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特許7529600直流発電システム及び鉄道車両用電力供給システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】直流発電システム及び鉄道車両用電力供給システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/48 20060101AFI20240730BHJP
   H02P 9/04 20060101ALI20240730BHJP
   H02P 103/20 20150101ALN20240730BHJP
   H02P 101/40 20150101ALN20240730BHJP
   H02P 101/25 20150101ALN20240730BHJP
【FI】
H02P9/48 A
H02P9/04 L
H02P103:20
H02P101:40
H02P101:25
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021050397
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148644
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 稔
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-084795(JP,A)
【文献】特開2006-176057(JP,A)
【文献】特開2010-028921(JP,A)
【文献】特開2021-044954(JP,A)
【文献】特開2012-065521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/48
H02P 9/04
H02P 103/20
H02P 101/40
H02P 101/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の補助電源の周波数に適合する動作周波数となるように回転数が一定に制御される突極性を有さない円筒形の永久磁石同期発電機と、
前記永久磁石同期発電機から出力される交流を直流に全波整流する整流器と、
前記整流器の直流出力段に設けられた平滑コンデンサと、
前記永久磁石同期発電機と前記整流器とを結ぶ交流ラインの各相に挿入されたコンデンサを有するコンデンサ回路部と、
前記交流ラインにおける前記コンデンサ回路部と前記整流器との間に接続され、変圧した交流を外部出力する変圧器と、
を備え、
前記整流器の直流出力を主電源の電力として供給し、前記変圧器の外部出力を前記所定の補助電源の電力として供給し、
前記永久磁石同期発電機のリアクタンスと前記コンデンサとで構成されるLC回路は、共振周波数が前記所定の補助電源の周波数に適合するように構成され、
前記動作周波数が前記共振周波数に対応する回転速度となるように動作制御されることで前記永久磁石同期発電機についてMTPA(Max Torque Per Ampere)制御状態となり直流電圧源として動作する直流発電システム。
【請求項2】
請求項に記載の直流発電システムと、
前記永久磁石同期発電機の回転子を一定の回転速度で駆動する内燃機関と、
を備え、
前記整流器の直流出力を鉄道車両の主電源の電力として供給し、
前記所定の補助電源は、前記鉄道車両の補助電源である、
鉄道車両用電力供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流発電システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
電気式気動車やシリーズハイブリッド車両等で用いられる直流発電システムとして、エンジン等の内燃機関により駆動される発電機と、発電機の交流出力を直流に変換する整流器とを備える構成が知られている。直流発電システムの一例として、特許文献1には、永久磁石同期発電機を発電機として用いた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-234992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直流発電システムを鉄道の電気式気動車等に用いようとする場合、車両における設置スペースに制約があること等から、システム全体の小型化・大出力化が要求されている。永久磁石同期発電機は、誘導発電機に比べて高効率で且つ小型である。そこで、永久磁石同期発電機をダイオードのみの簡素な構成でなる全波整流器と組み合わせることで、高効率・小型の直流発電システムを低コストで実現できる可能性がある。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている発電システムは、励磁巻線を付加した特殊な構造の永久磁石同期発電機を用いており、低コスト化が困難である。また、全波整流器が動作するまで励磁巻線に通電されないため、実質的に永久磁石同期発電機の開放電圧以上の電圧での動作ができず、発電機の小形大出力化はできない。そのため、特許文献1に開示されている技術を採用することはできない。
【0006】
かといって、特許文献1に開示されているような特殊な構造をしていない通常の永久磁石同期発電機は、その特性として永久磁石が発生する磁束が決まっているため、永久磁石の磁束による誘起電圧以上の出力電圧を得ることができない。そのため、永久磁石同期発電機をPWMコンバータと組み合わせて大出力を得る手法が考えられるが、PWMコンバータは全波整流器と比べて遙かに高価であり、且つ、大きな設置スペースが必要となる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、永久磁石同期発電機と全波整流器とを組み合わせた直流発電システムにおいて、小型化・大出力化を図ることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、
永久磁石同期発電機と、
前記永久磁石同期発電機から出力される交流を直流に全波整流する整流器と、
前記整流器の直流出力段に設けられた平滑コンデンサと、
前記永久磁石同期発電機と前記整流器とを結ぶ交流ラインの各相に挿入されたコンデンサを有するコンデンサ回路部と、
を備える直流発電システムである。
【0009】
第1の発明によれば、永久磁石同期発電機と整流器とを結ぶ交流ラインの各相にコンデンサを挿入することで永久磁石同期発電機の動作点を変えることができ、永久磁石同期発電機を誘起電圧以上の電圧で動作させることが可能となる。これにより、直流発電システムの小型化・大出力化を図ることが可能となる。また、平滑コンデンサの電圧がシステムの出力電圧となり、直流発電システムを直流電圧源として動作させることができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、
前記永久磁石同期発電機は、突極性を有さない、
直流発電システムである。
【0011】
第2の発明によれば、突極性を有さない永久磁石同期発電機では、電流位相角によるインダクタンスの変化を無視することができるため、直流発電システムの設計が容易となる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記永久磁石同期発電機は、回転速度が一定に制御される、
直流発電システムである。
【0013】
第3の発明によれば、永久磁石同期発電機の回転速度を一定に制御されるため、永久磁石同期発電機を高効率に動作させることが可能となる。また、永久磁石同期発電機の回転子を回転させる動力源も一定の回転速度となるため、当該動力源を高効率に運転することが可能となる。
【0014】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記永久磁石同期発電機は、前記永久磁石同期発電機のリアクタンスと前記コンデンサとで構成されるLC回路の共振周波数に対応する回転速度で動作制御される、
直流発電システムである。
【0015】
第4の発明によれば、永久磁石同期発電機のリアクタンスと、コンデンサ回路部のコンデンサとがLC共振回路を形成するような回転速度で永久磁石同期発電機が動作しているときは、整流器の交流側に印加される電圧が永久磁石同期発電機の誘起電圧と等しくなる。これにより、永久磁石同期発電機を誘起電圧以上の電圧で動作させることが可能となり、高効率の直流発電システムとすることができる。
【0016】
第5の発明は、
第1~第4の何れかの発明の直流発電システムと、
前記永久磁石同期発電機の回転子を駆動する内燃機関と、
前記交流ラインにおける前記コンデンサ回路部と前記整流器との間に接続され、変圧した交流を外部出力する変圧器と、
を備え、
前記整流器の直流出力を鉄道車両の主電源の電力として供給し、
前記変圧器の外部出力を前記鉄道車両の補助電源の電力として供給する、
鉄道車両用電力供給システムである。
【0017】
第5の発明によれば、直流発電システムは直流電圧源として動作するため、整流器の直流出力を鉄道車両の主電源の電力として供給するとともに、変圧器の外部出力を鉄道車両の補助電源の電力として供給することができる。この場合、補助電源用のインバータは不要となるので、小型化・低コスト化を図った鉄道車両用電力供給システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】直流発電システムの構成図。
図2】永久磁石同期発電機の電流ベクトル図。
図3】永久磁石同期発電機の等価回路。
図4】直流発電システムの等価回路。
図5】直流発電システムの電流ベクトル図。
図6】直流発電システムの共振時の電流ベクトル図。
図7】シミュレーションで用いたパラメータ値。
図8】シミュレーション結果であるグラフ。
図9】シミュレーション結果であるグラフ。
図10】シミュレーション結果であるグラフ。
図11】シミュレーション結果であるグラフ。
図12】シミュレーション結果であるグラフ。
図13】シミュレーション結果であるグラフ。
図14】鉄道車両用電力供給システムの構成例。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態の一例について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0020】
[構成]
図1は、本実施形態における直流発電システム1の構成例である。本実施形態の直流発電システム1は、鉄道における電気式気動車に用いることを想定しており、図1に示すように、永久磁石同期発電機3と、コンデンサ回路部5と、全波整流器7と、平滑コンデンサ9とを備える。
【0021】
永久磁石同期発電機3は、エンジン等の内燃機関10から供給される動力によって駆動されて三相交流電力を生成する。また、本実施形態では、永久磁石同期発電機3は、突極性を有さない、いわゆる円筒機とする。コンデンサ回路部5は、永久磁石同期発電機3と全波整流器7とを結ぶ三相交流ラインの各相に挿入されたコンデンサを有する。全波整流器7は、例えばダイオードを用いた三相ブリッジ整流器であり、永久磁石同期発電機3から出力される三相交流電力を全波整流して直流電力に変換する。
【0022】
平滑コンデンサ9は、全波整流器7の直流出力段(直流側)に設けられている。平滑コンデンサ9は、全波整流器7の整流動作に伴う直流側電流の急激な変化を吸収し、直流発電システム1をほぼ定電圧の直流電源として動作させるために設けられている。本実施形態の直流発電システム1は電気式気動車に用いることを想定しており、負荷として、主電動機に電力を供給するインバータ等の電流源が接続されることが想定される。平滑コンデンサ9を設けずインバータにもフィルタコンデンサが無い場合、或いは、平滑コンデンサ9を設けずインバータの直流側にフィルタコンデンサ及びフィルタリアクトルが接続されていてフィルタリアクトルが全波整流器7に接続されている場合には、永久磁石同期発電機3のリアクタンスが誘導性負荷(主電動機又はフィルタリアクトル)と直列に接続されることになり、全波整流器7の整流動作に伴いサージ電圧が発生する可能性がある。これを防止するために、全波整流器7の直流出力段に平滑コンデンサ9を設け、永久磁石同期発電機3の出力電流が整流された時の直流側電流の急激な変化を吸収して全波整流器7の直流側の電圧を一定に保つようにしているのである。
【0023】
直流発電システム1において、永久磁石同期発電機3は、永久磁石同期発電機3のリアクタンスと、コンデンサ回路部5が有するコンデンサとで構成されるLC回路の共振周波数に対応する回転速度で動作制御される。動作制御は内燃機関10とそれを制御する不図示の制御装置によってなされる。コンデンサ回路部5が有するコンデンサのキャパシタンス(容量)Cは、永久磁石同期発電機3が所定の回転速度で動作制御されたときに、永久磁石同期発電機3のリアクタンスとコンデンサ回路部5が有するコンデンサとで構成されるLC回路がLC共振回路を形成するよう、次式(1)で与えられる値に定められている。
【数1】
式(1)において、「ω」は永久磁石同期発電機3の角周波数(所定の回転速度に相当)、「L」は永久磁石同期発電機3のq軸インダクタンスである。
【0024】
所定の回転速度で動作制御されているときの全波整流器7の交流側の電圧は、負荷電流の大きさに関わらず、永久磁石同期発電機3の無負荷時の誘起電圧(開放電圧)に等しくなる。そして、本実施形態の直流発電システム1では、永久磁石同期発電機3を誘起電圧よりも大きな電圧で動作させることが可能である。これは、永久磁石同期発電機3と全波整流器7との間にコンデンサ回路部5を設けるとともに、このコンデンサ回路部5が有するコンデンサと永久磁石同期発電機3のリアクタンスとがLC共振回路を形成するように構成したことによる。以下、その理由を説明する。
【0025】
[解析]
先ず、永久磁石同期発電機3の特性について説明する。永久磁石同期発電機3の基本特性は、二反作用法に基づくd-q軸モデルを用いて次式(2)~(5)によって表現される。なお、簡単のため、電機子巻線抵抗等の損失を無視している。また、電圧や電流、インダクタンスは、全て1相あたりの量としている。
【数2】
【0026】
上式(2)~(5)において、「T」はトルク、「m」は相数、「p」は永久磁石の極対数、「φα」は永久磁石による電機子鎖交磁束、「I」はd軸電流(電機子電流のd軸成分)、「I」はq軸電流、「L」はd軸インダクタンス、「L」はq軸インダクタンス、「P」は電力、「E(=ωφα)」は永久磁石による誘起電圧、「X」(=ωL)はd軸リアクタンス、「X」(=ωL)はq軸リアクタンス、「V」はd軸電圧、「V」はq軸電圧、「δ」は電圧負荷角、である。
【0027】
図2は、この特性モデルに対応する永久磁石同期発電機3の電流ベクトル図である。永久磁石同期発電機3ではリラクタンストルクを有効利用するために弱め界磁制御を行うことが一般的であることから、図2の電流ベクトル図において、d軸電流Iを負値としている。
【0028】
図3は、永久磁石同期発電機3の等価回路である。この等価回路は、式(2)~(5)で表現される特性モデルに基づく1相あたりの等価回路である。一般的に、永久磁石同期発電機3等の回転機の等価回路は、有効電力を表現する抵抗と無効電力を表現するリアクタンス等との回路要素の組み合わせで表現される。図3では、永久磁石同期発電機3の直列インピーダンス(=R+jX)による等価回路を示している。「R」は、リラクタンストルクによる有効電力を表す抵抗要素であり、「X」は、永久磁石同期発電機3のリアクタンスである。この等価回路における回路要素と、式(2)~(5)で表現される特性モデルの機器定数との関係を、次式(6)~(9)に示す。
【数3】
【0029】
続いて、上述の永久磁石同期発電機3の特性を前提とした直流発電システム1の動作を解析する。図4は、直流発電システム1の1相あたりの等価回路を示す図である。図3に示した永久磁石同期発電機3の等価回路も1相あたりの等価回路である。また、コンデンサ回路部5は、永久磁石同期発電機3の各相にコンデンサを挿入した回路である。このため、図3に示す永久磁石同期発電機3の等価回路に1相分のコンデンサ(キャパシタンスC)を直列に接続することで、直流発電システム1の1相あたりの等価回路を、図4に示すように表現することができる。また、全波整流器7及びその先の負荷については、動作状態に応じてその抵抗値が変化する可変抵抗器(コンダクタンスB)として表現している。これは、全波整流器7がほぼ力率100%で動作することによる。
【0030】
図4に示す直流発電システム1の等価回路では、全ての回路要素が直列接続されており、各回路要素に流れる電流(電流ベクトルI)は等しい。そして、電圧源(電圧ベクトルE)以外の回路要素は、有効電力を生じる抵抗器(コンダクタンスR,B)と、無効電力を生じるコンデンサ(キャパシタンスC)及びリアクトル(リアクタンスX)とに分類される。そのため、ある電流(電流ベクトルI)が流れたときには、コンデンサ(キャパシタンスC)及びリアクトル(リアクタンスX)で発生する電圧と、電圧源(電圧ベクトルE)の無効電圧成分との和がゼロになる必要があることから、電流源(電流ベクトルI)と電圧(電圧ベクトルV)との位相差である電圧負荷角δが決定される。
【0031】
そして、電圧負荷角δのときの電圧源Eの有効電圧成分と、抵抗器(コンダクタンスR,B)で発生する電圧との和がゼロとなるように可変抵抗器のコンダクタンスBを決定すれば、その電流(電流ベクトルI)における直流発電システム1の動作状態が決まる。
【0032】
直流発電システム1を、車両システムの主電動機への電力供給源として適用する場合には、全波整流器7の直流側に負荷としてインバータが接続され、車両の走行に伴い負荷電流が決定され、それに応じて動作状態が決まる。従って、上記の解析手順は、この適用形態に近いものになっている。
【0033】
図5は、永久磁石同期発電機3が発電動作している状態での直流発電システム1の電流ベクトル図である。図5は、永久磁石同期発電機3は突極性を有さない円筒形であり、電流位相角βによるインダクタンスの変化を無視することができるので、抵抗器(コンダクタンスR)を省略することができる。図5に示す電流ベクトル図に示すように、永久磁石同期発電機3が発電動作をしている状態では、q軸電流Iは負となる。また、永久磁石同期発電機3は弱め界磁制御が行われることが一般的であるため、d軸電流Iを負としている。また、負荷となる可変抵抗器(コンダクタンスB)に印加される電圧Vは、リアクトル(リアクタンスX)及びコンデンサ(キャパシタンスC)に印加される電圧と直交する。
【0034】
従って、永久磁石同期発電機3を電圧ベクトルVで運転させるためには、先ず、電圧ベクトルVから電圧ベクトルEを減算して、リアクトル(リアクタンスX)に印加される電圧ベクトルXIを求める。次いで、電圧ベクトルVに、コンデンサ(キャパシタンスC)に印加される電圧ベクトルCIを加算して、可変抵抗器(コンダクタンスB)に印加される電圧ベクトルVを求める。そして、この電圧ベクトルVが電流ベクトルIに直交するように、コンデンサのキャパシタンス(容量)Cの値を定めればよい。このようにすることで、任意の動作点で永久磁石同期発電機3を発電動作させることができる。
【0035】
図4に示した直流発電システム1の等価回路において、リアクトル(リアクタンスX)とコンデンサ(キャパシタンスC)とはLC直列回路を形成している。発電動作時の回転速度においてLC直列回路が共振回路となるようにコンデンサのキャパシタンスCを選定することで、このLC直列回路を共振回路として形成させることができる。共振時には、コンデンサ(キャパシタンスC)に印加される電圧と、リアクトル(リアクタンスX)に印加される電圧との大きさが等しく、位相は逆位相になる。共振時における電流ベクトル図は、図6に示すようになる。
【0036】
図6は、共振時における直流発電システム1の電流ベクトル図である。共振時においては、可変抵抗器(コンダクタンスB)に印加される電圧Vは、負荷電流(電流ベクトルI)の大きさに関わらず、永久磁石同期発電機3の誘起電圧Eと等しくなる。そして、誘起電圧Eよりも高い電圧Vで、永久磁石同期発電機3を動作させることが可能となる。また、可変抵抗器(コンダクタンスB)に印加される電圧Vは全波整流器7の交流側に印加される電圧であり、全波整流器7の直流側(直流出力段)に設けられている平滑コンデンサ9の電圧は電圧V(=永久磁石同期発電機3の誘起電圧E)に応じた直流電圧となる。従って、直流発電システム1は直流電圧源として動作する。
【0037】
またこのとき、永久磁石同期発電機3はq軸電流Iのみが流れている。一般に巻線温度上昇限度の制約下で永久磁石同期発電機3の出力を最大化するためには、MTPA
(Max Torque Per Ampere:最大トルク/電流)制御の電流ベクトルで動作制御することが望ましい。図6に示す電流ベクトル図は、MTPA制御による動作状態に近い状態であり、大出力化の観点からも望ましい運転点といえる。
【0038】
従って、負荷時の動作点で、コンデンサ(キャパシタンス)Cと永久磁石同期発電機3のリアクトル(リアクタンスX)とでなるLC直列回路が共振回路を形成するように、コンデンサのキャパシタンスCは、上式(1)に示したように定められる。共振時においては、電流による誘起電圧XIを発生させるのはq軸電流Iであるので、式(1)においては、q軸リアクタンスX(=ωL)を永久磁石同期発電機3のリアクトルとしている。
【0039】
[シミュレーション結果]
続いて、直流発電システム1のシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、直流発電システム1を電気式気動車に用いる場合を想定して行った。つまり、内燃機関10として鉄道用のディーゼルエンジンを永久磁石同期発電機3に直結して用いる場合である。シミュレーションでは、ディーゼルエンジンの代わりに、所定の回転速度を永久磁石同期発電機3のシャフトに入力した。また、全波整流器7の直流側には、平滑コンデンサ9を接続するとともに、負荷としてインバータ駆動電動機等を想定した定電流源を配置した。
【0040】
図7に、シミュレーションに用いたパラメータ値として、永久磁石同期発電機3の機器定数、及び、直流発電システム1の設計値を示す。シミュレーションでは、エンジンの最大出力が得られる回転数「2100rpm」において共振周波数となるように、コンデンサ回路部5のコンデンサ(共振コンデンサ)の容量を設計した。また、エンジンの回転数「2100rpm」における永久磁石同期発電機3の開放電圧が端子間のピーク値で「622V」となることから直流電圧が「600V」程度になると想定されるため、発電電力が「180kW」程度になるように、直流電流は「300A」とした。また、負荷電流がゼロの状態で最初の4秒間(0秒から4秒まで)で、エンジンの回転数を「0rpm」から「2100rpm」まで加速し、その後は一定の回転速度を保つようにした。次いで、「5秒から9秒まで」の期間で、負荷電流を「0A」から「300A」まで直線的に増加させ、その後一定に保つようにした。
【0041】
図8図13は、シミュレーション結果を示すグラフである。図8図9は、シミュレーションの最後の0.1秒間(9.9秒から10.0秒まで)についてのグラフであり、図10図13は、シミュレーションの全期間(0秒から10秒まで)についてのグラフである。
【0042】
図8は、横軸を時間として、永久磁石同期発電機3の電圧V及び電流Iと、全波整流器7の入力電圧(交流側の電圧)と、を示している。図8によれば、永久磁石同期発電機3の電流Iと、全波整流器7の入力電圧(交流側の電圧)との位相が逆位相となっている。なお、全波整流器7の入力電流は永久磁石同期発電機3の電流Iに等しい。つまり、永久磁石同期発電機3と全波整流器7との間にコンデンサ回路部5を設けても、設けない場合と同様に、力率がほぼ100%の交流電力が全波整流器7に入力されていることが確認された。なお、永久磁石同期発電機3の出力電圧Vと出力電流Iとは位相が大きくずれており力率は低いが、これは、大電流を流して大出力の運転点で運転しているために電機子反作用が大きいことによる。
【0043】
図9は、横軸を時間として、平滑コンデンサ9の電圧(直流発電システム1の出力電圧となる)と、負荷電流と、永久磁石同期発電機3の回転速度と、永久磁石同期発電機3の出力トルク(永久磁石同期機トルク)とを示している。永久磁石同期発電機3の出力トルク(永久磁石同期機トルク)は負値として示している。永久磁石同期発電機3の入力トルクは正値でありその平均値は「770Nm」、平滑コンデンサ9の電圧の平均値は「534V」であり、永久磁石同期発電機3の発電電力は「約160kW」である。図9に示すように、全波整流器7の動作に起因して電圧に高調波成分が加わり、これに伴うトルク脈動が生じている。そして、平滑コンデンサ9の電圧にも、同じ周波数の細かな脈動が生じていることがわかる。
【0044】
図10は、横軸を時間として、永久磁石同期発電機3の電圧Vの実効値を示している。図11は、横軸を時間として、全波整流器7の入力電圧(交流側の電圧)の実効値を示している。図12は、横軸を時間として、永久磁石同期発電機3の電流Iの実効値を示している。図13は、横軸を時間として、負荷電流と、平滑コンデンサ9の電圧と、全波整流器7の入力電圧(交流側の電圧)の実効値と、永久磁石同期発電機3のトルクと、永久磁石同期発電機3の回転速度とを示している。
【0045】
図10図13によれば、無負荷時(0秒から4秒までの期間)では、永久磁石同期発電機3の回転速度の増大に伴い、永久磁石同期発電機3の電圧、全波整流器7の入力電圧、平滑コンデンサ9の電圧が増加してゆく。そして、永久磁石同期発電機3の回転速度が「2100rpm」に達して一定とされた後に、負荷電流を増加させると(5秒から10秒までの期間)、永久磁石同期発電機3の電圧は増加してゆくが、全波整流器7の入力電圧(交流側の電圧)はほぼ一定に保たれている。つまり、負荷電流に関わらず、全波整流器7の入力電圧は一定である。なお、平滑コンデンサ9の電圧については、負荷電流が流れ始めると(5秒)、全波整流器7の動作のために低下するが、その後(5秒から10秒までの期間)は、負荷電流を増加させても一定の電圧となっている。
【0046】
[適用例]
本実施形態の直流発電システム1は、例えば、鉄道車両に搭載され、鉄道車両の主電源及び補助電源の電力を供給するための鉄道車両用電力供給システムに適用することができる。図14は、鉄道車両用電力供給システム100の構成例である。図14に示すように、鉄道車両用電力供給システム100は、直流発電システム1と、永久磁石同期発電機3の回転子を駆動する内燃機関10と、直流発電システム1の交流ラインにおけるコンデンサ回路部5と全波整流器7との間に接続された変圧器11とを備える。変圧器11は、全波整流器7の交流側の電圧を変圧し、変圧した交流電圧を外部出力する。鉄道車両用電力供給システム100は、全波整流器7の直流出力を、鉄道車両の主電動機の電源となる主電源の電力として供給し、変圧器11の外部出力(交流出力)を、鉄道車両の補機の電源となる補助電源の電力として供給する。従来、補機の電源には、SIV(静止形インバータ:Static Inverter)が必要であったが、これを変圧器11で代替する。これにより、コストの低減及び設置スペースの低減を図った鉄道車両用電力供給システム100とすることができる。永久磁石同期発電機3の共振時の動作周波数を商用周波数(50/60Hz)になるように設計すると、補助電源の周波数に適合させることができるため、より好適である。
【0047】
なお、直流発電システム100の交流ラインの電圧(全波整流器7の交流側の電圧)が補機用の電圧となるように直流発電システム100を設計することで、この交流ラインに直接補機を接続して変圧器11を不要とすることができる。この場合、全波整流器7の交流側の電圧は矩形波状であるので(図8の「整流器入力電圧」を参照)、フィルタ回路を介して補機を接続すると好適である。
【0048】
[作用効果]
このように、本実施形態の直流発電システム1によれば、永久磁石同期発電機3と全波整流器7とを結ぶ交流ラインの各相にコンデンサを挿入することで永久磁石同期発電機3の動作点を変えることができ、永久磁石同期発電機3を誘起電圧以上の電圧で動作させることが可能となる。また、平滑コンデンサ9の電圧が直流発電システム1の出力電圧となり、直流発電システム1を直流電圧源として動作させることができる。また、永久磁石同期発電機3を永久磁石同期発電機3のリアクタンスとコンデンサ回路部5のコンデンサとで構成されるLC回路の共振周波数に対応する回転速度で動作制御することで、全波整流器7の入力側の電圧が永久磁石同期発電機3の誘起電圧と等しくなり、負荷電流が変化しても出力される直流電圧を一定に保つことができる。これにより、直流発電システム1の小型化・大出力化を図ることが可能となる。
【0049】
また、永久磁石同期発電機3の回転速度は一定に制御すれば良いため、永久磁石同期発電機3を高効率に動作させることが可能となる上、永久磁石同期発電機3の回転子を回転させる動力源(内燃機関10)も一定の回転速度で済むため、当該動力源をも高効率に運転することが可能となる。すなわち、内燃機関10の燃費効率に合わせて直流発電システム1を設計することが可能といえる。或いは、永久磁石同期発電機3の回転速度に対応する速度が所定の燃費性能の内燃機関10を採用することも可能である。これにより、内燃機関10及び直流発電システム1を含めたシステム全体としての燃費性能を向上させることが可能である。
【0050】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0051】
上述した本実施形態では、直流発電システム1を、鉄道車両の主電動機への電力供給源として適用する場合について主に説明した。しかし、直流発電システム1が適用可能な形態は上述した実施形態に限定されない。例えば、全波整流器7の直流出力段(直流側)に、鉄道車両の補助電源の供給ラインを接続して、鉄道車両の補助電源への電力供給源として直流発電システム1を適用することとしてもよい。また、鉄道車両のみならず、他の大型車両や船舶等への電力供給源や、産業用途の電力供給源として、直流発電システムを適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…直流発電システム
3…永久磁石同期発電機
5…コンデンサ回路部
7…全波整流器
9…平滑コンデンサ
11…変圧器
10…内燃機関
図1
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