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特許7529662多発性皮膚硬化患者から単離されたプラスミドによってコードされた複製タンパク質の結晶構造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】多発性皮膚硬化患者から単離されたプラスミドによってコードされた複製タンパク質の結晶構造
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20240730BHJP
   G01N 33/53 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
G01N33/53 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021526476
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019081364
(87)【国際公開番号】W WO2020099580
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】18206532.6
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512151403
【氏名又は名称】ドイッチェス・クレープスフォルシュングスツェントルム
【氏名又は名称原語表記】DEUTSCHES KREBSFORSCHUNGSZENTRUM
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブント、ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ハンスマン、グラント エス.
(72)【発明者】
【氏名】キリック、トゥルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ポポフ、アレクサンデル エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴィリエール - ツーア ハオゼン、エテル - ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】ツーア ハオゼン、ハラルト
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/069296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00 - 14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)P2の空間群と、(b)a=32.38ű1~2Å、b=77.77ű1~2Å、及びc=47.68ű1~2Å、α=90°、β=90.66°、及びγ=90°の単位格子寸法と、を有することを特徴とする、MSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶。
【請求項2】
配列番号1で定義された、Leu11、Leu18及び/又はLeu25を含む疎水性ポケットを含む、請求項1に記載のMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶。
【請求項3】
配列番号1で定義された、残基Lys69、Lys73、Lys85、Arg90、Arg78及び/又はArg96を含むDNA相互作用部位を含む、請求項1に記載のMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に定義されたMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶を生成する方法であって、
(a)結晶化試薬中の組換え調製MSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの溶液を調製する工程と、
(b)蒸気拡散によって前記MSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインを結晶化する工程と、
を含む、方法。
【請求項5】
前記結晶化試薬が、0.2M酢酸マグネシウム及び20%PEG3350を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸気拡散がハンギングドロップ蒸気拡散法である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1で定義されたMSBI1.176 Repタンパク質の阻害剤をスクリーニングする方法であって、
(a)前記MSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの溶液を提供する工程と、
(b)少なくとも1つの候補化合物を前記溶液中のMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインと接触させる工程と、
(c)請求項1から3のいずれかに一項に定義された前記MSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶を調製する工程と、
(d)配列番号1で定義されたMSBI1.176 Repタンパク質の候補結合化合物を同定する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
工程(d)において、請求項3で定義されたDNA相互作用部位への候補化合物の結合が決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
原子空間関係データを得るための、請求項1から3のいずれか一項に定義されたMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶の使用。
【請求項10】
MSBI1.176 Repタンパク質への薬物結合をスクリーニング、同定、設計、又は最適化するための、請求項9に記載のMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶の使用。
【請求項11】
候補化合物が配列番号1で定義されたMSBI1.176 Repタンパク質に結合する能力のインシリコスクリーニングのための、請求項1から3のいずれか一項に定義されたMSBI1.176 Repタンパク質WH1ドメインの結晶の使用。
【請求項12】
候補化合物が配列番号1で定義されたMSBI1.176 Repタンパク質のDNA相互作用部位に結合する、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症患者から単離されたプラスミドによってコードされる複製タンパク質の結晶形態、それらから得られる結晶構造情報、そのような結晶形態を調製する方法、当該複製タンパク質の阻害剤の同定及び/又は設計のためのそれらの使用、並びに複製タンパク質と相互作用するか又はそれを阻害する能力を有するはずの化合物を同定、最適化及び設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシの肉及び乳の消費は、ヒトの変性疾患及び悪性疾患、例えば結腸癌及び乳癌の発症の危険因子の1つであると考えられている(1~3)。実際、疫学的データは、これらの癌と、ヨーロッパ原産のオーロックス由来ウシのウシ産生物の消費との相関関係があることを示唆している(4~7)。Bovine Meat and Milk Factors(BMMF)は、ウシの肉及び乳製品において検出されている環状の一本鎖エピソームDNA(3kb未満)である。BMMFは、ヒトの悪性疾患及び変性疾患において役割を果たすと考えられている。BMMFは、ヒト細胞において能動的に転写及び翻訳される複製イニシエータタンパク質(Rep)をコードする。したがって、BMMFは、そのような疾患の可能な病原因子を表す可能性がある(8~10)。しかし、BMMFも多発性硬化症の患者から単離され、研究により、これらがこの疾患の可能性のある感染因子であることが示唆された。(10~13)。
【0003】
典型的には、BMMFは、「Rep」と呼ばれる自律的プラスミドトランス作用性複製イニシエータタンパク質をコードする。Repは、DNA上の複製起点(oriと呼ばれる)に結合し、ほとんどの場合、大部分のBMMF内に存在する一組の反復DNA要素(イテロンと呼ばれる)を含む(5)。CircularRepをコードする一本鎖(CRESS)DNAウイルスを含む様々なプラスミドの複製はまた、特定のDNA配列へのRepの結合を必要とする(14)。原核生物内では、Repは、大腸菌(Escherichia coli)のFプラスミドについて報告されているように、プラスミドコピー数を維持するのに中心的な役割を果たす(15)。この調節は、プラスミド由来、バクテリオファージ様又はウイルス様DNAゲノムの複製にも重要である(16)。Repは、ヒトにおける多剤耐性細菌の複製に不可欠であり(17)、研究により、Repが伝染性アミロイドタンパク症において役割を有することが示唆されている(18~20)。
【0004】
RepsのX線結晶構造は十分に文書化されており、自律複製の構造的根拠が記載されている(24~27)。Repは、本質的に、融合N末端タンパク質及びC末端タンパク質である2つのウィングドヘリックスドメイン(WH1及びWH2と呼ばれる)から構成される。Repは、特定の機能及びDNAへの結合に応じて、単量体型と二量体型との間で変換する(28)。両方のドメインを含む大きな構造変化は、これらのオリゴマー形態を補完する。構造変換には、Rep上の特定のαヘリックス及びβ鎖がリフォールディング及び/又はシフトする必要がある(26)。二量体型では、Repはリプレッサーとして機能し、ここでWH2は各オペレータDNAリピートに結合し、WH1は二量体形成面を形成するように機能する。単量体型では、Repは複製イニシエータとして機能し、ここで、WH1は大きな構造運動、すなわち二量体解離を受け、それによってWH1がイテロン末端に結合することを可能にし、一方、WH2は反対のイテロン末端に結合する。
【0005】
近年、多発性硬化症患者の脳試料からエピソーム環状DNA(単離MSBI1.176、系統LK931491.1)が単離された(11)。MSBI1.176 Repは、伝染性脳症関連薬剤の培養及び脳調製物から単離されたSphinx-1.76コード化Rep(GenBank ADR65123.1及びHQ444404.1)と98%のアミノ酸同一性を示す(21)。さらに、Sphinx-1.76特異的抗体に基づいて、マウスCNS、ハムスターCNS、及びヒト神経膠芽腫の神経細胞(GT1細胞株)及び脳試料において、Sphinx1.76コード化Repを検出することが示された(22)。MSBI1.176 Rep抗原に基づく血清学は、健康なヒト血液ドナーに対して陽性免疫応答を示し、これらの薬剤に対する可能性のある前曝露を示した(23)。したがって、ヒトの悪性疾患及び変性疾患におけるBMMFの機能を解読することがますます重要になってきている。
【発明の概要】
【0006】
ヒト悪性疾患及び変性疾患におけるBMMFの機能を解読するためには、MSBI1.176 Repタンパク質の結晶構造を有することが非常に有用であるが、これは今まで失敗していた。そのような結晶構造はまた、当該複製タンパク質の阻害剤の同定及び/又は設計、並びに複製タンパク質と相互作用する又は複製タンパク質を阻害する能力を有するべき化合物を同定、最適化及び設計するための方法に役立つ。
【0007】
したがって、本発明の目的は、MSBI1.176 Repタンパク質の結晶構造座標、MSBI1.176 Repタンパク質の結晶形態を得る方法、並びに結晶構造及び結晶構造座標に基づいてMSBI1.176 Repタンパク質の阻害剤として化合物を設計、同定及び最適化する方法を提供することである。
他の記載と重複するが、本発明及びその諸態様を以下に示す。ただし、本発明は以下に限定されない。
[1]
(a)P2 の空間群と、(b)a=32.38ű1~2Å、b=77.77ű1~2Å、及びc=47.68ű1~2Å、α=90°、β=90.66°、及びγ=90°の単位格子寸法と、を有することを特徴とする、MSBI1.176 Repタンパク質の結晶構造。
[2]
Leu11、Leu18及び/又はIle25を含む疎水性ポケットを含む、MSBI1.176 Repタンパク質の結晶構造。
[3]
残基Lys69、Lys73、Lys85、Arg90、Arg78及び/又はArg96を含むDNA相互作用部位を含む、MSBI1.176 Repタンパク質の結晶構造。
[4]
MSBI1.176 Repタンパク質又はその結晶化可能な断片の結晶を生成する方法であって、
(a)結晶化試薬中の組換え調製MSBI1.176 Repタンパク質、好ましくはWH1ドメインの溶液を調製する工程と、
(b)蒸気拡散によって前記MSBI1.176 WH1ドメインを結晶化する工程と、
を含む、方法。
[5]
前記結晶化試薬が、0.2M酢酸マグネシウム及び20%PEG3350を含む、[4]に記載の方法。
[6]
前記蒸気拡散がハンギングドロップ蒸気拡散法である、[4]に記載の方法。
[7]
MSBI1.176 Repタンパク質の阻害剤をスクリーニングする方法であって、
(a)前記MSBI1.176 Repタンパク質又はその結晶化可能な断片の溶液を提供する工程と、
(b)少なくとも1つの候補化合物を前記溶液中のMSBI1.176 Repタンパク質と接触させる工程と、
(c)前記MSBI1.176 Repタンパク質の結晶を調製する工程と、
(d)前記MSBI1.176 Repタンパク質の候補結合化合物を同定する工程と、
を含む、方法。
[8]
工程(d)において、請求項3で定義されたDNA相互作用部位への候補化合物の結合が決定される、[7]に記載の方法。
[9]
原子空間関係データを得るための、[1]から[3]のいずれかに定義された結晶構造の使用。
[10]
MSBI1.176 Repタンパク質への薬物結合をスクリーニング、同定、設計、又は最適化するための、[9]に記載の結晶構造の使用。
[11]
候補化合物が前記MSBI1.176 Repタンパク質に結合する、特にDNA相互作用部位に結合する能力のインシリコスクリーニングのためのMSBI1.176 Repタンパク質の結晶構造の使用。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の目的は、独立請求項の教示によって解決される。本発明のさらなる有利な特徴、態様及び詳細は、本出願の従属請求項、説明、図面及び例から明らかである。
【0009】
したがって、本発明は、請求項1に特徴付けられるMSBI1.176 Repタンパク質の結晶形態に関する。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
MSBI1 Rep元の全長複製タンパク質
GenBank:CDS63398.1
(複製可能なエピソームDNA MSBI1.176にコードされる)
Embl系統DNA配列:LK931491.1
供給源:多発性硬化症に罹患したヒト脳
>MSBI1.176推定複製イニシエータタンパク質
【化1】
【0010】
本発明をもたらす実験中に、MSBI1.176 WH1ドメイン(残基2~133)のX線結晶構造を1.53Å分解能で解明した(データ統計を表1に示す)。非対称単位は、1つのWH1二量体、すなわち2つのプロトマー(A及びBと呼ばれる)からなっていた。電子密度は、ほとんどのタンパク質について十分に分解された(平均B因子=29、43Å)。しかし、残基36~39は、識別可能な電子密度の欠如のためにBプロトマーにフィットすることができなかったが、電子密度は他のプロトマーでは異なっていた。WH1構造は、各プロトマーに5つのαヘリックス(α1~α5)及び5つのβ鎖(β1~β5)を含んでいた(図1)。A及びBプロトマーは密接に関連していた(RMSD=0.37Å)が、β2-β3ヘアピンでわずかな構造シフトが観察され、この領域のいくらかの柔軟性を示唆している。重要なことに、以前の構造(24~27)よりもこの改善された分解能により、水分子がこのRep構造に効果的に付加された。
【0011】
MSBI1.176 WH1タンパク質構造のデータ収集及び精密化統計を表1に要約する。
【表1】
【0012】
密接に関連する構造及び配列についてのデータベース検索により、MSBI1.176 WH1が、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)RepA WH1(dRepA、PDB ID 1HKQ)及び大腸菌(Escherichia coli)RepE融合WH1-2(RepE54、1REP)とそれぞれ28%及び17%のアミノ酸同一性という例外的に低いアミノ酸同一性を有することが明らかになった(24、25)。dRepAと同様に、MSBI1.176 WH1も複製不活性二量体として折り畳まれ、RepE54(WH1-2構築物)は単量体イニシエータ形態で結晶化した。MSBI1.176 WH1及びdRepA WH1の重ね合わせは、これらの2つのドメインが構造的に類似しており(RMSD=1.20Å)、両方とも典型的な5つのαヘリックス及び5つのβ鎖を有することを示した(図2)。これらの2つのRepsの間で多くの構造的類似性及び相違が観察された。5つのβ鎖(β1-β5-β4-β3-β2)を含むMSBI1.176及びdRepA二量体界面は、同一の残基ではないが、同様の数の主鎖結合相互作用で保持された(図3A)。この結果は、二量体界面特徴が多様なRep分離株の間で機能的に関連している可能性が高いことを示唆した。本発明者らは、水分子がこの二量体界面で結合することを観察した(図3B)。しかし、これらの水分子が二量体界面を安定化し、及び/又はDNAに結合して立体構造を変化させた後にどのように置き換えられるかはまだ知られていない。
【0013】
本発明者らはまた、α1-α2-α5を含むMSBI1.176 WH1領域がdRepAと同様の配向であり、典型的なα1-α2湾曲を有し、それによってV字形構造を形成することを観察した(図3C)。WH2に対するリンカーを形成するdRepAのこの領域は、疎水性7アミノ酸ポケットも含み、これは典型的にはいくつかのロイシン残基(例えば、dRepA:Leu12、Leu19、及びLeu26、RepE:Leu24、Leu31、及びLeu39)を含んでいた。MSBI1.176 WH1疎水性ポケットはまた、3つのロイシン残基、すなわちLeu11、Leu18及び/又はIle25を含むか又はそれらからなり、これらは同様にdRepA内に配置されていた。驚くべきことではないが、水分子はMSBI1.176 WH1疎水性ポケットに存在しなかった(図3B)。
【0014】
一般に、多くのMSBI1.176 WH1構造的特徴は、他の既知の二量体Rep構造に保存されていた(24~27)。しかし、ループ運動並びに異なるαヘリックス及びβ鎖が異なる構造の間で観察されている。MSBI1.176の場合、β2-β3-ヘアピンは、dRepA β2-β3-ヘアピンと比較した場合、約23Åシフトした(図4)。RepE54の場合、この等価なβ2-β3-ヘアピン(残基97~110)は、電子密度が不足していたので(20、24)、構造に付加されなかった。RepE54 β2-β3-ヘアピンは柔軟であり、この柔軟性は、逆平行β2-β3-ヘアピンを不安定化し、二量体化を阻止することによって機能し得ることが示唆された(20、24)。しかし、MSBI1.176 WH1 β2-β3-ヘアピンは、dRepA構造と同様、直接的な主鎖相互作用で明確に保持されていた(図3A)。さらに、本発明者らは、この二量体界面での水媒介性相互作用もまた、このヘアピンにさらなる安定性を付加し得ることを認識した(図3B)。
【0015】
dRepAドメインの以前のモデリング分析は、α2、β2、β3、及び隣接ループ上の6つの塩基性残基(dRepAナンバリング:Lys74、Arg81、Arg91、Arg93、Lys62、Arg78)がDNA骨格の副溝に続く可能性があることを示した(24)。MSBI1.176 WH1構造では、この領域に6つの塩基性残基も見出された。これらは、Lys69、Lys73(α2上に位置する)、Lys85(β2)、Arg90(β3)、Arg78及び/又はArg96(隣接するループ上)を含むか又はそれらからなるDNA相互作用部位を表すと考えられる。DNA相互作用部位には、好ましくは正に帯電したアミノ酸が蓄積し、DNAの負電荷と静電的に相互作用する。MSBI1.176 WH1 Lys73A/B鎖、Lys85A/B鎖及びArg90A鎖側鎖の電子密度は弱いが、これらの残基の2つ(Arg78及びArg96)は同等のdRepA位置にあり、DNA分子と相互作用することが示唆された(24)。MSBI1 WH1は、シートを伸長させるβ2鎖に3つのアミノ酸挿入を有していたが、MSBI1.176 WH1 β2-β3シート配向の機能は明らかではない。おそらく、この挿入は、同等のdRepA残基Arg81及びArg91と比較した場合、β2-β3シート上でMSBI1.176 WH1 Lys85(β2)及びArg90(β3)を簡潔にシフトさせた。別の方法で見ると、MSBI1.176 β2-β3シートはかなり平らであったが、dRepA β2-β3ヘアピンは反対方向に引っ掛かっていた(図2)。
【0016】
MSBI1.176 WH1構造の解明は、BMMF DNAのこの多様な群の中でRepタンパク質の間で構造的特徴がどのように変化し得るかをよりよく理解する上で重要な前進を表す。多発性硬化症の患者から単離されたこのMSBI1.176 WH1タンパク質が原核生物Rep構造と密接に類似していたという知見は重要な結果を有する。全体として、この新しい構造情報は、Repsのオリゴマー性を阻害することができる新しい薬物標的の開発及び設計を支援する。本発明によれば、多発性硬化症のヒト脳試料から単離されたBMMF(MSBI1.176)上にコードされたRep WH1ドメインは、X線結晶学を使用して1.53Å分解能で決定された。MSBI1.176 WH1の全体構造は、アミノ酸同一性が低い(28%)にもかかわらず、他のRep構造と著しく類似していた。MSBI1.176 WH1は、5つのαヘリックス、5つのβ鎖、及び疎水性ポケットを含む、他のRepに共通の要素を含んでいた。興味深いことに、MSBI1.176 WH1 β2-β3ヘアピンは、他のRepsと比較した場合、約23Åシフトした。この領域は、DNAと相互作用することが知られており、MSBI1.176 WH1ヘアピンにおけるアミノ酸挿入により、正に荷電したDNA結合残基がβ2-β3シートに沿ってさらにシフトした。本発明のデータはまた、水分子がタンパク質中のαヘリックス及びβ鎖をさらに安定化することを示す。全体として、これらの新たな知見は、MSBI1.176 Repが異なる起源からの他の既知のRepと同等の役割及び機能を有し得ることを裏付けている。
【0017】
さらに、本発明は、阻害剤MSBI1.176を同定する方法、並びにMSBI1.176 Repタンパク質の結晶形態を調製する方法及びそれらの結晶構造情報を確立することを可能にする。データは、そのような構造データの使用に基づいて合理的な薬物設計を可能にする。
【0018】
本発明はまた、MSBI 1.176 Repタンパク質の阻害剤を同定及び/又は設計する可能性を提供し、結晶形態、結晶形態から得られる結晶構造情報、そのような結晶形態を調製する方法、MSBI 1.176 Repタンパク質活性の阻害剤を同定及び/又は設計するためのその使用、並びにこれらの方法によって同定されたMSBI 1.176 Repタンパク質の阻害剤の診断及び/又は医薬用途に関する。
【0019】
「結晶形態」又は「結晶構造」(互換的に使用される)という用語は、MSBI1.176 Repタンパク質に結合した界面活性剤及び/又は核酸(特に、DNA)を含む又は含まないMSBI1.176 Repタンパク質の結晶形態を指す。
【0020】
本明細書で使用される「単位格子」という用語は、平行移動操作のみで結晶を生成することができる最小の繰り返し単位を指す。単位格子は、結晶の構造及び対称性情報のすべてを含み、行移動によって空間のすべてにおいてパターンを再現することができる体積の最小単位である。それにより、構造情報は、パターン(原子)にすべての周囲空間を加えたものであり、対称情報は、鏡、滑り、軸、及び反転中心を意味する。平行移動は、格子端の長さの格子端に沿った動きを指す。非対称単位は、結晶学的対称性によって許容される対称性オペレータのみを使用して1つの単位格子を生成するために回転及び平行移動させることができる最小単位である。非対称単位は、多量体タンパク質の1つの分子又は1つのサブユニットであってもよいが、2つ以上であってもよい。したがって、非対称単位は、構造情報のすべてを含み、対称操作を適用することによって単位格子を再現することができる体積の最小単位である。単位格子の形状は、群を構成する対称要素の集合によって制約される。空間群には、三斜晶系、単斜晶系、斜方晶系(orthorhombic)、正方晶系、六方晶系、斜方晶系(rhombic)及び立方晶系の7つの格子型が可能である。結晶学では、空間群は結晶学群又はFedorov群とも呼ばれる。単位格子の端は、単位格子の寸法をそれぞれの長さa、b、及びcとして、単位ベクトル軸a、b、及びcのセットを定義する。これらのベクトルは直角である必要はなく、軸間の角度は、bc軸間のようにαで示され、ac軸間のβで示され、ab軸間のγで示される。異なる形状は、3つの端部の長さ(a、b、及びc)及び3つの角度の値(α、β、γ)に課される制限に応じて生じる。
【0021】
本発明の別の好ましい実施形態では、MSBI 1.176 Repタンパク質の結晶形態が疎水性ポケットを含有するか又はさらに含有し、疎水性ポケットがアミノ酸Leu11、Leu18及びIle25を含有する。
【0022】
MSBI 1.176 Repタンパク質の潜在的な阻害剤は、Repタンパク質の活性を低下させるためにDNA相互作用部位に結合することができる。したがって、MSBI1.176 Repタンパク質に結合する能力を有し得る化合物を設計、同定及び/又は最適化する方法は、結晶構造座標に基づくことができる。
【0023】
MSBI1.176 Repタンパク質の潜在的な阻害剤は、構造に基づく機能及びタンパク質活性/局在化/安定性/修飾を調節するRepオリゴマー形成面に結合することができた。
【0024】
MSBI1.176 Repタンパク質の潜在的な阻害剤は、構造に基づく機能及びタンパク質活性/局在化/安定性/修飾を調節する依然として未知のタンパク質相互作用表面に結合することができる。
【0025】
MSBI1.176 Repタンパク質の潜在的な阻害剤は、構造的に関連する原核生物Rep(例えば、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)種由来)に結合して、DNA結合、オリゴマー形成及び/又は付加タンパク質相互作用界面の立体障害に基づいて、異なる起源由来のそのようなRepタンパク質の活性を低下させることができた。
【0026】
本明細書に開示されるMSBI1.176 Repタンパク質の結晶形態は、以下の結晶化方法によって得ることができる。したがって、本発明は、MSBI1.176 Repタンパク質を結晶化するための方法に関し、
(a)好ましくは少なくとも1種の無機塩及び少なくとも1種の沈殿剤を含有する結晶化試薬中で、組換え調製MSBI1.176 WH1ドメインの溶液を調製する工程、
(b)蒸気拡散によって当該MSBI1.176 WH1ドメインを結晶化する工程、を含む。
【0027】
少なくとも1種の無機塩は、0.01mM~2M、好ましくは0.1mM~1M、より好ましくは0.1M~0.5M、より好ましくは約0.2Mの量で使用される。2種以上の無機塩が使用される場合、前述の濃度は、すべての無機塩を合わせた濃度を指し、無機塩の混合物に使用される各単一塩の濃度を指すのではない。
【0028】
好ましくは、無機塩は、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、窒化アンモニウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸カリウム、臭化カリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、臭化ナトリウム、フッ化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛を含むか又はそれらからなる群から選択される。好ましい無機塩は、酢酸マグネシウムである。
【0029】
理論的には、少なくとも1種の沈殿剤は、水に対してタンパク質溶質と競合し、したがってタンパク質の過飽和をもたらす。結晶は通常、過飽和状態からのみ成長することができ、したがって結晶は析出物から成長することができる。塩、ポリマー、及び有機溶媒は、緩衝沈殿剤溶液の総重量に関して沈殿剤又は沈殿剤の混合物の5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは15重量%~35重量%、最も好ましくは20重量%~30重量%の量で使用される適切な沈殿剤である。
【0030】
工程(b)の緩衝沈殿剤溶液に使用される沈殿剤は、好ましくは、2-メチル-2,4ペンタンジオール、グリセロール、ポリエチレングリコール(PEG)、ペンタエリスリトールプロポキシラート、ペンタエリスリトールエトキシラート、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサンジオール、イソプロパノール、エタノール、tert-ブタノール、ジオキサン、エチレンイミンポリマー、エチレングリコール、プロパンジオール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、2-エトキシエタノール、又はそれらの混合物からなるか又はそれらを含む群から選択され得る。沈殿剤として最も好ましいのはPEGであり、好ましくはPEG200~PEG20,000の範囲の分子量を有し、より好ましくはPEG1,000~PEG18,000の範囲の分子量を有し、さらにより好ましくはPEG3,000~PEG15,000の範囲の分子量を有する。PEGは非常に好ましい沈殿剤であり、緩衝沈殿剤溶液の重量の20~30重量%の量で使用されることが好ましい。
【0031】
最も好ましい実施形態では、結晶化緩衝液は、0.2M酢酸マグネシウム及び20%PEG3350を含む。
【0032】
好ましい実施形態では、ハンギングドロップ法又はシッティングドロップ法が結晶化のために使用される。「ハンギングドロップ蒸気拡散」技術は、巨大分子の結晶化のための最も一般的な方法である。蒸気拡散の原理は簡単である。試料と結晶化試薬との混合物からなる液滴を、試薬の液体リザーバとの蒸気平衡状態に置く。典型的には、液滴はリザーバよりも低い試薬濃度を含む。平衡を達成するために、水蒸気は液滴を離れ、最終的にリザーバ内に入る。水が液滴を離れるにつれて、試料は過飽和の方向に増加する。水がリザーバの液滴を離れるにつれて、試料と試薬の両方の濃度が上昇する。液滴内の試薬濃度がリザーバ内の試薬濃度とほぼ同じである場合、平衡に達する。
【0033】
本発明のさらに重要な態様は、MSBI1.176 Repタンパク質の阻害剤の同定、最適化及び/又は設計のためのインシリコ予測モデルのためのMSBI1.176 Repタンパク質の結晶形態の使用に関する。DNA相互作用部位におけるアミノ酸の原子の正確な位置を知ることは、適切な阻害剤を設計する、例えば化合物ライブラリから適切な阻害剤を同定する、又は阻害能を高めることによって既知の適切な阻害剤を最適化する可能性を提供する。適切な阻害剤の設計、同定及び最適化は、当技術分野で周知の標準的なコンピュータベースの方法及びソフトウェアプログラムを用いて行うことができる。コンピュータベースのシステムにおけるデータの分析及び比較を行うために、様々な市販のソフトウェアプログラムが利用可能である。当業者は、コンピュータ分析を行うための利用可能なアルゴリズム又は実装ソフトウェアパッケージのうちのどれが、コンピュータベースのシステムにおける使用のために利用又は適合され得るかを容易に認識するであろう。標的構造モチーフ又は標的モチーフは、任意の合理的に選択された配列又は配列の組み合わせを指し、ここで、配列は、標的モチーフ折り畳み時に形成される三次元配置又は電子密度マップに基づいて配列が選択される。当技術分野で公知の様々な標的モチーフが存在する。入力及び出力手段のための様々な構造フォーマットを使用して、本発明のコンピュータベースのシステムにおいて情報を入力及び出力することができる。様々な比較手段を使用して、標的配列又は標的モチーフをデータ記憶手段と比較して、構造モチーフを同定するか、又は原子座標/X線回折データから部分的に導出された電子密度マップを解釈することができる。当業者は、使用することができる公的に入手可能なコンピュータモデリングプログラムのいずれか1つを容易に認識することができる。タンパク質を観察、分析、設計及び/又はモデル化するために使用することができる適切なソフトウェアは、Alchemy(商標)、LabVision(商標)、Sybyl(商標)、Molcadd(商標)、Leapfrog(商標)、Matchmaker20(商標)、Genefold(商標)及びSitel(商標)(ミズーリ州セントルイスのTripos社から入手可能)、Quanta(商標)、MacroModel(商標)及びGRASP(商標)、Univision(商標)、Chem3D(商標)及びProtein Expert(商標)を含む。
【0034】
したがって、さらなる態様では、本発明は、コンピュータベースの方法又はソフトウェアプログラムによって阻害剤を設計、同定又は最適化するために、結晶形態及び結晶形態の関連する構造座標又はDNA相互作用部位の少なくとも1つを適用することによってMSBI1.176 Repタンパク質の阻害剤を設計、同定及び最適化する方法に関する。
【0035】
原子座標/X線回折データを使用して、物理モデルを作成することができ、次いで、物理モデルを使用して、決定されたDNA相互作用部位、あるいは疎水性ポケット及び/又はDNA相互作用部位に隣接するポケットなどの他の構造的又は機能的ドメイン又はサブドメインを阻害及び/又は相互作用する能力又は特性を有するべき化合物の分子モデルを設計することができる。あるいは、複合体の原子座標/X線回折データは、決定された部位、あるいは他の構造的又は機能的ドメイン又はサブドメインを阻害及び/又は相互作用すると予想される異なる分子を計算するためにコンピュータモデリングシステムで使用することができるコンピュータ可読媒体上の原子モデル出力データとして表すことができる。例えば、データのコンピュータ分析により、MSBI1.176 Repタンパク質と化合物との三次元相互作用を計算して、化合物が特定のドメイン又はサブドメインに結合するか、又はその立体配座を変化させることを確認することができる。次いで、物理モデル又はコンピュータモデルの分析から同定された化合物を合成し、適切なアッセイで生物学的活性について試験することができる。
【0036】
阻害剤が化合物ライブラリから同定される場合、又は既知の阻害剤が理論的化学修飾によって最適化される場合、阻害効果を検証し、最適化プロセスを継続するために、実際の化合物を試験することが望ましい。したがって、好ましくは、化合物を同定及び/又は最適化するための上記の方法は、
(a)同定又は最適化された化合物を得る工程、
(b)MSBI1.176 Repタンパク質に対する阻害効果を決定するために、同定又は最適化された化合物をMSBI1.176 Repタンパク質と接触させる工程、を含む。
【0037】
表1に列挙されたすべての構造座標を使用する必要はない。したがって、疎水性ポケット及び/又はDNA相互作用部位の構造座標のみを使用することができる。
【0038】
本出願では、多発性硬化症のヒト脳試料から単離されたBMMF(MSBI1.176)上にコードされたRep WH1ドメインは、X線結晶学を使用して1.53Å分解能で決定された。MSBI1.176 WH1の全体構造は、アミノ酸同一性が低い(28%)にもかかわらず、他のRep構造と著しく類似していた。MSBI1.176 WH1は、5つのαヘリックス、5つのβ鎖、及び疎水性ポケットを含む、他のRepに共通の要素を含んでいた。これらの新たな知見は、MSBI1.176 Repが異なる起源からの他の既知のRepと同等の役割及び機能を有し得ることを示唆している。Repは、異なる宿主におけるプラスミド又は自己エピソーム核酸の複製に重要である。したがって、そのようなタンパク質及びRepをコードするDNAは、疾患と関連している可能性があると考えられている。したがって、Repの慎重な構造的及び機能的特徴付けが必要である。本研究に記載されたRepは、多発性硬化症の患者から単離されたヒト生物活性bovine meat and milk factor MSBI 1.176によってコードされている。特定の血清抗体は、そのような薬剤に対する一般的なヒト曝露を指す健康なヒト血液バンクドナーのセットにおいて見出された。このMSBI1.176にコードされたRep WH1タンパク質が原核生物Rep構造と密接に類似しているという発見は、重要な結果を有する可能性があり、ヒトに対するこれらの薬剤の疾患に相関する適応の可能性を指摘する。この新しい構造情報は、多様な起源のこれらのRepを阻害することができる治療薬/予防薬の開発及び設計を支援し得る。
【0039】
以下の略語は、本明細書で言及される一般的なアミノ酸及び修飾アミノ酸に使用される。
アミノ酸
Ala アラニン
Arg アルギニン
Asn アスパラギン
Asp アスパラギン酸(Aspartic acid)(アスパラギン酸(Aspartate))
Cys システイン
Gln グルタミン
Glu グルタミン酸(Glutamic acid)(グルタミン酸(Glutamate))
Gly グリシン
His ヒスチジン
lle イソロイシン
Leu ロイシン
Lys リジン
Met メチオニン
Phe フェニルアラニン
Pro プロリン
Ser セリン
Thr スレオニン
Trp トリプトファン
Tyr チロシン
Val バリン
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】MSBI1.176 WH1二量体のX線結晶構造。 MSBI1.176 WH1プロトマーは、鎖Aではシアン、鎖Bではオレンジ色に着色されている。1つのプロトマーは、5つのαヘリックス(α1~α5)及び5つのβ鎖(β1~β5)を含む。二量体界面は、2本の鎖(β4~β3)を含む。
図2】密接に一致する原核生物RepA WH1との構造比較。 MSBI1.176 WH1及びRepA WH1のアミノ酸同一性は28%である。RepA(灰色)と重ね合わせると、これらの2つのWH1二量体が非常に類似しており、r.m.s.d.が1.20Åであることを示した。伸長したループにおける構造的差異が観察され、注目すべきことに、α2及びβ1並びにβ2及びβ3を接続するループが観察された。
図3】MSBI1.176 WH1のMSBI1.176 WH1構造類似性。 (A)5つのβシート(β1-β5-β4-β3-β2)は、MSBI1.176 WH1(シアン及びオレンジ色)及びRepAWH1(灰色)における主鎖相互作用を示す。β鎖は、二量体界面(β4-β3)を含む、RepAと同様の多数の主鎖水素結合(破線)によって保持された。 (B)α1-α2-α5を含む領域の配向は、RepAと同様であった。この領域はV字型構造を生成し、α5はWH2ドメインに対するリンカー領域である。疎水性ポケットはまた、3つのロイシン残基、すなわちLeu11、Leu18及びIle25を含み、これらは同様にRepAに位置していた(データは示さず)。
図4】PDBコード1hkq(RepA)及び2z9o(RepE)を有する原核生物Repタンパク質へのMSBI1.176 WH1 β2-β3ヘアピンの上書き。 MSBI1.176 WH1 β2-β3ヘアピンは、同等のRepAヘアピンと比較した場合、約23Åシフトした。MSBI1.176 WH1 β2-β3ヘアピンは、直接主鎖相互作用(図3a)並びに水媒介性相互作用によって保持された。図3(A)のMSBI1.176構造とRepA WH1構造との間の異なるβ2-β3ヘアピンねじれに留意されたい。RepE β2-β3ヘアピンをこれらの2つのWH 1β2-β3ヘアピンの間に配置した。
【0041】
以下の例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能するために本発明者によって発見された技術を表し、したがってその実施のための好ましい形態を構成すると考えることができることを当業者は理解されたい。本発明の様々な態様の変更及び代替実施形態は、この説明を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0042】
したがって、この説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実施する一般的な方法を当業者に教示する目的のためのものである。本明細書に示され説明される本発明の形態は、実施形態の例として解釈されるべきであることを理解されたい。本発明のこの説明の利益を得た後に当業者にはすべて明らかであるように、要素及び材料は、本明細書に図示及び記載されたものに置き換えられてもよく、部品及びプロセスは逆にされてもよく、本発明の特定の特徴は独立して利用されてもよい。
【実施例
【0043】
例1:MSBI1 WH1の結晶を得る方法
多発性硬化症患者の脳試料からMSBI1.176 DNA(LK931491.1)を単離した(11)。MSBI1 WH1ドメイン(残基1~135)を大腸菌(E.coli)で発現させ、ヒトノロウイルス突出ドメインについて以前に記載されたように精製した(29)。簡潔には、コドン最適化WH1を改変発現ベクターpMal-c2X(Geneart)にクローニングし、タンパク質発現のためにBL21細胞に形質転換した。形質転換細胞を、100μg/mlのアンピシリンを補充したLB培地中で37℃で4時間増殖させた。発現を、IPTG(0.75mM)を用いて、0.7のOD600で、22℃で18時間誘導した。細胞を6000rpmで15分間の遠心分離によって回収し、氷上での超音波処理によって破壊した。Hisタグ付き融合MBSI1タンパク質を最初にNiカラム(Qiagen)から精製し、10mMイミダゾールを含むゲル濾過緩衝液(GFB:25 mM Tris-HCl及び300mM NaCl)で透析し、HRV-3Cプロテアーゼ(Novagen)で4℃で一晩消化した。次いで、切断されたMSBI1 WH1を再びNiカラムに適用して、切断されたタンパク質を分離及び回収し、4℃で一晩GFB中で透析した。MSBI1 WH1タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィによってさらに精製し、5mg/mlに濃縮し、4℃でGFBに保存した。MSBI1 WH1の結晶を、タンパク質試料と母液(0.2M酢酸マグネシウム及び20%PEG3350)との1:1混合物中、18℃で約6~10日間、ハンギングドロップ蒸気拡散法を使用して成長させた。データ収集の前に、MSBI1 WH1結晶を、40%PEG3350を含む母液を含む凍結保護剤に移し、続いて液体窒素中で急速凍結した。
【0044】
例2:X線回折
MSBI1 WH1ドメインのX線回折データを、ビームラインID23-1及びID30Bで欧州シンクロトロン放射施設(ESRF)で収集した。天然硫黄を使用した単波長異常回折(S-SAD)実験では、7つの結晶からの回折データを、Dectrisピクセルアレイ検出器PILATUS-6Mを備えたビームラインID23-1上でλ=1.850Åで収集した。試料位置でのX線ビームサイズは50μmであり、結晶のサイズは約70×70×200μmであった。放射線損傷の影響を減少させるために、螺旋データ収集戦略を適用した。1つのネイティブデータセットは、初期位相拡張のためにλ=0.972ÅでID23-1において収集され、第2のネイティブデータセットは、構造精密化のためにλ=0.979ÅでID30Bにおいて収集された。データ収集のための最適な実験パラメータは、ESRFのMxCubeソフトウェア(31)に組み込まれたBEST(30)を使用して設計された。単一のネイティブデータセットはXDSで処理されたが、S-SADの複数のデータセットはXDSで処理され、次いでXSCALE(32)を使用してマージされた。
【0045】
さらなる処理のためにS-SADを使用していくつかのデータセットを収集した(33)。S-SAD整相プロトコルは、HKL2MAP(34)に実装されているSHELXC/D/Eパイプラインを使用して実行した。SHELXCでの下部構造決定のために1000回の試行を行った。2.3Åの分解能及び3.1Åに短縮された異常シグナルを使用して、SHELXDは24個すべての硫黄部位を正しく同定した。415残基をSHELXEによって自動的に構築し、さらなる処理のための解釈可能なマップを得た。最後に、収集された最初のS-SADネイティブデータセットに基づいて自動モデル構築にARP-wARPを使用した(35)。構造は、COOT(36)及びPHENIX(37)における複数回の手動モデル構築で第2の高解像度ネイティブデータセットを使用して改良された。Molprobity及びProcheckを使用して構造を検証した。Accelrys Discovery Studio(バージョン4.1)を使用して、2.4~3.5Åの間の水素結合距離で相互作用を分析した。PyMOLを使用して、図及びタンパク質接触電位を作成した。原子座標及び構造因子は、6H24のアクセションコードでタンパク質データバンク(PDB)に寄託されている。
【0046】
例3:DNA結合のモデリング
RepAドメインの以前のモデリング分析は、α2、β2、β3、及び隣接するループ上の6つの塩基性残基(RepAナンバリング:Lys74、Arg81、Arg91、Arg93、Lys62、及びArg78)がDNA骨格の副溝に続く可能性があることを示した(24)。MSBI1.176 WH1構造では、この領域に6つの塩基性残基、すなわちLys69、Lys73(両方ともα4上に位置する)、Lys85(β2)、Arg90(β3)、Arg78及びArg96(両方とも隣接ループ上にある)も見出された。MSBI1.176 WH1 Lys73A/B鎖、Lys85A/B鎖及びArg90A鎖側鎖の電子密度は弱いが、これらの残基の2つ(Arg78及びArg96)は同等のRepA位置にあり、DNA分子と相互作用することが示唆された(24)。MSBI1.176 WH1は、シートを伸長させるβ2鎖に3つのアミノ酸挿入を有していたが、MSBI1.176 WH1 β2-β3シート配向の機能は明らかではない。おそらく、この挿入は、同等のRepA残基Arg81及びArg91と比較した場合、β2-β3シート上でMSBI1.176 WH1 Lys85(β2)及びArg90(β3)を簡潔にシフトさせた。別の方法で見ると、MSBI1.176 β2-β3シートはかなり平らであったが、RepA β2-β3ヘアピンは反対方向に引っ掛かっていた。
【化2】
【0047】
ClustalW(Genetyx)を使用して、MSBI1.176(LK931491.1)及びRepA(PDB ID 1HKQ)の上記アミノ酸配列アラインメントを生成した。結晶構造を用いて二次構造要素を示し、確認した。同一の残基及び相同な残基は、それぞれ塗りつぶした背景又はボックスで強調表示される。おそらく、DNA分子は二量体界面に沿って相互作用し、この領域の6つの塩基性残基、すなわちLys69(α4)、Lys73(α4)、Arg78、Lys85(β2)、Arg90(β3)及びArg96と相互作用する可能性がある。DNA相互作用に関与することが示唆されたRepAの塩基性アミノ酸残基を逆三角形(▼)でマークし、MSBI1.176 WH1の等価物を三角形(▲)でマークした。
【0048】
参考文献



【配列表フリーテキスト】
【0049】
配列表1 <223>MSBI1.76タンパク質
配列表2 <223>RepAドメイン
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
【配列表】
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