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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】浮体装置
(51)【国際特許分類】
   E03F 7/00 20060101AFI20240730BHJP
   F16L 55/40 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E03F7/00
F16L55/40
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021120167
(22)【出願日】2021-07-21
(65)【公開番号】P2023016098
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501091006
【氏名又は名称】株式会社東設土木コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 滋
(72)【発明者】
【氏名】森岡 宏之
(72)【発明者】
【氏名】森 文章
(72)【発明者】
【氏名】山内 優
(72)【発明者】
【氏名】恩知 憲正
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117943(JP,A)
【文献】米国特許第04763376(US,A)
【文献】特開2000-248612(JP,A)
【文献】実開平7-17677(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 9/04
E03F 7/00
B08B 1/00- 1/54
B08B 5/00-13/00
F16L 55/40
G01N 21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通水路内を流されながら点検を行う浮体装置であって、
前記通水路の水面に浮かぶ浮体と、
前記浮体に接続され水から受ける抵抗が該浮体よりも大きいパラシュートと、
前記浮体に搭載される1つ以上のセンサ機器と、
前記センサ機器よりも上方に配置され通水路の天井を滑走する滑走部材と、
を備えることを特徴とする浮体装置。
【請求項2】
前記浮体の上側に弾性を有するアーチ状フレームが設けられていて、
前記滑走部材は前記アーチ状フレームに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の浮体装置。
【請求項3】
前記浮体の下側にも、
1つ以上のセンサ機器と、
弾性を有するアーチ状フレームと、
前記下側のアーチ状フレームに取り付けられ前記下側のセンサ機器よりも下方に配置された滑走部材が備えられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の浮体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通水路内を流されながら点検を行う浮体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所等における通水路は、亀裂や汚損等の不具合の有無を定期的に点検する必要がある。通水路を点検する装置としては、例えば特許文献1に水路点検装置が開示されている。特許文献1の水路点検装置は、水流を受けるパラシュート状の水流受け部材、それに連結された支持枠、および支持枠に取り付けられる防水性を有する水中ビデオカメラを備える。
【0003】
特許文献1によれば、水流受け部材が水路を流れる水流より推進力を受けて、水路内を移動しながら、撮影手段により水路内壁を撮影し、撮影手段により撮影された映像に基づき水路内を点検することができる。しかしながら、特許文献1の水路点検装置は、車輪によって水路のトンネル敷(床)に接しながら移動するため、洗掘によるトンネル敷の凹凸の影響を受けやすい。
【0004】
そこで出願人は、特許文献2において、通水路の水面に浮かぶ浮体と、浮体に接続され水から受ける抵抗が浮体よりも大きいパラシュートと、浮体に搭載される1つ以上のセンサ機器と、を備える浮体装置を提案している。
【0005】
特許文献2に記載の浮体装置によれば、水路のほぼ中央を水路方向に姿勢を制御して流れ、気中部または水中部の壁面、上面、底面の全面を点検することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-013643号公報
【文献】特開2020-002756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の浮体装置は、水面に浮遊して移動することを前提としている。このため、水面の上に充分な空間がある場合には問題ないが、水路が水密のパイプや暗渠であると浮体装置が天井にこすれてしまって移動困難となってしまうおそれがある。例えば、水路が河川や道路をくぐる逆サイフォン(伏越:ふせごし)である場合には、通水路内がほぼ確実に水密となってしまう。
【0008】
そこで本発明は、逆サイフォンのような水密の通水路内であっても移動可能であり、水路のほぼ中央を水路方向に姿勢を制御して流れ、気中部または水中部の壁面、上面、底面の全面を点検可能な浮体装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な構成は、通水路内を流されながら点検を行う浮体装置であって、通水路の水面に浮かぶ浮体と、浮体に接続され水から受ける抵抗が浮体よりも大きいパラシュートと、浮体に搭載される1つ以上のセンサ機器と、センサ機器よりも上方に配置され通水路の天井を滑走する滑走部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、逆サイフォンのような水密の通水路内であっても移動可能であり、水路のほぼ中央を水路方向に姿勢を制御して流れ、気中部または水中部の壁面、上面、底面の全面を点検可能な浮体装置を提供することができる。
【0011】
浮体の上側に弾性を有するアーチ状フレームが設けられていて、滑走部材はアーチ状フレームに取り付けられていることが好ましい。これにより、通水路の上面に段差や凹凸があった場合にも緩衝材となり、安定して走行および撮影することが可能となる。
【0012】
浮体の下側にも、1つ以上のセンサ機器と、弾性を有するアーチ状フレームと、下側のアーチ状フレームに取り付けられ下側のセンサ機器よりも下方に配置された滑走部材が備えられていることが好ましい。これにより、浮体の下側も撮影することが可能となると共に、浮遊するに充分な水深がない場合にも移動することが可能になり、通水路の底面に段差や凹凸があった場合にも安定して走行および撮影することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、逆サイフォンのような水密の通水路内であっても移動可能であり、水路のほぼ中央を水路方向に姿勢を制御して流れ、気中部または水中部の壁面、上面、底面の全面を点検可能な浮体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態にかかる浮体装置の斜視図である。
図2】浮体装置の平面図および側面図である。
図3】通水路における浮体装置を観察した図である。
図4】逆サイフォンの通水路の例を説明する図である。
図5】浮体装置の使用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる浮体装置100の斜視図であって、図1(a)は前方ななめ上方からみた斜視図、図1(b)は後方ななめ下方からみた斜視図である。図2(a)は浮体装置100の平面図、図2(b)は浮体装置100の側面図である。
【0017】
図1に示す本実施形態の浮体装置100は、通水路10内を流されながら移動し、かかる通水路10の内面(壁面、上面、底面)の点検を行う装置である(図3参照)。図1に示すように、本実施形態の浮体装置100は、大別して装置本体110とパラシュート120から構成される。
【0018】
図1(a)(b)に示すように、装置本体110は、板状の浮体112の上面と下面に機器や部材を対称的に備えて構成されている。使用時にも上下の区別はなく、どちらが上になってもよい。したがって本実施形態では上下の機器や部材に同一の符号を付して説明する。
【0019】
浮体112は水よりも比重の軽い板状の部材であって、例えば発泡樹脂で構成することができる。浮体112の中央には、センサ機器の例として、通水路の上面または底面を撮影する天球カメラ140(360度カメラ)を備え、両側方および上下方向に通水路の壁面を撮影する3つのカメラ142を備える。また浮体112には、通水路の上面または底面、および両側方に向かって光を照射する3つのライト150を備えている。
【0020】
浮体112には、カメラ140、142やライト150などの機器の両側に、これらを囲うように2本のアーチ状フレーム160が取り付けられている。アーチ状フレーム160はABS樹脂やバネ鋼などの弾性を有する材質で構成されている。そしてアーチ状フレーム160には、滑走部材の例としての車輪170が取り付けられている。車輪170は1つのアーチ状フレーム160につき前後方向に2つ取り付けられていて、アーチ状フレーム160は左右両側に配置されているから、車輪170は片面につき4つ、上下両面で8つ配置されている。なお滑走部材は車輪170に限らず、ソリであってもよい。
【0021】
アーチ状フレーム160が弾性を有していることから、車輪170によって走行する場合のサスペンション(緩衝装置)として機能する。したがって通水路10の上面や底面に段差や凹凸があった場合にも緩衝材となり、安定して走行および撮影することが可能となる。
【0022】
パラシュート120は柔軟性のあるものでもよく、硬質のものでもよい。パラシュート120は、水から受ける抵抗が装置本体110よりも大きくなるような面積となっている。
【0023】
図3は通水路における浮体装置を観察した図であって、図3(a)は平面図、図3(b)は正面図であって水面がある場合、図3(c)は正面図であって水密の場合を示している。
【0024】
上記したように、パラシュート120は装置本体110よりも水の抵抗が大きいように校正されている。したがってパラシュート120が装置本体110を下流側に牽くことになる。これにより、水流の流れ方向に対する装置本体110の傾斜、または平面的な回転を抑制し、装置本体110の適切な姿勢を保つことができるため、センサ機器であるカメラ140、142による点検を好適に行うことが可能となる。
【0025】
また図3(a)に示すように、通水路10は一般に幅方向の中央に向かうにしたがって流速が速くなる。このため、浮体装置100が通水路10を移動する際には、パラシュート120は水流によって通水路10の幅方向の中心に流される。これにより、装置本体110もパラシュート120に引っ張られて通水路10の幅方向の中央に移動する。したがって、通水路10の幅方向への装置本体110の移動を抑制し、通水路10の左右の壁面と浮体装置100との距離をほぼ均等に維持することが可能となる。
【0026】
図3(b)に示すように、通水路10の中に水面がある場合(無圧管)においては、装置本体110は水面Sを浮遊しながら移動する。このとき、浮体112の上側の天球カメラ140によって水面Sより上側360°を撮影し、上側の3つのカメラ142によって天井および水面Sより上側の左右壁面を撮影することができる。また、浮体112の下側の天球カメラ140によって水面Sより下側360°を撮影し、下側の3つのカメラ142によって底面および水面Sより下側の左右壁面を撮影することができる。なお、本実施形態では、浮体112の上下にそれぞれ4つのセンサ効き(カメラ140、142)を搭載する構成を例示したが、本発明はこれに限定するものではなく、センサ機器の数は適宜変更することが可能である。
【0027】
なお本実施形態では、センサ機器としてカメラ140、142を搭載する構成を例示したが、これにおいても限定するものではない。他のセンサ機器としては、例えばレーザーセンサ、超音波センサやICタグリーダ(不図示)を例示することができる。センサ機器としてレーザーセンサを搭載することにより、通水路10内における断面形状およびその変化を把握することが可能となる。センサ機器としてICタグリーダを搭載することにより、通水路10の壁面に設けられたICタグ(不図示)を読み込むことにより、浮体装置100の位置、ひび割れ幅の変化、トンネルの変形を正確に把握することが可能となる。
【0028】
そして図3(c)に示すように、通水路10が逆サイフォンの場合のように水密管である場合、浮体装置100は通水路10内で浮上する。すると、浮体112の上側に位置している車輪170が通水路10の上面(天井)に接触する。そしてパラシュート120によって牽引されることにより、浮体装置100は通水路10の上面を走行することができる。このとき、水面がある場合と同様に、カメラ140、142によって通水路10の壁面、上面、底面の全面を撮影することができる。
【0029】
図4は逆サイフォンの通水路10の例を説明する図である。通水路10は河川20を渡る管路であり、上流側水槽12から下流側水槽14に向かって水が流れる。通水路10は上流側水槽12から低い位置に降りて、河川20を渡り、上方に登って下流側水槽14に至る。下流側水槽14は上流側水槽12以下の高さとなっているため、通水路10は上流側水槽12から下流側水槽14へ流れることができる。このように、いったん低い位置に下がる管路を逆サイフォン(伏越)という。
【0030】
図5は浮体装置100の使用例を説明する図である。本実施形態では、非常時回収装置もあわせて説明する。
【0031】
図5の例では、浮体装置100を、上流側水槽12から下流側水槽14まで通水路10を移動させながら撮影を行う。上流側水槽12には作業員W1を配置し、下流側水槽14には作業員W2を配置する。
【0032】
図5(a)に示すように、作業員W1はパラシュート120を装置本体110から取り外し、釣り糸210を取り付ける。次にパラシュート120を上流側水槽12に投入し、電動リール220から釣り糸210を繰り出して、パラシュート120を流下させる。下流側水槽14で待機しているW2は、パラシュート120が到達したらこれを引き上げる。
【0033】
図5(b)に示すように、作業員W2は釣り糸210の先端に別の釣り糸240をカラビナなどの金具230によって連結する。そして下流側の釣り糸240は電動リール250によって繰り出しつつ、上流側の電動リール220を巻いて釣り糸210を巻き取る。
【0034】
図5(c)に示すように、作業員W1は装置本体110の後ろ側に釣り糸210を取り付け、前側にパラシュート120を取りつけ、さらにパラシュート120の前側に下流側の釣り糸240を取り付けて、上流側水槽12に投入する。このとき、浮体112の上下両側にカメラ140、142および車輪170が配置されていることにより、どちらの面が上に向いてもよい。したがって装置本体110の姿勢を気にすることなく、容易に投入することができる。
【0035】
浮体装置100が水中に投入されると、パラシュート120が水流の抵抗を受けることにより、浮体装置100が下流側水槽14に向かって移動する。浮体装置100の移動を阻害しないように、上流側の電動リール220から釣り糸210を繰り出す。下流側の釣り糸240はたるむので、電動リール250によって適宜巻き取る。
【0036】
図5(d)に示すように、浮体装置100が下流側水槽14に到達すると、W2が浮体装置100を引き上げる。このようにして、浮体装置100は逆サイフォンのような水密の通水路内であっても移動可能である。
【0037】
なお、浮体装置100が通水路10内で引っ掛かってしまった場合などは、上流側の釣り糸210または下流側の釣り糸240を引いて、浮体装置100を回収することが可能である。これにより、作業の安全性を確保することができる。
【0038】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、通水路内を流されながら点検を行う浮体装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
W1…作業員、W2…作業員、10…通水路、12…上流側水槽、14…下流側水槽、20…河川、100…浮体装置、110…装置本体、112…浮体、120…パラシュート、140…天球カメラ、142…カメラ、150…ライト、160…アーチ状フレーム、170…車輪、210…釣り糸、220…電動リール、230…金具、240…釣り糸、250…電動リール、S…水面
図1
図2
図3
図4
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