(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ワカサギ釣り用電動リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/017 20060101AFI20240730BHJP
A01K 89/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A01K89/017
A01K89/00 B
A01K89/00 C
(21)【出願番号】P 2021117309
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】張 永裕
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 幸則
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-030238(JP,A)
【文献】特開2000-004728(JP,A)
【文献】特開平06-292489(JP,A)
【文献】特開平07-000084(JP,A)
【文献】特開2001-025342(JP,A)
【文献】米国特許第04378652(US,A)
【文献】美味極楽,2016年02月17日,https://web.archive.org/web/20160217223002/http://www.bimitsuri.jp/country/11/001/index.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 - 89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体と、
前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、
前記スプールを正転駆動/逆転駆動する電動モータと、
前記電動モータの駆動を制御する制御部と、
を有するワカサギ釣り用電動リールにおいて、
前記制御部は、棚に向けて仕掛けを投入する際、釣糸が所定の繰り出し速度で繰り出された後、前記棚の手前の所定位置から釣糸の繰り出し速度が低下するように前記電動モータを制御
し、釣糸が前記所定の繰り出し速度で繰り出された後、前記棚の手前の所定位置で釣糸の繰り出しを一旦停止し、その後、釣糸の繰り出し速度を低下させるように前記電動モータを制御することを特徴とするワカサギ釣り用電動リール。
【請求項2】
前記釣糸の繰り出しは、前記電動モータの逆転駆動によって行なわれることを特徴とする請求項1に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項3】
前記制御部は、前記棚の手前の所定位置からの釣糸の繰り出し速度を、前記棚の手前の所定位置までの前記釣糸の繰り出し速度に対して70%以下となるように前記電動モータを制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項4】
前記制御部は、前記仕掛けが棚内にある状態で、仕掛けを連続的、又は、断続的に上下動させるシャクリモードを実行することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項5】
前記棚の手前の所定位置は、50~100cmの範囲で設定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸が巻回されるスプールを電動モータにより回転駆動させるワカサギ釣り用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結氷した湖の上で行なうワカサギの穴釣りやワカサギのボート釣り等においては、常時釣り竿を手で保持せずにリールに短い釣り竿を取り付け、台の上に載置した状態で釣りを行なうことができるワカサギ釣り用電動リールが提案されている。例えば、特許文献1には、電動モータ(以下、モータとも称する)を正転及び逆転駆動して、誘い操作を自動で継続的に行えるワカサギ釣り用電動リールが開示されている。このようなワカサギ釣り用電動リールでは、遊泳層(ワカサギ等がいる層であり、以下、「棚」と称する)まで仕掛けを速やかに落下し、仕掛けが所定の棚に到達した際に、モータの回転を制御して上記した誘い操作を行なうことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ワカサギは回遊魚であり、釣果を向上するためには、素早く仕掛けを棚に送り込んで、様々な誘い操作を行なうことが好ましい。従来のワカサギ釣り用電動リールでは、クラッチをOFFにしてスプールをフリー回転状態として仕掛けを棚まで自由落下させるか、クラッチをONのままでモータを逆転駆動して仕掛けを棚まで所定の速度で落下させる方法が採られる(スプールに釣糸を巻き取る駆動を正転駆動、スプールから釣糸を繰り出す駆動を逆転駆動と称する)。
【0005】
上記したように、釣果を向上するには、仕掛けを棚まで速やかに落下させることが好ましいが、ワカサギは繊細な魚であり、そのままの落下速度で仕掛けを棚まで送り込むと、異変を察知して逃げてしまう可能性がある(ワカサギが逃げてしまうと、釣り人は移動する必要がある)。このため、ワカサギに気付かれないような速度で釣糸を繰り出すことが考えられるが、水面から棚までの距離が長いと、棚に仕掛けが到達するまで相当の時間が掛かってしまい、釣り人にとってはストレスであり、手返しも低下して釣果に影響を及ぼしてしまう。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、仕掛けを棚に向けて速やかに落下させることができるとともに、ワカサギが棚から逃げることのないワカサギ釣り用電動リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明のワカサギ釣り用電動リールは、リール本体と、前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、前記スプールを正転駆動/逆転駆動する電動モータと、前記電動モータの駆動を制御する制御部と、を有しており、前記制御部は、棚に向けて仕掛けを投入する際、釣糸が所定の繰り出し速度で繰り出された後、前記棚の手前の所定位置から釣糸の繰り出し速度が低下するように前記電動モータを制御することを特徴とする。
【0008】
上記した構成によれば、仕掛けを棚に向けて投入する際、棚の手前の所定の位置までは釣糸を所定の繰り出し速度で繰り出し、前記棚の手前の所定位置からは、釣糸の繰り出し速度を低下させるため、棚に至る所定の位置までは速やかに仕掛けを落下させることができ、棚に対しては、それよりも遅い速度で落下させるので、棚にいるワカサギが異変を察知し難くなり、逃げることが抑制される。すなわち、棚に向けて速やかに仕掛けを投入することができると共に、棚にいるワカサギを驚かせることなく、仕掛けを棚内に送り込むことが可能となり、手返しが向上して良好な釣果が得られる。
【0009】
なお、上記した構成において、仕掛けを前記棚の手前の所定位置まで落下させるのは、スプールをフリー回転状態(クラッチOFF)にして自然落下させても良いし、電動モータの逆転駆動によって釣り人が設定した任意の速度で行なっても良い。また、棚の手前の所定の位置では、釣糸の繰り出しは一旦停止しても良いし、繰り出し状態(繰り出し速度が低下した繰り出し状態)にあっても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、仕掛けを棚に向けて速やかに落下させることができるとともに、ワカサギが棚から逃げることのないワカサギ釣り用電動リールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のワカサギ釣り用電動リールの一実施形態を示す斜視図。
【
図3】
図1のワカサギ釣り用電動リールの内部構造を示す断面図。
【
図4】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御系の概略構成を示すブロック図。
【
図5】水面から棚に至るまでの釣糸(仕掛け)の状態を概略的に示す図。
【
図6】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御の第1の形態例を示すフローチャート。
【
図7】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御の第2の形態例を示すフローチャート。
【
図8】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御の第3の形態例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るワカサギ釣り用電動リール(以下、単に魚釣用リールとも称する)の一実施形態について具体的に説明する。
なお、本発明に係るワカサギ釣り用電動リールは、後述するようにリール本体に釣竿を直接に装着でき(竿装着部を有する)、電動モータの出力軸がスプールに対して動力伝達可能に係合される(電動モータの出力軸が例えばスプールの回転軸と直交した状態でスプールの側面に対して係脱可能に当て付けられることによって電動モータからスプールへの動力の伝達が継脱される)とともに、ギアによる変速を行なうことなく電動モータに対する印加電圧を制御することにより、回転速度、回転方向及びトルクが変えられるという特徴を備えている。
【0013】
最初に、
図1から
図3を参照して魚釣用リールの全体構成について説明する。
なお、以下の説明において、前後方向、左右方向は、
図2で示す方向であり、上下方向は、
図3で示す方向とする。
【0014】
魚釣用リール1は、リール本体2を備える。リール本体2は、その外郭を構成する筐体3を有する。筐体3は、例えばABS樹脂、ポリカーボーネートのような合成樹脂材料により形成される。
【0015】
前記筐体3は、やや湾曲した縦長(前後方向に長い)の箱体であり、全体として釣人が右手又は左手で掴むことができる程度の大きさを有する。
図3に示されるように、筐体3は、ロアケース3Aとトップカバー3Bとで構成される。
【0016】
前記トップカバー3Bは、ネジ止め或いは嵌め込み等の手段によりロアケース3Aに固定されて、ロアケース3Aとの間に電動モータ5を収容するためのモータ収容室を画定する。更に、リール本体2内、本実施形態ではロアケース3Aには、電動モータ5に電力を供給するための例えば乾電池や再充電可能なバッテリー7等を着脱自在に収容できる収容部Sを画定する内部電源ハウジング8が設けられる。
【0017】
なお、リール本体2、本実施形態ではロアケース3Aには、内部電源ハウジング8の収容部S(本実施形態では、収容部Sを含めてモータ5等を全体的に露出させるためのロアケース3Aの開口)を外部に対して閉じるためのカバー部材10が着脱自在に取り付けられるようになっている。
【0018】
前記筐体3の前方側の下面には、リール本体2の左右方向に、互いに離間して取り付けられる脚12を有する。脚12は、例えば筐体3よりも柔らかいゴム状弾性体で形成することが好ましく、ロアケース3Aの底壁に固定される。脚12は、例えば氷結した湖面上に据え付けられる釣用の台の上にリール本体2を置いた際、この台の上面に接触する接地部として機能する。
【0019】
なお、本実施形態の脚12には、左右それぞれの基端部分に嵌入されて前方に向けて延出する突出部13Aと、突出部13Aの先端を左右方向に連結し、台上に設置される連結部13Bとを備えた補助脚13が設けられている。補助脚13は、前記脚12に対して前後方向に摺動させることができ、連結部13Bの位置を調整できるようにしている。
このような補助脚13を設けておくことで、リール本体2を安定して載置することが可能となり、例えば、多数のワカサギが掛かった場合等、釣糸に大きな負荷が加わっても、リール本体2を安定した状態に維持することができる。
【0020】
前記筐体3の前端部には、合成樹脂製の支持台15がネジ止め等により固定されており、この支持台15は、釣竿80が装着可能な竿装着部としての竿受け部16と、スプール受け部18とを備える。
【0021】
前記竿受け部16は、筐体3の前端の左右方向の中央部に位置している。竿受け部16は、筐体3の前方に向けて開口する支持孔16aを有するとともに、スプールから繰り出される釣糸を案内する釣糸ガイド20を支持する。釣糸ガイド20は、竿受け部16の上方で前後方向に揺動可能に保持されており、通常は、
図3で示すように、前方に倒れた状態に付勢保持されている。また、支持台15のスプール受け部18は、トップカバー3Bの開口部3Cの下方で水平に配置されている。
【0022】
図3に示されるように、ロアケース3Aの前側の底壁には、軸支部21が設けられている。この軸支部21には、上下方向に延出するスプール軸23aが支持される。スプール軸23aは、ロアケース3Aの底壁から垂直に起立するとともに、スプール受け部18を貫通して上方に突出する。
【0023】
前記スプール軸23aの上方には、合成樹脂材又は金属材製のスプール23が回転可能に支持される。スプール23は、リール本体2の前部において、リール本体2の上面の前方側の左右方向の中央部に位置する。なお、スプール23の直ぐ後側には、筐体3の上面(トップカバー3B上)に位置して、各種の情報が表示される表示部(液晶表示装置)30が設けられる。
【0024】
前記スプール23は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部23Aと、一対のフランジ23B,23Cとを有しており、垂直に配置されるスプール軸23aを中心として回転する。フランジ23B,23Cは、釣糸巻回胴部23Aと同軸の円板状を成すとともに、釣糸巻回胴部23Aを間に挟んで上下方向に向かい合う。この場合、下側のフランジ23Cが前記スプール受け部18の上面に配置される。
【0025】
前記スプール軸23aは、釣糸巻回胴部23Aを同軸状に貫通して上側のフランジ23Bの上に突出する。スプール軸23aの上端には袋ナット25がねじ込まれる。袋ナット25は、スプール受け部18との間でスプール23を挟み込んでおり、これにより、スプール23がリール本体2の前部に回転自在に支持される。なお、スプール23は、トップカバー3Bの開口部3Cの内側に位置する。
【0026】
図3に示されるように、竿受け部16の支持孔16aには釣竿80が嵌め込まれるようになっている。釣竿80は、例えば全長が15cm程度の短いものでよく、リール本体2の前端から前方に向けて水平に突き出る。
【0027】
釣竿80の外周面には、複数の釣糸ガイド(図示せず)が取り付けられる。これらの釣糸ガイドは、釣竿80の長手方向に間隔を存して一列に設けられる。スプール23から繰り出された釣糸(図示せず)は、リール本体2の釣糸ガイド20から釣竿80の釣糸ガイドを経由して釣竿80の先端に導かれた後、釣竿80の先端から例えば湖面に開けた孔を通じて水中へ導かれる。
【0028】
前記トップカバー3Bとロアケース3Aとの間に形成される前述したモータ収容室内の電動モータ5は、電気的制御により正逆回転可能になっており、ステータ及びロータを収容するモータハウジング(図示せず)と、このモータハウジングの前端から突出する金属製の出力軸5Aとを有する。電動モータ5は、出力軸5Aを筐体3の前後方向に沿わせた横置きの姿勢でスプール23の後方に設置される。
【0029】
前記モータ5の出力軸5Aは、スプール軸23aの直後に位置するとともに、このスプール軸23aと直交するような位置関係を保っている。出力軸5Aの前端部は、スプール23の下側のフランジ23Cの下方に位置する。
【0030】
前記出力軸5Aの外周には、円筒状のトルク伝達部材5Bが取り付けられる。トルク伝達部材5Bは、例えばスプール23よりも柔らかい合成樹脂材又はゴム状弾性体により形成される。
図3に示される状態では、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面に接している。
【0031】
前記電動モータ5のモータハウジング(したがって、電動モータ5)は、図示しないピボット軸を支点として、
図3に示される水平な第1の位置と、前方下方に傾斜する第2の位置(
図4の点線で示す位置)との間で揺動可能となっている。
【0032】
第1の位置では、
図3に示されるように電動モータ5の出力軸5Aが筐体3の前後方向に沿って水平に延びており、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面に当接する。このように当接することにより、フランジ23Cとトルク伝達部材5Bとの当接部分に摩擦抵抗が付与され、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23との間が機械的に接続される(クラッチON)。
【0033】
この結果、摩擦抵抗により、スプール23の自由な回転が阻止される。この状態で更に電動モータ5が正逆回転駆動されると、出力軸5Aのトルクがトルク伝達部材5Bを介してスプール23に伝わり、スプール23が釣糸を巻き取る方向又は釣糸を繰り出す方向に回転する。すなわち、この構成において、電動モータ5は、その出力軸5Aがスプール23に対して動力伝達可能に係合されており、電動モータ5の正逆回転駆動によってスプール23が正逆回転され、スプール23に釣糸が巻き取られ、又はスプール23から釣糸が繰り出される。
【0034】
一方、第2の位置では、電動モータ5が傾動して出力軸5Aが前下がりとなって、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面から離れる。これにより、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23との機械的な接続が解除され(クラッチOFF)、トルク伝達部材5Bとスプール23との間に摩擦抵抗が付与されなくなる。そのため、スプール23は、釣糸を巻き取る方向及び繰り出す方向の自由な回転が許容されるフリーな状態となる。
【0035】
なお、電動モータ5は、図示しない引っ張りコイルスプリングを介して常に第1の位置に向けて弾性的に付勢されている。したがって、モータ5が第1の位置にある限り、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面に弾性的に押し付けられる。
【0036】
また、電動モータ5(モータハウジング)の第1の位置と第2の位置との間の切り換えは、トップカバー3Bから突出して設けられる操作体28によって行なわれる。この操作体28は、リール本体2に対して左右方向に揺動可能に支持されており、
図1及び
図2に示す位置(左側)がクラッチON位置、反対位置(右側)がクラッチOFF位置となっている。操作体28の下端は、トルク伝達部材5Bと直接的、又は、間接的に係合しており、操作体をクラッチON位置からクラッチOFF位置に移動することにより、トルク伝達部材5Bとともに電動モータ5の出力軸5Aを下方に(第2の位置へ)に押し下げる。これにより、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23との機械的な接続が解除される。また、操作体28をクラッチOFF位置からクラッチON位置に移動すると、前述した引っ張りコイルスプリングによる付勢力によって電動モータ5が第1の位置へ復帰する。
【0037】
上記したように、操作体28は、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23とを機械的に接続する状態(クラッチON)と、これらの接続を解除する状態(クラッチOFF)とに切り換えるように構成されている。すなわち、操作体28は、電動モータの動力をスプール23に伝えることができる動力伝達状態と、電動モータ5からスプール23への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えるためのクラッチ機構としての機能を果たす。
なお、前記クラッチ機構は、操作体28の上記した操作以外にも、クラッチOFF状態で釣糸の繰り出しが所定量になった(仕掛けが設定した深さに到達した)ときに、クラッチOFFからクラッチONへ自動復帰するよう構成されている。例えば、ソレノイド等の駆動部材を設けておき、釣糸が所定量繰り出されたときに駆動部材を駆動して、前記操作体28をクラッチON位置に自動復帰させることが可能である。
【0038】
前記リール本体2には、電動モータ5のON/OFF、電動モータ5の駆動(スプール23の正転、逆転、寸動、停止)、各種のモードの設定等が行える操作ボタン(操作スイッチ)が複数、設けられている。例えば、本実施形態では、前記表示部30の下側にON/OFFボタン31と各種のモードを選択したり記憶するための設定ボタン32が並設されており、リール本体2の前方側の両側にモータ駆動ボタン33が配設されている。この場合、モータ駆動ボタン33は、右手でリール本体を掴んでも、左手でリール本体を掴んでも同様なモータ駆動操作が行なえるように構成されている。これらの操作ボタン31~33を操作(瞬時の押圧操作、長押し操作、同時操作等)することで、魚釣用リールの駆動が制御される。
なお、魚釣用リールを駆動するための操作ボタンの配設位置、配設個数、操作態様等については、図に示すような構成に限定されることはなく、種々、変形することが可能である。
【0039】
図4は、ワカサギ釣り用電動リールの制御系の概略構成を示すブロック図である。
図示のように、魚釣用リールの動作を制御する制御部40は、バス線50を通じて、スプール回転検知部41、クラッチ機構42、モータ駆動回路43、釣糸ガイド検知センサ45、表示部30、操作ボタン31~33、報音部46等の構要素との間で情報の送受信が行なわれる。
【0040】
制御部40は、魚釣用リールを制御する各種の動作プログラムや制御テーブルが格納されたROM、動作プログラムに従って表示部30の表示制御や電動モータ5の駆動制御等の各種の制御動作を実行するCPU、動作プログラムを実行する際に一時記憶部として機能するRAM等を含んだマイクロコンピュータとして構成されている。
【0041】
前記スプール回転検知部41は、スプールから繰り出される釣糸の繰り出し量を検知する機能を備え、例えば、スプールに設置した磁石の磁界の変化を検知するセンサ(ホール素子等)で構成することが可能である。このスプール回転検知部41は、スプールの回転数(釣糸の繰り出し量)や回転方向、繰り出し糸長を検出し、スプールから繰り出される釣糸81(
図5参照)に装着された仕掛け82の水深位置を計測する機能を有する。
【0042】
前記クラッチ機構42は、上述したように、クラッチOFF状態で釣糸が繰り出されている際、スプール回転検知部41から、所定の量、釣糸が繰り出されたことが検知された際にクラッチONに自動復帰させる機能を有する。
【0043】
前記モータ駆動回路43は、例えば、電動モータ5をPWM駆動するPWM駆動回路によって構成される。PWM駆動回路は、PWMのデューティ比を変更することで、電動モータ5の回転速度を調整する機能を有する。本発明における電動モータ5は、後述するように、釣糸が繰り出された際、制御プログラムによって、棚の手前の所定位置から、ゆっくりと仕掛けを落下させるように駆動制御される。また、必要に応じて、棚内において、仕掛けを連続的、又は、断続的に上下動させるシャクリモードを実行するように駆動制御される。
【0044】
前記釣糸ガイドセンサ45は、釣糸の巻き取り時において、釣糸ガイド20が一定時間連続して、付勢力に抗して後方に倒れたことを検知した際、電動モータ5の巻き上げ駆動を停止する機能を有する。これにより、仕掛けがスプールに巻き付く等のトラブルを回避するようにしている。
【0045】
前記表示部30には、例えば、釣り人によって設定可能なモードの種別の表示、実際に設定したモード表示、釣糸の繰り出し量(計測された水深)や速度、時間等が表示される。また、前記報音部46からは、各種のアラーム音、例えば、操作ボタンを押圧する毎に報知する操作音、所定の水深(指定棚、指定棚の手前の所定の位置等)になったことを報知するアラーム音等が報音される。
【0046】
なお、前記制御部40は、外部装置48からの情報を取得して各種の動作を制御する構成であっても良い。例えば、魚釣用リールと有線又は無線接続される水深計測装置や魚群探知機等から、棚の高さ情報を取得し、取得した棚情報を基に電動モータ5を駆動制御しても良い。
【0047】
次に、上記した構成の魚釣用リール1を用いてワカサギを釣る場合の制御動作、特に、仕掛けを投入して、仕掛けを指示棚に送り込む制御動作について
図5から
図8を参照して説明する。
【0048】
上述したように、ワカサギは、所定の棚内で群れて回遊する性質がある。通常、棚に向けて仕掛けを投入する場合、クラッチOFFにして仕掛けを自由落下させ、棚に到達したらクラッチONにする操作が成される。この場合、仕掛けは、クラッチOFFによる自由落下させても良いし、スプールを任意の速度で釣糸繰り出し方向に回転させて落下させても良い。
【0049】
上記したように、仕掛けを落下させて、そのままの速度で棚に到達させると、その棚内に群れているワカサギは異常を察知して逃げる可能性がある。本発明では、電動モータ5の駆動を制御することで、棚に向けて仕掛けを短時間で落下させると共に、棚に群れているワカサギが異常を察知して逃げないように、棚の手前の所定位置から釣糸の繰り出し速度が低下するように電動モータ5を制御することを特徴としている。
以下、
図5及び
図6を参照して、第1の制御の形態例について説明する。
【0050】
一例として、ワカサギが群れている棚Dは、水面Pから10mの深さHであるとする(
図5参照)。この場合、魚釣用リール1に装着した釣竿80の先端から落下する釣糸81の先端に仕掛け82が締結されており、その先端に錘83が装着されている。ここでは、棚Dの手前の所定位置D1から電動モータの逆転駆動を低速制御するようにしている。
なお、棚Dの深さH(魚釣用リール1の水深カウンタで表示される深さ)については、仕掛け82のいずれかの位置、或いは、仕掛けに装着された錘83の位置を基準として設定することが可能である。例えば、錘83の位置が水面Pにあるときを0mとして設定しても良いし、錘83が少し沈んだ位置(例えば、仕掛け82の上端が水面Pにある状態)を0mとして設定しても良い。すなわち、棚Dの深さHについては、そのように設定した0mの位置(錘が水面Pにある状態、又は、多少、沈んだ状態)を基準とした深さによって特定すれば良く、必ずしも正確な水深と一致していなくても良い。
また、棚Dから所定位置D1までの距離H1は任意であるが、所定位置D1までの仕掛けの落下がワカサギに察知できない程度の距離とされる。
具体的に検証したところ、50cm~100cmの範囲にすることが好ましい(以下の説明では50cmとする)が、この距離H1については、釣り場の状況等に応じてユーザが自由に設定するようにしても良い。或いは、ユーザが設定しない場合であれば、あらかじめ50cm~100cmの範囲内で設定しておくことも可能である。
【0051】
図6のフローチャートに示すように、最初に棚設定(指示棚;10m)を行なう(ステップS1)。この棚情報は、魚群探知機等の外部装置48からの情報、ドーム船であれば船頭からの指示棚情報、或いは、釣り人の経験等によって設定され、釣り人が前記操作ボタン31~33の何れかを押圧して入力する。或いは、外部装置48と連動して、自動設定される構成であっても良い。
【0052】
次に、クラッチOFFになったことが検知されると、仕掛け(釣糸)は自由落下して所定の繰り出し速度で繰り出され、これと共に水深の計測がなされる(ステップS2;Yes、ステップS3)。そして、制御部は、錘83が設定された棚の手前の所定位置(ここでは9m50cm)になることを検知し、錘83がその位置に達したときに、クラッチONにする(ステップS4;Yes、ステップS5)。クラッチONになることで仕掛けが停止(一旦停止)するので、棚に群れているワカサギは、仕掛けが落下してくるのを察知することがなく、逃げるようなことはない。
【0053】
次に、電動モータを低速で逆転駆動して仕掛けを棚内に落とし込む(ステップS6)。この低速の逆転駆動は、上記した仕掛けが自由落下する所定の繰り出し速度よりも低速となっていれば良く、ワカサギが驚かないような速度に設定されている。具体的には、10gの錘を締結してフリー落下する仕掛けの繰り出し速度(落下速度)よりも、遅くなるように設定しておくことで、ワカサギが逃げ難くなる。
【0054】
なお、仕掛け82に締結される錘83の重さによって仕掛けの落下速度(繰り出し速度)は異なるが、前記制御部は、錘の重さに応じて、前記棚の手前の所定位置からの落下速度に関し、重さ毎に好ましい落下速度となる速度テーブル(電動モータの逆転速度テーブル)を有していても良い。通常、締結される錘は、0.5~20g程度が使用されるが、その錘に適した落下速度となるように電動モータの逆転駆動を制御することが好ましい。
【0055】
或いは、電動モータの逆転駆動については、バックラッシュしないように、停止前の自由落下する仕掛けの落下速度を検知して、それ以下の落下速度となるように制御しても良い。これは、仕掛けに締結される錘83が軽くなると、電動モータを逆転駆動した際にスプールでバックラッシュ(電動モータの回転が速すぎて釣糸がふける)が生じ易くなるが、そのようなバックラッシュが生じない程度の速度、具体的には、一旦停止前の自由落下している繰り出し速度に対して70%以下の繰り出し速度となるように電動モータの回転(逆転)速度を設定することで、バックラッシュを防止しつつ、ワカサギが驚いて逃げることを抑制することができる。
【0056】
このような電動モータの低速の逆転制御については、仕掛けが自由落下する際のスプールの回転数と時間によって、仕掛けの落下速度を計測し、その計測値に対して70%以下となる落下速度を自動で算出し、一旦停止後の電動モータの逆転速度を自動で決定するようにしても良い(もちろん、このような低速の逆転駆動速度については、任意に設定できるようにしても良い)。
【0057】
なお、上記したように決定される一旦停止後の減速した繰り出し速度については、スプールの回転速度を、決定した釣糸の繰り出し速度に設定することによって、バックラッシュの発生を防止することができる。
【0058】
以上のように、電動モータの低速駆動によって仕掛けが棚に到達すると(ステップS6、ステップS7;Yes)、その後は、誘い動作(しゃくり操作)を行なう。この誘い動作については、釣り人がリール本体を上下動することで好みの誘い動作をしても良いし、制御部で記憶している仕掛けを連続的、又は、断続的に上下動させる誘い動作(例えば、特許文献1に開示されているようなしゃくりモード)を実行しても良い。このようなしゃくりモードが選択、設定された場合は、そのモードに応じた電動モータの駆動制御がなされる(ステップS8)ことから、釣り人は、リール本体を把持して上下動操作する必要がないため、疲れることなく釣果を向上することができる。
【0059】
前記釣糸の繰り出しについては、クラッチOFF操作によって成された(仕掛けの自由落下)が、電動モータの逆転駆動によって行っても良い。
以下、このような制御の形態例(第2の制御の形態例)を
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
上記した
図6のフローチャートのステップS2において、クラッチOFFでないことを条件に、電動モータは逆転駆動される(ステップS2;No、ステップS12)。電動モータの逆転駆動速度は、仕掛けに装着される錘の重さによって設定されても良いし、軽い錘を装着してもバックラッシュが生じない程度に設定されたものであっても良い。或いは、釣り人が設定したものであっても良い。いずれにしても、仕掛けの繰り出し速度がバックラッシュを生じさせない程度で、速やかに棚の手前の所定位置に到達できることが好ましい。
【0061】
その後の制御処理(ステップS13~ステップS18)は、
図6で示した制御処理(ステップS3~ステップS8)と同様である。すなわち、電動モータを逆転駆動して棚の手前の所定位置に仕掛けが到達した際、電動モータの駆動を停止させ、その後は、それまでの逆転駆動速度よりも遅い速度で電動モータを逆転駆動し、仕掛けを棚に到達させる制御が行われる。
【0062】
このように、仕掛けの落下については、自由落下させることなく、スプールの逆転駆動で行なうようにしても良く、落下速度を最適に設定することで、より早く、バックラッシュさせずに仕掛けを棚の手前の所定位置に到達させることが可能となる。
なお、このような構成では、仕掛けの落下速度は、一定に維持する構成であっても良いし、繰り出し量に応じて可変させる(例えば、仕掛けの位置が深くなるにつれて低速にする等)構成であっても良い。或いは、最初に仕掛けを自由落下させて繰り出し速度を算出(スプールの回転数情報、及び、所定の水深に到達した時間情報から算出)しておき、その次の仕掛け投入からは、その繰り出し速度と一致するようにスプールの逆転速度を設定しても良い。このようにすることで、釣糸を繰り出す際のバックラッシュを効果的に防止することができる。
【0063】
上記した構成では、制御部は、棚の手前の所定位置から釣糸の繰り出し速度を低下させるにあたり、前記所定の位置で一旦停止するように電動モータを制御していたが、一旦停止させることなく、落下速度を低下させながら棚に落とし込んでも良い。
以下、このような制御の形態例(第3の制御の形態例)を
図8のフローチャートを参照して説明する。
【0064】
上記した
図6のフローチャートのステップS2において、クラッチOFFでないことを条件に、電動モータは逆転駆動される(ステップS2;No、ステップS22)。電動モータの逆転駆動速度は、
図7で示した構成と同様、仕掛けに装着される錘の重さによって設定されたもの、軽い錘を装着してもバックラッシュが生じない程度に設定されたもの、或いは、釣り人が設定したものであっても良い。
【0065】
そして、制御部は、水深を計測し(ステップS23)、仕掛けが棚の手前の所定位置に到達したことを検出した際(ステップS24;Yes)、電動モータを停止させることなく、それまでの落下速度よりも減速して仕掛けを低速で棚に落とし込み(ステップS25,ステップS26)、その後、誘いモードによる電動モータ駆動を行なう(ステップS27)。
【0066】
このような制御形態によれば、仕掛けを一旦停止させないため、より早く、かつ、ワカサギを驚かせることなく、仕掛けを棚に落とし込むことが可能となる。なお、このような構成では、仕掛けが棚の手前の所定位置に到達したことを検出した際に電動モータを減速しても良いし、所定位置の手前位置から徐々に減速させるようにしても良い。すなわち、棚に群れているワカサギが驚かなければ、その減速させる位置や減速の変化量については適宜変形することが可能である。
なお、仕掛けの落下速度等については、
図6及び
図7で説明した制御の形態例と同様に構成することも可能である。
【0067】
上述した本実施形態の構成によれば、仕掛けを棚に落とし込む際、その手前の所定位置で仕掛けを一旦停止、或いは、減速させ、その後、所定位置までの落下速度よりも低速で仕掛けを落とし込むため、仕掛けの棚までの落下時間を長くすることなく、かつ、棚にいるワカサギを驚かせてしまうようなこともない。すなわち、手返し時間を長くすることなく、釣果を向上することが可能となる。
この場合、仕掛け(錘)を停止させたり減速させる位置(棚の手前の所定位置)は、任意に設定することが可能であり、釣り人の作戦によって最適な位置にすることができる。例えば、仕掛けを速く停止させるとワカサギは逃げないが手返しが悪くなってしまう、また、ワカサギの活性や群れの状態等によっては、停止(減速)させる位置を変化させたいことがある、更に、反応の無い所で仕掛けを止めてワカサギの回遊を待ち伏せする等、様々な要因を考慮して、仕掛けを停止(減速)させる位置を調整することが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記視した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
本発明の魚釣用リールは、上記したような、仕掛けの棚への送り込み制御が行われる機能を備えていれば良く、それ以外の各種の機能、例えば、誘い機能、電動モータの巻き上げ機能、船べり停止機能、バックラッシュ防止機能等、様々な機能を別途、備えていても良い。また、リール本体2の形状、大きさ、表示部の表示態様、操作ボタンの配置、操作方法等は限定されることなく、種々、変形することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 魚釣用リール(ワカサギ釣り用電動リール)
2 リール本体
3 筐体
3A ロアケース
3B トップカバー
5 電動モータ
23 スプール
40 制御部
80 釣竿
81 釣糸