(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】生物学的結合分子
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240730BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240730BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240730BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240730BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K19/00
C07K16/46
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61P35/02
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2021564806
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2019061308
(87)【国際公開番号】W WO2020221466
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520002209
【氏名又は名称】アー・ファウ・アー ライフサイエンス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AVA Lifescience GmbH
【住所又は居所原語表記】Norsinger Strasse 30, 79189 Bad Krozingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー クラップロート
(72)【発明者】
【氏名】マーク アー. ケセマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ビアスナー
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008129(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008128(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号18による配列を有する軽鎖の存在を特徴とするB細胞受容体に選択的に結合するが、配列番号18による軽鎖を持たないB細胞受容体には結合しない、生物学的結合分子であって、
前記生物学的結合分子は、抗体またはその抗原結合部位を有する断片であり、それぞれ配列番号19、配列番号20および配列番号21で表される重鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3と、それぞれ配列番号22、配列番号23および配列番号24で表される軽鎖可変領域のCDR1、CDR2およびCDR3を含む、生物学的結合分子。
【請求項2】
T細胞特異的活性化ドメインとの融合タンパク質の形態である、請求項1記載の生物学的結合分子。
【請求項3】
B細胞新生物を単離または殺滅する少なくとも1つの追加の領域を含む、請求項1または2記載の生物学的結合分子。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の生物学的結合分子を、予防および/または治療目的で含む、組成物。
【請求項5】
前記B細胞受容体の軽鎖および/または重鎖に対する抗体またはその抗原結合部位を有する断片をさらに含む、請求項4記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体またはその断片の産生、同定および選別の分野、ならびに特に悪性B細胞新生物などの癌疾患の予防および治療および付随する診断の範囲におけるそれらの使用に関する。
【0002】
悪性B細胞新生物は、一般的に造血系またはリンパ系の悪性疾患を示す。それらは、たとえば白血病などの臨床像を含み、広義では癌疾患に属している。白血病は、白血病細胞とも呼ばれる機能不全の白血球細胞前駆体の形成が大幅に増加することを特徴としている。これらの細胞は骨髄に広がり、そこで通常の血液形成を置換し、通常であれば末梢血に増殖して蓄積する。それらは、肝臓、脾臓、リンパ節および別の器官に浸潤し、それによってそれらの機能を損なう可能性がある。血液形成の障害は、正常な血液成分の減少につながり、その結果、酸素輸送赤血球の不足、止血作用のある血小板の不足、および成熟した機能的白血球の不足による貧血が生じる可能性がある。
【0003】
病気の経過に応じて、急性白血病と慢性白血病とに区別される。急性白血病は生命を脅かす疾患であり、これは治療せずに放置すると数週間~数ヶ月で死に至る。これに対して、慢性白血病はたいてい数年にわたって進行し、しばしば初期段階で症状は低下する。
【0004】
白血病の最も重要な形態は次のとおりである:
・急性骨髄性白血病(AML)
・慢性骨髄性白血病(CML)
・急性リンパ性白血病(ALL)
・慢性リンパ性白血病(CLL)
【0005】
通常、白血病は化学療法の範囲で治療される。これに関して、より最近の治療では、リツキシマブおよびオファツムマブと同様にCD20抗体として作用し、慢性リンパ性白血病(CLL)の治療に使用される、たとえばGA101(オビヌツズマブ)などのモノクローナル抗体の使用がますます増えている。これらの抗体を使用することによって、無寛解期間を約10ヶ月延ばすことができる。
【0006】
造血系またはリンパ系の別の悪性疾患(悪性B細胞新生物)は、たとえばホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫のB細胞バリアントなどのリンパ腫に影響を与える。
【0007】
受容体に対する抗体が作製されると、通常であれば、動物は受容体(精製、クローン化、またはペプチド断片として)で免疫化され、ハイブリドーマ細胞が作製される。これらのハイブリドーマ細胞は抗体を産生し、ELISAまたは発現受容体を使用して細胞系で試験される。従来、確立された細胞株がこのために使用される。なぜなら、これらだけが簡単に培養され得るからである。この場合、特定の受容体型(たとえば抗IgG1、抗IgE)に比較的特異的に結合する抗体を作製することができる。しかしながら、これは、しばしば他の受容体または他のエピトープとの交差反応につながる。
【0008】
BCR抗体の診断または治療用途において、一般的にBCRに対する抗体を1つだけ使用するのでは、たいていの場合十分ではない。なぜなら、そのような広いスペクトルの使用は、偽陽性の結果につながる、あるいはかなりの副作用を引き起こす可能性があるからである。そうではなく、配列番号18によるエピトープVL3-21を持つ軽鎖を有する受容体に選択的に結合する抗体を提供することが望ましいだろう。この軽鎖のエピトープは、新生物性のB細胞で過剰に発現している。そのような抗体は、先行技術では知られておらず、その産生または選別による取得のための方法は存在していない。
【0009】
白血病の治療のための先行技術の治療は、患者にとって非常に負担が大きい。概して、治療の望ましくない副作用と、薬物の多くの場合に不十分な効果とが、この疾患の高い死亡率につながると約言することができる。というのも、腫瘍細胞だけでなく、免疫系の健康な細胞も損傷されるからである。そのうえ、多くの場合、治癒に至らず、疾患が無寛解で進行する特定の期間が生じるだけである。それゆえ、治療すべき患者の特定および選択ならびに個々の治療計画の作成には、特定の形態の悪性B細胞新生物を区別して検出することができる診断手段および診断方法を使用することが重要である。
【0010】
それゆえ、本発明の課題は、特に診断、予防および/または治療用途の代替的な抗体などの代替的な構想および作用物質を提供して、先行技術の既存の問題を克服することである。有利には、本発明は、抗体の治療用途に適した表面構造の存在の検出(「コンパニオン診断」)にも適していることが望ましい。
【0011】
本発明の個々の態様を詳細に議論する前に、本明細書の範囲で使用される関連用語の意味を明らかにする。
【0012】
本明細書で使用される「新生物」という用語は、一般的に、新しい身体組織の形成を指す。これが病理学的または悪性の症状である場合、悪性新生物についてのものである。つまり、悪性B細胞新生物は、B細胞の悪性で制御されない新しい組織の形成であり、この用語は、たとえば白血病やB細胞リンパ腫などのすべてのB細胞関連癌疾患に等しく適用される。
【0013】
「新生物を殺滅する領域」とは、直接的または間接的な作用の結果として新生物を殺滅することができる。特定の抗体を治療で使用する場合、抗体またはその機能的断片、あるいはその抗体またはその断片を含む別の生物学的結合分子に分子を結合させることで、抗体またはその断片の結合による効果を超えた効果を発揮させることができる。このような分子は、たとえば、免疫毒素、サイトカイン、キレート剤、放射性同位元素、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0014】
「生物学的結合分子」とは、本明細書では、たとえば、融合タンパク質を含む抗体を指すがこれに限られない。有利には、それゆえ好ましくは、そのような抗体は、IgG抗体、IgM抗体、ヒト化IgG抗体、およびエピトープの認識配列が挿入されるヒト抗体からなる群から選択される。このような結合分子は、抗体全体の機能的断片の形態、たとえばFab断片で提供されてもよい。また、結合分子は、たとえば新生物の殺滅/死滅につながり、それに応じて免疫毒素および/または免疫サイトカインの機能を有する領域をさらに含んでいてもよい。特に、このような結合分子は、膜または細胞に結合していてもよい。そのような膜結合型の結合分子は、たとえば、CAR-T細胞のキメラ抗原受容体である。
【0015】
さらに結合分子は、さらに別の領域または追加のエンティティも含む場合があり、その使用は診断用途の範囲で有利である。これらは、フローサイトメトリーを使用する蛍光色素(たとえば:FITC、R-フィコエリトリン(R-PE)、アロフィコシアニン(APC))あるいはまたビオチンや、当業者に知られている他の物質である。結合分子はさらに、免疫組織化学プロセスの範囲で基質変換酵素(たとえばHRP)と一緒に使用することもできる。さらに、診断目的で融合タンパク質を提供することもでき、この場合、たとえば緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質が検出のために抗体のFC部分に結合して存在する。
【0016】
B細胞の表面のB細胞受容体複合体(BCR)の機能は、病原体を認識して結合することである。この結合は、BCRの構造変化をもたらし、それによって最終的にB細胞の活性化をもたらすシグナル伝達カスケードを引き起こす。BCRは、成熟中のB細胞で非常に多様に形成される。
【0017】
B細胞の発生は、ヒトや他のいくつかの哺乳類でも、骨髄または胎児肝臓において起こる。発生プログラムに必要なシグナルは、いわゆる間質細胞から発生するリンパ球が受け取る。B細胞の発生では、機能するB細胞受容体(「抗体」の膜結合型)の形成が非常に重要である。成熟B細胞は、この抗原受容体によってのみ、後に外来抗原を認識し、対応する抗体を形成することにより敵性の構造に結合することができる。受容体の抗原特異性は、特定の遺伝子セグメントを連結することによって決定される。セグメントはV-、D-およびJ-セグメントと呼ばれることから、プロセスはV(D)J再構成と呼ばれる。B細胞受容体の抗原結合部分を形成するこれらのセグメントは再編成される。受容体全体は、2つの同一の軽タンパク質鎖と2つの同一の重タンパク質鎖とで構成され、重鎖と軽鎖とはそれぞれジスルフィド架橋で連結されている。
【0018】
軽鎖はそれぞれ可変ドメインおよび定常ドメインからなり、可変領域は抗原認識に決定的な役割を果たし、定常領域は5つの免疫グロブリンクラスを決定し、T細胞受容体の場合は膜への固定を担っている。軽鎖は、V遺伝子およびJ遺伝子のプール、ならびに定常鎖のラムダまたはカッパから、体細胞の組換えによって構成される。重鎖は、可変部を構成する3つの部分(V、D、J)である。従来は特に重鎖が研究の中心であり、非常によく研究されている一方で、軽鎖にはこれまでほとんど注意が払われていない。軽鎖には2つの遺伝子座が知られている。すなわち、40Vの遺伝子セグメントを持つカッパの遺伝子座、および30Vの遺伝子セグメントを持つラムダの遺伝子座である。CLLでは、特定の組み合わせが、対応するB細胞に優位に発生する(Stamatopoulus et al 2005 (BLOOD Vol 106, Nummer 10)。特に、CLL患者のB細胞を解析したところ、自律的に活性なBCRを有する驚くほど多くの患者の細胞にV鎖VL3-21が存在することがわかった。V鎖VL3-21には3つのバリアントが存在することが知られており、これらのバリアントは最大で2つのアミノ酸が互いに異なるため、本発明に関して同じ効果で使用することができる。
【0019】
免疫グロブリンおよびT細胞受容体の特異性の大きなレパートリーは、それぞれの分子に個別の遺伝子が存在する場合にはゲノムのサイズを超えることになるが、これは特に、個々の遺伝子セグメント(V、D、J)が再配列前に複数のコピーで存在しており、これらがリンパ球の成熟期に一種の組み合わせ錠のように互いに任意に組み合わせ可能であることにより実現されている。
【0020】
VDJ再構成では、B細胞受容体の重鎖のV-、D-およびJ-セグメントが最初に連結され、その後に受容体軽鎖のV-およびJ-セグメントが連結される。これに関して、産生的な遺伝子再編成と呼ばれる遺伝子の再編成に成功した場合のみ、細胞はそれぞれ次の発生期に進むことができる。
【0021】
骨髄でのその成熟中に身体自身の抗原に反応するB細胞は、たいていの場合、アポトーシスによって死滅する。健康なヒトの血液では、特にサイログロブリンあるいはまたコラーゲンに対する少量の自己反応性細胞を検出することができる(Abul K.Abbas:Diseases of Immunity in Vinay Kumar,Abul K.Abbas,Nelson Fausto:Robbins and Cotran-Pathologic Basis of Disease;7th edition;Philadelphia 2005,p.224f)。
【0022】
そのようなBCRを作製するプロセスは遺伝子セグメントのランダムな集合に基づいていることから、新しく形成されたBCRは不必要に生体構造を認識し、したがって「恒久的に活性化される」ことが起こり得る。そのような「恒久的に活性なまたは活性化された」BCRの形成を妨げるために、さまざまな生体保護メカニズムが存在する。しかしながら、発生中のB細胞の病理学的変化に基づきこれらが克服されると、それにより悪性あるいはまた自己免疫表現型疾患が発生する可能性がある。
【0023】
対照的に、「自律的に活性な」または「自律的に活性化された」BCRは、恒久的に活性なBCRの特別な種類である。従来の活性化は外部抗原から出発するが(上記を参照)、自律的に活性なBCRは、同じ細胞の表面の膜構造との相互作用から生じる。CLLの臨床像については、同じ細胞の表面で互いに隣接して存在するBCR間の自律的な活性化を引き起こす相互作用を示すことができていた(M.Duehren-von Minden et.al;Nature 2012)。自律的に活性なBCRのもう1つの例はプレBCRであり、これはB細胞の発生を通じて発生チェックとして発現される。一方で、隣接する受容体(BCR:BCR)の相互作用に加えて、受容体と膜タンパク質(BCR:膜タンパク質)との相互作用も、自律的に活性なBCRまたは活性化されたBCRをもたらす。
【0024】
本発明によるこれらの課題の解決は、CLLを持つ患者の腫瘍細胞上に自律的に活性なB細胞受容体または自律的に活性化されたB細胞受容体があること、およびこれらの自律的に活性な受容体または活性化された受容体が、同じ患者の健康な細胞の対応する受容体では検出することができない共通のエピトープの存在を特徴としていることの驚くべき知見に基づいている。したがって、これらの細胞は、上記エピトープの存在を特徴とする自律的に活性なB細胞受容体の存在に基づき、抗体によって特異的に認識され、治療されるため、この特性を有しない健康なB細胞は巻き添えにされず、それによって治療をより明らかに特異的に、望ましくない副作用を少なくして実施することができる。
【0025】
しかしながら、本発明のために実施された多数の実験の範囲で、驚くべきことに、これらの変性された受容体領域(エピトープ)に対して特別な特異性を有する抗体は、通常の標準的な方法を用いて産生および選別することができないことが判明した。結合研究の範囲で遺伝子改変された細胞が使用されるように実験条件が適応され、この細胞の変性されたB細胞受容体がネイティブかつ活性化された状態になった後にのみ、所望の必要な特異性を有する適切な抗体を得ることができた。言い換えると、本発明により提案された解決策にとって、適切な診断、予防または治療用抗体の選別のために結合研究で使用される細胞は、それらの変性された領域(エピトープ)を、大部分がネイティブかつ活性化された形態で提示することが不可欠である。これに関して、いわゆるプロ/プレB細胞が生理学的構成に基づき特に適していることがわかった。したがって、このような特異的抗体および同様にこの特異的結合挙動も有するその機能的断片の提供により、腫瘍特異的診断と、治療の成功が大幅に改善され、望ましくない全身効果が減少したおかげで、治療の成功が大幅に向上したことを特徴とする治療とが可能になる。
【0026】
既述のとおり、抗体またはその機能的断片の形態の生物学的結合分子、およびエピトープVL3-21を有するB細胞受容体を有するB細胞に加え、主に自律的に活性な膜結合B細胞新生物の免疫グロブリンの変性されたエピトープにも選択的に結合するそのような結合分子を産生(同定および選別)する方法が提供される。さらに、このような結合分子を用いた診断法や予防法に加え、治療法も提案されており、ここで、治療的用途とは、このような膜結合免疫グロブリンを発現している細胞の成長の阻害や殺滅を指す。診断法とは、主にB細胞のBCRの軽鎖にVL3-21が存在することを特徴とするこの受容体サブタイプを、特に提案された抗体を使用するという治療上の決定に関連して、in vitroで検出することを指す(「コンパニオン診断」)。
【0027】
一般的に、白血病およびリンパ腫は、免疫毒素および/または免疫サイトカインを用いた治療の魅力的なターゲットである。B細胞悪性患者の反応は、免疫毒素活性の第I/II相臨床試験で広範囲に研究されている(Amlot et al., (1993), Blood 82, 2624-2633; Sausville et al., (1995), Blood 85, 3457-3465; Grossbard et al., (1993), Blood 81, 2263-2271; Grossbard et al., (1993) Clin. Oncol. 11, 726-737)。これまで、いくつかの抗腫瘍反応が認められたが、正常組織に対する免疫毒素を介した毒性ゆえに、治療量にまで用量を増やせないことが多かった。たとえばCD19、CD22およびCD40などのいくつかのB細胞特異的抗原が免疫毒素の標的として選択されており、これらは、リシンA鎖などの植物性毒素や、シュードモナス外毒素A(PE)などの細菌性毒素により生成されたものである(Uckun et al., (1992), Blood 79, 2201-2214; Ghetie et al.,(1991), Cancer Res. 51, 5876-5880; Francisco et al., (1995), Cancer Res. 55, 3099-3104)。
【0028】
膜結合免疫グロブリンは、標的化された、すなわち特定の免疫療法によく適した標的である。骨髄でのB細胞の発生中、1つ1つのB細胞前駆体は、個々の遺伝子セグメントを再配列することによって、その固有のほぼ独自のB細胞受容体(BCR)を作製する。
【0029】
自律的に活性なBCRの2つのバリアント(サブセット2;サブセット4)が知られており、そのそれぞれ特徴的な分子モチーフ(エピトープ)に関して互いに異なる(Minici,C.et al.,Distinct homotypic B-cell receptor interactions shape the outcome of chronic lymphocytic leukaemia,Nature Comm.(2017))。両方のバリアントは、これらのバリアントにそれぞれ特異的な異なる短いアミノ酸配列を有する。当業者は、上掲のサブセットに加えて、他のCLL-B細胞受容体も自律的に活性であることを認識している。これに関して、受容体の自律的に活性な機能に重要なサブセット2の領域は、軽鎖のアミノ酸配列KLTVLRQPKA(配列番号1)およびVAPGKTAR(配列番号2)を特徴とし、受容体の自律的に活性な機能に重要なサブセット4の領域は、重鎖の可変部分のアミノ酸配列PTIRRYYYYG(配列番号3)およびNHKPSNTKV(配列番号4)によって定義される。免疫化の範囲でマウス抗体を作製するために使用されるサブセット2および4の配列は、配列番号5および6(vHC;LC)と7および8(vHC;LC)とのそれぞれに示される。完全を期すため、配列番号17(VSSASTKG)には、サブセット4のBCRの重鎖の可変部分に特異性を有する更なる標的配列または更なるエピトープが示される。したがって、配列番号3および4によるBCR(サブセット4)の自律的に活性な状態の形成に関与する標的配列(エピトープ)に加えて、配列番号17による配列は、このサブセットの更なる特徴的な特性を表す。
【0030】
重大な疾患の進行を伴う患者におけるB細胞受容体の2つのバリアントとしてのサブセット2および4の発見および特徴付けは、多数の個々の症例研究の調査に基づいており、それゆえ、可能な限り多数のBCRの他のサブタイプでは、2つの既知のサブタイプを特徴付ける同じ標的配列(エピトープ)が存在せず、重篤な疾患の進行と相関していることを意味しない点に留意されたい。
【0031】
なお、サブタイプ2および4のBCRに特異性を持つ結合分子の発見に関する本説明は、本発明によるエピトープVL3-21に特異性を持つさらなる結合分子の発見につながった予備的な作業と理解され、それ自体が並行した特許出願の対象となっていることに留意されたい。
【0032】
これらのサブセットの両方に対する抗体は、原則として標準的な方法によって、たとえばマウスで作製することが望ましいが、驚くべきことに、ペプチドを使用した免疫化により、所望の特異的抗体が形成されないことが観察された。たとえば、変性された配列領域を含むBCRの軽鎖の使用など、受容体の個々の鎖を使用した免疫化も望ましい成功を遂げなかったことから、組換え産生された可溶型のBCR(配列番号5および6を参照)でマウスが最終的に免疫化された。続いて、これらのマウスから所望の特異性を有する免疫細胞を取得し、細胞融合によってハイブリドーマ細胞にトランスフェクションすることができた。これに関して、驚くべきことに、活性抗体はELISA試験または他の標準的な方法では同定することができなかった。しかしながら、ELISAによる最初のステップで潜在的な結合パートナーとして同定されたクローンは、選別後に非特異的に結合するか、または自律的に活性な受容体(配列番号1および2を含む)に結合しないことが判明し、それゆえ廃棄しなければならなかった。
【0033】
この認識に至るまで使用されてきた方法には、ELISAやSPRなどの標準的な方法だけでなく、結合対照として細胞内FACS染色を用いた線維芽細胞での細胞内発現も含まれていた。
【0034】
更なる試験シリーズを精緻化した後、本発明による適切な結合分子の選別は、遊離受容体またはそれらの断片でも、膜結合または細胞内受容体断片でも首尾良く実施することができないことがわかった。代わりに、完全かつ機能的なB細胞受容体が膜結合でその範囲に提示された細胞系を使用してのみ選別が可能であることが観察された。これに関して、変性された領域(エピトープ)を持つBCRが、これらの細胞中または細胞上に自律的に活性で存在するか、または提示されることが非常に重要である。その条件が主に生理学的にネイティブなin situシナリオを反映しているこの手順でのみ、腫瘍細胞、すなわち細胞膜上にこの細胞型のサブセット2またはサブセット4に特徴的なエピトープを持つBCRを発現するB細胞にのみ高度に特異的かつ選択的に結合し、定義によりサブセット2または4のB細胞を表さない他のB細胞またはそれらの受容体(BCR)には結合しない抗体を同定することができた。言い換えると、この結合分子は、自律的に活性なB細胞受容体または自律的に活性化されたB細胞受容体に選択的に結合し、これらのB細胞受容体は、構造ドメインまたはエピトープ(標的配列)の存在を特徴とし、かつB細胞受容体の自律的に活性な状態または活性化された状態の原因となる。
【0035】
さらに、「トリプルノックアウト」マウス(TKO)から取得したプロ/プレB停止細胞の使用は、取扱いが困難で取得に手間がかかるにもかかわらず、これらの受容体を発現し、試験系の範囲でこれらの受容体の同定に使用されるのによく適していることがわかった。プロ/プレB細胞期は、BCRの成熟および選別を実施するように自然に設計されており、この細胞期は、それらの酵素特性(シャペロンなど)に基づき「困難な」BCR成分も正確に折り畳み、それらの表面に十分に生理学的にネイティブな形態で提示するのに特に適している。以下に説明する欠失(ノックアウト)は、組換えまたはサロゲート軽鎖(「surrogate light chain」)の使用によって所望のBCRの変化が起きることを妨げる。自律的に活性なB細胞受容体または活性化されたB細胞受容体に対する選別的-特異的結合挙動を有する抗体の選別の範囲でBCRの発現および提示のためにプロ/プレB停止細胞のこれらの細胞またはこの細胞型を使用することによって、先行技術での選別に従来使用されてきた系と比較して、一次TKO細胞の使用と、数回の継代にわたるそれらの培養とのそれぞれの高い出費を正当化するはるかに高い品質を特徴とする選別プラットフォームが提供される。
【0036】
上記の適切なハイブリドーマ細胞の選別後、モノクローナル抗体の形態で診断、予防および/または治療目的に適した抗体を大量に取得することができた。抗体の結合部位は、これらの細胞のDNAを配列決定することによって確かめることができた(配列番号9および10を参照)。対応する方法が当業者に知られており、市販もされている。これに関して、より多くの数のハイブリドーマ細胞を取得し、最良の結合活性(特異性および結合強度/親和性)を有する細胞を選別することが有利である。
【0037】
このようにして得られた結合部位に関する遺伝情報によって、それをコードする配列をヒト抗体配列のDNAと一緒に発現プラスミドに挿入して、通常の組換え経路で所望の特異性を有するヒト化モノクローナル抗体を作製した。これらのヒト化抗体は、それらの独自の特異性に基づき、従来の診断手段および作用物質と比較してより優れた診断特異性あるいは予防および治療効果を比較的わずかな副作用で示した。当業者は、これらのヒト化抗体が生物工学的手法で大量に産生することができることを理解している。合成された抗体の精製には、標準化された方法、たとえば、沈殿、ろ過およびクロマトグラフィーの組合せを適用することができ、それは当業者に周知であるが、ここで留意すべき点は、抗体を変性させず、たとえばタンパク質、発熱物質および毒素などの考えられる異物を定量的に除去することである。
【0038】
所望の抗体は、抗体がグリコシル化、たとえば、特にヒトのグリコシル化を受ける系で発現されることが好ましい。そのような系は当業者に周知であり、昆虫細胞(S2細胞)、哺乳動物細胞(CHO細胞)、および特に好ましくは、たとえばHEK293T細胞などのヒト細胞の使用を含む。
【0039】
十分に精製された抗体は、それが、特定の免疫応答を引き起こすアイソタイプ、たとえば、Fc受容体を介して腫瘍に対する免疫応答をもたらすIgGサブタイプなどを有している場合には、それ自体でも治療効果があり得る。
【0040】
一方で、抗体は断片として存在する場合もある。その場合、抗原結合部位が断片に存在すること、すなわち機能的断片であることが重要である。このような断片は、たとえば、プロテアーゼ処理によってF(ab)断片として生成することができる。これらの断片は、抗体の定常領域でトランケートされているため、新生物を殺滅するためのエフェクター分子を挿入することは、ここでは有利であり、したがって好ましいことである。
【0041】
代替的に好ましい実施形態によれば、抗体はその効果を高めるためにコンジュゲートを備えている。このコンジュゲートは、新生物を殺滅する領域であり、直接的または間接的な効果として、そのような新生物を殺滅することができる。このようなコンジュゲートの一例としては、リシンの抗体への結合があり、その優先的な共有結合は、たとえば化学的架橋剤を用いて行われる。このような分子や方法については、Greg T. Hermanson著「Bioconjugate Techniques」の第11章「Immunotoxin Conjugation Techniques」に広範に記載されている。
【0042】
さらなる好ましい実施形態によれば、抗体は、たとえば、T細胞特異的活性化ドメインとの融合タンパク質の形態の生物学的結合分子として、修飾された形で存在することもできる。このいわゆるキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor;CAR)を作製するためには、まず患者の末梢血からT細胞を採取し、in vitroで遺伝子組み換えを行って、その細胞表面にCARを発現させなければならない。その後、この改変されたT細胞を患者に再導入することで、CAR T細胞による免疫療法が実現可能となる(たとえば、N Engl J Med. 2014 Oct 16; 371 (16) : 1507-17. doi : 10.1056/NEJMoal407222参照)。
【0043】
治療目的で使用するためには、抗体は、薬学的に許容される担体を含む組成物で使用することが好ましい。
【0044】
薬学的に許容される担体とは、治療を受ける患者に生理学的に許容され、かつ投与される化合物の治療特性を維持する担体である。例示的な薬学的に許容される担体は、生理的食塩水である。他の適切な生理学的に許容される担体およびその製剤は、当業者に知られており、たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences (18. Ausgabe), Hrsg. A. Gennaro, 1990, Mack Publishing Company, Easton, PAに記載されている。
【0045】
本発明による結合分子の治療的応用のさらなる可能性は、それ自体既知のアフェレシス法であり、この方法では、患者の血液または血液サンプルの処理が、「血液洗浄」の意味で患者の体外で行われる。
【0046】
たとえば、本発明による抗体は、患者の血液サンプルから白血病細胞を分離するためのアフェレシスシステムに使用することができる。これには、原理的には、当業者に知られているように、様々な方法が適している。
【0047】
第1の例示的な実施形態によれば、抗体は、磁化可能な粒子(ビーズ)(たとえばDynabeads)に結合していてもよい。血液に抗凝固剤を投与し、患者の体外で粒子と接触させる。理想的には、腫瘍細胞1つあたり少なくとも1つの粒子、好ましくは10~100個の粒子がこの目的のために使用される。ここで、たとえば20μm未満のサイズの粒子には、通常、同じ特異性を持つ複数の抗体が含まる(粒子数は、5000/μl血液を上回る)。その後、磁石を用いてこれらの粒子を結合させてから、浄化されて残った血液を患者に戻すことができる。この治療法により、患者の血液中の腫瘍細胞の数が著しく減少する。別の実施形態によれば、粒子は20μm超のサイズを有し、また、粒子1つあたりの抗体数が多い(>100、>1000)。そのため、1つの粒子で多くのリンパ球(腫瘍細胞)を結合させ、除去することができる。これらの粒子と細胞とのコンジュゲートは、アフェレシスで通常用いられるような古典的な遠心分離によって除去される。これに必要な時間は、粒子や装置の種類によって異なるため、実験的に決定する必要がある。
【0048】
さらなる実施形態では、粒子と細胞とのコンジュゲート(特に直径20μm超の大きな粒子を使用した場合)と、細胞と結合していない遊離粒子との双方を、微細なネットワークを用いて血液から分離することができる。このようなネットワークは、たとえば、いわゆる「セルストレーナー」として市販されている。抗体を粒子にコンジュゲートする方法は、当業者には十分に知られている。手順書は、たとえばDynal社からその顧客に提供されている。
【0049】
診断用には、フローサイトメトリーまたは免疫組織化学の範囲などの標準化された方法で抗体を使用することが好ましい。有利には、診断目的のために提案された抗体、生物学的結合分子またはその機能的断片はマウス骨格を有する。フローサイトメーターでの検出は、有利には二次抗体を使用して、または代替的に、好ましくは抗体、蛍光色素、生物学的結合分子もしくはその機能的断片に直接結合した蛍光色素を使用して行われる。
【0050】
安定した貯蔵のために、抗体またはその断片を安定化された形態で提供することが有利であり得、それはしたがって好ましくもある。このために、たとえば、安定化された塩緩衝液で乾燥を行ってよい。そのような緩衝液は、たとえば、当業者に知られているリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってよい。乾燥の適切な形態は、たとえば凍結乾燥または冷凍乾燥である。
【0051】
本発明の個々の態様を、例を用いて以下により詳細に説明する。
【0052】
実験手順の詳細な説明を行う前に、以下の説明を参照されたい。
【0053】
変性されたB細胞受容体に選択的に結合する抗体の産生および同定は、主要な予期しない問題によって特徴付けられていた。ハイブリドーマの作製は、標準的な方法を使用して行った。ハイブリドーマグループからの上清をプールし、ELISA(ELISAプレート上の可溶性B細胞受容体)を使用して陽性結合事象について調べた。陽性プールを分離し、個々のクローンをテストした。これに関して、驚くべきことに、ELISAで陽性クローンはもはや同定されなかった。プールの陽性ELISAシグナルは、その後に非特異的結合であることが判明した。
【0054】
抗体の認識のためにより優れたエピトープを作製するために、BCRの軽鎖を線維芽細胞で発現させた。これにより、自律的なシグナルに関与するモチーフ(エピトープ)を運ぶタンパク質の正確な折り畳みが保証されることになる。これらの細胞を用いて、細胞内FACS解析を実施した。陽性クローン(抗体)を同定することはできなかった。
【0055】
こうした理由から、RAMOS細胞(ヒトバーキットリンパ腫細胞株)を別の実験で変性し、それらは機能的に変性されたBCRを示した。これにより、完全に正確な生合成、折り畳み、およびBCRの変性が保証されることになる。このために、CRISPRを使用して細胞自体のBCRを欠失させ、次いで「CLL受容体」を分子生物学的に再構成した(CMVベクターのエレクトロポレーション)。これらの細胞を使用して陽性結合事象をテストした。この場合も、FACSを使用して陽性クローンを検出することはできなかった。
【0056】
驚くべきことに、対照的に、CLL受容体が遺伝子シャトルによって導入されたマウスTKO(「トリプルノックアウト」)細胞(プロ/プレB停止細胞)を使用すると、陽性クローンが生まれた。そしてこれは、ヒト細胞系がこれを保証することができなかったという事実にもかかわらずである。これらの細胞は、特徴としてそれらのゲノムに以下の3つのノックアウトを有する:
- RAG2のノックアウトは、免疫グロブリンの固有の重鎖と軽鎖の体細胞組換えを妨げることから、BCRの内因性形成は排除される。これは、この発生期で、対応して処理されたB細胞の停止、遮断または「凍結」につながる。RAG1とRAG2は、最初に通常のVDJ再編成を可能にする複合体を形成することが知られていることから、RAG1のノックアウトが同じ効果を持つ手段であり、ひいてはRAG2のノックアウトに代わるものであり、本発明による教示に含まれる。
【0057】
- サロゲート軽鎖の一部であるLambda5を欠失させると、プレBCRの形成が妨げられる。プレBCRは自律的に活性であるため、これは自律的に活性な受容体の検出に干渉することになる。ここで新しいBCRが細胞にクローンニングされるため、プレBCRは、これが望ましくないサロゲート軽鎖と組み合わせて望ましい重鎖(HC)とともに表面に現れ、選別を妨げることになるという理由で望ましくない。
【0058】
- BCRシグナル経路で最も重要なアダプタータンパク質であるSLP65のノックアウトは、場合によっては再構成されたBCRによるTKO細胞の活性化を妨げる。
【0059】
RAG2またはRAG1とLambda5のノックアウトの組合せにより、重鎖(HC)のVDJセグメントの初期の再配置によって古典的に特徴付けられるプロB細胞期からプレB細胞期への移行が遮断される。それゆえ、それらはプロ/プロB細胞である。
【0060】
RAG2またはRAG1とLambda5のノックアウトは、BCRの発現および適切な抗体の選別にとって十分である。BCRの活性は、誘導性SLP65で再構成することによって測定することができる。
【0061】
ここでの選別方法は、FACS解析を使用したSLP65の誘導後のCaフラックスの測定およびIndo-1などのCa2+依存性色素の使用である。これらの方法は当業者に知られている(M.Duehren-von Minden et.al;Nature 2012を参照)。
【0062】
最初の2つのノックアウトによって、「目的のBCR」のみが表面に発現される。誘導性SLP65を使用して細胞を再構成することによって、さらに、発現されたBCRの機能を特徴付けることができ、ひいては表面のBCRの自律的に活性な状態を選別前に検証することができる。
【0063】
BCRの発現を、FACSで抗IgM抗体および抗LC抗体を用いて測定した。この目的のために、いくつかの細胞を採取し、PBSに入れた100μlの総量でそれぞれ5μlの抗体を用いて染色した。
【0064】
これらの細胞を「標的」として、FACSを使用して、BCRの自律的な活性化を基礎付けて特徴付ける変性領域に特異的に結合する抗体を同定することに成功した。そしてこれは、RAMOS細胞の同じ受容体型への結合は成功しなかったにもかかわらずである。
【0065】
このために、表面に「目的のBCR」を担持する細胞を、まずプールされた上清とともにインキュベートし、数回の洗浄ステップの後、二次抗体を使用して結合抗体を検出した。特異的選別のために、「目的のBCR」の異なるバージョンを発現するTKO細胞(TKO)を使用した。
図1に示される選別マトリックスは、CLLサブセット2BCRの選別の典型例であり、陽性クローンの同定および選別に用いた。同定をより容易にするために、ハイブリドーマの上清をプールして測定した。結合を示したグループを分離し、それぞれのハイブリドーマの上清の結合をテストした。
【0066】
選別された抗体が他のBCRバリアントではなく、変性されたBCRに特異的に結合することの確認は、2つのブランクサンプル、すなわちBCRを持たない細胞(
図1のAを参照)と非CLL-BCRを持つ細胞(
図1のEを参照)を使用して行った。白血病患者の血液からの一次B細胞は、FACSを使用して結合について調べた。選別された抗体は、標的構造を示すBCRを特異的に同定することができた。これは遺伝子レベルで確認した。この標的構造を持たないサンプルは、結合を示さなかった。
【0067】
研究において、使用したCLLサブセット2型の自律的に活性な細胞はすべて、特定の変異(R110G)に加えて、BCR軽鎖のV領域に特定の変異を有することが判明した。このエピトープバリアントは、VL3-21(配列番号18)と同定され、本発明の対象を構成する。このエピトープは、CLLの全症例の約30%において腫瘍細胞のBCR上に存在することが示されている。しかし、このエピトープは健康な細胞にも存在する。したがってこれは、腫瘍の診断や治療に利用できる、腫瘍に関連するエピトープである。特に、このV領域には多数のバリアントが存在するため、本明細書で記載するバリアントVL3-21は、「健康な」、すなわち腫瘍のないB細胞において、5%未満の細胞で発現していることになる。このように、新生物性のB細胞(腫瘍細胞)を優先的に排除し、BCRに対する非特異的な抗体の従来どおりの使用と比較して健康な非腫瘍性のB細胞の障害がはるかに少ないという治療上の可能性がある。このため、VL3-21に特異性を有する本発明により提案された抗体またはその機能的断片を用いることで、はるかに特異性がより高く、かつ患者の負担がより少ない治療を行うことができる。さらに、VL3-21に対する抗体は、たとえばCLL患者においていわゆるコンパニオン診断に使用することができる。この診断において、治療用抗体の標的構造VL3-21が腫瘍細胞上に存在することが検出され、これに対応する治療に成功の見込みのあることが証明される。
【0068】
本発明を、図面を考慮しながら、例を用いて以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】CLLサブセット2BCRの選別の典型例である選別マトリックスを示す図である。
【
図2】サブセット2に特異的な抗体の使用例を用いた解析の例を示す図である。
【0070】
例1
トリプルノックアウト細胞(TKO)の産生の出発点は、遺伝子Lambda5、RAG2およびSLP65のそれぞれのノックアウトを有するトランスジェニックマウスによって形成される(Duehren von Minden et al.,2012,Nature 489,p.309-313)。そのようなマウスの作成は当業者に知られており、先行技術に含まれる。細胞を取得するために、マウスの犠牲後に大腿骨の骨髄を抽出した。このようにして取得した細胞を、続いてプロ/プレB細胞の生存を促進する条件下で培養した(37℃、7.5%CO2、イスコベス培地、10%FCS、P/S、マウスIL7)。数回継代した後、対照のためにFACSソーティングを実施し、プロ/プレB細胞をソーティングし、続いて培養に戻した。このために使用したマーカーは当業者に知られている。
【0071】
「目的のBCR」で再構成するために、重鎖(HC)と軽鎖(LC)をコードする対応する配列を合成し、次いでCMVプロモーターを持つそれぞれの発現ベクターにクローニングした。これらをリポフェクションによってパッケージング細胞株(フェニックス細胞株)に導入した。36時間のインキュベーション後、ウイルス上清を除去し、TKO細胞のスピンフェクションに使用した。上清を取得するための作業とTKOのスピンフェクションのどちらも広く知られた方法であり、当業者に知られている。
【0072】
サブセット2B細胞受容体の構造的特徴は、対応する文献から取った(上記を参照)。例示的なCLLサブセット2VHおよび完全なLC DNAセグメントを、標準的な方法で委託メーカーにより合成させた。次いで、PCRを使用して、これらをマウスIgG1定常セグメントと融合させ、CMVベクターにクローニングした。完成したベクターの配列は、サンガー配列決定によって確認した。
【0073】
【0074】
【0075】
CLLサブセット2IgG1の発現には、HEK293T細胞ベースのヒト細胞発現系を使用した。トランスフェクションには、ポリエチレンイミン(PEI)ベースのプロトコルを使用した。数回継代した後、上清をプールし、プロテインGカラムを使用して、結合した細胞上清に含まれる培地を精製した。可溶性サブセット2IgG1の純度および品質は、ウエスタンブロッティング法によって決定した。
【0076】
モノクローナル抗体の産生は、マウスでの標準的な方法と、続いてハイブリドーマ細胞を作製することによって行った。陽性クローンのスクリーニングは、従来のようにELISAを使用して行わなかった。標的構造は膜結合受容体であるため、潜在的な抗体の結合を、細胞系でも、すなわち、この細胞型に本来備わっている細胞生理学的状態を大部分保持しながら実証することが最も重要である。まず、FACS解析を使用して、プールした上清のグループの結合事象について調べた。このために、さまざまなCLLサブセット2BCRバリアントを、それ自体ではBCRを発現することができない細胞株(TKO)の表面に発現させた。このようにしてまず、抗体が結合を示した上清を同定することができた。続いて、個々のハイブリドーマクローンの上清を、それらの結合に関してより詳細に調べて、高い親和性を有する高度に特異的なクローンを同定した。
【0077】
スクリーニング方法では、対応するCLL-BCRの重鎖(HC)と軽鎖(LC)との以下の組合せについて、先行するトランスフェクションの範囲で異なるベクターを使用し、これらの組合せをBCR再構成系の表面で使用した:
・対照(BCRを持たないトランスフェクションベクター)(
図1のAを参照)
・CLLサブセット2に典型的なHC/LCを持つベクター(VL3-21)(
図1のBを参照)
・非CLLサブセット2HC/CLLサブセット2に典型的なLCを持つベクター(VL3-21;標的モチーフR110Gを持たない)(
図1のCを参照)
・CLLサブセット2に典型的なHC/非CLLサブセット2LCを持つベクター(
図1のDを参照)
・1つの非CLLサブセット2HC/1つの非CLLサブセット2LCを持つベクター(
図1のEを参照)
・CLLサブセット2に典型的なHC/LCを持つベクター(VL3-21;変異R110G(標的モチーフ)を含む)(
図1のFを参照)。
【0078】
この選別の手順は、
図1にCLLサブセット2BCRの例を使用して概略的に示されており、「TKO」という用語はTKO細胞(上記を参照)を指す。
【0079】
1回目の選別ラウンドでは、いくつかのクローンの上清を結合して、選別マトリックスへの結合プロファイルについて調べた。「目的のBCR」への特異的結合が示されている場合、陽性結合プロファイルが提供される。そのようなプロファイルを示すグループを分離し、個々のクローンの結合プロファイルを、2回目の選別ラウンドの範囲で選別マトリックスにより再度特性評価した。モノクローナル抗体の結合は、蛍光標識された抗マウスIgG抗体を使用したFACS結合アッセイを使用して検証した。表記:A)BCRを持たない(対照);B)CLLサブセット2に典型的なBCR;C)ランダムな重鎖およびCLLサブセット2に典型的な軽鎖を持つBCR;D)CLLサブセット2に典型的な重鎖およびランダムな軽鎖を持つBCR;E)ランダムな重鎖および軽鎖を持つBCR(対照;非CLLサブセット2に典型的なBCR);F)標的モチーフ(R110G)(対照)に変異を持つCLLサブセット2に典型的なBCR。なお、軽鎖として、
図1のB、C、およびFのケースではVL3-21バリアントが使用されていることに留意すべきである。
【0080】
抗体は標的構造を持つ細胞にのみ結合するという知見に基づき(CLLサブセット2BCR;
図1のB)、自律的に活性な受容体を持つ細胞に特異的に結合する抗体がここに存在すると結論付けることができる。
【0081】
これに関して、検出に必要なBCRの正確な発現には、プロ/プレB細胞発生期にある細胞の使用が必要であることがわかった。これらの細胞は、正確な折り畳みとそれらの表面での発現とによって新しいBCRを表すために発生遺伝学的に整えられている。RAG2とLambda5の不活性化(ノックアウト)によって、内因性BCRまたはプレBCRの発現が妨げられる。SLP65の欠失とそれに続く誘導性SLP65の再構成とにより、「目的のBCR」の活性レベルを特性評価することが可能である。
【0082】
選別により選択されたモノクローナル抗体のアミノ酸配列を決定するために、個々のハイブリドーマクローンからmRNAを単離し、それらからcDNAを作製し、アンカーPCRを使用して増幅した(Rapid expression cloning of human immunoglobulin Fab fragments for the analysis of antigen specificity of B cell lymphomas and anti-idiotype lymphoma vaccination;Osterroth F,Alkan O,Mackensen A,Lindemann A, Fisch P,Skerra A,Veelken H.,J Immunol Methods 1999 Oct 29;229(1-2):141-53)。
【0083】
結合に重要な領域(CDR)を同定して配列を決定した後、これらをPCRによってヒトの抗体骨格に転写した。この目的のために、ヒトのFR領域およびマウスのCDR領域からVH配列をin silicoで作製し、その後、DNA断片として合成した。これらを、次いでPCRによりヒトIgG1と融合させ、発現に適したベクターにクローニングした。
【0084】
モノクローナル抗体を作製するために、完全な免疫グロブリンに加えて、自律シグナルの能力の領域を提示する合成ペプチドも使用した。
【0085】
サブセット2に対する特異的モノクローナル抗体は配列決定されており、これは別の特許出願の対象となっている。
【0086】
配列決定において、以下のアミノ酸配列を決定し、配列番号9は重鎖(HC)の可変部分に該当し、配列番号10は軽鎖(LC)の可変部分に該当し、印を付けた領域は、示した順序でCDR1、2および3を表す。
【0087】
【0088】
配列番号10(AVA-mAb01 LC)
【化4】
【0089】
配列番号9によるCDR1、CDR2およびCDR3に対応する重鎖の部分配列は、配列番号11~13に示され、配列番号10によるCDR1、CDR2およびCDR3に対応する軽鎖の部分配列は、配列番号14~16に表される。
【0090】
配列番号11(AVA-mAB01 CDR1 HC)
GFSLTSYG
配列番号12(AVA mAB01 CDR2 HC)
IWRGGGT
配列番号13(AVA mAB01 CDR3 HC)
ARSRYDEEESMNY
配列番号14(AVA mAB01 CDR1 LC)
GNIHSY
配列番号15(AVA mAB01 CDR2 LC)
NAKT
配列番号16(AVA mAB01 CDR3 LC)
QHFWNTPPT
【0091】
上記の手順は、CLLサブセット2に特異的な抗体を作製するための例である。サブセット4の特定の配列およびアイソタイプを使用して同じプロセスを実施した。
【0092】
例示的なCLLサブセット4VHおよび完全なLC DNAセグメントを、標準的な方法で委託メーカーにより合成させた。次いで、PCRを使用して、これらをマウスIgG1定常セグメントと融合させ、CMVベクターにクローニングした。完成したベクターの配列は、サンガー配列決定によって確認した。
【0093】
【0094】
太字の領域は、その自律的に活性な状態に関与するサブセット4のBCRの重鎖の可変部分の標的配列(エピトープ)を示している(配列番号3および4を参照)。
【0095】
【0096】
その後、廃棄されたハイブリドーマ細胞株を用いた研究により、B細胞受容体の軽鎖のVL3-21に特異的な本発明による結合分子の驚くべき発見がもたらされた。これらのハイブリドーマ細胞株のそれぞれの上澄み液は、
図1のB、
図1のC、および
図1のFによるTKO細胞株との結合を示した。
【0097】
このようにして同定された、エピトープVL3-21を持つB細胞受容体に対する特異的モノクローナル抗体の配列を決定した。その際、以下のアミノ酸配列を決定し、配列番号25は重鎖(HC)の可変部分に該当し、配列番号26は軽鎖(LC)の可変部分に該当し、印を付けた領域は、示した順序でCDR1、2および3を表す。
【0098】
配列番号25(AVA-mAb02 HC)
【化7】
【0099】
配列番号26(AVA-mAb02 LC)
【化8】
【0100】
配列番号25によるCDR1、CDR2およびCDR3に対応する重鎖の部分配列は、配列番号19~21に示され、配列番号26によるCDR1、CDR2およびCDR3に対応する軽鎖の部分配列は、配列番号22~24に表される。
【0101】
配列番号19(AVA-mAB02 CDR1 HC)
GYTFTDYA
配列番号20(AVA-mAB02 CDR2 HC)
ISTYYGDS
配列番号21(AVA-mAB02 CDR3 HC)
SRDTSNFDY
配列番号22(AVA-mAB02 CDR1 LC)
QDINSH
配列番号23(AVA-mAB02 CDR2 LC)
RANR
配列番号24(AVA-mAB02 CDR3 LC)
LQYDEFPRT
例2
本発明による教示を用いて、患者から少量の末梢血を採取した。解析のために、100μlの血液を反応容器に移し、2mlのPBS-BSA緩衝液を入れた。続いてサンプルをエッペンドルフ5804遠心機で1500rpmにて5分間遠心分離した。上清を廃棄し、沈殿物をよく混ぜた。続いて抗体を加えた。暗所で室温にて15分間インキュベートする前に、以下の表面パラメーターに対して染色を行った:1)CD19-FITC、2)CD5-PE、および3)VL3-21に特異的な抗体(APC)。その後、溶解を開始し、赤血球を溶解した。既述のとおり、細胞をPBS-BSA緩衝液で2回洗浄し、500μlの0.1%PBS-BSA緩衝液に取り込んで再懸濁した。フローサイトメーターで測定するまで、細胞を2~8℃の暗所で保管した。
【0102】
FACSによる解析は、BDCaliburで行った。個々のレーザーと検出パラメーターの設定は、デバイスメーカーの指示に従って行い、当業者には周知である。続いて、FlowJo解析ソフトウェアを使用して、解析の生データを評価した。最初にリンパ球集団をFSC/SSCブロット中で選択して標識を行った。次いで、この選択のために、CD19陽性B細胞に焦点を合わせ、VL3-21に特異的な抗体の結合を解析した。
図2は、VL3-21に特異的な抗体の使用例を用いたそのような解析の例を示している。最初の工程で、CD19陽性B細胞をさらに解析するために選択した(左パネル)。次いで、これらを特異的な抗体の結合について調べた(右パネル)。
【0103】
例3
VL3-21を持つBCRに特異性を持つ本発明による抗体を、患者の血液サンプルから白血病細胞を分離するためのアフェレシスシステムに使用した。
【0104】
患者1名から末梢血を採取した(採血管からEDTA血液を採取)。セルカウンターでリンパ球数を測定したところ、80,000リンパ球/μlであった。「腫瘍負荷」、すなわち腫瘍細胞物質を含むサンプルの負荷を決定するために、FACSによる免疫表現型解析を行った(CLL標準パネルWHO Tumorloadを使用)。次に、CLLエピトープを持つ細胞を本発明による抗体を用いて染色し、細胞がこのエピトープに対して陽性であることを検出した。次に、この血液500μlを、特異的抗体とコンジュゲートさせた5×108のMACS MicroBeads(Miltenyi Biotech)と混合した。この混合物を室温で5分間振とうした後、血液をMiltenyi LSカラムで処理した。ここで、粒子(ビーズ)とコンジュゲートしたリンパ球はカラムに残り、リンパ球をほとんど含まない血液がフロースルーとしてカラムから得られた。(製造者の指示に従って)カラムを介して二重に精製した後、FACS測定で5000リンパ球/μl未満のリンパ球数を決定することができた。白血病細胞上にVL3-21を持つBCRが存在しないCLL患者の血液を用いた対照実験では、この精製によって血液中のB細胞が予想通り大幅に減少することはなかった。
【配列表】