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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】建設機械キャビン用の非常脱出装置
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/16 20060101AFI20240730BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20240730BHJP
   A62B 99/00 20090101ALI20240730BHJP
【FI】
E02F9/16 E
B60J1/00 A
A62B99/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021024826
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022126957
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】有地 毅成
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-354090(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第1106407(EP,A2)
【文献】特開2020-172403(JP,A)
【文献】実開昭51-007817(JP,U)
【文献】特開平03-189230(JP,A)
【文献】特開平06-221052(JP,A)
【文献】実開昭59-147874(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/16
B60J 1/00
B60R 21/00
A62B 3/00
A62B 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のキャビンに窓として設けられた強化ガラスを非常時に割って脱出するための装置であって、
前記強化ガラスに形成された貫通孔と、
該貫通孔にキャビン室内側から差し込まれ、差し込み深さが深くなるに連れて前記貫通孔の内面に押し付けられるようにテーパー状に形成されたクサビ刃を有する押込シャフトと、
該押込シャフトの前記貫通孔に対する差し込み深さを、通常時に前記クサビ刃が前記貫通孔の内面に接触しない深さに保持し、非常時に前記クサビ刃が前記貫通孔の内面に押し付けられる深さまで押し込まれることを許容するため、前記押込シャフトに着脱自在に取り付けられたストッパーと、を備えたことを特徴とする建設機械キャビン用の非常脱出装置。
【請求項2】
前記押込シャフトのキャビン室内側の端部に、非常時にキャビン内の運転者によって押し込まれるハンドルが、前記押込シャフトの直径よりも大きく形成されて設けられており、
前記ストッパーが、前記ハンドルと前記強化ガラスとの間の前記押込シャフトの側面に着脱自在に取り付けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械キャビン用の非常脱出装置。
【請求項3】
前記押込シャフトのキャビン室外側の端部に、前記押込シャフトが前記貫通孔から抜け落ちることを防止するため、前記貫通孔の孔径より大きく形成されたリテーナーが取り付けられている、ことを特徴とする請求項2に記載の建設機械キャビン用の非常脱出装置。
【請求項4】
前記リテーナーと前記強化ガラスとの間に、雨水等がキャビン室外から前記貫通孔を通ってキャビン室内に浸入することを防止するための止水パッキンが介設されている、ことを特徴とする請求項3に記載の建設機械キャビン用の非常脱出装置。
【請求項5】
前記押込シャフトの側面に、前記押込シャフトの長手方向に沿って突出されたガイドビードが設けられており、該ガイドビードの頂部が前記貫通孔の内周面に接触し、前記押込シャフトの側面が前記貫通孔の内周面から離間している、ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の建設機械キャビン用の非常脱出装置。
【請求項6】
前記リテーナーが、キャビン室外側から前記貫通孔を通じてキャビン室内側に挿入される爪部を備えており、該爪部に、前記押込シャフトを案内するガイド面が形成されている、ことを特徴とする請求項3または4に記載の建設機械キャビン用の非常脱出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のキャビンに窓として設けられた強化ガラスを非常時に割って脱出するための装置に係り、特に、非常時に容易に強化ガラスを割ることができる建設機械キャビン用の非常脱出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1(a)に示すように、油圧ショベル等の建設機械のキャビン1の窓(リヤウィンドウやサイドウィンドウ2等)には、一般的に強化ガラス3が用いられている。強化ガラス3は、図1(b)に示すように、表面に圧縮残留応力層3aが、内部に引張残留応力層3bが形成され、これら応力が釣り合った状態となっている。かかる強化ガラス3は、例えば、室外側の面に外力が加わって室内側の面が凸状となるように変形した際、凸状となった室内側の面の生じる引張応力が表面の圧縮残留応力層3aによって相殺されるため、通常の板ガラスと比べて割れ難く、防犯性および安全性が高い。しかし、車両が転倒した場合等の非常時には、キャビン1室内の運転者は、強化ガラス3を割って脱出する必要がある。
【0003】
この種の建設機械キャビン用の非常脱出装置として、エマージェンシーハンマーが知られている。エマージェンシーハンマーは、打撃部の先端が円錐状に形成されており、建設機械のキャビン室内に、運転者の手が届く位置にホルダーを介して着脱自在に取り付けられている。例えば、油圧ショベルが転倒した場合等の非常時には、キャビン室内の運転者は、ホルダーから取り外したエマージェンシーハンマーでキャビンのリヤウィンドウ(強化ガラス3)の表面を叩き割って脱出する。
【0004】
しかし、運転者がエマージェンシーハンマーで強化ガラス3のキャビン室内側の表面を叩いたとき、強化ガラス3がキャビン室外側に凸状に撓み変形することで叩き力の一部が吸収されるため、叩く力によっては強化ガラス3が容易に割れず、慌ててハンマーを落とすなど時間が掛かることも考えられる。また、ハンマー先端に形成された円錐部を強化ガラス3の表面に直角に当てることで効率よく割ることができるところ、非常時に慌てた運転者によるハンマーの打撃角度が悪いと容易には割れないことがある。また、ハンマーで強化ガラス3を叩き割ることは、ガラス片の飛散等を考慮し、非常時とはいえ、ためらいが生じる可能性も考えられる。
【0005】
また、乗用車用の非常脱出対策として、シートベルトのトングプレート(金具)に、非常時にドアガラス(強化ガラス)を割るため先端が錐状に形成されたハンマー部材を一体的に取り付けておき、車両衝突の衝撃によってハンマー部材が行方不明になる事態を防止したものが知られている(特許文献1参照)。しかし、この非常時脱出装置も、ハンマー部材でドアガラスの表面を叩き割るものなので、上述したエマージェンシーハンマーと同様の問題が生じる。
【0006】
また、シートベルトに、一方の面に突起が設けられたプレートを取り付け、非常時にプレートの突起をドアガラス(強化ガラス)に押し付けた状態で、突起とは反対側のプレートの面を叩くことで、ドアガラスを割るようにしたものが知られている(特許文献2参照)。しかし、この非常時脱出装置も、突起でドアガラスを押し割るものなので、上述したエマージェンシーハンマーと同様の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-62629号公報
【文献】実用新案登録第3045419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、建設機械のキャビンに窓として設けられた強化ガラスを、非常時に、ハンマー等の打撃物を用いることなく容易に確実に割ることができる建設機械キャビン用の非常脱出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、建設機械のキャビンに窓として設けられた強化ガラスを非常時に割って脱出するための装置であって、強化ガラスに形成された貫通孔と、貫通孔にキャビン室内側から差し込まれ、差し込み深さが深くなるに連れて貫通孔の内面に押し付けられるようにテーパー状に形成されたクサビ刃を有する押込シャフトと、押込シャフトの貫通孔に対する差し込み深さを、通常時にクサビ刃が貫通孔の内面に接触しない深さに保持し、非常時にクサビ刃が貫通孔の内面に押し付けられる深さまで押し込まれることを許容するため、押込シャフトに着脱自在に取り付けられたストッパーと、を備えたことを特徴とする建設機械キャビン用の非常脱出装置が提供される。
【0010】
本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置においては、押込シャフトのキャビン室内側の端部に、非常時にキャビン内の運転者によって押し込まれるハンドルが、押込シャフトの直径よりも大きく形成されて設けられており、前述したストッパーが、ハンドルと強化ガラスとの間の押込シャフトの側面に着脱自在に取り付けられていてもよい。
【0011】
本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置においては、押込シャフトのキャビン室外側の端部に、押込シャフトが貫通孔から抜け落ちることを防止するため、貫通孔の孔径より大きく形成されたリテーナーが取り付けられていてもよい。
【0012】
本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置においては、リテーナーと強化ガラスとの間に、雨水等がキャビン室外から貫通孔を通ってキャビン室内に浸入することを防止するための止水パッキンが介設されていてもよい。
【0013】
本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置においては、押込シャフトの側面に、押込シャフトの長手方向に沿って突出されたガイドビードが設けられており、ガイドビードの頂部が貫通孔の内周面に接触し、押込シャフトの側面が貫通孔の内周面から離間していてもよい。
【0014】
本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置においては、リテーナーが、キャビン室外側から貫通孔を通じてキャビン室内側に挿入される爪部を備えており、爪部に、押込シャフトを案内するガイド面が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)非常時に、運転者がストッパーを外して押込シャフトを貫通孔に押し込むと、クサビ刃が貫通孔の内面に食い込んで貫通孔を押し広げる力が生じるため、貫通孔の内面に食い込んだクサビ刃による亀裂がトリガーとなって強化ガラスが割れる。
(2)クサビ刃が貫通孔を押し広げる力は、強化ガラスの面に沿った方向の力なので、ハンマーで強化ガラスの表面を叩いた場合のように強化ガラスが撓むことで力の一部が吸収されることはなく、小さな力で強化ガラスを容易に確実に割ることができる。
(3)すなわち、本発明によれば、非常時に、ハンマー等の打撃物を用いることなく、強化ガラスを容易に確実に割ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は建設機械のキャビン、リヤウィンドウおよびサイドウィンドウを示す斜視図、(b)は図1(a)のb-b線断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置の説明図であり、(a)は本装置の分解斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
図3】第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置の説明図であり、(a)は本装置の側断面図、(b)は(a)の矢印bから見た図、(c)は(a)の矢印cから見た図、(d)は(a)のd-d線断面図である。
図4】第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置の説明図であり、(e)は図3(a)のe-e線断面図、(f)は図3(a)の矢印fから見た図である。
図5】第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置を作動させる第1手順を表す図であり、(a)はストッパーを取り外した本装置の側断面図、(b)は(a)のb-b線断面図である。なお、(a)は(b)のa-a線断面図に相当する。
図6】第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置を作動させる第2手順を表す図であり、(a)は押込シャフトを押し込んだ本装置の側断面図、(b)は(a)のb-b線断面図である。なお、(a)は(b)のa-a線断面図に相当する。
図7】本発明の第2実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置の説明図であり、(a)は本装置の分解斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
図8】第2実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置の説明図であり、(a)は本装置の側断面図、(b)は(a)の矢印bから見た図、(c)は(a)の矢印cから見た図、(d)は(a)のd-d線断面図である。
図9】第2実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置の説明図であり、(e)は図8(a)のe-e線断面図、(f)は図8(a)の矢印fから見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(建設機械のキャビン1)
図1(a)に示すように、例えば油圧ショベル等の建設機械のキャビン1の窓(リヤウィンドウやサイドウィンドウ2等)には、強化ガラス3が用いられている。図1(b)に示すように、強化ガラス3は、表面に圧縮残留応力層3aが、内部に引張残留応力層3bが形成され、これら応力が釣り合った状態となっており、通常の板ガラスと比べて割れ難く、防犯性および安全性が高い。本発明に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4は、この強化ガラス3を非常時にハンマー等の打撃物を用いることなく容易に確実に割るために設けられる。
【0019】
(建設機械キャビン用の非常脱出装置4:第1実施形態)
図2(a)に本発明の第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4の分解斜視図を示し、図2(b)に本装置4が装着されるキャビン1のリヤウィンドウ(強化ガラス3)の断面図を示す。第1実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4は、強化ガラス3に形成された貫通孔5と、貫通孔5にキャビン1室内側から差し込まれ、差し込み深さが深くなるに連れて貫通孔5の内面に押し付けられるようにテーパー状に形成されたクサビ刃6を有する押込シャフト7と、押込シャフト7の貫通孔5に対する差し込み深さを、通常時にクサビ刃6が貫通孔5の内面に接触しない深さに保持し、非常時にクサビ刃6が貫通孔5の内面に押し付けられる深さまで押し込まれることを許容するため、押込シャフト7に着脱自在に取り付けられたストッパー8と、を備えている。以下、各構成要素について説明する。
【0020】
(貫通孔5)
図1に示すキャビン1のリヤウィンドウとしての強化ガラス3には、図2(b)に示すように、本実施形態に係る非常脱出装置4が取り付けられる貫通孔5が形成されている。貫通孔5の内面には、強化ガラス3のキャビン1室内外面の圧縮残留応力層3aと連続して、圧縮残留応力層3aが形成されている。これら表面の圧縮残留応力層3aの内方には、引張残留応力層3bが形成され、引張と圧縮の応力が釣り合った状態となっている。圧縮残留応力層3aの厚さは、例えば、強化ガラス3の板厚の1/6程度となっている。なお、非常脱出装置4が取り付けられる箇所は、図1(a)のリヤウィンドウに限られるものではなく、強化ガラス3であれば、サイドウィンドウ2等、どの窓であってもよい。また、強化ガラス3であれば、複数の窓に取り付けてもよく、キャビン1の運転席の右側(油圧ショベルのブーム側)のサイドウィンドウに取り付けてもよい。
【0021】
(押込シャフト7、クサビ刃6)
図2(a)、図3(a)に示すように、強化ガラス3の貫通孔5には、貫通孔5の内径よりも小径の押込シャフト7が、抜き差し自在に差し込まれている。図3(a)示すように、押込シャフト7の外面には、差し込み深さが深くなるに連れて貫通孔5の内面に押し付けられるようにテーパー状に形成されたクサビ刃6が、押込シャフト7の長手方向に沿って設けられている。、図3(d)に示すように、クサビ刃6の断面は三角形となっており、その頂点6xが貫通孔5の内面に食い込む。図4(f)に示すように、クサビ刃6は、前部の三角錐部6aと後部の三角柱部6bとが一体となった形状となっている。
【0022】
(ストッパー8)
図2(a)に示すように、押込シャフト7には、押込シャフト7の貫通孔5に対する差し込み深さを、通常時にクサビ刃6が貫通孔5の内面に接触しない深さに保持し、非常時にクサビ刃6が貫通孔5の内面に押し付けられる深さまで押し込まれることを許容するストッパー8が、着脱自在に取り付けられている。ストッパー8は、樹脂等の可撓性材料からなっており、円筒の一部を切除した形状のストッパー本体8aと、ストッパー本体8aの外面に設けられた板状のツマミ部8bと、を備えている。ツマミ部8bには、図3(a)に示すように、「PULL」の文字を表記してもよい。また、ツマミ部8bは、運転者が指で引っ張り易くするため、指が入るように環状に形成されていてもよい。
【0023】
(ハンドル9)
図2(a)、図3(a)に示すように、押込シャフト7のキャビン室内側の端部には、非常時にキャビン内の運転者によって押し込まれる円板状のハンドル9が、押込シャフト7の直径よりも大径に形成されて設けられている。図3(b)に示すように、ハンドル9のキャビン室内側の面には、「PUSH」の文字を表記してもよい。図3(a)に示すように、ハンドル9と強化ガラス3との間の押込シャフト7の側面には、ストッパー8が着脱自在に取り付けられている。円筒の一部を切除した形状のストッパー本体8aの長さは、ハンドル9と強化ガラス3との間隔を、クサビ刃6が貫通孔5に接触しない長さとするように設定されている。
【0024】
(リテーナー10)
図2(a)、図3(a)に示すように、押込シャフト7のキャビン室外側の端部には、押込シャフト7が貫通孔5から抜け落ちることを防止するリテーナー10が取り付けられている。リテーナー10は、貫通孔5の孔径より大径の円板部10aと、円板部10aの中心に配設された雄ネジ部10bとを有し、雄ネジ部10bが押込シャフト7の端面に形成された雌ネジ孔7aにネジ込まれることで、押込シャフト7に装着される。このネジ込みを確実にするため、押込シャフト7のハンドル9には六角レンチ用の六角孔9aが形成され、リテーナー10の外面にも同様の六角孔10cが形成されている。なお、同様に連れ廻りを防ぐため、トルクス(登録商標)孔、プラス孔、マイナス孔を形成してもよい。
【0025】
(止水パッキン11)
図2(a)、図3(a)に示すように、リテーナー10と強化ガラス5との間には、雨水等がキャビン室外から貫通孔5を通ってキャビン室内に浸入することを防止するための止水パッキン11が介設されている。止水パッキン11は、ゴム等の弾性材から薄板リング状に形成されている。ストッパー8を押込シャフト7に取り付けた状態で、押込シャフト7の雌ネジ孔7aにリテーナー10の雄ネジ部10bをネジ込むことで、リテーナー10の円板部10aと強化ガラス3のキャビン室外側の表面との間において、止水パッキン11が圧縮されて適度に潰れ、キャビン室外の雨水等が貫通孔5を通ってキャビン室内に浸入することが防止される。
【0026】
(ガイドビード12)
図2(a)に示すように、押込シャフト7の側面には、押込シャフト7の長手方向に沿ったガイドビード12が、突出するようにして設けられている。図5(a)、図5(b)に示すように、ガイドビード12は、押込シャフト7の外周面に周方向に間隔を隔てて複数設けられている。本実施形態においては、ガイドビード12は、クサビ刃6を含めて120度間隔で2個設けられているが、この間隔この個数に限られることはない。また、ガイドビード12は、押込シャフト7の外周面に、クサビ刃6を含めずに周方向に等間隔で複数設けてもよい。
【0027】
図5(a)、図5(b)に示すように、各ガイドビード12の頂部が貫通孔5の内周面に接触し、押込シャフト7の側面が貫通孔5の内周面から離間した状態となっている(図4(e)参照)。これにより、ガイドビード12が無い場合と比べて、押込シャフト7と貫通孔5との接触面積が減少し、押込シャフト7が押し込まれた際の摩擦力が低減する。よって、非常時に押込シャフト7を軽い力で押し込むことができ、強化ガラス3を素早く容易に割ることができる。また、貫通孔5径のバラツキを吸収できる。
【0028】
また、図3(d)に示すように、各ガイドビード12の頂部が、円筒の一部を切除した形状のストッパー本体8aの内周面に接触し、押込シャフト7の側面が、ストッパー本体8aの内周面から離間した状態となっている。これにより、非常時にストッパー8のツマミ部8bを引っ張ってストッパー本体8aを押込シャフト7の側面から径方向外方に引き抜く際に、ガイドビード12が無い場合と比べて、ストッパー本体8aの内周面と押込シャフト7の外周面との接触面積が減少し、引き抜く際の摩擦力が低減する。よって、小さい力で容易にストッパー8を押込シャフト7から引き抜くことができる。
【0029】
(作用・効果)
図3(a)に示すように、本実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4は、通常時には、押込シャフト7の側面にストッパー8が装着されており、ハンドル9を押しても、ストッパー8がハンドル9と強化ガラス3との間隔を保つスペーサーとして機能するため、押込シャフト7が貫通孔5に押し込まれないようになっている。よって、キャビン室内の運転者が、例えば体勢を崩してハンドル9にもたれ掛かる等して意に反してハンドル9を押しても、押込シャフト7が貫通孔5に押し込まれることはなく、強化ガラス3が意に反して割れる事態を防止できる。
【0030】
一方、建設機械(油圧ショベル等)の車両が転倒する等した非常時には、キャビン室内の運転者は、強化ガラス3を割って脱出するための第1手順として、図3(a)に示すストッパー8のツマミ部8bを引っ張って、ストッパー本体8aを押込シャフト7から引き抜く。この際、図3(d)に示すように、各ガイドビード12の頂部がストッパー本体8aの内周面に接触し、押込シャフト7の側面がストッパー本体8aの内周面から離間した状態となっているので、ガイドビード12が無い場合と比べて、ストッパー本体8aの内周面と押込シャフト7の外周面との接触面積が減少し、引き抜く際の摩擦力が低減する。よって、非常時に、運転者は、車両が転倒しているなど悪い姿勢であっても、小さい力で素早くストッパー8を押込シャフト7から引き抜くことができる。これにより、図5(a)、図5(b)に示すように、押込シャフト7を貫通孔5に押し込む準備が完了する。
【0031】
次に、キャビン室内の運転者は、図6(a)、図6(b)に示すように、強化ガラス3を割って脱出するための第2手順として、ハンドル9を押して押込シャフト7を貫通孔5に押し込む。すると、クサビ刃6が貫通孔5の内面に食い込んで貫通孔5を押し広げる力が生じるため、貫通孔5の内面に食い込んだクサビ刃6による亀裂がトリガーとなって強化ガラス3が割れる。クサビ刃6が貫通孔5を押し広げる力は、強化ガラス3の面に沿った方向の力なので、ハンマー等で強化ガラス3の表面を叩く従来例のように強化ガラス3が撓むことで力の一部が吸収されることはなく、小さな力で確実に強化ガラス3の貫通孔5の内面に亀裂を生じさせることができ、強化ガラス3を容易に割ることができる。また、貫通孔5に押し込まれたクサビ刃6の頂部6xは、押し込みに伴って、貫通孔5の内周面において、強化ガラス3の表面の圧縮残留応力層3aと内部の引張残留応力層3bとの境界に到達する高さとなっているため、それらの力の均衡が破られ、強化ガラス3を確実に割ることができる。
【0032】
すなわち、この建設機械キャビン用の非常脱出装置4によれば、非常時に、キャビン室内の運転者がストッパー8を取り外し(第1手順)ハンドル9を押し込む(第2手順)という簡単な手順で、ハンマー等の打撃物を用いることなく、強化ガラス3を容易に素早く確実に割ることができる。
【0033】
(建設機械キャビン用の非常脱出装置4x:第2実施形態)
図7図9に本発明の第2実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4xを示す。第2実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4xは、第1実施形態と対比すると、図7(a)に示すように、リテーナー20が、キャビン室外側から貫通孔5を通じてキャビン室内側に挿入される爪部21を備えており、図8(a)に示すように、爪部21に、押込シャフト7を案内するガイド面22が形成されている点が第1実施形態と相違し、その他は第1実施形態と同様の構成となっている。よって、第1実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、第1実施形態と相違しているリテーナー20、爪部21、ガイド面22について説明する。
【0034】
(リテーナー20)
図7(a)、図8(a)に示すように、第2実施形態のリテーナー20は、内部に押込シャフト7が差し込まれる中心孔23が貫通形成された樹脂製のグロメット24と、ゴム製のリングパッキン25と、ワッシャー26と、スクリューネジ27とを備えている。グロメット24には、キャビン室外側から貫通孔5を通じてキャビン室内側に挿入される爪部21が一体的に形成されている。
【0035】
(爪部21)
図8(a)に示すように、爪部21は、グロメット24の中心孔23の縁部から軸方向に延出して形成されており、図8(d)に示すように、クサビ刃6の部分を除いて周方向に間隔を隔てて複数(本実施形態では3個)形成されている。グロメット24は、爪部21に止水パッキン11を通した状態で、爪部21を弾性的に変形させてキャビン室外側から強化ガラス3の貫通孔5に押し込まれ、復元した爪部21の返し部分が貫通孔5の縁部に引っ掛かることで、貫通孔5に装着される。
【0036】
このようにして、強化ガラス3の貫通孔5に装着されたグロメット24の中心孔23に、図8(a)に示すように、キャビン室内側から押込シャフト7が差し込まれ、押込シャフト7の側面に、ストッパー8が装着される。その状態で、押込シャフト7の端面の雌ネジ孔7aに、リングパッキン25およびワッシャー26を介してスクリューネジ27がネジ込まれる。ネジ込みに伴って、グロメット24と強化ガラス3との間の止水パッキン11が潰れてそれらの間からの浸水が防止され、グロメット24とワッシャー26との間のリングパッキン25が潰れてそれらの間からの浸水が防止される。
【0037】
(ガイド面22)
図9(e)に示すように、爪部21には、押込シャフト7を案内するガイド面22が、グロメット24の中心孔23と連続して形成されている。爪部21のガイド面22は、押込シャフト7の外周面の曲率に合わせて円弧状に形成されており、グロメット24の中心孔23と協働して、押込シャフト7の軸方向の移動をガイドする。なお、押込シャフト7がガイド面22および中心孔23に沿って移動する前提として、スペーサー8が押込シャフト7から取り外されていることは勿論である。
【0038】
(作用・効果)
図8(a)に示すように、第2実施形態に係る建設機械キャビン用の非常脱出装置4xによれば、リテーナー20を構成するグロメット24にキャビン室外側から貫通孔5を通じてキャビン室内側に挿入される爪部21が設けられており、爪部21に押込シャフト7を案内するガイド面22が形成されているので、押込シャフト7がガイドされる長さを、貫通孔5の長さ(貫通孔5が形成された強化ガラス3の板厚)以上に稼ぐことができる。
【0039】
よって、非常時に、慌てた運転者によって押込シャフト7が斜めに押された場合であっても、第1実施形態(図5(a)参照)と比べて、押込シャフト7の傾斜を小さくできる。この結果、押込シャフト7は、強化ガラス3に対して可及的に垂直な姿勢を保持したまま押し込まれることになり、クサビ刃6が貫通孔5の内面に適切に押し付けられ、非常時に的確に強化ガラス3を割ることができる。
【0040】
その他、第2実施形態の基本的な作用・効果は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0041】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、建設機械のキャビンに窓として設けられた強化ガラスを非常時に割って脱出するための装置であって、非常時に容易に強化ガラスを割ることができる建設機械キャビン用の非常脱出装置に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 建設機械のキャビン
3 強化ガラス
4 非常脱出装置(第1実施形態)
5 貫通孔
6 クサビ刃
7 押込シャフト
8 ストッパー
9 ハンドル
10 リテーナー
11 止水パッキン
12 ガイドビード
4x 非常脱出装置(第2実施形態)
20 リテーナー
21 爪部
22 ガイド面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9