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特許7529693少なくとも2層を備える薄膜とその製造法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】少なくとも2層を備える薄膜とその製造法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20240730BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20240730BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20240730BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20240730BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240730BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240730BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240730BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20240730BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20240730BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C08J9/00 A
C08J9/28
B29C44/00 E
B29C67/20 B
B32B27/32 E
B32B5/32
H01M50/449
H01M50/417
H01M50/491
H01M50/457
H01M50/489
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/403 F
H01M50/403 B
H01M50/403 A
B29C55/12
B29K23:00
B29L9:00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021566163
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2020062082
(87)【国際公開番号】W WO2020225108
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】102019112089.6
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510331593
【氏名又は名称】ブリュックナー・マシーネンバウ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100082049
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敬一
(74)【代理人】
【識別番号】100220711
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 朗
(72)【発明者】
【氏名】クノッヘ・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ツィエール・マーチン
(72)【発明者】
【氏名】クーネック・ステフェン
【審査官】村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501357(JP,A)
【文献】特表2013-517152(JP,A)
【文献】特表2012-521914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの層(A)と少なくとも1つの層(B)とを備え、
層(A)は、少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)を含有し、層(B)は、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)を含む少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を含有し、
層(A)は、層(A)の総重量に対して、少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)を少なくとも50重量%含有し、層(B)は、層(B)の総重量に対して、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を少なくとも50重量%と、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)の総重量に対し、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)を少なくとも50重量%とを含有し、
少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量(Mw)は、200,000g/mol~450,000g/molの範囲であり、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)の重量平均分子量(Mw)は、500,000g/mol~1,500,000g/molの範囲であり、
少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)及び少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)は、夫々少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量よりも高い重量平均分子量を有し、薄膜の多孔率は、30%~70%の範囲であることを特徴とする二軸配向薄膜。
【請求項2】
薄膜は、層順A-B-Aに形成される少なくとも2つの層(A)と、1つの層(B)とを備える請求項1に記載の二軸配向薄膜。
【請求項3】
少なくとも1つの層(A)は、薄膜の外層を形成する請求項1又は2に記載の二軸配向薄膜。
【請求項4】
薄膜の両外層は、層(A)により形成される請求項1~3の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項5】
薄膜の層(A)の多孔率は、35%~70%の範囲にあり、層(B)の多孔率は、30%~65%の範囲にある請求項1~4の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項6】
層(A)と層(B)の総厚に対し、薄膜の全層(A)厚割合は、5%~50%の範囲にあり、全層(B)厚割合は、50~95%の範囲にある請求項1~5の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項7】
層(A)は、層(A)の総重量に対し、少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)を少なくとも80重量%を含有する請求項1~6の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項8】
層(A)は、第1のポリエチレン(PE-1)の分子量よりも大きい分子量を有するポリエチレンを含有しない請求項1~7の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項9】
層(A)は、ポリプロピレンを含有しない請求項1~8の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項10】
少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)は、第2のポリエチレン(PE-2)よりも高い平均分子量を有する少なくとも1種の第3のポリエチレン(PE-3)を更に含有する請求項1~9の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項11】
第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量(Mw)は、200,000g/mol~450,000g/molの範囲であり、第2のポリエチレン(PE-2)の重量平均分子量(Mw)は、500,000g/mol~900,000g/molの範囲である請求項1~10の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項12】
少なくとも1つの層(A)は、薄膜の外層を形成し、
層(B)は、層(B)の総重量に対して、少なくとも80重量%の少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を含有し、
薄膜全体に対し、全層(A)の総質量は、10重量%~35重量%であり、全層(B)の総質量は、65重量%~90重量%であり、
薄膜の厚さは、3μm~50μmの範囲にある請求項1~11の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項13】
薄膜は、ナノ粒子の添加物を含有する請求項1~12の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項14】
薄膜は、少なくとも1つの層(A)の表面に直接接合される少なくとも1つの無機材料製被覆部を有する請求項1~13の何れか1項に記載の二軸配向薄膜。
【請求項15】
請求項1~14の何れか1項に記載の二軸配向薄膜を備えることを特徴とする蓄電池隔離体薄膜(BSF)。
【請求項16】
請求項1~15の何れか1項に記載の二軸配向薄膜を備えることを特徴とするリチウムイオン蓄電池。
【請求項17】
200,000g/mol~600,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリエチレン(PE-1)を準備する工程と、
第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量よりも大きい400,000~1,500,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリエチレン(PE-2)を準備する工程と、
135℃~300℃の沸点を有する第1の流体(流体1)を準備する工程と、
135℃~300℃の沸点を有する第2の流体(流体2)を準備する工程と、
第1のポリエチレン(PE-1)を溶融し、溶融した第1のポリエチレン(PE-1)に第1の流体(流体1)を混合して、第1の混合物の総質量に対し、第1の流体(流体1)を30~70重量%含む第1の混合物を作成する工程、
第2のポリエチレン(PE-2)を溶融し、溶融した第2のポリエチレン(PE-2)に第2の流体(流体2)を混合して、第2の混合物の総質量に対して、第2の流体(流体2)を30重量%~70重量%含む第2の混合物を作成する工程と、
多重幅広開口金型から得られた第1の混合物と第2の混合物を共押出して、第1の混合物が少なくとも1つの層(A)を形成し、第2の混合物が少なくとも1つの層(B)を形成する多層溶融物を製造する工程と、
得られた多層溶融物を冷却して薄膜(注型薄膜)を形成する工程と、
得られた薄膜を縦方向(MD)に延伸する工程と、
薄膜に熱処理(アニール)を実施する工程と、
縦方向に延伸した薄膜を更に横方向(TD)に延伸する工程と、
再度熱処理を薄膜に実施して、薄膜内に捕捉される流体を気相に気化する工程とを含むことを特徴とする請求項1~14の何れか1項に記載の二軸配向薄膜製造法。
【請求項18】
縦方向延伸時の延伸比は、5~9の範囲であり、横方向延伸時の延伸比は、5~9の範囲であり、横方向(TD)延伸後の熱処理時に、横方向延伸比5%~10%まで薄膜を横方向に弛緩させる請求項17に記載の二軸配向薄膜製造法。
【請求項19】
縦方向(MD)延伸後の熱処理時に、縦方向延伸比5%まで薄膜を縦方向(MD)に弛緩させる請求項17又は18に記載の二軸配向薄膜製造法。
【請求項20】
薄膜の厚さは、3μm~50μmの範囲である請求項17~19の何れか1項に記載の二軸配向薄膜製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量ポリエチレンを含有する層(A)と、より高分子量のポリエチレンを含有する層(B)との少なくとも2層を備え、層(A)は、低分子量ポリエチレンを少なくとも50重量%含有し、層(B)は、高分子量ポリエチレンを少なくとも50重量%含有し、30%~70%範囲の多孔率を有する二軸配向薄膜(薄膜シート)に関連する。本発明の薄膜には、無機材料製被覆を施すことができる。本発明の別の対象物は、この種の薄膜を蒸発により製造する製造法である。
【背景技術】
【0002】
蓄圧器、特にリチウムイオン蓄圧器の製造には、隔離体(セパレータ)薄膜〔蓄電池隔離体薄膜(BSF)〕を使用して、隣接する並列の陽極と陰極(電極)とを物理的かつ電気的に分離する必要がある。隔離体薄膜は、薄くかつ軽く、電気的短絡を発生する危険性のある金属を含む忍石(デンドライト)の成長を防止すべきである。また、隔離体薄膜は、電解液を吸収して、電極表面に均一に電解液を塗布する必要がある。更に、電極間のイオン輸送を抑制せずに、電解液のイオン伝導率を十分に確保できる隔離体薄膜でなければならない。隔離体薄膜が電解液に接触しない隔離体薄膜の未充填状態では、イオンを輸送する能力は、空気等の気体透過性として現れるため、イオン伝導率の尺度として通気度(透気度)が使用される。通気度は、他の気体透過性の代替値でもある。更に、ピンホール等の欠陥又は空洞がなくかつ安価に製造できる隔離体薄膜が好ましい。
【0003】
従来では、所謂「湿式法」と「蒸発法」と呼ばれる二つの隔離体薄膜製造法が特に公知である。
【0004】
湿式法は、ポリエチレン〔通常第2のポリエチレン(PE-2型)〕を主体とする多孔質隔離体薄膜を生成する単層又は多層の注型工程である。鉱油を配合したポリエチレンを二軸押出機で均質化して溶融樹脂として押出した後、注型薄膜に成形して、樹脂材料が薄膜化される。次に、樹脂材料の順次二軸延伸を行う。鉱油は、ほぼ薄膜内に残留する。1回目の延伸後、ジクロロメタンを用いて鉱油を抽出し、次に薄膜を乾燥させて、残留するジクロロメタンを除去する。最後に、薄膜を更に横方向に延伸する。蒸留法と吸着法により、費用を要しても、抽出槽内に残留するジクロロメタンと鉱油との混合物を精製し、一部は、工程に戻される。
【0005】
鉱油の代わりに蒸発法に使用される芳香を除去した炭化水素混合物は、二軸押出工程でポリエチレンに混合される。製造する注型薄膜を順次二軸延伸する間に、注型薄膜内の溶媒は、気相に気化される。従って、芳香を除去した炭化水素混合物は、薄膜からほぼ完全に除去され、回収され、燃焼エネルギ生成に利用される。製造する薄膜は、追加の抽出工程又は後延伸を必要としない。炭化水素混合物の後燃焼工程で発生するエネルギを、再度燃焼工程に戻すことができる。燃焼工程の基本的な原理は、特許文献1に詳記される。蒸発法、共押出・蒸発法による多層薄膜の製造は、従来知られていない。
【0006】
湿式法又は蒸発法で製造される薄膜は、限定的な耐熱性しかなく、蓄圧器故障が発生することがある高温時に、薄膜の機械的特性が失われ、電気的短絡、その他の故障が発生する可能性がある。そのため、蓄圧器(電池)の隔離体薄膜に、多孔質の無機材料製(セラミック)被覆を施して、温度耐性を向上する必要がある。
【0007】
無機粒子を塗布して無機材料製被覆を薄膜に形成すると、隔離体薄膜のイオン伝導率が低下する。無機材料製被覆により、隔離体薄膜のイオン伝導率が不当なレベルに低下して、十分な耐熱性と十分なイオン伝導率とが併有する隔離体薄膜を得ることが困難となる場合が多い。特許文献2は、隔離体薄膜に無機粒子を被覆して特性を向上する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2012/138398Al号公報
【文献】米国特許第第6,432,586B1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、改善された機械的特性と同時に許容可能なイオン伝導率又は透過性を有する電池及び蓄圧器用の隔離体薄膜を提供することにある。また、前記以外の全特性を十分に備え、特に問題なく無機材料製層被覆が可能でありかつ十分なイオン伝導率又は十分な透過性を有する薄膜を得ることにある。更に、無機材料製層で被覆する薄膜のイオン伝導率は、無機材料製層で無被覆の薄膜のイオン伝導率に極力近い値が望ましくかつ薄膜の異なる面への被覆、特にイオン伝導率又は透過性変化について、無被覆に極力近い特性を備える薄膜が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、蓄圧器又は電池に使用できる隔離体薄膜の製造に使用する二軸配向薄膜に関する。本明細書では、二軸配向薄膜を「薄膜シート」というと共に、無配向又は一軸配向薄膜を「薄膜」と呼び、厳密には区別しない。薄膜シートと薄膜の概念は、本発明では、同義語の意味として理解すべきである。
【0011】
本発明の二軸配向薄膜は、少なくとも1つの層(A)と少なくとも1つの層(B)とを備え、
層(A)は、少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)を含有し、層(B)は、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)を含む少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を含有し、
層(A)は、層(A)の総重量に対して、少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)を少なくとも50重量%含有し、層(B)は、層(B)の総重量に対して、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を少なくとも50重量%含有し、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)の総重量に対して、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)を少なくとも50重量%含有し、
少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量(Mw)範囲は、200,000g/mol~600,000g/molであり、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)の重量平均分子量(Mw)範囲は、400,000g/mol~1,500,000g/molであり、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)と少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)は、夫々少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量よりも高い重量平均分子量を有し、
薄膜の多孔率は、30%~70%の範囲である。
【0012】
用語「ポリエチレン」は、エチレン以外に10重量%のα-オレフィンを含有する単独重合体と共重合体も含み、例えば、プロペン、1-ブテン及び1-ヘキセンからなる群からα-オレフィンを選択できるが、芳香族基を含有しないα-オレフィンが好ましい。ヘテロ原子を含有する単量体も同様に好ましくない。従って、第1のポリエチレン(PE-1)、第2のポリエチレン(PE-2)及び第3のポリエチレン(PE-3)に対して夫々1種のポリエチレン単独重合体を使用する単独重合体が最も好ましい。高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度分岐鎖ポリエチレン、高分子量ポリエチレン(HMW-PE)及び超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)からなる群からポリエチレンを選択することができる。第1のポリエチレン(PE-1)用に高密度ポリエチレン(HDPE)、第2のポリエチレン(PE-2)用に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を用いることが最も好ましい。
【0013】
本発明の蓄電池隔離体薄膜は、特性、特に電気的特性に大きな悪影響を与えずに、改善された機械的特性を含む驚愕的な特性を備えることが判明した。特に、本発明の薄膜は、イオン伝導率に殆ど悪影響を与えずに、無機粒子被覆を形成することができる。
【0014】
第1のポリエチレン(PE-1)の特定分子量よりも大きい分子量のポリエチレンを含まない層(A)が好ましい。同様に、ポリプロピレンを含まない層(A)が好ましい。
【0015】
本発明の薄膜を構成する各層は、極めて驚愕的に互いに良好に接着する。複数の層間剥離は、認められない。また、無機材料製被覆部を設けなくても、イオン伝導率に殆ど影響のない多層構造構成は驚くべきものである。無機材料製被覆部を層(A)上に塗布しても、薄膜のイオン伝導率が過度に損なわれない特性も判明した。
【0016】
従って、本発明の薄膜は、改善された機械的特性と、同時に無機材料製層で被覆した後の良好なイオン伝導率とを有する。
【0017】
本発明の薄膜の層(A)と層(B)の両層は、隔離体薄膜として十分な物理的特性を備える。また、液体の十分な吸収能力のある両層とも、電解液貯水部の機能を達成できる。尤も、層(A)と層(B)は、機械的特性と、無機材料製被覆部での被覆後にイオン伝導率を維持する能力とに違いがある。更に、蒸発法で製造する多層薄膜は、従来公知ではない。
【0018】
薄膜のイオン伝導率を極力低下せずに、本発明の薄膜の被覆を可能にする追加的な機能を有する層(A)により薄膜の外層を構成することが好ましい。分子量のより低い重合体により、イオン伝導率を極力低下させずに無機粒子での被覆が可能になる。
【0019】
層(B)は、薄膜の機械的特性を強化する機能がある。高分子量ポリエチレンを含有する薄膜は、例えば、高強度等の機械的特性に優れる。第2のポリエチレン(PE-2)の重量平均分子量は、第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量よりも少なくとも50,000g/molより高く、特に好ましくはより高い少なくとも100,000g/molが好ましい。
【0020】
少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量(Mw)範囲は、200,000g/molから600,000g/molであり、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)は、少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量より高い400,000g/molから1,500,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)を有し、第1のポリエチレン(PE-1)が、400,000g/mol~600,000g/mol範囲の分子量を有する場合、第2のポリエチレン(PE-2)の分子量は、第1のポリエチレン(PE-1)の分子量よりも大きくかつ第1のポリエチレン(PE-1)の分子量と同等又はそれ以下の400,000g/mol~600,000g/mol範囲には該当しないと理解すべきである。
【0021】
複数の第1のポリエチレン(PE-1)を採用するときかつ/又は複数の第2のポリエチレン(PE-2)を採用するとき、全第2のポリエチレン(PE-2)は、全第1のポリエチレン(PE-1)よりも通常高い分子量を有する。
【0022】
全層(A)の総質量は、薄膜全体に対し、5重量%~50重量%が好ましい。全層(A)の質量は、薄膜全体に対して特に好ましくは10重量%~35重量%、最適には15重量%~30重量%である。全層(B)の総質量は、薄膜全体に対して50重量%~95重量%であることが好ましい。全層(B)の総質量は、薄膜全体に対して好ましくは65~90重量%、最適には70重量%~85重量%である。全層(B)の総質量は、本発明の薄膜の機械的特性に直接影響を与える。少な過ぎる層(B)の割合では、機械的特性の要求を満たさない薄膜が多い。少な過ぎる層(A)の割合では、無機材料製被覆部で被覆する際にイオン伝導率が過度に低下する難点がある。薄膜全体に占める層(A)と層(B)との前記範囲割合により、所望の通り、薄膜の特性を設定しかつ最適化することができる。薄膜全体に対する全層(A)の総質量は、5重量%~50重量%、全層(B)の総質量は、50重量%~95重量%が好ましい。薄膜全体に対する全層(A)の総質量は、10重量%~35重量%であり、全層(B)の総質量は、65重量%~90重量%が特に好ましい。薄膜全体に対する全層(A)の総質量は、15重量%~30重量%、全層(B)の総質量は、70重量%~85重量%が最適である。
【0023】
層(A)は、層(A)の総重量に対し少なくとも1種の第1のポリエチレン(PE-1)を少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも95重量%含有し、最適には少なくとも1種の第1のポリエチレンで構成される組成構成である。層(B)は、層(B)の総重量に対し少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも95重量%含有し、最適には少なくとも1つの高分子量ポリエチレン(PE-H)で構成される組成構成である。少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)は、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)の総重量に対し、少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)を少なくとも80重量%、好ましくは95重量%、最適には少なくとも1種の第2のポリエチレン(PE-2)で構成される組成構成である。特に好適な実施の形態では、層(A)を少なくとも1種の第1のポリエチレンで構成し、層(B)を少なくとも1種の第2のポリエチレンで構成する。
【0024】
薄膜の外層を層(A)が形成することが好ましい。2つの外層(A)を備える本発明の薄膜では、層(A)の総質量は、薄膜全体に対し少なくとも10重量%が好ましい。
【0025】
好ましい本発明の薄膜は、層順A-B-Aに形成される少なくとも2層(A)と、単層(B)とを備えることを特徴とする。好ましい本発明の薄膜は、薄膜の外層を形成する少なくとも1つの層(A)を特徴とする。最適な本発明の薄膜の両外層は、層(A)により形成される。
【0026】
好ましい本発明の薄膜は、互いに直接接合又は接続される層(A)と層(B)とを特徴とする。この接合構造により、薄膜の両面に無機材料製被覆部を塗布して、通気度に悪影響を与えずに薄膜の耐熱性を向上することができる。最適な本発明の薄膜は、層順A-B-Aに形成される2層(A)と単層(B)との層構造を特徴とする。この層構造の薄膜は、他成分を含有せず、容易かつ安価に製造でき、薄膜厚、伝導率及び他の特性が、追加層による悪影響を受けない利点がある。
【0027】
好ましい本発明の薄膜の第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量(Mw)は、200,000g/mol~450,000g/molの範囲であり、第2のポリエチレン(PE-2)の重量平均分子量(Mw)は、500,000g/mol~1,500,000g/molの範囲を特徴とする。前記組成範囲では、層(A)又は複数層(A)を無機材料製被覆部で被覆しても、イオン伝導率が僅かに悪影響を受けるが、逆に、層(B)により十分な機械的特性が薄膜に付与される特別な利点を得ることができる。
【0028】
第1のポリエチレン(PE-1)又は第2のポリエチレン(PE-2)及び第3のポリエチレン(PE-3)に加えて、本発明の薄膜の複数の層(A)と層(B)に添加剤を夫々配合できる。例えば、重合体、充填剤(特にナノ粒子を含む充填剤)、耐熱安定剤、帯電防止剤、着色剤、酸化防止剤及び安定剤からなる群から添加剤を選択できる。添加剤の配合により、薄膜の特性を向上できる。例えば、ポリプロピレンとポリブチレンとからなる群から重合体を選択できる。重合体の配合により、薄膜の機械的強度と耐熱強度を向上できる。層(A)と層(B)は、夫々各層の総重量に対し、50重量%までの添加剤を配合できる。尤も、充填剤と重合体とを除き、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の量で添加剤が配合される。特に好ましい本発明の薄膜は、層(A)の総重量に対し、50重量%以下、非常に特に好ましくは30重量%以下の充填剤を少なくとも1つの層(A)に配合する場合である。本発明の薄膜は、各層(A)の総重量に対し、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下の充填剤を全層(A)に配合する場合である。
【0029】
好ましい本発明の薄膜は、薄膜の層(B)の少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)が、第2のポリエチレン(PE-2)の平均分子量をよりも高い平均分子量を有する少なくとも1種の第3のポリエチレン(PE-3)を含有することを特徴とする。平均分子量の特徴により、薄膜の機械的特性を目標にして影響を与えることができる。また、第3のポリエチレン(PE-3)の重量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/mol~6,000,000g/molの範囲が好ましい。第3のポリエチレン(PE-3)の重量平均分子量は、第2のポリエチレン(PE-2)の重量平均分子量よりも少なくとも100,000g/molより高く、少なくとも200,000g/molより高いことが特に好ましい。
【0030】
また、好ましい本発明の薄膜は、重量平均分子量(Mw)範囲200,000g/mol~450,000g/molの第1のポリエチレン(PE-1)と、重量平均分子量(Mw)範囲500,000g/mol~900,000g/molの第2のポリエチレン(PE-2)とを特徴とする。これは、層(B)が第3のポリエチレン(PE-3)を含有する薄膜に該当する。最適な本発明の薄膜は、重量平均分子量(Mw)200,000g/mol~450,000g/mol範囲の第1のポリエチレン(PE-1)と、重量平均分子量(Mw)500,000g/mol~900,000g/mol範囲の第2のポリエチレン(PE-2)と、重量平均分子量(Mw)1,000,000~6,000,000g/mol範囲の第3のポリエチレン(PE-3)とを特徴とする。少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)の総質量に対して、好ましくは50重量%以下、特に好ましくは1重量%~30重量%範囲、最適には5~25重量%範囲の第3のポリエチレンが採用される。
【0031】
本発明の薄膜に配合する充填剤は、薄膜の複数の層の多孔率と他の特性の目標を設定する興味深い選択肢がある。充填剤としてナノ粒子の採用が好ましい。本発明では、レーザー回折式粒度分析で測定する1μm以下の粒子径を持つ粒子をナノ粒子と呼ぶ。ナノ粒子は、重合体母材に空洞を形成して、延伸時の孔形成工程を助長し、開放する孔表面を形成できる。例えば、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、水酸化酸化アルミニウム(べーマイト)(AlOOH)、二酸化ケイ素(SiO2)及びムライトからなる群から充填剤、ナノ粒子形態の充填剤を選択できる。特に、べーマイトが好ましい。
【0032】
帯電防止剤は、静電気の発生と火花の発生傾向を抑制して、防爆性を改善し、装置の安全な作動を確保できる。
【0033】
本発明の薄膜は、充填剤を含んでも含まなくてもよい。充填剤を含む本発明の薄膜は、薄膜全体の重量に対し、好ましくは、各50重量%以下、特に好ましくは10重量%~50重量%の充填剤を含有する。本発明の薄膜は、薄膜全体の総重量に対し、特に好ましくは50重量%以下、最適には10重量%~50重量%のナノ粒子を含有する。
【0034】
本発明の薄膜は、層(A)の総重量に対し、好ましくは50重量%以下、特に好ましくは10重量%~50重量%の充填剤を層(A)内に含む。本発明の薄膜は、層(A)の総重量に対し、好ましくは50重量%以下、最適には10重量%~50重量%のナノ粒子を層(A)内に含む。
【0035】
本発明の薄膜の層(A)も層(B)も、30%~70%範囲の多孔率を保有でき、層(A)と層(B)の多孔率は、同一でも異なってもよい。層(A)の多孔率より層(B)の多孔率を低下すると、層(B)と薄膜全体の機械的特性を改善できる利点がある。層(A)の多孔率よりも、層(B)の多孔率は、少なくとも5%、最適には少なくとも8%低いことが好ましい。
【0036】
本発明の薄膜の多孔率は、全体として35%~60%、特に好ましくは40%~60%、最適には40%~55%の範囲である。多孔率の設定により、薄膜の機械的強度と、電解液の吸収能力、イオン伝導率、通気度との適切な均衡を設定できる。本発明の薄膜の層(A)の多孔率は、好ましくは35~70%、特に好ましくは40%~60%、最適には40%~55%の範囲である。本発明の薄膜の層(B)の多孔率は、30%~65%、好ましくは35%~55%、特に好ましくは40%~55%、最適には40%~50%の範囲である。
【0037】
本発明の薄膜の層(A)の多孔率は、35%~70%の範囲にあり、層(B)の多孔率は、30%~65%の範囲にあり、層(B)の多孔率は、層(A)の多孔率よりも少なくとも5%低いことが好ましい。本発明の薄膜の層(A)の多孔率は、40%~60%の範囲、層(B)の多孔率は、35%~55%の範囲にあり、層(B)の多孔率は、薄膜(A)の多孔率よりも少なくとも5%低いことが特に好適である。本発明の薄膜の層(A)の多孔率は、45%~60%の範囲、本層(B)の多孔率は、40%~55%の範囲にあり、層(B)の多孔率が薄膜(A)の多孔率よりも少なくとも5%低いことが特に好ましい。本発明の薄膜の層(A)の多孔率は、45%~55%、層(B)の多孔率は、40%~50%の範囲にあり、層(B)の多孔率は、薄膜(A)の多孔率よりも少なくとも5%低いことが最も好ましい。終局的には、層(B)の多孔率は、薄膜(A)の多孔率よりも8%以上低い実施の形態が好ましい。
【0038】
本発明の薄膜の薄膜厚は、通常3μm~50μm、好ましくは5μm~30μm、特に好ましくは5μm~20μmの範囲である。本発明の薄膜の最適な薄膜厚は、5μm~16μmの範囲である。薄膜厚の薄い薄膜は、安価でかつ軽量であるが、薄過ぎる薄膜厚は、機械的特性と、加工特性が不十分になる。厚過ぎる薄膜厚は、製造時、爾後処理の加工特性が不十分となる。
【0039】
本発明の薄膜の全層(A)と全層(B)との総厚に対する各薄膜の全層(A)厚割合は、通常5%~50%の範囲であり、全層(B)厚割合は、50%~95%の範囲である。本発明の薄膜の全層(A)厚割合は、10%~35%の範囲であり、全層(B)厚割合は、65%~90%の範囲が特に好ましい。本発明の薄膜の全層(A)厚割合は、15%~30%の範囲、全層(B)厚割合は、70%~85%の範囲が特に好ましい。前記層厚割合の薄膜の両層(A)(B)は、自身の課題を十分に達成できる。層(B)は、薄膜に良好な機械的特性を付与し、層(A)は、イオン伝導率を極度に低減せずに、薄膜に無機粒子による被覆を許容する。
【0040】
本発明の薄膜の好適な実施の形態は、少なくとも1つの層(A)は、薄膜の外層を形成し、層(B)は、層(B)の総重量に対して、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を少なくとも80重量%含有し、薄膜全体に対し、5重量%~50重量%の全層(A)の総重量、50重量%~95重量%の全層(B)の総重量、3μm~50μmの範囲内の薄膜厚を特徴とする。
【0041】
本発明の薄膜の好適な実施の形態は、少なくとも1つの層(A)は、薄膜の外層を形成し、層(B)は、層(B)の総重量に対して、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を少なくとも80重量%含有し、薄膜全体に対し、10%~35%の全層(A)の総重量、65重量%~90重量%の全層(B)の総重量、3μm~50μm範囲内の薄膜の厚さを特徴とする。
【0042】
特に好適には、本発明の薄膜は、少なくとも1つの層(A)の表面に少なくとも1つの無機材料製被覆部を直接接合した構造を特徴とする。最適な本発明の薄膜は、層順A-B-Aに形成される2層(A)と単層(B)とを備え、層(A)は、薄膜の外層を形成し、両外層(A)は、層(A)の表面に直接接合される無機材料製被覆部を有することを特徴とする。正極と負極とを互いに分離する無機材料製層は、薄膜を使用する蓄圧器内で短絡を発生し得る金属を含む忍石の成長を有効に阻止する機能がある。
【0043】
本明細書では、無機材料製被覆部は、無機材料製粒子を使用する被覆部を意味する。特許文献2に開示される全被覆は、本発明の被覆に適する。特に好ましくは、母材中に無機粒子を含む被覆である。母材は、例えば、重合体及び/又は接着剤でもよい。レーザー回折法で測定する無機粒子の粒子径は、0.005μm~10μmの範囲が好ましく、特に0.05μm~3μmの範囲が好ましい。好ましい無機粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化チタン(TiO2)、二硫化ケイ素(SiS2)及びリン酸ケイ素(SiPO4)からなる群から選択される。二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸カルシウム(CaCO3)からなる群から選択される無機粒子が特に好ましい。好ましいポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、それらの共重合体及びそれらの混合物からなる群から選択される母材が好ましい。ポリアクリレート重合体又はポリフッ化ビニリデン、それらの共重合体及びそれらの混合物からなる群から選択される母材が、特に好ましい。好ましい本発明の被覆は、20重量%~95重量%の無機粒子と、5重量%~80重量%の母材とを含有する。好ましい無機材料製層の厚さは、0.05μm~10μm、特に好適には0.5μm~5μm、より好適には1μm~5μm、最適には2μm~4μmの範囲である。
【0044】
好適な実施の形態は、0.5μm~5μm層厚の被覆部と、0.05μm~3μm範囲粒子径の無機粒子とを有する。特に好適な実施の形態は、0.5μm~5μm層厚の被覆部と、0.05μm~3μm範囲粒子径の無機粒子とを有し、無機粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭酸カルシウム(CaCO3)酸化チタン(TiO2)、二硫化ケイ素(SiS2)及びリン酸ケイ素(SiPO4)からなる群から選択され、母材は、ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、これらの共重合体及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0045】
無機材料製層は、金属を含む忍石の成長を阻止すると共に、隔離体薄膜のイオン伝導率を低下させる。
【0046】
本発明の薄膜は、薄膜のイオン伝導率の低下を大幅に抑制する層(A)を被覆する無機材料製層を特徴とする。イオン伝導率の尺度として通気度を採用する。本発明の薄膜の片面に形成される被覆の好ましい通気度低下(通気度差DA)は、100秒/100ml以下、特に好ましくは50秒/100ml以下、最適には25秒/100ml以下であり、下記符号は、下記を表す:
L0:無被覆薄膜通気度(単位:秒/100ml)
L1:層(A)片面被覆薄膜通気度(単位:秒/100ml)
DA:L1-L0差の絶対値(通気度差DA=L1-L0)
【0047】
約言すると、本発明の薄膜の無被覆薄膜通気度(L0)と、層(A)の片面のみ無機材料製層で被覆した本発明の薄膜の片面被覆薄膜通気度(L1)との好適な通気度差(DA)は、50秒/100ml以下、特に好適には30秒/100ml以下である。薄膜の透過性は、被覆により低下する。
【0048】
両表面を層(A)で形成する本発明の薄膜の両面は、無機材料製層で被覆する構造の性能にほぼ等しい。即ち、片面を被覆する場合と、もう片面を被覆する(DB)とは、ほぼ同様にイオン伝導率又は透過性が低下(通気度差DA)する。片面を被覆する薄膜と、両面を被覆する薄膜の何れの被覆の製造にも、同一の薄膜を使用できる重要な特性がある。
【0049】
好ましい本発明の薄膜は、通気性の減少差Dは、25秒/100ml以下、特に好ましくは15秒/100ml以下である特徴があり、
L0、L1及び通気度差DAの定義は、前記の通りである。
L2:層(A)片面被覆薄膜通気度L1とは別の片面を被覆した薄膜通気度(単位:秒/100ml)
DB:L2-L0差の絶対値(DB=L2-L0)
D:DA-DB差の絶対値(D=|DA-DB|)
【0050】
換言すれば、本発明の薄膜は、無機材料製層で片面を被覆した本発明薄膜の通気性の低下値(通気度差DA)と、無機材料製層で他面を被覆した本発明薄膜の通気性低下値(DB)との差(D)は、25秒/100ml以下、好適には15秒/100ml以下が好ましい。通気性低下特性を備えない1層のみの薄膜(B)は、驚くべきものである。
【0051】
通気度の低下値が小さい態様と、薄膜の異なる面の被覆の差が小さい態様とは、薄膜の多層構造と、片面上の第1のポリエチレン(PE-1)と他面上の第2及び第3のポリエチレン(PE-2, PE-3)との分子量の相違による。
【0052】
通気度差DAが100秒/100ml以下で、Dが50秒/100ml以下の本発明の薄膜は、商業的使用に特に適し、通気度差DAが50秒/100ml以下で、差Dが25秒/100ml以下の本発明の薄膜が最も商業的使用に適する。
【0053】
本発明の別の態様は、本発明の薄膜を備える蓄電池隔離体薄膜(BSF)である。
【0054】
また、本発明の他の態様は、本発明の薄膜を含むリチウムイオン電池である。
【0055】
本発明の更に別の態様は、二軸配向薄膜の製造法に関する。本発明の薄膜製造法は、下記工程を含む:
200,000g/mol~600,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)を有する第1のポリエチレン(PE-1)を準備する工程と、
第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量よりも大きい400,000~1,500,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)を有する第2のポリエチレン(PE-2)を準備する工程と、
135℃~300℃の沸点を有する第1の流体(流体1)を準備する工程と、
135℃~300℃の沸点を有する第2の流体(流体2)を準備する工程と、
第1のポリエチレン(PE-1)を溶融し、第1の混合物の総質量に対し、30重量%~70重量%の第1の流体(流体1)を、溶融した第1のポリエチレン(PE-1)に混合して、第1の混合物を作成する工程と、
第2のポリエチレン(PE-2)を溶融し、第2の混合物の総質量に対し、30重量%~70重量%の第2の流体(流体2)を、溶融した第2のポリエチレン(PE-2)に混合して、第2の混合物を作成する工程と、
多重幅広開口金型から第1の混合物と第2の混合物とを同時に押出(共押出)して、少なくとも1つの層(A)を形成する第1の混合物と、少なくとも1つの層(B)を形成する第2の混合物とを含む多層溶融物を製造する工程と、
多層溶融物を冷却して薄膜(注型薄膜)に形成する工程と、
薄膜を縦方向(MD)に延伸する工程と、
熱処理(アニール)を薄膜に実施する工程と、
縦方向に延伸した薄膜を、更に横方向(TD)に延伸する工程と、
熱処理を薄膜に実施して、薄膜に残留する流体を気相に気化する工程。
【0056】
本発明の製造法で薄膜に残留する流体を気相に気化する工程は、蒸発工程を更に発展した方法である。
【0057】
本発明の製造法では、独立する2つの押出機を使用して、2つの異なる製剤を溶融しかつ均質化することができる。複数種の重合体の溶融押出工程には、例えば、単軸押出機又は二軸押出機を使用できる。二軸押出機の使用が好ましい。第1の押出機(押出機A)を使用して、第1のポリエチレン(PE-1)を主体とする層(A)用の均質な混合物を製造し、第2の押出機(押出機B)を使用して、第2のポリエチレン(PE-2)を主体とする層(B)用の均質な混合物を製造できる。
【0058】
第1のポリエチレン(PE-1)、第1の流体(流体1)及び必要に応じて添加剤が押出機Aに投入される。秤量供給装置を使用して重合体を押出機Aに投入できる。射出弁を通じて既に溶融状態の重合体流体を押出機内に直接投入することが好ましい。その後、流体1と重合体とを混合して、単相の溶融物を作成する。別の押出機領域で混合を行うこともできる。
【0059】
粉末状の第2のポリエチレン(PE-2)、第2の流体(流体2)及び必要に応じて添加剤が、使用する押出機Bに投入される。他の条件は、押出機Aと同様である。
【0060】
多重幅広開口金型内で押出機Aと押出機Bとの溶融物を接着し又は接合して、層状構造体を形成することが好ましい。A-B-A構造の薄膜の製造時には、幅広3開口金型内で溶融物を接着してA-B-A構造を形成することが好ましい。
【0061】
ノズルから押出される溶融物温度は、120℃~210℃、好ましくは150℃~190℃の範囲である。
【0062】
ノズルから排出される溶融物は、公知の方法で冷却され固化されて、注型薄膜に形成される。少なくとも1つの冷却ロール、少なくとも1つの水浴又はそれらの組み合わせからなる群から選択される冷却手段により、溶融物を冷却できる。特に、1つ以上の冷却ロールと水浴との組み合わせが好ましい。1つ又は複数の冷却ロールと水浴の温度は、10℃~80℃の範囲が好ましい。水浴の代わりに、薄膜の冷却に適する他のどの流体を使用してもよい。第1の流体(流体1)と第2の流体(流体2)とを冷却流体としても使用できる。この場合、十分な防火対策と防爆対策を講ずるべきである。
【0063】
溶融物の引出速度は、4m/分~10m/分の範囲が好ましく、より小さい引出装置では、1m/分~5m/分の範囲が好ましい。製造後の薄膜厚さは、冷却後に好ましくは400μm~800μmの範囲である。冷却後、最初に溶融物に投入した流体の少なくとも50重量%は、依然として薄膜に残留する。
【0064】
空気カーテン(エアナイフ)で溶融物を冷却ロールに誘導できる。好ましい注型薄膜厚さは、400μm~800μmの範囲内である。
【0065】
本発明の薄膜に使用するポリエチレンの分子量値は、本発明の製造法にも適用される。第2のポリエチレンと共に使用する第3のポリエチレン(PE-3)を溶融し、得られる混合物を第2の流体に混合する。使用する添加物を第1のポリエチレン及び/又は第2のポリエチレンと同時に溶融し、得られる混合物を相応の流体に混合する。
【0066】
本発明の製造法では、少なくとも30%結晶化度を有するポリエチレンの採用が好ましい。第1のポリエチレン(PE-1)、第2のポリエチレン(PE-2)及び第3のポリエチレン(PE-3)(採用時)にも、これが適用される。
【0067】
温度25℃と圧力1013hPaの通常条件下では、溶融物に混合する流体は、液体状態が好ましい。好ましい流体の沸点は、100℃~300℃、特に好ましくは150℃~250℃の範囲である。溶融物に混合する流体は、温度70℃で1mmHg~50mmHg(133Pa~6666Pa)の範囲の蒸気圧を有することが好ましい。前記流体特性により、薄膜の製造時に流体を容易に気化(蒸発)することができる。流体は、酸素以外のヘテロ原子を含まず、芳香族基を含有しない有機液体が好ましい。これには、アルカン又はその混合物が最適である。沸点を持たず、沸点範囲を持つ流体では、本発明では、沸点範囲の上端(最高温度)を流体の沸点と仮定する。流体1と流体2に同一の流体を使用することが好ましい。
【0068】
薄膜は、公知の方法で単軸縦方向(MD)に延伸される。1段階又は複数段階で薄膜を延伸する縦方向総延伸比は、5~9である。延伸温度は、好ましくは80℃~125℃範囲、特に好ましくは95℃~110℃範囲である。縦方向延伸後に、熱処理(アニール)が行われる。熱処理温度は、85℃~125℃の範囲が好ましく、100℃~110℃の範囲が特に好ましい。縦方向延伸後の薄膜厚は、50μm~150μmの範囲が好ましい。
【0069】
縦方向延伸後及び続く熱処理後にも、薄膜は、当初投入した第1の流体と第2の流体との総質量の50%以上を含むことが好ましい。
【0070】
縦方向延伸後の熱処理時に、縦方向延伸比の5%以下の範囲で、薄膜を弛緩させることが好ましい。例えば、縦方向延伸比7、弛緩度5%の薄膜を縦方向に弛緩させて、縦方向延伸比7-(7×0.05)=7-0.35=6.65が達成される。
【0071】
弛緩された薄膜は、公知の方法で更に単軸横方向(TD)に延伸される。好ましい延伸比は、5~9の範囲である。横方向延伸温度は、50℃~150℃の範囲が好ましく、特に好ましくは50℃~90℃の範囲である。延伸後に、薄膜は、更に熱処理で弛緩されて、形態が保持される。
【0072】
縦方向延伸後の熱処理では、薄膜を弛緩させて、横方向延伸比範囲5%~10%に薄膜を設定することが好ましい。横方向延伸比7%、弛緩10%の薄膜を横方向に弛緩させて、横方向延伸比を7-0.7=6.3に低下させる。
【0073】
横方向延伸後の熱処理温度は、好ましくは110℃~160℃の範囲、特に好ましくは125℃~145℃の範囲であり、弛緩比率は、好ましくは5%~10%の範囲である。延伸熱処理間に、残留流体は、気相に気化して、実質的に乾燥した薄膜が得られる。
【0074】
特に好ましい本発明の製造法では、縦方向延伸時の延伸比は、5~9の範囲であり、横方向延伸時の延伸比は、5~9の範囲を特徴とし、横方向(TD)の延伸後の熱処理時の横方向延伸比の5%~10%まで薄膜を横方向に弛緩することを特徴とする。
【0075】
形成された薄膜の縁を公知の方法で除去して、小さい巻取張力で薄膜を巻取ることができる。
【0076】
特に好ましい本発明の薄膜製造法は、下記工程を含む:
200,000g/mol~600,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)と、少なくとも30%の結晶化度を有する第1のポリエチレン(PE-1)を準備する工程と、
第1のポリエチレン(PE-1)の重量平均分子量よりも大きい400,000~1,500,000g/mol範囲の重量平均分子量(Mw)と、少なくとも30%の結晶化度を有する第2のポリエチレン(PE-2)を準備する工程と、
沸点135℃~300℃の第1の流体(流体1)を準備する工程と、
沸点135℃~300℃の第2の流体(流体2)を準備する工程と、
第1のポリエチレン(PE-1)を溶融し、第1の混合物の総質量に対し30重量%~70重量%の第1の流体(流体1)を溶融した第1のポリエチレン(PE-1)に混合して、第1の混合物を作成する工程と、
第2のポリエチレン(PE-2)を溶融し、第2の混合物の総質量に対し30重量%~70重量%の第2の流体(流体2)を溶融した第2のポリエチレン(PE-2)に混合して、第2の混合物を作成する工程と、
多重幅広開口金型から第1の混合物と第2の混合物を同時に押出(共押出)して、第1の混合物が少なくとも1つの層(A)を構成し、第2の混合物が少なくとも1つの層(B)を構成する多層溶融物を形成する工程と、
得られた多層溶融物を冷却して、層厚400μm~800μmの薄膜(注型薄膜)に形成する工程と、
縦方向延伸比5~9範囲及び温度95℃~110℃で得られた薄膜を縦方向(MD)に延伸して、縦方向延伸後に当初投入した第1の流体と第2の流体との総質量の50%以上を依然として含有しかつ50μm~150μm厚さの薄膜を形成する工程と、
100℃~110℃の温度範囲で熱処理(アニール)を施して、縦方向延伸後に当初投入した第1の流体と第2の流体との総質量の50%以上を依然として含有する薄膜を作成する工程と、
横方向延伸比5~9範囲かつ温度50℃~90℃の延伸炉内で得られる薄膜を横方向(TD)に延伸する工程と、
温度範囲125℃~145℃で薄膜に熱処理を行って、横方向延伸比5%~10%で横方向に薄膜を弛緩させ、薄膜内に残留する流体を気相に気化して、5μm~16μmの層厚の薄膜を生成する工程。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0077】
測定法:
厚さ(平均値):ドイツ工業規格 53370
通気度と通気度変化:国際標準化(ISO)規格 5636-5
多孔率:(秤量法)
使用材料密度に対する薄膜の密度比率から、下記計算式で多孔率を求めた。
薄膜厚さ=重量/面積×厚さ
多孔率(%)=[1-(薄膜密度/材料密度)]×100
【0078】
試料寸法100×100mmの層厚と重量を測定して、試料密度を求めた。使用する基本原材料のデータシートから材料密度を取得し、試料密度と材料密度の両値から多孔率を算出した。各層を分離して単層のみの多孔率を測定し、各層の多孔率を算出した。
引張強度:ASTM D 882
破壊強度:DIN EN 14477
熱収縮率:(炉内無収縮)
【0079】
炉内温度105℃で60分間の熱収縮率を測定し、初期長さLaに対する熱収縮後長さLt比率から、下式により熱収縮率を算出した。
収縮率(105℃/60分)=(La-Lt)/La×100%
【0080】
2枚の紙間に寸法100×100mmの試料を挟み、温度105℃の炉内に60分間収容した。60分経過後、炉から試料を取出し、精度0.5mmで両主方向(機械方向と横方向)の試料長さLtを測定して、熱収縮率を算出した。
【0081】
レーザー回折式粒度分析測定法により粒子径を測定した。
【0082】
材料:
ライオンデルバセル(LyondellBasell)社(ドイツ、フランクフルト・アム・マイン在)製のHostalen(ホスタレン)ACP 9255+を第1のポリエチレンとして実施例1の全実験に採用した。採用したポリエチレンは、重量平均分子量350,000g/mol、ビカット裁断軟化点76℃、最高融点133℃の高密度ポリエチレン(HDPE)であった。コリア・ペトロケミカル・インダストリーズ株式会社(Korea Petrochemical Ind. Co. Ltd.)(大韓民国、蔚山在)製のYuhwa Hiden(ユーワ・ヒデン)VH035を第2のポリエチレンとして全実施例に採用した。採用したポリエチレンは、重量平均分子量600,000g/mol、最高融点136℃の高密度ポリエチレン(HDPE)であった。実施例1の実験番号6と7では、コリア・ペトロケミカル・インダストリーズ株式会社製のYuhwa Hiden VH150を第3のポリエチレンとして採用した。採用したポリエチレンの重量平均分子量は、1,500,000g/molであった。実施例1の実験番号8~11では、セラニーズ社(Celanese Corporation)製のGUR2024(登録商標)を第3のポリエチレンとして採用した。第3のポリエチレンの重量平均分子量は、5,400,000g/molであった。トータル・ケミカルズ社(Total Chemicals)製のSpirdane(スピルデイン)D60を流体1と流体2として全実験に採用した。実験番号5では、ナバルテック(Nabaltec)株式会社(ドイツ、シュヴァンドルフ在)製のActilox(アクティロックス)200 AS1を添加剤として採用した。これは、99重量%以上が水酸化アルミニウム(AlOOH)粒子の充填剤で、0.2μmのD10粒子径、0.32μmのD50粒子径、0.6μmのD90粒子径、ベット(BET)法比表面積17m2/gを有する。
【0083】
採用した非流体出発材料の総質量に対する層(A)の質量比は、実施例1の実験1では27重量%、実施例1の他の全実験では20重量%であった。対応して採用した非流体出発材料の総質量に対する層(B)の質量比は、実施例1の実験1では73重量%、実施例1の他の全実験では80重量%であった。
【0084】
アクリル主体の高分子接着剤を含有する市販の酸化アルミニウム(Al2O3)水性懸濁液を被覆溶液として使用して、無機材料製被覆部を製造した。粒子径d90は、2μm未満であった。固形分の含有量は、被覆溶液の総質量に対して約40重量%である。
【実施例1】
【0085】
薄膜の製造
実施例1の全実験に共通する実験の説明:
【0086】
i) 防爆
本発明の薄膜製造法工程では、各蒸発工程と同様に、使用する流体の引火点(50~70℃)と自然発火温度(200~250℃)には、特別な予防策が必要である。安全な電気機器による防爆と、関連する装置部品の封入化構造を採用した。冗長な広範囲抽出により十分な空気交換を行い、爆発下限界値(UEG)以下でかつ作業場制限値以下に周囲空気の溶剤濃度を保持して、火災危険性を最小限に抑制した。追加的措置により、人材と機器との更なる緊急時保護に役立った。
【0087】
ii) 溶融混合物の押出成形
独立する2台の二軸押出機を使用して、異なる2種の製剤を溶融しかつ均質化した。押出機Aを使用して、第1のポリエチレン(PE-1)主体の層(A)用の均質混合物を製造した。押出機Bを使用して、第2のポリエチレン(PE-2)主体の層(B)用の均質混合物を製造した。
【0088】
顆粒状又は粉末状の第1のポリエチレン(PE-1)、流体1及び必要に応じて添加物を押出機Aに投入した。単一又は複数の秤量供給装置を使用して、固形物、特に重合体を投入した。射出弁を通じて、既に溶融状態の重合体流体を押出機に直接投入した。別の押出機領域で流体と重合体とを混合して、単相の溶融物を作成した。
【0089】
粉末状の第2のポリエチレン(PE-2)、流体2及び必要に応じて添加剤を押出機Bに投入した。単一又は複数の秤量供給装置を介して固形物、特に重合体を投入した。重合体を注入した直後に、射出弁を介して押出機内に流体2を直接投入した。別の押出機領域で流体2と重合体とを混合して、単相の溶融物を作成した。
【0090】
三層金型を使用して、押出機Aと押出機Bとからの両溶融物を接合し、構造A-B-Aの薄膜を作成した。三層金型から排出される溶融物温度は、150℃~185℃、層(A)の温度は、150℃~160℃、層(B)の温度は、175℃~185℃であった。
【0091】
秤量供給装置を介して、ナノ粒子と第3のポリエチレン(PE-3)型の高分子量ポリエチレンとを押出機に直接添加した。第2のポリエチレン(PE-1)の投入後で流体の添加前に、高分子量ポリエチレンを添加した。
【0092】
iii) 薄膜注型と薄膜の引出
平坦金型から排出される融液は、冷却され固形化されて、注型薄膜に成形された。2個の冷却ロールと水浴とを使用して、薄膜を冷却した。薄膜の引出し速度は、1m/分~4m/分である。
【0093】
iv) 縦(機械)方向延伸
単軸縦方向に薄膜を延伸した。次に、100℃~110℃の熱処理を行った。熱処理後、当初投入流体量の少なくとも50重量%が、薄膜内に残存した。
【0094】
v) 横方向延伸、熱処理及び弛緩
縦方向延伸後、薄膜を横方向に延伸した。横方向延伸後、熱処理により薄膜を弛緩させた。延伸熱処理間に、残留する流体を定量的に気相に気化して、乾燥薄膜を作成した。
【0095】
実験データ
行った合計11回の実験データを下表に示す。前記以外に採用した試薬の種類と量を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1の説明:
「添加剤」欄の情報は、流体を考慮せずに、列挙した各層への添加剤重量比を示す。例えば、実験番号5の層(A)は、充填剤でActilox 200 AS1を50重量%と、第1のポリエチレン(PE-1)のHostalen ACP 9255+を50重量%とを、両固形分質量合計に対して夫々含有する。実験番号5の押出し直後の材料は、固形分の全質量の57重量%が流体であるSpirdane D60と、43重量%がHostalen ACP 9255+及びActilox 200 AS1とからなる。対応して、実験番号6の層(B)は、2固形分合計に対して、20重量%のYuhwa Hiden VH150と、80重量%のYuhwa Hiden VH035とを夫々含有するので、少なくとも1種の高分子量ポリエチレン(PE-H)を100重量%含有する。実験番号7も同様の説明を適用する。
【0098】
得られた生成物の物理的データと、製造法の媒介変数とを添付の表2~表5に示す。
【0099】
溶融物から注型薄膜を製造する工程媒介変数を表2に示す。
【0100】
縦方向延伸と続く熱処理との工程媒介変数を表3に示す。
【0101】
横方向延伸と続く熱処理との工程媒介変数を表4に示す。
【実施例2】
【0102】
薄膜の被覆
約A4サイズに薄膜を裁断した。薄膜上の2か所でガーレー数を測定した。両測定値の平均値は、無被覆薄膜の通気度値である。真空板を備える被覆台上に裁断した薄膜の一片を固定した。その後、速度40mm/秒で幅80mmに渡り塗布液2mlを薄膜に箆(スキージ)で塗布した。続いて、温度40℃~45℃、2分間乾燥機で薄膜を乾燥した。乾燥後、ガーレー数を2か所で再度測定した。得られた平均値は、被覆薄膜の通気度値である。
【0103】
実施例の結果:
得られた薄膜の物理的特性を表5に示す。表5に示す縦方向(MD)引張強度特性は、従来得られた特性値よりも著しく高い(特許文献1表1、実験2及び実験3)。しかし、横方向(TD)引張強度の特性値は、従来に比べて著しく高く、約4倍で、複数の縦方向値と同じ桁になる。このように、本薄膜は、従来の薄膜よりも、著しく有利な機械的特性を備える。また、限界の25秒/100mlを大きく下回る15秒/100ml未満の殆どの薄膜通気度変化が認められる。従って、本薄膜は、従来の薄膜に比べて、蓄圧器用隔離体と蓄電池用隔離体への更なる加工に適する。多孔率、破壊強度及び熱収縮率も、所望の媒介変数内である。
【0104】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】