IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社日本ピーエスの特許一覧

<>
  • 特許-緊張力導入装置 図1
  • 特許-緊張力導入装置 図2
  • 特許-緊張力導入装置 図3
  • 特許-緊張力導入装置 図4
  • 特許-緊張力導入装置 図5
  • 特許-緊張力導入装置 図6
  • 特許-緊張力導入装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】緊張力導入装置
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20240730BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E04G21/12 104B
E04C5/08 ESW
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020210698
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022097236
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595059377
【氏名又は名称】株式会社日本ピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】笠原 玲
(72)【発明者】
【氏名】西野 元庸
(72)【発明者】
【氏名】松原 喜之
(72)【発明者】
【氏名】正川 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼岡 弘二
(72)【発明者】
【氏名】池田 道春
(72)【発明者】
【氏名】天谷 公彦
(72)【発明者】
【氏名】栗原 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩司
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-021343(JP,A)
【文献】特開2016-017333(JP,A)
【文献】特開昭63-042810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E04C 5/08
E01D 1/00-24/00
E02D 5/22-5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張材を前記緊張材の長手方向に沿って牽引し、緊張力を導入する緊張力導入装置であって、
前記緊張材に緊張力を導入する油圧ジャッキと、
前記油圧ジャッキに油圧を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記油圧ジャッキに供給する油圧であるポンプ圧を制御する油圧制御装置と、
前記ポンプ圧を測定するポンプ圧測定装置と、
前記緊張材の変位量を検出する変位量測定装置と、
前記緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要な前記ポンプ圧である最終緊張圧力を算出する演算部と、を有し、
前記油圧制御装置は、前記緊張材に緊張力を導入する過程で、前記ポンプ圧を予め定めた中断圧力まで上昇させる上昇ステップと、前記中断圧力で前記ポンプ圧の上昇を停止する中断ステップと、を交互に繰り返し実施しながら、前記最終緊張圧力まで、前記ポンプ圧を上昇させ、
前記演算部は、前記ポンプ圧および前記変位量に基づいて前記最終緊張圧力を算出する緊張力導入装置。
【請求項2】
前記緊張力導入装置は、前記緊張材の長手方向の両端部側から前記緊張材を牽引し、緊張力を導入する装置であって、
前記緊張材の長手方向の両端部側にそれぞれ配置する前記油圧ジャッキと、前記油圧ポンプとを有し、
前記油圧制御装置は、前記上昇ステップ終了後に、前記緊張材の長手方向の両端部側にそれぞれ配置した前記油圧ポンプの前記ポンプ圧の差が小さくなるように制御する請求項1に記載の緊張力導入装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記ポンプ圧が予め定めた演算圧力に達した際に、前記最終緊張圧力を算出し、
前記ポンプ圧が前記演算圧力に達する前の前記上昇ステップにおける前記ポンプ圧の上昇幅を第1上昇幅とし、
前記ポンプ圧が前記演算圧力に達した後の前記上昇ステップにおける前記ポンプ圧の上昇幅を第2上昇幅とした場合に、
前記油圧制御装置は、前記第2上昇幅が、前記第1上昇幅よりも小さくなるように前記ポンプ圧を上昇させる請求項1または請求項2に記載の緊張力導入装置。
【請求項4】
前記油圧制御装置は、前記上昇ステップにおいて、前記ポンプ圧が、前記中断圧力を超え、予め定めた限界圧力に達した場合に、前記ポンプ圧を低下させる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の緊張力導入装置。
【請求項5】
前記上昇ステップおよび前記中断ステップを含む、前記緊張材に緊張力を導入する緊張過程における異常を判定する異常判定部と、
前記異常判定部が異常と判定した場合に警報を発する警報部と、を有し、
前記異常判定部は、前記ポンプ圧と、前記変位量とに基づいて、前記緊張過程の異常を判定する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の緊張力導入装置。
【請求項6】
第1記憶部を有し、
前記第1記憶部は、過去に測定した緊張管理図を含む第1緊張管理用データを保存しており、
前記異常判定部は、前記第1記憶部に保存された前記第1緊張管理用データに基づいて、前記緊張過程の異常を判定する請求項5に記載の緊張力導入装置。
【請求項7】
第2記憶部を有し、
前記第2記憶部は、上方管理限界線と、下方管理限界線とを保存しており、
前記異常判定部は、前記上方管理限界線と、前記下方管理限界線とに基づいて、前記緊張過程の異常を判定する請求項5または請求項6に記載の緊張力導入装置。
【請求項8】
外気温を測定する外気温測定装置と、
第3記憶部と、を有し、
前記第3記憶部は、過去に測定した緊張管理図、および前記緊張管理図の測定条件を含む第2緊張管理用データを保存しており、
前記異常判定部は、前記第2緊張管理用データのうち、前記外気温測定装置により測定した前記外気温に応じて選択した前記緊張管理図に基づいて前記緊張過程の異常を判定する請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の緊張力導入装置。
【請求項9】
前記演算部を含む端末部を有し、
前記端末部は、前記ポンプ圧測定装置および前記変位量測定装置から選択された1以上の装置との間で、データをやり取りするための無線の通信インターフェースを有する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の緊張力導入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、緊張力導入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、PC鋼材の緊張管理方法が開示されている。具体的には、緊張ジャッキとジャッキ駆動用の油圧ポンプを用いてPC鋼材の緊張作業を開始し、作業中の緊張力(油圧ポンプの圧力)とPC鋼材の伸び量(緊張ジャッキのラムの移動量)を測定して、その結果を入出力端末機に逐次入力し、緊張データと、管理データを照合しながら緊張作業を進めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-38712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンクリート構造物は引張力に弱いという特性がある。そこで、緊張材は、コンクリート構造物に予め圧縮力を加え、コンクリート構造物が荷重を受けた際の引張応力を制御し、ひび割れ等が生じることを防止するために用いられている。このため、緊張材に緊張力を導入する際に、コンクリート構造物に所望の圧縮力を加えられるように、緊張材に導入する緊張力について、精度の向上が求められている。
【0005】
本開示は、緊張材に緊張力を精度よく導入できる緊張力導入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の緊張力導入装置は、緊張材を前記緊張材の長手方向に沿って牽引し、緊張力を導入する緊張力導入装置であって、
前記緊張材に緊張力を導入する油圧ジャッキと、
前記油圧ジャッキに油圧を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記油圧ジャッキに供給する油圧であるポンプ圧を制御する油圧制御装置と、
前記ポンプ圧を測定するポンプ圧測定装置と、
前記緊張材の変位量を検出する変位量測定装置と、
前記緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要な前記ポンプ圧である最終緊張圧力を算出する演算部と、を有し、
前記油圧制御装置は、前記緊張材に緊張力を導入する過程で、前記ポンプ圧を予め定めた中断圧力まで上昇させる上昇ステップと、前記中断圧力で前記ポンプ圧の上昇を停止する中断ステップと、を交互に繰り返し実施しながら、前記最終緊張圧力まで、前記ポンプ圧を上昇させ、
前記演算部は、前記ポンプ圧および前記変位量に基づいて前記最終緊張圧力を算出する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、緊張材に緊張力を精度よく導入できる緊張力導入装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示に係る緊張力導入装置の一構成例の説明図である。
図2図2は、本開示に係る緊張力導入装置の他の構成例の説明図である。
図3図3は、図1図2における端末部の機能図である。
図4図4は、本開示に係る緊張力導入装置における緊張過程での油圧ポンプのポンプ圧の変化の一構成例の説明図である。
図5図5は、図4に示したポンプ圧変化を行った際の緊張管理図の説明図である。
図6図6は、緊張管理図の説明図である。
図7図7は、本開示の一態様に係る緊張力導入装置による動作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0011】
(1)本開示の一態様に係る緊張力導入装置は、緊張材を前記緊張材の長手方向に沿って牽引し、緊張力を導入する緊張力導入装置であって、
前記緊張材に緊張力を導入する油圧ジャッキと、
前記油圧ジャッキに油圧を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから前記油圧ジャッキに供給する油圧であるポンプ圧を制御する油圧制御装置と、
前記ポンプ圧を測定するポンプ圧測定装置と、
前記緊張材の変位量を検出する変位量測定装置と、
前記緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要な前記ポンプ圧である最終緊張圧力を算出する演算部と、を有し、
前記油圧制御装置は、前記緊張材に緊張力を導入する過程で、前記ポンプ圧を予め定めた中断圧力まで上昇させる上昇ステップと、前記中断圧力で前記ポンプ圧の上昇を停止する中断ステップと、を交互に繰り返し実施しながら、前記最終緊張圧力まで、前記ポンプ圧を上昇させ、
前記演算部は、前記ポンプ圧および前記変位量に基づいて前記最終緊張圧力を算出する。
【0012】
緊張材に緊張力を導入する緊張過程において、緊張材の変位量と、油圧ジャッキに油圧を供給する油圧ポンプのポンプ圧とを測定し、変位量とポンプ圧との関係をプロットした緊張管理図を作成し、緊張材に導入した緊張力を管理することが従来から行われている。
【0013】
しかし、緊張材に緊張力を導入する際に、油圧ポンプから供給する油圧であるポンプ圧を連続的に上昇させた場合、油圧ポンプと油圧ジャッキとをつなぐ油圧ホースにおける圧力損失により、上記ポンプ圧と、油圧ジャッキ側の油圧であるジャッキ圧とに差が生じる。このため、緊張過程においてポンプ圧を連続的に上昇させた場合、ポンプ圧は、緊張材に導入した緊張力に当たるジャッキ圧と異なった値となっており、ポンプ圧とジャッキ圧との間には差が生じる。その結果、該ポンプ圧を用いて緊張管理図を作成すると、導入した緊張力を正確に評価できないという問題があった。
【0014】
また、緊張材を油圧ジャッキにより牽引した場合に緊張材と、緊張材の周囲に配置したシースとの摩擦や、緊張材の配置等により、緊張材の変位が遅れる場合もあった。このため、ポンプ圧を連続的に上昇させると、ポンプ圧の変化に緊張材の変位が追従できていない場合があった。
【0015】
以上のように、油圧ポンプのポンプ圧を連続的に上昇させ、緊張材に緊張力を導入した場合、緊張材に導入する緊張力を管理するために用いているポンプ圧と、緊張材の変位量とが、緊張材に導入した緊張力や、緊張材の状態を正確に反映していない場合があった。緊張材に導入した緊張力や、変位量を正確に評価できていない場合、緊張材に導入する緊張力の管理の精度が低下する原因となる。
【0016】
そこで、本開示の一態様に係る緊張力導入装置の油圧制御装置は、緊張材に緊張力を導入する過程で、ポンプ圧を予め定めた中断圧力まで上昇させる上昇ステップと、中断圧力でポンプ圧の上昇を停止する中断ステップと、を交互に繰り返し実施できる。そして、最終緊張圧力まで、ポンプ圧を上昇させることができる。
【0017】
ポンプ圧を連続的に上昇させた場合、ポンプ圧と、緊張材に導入した緊張力に当たるジャッキ圧との間に差が生じる。これに対して、上昇ステップの後に中断ステップを実施し、ポンプ圧の上昇を中断することで、ポンプ圧とジャッキ圧とが平衡となるように圧力差が低減される。その結果、ポンプ圧がジャッキ圧に対応した値に修正される。このため、中断ステップを実施することで、ポンプ圧を緊張材に導入した緊張力に対応した値とすることができる。
【0018】
また、既述のようにポンプ圧を連続的に上昇させた場合、ポンプ圧の変化に、緊張材の変位が追従できていない場合があった。これに対して、中断ステップを実施し、ポンプ圧の上昇を中断し、緊張材に導入する緊張力の上昇を中断することで、緊張材の変位量を、ポンプ圧に対応した変位量にできる。すなわち、緊張材の変位量を、導入した緊張力に追従させることができる。このため、中断ステップを実施することで、正確な緊張材の変位量を取得できる。
【0019】
このように、本開示の一態様に係る緊張力導入装置によれば、上昇ステップと、中断ステップとを交互に実施することで、緊張材に導入した緊張力に対応したポンプ圧、および正確な緊張材の変位量を取得できる。このため、緊張材に導入する緊張力を正確に評価でき、緊張材に緊張力を精度よく導入できる。
【0020】
また、緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要なポンプ圧である最終緊張圧力は、緊張材に緊張力の導入を開始する前に予め定めておくこともできる。しかし、緊張材に緊張力を導入している際に、各測定点での緊張材の変位量、ポンプ圧をプロットして作成した緊張管理図から、目的とする緊張材の最終変位量にあわせた最終緊張圧力を算出することで、より適切な最終緊張圧力を選択できる。このため、演算部によりポンプ圧および緊張材の変位量の変化に基づいて最終緊張圧力を算出することで、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。
【0021】
(2) 前記緊張力導入装置は、前記緊張材の長手方向の両端部側から前記緊張材を牽引し、緊張力を導入する装置であって、
前記緊張材の長手方向の両端部側にそれぞれ配置する前記油圧ジャッキと、前記油圧ポンプとを有し、
前記油圧制御装置は、前記上昇ステップ終了後に、前記緊張材の長手方向の両端部側にそれぞれ配置した前記油圧ポンプの前記ポンプ圧の差が小さくなるように制御してもよい。
【0022】
前記緊張材の長手方向の両端部側にそれぞれ配置した、合計2台の油圧ポンプのポンプ圧の差を抑制することで、緊張材の両端部側から均等な力を加えることができ、ポンプ圧や、緊張材の変位量について正確な値を取得できる。このため、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。
【0023】
(3) 前記演算部は、前記ポンプ圧が予め定めた演算圧力に達した際に、前記最終緊張圧力を算出し、
前記ポンプ圧が前記演算圧力に達する前の前記上昇ステップにおける前記ポンプ圧の上昇幅を第1上昇幅とし、
前記ポンプ圧が前記演算圧力に達した後の前記上昇ステップにおける前記ポンプ圧の上昇幅を第2上昇幅とした場合に、
前記油圧制御装置は、前記第2上昇幅が、前記第1上昇幅よりも小さくなるように前記ポンプ圧を上昇させてもよい。
【0024】
演算圧力は、当初予定していた最終緊張圧力の例えば80%以上95%以下の圧力にできる。このため、演算圧力よりもポンプ圧が高い領域は、緊張材への緊張力の導入を終える最終緊張圧力に近い領域となる。係る領域における上昇ステップのポンプ圧の上昇幅である第2上昇幅を演算圧力に達する前の第1上昇幅よりも小さくすることで、最終緊張圧力近傍の領域において、緊張材に導入する緊張力の上昇幅を低下させることになる。このため、緊張材に導入した緊張力に対応したポンプ圧、および緊張材の変位量を特に正確に取得できる。さらには、緊張管理図における最終緊張圧力近傍のプロット数が多くなるため、緊張材への緊張力の導入を終える際のポンプ圧を、特に最終緊張圧力に近づけることができる。このため、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。
【0025】
(4) 前記油圧制御装置は、前記上昇ステップにおいて、前記ポンプ圧が、前記中断圧力を超え、予め定めた限界圧力に達した場合に、前記ポンプ圧を低下させてもよい。
【0026】
係る制御を行うことで、緊張材に異常な緊張力を導入することを防止できる。
【0027】
(5) 前記上昇ステップおよび前記中断ステップを含む、前記緊張材に緊張力を導入する緊張過程における異常を判定する異常判定部と、
前記異常判定部が異常と判定した場合に警報を発する警報部と、を有し、
前記異常判定部は、前記ポンプ圧と、前記変位量とに基づいて、前記緊張過程の異常を判定してもよい。
【0028】
異常判定部により緊張過程における異常を判定し、警報部により警報を発することにより、緊張過程で生じた異常を発見できる。
【0029】
(6) 第1記憶部を有し、
前記第1記憶部は、過去に測定した緊張管理図を含む第1緊張管理用データを保存しており、
前記異常判定部は、前記第1記憶部に保存された前記第1緊張管理用データに基づいて、前記緊張過程の異常を判定してもよい。
【0030】
過去の緊張管理図と対比し、緊張過程の異常を判定することで、より精度よく、緊張過程の異常を検出できる。
【0031】
(7) 第2記憶部を有し、
前記第2記憶部は、上方管理限界線と、下方管理限界線とを保存しており、
前記異常判定部は、前記上方管理限界線と、前記下方管理限界線とに基づいて、前記緊張過程の異常を判定してもよい。
【0032】
管理限界線に基づいて、緊張過程の異常を判定することで、より精度よく、緊張過程の異常を発見できる。また、管理限界線と比較しながら緊張作業を行うことで、緊張材に導入する緊張力の精度を特に高めることができる。
【0033】
(8) 外気温を測定する外気温測定装置と、
第3記憶部と、を有し、
前記第3記憶部は、過去に測定した緊張管理図、および前記緊張管理図の測定条件を含む第2緊張管理用データを保存しており、
前記異常判定部は、前記第2緊張管理用データのうち、前記外気温測定装置により測定した前記外気温に応じて選択した前記緊張管理図に基づいて前記緊張過程の異常を判定する前記緊張過程の異常を判定してもよい。
【0034】
緊張作業を行っている際の外気温等の条件が類似した過去の緊張管理図に基づいて、緊張過程の異常を判定することで、より精度よく、緊張過程の異常を発見できる。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る緊張力導入装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[緊張力導入装置]
図1はコンクリート構造物11内に配置した緊張材12に、本実施形態の緊張力導入装置200により緊張力を導入する際の説明図である。図2は、コンクリート構造物11内に配置した緊張材12に、本実施形態の他の構成例の緊張力導入装置201により緊張力を導入する際の説明図である。図1図2は、緊張材12の中心軸を通る面での断面図を模式的に示している。
【0036】
図1図2に示すように、緊張材12は、コンクリート構造物11内部にシース13を介して配置できる。緊張材12は、コンクリート構造物11にプレストレス、具体的には圧縮力を加えるプレストレス導入用の緊張材であり、複数本の素線を撚り合せたPC鋼撚り線や、PC鋼棒等のPC鋼材を用いることができる。上記PC鋼撚り線等のPCは、プレストレスト・コンクリートを意味している。
【0037】
図1に示した、本実施形態の緊張力導入装置200は、緊張材12の長手方向の一方の端部12A側を牽引し、緊張力を導入できる。緊張材12の長手方向とは、緊張材の中心軸に沿った方向ともいえる。図1図2に示した緊張材12の長手方向は、両矢印Aと平行な方向になる。
【0038】
このため、緊張材12の長手方向の他方の端部12B側については、定着具15により把持されている。コンクリート構造物11と、定着具15との間には、支圧プレート14が配置されている。支圧プレート14は、緊張材12に導入された緊張力を支圧することができる。支圧プレート14は、中央部に緊張材12を通す孔が設けられた板状体であり、キャスティングプレートとも呼ばれる。
【0039】
定着具15は、緊張材12の他方の端部12B側を把持し、固定できればよく、構成は特に限定されない。定着具15として、例えばメスコーンと、オスコーンとを有する定着具等を用いることができる。
【0040】
また、図2に示した本実施形態の他の構成例の緊張力導入装置201は、緊張材の長手方向の一方の端部12A側、および他方の端部12B側を牽引し、緊張力を導入できる。
【0041】
すなわち、図1に示した緊張力導入装置200は緊張材の一方の端部側を牽引する片引きの緊張力導入装置である。また、図2に示した緊張力導入装置201は、緊張材の一方の端部側および他方の端部側を同時に牽引する両引きの緊張力導入装置である。
【0042】
本実施形態の緊張力導入装置200は、緊張材12を、緊張材12の長手方向に沿って牽引し、緊張力を導入する装置であり、以下の各部材を有することができる。
【0043】
緊張材12に緊張力を導入する油圧ジャッキ21。
【0044】
油圧ジャッキ21に油圧を供給する油圧ポンプ22。
【0045】
油圧ポンプ22から油圧ジャッキ21に供給する油圧であるポンプ圧を制御する油圧制御装置24。
【0046】
ポンプ圧を測定するポンプ圧測定装置25。
【0047】
緊張材の変位量を検出する変位量測定装置26A、26B。
【0048】
緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要なポンプ圧である最終緊張圧力を算出する演算部33。
【0049】
図2に示した緊張力導入装置201は、既述のように緊張材12の長手方向の両端部側から緊張材を牽引し、緊張力を導入する装置である。このため、緊張力導入装置201は、緊張材12の長手方向の両端部側にそれぞれ配置する油圧ジャッキ21A、21Bと、油圧ポンプ22A、22Bと、を有する。すなわち、緊張力導入装置201は、緊張材12の長手方向の両端部側にそれぞれ配置するため、図2に示すように、合計2台の油圧ジャッキと、合計2台の油圧ポンプとを有する。
【0050】
緊張力導入装置201は、上述のように油圧ポンプを2台有することから、これに対応して、油圧ホース23A、23B、油圧制御装置24A、24B、ポンプ圧測定装置25A、25Bも2台ずつ有することができる。
【0051】
緊張力導入装置201は、緊張材12を長手方向の両端部側から牽引するために必要な部材を複数有する点以外は、原則として緊張力導入装置200と同様に構成できる。このため、緊張力導入装置200を用いて以下説明し、相違する点についてのみ説明を加える。
(1)各部材について
以下、本実施形態の緊張力導入装置が有する各部材について説明する。
(1-1)油圧ジャッキ
油圧ジャッキ21は、緊張材12を牽引し、緊張材12に緊張力を導入できる。
【0052】
油圧ジャッキ21は、シリンダー211と、シリンダー211内を中心軸に沿って移動可能なラム212とを有している。
【0053】
本実施形態の緊張力導入装置200を設置する際、油圧ジャッキ21のラム212に緊張材12の一方の端部12A側を固定する。そして、油圧ポンプ22から供給される油圧により加圧し、ラム212がコンクリート構造物11から遠ざかる方向に移動することで、緊張材12を牽引し、緊張材12に緊張力を導入できる。
【0054】
緊張材12に緊張力を導入後、緊張材12の一方の端部12A側を把持し、固定するため、コンクリート構造物11と、油圧ジャッキ21との間には、支圧プレート14と定着具15とが配置される。
【0055】
図2に示した緊張力導入装置201の油圧ジャッキ21A、21Bについても、それぞれシリンダー211A、211Bと、ラム212A、212Bを有している。そして、上述のように、緊張材12の端部側がそれぞれラム212A、212Bに固定され、ラム212A、212Bがコンクリート構造物11から遠ざかる方向に移動することで、緊張材12を牽引し、緊張材12に緊張力を導入できる。
【0056】
緊張材12に緊張力を導入後、緊張材12の一方の端部12A側、および他方の端部12B側を把持し、固定するため、コンクリート構造物11と、油圧ジャッキ21A、21Bとの間にはそれぞれ、支圧プレート14と定着具15とが配置される。
(1-2)油圧ポンプ、油圧ホース
油圧ポンプ22は、油圧ジャッキ21と油圧ホース23を介して接続されている。そして、油圧ポンプ22から油圧ホース23を介して油圧ジャッキ21に対してオイルを供給できる。すなわち、油圧ポンプ22は、係るオイルを介して油圧ジャッキ21に対して油圧を供給できる。油圧ポンプ22から油圧ジャッキ21に対して油圧を供給することで、上述のように緊張材12を牽引し、緊張材12に緊張力を導入できる。
(1-3)油圧制御装置
油圧制御装置24は、油圧ポンプ22から油圧ジャッキ21に供給する油圧であるポンプ圧を制御できる。
【0057】
油圧制御装置24は、例えば後述するポンプ圧測定装置25により測定したポンプ圧のデータを受信できる。そして、油圧制御装置24は、受信したポンプ圧の測定値と、例えば後述する端末部27の演算部33で算出した最終緊張圧力や、予め設定した中断圧力に基づいて、ポンプ圧を制御できる。
【0058】
油圧制御装置24がポンプ圧を制御する具体的な手段は特に限定されないが、例えば油圧ジャッキ21と油圧ポンプ22とを接続する油圧ホース23上にバルブ241を設けておき、バルブ241の開度を制御することでポンプ圧を制御できる。また、油圧ポンプ22の運転状況を制御し、ポンプ圧を制御することもできる。
【0059】
図2に示した緊張力導入装置201は、油圧ホースについても、油圧ホース23A、23Bの2本を有する。このため、それぞれにバルブ241A、241Bを設け、油圧制御装置24A、24Bによりそれぞれのポンプ圧を制御することもできる。
【0060】
油圧制御装置24は、後述するポンプ圧測定装置25や、変位量測定装置26A、26Bと接続できる。そして、油圧制御装置24は、緊張材に緊張力を導入する緊張過程においてポンプ圧測定装置25で測定したポンプ圧や、変位量測定装置26A、26Bで測定した緊張材12の変位量等のデータを取得できる。また、後述するジャッキ圧測定装置28を設ける場合には、ジャッキ圧測定装置28についても油圧制御装置24と接続し、油圧制御装置24は、ジャッキ圧測定装置28で測定したジャッキ圧のデータを取得することもできる。
【0061】
油圧制御装置24は、油圧制御装置24が取得した上記ポンプ圧や、変位量等のデータについてデータ処理を行い、上述のようにポンプ圧の制御に用いることができる。また、データ処理後のデータを後述する端末部27に転送するように構成することもできる。端末部27と、ポンプ圧測定装置25や変位量測定装置26A、26B、ジャッキ圧測定装置28との間も接続し、ポンプ圧測定装置25や変位量測定装置26A、26B、ジャッキ圧測定装置28から、データが直接端末部27に転送されるように構成してもよい。
【0062】
油圧制御装置24の装置の構成は特に限定されないが、上述のようにデータ処理や、端末部27との通信が行えるように、CPU(Central Processing Unit)や、主記憶装置、補助記憶装置、入出力インターフェース等を有することができる。主記憶装置としてはRAM(Random Access Memory)や、ROM(Read Only Memory)が、補助記憶装置としてはSSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等が挙げられる。入出力インターフェースとしては、バルブ241や、後述するポンプ圧測定装置25、変位量測定装置26A、26B、端末部27との間で制御信号や、データをやり取りするための通信インターフェースが挙げられる。通信インターフェースの種類は特に限定されない。有線、無線のいずれの通信方法も用いることができ、例えば有線LAN(Local Area Network)や、無線LAN等が挙げられる。
【0063】
油圧制御装置24は、入出力インターフェースとして必要に応じてタッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースを有することもできる。
【0064】
図2に示した、緊張力導入装置201は、2台の油圧制御装置24A、24Bを有するため、油圧制御装置24A、24Bは、2台の油圧制御装置24A、24B間でのポンプ圧の制御データ等をやり取りするための通信インターフェースを備えておくこともできる。この場合も、通信インターフェースの種類は特に限定されない。有線、無線のいずれの通信方法も用いることができ、例えば有線LANや、無線LAN等が挙げられる。図2に示した緊張力導入装置201において、端末部27と、2台の油圧制御装置24A、24Bとの間の接続態様は特に限定されない。例えば一方の油圧制御装置24Aのみを端末部27と接続し、他方の油圧制御装置24Bは、端末部27と接続された油圧制御装置24Aを介して端末部27との間のデータ等のやり取りを行うように構成できる。また、2台の油圧制御装置24A、24Bをそれぞれ端末部27に直接接続するように構成してもよい。
【0065】
緊張材に緊張力を導入する緊張過程における、油圧制御装置の動作については、「(2)油圧制御装置の制御について」で後述する。
(1-4)ポンプ圧測定装置
ポンプ圧測定装置25は油圧ポンプ22の油圧であるポンプ圧を測定できる。具体的には例えば油圧ポンプ22のオイルの吐出口における油圧を測定できる。
【0066】
ポンプ圧測定装置25の構成は特に限定されないが、油圧制御装置24に対してポンプ圧のデータを供給できるように、ポンプ圧を感圧素子で測定し、電気信号に変換できる圧力センサであることが好ましい。例えばキャビティ型圧力計等を用いることができる。
(1-5)変位量測定装置
変位量測定装置26A、26Bにより、油圧ジャッキに21により緊張材12を牽引した際の、緊張材12の変位量を測定、算出できる。
【0067】
変位量測定装置26A、26Bは緊張材12の変位量を測定できる手段であればよく、具体的な構成は特に限定されない。変位量測定装置26A、26Bとしては、例えばパルス式変位センサ、巻き込み式変位センサ等を用いることができる。一方の変位量測定装置26Aと、他方の変位量測定装置26Bとは、同じ種類のセンサであってもよく、異なる種類のセンサであってもよい。
【0068】
変位量測定装置26A、26Bは、緊張材12の各端部側の変位量を直接測定してもよく、緊張材12に緊張力を導入した際に、緊張材12の各端部側の変位量に対応して変化する部分の長さにより間接的に測定してもよい。
【0069】
図1に示した緊張力導入装置200において、一方の変位量測定装置26Aは、油圧ジャッキ21により牽引する側の一方の端部12A側、すなわち緊張端側の緊張材の変位量を測定する。変位量測定装置26Aは、例えば緊張材12に緊張力を導入している間変位しない油圧ジャッキ21のシリンダー211と、緊張材12との間の長さの変化を測定できる。また、油圧ジャッキ21のシリンダー211と、緊張材12の変位に対応して位置が変位する油圧ジャッキ21のラム212との間の長さの変化を測定してもよい。
【0070】
図1に示した緊張力導入装置200において、他方の変位量測定装置26Bは、定着具15により把持され、固定された側の他方の端部12B側、すなわち固定端側の緊張材の変位量を測定する。変位量測定装置26Bは、例えば緊張材12に緊張力を導入している間変位しない支圧プレート14や、コンクリート構造物11と、緊張材12との間の長さの変化を測定できる。
【0071】
一方の変位量測定装置26Aにより測定した緊張材12の変位量と、他方の変位量測定装置26Bにより測定した緊張材12の変位量との合計が、緊張材12の変位量になる。
【0072】
なお、図2に示した緊張力導入装置201においては、緊張材12の長手方向の一方の端部12A側、および他方の端部12B側を牽引するため、変位量測定装置26A、26Bは共に、緊張端側の緊張材の変位量を測定することになる。
(1-6)端末部
図3に示すように、端末部27は、緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要なポンプ圧である最終緊張圧力を算出する演算部33を有することができる。なお、後述するように、最終緊張圧力は、ポンプ圧が所定の圧力に達した段階で算出することが好ましい。このため、端末部27は、ポンプ圧測定装置25から油圧制御装置24を介して転送されたポンプ圧の情報を入力する入力部31を有することができる。また、端末部27は、入力部31から入力されたポンプ圧の情報に基づいて、最終緊張圧力を算出するかを判定するポンプ圧判定部32を有することが好ましい。そして、ポンプ圧判定部32が、入力されたポンプ圧が演算圧力に達したと判定した場合に、演算部33が最終緊張圧力を算出し、出力部34から算出した最終緊張圧力を油圧制御装置24に出力するように構成できる。
【0073】
端末部27は、さらに必要に応じて異常判定部35や、警報部36、第1記憶部371、第2記憶部372、第3記憶部373を有することもできる。第1記憶部371~第3記憶部373は必要に応じて1つの記憶部37とすることもできる。端末部27が有する各部の機能については「(3)演算部について」、「(4)異常判定部、警報部について」において詳述する。
【0074】
端末部27は、パーソナルコンピューター(PC)等で構成できる。このため、端末部27が有する上記各部は、パーソナルコンピューター等の情報処理装置において、CPUが予め記憶されているプログラムを実行することでソフトウェアおよびハードウェアが協働して実現できる。
【0075】
端末部27は、演算処理部であるCPUや、主記憶装置であるRAMやROM、補助記憶装置、入出力インターフェース、出力装置である表示装置等を含むことができる。端末部27を構成するCPU、主記憶装置、補助記憶装置、入出力インターフェース、出力装置は、バスで相互に接続できる。端末部27が有する上記部材は全てが同一の筐体内に収められている必要は無く、例えば補助記憶装置や表示装置は、外部に設けられていてもよい。補助記憶装置は、SSDや、HDD等の記憶装置である。
【0076】
入出力インターフェースとしては、タッチパネル、キーボード、マウス、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースや、油圧制御装置24等の外部の機器との制御信号や、データをやり取りするための有線または無線の通信インターフェースが挙げられる。
【0077】
出力装置としては、表示装置であるモニタディスプレイや、警告灯等が挙げられる。
(1-7)その他
本実施形態の緊張力導入装置は、必要に応じて任意の部材をさらに有することもできる。
【0078】
例えば油圧ジャッキ21側の油圧であるジャッキ圧を測定するジャッキ圧測定装置28をさらに有することもできる。
【0079】
ジャッキ圧測定装置28は、例えば油圧ホース23上の、油圧ホース23と油圧ジャッキ21との接続部近くに配置できる。
【0080】
ジャッキ圧測定装置28の構成は特に限定されないが、油圧制御装置24に対してジャッキ圧のデータを供給できるように、ジャッキ圧を感圧素子で測定し、電気信号に変換できる圧力センサであることが好ましい。例えばキャビティ型圧力計等を用いることができる。
【0081】
図2に示した緊張力導入装置201の場合、油圧ジャッキ21A、21Bを2台有することから、ジャッキ圧測定装置28A、28Bについても図2に示すように2台有することができる。
(2)油圧制御装置の制御について
緊張材に緊張力を導入する緊張過程において、緊張材の変位量と、油圧ジャッキに油圧を供給する油圧ポンプのポンプ圧とを測定し、変位量とポンプ圧との関係をプロットした緊張管理図を作成し、緊張材に導入した緊張力を管理することが従来から行われている。
【0082】
しかし、緊張材に緊張力を導入する際に、油圧ポンプから供給する油圧であるポンプ圧を連続的に上昇させた場合、油圧ポンプと油圧ジャッキとをつなぐ油圧ホースにおける圧力損失により、上記ポンプ圧と、油圧ジャッキ側の油圧であるジャッキ圧とに差が生じる。このため、緊張過程においてポンプ圧を連続的に上昇させた場合、ポンプ圧は、緊張材に導入した緊張力に当たるジャッキ圧と異なった値となっており、ポンプ圧とジャッキ圧との間には差が生じる。その結果、該ポンプ圧を用いて緊張管理図を作成すると、導入した緊張力を正確に評価できないという問題があった。
【0083】
また、緊張材を油圧ジャッキにより牽引した場合に緊張材と、緊張材の周囲に配置したシースとの摩擦や、緊張材の配置等により、緊張材の変位が遅れる場合もあった。このため、ポンプ圧を連続的に上昇させると、ポンプ圧の変化に緊張材の変位が追従できていない場合があった。
【0084】
以上のように、油圧ポンプのポンプ圧を連続的に上昇させ、緊張材に緊張力を導入した場合、緊張材に導入する緊張力を管理するために用いているポンプ圧と、緊張材の変位量とが、緊張材に導入した緊張力や、緊張材の状態を正確に反映していない場合があった。緊張材に導入した緊張力や、変位量を正確に評価できていない場合、緊張材に導入する緊張力の管理の精度が低下する原因となる。
【0085】
そこで、本実施形態の緊張力導入装置の油圧制御装置24は、緊張材12に緊張力を導入する過程で、ポンプ圧を予め定めた中断圧力まで上昇させる上昇ステップと、中断圧力でポンプ圧の上昇を停止する中断ステップと、を交互に繰り返し実施できる。そして、最終緊張圧力まで、ポンプ圧を上昇させることができる。
【0086】
図4に、本実施形態の緊張力導入装置200におけるポンプ圧の制御例を模式的に示す。図4は横軸が時間を示し、縦軸がポンプ圧を示している。
【0087】
本実施形態の緊張力導入装置200の油圧ジャッキ21を緊張材12に設置した後、油圧制御装置24は、図4中に実線で示したように、まずポンプ圧を予め定めた中断圧力411Aまで上昇させる上昇ステップSP1を実施できる。上昇ステップSP1の際にポンプ圧を上昇させる条件は特に限定されないが、図4に示すように一定速度でポンプ圧を上昇させることが好ましい。
【0088】
そして、ポンプ圧を中断圧力411Aまで上昇させた後、ポンプ圧の上昇を止める中断ステップSP2を実施できる。
【0089】
既述のように、ポンプ圧を連続的に上昇させた場合、ポンプ圧と、緊張材に導入した緊張力に当たるジャッキ圧との間に差が生じる。これに対して、上昇ステップSP1の後に中断ステップSP2を実施し、ポンプ圧の上昇を中断することで、ポンプ圧とジャッキ圧とが平衡となるように圧力差が低減される。その結果、ポンプ圧がジャッキ圧に対応した値に修正される。具体的には、図4に示した様に、ポンプ圧を中断圧力411Aまで上昇させた後、ポンプ圧の上昇を中断することで、ポンプ圧が、ジャッキ圧と平衡状態となるように一旦低下するポンプ圧低下領域421が生じる。ポンプ圧低下領域421において、ポンプ圧の低下が収束することで、ポンプ圧とジャッキ圧とが平衡状態となり、ポンプ圧がジャッキ圧に対応した値に修正される。
【0090】
中断ステップSP2終了時において、ポンプ圧がジャッキ圧と平衡になった状態、すなわちポンプ圧がジャッキ圧に対応した値に修正された状態で、ポンプ圧と、中断圧力411Aとの差が抑制されていることが好ましい。つまり、中断ステップSP2終了時において、ジャッキ圧に対応した値に修正されたポンプ圧は、中断圧力411Aと一致、もしくは該中断圧力411Aに近い値であることが好ましい。
【0091】
そこで、中断ステップSP2では、図4中にポンプ圧調整領域422として示した様に、ポンプ圧低下領域421の後、ポンプ圧の調整を行うことが好ましい。
【0092】
ポンプ圧調整領域422では、油圧ポンプ22を再稼働して、例えばポンプ圧を中断圧力411Aまで上昇させることができる。ポンプ圧調整領域422においてポンプ圧が中断圧力411Aまで到達した後は、再びポンプ圧がジャッキ圧と平衡となるようにポンプ圧の上昇を中断できる。中断ステップSP2の間、必要に応じてポンプ圧を調整することを目的とした、上記ポンプ圧の上昇と中断とを繰り返し実施することもできる。
【0093】
上述のように中断ステップSP2でポンプ圧を調整する場合において、ポンプ圧低下領域421から、ポンプ圧調整領域422へ切り替えるタイミング、すなわち油圧ポンプ22を再稼働するタイミングは特に限定されない。例えば、ポンプ圧の単位時間当たりの変化量が小さくなった時、すなわちポンプ圧がジャッキ圧と平衡に達したと判断ができた時に、油圧ポンプ22を再稼働して、ポンプ圧調整領域422に切り替えられる。
【0094】
なお、中断ステップSP2では、上述したポンプ圧調整領域422でのポンプ圧の調整を行わなくても良い。この場合、ポンプ圧低下領域421において、ポンプ圧とジャッキ圧とが平衡状態となり、ポンプ圧をジャッキ圧に対応した値に修正し、中断ステップSP2を終了できる。
【0095】
以上のように、中断ステップSP2を実施することで、ポンプ圧とジャッキ圧とを平衡状態とし、ポンプ圧を緊張材に導入した緊張力に対応した値とすることができる。
【0096】
また、既述のようにポンプ圧を連続的に上昇させた場合、ポンプ圧の変化に、緊張材の変位が追従できていない場合があった。これに対して、中断ステップSP2を実施し、ポンプ圧の上昇を中断し、緊張材に導入する緊張力の上昇を中断することで、緊張材の変位量を、ポンプ圧に対応した変位量にできる。すなわち、緊張材の変位量を、導入した緊張力に追従させることができる。このため、中断ステップSP2を実施することで、正確な緊張材の変位量を取得できる。
【0097】
なお、上記緊張材の変位量は、緊張材に緊張力を導入することで緊張材が伸びた量に相当することから、緊張材の伸び量ということもできる。
【0098】
このように、本実施形態の緊張力導入装置によれば、上昇ステップSP1と、中断ステップSP2とを交互に実施することで、緊張材に導入した緊張力に対応したポンプ圧、および正確な緊張材の変位量を取得できる。このため、緊張材に導入する緊張力を正確に評価でき、緊張材に緊張力を精度よく導入できる。
【0099】
中断ステップSP2の時間は特に限定されず、用いる緊張材や、シース、シースと緊張材の間に配置した充填材(充填樹脂)等に応じて、例えばポンプ圧や、緊張材の変位量が安定する時間を選択し中断ステップSP2の時間とすることができる。
【0100】
本実施形態の緊張力導入装置200は、ポンプ圧測定装置25に加えて、ジャッキ圧測定装置28を有することもできる。この場合、ポンプ圧測定装置25で測定したポンプ圧と、ジャッキ圧測定装置28で測定したジャッキ圧との差が、予め定めた範囲内となるように、中断ステップSP2の時間の長さ等を調整することもできる。
【0101】
そして、中断ステップSP2を実施した後、図4に示すように、油圧制御装置24は再度ポンプ圧を予め定めた中断圧力411Bまで上昇させる上昇ステップSP1と、中断圧力411Bでポンプ圧の上昇を止める中断ステップSP2をその順に実施できる。さらに、図4に示すように油圧制御装置24は再度ポンプ圧を予め定めた中断圧力411Cまで上昇させる上昇ステップSP1と、中断圧力411Cでポンプ圧の上昇を止める中断ステップSP2をその順に実施できる。このように、油圧制御装置24は、上昇ステップSP1と、中断ステップSP2とを、交互に繰り返し実施し、最終緊張圧力40となる最終緊張圧力点401までポンプ圧を上昇させることができる。
【0102】
上記上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇幅は特に限定されない。例えば中断圧力411A、411B、411C間の第1上昇幅P1を一定とし、最終緊張圧力40まで中断圧力間の圧力の第1上昇幅P1を一定としてポンプ圧を上昇させることもできる。
【0103】
ただし、最終緊張圧力40の近傍において、中断圧力間の圧力幅を小さくすることが好ましい。
【0104】
例えば後述するように、ポンプ圧が予め定めた演算圧力411Dに達した際に、最終緊張圧力40を算出することが好ましい。そして、演算圧力411Dの前後で、上昇ステップSP1における、中断圧力間の圧力の上昇幅を変化させることが好ましい。
【0105】
具体的には、例えばポンプ圧が演算圧力411Dに達する前の上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇幅を第1上昇幅P1とする。また、ポンプ圧が演算圧力411Dに達した後の上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇幅を第2上昇幅P2とする。
【0106】
油圧制御装置は、第2上昇幅P2が、第1上昇幅P1よりも小さくなるようにポンプ圧を上昇させることが好ましい。
【0107】
これは、後述するように、演算圧力411Dは、例えば当初予定していた最終緊張圧力40の例えば80%以上95%以下の圧力にできる。このため、演算圧力411Dよりもポンプ圧が高い領域は、緊張材への緊張力の導入を終える最終緊張圧力40に近い領域となる。係る領域における上昇ステップのポンプ圧の上昇幅である第2上昇幅P2を、演算圧力411Dに達する前の第1上昇幅P1よりも小さくすることで、最終緊張圧力40近傍の領域において、緊張材12に導入する緊張力の上昇幅を低下させることになる。このため、緊張材に導入した緊張力に対応したポンプ圧、および緊張材の変位量を特に正確に取得できる。さらには、緊張管理図における最終緊張圧力近傍のプロット数が多くなるため、緊張材への緊張力の導入を終える際のポンプ圧を、特に最終緊張圧力に近づけることができる。このため、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。
【0108】
第1上昇幅P1、第2上昇幅P2は特に限定されない。第1上昇幅P1は、例えば3MPa以上10MPa以下に設定することが好ましい。また、第2上昇幅P2は、例えば第1上昇幅P1の40%以上60%以下に設定することが好ましい。第1上昇幅P1を10MPa以下とすることで、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。また、第1上昇幅P1を3MPa以上とすることで、緊張作業の生産性を高められる。第2上昇幅P2を第1上昇幅P1の60%以下とすることで、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。また、第2上昇幅P2を第1上昇幅P1の40%以上とすることで、緊張作業の生産性を高められる。既述のように、第1上昇幅P1のまま最終緊張圧力までポンプ圧を上昇させることもできる。
【0109】
図4においては、演算圧力411Dに到達後、最終緊張圧力40に達するまでの第2上昇幅P2を一定とした例を示したが、係る形態に限定されない。例えば最終緊張圧力40に近づくにつれて第2上昇幅P2が小さくなるように変化させてもよい。
【0110】
また、図4では演算圧力411Dでポンプ圧の上昇幅を変更させた例を示したが係る形態に限定されない。例えば演算圧力411D以外の任意の点で、また複数の点で上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇幅を変更することもできる。
【0111】
また、ポンプ圧が演算圧力411Dに達する前と後で、上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇速度を変更することも考えられる。例えばポンプ圧が演算圧力411Dに達する前の上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇速度を第1上昇速度とする。また、ポンプ圧が演算圧力411Dに達した後の上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇速度を第2上昇速度とする。
【0112】
この場合、油圧制御装置は、第2上昇速度が、第1上昇速度よりも遅くなるようにポンプ圧を制御することが好ましい。
【0113】
第2上昇速度を第1上昇速度よりも遅くすることで、最終緊張圧力40近傍の領域において、緊張材12に導入する緊張力の上昇速度を特に低下させることができる。このため、緊張材に導入した緊張力に対応したポンプ圧、および緊張材の変位量を特に正確に取得できる。その結果、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。
【0114】
第1上昇速度、第2上昇速度は特に限定されないが、第1上昇速度は、例えば0.6MPa/秒以上2MPa/秒以下とすることが好ましい。また、第2上昇速度は、例えば第1上昇速度の40%以上60%以下に設定することが好ましい。第1上昇速度を2MPa/秒以下とすることで、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。また、第1上昇速度を0.6MPa/秒以上とすることで、緊張作業の生産性を高められる。第2上昇速度を第1上昇速度の60%以下とすることで、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。また、第2上昇速度を第1上昇速度の40%以上とすることで、緊張作業の生産性を高められる。
【0115】
図4に示した例では、各上昇ステップSP1に要する時間を、ポンプ圧が演算圧力411Dに達する前後で変更していないため、上述のように第2上昇幅P2を、第1上昇幅P1よりも小さくすることで、第2上昇速度が、第1上昇速度よりも遅くなっている。ただし、係る形態に限定されず、例えば演算圧力411Dの前後で、上昇ステップSP1に要する時間も変更し、上昇ステップにおける上昇速度を調整することもできる。
【0116】
ここでは演算圧力411Dでポンプ圧の上昇速度を変更させた例を示したが係る形態に限定されない。例えば演算圧力411D以外の任意の点で、また複数の点で上昇ステップSP1におけるポンプ圧の上昇速度を変更することもできる。
【0117】
本実施形態の緊張力導入装置200は、緊張材に緊張力を導入する際に、既述のように上昇ステップSP1と、中断ステップSP2とを交互に繰り返し実施できる。そして、中断ステップSP2を実施することで、緊張材に導入した緊張力に対応した正確なポンプ圧の値、および緊張材の変位量を取得できる。
【0118】
緊張管理図を作成する際には、各中断ステップSP2において、ポンプ圧、および緊張材の変位量を取得できる。例えば図4に示したように、各中断ステップSP2が終了し、上昇ステップSP1を再度実施する前の測定点41A~41Fにおいて、ポンプ圧、緊張材の変位量を、それぞれ測定することが好ましい。なお、ポンプ圧はポンプ圧測定装置25により測定できる。緊張材の変位量は変位量測定装置26A、26Bにより、測定、算出できる。
【0119】
既述のように、緊張材に緊張力を導入する際、ポンプ圧と、緊張材12の変位量との関係をプロットした緊張管理図を作成し、緊張材12に導入した緊張力を管理する。具体的には例えば図5に示した緊張管理図を作成できる。緊張管理図は、例えば端末部27において自動的に作成するように構成できる。図5は、ポンプ圧を、図4に示したポンプ圧の時間変化に対応するように変化させた場合の緊張管理図を模式的に示している。
【0120】
そして、図4に示した測定点41A~41F、最終緊張圧力点401で測定した、ポンプ圧、緊張材の変位量を、図5の緊張管理図にプロット51A~51F、501として記入、管理することで、緊張材に導入した緊張力を精度よく管理できる。なお、プロット51A~51C間のポンプ圧の変化幅P1´、プロット51D~51F間のポンプ圧の変化幅P2´は、それぞれ既述の第1上昇幅P1、第2上昇幅P2に対応した値になる。ただし、既述のように上昇ステップでポンプ圧を上昇後、中断ステップの間にポンプ圧が低下する場合があるので、変化幅P1´、P2´は、それぞれ第1上昇幅P1、第2上昇幅P2と一致している必要は無い。
【0121】
上昇ステップSP1においてポンプ圧を上昇させている際に、ポンプ圧の制御が適切に行われず、ポンプ圧が目標とする制御値を超える場合がある。具体的には例えば図4に示したように、測定点41Aでポンプ圧等の測定を行った後、上昇ステップSP1を実施した際に、中断圧力411Bを超え、ポンプ圧が予め定めた限界圧力である限界圧力点43まで上昇する場合がある。この場合、油圧制御装置は、係る上昇ステップSP1において、ポンプ圧が、中断圧力411Bを超え、予め定めた限界圧力431に達した場合に、ポンプ圧を低下させることが好ましい。係る制御を行うことで、緊張材に異常な緊張力を導入することを防止できる。
【0122】
限界圧力431の設定方法は特に限定されず、例えば各中断圧力に対して、所定の圧力値を加えた値とすることができる。
【0123】
図2に示した他の構成例の緊張力導入装置201の場合についても、上記緊張力導入装置200の場合と同様に、上昇ステップSP1と、中断ステップSP2とを交互に繰り返し実施できる。ただし、緊張力導入装置201の場合、緊張材12の両端部側から油圧ジャッキ21A、21Bにより緊張力を導入している。そして、上昇ステップ終了時において、油圧ジャッキ21A、21Bに油圧を供給する油圧ポンプ22A、22Bのポンプ圧が、油圧ポンプ22Aと油圧ポンプ22Bとで異なる場合がある。
【0124】
この場合、油圧制御装置24A、24Bは、上昇ステップSP1終了後に2台の油圧ポンプのポンプ圧の差が小さくなるように制御することが好ましい。具体的には例えば上昇ステップSP1終了時、または中断ステップSP2において、2台の油圧ポンプ22A、22Bのポンプ圧の差が、予め定めた許容範囲を超えている場合に、油圧ポンプ22A、22Bのポンプ圧を調整することが好ましい。
【0125】
具体的な調整方法は特に限定されないが、例えば、ポンプ圧の低い方の油圧ポンプを稼働してポンプ圧を上昇させ、ポンプ圧が高い方の油圧ポンプのポンプ圧に合わせることができる。
【0126】
緊張材12の長手方向の両端部側にそれぞれ配置した合計2台の油圧ポンプのポンプ圧の差を抑制することで、緊張材の両端部側から均等な力を加えることができ、ポンプ圧や、緊張材の変位量について正確な値を取得できる。このため、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。
【0127】
上述の油圧ポンプのポンプ圧の補正は、上昇ステップの終了時、すなわち中断ステップの開始時に行うことが好ましい。係るポンプ圧の補正を行った後、所定の時間中断ステップを実施し、既述のようにポンプ圧、および緊張材の変位量の測定を行うことが好ましい。
(3)演算部について
既述のように、端末部27は演算部33を有することができる。演算部33は、ポンプ圧および緊張材12の変位量の変化に基づいて最終緊張圧力を算出できる。
【0128】
緊張材に目的とする緊張力を導入するために必要なポンプ圧である最終緊張圧力は、緊張材に緊張力の導入を開始する前に予め定めておくこともできる。しかし、緊張材に緊張力を導入している際に、図5に示した様な各測定点での緊張材の変位量、ポンプ圧をプロットして作成した緊張管理図から、目的とする緊張材の最終変位量にあわせた最終緊張圧力40を算出することで、より適切な最終緊張圧力を選択できる。このため、演算部によりポンプ圧および緊張材の変位量の変化に基づいて最終緊張圧力を算出することで、緊張材に緊張力を特に精度よく導入できる。最終緊張圧力は、上述のように各測定点での緊張材の変位量、ポンプ圧をプロットして作成した緊張管理図から、目的とする緊張材の最終変位量にあわせて算出でき、その算出方法は特に限定されない。例えば作成した緊張管理図のプロットに近似直線を引き、該近似直線から、目的とする緊張材の変位量に対応する最終緊張圧力を求めても良い。
【0129】
演算部33が、最終緊張圧力を算出するタイミングは特に限定されない。例えば、演算部33は、ポンプ圧が予め定めた演算圧力411Dに達した際に、最終緊張圧力を算出することが好ましい。
【0130】
演算圧力は、例えば当初予定していた最終緊張圧力の80%以上95%以下とすることが好ましい。当初予定していた最終緊張圧力が50MPaの場合であれば、演算圧力は例えば40MPa以上47.5MPa以下の範囲内に設定することが好ましく、例えば45MPaとすることができる。ここでいう当初予定していた最終緊張圧力とは、例えば用いる緊張材等に応じて、緊張作業を開始前に設定でき、演算圧力で算出した最終緊張圧力に変更されることになる。
【0131】
このように、最終緊張圧力の近傍に演算圧力を設定し、該演算圧力に達した際に最終緊張圧力を算出することで、緊張材の最終変位量を目的とする値により近づけることができ、より適切な最終緊張圧力を算出できる。このため、緊張材に導入する緊張力を特に精度よく制御できる。また、特に適切な最終緊張圧力を選択できる。
【0132】
以上に説明した油圧制御装置、演算部は、例えば図7に示したフロー70に従って、制御、稼働できる。
【0133】
緊張材に緊張力の導入を開始後、第1上昇ステップ(S71)と、第1中断ステップ(S72)をその順に実施できる。なお、後述する第2上昇ステップ、第2中断ステップと区別するため、ここでは第1上昇ステップ、第1中断ステップとしているが、既述の上昇ステップ、中断ステップに相当する。
【0134】
そして、ポンプ圧判定部32において、ポンプ圧が演算圧力に達したかを判定するポンプ圧判定ステップ(S73)を実施できる。ポンプ圧が演算圧力に達していない場合には、既述の第1上昇ステップ(S71)と、第1中断ステップ(S72)とを繰り返し実施できる。
【0135】
ポンプ圧判定ステップ(S73)において、ポンプ圧が演算圧力に達したと判定した場合には、演算部33において、最終緊張圧力を算出する最終緊張圧力算出ステップ(S74)を実施できる。
【0136】
その後は、同様に第2上昇ステップ(S75)、第2中断ステップ(S76)をその順に実施できる。なお、第2上昇ステップ、第2中断ステップについても既述の上昇ステップ、中断ステップに相当する。既述のように演算圧力の前後で、上昇ステップにおけるポンプ圧の上昇幅を変更する場合には、第1上昇ステップと、第2上昇ステップとで、ポンプ圧の上昇幅を変えることができる。
【0137】
そして、ポンプ圧判定部32において、ポンプ圧が最終緊張圧力に達したかを判定する最終緊張圧力判定工程(S77)を実施できる。ポンプ圧が最終緊張圧力に達していない場合には、既述の第2上昇ステップ(S75)と、第2中断ステップ(S76)とを繰り返し実施できる。
【0138】
ポンプ圧が最終緊張圧力に達した場合には、ポンプ圧の上昇をやめ、緊張材の一方の端部12A側を定着具により固定し、緊張作業を終了できる。なお、緊張力導入装置201を用いた場合には、例えば2台の油圧ポンプ22A、22Bのポンプ圧が最終緊張圧力に達した場合に、ポンプ圧の上昇をやめ、緊張材の一方の端部12A側、および他方の端部12B側を定着具により固定し、緊張作業を終了できる。
【0139】
以上のように、本実施形態の緊張力導入装置によれば、油圧制御装置等により緊張材に導入する緊張力を制御し、演算部により最終緊張圧力を算出できる。このため、本実施形態の緊張力導入装置を緊張材に設置後、該緊張材に緊張力を導入する緊張作業の一部または全部を自動、または半自動で実施することもできる。
(4)異常判定部、警報部について
既述のように、端末部27は、上昇ステップおよび中断ステップを含む、緊張材に緊張力を導入する緊張過程における異常を判定する異常判定部35と、異常判定部35が異常と判定した場合に警報を発する警報部36と、を有することができる。
【0140】
異常判定部35が異常を判定する基準は特に限定されないが、緊張管理図を作成する際に測定したポンプ圧と、変位量とに基づいて、緊張過程の異常を判定することが好ましい。
【0141】
緊張過程においては、図6に示したように、ポンプ圧と、変位量とを測定し、プロット61、62、63のように、各測定点での測定値をプロットし、緊張管理図を作成している。そして、図6に示したように各プロットが一定の領域内に存在している場合や、例えば各プロットに沿って引いた緊張直線L1上やその近傍に位置する場合には正常に緊張作業が行えていると判定できる。ただし、例えば緊張過程において記入した各プロット61、62、63に沿って引いた緊張直線L1により予想される予想点641から、大きくずれる位置にプロット642が生じた場合には、緊張過程の異常を判定できる。予想点641と、異常と判定するプロット642とのポンプ圧の差d64は特に限定されず、緊張材の種類や、緊張材に緊張力を導入する際の条件等に応じて選択できる。
【0142】
上記緊張過程の異常とは、上述のように緊張過程で測定した油圧ポンプのポンプ圧と、緊張材の変位量とのプロットが、緊張材に緊張力を正常に導入できていると判定できる範囲から外れた位置にある場合が挙げられる。すなわち、緊張過程の異常とは、緊張材に緊張力を正常に導入できていないと推定される場合を意味する。緊張過程の異常は、緊張材や、緊張力導入装置の不具合により生じ、例えば油圧ジャッキ21に固定し、牽引している緊張材12が、該油圧ジャッキ21から滑った場合や、緊張材12の一部が破断した場合、測定機器が故障した場合等に生じると考えられる。
【0143】
警報部36による警報を発する方法は特に限定されず、例えば端末部27のディスプレイにアラームを表示させることや、警報音を鳴らすことができる。また、警報部36は油圧制御装置24に対して、ポンプ圧の上昇を中断するように制御することもできる。すなわち、警報を発した際に自動的にポンプ圧の上昇を中断することもできる。
【0144】
このように、異常判定部35により緊張過程における異常を判定し、警報部36により警報を発することにより、緊張過程で生じた異常を発見できる。
【0145】
また、異常判定部35は、過去の緊張管理図と比較して、異常の判定を行うこともできる。
【0146】
例えば端末部27は、第1記憶部371を有し、第1記憶部371は、過去に測定した緊張管理図を含む第1緊張管理用データを保存しておくことができる。
【0147】
上記過去に測定した緊張管理図は、現在緊張作業を行っている緊張材の緊張管理図と比較し、異常の有無を判定できる緊張管理図であることが好ましい。上記過去に測定した緊張管理図は、具体的には例えば、現在緊張作業を行っている緊張材と、同種の緊張材に緊張力を導入した際に測定(作成)した、緊張管理図であることが好ましい。現在緊張作業を行っている緊張材と同種の緊張材とは、外径や、長さ、形状等の緊張材の構成について、現在緊張作業を行っている緊張材と同一か、現在緊張作業を行っている緊張材との違いが予め定めた範囲内にある緊張材であることを意味する。上記現在緊張作業を行っている緊張材と同種の緊張材について、以下単に同種の緊張材と記載する場合もある。
【0148】
そして、異常判定部は、第1記憶部371に保存された第1緊張管理用データに基づいて、緊張過程の異常を判定できる。
【0149】
例えば、測定した油圧ポンプのポンプ圧と、緊張材の変位量とのプロットを、第1記憶部が記憶していた、過去に測定した同種の緊張材の緊張管理図の緊張直線L2等と比較できる。そして、上記プロットの、過去に測定した同種の緊張材の緊張直線からの乖離幅が、予め定めた値を超えた場合に、異常と判定できる。ここでの異常と判定する乖離幅の大きさは、緊張材の種類や、緊張材に緊張力を導入する際の条件等に応じて選択できる。
【0150】
図6では過去に測定した緊張管理図の例として、1本の緊張直線L2のみを示しているが、係る形態に限定されない。過去に測定した同種の緊張材の複数本の緊張直線を用い、過去の緊張直線が分布する範囲内に上記プロットが位置する場合には正常と判断し、過去の緊張直線が分布する範囲外に上記プロットが位置する場合には異常と判定することもできる。
【0151】
過去の緊張管理図と対比し、緊張過程の異常を判定することで、より精度よく、緊張過程の異常を検出できる。
【0152】
異常判定部は、上方管理限界線と、下方管理限界線とから異常を判定することもできる。
【0153】
例えば端末部27は、第2記憶部372を有し、第2記憶部372は、上方管理限界線と、下方管理限界線とを保存しておくことができる。
【0154】
この場合、異常判定部35は、例えば図6に示した上方管理限界線である第1上方管理限界線LA1と、下方管理限界線である第1下方管理限界線LB1とに基づいて、緊張過程の異常を判定できる。具体的には、上方管理限界線と、下方管理限界線との間に、各測定点での測定値のプロットが位置する場合には、緊張作業を行っている緊張材について、滑りや、一部破断等の異常が生じていないと判断できる。すなわち、緊張材に緊張力を正常に導入できていると判定できる。これに対して、各測定点での測定値のプロットが、上方管理限界線と下方管理限界線との間に位置しない場合には、緊張過程の異常を検知できる。
【0155】
第1上方管理限界線LA1と、第1下方管理限界線LB1とは、例えば緊張材に緊張力を導入する際の緊張材の動摩擦係数(以下、単に「動摩擦係数」とも記載する)の上限値と下限値とから算出できる。上記動摩擦係数の上限値と下限値とは、推定値、または緊張材に緊張力を導入する際の実測値から算出、決定できる。
【0156】
例えば、試験緊張や予備緊張を行っていない場合には、動摩擦係数の基準値を0.3とし、基準値に0.4をプラスしたものを動摩擦係数の上限値μmax、基準値から0.4を引いたものを動摩擦係数の下限値μminと推定できる。このため、動摩擦係数の上限値μmaxは、μmax=0.3+0.4=0.7にできる。動摩擦係数の下限値μminは0.3-0.4となるが、動摩擦係数がマイナスになることはないので0にできる。
【0157】
そして、上記動摩擦係数の上限値μmax、または下限値μminを用いて、緊張力と変位量との関係を算出し、第1上方管理限界線LA1、第1下方管理限界線LB1を設定できる。
【0158】
上記第1上方管理限界線LA1、第1下方管理限界線LB1は、緊張材に緊張力を導入する緊張作業を進める中で修正を行うことが好ましい。特に、複数本の同種の緊張材に緊張力を導入した後、上記第1上方管理限界線LA1、第1下方管理限界線LB1と、測定した緊張直線との間が大きく離れている場合等には、上記第1上方管理限界線LA1、第1下方管理限界線LB1の修正を行うことが好ましい。
【0159】
例えば10本の同種の緊張材に緊張力を導入する際に測定、算出される動摩擦係数の平均値をμave、標準偏差をσとする。この場合、新たな動摩擦係数の上限値μmaxを、μmax=μave+2σとする。また、新たな動摩擦係数の下限値μminを、μmin=μave-2σとする。
【0160】
そして、上記新たな動摩擦係数の上限値μmax、または下限値μminを用いて、緊張力と変位量との関係を算出し、新たな第1上方管理限界線LA1、第1下方管理限界線LB1を設定、修正できる。第1上方管理限界線LA1、第1下方管理限界線LB1は、複数本、例えば10本の同種の緊張材に緊張力を導入するごとに上述のように修正を行うことが好ましい。
【0161】
異常判定部35は、さらに上方管理限界線である第2上方管理限界線LA2と、下方限界線である第2下方管理限界線LB2とに基づいて、緊張過程の異常を検知することもできる。すなわち、異常判定部35は、複数種類、例えば既述の第1上方管理限界線、第2上方管理限界線、第1下方管理限界線、および第2下方管理限界線のように2種類の管理限界線を組み合わせて用いて、異常の判定を行うこともできる。
【0162】
第2上方管理限界線LA2、第2下方管理限界線LB2の設定方法は特に限定されない。例えば、同種の緊張材への緊張作業を繰り返し実施しており、新たに緊張力を導入する緊張材がN本目の緊張材であるとする。
【0163】
この場合、N-1本目までの同種の緊張材について、緊張材に緊張力を導入する際に測定、算出される動摩擦係数の平均値をμave2、標準偏差をσとする。この場合、動摩擦係数の上限値μmax2を、μmax2=μave2+2σとする。また、動摩擦係数の下限値μmin2を、μmin2=μave2-2σとする。
【0164】
そして、上記動摩擦係数の上限値μmax2、または下限値μmin2を用いて、緊張力と変位量との関係を算出し、第2上方管理限界線LA2、第2下方管理限界線LB2を設定できる。
【0165】
第2上方管理限界線LA2と、第2管理限界線LB2とは、同種の緊張材に緊張力を導入する度に修正することが好ましい。管理限界線の修正を繰り返し行うことで、より精度の高い管理限界線とすることができる。
【0166】
上記管理限界線に基づいて、緊張過程の異常を判定することで、より精度よく、緊張過程の異常を発見できる。また、管理限界線と比較しながら緊張作業を行うことで、緊張材に導入する緊張力の精度を特に高めることができる。
【0167】
本実施形態の緊張力導入装置200は、例えば図1に示したように、外気温を測定する外気温測定装置29を有することができる。また、端末部27は第3記憶部373を有し、第3記憶部373は、過去に測定した緊張管理図、および緊張管理図の測定条件を含む第2緊張管理用データを保存しておくこともできる。
【0168】
この場合、異常判定部35は、第2緊張管理用データのうち、外気温測定装置29により測定した外気温に応じて選択した緊張管理図に基づいて緊張過程の異常を判定できる。
【0169】
緊張材12と、シース13との間にプレグラウト樹脂等の充填材を配置する場合があるが、外気温等により係る充填材の粘性等が変化する場合がある。また、油圧ポンプ等の挙動も外気温の影響を受ける場合がある。このため、緊張作業を行っている際、外気温測定装置29により外気温を測定することが好ましい。
【0170】
そして、異常判定部35は、第2緊張管理用データのうち緊張管理図の測定時の温度条件が、外気温測定装置29により測定した外気温と同じ、または該外気温と予め定めた温度差の範囲内にある緊張管理図を第3記憶部373から読み込むことが好ましい。なお、異常判定部35は、緊張管理図を読み込む際、第2緊張管理用データのうち、同種の緊張材に緊張力を導入した際に測定した緊張管理図を選択して読み込むことが好ましい。
【0171】
そして、異常判定部35は、第3記憶部373から読み込んだ、緊張管理図に基づいて、緊張過程の異常を判定できる。
【0172】
具体的には例えば、緊張過程で測定したポンプ圧と、緊張材の変位量とによるプロットを、第3記憶部373から読み込んだ、過去に測定した緊張管理図の緊張直線と比較できる。そして、上記プロットの、読み込んだ緊張直線からの乖離幅が、予め定めた値を超えた場合に、異常と判定できる。また、複数の緊張管理図を読み込み、複数本の緊張直線がある場合、異常判定部35は、該緊張直線が分布する範囲外に上記プロットが位置する場合に異常と判定できる。
【0173】
読み込んだ緊張管理図における上方管理限界線、下方管理限界線を用い、異常判定部35は、両直線の間に上記プロットが位置する場合には正常と判断し、両直線の間から上記プロットが外れる場合には異常と判定することもできる。
【0174】
緊張作業を行っている際の外気温等の条件が類似した過去の緊張管理図に基づいて、緊張過程の異常を判定することで、より精度よく、緊張過程の異常を発見できる。
【符号の説明】
【0175】
11 コンクリート構造物
12 緊張材
A 両矢印(長手方向)
12A、12B 端部
13 シース
14 支圧プレート
15 定着具
200、201 緊張力導入装置
21、21A、21B 油圧ジャッキ
211、211A、211B シリンダー
212、212A、212B ラム
22、22A、22B 油圧ポンプ
23、23A、23B 油圧ホース
24、24A、24B 油圧制御装置
241、241A、241B バルブ
25、25A、25B ポンプ圧測定装置
26A、26B 変位量測定装置
27 端末部
28、28A、28B ジャッキ圧測定装置
29 外気温測定装置
31 入力部
32 ポンプ圧判定部
33 演算部
34 出力部
35 異常判定部
36 警報部
37 記憶部
371 第1記憶部
372 第2記憶部
373 第3記憶部
40 最終緊張圧力
401 最終緊張圧力点
41A~41F 測定点
411A~411C 中断圧力
411D 演算圧力
421 ポンプ圧低下領域
422 ポンプ圧調整領域
431 限界圧力
43 限界圧力点
SP1 上昇ステップ
SP2 中断ステップ
P1 第1上昇幅
P2 第2上昇幅
51A~51F、501、61~63、642 プロット
P1´ 第1変化幅
P2´ 第2変化幅
641 予想点
d64 ポンプ圧の差
L1、L2 緊張直線
LA1 上方管理限界線
LA2 第2上方管理限界線
LB1 下方管理限界線
LB2 第2下方管理限界線
70 フロー
S71 第1上昇ステップ
S72 第1中断ステップ
S73 ポンプ圧判定ステップ
S74 最終緊張圧力算出ステップ
S75 第2上昇ステップ
S76 第2中断ステップ
S77 最終緊張圧力判定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7