内で鉛直方向に延在し、前記バルーン体(32)は、底部にフックを含み、前記外型枠(36)及び前記バルーン体(32)を設置するステップは、前記外型枠(36)の底部に前記フックを係合させることを含むことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、コンクリートが硬化するまでの間にバルーン体が浮き上がることを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、施工性の良い、主筋を含む中空プレキャストコンクリート部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材の斜視図
【
図2】第1実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材の製造手段を示す斜視図
【
図3】第2実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材の斜視図
【
図4】第2実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材の製造手段を示す斜視図
【
図5】第3実施形態に係るバルーン体を示す横断面図
【
図6】第3実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材の脱型前の状態を示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る中空プレキャストコンクリート部材(以下、「PCa部材」と記す)1を示し、
図2は、第1実施形態に係るPCa部材1の製造手段を示す。
【0024】
PCa部材1は、集合住宅等の建物の柱の一部を構成する部材である。PCa部材1は、鉄筋2と、鉄筋2を少なくとも部分的に埋設したコンクリート部3と、機械式継手4とを備える。鉄筋2は、主筋5と、帯筋6と、中子筋7とを含む。柱用のPCa部材1の主筋5は、建物に配置された状態では鉛直方向に延在するが、PCa部材1の製造時には水平方向に配置される。コンクリート部3は、内部に中空部8を有し、両端面が開口された角筒形状をなす。主筋5の一端側には機械式継手4が取り付けられており、機械式継手4における主筋5が取り付けられていない方の端面は、コンクリート部3の一方の端面と面一になっている。主筋5の他端側は、コンクリート部3の他方の端面から突出している。中子筋7は、主筋5の延在方向から見て、縦横のそれぞれに2列ずつ配置されている。
【0025】
PCa部材1を製造するための型枠は、コンクリート部3の上面(柱における1つの側面)以外の外面を画成する外型枠9と、中空部8を形成するための内型枠として使用される複数のバルーン体10とを含む。外型枠9は、鋼製型枠であることが好ましく、1つの底壁11と、底壁11から上方に延出して互いに対向する1対の側壁12と、1対の側壁12に直交するように底壁11から上方に延出して互いに対向する第1端壁13及び第2端壁14とを含む。第1端壁13は、主筋5を挿通させる貫通孔15を有し、必要に応じて主筋5と貫通孔15との隙間はシールされる。なお、
図2は、鉄筋2及びバルーン体10を図示するため、第2端壁14を底壁11及び側壁12から外した状態で示している。図示する例では、第1端壁13が底壁11及び側壁12の中間部分に連結し、第2端壁14が底壁11及び側壁12の端部に連結しているが、第1端壁13及び第2端壁14の双方が底壁11及び側壁12の中間部分に連結していてもよく、第1端壁13及び第2端壁14の双方が底壁11及び側壁12の端部に連結していてもよい。
【0026】
バルーン体10は、延在方向及び周方向(延在方向を軸線としてその周りを周る方向)に伸縮可能であり、鉄筋2に拘束されていない状態において滑らかな外表面を有する。また、バルーン体10は、コンクリートに接するため耐アルカリ性を備え、また、蒸気養生時の温度(約60℃)に耐える耐熱性を備えることが好ましい。例えば、バルーン体10は、ゴム等の素材によって構成される。
【0027】
PCa部材1の製造方法について説明する。
作業員は、鉄筋2を組み立てるとともに、底壁11に1対の側壁12を取り付ける。組み立てた鉄筋2をクレーン等によって移動させてスペーサー(図示せず)を介して底壁11に載置する。主筋5の延在方向から見て、帯筋6で囲まれた空間は、中子筋7によって9つの領域に区切られている。作業員は、帯筋6及び中子筋7によって区切られた9つの領域の各々に、1つずつバルーン体10を挿入する。なお、中子筋7に区切られた領域は9つ以外の数であってもよく、帯筋6で囲まれた空間が中子筋7で区切られていなくてもよい。第1端壁13及び第2端壁14を底壁11及び1対の側壁12に取り付ける。
【0028】
各々のバルーン体10には空気注入口(図示せず)が設けられており、作業員は、バルーン体10に空気注入口から空気を注入して、バルーン体10を膨張させる。全てのバルーン体10に同時に空気を注入することが好ましい。バルーン体10が周方向に伸縮可能であるため、膨張するバルーン体10は、主筋5に当接した部分においてそれ以上の膨張が記載され、主筋5に当接していない部分において更に膨張する。同様に、バルーン体10が延在方向に伸縮可能であるため、膨張するバルーン体10は、中子筋7に当接した部分においてそれ以上の膨張が規制され、中子筋7に当接していない部分において更に膨張する。このため、バルーン体10の表面に凹凸が生じる。バルーン体10における互いに隣り合う2つ中子筋7に挟まれた部分が他のバルーン体10の表面に密接するまで、空気がバルーン体10に注入される。図示する例では、主筋5に面する位置に配置されて膨張したバルーン体10は、主筋5に当接して帯筋6に当接しないが、帯筋6にも当接して帯筋6によって表面に凹凸が生じてもよい。
【0029】
バルーン体10が十分膨張したら、作業員は、バルーン体10の空気注入口(図示せず)を閉じる。この時、バルーン体10の両端部は、第1端壁13及び第2端壁14に当接している。なお、バルーン体10に空気を注入した後に、第1端壁13及び/又は第2端壁14を底壁11及び1対の側壁12に取り付けてもよい。
【0030】
次に、作業員は、外型枠9とバルーン体10との間にコンクリートを打設する。この時、バルーン体10同士が密接してバルーン体10同士の間にコンクリートが浸入しないため、複数のバルーン体10が1つの中空部8を形成する内型枠として機能する。
【0031】
コンクリートが脱型可能な強度まで硬化したら、作業員は、外型枠9及びバルーン体10を取り外す。バルーン体10は、空気を抜くことにより容易に硬化したコンクリートから取り外すことができる。取り外したバルーン体10は、再利用するため、洗浄することが好ましい。なお、バルーン体10の洗浄が不要になるように、作業員は、バルーン体10を帯筋6及び中子筋7で区切られた空間に挿入する前に、バルーン体10の側周面をポリ塩化ビニリデン等の樹脂の薄膜(図示せず)で緩く覆っておき、コンクリートがバルーン体10に直接触れないようにしてもよい。
【0032】
バルーン体10自体の表面形状に凹凸を設けなくとも、バルーン体10を膨張させることによってバルーン体10の表面に凹凸ができ、中空部8を画成する表面にシアコネクターが形成される。バルーン体10は、それ自体の表面形状に凹凸を有さないため、再利用のための洗浄が容易になる。また、仮に、バルーン体10自体の表面形状に凹凸を設けた上で、バルーン体10の洗浄を不要にするためにバルーン体10の側周面を薄膜で覆うと、薄膜が凹凸の凸部に支持されるため、その凹凸によってはシアコネクターを形成することができない。しかし、バルーン体10の伸縮によってシアコネクターを形成する場合は、バルーン体10が膨張する分だけ余裕をもってバルーン体10を薄膜で覆っておけば、シアコネクターが形成される。このように、上記の製造方法によれば、再利用するためバルーン体10の洗浄が容易又は不要になるため、施工性が向上する。
【0033】
複数のバルーン体10を使用することにより、中子筋7が中空部8の内部を横切る構成のPCa部材1を製造することができる。
【0034】
次に、本発明に係る第2実施形態を説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付し、類似する構成は、その相違点のみを説明して同一の符号を付す。
図3は、第2実施形態に係るPCa部材21を示し、
図4は、第2実施形態に係るPCa部材21の製造手段を示す。第2実施形態に係るPCa部材21は、集合住宅等の建物の梁の一部を構成する部材である。
【0035】
PCa部材21は、主筋5、あばら筋22及び中子筋7を含む鉄筋2と、コンクリート部3と、主筋5を継ぐための機械式継手4とを備える。製造時におけるPCa部材21の上下方向は、建物に設置された時のPCa部材21の上下方向に一致する。コンクリート部3は、主筋5の延在方向から見て上方が開口されたU字形状をなし、U字形状の内部が中空部8となる。中子筋7は、主筋5の延在方向から見て、縦に2列、横に1列配置されている。
【0036】
PCa部材21を製造するための型枠は、底壁11、1対の側壁12、第1端壁13及び第2端壁14を含む外型枠9と、延在方向及び周方向に伸縮可能な複数のバルーン体10とを含む。バルーン体10の配置が、第1実施形態に係る製造方法と相違する。
【0037】
バルーン体10は、主筋5の延在方向から見て、あばら筋22で囲まれた空間内に配置される第1バルーン体10aと、あばら筋22の上に配置される第2バルーン体10bとを含む。主筋5の延在方向から見て、あばら筋22で囲まれた空間は、中子筋7によって6つの領域に区切られている。作業員は、あばら筋22及び中子筋7によって区切られた6つの領域の各々に、1つずつ第1バルーン体10aを挿入する。なお、中子筋7に区切られた領域は6つ以外の数であってもよく、あばら筋22で囲まれた空間が中子筋7で区切られていなくてもよい。また、作業員は、コンクリート部3の上面を開口するため、組まれた鉄筋2の上部に1つの第2バルーン体10bを載置する。第2バルーン体10bには、コンクリートを打設した時に浮き上がらず、上部に配置された主筋5に密接した状態が維持されるように、浮き上がり防止材(図示せず)が取り付けられる。浮き上がり防止材は、例えば、第2バルーン体10bの上面に載置される錘、外型枠9に支持されてこのバルーン体10を上方から係止する板や紐、又は、第1バルーン体10a若しくはあばら筋22に係合するフックである。
【0038】
PCa部材21の製造方法は、第1実施形態の製造方法において帯筋6(
図2参照)をあばら筋22と読み替えたものと略同様であるが、第1及び第2バルーン体10a,10bを含むバルーン体10を上記のように配置する点で相違する。
【0039】
図5及び
図6を参照して第3実施形態について説明する。
図5は、第3実施形態に係るバルーン体32の横断面図を示し、
図6は、第3実施形態に係るPCa部材31の脱型前の状態の横断面図を示す。
【0040】
PCa部材31は、物流倉庫等の建物の柱の一部を構成する部材である。PCa部材31は、主筋5、帯筋6及び中子筋7を含む鉄筋2と、コンクリート部3とを備える。PCa部材31は、第1実施形態のPCa部材1に比べて太く、大きな荷重を受ける。そのため、主筋5が、横断面視で、2重の矩形の線上に配置される。帯筋6は、外側の主筋5を囲むように配置され、中子筋7は、縦横それぞれ1列直線状に配置され、端部を除いて内側の主筋5の外側に当接するように配置される。内側の主筋5よりも内方には、中子筋7は配置されていない。このため、中空部8を形成するための内型枠として1つのバルーン体32が使用される。
【0041】
バルーン体32は、周方向に伸縮可能であり空気が注入されると膨張する袋体33と、袋体33の側周面を覆って周方向に伸長可能な筒体34と、筒体34の外表面に互いに周方向に離間して配置されて主筋5の延在方向に延在する複数のストッパ平板35とを含む。
【0042】
袋体33は、ゴム等の素材によって構成される。筒体34は、鉄筋2に拘束されていない状態において滑らかな外表面を有し、平面視で、伸びていない状態において、内側の主筋5に内接する矩形よりも一回り小さい矩形の外輪郭を有することが好ましい。筒体34を構成する素材は、コンクリートに接するため耐アルカリ性を備え、蒸気養生時の温度(約60℃)に耐える耐熱性を備えることが好ましく、スポンジ状であることが好ましい。例えば、筒体34は、発砲ウレタン樹脂を素材とする。ストッパ平板35は、例えば、コンクリート板、鋼板又は樹脂板であり、内側の主筋5に当接するように配置される。ストッパ平板35の幅は、内側の主筋5の直径以上であることが好ましい。ストッパ平板35は、コンクリート部3と同じ上下方向長さを有してもよく、1本の主筋5に当接するストッパ平板35が、上下方向に所定の距離をおいて互いに離間した複数の板によって構成されてもよい。バルーン体32の全周面がコンクリートに接するため、PCa部材31の製造後にバルーン体32を回収し難いが、空気が注入されて膨張する袋体33とコンクリートに接する筒体34とを互いに別体とすることにより、比較的バルーン体32を回収しやすくなる。また、筒体34によって袋体33が保護される。
【0043】
製造時におけるPCa部材31の上下方向は、建物に設置された時のPCa部材31の上下方向に一致する。従って、外型枠36は、平面視で矩形をなす底壁と底壁の側縁に立設された4つの側壁とを含む。外型枠36とバルーン体32との間にコンクリートを打設した時にバルーン体32が浮き上がるのを防止するため、バルーン体32の底部には、外型枠36の底壁に係合するフック(図示せず)が設けられていることが好ましい。
【0044】
PCa部材31の製造方法について説明する。
作業員は、鉄筋2を組み立て、外型枠36の底壁上に組み立てた鉄筋2を載置する。作業員は、内側の主筋5の内側に、1つのバルーン体32を挿入し、バルーン体32の底部に設けられたフックを外型枠36の底壁に係合させる。ここで、バルーン体32は、膨張した時にストッパ平板35が内側の主筋5に当接するように配置される。次いで、作業員は、組み立てた鉄筋2を囲むように外型枠36の側壁を設置する。
【0045】
袋体33には空気注入口(図示せず)が設けられており、作業員は、袋体33に空気注入口から空気を注入して、袋体33を膨張させる。筒体34は、袋体33に内部から押し出されて膨張する。この時、少なくとも一部のストッパ平板35が主筋5又は中子筋7に当接して、筒体34におけるストッパ平板35が取り付けられた部分が圧縮されるとともにそれ以上の膨張が規制される。筒体34におけるその他の部分は、更に袋体33によって押し出されて膨張するとともに圧縮されないため、ストッパ平板35が取り付けられた部分よりも外側に張り出す。このため、バルーン体32の表面に凹凸が生じる。
【0046】
バルーン体32が十分膨張したら、作業員は、バルーン体32の空気注入口(図示せず)を閉じる。その後、作業員は、外型枠36とバルーン体32との間にコンクリートを打設する。コンクリートが脱型可能な強度まで硬化したら、作業員は、外型枠36及びバルーン体32を取り外す。バルーン体32は、空気を抜くことにより容易に硬化したコンクリートから取り外すことができる。取り外したバルーン体32は、再利用するため、洗浄することが好ましい。なお、第1実施形態と同様に、バルーン体32の側周面をポリ塩化ビニリデン等の樹脂の薄膜(図示せず)で緩く覆って、バルーン体32の洗浄を不要にしてもよい。
【0047】
バルーン体32を膨張させたときにストッパ平板35が主筋5に当接することによって、筒体34が主筋5の形状に沿って変形して当接する場合に比べて、主筋5の大部分がコンクリート部3に埋設されるため、PCa部材31の運搬時において主筋5が安定する。また、ストッパ平板35が主筋5の延在方向に延在するため、筒体34の直線性が確保される。また、主筋5及び中子筋7によるバルーン体32の膨張の部分的な規制とストッパ平板35とによって膨張したバルーン体32の表面に凹凸ができるため、コンクリート部3の内面にシアコネクターが形成される。
【0048】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。バルーン体を膨張させるために、バルーン体に空気以外の流体を注入してもよい。第1実施形態において、第3実施形態における外型枠及びフックを使用して、外型枠内において主筋が鉛直方向に延在するように鉄筋を配置してもよく、第3実施形態において、第1実施形態における外型枠を使用して、外型枠内において主筋が水平方向に延在するように鉄筋を配置してもよい。PCa部材を製造する際に、一方の端部(柱を構成するPCa部材であれば、建築現場で建込んだ時に下側となる機械式継手が設けられた端部)には、バルーン体を挿入しないようにしてもよい。これにより、建築現場で中空部に打設するコンクリートとPCa部材間の目地との間に境目が形成され、機械式継手及び目地へのグラウトの充填時にグラウトが中空部に流れることや、中空部へのコンクリート打設時にコンクリートが機械式継手及び目地に流れることを防止できる。
【符号の説明】
【0049】
1,21,31:中空プレキャストコンクリート部材(PCa部材)
2:鉄筋
3:コンクリート部
5:主筋
7:中子筋
8:中空部
9,36:外型枠
10,32:バルーン体
33:袋体
34:筒体
35:ストッパ平板