(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】パラジウム系合金
(51)【国際特許分類】
C22C 5/04 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
C22C5/04
(21)【出願番号】P 2020218662
(22)【出願日】2020-12-28
(62)【分割の表示】P 2017234867の分割
【原出願日】2015-11-02
【審査請求日】2020-12-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-07
(32)【優先日】2014-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
(72)【発明者】
【氏名】ドニ・ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ローペル
(72)【発明者】
【氏名】ガエタン・ヴィラール
(72)【発明者】
【氏名】アルバン・ドゥバッハ
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090909号公報
【文献】特開2016-098437号公報
【文献】Thaddeus B. Massalski,“Binary Alloy Phase Diagrams, 2nd Edition”,Vol.3,p.3038,米国,1990年12月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00- 5/10
C22F 1/14
A44C 1/00- 3/00
A44C 7/00-27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム系合金であって、重量で表して、
50%
~55%のパラジウム、
45%
~50%のロジウム、
量xの銀、
ただし0%<x≦5%
、ならびに
量Rの、イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウム、およびレニウムの中から選択される少なくとも1種の元素、
ただし0%≦R≦5%、及び
不可避的不純物
からな
る、パラジウム系合金。
【請求項2】
xは、2%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のパラジウム系合金。
【請求項3】
重量で表して、
50%~53%のパラジウム、
47%~50%のロジウム、
量xの銀、ただし0%<x≦2%、ならびに
量Rの、イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウム、およびレニウムの中から選択される少なくとも1種の元素、ただし0%≦R≦3%、及び
不可避的不純物
からなる、請求項1又は2に記載のパラジウム系合金。
【請求項4】
Rは、1%以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のパラジウム系合金。
【請求項5】
Rは、0.5%以下であることを特徴とする、請求項4に記載のパラジウム系合金。
【請求項6】
Rは、0.1%以下であることを特徴とする、請求項4に記載のパラジウム系合金。
【請求項7】
Rは、0であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のパラジウム系合金。
【請求項8】
請求項1
から7のいずれか1項に記載のパラジウム系合金製の部品を少なくとも1つ含む、時計または宝飾品。
【請求項9】
時計または宝飾品における、請求項1
から7のいずれか1項に記載のパラジウム系合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム系合金に関する。本発明は、そのような合金製の部品を少なくとも1つ含む、時計または宝飾品にも関する。
【背景技術】
【0002】
時計制作術および宝飾品の分野では、3種の貴金属合金が白色である:プラチナ合金、パラジウム合金、および金合金である。現在、これらの分野用の貴金属合金の製造業者のほとんどが同じ目的を有している:この分野で参照とされるロジウムの色に近い、真っ白な合金で以下の特徴を示すものを見つけることである:中実であり、品質証明が付き、腐食耐性、特に変色耐性があり、鋳造および変形が容易であり、耐傷性があり(焼きなました状態で最低でも160HV)、および機械加工が容易であり、経済的であり、しかもニッケルの放出について欧州標準EN1811に従うこと。既知の従来技術を用いてこの目的を達成することは困難である。18金の灰色金および銀合金は、大抵、ロジウムメッキされ、950‰プラチナ合金は真っ白であるが、プラチナ含量が高くプラチナの費用が高いために非常に高価である。今日知られるパラジウム合金は、まったくもって灰色で、白さが足りず、また純粋なロジウムは、固相では、融点が高いために冷間加工することが困難である。
【0003】
Platinum Metals Review(2013, 57(3), 202-213)(非特許文献1)は、表1に示す貴金属合金についてL*a*b表色モデル(CIE1976)による主な発色性質を記載する。
【0004】
【0005】
真っ白な合金を提案しようと様々な研究が行われてきた。すなわち、特許出願国際公開第2010/127458号パンフレット(特許文献1)は、ニッケルも銅も含まない灰色金合金を記載しているが、この合金は金を主体として、パラジウム、および合金の様々な性質を改善するために用いられる一定数の合金化元素を含む。得られる合金は、有利なことに、色度(a*;b*)が2成分系金パラジウム18金合金よりわずかに低い表色値を有するが、しかし依然として灰色である(L>81)。
【0006】
特許公開欧州特許第2546371号明細書(特許文献2)は、クロム、および合金の様々な性質を改善するための一定数の合金化元素を含む、金系灰色金合金を記載する。得られる合金は、色度に関して例外的な表色値を有し、L値(>83)に関しても興味深い値を有する。しかしながら、両方の例において、用いられる合金化元素は、従来の宝飾品制作において用いられる加工処理に対して比較的反応性があり、特にブロー・トーチの使用に対して反応性があり、その結果酸化物を生成し、この酸化物が、高いL値で示される強く望まれる光輝性に影響を及ぼす。
【0007】
特許公開欧州特許第2420583号明細書(特許文献3)は、真っ白な貴金属の世界に向かって新たな道を開いた。この明細書は、詳細には、50重量%のプラチナおよび50重量%のロジウムで形成される、中実で真っ白な合金を記載する。この合金は、腐食耐性が非常に高くロジウムの色に近いが、800℃超での2元素間スピノーダル分解を防ぐ高温変形技法を用いる結果、合金の不均一性のために合金の冷間加工性が良好ではない。したがって、この技法は、この合金を時計制作術/宝飾品の分野にとって非常に魅力的なものにしているものの、最終消費者にとっては重大な2つの大きな欠点がある:プラチナが存在するため合金の価格は依然として高額であること;および500プラチナまたは500ロジウムは、国際組織および国立組織により法的に認められる品質等級ではないことである。品質証明の付いていない製品は、消費者にとって受け入れがたい。なぜならば、合金に含まれる貴金属の実際の組成に疑念が残るからである。これら2つの欠点を別にしても、この合金は比較的高い融点(約1900℃)を有し、このため、宝飾品用途で鋳造することが特に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2010/127458号パンフレット
【文献】欧州特許第2546371号明細書
【文献】欧州特許第2420583号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Platinum Metals Review(2013, 57, (3), 202-213)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、既知の合金の様々な欠点を克服することである。
【0011】
より詳細には、本発明の目的は、ロジウムの色に近く、経済的で、品質証明を付けることができ、もっと低い融点(約1750℃)を有し、しかも酸化耐性があって従来の宝飾品作成技法の使用が可能である、真っ白な合金を提供することである。
【0012】
本発明の目的はまた、ニッケルを含まず、したがって、ニッケル放出の規制に有利に従う貴金属合金を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のために、本発明は、重量で表して、50~55%のパラジウム、45%~50%のロジウム;量xの銀、ただし0%≦x≦5%、ならびに量Rの、イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウム、およびレニウム、およびそれらの組み合わせの中から選択される少なくとも1種の元素を含む残部、ただし0%≦R≦5%、を含むパラジウム系合金に関する。
【0014】
変形実施形態に従って、xは、2%以下である。
【0015】
好適な実施形態に従って、合金は、重量で表して、以下を含むことができる:50~53%のパラジウム、47%~50%のロジウム;量xの銀、ただし0%≦x≦2%、ならびに量Rの、イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウムおよびレニウム、およびそれらの組み合わせの中から選択される少なくとも1種の元素を含む残部、ただし0%≦R≦3%。
【0016】
別の好適な変形実施形態に従って、xは0である。
【0017】
変形実施形態に従って、Rは、1%以下であり、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。Rは、0であることも、0ではないことも可能である。
【0018】
好適な変形実施形態に従って、Rは0である。
【0019】
好適な変形実施形態に従って、xおよびRは0である。
【0020】
本発明による合金は、真っ白であり、品質証明を付けることができ、かつ時計制作術または宝飾品の分野で使用することを可能にする適切な性質を有する。
【0021】
本発明はまた、上記で定義されるとおりの合金製の部品を少なくとも1つ含む、時計または宝飾品にも関する。
【0022】
本発明はまた、時計または宝飾品における、上記で定義されるとおりの合金の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、パラジウム系合金に関し、本合金は、重量で表して、50~55%のパラジウム、45%~50%のロジウム;量xの銀、ただし0%≦x≦5%、好ましくは0%≦x≦4%、より好ましくは0%≦x≦2%、ならびに量Rの、イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウム、およびレニウム、およびそれらの組み合わせの中から選択される少なくとも1種の元素を含む残部、ただし0%≦R≦5%、好ましくは0%≦R≦3%、好ましくは0%≦R≦1%、より好ましくは0%≦R≦0.1%を含む。
【0024】
得られる合金は、研磨後、L*a*b*表色モデル(CIE1976)に従って、L*が84~91に含まれ、a*が1以下であり、およびb*が4.5以下であるような表色値を有する。好ましくは、L*は、88~90に含まれ、a*は、0.8以下であり、およびb*は、3以下である。
【0025】
イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウム、およびレニウムなどの合金化元素は、例えば、冶金性質(鋳造など)を改善して空隙を防ぐのに、または合金の性質(変形性または光輝性など)を改善するのに任意選択で用いることができる。
【0026】
上記の定義に一致する合金は、時計制作術または宝飾品の分野での使用を目的とする合金に必要とされる基準、とりわけ、それらの色、輝き、品質証明、合理的な価格、改善された鋳造性、腐食耐性の良好な中実合金、無ニッケル、耐傷性(焼きなました状態で最低でも160HV)、および機械加工の容易さに関して、基準を全て満たす貴金属合金である。
【0027】
第一の実施形態に従って、合金は、2%以下の量xの銀を含む。
【0028】
第一の変形形態に従って、パラジウム合金は、重量で表して、50~53%のパラジウム、47~50%のロジウム、0~2%の銀を含み、残部はIr、Ru、Pt、Ti、Zr、およびReの元素のうち少なくとも1種類を含む。
【0029】
別の変形形態に従って、パラジウム合金は、重量で表して、50~55%のパラジウム、45%~50%のロジウム、および0~2%の銀を含み、合金化元素(残部)の量Rは、好ましくは0である。
【0030】
第二の実施形態に従って、xは、0であり、つまり本発明の合金は銀を含有しない。そうすると、パラジウム合金は、重量で表して、50~55%のパラジウム、45~50%のロジウムを含むことができ、残部は、上記で定義されるとおりの残部の合計値で、好ましくは0.1未満で、元素群Ir、Ru、Pt、Ti、Zr、およびReのうち少なくとも1種を含む。
【0031】
別の実施形態に従って、xは、0ではなく、つまり本発明の合金は銀を含有する。そうすると、パラジウム系合金は、重量で表して、50~55%のパラジウム、45%~50%のロジウム;量xの銀、ただし0%≦x≦5%、ならびに量Rの、イリジウム、ルテニウム、プラチナ、チタン、ジルコニウム、およびレニウム、およびそれらの組み合わせの中から選択される少なくとも1種の元素を含む残部を含むことができ、ただし0%≦R≦5%、好ましくは0%≦R≦3%、好ましくは0%≦R≦1%、より好ましくは0%≦R≦0.1%である。そうすると、銀の量は、0.1%≦x≦5%、好ましくは0.1%≦x≦4%、より好ましくは0.1%≦x≦2%であることが可能である。
【0032】
別の実施形態に従って、xおよびRは0であり、つまり本発明の合金は、銀も、上記の残部で定義されるとおりの合金化元素(残部)も、含有しない。そのような場合、パラジウム合金は、重量で表して、50%~55%のパラジウム、および45%~50%のロジウムを含む。
【0033】
好適な実施形態に従って、パラジウム系合金は、500パラジウム合金であり、重量で表して、50%のパラジウム、最低でも49%のロジウムを含有し、残部は、元素群Ir、Ru、Pt、Ti、Zrのうち少なくとも1種を含む。
【0034】
別の好適な実施形態に従って、パラジウム合金は、500パラジウム合金であり、重量で表して、50%のパラジウム、45%のロジウム、および最大でも4%の銀を含有し、残部は、元素群Ir、Ru、Pt、Ti、Zrのうち少なくとも1種を含む。
【0035】
別の好適な実施形態に従って、パラジウム合金は、500パラジウム合金であり、重量で表して、50%のパラジウム、45%のロジウム、および5%の銀を含有する。
【0036】
別の好適な実施形態に従って、パラジウム合金は、重量で表して、50%のパラジウムおよび50%のロジウムを含有する。
【0037】
本発明によるパラジウム合金を調製するための手順は以下のとおりである:
【0038】
合金の組成に含まれる主要元素は、純度が少なくとも999‰であり、脱酸化されている。合金の組成の元素をるつぼに入れて、元素が溶融するまで加熱する。加熱は、密閉誘導炉中、窒素部分圧下で行われる。次いで、溶融した合金をインゴット鋳型に注ぐ。固化後、インゴットを水焼入れする。次いで、焼き入れしたインゴットを、1000℃で熱間加工し、次いで焼きなます。各焼きなまし間のひずみ硬化率は、60~80%である。各
焼きなましは、20~30分間継続し、N2およびH2からなる還元雰囲気中、1000℃で行われる。各焼きなまし間の冷却は、水焼入れにより行う。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は、本発明の範囲を制限することなく、本発明を例示する。
【0040】
以下の表2は、試験した様々な「真っ白な」材料の組成を示す。示される割合は、重量パーセンテージで表したものである。比較例1は、95%プラチナおよび5%ルテニウムで構成される合金である。この合金は、宝飾品の世界で、プラチナ合金の表色レベルの参照とされる。比較例2は、特許公開欧州特許第2420583号明細書(特許文献3)に記載される、50%プラチナおよび50%ロジウムで構成される合金に関する。比較例3は純ロジウムである。
【0041】
本発明による2つの実施例(実施例4および5)、すなわち、50%パラジウムおよび50%ロジウムで構成される合金、ならびに50%パラジウム、45%ロジウム、および5%銀で構成される合金、を製造した。
【0042】
【0043】
これらの物質について、密度、焼きなました状態でのビッカース硬度、および融点の他に、表色値を、L*a*b*表色モデル(CIE1976)を用いて測定する(研磨後に測定、試料は1ミクロンレベルで研磨されている)。
【0044】
表色値を、以下の条件で、MINOLTA CM3610d装置で測定する:
光源:D65
傾斜:10°
測定:SCI+SCE(正反射光含む+正反射光除去)
UV:100%
焦点距離:4mm
較正:黒体および白体
【0045】
測定値を以下の表3に示す:
【0046】
【0047】
表3の結果は、本発明による合金(実施例4および5)が、純ロジウム(実施例3)に非常に近い表色値を有している一方で、比較例1および2の合金よりも大幅に低い密度および融点を提示し、したがって、宝飾品用途に適していることを示す。本発明による合金は、焼きなまし後の硬度の基準を満たし、十分な耐傷性を示す。