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特許7529682体外免疫寛容増強血液治療のための治療装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】体外免疫寛容増強血液治療のための治療装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
A61M1/36 185
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021555444
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2020056855
(87)【国際公開番号】W WO2020187741
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】102019106651.4
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン、ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】ノイバウア、ユリア
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、ベンヤミン
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-526839(JP,A)
【文献】特表2004-531349(JP,A)
【文献】特表昭63-502965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0001014(US,A1)
【文献】特表2007-530543(JP,A)
【文献】特開2016-153124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象(2)の免疫寛容増強のために前記対象(2)からの血液の体外血液治療用に設計された治療装置(100)であって、
前記治療装置は、少なくとも1つの容器(10)を備え、
前記容器(10)は、
前記対象(2)からの血液の血液試料(1)を受け取るための内部空間(11)と、
前記容器(10)の前記内部空間(11)の中又は外に前記血液試料(1)を供給及び/又は排出するように設計された交換装置(20)と、
を有し、
前記容器(10)内に細胞曝露装置(30)が配置され、
前記細胞曝露装置(30)は、表面分子を有する生体細胞材料(31)を有し、
前記血液中の内因性免疫細胞と前記細胞材料(31)の前記表面分子との反応を含む、前記血液試料(1)との物質的な相互作用のために、前記細胞材料が前記容器(10)の前記内部空間(11)に配置され、
前記容器(10)は、体外治療中に外側に対して閉鎖され得る容器であり、
前記交換装置(20)は、入口ライン(21)及び出口ライン(22)を備え、
前記入口ライン(21)及び前記出口ライン(22)はそれぞれ、前記血液試料(1)の処理中に前記内部空間(11)を周囲から分離するための閉鎖可能な弁を含む、
治療装置。
【請求項2】
前記細胞曝露装置(30)は、分離層(33)を有し、
前記生体細胞材料(31)は、前記分離層(33)によって前記内部空間(11)から分離され、前記生体細胞材料(31)は、前記細胞曝露装置(30)上に保持され、前記分離層(33)は、前記生体細胞材料(31)と前記血液試料(1)との間の物質交換のために設計される、
請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記細胞曝露装置(30)は、前記生体細胞材料(31)が接着状態で配置される支持体(32)を有する、
請求項1又は2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記支持体(32)が、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞及び/又はそれらから分化した細胞の接着結合のために設計された結合層を有する、
請求項3に記載の治療装置。
【請求項5】
前記細胞曝露装置(30)は、前記生体細胞材料(31)が浮遊状態及び/又は担体ビーズ上に配置される浮遊空間(34)を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項6】
前記生体細胞材料(31)が、
外因性生体細胞材料、
前記対象(2)由来の内因性生体細胞材料、
細胞等価iPS細胞及び/又はiPS細胞構成要素、
臓器等価分化iPS細胞及び/又はiPS細胞構成要素、
臓器等価分化成体幹細胞、
前記血液(1)中で免疫応答を引き起こす生体細胞及び/又は細胞構成要素、
前記対象(2)への同種移植のために提供される外因性細胞及び/又は外因性細胞の構成要素、
前記対象(2)の所定の参照群からの特徴的なHL抗原を有する異なる細胞型を含む細胞材料の組成物、及び
外部から及び/又は時間依存的に刺激され得る、例えば光又は活性物質によって誘導され得る細胞死を受けるように遺伝子改変された細胞、
のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項7】
前記交換装置(20)は、
前記交換装置(20)が、前記内部(11)と流体接続し、且つ互いに離隔して配置された入口ライン(21)及び出口ライン(22)を有する特徴、
前記交換装置(20)に、前記対象(2)の血液循環に直接接続するように設計されたカニューレが設けられている特徴、及び
前記交換装置(20)に、前記容器(10)の中又は外への血液輸送のために配置されたポンプ(23)が設けられている特徴、
のうちの少なくとも1つの特徴を備える、
請求項1~6のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項8】
前記生体細胞材料(31)を前記容器(10)内に保持するように構成された保持装置(40)を備える、
請求項1~7のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項9】
前記保持装置(40)が、機械的又は化学的に作用するフィルタを有する、
請求項8に記載の治療装置。
【請求項10】
前記保持装置(40)が前記交換装置(20)の一部である、
請求項8又は9に記載の治療装置。
【請求項11】
前記容器(10)の前記内部で前記血液試料(1)を移動させるように設計された対流装置(50)
を備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項12】
前記対流装置(50)が、前記容器(10)が結合される、前記内部空間(11)の撹拌機構及び/又は傾斜機構を備える、
請求項11に記載の治療装置。
【請求項13】
前記容器(10)が可撓性の容器壁を有し、前記対流装置(50)が前記容器(10)を変形させる変形装置を備える、
請求項11又は12に記載の治療装置。
【請求項14】
交換装置(20)と、生体細胞材料(31)を有する細胞曝露装置(30)とをそれぞれ有する複数の容器(10)を備え、
前記容器(10)が異なる種類の生体材料を含む、
請求項1~13のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項15】
免疫寛容の発生を促進する活性物質、
少なくとも1つの抗凝固物質、及び/又は
免疫寛容増強作用を有する及び/又は免疫寛容を誘導する補助機能を有する活性物質、
を含む、
請求項1~14のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項16】
前記生体細胞材料(31)に結合された前記血液試料(1)からの物質を検出するように設計された測定装置(60)、及び/又は
前記生体細胞材料(31)に結合された前記血液試料(1)から物質、特に抗体を収集するように設計された収集装置(70)、
を備える、
請求項1~15のいずれか一項に記載の治療装置。
【請求項17】
前記内部空間(11)の端面は、無菌封止壁(12)で閉じられており、
前記入口ライン(21)及び前記出口ライン(22)は、それぞれ、前記内部空間(11)の対向する前記端面に配置され、前記無菌封止壁(12)を貫通することを特徴とする請求項に記載の治療装置。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの治療装置を含む、体外血液治療用キット。
【請求項19】
対象の免疫寛容増強のために前記対象(2)からの血液の体外血液治療用の請求項1~17のいずれか一項に記載の治療装置(100)を動作させるための方法であって、前記方法が、
前記対象(2)からの血液の治療される血液試料(1)を供給リザーバ内に提供するステップと、
前記血液試料(1)を前記供給リザーバから前記治療装置(100)の前記容器(10)に導入するステップと、
治療される前記血液試料(1)が前記対象(2)の免疫寛容の増強をもたらすのに適するように、前記内因性免疫細胞と前記提示された細胞材料(31)の前記表面分子との反応を含む相互作用によって前記血液試料(1)を処理するステップと、
前記容器(10)から収集リザーバ内に前記血液試料(1)を排出するステップと、
を含み、
前記血液試料(1)を排出するステップは、前記対象(2)が存在することなく血液治療を実施するステップである
方法。
【請求項20】
前記血液試料(1)が、前記治療中に前記治療装置(100)内で移動される、
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記対象(2)の所与又は達成された免疫寛容に応じて、前記治療装置(100)内の前記生体細胞材料(31)の量及び/又は濃度を調整するステップを含む、
請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記治療装置(100)、特に、前記生体細胞材料(31)を有する前記細胞曝露装置(30)が、凍結状態で提供され、前記血液試料が前記治療装置(100)の前記容器(10)に導入される前に解凍される、
請求項1921のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の免疫寛容増強のために対象からの血液の体外血液治療用に設計された治療装置、体外血液治療用のキット、及び体外血液治療による免疫寛容増強のための方法に関する。本発明は、医学及び生化学、特に外因性若しくは内因性インプラントに対する生物の免疫寛容の増強又は自己免疫障害における用途を有する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、本発明の技術的背景を説明する以下の先行技術が参照される。
【0003】
[1]M.Zouali“lmmunological Tolerance:Mechanisms”,in:Encyclopedia of Life Sciences.John Wiley&Sons,Ltd,Chichester.2001、
[2]E.Shaban et al.in“Kidney Dis.”4,205-213,2018、
[3]独国特許出願公開第102017210134号明細書、及び
[4]米国特許第4685900号明細書。
【0004】
外因性又はさらには内因性物質(抗原)に対する生物の免疫系の応答としての免疫反応(免疫応答)の発生は、一般的に知られている。抗原に対する免疫応答の欠如又は低下は、免疫寛容(例えば、[1]参照)と呼ばれる。免疫応答が生物に損傷を引き起こす場合、通常、薬物及び/又は放射線照射を用いて免疫抑制治療(免疫抑制)が行われる。これは、例えば、同種移植、特に臓器移植後の拒絶反応を防ぐことを意図している。しかしながら、副作用のために、免疫抑制治療は、治療される生物にとって深刻な欠点、例えば、制御が困難な感染症のリスクの増加、癌に罹患するリスクの増加、及び生活の質の全般的な悪化を有する。
【0005】
したがって、免疫抑制治療を回避又は低減することに関心がある。この目的のために、今日まで、同種移植の前に、ドナー材料に含有される抗原に起因して、レシピエントの免疫系に適合するドナー材料が求められており、これは、より少ない又は全くない免疫応答が予想されることを意味する。しかしながら、この種の探索には、利用可能なドナー臓器の数が少ないため、又は自己免疫障害の発生のために、免疫抑制を最小限に抑える試みにおいて限られた成功しかない。
【0006】
癌における免疫療法の使用も知られている。体外免疫調節では、血液が疾患生物から採取され、治療中に体外で改変される。治療中、血液中のT細胞は、癌細胞を攻撃する能力が増加するように改変される。治療された血液を生物に戻した後、癌細胞に対する免疫系の感受性が増加し、したがって、癌に対する身体自体の防御が強化される。免疫調節は、免疫応答を増強することによって癌治療において有望であることが証明されている。しかしながら、免疫調節は、例えば移植において、免疫応答を抑制するため又は免疫寛容を高めるためには適していない。
【0007】
同種移植後に免疫応答が経時的に低下し、その結果、進行が好都合であれば免疫抑制治療を終了することができることが移植医療から知られている。さらに、高い抗原濃度が高い免疫寛容の発生に有利に作用し[1]、活性物質、例えば活性物質ラパマイシン[2]が、免疫寛容の発生を促進することができることが知られている。
【0008】
アレルギーを治療するための特定の免疫療法(減感作)を実施することも知られており、免疫寛容を高めるために外因性アレルゲンが疾患生物に与えられる。しかしながら、そのような免疫療法は、特に生物へのアレルゲンの導入に起因して、副作用のリスクが高いという欠点を有する。
【0009】
吸着装置及び/又は血漿セパレータ、透析装置及びガス交換装置を含む3つの血液治療装置による体外血液治療のためのシステムは、[3]により知られている。吸着装置は、例えば抗体の吸着用に設計され得る。このシステムの用途は、血液透析のための他の技術と同様に、例えば代謝障害における血液の改質に限定される。[4]もまた、生理活性物質を与えられたバイオポリマーが血液から疾患成分を除去する、体外血液治療のためのシステムを記載する。免疫寛容の増強は、[3]又は[4]に記載のシステムでは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国特許出願公開第102017210134号明細書
【文献】米国特許第4685900号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】M.Zouali“lmmunological Tolerance:Mechanisms”,in:Encyclopedia of Life Sciences.John Wiley&Sons,Ltd,Chichester.2001
【文献】E.Shaban et al.in“Kidney Dis.”4,205-213,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、体外血液治療のための改善された治療装置、体外血液治療のための改善されたキット、及び/又は体外血液治療のための改善された方法を提供することであり、これらの装置、キット及び方法によって、従来の技術の欠点が回避され、特に、対象の免疫寛容の増強、血液治療における副作用の低減又は排除、拒絶反応のリスクの低減、及び/又は自己免疫疾患の穏やかな治療を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、これらの目的はそれぞれ、独立請求項の特徴を有する体外血液治療のための治療装置、体外血液治療のためのキット、及び体外血液治療のための方法によって達成される。本発明の有利な実施形態及び用途は、従属請求項から生じる。
【0014】
本発明の第1の一般的な態様によれば、上記の目的は、対象の免疫寛容増強のために対象からの血液の体外血液治療用に設計された治療装置によって達成される。体外血液治療は、対象の身体(生体)の外側にある治療装置内における対象からの血液の血液試料の変化である。対象は、ヒト生物(特に患者、移植レシピエント)又は例えば動物試験で細胞療法を評価するための動物生物(哺乳類生物体)であり得る。治療装置は、剛性及び/又は可撓性の容器壁を有する少なくとも1つの容器(カートリッジとも呼ばれる)を備え、容器は、対象から血液試料を受け取るための内部空間(反応室とも呼ばれる)を有する。内部空間は、例えば1mL~1Lの範囲の容積を有する。容器は、一般的に、外側に対して閉鎖され得る、特に無菌的に閉鎖され得る容器であり、体外治療中に血液試料が静止又は移動するように配置される。容器には、生物との血液交換のために血液試料を容器の内部空間に供給する及び/又は容器の内部空間から排出するように設計された交換装置が更に設けられる。生物との血液交換は、治療装置が対象の血液循環に直接接続される直接交換、又は治療装置が別個の供給及び/又は収集リザーバに接続される間接交換であり得る。
【0015】
本発明によれば、治療装置は細胞曝露装置を有する。細胞曝露装置は、血液試料が内部空間の生体細胞材料と物質的に相互作用することができるように、容器の内部空間に向かって露出した様式で容器内に配置された生体細胞材料を有する。細胞曝露装置は、容器内に配置され、すなわち、容器壁内に配置されるか又は容器壁の1つに一体化される。生体細胞材料は、内部空間から少なくとも局所的に空間的に区切られた細胞材料領域内に局所的に制限された方法で細胞曝露装置と共に配置される。細胞曝露装置は、血液が細胞材料又はその表面分子、例えばその抗原に接触し、特に、細胞材料の細胞が内部空間に入り込むことなく、血球が細胞材料又は細胞材料の表面分子の表面に接触するように構成される。血液と細胞材料との間の物質的な相互作用は、内部空間と細胞材料領域との間の界面での相互接触によって、又は細胞材料の表面分子の内部空間への進入によって起こる。
【0016】
細胞曝露装置は、内部空間で血液試料が曝露される細胞材料への曝露を提供する。有利には、血液試料-細胞材料相互作用、特に、免疫調節を引き起こすが体外治療によって対象に直接作用しない、血液試料中の内因性免疫細胞と提示された細胞材料の表面抗原との反応が起こる。血液は、体外の細胞材料(特に細胞材料の抗原)に適合し(適応免疫応答)、結果として、増強された免疫寛容を得る。治療された血液を対象に戻すことによって、免疫寛容の増強が対象に移される。対象の免疫寛容は、治療された血液試料によって、及び/又は治療された血液試料、特に、治療によって活性化されたT細胞と対象の免疫系との(例えば、リンパ節における)相互作用によって直接確立される。対象の血液の単回又は複数回の治療は、対象の免疫寛容を増加させ、結果として、拒絶反応のより低いリスク又はリスクなしで移植が実施され得るか、又は自己免疫障害が緩和又は治療され得る。
【0017】
治療装置は、好ましくは、1人の対象に1回以上独占的に使用され得て、使用後に処分され得る使い捨て物品である。
【0018】
本発明の第2の一般的な態様によれば、上記の目的は、本発明の第1の一般的な態様に係る少なくとも1つの治療装置を含む体外血液治療用キットによって達成され、交換装置は、治療場所、例えば医師の手術室又は診療所で直接使用するように構成される。この目的のために、交換装置は、好ましくは、少なくとも1つのチューブ及び少なくとも1つの滅菌注射針を有する。少なくとも1つの治療装置又は少なくとも1つの治療装置の少なくとも細胞曝露装置は、体外血液治療用キットにおいて凍結状態で提供され得る。治療装置、特に生体細胞材料を有する細胞曝露装置が凍結状態で提供される場合、治療装置は、血液試料が容器に導入される前に解凍される。
【0019】
本発明の第3の一般的な態様によれば、上記の目的は、本発明の第1の一般的な態様に係る治療装置を動作させる方法によって達成される。対象からの血液の治療される血液試料が提供され、治療装置の容器に加えられる。容器内の血液試料は、血液試料、特に血液試料の免疫細胞と生体細胞材料との相互作用によって治療される。治療時間は、好ましくは5分~8時間の範囲で選択される。治療後、治療された血液試料は、免疫寛容の増強、すなわち細胞材料に対する免疫応答の低下を特徴とする。続いて、血液試料は容器から取り出される。
【0020】
「血液試料」という用語は、血液循環からの取り出し及び場合によりリザーバ内の中間貯蔵によって提供されるような、対象からの所定量の血液、又は対象の血液からの細胞成分、特に免疫細胞の懸濁液に関する。後者の場合、懸濁液は、例えば血液を血液循環から取り出した後、血液を分離し、免疫応答に影響を及ぼさない成分、例えば血漿又は他の成分を除去することによって得られ得る。免疫寛容を増強するために、1mL~1Lの範囲の総量を有する血液試料が治療されることが好ましい。
【0021】
本発明は、以下の実質的な利点を提供する。初めて、対象、特に移植レシピエントの自己調節のみを使用して血液を介して免疫寛容が誘導される。通常の免疫療法、例えばアレルギーに対する減感作とは対照的に、本発明によれば、血液-細胞材料相互作用は、体外の治療装置内、特に容器内で起こる。さらに、免疫寛容を促進するための通常の治療アプローチとは対照的に、ウイルスベクターは対象に(直接的又は間接的に)導入されない。外因性物質は対象の体内に戻されず、又はその極めて少量のみが戻され、したがって重篤な副作用、例えばアナフィラキシーショックは除外される。
【0022】
有利には、移植レシピエント(対象)における免疫応答及び免疫寛容の媒介の標的化された減少が起こる。ここで、生物学的な、例えば外因性細胞材料(例えば、細胞、細胞構成要素、細胞混合物、組織又は全臓器)に対する免疫応答は、対象からの1つ以上の血液試料を例えば外因性細胞材料に単回又は反復的に曝露することによって低下する。外因性物質に対する免疫応答はレシピエントにおいて劇的な免疫応答を引き起こすことが多いので、血液中に見出される免疫系の部分は、治療装置内で外因性生体材料に曝露され、対象では曝露されない。
【0023】
細胞材料に対する対象の免疫応答を低下させるための方法は、好ましくは以下のステップを含む。第1に、血液は、好ましくは外因性細胞材料の移植前に、対象から繰り返し採取され、この血液は治療装置に移される。治療装置では、移植されるべき外因性生体材料の成分、又は移植されるべき材料/組織/臓器/ドナーに由来するか若しくはそれらを模倣した外因性生体材料自体が、内部空間に隣接して配置される。たとえば、この材料は、幹細胞(例えば、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞)又は幹細胞に由来する細胞から生成され得る。したがって、レシピエントは、実際の移植の前でさえも移植に免疫学的に慣れ得る。
【0024】
血液試料が容器の内部空間でインキュベートされる間、血液の免疫担当成分は、細胞材料の提示された抗原に反応する。外因性細胞材料の量は、ここでは、用途又は対象の免疫応答に適合され得る。したがって、容器内で局所的に高い抗原濃度が達せられ得、これは免疫寛容の発生を促進するのに特に役立つと考えられる([1]参照)。しかしながら、容器内に収容されている外因性細胞材料が少ないことによって、低い抗原濃度も生成され得る。免疫寛容を発生させるための治療の状況では、異なる量の外因性細胞材料を有する複数の容器を使用することも可能である。
【0025】
インキュベーション後、血液試料は、場合により処理後に対象に戻され、このプロセスステップでは、血液試料の免疫担当成分も対象に戻される。したがって、免疫担当成分(T細胞及びB細胞、制御性T細胞、メモリーT細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞及び樹状細胞)の記憶機能及び調節効果は、身体に戻され、当該身体で対象の免疫系と相互作用し得る、及び/又は対象の免疫寛容に影響を及ぼし得る。
【0026】
したがって、繰り返される曝露及び患者への返還は免疫調節効果を誘導し、これは移植前であっても免疫寛容を有利にもたらす。免疫応答は対象の体外で起こるがドナー由来の生体細胞材料を用いて行われ得ることが特に有利である。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、細胞曝露装置は、生体細胞材料が内部空間から分離される分離層を有する場合、細胞材料又は細胞小器官、膜断片などの細胞材料のより大きな構成要素の血液試料への進入を防止する点で利点をもたらし得る。特に好ましくは半透膜又は半透性の格子を含む分離層によって、生体細胞材料は細胞曝露装置上に保持され、分離層は生体細胞材料と血液試料との間の物質交換に適合される。
【0028】
本発明の好ましい変形例(以下、第1の実施形態)によれば、細胞曝露装置は、生体細胞材料が接着状態で配置される支持体(基板)を有する。有利には、支持体に結合した細胞材料は、例えば別個のインキュベータ内で細胞曝露装置を準備するとき、及び/又は容器内に配置するときに取り扱いが容易である。さらなる利点は、内部空間から空間的に区切られた細胞材料領域が、支持体上の細胞材料の表面又は支持体に結合した細胞材料上の分離層の表面によって形成されるような、細胞材料の固有の付着にある。細胞材料を有する支持体は、容器の内部空間に直接配置され得る。たとえばヒドロゲル、プラスチック、ガラス又はセラミックなどの材料、例えば弾性、表面構造化、密集、多孔質及び/又は繊維状などの構造、並びに支持体の形状は、複数の変形形態から選択され得る。たとえば、より多くの生物学的な細胞材料を提示するために、内部空間を変形させ、したがって細胞材料に対する血液試料を移動させるために、及び/又は例えば折り畳みにより表面積を拡大させるために、可撓性の支持体が構成され得る。さらに、支持体は、容器の内部空間に細胞材料の大きな内部表面積が提供され得るように、各々が細胞材料を担持し、互いに離隔して配置される複数の部分基板を含むことができる。さらに、支持体は、細胞材料を担持する内面と、多孔質材料を通って内部空間に血液試料が自由に流れることを可能にする多孔性とを有する多孔質材料を含むことができる。この場合、任意に設けられる分離層は、多孔質材料の外表面にのみ配置されてもよい。
【0029】
有利には、支持体は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞及び/又はそれらから分化した細胞の接着結合を促進する結合層を備えることができる。結合層は、支持体への細胞材料の付着を改善するという利点をもたらす。特に、結合層を設ける場合、細胞曝露装置の任意に設けられる分離層を省くことが可能である。
【0030】
本発明の代替的な変形例(以下、第2の実施形態)によれば、細胞曝露装置は、支持体に代えて、又は支持体に加えて、内部空間から分離された浮遊空間を有し、当該浮遊空間の中に生体細胞材料が浮遊状態で及び/又はキャリアビーズ(キャリアパール、マイクロキャリア)上に配置される。細胞曝露装置の分離層は、好ましくは、内部空間と浮遊空間との間に設けられる。第2の実施形態は、容器の内部空間で細胞材料と血液試料とを同時に分離しながら生体細胞材料を移動させるという利点をもたらす。
【0031】
本発明のさらなる本質的な利点は、複数の生体細胞材料が対象の血液を治療するために利用可能であることである。生体細胞材料は、外因性ドナー由来又は対象自身由来のヒト起源のものであり得る。代替的又は追加的に、生体細胞材料は、例えば、異種移植(動物材料のヒトへの移植、又はその逆)に対する対象の免疫寛容を高めるために、又は特に研究目的で動物対象からの血液を治療するために、動物起源のものであり得る。生体細胞材料は、無傷の細胞及び/又は細胞構成要素、例えば細胞膜を含むことができる。別個に又は組み合わせて提供され得るさらなる代替的な変形例によれば、生体細胞材料は、外因性生体細胞材料、対象由来の内因性生体細胞材料、細胞等価iPS細胞及び/又はiPS細胞構成要素、臓器等価分化iPS細胞及び/又はiPS細胞構成要素、臓器等価分化成体幹細胞又は臓器等価分化成体幹細胞の細胞構成要素、血液、外因性細胞又は臓器部分、例えば対象への同種移植のために提供されるような組織において抗原抗体応答を引き起こす生体細胞及び/又は細胞構成要素及び/又はその成分、所定の参照対象群、特に集団群からの特徴的なHL抗原を有する様々な細胞型を含む細胞材料の組成物、並びに外部から及び/又は時間依存的様式で刺激され得る、例えば光又は活性物質によって誘導され得る細胞死を受けるように遺伝子改変されている細胞を含むことができる。代替的又は追加的に、細胞材料は、免疫寛容増強効果を有するか、又は免疫寛容を誘導する補助機能を有する活性物質を含むことができる。たとえば、血液の応答の強化、特定の血液成分の滞留時間の延長、特定の血液成分の強化、免疫寛容の延長、血液凝固の阻害、免疫寛容の強化及び/又は調節された血液を戻した後の免疫寛容の媒介(下流強化)が提供され得る。細胞材料は、特にタンパク質、生物学的に活性な物質、例えばラパマイシン、RNA、DNA及び/又はウイルスを含むことができる。
【0032】
細胞等価iPS細胞及び/又はiPS細胞構成要素(すなわち、iPS細胞が得られた細胞と同じ抗原を有するiPS細胞又はiPS細胞構成要素)、臓器等価分化iPS細胞及び/又は細胞構成要素(すなわち、iPS細胞が得られた臓器と同じ抗原を有する分化したiPS細胞又はiPS細胞構成要素)及び/又は臓器等価分化成体幹細胞又は細胞構成要素(すなわち、成体幹細胞が得られた細胞と同じ抗原を有する分化した成体幹細胞又は対応する細胞構成要素)を使用することは、これらがドナー生物の対応する細胞又は臓器と同じ抗原を保有し、したがって、容器の内部空間などの区切られた空間内の対象からの血液試料との所望の相互作用に適しているので、特に有利である。
【0033】
本発明によれば、細胞材料が、例えば集団群の特徴的なHL抗原を有する異なる細胞型の組成物を含有する場合、この集団群のドナーからの自由に選択可能な移植に有効である確率がより高い免疫寛容の増強が達成され得る。有利には、これにより、実際に予想されるドナー材料の存在とは無関係に治療を実施することが可能になる。移植の抗原が、異なる細胞型の組成物により正確に見出されない場合でも、免疫寛容の効果的な増強が可能である。
【0034】
外部から及び/又は時間依存的に刺激され得る、例えば光又は活性物質によって誘導され得る細胞死を受けるように遺伝子改変された細胞の使用は、意図せず対象に入る可能性がある任意の細胞材料が、光又は活性物質又は時間の経過によって無効にされ得るという利点を有する。
【0035】
治療装置は更に、自己免疫障害における免疫応答の低下を強制するように設計され得る。この場合、患者からの患部組織は、直接使用されるか、又は人工多能性幹細胞若しくは成体幹細胞から産生され、容器の内部空間に運ばれる。続いて、血液を少なくとも1回、好ましくは数回採取し、それぞれの場合に採取後に治療装置で治療し、身体に戻す。
【0036】
本発明のさらなる特定の利点は、治療装置内の生体細胞材料の量及び/又は濃度が、対象の所与の又は達成された免疫寛容に応じて調整され得ることである。細胞曝露装置には、対象の免疫寛容の増強が最適化されるように、生体細胞材料が装填される。
【0037】
本発明の更に有利な実施形態によれば、交換装置は、内部空間と流体接続し且つ互いに離隔して配置された入口ライン及び出口ラインを有する。これにより、容器を有利には貫流システムとして構成することができる。特に好ましくは、入口ライン及び出口ラインは、容器の互いに反対側に配置される。特に好ましくは、入口ライン及び出口ラインはそれぞれ遮断要素、例えば弁を有する。代替的又は追加的に、交換装置には、対象の血液循環に直接接続するように設計されたカニューレが設けられ得る。これは、有利には、対象の身体に直接接続して血液治療を容易にする。代替的又は追加的に、交換装置には、容器に血液を出し入れするように構成されたポンプが設けられ得る。これは、血液試料の移動を有利に支援する。
【0038】
本発明の更に好ましい実施形態によれば、治療装置には、容器内に外因性生体細胞材料を保持するように構成された保持装置が設けられる。保持装置は、細胞曝露装置によって意図せずに内部空間に運ばれた可能性がある生体細胞材料の一部が対象に輸送されることを最小限又は完全に排除するという利点をもたらす。特に好ましくは、保持装置は、機械的作用フィルタ(細胞材料の細胞に対して排他的に不透過性であるフィルタ材料)又は化学的作用フィルタ(細胞材料が排他的に特異的に結合する表面)を有する。有利には、保持装置は交換装置の一部であり得て、例えば交換装置の出口側に配置され得る。
【0039】
本発明の更に有利な実施形態によれば、治療装置は、容器の内部空間で血液試料を移動させるように設計された対流装置を有する。好ましくは、血液試料は、処置中に治療装置内で移動される。対流装置は、血液試料を移動させることによって、血液試料と生体細胞材料との物質的な相互作用の有効性を高めるという利点をもたらす。対流装置は、例えば、容器が結合される、内部空間の撹拌機構及び/又は傾斜機構を備えることができる。容器が少なくとも1つの可撓性の容器壁を有する場合、対流装置は、代替的に又は追加的に、容器が外側から変形される変形装置を備えることができる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態によれば、治療装置が、交換装置と、生体細胞材料を有する細胞曝露装置とをそれぞれ有する複数の容器を含む場合、免疫寛容増強の有効性は有利に増大され得る。特に好ましくは、容器は、免疫寛容の広範な増強、すなわち異なる抗原に対する免疫寛容の同時増強が達成されるように、異なる種類の生体材料を含む。
【0041】
本発明のさらなる利点は、治療装置が、特に制御性T細胞を促進することによって、又はmTOR系に作用することによって、免疫寛容の発生を促進する活性物質を含む場合、且つ/或いは少なくとも1つの抗凝固物質及び/又は免疫寛容増強作用を有する及び/又は免疫寛容を誘導する補助機能を有する活性物質を含む場合に生じ得る。たとえば、血液中の内因性免疫細胞の応答を強化し、特定の血液成分の滞留時間を延長し、所定の血液成分を強化し、免疫寛容を延長し、血液凝固を阻害し、免疫寛容を増強し、及び/又は調節された血液を戻した後に免疫寛容をもたらす(下流強化)活性物質が提供され得る。
【0042】
本発明の更に好ましい変形例によれば、治療装置には、生体細胞材料に結合された血液由来の物質、特に抗体を検出するように設計された測定装置が設けられ得る。有利には、治療装置は、分析又は診断目的で使用され得る。たとえば、外因性又は内因性の生体細胞材料に結合したIgG抗体の量が測定され得る。ここで、慣用的な免疫学的アッセイ(例えば、免疫クロマトグラフィーアッセイ、ELISA)とは対照的に、選択的に選択された抗体結合部位は提示されず、むしろ複数の可能な結合部位が提示される。これにより、広範囲の分析又は自己免疫疾患の早期発見が可能になる。
【0043】
代替的又は追加的に、治療装置には、生体細胞材料に結合された物質、特に抗体を血液試料から収集するように設計された収集装置が設けられ得る。有利には、これにより、治療装置を使用してレシピエントの血液において特定の選択プロセスを実行することが可能になる。ここで、外因性細胞材料に結合した成分又は血液中に含まれる非結合成分のいずれかが回収され、更に処理される。
【0044】
有利には、治療装置内で治療される血液を提供するための異なる変形形態がある。第1に、特に対象の自己血の提供に基づいて治療される血液試料は、供給リザーバ、特にバッグ内に提供され、及び/又は収集リザーバ、特にバッグ内に排出される。有利には、これにより、対象が存在することなく血液治療を実施することが可能になる。たとえば、レシピエントは、計画された移植の数週間又は数ヶ月前であっても複数回血液を提供することができ、当該血液から本発明に係る治療のために血液試料が得られる。治療装置による治療は、免疫寛容の所望の増強が達成されるまで、検査室、診療所/治療センターそれぞれにおいて行われる。移植前に免疫寛容を与えるために、治療された血液はレシピエントに戻される。
【0045】
第2に、治療装置は、対象の血液循環に接続され得て、治療される血液は治療装置に流入し、当該治療装置から血液循環に戻り得る。対象の血液循環への接続は、交換装置の少なくとも1つのラインの、それぞれのラインのカニューレを介した血管への直接の接続、及び/又は交換装置の少なくとも1つのラインの、血管に手前に存在する流体コネクタ、例えばカニューレ、カテーテル又はポートへの接続を含むことができる。
【0046】
本発明のさらなる詳細及び利点は、添付の図面を参照して以下に説明される。図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明に係る治療装置の一実施形態の概略図である。
図2】本発明に係る治療装置のさらなる実施形態の特徴を示す図である。
図3】本発明に係る治療装置のさらなる実施形態の特徴を示す図である。
図4】本発明に係る治療装置のさらなる実施形態の特徴を示す図である。
図5】体外血液治療のための本発明に係る方法の実施形態の特徴を示す図である。
図6】体外血液治療のための本発明に係る方法の実施形態の特徴を示す図である。
図7】本発明に係る治療装置のさらなる実施形態の特徴の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の実施形態は、治療装置の構造及びその用途を参照して以下に説明される。細胞材料の調製、例えば、iPS細胞又は成体幹細胞の作製及び任意選択の分化の詳細は、それら自体公知であるため説明されない。一例として、円筒状容器と、一方の側の内部空間に隣接する細胞曝露装置とを有する治療装置が参照される。本発明の実施態様は、この実施形態に限定されず、ひいては他の容器形状及び異なる構成の細胞曝露装置に対応して可能である。
【0049】
図1は、血液試料1を受け入れるための内部空間11及び交換装置20を有する円筒状容器10と、生体細胞材料31を有する細胞曝露装置30と、保持装置40とを備える治療装置100の一実施形態を概略的に示す。内部空間11の端面は、無菌封止壁12で閉じられている。交換装置20は、入口ライン21及び出口ライン22(それぞれの一部のみが示されており、図5及び図6も参照)を備え、これらのラインは、内部空間11の対向する端面に配置され、封止壁12を貫通する。入口ライン及び出口ラインはそれぞれ、例えば血液試料1の処理中に内部空間11を周囲から分離するための閉鎖可能な弁(図示せず)を含む。内部空間11は、例えば100mLの容積を有する。
【0050】
細胞曝露装置30は、固体支持体32に接着結合して配置された生体細胞材料31を含む。生体細胞材料31は、例えば腎臓移植前の血液試料1の処理において、ドナー組織から作製され、且つ分化して腎臓組織を与える分化iPS細胞を含む。図示の例では、生体細胞材料31は、内部空間11の血液試料1が生体細胞材料31に直接接触するように自由表面を有する(図2にある図1の拡大図B参照)。
【0051】
保持装置40は、出口ライン22に取り付けられ且つ治療装置100内の細胞材料31の化学的及び/又は機械的に意図せずに放出された部分を保持するフィルタを備える。
【0052】
容器10は、入口ライン11などの少なくとも1つの入口を介して対象からの血液試料1で充填される容積を形成する(矢印A参照)。図示されるように、容器10は、円筒状に、又は他の何らかの形状、例えば直方体若しくはプリズム形状に成形され得る。内部空間11内で、外因性細胞材料の存在下で、例えば4時間にわたって血液試料1をインキュベートした後、血液試料1は、上述の入口又は出口ライン22などの第2の入口のいずれかを介して取り出される。図1の描写の代わりに、治療装置100をカニューレに直接接続し、カニューレを介して血液を容器に直接移し、再び対象に戻すことが可能である。これは、汚染のリスクを有利に低減する。
【0053】
外因性生体細胞材料31は、支持材料32上の容器10内に配置され、当該細胞材料は、好ましくは結合可能性を有し、血液試料1中の免疫系成分(例えば、T細胞及びB細胞)に当該結合可能性を提示する。外因性細胞材料31は、当該細胞材料の上にある分離層33、例えば膜又はフレーム構造によって機械的に安定化され得る(図3参照)。支持材料32は、ポリマー、バイオポリマー及び/又はヒドロゲルを含む。さらに、血液凝固のリスクを低減するために、抗凝固剤が支持材料32及び/又は内部空間11に導入され得る。さらに、活性物質、例えば活性物質ラパマイシン([2]参照)の免疫寛容の発生を促進する活性物質が支持材料32及び/又は内部空間11に配置され得る。
【0054】
治療装置100は、医療機関(医師の手術室、病院、検査室)において現場で使用されることが意図されているため、容器10全体は凍結され(例えば-130℃以下)、保存され得る。その後、治療装置100が使用されることが意図される場合、解凍は、特定の期間にわたって行われてもよく、そうでなければ、細胞は、対象からの温かい血液試料1で直接解凍される。あるいは、外因性細胞材料31を含む支持材料32のみが、凍結状態で別々に保存され得る。この場合、外因性細胞材料31を含む支持材料32は、使用直前に解凍されて容器10内に移されるか、又は容器10内で直接解凍される。
【0055】
図3及び図4は、(図1のセクションBに対応する)細胞曝露装置30の代替構成を示す。これらの実施形態では、生体細胞材料31を内部空間11から分離する分離層33が設けられる。ここで、生体細胞材料31は、支持体32に確実に取り付けられ得るか(図3参照)、又は支持体なしで浮遊空間34に浮遊して配置され得る(図4参照)。分離層33は、細胞材料31の細胞及び細胞膜断片などの当該細胞の細胞構成要素に対して不透過性であるが、抗原分子に対しては透過性である。分離層33は、例えばポリマー及び/又はヒドロゲルを含む。
【0056】
図5は、治療装置100が対象2の血液循環とより連続的に連結される第1の方法の変形例を示す。血液の流れは、血圧の作用下で、任意選択的に重力及び/又はポンプ(図7参照)によって補助されて流れ、対象から直接治療装置100に入り、前記治療装置から対象2に戻る。ここで、測定装置60が出口ラインに設けられ得て、それによって、流れる血液において達成される免疫寛容が定量的に把握される。たとえば、外因性細胞材料に対して作用する(主要組織適合性複合体に対する)抗体は、対象の血液中で測定され得る。標本抽出測定の場合、例えば、ELISpot測定が使用され得る。測定結果に応じて、免疫耐性を更に高めるために、血液は再び治療装置100に戻され得る(破線矢印参照)。
【0057】
代替的又は追加的に、治療装置100、特に治療装置100の中の生体細胞材料は、免疫応答を評価するためにも使用され得る。この場合、治療装置100内の接着性細胞は、血液反応後に分析される。この目的のために、接着細胞の低下した生存率が免疫応答で測定され得る。さらに、細胞に結合した抗体が検出及び定量され得る(例えば、動物抗体に指向するヒト抗体によって)。
【0058】
図6は、第1のステップ(図6A参照)において治療装置100に血液試料が装填される、第2の方法変形例を示す。血液試料は、図5のように対象から直接採取されるか、又は血液の提供によって供給リザーバ(図示せず)に加えられ、供給リザーバから治療装置100に移される。続いて、血液試料は、治療装置100内で(対象2に接続せずに)インキュベートされる(図6B参照)。血液試料の処理後、血液は対象2に戻される(図6C参照)。この場合も、免疫応答を評価するための測定が血液及び/又は細胞材料に行われ得る。
【0059】
図7は、個別に又は組み合わせて提供され得る治療装置100のさらなる構成要素を示す。治療装置100は、図1に示されるとおりである。さらに、ポンプ23が設けられ、それによって容器10を通る血流が補助される。さらに、例えば測定及び/又は監視目的のための、概略的に示された閉鎖可能なアクセス開口部13が、容器壁に設けられ得る。
【0060】
概略的に示された対流装置50は、例えば、傾斜及び/又は変形機構を備え、それによって、容器10の内部空間11で血液試料1を移動させるために、容器10は移動及び/又は変形され得る。代替的又は追加的に、マグネチックスターラー(図示せず)が内部空間に設けられ得る。
【0061】
図7は更に、生体細胞材料31に結合された血液試料1由来の物質、特に抗体(図5参照)を検出するように設計された測定装置60と、生体細胞材料31に結合された血液試料1由来の物質、特に抗体、又は血液中に存在する非結合成分を収集するように設計された収集装置70とを概略的に示す。
【0062】
上記の説明、図面、及び特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、個別に、又は組み合わせて、又は部分的に組み合わせて、本発明の様々な構成の実施に関連し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7