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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】オイルリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/20 20060101AFI20240730BHJP
   F16J 9/06 20060101ALI20240730BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16J9/20
F16J9/06 B
F02F5/00 301E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022033283
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2023128730
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】彦根 顕
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直広
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】川合 清行
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0184748(US,A1)
【文献】実開昭59-099154(JP,U)
【文献】国際公開第2020/158949(WO,A1)
【文献】米国特許第02965423(US,A)
【文献】実開平04-133064(JP,U)
【文献】米国特許第02815996(US,A)
【文献】実開平04-003162(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/20
F16J 9/06
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンに形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、
前記オイルリングの軸方向における燃焼室側である上側に配置される上側セグメントと、前記上側セグメントとは独立してクランク室側である下側に配置される下側セグメントと、前記上側セグメントと前記下側セグメントとの間に配置されると共に前記オイルリングの径方向の外側へ張り出す張力を発生させるスペーサエキスパンダと、を備え、
前記上側セグメントは、外周側に設けられた外周面と、内周側に設けられた内周面と、前記内燃機関において前記上側に面する上面と、前記内燃機関において前記下側に面する下面と、を含み、
前記スペーサエキスパンダは、前記オイルリングの径方向において前記上側セグメントよりも内側に設けられると共に前記張力により前記内周面を押圧する押圧面を含み、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面における他の部位よりも前記上側セグメントの径方向内側に位置すると共に前記内周面において最小径となる内周頂部を含み、
前記外周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記外周面における他の部位よりも前記オイルリングの径方向外側に位置すると共に前記外周面において最大径となる外周頂部を含み、
前記内周頂部は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記上側セグメントの軸方向における前記内周面の中央位置よりも前記燃焼室側に位置し、
前記押圧面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記燃焼室側に向かうに従って前記オイルリングの中心軸に近づくように傾斜しており、
前記オイルリングの軸方向に対する前記押圧面の傾斜角度をθとしたとき、
1°≦θ≦20°であり、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周頂部から前記上面側に向かって湾曲する上側湾曲面と、前記内周頂部から前記下面側に向かって湾曲する下側湾曲面と、を含み、
前記上側湾曲面において前記内周頂部に隣接する円弧の曲率半径は、前記下側湾曲面において曲率半径が最も大きい円弧の曲率半径以下である、
オイルリング。
【請求項2】
内燃機関のピストンに形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、
前記オイルリングの軸方向における燃焼室側である上側に配置される上側セグメントと、前記上側セグメントとは独立してクランク室側である下側に配置される下側セグメントと、前記上側セグメントと前記下側セグメントとの間に配置されると共に前記オイルリングの径方向の外側へ張り出す張力を発生させるスペーサエキスパンダと、を備え、
前記上側セグメントは、外周側に設けられた外周面と、内周側に設けられた内周面と、前記内燃機関において前記上側に面する上面と、前記内燃機関において前記下側に面する下面と、を含み、
前記スペーサエキスパンダは、前記オイルリングの径方向において前記上側セグメントよりも内側に設けられると共に前記張力により前記内周面を押圧する押圧面を含み、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面における他の部位よりも前記上側セグメントの径方向内側に位置すると共に前記内周面において最小径となる内周頂部を含み、
前記外周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記外周面における他の部位よりも前記オイルリングの径方向外側に位置すると共に前記外周面において最大径となる外周頂部を含み、
前記内周頂部は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記上側セグメントの軸方向における前記内周面の中央位置よりも前記燃焼室側に位置し、
前記押圧面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記燃焼室側に向かうに従って前記オイルリングの中心軸に近づくように傾斜しており、
前記オイルリングの軸方向に対する前記押圧面の傾斜角度をθとしたとき、
1°≦θ≦20°であり、
前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面は、上側の円弧と、前記上側の円弧よりも下側に設けられると共に前記上側の円弧に接続された下側の円弧とによって形成されており、
前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記上側の円弧と前記下側の円弧との交点は、前記下側の円弧を延長させることで形成される仮想の円である下側仮想円と前記押圧面との交点よりも上側に位置する、
オイルリング。
【請求項3】
内燃機関のピストンに形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、
前記オイルリングの軸方向における燃焼室側である上側に配置される上側セグメントと、前記上側セグメントとは独立してクランク室側である下側に配置される下側セグメントと、前記上側セグメントと前記下側セグメントとの間に配置されると共に前記オイルリングの径方向の外側へ張り出す張力を発生させるスペーサエキスパンダと、を備え、
前記上側セグメントは、外周側に設けられた外周面と、内周側に設けられた内周面と、前記内燃機関において前記上側に面する上面と、前記内燃機関において前記下側に面する下面と、を含み、
前記スペーサエキスパンダは、前記オイルリングの径方向において前記上側セグメントよりも内側に設けられると共に前記張力により前記内周面を押圧する押圧面を含み、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面における他の部位よりも前記上側セグメントの径方向内側に位置すると共に前記内周面において最小径となる内周頂部を含み、
前記外周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記外周面における他の部位よりも前記オイルリングの径方向外側に位置すると共に前記外周面において最大径となる外周頂部を含み、
前記内周頂部は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記上側セグメントの軸方向における前記内周面の中央位置よりも前記燃焼室側に位置し、
前記押圧面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記燃焼室側に向かうに従って前記オイルリングの中心軸に近づくように傾斜しており、
前記オイルリングの軸方向に対する前記押圧面の傾斜角度をθとしたとき、
1°≦θ≦20°であり、
前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面は、上側の円弧と、前記上側の円弧よりも下側に設けられると共に前記上側の円弧に接続された下側の円弧とによって形成されており、
前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記上側の円弧と前記下側の円弧との交点は、前記下側の円弧を延長させることで形成される仮想の円である下側仮想円と前記押圧面との交点よりも下側に位置する、
オイルリング。
【請求項4】
内燃機関のピストンに形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、
前記オイルリングの軸方向における燃焼室側である上側に配置される上側セグメントと、前記上側セグメントとは独立してクランク室側である下側に配置される下側セグメントと、前記上側セグメントと前記下側セグメントとの間に配置されると共に前記オイルリングの径方向の外側へ張り出す張力を発生させるスペーサエキスパンダと、を備え、
前記上側セグメントは、外周側に設けられた外周面と、内周側に設けられた内周面と、前記内燃機関において前記上側に面する上面と、前記内燃機関において前記下側に面する下面と、を含み、
前記スペーサエキスパンダは、前記オイルリングの径方向において前記上側セグメントよりも内側に設けられると共に前記張力により前記内周面を押圧する押圧面を含み、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面における他の部位よりも前記上側セグメントの径方向内側に位置すると共に前記内周面において最小径となる内周頂部を含み、
前記外周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記外周面における他の部位よりも前記オイルリングの径方向外側に位置すると共に前記外周面において最大径となる外周頂部を含み、
前記内周頂部は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記上側セグメントの軸方向における前記内周面の中央位置よりも前記燃焼室側に位置し、
前記押圧面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記燃焼室側に向かうに従って前記オイルリングの中心軸に近づくように傾斜しており、
前記オイルリングの軸方向に対する前記押圧面の傾斜角度をθとしたとき、
1°≦θ≦20°であり、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周頂部よりも上側の上側領域と、内周頂部よりも下側の下側領域と、を含み、
前記上側領域はテーパ面として形成され、前記下側領域は湾曲面として形成されている、
オイルリング。
【請求項5】
内燃機関のピストンに形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、
前記オイルリングの軸方向における燃焼室側である上側に配置される上側セグメントと、前記上側セグメントとは独立してクランク室側である下側に配置される下側セグメントと、前記上側セグメントと前記下側セグメントとの間に配置されると共に前記オイルリングの径方向の外側へ張り出す張力を発生させるスペーサエキスパンダと、を備え、
前記上側セグメントは、外周側に設けられた外周面と、内周側に設けられた内周面と、前記内燃機関において前記上側に面する上面と、前記内燃機関において前記下側に面する下面と、を含み、
前記スペーサエキスパンダは、前記オイルリングの径方向において前記上側セグメントよりも内側に設けられると共に前記張力により前記内周面を押圧する押圧面を含み、
前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面におけ
る他の部位よりも前記上側セグメントの径方向内側に位置すると共に前記内周面において最小径となる内周頂部を含み、
前記外周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記外周面における他の部位よりも前記オイルリングの径方向外側に位置すると共に前記外周面において最大径となる外周頂部を含み、
前記内周頂部は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記上側セグメントの軸方向における前記内周面の中央位置よりも前記燃焼室側に位置し、
前記押圧面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記燃焼室側に向かうに従って前記オイルリングの中心軸に近づくように傾斜しており、
前記オイルリングの軸方向に対する前記押圧面の傾斜角度をθとしたとき、
1°≦θ≦20°であり、
前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面と前記押圧面との交点を中心とするモーメントが作用する方向について、前記外周面が下がる向きを正とし、
前記押圧面から前記内周面に作用する力の軸方向成分によって前記上側セグメントに働くモーメントをM1とし、
前記押圧面から前記内周面に作用する力の径方向成分によって前記上側セグメントに働くモーメントをM2としたとき、
M2/M1>-0.14を満たす、
オイルリング。
【請求項6】
前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面と前記押圧面との交点が前記外周頂部よりも上側に位置する、
請求項1からの何れか一項に記載のオイルリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、コンプレッションリング(圧力リング)とオイルリングとを含むピストンリングをピストンのリング溝に装着した構成を採用している。ピストンの軸方向において、コンプレッションリングが燃焼室側に設けられ、オイルリングがクランク室側に設けられ、これらがシリンダ内壁面を摺動することで能力を発揮する。オイルリングは、シリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク室側に掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制するオイルシール機能や、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるようにオイル量を調整することで内燃機関の運転に伴うピストンやピストンリングの焼き付きを防止する機能を有する。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制するガスシール機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイル上がりを抑制するオイルシール機能を有する。
【0003】
ここで、オイルリングとしては、シリンダ内壁面を摺動する一対のセグメント(サイドレールとも呼ばれる)と、一対のセグメントをシリンダ内壁面へ付勢するスペーサエキスパンダとを組み合わせた、3ピース型の組合せオイルリングが広く用いられている。このような組合せオイルリングに関連して、オイルシール性能の向上を目的として、セグメントの摺動部(外周面)の最外径部分をセグメントの軸方向幅の中心よりも下方に配置した場合に、幅中心線に対し内周面の上側の円弧のRを下側の円弧のRよりも大きくすることでセグメントの傾きを防止する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/158949号
【文献】実開昭61-157149号公報
【文献】実全昭59-099154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来のオイルリングでは、上側セグメントの上面とピストンのリング溝の上壁との間に生じた隙間をオイルが通ってリング溝から燃焼室側に流出し(オイル上がり)、オイル消費が増加する虞がある。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、一対のセグメントとスペーサエキスパンダとを備える組合せオイルリングにおいて、オイルシール性能を向上できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採用した。即ち、本発明は、内燃機関のピストンに形成されたリング溝に装着されるオイルリングであって、前記オイルリングの軸方向における燃焼室側である上側に配置される上側セグメントと、前記上側セグメントとは独立してクランク室側である下側に配置される下側セグメントと、前記上側セグメントと前記下側セグメントとの間に配置されると共に前記オイルリングの径方向の外
側へ張り出す張力を発生させるスペーサエキスパンダと、を備え、前記上側セグメントは、外周側に設けられた外周面と、内周側に設けられた内周面と、前記内燃機関において前記上側に面する上面と、前記内燃機関において前記下側に面する下面と、を含み、前記スペーサエキスパンダは、前記オイルリングの径方向において前記上側セグメントよりも内側に設けられると共に前記張力により前記内周面を押圧する押圧面を含み、前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面における他の部位よりも前記上側セグメントの径方向内側に位置すると共に前記内周面において最小径となる内周頂部を含み、前記外周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記外周面における他の部位よりも前記オイルリングの径方向外側に位置すると共に前記外周面において最大径となる外周頂部を含み、前記内周頂部は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記上側セグメントの軸方向における前記内周面の中央位置よりも前記燃焼室側に位置し、前記押圧面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記燃焼室側に向かうに従って前記オイルリングの中心軸に近づくように傾斜しており、前記オイルリングの軸方向に対する前記押圧面の傾斜角度(即ち、耳角度)をθとしたとき、1°≦θ≦20°である、オイルリングである。
【0008】
本発明は、つまり、上側セグメントの内周面を偏心形状とし、スペーサエキスパンダの上側セグメントを押圧する押圧面の傾斜角度を1°≦θ≦20°とする。これによれば、上側セグメントのオイルシール性能を向上させ、オイル消費を低減することができる。
【0009】
また、本発明において、前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周頂部から前記上面側に向かって湾曲する上側湾曲面と、前記内周頂部から前記下面側に向かって湾曲する下側湾曲面と、を含んでもよい。
【0010】
また、本発明において、前記上側湾曲面において前記内周頂部に隣接する円弧の曲率半径は、前記下側湾曲面において曲率半径が最も大きい円弧の曲率半径以下であってもよい。
【0011】
また、本発明において、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面は、上側の円弧と、前記上側の円弧よりも下側に設けられると共に前記上側の円弧に接続された下側の円弧とによって形成されており、前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記上側の円弧と前記下側の円弧との交点は、前記下側の円弧を延長させることで形成される仮想の円である下側仮想円と前記押圧面との交点よりも上側に位置してもよい。
【0012】
また、本発明において、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面は、上側の円弧と、前記上側の円弧よりも下側に設けられると共に前記上側の円弧に接続された下側の円弧とによって形成されており、前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記上側の円弧と前記下側の円弧との交点は、前記下側の円弧を延長させることで形成される仮想の円である下側仮想円と前記押圧面との交点よりも下側に位置してもよい。
【0013】
また、本発明において、前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周頂部から前記上面側に向かって傾斜する上側テーパ面と、前記内周頂部から前記下面側に向かって傾斜する下側テーパ面と、を含んでもよい。
【0014】
また、本発明において、前記内周面は、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周頂部よりも上側の上側領域と、内周頂部よりも下側の下側領域と、を含み、前記上側領域と前記下側領域のうち、一方は湾曲面として形成され、他方はテーパ面として形成されてもよい。
【0015】
また、本発明において、前記上側領域はテーパ面として形成され、前記下側領域は湾曲面として形成されてもよい。
【0016】
また、本発明は、前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、オイルリングの径方向の外側をX軸の正とし、オイルリングの軸方向の上側をY軸の正とするXY座標系において、前記内周面と前記押圧面との交点の位置座標を(X1,Y1)とし、前記外周頂部の位置座標を(X2,Y2)としたとき、cosθ(Y1-Y2)/(sinθ(X2-X1))>-0.14を満たしてもよい。なお、cosθ(Y1-Y2)/(sinθ(X2-X1))は、-0.07以上とすることが更に好ましく、0以上とすることがより一層好ましい。また、cosθ(Y1-Y2)/(sinθ(X2-X1))の上限は特に設定されないが、製造上の観点から、5.0以下とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記上側セグメントが前記オイルリングの径方向と平行となるように前記スペーサエキスパンダに設置された場合に、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面と前記押圧面との交点を中心とするモーメントが作用する方向について、前記外周面が下がる向きを正とし、前記押圧面から前記内周面に作用する力の軸方向成分によって前記上側セグメントに働くモーメントをM1とし、前記押圧面から前記内周面に作用する力の径方向成分によって前記上側セグメントに働くモーメントをM2としたとき、M2/M1>-0.14を満たしてもよい。
【0018】
また、本発明において、前記オイルリングの周方向に直交する断面において、前記内周面と前記押圧面との交点が前記外周頂部よりも上側に位置してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、オイルリングのオイルシール性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係るオイルリングを備える内燃機関の部分断面図である。
図2】実施形態に係るオイルリングの断面図である。
図3】実施形態に係るスペーサエキスパンダの一部の斜視図である。
図4】実施形態に係る上側セグメントの内周面の形状パターン1を説明するための断面図である。
図5】内周形状パターン1に係る内周面と上側耳部との接触状態の一例を示す図である。
図6】実施形態に係る上側セグメントの内周面の形状パターン2を説明するための断面図である。
図7】内周形状パターン2に係る内周面と上側耳部との接触状態の一例を示す図である。
図8】実施形態に係る上側セグメントの内周面の形状パターン3を説明するための断面図である。
図9】内周形状パターン3に係る内周面と上側耳部との接触状態の一例を示す図である。
図10】実施形態に係る上側セグメントの内周面の形状パターン4を説明するための断面図である。
図11】内周面の派生形1を説明するための断面図である。
図12】内周面の派生形2を説明するための断面図である。
図13】内周面の派生形3を説明するための断面図である。
図14】内周面の派生形4を説明するための断面図である。
図15】実施形態に係る上側セグメントの外周面の形状パターン1を説明するための断面図である。
図16】実施形態に係る上側セグメントの外周面の形状パターン2を説明するための断面図である。
図17】従来例に係るオイルリングの上側セグメントに作用する力を説明するための図である。
図18】実施形態に係るオイルリングの上側セグメントに作用する力を説明するための図(1)である。
図19】実施形態に係るオイルリングの上側セグメントに作用する力を説明するための図(2)である。
図20】実施形態に係るオイルリングの上側セグメントに作用する力を説明するための図(3)である。
図21】実施形態に係るオイルリングの上側セグメントに作用する力を説明するための図(4)である。
図22】解析結果を示すグラフ(1)である。
図23】解析結果を示すグラフ(2)である。
図24】解析結果を示すグラフ(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
[全体構成]
図1は、実施形態に係るオイルリング40を備える内燃機関100の部分断面図である。なお、図1は、模式図であり、オイルリング40を簡略化して図示している。図2は、実施形態に係るオイルリング40の断面図である。図1及び図2では、オイルリング40の周方向に直交する断面が図示されている。図1に示すように、内燃機関100では、シリンダ10の内壁面10aとシリンダ10に装着されたピストン20の外周面20aとの間に所定の離間距離が確保されることにより、ピストン隙間PC1が形成されている。また、ピストン20の外周面20aには、リング溝30が形成されている。リング溝30は、燃焼室側に形成された上壁301と、クランク室側に形成されて上壁301に対向する下壁302と、上壁301と下壁302の内周縁同士を接続する接続壁303とを有する。このリング溝30には、本実施形態に係るオイルリング40が装着されている。
【0023】
オイルリング40は、ピストン20の往復運動に伴ってシリンダ10の内壁面10aを摺動する摺動部材である。オイルリング40は、いわゆる3ピース型の組合せオイルリングであり、図1に示すように、一対のセグメント1,2とスペーサエキスパンダ3とを備える。オイルリング40は、リング溝30に装着されることでピストン20に組み付けられる。
【0024】
図2において、符号A1はオイルリング40の中心軸を示す。図2では、オイルリング40がピストン20に装着される前の状態であって上下のセグメント1,2がオイルリング40の径方向と平行となるようにスペーサエキスパンダ3に設置された場合に想定される状態が図示されている。図2の状態(以下、静止状態ともいう)では、上下のセグメント1,2に対して外力が作用しておらず、後述する耳角度θの影響を受けることなく上下のセグメント1,2がスペーサエキスパンダ3の上下に設置されている。以下、図2に示すように、オイルリング40の中心軸A1に沿う方向(軸方向)を「上下方向」と定義する。また、オイルリング40の軸方向のうち、内燃機関100における燃焼室側(図1
おける上側)を「上側」と定義し、その反対側、即ち、クランク室側(図1における下側)を「下側」と定義する。また、以下のオイルリング40の説明において、特に指定しない限りは、「周方向」とはオイルリング40及び上側セグメント1の周方向のことを指し、「径方向」とはオイルリング40及び上側セグメント1の径方向のことを指し、「軸方向」とはオイルリング40及び上側セグメント1の軸方向のことを指す。オイルリング40及び上側セグメント1の周方向、径方向、及び軸方向は、夫々、一対のセグメント1,2の周方向、径方向、及び軸方向と一致する。また、本明細書では、図1に示すようにピストンリングが組付けられたピストンがシリンダに挿入された状態を「使用状態」と称する。また、本明細書において、「バレル形状」とは、頂部を含んで凸状となるように湾曲した面形状のことを指し、頂部がリングの軸方向幅における中央に位置し且つリングの軸方向幅の中央を通る中心線を基準として軸方向に対称な形状である「対称バレル形状」や頂部がリングの軸方向幅における中央から離れており且つ中心線を基準として軸方向に非対称な形状である「偏心バレル形状」を含むものとする。また、本明細書において、「テーパ形状」とは、クランク室側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸から離れるように(つまり、拡径するように)傾斜した面形状又はクランク室側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸に近づくように(つまり、縮径するように)傾斜した面形状のことを指す。
【0025】
[セグメント]
一対のセグメント1,2は、オイルリング40の軸回りに環状に形成されており、互いに独立して軸方向に並んで設けられている。図1に示すように、一対のセグメント1,2のうち上側セグメント1が上側(燃焼室側)に位置し、下側セグメント2が下側(クランク室側)に位置する。一対のセグメント1,2の材質としては、ステンレス鋼やばね鋼等が例示される。なお、上側セグメント1や下側セグメント2の内周面には、化成処理被膜、窒化処理被膜、樹脂被膜、PVD(Physical Vapor Deposition)処理被膜、DLC(Diamond-Like Carbon)処理被膜、クロムめっき処理被膜等が形成されていてもよい。
【0026】
図1に示すように、上側セグメント1は、外周側に設けられた外周面11と、内周側に設けられた内周面12と、燃焼室側に面する上面13と、クランク室側に面する下面14と、を含む。上側セグメント1の軸方向端面である上面13と下面14は互いに平行であり、上面13と下面14とによって、上側セグメント1の軸方向における幅が規定される。但し、上面13と下面14は平行でなくてもよい。上面13と下面14は一部が平行であってもよい。図1に示すように、上側セグメント1は、上面13がリング溝30の上壁301に対向するように設けられ、外周面11を摺動面としてシリンダ10の内壁面10aを摺動する。
【0027】
図1に示すように、下側セグメント2は、外周側に設けられた外周面21と、内周側に設けられた内周面22と、燃焼室側に面する上面23と、クランク室側に面する下面24と、を含む。下側セグメント2の軸方向端面である上面23と下面24は互いに平行であり、上面23と下面24とによって、下側セグメント2の軸方向における幅が規定される。但し、上面23と下面24は平行でなくてもよい。上面23と下面24は一部が平行であってもよい。また、下側セグメント2は、下面24がリング溝30の下壁302に対向するように設けられ、外周面21を摺動面としてシリンダ10の内壁面10aを摺動する。下側セグメント2の内周面22は、対称バレル形状を有している。なお、下側セグメント2の形状は特に限定されない。下側セグメント2の内周面22の形状は、頂部がリングの軸方向幅における中央に位置する対称バレル形状であってもよいし、頂部がリングの軸方向幅における中央から燃焼室側またはクランク室側に偏心した偏心バレル形状であってもよい。
【0028】
[スペーサエキスパンダ]
図1に示すように、スペーサエキスパンダ3は、一対のセグメント1,2の間に設けられている。スペーサエキスパンダ3は、径方向外側へ張り出すように張力を発生させ、使用状態において、一対のセグメント1,2を径方向外側へ(つまり、シリンダ10の内壁面10aへ)付勢する。
【0029】
図3は、実施形態に係るスペーサエキスパンダ3の一部の斜視図である。図3に示すように、スペーサエキスパンダ3は、軸方向に変位する波状をなす周期要素が周方向に複数連なって構成されており、スペーサエキスパンダ3の径方向視(径方向の外側または内側から視認したとき)において周方向に連続する波状に形成されている。具体的には、スペーサエキスパンダ3は、軸方向及び周方向に離間して周方向に交互に配置された複数の上片31及び下片32と、周方向において隣り合う上片31と下片32と連結する連結片33と、を含む。複数の上片31は、周方向に沿って間隔を空けて配列されている。複数の下片32は、オイルリング40がピストン20に組み付けられた際に(つまり、使用状態において)複数の上片31よりも下側に位置するように、設けられている。また、複数の下片32は、下片32の夫々が周方向において上片31の夫々と交互に配置されるように配列されている。上片31及び下片32は、軸方向において互いに離間するように設けられている。連結片33は、周方向において隣り合う上片31と下片32の周方向における端部同士を連結している。これにより、スペーサエキスパンダ3は、軸方向において波状に形成されている。
【0030】
図2に示すように、上片31は、上側ベース部310と上側耳部311と上側支持部312とを含む。上側ベース部310は、軸方向と直交するように径方向に延びている。上側耳部311は、径方向における上側ベース部310の内側に起立形成されており、上側ベース部310に対して上側に突出している。また、上側耳部311は、使用状態において上側セグメント1よりも径方向内側に位置するように設けられており、上側セグメント1の内周面12に当接することで、上側セグメント1を径方向の外側へ押圧する。上側耳部311において内周面12に当接する押圧面3aは、周方向に直交する断面において、下側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸A1から離れるように(つまり、拡径するように)傾斜している。上側支持部312は、径方向における上側ベース部310の外側に起立形成されており、上側ベース部310に対して上側に突出している。また、上側支持部312は、使用状態において上側セグメント1の下面14に当接することで、上側セグメント1を支持する。上側支持部312において下面14に当接する支持面3bは、径方向に延びている。また、上側耳部311の根元にはオイルが通過可能な貫通孔34が形成されている。なお、貫通孔34は形成されていなくてもよい。また、本発明に係る上片31は上側支持部312を有さなくてもよい。また、上側ベース部310や上側支持部312は、径方向に対して傾斜してもよい。
【0031】
図2に示すように、下片32は、下側ベース部320と下側耳部321と下側支持部322とを含む。下側ベース部320は、軸方向と直交するように径方向に延びている。下側耳部321は、径方向における下側ベース部320の内側に起立形成されており、下側ベース部320に対して下側に突出している。また、下側耳部321は、使用状態において下側セグメント2よりも径方向内側に位置するように設けられており、下側セグメント2の内周面22に当接することで、下側セグメント2を径方向の外側へ押圧する。下側耳部321において内周面22に当接する押圧面3cは、周方向に直交する断面において、下側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸に近づくように(つまり、縮径するように)傾斜している。また、下側支持部322は、使用状態において下側セグメント2の上面23に当接することで下側セグメント2を支持する。下側支持部322において上面23に当接する支持面3dは、径方向に延びている。また、下側耳部321の根元にも貫通孔34が形成されている。なお、貫通孔34は形成されていなくてもよい。また、本発明
に係る下片32は下側支持部322を有さなくてもよい。また、下側ベース部320や下側支持部322は、径方向に対して傾斜してもよい。
【0032】
ここで、図2に示すように、オイルリング40の軸方向(即ち、上下方向)に対するスペーサエキスパンダ3の上片31の押圧面3aの傾斜角度(以下、耳角度という)をθとする。実施形態では、1°≦θ≦20°となっている。なお、本発明に係るスペーサエキスパンダの形状は、上述したものに限定されない。
【0033】
[上側セグメントの面形状]
次に、本発明に係る上側セグメントにおいて採用され得る内周面形状及び外周面形状について、実施形態に係る上側セグメント1を例に説明する。なお、以下に説明する面形状はあくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【0034】
図4~14は、実施形態に係る上側セグメント1の内周面12の形状パターンを説明するための断面図である。また、図15,16は、実施形態に係る上側セグメント1の外周面11の形状パターンを説明するための断面図である。図4~16では、オイルリング40がピストン20に装着される前の状態であってオイルリング40の径方向と平行となるようにスペーサエキスパンダ3に設置された場合の上側セグメント1の状態が図示されている。また、図4~16では、周方向に直交する断面が図示されており、便宜上、断面のハッチングの図示を省略している。また、図4,6,8,10~16の符号CL1は、上側セグメント1の軸方向幅の中央を通る線(中心線)を示す。また、図4,6,8,10~16の符号MP2は内周面12の軸方向における中央位置(軸方向幅の上下中央位置)を示し、図15,16の符号MP1は外周面11の軸方向における中央位置(軸方向幅の上下中央位置)を示す。以下に説明するいくつかの形状パターンにおいて、同様の構成については同一の符号を付すことで重複の説明を省略する場合がある。
【0035】
図4~14に示す符号TP2は、内周頂部を示す。内周頂部TP2は、周方向に直交する断面において、内周面12における他の部位よりも径方向内側に位置し、内周面12において最小径(つまり、オイルリング中心軸A1に最も近い)となる部位である。図4~14に示す各形状において、内周頂部TP2は、内周面12の軸方向幅の上下中央位置MP2よりも上側(燃焼室側)に位置している。つまり、実施形態に係る内周面12は、内周頂部TP2が偏心した偏心形状となっている。
【0036】
[内周形状パターン1]
図4は、実施形態に係る上側セグメント1の内周面12の形状パターン1(以下、内周形状パターン1)を説明するための断面図である。内周形状パターン1に係る内周面12は、バレル形状を有する。即ち、内周面12は、周方向に直交する断面において、内周頂部TP2を含んで径方向内側に凸状となるように湾曲している。更に、内周頂部TP2が上下中央位置MP2よりも上側に位置するため、内周面12が中心線CL1を基準として上下方向(軸方向)において非対称となっている。つまり、内周面12は、偏心バレル形状となっている。
【0037】
図4に示すように、内周形状パターン1に係る内周面12は、内周頂部TP2を含む内周端面S1と、内周端面S1と上面13とを接続する第1接続面S2と、内周端面S1と下面14とを接続する第2接続面S3と、を含む。ここで、内周端面S1のうち、内周頂部TP2よりも上側の領域を上側湾曲面S11とし、内周頂部TP2よりも下側の領域を下側湾曲面S12とする。上側湾曲面S11は、内周頂部TP2から上側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸A1から離れるように(つまり、拡径するように)湾曲しており、下側湾曲面S12は、内周頂部TP2から下側に向かうに従って拡径するように湾曲している。つまり、内周端面S1は、軸方向において、内周頂部TP2から離れるに従
って拡径するように形成されている。
【0038】
ここで、図4の符号TAは、頂部付近領域を示す。頂部付近領域TAは、内周頂部TP2から径方向外側へ所定距離までの領域である。頂部付近領域TAの範囲は特に限定されないが、例えば、内周頂部TP2から径方向外側へ30μm~50μmまでの範囲とすることができる。図4に示す内周端面S1は、頂部付近領域TAにおいて上下非対称となっている。より詳細には、内周面12は中心線CL1を基準として上下非対称となっており、頂部付近領域TAは仮想線L1(後述)を基準として上下非対称となっている。また、内周端面S1は、頂部付近領域TAにおいて曲率半径の異なる2個の円弧によって形成されている。なお、内周形状パターン1は、頂部付近領域TAにおいて曲率半径の異なる2個以上の円弧により形成されてもよく、例えば、3個の円弧により形成されてもよい。本例に係る内周端面S1は、周方向に直交する断面において、上側円弧AR1と、上側円弧AR1よりも下側に設けられ、上側円弧AR1に接続された下側円弧AR2と、によって形成されている。図4に示す例では、上側円弧AR1は内周頂部TP2よりも上側に設けられ、下側円弧AR2は内周頂部TP2よりも下側に設けられている。
【0039】
図4の符号VC1は、上側円弧AR1を延長させることで形成される仮想の円である上側仮想円を示す。上側円弧AR1は、上側仮想円VC1に含まれる。また、VC2は、下側円弧AR2を延長させることで形成される仮想の円である下側仮想円を示す。下側円弧AR2は、下側仮想円VC2に含まれる。また、図4の符号C1は上側円弧AR1及び上側仮想円VC1の中心を示し、C2は下側円弧AR2及び下側仮想円VC2の中心を示し、L1は内周頂部TP2を通って径方向に延びる仮想線を示す。また、符号CP1は、上側円弧AR1と下側円弧AR2との交点(接続点)を示す。また、上側円弧AR1及び上側仮想円VC1の半径をR1とし、下側円弧AR2及び下側仮想円VC2の半径をR2とする。
【0040】
図4に示す内周形状パターン1では、上側円弧AR1の中心C1と下側円弧AR2の中心C2とが共に仮想線L1上に位置し、交点CP1が内周頂部TP2と一致している。そのため、上側円弧AR1によって上側湾曲面S11が形成され、下側円弧AR2によって下側湾曲面S12が形成されている。また、R1<R2となっており、上側仮想円VC1が下側仮想円VC2に内接している。なお、R1=R2であってもよい。図4に示す例では、R1=0.1mm、R2=0.35mmとなっている。但し、内周形状パターン1は、これに限定されない。なお、R1及びR2は、0.03mm~2.0mmの範囲で適宜設定することができるが、この範囲に限定されない。上側仮想円VC1と下側仮想円VC2は、交点CP1の1点のみで交わっており、交点CP1において共通の接線を有する。そのため、上側円弧AR1と下側円弧AR2とが接線連続となっている。
【0041】
なお、本発明において、上側湾曲面や下側湾曲面は、後述の図12に示す派生形2のように、曲率半径の異なる複数の円弧により形成されてもよい。また、上側湾曲面や下側湾曲面は、曲率半径が上側又は下側に向かうに従って徐々に変化する形状であってもよい。曲率半径が徐々に変化する場合、任意の点付近の曲線の微小部分は,その点での曲率半径を半径とする円弧で近似することができる。
【0042】
ここで、オイルシール性能の向上の観点では、上側湾曲面S11において内周頂部TP2に隣接する円弧の曲率半径を下側湾曲面S12において曲率半径が最も大きい円弧の曲率半径以下とすることが好ましい。このような条件を満たすことで、上下中央位置MP2に対する内周頂部TP2の偏心量を大きくすることができる。これにより、後述のように、上側セグメント1の上面13の内周側の面圧を高めることができる。但し、本発明はこの条件に限定されるものではない。図4に示す内周形状パターン1は、上側湾曲面S11において内周頂部TP2に隣接する円弧である上側円弧AR1の曲率半径R1が下側湾曲
面S12において曲率半径が最も大きい円弧である下側円弧AR2の曲率半径R2よりも小さいため、上述の条件を満たす。また、上述の条件は、上側湾曲面や下側湾曲面が曲率半径の異なる複数の円弧により形成される場合や上側湾曲面や下側湾曲面の曲率半径が上側又は下側に向かうに従って徐々に変化する場合にも適用できる。一例として、後述の図12に示す派生形2では、上側湾曲面S11において内周頂部TP2に隣接する円弧である上側円弧AR1の曲率半径R1が下側湾曲面S12において曲率半径が最も大きい円弧である第3円弧AR3の曲率半径R3よりも小さいため、この条件を満たす。
【0043】
第1接続面S2及び第2接続面S3は、面取り加工により形成された所謂R面(コーナーR)であり、周方向に直交する断面において、円弧により形成されている。なお、第1接続面S2及び第2接続面S3は、本発明において必須の構成ではない。
【0044】
図5は、内周形状パターン1に係る内周面12と上側耳部311との接触状態の一例を示す図である。図5の符号P1は、内周面12と上側耳部311の押圧面3aとの交点(接触点)を示す。また、符号Par2は、下側仮想円VC2と押圧面3aとの交点を示す。図5に示すように、内周面12は下側湾曲面S12において上側耳部311の押圧面3aと接触する。ここで、内周形状パターン1では、上側円弧AR1と下側円弧AR2との交点CP1は、下側仮想円VC2と押圧面3aとの交点Par2よりも上側に位置している。そのため、図5の交点P1が示すように、内周面12は下側円弧AR2において上側耳部311の押圧面3aと接触することとなり、交点P1は交点Par2と一致する。
【0045】
以上のように、内周形状パターン1は、周方向に直交する断面において、頂部付近領域TAが曲率半径の異なる2個以上の円弧によって形成され、上側円弧AR1の中心C1と下側円弧AR2の中心C2とが共に仮想線L1上に位置し、上側円弧AR1と下側円弧AR2とが接線連続となり、上側円弧AR1と下側円弧AR2との交点CP1が内周頂部TP2となる形状である。
【0046】
[内周形状パターン2]
図6は、実施形態に係る上側セグメント1の内周面12の形状パターン2(以下、内周形状パターン2)を説明するための断面図である。内周形状パターン2に係る内周面12は、内周形状パターン1と同様に、偏心バレル形状となっており、頂部付近領域TAにおいて上下非対称となっている。より詳細には、内周面12は中心線CL1を基準として上下非対称となっており、頂部付近領域TAは仮想線L1を基準として上下非対称となっている。また、内周形状パターン2は、下側円弧AR2の中心C2が上側円弧AR1の中心C1よりも上側に位置する点で図4及び図5で図示した内周形状パターン1と相違する。
【0047】
図6に示すように、内周形状パターン2は、周方向に直交する断面において、頂部付近領域TAが曲率半径の異なる2個以上の円弧によって形成され、上側円弧AR1の中心C1が仮想線L1上に位置し、下側円弧AR2の中心C2が中心C1よりも上側に位置し、上側円弧AR1と下側円弧AR2とが接線連続となり、上側円弧AR1においてオイルリングの中心軸A1に最も近い位置が内周頂部TP2となる形状である。内周形状パターン2では、上側円弧AR1と下側円弧AR2との交点CP1が内周頂部TP2よりも下側に位置する。また、内周形状パターン2では、上側円弧AR1の上側部分によって上側湾曲面S11が形成され、上側円弧AR1の下側部分と下側円弧AR2とによって下側湾曲面S12が形成されている。また、R1<R2となっており、上側仮想円VC1が下側仮想円VC2に内接している。
【0048】
図7は、内周形状パターン2に係る内周面12と上側耳部311との接触状態の一例を示す図である。図7に示すように、内周面12は下側湾曲面S12において上側耳部311の押圧面3aと接触する。ここで、内周形状パターン2では、上側円弧AR1と下側円
弧AR2との交点CP1は、下側仮想円VC2と押圧面3aとの交点Par2よりも下側に位置している。そのため、図7の交点P1が示すように、内周面12は上側円弧AR1において上側耳部311の押圧面3aと接触可能となる。なお、図7に示す例では、内周面12が上側円弧AR1において押圧面3aと接触しているが、上側耳部311の耳角度θをより大きくすることで、内周面12は交点CP1又は下側円弧AR2において押圧面3aと接触可能となる。
【0049】
[内周面の内周形状パターン3]
図8は、実施形態に係る上側セグメント1の内周面12の形状パターン3(以下、内周形状パターン3)を説明するための断面図である。内周形状パターン3に係る内周面12は、内周形状パターン1と同様に、偏心バレル形状となっている。また、内周形状パターン3は、周方向に直交する断面において、内周端面S1が単一の円弧Ar1により形成されており、頂部付近領域TAにおいて上下対称となっている点で図4及び図5で図示した内周形状パターン1や図6及び図7で図示した内周形状パターン2と相違する。より詳細には、内周面12は中心線CL1を基準として上下非対称となっており、頂部付近領域TAは仮想線L1を基準として上下対称となっている。
【0050】
図8に示すように、内周形状パターン3は、周方向に直交する断面において、頂部付近領域TAが曲率半径Rを有する単一の円弧Ar1によって形成され、円弧Ar1の中心c1が仮想線L1上に位置し、円弧Ar1においてオイルリングの中心軸A1に最も近い位置が内周頂部TP2となる形状である。また、内周形状パターン3では、円弧Ar1の上側部分によって上側湾曲面S11が形成され、円弧Ar1の下側部分によって下側湾曲面S12が形成されている。図8の符号Vc1は、円弧Ar1を延長させることで形成される仮想円を示す。
【0051】
図9は、内周形状パターン3に係る内周面12と上側耳部311との接触状態の一例を示す図である。図9の交点P1が示すように、内周形状パターン3では、内周面12は円弧Ar1の下側部分において上側耳部311の押圧面3aと接触する。
【0052】
[内周形状パターン4]
図10は、実施形態に係る上側セグメント1の内周面12の形状パターン4(以下、内周形状パターン4)を説明するための断面図である。内周形状パターン4に係る内周面12は、内周形状パターン1~3と同様に、内周頂部TP2が上下中央位置MP2よりも上側に位置した偏心形状となっている。また、内周形状パターン4は、内周端面S1がテーパ形状を有する上側テーパ面S13及び下側テーパ面S14により形成されている点で上述の内周形状パターン1~3と相違する。具体的には、周方向に直交する断面において、上側テーパ面S13が内周頂部TP2から上側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸A1から離れるように傾斜しており、下側テーパ面S14が内周頂部TP2から下側に向かうに従ってオイルリング40の中心軸A1から離れるように傾斜している。なお、図10に示す例では内周頂部TP2はR形状となっているが、内周頂部TP2は平坦状であってもよい。内周形状パターン4では、内周面12は下側テーパ面S14において上側耳部311の押圧面3aと接触する。なお、耳角度θが比較的小さい場合には、上側耳部311の押圧面3aが上側セグメント1の内周頂部TP2と接触することもある。ここで、オイルリング40の軸方向(即ち、上下方向)に対する下側テーパ面S14の角度をθ1とすると、θ≦θ1とすることが好ましい。また、θ=θ1となる場合、内周面12の下側テーパ面S14が上側耳部311の押圧面3aに接触することで上側セグメント1のばたつき(姿勢変化)が抑制されるが、耐デポジット性が低下する可能性がある。そのため、θ<θ1とすることがより好ましい。なお、上側テーパ面S13や下側テーパ面S14は、直線状に形成されているが、丸みを帯びていてもよい。この場合、下側テーパ面S14を下側円弧AR2、内周頂部TP2を形成するR面を上側円弧AR1と、それぞれ見立
てることができる。
【0053】
[派生形]
以下、上述の内周形状パターン1~4の派生形について説明する。以下に説明する派生形は、可能な限り、上述の内周形状パターン1~4の何れとも組み合わせることができる。
【0054】
[派生形1]
図11は、内周面12の派生形1を説明するための断面図である。図11で示す派生形1は、内周形状パターン1の派生であり、上側円弧AR1の曲率半径R1と下側円弧AR2の曲率半径R2との比率が図4及び図5で図示した内周形状パターン1と相違する。派生形1では、R1=0.04mm、R2=0.4mmとなっている。但し、内周面12の派生形1は、これに限定されない。なお、R1及びR2は、0.03mm~2.0mmの範囲で適宜設定することができるが、これに限定されない。
【0055】
[派生形2]
図12は、内周面12の派生形2を説明するための断面図である。図12で示す派生形2は、内周形状パターン1の派生であり、頂部付近領域TAが曲率半径の異なる3個の円弧によって形成されている点で図4及び図5で図示した内周形状パターン1と相違する。つまり、上下の円弧と上下面との間に別の円弧が介在している。派生形2に係る内周端面S1は、周方向に直交する断面において、上側円弧AR1と、上側円弧AR1よりも下側に設けられ、上側円弧AR1に接続された下側円弧AR2と、下側円弧AR2よりも下側に設けられ、下側円弧AR2に接続された第3円弧AR3と、によって形成されている。図12の符号C3は第3円弧AR3の中心を示し、符号CP2は下側円弧AR2と第3円弧AR3との交点(接続点)を示す。また、第3円弧AR3の曲率半径をR3とする。
【0056】
図12に示すように、派生形2では、R1<R2<R3となっており、上側円弧AR1の中心C1と下側円弧AR2の中心C2と第3円弧AR3の中心C3が共に仮想線L1上に位置している。また、上側円弧AR1と下側円弧AR2とが接線連続となっており、下側円弧AR2と第3円弧AR3とが接線連続となっており、上側円弧AR1と下側円弧AR2との交点CP1が内周頂部TP2となっている。派生形2では、上側円弧AR1によって上側湾曲面S11が形成され、下側円弧AR2と第3円弧AR3とによって下側湾曲面S12が形成されている。
【0057】
なお、図12に示す例では、内周端面S1の曲率半径が段階的に変化しているが、内周端面S1は、その曲率半径が上側又は下側に向かうに従って徐々に変化する形状であってもよい。なお、本発明は、R1<R2<R3でなくともよく、中心C2と中心C3とが仮想線L1上に位置しなくともよく、各円弧同士の接続は接線連続でなくともよい。
【0058】
[派生形3]
図13は、内周面12の派生形3を説明するための断面図である。図13で示す派生形3は、内周形状パターン1の派生であり、第2接続面S3が凹んでいる点で図4及び図5で図示した形状と相違する。第1接続面S2と第2接続面S3とのうち第2接続面S3のみが凹んだ形状とすることで、上側セグメント1の上下の識別性を高めることができる。なお、第2接続面S3は、湾曲状に形成されてもよいし、テーパ状で形成されてもよい。
【0059】
[派生形4]
図14は、内周面12の形状パターン1の派生形4を説明するための断面図である。派生形4は、上側円弧AR1と下側円弧AR2とが接線連続ではない点が図4及び図5で図示した形状パターン1と相違する。つまり、交点CP1において、上側円弧AR1の接線
と下側円弧AR2の接線とが異なっている。
【0060】
[外周形状パターン1]
図15は、実施形態に係る上側セグメント1の外周面11の形状パターン1(以下、外周形状パターン1)を説明するための断面図である。符号TP1は、外周頂部を示す。外周頂部TP1は、周方向に直交する断面において、外周面11における他の部位よりも径方向外側に位置し、外周面11において最大径となる部位である。外周形状パターン1に係る外周面11は、バレル形状を有する。即ち、外周面11は、周方向に直交する断面において、外周頂部TP1を含んで径方向外側に凸状となるように湾曲している。
【0061】
図15に示す外周形状パターン1では、更に、外周頂部TP1が上下中央位置MP1に位置しており、外周面11が中心線CL1を基準として上下方向(軸方向)において対称となっている。つまり、外周形状パターン1に係る外周面11は、対称バレル形状となっている。なお、外周面11は、その全域において曲率半径が一定であってもよいし、曲率半径が徐々に変化する形状であってもよい。
【0062】
[外周形状パターン2]
図16は、実施形態に係る上側セグメント1の外周面11の形状パターン2(以下、外周形状パターン2)を説明するための断面図である。外周形状パターン2に係る外周面11は、偏心バレル形状を有する点で図15に示した外周形状パターン1に係る外周面11と相違する。即ち、図16に示す外周形状パターン2では、外周頂部TP1が上下中央位置MP1よりも下側に位置しており、外周面11が中心線CL1を基準として上下方向(軸方向)において非対称となっている。
【0063】
[上側セグメントに作用する力]
次に、内燃機関100において上側セグメントに作用する力について説明する。図17は、従来例に係るオイルリングの上側セグメント1Aに作用する力を説明するための図である。図18~21は、実施形態に係るオイルリング40の上側セグメント1に作用する力を説明するための図である。図17図21では、周方向に直交する断面が図示されている。
【0064】
図17に示すように、従来例に係るオイルリングの上側セグメント1Aは、外周面11及び内周面12が対称バレル形状を有する。つまり、外周頂部TP1が外周面11の上下中央位置MP1に位置し、内周頂部TP2が内周面12の上下中央位置MP2に位置している。
【0065】
図18に示す実施形態に係る上側セグメント1は、外周面11が従来例と同様に図15で示すような外周形状パターン1の対称バレル形状となっており、内周面12が図4で示すような内周形状パターン1の偏心バレル形状となっている。図18では、上側耳部311の耳角度θを図17の従来例におけるθと同等としている。
【0066】
図19に示す実施形態に係る上側セグメント1は、図18と同様に、外周面11が外周形状パターン1の対称バレル形状となっており、内周面12が図18と同じ内周形状パターン1の偏心バレル形状となっている。図19では、上側耳部311の耳角度θを図17及び図18のθよりも小さくしている。
【0067】
図20に示す実施形態に係る上側セグメント1は、外周面11が外周形状パターン1の対称バレル形状となっており、内周面12が図11で示す内周形状パターン1の派生形1の偏心バレル形状となっている。図20では、上側耳部311の耳角度θを図17及び図18のθと同等としている。
【0068】
図21に示す実施形態に係る上側セグメント1は、外周面11が図16で示すような外周形状パターン2の偏心バレル形状となっており、内周面12が図18と同じ内周形状パターン1の偏心バレル形状となっている。図21では、上側耳部311の耳角度θを図17及び図18のθと同等としている。
【0069】
また、図17~21では、周方向に直交する断面において、オイルリングの径方向の外側をX軸の正とし、オイルリングの軸方向の上側をY軸の正とするXY座標系を設定している。本例では、XY座標系の原点を中心線CL1上に設定している。
【0070】
ここで、周方向に直交する断面において、内周面12と上側耳部311の押圧面3aとの交点P1を中心とするモーメントが作用する方向について、外周面11が下がる向きを正とし、D1で表す。また、D1と反対の向き、つまり、外周面11が上がる向きを負とし、D2で表す。上側セグメント1に対してD1方向に作用するモーメントは、図1に示すように上側セグメント1が径方向外側へ下方傾斜の姿勢となるように働き、上側セグメント1の上面13の内周側をリング溝30の上壁301へ押し付ける回転力となる。つまり、D1方向のモーメントは、上側セグメント1に径方向外側に下方傾斜の姿勢を維持させるための回転力であり、内周側のサイドシール力を生む。一方で、上側セグメント1に対してD2方向に作用するモーメントは、上側セグメント1の上面13の外周側を押し上げるように働く回転力であり、内周側のサイドシール力を下げるように作用することがある。
【0071】
図17~21の符号F1は、上側セグメントがスペーサエキスパンダ3の耳部から受ける力を示す。F1は、押圧面3aの法線方向に作用する。また、FyはF1の軸方向(Y方向)成分を示し、FxはF1の径方向(X方向)成分を示す。Fyは、軸方向上向きに作用しており、主に内周側のサイドシール力に寄与する。Fxは、径方向外向きに作用しており、主に外周面のオイル掻き性能に寄与する。ここで、スペーサエキスパンダ3により発生する張力を2Fとすると、上側セグメント及び下側セグメントには、夫々、外側へ押し出そうとするFの力が作用する(不図示)。2Fは一断面におけるスペーサエキスパンダ3の外周への張り出し力(張力)であるので、Fはその半分となる。Fは、正の値であり、径方向(軸方向に直交する方向)に作用する。オイルリングの接線張力をFtとし、ボア径(リングの呼称径)をDとすると、Fは、F=Ft/Dの式により算出することができる。更に、上側セグメントに作用するFは、押圧面3aの法線方向の力F1と、押圧面3aに平行で下向きの力に分かれる(不図示)。このとき、F1、Fy、及びFxは、以下の式で表すことができる。
F1=Fcosθ・・・・式(1)
Fy=Fcosθsinθ・・・・式(2)
Fx=Fcosθ・・・・式(3)
1°≦θ≦20°であることから、F1、Fy、Fxは正の値となる。
【0072】
図17~21に示すように、外周面11は、外周頂部TP1においてシリンダ10の内壁面10aと接触すると仮定する。ここで、上側セグメント1がF1の分力であるFxでシリンダ10の内壁面10aに押し付けられることで、外周面11の外周頂部TP1には、内壁面10aからの反力Frが径方向内側へ作用する。Frは、以下の式で表すことができ、負の値となる。
Fr=-Fx・・・・式(4)
【0073】
また、静止状態では、XY座標系において内周面12と上側耳部311の押圧面3aとの交点P1の位置座標を(X1,Y1)とし、外周頂部TP1の位置座標を(X2,Y2)とし、Y方向における交点P1と外周頂部TP1との座標差をΔYとし、X方向におけ
る交点P1と外周頂部TP1との座標差をΔXとする。また、Fyによって上側セグメント1に働くモーメントをM1とする。また、Frによって上側セグメント1に働くモーメントをM2とする。このとき、ΔY、ΔX、M1、及びM2は、以下の式で表すことができる。なお、実製品においては、上側セグメント1の断面投影図から上側セグメント1の形状を求め、上側セグメント1を水平に配置し、別途測定した耳角度を有する直線と上側セグメント1の内周面12との交点から、静止状態における交点P1の位置座標を特定できる。また、同様にして、断面投影図における上側セグメント1の最内径部から静止状態における内周頂部TP2の位置座標を特定し、最外径部から静止状態における外周頂部TP1の位置座標を特定できる。
ΔY=Y1-Y2・・・・式(5)
ΔX=X2-X1・・・・式(6)
M1=FyΔX=Fcosθsinθ(X2-X1)・・・・式(7)
M2=FxΔY=Fcosθ(Y1-Y2)・・・・式(8)
【0074】
ここで、径方向では、交点P1は、外周頂部TP1よりも内側に位置するため、X2-X1>0となる。そのため、式(7)により、M1は正の値となり、正方向D1に働く回転力となる。つまり、FyによるモーメントM1は、上側セグメント1が径方向外側に下方傾斜となる姿勢を維持するように作用し、内周側のサイドシール力を生む。
【0075】
一方で、軸方向では、交点P1は、外周頂部TP1よりも上側に位置する場合と下側に位置する場合とがある。交点P1が外周頂部TP1よりも上側に位置する場合には、Y1-Y2>0となるため、式(8)によってM2は正の値となり、正方向D1に働く回転力となる。つまり、内周側のサイドシール力を高める回転力となる。交点P1が外周頂部TP1よりも下側に位置する場合には、Y1-Y2<0となるため、式(8)によってM2は負の値となり、負方向D2に働く回転力となる。つまり、内周側のサイドシール力を下げる回転力となる。
【0076】
また、以下の式により、M2に基づいてFxを軸方向の力Fzに換算することができる。
Fz=Fcosθ(Y1-Y2)/(X2-X1)・・・・式(9)
【0077】
図17に示す従来例の場合、内周面12と上側耳部311の押圧面3aとの交点P1が外周頂部TP1よりも下側に位置するため、式(8)により、M2は負の値となる。つまり、Fxによるモーメントが負方向D2に働く。そのため、FxによるモーメントM2は、上側セグメント1Aの内周側のサイドシール力を下げるように作用する。
【0078】
図18に示す実施形態の例の場合、交点P1が外周頂部TP1よりも下側に位置するものの、内周頂部TP2が上側に偏心しているため、交点P1の上下位置が従来例の場合よりも上側に位置している。つまり、内周面12を偏心形状とすることで、交点P1の上下位置を外周頂部TP1に近づけ、Y方向における交点P1と外周頂部TP1との座標差ΔYの絶対値を小さくしている。そのため、式(8)により、M2<0となるもののM2の絶対値は従来例の場合よりも小さくなっている。これにより、M1とM2との合計値は、従来例の場合よりも大きくなる。その結果、図18に示す例では、従来例と比較して、サイドシール力を高めることができる。
【0079】
図19に示す実施形態の例の場合、上側耳部311の耳角度θを図18の場合よりも小さくすることで、交点P1が外周頂部TP1よりも上側に位置している。そのため、Y1-Y2>0となるため、式(8)により、M2>0となり、FxによるモーメントM2は正方向D1に働く。つまり、FxによるモーメントM2は、内周側のサイドシール力を高めるように作用する。これにより、M1とM2との合計値は、図18の場合よりも大きく
なる。その結果、図19に示す例では、従来例と比較して、サイドシール力をより一層高めることができる。
【0080】
図20に示す実施形態の例の場合、内周面12の形状を上述の派生形1とすることで、交点P1が外周頂部TP1よりも上側に位置している。そのため、式(8)により、M2>0となり、FxによるモーメントM2は、内周側のサイドシール力を高めるように作用する。その結果、図20に示す例でも、従来例と比較して、サイドシール力をより一層高めることができる。
【0081】
図21に示す実施形態の例の場合、内周面12の形状と外周面11の形状を共に偏心バレルとすることで、交点P1が外周頂部TP1よりも上側に位置している。そのため、式(8)により、M2>0となり、FxによるモーメントM2は、内周側のサイドシール力を高めるように作用する。その結果、図21に示す例でも、従来例と比較して、サイドシール力をより一層高めることができる。
【0082】
[作用・効果]
以上のように、実施形態に係るオイルリング40では、周方向に直交する断面において、上側セグメント1の内周面12の内周頂部TP2が内周面12の上下中央位置MP2よりも上側に位置するように、構成されている。つまり、内周面12が偏心形状となっている。更に、スペーサエキスパンダ3の上側耳部311の耳角度θが、1°≦θ≦20°となっている。このように構成された実施形態に係るオイルリング40によれば、従来のオイルリングと比較して、上側セグメント1の内周面12と上側耳部311の押圧面3aとの交点P1の上下位置を上側にシフトさせることができる。その結果、実施形態に係るオイルリング40によれば、上側セグメント1のシール性能を向上させ、オイル消費を低減することができる。具体的には、内周頂部TP2の偏心量が大きいほど、内周頂部TP2及び外周頂部TP1の偏心量の合計が大きくなるため、上側セグメント1が外周側において大きく下方傾斜し、上面13の内周側の面圧が上昇する傾向がある。これにより、上面13の内周側のシール性能が向上する。なお、内周頂部TP2の位置が上側耳部311よりも上側に位置する場合には、内周頂部TP2の偏心量を大きくしても上側セグメント1の内周面12と上側耳部311の押圧面3aとの交点P1の上下位置は変化しない。また、耳角度θが小さいほど、上側セグメント1の外周側の下方傾斜は小さいものとなるが、上昇行程(より詳細には、上昇行程において慣性力が上向きに作用する範囲)において上面13がリング溝30の上壁301に接触するまでの移動時間は短いものとなる。つまり、上面13がリング溝30の上壁301に対して早期に接触するため、上面13のシール性能が向上する。なお、上側セグメント1の上面13とリング溝30の上壁301との間の隙間(サイドクリアランス)は、狭いほどオイルシール性は増すが、カーボンスティックの懸念は増加する。そのため、本技術は、カーボンスティックが生じない範囲でサイドクリアランスを設定することが好ましい。具体的には、リング溝30の軸方向幅とオイルリング40の軸方向幅との差が30μm~60μmであることが好ましく、これより小さいとカーボンスティックが生じやすくなり、これより大きいと上下のセグメント1,2がスペーサエキスパンダ3に乗り上げてしまい上下セグメント1,2の挙動が阻害される可能性がある。また、上下のセグメント1,2がサイドクリアランスをシールするために必要な移動距離や移動時間が増加することもある。但し、本発明はこれに限定されない。
【0083】
ここで、Fyに起因するモーメントM1が大きければ大きいほど上側セグメント1の内周側のサイドシール性能は向上するが、これが大きすぎると、上側セグメント1とリング溝30の上壁301との摩擦が過大となり、外周側のオイル掻き性能が低下する可能性がある。また、リング溝30の上壁301に対する攻撃性が高くなる可能性もある。そのため、Fyは、ある程度の大きさに留めることが好ましい。このことを考慮すると、θの下限値は、θ≧2°とすることが好ましく、θ≧5°とすることがより好ましい。また、θ
の上限値は、θ≦18°とすることが好ましく、θ≦15°とすることがより好ましい。なお、θ<1°の場合は製造が困難であり、θ>20°の場合ではFyが大きくなり過ぎてリング溝30の上壁301との摩擦が増加するため、シリンダ10に対する上側セグメント1の追従性が低下し、結果として、オイル掻き性能が低下する。
【0084】
また、FyによるモーメントM1とFxによるモーメントM2との比率は、M2/M1>-0.14を満たすことが好ましい。M2/M1>-0.14の条件は、上述の式(7)及び式(8)より、以下の式で表すことができる。
cosθ(Y1-Y2)/(sinθ(X2-X1))>-0.14・・・・式(10)
【0085】
また、M1とM2との比率は、上述の式(2)により導出される軸方向の力Fyと上述の式(9)によりM2に基づいて導出される軸方向の力Fzとの比率に置き換えることもできる。即ち、M2/M1>-0.14の条件は、以下の式でも表すことができる。
Fz/Fy>-0.14・・・・式(11)
式(10)や式(11)を満たすことで、上側セグメント1の内周側のサイドシール力を好適に高めることができる。なお、cosθ(Y1-Y2)/(sinθ(X2-X1))は、-0.07以上とすることが更に好ましく、0以上とすることがより一層好ましい。また、cosθ(Y1-Y2)/(sinθ(X2-X1))の上限は特に設定されないが、製造上の観点から、5.0以下とすることが好ましい。
【0086】
更に、FxによるモーメントM2を正の値とすることが好ましい。M2>0とすることで、サイドシール力をより一層高めることができる。M2>0の条件は、上述の式(8)により、以下の式で表すことができる。
Fcosθ(Y1-Y2)>0・・・・式(12)
つまり、スペーサエキスパンダ3が発生させる張力を2Fとし、そのうち上側セグメント1に作用する力をFとしたとき、Fcosθ(Y1-Y2)>0とすることが好ましい。
【0087】
ここで、図19~21のように、周方向に直交する断面において、内周面12と押圧面3aとの交点P1を外周頂部TP1よりも上側に位置させることで、Y1-Y2>0となる。これにより、M2>0とすることができ、サイドシール力をより一層高めることができる。
【0088】
[シール性能評価]
実施形態に係るオイルリング40の上側セグメント1のシール性能を解析により評価した。解析では、内燃機関100のピストン20のリング溝30にオイルリング40を組み付けた状態を想定し、ピストン20の上昇行程または下降行程において上側セグメント1がリング溝30の上壁301に接触する面圧と上側セグメント1がリング溝30の上壁301に接触するまでの移動時間を導出した。解析は、表1に示す比較例1、比較例2、実施例1~11について、実施例2、及び比較例に係る上側セグメント1を用いたオイルリング40の夫々について実施した。
【表1】
【0089】
表1中、「耳角度[°]」の欄に記載された数値は、スペーサエキスパンダ3の上側耳部311の耳角度θである。θは、形状測定器を使用し、縦横同倍率の50倍で得られる形状から直接測定する。表1中、「内外周合計偏心量[mm]」の欄に記載された数値は、静止状態における内周頂部TP2と外周頂部TP1との軸方向における距離である。表1中、「Fz/Fy」の欄に記載された数値は、上述の式(2)により導出される軸方向の力Fyと上述の式(9)により導出される軸方向の力Fzとの比率であり、Fz/Fyを計算することで導出される。表1中、「内周側の面圧評価」の欄の記載は、上側セグメント1の上面13の内周側の面圧を評価したものである。ピストン20の上昇行程及び下降行程における面圧(上側セグメント1の上面13の内周側がリング溝30の上壁301を押し付ける面圧)の平均値を評価した。評価は、比較例1に対する面圧の増加率が10%未満の場合に「C」とし、10%以上50%未満の場合に「B」とし、50%以上の場合に「A」とした。表1中、「移動時間評価」の欄の記載は、ピストン20の下降行程において上側セグメント1の上面13がリング溝30の上壁301に接触するまでの時間を評価したものである。評価は、比較例2に対する移動時間の短縮率が10%未満の場合に「C」とし、10%以上50%未満の場合に「B」とし、50%以上の場合に「A」とした。
【0090】
比較例1では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0mm、Fz/Fyを-0.2とした。
比較例2では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0.01mm、Fz/Fyを-0.17とした。
実施例1では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0.02mm、Fz/Fyを-0.14とした。
実施例2では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0.04mm、Fz/Fyを-0.07とした。
実施例3では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0.06mm、Fz/Fyを0とした。
実施例4では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0.16mm、Fz/Fyを0.33とした。
実施例5では、耳角度を1°、内外周合計偏心量を0.01mm、Fz/Fyを0.13とした。
実施例6では、耳角度を5°、内外周合計偏心量を0.01mm、Fz/Fyを-0.14とした。
実施例7では、耳角度を15°、内外周合計偏心量を0.04mm、Fz/Fyを-0.11とした。
実施例8では、耳角度を20°、内外周合計偏心量を0.04mm、Fz/Fyを-0.13とした。
実施例9では、耳角度を2°、内外周合計偏心量を0.03mm、Fz/Fyを0.2
8とした。
実施例10では、耳角度を7°、内外周合計偏心量を0.04mm、Fz/Fyを-0.01とした。
実施例11では、耳角度を10°、内外周合計偏心量を0.05mm、Fz/Fyを-0.04とした。
【0091】
図22図24は、解析結果を示すグラフである。図22は、上側セグメント1の内外周合計偏心量と上側セグメント1の上面13の内周側の面圧との関係を示す。図22では、耳角度が10°の場合で比較しており、比較例1の面圧に対する比較例2、実施例1~4、及び実施例11の面圧の相対値が示されている。図23は、耳角度が7°以上20°以下の場合における耳角度と上側セグメント1の上面13の内周側の面圧との関係を示す。図23では、上側セグメント1の内外周偏心量が0.04mmの場合で比較しており、比較例1の上側セグメント1の上面13の内周側の面圧に対する実施例2、7、8、10の面圧の相対値が示されている。図24は、耳角度が7°未満の場合における耳角度と上側セグメント1がリング溝30の上壁301に接触するまでの移動時間との関係を示す。図24では、上側セグメント1の内外周偏心量が0.01mmの場合で比較しており、比較例2の移動時間に対する実施例5、6、9の移動時間の相対値が示されている。
【0092】
図22に示すように、内外周の合計偏心量が大きいほど、上側セグメント1の上面13の内周側の面圧が上昇する傾向があることが確認できた。また、図23に示すように、耳角度が大きくなるほど、上側セグメント1の上面13の内周側の面圧が上昇する傾向があることが確認できた。また、図24に示すように、耳角度が7°未満の比較的耳角度が小さい場合には、耳角度が小さくなるほど、上側セグメント1の上面13がリング溝30の上壁301に接触するまでの移動時間が短くなる傾向があることを確認できた。
【0093】
<その他>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。例えば、本発明に係る上側セグメントの内周面の形状は、図4等で説明したような湾曲形状と図10で説明したようなテーパ形状とを組み合わせたものであってもよい。つまり、上側セグメントの内周面において、内周頂部よりも上側の上側領域と内周頂部よりも下側の下側領域とのうち、一方は湾曲面として形成され、他方はテーパ面として形成されてもよい。更に、その場合において、内周面の上側領域はテーパ面として形成され、下側領域は湾曲面として形成されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
100:内燃機関
10:シリンダ
20:ピストン
30:リング溝
40:オイルリング
1:上側セグメント
11:外周面
12:内周面
13:上面
14:下面
2:下側セグメント
3:スペーサエキスパンダ
311:上側耳部
3a:押圧面
TP2:内周頂部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24