IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コロン ティシュージーン,インコーポレイテッドの特許一覧

特許7529686軟骨細胞およびTGF-βを用いた軟骨再生
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】軟骨細胞およびTGF-βを用いた軟骨再生
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/22 20150101AFI20240730BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240730BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20240730BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20240730BHJP
   A61K 48/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
A61K35/22
A61K35/36
A61P19/02
A61K35/32
A61K38/18
A61K35/76
A61K48/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021560199
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 US2020025684
(87)【国際公開番号】W WO2020205717
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】62/826,639
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521439110
【氏名又は名称】コロン ティシュージーン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ノー,ムーン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】イー,ヨンスク
(72)【発明者】
【氏名】ソン,サン,ウク
(72)【発明者】
【氏名】リー,ドゥグ,クン
(72)【発明者】
【氏名】リー,クワン,ヒー
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-519698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)タンパク質のトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバー;
b)前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードするベクターを含有する培養哺乳動物細胞の集団であって、前記哺乳動物細胞が、ヒト胎児腎臓細胞または上皮細胞である、培養哺乳動物細胞の集団;および
)医薬的に許容できる担体、
を含む、骨関節炎を処置するのに使用するための組成物であって、
関節内注射により前記組成物を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移入することで、結合組織の再生をもたらす、組成物
【請求項2】
前記哺乳動物細胞が、ウイルスベクターを含有する、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクターである、請求項2に記載の組成物
【請求項4】
前記ベクターが、プラスミドベクターである、請求項1に記載の組成物
【請求項5】
前記哺乳動物細胞が、同種異系または自家細胞である、請求項に記載の組成物
【請求項6】
前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーが、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-6、BMP-7、またはBMP-9である、請求項1に記載の組成物
【請求項7】
a)タンパク質のトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバー;
b)前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードするベクターを含有する培養哺乳動物細胞の集団であって、前記哺乳動物細胞が、ヒト胎児腎臓細胞または上皮細胞である、培養哺乳動物細胞の集団;および
)医薬的に許容できる担体、
を含む、硝子軟骨を再生するのに使用するための組成物であって、
関節内注射により前記組成物を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移入することで、結合組織の再生をもたらす、組成物
【請求項8】
前記哺乳動物細胞が、ウイルスベクターを含有する、請求項に記載の組成物
【請求項9】
前記ウイルスベクターが、レトロウイルスベクターである、請求項に記載の組成物
【請求項10】
前記ベクターが、プラスミドベクターである、請求項に記載の組成物
【請求項11】
前記哺乳動物細胞が、同種異系または自家細胞である、請求項に記載の組成物
【請求項12】
前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーが、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-6、BMP-7、またはBMP-9である、請求項に記載の組成物
【請求項13】
a)プロモータに動作可能に連結されたタンパク質のトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードするDNA配列を含む組換えウイルスまたはプラスミドベクター;
)前記ベクターでトランスフェクトされた同種異系哺乳動物細胞の集団であって、前記哺乳動物細胞が、ヒト胎児腎臓細胞または上皮細胞である、同種異系哺乳動物細胞の集団;および
)医薬的に許容できる担体、
を含む、硝子軟骨を再生するのに使用するための組成物であって、
関節内注射により前記組成物を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移植することで、前記関節腔内の前記DNA配列の発現が硝子軟骨の再生をもたらす、組成物
【請求項14】
タンパク質の前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーが、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-6、BMP-7、またはBMP-9である、請求項13に記載の組成物
【請求項15】
a)プロモータに動作可能に連結されたタンパク質のトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードするDNA配列を含む組換えウイルスまたはプラスミドベクター;
)前記ベクターでトランスフェクトされた同種異系哺乳動物細胞の集団であって、前記哺乳動物細胞が、ヒト胎児腎臓細胞または上皮細胞である、同種異系哺乳動物細胞の集団;および
)医薬的に許容できる担体、
を含む、骨関節炎を処置するのに使用するための組成物であって、
関節内注射により前記組成物を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移植することで、前記関節腔内の前記DNA配列の発現が硝子軟骨の再生をもたらす、組成物
【請求項16】
タンパク質の前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーが、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-6、BMP-7、またはBMP-9である、請求項15に記載の組成物
【請求項17】
a)タンパク質のトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバー;
b)前記トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードするベクターを含有する培養哺乳動物細胞の集団であって、前記哺乳動物細胞が、ヒト胎児腎臓細胞または上皮細胞である、培養哺乳動物細胞の集団;および
)医薬的に許容できる担体、
を含む、関節における結合組織への傷害を処置するのに使用するための組成物であって、
関節内注射により前記組成物を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移入することで、結合組織の再生をもたらす、組成物
【請求項18】
a)プロモータに動作可能に連結されたタンパク質のトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードするDNA配列を含む組換えウイルスまたはプラスミドベクター;
)前記ベクターでトランスフェクトされた同種異系哺乳動物細胞の集団であって、前記哺乳動物細胞が、ヒト胎児腎臓細胞または上皮細胞である、トランスフェクトされた同種異系哺乳動物細胞の集団;および
)医薬的に許容できる担体、
を含む、関節における結合組織への傷害を処置するのに使用するための組成物であって、
関節内注射により前記組成物を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移植することで、前記関節腔内の前記DNA配列の発現が硝子軟骨の再生をもたらす、組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、哺乳動物宿主の結合組織を再生する際の使用のために、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする少なくとも1種の遺伝子を少なくとも1種の哺乳動物細胞に導入する方法に関する。本発明はまた、哺乳動物宿主の結合組織を再生する際の使用のために、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーの少なくとも1種の遺伝子産物と、少なくとも1種の結合組織細胞と、を導入する方法に関する。本発明はまた、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーをコードする遺伝子を含有するDNAベクター分子を宿す哺乳動物細胞株に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の簡単な記載
整形外科の分野において、変形性関節症または骨関節炎、および運動活動への参加により引き起こされた傷害が、最も頻繁に遭遇する軟骨損傷関連の病気である。骨関節炎に関しては、膝、腰、肩および手首などの体内のほとんど全ての関節が、罹患する。この疾患の病原は、硝子関節軟骨の変性である(Mankin et al., J Bone Joint Surg, 52A:460-466,1982)。関節の硝子軟骨は、変形し、フィブリル化して、最終的に陥凹する。変性した軟骨をどうにかして再生することができれば、ほとんどの患者が、消耗性の痛みを感じることなく生活を楽しむことができるであろう。今日までに、損傷された硝子軟骨を再生するために報告された方法はない。
【0003】
薬物を関節へと運搬するための経口、静脈内または筋肉内投与などの、従来の薬物送達経路は、非効率的である。関節内に注射された薬物の半減期は、一般に短い。薬物の関節内注射の別の欠点は、関節炎などの慢性状態を処置するのに許容できる薬物レベルを関節腔で得るために頻繁な反復注射が必要になる、ということである。これまでの治療薬は、選択的に関節を標的とすることができなかったため、持続的な関節内治療用量を実現するためには、哺乳動物宿主を全身的に高い薬物濃度に暴露することが必要であった。この手法での非標的器官の暴露は、抗関節炎薬が胃腸障害、ならびに哺乳動物宿主の血液系、心臓血管系、肝臓系および腎臓系における変化などの重篤副作用を生じる傾向を増悪させた。
【0004】
整形外科分野では、幾つかのサイトカインが、整形外科疾患の処置候補と見なされてきた。骨形成タンパク質が、骨形成の効果的な刺激因子であると見なされ(Ozkaynak et al., EMBO J, 9:2085-2093, 1990; Sampath and Rueger, Complications in Ortho, 101-107, 1994)、TGF-βが、骨形成および軟骨形成の刺激因子として報告された(Joyce et al., J Cell Biology, 110:2195-2207, 1990)。
【0005】
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)は、多機能性サイトカインであると見なされており(Sporn and Roberts, Nature (London), 332: 217-219, 1988)、細胞の成長、分化および細胞外マトリクスタンパク質合成において調節的役割を担う(Madri et al., J Cell Biology, 106: 1375-1384, 1988)。TGF-βは、インビトロで上皮細胞および破骨細胞様細胞の成長を抑制するが(Chenu et al., Proc Natl Acad Sci, 85: 5683-5687, 1988)、インビボでは軟骨内骨化を、そして最終的には骨形成を刺激する(Critchlow et al., Bone, 521-527, 1995; Lind et al., A Orthop Scand, 64(5): 553-556, 1993;およびMatsumoto et al., In vivo, 8: 215-220, 1994)。TGF-β誘導性骨形成は、最終的に軟骨形成細胞へと分化する骨膜下多能性細胞をTGF-βが刺激することにより媒介される(Joyce et al., J Cell Biology, 110: 2195-2207, 1990;およびMiettinen et al., J Cell Biology, 127-6: 2021-2036, 1994)。
【0006】
整形外科におけるTGF-βの生物学的効果が、報告されている(Andrew et al., Calcif Tissue In. 52: 74-78, 1993; Borque et al., Int J Dev Biol., 37:573-579, 1993; Carrington et al., J Cell Biology, 107:1969-1975, 1988; Lind et al., A Orthop Scand. 64(5):553-556, 1993; Matsumoto et al., In vivo, 8:215-220, 1994)。マウス胚では、染色により、TGF-βが結合組織、軟骨および骨などの間充織に由来する組織と密接に関連することが示される。発生学的知見に加えて、TGF-βは、骨形成および軟骨形成の部位に存在する。TGF-βはまた、ウサギ脛骨の骨折治癒を増進し得る。近年になり、TGF-βの治療的価値が、報告されているが(Critchlow et al., Bone, 521-527, 1995;およびLind et al., A Orthop Scand, 64(5): 553-556,1993)、その短期効果および高コストが、広い臨床応用を制限している。
【0007】
過去には、TGF-βがインビボで不活性形態に分解されるために注射されたTGF-βが短い作用期間を有することから、関節炎の処置のためのTGF-βの関節内注射が望ましくないことが決定された。それゆえ、TGF-βの長期放出のための新しい方法が、硝子軟骨の再生に必要である。
【0008】
軟骨の細胞の自己移植による関節軟骨の再生の報告があったが(Brittberg et al., New Engl J Med 331: 889-895,1994)、この手順は、軟組織の広範囲の切除を含む2つの手術を必然的に伴う。外部のTGF-βタンパク質、または軟骨細胞内部のTGF-βをコードした遺伝子を含有するベクターから製造されたTGF-βタンパク質のどちらかと共に添加された軟骨細胞などの同種異系細胞の関節内注射が、変形性関節炎の処置に充分であれば、患者にとって大きな経済的および身体的利益となろう。
【0009】
特異的タンパク質を特異的部位に移入する方法である遺伝子治療が、この問題の答えになるかもしれない(Wolff and Lederberg, Gene Therapeutics ed. Jon A. Wolff, 3-25, 1994;およびJenks, J Natl Cancer Inst, 89(16): 1182-1184, 1997)。
【0010】
米国特許第5,858,355号および同第5,766,585には、IRAP(インターロイキン-1受容体アンタゴニストタンパク質)遺伝子のウイルス構築物またはプラスミド構築物を作製すること;滑膜細胞(5,858,355号)および骨髄細胞(5,766,585号)に該構築物をトランスフェクトすること;およびトランスフェクト細胞をウサギ関節に注射すること、が開示されているが、TGF-βスーパーファミリーに属する遺伝子を用いて結合組織を再生することの開示はない。
【0011】
米国特許第5,846,931号および同第5,700,774号には、TGFβ「スーパーファミリー」に属する骨形成タンパク質(BMP)をトランケート型副甲状腺ホルモン関連ペプチドと共に含む組成物を注射して、軟骨組織形成の維持および軟骨組織の誘導を実行することが開示されている。しかし、BMP遺伝子を用いた遺伝子治療法の開示はない。
【0012】
米国特許第5,842,477号には、足場、骨膜/軟骨膜組織および間質細胞、好ましくは軟骨細胞の組み合わせを軟骨欠損領域に埋め込むことが開示されている。この特許開示では、これらの要素の3つ全てが埋め込まれたシステムの中に存在することが求められるため、この参考資料は、足場または骨膜/軟骨膜組織の埋め込みを求めない本発明の簡単な遺伝子治療法を開示または示唆することができていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらの先行技術の開示がありながら、長期の効果と共に軟骨を安定して再生させる方法の非常に現実的かつ実質的な必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明は、本明細書の先に記載された要件をかなえた。哺乳動物宿主を処置する際の使用のために、生成物をコードする少なくとも1種の遺伝子を哺乳動物細胞の少なくとも1種の細胞に導入する方法が、本発明で提供される。この方法は、該生成物をコードする遺伝子を含有するDNAベクター分子を生成するために組換え技術を利用すること、および該生成物をコードする遺伝子を含有する該DNAベクター分子を哺乳動物細胞に導入すること、を含む。該DNAベクター分子は、標的細胞または組織に送達され、そこで維持されることが可能な任意のDNA分子であり得るため、該当する生成物をコードする遺伝子が安定して発現され得る。好ましくは本発明内で使用される該DNAベクター分子は、ウイルスまたはプラスミドのどちらかのDNAベクター分子である。この方法は、好ましくは治療的使用のために生成物をコードする遺伝子を哺乳動物の結合組織の細胞内に導入することを含む。
【0015】
本発明はまた、
a)タンパク質のトランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーのメンバーを作製または獲得すること;
b)遺伝子をコードするベクターを含有し得る培養哺乳動物細胞の集団、または遺伝子をコードするいずれのベクターも含有しない培養結合組織細胞の集団を作製または獲得すること;および
c)関節内注射によりステップa)の細胞またはタンパク質と、ステップb)の結合組織細胞と、を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移入することで、関節腔内での該組み合わせの活性が結合組織の再生をもたらすこと、
を含む、骨関節炎を処置する方法を対象とする。
【0016】
哺乳動物細胞が、タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを含有する場合、組換えベクターは、ウイルスベクター、好ましくはレトロウイルスベクターであってもよいが、これに限定されない。該ベクターはまた、プラスミドベクターであってもよい。
【0017】
本発明の方法は、移植の前に哺乳動物細胞の集団を貯蔵することを含む。該細胞は、移植前に液体窒素の下、10%DMSO中で貯蔵されてもよい。
【0018】
先に議論されたトランスフェクト哺乳動物細胞としては、上皮細胞、好ましくはヒト上皮細胞、またはHEK293、HEK-293もしくは293細胞とも称されるヒト胎児腎臓293細胞を挙げることができる。
【0019】
結合組織細胞としては、線維芽細胞、骨芽細胞、または軟骨細胞が挙げられるが、これらに限定されない。線維芽細胞は、NIH 3T3細胞またはヒト包皮線維芽細胞であってもよい。軟骨細胞は、自家または同種異系であってもよい。好ましくは軟骨細胞は、同種異系である。
【0020】
結合組織としては、軟骨、靭帯、または腱が挙げられるが、これらに限定されない。軟骨は、硝子軟骨であってもよい。
【0021】
本発明の方法は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)をはじめとする形質転換増殖因子スーパーファミリーのメンバーを使用する。形質転換増殖因子スーパーファミリーのメンバーは、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、またはBMP-7であってもよい。好ましくはTGF-βは、ヒトまたはブタTGF-β1、TGF-β2またはTGF-β3である。
【0022】
本発明はまた、
a)タンパク質のトランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーのメンバーを作製または獲得すること;
b)遺伝子をコードするベクターを含有し得る培養哺乳動物細胞の集団、または遺伝子をコードするいずれのベクターも含有しない培養結合組織細胞の集団を作製または獲得すること;および
c)関節内注射によりステップa)のタンパク質または細胞と、ステップb)の結合組織細胞と、を哺乳動物宿主の関節炎の関節腔に移入することで、関節腔内での該組み合わせの活性が硝子軟骨の再生をもたらすこと、
を含む、硝子軟骨を再生する方法を対象とする。
【0023】
トランスフェクト細胞が、用いられる場合、トランスフェクション法が、リポソームカプセル化、リン酸カルシウム共沈、電気穿孔およびDEAE-デキストラン媒介などの方法により成就されてもよい。
【0024】
本発明はまた、トランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーのメンバーをコードするDNA配列を含む組換えウイルスまたはプラスミドベクターを含む哺乳動物細胞株を対象とする。
【0025】
先に議論されたトランスフェクト哺乳動物細胞としては、上皮細胞、好ましくはヒト上皮細胞、またはHEK293、HEK-293もしくは293細胞とも称されるヒト胎児腎臓293細胞を挙げることができる。
【0026】
結合組織細胞株としては、線維芽細胞株、軟骨細胞株、骨芽細胞株、または骨細胞株を挙げることができるが、これらに限定されない。軟骨細胞は、自家または同種異系であってもよい。好ましくは軟骨細胞は、同種異系である。
【0027】
本発明による結合組織細胞株は、トランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーのメンバーを含んでいてもよい。好ましくはトランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーのメンバーは、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、またはBMP-7である。
【0028】
本発明のこれらおよび他の目的は、以下の本発明の記載、参照される付属の図面および添付の特許請求の範囲からより完全に理解されよう。
【0029】
本発明は、本明細書の以下に与えられた詳細な記載および付随の図面からより完全に理解されると思われ、該図面は、例示として与えられたに過ぎない、つまり本発明の限定ではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、TGF-β1 mRNAの発現を示す。総RNAを、亜鉛の非存在下または存在下で成長させた、NIH 3T3細胞またはpmTβ1、つまりTGF-β1発現ベクターを安定してトランスフェクトされたNIH 3T3細胞から単離した。総RNA(15mg)を、TGF-β1 cDNAまたは対照としてのβアクチンcDNAのどちらかでプローブした。
図2図2A~2Bは、再生軟骨の肉眼所見を示す。2A:矩形の部分的な軟骨欠損が、大腿顆に生成されており、膝関節に、TGF-β1トランスフェクションを行っていないNIH 3T3細胞を注射した。欠損は、覆われなかった。2B:NIH 3T3-TGF-β1細胞の注射後6週目に、欠損が新たに形成された組織で覆われた。再生組織の色は、周囲の軟骨の色とほぼ同一であった。
図3図3A~3Dは、再生軟骨の顕微鏡所見を示す(×200)。3Aおよび3B:対照細胞の注射の4および6週後の欠損領域のヘマトキシリン-エオジン(H&E)分析。組織は、最初の欠損領域を覆っていなかった。3Cおよび3D:TGF-β1トランスフェクト細胞の注射の4および6週後の欠損領域のヘマトキシリン-エオジン(H&E)分析。4週目に、部分的な欠損領域が、TGF-β1トランスフェクト細胞の注射後に硝子軟骨で覆われていた。注射後4および6週目に、再生された組織は厚くなり、6週目には高さが正常な軟骨とほぼ同一になった。組織学的には、再生軟骨(矢印)は、周囲の硝子軟骨と同一であった。
図4図4A~4Bは、200倍でのウサギ関節におけるTGF-β1発現についての免疫組織化学的分析を示す。褐色の免疫ペルオキシダーゼ反応生成物は、NIH 3T3-TGF-β1細胞における高レベルの組換えTGF-β1発現を示す(4B)。4Aは、対照細胞を注射されたウサギ関節における硝子軟骨を示す。
図5図5A~5Bは、H&E染色(A)およびサフラニン-O染色(B)を行った再生組織の顕微鏡所見(×200)を示す。5A:一部が損傷された領域において、再生硝子軟骨が、H&E染色により示されている(黒色の矢印)。5B:完全にむき出しになった軟骨領域において、再生組織(白色の矢印)は、線維性コラーゲンであった。
図6図6は、pmTβ1のプラスミドマップを示す。
図7図7A~7Dは、TGF-β1トランスフェクト細胞を注射されたウサギアキレス腱の肉眼での形態を示す。7A:対照細胞を注射された腱。7B:TGF-β1トランスフェクト細胞を注射された腱の注射の6週後。7C:図7Aで撮影された腱の断面図。7D:図7Bで撮影された腱の断面図。
図8図8A~8Fは、H&E染色を行ったウサギアキレス腱における再生組織の顕微鏡所見を示す。8A、8Bおよび8Cは、対照細胞を注射された腱の注射の6週後を示す。8A:×50倍率。8B:×200倍率。8C:×600倍率。8D、8Eおよび8Fは、TGF-β1トランスフェクト細胞を注射された腱の注射の6週後を示す。8D:×50倍率。8E:×200倍率。8F:×600倍率。腱に注射されたTGF-β1トランスフェクト細胞は、内在性腱細胞より丸く見える。線維性コラーゲンが、オートクリンおよびパラクリン作用機序により生成され、腱が増大された。腱は、TGF-β1トランスフェクト細胞の注射後に増大された。
図9図9A~9Bは、H&E染色(A)およびTGF-β1抗体での免疫組織化学染色(B)を行ったウサギアキレス腱における再生組織の顕微鏡所見を示す。褐色の免疫ペルオキシダーゼ反応生成物は、NIH 3T3-TGF-β1細胞における高レベルの組換えTGF-β1発現を示す。
図10図10A~10Fおよび10A’~10F’は、放射線照射されたNIH 3T3-TGF-β1線維芽細胞を有する軟骨の再生を示す。
図11図11A~Hは、TGF-β1を生成したヒト包皮線維芽細胞での軟骨の再生を示す。
図12図12A~Hは、イヌモデルにおけるNIH 3T3-TGF-β1細胞での軟骨の再生を示す。
図13図13A~Cは、TGF-β1生成線維芽細胞の注射後3週目のTGF-β1抗体での再生軟骨の免疫組織化学的染色を示す。
図14図14A~14Dは、中間層欠損を有するウサギにおけるヒト軟骨細胞と組換えTGF-β1タンパク質との混合物での軟骨の再生を示す。
図15図15A~15Fは、中間層欠損を有するイヌにおけるヒト軟骨細胞と組換えTGF-β1タンパク質との混合物の注射による軟骨の再生を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な記載
本明細書で用いられる用語「患者」は、非限定的に人類をはじめとする動物界のメンバーを包含する。
【0032】
トランスフェクトまたは形質導入細胞に関連して本明細書で用いられる用語「哺乳動物細胞」は、全ての型の哺乳動物細胞、詳細には、非限定的に線維芽細胞もしくは軟骨細胞などの結合組織細胞、または幹細胞、詳細にはヒト胎児腎臓細胞、さらに詳細にはヒト胎児腎臓293細胞または上皮細胞などの結合組織細胞をはじめとするヒト細胞を包含する。
【0033】
本明細書で用いられる用語「哺乳動物宿主」としては、非限定的に人類をはじめとする動物界のメンバーを包含する。
【0034】
本明細書で用いられる用語「軟骨細胞」は、脱分化または再分化を受けるかどうかに関係せず、単離された軟骨細胞の集団を指す。インビトロ培養の数回の継代の後、軟骨細胞が線維芽細胞などの他の細胞型に脱分化することを観察した。しかし導入により、これらの細胞は、軟骨細胞に細分化し得る。本発明の目的では、「軟骨細胞」により、軟骨細胞の本来の出発培養物を含む試料が、時間経過を通して脱分化された軟骨細胞を場合により含有し得ることを意味する。
【0035】
本明細書で用いられる用語「結合組織」は、他の組織または器官を結合および支持する任意の組織であり、哺乳動物宿主の靭帯、軟骨、腱、骨および滑膜が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で用いられる用語「結合組織細胞」または「結合組織の細胞」は、コラーゲン性細胞外マトリクスを分泌する線維芽細胞、軟骨の細胞(軟骨細胞)、および骨細胞(骨芽細胞/骨細胞)に加え、脂肪の細胞(脂肪細胞)および平滑筋細胞などの結合組織中で見出される細胞を包含する。好ましくは結合組織細胞は、線維芽細胞、軟骨の細胞および骨細胞である。より好ましくは結合組織細胞は、軟骨細胞である。好ましくは軟骨細胞は、同種異系細胞である。本発明が結合組織細胞の混合培養物に加え、単一の型の細胞で実践され得ることは、認識されよう。好ましくは結合組織細胞は、宿主生物体への注射の際に、負の免疫応答を引き起こさない。同種異系細胞に加え、細胞介在性遺伝子治療または体細胞治療のための自家細胞がこれに関係して用いられ得ることは、理解されよう。
【0037】
本明細書で用いられる「結合組織細胞株」は、共通の親細胞から発生した複数の結合組織細胞を包含する。
【0038】
本明細書で用いられる「硝子軟骨」は、関節表面を覆う結合組織を指す。例に過ぎないが、硝子軟骨としては、関節軟骨、肋軟骨、および鼻軟骨が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
詳細には硝子軟骨は、自己再生することが知られ、改変に応答し、摩擦の小さい安定した運動を提供する。同じ関節内、または関節間で見出される硝子軟骨は、厚さ、細胞密度、マトリックス組成および機械的特性が様々であるが、同じ一般的構造および機能を保持する。硝子軟骨の機能の幾つかとしては、驚くべき圧縮剛性、レジリエンス、および重量負荷を分配する並外れた能力、肋軟骨下の骨へのピーク応力を最小にする能力、ならびに大きな耐久性が挙げられる。
【0040】
硝子軟骨は、肉眼的および組織学的には変形に耐える滑らかで堅固な表面に見える。軟骨の細胞外マトリクスは、軟骨細胞を含むが、血管、リンパ管または神経が欠如する。軟骨細胞とマトリクスとの相互作用を維持する、精巧で高度に秩序化された構造が、低レベルの代謝活性を維持しながら、硝子軟骨の構造および機能を維持するのに役立つ。全体として参照により本明細書に組み入れられる参考資料のO’Driscoll, J. Bone Joint Surg., 80A: 1795-1812, 1998には、硝子軟骨の構造および機能が詳細に記載されている。
【0041】
本明細書で用いられる「トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)スーパーファミリー」は、胎児発生の間に広範囲の分化工程に影響する、構造的に関係するタンパク質の群を包含する。該ファミリーは、全体として参照により本明細書に組み入れられる、正常な男性の性的発達に必要なミュラー管抑制物質(MIS)(Behringer, et al., Nature, 345:167, 1990)、成虫原基の背腹軸形成および形態形成に必要なショウジョウバエデカペンタプレジック(DPP)遺伝子産物(Padgett, et al., Nature, 325:81-84, 1987)、卵の植物極に局在化するアフリカツメガエルVg-1遺伝子産物(Weeks, et al., Cell, 51:861-867, 1987)、アフリカツメガエル胚中の中胚葉および前部構造の形成を誘導し得る(Thomsen, et al., Cell, 63:485, 1990)アクチビン(Mason, et al., Biochem, Biophys. Res. Commun., 135:957-964, 1986)、ならびにデノボ軟骨および骨形成を誘導し得る(Sampath, et al., J. Biol. Chem., 265:13198, 1990)骨形成タンパク質(BMP-2、3、4、5、6および7などのBMP、オステオゲニン、OP-1)を含む。TGF-β遺伝子産物は、脂肪生成、筋形成、軟骨形成、造血、および上皮細胞分化をはじめとする種々の分化工程に影響を及ぼし得る(批評については、Massague, Cell 49:437,1987を参照されたい)。
【0042】
TGF-βファミリーのタンパク質は最初、大きな前駆体タンパク質として合成され、次にC-末端からおよそ110~140アミノ酸の塩基性残基のクラスターでタンパク質分解を受ける。該タンパク質のC-末端領域は全て、構造的に関係しており、この異なるファミリーメンバーは、それらの相同性の程度に基づいて別個のサブグループに分類され得る。個々のサブグループ内の相同性は、70%~90%アミノ酸配列同一性の範囲内であるが、サブグループ間の相同性は、有意により低く、一般にはわずか20%~50%の範囲内である。各例で活性種は、C-末端断片のジスルフィド結合二量体であると思われる。試験されたファミリーメンバーのほとんどで、該ホモダイマー種は、生物活性があることが見出されているが、インヒビン(Ung, et al., Nature, 321:779, 1986)およびTGF-β(Cheifetz, et al., Cell, 48:409, 1987)のような他のファミリーメンバーでは、ヘテロダイマーも検出されており、これらは、各々のホモダイマーと異なる生物学的特性を有すると思われる。
【0043】
TGF-β遺伝子のスーパーファミリーのメンバーとしては、TGF-β3、TGF-β2、TGF-β4(ニワトリ)、TGF-β1、TGF-β5(アフリカツメガエル)、BMP-2、BMP-4、ショウジョウバエDPP、BMP-5、BMP-6、Vgr1、 OP-1/BMP-7、ショウジョウバエ60A、GDF-1、アフリカツメガエルVgf、BMP-3、インヒビン-βA、インヒビン-βB、インヒビン-α、およびMISが挙げられる。これらの遺伝子は、全体として参照により本明細書に組み入れられるMassague, Ann. Rev. Biochem. 67:753-791, 1998で議論されている。
【0044】
好ましくはTGF-β遺伝子のスーパーファミリーのメンバーは、TGF-βである。より好ましくは該メンバーは、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、またはBMP-7である。より好ましくは該メンバーは、ヒトまたはブタTGF-βである。さらにより好ましくは該メンバーは、ヒトまたはブタTGF-β1、TGF-β2またはTGF-β3である。最も好ましくは該メンバーは、ヒトまたはブタTGF-β1である。
【0045】
本明細書で用いられる「選択マーカ」は、導入されたDNAを安定して維持する細胞により発現され、形態学的形質転換などの改変された表現型または酵素活性を細胞に発現させる遺伝子産物を包含する。トランスフェクト遺伝子を発現する細胞の単離は、抗生物質または他の薬物に耐性を付与する酵素活性を有するものなどの選択マーカをコードする第二の遺伝子を同じ細胞に導入することにより実現される。選択マーカの例としては、全体として参照により本明細書に組み入れられる、チミジンキナーゼ、ジヒドロ葉酸リダクターゼ、カナマイシン、ネオマイシンおよびGeneticinなどのアミノグリコシド系抗生物質に耐性を付与するアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、CAD(デノボウリジン生合成の第一の3種の酵素活性、つまりカルバミルリン酸シンターゼ、アスパラギン酸トランスカルバミラーゼおよびジヒドロオロターゼを保有する単一タンパク質)、アデノシンデアミナーゼ、およびアスパラギンシンテターゼが挙げられるが、これらに限定されない(Sambrook et al. Molecular Cloning, Chapter 16. 1989)。
【0046】
本明細書で用いられる「プロモータ」は、真核細胞内で活性であり転写を制御するDNAの任意の配列であり得る。プロモータは、真核細胞および原核細胞のどちらかまたは両方において活性であってもよい。好ましくはプロモータは、哺乳動物細胞において活性である。プロモータは、構成的に発現されても、または誘導性であってもよい。好ましくはプロモータは、誘導性である。好ましくはプロモータは、外部刺激により誘導性になる。より好ましくはプロモータは、ホルモンまたは金属により誘導性になる。さらにより好ましくはプロモータは、重金属により誘導性になる。最も好ましくはプロモータは、メタロチオネイン遺伝子プロモータである。同様に、同じく転写を制御する「エンハンサエレメント」は、DNAベクター構築物に挿入され得、該当する遺伝子の発現を増強するために本発明の構築物と共に用いられ得る。
【0047】
本明細書で用いられる用語「DC-chol」は、カチオン性コレステロール誘導体を含有するカチオン性リポソームを意味する。「DC-chol」分子は、末端アミノ基と、中等度の長さのスペーサアーム(2原子)と、カルバモイルリンカー結合と、を含む(Gao et al., Biochem. Biophys. Res, Commun., 179:280-285, 1991)。
【0048】
本明細書で用いられる「SF-chol」は、カチオン性リポソームの一タイプとして定義される。
【0049】
本明細書で用いられる、リポソームに関係して用いられる用語「生物活性がある」は、標的細胞内に機能的DNAおよび/またはタンパク質を導入する能力を表す。
【0050】
本明細書で用いられる、核酸、タンパク質、タンパク質断片、またはそれらの誘導体に関係する用語「生物活性がある」は、核酸またはタンパク質の野生型形態により誘発される公知の生物学的機能を模倣した核酸またはアミノ酸配列の能力として定義される。
【0051】
リポソーム送達の文脈で用いられる場合の、本明細書で用いられる用語「維持」は、細胞内に存続する導入されたDNAの能力を表す。他の文脈で用いられる場合には、それは、治療効果を持たせるために標的細胞または組織内に存続する標的DNAの能力を意味する。
【0052】
遺伝子治療
本発明は、哺乳動物宿主の結合組織細胞への該当するDNA配列の送達のためのエクスビボおよびインビボ技術を開示する。エクスビボ技術は、該当する遺伝子産物のインビボ発現を実行するために、標的哺乳動物細胞の培養、哺乳動物細胞への該当するDNA配列、DNAベクターまたは他の送達ビヒクルのインビトロトランスフェクションと、続いての哺乳動物宿主の標的関節への修飾哺乳動物細胞の移植を伴う。
【0053】
足場またはフレームワークなどの物質に加え、様々な外来組織が、本発明の遺伝子治療プロトコルにおいて一緒に埋め込まれることが可能であるが、そのような足場または組織が、本発明の注射システムに含まれないことが、理解されなければならない。好ましい実施形態において、細胞介在性遺伝子治療または体細胞治療において、本発明は、外因性TGFスーパーファミリータンパク質が関節腔内で発現されるように、トランスフェクトまたは形質導入された哺乳動物細胞の集団を関節腔に注射する簡単な方法を対象とする。
【0054】
哺乳動物細胞のインビトロ操作の代替法として、該当する生成物をコードする遺伝子をリポソーム内に導入して、関節の領域に直接注射し、そこでリポソームが結合組織細胞に融合して、TGF-βスーパーファミリーに属する遺伝子産物のインビボ遺伝子発現をもたらす。
【0055】
哺乳動物細胞のインビトロ操作の追加的代替法として、該当する生成物をコードする遺伝子を、ネイキッドDNAとして関節の領域に導入する。ネイキッドDNAは、結合組織細胞に進入し、TGF-βスーパーファミリーに属する遺伝子産物のインビボ遺伝子発現をもたらす。
【0056】
本明細書全体で開示される結合組織障害を処置する1つのエクスビボ法は最初に、タンパク質またはその生物活性断片をコードするDNA配列を含有する組換えウイルスまたはプラスミドベクターを作製することを含む。この組換えベクターはその後、インビトロ培養された哺乳動物細胞の集団を感染またはトランスフェクトするために用いられて、ベクターを含有する哺乳動物の集団をもたらす。これらの哺乳動物細胞はその後、哺乳動物宿主の標的関節腔に移植されて、次の関節腔内でのタンパク質またはタンパク質断片の発現を実行する。該当するこのDNA配列の発現は、結合組織障害に関連する少なくとも1種の有害な関節病態を実質的に低減するのに有用である。
【0057】
ヒト患者を処置するための好ましい細胞供給源が、自家哺乳動物細胞などの患者自身の結合組織細胞であるが、同種異系細胞もまた、細胞の組織適合性に関係なく用いられ得ることは、当業者に理解されよう。
【0058】
より具体的にはこの方法は、該遺伝子として、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーまたはその生物活性誘導体もしくは断片および選択マーカ、あるいはその生物活性誘導体もしくは断片、をコードすることが可能な遺伝子を用いることを含む。
【0059】
本発明のさらなる実施形態は、該遺伝子として、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーまたはその生物活性誘導体もしくは断片の少なくとも1つをコードすることが可能な遺伝子を用いること、および該DNAプラスミドベクターとして、使用される送達法にかかわらず送達の際に標的細胞または組織内で安定した維持が可能な当業者に公知の任意のDNAプラスミドベクターを用いること、を含む。
【0060】
1つのそのような方法は、それがウイルスDNAベクター分子であるか、またはプラスミドDNAベクター分子であるかにかかわらず、標的細胞または組織へのDNAベクター分子の直接送達である。この方法もまた、該遺伝子として、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバーまたはその生物活性誘導体もしくは断片をコードすることが可能な遺伝子を用いることを含む。
【0061】
本発明の別の実施形態は、哺乳動物宿主を処置する際の使用のために、生成物をコードする少なくとも1種の遺伝子を哺乳動物の少なくとも1種の細胞内に導入するための方法を提供する。この方法は、生成物をコードする遺伝子を哺乳動物細胞内に導入するための非ウイルス手段を用いることを含む。より具体的には該方法は、リポソームカプセル化、リン酸カルシウム共沈、電気穿孔およびDEAE-デキストラン媒介を含み、該遺伝子として、トランスフォーミング増殖因子スーパーファミリーのメンバーまたはその生物活性誘導体もしくは断片および選択マーカ、あるいはその生物活性誘導体もしくは断片、をコードすることが可能な遺伝子を用いることを含む。
【0062】
本発明の別の実施形態は、哺乳動物宿主を処置する際の使用のために、生成物をコードする少なくとも1種の遺伝子を哺乳動物の少なくとも1種の細胞内に導入するための追加的方法を提供する。この追加的方法は、DNAベクター分子を標的細胞または組織に送達するためにウイルスを利用する生物学的手段を用いることを含む。好ましくはウイルスは、ゲノムが改変されたシュードウイルスであり、そのシュードウイルスは、標的細胞内での送達および安定した維持のみが可能であり、標的細胞または組織内で複製する能力を保持しない。改変されたウイルスゲノムはさらに、組換えDNA技術により操作されて、ウイルスゲノムが標的細胞または組織内で発現される該当する異種遺伝子を含有するDNAベクター分子として作用する。
【0063】
本発明の好ましい実施形態は、本明細書内で開示されたエクスビボ技術でのレトロウイルスベクターの使用を通してTGF-β遺伝子を哺乳動物宿主の結合組織に送達することにより標的関節腔にTGF-βを送達する方法である。言い換えれば、機能的TGF-βタンパク質またはタンパク質断片をコードする該当するDNA配列を選択したレトロウイルスベクターにサブクローニングし、その後、組換えウイルスベクターを充分な力価まで生育させて、インビトロ培養された哺乳動物細胞に感染するために用い、該形質導入された哺乳動物細胞、好ましくは自家移植された細胞を、好ましくは関節内注射により、該当する関節に移植する。
【0064】
本発明の別の好ましい方法は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたは単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターのどれかの使用を通した、哺乳動物宿主の結合組織へのTGF-βスーパーファミリー遺伝子の直接的インビボ送達を伴う。言い換えれば、機能的TGF-βタンパク質またはタンパク質断片をコードする該当するDNA配列を、各々のウイルスベクターにサブクローニングする。TGF-β含有ウイルスベクターをその後、充分な力価まで生育させて、好ましくは関節内注射により、関節腔に方向づける。
【0065】
関節内への該当する遺伝子を含有するDNA分子の直接的関節内注射は、レシピエントの結合組織細胞のトランスフェクションをもたらし、これによりDNAベクター含有線維芽細胞の取り出し、インビトロ培養、トランスフェクション、選択、および移植の必要性が回避されて、該当する異種遺伝子の安定した発現が促進される。
【0066】
DNA分子を関節の標的結合組織に提示する方法としては、カチオン性リポソームへのDNA分子のカプセル化、レトロウイルスもしくはプラスミドベクター内での該当するDNA配列のサブクローニング、または関節内へのDNA分子自体の直接的注射が挙げられるが、これらに限定されない。膝関節への提示の形態にかかわらず、DNA分子は、好ましくは組換えウイルスDNAベクター分子または組換えDNAプラスミドベクター分子のどちらかのDNAベクター分子として提示される。該当する異種遺伝子の発現は、真核細胞内で活性のプロモータ断片を異種遺伝子のコード領域の直ぐ上流に挿入することにより、確保される。当業者は、ベクター構築の公知方策および技術を利用して、結合組織内へのDNA分子の進入に続いて適当な発現レベルを確保してもよい。
【0067】
好ましい実施形態において、膝関節から回収された軟骨細胞を、遺伝子治療のための送達システムとしての次の利用のためにインビトロで培養する。出願者らが開示された特定の結合組織の使用に限定されないことは、明白であろう。インビトロ培養技術のために他の組織供給源を利用することが可能である。本発明の遺伝子を利用する方法は、予防、および関節の治療的処置の両方で、利用されてもよい。同じく、出願者らが膝関節を処置することのみでの予防的または治療的応用に限定されないことは、明白であろう。本発明を予防的または治療的に利用して任意の罹患し易い関節で関節炎を処置することが可能であろう。
【0068】
本発明の別の実施形態において、TGF-βスーパーファミリータンパク質をコードする遺伝子および適切な医薬担体を含有する予防的または治療的有効量での患者への非経口投与のための化合物が、提供される。
【0069】
本発明のさらなる実施形態は、インビトロで細胞内に遺伝子を導入することを含む、本明細書の先に記載された方法を含む。この方法はまた、続いて感染した細胞を哺乳動物宿主内に移植することを含む。この方法は、哺乳動物細胞のトランスフェクションを実行した後、しかし感染した細胞を哺乳動物宿主に移植する前に、トランスフェクトされた哺乳動物細胞を貯蔵することを含む。感染した哺乳動物細胞が液体窒素中の10%DMSOの中で凍結貯蔵され得ることは、当業者に察知されよう。この方法は、関節炎を発症する可能性が高い哺乳動物宿主において関節炎の発症を実質的に防止する方法を利用することを含む。
【0070】
本発明の別の実施形態は、生成物をコードする遺伝子を含有するウイルスベクターを哺乳動物宿主に直接導入することにより、細胞の感染をインビボで実行することを含む、本明細書の先に記載された通り哺乳動物宿主を処置する際の使用のために、生成物をコードする少なくとも1種の遺伝子を哺乳動物宿主の結合組織の少なくとも1種の細胞内に導入する方法を含む。好ましくは該方法は、関節内注射により哺乳動物宿主への直接的導入を実行することを含む。この方法は、関節炎を発症する可能性が高い哺乳動物宿主において関節炎の発症を実質的に防止する方法を用いることを含む。この方法はまた、治療的使用のために関節炎の哺乳動物宿主で該方法を用いることを含む。さらにこの方法はまた、本明細書の先に定義された通り、結合組織を修復および再生する方法を用いることを含む。
【0071】
哺乳動物細胞の感染および取り込みを実行するレトロウイルスに必要とされる通り、リポソームを用いるウイルスベクターが細胞分裂に限定されないことは、当業者に察知されよう。本明細書の先に記載されるような非ウイルス手段を用いるこの方法は、該遺伝子として、TGF-βスーパーファミリーに属するメンバーをコードすることが可能な遺伝子と、抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカ遺伝子と、を用いることを含む。
【0072】
本発明の別の実施形態は、コラーゲンのインビボ発現を実行して軟骨などの結合組織を再生するために、本明細書内に開示された方法のいずれかにより哺乳動物宿主の結合組織へのTGF-βスーパーファミリーのメンバーをコードするDNA配列の送達である。
【0073】
本発明の限定ではなく一例として開示され具体的方法において、TGF-βコード配列を含有するDNAプラスミドベクターは、メタロチオネインプロモータの下流で連結した。
【0074】
結合組織は、治療的に標的化することが困難な器官である。当該技術分野で公知である薬物送達の静脈内および経口経路は、これらの結合組織への極わずかな接近を提供し、哺乳動物宿主の身体を治療薬に全身暴露するという欠点を有する。より具体的には、関節へのタンパク質の公知の関節内注射は、関節への直接の接近を提供する。しかしカプセル化タンパク質の形態での注射薬のほとんどは、短い関節内半減期を有する。本発明は、哺乳動物宿主を処置するために用いられ得るタンパク質をコードする哺乳動物宿主遺伝子を結合組織内に導入することによりこれらの問題を解決する。より具体的には本発明は、抗関節炎特性を有するタンパク質をコードする哺乳動物宿主遺伝子を結合組織内に導入するための方法を提供する。
【0075】
本発明において、遺伝子治療は、TGF-βの投与に関連する短い作用期間および高コストの問題を解決するために適用された。トランスフェクト細胞は、形態学的変化を起こさずに、組織培養において6週間を超えて生存し得る。生存力および作用期間を決定するために、細胞をウサギアキレス腱に注射した。栄養供給が、インビボの細胞にとって充分であれば、細胞は、周囲細胞を刺激するのに充分長期間にわたり生存してTGF-βを生成することができる。細胞は、腱内および関節内の両方の環境で機能的であった。
【0076】
トランスフェクト細胞の濃度は、局所作用にとって重要な因子である。過去の実験(Joyce et al.,上掲、1990)では、TGF-βの用量が、形成された組織の型を決定した。詳細には、用量が低下するにつれ、膜内骨形成に対する軟骨形成の比率が減少した。TGF-βはまた、初代骨芽細胞およびMC3T3細胞の刺激において二相性である(Centrella et al., Endocrinology, 119:2306-2312, 1986)。即ちそれは、濃度に応じて刺激性および阻害性の両方になり得る(Chenu et al., Proc Natl Acad Sci, 85:5683-5687, 1988)。本明細書で提供された実施例において、NIH 3T3-TGF-β1細胞は、10、10、および10細胞/mlという異なる濃度でコラーゲン合成を刺激した。腱は、10細胞/mlの濃度で概ね増大された 。
【0077】
実施例において、関節に10細胞/ml濃度の0.3mlを注射した。注射の2週~6週後に標本を採取した。関節の環境は、腱の環境と異なる。細胞は、関節内で自由に移動することができる。それらは、細胞への特異的親和性を有する領域に移動するであろう。滑膜、半月板および軟骨の欠損領域は、細胞接着の可能性がある部位である。注射の6週後に、再生組織が、部分的および完全に損傷された軟骨欠損領域で観察されたが、滑膜または半月板では観察されなかった。損傷領域へのこの特異的親和性が、臨床応用への別の利点である。変形性関節炎が、関節への細胞の注射だけで治癒され得るならば、患者は大規模な手術を受けることなく簡便に処置され得る。
【0078】
注射された細胞により分泌されたTGF-βは、2つの可能な方法により硝子軟骨再生を刺激し得る。1つは、損傷領域に残留する軟骨の細胞が細胞表面のTGF-β受容体を生成することである(Brand et al., J Biol Chem, 270:8274-8284, 1995; Cheifetz et al., Cell, 48:409-415, 1987; Dumont et al., M Cell Endo, 111:57-66, 1995; Lopez-Casillas et al., Cell, 67:785-795, 1991; Miettinen et al., J Cell Biology, 127:6, 2021-2036, 1994;およびWrana et al., Nature, 370:341-347, 1994)。これらの受容体は、損傷領域に接着した注射された細胞により分泌されたTGF-βにより刺激され得る。TGF-βは、インビボでは潜在的形態(latent form)で分泌されるため(Wakefield et al., J Biol Chem, 263, 7646-7654, 1988)、潜在的TGF-βは、活性化工程を必要とする。他の方法は、潜在的TGF-βまたはトランスフェクト細胞から分泌されたTGF-βが、部分的に損傷された軟骨層の細胞外マトリクスでTGF-β結合タンパク質(LTBT)に結合し得るということである(Dallas et al., J Cell Biol, 131:539-549, 1995)。
【0079】
作用のメカニズムが何であろうと、硝子軟骨合成の発見は、高TGF-β濃度の長期持続が硝子軟骨再生を刺激し得ることを示している。高い局所濃度のためのビヒクルは、局所刺激に重大な因子にはなり得ないが、理論上、軟骨の細胞は、軟骨の損傷領域にTGF-βを送達するための最も適切なビヒクルになり得る(Brittberg et al., New Engl J Med 331:889-895, 1994)。コラーゲンの二層マトリクスが、トランスフェクト細胞の局所分布のための別の可能なビヒクルである(Frenkel et al., J Bone J Surg (Br) 79―B:831-836, 1997)。
【0080】
新たに形成された組織の特性を、組織学的方法により決定した。H&E染色において、新たに形成された組織は、周囲の硝子軟骨と同一であった(図4)。新たに形成された組織の特性を評価するために、組織をサフラニン-O(Rosenburg, J Bone Joint Surg, 53A:69-82, 1971)で染色した。線維性コラーゲンの白色と対照的に、新たに形成された組織は、赤色に染色し、それが硝子軟骨であることが示唆された(図5)。
【0081】
完全に損傷された領域の細胞は、線維性コラーゲンを生成した。周囲の骨芽細胞は、TGF-β刺激への類骨基質のバリアのために、刺激されなかった可能性がある。NIH 3T3-TGF-β1細胞は、周囲細胞を刺激する代わりに、オートクリン刺激により線維性コラーゲンを生成した。細胞がオートクリンおよびオートクリンの両方の活性化により刺激されたという事実により、TGF-β1発現構築物で安定してトランスフェクトされた軟骨細胞による変形性関節炎の処置の見込みが高まる。
【0082】
TGF-β1発現構築物で安定したトランスフェクトされた細胞株は、腱および膝関節内で生存し得る。該細胞株は、腱および完全に損傷された軟骨領域で線維性コラーゲンを生成する。しかし該細胞株は、部分的に損傷された関節軟骨内では硝子軟骨を生成する。オートクリンおよびパラクリンの作用機序による刺激のメカニズムからは、遺伝子のTGF-β1スーパーファミリーのメンバーでの遺伝子治療が硝子軟骨傷害のための新しい処置方法であることが示される。
【0083】
本発明者らは、TGF-β1発現構築物をトランスフェクトすることにより安定した線維芽細胞(NIH 3T3-TGF-β1およびヒト包皮線維芽細胞TGF-β1)の細胞株を作製した。これらのTGF-β生成細胞は、インビボで高濃度の活性TGF-β濃度を長期間維持した。
【0084】
遺伝子治療、詳細には細胞介在性遺伝子治療の可能性に関して答えられるべき第一の疑問は、インビボでの細胞の生存力である。たとえTGF-βが、インビトロで免疫細胞を抑制し得るとしても、免疫細胞は、高度に効果的な免疫サーベランスシステムを有する他の種の組織では生存することができない可能性がある。第二に、インビボでの遺伝子発現のための最適濃度が、評価されなければならない。本発明者らは、この疑問に答えるために、細胞を3種の異なる濃度でウサギのアキレス腱に注射した。用いられる関節内注射の濃度は、腱内注射のための最適濃度から決定された。第三の疑問は、細胞がどのようにして関節内の軟骨の再生を刺激するかである。注射された細胞については2つの作用機序がある。1つは、分泌されたTGF-βによる周囲細胞の活性化であり(パラクリン活性化)(Snyder, Sci Am, 253(4): 132-140, 1985)、もう一方は、自己活性化である(オートクリン活性化)。細胞の濃度は、それらの経路に影響し得るが、周囲の環境は、作用機序の決定にとって最も重要な因子かもしれない。関節内の滑液および靭帯の内側は、血液供給、栄養供給および周囲細胞に関する2種の異なる環境である。トランスフェクト細胞を2種の異なる環境に注射して、細胞の作用機序を見出した。この試験の全体的目的は、整形外科疾患のためのTGF-β介在性遺伝子治療を評価すること、およびインビボでの作用機序を確認することであった。
【0085】
治療組成物
本発明は、軟骨再生に関する。具体的実施形態において、本発明の方法は、トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーのメンバー、またはその生物活性誘導体もしくは断片である遺伝子産物を用いることを含む。TGF-βスーパーファミリータンパク質は、同種異系軟骨細胞をはじめとする軟骨細胞などの結合組織細胞と併せて、投与される。軟骨が処置部位で再生される限り、TGF-βタンパク質は、該細胞と同時に投与されてもよく、またはそれは、該細胞の投与の前もしくは後に投与されてもよい。
【0086】
本発明の別の実施形態において、TGF-βスーパーファミリータンパク質および適切な医薬担体を含有する予防的または治療的有効量での患者への非経口投与のための化合物が、提供される。
【0087】
治療的応用において、TGF-βタンパク質は、局所投与用に配合されてもよく、同種異系軟骨細胞をはじめとする軟骨細胞などの結合組織細胞と併せて、投与されてもよい。本発明において、TGF-βタンパク質は一般に、投与様式の性質および投与剤形に応じて、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、表面活性剤、侵食性ポリマー(erodable polymers)または滑沢剤を包含し得る賦形剤の希釈剤などの担体と組み合わせられてもよい。典型的な投与剤形としては、粉末、懸濁液、エマルジョンおよび溶液をはじめとする液体調製剤、顆粒、ならびにカプセルが挙げられる。
【0088】
本発明のTGF-βタンパク質はまた、対象への投与のために医薬的に許容できる担体と組み合わせられてもよい。適切な医薬担体の例は、非限定的に、N-(1,2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-n,n,n-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)およびジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)をはじめとする種々のカチオン性リピドである。リポソームもまた、本発明のTGF-βタンパク質分子に適した担体である。別の適切な担体は、TGF-βタンパク質分子を含む徐放性ゲルまたはポリマーである。
【0089】
TGF-βタンパク質は、生理食塩水溶液または他の適切な液体などの生理学的に許容できる担体または希釈剤の一定量と混合されてもよい。TGFタンパク質分子はまた、それらが標的に到達するまで、そして/または組織バリアを通したTGFタンパク質またはその生物活性形態の移動を容易にするまで、TGFタンパク質およびその生物活性形態が分解するのを防御する他の担体手段と組み合わせられてもよい。
【0090】
本発明のさらなる実施形態は、哺乳動物細胞またはその結合組織細胞を移入する前に、該細胞を貯蔵することを含む。哺乳動物細胞または結合組織細胞が液体窒素中の10パーセントDMSOの中で凍結貯蔵されてもよいことは、当業者に察知されよう。この方法は、関節炎を発症する可能性が高い哺乳動物宿主において関節炎の発症を実質的に防止する方法を用いることを含む。
【0091】
治療化合物の配合は一般に、当該技術分野で公知であり、簡便にはRemington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., USAで参照され得る。例えば約0.05μg~約20mg/キログラム体重/日が、投与されてもよい。投与レジメンは、最適な治療応答を提供するように調整されてもよい。例えば複数の分割用量が、1日に投与されてもよく、または該用量が、治療状況の急迫性に示される通り比例して低減されてもよい。活性化合物は、経口、静脈内(水溶性の場合)、筋肉内、皮下、鼻内、皮内もしくは坐剤経路によるなどの簡便な手段で、または埋め込むことにより(例えば、腹腔内経路により徐放性分子を用いる、またはインビトロで感知されてレシピエントに養子移入された細胞、例えば単球もしくは樹状細胞を用いることにより)投与されてもよい。該ペプチドは、投与経路に応じて、前記原材料を不活性化し得る酵素、酸および他の自然な条件の作用を防御する材料でコーティングされることが必要とされてもよい。
【0092】
例えばペプチドの低親油性が、ペプチド結合を切断することが可能な酵素により胃腸管内で、そして酸加水分解により胃内で、ペプチドを破壊することができよう。非経口投与以外によりペプチドを投与するために、それらは、不活性化を防止する材料でコーティングされるか、またはその材料と共に投与されよう。例えばペプチドが、アジュバント中で投与されても、酵素阻害剤と共投与されても、またはリポソーム中に存在してもよい。本明細書で企図されるアジュバントとしては、レソルシノール、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびn-ヘキサデシルポリエチレンエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。酵素阻害剤としては、膵トリプシン阻害剤、ジイソプロピルフルオロホスファート(DEP)およびトラシロールが挙げられる。リポソームとしては、水中油中水CGFエマルジョンおよび従来のリポソームが挙げられる。
【0093】
活性化合物はまた、非経口または腹腔内投与されてもよい。分散物もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中で、ならびに油中で調製され得る。貯蔵および使用の通常条件下では、これらの調製物は、微生物の生育を防止する防腐剤を含有する。
【0094】
注射可能な使用に適した医薬形態としては、滅菌水性溶液(水溶性の場合)または分散物、ならびに滅菌注射可能溶液または分散物の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。全ての例で、該形態は、滅菌でなければならず、容易な通針性が存在する程度に流体でなければならない。それは、製造および貯蔵の条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から防護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プリピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールおよび同様のもの)、それらの適切な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。妥当な流動性が、例えばレシチンなどのコーティングの使用により、分散物の場合には必要となる粒度の維持により、そしてスーパーファクタント(superfactants)の使用により、維持され得る。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばクロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、テオメルサール(theomersal)および同様のものによりもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含むことが、好ましいであろう。注射可能性組成物の長期吸収は、吸収を遅延する薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によりもたらされ得る。
【0095】
滅菌注射可能溶液は、適当な溶媒中の必要量の活性化合物に先に列挙された様々な他の原材料を組み入れ、必要に応じて次に濾過滅菌することにより、調製される。一般に分散物は、様々な滅菌有効成分を、塩基性分散媒および先に列挙されたものの中の必要となる他の原材料を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることにより調製される。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌濾過されたそれらの溶液から、有効成分に任意の追加的な所望の原材料を加えた粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0096】
ペプチドは、先に記載された通り適宜防御される場合、活性化合物は、例えば不活性希釈剤もしくは同化可能な食用担体と共に、経口投与されてもよく、またはそれは、ハードもしくはソフトシェルゼラチンカプセル中に封入されてもよく、またはそれは、打錠されてもよく、またはそれは、食事の食べ物に直接組み込まれていてもよい。経口治療投与では、活性化合物は、賦形剤が組み込まれていて、摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁剤、シロップ、ウエハー、および同様のものの形態で用いられてもよい。そのような組成物および調製物は、少なくとも1重量%の活性化合物を含有しなければならない。組成物および調製物のパーセント値は、もちろん変動してもよく、簡便には約5~約80重量%の単位であってもよい。そのような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な投与量が得られるようにする。本発明による好ましい組成物または調製物は、経口投与単位剤形が約0.1μg~2000mgの間の活性化合物を含有するように調製される。
【0097】
錠剤、丸薬、カプセルおよび同様のものはまた、以下のものを含有していてもよい:トラガカントガム、アラビアゴム、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸および同様のものなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;ならびにスクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味剤が添加されてもよく、またはペパーミント、冬緑油、もしくはサクランボ香料などの香味剤。投与単位剤形が、カプセルである場合、それは、先のタイプの材料に加え、液体担体を含有していてもよい。様々な他の材料が、コーティングとして、またはさもなければ投与単位の物理的形態を改変するために、存在してもよい。例えば錠剤、丸薬またはカプセルは、シェラック、糖またはその両方でコーティングされていてもよい。シロップまたはエリキシルは、活性化合物と、甘味剤としてのスクロースと、防腐剤としてのメチルおよびプロピルパラベンと、色素と、サクランボまたはオレンジフレーバなどの香味剤と、を含有していてもよい。もちろん、任意の投与単位剤形を調製する際に用いられる任意の材料は、医薬的純粋であり、用いられる量で実質的に非毒性なければならない。加えて活性化合物は、持続放出性調製剤および配合剤の中に組み込まれていてもよい。
【0098】
本明細書で用いられる「医薬的に許容できる担体および/または希釈剤」は、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤、ならびに同様のものを包含する。医薬的活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である。任意の従来の媒体または薬剤が、有効成分と非相溶性である場合の除き、治療組成物中でのそれらの使用が企図される。補助的有効成分もまた、該組成物中に組み入れられ得る。
【0099】
投与の容易さおよび投与量の均一性のために非経口組成物を投与単位剤形に配合することが、特に有利である。本明細書で用いられる投与単位剤形は、処置される哺乳動物対象への単一投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位が必要となる医薬担体に関連して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性材料を含有する。本発明の投与単位剤形の仕様は、(a)活性材料の特有の特徴および実行される個々の治療効果、ならびに(b)身体の健康が損なわれる疾患状態を有する生存対象において疾患の処置のためにそのような活性材料を調合する当該技術分野に本来備わる制限、によって規定され、そしてそれらに直接依存する。
【0100】
主要な有効成分は、投与単位剤形中に適切な医薬的に許容できる担体と共に、有効量での簡便かつ有効な投与のために調合される。単位投与剤形は、例えば0.5μg~約2000mgの範囲内の量で主要な活性化合物を含有し得る。割合で表すと、活性化合物は一般に、約0.5μg/mlの担体中に存在する。補助的有効成分を含有する組成物の場合、投与量は、前記原材料の投与の通常用量および手法を参照して決定される。
【0101】
送達システム
様々な送達システム、例えば、リポソームへのカプセル化、マイクロ粒子、マイクロカプセル、化合物を発現することが可能な組換え細胞、受容体介在性エンドサイトーシス、レトロウイスルまたは他のベクターの一部としての核酸の構築などが公知であり、本発明の組成物を投与するために用いられ得る。導入方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。該化合物または組成物は、任意の簡便な経路により、例えば輸注またはボーラス注射により、上皮または皮膚粘膜の内壁(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜など)を通した吸収により投与されてもよく、他の生物活性剤と共に投与されてもよい。投与は、全身または局所であり得る。加えて、脳室内および髄腔内注射をはじめとする任意の適切な経路により中枢神経系に本発明の医薬化合物または組成物を導入することが望ましく成り得、脳室内注射は、例えばOmmayaリザーバなどのリザーバに取り付けられた、脳室内カテーテルによって容易に行われてもよい。肺投与もまた、例えば吸入器またはネブライザの使用およびエアロゾル化剤の配合によって、用いられ得る。
【0102】
具体的実施形態において、本発明の医薬化合物または組成物を、処置を必要とする領域に局所投与することが望ましい場合があり、これは、例として、そして限定ではなく、手術の際の局所輸注、例えば手術後の包帯と併用した、外用塗布、注射により、カテーテルを用いて、坐剤を用いて、またはインプラントを用いて実現されてもよく、前記インプラントは、Silastic膜などの膜または繊維をはじめとする多孔質、非多孔質またはゼラチン性材料であってもよい。好ましくは、本発明の抗体またはペプチドをはじめとするタンパク質を投与する場合、タンパク質が吸収されない材料の利用に注意を払わなければならない。別の実施形態において、該化合物または組成物は、小胞、詳細にはリポソーム中で送達され得る。さらに別の実施形態において、該化合物または組成物は、制御放出システムの中で送達され得る。一実施形態において、ポンプが、用いられてもよい。別の実施形態において、ポリマー材料が、用いられ得る。さらに別の実施形態において、制御放出システムが、治療ターゲットの付近に配置され得、これにより全身用量の一部のみが必要となる。
【0103】
組成物は、投与がレシピエント動物によって忍容され得る場合、さもなければその動物への投与に適する場合に、「薬理学的または生理学的に許容できる」と言われる。そのような薬剤は、投与量が生理学的に有意であれば、「治療有効量」で投与されると言われる。薬剤は、その存在がレシピエント患者の生理の検出可能な変化をもたらす場合には、生理学的に有意である。
【0104】
本発明は、本明細書に記載された具体的実施形態により範囲が限定されない。事実、本明細書に記載された修正に加え、本発明の様々な修正が、前述の記載および付随の図面から当業者に明白となろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。以下の実施例は、本発明を例示するために提示されており、限定するものではない。
【0105】
実施例
実施例I 材料と方法
プラスミドの構築
メタロチオネイン発現構築物(pM)を作製するために、メタロチオネインIプロモータ(-660/+63)を、増幅に用いられるオリゴヌクレオチド中に組み込んだXba IおよびBam HI制限部位を利用したゲノムDNAを用いたポリメラーゼ連鎖増幅により作製した。増幅された断片をpBluescript(Stratagene、カリフォルニア州ラホヤ)のXba I-Bam HI部位にサブクローニングした。3’末端にTGF-β1コード配列および成長ホルモンポリA部位を含有する1.2kb Bgl II断片を、pMのBam HI-Sal I部位にサブクローニングすることにより、プラスミドpmTβ1を作製した。
【0106】
細胞培養およびトランスフェクション - TGF-β cDNAを、線維芽細胞(NIH 3T3-TGF-β1)またはヒト包皮線維芽細胞/TGF-β1にトランスフェクトした。それらを、10%濃度のウシ胎仔血清を有するダルベッコ改変イーグル培地(GIBCO-BRL、メリーランド州ロックビル)で培養した。TGF-β1 cDNA配列を、メタロチオネイン遺伝子プロモータと共にpmTβ1ベクターに付加した。ネオマイシン耐性遺伝子配列もまた、ベクターに挿入した。
【0107】
このベクターを細胞内に挿入するリン酸カルシウム法を、利用した。トランスフェクト遺伝子配列を有する細胞を選択するために、ネオマイシン(300μg/ml)を培地に添加した。その後、生存するコロニーを選択して、TGF-β1 mRNAの発現を、ノーザン分析およびTGF-β1 ELISAアッセイ(R&D Systems)により確認した。TGF-β1発現を有する細胞を液体窒素内で貯蔵して、注射の直前に培養した。
【0108】
ノーザンブロット分析 - 総RNAを、イソチオシアン酸グアニジニウム(guanidium isothiocyanate)/フェノール/クロロホルムにより細胞から単離した。10μgのRNAを、0.66Mホルムアルデヒドを含有する1.0%アガロースゲルで電気泳動し、DURALON-UV膜に移して、UV STRATALINKER(STRATAGENE)で架橋した。ブロットをプレハイブリダイズし、1%ウシ血清アルブミン、7%(w/v)SDS、0.5Mリン酸ナトリウムおよび1mM EDTAの溶液中、65℃でハイブリダイズした。ハイブリダイズされたブロットを0.1%SDS、1×SSC中、50℃で20分間洗浄した後、フィルム露光した。RNAブロットを、ヒトTGF-β1用に32P-標識cDNAプローブでハイブリダイズした。β-アクチンのプローブを用いて、試料のローディングのための対照に用いた。
【0109】
ウサギへの細胞の注射 - 体重2.0~2.5kgのニュージーランドホワイト種のウサギを、動物モデルとして選択した。ケタミンおよびRompunでの麻酔の後、各ウサギに滅菌的手法でドレープを掛けた。アキレス腱を露出させて、10、10および10細胞/ml濃度の細胞0.2~0.3mlを、腱の中央部分に注射した。トランスフェクトされたDNAの発現のために、硫酸亜鉛をウサギの飲水に添加した。アキレス腱実験で最適濃度を決定した後、関節内注射を実施した。膝関節を露出して、部分的および完全な軟骨欠損をナイフで作製した。部分的欠損は、軟骨下の骨が露出しないように注意を払いながら硝子軟骨層で作製した。完全な欠損は、硝子軟骨の全てを除去した後に作製して軟骨下の骨を露出させた。術創を閉鎖した後、10細胞/ml濃度の細胞を関節内に注射して、硫酸亜鉛を飲水に添加した。
【0110】
組織学的検査 - 腱および膝関節を採取した後、標本をホルマリンで固定して、硝酸で脱灰した。それらをパラフィンブロックに包埋して、0.8μm厚の薄片に切り出した。ヘマトキシリン-エオジン、およびサフラニン-O染色を利用して、顕微鏡で再生組織を観察した。
【0111】
実施例II - 結果
安定した細胞株 - トランスフェクションを、リン酸カルシウム共沈法を利用することにより実行した(図1)。生存するコロニーの約80%が、導入遺伝子のmRNAを発現した。これらの選択されたTGF-β1生成細胞を、硫酸亜鉛溶液中でインキュベートした。細胞を100μM硫酸亜鉛溶液中で培養すると、それらはmRNAを生成した。TGF-β分泌速度は、約32ng/10細胞/24時間であった。
【0112】
ウサギ関節軟骨欠損の再生 - ウサギアキレス腱を観察して、NIH 3T3-TGF-β1細胞の生存力をチェックした。10細胞/ml濃度では、他の2種の濃度10および10より腱が肉眼的に厚かった。部分的および完全な軟骨欠損を作製した後、10細胞/mlのNIH 3T3-TGF-β1細胞0.3mlを、膝関節に注射した。関節を、注射の2~6週後に検査した。部分的に損傷された軟骨において、本発明者らは、新たに形成された硝子軟骨を見出し、注射の2週後に硝子軟骨が出現して、注射の6週後に軟骨欠損が硝子軟骨で覆われた(図2)。再生された軟骨の厚さは、時間が経過するにつれ厚くなった(図3)。注射された細胞は、TGF-β1を分泌し、それは、TGF-β1抗体での免疫組織化学的染色により観察され得た(図3)。TGF-β1トランスフェクションを行わなかった正常線維芽細胞を注射された反対側は、硝子軟骨で覆われなかった。部分的に損傷された領域では、再生された硝子軟骨が、サフラニン-O染色で赤色に着色された(図4)。(新たに形成された軟骨の深さは、欠損の深さとほぼ同一であった)。この知見から、注射された細胞がパラクリンの作用機序を通して周囲の正常な軟骨の細胞を活性化することが示唆される。
【0113】
完全に損傷された軟骨中の再生組織は、硝子軟骨ではなく線維性コラーゲンであった。サフラニン-O染色におけるそれらの色は、硝子軟骨で得られた赤色ではなく白色であった(図5)。軟骨は、線維性組織により覆われており、これらの細胞がオートクリン様式のみで活性化されたことを意味した。TGF-βにより刺激され得る周辺の骨細胞は、厚い石灰化骨基質の存在によりTGF-βでの刺激から遮断されたようであった。注射された細胞は、このバリアのせいで、骨細胞を刺激することができなかった可能性がある。
【0114】
TGF-β1トランスフェクト細胞を、ウサギアキレス腱に注射した。そのように操作された腱は、肉眼では対照の腱より厚い形態を呈した(図7)。腱の切片のH&E染色から、注射されたNIH 3T3-TGF-β1細胞が生存していて、ウサギアキレス腱内で線維性コラーゲンを生成することが、顕微鏡検査下で示された(図8)。TGF-β1抗体で免疫組織化学的に染色された再生腱組織の顕微鏡検査から、腱におけるTGF-β1の発現が示された(図9)。
【0115】
実施例III
対照NIH 3T3またはNIH 3T3-TGF-β1のどちらかの細胞(5~7×10)に、6000rad(60Gy)を放射線照射して、ウサギ膝関節に注射した。これらの放射線照射された細胞は、組織培養皿の中で3週間内に完全に死滅した。注射の手順は、未処置細胞での過去のプロトコルと同様であった。膝関節を、注射後3または6週目に採取した。標本をホルマリンに固定し、硝酸で脱灰した。標本の切片を作製し、パラフィンで包埋し、その後、0.5μm厚の薄片に切り出した。図10では、サフラニン-O染色(A~D&A’~D’)およびヘマトキシリン-エオジン染色(E~F&E’ ~F’)を切片で実施して、再生軟骨組織を顕微鏡で観察した。(本来の倍率:(A、B、A’&B’)×12.5;(C~F&C’ ~F’)×400)。
【0116】
実施例IV
対照ヒト包皮線維芽細胞(hFSF)またはhFSF-TGF-β1細胞のどちらかを、大腿顆の部分的軟骨欠損(3mm×5mm、1.5mm深)を含有するウサギ膝関節に注射した。これらの細胞(2×10細胞/mlの0.5ml)を過去のプロトコルの通り注射するか、または同じ濃度の20~25μl細胞を、欠損の最上部に載せた。後者の場合、細胞を欠損内に15~20分間放置して、それらを欠損の底部に定着させた後、縫合した。両方の例で、類似のレベルの軟骨再生が、得られた。標本を注射後6週目に採取して、顕微鏡で観察した。図11A&Bは、hFSF(A)またはhFSF-TGF-β1(B)のどちらかの細胞の注射の6週後の大腿顆の写真を示す。C、E&Gは、対照hFSF細胞を注射された大腿顆の切片のサフラニン-O染色(C&E)およびH&E染色(G)を示す。D、F、&Hは、hFSF-TGF-β1細胞を注射された大腿顆の切片のサフラニン-O染色(D&F)およびH&E染色(H)を示す。(本来の倍率:(C&D)×12.5;(E~H)×400)。
【0117】
実施例V
対照NIH 3T3またはNIH 3T3-TGF-β1のどちらかの細胞を、大腿顆の部分的軟骨欠損(6mm×6mm、2mm深)を含有するイヌ膝関節に注射した。これらの細胞(2×10細胞/mlの4ml)を過去のプロトコルの通り注射するか、または同じ濃度の30~35μl細胞を、欠損の最上部に載せた。後者の場合、細胞を欠損内に15~20分間放置して、それらを欠損の底部に定着させた後、縫合した。両方の例で、類似のレベルの軟骨再生が、得られた。標本を注射後6週目に採取して、顕微鏡で観察した。図12A&Bは、NIH 3T3(A)またはNIH 3T3-TGF-β1(B)のどちらかの細胞の注射の6週後の大腿顆の写真を示す。C、E&Gは、対照NIH 3T3細胞を注射された大腿顆の切片のサフラニン-O染色(C&E)およびH&E染色(G)を示す。D、F、&Hは、NIH 3T3-TGF-β1細胞を注射された大腿顆の切片のサフラニン-O染色(D&F)およびH&E染色(H)を示す。(本来の倍率:(C&D)×12.5;(E~H)×400)。
【0118】
実施例VI
再生軟骨組織におけるTGF-β1タンパク質の発現を調査するために、注射の3週後の修復組織の免疫組織化学的染色を、TGF-β1抗体で実施した。結果から、再生軟骨の細胞のみで高レベルのTGF-β1タンパク質発現が示され、それらの多くは、新たに作製された軟骨細胞と思われた(図13A&B)。二次抗体のみでプローブされた同組織からの切片には、染色は見られなかった(図13C)。(本来の倍率:A×12.5;(B~C)×40)。
【0119】
ウサギ膝関節を採取した後、標本をホルマリンで固定し、硝酸で脱灰した。標本の切片を作製し、パラフィンで包埋し、その後、0.8μm厚の薄片に切り出した。切片をパラフィン除去して、キシレンおよびエタノール中での連続インキュベーションにより水和させた。1×PBSで2分間洗浄した後、切片を3%Hで10分間ブロックした。TGF-β1タンパク質に対する一次抗体を切片に塗布して、1時間インキュベートした。このステップでは、対照切片を、一次抗体を含まない1×PBS中でインキュベートした。切片を洗浄して、1×PBS中の5%乳で20分間ブロックした後、HRPコジュゲート二次抗体と共にインキュベートした。色素生成反応を、1×PBS中の0.05%ジアミノベンジジン(DAB)と共に5分間実施した。その後、切片をヘマトキシリンで染色して、取り付けた。
【0120】
この試験での免疫組織化学的染色データおよびイヌモデル試験のデータから、現行の細胞治療法での硝子軟骨再生の分子メカニズムの可能性が示唆される。膝関節に注射された線維芽細胞は、「逆行性分化」タイプの工程のように、どうにかして未知の経路を通して軟骨細胞に分化した可能性がある。この経路はおそらく、インビボで注射された線維芽細胞から分泌されたTGF-β1により開始され、TGF-β1作用のパラクリンまたはオートクリン様式と同様にこの経路内を進行する様々な因子を、残留する軟骨細胞および線維芽細胞に放出させた。
【0121】
実施例VII
インビボで同時注射された組換えTGF-β1タンパク質により刺激された正常軟骨細胞が軟骨組織の再生を誘導し得る可能性を、探索した。ヒト軟骨細胞を様々な量の組換えTGF-β1タンパク質と混合した。この混合物を、ウサギまたはイヌの大腿顆の中間層軟骨欠損を含有する膝関節に注射した。
【0122】
図14A~14Dは、ウサギにおける正常ヒト軟骨細胞(hChon)と組換えTGF-β1タンパク質との混合物での軟骨再生を示す。hChonと組換えTGF-β1タンパク質との混合物またはhChon対照のどちらかを、大腿顆の中間層軟骨欠損(3mm×5mm、1~2mm深)を含有するウサギ膝関節に注射した。混合物(15~20μlの2×10NIH 3T3細胞/mlおよび1、20、50、または90ngの組換えTGF-β1タンパク質)を、欠損の最上部に載せ、その後、欠損中で15~20分間放置して混合物を創傷に浸透させた後、縫合した。標本を注射後6週目に採取して、顕微鏡で観察した。図1Aおよび1Cは、hChonと組換えTGF-β1タンパク質との混合物またはhChonのみ(C)のどちらかの注射の6週後の大腿顆の写真を示す。図1Bおよび1Dは、hChonと組換えTGF-β1タンパク質との混合物またはhChonのみ(D)のどちらかを注射された大腿顆からの切片のマッソントリクローム染色を示す。
【0123】
結果から、軟骨再生がhChonと組換えTGF-β1タンパク質 1ngとの混合物では起こらなかったが(データを示さない)、硝子様軟骨が混合物中の10、50、または90ng組換えTGF-β1タンパク質で誘導されたことが示される。これらの結果はまた、組換えTGF-β1タンパク質の量が混合物中で増加するにつれて硝子様軟骨の再生がより多く誘導されることを示しており、軟骨再生が投与されたTGF-β1タンパク質の量に依存することが示される。
【0124】
実施例VIII
図15A~15Fは、イヌにおける正常軟骨細胞(hChon)と組換えTGF-β1タンパク質との混合物での軟骨再生を示す。hChonと組換えTGF-β1タンパク質との混合物またはhChon対照のどちらかを、大腿顆の中間層軟骨欠損(3mm×10mm、1~2mm深)を含有するイヌ膝関節に注射した。混合物(20~25μlの2×10hChon細胞/mlおよび100、200または400ngの組換えTGF-β1タンパク質)を欠損の最上部に載せ、その後、欠損中で15~20分間放置して混合物を創傷に浸透させた後、縫合した。標本を注射後8週目に採取して、顕微鏡で観察した。図2A、2Cおよび2Eは、hChonと200ng(A)または400ng(B)組換えTGF-β1タンパク質との混合物またはhChonのみ(E)のどちらかの注射の8週後の大腿顆の写真を示す。図2B、2Dおよび4Fは、hChonと200ng(A)または400ng(B)組換えTGF-β1タンパク質との混合物またはhChonのみ(F)のどちらかを注射された大腿顆からの切片のマッソントリクローム染色を示す。
【0125】
結果から、軟骨再生がhChonと100ng 組換えTGF-β1タンパク質との混合物では起こらないが(データを示さない)、硝子様軟骨が混合物中の200ngまたは400ng 組換えTGF-β1タンパク質で誘導されることが示された。イヌにおけるこれらの結果はまた、硝子様軟骨の再生が混合物中の組換えTGF-β1タンパク質の量に依存することを示している。
【0126】
本発明の詳細な実施形態を、例示を目的として先に記載したが、本発明の詳細の数多くの変形が、添付の特許請求の範囲に定義された本発明から逸脱することなく施され得ることは、当業者に明白であろう。
【0127】
本明細書で引用された参考資料は全て、全体として参照により組み入れられる。
【0128】
参考資料
Andrew JG, Hoyland J, Andrew SM, Freemont AJ and Marsh D: Demonstration of TGF-β1 m-RNA by in situ hybridization in normal fracture healing. Calcif Tissue Int, 52: 74-78, 1993.
Bourque WT, Gross M and Hall BK: Expression of four growth factors during fracture repair. Int J Dev Biol, 37: 573-579, 1993.
Brand T and Schneider MD: Inactive type II and type I receptors: TGF-β are dominant inhibitors of TGF-β dependent transcription. J Biol Chem, 270: 8274-8284, 1995.
Brittberg M, Lindahl A, Nilsson A, Ohlsson C, Isaksson O and Peterson L: Treatment of deep cartilage defects in the knee with autologous chondrocyte transplantation. New Engl J Med 331: 889-895, 1994.
Carrington JL, Roberts AB, Flanders KC, Roche NS and Reddi AH: Accumulation, localization and compartmentation of TGF-β during enchondral bone development. J Cell Biology, 107: 1969-1975, 1988.
Centrella M, Massague J and Canalis E: Human platelet-derived transforming growth factor-β stimulates parameters of bone growth in fetal rat calvariae. Endocrinology, 119: 2306-2312, 1986.
Cheifetz S, Weatherbee JA, Tsang MLS, Anderson JK, Lucas R, Massague J: Transforming growth factor beta system, a complex pattern of cross-reactive ligands and receptors. Cell, 48: 409-415, 1987.
Chenu C, Pfeilschifter J, Mundy GR and Roodman GD: TGF-β inhibits formation of osteoclast-like cells in long-term human marrow cultures. Proc Natl Acad Sci, 85: 5683-5687, 1988
Critchlow MA, Bland YS and Ashhurst DE: The effect of exogenous transforming growth factor-β2 on healing fractures in the rabbit. Bone, 521-527, 1995.
Dallas SL, Miyazono K, Skerry TM, Mundy GR and Bonewald LF: Dual role for the latent transforming growth factor beta binding protein (LTBP) in storage of latent TGF-β in the extracellular matrix and as a structural matrix protein. J Cell Biol, 131: 539-549, 1995.
Dumont N, O‘Connor M and Philip A: Transforming growth factor receptors on human endometrial cells: identification of the type I and II receptors and glycosyl-phosphatidylinositol anchored TGF-β binding proteins. M Cell Endo, 111: 57-66, 1995.
Frenkel SR, Toolan B, Menche D, Pitman MI and Pachence JM: Chondrocyte transplantation using a collagen bilayer matrix for cartilage repair. J Bone J Surg [Br] 79-B: 831-836, 1997.
Heine UI, Munoz EF, Flanders KC, Ellingsworth LR, Peter Lam H-Y, Thompson NL,Roberts AB and Sporn MB: Role of Transforming Growth Factor-β in the development of the mouse embryo. J Cell Biology, 105: 2861-2876, 1987.
Jenks S: Gene therapy: mastering the basics, defining details [news]. J Natl Cancer Inst, 89(16): 1182-1184, 1997.
Joyce ME, Roberts AB, Sporn MB and Bolander ME: Transforming Growth Factor-β and the initiation of chondrogenesis and osteogenesis in the rat femur. J Cell Biology, 110: 2195-2207, 1990.
Lind M, Schumacker B, Soballe K, Keller J, Melsen F, and Bunger: Transforming growth factor-β enhances fracture healing in rabbit tibiae. A Orthop Scand, 64(5): 553-556, 1993.
Lopez-Casillas F, Chifetz S, Doody J, Andres JL, Lane WS Massague J: Structure and expression of the membrane proteoglycan component of the TGF-β receptor system. Cell, 67: 785-795, 1991.
Madri JA, Pratt BM and Tucker AM: Phenotypic modulation of endothelial cells by Transforming Growth Factor-β depends upon the composition and organization of the extracellular matrix. J Cell Biology, 106: 1375-1384, 1988.
Mankin HJ: The response of articular cartilage to mechanical injury. J Bone Joint Surg, 52A: 460-466, 1982.
Massague, Ann. Rev. Biochem. 67:753-791, 1998.
Matsumoto K, Matsunaga S, Imamura T, Ishidou Y, Yosida H Sakou T: Expression and distribution of transforming growth factor-β during fracture healing. In vivo, 8: 215-220, 1994.
Miettinen PJ, Ebner R, Lopez AR and Derynck R: TGF-β induced transdifferentiation of mammary epithelial cells to mesenchymal cells: involvement of type I receptors. J Cell Biology, 127-6: 2021-2036, 1994.
O’Driscoll, J. Bone Joint Surg., 80A: 1795-1812, 1998.
Ozkaynak E, Rueger DC, Drier EA, Corbett C and Ridge RJ: OP-1 cDNA encodes an osteogenic protein in the TGF-β family. EMBO J, 9: 2085-2093, 1990.
Rosenburg L: Chemical basis for the histological use of Safranin-O in the study of articular cartilage. J Bone Joint Surg, 53A: 69-82, 1971.
Sampath TK, Rueger DC: Structure, function and orthopedic applications of osteogenic protein-1 (OP-1). Complications in Ortho, 101-107, 1994.
Snyder SH: The molecular basis of communication between cells. Sci Am, 253(4): 132-140, 1985.
Sporn MB and Roberts AB: Peptide growth factors are multifunctional. Nature (London), 332: 217-219, 1988.
Wakefield LM, Smith DM, Flanders KC and Sporn MB: Latent transforming growth factor-β from human platelets. J Biol Chem, 263, 7646-7654, 1988.
Wolff JA and Lederberg J: A history of gene transfer and therapy. John A. Wolff, Editor. Gene Therapeutics, 3-25, 1994. Birkhauser, Boston.
Wrana JL, Attisano L, Wieser R, Ventura F and Massague J: Mechanism of activation of the TGF-β receptor. Nature, 370: 341-347, 1994.
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A-11H】
図12A-12H】
図13A
図13B
図13C
図14
図15