IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】移動経路推定方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240730BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20240730BHJP
   G06Q 50/10 20120101ALI20240730BHJP
   G06Q 50/40 20240101ALI20240730BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G08G1/01 F
G06Q50/10
G06Q50/40
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021026954
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022128625
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木下 祐紀子
(72)【発明者】
【氏名】望月 智之
(72)【発明者】
【氏名】大塚 理恵子
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G08G 1/01
G06Q 50/10
G06Q 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗換情報抽出部と、乗換箇所推定部と、乗換類似度算出部を備え、
前記乗換情報抽出部は、複数の経路それぞれについて、出発地、目的地、輸送手段及び前記輸送手段の乗換箇所についてあらかじめ定めた経路情報を読み込み、前記経路情報から、複数の経路それぞれについて、前記乗換箇所を抽出して乗換情報を生成し、
前記乗換箇所推定部は、輸送対象物の場所と時間の情報を含む移動ログ情報を読み込み、前記移動ログ情報から、乗換を行った場所を推定して乗換推定個所を生成し、
前記乗換類似度算出部は、複数の前記乗換情報と前記乗換推定個所を比較した結果特定される経路に基づいて、前記輸送対象物の移動経路を推定する、移動経路推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動経路推定システムであって、
前記乗換箇所推定部は、前記移動ログ情報から、前記輸送対象物の移動速度を計算することにより、乗換を行った場所を推定することを特徴とする移動経路推定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の移動経路推定システムであって、
前記乗換箇所推定部は、抽出した前記乗換箇所を含む領域における、前記輸送対象物の移動速度を計算することにより、乗換を行った場所を推定することを特徴とする移動経路推定システム。
【請求項4】
請求項3に記載の移動経路推定システムであって、
前記乗換箇所推定部は、抽出した前記乗換箇所を含む領域における、前記輸送対象物の平均移動速度をクラスタリングし、乗換を行った場所を推定することを特徴とする移動経路推定システム。
【請求項5】
請求項1に記載の移動経路推定システムであって、
前記乗換類似度算出部は、前記乗換情報の各経路の乗換箇所のパターンと、前記乗換推定個所の乗換を行った場所のパターンを比較して、前記輸送対象物の移動経路を推定することを特徴とする移動経路推定システム。
【請求項6】
請求項5に記載の移動経路推定システムであって、
前記乗換類似度算出部は、前記乗換情報の各経路の乗換箇所のパターンと、前記乗換推定個所の乗換を行った場所のパターンの距離を計算して、前記輸送対象物の移動経路を推定することを特徴とする移動経路推定システム。
【請求項7】
請求項1に記載の移動経路推定システムであって、
さらに他手法移動経路推定部と推定経路統合部を備え、
前記乗換類似度算出部は、前記輸送対象物の移動経路を推定して第1の推定結果を出力し、
前記他手法移動経路推定部は、前記輸送対象物の移動経路を推定して第2の推定結果を出力し、
前記推定経路統合部は、前記第1の推定結果と前記第2の推定結果に基づいて、前記輸送対象物の移動経路に関する統合推定結果を出力することを特徴とする、移動経路推定システム。
【請求項8】
乗換情報抽出部と、乗換箇所推定部と、乗換類似度算出部を備える情報処理システムで実行され、
前記乗換情報抽出部が、複数の経路それぞれについて、出発地、目的地、輸送手段及び前記輸送手段の乗換箇所についてあらかじめ定めた経路情報を読み込む第1のステップ、
前記乗換箇所推定部が、輸送対象物の場所と時間の情報を含む移動ログ情報を読み込み、前記移動ログ情報から、乗換を行った場所を推定して乗換推定個所を生成する第2のステップ、
前記乗換類似度算出部が、複数の経路それぞれに対応する前記乗換箇所と前記乗換推定個所を比較した結果特定される経路に基づいて、前記輸送対象物の移動経路を推定する第3のステップ、
を実行する移動経路推定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の移動経路推定方法であって、
前記乗換箇所推定部は、前記移動ログ情報から、前記輸送対象物の移動速度を計算することにより、乗換を行った場所を推定することを特徴とする移動経路推定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の移動経路推定方法であって、
前記乗換箇所推定部は、抽出した前記乗換箇所を含む領域における、前記輸送対象物の移動速度を計算することにより、乗換を行った場所を推定することを特徴とする移動経路推定方法。
【請求項11】
請求項8に記載の移動経路推定方法であって、
前記乗換類似度算出部は、前記経路の乗換箇所のパターンと、前記乗換推定個所の乗換を行った場所のパターンを比較して、前記輸送対象物の移動経路を推定することを特徴とする移動経路推定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の移動経路推定方法であって、
前記乗換類似度算出部は、前記経路の乗換箇所のパターンと、前記乗換推定個所の乗換を行った場所のパターンの距離を計算して、前記輸送対象物の移動経路を推定することを特徴とする移動経路推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送される対象物の移動経路を推定する技術に関する。特に、個人等が公共交通手段を使用する際の移動嗜好性を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今交通事業者においても、人を基準としたサービスが着目されている。例えば、旅客の満足がいくように、混雑解消・移動需要に合わせたダイヤ作成を行っている。乗換案内時にも、乗換回数や所要時間など、旅客の好む移動経路を提示するサービスが多い。さらに、どのような人が駅および列車を利用しているかを知ることが、駅周りの開発の指標となったり、広告の配置の参考になったりすることもある。
【0003】
このような状況を踏まえて、旅客の移動嗜好分析のニーズが高まっている。移動嗜好分析とは、旅客の属性と移動のパターンの相関関係を探ったり、移動時間帯ごとに移動パターンを見出したりするような分析を指す。移動嗜好分析を行うためには、旅客毎の移動経路の推定が必要となる。嗜好分析を行う上では、列車種別や乗換駅などの状態をも含む、着発間駅全体の移動経路の推定が必要となる。
【0004】
ここでは鉄道事業者に沿った説明を行ったが、バスやタクシーなどの交通事業者全般においても、移動嗜好分析は欠かせないものとなっており、それに伴い移動経路の推定も重要視されている。
【0005】
移動経路推定では、旅客の属性と結び付けやすいよう、旅客の持つスマートフォンなどから容易に取得が可能な移動ログ情報を用いる。移動ログ情報とは、旅客の位置情報とタイムスタンプを組み合わせたものである。移動ログ情報用いた移動経路の推定方法として、特許文献1~3のような公知技術があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-130038号公報
【文献】特開2015-088039号公報
【文献】特開2016-037079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、旅客の移動ログ情報と線路などの位置情報を照らし合わせて移動経路を推定するものである。このような移動経路の推定方法では、同線路上を走る特急列車や各停列車の見分けがつかず、旅客の移動嗜好性としては精度の低いものとなる。
【0008】
特許文献2は、旅客の移動ログ情報と地理情報を用いて乗換箇所を推定し、乗換所要時間を算出するものである。これは、乗換駅にのみ着目した推定方法であり、着発駅間の経路全体の推定を行うことはできない。
【0009】
特許文献3は、旅客の移動ログと鉄道の運行実績データを用いて乗車した列車の同定を行うものである。これは、鉄道運行実績データが必要となる。しかし、旅客の移動ログ情報に合わせた時間・場所の鉄道運行実績データを手に入れることは容易ではない。
【0010】
そこで本発明の課題は、鉄道の運行実績データを用いずに、乗換駅の判定も含んだ移動経路全体の推定を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、乗換情報抽出部と、乗換箇所推定部と、乗換類似度算出部を備え、前記乗換情報抽出部は、複数の経路それぞれについて、出発地、目的地、輸送手段及び乗換箇所についてあらかじめ定めた経路情報を読み込み、前記経路情報から、複数の経路それぞれについて、前記乗換箇所を抽出して乗換情報を生成し、前記乗換箇所推定部は、輸送対象物の場所と時間の情報を含む移動ログ情報を読み込み、前記移動ログ情報から、乗換を行った場所を推定して乗換推定個所を生成し、前記乗換類似度算出部は、前記乗換情報と前記乗換推定個所に基づいて、前記輸送対象物の移動経路を推定する、移動経路推定システムである。
【0012】
本発明の他の一側面は、乗換情報抽出部と、乗換箇所推定部と、乗換類似度算出部を備える情報処理システムで実行され、前記乗換情報抽出部が、複数の経路それぞれについて、出発地、目的地、輸送手段及び乗換箇所についてあらかじめ定めた経路情報を読み込む第1のステップ、前記乗換箇所推定部が、輸送対象物の場所と時間の情報を含む移動ログ情報を読み込み、前記移動ログ情報から、乗換を行った場所を推定して乗換推定個所を生成する第2のステップ、前記乗換類似度算出部が、前記乗換箇所と前記乗換推定個所に基づいて、前記輸送対象物の移動経路を推定する第3のステップ、を実行する移動経路推定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄道の運行実績データを用いずに、乗換駅の判定も含んだ移動経路全体の推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1による移動経路推定システムの全体構成図である。
図2】実施例1にて用いる入力データの一例を示す概要図である。
図3】実施例1にて用いる入力データの一例を示す概要図である。
図4】対象着発駅のデータ構造の一例を示す表図である。
図5】移動ログ情報のデータ構造の一例を示す表図である。
図6】経路情報のデータ構造の一例を示す表図である。
図7】地理情報のデータ構造の一例を示す表図である。
図8】移動経路推定システム全体の処理手順を示すフローチャートである。
図9】抽出経路情報のデータ構造の一例を示す表図である。
図10】乗換手法推定結果のデータ構造の一例を示す表図である。
図11】他手法推定結果のデータ構造の一例を示す表図である。
図12】統合推定結果のデータ構造の一例を示す表図である。
図13】出力用推定移動経路のデータ構造の一例を示す表図である。
図14】乗換手法移動経路推定プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図15】乗換情報のデータ構造の一例を示す表図である。
図16】乗換箇所推定プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図17】乗換箇所推定プログラムを説明するデータの一例を示す概要図である。
図18】乗換箇所推定プログラムを説明する平均速度データの一例を示す表図である。
図19】乗換箇所推定プログラムを説明するグラフの一例を示す図である。
図20】乗換推定箇所のデータ構造の一例を示す表図である。
図21】乗換類似度算出プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図22】乗換類似度のデータ構造の一例を示す表図である。
図23】推定経路統合プログラムの処理手順を示すフローチャートである。
図24】移動経路推定結果の出力ログおよび出力ファイルの表示例である。
図25】移動経路推定分析開始時の画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0016】
以下に説明する実施例の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0017】
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0018】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0019】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0020】
本明細書で引用した刊行物、特許および特許出願は、そのまま本明細書の説明の一部を構成する。
【0021】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0022】
実施例の一例として示す移動経路推定システムは、乗換情報抽出プログラム、乗換箇所推定プログラム、乗換類似度算出プログラム、移動経路推定プログラムを備える。乗換情報抽出プログラムでは、経路候補毎に乗換で使用する駅を抽出する。乗換箇所推定プログラムでは、旅客の移動ログ情報を用いて旅客が乗換に使用した駅を推定する。乗換類似度算出プログラムでは、各経路候補の乗換使用駅と旅客の推定乗換使用駅の類似度を計算し、各経路と旅客の組合せにおける乗換類似度を算出する。移動経路推定プログラムでは、算出した乗換類似度をもとに、旅客の使用した経路を決定する。ここでは、乗換駅に着目した推定を行っているが、粒度を細かくして同じ推定を行うことで、列車の停車駅情報の推定も行うことができる。
【実施例1】
【0023】
本実施形態では、乗換による移動経路の推定を行う方法と、他の移動経路推定方法、例えば、特許文献1のようなものや、新たに開発した任意の移動経路推定方法を組み合わせて、より精度の高い移動経路推定結果を出力する移動経路推定システムの例を説明する。この移動経路推定システムは、移動嗜好分析システムから呼び出されるものである。あるいは、移動に関するデータ分析を行うデータ分析担当者が使用するものである。本システムは、移動嗜好分析システムが実行処理をかけたタイミングや、データ分析担当者が実行した任意のタイミングで実行される。
【0024】
<1.全体構成例>
図1は、移動経路推定システムの全体構成例である。本実施例の移動経路推定システム1は、一般的なサーバーを利用し、機能の一部はソフトウェアで実装することにした。一般的なサーバーと同様に、移動経路推定システム1は、CPU(Central Processing Unit)11、各種インターフェースの一つである通信部12、半導体メモリ等で構成されるメモリ13、磁気ディスク装置等で構成される記憶部14を備えている。
【0025】
以上の構成は、単体のコンピュータで構成してもよいし、あるいは、構成の任意の部分が、ネットワークで接続された他のコンピュータで構成されてもよい。また、本実施例中、ソフトウェアで構成した機能と同等の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアでも実現できる。
【0026】
本システムは、対象着発駅1401、移動ログ情報1402、経路情報1403、地理情報1404を入力データとして使用する。これらの入力データは、移動経路推定システム1の通信部12で読み込まれたのち、記憶部14の中で保持される。次に、これらのデータの説明を行う。図2図3には、今回の実施例で扱う入力データの概要を示した。
【0027】
図2は、経路情報1403を路線図として示し、その上に移動ログ情報1402を三角のマークでマッピングしたものである。今回対象とする発駅と着駅は、後に図4で示す対象着発駅1401で示した通りA駅とE駅とする。この2つの駅間を移動するには、3つの乗換駅と4つの路線を使用する可能性があることが、経路情報1403から分かる。さらに、一旅客の移動ログ情報が三角のマークを用いて記されている。
【0028】
図3は、地理情報1404で示している各駅の緯度経度情報や、各路線の線路の緯度経度情報を示す。
【0029】
図4は、対象着発駅1401のデータ構造例である。発駅領域14011と着駅領域14012を保有し、それぞれに推定対象となる駅名が格納される。今回は格納を駅名としたが、対応する駅のコードや番号を用いても良い。対象着発駅1401は、例えばユーザが対象としたい着発駅を設定し、通信部12経由で記憶部14に記録する。
【0030】
図5は、移動ログ情報1402のデータ構造例である。旅客ID領域14021には、今回分析の対象とする旅客を識別するIDが格納される。ここではU001が分析対象となる一旅客として示されている。この領域には、このあとU002のデータ、U003のデータ、…と複数の旅客のデータが格納される。タイムスタンプ領域14022では、各旅客の移動ログを取得したタイミングの時間が格納される。緯度領域14023と、経度領域14024には、タイムスタンプ領域14022のタイミングで取得した位置情報が格納される。移動ログ情報1402は、例えば旅客が携帯する携帯端末から得られる位置と時間の情報を収集し、通信部12経由で記憶部14に記録する。
【0031】
図6は、経路情報1403のデータ構造例である。経路ID領域14031には、各経路を識別するIDが格納される。所要時間領域14032には、各経路の所要時間が格納される。これは、他手法移動経路推定プログラム133で所要時間を用いることがあるためであり、本発明における乗換手法移動経路推定プログラム132では本データは必要としない。経路情報領域14033では、それぞれの経路の詳細を示す。発駅から着駅までの、移動に用いた路線及びその路線を使用した区間と乗換駅が記載されている。ここで記載される路線には特急などの列車種別を記載してもよい。また、ここで記載されている駅名や路線名はそれと対応するコードや数値でもかまわない。経路情報1403は、例えば鉄道会社やバス会社等の交通機関が作成した路線や運行ダイヤ情報を入手し、通信部12経由で記憶部14に記録する。
【0032】
図7は、地理情報1404のデータ構造例である。路線名領域14041には、経路情報領域14033に記載されていたそれぞれの路線名が対応する。こちらも同様に、路線名に対応するコードや数値が記載されていても構わない。本地理情報は、図3に示した通り、各駅から次の駅までの線路を分割し、分割点の緯度経度の情報を提示することで、線路全体の地理情報を表している。駅名領域14042には、路線名領域14041の路線に存在する駅の一覧が記載される。こちらも、駅名でなくとも、駅名に対応するコードや数値が格納されても良い。この領域は、駅間の分割点を示す行に対しては空の情報、または“-”のような内容のないデータが格納される。緯度領域14043および経度領域14044には、領域14041、14042に対応する緯度経度情報が格納される。これらのデータは実際の路線形状の順番に格納されており、上から順に経路をつなぐことで実際の路線形状を表すことができる。地理情報1404は、例えば地図作成業者から地図データを入手して経路情報1403と関連付けるように加工し、通信部12経由で記憶部14に記録する。
【0033】
移動経路推定システム1は、他にもCPU11やメモリ13を保持しており、メモリ13には、経路候補抽出プログラム131、乗換手法移動経路推定プログラム132、他手法移動経路推定プログラム133、推定経路統合プログラム134、出力結果生成プログラム135が格納されている。また、乗換手法移動経路推定プログラム132内は、乗換情報抽出プログラム1321、乗換箇所推定プログラム1322、乗換類似度算出プログラム1323、移動経路推定プログラム1324からなる。それぞれのプログラムの処理は後述する。
【0034】
これらのプログラムを実行していくことで、記憶部14に、抽出経路情報1405、乗換情報1406、乗換推定箇所1407、乗換類似度1408、乗換手法推定結果1409、他手法推定結果1410、統合推定結果1411、出力用推定移動経路1412が格納されていく。それぞれの説明は各処理の説明の際に行う。
【0035】
移動経路推定システム1は、CPU11、通信部12、メモリ13、記憶部14を有する情報処理装置により構成することができる。前述のメモリに配置されているプログラムは、CPUが実行することにより実現する。
【0036】
<2.処理手順全体例>
図8は、移動経路推定システム1全体の処理手順例である。前述したとおり、本システムは、移動嗜好分析システムが実行処理を走らせたり、データ分析者が実行したりするタイミングで、この処理が行われる。まず、処理手順の全体を通して説明し、後に各プログラムの処理内容を個別に説明する。
【0037】
まず、経路候補抽出プログラム131にて、対象着発駅1401と経路情報1403から抽出経路情報1405を抽出する。
【0038】
図9に、出力される抽出経路情報1405のデータ構成例を示す。経路ID領域14051、所要時間領域14052、経路情報領域14053から成り立っており、この領域は経路情報1403のものと同じ役割を果たすものである。しかし、今回示されているデータは、経路情報領域14053を見ると、発着駅は対象着発駅1401の発着駅と同じである。すなわち、図6の経路情報1403から、発駅がA駅、着駅がE駅のもののみを抽出していることがわかる。
【0039】
図8に戻り、次に、乗換手法移動経路推定プログラム132にて、抽出経路情報1405、移動ログ情報1402、地理情報1404から、乗換手法推定結果1409が出力される。乗換手法移動経路推定プログラム132の詳細は後述する。
【0040】
次に、他手法移動経路推定が含まれている場合は、他手法移動経路推定プログラム133を実行し、他手法推定結果1410を出力する。
【0041】
さらに、推定経路統合プログラム134を実行し、乗換手法推定結果1409と、他手法推定結果1410から、統合推定結果1411を出力する。推定経路統合プログラム134については後述する。
【0042】
図10図11図12に、乗換手法推定結果1409、他手法推定結果1410、統合推定結果1411のデータ構造例をそれぞれ示す。どのデータも同じ構造をしており、旅客ID領域には旅客を識別するためのコードが格納され、経路ID領域には利用した可能性のある経路を識別するためのコードが格納され、確率領域にはその旅客がその経路を使用した可能性が格納され、ランク領域には旅客ごとに確率領域の高い順につけられたランクが格納されている。
【0043】
図8に戻り、最後に、出力結果生成プログラム135が実行される。ここでは、乗換手法推定結果1409と、他手法移動経路推定が含まれる場合は他手法推定結果1410と統合推定結果1411と、から、出力用推定移動経路1412を出力する。この処理は、各推定結果を出力用としてわかりやすくデータ整形を行う処理である。
【0044】
図13に、出力用推定移動経路1412のデータ構造例を示す。旅客ID領域には旅客を識別するためのコードが格納される。経路IDには利用した可能性のある経路が格納される。乗換推定結果領域には乗換手法推定結果の確率領域14094が格納される。他手法推定結果領域には、他手法移動経路推定が含まれる場合は他手法推定結果の確率領域14104が格納される。統合推定結果領域には、他手法移動経路推定が含まれる場合は統合推定結果の確率領域14114が格納され、他手法移動経路推定が含まれない場合は、乗換手法推定結果の確率領域14094が格納される。ランク領域には、統合推定結果領域を基にした使用可能性の高い順にランク付けした結果が格納される。このすべての推定結果が含まれたデータが移動経路推定システム1の最終出力結果となり、移動嗜好分析システムで使用されたり、データ分析担当者によって分析されたりする。
【0045】
<3.乗換手法移動経路推定プログラム>
図14は、乗換手法移動経路推定プログラム132の処理手順例である。
【0046】
<3-1.乗換情報抽出プログラム>
まず、乗換情報抽出プログラム1321を実行し、抽出経路情報1405から乗換情報1406を作成する。
【0047】
図15に、乗換情報1406のデータ構造を示す。経路ID領域14061には、抽出経路情報の各経路IDが格納される。乗換駅領域14062には、抽出された全経路の乗換駅の一覧が記載される。今回は、乗換を行う駅には1を、それ以外の駅には0を格納している。ここでは、数値ではなく真偽値など他の値を用いて区別をつけても良い。
【0048】
図14に戻り、次に、旅客ごとに乗換箇所推定プログラム1322と、乗換類似度算出プログラム1323と、移動経路推定プログラム1324を実行する。
【0049】
<3-2.乗換箇所推定プログラム>
図16に、乗換箇所推定プログラム1322の処理手順の詳細を示す。今回は、旅客の移動ログ情報の取得間隔が比較的大きく、乗換部分が詳細に抽出できない場合の対処法を説明するが、移動ログ情報の取得間隔が細かく、乗換した箇所が正確にわかる場合はこの方法を使用するばかりではない。
【0050】
STEP13221では、抽出経路情報1405と地理情報1404から、抽出経路上の乗換駅の緯度経度を取得する。
【0051】
STEP13222では、移動ログ情報1402とSTEP13221で取得した乗換駅の緯度経度情報から、駅前後の移動ログ情報を取得する。
【0052】
図17に、駅前後の移動ログ情報の例を示す。今回候補となる経路に、C駅とF駅という駅が連なって存在していたとする。取得した各駅の緯度経度情報をもとに、駅から一定範囲内にある移動ログを駅上にあるデータとし、駅上データがある場合は、そのデータと、そのデータの前後の時間のログを一つずつ取得する。駅上データがない場合は、各移動ログの位置情報の間の地点に駅の緯度経度に含まれる地点がないかを見ながら、駅の前後の部分に対応すると思われるログを取得する。
【0053】
図17では、C駅のデータとして黒丸マーク部分が、F駅のデータとして三角マーク部分が取得される。また、このとき、GPSの精度によって移動ログに含まれる緯度経度情報に揺らぎが含まれるため、その揺らぎが少なくなるような処理をあらかじめかけておくことで、精度よく駅前後の移動ログが取得できるようになる。
【0054】
図16に戻り、STEP13223では、STEP13222で取得した駅前後の移動ログ情報の、タイムスタンプ領域14022、緯度領域14023、経度領域14024を使って、各駅の平均移動速度を算出する。ここでは、緯度領域と経度領域から駅前後として抽出されたログのそれぞれのログ間の直線距離を算出し、全てのログ間の距離の和を取ることで大まかな移動距離を算出する。さらに、駅前後として抽出されたログのうち、最初のログと最後のログのタイムスタンプ領域から移動時間を算出する。算出した大まかな移動距離を移動時間で割ることで、大まかな平均速度を得ることができる。しかし、ここで示した平均速度の算出方法は一例にすぎず、各ログ間の平均速度を出したうえで全体の平均速度を算出するといった他の方法も考えられる。
【0055】
図18は、各駅での平均移動速度の例を示したものである。
図16に戻り、STEP13224では、乗換・停車・通過のラベリングを実施する。
【0056】
図19に、ラベリングを実施した例を示す。各駅の平均移動速度は、列車が停止した場合、停車時間分だけ遅くなり、旅客が乗換を行った場合、旅客が乗換移動に使った時間の分だけ遅くなる。よって、平均移動速度には、乗換駅<停車駅<通過駅の関係が成り立つはずである。これを利用し、平均速度を変数として3つのグループにクラスタリングを実施し、平均移動速度の遅い順に、乗換駅、停車駅、通過駅とラベリングすることができる。そのほかにも、乗車駅、停車駅、通過駅の閾値となる平均速度をあらかじめ決めておくことで、それぞれのラベリングを実施するなど、さまざまなラベリング方法が考えられる。また、ここではラベリングではなく、閾値との差分から確度を求めて付与することも考えられる。
【0057】
図16に戻り、STEP13225では、ここまでで推定した乗換駅をデータとして出力する。
【0058】
図20に、出力された乗換推定箇所1407のデータ構造を示す。旅客ID領域14071には、分析対象の旅客IDが格納される。乗換駅領域14072には、該当する旅客の移動経路における、乗換情報の乗換駅領域14062と同様の乗換候補駅の一覧が記載される。STEP13224のラベリングの結果、乗換駅と推定される駅には1を、それ以外の駅には0を格納している。ここでは、数値ではなく真偽値を用いて区別をつけても良い。さらに、閾値との差分から求めた確度を格納しても良い。今回の場合、確度を0~1の確率に正規化することが望ましいが、すべての場合においてそうであるとは限らない。
【0059】
<3-3.乗換類似度算出プログラム>
図21に、乗換類似度算出プログラム1323の処理手順例の詳細を示す。STEP13231では、乗換情報1406と乗換推定箇所1407を取得し、各旅客の乗換推定箇所と乗換情報の距離を算出する。本実施例では、旅客の乗換推定箇所と乗換情報のユーグリッド距離を算出し、乗換類似度を推定する。STEP13232にて作成・更新される乗換類似度1408のデータ構造を見ながら距離の算出方法を説明する。
【0060】
図22に、乗換類似度1408のデータ構造を示す。乗換類似度は旅客ID領域14081と経路ID領域14082と類似度領域14083からなる。旅客ID領域の旅客と経路ID領域の経路の乗換推定箇所と乗換情報の類似度を算出したものが類似度領域に格納される。
【0061】
まず、図20図15の、旅客U001と経路R001のユークリッド距離を求める例を説明する。それぞれの乗換の有無を、乗換情報1406と乗換推定箇所1407から取り出し、ユークリッド距離を計算すると、√((1-1)^2+(0-1)^2+(0-0)^2)=1となる。ここから、類似度として扱いやすいよう、距離に1を足して逆数をとると、類似度は1/2=0.5と算出される。
【0062】
このように、各移動経路候補の乗換駅と、各旅客の推定乗換駅を数値化し、駅の相違数を距離として、乗換類似度を算出することができる。これは、旅客の乗換推定個所のパターン(例えば旅客U001の移動経路における乗換駅“1”“0”のパターン)と、乗換情報のパターン(例えば経路R001の乗換駅“1”“0”のパターン)を比較する処理ということができる。
【0063】
同様に、旅客U001と経路R002のユーグリッド距離は√((1-1)^2+(1-1)^2+(0-0)^2)=0となり、類似度は1/1=1.0となり、旅客U001と経路R003のユーグリッド距離は√((0-1)^2+(0-1)^2+(1-0)^2)=√3となり、類似度は1/(1+√3)=0.366…と算出される。
【0064】
ここで求まった0.5、1.0、0.366…≒0.37が、類似度領域に格納されている。なお、今回は類似度の算出方法としてユーグリッド距離を基にした類似度算出方法を用いたが、コサイン類似度などその他の類似度手法を用いても良い。
<3-4.移動経路推定プログラム>
移動経路推定プログラム1324では、算出した乗換類似度1408を、旅客の乗換類似度を高い順にソートし、ソートした乗換類似度にランクをラベル付けし、乗換手法推定結果を作成・更新する。
【0065】
<4.推定経路統合プログラム>
図23は、推定経路統合プログラム134の処理手順を示す。
本処理手順を示す前に、他手法移動経路推定プログラム133について説明する。これは、今回提案した乗換手法による移動経路推定とは異なり、既存手法である所要時間を用いた移動経路の推定や、地理情報と移動ログの誤差を用いた移動経路の推定により移動経路を推定する。既存手法のほかに、所要時間の推定時にその経路に見合った確率分布を使用したり、地理情報と移動ログの誤差を用いて推定する際に誤差に対する確率分布を使用したりするなど、新規手法による移動経路の推定もここに含まれ、これらのどの移動経路推定方法を使用しても良い。
【0066】
今回は、地理情報と移動ログの誤差を用いる移動経路の推定方法を使用したと仮定して、他手法推定結果1410のデータ構造例を図11にて説明する。旅客ID領域14101、ランク領域14102、経路ID領域14103、確率領域14104ともに、乗換手法推定結果1409の各領域と同じデータ構造となる。しかし、今回確率領域14104には、地理情報と移動ログの誤差を用いた移動経路の推定結果が格納されている。
【0067】
図2に記載した入力データの概要と、抽出経路情報1405を振り返ると、経路R001と経路R002は、WW線とXX線を用いた同線路上での移動となり、地理情報と移動ログの誤差を用いるだけではこの2つの経路の見分けがつかない。よって、経路R001と経路R002の確率は0.8と同じ値を示しており、ランクも同率1位となっている。
【0068】
以上を踏まえて、推定経路統合プログラム134の説明をする。STEP1341にて、乗換手法推定結果1409と他手法推定結果1410の推定結果を取得する。次に、旅客ごとにSTEP1342~STEP1344を行う。
【0069】
STEP1342では、各手法の推定結果の変換を行う。ここでは、最終的な推定結果に、乗換手法推定結果と他手法推定結果がどの程度影響させるかを調整するため、各推定結果に重みづけを行ったり、各推定結果の確率を他の確率分布にマッピングしたりする。この処理は任意で行われる処理となり、例えばオペレータが任意に処理を選択できる。今回の実施例では、乗換手法推定結果の値を半分に凝縮することで、乗換手法推定結果の影響度合いを小さくする。具体的には、乗換手法推定結果を0.5倍し、0.5を足す。よって、乗換手法推定結果の確率領域14094は、ランク順に1.0、0.75、0.685へと変換される。
【0070】
STEP1343では、変換後推定結果同士の乗算を行う。例えば、経路R001における乗換手法推定結果の確率領域14094は0.75(変換前0.5)、他手法推定結果の確率領域14104は0.8であり、この二つの結果を掛け合わせると0.75×0.8=0.6となる。同様に、経路R002は、1.0×0.8=0.8、経路R003は、0.685×0.15=0.102と算出される。
【0071】
STEP1344では、計算した結果をもとに統合推定結果1411の作成・更新を行う。統合推定結果1411のデータ構造例を図14に示す。旅客ID領域14111、ランク領域14112、経路ID領域14113、確率領域14114ともに、乗換手法推定結果1409、他手法推定結果1410と同じデータ構造となるが、確率領域14114には、STEP1343で算出した各推定結果の統合推定結果が格納される。
【0072】
<5.表示例>
図24は、出力結果生成プログラム135が生成する、移動経路システム1の出力ログ例および出力ファイルの表示例である。これは、出力用推定移動経路1412と同じ内容となっているが、これが出力ログである場合、必ずしも同じ内容にする必要はない。ここで、乗換手法移動経路推定プログラム132を用いた、乗換手法推定結果1409の内容が確認できる。
【0073】
図25は、移動経路システム1の分析開始画面例である。ここでは、データ分析担当者が使用するようなGUIを例として挙げているが、移動嗜好分析システムが本システムを用いるときなど、GUIを用いることのできない場面では、必ずしもこういった画面が出てくるとは限らず、APIのやり取りなどで置き換えることとなる。ここでは、移動経路推定システムの中でどのような推定手法を用いるかが選択可能となっており、内部で用いる乗換手法移動経路推定プログラム132や他手法移動経路推定プログラム133の使用有無を決定する。
【0074】
以上説明した実施例の移動経路推定システムは、乗換情報抽出プログラム、乗換箇所推定プログラム、乗換類似度算出プログラム、移動経路推定プログラムを備える。乗換情報抽出プログラムでは、経路候補毎に乗換で使用する駅を抽出する。乗換箇所推定プログラムでは、旅客の移動ログ情報を用いて旅客が乗換に使用した駅を推定する。乗換類似度算出プログラムでは、各経路候補の乗換使用駅と旅客の推定乗換使用駅の類似度を計算し、各経路と旅客の組合せにおける乗換類似度を算出する。移動経路推定プログラムでは、算出した乗換類似度をもとに、旅客の使用した経路を決定する。このような構成により、鉄道の実績運行データを用いずに、旅客の移動ログ情報から、列車種別の判別を含む移動経路の推定を行い、これにより、運用コストを下げた形で高精度な移動経路嗜好分析を行うことを可能とする。実施例では、一般のコンピュータでプログラムを実行させてシステムを実現する例を示したが、一部または全部をハードウェアで置き換えてもよい。また、機械学習を用いた人工知能で推定を行う機能を実現し、置き換えることもできる。
【符号の説明】
【0075】
1:移動経路推定システム、11:CPU、13:メモリ、1321:乗換情報抽出プログラム、1322:乗換箇所推定プログラム、1323:乗換類似度算出プログラム、1402:移動ログ情報、1408:乗換類似度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25