(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 19/00 20060101AFI20240730BHJP
D05C 13/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
D05B19/00
D05C13/00
(21)【出願番号】P 2021027064
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】窪田 次勇
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-200791(JP,A)
【文献】特開2012-139436(JP,A)
【文献】特開2012-239912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 19/00
D05C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定面内において縫製対象物を保持して移動可能な保持部材と、
上糸が供給されるミシン針を保持する針棒と、
前記針棒を支持した状態で、前記所定面と直交する回転軸を中心に回転可能な頭部と、
前記頭部と同期して前記回転軸を中心に回転し、下糸を供給することにより前記ミシン針と協働して前記縫製対象物に縫い目を形成する釜と、
縫製データに基づいて、前記保持部材の移動を制御する移動制御部と、
前記縫製データにより指定される前記保持部材の移動方向の変化量に基づいて、前記頭部及び前記釜の回転角度を制御する回転制御部と、を備え、
前記回転制御部は、前記縫い目が前記縫製対象物の第1範囲に形成されるときに、前記回転角度が前記変化量に一致するように制御し、前記縫い目が前記縫製対象物の第2範囲に形成されるときに、前記回転角度が前記変化量よりも小さくなるように制御する、
ミシン。
【請求項2】
前記回転制御部は、前記縫い目が前記縫製対象物の第2範囲に形成されるときに、前記頭部及び前記釜と前記保持部材の移動方向との回転角度と前記変化量との差が差分閾値以下になるように制御する、
請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記回転角度を前記変化量よりも小さくすることは、前記回転角度をゼロにすることを含む、
請求項1又は請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
所定面内において縫製対象物を保持して移動可能な保持部材と、
上糸が供給されるミシン針を保持する針棒と、
前記針棒を支持した状態で、前記所定面と直交する回転軸を中心に回転可能な頭部と、
前記頭部と同期して前記回転軸を中心に回転し、下糸を供給することにより前記ミシン針と協働して前記縫製対象物に縫い目を形成する釜と、
縫製データに基づいて、前記保持部材の移動を制御する移動制御部と、
前記縫製データにより指定される前記保持部材の移動方向の変化量に基づいて、前記頭部及び前記釜の回転角度を制御する回転制御部と、を備え、
前記回転制御部は、
前記縫い目が前記縫製対象物の第1範囲に形成されるときに、前記回転角度が前記変化量に一致するように制御し、前記縫い目が前記縫製対象物
の第2範囲に形成されるときに、前記頭部及び前記釜と前記保持部材の移動方向とのなす角度が角度閾値以下になるように制御する、
ミシン。
【請求項5】
所定面内において縫製対象物を保持して移動可能な保持部材と、
上糸が供給されるミシン針を保持する針棒と、
前記針棒を支持した状態で、前記所定面と直交する回転軸を中心に回転可能な頭部と、
前記頭部と同期して前記回転軸を中心に回転し、下糸を供給することにより前記ミシン針と協働して前記縫製対象物に縫い目を形成する釜と、
縫製データに基づいて、前記保持部材の移動を制御する移動制御部と、
前記縫製データにより指定される前記保持部材の移動方向の変化量に基づいて、前記頭部及び前記釜の回転角度を制御する回転制御部と、を備え、
前記回転制御部は、前記変化量が変化量閾値以上のときに、前記回転角度が前記変化量に一致するように制御し、前記変化量が前記変化量閾値未満のときに、前記回転角度が前記変化量よりも小さくなるように制御する、
ミシン。
【請求項6】
前記回転角度を前記変化量よりも小さくすることは、前記回転角度をゼロにすることを含む、
請求項
5に記載のミシン。
【請求項7】
前記回転制御部は、前記ミシン針が前記縫製対象物から抜けているときに前記頭部及び前記釜を回転させる、
請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
縫製対象物の意匠性を高めるために、縫製対象物に縫い目が形成される場合がある。例えば車両用シートに使用される表皮材に縫い目が形成される場合がある。表皮材に縫い目を形成する場合、電子サイクルミシンが使用される。電子サイクルミシンとは、予め作成された縫製データに基づいて、縫製対象物に縫い目を形成するミシンをいう。非特許文献1には、頭部が回転する電子サイクルミシンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】JUKI製品情報AMS-251、インターネット<URL:https://www.juki.co.jp/industrial_j/products_j/lether_j/cycle_non/detail.php?cd=AMS-251>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
縫製対象物の移動方向に合わせて頭部が回転することにより、高品質な縫い目が形成される。頭部の回転は、ミシン針が縫製対象物から抜けているときに実施される。そのため、頭部を回転させるとき、頭部の回転に要する時間を確保するために、ミシンの縫い速度を低下させる必要がある。縫い速度が低下すると、縫製効率が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、頭部が回転するミシンにおいて、縫製効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従えば、所定面内において縫製対象物を保持して移動可能な保持部材と、上糸が供給されるミシン針を保持する針棒と、前記針棒を支持した状態で、前記所定面と直交する回転軸を中心に回転可能な頭部と、前記頭部と同期して前記回転軸を中心に回転し、下糸を供給することにより前記ミシン針と協働して前記縫製対象物に縫い目を形成する釜と、縫製データに基づいて、前記保持部材の移動を制御する移動制御部と、前記縫製データにより指定される前記保持部材の移動方向の変化量に基づいて、前記頭部及び前記釜の回転角度を制御する回転制御部と、を備え、前記回転制御部は、前記縫い目が前記縫製対象物の第1範囲に形成されるときに、前記回転角度が前記変化量に一致するように制御し、前記縫い目が前記縫製対象物の第2範囲に形成されるときに、前記回転角度が前記変化量よりも小さくなるように制御する、ミシンが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、頭部が回転するミシンにおいて、縫製効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るミシンを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るミシンの一部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るミシンの一部を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る縫製対象物を示す平面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る制御装置を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る回転制御部の処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本開示は実施形態に限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
ミシン1にローカル座標系が規定される。実施形態においては、ミシン1に規定されるローカル座標系を適宜、ミシン座標系、と称する。ミシン座標系は、XYZ直交座標系により規定される。実施形態においては、ミシン座標系に基づいて各部の位置関係について説明する。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向とする。X軸と直交する所定面内のY軸と平行な方向をY軸方向とする。所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。また、X軸を中心とする回転方向又は傾斜方向をθX方向とする。Y軸を中心とする回転方向又は傾斜方向をθY方向とする。Z軸を中心とする回転方向又は傾斜方向をθZ方向とする。また、実施形態においては、X軸及びY軸を含む平面を適宜、XY平面、と称する。XY平面は、所定面と平行である。実施形態においては、XY平面と水平面とが平行であることとする。Z軸方向は上下方向である。+Z方向は上方向であり-Z方向は下方向である。なお、XY平面が水平面に対して傾斜していてもよい。
【0011】
[第1実施形態]
<ミシン>
図1は、本実施形態に係るミシン1を示す斜視図である。
図2及び
図3のそれぞれは、本実施形態に係るミシン1の一部を示す斜視図である。本実施形態において、ミシン1は、電子サイクルミシンである。ミシン1は、テーブル2と、フレーム3と、頭部4と、頭部回転装置5と、保持部材6と、保持部材移動装置7と、釜8と、釜回転装置9と、電源スイッチ10と、スタートスイッチ11と、一時停止スイッチ12と、非常停止スイッチ13と、操作パネル14と、制御装置15とを備える。
【0012】
テーブル2は、針板20を含む天板21と、脚部22と、側板23とを有する。脚部22は、天板21を支持する。脚部22は、複数設けられる。脚部22の下面は、縫製工場の床面に接触する。側板23は、複数の脚部22の間に配置される。
【0013】
複数の脚部22のそれぞれにアジャスタ24が設けられる。アジャスタ24により、脚部22の下面がZ軸方向に移動する。アジャスタ24は、Z軸方向における脚部22の下面の位置を調整する。複数の脚部22の下面のそれぞれの位置が調整されることにより、天板21の上面の傾斜角度が調整される。実施形態において、天板21の上面とXY平面とが平行になるように、複数の脚部22の下面のそれぞれの位置が調整される。
【0014】
テーブル2は、キャスタ25により床面を移動可能である。キャスタ25は、車輪又はコロを含む。キャスタ25は、テーブル2を移動可能に支持する。アジャスタ24により、脚部22の下面は床面から離れることができる。脚部22の下面が床面から離れた状態で、キャスタ25が床面を回転することにより、テーブル2は移動する。テーブル2を床面に設置する場合、アジャスタ24により、キャスタ25が床面から離れ、脚部22の下面が床面に接触するように、脚部22の下面の位置が調整される。
【0015】
フレーム3は、テーブル2の天板21に支持される。フレーム3は、天板21の+X側且つ+Y側の角部に設置される第1柱部31と、天板21の-X側且つ+Y側の角部に設置される第2柱部32と、第1柱部31の上端部と第2柱部32の上端部とを繋ぐ梁部30とを有する。フレーム3は、所謂、門型フレームである。
【0016】
頭部4は、フレーム3の梁部30に支持される。頭部4は、保持部材6の上方に配置される。頭部4は、針棒40を支持する。頭部4は、針棒40を支持した状態で、XY平面と直交する回転軸AXを中心に回転可能である。頭部4の周囲に、カバー部材33が配置される。
【0017】
針棒40は、Z軸方向に往復移動可能に頭部4に支持される。針棒40は、ミシン針41を保持する。針棒40は、ミシン針41とZ軸とが平行になるように、ミシン針41を保持する。実施形態において、回転軸AXとミシン針41とは一致する。
【0018】
天板21に糸巻き装置16が設けられる。頭部4に糸立て装置17が設けられる。上糸は、糸巻き装置16から糸立て装置17を経由して、ミシン針41に供給される。上糸は、ミシン針41の針孔42に通される。
【0019】
頭部回転装置5は、回転軸AXを中心に頭部4を回転させる動力を発生する。頭部回転装置5は、例えばステッピングモータのようなアクチュエータを有する。
【0020】
保持部材6は、縫製対象物50を保持する。保持部材6は、枠状の部材である。保持部材6は、縫製対象物50の周囲を挟むことによって縫製対象物50を保持する。保持部材6は、天板21の上面に移動可能に支持される。保持部材6は、ミシン針41の直下の縫製位置を含むXY平面内において縫製対象物50を保持して移動可能である。
【0021】
保持部材移動装置7は、XY平面内において保持部材6を移動させる動力を発生する。保持部材移動装置7は、保持部材6をX軸方向に移動させるX軸移動装置7Xと、保持部材6をY軸方向に移動させるY軸移動装置7Yとを有する。X軸移動装置7Xは、天板21の+Y側の縁部においてX軸方向に延伸するX軸ガイド部材と、モータ及びボールねじ機構を含むX軸駆動部とを有する。Y軸移動装置7Yは、Y軸方向に延伸するY軸ガイド部材と、モータ及びボールねじ機構を含むY軸駆動部とを有する。
【0022】
釜8は、天板21の下方に配置される。釜8にボビンケースが収容される。ボビンケースは、下糸が巻かれたボビンを保持する。釜8は、下糸を供給することにより、ミシン針41と協働して、縫製対象物50に縫い目を形成する。釜8は、天板21の針板20の直下に配置される。針板20は、ミシン針41が通過可能な開口26を有する。
【0023】
頭部4は、縫製対象物50を上方から押さえる中押さえ43を有する。中押さえ43は、ミシン針41が通過する開口を有する。中押さえ43は、ミシン針41の周囲の縫製対象物50を押える。ミシン針41は、Z軸方向に往復移動する。中押さえ43により、ミシン針41の移動による縫製対象物50の浮き上がりが抑制される。ミシン針41は、中押さえ43に押さえられた縫製対象物50を貫通する。
【0024】
釜8は、ミシン針41の往復移動に伴って回転する。縫製対象物50を貫通したミシン針41が上昇するときに、上糸のループが形成される。上糸のループは、回転する釜8の剣先に掛けられる。剣先に掛けられた上糸のループは、釜8の回転運動に伴って拡がり、ボビンケースの表面を通過する。上糸のループが剣先から外れると、上糸が縫製対象物50に引き寄せられ、下糸と絡み合う。上糸と下糸とが絡み合うことにより、縫製対象物50に縫い目が形成される。
【0025】
釜8は、頭部4と同期して回転軸AXを中心に回転する。すなわち、頭部4と釜8とは、回転軸AXを中心に一緒に回転する。
【0026】
釜回転装置9は、回転軸AXを中心に釜8を回転させる動力を発生する。釜回転装置9は、例えばステッピングモータのようなアクチュエータを有する。釜回転装置9は、頭部4と釜8とが回転軸AXを中心に一緒に回転するように駆動する。
【0027】
電源スイッチ10、スタートスイッチ11、一時停止スイッチ12、非常停止スイッチ13、及び操作パネル14のそれぞれは、作業者に操作される。電源スイッチ10が操作されることにより、ミシン1の電源が起動する。スタートスイッチ11が操作されることにより、ミシン1の駆動が開始され、ミシン1による縫製処理が開始される。縫製処理とは、縫製対象物50に縫い目を形成する処理をいう。実施形態において、ミシン1は、予め作成された縫製データに基づいて、縫製対象物50に縫い目を形成する。保持部材6が縫製対象物50を保持した状態で、縫製データに基づいて縫製位置を含むXY平面内において移動することにより、縫製対象物50に縫い目が形成される。一時停止スイッチ12が操作されることにより、ミシン1の駆動が停止される。非常停止スイッチ13が操作されることにより、ミシン1の駆動が強制的に停止される。操作パネル14は、天板21の上面に搭載される。操作パネル14は、入力装置18と表示装置19とを有する。
【0028】
<縫製対象物>
図4は、本実施形態に係る縫製対象物50を示す平面図である。
図4は、縫製処理前の縫製対象物50を示す。実施形態において、縫製対象物50は、車両用シートに使用される表皮材である。
【0029】
図4に示すように、縫製対象物50の表面に複数の孔51が設けられる。複数の孔51により複数の基準パターン52が形成される。実施形態において、基準パターン52は、25個の孔51で構成される。
【0030】
基準パターン52は、間隔をあけて縫製対象物50の表面に配置される。縫製対象物50の表面は、基準パターン52が設けられるテクスチャ領域53と、テクスチャ領域53の間の基準パターン52が設けられないステッチ領域54とを含む。ステッチ領域54には、縫製対象物50に形成される縫い目55の目標縫い目ライン56が設定される。目標縫い目ライン56は、予め作成された縫製データにより規定される。
【0031】
なお、
図4に示す目標縫い目ライン56は一例である。目標縫い目ライン56は、縫製データにより任意に規定される。
【0032】
<制御装置>
図5は、本実施形態に係る制御装置15を示す機能ブロック図である。制御装置15は、コンピュータシステムを含む。
【0033】
図5に示すように、制御装置15は、頭部回転装置5、保持部材移動装置7、釜回転装置9、及び操作パネル14のそれぞれと接続される。操作パネル14は、入力装置18及び表示装置19を含む。
【0034】
入力装置18は、作業者に操作されることにより入力データを生成する。入力装置18として、コンピュータ用キーボード、マウス、及びタッチパネルが例示される。
【0035】
表示装置19は、表示データを表示する。表示装置19として、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)又は有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electroluminescence Display)のようなフラットパネルディスプレイが例示される。
【0036】
制御装置15は、縫製データ記憶部61と、移動制御部62と、回転制御部63とを有する。
【0037】
縫製データ記憶部61は、縫製処理において参照される縫製データを記憶する。縫製データは、縫製対象物50に形成される縫い目55の目標縫い目ライン56、及び保持部材6の移動条件を含む。目標縫い目ライン56は、縫製対象物50に形成される縫い目55の目標形状及びミシン座標系における縫い目55の目標位置を規定する。保持部材6の移動条件は、ミシン座標系において規定される保持部材6の移動軌跡を含む。保持部材6の移動軌跡は、XY平面内における保持部材6の移動軌跡を含む。保持部材6の移動条件は、目標縫い目ライン56に基づいて定められる。
【0038】
移動制御部62は、保持部材移動装置7を制御する制御指令を出力する。移動制御部62は、縫製データに基づいて、保持部材6の移動を制御する。移動制御部62は、ミシン針41が縫製対象物50から抜けているときに保持部材6を移動させる。すなわち、移動制御部62は、ミシン針41が縫製対象物50よりも上方に配置されているときに保持部材6を移動させる。
【0039】
回転制御部63は、頭部回転装置5及び釜回転装置9を制御する制御指令を出力する。回転制御部63は、頭部4と釜8とが回転軸AXを中心に一緒に回転するように制御指令を出力する。回転制御部63は、縫製データにより指定される保持部材6の移動方向の変化量βに基づいて、頭部4及び釜8の回転角度αを制御する。回転制御部63は、ミシン針41が縫製対象物50から抜けているときに頭部4及び釜8を回転させる。すなわち、回転制御部63は、ミシン針41が縫製対象物50よりも上方に配置されているときに頭部4及び釜8を回転させる。
【0040】
<頭部の動作>
図6は、本実施形態に係る回転制御部63の処理を説明するための図である。以下の説明においては、頭部4及び釜8の回転を単に、頭部4の回転、という。頭部4が回転することにより、釜8も頭部4と一緒に回転する。
【0041】
縫製対象物50を保持する保持部材6は、目標縫い目ライン56を含む縫製データに基づいて移動する。
図6に示すように、目標縫い目ライン56が屈曲部57を含む場合、回転制御部63は、保持部材6の移動方向に合わせて頭部4を回転させる。
図6に示すように、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1である場合、保持部材6は第1方向D1に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第1方向D1を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。角度θは、X軸と頭部4の規定部位45とがなす角度である。
図6に示す例において、頭部4の角度θは、頭部4の規定部位45が第1方向D1を向く角度θ0に制御される。
【0042】
目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、保持部材6は第2方向D2に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第2方向D2を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。すなわち、縫製データに基づいて、保持部材6の移動方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βに一致するように、頭部4の角度θを制御する。
図6に示す例において、保持部材6の移動方向の変化量βは、第1方向D1と第2方向D2とがなす角度である。頭部4の角度θは、頭部4の規定部位45が第2方向D2を向く角度θ1に制御される。回転角度αは、角度θ1と角度θ0との差である。
【0043】
目標縫い目ライン56の延伸方向が第2方向D2から第3方向D3に変化した場合、縫製対象物50は第3方向D3に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第3方向D3を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。すなわち、縫製データに基づいて、保持部材6の移動方向が第2方向D2から第3方向D3に変化した場合、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βに一致するように、頭部4の角度θを制御する。
図6に示す例において、保持部材6の移動方向の変化量βは、第2方向D2と第3方向D3とがなす角度である。頭部4の角度θは、頭部4の規定部位45が第3方向D3を向く角度θ2に制御される。回転角度αは、角度θ2と角度θ1との差である。
【0044】
図7は、本実施形態に係る回転制御部63の処理を説明するための図である。
図7に示すように、頭部4の規定部位45が目標縫い目ライン56の延伸方向を向いている状態においては、ミシン針41の針孔42は、目標縫い目ライン56の延伸方向と直交する方向を向く。
【0045】
図6及び
図7を参照して説明したように、縫製対象物50の移動方向に合わせて頭部4が回転することにより、高品質な縫い目55が形成される。
【0046】
頭部4の回転は、ミシン針41が縫製対象物50から抜けているときに実施される。頭部4の回転に要する時間を確保するために、ミシン1の縫い速度を低下させると、縫製効率が低下する可能性がある。
【0047】
本実施形態において、回転制御部63は、縫い目55が縫製対象物50の第1範囲AR1に形成されるときに、回転角度αが変化量βに一致するように制御し、縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるときに、回転角度αが変化量βよりも小さくなるように制御する。
【0048】
第1範囲AR1及び第2範囲AR2は、予め定められる範囲である。縫製データは、第1範囲AR1及び第2範囲AR2を含む。一例として、第1範囲AR1は、縫製対象物50の中央部に定められ、第2範囲AR2は、縫製対象物50の周縁部に定められる。なお、第1範囲AR1は、高品質な縫い目55が要求される範囲に定められ、第2範囲AR2は、縫い目55の品質の低下が許容される範囲に定められてもよい。
【0049】
縫い目55が縫製対象物50の第1範囲AR1に形成されるとき、
図6を参照して説明したように、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βに一致するように、頭部4の回転を制御する。
【0050】
図8は、本実施形態に係る回転制御部63の処理を説明するための図である。
図8に示すように、縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるとき、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βよりも小さくなるように、頭部4の回転を制御する。
【0051】
図8に示すように、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1である場合、保持部材6は第1方向D1に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第1方向D1を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。
図8に示す例において、頭部4の角度θは、頭部4の規定部位45が第1方向D1を向く角度θ0に制御される。
【0052】
目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、保持部材6は第2方向D2に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第1方向D1と第2方向D2との間の方向D2aを向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。すなわち、縫製データに基づいて、保持部材6の移動方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βよりも小さくなるように、頭部4の角度θを制御する。
図8に示す例において、保持部材6の移動方向の変化量βは、第1方向D1と第2方向D2とがなす角度である。頭部4の角度θは、頭部4の規定部位45が第1方向D1と第2方向D2との間の方向D2aを向く角度θ1aに制御される。回転角度αは、角度θ1aと角度θ0との差である。
【0053】
目標縫い目ライン56の延伸方向が第2方向D2から第3方向D3に変化した場合、縫製対象物50は第3方向D3に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第2方向D2と第3方向D3との間の方向D3aを向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。すなわち、縫製データに基づいて、保持部材6の移動方向が第2方向D2から第3方向D3に変化した場合、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βよりも小さくなるように、頭部4の角度θを制御する。
図8に示す例において、保持部材6の移動方向の変化量βは、第2方向D2と第3方向D3とがなす角度である。頭部4の角度θは、頭部4の規定部位45が第2方向D2と第3方向D3との間の方向D3aを向く角度θ2aに制御される。回転角度αは、角度θ2aと角度θ1aとの差である。
【0054】
なお、第1範囲AR1及び第2範囲AR2は、目標縫い目ライン56の区間を含む概念である。回転制御部63は、縫い目55が縫製対象物50に設定された目標縫い目ライン56の第1範囲AR1(第1区間)に形成されるときに、回転角度αが変化量βに一致するように制御し、縫い目55が縫製対象物50に設定された目標縫い目ライン56の第2範囲AR2(第2区間)に形成されるときに、回転角度αが変化量βよりも小さくなるように制御することができる。
【0055】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、屈曲部57を有する目標縫い目ライン56に基づいて、縫い目55が縫製対象物50の第1範囲AR1に形成されるときに、頭部4及び釜8の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βに一致するように制御される。縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるときに、頭部4及び釜8の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βよりも小さくなるように制御される。頭部4及び釜8の回転は、ミシン針41が縫製対象物50から抜けているときに実施される。頭部4及び釜8の回転角度αを小さくする第2範囲AR2が設定されることにより、第2範囲AR2においては、頭部4及び釜8の回転に要する時間を短くすることができる。すなわち、頭部4及び釜8の回転角度αを小さくする第2範囲AR2が設定されることにより、第2範囲AR2においては、ミシン1の縫い速度を過度に低下させなくてもすむ。したがって、縫製効率の低下が抑制される。
【0056】
<変形例>
上述の実施形態において、屈曲部57を有する目標縫い目ライン56に基づいて、縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるときに、回転制御部63は、頭部4及び釜8の回転角度αと保持部材6の移動方向の変化量βとの差が差分閾値SH1以下になるように制御してもよい。差分閾値SH1は、予め定められた値である。縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるときに、回転角度αと保持部材6の移動方向の変化量βとの差が差分閾値SH1以下になるように制御されることにより、頭部4及び釜8の回転に要する時間を短くしつつ、縫い目55の品質を維持することができる。
【0057】
上述の実施形態において、屈曲部57を有する目標縫い目ライン56に基づいて、縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるときに、回転制御部63は、頭部4及び釜8を回転させなくてもよい。すなわち、
図8に示した例において、回転角度αをゼロにしてもよい。つまり、回転角度αを変化量βよりも小さくすることは、回転角度αをゼロにすることを含んでもよい。縫い目55を縫製対象物50の第2範囲AR2に形成するときに、回転角度αをゼロにすることにより、縫製効率の低下が十分に抑制される。
【0058】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0059】
屈曲部57を有する目標縫い目ライン56に基づいて、縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるときに、回転制御部63は、頭部4及び釜8と保持部材6の移動方向とのなす角度との差が角度閾値SH2以下になるように制御してもよい。角度閾値SH2は、予め定められた値である。
【0060】
なお、屈曲部57を有する目標縫い目ライン56に基づいて、縫い目55が縫製対象物50の第1範囲AR1に形成されるときは、上述の実施形態と同様、回転制御部63は、頭部4及び釜8の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βに一致するように制御する。
【0061】
<頭部の動作>
図9及び
図10のそれぞれは、本実施形態に係る回転制御部63の処理を説明するための図である。
図9及び
図10に示すように、縫い目55が縫製対象物50の第2範囲AR2に形成されるとき、回転制御部63は、頭部4と保持部材6の移動方向とのなす角度θbが角度閾値SH2以下になるように制御する。
【0062】
図9に示すように、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1である場合、保持部材6は第1方向D1に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第1方向D1を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。
図9に示す例において、頭部4と保持部材6の移動方向とのなす角度θbは、ゼロ度である。
【0063】
目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、保持部材6は第2方向D2に移動される。
図9に示すように、回転制御部63は、頭部4を回転しなくても、頭部4と保持部材6の移動方向とのなす角度θbが角度閾値SH2以下である場合、頭部4を回転させない。
【0064】
図10に示すように、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、保持部材6は第2方向D2に移動される。
図10に示すように、回転制御部63は、頭部4を回転させないと、頭部4と保持部材6の移動方向とのなす角度θbが角度閾値SH2以下にならない場合、頭部4を回転させる。回転制御部63は、角度θbが角度閾値SH2以下になり、且つ、頭部4の回転角度αが最も小さくなるように、頭部4を回転させる。すなわち、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合、回転制御部63は、頭部4と保持部材6の移動方向とのなす角度θbが角度閾値SH2と一致するように、頭部4を回転させる。これにより、頭部4の規定部位45が第1方向D1と第2方向D2との間の方向D2bを向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θが制御される。
【0065】
<効果>
以上説明したように、本実施形態においても、頭部4及び釜8の回転に要する時間を短くしつつ、縫い目55の品質を維持することができる。
【0066】
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0067】
上述の実施形態においては、縫製対象物50に第2範囲AR2を設定し、第2範囲AR2においては、頭部4及び釜8の回転を抑制することとした。本実施形態において、回転制御部63は、保持部材6の移動方向の変化量βが変化量閾値SH3以上のときに、頭部4及び釜8の回転角度αが変化量βに一致するように制御し、変化量βが変化量閾値SH3未満のときに、回転角度αが変化量βよりも小さくなるように制御する。変化量閾値SH3は、予め定められた値である。
【0068】
<頭部の動作>
図11は、本実施形態に係る回転制御部63の処理を説明するための図である。縫製対象物50を保持する保持部材6は、目標縫い目ライン56を含む縫製データに基づいて移動する。
図11に示すように、目標縫い目ライン56が屈曲部57を含む場合、回転制御部63は、保持部材6の移動方向に合わせて頭部4を回転させる。
図11に示すように、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1である場合、保持部材6は第1方向D1に移動される。回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第1方向D1を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。
【0069】
目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合において、保持部材6の移動方向の変化量βが変化量閾値SH3以上である場合、回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第2方向D2を向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。すなわち、縫製データに基づいて、保持部材6の移動方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合において、変化量βが変化量閾値SH3以上のときに、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが保持部材6の移動方向の変化量βに一致するように、頭部4の角度θを制御する。
【0070】
図12は、本実施形態に係る回転制御部63の処理を説明するための図である。
図12に示すように、目標縫い目ライン56の延伸方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合において、保持部材6の移動方向の変化量βが変化量閾値SH3未満である場合、回転制御部63は、頭部4の規定部位45が第1方向D1と第2方向D2との間の方向D2cを向くように、回転軸AXを中心とする回転方向における頭部4の角度θを制御する。すなわち、縫製データに基づいて、保持部材6の移動方向が第1方向D1から第2方向D2に変化した場合において、変化量βが変化量閾値SH3未満のときに、回転制御部63は、頭部4の回転角度αが変化量βよりも小さくなるように、頭部4の角度θを制御する。
【0071】
<効果>
以上説明したように、本実施形態においては、屈曲部57の屈曲度合が大きく、変化量βが変化量閾値SH3以上のときに、回転角度αが変化量βに一致するように制御される。一方、屈曲部57の屈曲度合いが小さく、変化量βが変化量閾値SH3未満のときに、回転角度αが変化量βよりも小さくなるように制御される。本実施形態においても、頭部4及び釜8の回転に要する時間を短くしつつ、縫い目55の品質を維持することができる。
【0072】
<変形例>
上述の実施形態において、屈曲部57を有する目標縫い目ライン56に基づいて縫い目55を形成するときにおいて、変化量βが変化量閾値SH3未満のときに、回転制御部63は、頭部4及び釜8を回転させなくてもよい。すなわち、
図12に示した例において、回転角度αをゼロにしてもよい。つまり、回転角度αを変化量βよりも小さくすることは、回転角度αをゼロにすることを含んでもよい。縫い目55を縫製対象物50に形成するときに、回転角度αをゼロにすることにより、縫製効率の低下が十分に抑制される。
【符号の説明】
【0073】
1…ミシン、2…テーブル、3…フレーム、4…頭部、5…頭部回転装置、6…保持部材、7…保持部材移動装置、7X…X軸移動装置、7Y…Y軸移動装置、8…釜、9…釜回転装置、10…電源スイッチ、11…スタートスイッチ、12…一時停止スイッチ、13…非常停止スイッチ、14…操作パネル、15…制御装置、16…糸巻き装置、17…糸立て装置、18…入力装置、19…表示装置、20…針板、21…天板、22…脚部、23…側板、24…アジャスタ、25…キャスタ、26…開口、30…梁部、31…第1柱部、32…第2柱部、33…カバー部材、40…針棒、41…ミシン針、42…針孔、43…中押さえ、45…規定部位、50…縫製対象物、51…孔、52…基準パターン、53…テクスチャ領域、54…ステッチ領域、55…縫い目、56…目標縫い目ライン、57…屈曲部、61…縫製データ記憶部、62…移動制御部、63…回転制御部、AR1…第1範囲、AR2…第2範囲、AX…回転軸、D1…第1方向、D2…第2方向、D3…第3方向、α…回転角度、β…変化量、θ0…角度、θ1…角度、θ2…角度、θb…角度。