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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】走行速度制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/644 20240101AFI20240730BHJP
   G05D 1/648 20240101ALI20240730BHJP
【FI】
G05D1/644
G05D1/648
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021120356
(22)【出願日】2021-07-21
(62)【分割の表示】P 2018001858の分割
【原出願日】2018-01-10
(65)【公開番号】P2021176094
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2021-07-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
【合議体】
【審判長】本庄 亮太郎
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167995(JP,A)
【文献】特開2017-209070(JP,A)
【文献】特開2002-74436(JP,A)
【文献】特開平1-190204(JP,A)
【文献】特開2008-32542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させることで、所定の作業を行う自動走行システムに用いられる走行速度制御装置であって、
前記所定の作業にかかる目標作業時間を入力する目標作業時間入力部と、
前記目標作業時間にて前記所定の作業が終了するように前記目標走行経路での目標走行速度を設定する目標走行速度設定部と、を備え、
前記目標走行速度設定部は、
車速決定方法を複数の方法の中からユーザに選択させ、選択された前記車速決定方法ごとに異なる方法で前記目標走行速度を設定し、
ユーザが入力した情報から前記目標走行速度を設定する処理が、前記車速決定方法ごとに異なる、
走行速度制御装置。
【請求項2】
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として等速が選択された場合、前記目標走行経路の総走行距離及び前記目標作業時間に基づいて、前記目標走行経路全体の前記目標走行速度を設定する請求項1に記載の走行速度制御装置。
【請求項3】
目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させることで、所定の作業を行う自動走行システムに用いられる走行速度制御装置であって、
前記所定の作業にかかる目標作業時間を入力する目標作業時間入力部と、
前記目標作業時間にて前記所定の作業が終了するように前記目標走行経路での目標走行速度を設定する目標走行速度設定部と、を備え、
前記目標走行速度設定部は、車速決定方法を複数の方法の中からユーザに選択させ、選択された前記車速決定方法ごとに異なる方法で前記目標走行速度を設定し、
前記目標走行経路は、前記作業車両が作業しながら自動走行する作業経路と、前記作業車両が作業せずに自動走行する非作業経路とを含み、
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として前記作業経路の車速固定が選択された場合、前記作業経路の走行に要する走行時間、前記非作業経路の走行距離及び前記目標作業時間に基づいて、前記非作業経路の前記目標走行速度を設定する走行速度制御装置。
【請求項4】
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として前記作業経路の車速固定が選択された場合、ユーザの入力に従って前記作業経路の車速を決定し、当該車速及び前記作業経路の走行距離に基づいて、前記走行時間を求める請求項3に記載の走行速度制御装置。
【請求項5】
前記目標走行経路は、前記作業車両が作業しながら自動走行する複数の作業経路を含み、
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として個別指定が選択された場合、前記複数の作業経路の夫々の前記目標走行速度を個別に設定する請求項1~4のいずれか1項に記載の走行速度制御装置。
【請求項6】
目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させることで、所定の作業を行う自動走行システムに用いられる走行速度制御装置であって、
前記所定の作業にかかる目標作業時間を入力する目標作業時間入力部と、
前記目標作業時間にて前記所定の作業が終了するように前記目標走行経路での目標走行速度を設定する目標走行速度設定部と、を備え、
前記目標走行速度設定部は、車速決定方法を複数の方法の中からユーザに選択させ、選択された前記車速決定方法ごとに異なる方法で前記目標走行速度を設定し、
前記目標走行経路は、前記作業車両が作業しながら自動走行する複数の作業経路を含み、
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として個別指定が選択された場合、前記複数の作業経路の夫々の前記目標走行速度を個別に設定し、
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として個別指定が選択された場合、前記目標作業時間に基づいて前記複数の作業経路の夫々における前記目標走行速度の設定可能範囲を求め、1つの作業経路の目標走行速度がユーザにより入力されると、残りの作業経路における設定可能範囲を更新する走行速度制御装置。
【請求項7】
前記目標走行速度設定部は、前記車速決定方法として自動設定が選択された場合、前記所定の作業に用いられる作業装置に関するデータに基づいて、前記目標走行速度を設定する請求項1~6のいずれか1項に記載の走行速度制御装置。
【請求項8】
前記目標走行経路は、前記作業車両が作業しながら自動走行する複数の作業経路を含み、
前記目標走行速度設定部にて設定された前記目標走行速度を、前記複数の作業経路の夫々に対応する態様で、前記目標走行経路と併せて表示させる請求項1~7のいずれか1項に記載の走行速度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両を自動走行させる際の作業車両の走行速度を制御する走行速度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の走行速度制御装置は、衛星測位システムを用いて作業車両の現在位置を取得し、予め設定された目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させる自動走行システムに用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
自動走行システムでは、作業車両を自動走行させることで、圃場等にて耕耘等の所定の作業を行うに当たり、所望時間にて所定の作業を終了させたいというユーザ等の要望がある。所望時間に所定の作業を終了させるために、目標走行経路の総走行距離や目標走行経路を走行させるときの車速等を用いて作業時間を監視しておくことが考えられる。しかしながら、例えば、作業の状況やスリップ等により作業が遅れる場合があり、単純に作業時間を監視しているだけでは、所望時間に所定の作業を終了させることができない。
【0004】
そこで、自動走行システムではないものの、農業機械のデータ収集装置として、スリップ率や走行距離を収集するものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。このデータ収集装置を採用することで、収集されたスリップ率、走行距離等を用いて、作業時間をより正確に予測することができる。よって、その予測した作業時間を監視し、必要に応じて作業車両の状態等を調整する調整作業を行うことで、所望時間に所定の作業を終了することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6170185号公報
【文献】特許第3531180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の如く、スリップ率や走行距離等を用いて予測された作業時間が本来の作業時間よりも遅れている場合には、所望時間に作業を終了させるために、作業車両の状態等を調整する調整作業をユーザ等が人為的に行う必要がある。よって、その調整作業が煩雑となり、所望時間に所定の作業を終了させることが行い難いものとなる。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、所望時間に所定の作業を終了させるための調整を簡易に行うことができ、所望時間に所定の作業を適切に終了させることができる走行速度制御装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る走行速度制御装置は、目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させることで、所定の作業を行う自動走行システムに用いられる走行速度制御装置であって、目標作業時間入力部と、目標走行速度設定部と、を備える。前記目標作業時間入力部は、前記所定の作業にかかる目標作業時間を入力する。前記目標走行速度設定部は、前記目標作業時間にて前記所定の作業が終了するように前記目標走行経路での目標走行速度を設定する。前記目標走行速度設定部は、車速決定方法を複数の方法の中からユーザに選択させ、選択された前記車速決定方法ごとに異なる方法で前記目標走行速度を設定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】自動走行システムの概略構成を示す図
図2】自動走行システムの概略構成を示すブロック図
図3】目標走行経路及び目標走行速度を設定した状態における走行領域を示す図
図4】作業時間入力用の画面を示す図
図5】車速入力用の画面を示す図
図6】目標走行速度にてトラクタを自動走行させる際の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る走行速度制御装置を用いた自動走行システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
この自動走行システムは、図1に示すように、作業車両としてトラクタ1を適用しているが、トラクタ以外の、乗用田植機、コンバイン、乗用草刈機、ホイールローダ、除雪車等の乗用作業車両、及び、無人草刈機等の無人作業車両に適用することができる。
【0011】
この自動走行システムは、図1及び図2に示すように、トラクタ1に搭載された自動走行ユニット2、及び、自動走行ユニット2と通信可能に通信設定された携帯通信端末3を備えている。携帯通信端末3には、タッチ操作可能な液晶パネル4等を有するタブレット型のパーソナルコンピュータやスマートフォン等を採用することができる。
【0012】
図1に示すように、トラクタ1は、その後部に3点リンク機構5を介して、作業装置の一例であるロータリ耕耘装置6が昇降可能かつローリング可能に連結されることにより、ロータリ耕耘仕様に構成されている。トラクタ1の後部には、ロータリ耕耘装置6に代えて、プラウ、播種装置、散布装置、等の作業装置を連結することができる。
【0013】
図1に示すように、トラクタ1には、駆動可能な操舵輪として機能する左右の前輪7、駆動可能な左右の後輪8、搭乗式の運転部を形成するキャビン9、コモンレールシステムを備えた電子制御式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)10が備えられている。また、トラクタ1には、図2に示すように、エンジン10からの動力を変速する電子制御式の変速装置11、左右の前輪7を操舵する全油圧式のパワーステアリング機構12、左右の後輪8を制動する左右のサイドブレーキ(図示せず)、左右のサイドブレーキの油圧操作を可能にする電子制御式のブレーキ操作機構13、ロータリ耕耘装置6への伝動を断続する作業クラッチ(図示せず)、作業クラッチの油圧操作を可能にする電子制御式のクラッチ操作機構14、ロータリ耕耘装置6を昇降駆動する電子油圧制御式の昇降駆動機構15、トラクタ1の自動走行等に関する各種の制御プログラム等を有する車載電子制御ユニット16、トラクタ1の車速を検出する車速センサ17、前輪7の操舵角を検出する舵角センサ18、及び、トラクタ1の現在位置及び現在方位を測定する測位ユニット19等が備えられている。
【0014】
なお、エンジン10には、電子ガバナを備えた電子制御式のガソリンエンジンを採用してもよい。変速装置11には、油圧機械式無段変速装置(HMT)、静油圧式無段変速装置(HST)、または、ベルト式無段変速装置等を採用することができる。パワーステアリング機構12には、電動モータを備えた電動式のパワーステアリング機構12等を採用してもよい。
【0015】
図1に示すように、キャビン9の内部には、パワーステアリング機構12を介した左右の前輪7の手動操舵を可能にするステアリングホイール20、及び、ユーザ用の座席21が備えられている。また、図示は省略するが、変速装置11の手動操作を可能にする変速レバー、左右のサイドブレーキの人為操作を可能にする左右のブレーキペダル、及び、ロータリ耕耘装置6の手動昇降操作を可能にする昇降レバー等が備えられている。
【0016】
図2に示すように、車載電子制御ユニット16は、変速装置11の作動を制御する変速制御部16a、左右のサイドブレーキの作動を制御する制動制御部16b、ロータリ耕耘装置6の作動を制御する作業装置制御部16c、予め設定された自動走行用の目標走行経路P(例えば、図3参照)等を記憶する不揮発性の車載記憶部16d、及び、自動走行時に左右の前輪7の目標操舵角を設定してパワーステアリング機構12に出力する操舵角設定部16e、等を有している。
【0017】
図1及び図2に示すように、測位ユニット19には、衛星測位システム(NSS:Navigation Satellite System)の一例であるGPS(Global Positioning System)を利用してトラクタ1の現在位置と現在方位とを測定する衛星航法装置22、及び、3軸のジャイロスコープ及び3方向の加速度センサ等を有してトラクタ1の姿勢や方位等を測定する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)23、等が備えられている。GPSを利用した測位方法には、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)やRTK-GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)等がある。本実施形態においては、移動体の測位に適したRTK-GPSが採用されている。そのため、圃場周辺の既知位置には、RTK-GPSによる測位を可能にする基準局24が設置されている。
【0018】
トラクタ1と基準局24とのそれぞれには、GPS衛星25から送信された電波を受信するGPSアンテナ26,27、及び、トラクタ1と基準局24との間における測位データを含む各種データの無線通信を可能にする通信モジュール28,29、等が備えられている。これにより、衛星航法装置22は、トラクタ側のGPSアンテナ26がGPS衛星25からの電波を受信して得た測位データと、基地局側のGPSアンテナ27がGPS衛星25からの電波を受信して得た測位データとに基づいて、トラクタ1の現在位置及び現在方位を高い精度で測定することができる。また、測位ユニット19は、衛星航法装置22と慣性計測装置23とを備えることにより、トラクタ1の現在位置、現在方位、姿勢角(ヨー角、ロール角、ピッチ角)を高精度に測定することができる。
【0019】
図2に示すように、携帯通信端末3には、液晶パネル4等の作動を制御する各種の制御プログラム等を有する端末電子制御ユニット30、及び、トラクタ側の通信モジュール28との間における測位データを含む各種データの無線通信を可能にする通信モジュール31、等が備えられている。端末電子制御ユニット30は、トラクタ1を自動走行させるための走行案内用の目標走行経路P(例えば、図3参照)を設定する走行経路設定部32、及び、ユーザが入力した各種の入力データや走行経路設定部32が設定した目標走行経路P等を記憶する不揮発性の端末記憶部33、等を有している。
【0020】
走行経路設定部32は、走行領域S内に目標走行経路P(例えば、図3参照)を設定しており、目標走行経路Pの設定の仕方については後述する。走行経路設定部32にて設定された目標走行経路Pは、液晶パネル4に表示可能であり、車体データ及び圃場データ等と関連付けた経路データとして端末記憶部33に記憶されている。経路データには、目標走行経路Pの方位角、及び、目標走行経路Pでのトラクタ1の走行形態等に応じて設定された設定エンジン回転速度や目標走行速度、等が含まれている。目標走行速度の設定については後述する。
【0021】
このようにして、走行経路設定部32が目標走行経路Pを設定すると、端末電子制御ユニット30が、携帯通信端末3からトラクタ1に経路データを転送することで、トラクタ1の車載電子制御ユニット16が、経路データを取得することができる。車載電子制御ユニット16は、取得した経路データに基づいて、測位ユニット19にて自己の現在位置(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させることができる。測位ユニット19にて取得するトラクタ1の現在位置については、リアルタイム(例えば、数秒周期)でトラクタ1から携帯通信端末3に送信されており、携帯通信端末3にてトラクタ1の現在位置を把握している。
【0022】
経路データの転送に関しては、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階において、経路データの全体を端末電子制御ユニット30から車載電子制御ユニット16に一挙に転送することができる。また、例えば、目標走行経路Pを含む経路データを、データ量の少ない所定距離ごとの複数の経路部分に分割することもできる。この場合には、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階においては、経路データの初期経路部分のみが端末電子制御ユニット30から車載電子制御ユニット16に転送され、自動走行の開始後は、トラクタ1がデータ量等に応じて設定された経路取得地点に達するごとに、その地点に対応する以後の経路部分のみの経路データが端末電子制御ユニット30から車載電子制御ユニット16に転送するようにしてもよい。
【0023】
トラクタ1の自動走行を開始する場合には、例えば、ユーザがスタート地点にトラクタ1を移動させて、各種の自動走行開始条件が満たされると、携帯通信端末3にて、ユーザが液晶パネル4を操作して自動走行の開始を指示することで、携帯通信端末3は、自動走行の開始指示をトラクタ1に送信する。これにより、トラクタ1では、車載電子制御ユニット16が、自動走行の開始指示を受けることで、測位ユニット19にて自己の現在位置(トラクタ1の現在位置)を取得しながら、目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を開始する。
【0024】
自動走行制御には、変速装置11の作動を自動制御する自動変速制御、ブレーキ操作機構13の作動を自動制御する自動制動制御、左右の前輪7を自動操舵する自動操舵制御、及び、ロータリ耕耘装置6の作動を自動制御する作業用自動制御、等が含まれている。
【0025】
自動変速制御においては、変速制御部16aが、目標走行速度を含む目標走行経路Pの経路データと測位ユニット19の出力と車速センサ17の出力とに基づいて、目標走行経路Pでのトラクタ1の走行形態等に応じて設定された目標走行速度がトラクタ1の車速として得られるように変速装置11の作動を自動制御する。
【0026】
自動制動制御においては、制動制御部16bが、目標走行経路Pと測位ユニット19の出力とに基づいて、目標走行経路Pの経路データに含まれている制動領域において左右のサイドブレーキが左右の後輪8を適正に制動するようにブレーキ操作機構13の作動を自動制御する。
【0027】
自動操舵制御においては、トラクタ1が目標走行経路Pを自動走行するように、操舵角設定部16eが、目標走行経路Pの経路データと測位ユニット19の出力とに基づいて左右の前輪7の目標操舵角を求めて設定し、設定した目標操舵角をパワーステアリング機構12に出力する。パワーステアリング機構12が、目標操舵角と舵角センサ18の出力とに基づいて、目標操舵角が左右の前輪7の操舵角として得られるように左右の前輪7を自動操舵する。
【0028】
作業用自動制御においては、作業装置制御部16cが、目標走行経路Pの経路データと測位ユニット19の出力とに基づいて、トラクタ1が作業経路P1(例えば、図3参照)の始端等の作業開始地点に達するのに伴ってロータリ耕耘装置6による耕耘が開始され、かつ、トラクタ1が作業経路P1(例えば、図3参照)の終端等の作業終了地点に達するのに伴ってロータリ耕耘装置6による耕耘が停止されるように、クラッチ操作機構14及び昇降駆動機構15の作動を自動制御する。
【0029】
このようにして、トラクタ1においては、変速装置11、パワーステアリング機構12、ブレーキ操作機構13、クラッチ操作機構14、昇降駆動機構15、車載電子制御ユニット16、車速センサ17、舵角センサ18、測位ユニット19、及び、通信モジュール28、等によって自動走行ユニット2が構成されている。
【0030】
この実施形態では、キャビン9にユーザ等が搭乗せずにトラクタ1を自動走行させるだけでなく、キャビン9にユーザ等が搭乗した状態でトラクタ1を自動走行させることも可能となっている。よって、キャビン9にユーザ等が搭乗せずに、車載電子制御ユニット16による自動走行制御により、トラクタ1を目標走行経路Pに沿って自動走行させることができるだけでなく、キャビン9にユーザ等が搭乗している場合でも、車載電子制御ユニット16による自動走行制御により、トラクタ1を目標走行経路Pに沿って自動走行させることができる。
【0031】
キャビン9にユーザ等が搭乗している場合には、車載電子制御ユニット16にてトラクタ1を自動走行させる自動走行状態と、ユーザ等の運転操作に基づいてトラクタ1を走行させる手動走行状態とに切り替えることもできる。よって、自動走行状態にて目標走行経路Pを自動走行している途中に、自動走行状態から手動走行状態に切り替えることができ、逆に、手動走行状態にて走行している途中に、手動走行状態から自動走行状態に切り替えることもできる。手動走行状態と自動走行状態との切り替えについては、例えば、座席21の近傍に、自動走行状態と手動走行状態とに切り替えるための切替操作部を備えることができるとともに、その切替操作部を携帯通信端末3の液晶パネル4に表示させることもできる。また、車載電子制御ユニット16による自動走行制御中に、ユーザがステアリングホイール20を操作すると、自動走行状態から手動走行状態に切り替えることができる。
【0032】
以下、走行経路設定部32による目標走行経路Pの設定について説明する。
走行経路設定部32が目標走行経路Pを設定するに当たり、携帯通信端末3の液晶パネル4に表示された目標走行経路設定用の入力案内に従って、ユーザが作業車両や作業装置の種類や機種等の車体データを入力しており、入力された車体データが端末記憶部33に記憶されている。目標走行経路Pの設定対象となる走行領域Sを圃場としており、携帯通信端末3の端末電子制御ユニット30は、圃場の形状や位置を含む圃場データを取得して端末記憶部33に記憶している。
【0033】
圃場データの取得について説明すると、ユーザ等が運転操作してトラクタ1を実際に走行させることで、端末電子制御ユニット30は、測位ユニット19にて取得するトラクタ1の現在位置等から圃場の形状や位置等を特定するための位置情報を取得することができる。端末電子制御ユニット30は、取得した位置情報から圃場の形状及び位置を特定し、その特定した圃場の形状及び位置を含む圃場データを取得している。
【0034】
例えば、トラクタ1が圃場の外周部を周回走行するように、ユーザ等がトラクタ1を運転操作して、圃場の角部に相当する地点等にトラクタ1を位置させる。これにより、端末電子制御ユニット30は、測位ユニット19の出力に基づいて、圃場の角部に相当する地点等の位置情報を取得しており、複数の地点の位置情報から圃場の形状を特定し、その特定した圃場を走行領域Sとして設定している。図3では、矩形状の走行領域Sが特定された例を示している。圃場の位置については、例えば、圃場の出入口等にトラクタ1を位置させたときに、端末電子制御ユニット30が、測位ユニット19にて取得するトラクタ1の現在位置から圃場の位置を特定している。
【0035】
特定された圃場の形状や位置等を含む圃場データが端末記憶部33に記憶されると、走行経路設定部32は、端末記憶部33に記憶されている圃場データや車体データを用いて、目標走行経路Pを設定する。目標走行経路Pを設定するために、図2に示すように、端末電子制御ユニット30は、走行領域S内にトラクタ1が所定の作業(例えば、耕耘等の作業)を行うための作業領域Rを設定する作業領域設定部34、及び、目標走行経路Pを設定する走行経路設定部32、等を有している。
【0036】
図3に示すように、作業領域設定部34にて設定する作業領域Rは、トラクタ1を自動走行させながら、所定の作業(例えば、耕耘等の作業)を行う領域となっている。作業領域設定部34は、例えば、車体データに含まれる旋回半径やトラクタ1の前後幅及び左右幅等から、トラクタ1を旋回走行させるために必要となる旋回走行用のスペースや、トラクタ1が走行領域S外に飛び出す等の障害がないように確保すべき安全用のスペース等を求めている。作業領域設定部34は、図3に示すように、走行領域Sの外周部の内側に求めたスペース分を確保する状態で、走行領域Sの内側に作業領域Rを設定している。
【0037】
作業領域設定部34にて作業領域Rを設定した上で、走行経路設定部32は、図3に示すように、車体データや圃場データ等を用いて、目標走行経路Pを設定している。例えば、目標走行経路Pは、同じ直進距離を有して作業幅に対応する一定距離をあけて平行に配置設定された複数の作業経路P1と、隣接する作業経路P1の始端と終端とを連結する連経路P2とを有している。複数の作業経路P1は、トラクタ1を自動走行させながら、所定の作業を行うための経路であり、図3に示すものでは、トラクタ1を前進させる直線状の経路が例示されている。連結経路P2は、トラクタ1の走行方向を転換させるための経路であり、作業経路P1の終端と隣接する次の作業経路P1の始端とを連結している。図3に示すものでは、連結経路P2が、トラクタ1の走行方向を180度転換させるために、トラクタ1を旋回走行させるUターン経路が例示されている。このようにして、隣接する作業経路P1同士は、走行方向がお互いに反対側となるように設定されており、トラクタ1が、複数の作業経路P1を往復走行しながら、所定の作業を行う目標走行経路Pが設定されている。ちなみに、図3に示す目標走行経路Pは、あくまで一例であり、どのような目標走行経路を設定するかは適宜変更が可能である。
【0038】
ユーザ等から所望の時刻等に所定の作業を終了させたいという要望があることから、その要望に応えるべく、携帯通信端末3には、走行領域Sにおいて所定の作業を行う場合にその作業にかかる目標作業時間を入力する目標作業時間入力部35と、目標作業時間にて所定の作業が終了するように目標走行経路Pでの目標走行速度を設定する目標走行速度設定部36とが備えられている。
【0039】
目標作業時間については、例えば、図4に示すように、携帯通信端末3の液晶パネル4に表示された作業時間入力用の画面において、ユーザ等が作業時間を入力しており、目標作業時間入力部35は、入力された作業時間を目標作業時間として入力している。また、図4に示す作業時間入力用の画面では、作業時間の他に、エンジン回転速度範囲、予想時間のズレの許容範囲を入力可能となっている。図4に示すものでは、設定エンジン回転速度が1250rpmに設定されており、上限値及び下限値を入力することで、エンジン回転速度範囲が設定エンジン回転速度±500rpmに設定されている。予想時間のズレの許容範囲は、作業時間(目標作業時間)に対して実際の作業時間にズレが生じた場合にどの程度の時間を許容できるかの時間であり、例えば、30分が設定されている。
【0040】
目標走行速度については、例えば、図5に示すように、携帯通信端末3の液晶パネル4に表示された車速入力用の画面において、ユーザ等が車速等の入力情報を入力しており、目標走行速度設定部36は、入力された車速等の入力情報に基づいて、目標走行経路Pでの目標走行速度を設定している。
【0041】
図5において、ユーザが「等速」を選択することで、目標走行速度設定部36は、目標走行経路Pにおける全ての作業経路P1と全ての連結経路P2を同じ目標走行速度に設定している。目標作業時間で目標走行経路Pの全てを走行すれば、目標作業時間にて所定の作業が終了することになる。そこで、目標走行速度設定部36は、走行経路設定部32にて設定された目標走行経路Pに基づいて、目標走行経路Pの総走行距離を把握しているので、総走行距離及び目標作業時間を用いて、目標作業時間にて所定の作業を終了させるための目標走行経路Pを走行するときの走行速度を求め、その求めた走行速度を作業経路P1及び連結経路P2の目標走行速度に設定している。
【0042】
図5において、ユーザが「作業経路の車速固定」を選択することで、目標走行速度設定部36は、目標走行経路Pにおける全ての作業経路P1を入力された車速(例えば、5.0km/h)に固定する状態で全ての連結経路P2を同じ目標走行速度に設定している。入力された車速(例えば、5.0km/h)にて全ての作業経路P1を走行したときに要する走行時間を求めると、目標作業時間から走行時間を引いた残り時間にて全ての連結経路P2を走行すれば、目標作業時間にて所定の作業が終了することになる。そこで、目標走行速度設定部36は、走行経路設定部32にて設定された目標走行経路Pに基づいて、作業経路P1の長さ及び本数、連結経路P2の長さ及び本数を把握しているので、入力された車速(例えば、5.0km/h)、作業経路P1の長さ及び本数を用いて、上述の走行時間を求め、その求めた走行時間、目標作業時間、連結経路P2の長さ及び本数を用いて、目標作業時間にて所定の作業を終了させるための目標走行経路Pを走行するときの走行速度を求め、その求めた走行速度を連結経路P2の目標走行速度に設定している。
【0043】
図5において、ユーザが「個別指定」を選択することで、目標走行速度設定部36は、複数の作業経路P1の夫々における目標走行速度を1本ずつ個別に設定できるとともに、複数の連結経路P2の夫々における目標走行速度も1本ずつ個別に設定することができる。例えば、目標作業時間にて所定の作業を終了させるために、各経路における目標走行速度の設定可能範囲を求めておき、ある1つの経路における目標走行速度がユーザにより入力されると、残りの各経路における設定可能範囲を再度求め直して更新する。このように、目標走行速度がユーザにより入力される度に、残りの各経路における設定可能範囲を更新する形態で、順次目標走行速度の入力を行うようにしている。
【0044】
図5において、ユーザが「おすすめ設定」を選択することで、目標走行速度設定部36は、例えば、車体データに含まれる作業装置の種類や機種等のデータに基づいて、作業装置を特定し、その特定した作業装置に適した目標走行速度を設定している。
【0045】
目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度は、図3に示すように、目標走行経路Pと合わせて、携帯通信端末3の液晶パネル4に表示可能となっている。このように、液晶パネル4には、目標走行経路Pの各経路P1,P2の近傍に目標走行速度を表示させることで、目標走行経路Pのうち、どの経路がどのような目標走行速度に設定されているかが識別可能に表示されている。図3に示す目標走行速度は、図5に示すように、ユーザが「作業経路の車速固定」を選択して、全ての作業経路P1の目標走行速度として、5.0km/hを入力した場合を示している。液晶パネル4に、目標走行速度をどのように表示させるかは適宜変更が可能であり、例えば、目標走行経路Pの各経路P1,P2毎に項目分けした表等を用いて、目標走行速度を表示させることもできる。
【0046】
トラクタ1の自動走行は、目標走行速度設定部36にて目標走行速度が設定された状態で行われる。トラクタ1の自動走行では、車載電子制御ユニット16による自動走行制御によって、経路データに基づいて目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させるとともに、車速センサ17の車速が目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度となるように、エンジン回転速度や変速装置11等を制御している。これにより、例えば、図3のように目標走行速度が設定されている場合には、トラクタ1が作業経路P1を走行するときの車速が目標走行速度(5.0km/h)に制御され、トラクタ1が連結経路P2を走行するときの車速が目標走行速度(6.0km/h)に制御される。ちなみに、例えば、トラクタ1に装着される作業装置がロータリ耕耘装置6等であれば、耕耘深さを調整することでも、トラクタ1の車速を調整可能であるので、例えば、車速センサ17の車速が目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度になるように、エンジン回転速度や変速装置11等の制御に加えて、耕耘深さを調整することもできる。
【0047】
目標作業時間の入力や目標走行速度の設定については、基本的に、自動走行を開始する前に行われるが、自動走行の途中に、目標作業時間及び目標走行速度を変更することも可能である。例えば、目標作業時間を変更した場合には、目標走行速度設定部36が、変更後の目標作業時間に所定の作業が終了するように目標走行経路Pの目標走行速度を再設定している。
【0048】
トラクタ1の自動走行中に、例えば、スリップ等によりトラクタ1の車速が低下する場合がある。また、ロータリ耕耘装置6等の作業装置の状態によってトラクタ1の車速が低下することも考えられる。よって、目標走行経路Pの各経路P1,P2に設定された目標走行速度にてトラクタ1を走行させることができず、目標作業時間にて所定の作業を終了できない可能性がある。そこで、この自動走行システムでは、図2に示すように、トラクタ1が目標走行経路P上の所定位置に位置する場合の作業済み時間を監視する作業時間監視部37と、目標作業時間入力部35にて入力される目標作業時間と作業時間監視部37にて監視する作業済み時間との関係により、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更する速度変更部38とが備えられている。
【0049】
作業時間監視部37は、例えば、トラクタ1が目標走行経路P上の所定位置に到達すると、目標走行経路Pのスタート地点にて自動走行を開始してからの経過時間に基づいて、作業済み時間を監視している。所定位置については、目標走行経路P上のどの位置に設定するかは適宜変更が可能であり、目標走行経路P上に複数の所定位置を設定するのが好ましい。例えば、目標走行経路P上において一定の所定間隔だけ隔てた地点を所定位置として、走行距離を基準として設定することができる。また、複数の作業経路P1や連結経路P2の夫々における始端地点や終端地点(例えば、図3中Q1~Q6にて示す地点)を所定位置として、目標走行経路Pの各経路P1,P2に対応して設定することもできる。この場合には、複数の作業経路P1や連結経路P2の1本ずつに対して1つの所定位置を設定したり、所定本数(例えば、3本)の間隔を隔てる状態で所定本数の作業経路P1や連結経路P2に対して1つの所定位置を設定することもできる。
【0050】
速度変更部38は、トラクタ1が目標走行経路P上の所定位置に到達する度に、作業時間監視部37にて監視する作業済み時間を取得することができる。そこで、速度変更部38は、トラクタ1が目標走行経路P上の所定位置に到達する度に、作業済み時間及び目標作業時間等を用いて、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かを判定しており、目標作業時間にて所定の作業を終了できないと判定すると、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更している。
【0051】
例えば、図3に示すように、複数の所定位置Q1~Q6が設定されている場合には、トラクタ1が複数の所定位置Q1~Q6の夫々に到達する度に、所定位置Q1~Q6以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かを判定している。よって、例えば、1つ目の所定位置Q1にて、目標作業時間にて所定の作業を終了できると判定すると、1つ目の所定位置Q1以降の目標走行経路Pでの目標走行速度の変更は行わない。2つ目の所定位置Q2にて、目標作業時間にて所定の作業を終了できないと判定すると、2つ目の所定位置Q2以降の目標走行経路Pでの目標走行速度が変更される。一度目標走行速度が変更された後でも、例えば、4つ目の所定位置Q4等、自動走行の途中に、目標作業時間にて所定の作業を終了できないと判定すると、4つ目の所定位置Q4以降の目標走行経路Pでの目標走行速度が再度変更される。このように、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かの判定を繰り返し行いながら、目標作業時間にて所定の作業を終了できるように、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更している。
【0052】
速度変更部38が所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更するために、複数種の速度変更パターンが備えられており、図2に示すように、携帯通信端末3には、複数種の速度変更パターンから1つの速度変更パターンを選択する速度変更パターン選択部39が備えられている。携帯通信端末3の液晶パネル4には、速度変更パターン選択用の画面が表示可能となっており、その画面上でユーザ等が複数種の速度変更パターンから1つの速度変更パターンを選択することで、速度変更パターン選択部39は、ユーザ等の選択に応じて、1つの速度変更パターンを選択している。速度変更部38は、速度変更パターン選択部39にて選択された速度変更パターンに応じて、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更している。
【0053】
速度変更パターンは、例えば、下記の6種類の速度変更パターンを有している。
(1)第1速度変更パターン
所定位置以降の目標走行経路Pの距離に応じて、所定位置以降の目標走行経路Pの各経路P1,P2にて均等に目標走行速度を変更する。
(2)第2速度変更パターン
目標走行速度設定部36にて設定された当初の目標走行速度の比率を用いて、所定位置以降の目標走行経路Pの各経路P1,P2の目標走行速度を変更する。
(3)第3速度変更パターン
所定位置以降の目標走行経路Pにおいて、連結経路P2は目標走行速度を変更せず、作業経路P1のみ目標走行速度を変更する。
(4)第4速度変更パターン
所定位置以降の目標走行経路Pにおいて、作業経路P1は目標走行速度を変更せず、連結経路P2のみ目標走行速度を変更する。
(5)第5速度変更パターン
所定位置以降の目標走行経路Pにおいて、所定位置の次の作業経路P1のみ目標走行速度を変更し、それ以外の各経路P1,P2は目標走行速度を変更しない。
(6)第6速度変更パターン
所定位置以降の目標走行経路Pにおいて、所定位置の次の連結経路P2のみ目標走行速度を変更し、それ以外の各経路P1,P2は目標走行速度を変更しない。
【0054】
以下、上述の速度変更パターンの夫々において、どのようにして目標走行速度を変更するかについて説明する。以下の説明では、複数の作業経路P1の夫々における長さが同一であり、複数の連結経路P2の夫々における長さが同一であり、複数の作業経路P1の夫々における目標走行速度が同一の目標走行速度に設定され、複数の連結経路P2の夫々における目標走行速度が同一の目標走行速度に設定されているとした場合を説明する。
【0055】
以下、各種の式を用いて説明するので、各定数をどのように設定しているのかを、まずは説明する。
目標走行経路Pにおいて所定位置以降の作業経路P1の残り本数:n1
目標走行経路Pにおいて所定位置以降の連結経路P2の残り本数:n2
作業経路P1の長さ:L1
連結経路P2の長さ:L2
作業経路P1に設定されている目標走行速度:V1
連結経路P2に設定されている目標走行速度:V2
目標作業時間:T1
作業済み時間:T2
所定の作業を終了するまでの残り時間:T3=T1-T2
目標走行経路Pにおいて所定位置以降の残りの作業経路P1を走行させた場合に要する作業パス残時間:T4=(n1×L1)/V1
目標走行経路Pにおいて所定位置以降の残りの連結経路P2を走行させた場合に要する連結パス残時間:T5=(n2×L2)/V2
目標作業時間にて所定の作業を終了するために削減必要な時間:T6=T4+T5-T3
【0056】
上述のように各定数を設定すると、速度変更部38は、削減必要な時間T6がプラスの数値となれば、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できないと判定している。よって、速度変更部38は、削減必要な時間T6がプラスの数値となる場合のみ、目標走行速度の変更を行っている。
【0057】
速度変更部38が第1速度変更パターンにて目標走行速度を変更する場合について説明すると、速度変更部38は、所定位置以降の目標走行経路Pの距離に応じて均等に目標走行速度を変更するので、所定位置以降の目標走行経路Pの総距離と削減必要な時間T6とから単位距離当たりで削減が必要な時間を求めながら、下記の〔式1〕を用いて、作業経路P1の1本にて削減必要な時間T7を求めるとともに、下記の〔式2〕を用いて、連結経路P2の1本にて削減必要な時間T8を求めている。これにより、速度変更部38は、各作業経路P1を走行するのに要する時間から、求めた作業経路P1の1本にて削減必要な時間T7を減算することで、下記の〔式3〕を用いて、作業経路P1に対する変更後の目標走行速度V3を求めており、各連結経路P2を走行するのに要する時間から、求めた連結経路P2の1本にて削減必要な時間T8を減算することで、下記の〔式4〕を用いて、連結経路P2に対する変更後の目標走行速度V4を求めている。
【0058】
〔式1〕
T7={T6/(n1×L1+n2×L2)}×L1
【0059】
〔式2〕
T8={T6/(n1×L1+n2×L2)}×L2
【0060】
〔式3〕
V3=L1/(L1/V1-T7)
【0061】
〔式4〕
V4=L2/(L2/V2-T8)
【0062】
速度変更部38が第2速度変更パターンにて目標走行速度を変更する場合について説明すると、速度変更部38は、当初の目標走行速度の比率に応じて目標走行速度を変更するので、当初の目標走行速度の比率を用いながら、下記の〔式5〕を用いて、作業経路P1の1本にて削減必要な時間T9を求めるとともに、下記の〔式6〕を用いて、連結経路P2の1本にて削減必要な時間T10を求めている。これにより、速度変更部38は、各作業経路P1を走行するのに要する時間から、求めた作業経路P1の1本にて削減必要な時間T9を減算することで、下記の〔式7〕を用いて、作業経路P1に対する変更後の目標走行速度V5を求めており、各連結経路P2を走行するのに要する時間から、求めた連結経路P2の1本にて削減必要な時間T10を減算することで、下記の〔式8〕を用いて、連結経路P2に対する変更後の目標走行速度V6を求めている。
【0063】
〔式5〕
T9=T6×V1/(V1+V2)×1/n1
【0064】
〔式6〕
T10=T6×V2/(V1+V2)×1/n2
【0065】
〔式7〕
V5=L1/(L1/V1-T9)
【0066】
〔式8〕
V6=L2/(L2/V2-T10)
【0067】
速度変更部38が第3速度変更パターンにて目標走行速度を変更する場合について説明すると、速度変更部38は、作業経路P1のみ目標走行速度を変更するので、下記の〔式9〕を用いて、作業経路P1の1本にて削減必要な時間T11を求めている。これにより、速度変更部38は、各作業経路P1を走行するのに要する時間から、求めた作業経路P1の1本にて削減必要な時間T11を減算することで、下記の〔式10〕を用いて、作業経路P1に対する変更後の目標走行速度V7を求めている。ちなみに、連結経路P2については、目標走行速度を変更しないので、変更後の目標走行速度を求めていない。
【0068】
〔式9〕
T11=T6×1/n1
【0069】
〔式10〕
V7=L1/(L1/V1-T11)
【0070】
速度変更部38が第4速度変更パターンにて目標走行速度を変更する場合について説明すると、速度変更部38は、連結経路P2のみ目標走行速度を変更するので、下記の〔式11〕を用いて、連結経路P2の1本にて削減必要な時間T12を求めている。これにより、速度変更部38は、各連結経路P2を走行するのに要する時間から、求めた連結経路P2の1本にて削減必要な時間T12を減算することで、下記の〔式12〕を用いて、連結経路P2に対する変更後の目標走行速度V8を求めている。ちなみに、作業経路P1については、目標走行速度を変更しないので、変更後の目標走行速度を求めていない。
【0071】
〔式11〕
T12=T6×1/n2
【0072】
〔式12〕
V8=L2/(L2/V2-T12)
【0073】
速度変更部38が第5速度変更パターンにて目標走行速度を変更する場合について説明すると、速度変更部38は、所定位置の次の作業経路P1のみ目標走行速度を変更するので、次の作業経路P1を走行するのに要する時間から削減必要な時間T6を減算することで、下記の〔式13〕を用いて、次の作業経路P1に対する変更後の目標走行速度V9を求めている。
【0074】
〔式13〕
V9=L1/(L1/V1-T6)
【0075】
速度変更部38が第6速度変更パターンにて目標走行速度を変更する場合について説明すると、速度変更部38は、所定位置の次の連結経路P2のみ目標走行速度を変更するので、次の連結経路P2を走行するのに要する時間から削減必要な時間T6を減算することで、下記の〔式14〕を用いて、次の連結経路P2に対する変更後の目標走行速度V10を求めている。
【0076】
〔式14〕
V10=L2/(L2/V2-T6)
【0077】
このようにして、速度変更部38が1つの速度変更パターンに応じて目標走行速度を変更すると、所定位置以降の目標走行経路Pでは、車載電子制御ユニット16が、車速センサ17の車速が変更後の目標走行速度となるように、エンジン回転速度や変速装置11の作動を制御している。例えば、車載電子制御ユニット16は、車速センサ17の車速が変更後の目標走行速度になるように、エンジン回転速度を増加側に制御しており、エンジン回転速度の制御でも、車速センサ17の車速が変更後の目標走行速度にならない場合に、車速センサ17の車速が変更後の目標走行速度になるように、変速装置11の作動を制御している。
【0078】
以下、図6のフローチャートに基づいて、この自動走行システムにおいて、作業時間(目標作業時間)や目標走行速度を設定する場合の動作について説明する。
【0079】
携帯通信端末3における液晶パネル4の表示画面に従って車体データを入力する際等に、例えば、図4に示す作業時間入力用の画面において、ユーザ等が作業時間を入力することで、目標作業時間入力部35にて作業時間(目標作業時間)を入力して作業時間(目標作業時間)の設定を行う(ステップ#1)。
【0080】
次に、例えば、図5に示す車速入力用の画面において、ユーザ等が車速等の入力情報を入力することで、目標走行速度設定部36は、入力された車速等の入力情報に基づいて、目標走行経路Pでの目標走行速度を設定している(ステップ#2)。
【0081】
次に、速度変更パターン選択用の画面において、ユーザ等が複数種の速度変更パターンから1つの速度変更パターンを選択することで、速度変更パターン選択部39は、ユーザ等の選択に応じて、1つの速度変更パターンを選択して速度変更パターンの設定を行っている(ステップ#3)。
【0082】
このようにして、作業時間(目標作業時間)、目標走行速度、及び、速度変更パターンの設定が行われた状態において、トラクタ1の自動走行が開始される(ステップ#4)。自動走行では、車載電子制御ユニット16による自動走行制御によって、経路データに基づいて目標走行経路Pに沿ってトラクタ1を自動走行させるとともに、車速センサ17の車速が目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度となるように、エンジン回転速度や変速装置11等の作動を制御している。
【0083】
トラクタ1が目標走行経路P上の所定位置(図3中、Q1~Q6参照)に到達する度に、速度変更部38が、作業済み時間及び目標作業時間等を用いて、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かを判定することで、目標走行速度の変更が必要か否かを判定している(ステップ#5)。
【0084】
速度変更部38は、目標走行速度の変更が必要と判定すると、速度変更パターン選択部39にて選択された速度変更パターンに応じて、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更する(ステップ#5のYesの場合、ステップ#6)。
【0085】
トラクタ1が目標走行経路P上の所定位置に到達する度に、車載電子制御ユニット16は、作業済み時間及び目標作業時間等を用いて、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間に対する許容範囲内(図4に示すように、予想時間のズレの許容範囲として設定された時間)であるか否かを判定している(ステップ#7)。車載電子制御ユニット16は、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間に対するズレの許容範囲内であると、自動走行の終了でなければ、ステップ#5に戻り、それ以降のステップを繰り返し行う(ステップ#7のYesの場合、ステップ#8のNoの場合)。
【0086】
車載電子制御ユニット16は、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間に対するズレの許容範囲外であると、トラクタ1に備えられた報知装置等を作動させるとともに、携帯通信端末3の液晶パネル4に、「目標作業時間に対する許容範囲外であること」を表示させる等して、ユーザ等に対する報知を行う(ステップ#7のNoの場合、ステップ#9)。このようにして、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間に対する許容範囲外であると、それ以降、自動走行を継続するか等、どのような対処を取るかをユーザ等の判断に委ねている。
【0087】
上述の如く、自動走行中には、作業時間監視部37にて作業済み時間を監視しているが、これに加えて、スリップ率も監視している。そのために、車載電子制御ユニット16には、スリップ率を演算するスリップ率演算部40が備えられている。スリップ率の演算方法については、例えば、後輪8等の車輪径及び車軸の回転速度等から単位時間当たりの走行距離を求めることができ、測位ユニット19から出力されるトラクタ1の位置情報の変化から単位時間当たりの実際の走行距離を求めることができる。そこで、スリップ率演算部40は、求めた走行距離と求めた実際の走行距離との差に応じてスリップ率を求めることができる。
【0088】
トラクタ1の自動走行中には、車載電子制御ユニット16は、測位ユニット19の出力に基づいて、トラクタ1の位置情報を取得するので、トラクタ1の位置情報とその位置情報を取得したタイミングにおいてスリップ率演算部40にて求められたスリップ率とを関連付けることで、走行領域S内のどの位置でスリップ率がどのような値であったかを認識することができる。そこで、トラクタ1を自動走行させて所定の作業を行うと、車載電子制御ユニット16は、所定の作業中に取得したスリップ率をトラクタ1の位置情報に関連付けたデータを車載記憶部16dに記憶している。よって、車載記憶部16dには、トラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けたデータとして、走行領域Sでの所定の作業を前回行ったときのデータが少なくとも記憶されている。
【0089】
スリップ率をトラクタ1の位置情報に関連付けるに当たり、目標走行経路Pのうち、どの経路においてどんなスリップ率であったのかが把握できるように、スリップ率を目標走行経路Pの各経路P1,Pに対して関連付けるようにしてもよい。このように、スリップ率を関連付ける対象となるトラクタ1の位置情報は、走行領域S内のある特定の位置に限らず、目標走行経路Pの各経路P1,P2や、走行領域Sの特定の領域等とすることもできる。
【0090】
また、トラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けるに当たり、別の情報も関連付けることができる。例えば、トラクタ1の車速によってスリップ率が変化する可能性があるので、トラクタ1の位置情報とスリップ率に加えて、トラクタ1の車速(例えば、車速センサ17の車速)も関連付けることもできる。更に、例えば、作業装置がロータリ耕耘装置6であれば、ロータリ耕耘装置6が下降状態で作動させている作業中であるか否か、耕耘深さはどのような深さであるか等、作業装置の状態によってスリップ率が変化する可能性があるので、トラクタ1の位置情報とスリップ率に加えて、作業装置の状態も関連付けることもできる。
【0091】
上述の如く、車載記憶部16dには、前回所定作業を行ったときのトラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けたデータが記憶されているので、トラクタ1を自動走行させる場合に、車載電子制御ユニット16は、記憶されているトラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けたデータを用いながら、自動走行制御を行うことができる。車載電子制御ユニット16は、車速センサ17の車速が目標走行速度に維持されるように、記憶されているトラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けたデータを用いて、エンジン回転速度や変速装置11の作動を制御することができる。例えば、車載電子制御ユニット16は、スリップ率が高いほど、エンジン回転速度を増加側に制御したり、車速が増速側になるように変速装置11の作動を制御することができる。
【0092】
また、目標走行速度設定部36にて目標走行速度を設定する際に、車載記憶部16dに記憶されているトラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けたデータを考慮して、目標走行速度を設定することもできる。例えば、目標走行速度設定部36は、スリップ率が所定値よりも高い場合には、スリップ率が高いほど増速側とする係数をユーザ等が入力した値に掛けることで、スリップ率に応じた目標走行速度を求め、その求めた目標走行速度を設定することができる。
【0093】
更に、速度変更部38が目標走行速度を変更する際には、上述の如く、所定位置以降の目標走行経路Pを走行するのに要する作業パス残時間T4や連結パス残時間T5を求めて、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かを判定している。この判定に行う当たり、車載記憶部16dに記憶されているトラクタ1の位置情報とスリップ率とを関連付けたデータを考慮して、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かを判定することができる。例えば、走行領域Sにおいて、スリップ率が設定値以上の箇所を走行する場合には、スリップ率が設定値未満の箇所よりも時間を要することが考えられる。そこで、スリップ率が高いほど所要時間が長くなる側とする係数を作業パス残り時間T4や連結パス残時間T5に掛けることで、スリップ率に応じた作業パス残り時間T4や連結パス残時間T5を求めることができ、スリップ率を考慮しながら、目標作業時間にて所定の作業を終了できるか否かの判定を適切に行うことができる。
【0094】
上述の説明では、速度変更部38が所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更した後、トラクタ1が所定位置に到達すると、その所定位置以降の目標走行経路Pで変更設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できないと判定すると、再度、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を増速側に変更する例を示した。逆に、速度変更部38が所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更した後、トラクタ1が所定位置に到達すると、その所定位置以降の目標走行経路Pで変更設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、所定の作業を終了する時間が目標作業時間よりも早くなることがある。この場合には、速度変更部38が所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を減速側に変更することもできる。
【0095】
例えば、速度変更部38は、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更前の目標走行速度に戻すことで、目標走行速度を減速側に変更することができる。また。速度変更部38は、所定の作業を終了する時間が目標作業時間となるように、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を減速側に変更することもできる。例えば、所定位置以降の目標走行経路Pで変更設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、所定の作業を終了する時間が目標作業時間よりも早くなるときは、上述の削減必要な時間T6がマイナスの数値となる。よって、速度変更部38は、削減必要な時間T6をマイナスの数値として、上記〔式1〕~〔式14〕を用いることで、速度変更パターン選択部39にて選択された速度変更パターンに応じて、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を減速側に変更することができる。
【0096】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、速度変更部38が、速度変更パターン選択部39にて選択された速度変更パターンに応じて、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度を変更しているが、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度をどのように変更するかは適宜変更が可能である。この第2実施形態は、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度をどのように変更するかの別実施形態である。その他の構成等は、上記第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0097】
速度変更部38は、所定位置以降の目標走行経路Pで目標走行速度設定部36にて設定された目標走行速度にてトラクタ1を自動走行させた場合に、目標作業時間にて所定の作業を終了できないと判定すると、まず、所定位置以降の連結経路P2での目標走行速度を変更するように構成されている。このとき、例えば、第4速度変更パターン又は第6速度変更パターンを用いることができる。
【0098】
作業時間監視部37にて監視する作業済み時間が所定時間以上を経過している場合には、連結経路P2での目標走行速度を変更するだけでは、削減できる時間に限りがあり、目標作業時間にて所定の作業を終了できなくなる可能性がある。そこで、作業済み時間が所定時間以上を経過している場合には、速度変更部38が、所定位置以降の連結経路P2での目標走行速度を変更するのに加えて、所定位置以降の作業経路P1での目標走行速度を変更するように構成されている。このとき、例えば、第3速度変更パターン又は第5速度変更パターンを用いることができる。
【0099】
このように、所定位置以降の目標走行経路Pでの目標走行速度をどのように変更するかは適宜変更が可能である。例えば、ある所定位置にトラクタ1が到達したときには、第6速度変更パターンを用いて目標走行速度を変更し、次の所定位置にトラクタ1が到達したときにも、第6速度変更パターンを用いて目標走行速度を変更することを繰り返す。そして、第6速度変更パターンを用いた目標走行速度の変更が所定回数に達すると、第5速度変更パターンと第6変更パターンとの両パターンを用いて目標走行速度を変更することもできる。このように、複数種の速度変更パターンのうちから選択した複数の速度変更パターンを実行可能とする場合、選択した複数の速度変更パターンに優先順位を設定し、その優先順位に応じて、実行する速度変更パターンを選択することができる。
【0100】
また、目標作業時間にて所定の作業を終了するためには、経路P1,P2等の長さや目標速度を用いて、各所定位置における目標通過時間を求めることができる。各所定位置では、作業済み時間等を用いて、目標通過時間に対してどの程度遅れているかを示す遅れ時間を求めることができる。そこで、各所定位置では、遅れ時間の長短に応じて、複数種の速度変更パターンから選択された速度変更パターンにて目標走行速度を変更することができる。
【0101】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0102】
(1)作業車両の構成は種々の変更が可能である。
例えば、作業車両は、エンジン10と走行用の電動モータとを備えるハイブリット仕様に構成されていてもよく、また、エンジン10に代えて走行用の電動モータを備える電動仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、左右の後輪8に代えて左右のクローラを備えるセミクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、左右の後輪8が操舵輪として機能する後輪ステアリング仕様に構成されていてもよい。
【0103】
(2)上記実施形態では、目標作業時間入力部35が、目標作業時間として、ユーザ等が入力した時間を入力しているが、例えば、ユーザ等が所定の作業を終了したい時刻を入力することで、目標作業時間入力部35が、現在の時刻からユーザ等が入力した時刻までの時間を目標作業時間として入力することもできる。
【0104】
(3)上記実施形態では、作業時間監視部37や速度変更部38をトラクタ1の作業車両側の車載電子制御ユニット16に備えた例を示したが、例えば、作業時間監視部37や速度変更部38を携帯通信端末3側の端末電子制御ユニット30に備えることもできる。
【0105】
(4)上記実施形態では、携帯通信端末3を備えた例を示したが、携帯通信端末3を備えずに実施することもできる。この場合には、走行経路設定部32、目標作業時間入力部35、目標走行速度設定部36等の端末電子制御ユニット30に備えられた各部を車載電子制御ユニット16に備えることができる。
【0106】
(発明の付記)
本発明の第1特徴構成は、測位ユニットにて測位される作業車両に基づいて、目標走行経路に沿って作業車両を自動走行させることで、所定の作業を行う自動走行システムにおいて、前記作業車両の走行速度を制御可能な走行速度制御装置であって、
前記所定の作業にかかる目標作業時間を入力する目標作業時間入力部と、
前記目標作業時間にて前記所定の作業が終了するように前記目標走行経路での目標走行速度を設定する目標走行速度設定部と、
前記作業車両が前記目標走行経路上の所定位置に位置する場合の作業済み時間を監視する作業時間監視部と、
前記目標作業時間入力部にて入力される目標作業時間と前記作業時間監視部にて監視する作業済み時間との関係により、所定位置以降の前記目標走行経路での目標走行速度を変更する速度変更部とが備えられている点にある。
【0107】
本構成によれば、目標走行速度設定部は、目標作業時間入力部に目標作業時間が入力されると、その目標作業時間にて所定の作業が終了するように目標走行経路での目標走行速度を設定することができる。これにより、目標走行速度にて作業車両を自動走行させることで、目標作業時間にて所定の作業を終了することができる。しかしながら、目標走行速度にて作業車両を自動走行させようとしても、スリップ等により目標走行速度を維持できず、目標作業時間にて所定の作業を終了できなくなる可能性がある。そこで、本構成によれば、目標作業時間入力部にて入力される目標作業時間と作業時間監視部にて監視する作業済み時間との関係により、目標作業時間にて所定の作業を終了できなくなると予想される場合には、速度変更部が、所定位置以降の目標走行経路での目標走行速度を変更することができる。このように、速度変更部が所定位置以降の目標走行経路での目標走行速度を自動的に変更することから、ユーザ等の人為作業が必要なく、所望時間に所定の作業を終了させるための調整を簡易に行うことができ、所望時間に所定の作業を適切に終了させることができる。
【0108】
本発明の第2特徴構成は、前記目標走行経路は、走行方向に延び且つ走行方向に直交する並設方向に平行状態で並び前記作業車両が作業しながら自動走行する複数の作業経路と、複数の作業経路のうち、並設方向に隣接する作業経路の終端と始端とを連結して前記作業車両が作業せずに自動走行する複数の連結経路とを含み、
前記速度変更部は、所定位置以降の前記連結経路での目標走行速度を変更するように構成されている点がある。
【0109】
作業車両が作業経路を自動走行する場合には、作業しながら自動走行するので、作業車両の走行速度を作業に適した走行速度に制御することが好ましい。そこで、本構成によれば、速度変更部は、所定位置以降の連結経路での目標走行速度を変更しているので、作業経路の走行速度を作業に適した走行速度に維持しながら、所定の作業を行うことができる。これにより、所定の作業を適切に行うことができ、作業効率の向上を図りながら、目標作業時間に所定の作業を終了させることができる。
【0110】
本発明の第3特徴構成は、前記作業時間監視部にて監視する作業済み時間が所定時間以上を経過している場合には、前記速度変更部が、所定位置以降の前記作業経路での目標走行速度を変更するように構成されている点がある。
【0111】
作業済み時間が所定時間以上を経過している場合には、連結経路での目標走行速度を変更するだけでは、削減できる時間に限りがあり、目標作業時間にて所定の作業を終了できなくなる可能性がある。そこで、本構成によれば、作業済み時間が所定時間以上を経過している場合には、速度変更部が、所定位置以降の連結経路での目標走行速度を変更するのに加えて、所定位置以降の作業経路での目標走行速度を変更している。これにより、目標作業時間にて所定の作業を適切に終了させることができる。
【0112】
本発明の第4特徴構成は、複数種の速度変更パターンから1つの速度変更パターンを選択する速度変更パターン選択部が備えられ、
前記速度変更部は、前記速度変更パターン選択部にて選択された速度変更パターンに応じて、所定位置以降の前記目標走行経路での目標走行速度を変更するように構成されている点がある。
【0113】
本構成によれば、ユーザ等が、複数種の速度変更パターンから1つの速度変更パターンを選択すると、速度変更パターン選択部は、ユーザ等の選択に応じて、複数種の速度変更パターンから1つの速度変更パターンを選択することができる。速度変更部は、速度変更パターン選択部にて選択された速度変更パターンに応じて、所定位置以降の目標走行経路での目標走行速度を変更するので、ユーザ等の要望に応じたパターンにて目標走行速度を変更することができ、使い勝手のよいものとなる。
【符号の説明】
【0114】
1 トラクタ(作業車両)
19 測位ユニット
35 目標作業時間入力部
36 目標走行速度設定部
37 作業時間監視部
38 速度変更部
39 速度変更パターン選択部
P 目標走行経路
P1 作業経路
P2 連結経路
Q1~Q6 所定位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6