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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240730BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/548 20210101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
H01M50/531
H01M50/548
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020563288
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050536
(87)【国際公開番号】W WO2020138040
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018240461
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 一正
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092484(WO,A1)
【文献】特開2011-204511(JP,A)
【文献】特開2008-078119(JP,A)
【文献】特開2014-192041(JP,A)
【文献】特開2004-273436(JP,A)
【文献】特開2003-092092(JP,A)
【文献】特開2018-092772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00- 10/39
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/50- 50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層と正極活物質層とで構成された正極層と、負極集電体層と負極活物質層とで構成された負極層とが、固体電解質層の一方または両主面に形成された電池要素を含む積層体と、正極外部電極と、負極外部電極と、を含み、
前記正極層と前記負極層はそれぞれ、前記積層体の側面に延出する一端と、前記積層体の側面に延出しない領域と、を含むとともに、それぞれの前記延出する一端を介して、それぞれ前記正極外部電極および前記負極外部電極に接続され、
少なくとも前記延出しない領域に隣接する空隙を含
前記積層体は、前記正極層および前記負極層と同一平面上に形成されたマージン層を含み、
前記空隙は、少なくとも前記マージン層の一部に形成されている、全固体電池。
【請求項2】
前記空隙は、前記正極集電体層および前記負極集電体層の少なくとも一方に隣接する、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記積層体は、積層方向と同一方向かつ前記延出する一端と平行な断面において、前記空隙の平均断面積をS、前記正極集電体層の平均断面積または前記負極集電体層の平均断面積をSとしたとき、S/Sが、0.0001~0.02を満たす、請求項1又は2に記載の全固体電池。
【請求項4】
/Sが、0.0006~0.008を満たす、請求項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
本願は、2018年12月25日に、日本に出願された特願2018-240461号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対しては、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。現在、汎用的に使用されているリチウムイオン二次電池は、イオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の電解質(電解液)が従来から使用されている。しかし、前記の構成の電池では、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質であるため、より安全性の高い電池が求められている。
【0003】
そこで、電池の安全性を高めるための一つの対策として、電解液に代えて、固体電解質を電解質として用いることが提案されている。さらに、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素も固体で構成されている全固体電池の開発が進められている。
【0004】
例えば、特開2007-5279号公報(以下、特許文献1)には、不燃性の固体電解質を用いることで全ての構成要素を固体で構成した全固体リチウム二次電池が提案されている。この全固体リチウム二次電池は、活物質層と、活物質層に焼結によって接合された固体電解質層を含み、前記活物質層がリチウムイオンを放出および吸蔵し得る結晶性の第1物質を含み、前記固体電解質層がリチウムイオン伝導性を有する結晶性の第2物質を含むことが開示されている。また、前記固体電解質層の充填率は、70%を超えることが好ましいと記載されている。
【0005】
一方、特開2007-294429号公報(以下、特許文献2)には、無機粉体を含む成形体を焼成してなり、気孔率が10vol%以下であるリチウムイオン伝導性固体電解質が記載されている。
【0006】
特許文献1と特許文献2に記載されているように、全固体電池を構成する固体電解質は緻密であることが一般的に好ましいとされている。しかし、我々の鋭意検討では、固体電解質層を緻密化した全固体電池では、全固体電池を製造する際の焼成時に、または、全固体電池の充放電時に発生する電極層の体積膨張収縮によって、内部応力が固体電解質層に集中し、クラックが発生する場合があった。その結果、内部抵抗が増大し、サイクル特性が悪くなることがわかった。
【0007】
このような課題に対し、国際公開第2013/175993号公報(以下、特許文献3)は、固体電解質層の電極層に近い領域に空隙率が低い部分を形成し、電極層から離れた領域に空隙率が高い部分を形成した固体電解質層が記載されている。しかし、我々の鋭意検討では、特許文献3のように、固体電解質層において空孔率の高い部分と低い部分を形成すると、固体電解質層の内部抵抗がかえって増大し、十分なサイクル特性が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-5279号公報
【文献】特開2007-294429号公報
【文献】国際公開第2013/175993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る全固体電池は、正極集電体層と正極活物質層とで構成された正極層と、負極集電体層と負極活物質層とで構成された負極層とが、固体電解質層の一方または両主面に形成された電池要素を含む積層体と、正極外部電極と、負極外部電極と、を含み、前記正極層と前記負極層はそれぞれ、前記積層体の側面に延出する一端と、前記積層体の側面に延出しない領域と、を含むとともに、それぞれの前記延出する一端を介して、それぞれ前記正極外部電極および前記負極外部電極に接続され、少なくとも前記延出しない領域に隣接する空隙を含む。
【0011】
前記空隙は、前記正極集電体層および前記負極集電体層の少なくとも一方に隣接することがより好ましい。
【0012】
また、前記積層体は、前記正極層および前記負極層と同一平面上に形成されたマージン層を含み、前記空隙は、少なくとも前記マージン層の一部に形成されていることが好ましい。
【0013】
更に前記積層体は、積層方向と同一方向かつ前記延出する一端と平行な断面において、前記空隙の平均断面積をS、前記正極集電体層の平均断面積または前記負極集電体層の平均断面積をSとしたとき、S/Sが、0.0001~0.02を満たすことが好ましい。
【0014】
更にS/Sが、0.0006~0.008を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、体積膨張による応力負荷が緩和され、その結果、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る全固体電池の構成を表す第3側面23と平行な断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る全固体電池の構成を表す第1側面21と平行な断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る全固体電池の構成を表す第3側面23と平行な断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る全固体電池の構成を表す第3側面23と平行な断面図である。
図5】本発明の第4の実施形態に係る全固体電池の構成を表す第3側面23と平行な断面図である。
図6】実施例5に係る全固体電池の断面FE-SEM写真である。
図7】比較例1に係る全固体電池の断面FE-SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の全固体電池について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、図面に記載の各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0018】
[第1の実施形態]
まず初めに、本発明の第1の実施形態に係る全固体電池について説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、全固体電池1は、正極層30と負極層40とが、固体電解質層50を介して積層された積層体20を含む。正極層30と負極層40とが固体電解質層50の一方または両主面に形成された電池要素が、積層体20の少なくとも一部を構成している。正極層30は、正極集電体層31と正極活物質層32とを有する。負極層40は、負極集電体層41と負極活物質層42とを有する。正極層30および負極層40の同一平面上には、マージン層80が形成されている。積層体20は、6面体であり、積層方向に対して平行な面として形成された4つの側面(第1側面21、第2側面22、第3側面23、第4側面24)と、積層方向と直交する面として形成された上面25及び下面26を有する。第1側面21には正極集電体層が露出し、第2側面22には負極集電体層が露出している。第3側面23は、上面25を上にして第1側面21側から見て右側の側面であり、第4側面24は、上面25を上にして第1側面21側から見て左側の側面である。また、第1側面21および第2側面22は対向し、第3側面23および第4側面24は対向している。
【0020】
なお、以降の明細書中の説明として、正極活物質および負極活物質のいずれか一方または両方を総称として活物質と呼び、正極活物質層32および負極活物質層42のいずれか一方または両方を総称して活物質層と呼び、正極集電体層31および負極集電体層41のいずれか一方または両方を総称して集電体層と呼び、正極層30および負極層40のいずれか一方または両方を総称して電極層と呼ぶことがある。
【0021】
図1および図2に示すように、正極層30は上面25から見て略矩形に形成されており、それぞれ4つの一端を含む。4つの一端は、それぞれ対向する第1の一端301および第2の一端302と、同じくそれぞれ対向する第3の一端303および第4の一端304と、からなる。このうち、第1の一端301は積層体20の第1側面21に露出(延出)している。また、第2の一端302、第3の一端303、第4の一端304は、積層体20の側面には露出(延出)せず、積層体20の第2側面22、第3側面23、第4側面24に対して、それぞれ略平行に形成されている。なお本実施形態において、以降は、第1の一端301を「延出する一端」と呼び、第2の一端302、第3の一端303、第4の一端304を「延出しない領域」と呼ぶ。
【0022】
正極層30と同様に、負極層40は上面25から見て略矩形に形成されており、それぞれ4つの一端を含む。4つの一端は、それぞれ対向する第1の一端401および第2の一端402と、同じくそれぞれ対向する第3の一端403、と第4の一端404と、からなる。このうち、第1の一端401は積層体20の第2側面22に露出(延出)している。また、第2の一端402、第3の一端403、第4の一端404、は積層体20の側面には露出(延出)せず、積層体20の第1側面21、第3側面23、第4側面24に対して、それぞれ略平行に形成されている。なお本実施形態において、以降は、第1の一端401を「延出する一端」と呼び、第2の一端402、第3の一端403、第4の一端404を「延出しない領域」と呼ぶ。
【0023】
本実施形態の全固体電池1のマージン層80は、固体電解質層50と正極層30との段差、ならびに固体電解質層50と負極層40との段差を解消するために設けることが好ましい。したがってマージン層80は、固体電解質層50の主面において、正極層30ならびに負極層40以外の領域を示す。このようなマージン層の存在により、固体電解質層50と正極層30ならびに負極層40との段差が解消されるため、固体電解質層50と電極層との緻密性が高くなり、全固体電池の焼成による層間剥離(デラミネーション)や反りが生じにくくなる。
【0024】
図1に示すように、マージン層80は、正極層30および負極層40の「延出しない領域」の外側に形成されている。換言すればマージン層80は、積層体20の4つの側面のうち、「延出しない領域」に対して平行な側面の一部を形成することで、上述の固体電解質層50と正極層30との段差、ならびに固体電解質層50と負極層40との段差を解消している。
【0025】
積層体20の第1側面21には、正極集電体層31に電気的に接続する正極外部電極60が付設されている。なお、この電気的な接続は、正極外部電極60が、正極層30の「延出する一端」側にて露出した正極集電体層31と接続することによってなされている。
【0026】
積層体20の第2側面22には、負極集電体層41に電気的に接続する負極外部電極70が付設されている。なお、この電気的な接続は、負極外部電極70が、負極層40の「延出する一端」側にて露出した負極集電体層41と接続することによってなされている。
【0027】
マージン層80と、正極層30および負極層40の「延出しない領域」と、の間の少なくとも一部の領域には、空隙90が形成されている。本実施形態においては、空隙90はマージン層80の領域の一部に形成されている。換言すれば、本実施形態の空隙90は、「延出しない領域」にて露出した正極集電体層31または負極集電体層41と隣接するとともに、その隣接する箇所を除いた部分がマージン層80と隣接している。
【0028】
さらに空隙90は、本実施形態のように少なくとも「延出しない領域」における正極集電体層31および負極集電体層41の少なくとも一方に隣接していることがより好ましい。
【0029】
さらに空隙90は、本実施形態のように少なくともマージン層80の領域の一部に形成されていることが好ましい。
【0030】
正極集電体層31または負極集電体層41は、正極活物質層32または負極活物質層42を一方の主面、または両主面に備えているため、前記活物質層による上下方向からの体積膨張収縮によって応力負荷を受ける。この応力負荷によって、正極集電体層31ならびに負極集電体層41は横方向へ延伸されることとなるが、「延出しない領域」に隣接するかたちで空隙を備えていることから、当該横方向への延伸による応力を緩和させることができるため、充放電に伴うマージン層80への応力負荷を低減できる。これにより従来よりもサイクル特性に優れる全固体電池が得られる。
【0031】
さらに積層体20の積層方向と同一方向且つ上記延出する一端と平行な断面(第1側面または第2側面に平行な断面)において、空隙90の平均断面積をS、正極集電体層31の平均断面積または負極集電体層41の平均断面積をS、としたときのS/Sの比が、0.0001~0.02を満たすことが好ましく、0.0006~0.008を満たすことがより好ましい。
また、本実施形態の積層体20には、正極集電体層31および負極集電体層41が1個ずつ設けられているが、これに限らず、正極集電体層31および負極集電体層41がそれぞれ複数個設けられてもよい。
【0032】
係る構成によれば、S/Sの比が0.0001~0.02を満たす場合、優れたサイクル特性が得られる。S/Sの比が0.0001よりも小さいと、空隙を含まない、または空隙サイズが小さすぎるため、体積膨張収縮による応力負荷の緩和が十分ではない。一方、S/Sの比が0.02よりも大きくなると、空隙サイズが過大であるため、体積膨張収縮による応力負荷によって、空隙が起点となって微細なクラックを誘発しやすくなる。その結果、サイクル特性の低下を引き起こす可能性がある。
【0033】
さらに積層体20の積層方向と同一方向且つ上記延出する一端と垂直な断面(第3側面または第4側面に平行な断面)において、空隙90の平均断面積をS、正極集電体層31の平均断面積または負極集電体層41の平均断面積をS、としたときのS/Sの比が、0.0001~0.02を満たすことが好ましく、0.0006~0.008を満たすことがより好ましい。
【0034】
(固体電解質)
本実施形態の全固体電池1の固体電解質層50は、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い固体電解質材料を含む。例えばナシコン型、ガーネット型、ペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物系リチウムイオン伝導体等の一般的な固体電解質材料を用いることができる。具体的には、リン酸チタンアルミニウムリチウムは(Li1+xAlTi2-x(PO)3(0≦x≦0.6))、Li3+x1Six11-x1(0.4≦x1≦0.6)、Li3.40.4Ge0.6、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiOV-SiO、LiO-P-B、LiPO、Li0.5La0.5TiO、Li14Zn(GeO、LiLaZr12よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0035】
本実施形態の固体電解質材料として、ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体を用いることが好ましく、例えば、LiTi(PO(LTP)、LiZr(PO(LZP)、Li1+xAlTi2-x(PO(LATP、0<x≦0.6))、Li1+xAlGe2-x(PO(LAGP、0<x≦0.6)、Li1+xZr2-x(PO(LYZP、0<x≦0.6)で表される固体電解質材料を含むことが好ましい。
【0036】
また、固体電解質層50を、正極層30及び負極層40に用いられる活物質に合わせて選択することが好ましい。例えば、固体電解質層50は、活物質を構成する元素と同一の元素を含むことがより好ましい。固体電解質層50が、活物質を構成する元素と同一の元素を含むことで、正極活物質層32及び負極活物質層42と固体電解質層50との界面における接合が、強固なものになる。また正極活物質層32及び負極活物質層42と固体電解質層50との界面における接触面積を広くできる。
【0037】
正極活物質層32及び負極活物質層42は、それぞれリチウムイオンと電子を授受する正極活物質または負極活物質を含む。この他、導電助剤、導イオン助剤等を含んでもよい。正極活物質及び負極活物質は、リチウムイオンを効率的に挿入、脱離できることが好ましい。
【0038】
正極活物質層32又は負極活物質層42を構成する活物質には明確な区別がなく、2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質として用いることができる。また、リチウムイオン放出とリチウムイオン吸蔵を同時に併せ持つ化合物であれば、正極活物質層32および負極活物質層42に同一の化合物を用いても良い。そのため、以下、まとめて活物質について説明する。
【0039】
活物質には、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物等を用いることができる。例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物としては、リチウムマンガン複合酸化物LiMnMa1-a(0.8≦a≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O)、一般式:LiNiCoMn(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO又はLiVOPO)、LiMnO-LiMcO(Mc=Mn、Co、Ni)で表されるLi過剰系固溶体正極、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<s<1.3、0.9<t+u+v<1.1)で表される複合金属酸化物等が挙げられる。また、上記複合金属酸化物の他、Li金属、Li-Al合金、Li-In合金、炭素、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)、チタン酸化物(TiO)、等の金属、合金、金属酸化物が挙げられる。
【0040】
本実施形態の活物質としては、リン酸化合物を主成分として含むことが好ましく、例えば、リン酸バナジウムリチウム(LiVOPO、Li(PO、Li(VO)(PO)、ピロリン酸バナジウムリチウム(LiVOP、LiVP)、及びLi(P(POのいずれか一つまたは複数であることが好ましく、特に、LiVOPO及びLi(POの一方または両方であることが好ましい。
【0041】
本実施形態における主成分とは、活物質層における活物質全体に対する、リン酸化合物の占める割合が50質量部より大きいことを指し、リン酸化合物の占める割合が80重量部以上であることが好ましい。
【0042】
また、これらの活物質は、各元素の一部を異種元素に置換していたり、化学両論組成から変化していてもよい。LiVOPO及びLi(POは、リチウムの欠損がある方が好ましく、LiVOPO(0.94≦x≦0.98)やLi(PO(2.8≦x≦2.95)であればより好ましい。
【0043】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、活性炭等の炭素材料、金、銀、パラジウム、白金、銅、スズ等の金属材料が挙げられる。
【0044】
導イオン助剤としては、例えば、固体電解質である。この固体電解質は、具体的に例えば、固体電解質層50に用いられる材料と同様の材料を用いることができる。
【0045】
導イオン助剤として固体電解質を用いる場合、導イオン助剤と、固体電解質層50に用いる固体電解質とが同じ材料を用いることが好ましい。
【0046】
(正極集電体および負極集電体)
本実施形態の全固体電池1の正極集電体層31および負極集電体層41を構成する材料は、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケルなどを用いるのが好ましい。特に、銅はリン酸チタンアルミニウムリチウムと反応し難く、さらに全固体電池の内部抵抗の低減効果があるためより好ましい。正極集電体層および負極集電体層を構成する材料は、正極と負極で同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0047】
また、本実施形態の全固体電池1の正極集電体層31および負極集電体層41は、それぞれ正極活物質および負極活物質を含むことが好ましい。
【0048】
正極集電体層31および負極集電体層41が、それぞれ正極活物質および負極活物質を含むことにより、正極集電体層31と正極活物質層32および負極集電体層41と負極活物質層42との密着性が向上するため望ましい。
【0049】
本実施形態の正極集電体層31および負極集電体層41における正極活物質および負極活物質の比率は、集電体として機能する限り特に限定はされないが、正極集電体と正極活物質、または負極集電体と負極活物質が、体積比率で90/10から70/30の範囲であることが好ましい。
【0050】
マージン層を構成する材料は、例えば固体電解質層50と同じ材料を含むことが好ましい。したがって、ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体を用いることが好ましく、例えば、LiTi(PO(LTP)、LiZr(PO(LZP)、Li1+xAlTi2-x(PO(LATP、0<x≦0.6))、Li1+xAlGe2-x(PO(LAGP、0<x≦0.6)、Li1+xZr2-x(PO(LYZP、0<x≦0.6)で表される固体電解質材料を含むことが好ましい。
【0051】
(全固体電池の製造方法)
本実施形態の全固体電池1は、一例として次のような手順で製造することができる。正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層、マージン層、および、空隙を形成するための有機材料の各材料をペースト化する。ペースト化の方法は、特に限定されないが、例えば、ビヒクルに前記各材料の粉末を混合してペーストを得ることができる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称であり、溶媒、バインダー等が含まれる。グリーンシートまたは印刷層を成形するためのペーストに含まれるバインダーは、特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを用いることができ、例えばこれらの樹脂のうち少なくとも1種をスラリーが含むことができる。
【0052】
また、ペーストには可塑剤を含んでいても良い。可塑剤の種類は特に限定されないが、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステル等を使用しても良い。
【0053】
係る方法により、正極集電体層用ペースト、正極活物質層用ペースト、固体電解質層用ペースト、負極活物質層用ペースト、負極集電体層用ペースト、マージン層用ペースト、および有機材料ペーストを作製する。
【0054】
上記で作製した固体電解質層用ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材上に所望の厚みで塗布し、必要に応じ乾燥させ、固体電解質用グリーンシートを作製する。固体電解質用グリーンシートの作製方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等の公知の方法を採用することができる。次いで固体電解質用グリーンシートの上に正極活物質層32、正極集電体層31、正極活物質層32を順にスクリーン印刷で印刷積層し、正極層30を形成する。さらに、固体電解質用グリーンシートと正極層30との段差を埋めるために、正極層30以外の領域にマージン層80をスクリーン印刷で形成し、正極層ユニットを作製する。なお、正極集電体層の一端に隣接する空隙を形成させるため、正極集電体層31とマージン層80との間に有機材料ペーストを用いて空隙90を形成させることが好ましい。
【0055】
有機材料ペーストの組成は特に限定されないが、例えば、脱バインダーまたは焼成によって熱分解される有機成分を多く含むことが好ましい。有機材料ペーストは、前記マージン層用ペーストを流用することができ、有機成分として1~100質量%含んだものを好適に用いることができる。前記有機成分としては、バインダー、有機溶媒、その他に空隙形成剤を含ませても良い。空隙形成剤としては、融点が低く、脱バインダー・焼成後に残査が無い材料が好ましく、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリフェニレンスルフィド、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリエチレン(PE)、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、カーボンビース、アルブミンなどの粒子を用いることができる。空隙形成剤の粒子サイズとしては、微小な粒子形状ものが良く、10nm~5μm程度の空隙形成剤を好適に用いることができる。
【0056】
負極層ユニットも正極層ユニットと同様の方法で作製することができ、固体電解質用グリーンシートの上に負極層40とマージン層をスクリーン印刷で形成し、負極層ユニットを作製する。なお、負極集電体層41の一端に隣接する空隙90を形成させるため、負極集電体層41とマージン層80との間に有機材料ペーストを用いて空隙90を形成させることが好ましい。
【0057】
そして正極層ユニットと負極層ユニットを交互にそれぞれの一端が一致しないようにオフセットを行い積層し、さらに必要に応じて、前記積層体の両主面に、外層(カバー層)を設けることができる。外層を積層することで、全固体電池の素子が複数含まれた積層基板が作製される。なお、外層は固体電解質と同じ材料を用いることができ、固体電解質用グリーンシートを用いることができる。
【0058】
前記製造方法は、並列型の全固体電池を作製するものであるが、直列型の全固体電池の製造方法は、正極層30の一端と負極層40の一端とが一致するように、つまりオフセットを行わないで積層すれば良い。
【0059】
さらに作製した積層基板を一括して金型プレス、温水等方圧プレス(WIP)、冷水等方圧プレス(CIP)、静水圧プレスなどで加圧し、密着性を高めることができる。加圧は加熱しながら行う方が好ましく、例えば40~95℃で実施することができる。
【0060】
作製した積層基板は、ダイシング装置を用いてチップに切断し、次いで脱バインダーおよび焼成することにより全固体電池の積層体が製造される。
【0061】
脱バインダーおよび焼成は、例えば窒素雰囲気下で600℃~1000℃の温度で焼成を行うことができる。脱バインダーおよび焼成の保持時間は、例えば0.1~6時間とする。この脱バインダーおよび焼成によって、有機材料用ペーストとして用いた有機成分が消失し、空隙90を形成することができる。なお、脱バインダーおよび焼成の各条件は、空隙90が形成される条件であれば、上記に限定はされない。
【0062】
積層方向と同一方向かつ前記延出する一端と平行な断面における、空隙の平均断面積Sxは、例えば脱バインダーおよび焼成前の有機材料ペーストによって形成された領域の大きさによってコントロールできる。前記領域は、一例では厚さ(図2における紙面上下方向における幅)を1μm~5μm、幅(図2における紙面左右方向における幅)を1μm~100μmとすることができるが、これに限定されない。
【0063】
さらに全固体電池の積層体から効率的に電流を引き出すため、正極外部電極60、負極外部電極70を設けることができる。正極外部電極60は、積層体20の端面に延出する正極層30の一端に、負極外部電極70は、積層体20の端面に延出する負極層40の一端に、それぞれ接続されている。したがって、積層体20の端面を挟持するように、正極外部電極60、負極外部電極70が形成される。正極外部電極60および負極外部電極70の形成方法としては、スパッタリング法、スクリーン印刷法、またはディップコート法などが挙げられる。スクリーン印刷法、ディップコート法では、金属粉末、樹脂、溶剤を含む外部電極用ペーストを作製し、これを正極外部電極60および負極外部電極70として形成させる。次いで、溶剤を飛ばすための焼き付け工程、ならびに正極外部電極60および負極外部電極70の表面に端子電極を形成させるため、めっき処理を行う。一方、スパッタリング法では、正極外部電極60および負極外部電極70ならびに端子電極を直接形成することができるため、焼き付け工程、メッキ処理工程が不要となる。
【0064】
全固体電池1の積層体は、耐湿性、耐衝撃性を高めるために、例えばコインセル内に封止しても良い。封止方法は特に限定されず、例えば焼成後の積層体を樹脂で封止しても良い。また、Al2O3等の絶縁性を有する絶縁体ペーストを積層体の周囲に塗布またはディップコーティングし、この絶縁ペーストを熱処理することにより封止しても良い。
【0065】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る全固体電池について説明する。なお、第2の実施形態の説明では、第1の実施の全固体電池1と重複する構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0066】
図3に示すように、本実施形態では、空隙90は、正極層30および負極層40の「延出しない領域」全体と隣接しており、且つ、上方および下方においては、固体電解質層50と隣接している形で第1の実施形態と異なる。係る構成としても、第1の実施形態と同様に体積膨張による応力負荷が緩和され、ひいては、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することができる。
【0067】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態に係る全固体電池について説明する。なお、第3の実施形態の説明では、第1の実施形態の全固体電池1と重複する構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0068】
図4に示すように、本実施形態では、空隙90は、正極層30および負極層40の「延出しない領域」における正極集電体層31および負極集電体層41と隣接している点では第1の実施形態と同様だが、上方および下方においては、正極活物質層32および負極活物質層42と隣接している形で第1の実施形態と異なる。係る構成としても、第1の実施形態と同様に体積膨張による応力負荷が緩和され、ひいては、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することができる。
【0069】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に係る全固体電池について説明する。なお、第4の実施形態の説明では、第1の実施形態の全固体電池1と重複する構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0070】
図5に示すように、本実施形態では、「延出しない領域」において正極集電体層31の両主面に形成された正極活物質層32が互いに連結されており、また、負極集電体層41の両主面に形成された負極活物質層42が互いに連結されている。これにより、正極集電体層31と負極集電体層41が露出せず、代わりに「延出しない領域」は正極活物質層32および負極活物質層42によって形成されている点で、第1の実施形態とは異なる。
【0071】
また本実施形態における空隙90は、正極集電体層31および負極集電体層41と、正極活物質層32および負極活物質層42と、によって囲われた領域の少なくとも一部に形成されている点で第1の実施形態と異なる。換言すれば、本実施形態では、空隙90はマージン層80と隣接しておらず、正極集電体層31および負極集電体層41と、正極活物質層32および負極活物質層42と、に隣接している。係る構成としても、第1の実施形態と同様に体積膨張による応力負荷が緩和され、ひいては、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することができる。
【0072】
以上、本発明に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【実施例
【0073】
以下、前記の実施形態に基づいて、さらに実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、ペーストの作製における材料の仕込み量の「部」表示は、断りのない限り、「質量部」を意味する。
【0074】
(実施例1)
【0075】
(正極活物質および負極活物質の作製)
正極活物質および負極活物質として、以下の方法で作製したLi(POを用いた。その作製方法としては、LiCOとVとNHPOとを出発材料とし、ボールミルで16時間湿式混合を行い、脱水乾燥した後に得られた粉体を850℃で2時間、窒素水素混合ガス中で仮焼した。仮焼品をボールミルで湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して正極活物質粉末および負極活物質粉末を得た。この作製した粉体の組成がLi(POであることを、X線回折装置を使用して確認した。
【0076】
(正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストの作製)
正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストは、ともにLi(POの粉末100部に、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、混合・分散して正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストを作製した。
【0077】
(固体電解質層用ペーストの作製)
固体電解質として、以下の方法で作製したLi1.3Al0.3Ti1.7(POを用いた。LiCOとAlとTiOとNHPOを出発材料として、ボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥し、次いで得られた粉末を800℃で2時間、大気中で仮焼した。仮焼後、ボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して固体電解質の粉末を得た。作製した粉体の組成がLi1.3Al0.3Ti1.7(POであることは、X線回折装置(XRD)を使用して確認した。
【0078】
次いで、この粉末に、溶媒としてエタノール100部、トルエン200部を加えてボールミルで湿式混合した。その後、ポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合して固体電解質層用ペーストを作製した。
【0079】
(固体電解質層用シートの作製)
固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシートを成形し、厚さ15μmの固体電解質層用シートを得た。
【0080】
(正極集電体層用ペーストおよび負極集電体層用ペーストの作製)
正極集電体および負極集電体として、CuとLi(POとを体積比率で80/20となるように混合した後、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて、混合および分散させて正極集電体層用ペーストおよび負極集電体層用ペーストを作製した。
【0081】
(マージン層用ペーストの作製)
マージン層用ペーストは、Li1.3Al0.3Ti1.7(POの粉末に、溶媒としてエタノール100部、トルエン100部を加えてボールミルで湿式混合し、次いでポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合および分散させてマージン層用ペーストを作製した。
【0082】
(有機材料ペーストの作製)
有機材料ペーストは、粒子径200nmのPMMAの粉末に、溶媒としてエタノール100部、トルエン100部を加えてボールミルで湿式混合した。次いでポリビニールブチラール系バインダー16部と、フタル酸ベンジルブチル4.8部を添加し、混合および分散させて有機材料ペーストを作製した。
【0083】
(外部電極ペーストの作製)
銀粉末とエポキシ樹脂、溶剤とを混合および分散させて、熱硬化型の外部電極ペーストを作製した。
【0084】
これらのペーストを用いて、以下のようにして全固体電池を作製した。
【0085】
(正極層ユニットの作製)
前記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極活物質層(第一正極活物質層と呼ぶ)を形成し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上にスクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極集電体層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらにその上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極活物質層(第二正極活物質層と呼ぶ)を再度形成し、80℃で10分間乾燥することで、固体電解質層用シートに正極層を作製した。次いで、正極層の一端(正極層の第2側面側、第3側面側及び第4側面側の三辺)の外周に、スクリーン印刷を用いて前記第一正極活物質層と同一平面となるマージン層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらに前記マージン層の上に、有機材料ペーストを用いて有機材料を含む領域を厚さ1.2μm、幅1.2μmの幅で形成し、80℃で10分間乾燥した。さらに前記有機材料を含む領域を被覆するように、前記第二正極活物質層と同一平面となるマージン層を形成し、80℃で10分間乾燥した。次いで、PETフィルムを剥離することで、正極層ユニットのシートを得た。なお、前記有機材料を含む領域は、焼成工程にて熱分解させ、空隙を形成させるために形成した。
【0086】
(負極層ユニットの作製)
前記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極活物質層(第一負極活物質層と呼ぶ)を形成し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上にスクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極集電体層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらにその上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極活物質層(第二負極活物質層と呼ぶ)を再度形成し、80℃で10分間乾燥することで、固体電解質層用シートに負極層を作製した。次いで、負極層の一端(負極層の第1側面側、第3側面側及び第4側面側の三辺)の外周に、スクリーン印刷を用いて前記第一負極活物質層と同一平面となるマージン層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらに前記マージン層の上に、有機材料ペーストを用いて有機材料を含む領域を厚さ1.2μm、幅1.2μmの幅で形成し、80℃で10分間乾燥した。さらに前記有機材料を含む領域を被覆するように、前記第二負極活物質層と同一平面となるマージン層を形成し、80℃で10分間乾燥した。次いで、PETフィルムを剥離することで、負極層ユニットのシートを得た。なお、前記有機材料を含む領域は、焼成工程にて熱分解させ、空隙を形成させるために形成した。
【0087】
(積層体の作製)
正極層ユニットと負極層ユニットをそれぞれ3シートずつ用意し、正極層ユニット、負極層ユニットの順にそれぞれの一端が一致しないように交互にオフセットしながら積層し、積層基板を作製した。さら前記積層基板の両主面に、外層として固体電解質シートを複数積層し、500μmの外層を設けた。これを金型プレスにより熱圧着した後、切断して未焼成の全固体電池の積層体を作製した。次いで、未焼成の積層体を脱バインダー・焼成することで、全固体電池の積層体を作製した。前記焼成は、窒素中で昇温速度200℃/時間で焼成温度850℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、自然冷却後に取り出した。
【0088】
(外部電極形成工程)
焼成後の前記全固体電池の積層体の端面(第1側面、第2側面)に外部電極ペーストを塗布し、150℃、30分の熱硬化を行い、一対の外部電極を形成した。
【0089】
(比較例1)
比較例1に係る全固体電池は、正極層ユニットおよび負極層ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域をマージン層に形成させず、焼成後の全固体電池において、空隙を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0090】
(実施例2~11)
実施例2~11に係る全固体電池は、空隙サイズは有機材料ペーストに含ませるPMMAの含有量を調整することで表1に示す空隙サイズになるように調整した以外は、実施例1と同様の方法にて全固体電池を作製した。
【0091】
(実施例12~13)
実施例12に係る全固体電池は、正極ユニットのマージン層のみに有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を形成することで、正極層の一端(正極層の第2側面側、第3側面側及び第4側面側の三辺)のみに空隙が形成されるように調整した以外は、実施例5と同様の方法にて全固体電池を作製した。
【0092】
実施例13に係る全固体電池は、負極ユニットのマージン層のみに有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を形成することで、負極層の一端(負極層の第1側面側、第3側面側及び第4側面側の三辺)のみに空隙が形成されるように調整した以外は、実施例5と同様の方法にて全固体電池を作製した。
【0093】
(実施例14~16)
実施例14に係る全固体電池は、正極ユニットと負極ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を、第3側面と第4側面(図2参照)と平行であってかつ積層体の側面に延出しない電極層の一端(正極層の第3側面側及び第4側面側の二辺、並びに負極層の第3側面側及び第4側面側の二辺)のみに形成させたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0094】
実施例15に係る全固体電池は、正極ユニットと負極ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を、第3側面と第4側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない電極層の一端(正極層の第3側面側及び第4側面側の二辺、並びに負極層の第3側面側及び第4側面側の二辺)のみに形成させた以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0095】
実施例16に係る全固体電池は、正極ユニットと負極ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を、第3側面と第4側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない電極層の一端(正極層の第3側面側及び第4側面側の二辺、並びに負極層の第3側面側及び第4側面側の二辺)のみに形成させた以外は、実施例10と同様にして全固体電池を作製した。
【0096】
(実施例17~19)
実施例17に係る全固体電池は、正極ユニットと負極ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を、第1側面または第2側面(図1参照)と平行であってかつ積層体の側面に延出しない電極層の一端(正極層の第2側面側の一辺及び負極層の第1側面側の一辺)のみに形成させたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0097】
実施例18に係る全固体電池は、正極ユニットと負極ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を、第1側面または第2側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない電極層の一端(正極層の第2側面側の一辺及び負極層の第1側面側の一辺)のみに形成させた以外は、実施例6と同様にして全固体電池を作製した。
【0098】
実施例19に係る全固体電池は、正極ユニットと負極ユニットの作製において、有機材料ペーストを用いた有機材料を含む領域を、前記第1側面または前記第2側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない電極層の一端(正極層の第2側面側の一辺及び負極層の第1側面側の一辺)のみに形成させた以外は、実施例10と同様にして全固体電池を作製した。
【0099】
(空隙の評価)
本実施例および比較例で作製した全固体電池に含まれる空隙は、例えば次のように評価することができる。
【0100】
[FE-SEM観察による空隙の断面積の算出]
各実施例および比較例で作製した全固体電池について、各5個ずつサンプルを採取し、それらを熱硬化性樹脂で包埋し、60℃で1時間乾燥させた。この樹脂包埋した全固体電池の第1側面(第2側面)に対して平行断面を自動回転研磨機によって面出しを行い、さらにフラットミリング(HM-3000:日立ハイテクノロジー社)を用いて、前記断面をエッチング加工した。条件としては、加速電圧6V、Arガスフロー:0.07cm/min、傾斜角85°、偏心量4mm、処理時間10分にて、サンプルを回転させながらArイオンビームを照射させた。
【0101】
前記面出ししたサンプルは、Auスパッタを2分間実施し、FE-SEM(S-4700;日立製作所社製)を用いて、反射電子像(COMPO像)にて正極層および負極層の各一端を全て観察し、前記一端に隣接する空隙数、ならびに前記一端に隣接する空隙の全ての長径と短径を測定した。そして空隙の平均長径と平均短径を以下の式から算出した。
【0102】
平均長径(μm)=正極層および負極層の一端に隣接して観察された全ての空隙の長径の合計/観察された空隙数
【0103】
平均短径(μm)=正極層および負極層の一端に隣接して観察された全ての空隙の短径の合計/観察された空隙数
【0104】
次いで前記空隙の断面積を次のように算出した。前記観察したCOMPO像の断面写真を、画像処理によりモノクロ(二値化)に画像処理し、前記空隙を黒色、それ以外の領域を白色としてピクセル数をそれぞれ算出した。なお、正極層または負極層の一端と隣接していない空隙は、それ以外の領域(白色)として処理した。前記黒色と前記白色の全ピクセル数が、観察領域の面積となるため、これより1ピクセルあたりの面積を算出し、前記空隙の断面積を以下の式から算出した。
【0105】
空隙の断面積(μm)=黒色のピクセル数×1ピクセルあたりの面積(μm/ピクセル)
【0106】
前記手法を用いて、正極層および負極層の一端と隣接する空隙の断面積を個々に算出し、空隙の平均断面積Sを、以下の式から算出した。
{空隙の平均断面積S(μm)}=(観察された全ての空隙の断面積の合計/観察された全ての空隙数)
【0107】
次いで正極集電体層と負極集電体層の断面積についても、前記同様の画像処理により、正極集電体層と負極集電体層の平均断面積S(以下、正・負極の集電体層の平均断面積)を、以下の式から算出した。なお、正極集電体層と負極集電体層の画像処理では、正極集電体層と負極集電体層を白色、それ以外の領域を黒色としてモノクロ画像処理した。
【0108】
{正・負極の集電体層の平均断面積S(μm)}=(正・負極の集電体層の断面積の和/正・負極集電体層の層数)
【0109】
そして、正・負極集電体層の断面積に対する空隙の断面積の比率(S/S)を以下の式から算出した。
(S/S)={空隙の平均断面積(μm)/正・負極集電体層の平均断面積(μm)}
【0110】
(電池評価)
本実施例ならびに比較例で作製した全固体電池を、下記の電池特性について評価した。
【0111】
[充放電サイクル試験]
本実施例1で作製した全固体電池を、以下に示す充放電条件によって充放電サイクル特性を評価した。充放電電流の表記は、以降Cレート表記を使う。CレートはnC(μA)と表記され(nは数値)、公称容量(μAh)を1/n(h)で充放電できる電流を意味する。例えば1Cとは、1hで公称容量を充電できる充放電電流であり、2Cであれば、0.5hで公称容量を充電できる充放電電流を意味する。例えば、公称容量100μAhの全固体電池の場合、0.1Cの電流は10μA(計算式100μA×0.1=10μA)である。同様に0.2Cの電流は20μA、1Cの電流は100μAである。
【0112】
充放電サイクル試験条件は、25℃の環境下において、0.2Cレートの定電流で1.6Vの電池電圧になるまで定電流充電(CC充電)を行い、その後、0.2Cレートの定電流で0Vの電池電圧になるまで放電させた(CC放電)。前記の充電と放電を1サイクルとし、これを1000サイクルまで繰り返した後の放電容量維持率を充放電サイクル特性として評価した。なお、充放電サイクル特性は、以下の計算式によって算出した。
1000サイクル後の放電容量維持率(%)=(1000サイクル後の放電容量÷初回サイクル後の放電容量)×100
【0113】
(結果)
代表として、実施例6と比較例1に係る全固体電池の第1側面(第2側面)に対して平行断面のFE-SEM写真を図6および図7に示す。実施例6に係る図6の断面写真では、第3側面と平行であってかつ側面に延出しない正・負極層の一端において、空隙が形成されているのを確認した。
一方、比較例1に係る図7の全固体電池の断面写真では、第3側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない正・負極層の一端において、空隙が形成されていないことを確認した。なお、図は省略するが、実施例6に係る全固体電池において、第4側面と平行かつ、側面に延出しない正・負極層の一端においても空隙が形成されているのを確認した。さらに、第1側面または第2側面に対して平行であってかつ積層体の側面に延出しない正・負極層の一端においても空隙が形成されているのを確認した。換言すれば、実施例6に係る全固体電池の正極層および負極層は、側面に延出しない全ての一端に空隙が観察された。
【0114】
実施例1~5、実施例7~11に係る全固体電池についても同様に、SEMにて断面観察した結果、積層体の側面に延出しない正・負極層の全ての一端において空隙を観察した。
【0115】
実施例12に係る全固体電池は、側面に延出しない正極層の全ての一端に空隙が観察された。一方、負極層の一端において空隙は観察されなかった。
【0116】
実施例13に係る全固体電池は、側面に延出しない負極層の全ての一端に空隙が観察された。一方、正極層の一端において空隙は観察されなかった。
【0117】
実施例14~16に係る全固体電池は、第3側面と第4側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない正・負極層の一端において空隙が観察された。一方、第1側面または第2側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない正・負極層の一端に空隙は確認されなかった。
【0118】
実施例17~19に係る全固体電池は、第1側面または第2側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない正・負極層の一端において空隙が観察された。一方、第3側面と第4側面と平行であってかつ積層体の側面に延出しない正・負極層の一端に空隙は確認されなかった。
【0119】
表1に、実施例および比較例に係る全固体電池の正・負極層の一端で観察された空隙の位置、空隙の短径と長径、空隙の平均断面積S、集電体層の断面積S、ならびにS/Sを示す。さらに全固体電池としてのサイクル特性の結果を示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示すように、実施例1~11に係る全固体電池は、比較例1に係る空隙を有さない全固体電池と比較して、優れたサイクル特性が得られた。特にS/Sを、0.0001~0.020とした際に、1000サイクルの容量維持率が77%以上の優れたサイクル特性が得られた。更に、S/Sを、0.0006~0.0080とした際に、1000サイクルの容量維持率を84%以上の、より優れたサイクル特性が得られた。
ただし、S/Sが0.02である実施例11に係る全固体電池は、実施例1~10に係る全固体電池と比較してサイクル特性が若干低下した。これは、空隙の平均断面積が過大となり、全固体電池の内部抵抗が高まったことでサイクル特性が低下したと思われる。
【0122】
実施例12~13に係る全固体電池においても1000サイクルの容量維持率が83%を示し、比較例1よりも優れたサイクル特性が得られた。したがって、正極層または負極層の一方において、電極層の一端に空隙を含む全固体電池では、サイクル特性が向上することが確認された。
【0123】
さらに実施例14~19に係る全固体電池においても、比較例1よりも優れたサイクル特性を示したことから、電極層のいずれかの一端に少なくとも隣接した空隙を含むことでサイクル特性が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0124】
1・・・全固体電池
20・・・積層体
21・・・第1側面
22・・・第2側面
23・・・第3側面
24・・・第4側面
25・・・上面
26・・・下面
30・・・正極層
31・・・正極集電体層
32・・・正極活物質層
40・・・負極層
41・・・負極集電体層
42・・・負極活物質層
50・・・固体電解質層
60・・・正極外部電極
70・・・負極外部電極
80・・・マージン層
90・・・空隙
301・・・第1の一端
302・・・第2の一端
303・・・第3の一端
304・・・第4の一端
401・・・第1の一端
402・・・第2の一端
403・・・第3の一端
404・・・第4の一端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7