(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電気自動車の熱管理システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240730BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/32 624H
B60H1/32 621B
(21)【出願番号】P 2021087096
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 吉男
(72)【発明者】
【氏名】古川 智
(72)【発明者】
【氏名】大村 充世
【審査官】塩田 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165604(JP,A)
【文献】特開2020-147161(JP,A)
【文献】特開2020-185829(JP,A)
【文献】特開2021-014201(JP,A)
【文献】特開2020-164153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0107507(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0194711(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0072841(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0031592(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165829(US,A1)
【文献】特開2020-200943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のモータに電力を供給する電源と、
熱媒で前記電源を冷却する電源冷却器と、
前記熱媒の熱を用いて車室を温める暖房器と、
前記熱媒と外気との間で熱を交換する外気熱交換器と、
前記電源冷却器と前記暖房器と前記外気熱交換器を接続しており、前記熱媒が流れる循環路と、
前記循環路に配置されている切換弁であって、前記暖房器と前記電源冷却器の間を前記熱媒が循環するとともに前記暖房器と前記外気熱交換器の間では前記熱媒の流れを遮断する第1弁位置と、前記暖房器と前記外気熱交換器の間を前記熱媒が循環するとともに前記暖房器と前記電源冷却器の間では前記熱媒の流れを遮断する第2弁位置と、を選択可能な切換弁と、
前記切換弁を制御する制御器と、
を備えており、
前記制御器は、前記暖房器を作動させる暖房モードにおいて、
前記電源の温度(電源温度)が所定の電源温度閾値を上回っている場合は前記第1弁位置を選択するように前記切換弁を制御し、前記電源温度が前記電源温度閾値を下回っている場合は前記第2弁位置を選択するように前記切換弁を制御し、
前記第1弁位置を選択している間、前記電源冷却器を通過後の前記熱媒の温度が外気温度よりも所定のマージン温度差以上低い場合は前記電源温度に関わらず前記切換弁を前記第1弁位置から前記第2弁位置へ変更する、電気自動車の熱管理システム。
【請求項2】
前記制御器は、前記電源冷却器を通過後の前記熱媒の温度が前記外気温度よりも前記マージン温度差以上低い場合は前記電源温度に関わらず、少なくとも所定の保持時間の間、前記切換弁を前記第2弁位置に保持する、請求項1に記載の熱管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電気自動車の熱管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
外気の熱を車室の暖房に利用する熱管理システムが知られている。そのような熱管理システムの一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車は走行用のモータに電力を供給する電源を備える。電源の熱も車室の暖房に利用し得る。本明細書は、車室を暖房するのに電源の熱と外気の熱を効率よく利用することのできる熱管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する熱管理システムは、走行用のモータに電力を供給する電源と、熱媒で電源を冷却する電源冷却器と、熱媒の熱を用いて車室を温める暖房器と、熱媒と外気との間で熱を交換する外気熱交換器と、電源冷却器と暖房器と外気熱交換器を接続している循環路と、循環路に配置されている切換弁と、切換弁を制御する制御器を備える。切換弁は、第1弁位置と第2弁位置のいずれかを選択することができる。切換弁が第1弁位置を選択しているとき、暖房器と電源冷却器の間を熱媒が循環するとともに暖房器と外気熱交換器の間では熱媒の流れが遮断される。切換弁が第2弁位置を選択しているとき、暖房器と外気熱交換器の間を熱媒が循環するとともに暖房器と電源冷却器の間では熱媒の流れが遮断される。
【0006】
制御器は、暖房器を作動させる暖房モードにおいて、電源の温度(電源温度)が所定の電源温度閾値を上回っている場合は第1弁位置を選択するように切換弁を制御し、電源温度が電源温度閾値を下回っている場合は前記第2弁位置を選択するように切換弁を制御する。制御器は、第1弁位置を選択している間、電源冷却器を通過後の熱媒の温度が外気温度よりも所定のマージン温度差以上低い場合は電源温度に関わらず切換弁を第1弁位置から第2弁位置へ変更する。
【0007】
電源温度が電源温度閾値を上回っている場合は第1弁位置が選択され、暖房器と電源冷却器の間で熱媒が循環する。熱媒は高温の電源から熱を吸収し、暖房器にて車室の空気を温める。電源が高温の場合は電源の熱が暖房に利用される。
【0008】
一方、電源の温度が電源温度閾値を下回っている場合は第2弁位置が選択され、暖房器と外気熱交換器との間で熱媒が循環する。熱媒は外気から熱を吸収し、暖房器にて車室の空気を温める。電源の温度が低い場合は外気の熱が暖房に利用される。なお、電源または外気の熱を車室に移すのにヒートポンプ機構が用いられてもよい。ヒートポンプ機構については実施例にて説明する。
【0009】
制御器は、切換弁が第1弁位置に設定されている間、電源冷却器を通過後の熱媒の温度が外気温度よりも所定のマージン温度差以上低い場合、電源温度に関わらずに切換弁を第1弁位置から第2弁位置へ変更する。電源と電源冷却器の間に挟まれている伝熱シートが劣化した場合、あるいは、車両振動によって電源と電源冷却器の間に隙間が生じた場合など、電源から熱媒へ熱がうまく伝わらないことが生じ得る。制御器は、電源温度が低くない場合であっても電源から熱媒へ熱がうまく伝わっていない場合には、外気の熱を使った暖房に切り換える。そのように切換弁を制御することで車室を暖房するのに電源の熱と外気の熱を効率よく利用することができる。
【0010】
制御器は、電源冷却器を通過後の熱媒の温度が外気温度よりもマージン温度差以上低い場合は電源温度に関わらず、少なくとも所定の保持時間の間、切換弁を第2弁位置に保持するようにしてもよい。切換弁のハンチングを防止することができる。
【0011】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例の熱管理システムの熱回路図である(第1弁位置)。
【
図2】実施例の熱管理システムの熱回路図である(第2弁位置)。
【
図3】暖房時の制御器の処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して実施例の熱管理システム2を説明する。
図1に、熱管理システム2の熱回路図を示す。ここでいう「熱回路」とは、熱媒体が流れる流路の回路を意味する。
【0014】
熱管理システム2は、電気自動車に搭載されており、車室の温度を調整するとともに、電源3、走行用のモータ4、電力変換器5のそれぞれの温度を適切な温度範囲に維持する。電源3の電力は、電力変換器5によってモータ4の駆動に適した交流電力に変換され、モータ4に供給される。電源3は、典型的には、リチウムイオンなどのバッテリ、あるいは燃料電池であるが、他のタイプの電源であってもよい。
図1では、電力線の図示は省略してある。
【0015】
熱管理システム2は、熱媒が流れる循環路10、電源3を冷却する電源冷却器11、モータ4を冷却するモータ冷却器12、熱媒と外気の間で熱を交換する外気熱交換器13、車室の温度を調整する空調機20、熱媒を送るポンプ15、16、熱媒の流路を切り換える切換弁14を備える。
【0016】
循環路10は、電源冷却器11、モータ冷却器12、外気熱交換器13、空調機20、切換弁14を接続する管であり、複数の冷却器と空調機の間で熱媒を循環させる。説明の都合上、循環路10を、空調機20を通過している空調機流路10a、外気熱交換器13を通過している熱交換器流路10b、電源冷却器11を通過している電源冷却器流路10c、モータ冷却器12を通過しているモータ冷却器流路10d、バイパス流路10eに分割する。なお、モータ冷却器流路10dは、電力変換器5を冷却する変換器冷却器17も通過している。
【0017】
空調機20は、車室の温度を調整する。空調機20は、車室を冷却する冷房モードと、車室を温める暖房モードで動作する。
図1では空調機20を簡略化して描いてある。空調機20の詳しい構造は後に説明する。
【0018】
電源冷却器11は、電源3を冷却する。電源冷却器11を通る熱媒が電源3の熱を吸収し、電源3を冷却する。
【0019】
外気熱交換器13はファン13aを備えている。ファン13aによって外気熱交換器13の中へ導かれた外気が、外気熱交換器13を通る熱媒との間で熱を交換する。外気熱交換器13は、一般にラジエータと呼ばれているが、外気から熱媒へ熱を移す場合があるので、本実施例では外気熱交換器と呼ぶ。
【0020】
モータ冷却器12は、オイルクーラ91、オイルポンプ92、オイル流路93を含む。モータ冷却器流路10dはオイルクーラ91を通過している。オイル流路93は、オイルクーラ91とモータ4を通過している。オイル流路93をオイルが流れる。オイルポンプ92はオイル流路93に配置されており、オイルクーラ91とモータ4の間でオイルを循環させる。モータ4は循環路10を流れる熱媒で冷却される。より詳しくは、オイルクーラ91にて熱媒がオイルを冷却し、冷却されたオイルがモータ4を冷却する。モータ4の熱は、オイルを介して熱媒に吸収される。
【0021】
熱管理システム2は、温度センサ94a、94b、94cを備える。温度センサ94aは、電源3の温度を計測する。温度センサ94bは、電源冷却器流路10cに備えられており、電源冷却器11を通過後の熱媒の温度を計測する。温度センサ94cは外気熱交換器13に備えられており、外気熱交換器13に取り込まれる外気の温度を計測する。熱管理システム2は、さらに多くの温度センサを備えているが、それらの説明は割愛する。
【0022】
温度センサ94a-94cの計測値は制御器30へ送られる。制御器30は、温度センサ94a-94cの計測値に基づいて、ポンプ15、16、オイルポンプ92、切換弁14を制御する。
【0023】
空調機流路10a、熱交換器流路10b、電源冷却器流路10c、モータ冷却器流路10d、バイパス流路10eのそれぞれの一端が切換弁14に接続されている。切換弁14は、空調機流路10a、熱交換器流路10b、電源冷却器流路10c、モータ冷却器流路10d、バイパス流路10eの接続関係を切り換える。切換弁14における複数の流路の接続関係については後に詳しく説明する。空調機流路10a、熱交換器流路10b、電源冷却器流路10c、モータ冷却器流路10d、バイパス流路10eのそれぞれの他端は、幾つかの三方弁95で連結されている。循環路10にはポンプ15、16が配置されている。ポンプ15は空調機20の上流側で空調機流路10aに配置されており、ポンプ16はモータ冷却器12の上流側でモータ冷却器流路10dに配置されている。なお、流路に沿って描かれている矢印が冷媒の流れの方向を表している。ポンプ15、16は、熱媒を切換弁14へ向けて押し出す。切換弁14の状態に応じて、熱媒の流路が決まる。熱媒の流路に応じて、複数の三方弁95のそれぞれにおける熱媒の流れる方向が従属的に定まる。
【0024】
切換弁14は、第1弁位置と第2弁位置を選択可能である。
図1は、切換弁14が第1弁位置を選択しているときの熱媒の流れを示している。切換弁14は、第1弁位置を選択しているとき、空調機流路10aを電源冷却器流路10cに接続するとともに、熱交換器流路10bをモータ冷却器流路10dに接続する。このとき、熱媒は、空調機20と電源冷却器11の間を循環するとともに、モータ冷却器12と外気熱交換器13の間を循環する。切換弁14が第1弁位置を選択しているとき、空調機20と電源冷却器11の間を循環する熱媒と、モータ冷却器12と外気熱交換器13の間を循環する熱媒は混合しない。別言すれば、切換弁14が第1弁位置を選択しているとき、空調機20と電源冷却器11の間を熱媒が循環するとともに空調機20と外気熱交換器13の間では熱媒の流れが遮断される。
【0025】
図2に、切換弁14が第2弁位置を選択しているときの熱媒の流れを示す。切換弁14は、第2弁位置を選択しているとき、空調機流路10aを熱交換器流路10bに接続するとともに、モータ冷却器流路10dをバイパス流路10eに接続する。このとき、熱媒は、空調機20と外気熱交換器13の間を循環するとともに、モータ冷却器12とバイパス流路10eの間を循環する。切換弁14が第2弁位置を選択しているとき、空調機20と外気熱交換器13の間を循環する熱媒と、電源冷却器11の中の熱媒は混合しない。別言すれば、切換弁14が第2弁位置を選択しているとき、空調機20と外気熱交換器13の間を熱媒が循環するとともに空調機20と電源冷却器11の間では熱媒の流れが遮断される。
【0026】
先に述べたように、暖房モードが選択されると、空調機20が車室を温める。車室の暖房には、電源3の熱、あるいは、外気の熱が利用される。
【0027】
図3に、暖房時の制御器30の処理のフローチャートを示す。ステップS2にて、タイマが動作中であれば、制御器30は、タイマが示す経過時間と予め定められている保持時間を比較する(ステップS2:YES、S3)。タイマは、制御器30が実行するプログラム内で定義されている変数であり、タイマがスタートしてからの経過時間を計測する。タイマは後述するステップS9にてスタートする。タイマをスタートさせる条件については後述するが、通常はタイマは停止しているため、ステップS2の判断は「NO」となり、制御器30の処理はステップS5に移る。
【0028】
制御器30は、電源温度を電源温度閾値と比較する(ステップS5)。電源温度は、電源3に備えられている温度センサ94aで取得される。制御器30は、電源温度が電源温度閾値を上回っている場合は第1弁位置を選択するように切換弁14を制御する(ステップS5:YES、S6)。制御器30は、電源温度が電源温度閾値を下回っている場合は第2弁位置を選択するように切換弁14を制御する(ステップS5:NO、S7)。
【0029】
図1に示したように、第1弁位置が選択されているとき、熱媒は空調機20と電源冷却器11の間を循環する。なお、このとき、空調機20と外気熱交換器13の間では熱媒の移動が遮断される。電源冷却器11にて電源3の熱を吸収した熱媒は、空調機20を通る間に熱を空調機20に与える。空調機20は、電源3の熱を用いて車室を温める。
【0030】
図2に示したように、第2弁位置が選択されているとき、熱媒は空調機20と外気熱交換器13の間を循環する。なお、このとき、空調機20と電源冷却器11の間では熱媒の移動が遮断される。外気熱交換器13にて外気から熱を吸収した熱媒は、空調機20を通る間に熱を空調機20に与える。空調機20は、外気の熱を用いて車室を温める。なお、空調機20は、ヒートポンプ機構を用いて電源3または外気から熱を車室へ移動させる。空調機20の構造は後に説明する。
【0031】
上記のとおり、熱管理システム2は、電源3の温度が高い場合は電源3の熱を用いて車室を温め、電源3の温度が低い場合は外気の熱を用いて車室を温める。
【0032】
ただし、以下で説明するように、熱管理システム2は、電源温度が高い場合でも電源3から熱媒へ熱がよく伝わっていない場合には、外気の熱を使った暖房に切り換える。電源と電源冷却器の間に挟まれている伝熱シートが劣化した場合、あるいは、車両振動によって電源と電源冷却器の間に隙間が生じた場合など、電源から熱媒へ熱がよく伝わらない状態が生じ得る。
【0033】
ステップS6で第1位置を選択した後、制御器30は、電源冷却器11を通過後の熱媒の温度を外気温度と比較する(ステップS8)。電源冷却器11を通過後の熱媒の温度は、電源冷却器11の下流側に設置された温度センサ94bで取得され、外気温度は外気熱交換器13に設置された温度センサ94cで取得される。
【0034】
制御器30は、電源冷却器11を通過後の熱媒の温度が外気温度よりも所定のマージン温度差以上低い場合(ステップS8:YES)、電源温度に関わらず切換弁14を第1弁位置から第2弁位置へ変更する(ステップS9)。制御器30は、電源冷却器11を通過後の熱媒の温度が外気温度よりも所定のマージン温度差以上低くない場合(ステップS8:NO)、切換弁14を第1弁位置に保持する。
【0035】
先に述べたように、切換弁14を第2弁位置に設定すると、外気の熱が車室の暖房に利用されるようになる。マージン温度差は、例えば5度に設定されている。制御器30は、電源冷却器11を通過後の熱媒の温度が外気温度よりも5度以上低い場合に電源熱利用の暖房(第1弁位置)から外気熱利用の暖房(第2弁位置)へ切り換える。すなわち、制御器30は、第1弁位置が選択されている間に空調機20に供給される熱媒の温度が外気温度よりもマージン温度差以上低くなった場合には、切換弁14を第2弁位置へ変更し、外気による暖房へ切り換える。
【0036】
なお、制御器30は、ステップS8の判断がYESの場合、タイマをスタートさせて
図3の処理を終了する(ステップS9)。制御器30は、ステップS8の判断がNOの場合にはタイマを停止して処理を終了する(ステップS10)。なお、制御器30は、タイマを停止する場合には同時にタイマの値をゼロにリセットする。
【0037】
制御器30は、
図3の処理を一定の周期で繰り返す。ステップS9にてタイマがスタートした後は、電源温度に関わらず、所定の保持時間が経過するまで、第2弁位置が保持される(ステップS2:YES、ステップS3:YES、リターン)。一方、ステップS9にてタイマがスタートしてから所定の保持時間が経過すると、タイマを停止し、ステップS5以降の処理を実行する(ステップS2:YES、S3:NO、S4)。ステップS10の場合と同様に、制御器30は、ステップS4においてもタイマを停止すると同時にタイマの値をゼロにリセットする。
【0038】
ステップS9にて切換弁14が第1弁位置から第2弁位置へ切り換えられた後、一定の保持時間の間は、第2弁位置が保持される。この処理により、電源温度、熱媒の温度、外気温度が微妙に変化しても弁位置が固定され、切換弁14の切り換えのハンチングが防止される。保持時間は、例えば5分に設定されている。
【0039】
実施例の熱管理システム2では、電源温度が高い場合でも電源3から熱媒へ熱がうまく伝わっていない場合には(すなわち、電源冷却器11を通過後の熱媒の温度が低い場合には)、電源3の熱を使う暖房から外気の熱を使う暖房に切り換える。そのように切換弁14を制御することで車室を暖房するのに電源3の熱と外気の熱を効率よく利用することができる。
【0040】
図4を参照して空調機20の構造を説明する。空調機20は、第1熱回路40と第2熱回路50を備えている。第1熱回路40は車室を冷却し、第2熱回路50が車室を温める。第1熱回路40は、暖房の際、循環路10を流れる熱媒の熱を第2熱回路50へ移す役割も担う。以下では、説明の便宜上、外気熱交換器13(または電源冷却器11)と空調機20の間で熱媒を循環させる熱回路(すなわち、循環路10と循環路10に接続されているデバイス)を主熱回路と称する。
【0041】
第1熱回路40は、循環路41、チラー42、エバポレータ43、膨張弁44a、44b、圧縮器45、熱交換器47、切換弁46、モジュレータ48を備える。循環路41は、チラー42、エバポレータ43、熱交換器47を接続している。循環路41には第1熱媒が流れる。切換弁46は、第1熱媒の流路を切り換える。暖房モードのとき、制御器30は、チラー42と熱交換器47の間で第1熱媒が循環し、エバポレータ43には第1熱媒が流れないように切換弁46を制御する。
【0042】
液体の第1熱媒は、膨張弁44aで気体に変化するとともに温度が下がる。温度が低下した第1熱媒はチラー42で主熱回路の熱媒から熱を吸収し、温度が高くなる。チラー42を通過した第1熱媒(気体)は圧縮器45で圧縮されて液化するとともに温度がさらに高くなる。高温の第1熱媒は熱交換器47に供給される。熱交換器47を通過した第1熱媒はモジュレータ48を介して切換弁46へと送られる。
【0043】
第2熱回路50は、循環路51、車室ヒータ53、ラジエータ56、切換弁52を備える。循環路51は、熱交換器47、車室ヒータ53、ラジエータ56を接続している。循環路51には第2熱媒が流れる。切換弁52は、第2熱媒の流路を切り換える。暖房モードのとき、制御器30は、熱交換器47と車室ヒータ53の間で第2熱媒が循環し、ラジエータ56には第2熱媒が流れないように切換弁52を制御する。
【0044】
先に述べたように、熱交換器47には高温の第1熱媒が流れる。暖房モードのとき、第2熱媒は熱交換器47にて第1熱媒から熱を吸収する。第1熱媒の熱によって高温となった第2熱媒は、車室ヒータ53を通過する。車室ヒータ53には車室内の空気が流れるエアダクト53aも通過している。車室ヒータ53にて、高温の第2熱媒によって車室の空気が温められる。第2熱媒の熱エネルギが少ない場合、制御器30は電気ヒータ54を使って第2熱媒を温める。暖房モードのとき、電源3の熱または外気の熱は、主熱回路の熱媒から第1熱媒と第2熱媒を介して車室を温める。第1熱回路40では、気化して低温化した第1熱媒が主熱回路の熱媒から熱を受け、圧縮/液化されてさらに高温となった第1熱媒が第2熱媒へ熱を移す。このサイクルにより、温度差の小さい電源3(または外気)と車室の間で熱を移すことができる。温度差の小さい2個の熱回路の間で熱を移すこのサイクルはヒートポンプと呼ばれる。
【0045】
冷房モードのとき、制御器30は、エバポレータ43と熱交換器47の間で第1熱媒が循環し、チラー42には第1熱媒が流れないように切換弁46を制御する。エバポレータ43には車室内の空気が流れるエアダクト43aも通過している。液体の第1熱媒は、膨張弁44aで気体に変化するとともに温度が下がる。温度が低下した第1熱媒はエバポレータ43で車室内の空気を冷やす。エバポレータ43を通過した第1熱媒(気体)は圧縮器45で圧縮されて液化するとともに温度が高くなる。高温の第1熱媒は熱交換器47に供給され、第2熱回路50の第2熱媒に熱を移す。冷房モードのとき、制御器30は、第2熱回路50の熱交換器47とラジエータ56の間で第2熱媒が循環し、車室ヒータには第2熱媒が流れないように切換弁52を制御する。第2熱媒の熱は、ラジエータ56にて外気に放出される。熱交換器47で冷やされた第1熱媒はモジュレータ48を介して切換弁46へと送られ、さらに膨張弁44bで気化して温度が下がる。
【0046】
以上説明したように、熱管理システム2は、車室を暖房するのに電源の熱と外気の熱を効率よく利用することができる。
【0047】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。暖房モードのときの空調機20が、車室を温める暖房器の一例に相当する。
【0048】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0049】
2:熱管理システム 3:電源 4:モータ 5:電力変換器 10、41、51:循環路 10a:空調機流路 10b:熱交換器流路 10c:電源冷却器流路 10d:モータ冷却器流路 10e:バイパス流路 11:電源冷却器 12:モータ冷却器 13:外気熱交換器 14、46、52:切換弁 15、16:ポンプ 17:変換器冷却器 20:空調機 30:制御器 40:第1熱回路 42:チラー 43:エバポレータ 44a、44b:膨張弁 45:圧縮器 47:熱交換器 48:モジュレータ 50:第2熱回路 53:車室ヒータ 54:電気ヒータ 56:ラジエータ 91:オイルクーラ 92:オイルポンプ 93:オイル流路 94a-94c:温度センサ 95:三方弁