(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20240730BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20240730BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240730BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B01J23/63 A
B01J35/45 ZAB
B01J37/02 101D
B01D53/94 200
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2022045664
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正興
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美穂
(72)【発明者】
【氏名】吉永 泰三
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
(72)【発明者】
【氏名】林 高弘
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508437(JP,A)
【文献】特開平05-184876(JP,A)
【文献】特開2022-029851(JP,A)
【文献】特開2002-204956(JP,A)
【文献】特表2016-517342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、Pd又はPd酸化物からなるPd系ナノ粒子と組成式CeO
2-x(0≦x<0.5)で表されるセリアナノ粒子とが担持されており、
前記複合酸化物担体に担持されたCeとPdとのモル比(Ce/Pd)が1~8であり、
エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像におけるPd分布図及びCe分布図に基づいて、下記式(1):
【数1】
〔式(1)中、I(i,j)は、前記Pd分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、I
aveは、前記Pd分布図における平均輝度値を表し、T(i,j)は、前記Ce分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、T
aveは、前記Ce分布図における平均輝度値を表す。〕
により求められる、PdとCeとの近接度αが0.15~0.50であり、
リッチガス(H
2(2vol%)+CO
2(10vol%)+H
2O(3vol%)+N
2(残部))とリーンガス(O
2(1vol%)+CO
2(10vol%)+H
2O(3vol%)+N
2(残部))とを0.5L/分の流量で5分間毎に交互に切替えて流通させながら、1050℃で25時間加熱する耐熱試験後のPdの分散度が0.8%以上である
ことを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像に基づいて、下記式(2):
【数2】
〔式(2)中、nは前記元素マッピング像において無作為に抽出した前記Pd系ナノ粒子を中心とする縦162.0nm×横162.0nmの領域の総数であり、C
Ce、C
Pd、C
Al、C
Mはそれぞれ抽出した各領域におけるCe、Pd、Al、その他の金属Mの濃度を表す。〕
により求められる、前記Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βが16%以上であることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
大気中、500℃で5時間加熱した後のPdの分散度が15%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、前記複合酸化物担体に担持されたCeとPdとのモル比(Ce/Pd)が1~8
となり、
エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像におけるPd分布図及びCe分布図に基づいて、下記式(1):
【数3】
〔式(1)中、I(i,j)は、前記Pd分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、I
ave
は、前記Pd分布図における平均輝度値を表し、T(i,j)は、前記Ce分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、T
ave
は、前記Ce分布図における平均輝度値を表す。〕
により求められる、PdとCeとの近接度αが0.15~0.50となり、
リッチガス(H
2
(2vol%)+CO
2
(10vol%)+H
2
O(3vol%)+N
2
(残部))とリーンガス(O
2
(1vol%)+CO
2
(10vol%)+H
2
O(3vol%)+N
2
(残部))とを0.5L/分の流量で5分間毎に交互に切替えて流通させながら、1050℃で25時間加熱する耐熱試験後のPdの分散度が0.8%以上となるように、組成式CeO
2-x(0≦x<0.5)で表されるセリアナノ粒子を担持させた後、Pd又はPd酸化物からなるPd系ナノ粒子を担持させることを特徴とする排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に4価のCeを含む化合物を含浸させることにより、前記複合酸化物担体にセリアナノ粒子を担持させることを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記4価のCeを含む化合物が4価のCeの硝酸塩であることを特徴とする請求項5に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に硝酸パラジウムを含浸させることにより、前記複合酸化物担体に前記Pd系ナノ粒子を担持させることを特徴とする請求項4~6のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関し、より詳しくは、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体にパラジウムとセリウムが担持された排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)を酸化すると同時に、窒素酸化物(NOx)を還元できる排ガス浄化用触媒として、白金、ロジウム及びパラジウム等の貴金属をアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア、セリア等からなる金属酸化物担体に担持した三元触媒が広く知られている。そして、このような排ガス浄化用触媒においては、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して排ガス浄化能力を向上させるために、排ガス中の酸素濃度が高いときに酸素を吸蔵でき、排ガス中の酸素濃度が低いときに酸素を放出できる酸素貯蔵能(Oxygen Storage Capacity(OSC))を有する材料を排ガス浄化用触媒の担体や助触媒として用いられている。
【0003】
このような酸素貯蔵材料を用いた排ガス浄化用触媒として、例えば、特開2010-12397号公報(特許文献1)には、アルミナ粒子と、酸素吸蔵放出能を有するCeZr系複合酸化物粒子と、Pdとを含有する排気ガス浄化用触媒材が開示されている。この排気ガス浄化用触媒材においては、PdをCeZr系複合酸化物粒子のみにドープして固定することによって酸素吸蔵放出能が向上し、さらに、このCeZr系複合酸化物粒子をアルミナ粒子の表面に分散担持させることによってCeZr系複合酸化物粒子同士のシンタリングが抑制されるため、高温の排気ガスに曝された場合でも、優れた浄化性能が維持される。そして、特許文献1には、このような排気ガス浄化用触媒材が、Ce、Zr及びPdを含有する共沈物とAlを含有する沈殿物とを混合した後、乾燥及び焼成することによって得られることも記載されている。
【0004】
また、特開2007-105633号公報(特許文献2)には、Al2O3、ZrO2、SiO2、TiO2及びCeO2のうちの少なくとも1種を含む酸化物からなる担体と、この担体に担持された酸化パラジウム(PdO)粒子と、この酸化パラジウム(PdO)粒子と接触して前記担体に担持された希土類酸化物(LnOx)粒子とを含有する排ガス浄化用触媒が開示されている。この排ガス浄化用触媒においては、担体上に、PdO粒子とLnOx粒子とを共存させることによってPdOからPdへのメタル化を抑制し、Pd粒子の凝集を防ぐことによって、高温度域下においても高い触媒活性を維持している。そして、特許文献2には、このような排気ガス浄化用触媒が、前記担体とPd前駆体とLn前駆体とを含有する水溶液から水分を蒸発させた後、得られた乾燥粉末を焼成することによって得られることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-12397号公報
【文献】特開2007-105633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~2に記載の排ガス浄化用触媒は、自動車エンジン等の内燃機関の始動直後の低温域においては、Pdの表面に炭化水素(HC)が吸着被毒するため、十分な触媒活性が得られず、また、高温に曝された後の酸素吸放出性能も十分なものではなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温での触媒活性に優れるとともに、高温に曝された後の酸素吸放出能にも優れた排ガス浄化用触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、CeとPdとが特定のモル比となるように、セリアナノ粒子を担持させた後、Pdを含むナノ粒子を担持させることによって、Pdを含むナノ粒子が分散担持され、かつ、セリアナノ粒子とPdを含むナノ粒子とが近接して担持された排ガス浄化用触媒が得られ、この排ガス浄化用触媒が低温での触媒活性に優れるとともに、高温に曝された後の酸素吸放出能にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、Pd又はPd酸化物からなるPd系ナノ粒子と組成式CeO2-x(0≦x<0.5)で表されるセリアナノ粒子とが担持されており、
前記複合酸化物担体に担持されたCeとPdとのモル比(Ce/Pd)が1~8であり、
エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像におけるPd分布図及びCe分布図に基づいて、下記式(1):
【0010】
【0011】
〔式(1)中、I(i,j)は、前記Pd分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、Iaveは、前記Pd分布図における平均輝度値を表し、T(i,j)は、前記Ce分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、Taveは、前記Ce分布図における平均輝度値を表す。〕
により求められる、PdとCeとの近接度αが0.15~0.50であり、
リッチガス(H2(2vol%)+CO2(10vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とリーンガス(O2(1vol%)+CO2(10vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とを0.5L/分の流量で5分間毎に交互に切替えて流通させながら、1050℃で25時間加熱する耐熱試験後のPdの分散度が0.8%以上である
ことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の排ガス浄化用触媒においては、エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像に基づいて、下記式(2):
【0013】
【0014】
〔式(2)中、nは前記元素マッピング像において無作為に抽出した前記Pdナノ粒子を中心とする縦162.0nm×横162.0nmの領域の総数であり、CCe、CPd、CAl、CMはそれぞれ抽出した各領域におけるCe、Pd、Al、その他の金属Mの濃度を表す。〕
により求められる、前記Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βが16%以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、大気中、500℃で5時間加熱した後のPdの分散度が15%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、前記複合酸化物担体に担持されたCeとPdとのモル比(Ce/Pd)が1~8となり、
エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像におけるPd分布図及びCe分布図に基づいて、前記式(1)により求められる、PdとCeとの近接度αが0.15~0.50となり、
リッチガス(H
2
(2vol%)+CO
2
(10vol%)+H
2
O(3vol%)+N
2
(残部))とリーンガス(O
2
(1vol%)+CO
2
(10vol%)+H
2
O(3vol%)+N
2
(残部))とを0.5L/分の流量で5分間毎に交互に切替えて流通させながら、1050℃で25時間加熱する耐熱試験後のPdの分散度が0.8%以上となるように、組成式CeO2-x(0≦x<0.5)で表されるセリアナノ粒子を担持させた後、Pd又はPd酸化物からなるPd系ナノ粒子を担持させることを特徴とする方法である。
【0017】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に4価のCeを含む化合物を含浸させることにより、前記複合酸化物担体にセリアナノ粒子を担持させることが好ましく、前記4価のCeを含む化合物が4価のCeの硝酸塩であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に硝酸パラジウムを含浸させることにより、前記複合酸化物担体に前記Pd系ナノ粒子を担持させることが好ましい。
【0019】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒が、低温での触媒活性に優れるとともに、高温に曝された後の酸素吸放出能にも優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、セリアとPdとの共沈物を担持したり、Pdが担持した複合酸化物粉末とセリア粉末とを物理混合したり、セリアとPdとを同時に担持したりするといった従来の担持方法により得られる排ガス浄化用触媒においては、Pdがセリア中に埋没したり、PdとCeO2-xとの接点が不足したりするため、セリアとPdとの相互作用(PdとCeO2-xとの界面における酸素授受)が十分に得られず、Pdナノ粒子表面に炭化水素(HC)が吸着被毒し、低温において十分な触媒活性が発現しない。
【0020】
また、Pdナノ粒子表面へのHCの吸着被毒を抑制するために、セリアナノ粒子の代わりに、HC被毒抑制作用やHC酸化促進作用を有するBa、La、Fe、Co等の金属原子を含むナノ粒子を担持させた場合には、高温環境下において、前記金属原子とアルミナやジルコニアとが固相反応するため、高温に曝された後の酸素吸放出能が低下する。
【0021】
一方、本発明の排ガス浄化用触媒においては、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、セリアナノ粒子を担持させた後、Pdを含むナノ粒子を担持させているため、セリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが近接して担持される。このように、セリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが近接して担持された排ガス浄化用触媒においては、セリアナノ粒子とPdとの相互作用によって、具体的には、PdとCeO2-xとの界面における酸素授受によりCeが還元され、酸素欠陥や遊離酸素が生成することによって、PdとCeO2-xと気相との三相界面におけるHC酸化活性が向上し、Pdナノ粒子表面へのHCの吸着被毒が抑制され、低温においても優れた触媒活性が発現すると推察される。
【0022】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、高温に曝された場合であっても、セリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが反応しないため、優れた酸素吸放出能が維持されると推察される。さらに、セリアナノ粒子は、その一部が酸素吸放出材(セリア-ジルコニア固溶体)と反応することがあっても、優れた酸素吸放出能が維持されており、また、Pd系ナノ粒子の近傍に留まることによってPd系ナノ粒子表面へのHCの吸着被毒を抑制するため、本発明の排ガス浄化用触媒においては、低温においても優れた触媒活性が発現すると推察される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低温での触媒活性に優れるとともに、高温に曝された後の酸素吸放出能にも優れた排ガス浄化用触媒を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例及び比較例で得られた触媒粉末において、酸化物担体に担持されたPdとCeとの近接度αを示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例で得られた触媒粉末のPdナノ粒子近傍のCe濃度βを示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例で得られた触媒粉末の耐熱試験後のPd分散度を示すグラフである。
【
図4】実施例2、6及び比較例4、5で得られた触媒粉末の耐熱試験後のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図5】実施例及び比較例で得られた触媒粉末の400℃における酸素放出速度を示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例で得られた触媒粉末の400℃におけるC
3H
6浄化率を示すグラフである。
【
図7】PdとCeとの近接度αと耐熱試験後のPd分散度との関係を示すグラフである。
【
図8】400℃における酸素放出速度とC
3H
6浄化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
〔排ガス浄化用触媒〕
先ず、本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒は、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、Pd又はPd酸化物からなるPd系ナノ粒子と組成式CeO2-x(0≦x<0.5)で表されるセリアナノ粒子とが担持されたものである。
【0027】
本発明に用いられる担体としては、排ガス浄化用触媒に用いられ、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する従来公知の複合酸化物担体が挙げられる。このような複合酸化物担体中のアルミナの含有率としては20~40質量%が好ましい。アルミナの含有率が前記下限未満になると、前記複合酸化物担体の比表面積が低下し、低温での触媒活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記複合酸化物担体の酸素貯蔵能(OSC能)が低下し、低温での触媒活性が低下する傾向にある。
【0028】
前記複合酸化物担体におけるセリアとジルコニアとのモル比としては、セリア:ジルコニア=2:8~5:5が好ましい。セリアとジルコニアとのモル比が前記下限未満になると、前記複合酸化物担体の酸素貯蔵能(OSC能)が低下し、低温での触媒活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、セリア-ジルコニア複合酸化物の耐熱性が低下し、セリア-ジルコニア複合酸化物の分相や比表面積の低下が著しく、低温での触媒活性が低下する傾向にある。
【0029】
また、本発明に用いられる複合酸化物担体には、その他の金属酸化物として、Sc、Ti、Y又はHfの酸化物、La、Pr、Nd、Sm等のランタノイド系酸化物が含まれていてもよい。これらの金属酸化物のうち、Y、La、Nd、Prの酸化物が好ましい。
【0030】
本発明に用いられるPd系ナノ粒子は、Pd又はPd酸化物(PdO)からなるナノ粒子、すなわち、Pdナノ粒子、Pd酸化物ナノ粒子、又はこれらの混合物であり、本発明の排ガス浄化用触媒において、活性サイトとなるものである。この活性サイトにおいて、近接するセリアナノ粒子から酸素を受け取り、炭化水素(HC)等の酸化反応が進行する。
【0031】
本発明に用いられるセリアナノ粒子は、組成式CeO2-x(0≦x<0.5)で表されるナノ粒子であり、酸素吸蔵材(OSC材)として作用するものである。本発明の排ガス浄化用触媒においては、このセリアナノ粒子が前記Pd系ナノ粒子に近接しているため、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子間で十分に酸素授受が行われ、HCの吸着被毒が抑制され、低温においても優れた触媒活性が発現する。
【0032】
本発明の排ガス浄化用触媒において、前記複合酸化物担体に担持されたCeとPdとのモル比(Ce/Pd)は1~8である。Ce/Pdが前記範囲内にあると、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子との界面が十分に形成され、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子間で十分に酸素授受が行われ、HCの吸着被毒が抑制され、低温においても優れた触媒活性が発現する。一方、Ce/Pdが前記下限未満になると、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子との界面が十分に形成されず、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子間で、HCの吸着被毒を抑制する酸素授受が困難となり、低温において十分な触媒活性が発現しない。他方、Ce/Pdが前記上限を超えると、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子との界面は増加するが、Pdを被覆することになるため、反応ガスとの接触性が低下したり、担体の細孔閉塞により比表面積が減少するため、低温において十分な触媒活性が発現しない。また、HCの吸着被毒が更に抑制され、低温での触媒活性が向上するという観点から、Ce/Pdとしては、1~5が好ましく、2~5がより好ましく、2~4が特に好ましい。
【0033】
また、本発明の排ガス浄化用触媒において、エネルギー分散型X線分析(EDX)により得られる元素マッピング像(EDX元素マッピング像)におけるPd分布図及びCe分布図に基づいて、下記式(1):
【0034】
【0035】
〔式(1)中、I(i,j)は、前記Pd分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、Iaveは、前記Pd分布図における平均輝度値を表し、T(i,j)は、前記Ce分布図を横方向にM個かつ縦方向にN個に分画した場合に、横方向にi番目かつ縦方向にj番目の区画(i,j)における輝度値を表し、Taveは、前記Ce分布図における平均輝度値を表す。〕
により求められる、PdとCeとの近接度αは0.15~0.50である。PdとCeとの近接度αが前記範囲内にあると、セリアとPdとの相互作用により、Pdナノ粒子表面へのHCの吸着被毒が抑制されるとともに、Pdのメタル化が阻害されないため、低温においても優れた触媒活性が発現する。一方、PdとCeとの近接度αが前記下限未満になると、セリアとPdとの相互作用が十分に発現せず、Pdナノ粒子表面へHCが吸着被毒し、低温において十分な触媒活性が発現しない。他方、PdとCeとの近接度αが前記上限を超えると、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子との界面は増加するが、Pdを被覆することになるため、反応ガスとの接触性が低下したり、担体の細孔閉塞により比表面積が減少するため、低温において十分な触媒活性が発現しない場合がある。また、HCの吸着被毒が更に抑制されるとともに、Pdのメタル化が更に阻害されにくくなるため、低温での触媒活性が向上するという観点から、PdとCeとの近接度αとしては、0.18~0.45が好ましく、0.20~0.40がより好ましく、0.25~0.35が特に好ましい。
【0036】
なお、前記EDX元素マッピング像は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置を備える走査透過型電子顕微鏡を用い、視野倍率:1.2×106倍の条件でEDX分析を行うことによって得ることができる。また、PdとCeとの近接度αは、前記EDX元素マッピング像におけるPd分布図及びCe分布図について、画像処理ソフトウェアImageJ又はMatlab等を用いてゼロ平均正規化相互相関(ZNCC:Zero-means Normarized Cross-Correlation)の係数値を算出することによって得ることができる。
【0037】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒において、リッチガス(H2(2vol%)+CO2(10vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とリーンガス(O2(1vol%)+CO2(10vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とを0.5L/分の流量で5分間毎に交互に切替えて流通させながら、1050℃で25時間加熱する耐熱試験後のPdの分散度は0.8%以上である。耐熱試験後のPdの分散度が前記範囲内にあると、浄化反応が進行する活性なPd系ナノ粒子の表面積が確保され、低温での触媒活性が担保される。一方、耐熱試験後のPdの分散度が前記下限未満になると、浄化反応が進行する活性なPd系ナノ粒子の表面積が不足し、低温での触媒活性が低下する。また、Pd系ナノ粒子がセリアナノ粒子によって被覆されたり、埋没したりしている場合もあり、この場合には、Pd系ナノ粒子と反応ガスとの接触性が低下し、低温での触媒活性が低下する傾向にある。また、低温での触媒活性が向上するという観点から、耐熱試験後のPdの分散度としては、0.8~50%が好ましく、0.9~50%がより好ましく、1~50%が特に好ましい。
【0038】
なお、Pdの分散度は、排ガス浄化用触媒について、CO吸着量を測定し、得られたCO吸着量とPd担持量とから、下記式:
Pd分散度[%]=CO吸着量[mol]/Pd担持量[mol]×100
により算出することができる。
【0039】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、エネルギー分散型X線分析により得られる元素マッピング像に基づいて、下記式(2):
【0040】
【0041】
〔式(2)中、nは前記元素マッピング像において無作為に抽出した前記Pdナノ粒子を中心とする縦162.0nm×横162.0nmの領域の総数であり、CCe、CPd、CAl、CMはそれぞれ抽出した各領域におけるCe、Pd、Al、その他の金属Mの濃度を表す。〕
により求められる、前記Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βが16%以上であることが好ましい。Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βが前記範囲内にあると、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子との界面が十分に形成され、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子間で十分に酸素授受が行われ、HCの吸着被毒が抑制され、低温においても優れた触媒活性が発現しやすくなる。一方、Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βが前記下限未満になると、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子との界面が十分に形成されず、Pd系ナノ粒子とセリアナノ粒子間で、HCの吸着被毒を抑制する酸素授受が困難となりやすく、低温において十分な触媒活性が発現しにくくなる傾向にある。また、HCの吸着被毒が更に抑制され、低温での触媒活性が向上するという観点から、Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βとしては、16~50%が好ましく、18~40%がより好ましく、20~30%が特に好ましい。
【0042】
なお、Pd系ナノ粒子近傍のCe濃度βは、前記EDX元素マッピング像において、Pdナノ粒子を中心とする縦162.0nm×横162.0nmの領域を無作為にn=50~100点抽出し、抽出した各領域におけるPd、Al、Ce及びその他の金属Mの各元素の濃度をEDX元素マッピングデータに基づいて算出し、得られた各元素の濃度を用いて、前記式(2)により求めることができる。
【0043】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒においては、大気中、500℃で5時間加熱した後のPdの分散度(初期のPdの分散度)が15%以上であることが好ましい。初期のPdの分散度が前記範囲内にあると、浄化反応が進行する活性なPd系ナノ粒子の表面積が確保され、低温での触媒活性が担保されやすくなる。一方、初期のPdの分散度が前記下限未満になると、浄化反応が進行する活性なPd系ナノ粒子の表面積が不足し、低温での触媒活性が低下する傾向にある。また、Pd系ナノ粒子がセリアナノ粒子によって被覆されたり、埋没したりしている場合もあり、この場合には、Pd系ナノ粒子と反応ガスとの接触性が低下し、低温での触媒活性が低下する傾向にある。また、低温での触媒活性が向上するという観点から、初期のPdの分散度としては、15~80%が好ましく、15~60%がより好ましく、20~60%が特に好ましい。なお、Pdの分散度の算出方法は、前述のとおりである。
【0044】
〔排ガス浄化用触媒の製造方法〕
次に、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、前記複合酸化物担体に担持されたCeとPdとのモル比(Ce/Pd)が1~8(好ましくは1~5、より好ましくは2~5、特に好ましくは2~4)となるように、セリアナノ粒子を担持させた後、Pd又はPd酸化物からなるPd系ナノ粒子を担持させる方法である。セリアナノ粒子を担持させた後、Pd系ナノ粒子を担持させることによって、Pd系ナノ粒子がセリアナノ粒子中に埋没することを防ぐことができ、アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に、セリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが近接して担持され、かつ、Pd系ナノ粒子が分散担持された、前記本発明の排ガス浄化用触媒を得ることができる。一方、セリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とを同時に担持させた場合には、Pd系ナノ粒子がセリアナノ粒子中に埋没するため、Pd系ナノ粒子と反応ガスとが十分に接触せず、得られる排ガス浄化用触媒は、低温での触媒活性が低下する。
【0045】
セリアナノ粒子及びPd系ナノ粒子を担持させる方法としては特に制限はなく、例えば、含浸法、中和析出法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、硝酸塩水溶液燃焼法等の従来公知の担持方法を採用することができる。
【0046】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記アルミナとセリアとジルコニアとを含有する複合酸化物担体に4価のCeを含む化合物(より好ましくは、4価のCeの硝酸塩)を含浸させ、大気中等の酸化雰囲気下で乾燥、焼成することにより、前記複合酸化物担体にセリアナノ粒子を担持させることが好ましい。これにより、セリアナノ粒子をアルミナと固相反応しにくいCeO2として担持することができ、前記複合酸化物担体の微細構造を維持しつつ、セリアナノ粒子を高分散に担持することが可能となる。
【0047】
また、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、上記方法により、前記複合酸化物担体にセリアナノ粒子を担持させた後、硝酸パラジウムを含浸させることにより、前記Pd系ナノ粒子を担持させることが好ましい。これにより、低温においても優れた触媒活性を発現する排ガス浄化用触媒を得ることができる。また、この排ガス浄化用触媒は、低温におけるHCの浄化反応を早期に活性化するとともに、生じる浄化反応熱により、他の貴金属活性点や助触媒(OSC材等)の活性化も促進することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
硝酸二アンモニウムセリウム4.33gをイオン交換水50.00gに溶解し、得られた水溶液にアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(ACZ粉末、Al2O3:CeO2:ZrO2:その他の金属酸化物=30質量%:23質量%:39質量%:8質量%)19.64gを添加し、30分間以上攪拌した。得られた分散液をホットスターラー上で攪拌しながら加熱して溶媒を除去した後、400℃で5時間焼成して、セリアナノ粒子が担持したアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(Ce担持ACZ粉末)を得た。
【0050】
次に、Pd原子換算で0.4gの硝酸パラジウムをイオン交換水50.00gに添加し、得られた水溶液に前記Ce担持ACZ粉末20.00gを添加し、30分間以上攪拌した。得られた分散液をホットスターラー上で攪拌しながら加熱して溶媒を除去した後、400℃で5時間焼成して、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒粉末(Pd-2Ce/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたCeとPdとのモル比はCe/Pd=2である。
【0051】
(実施例2)
硝酸二アンモニウムセリウムの量を8.66gに、ACZ粉末の量を18.28gに変更した以外は実施例1と同様にして、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒粉末(Pd-4Ce/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたCeとPdとのモル比はCe/Pd=4である。
【0052】
(実施例3)
硝酸二アンモニウムセリウムの量を17.32gに、ACZ粉末の量を16.92gに変更した以外は実施例1と同様にして、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒粉末(Pd-8Ce/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたCeとPdとのモル比はCe/Pd=8である。
【0053】
(比較例1)
Pd原子換算で0.4gの硝酸パラジウムをイオン交換水50.00gに添加し、得られた水溶液にアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(ACZ粉末、Al2O3:CeO2:ZrO2:その他の金属酸化物=30質量%:23質量%:39質量%:8質量%)17.41gを添加し、30分間以上攪拌した。得られた分散液をホットスターラー上で攪拌しながら加熱して溶媒を除去した後、400℃で5時間焼成して、Pd系ナノ粒子が担持したアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(Pd/ACZ粉末)を得た。このPd/ACZ粉末とセリア粉末2.59gとを乳鉢を用いて5分間以上攪拌して混合した後、400℃で5時間焼成して、Pd/ACZ粉末とセリア粉末との物理混合粉末からなる触媒粉末(Pd/ACZ+4Ce粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたPdとセリア粉末中のCeとのモル比はCe/Pd=4である。
【0054】
(比較例2)
ACZ粉末の量を15.82gに、セリア粉末の量を5.18gに変更した以外は比較例1と同様にして、Pd/ACZ粉末とセリア粉末との物理混合粉末からなる触媒粉末(Pd/ACZ+8Ce粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたPdとセリア粉末中のCeとのモル比はCe/Pd=8である。
【0055】
(比較例3)
Pd原子換算で0.4gの硝酸パラジウムをイオン交換水20.00gに添加し、硝酸パラジウム水溶液を調製した。また、硝酸二アンモニウムセリウム8.66gをイオン交換水30.00gに溶解し、硝酸二アンモニウムセリウム水溶液を調製した。これらの水溶液を混合して攪拌し、パラジウム(Pd)とセリウム(Ce)とを含有する前駆体水溶液を調製した。
【0056】
次に、25%アンモニア水13.00gとイオン交換水50.00gとを混合して調製した水溶液に、前記前駆体水溶液を滴下してゾル溶液を調製し、得られたゾルをろ過、洗浄した後、イオン交換水300gに再分散させた。得られた分散液にアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(ACZ粉末、Al2O3:CeO2:ZrO2:その他の金属酸化物=30質量%:23質量%:39質量%:8質量%)17.41gを添加し、30分間以上攪拌した。得られた分散液をホットスターラー上で攪拌しながら加熱して溶媒を除去した後、400℃で5時間焼成して、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体にパラジウム(Pd)とセリアとの共沈物が担持した触媒粉末(Pd+4Ce/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたPdとCeとのモル比はCe/Pd=4である。
【0057】
(比較例4)
硝酸二アンモニウムセリウムの代わりに酢酸バリウム6.84gを用い、ACZ粉末の量を17.55gに変更した以外は実施例1と同様にして、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体に酸化バリウム(BaO)ナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒粉末(Pd-4Ba/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたBaとPdとのモル比はBa/Pd=4である。
【0058】
(比較例5)
硝酸二アンモニウムセリウムの代わりに硝酸ランタン6水和物4.03gを用い、ACZ粉末の量を17.42gに変更した以外は実施例1と同様にして、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体に酸化ランタン(La2O3)ナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒粉末(Pd-4La/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたLaとPdとのモル比はLa/Pd=4である。
【0059】
(比較例6)
Pd原子換算で0.42gの硝酸パラジウムをイオン交換水50.00gに添加し、得られた水溶液にアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(ACZ粉末、Al2O3:CeO2:ZrO2:その他の金属酸化物=30質量%:23質量%:39質量%:8質量%)17.41gを添加し、30分間以上攪拌した。得られた分散液をホットスターラー上で攪拌しながら加熱して溶媒を除去した後、400℃で5時間焼成して、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体にPd系ナノ粒子が担持した触媒粉末(Pd/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたCeとPdとのモル比はCe/Pd=0である。
【0060】
(比較例7)
硝酸二アンモニウムセリウム8.66gとPd原子換算で0.4gの硝酸パラジウムとをイオン交換水50.00gに溶解し、得られた水溶液にアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物粉末(ACZ粉末、Al2O3:CeO2:ZrO2:その他の金属酸化物=30質量%:23質量%:39質量%:8質量%)18.28gを添加し、30分間以上攪拌した。得られた分散液を150℃で一昼夜加熱して溶媒を除去した後、400℃で5時間焼成して、アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物担体にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが同時に担持した触媒粉末(Pd-4Ce同時担持/ACZ粉末)を得た。この触媒粉末において、ACZ粉末に担持されたCeとPdとのモル比はCe/Pd=4である。
【0061】
(比較例8)
ACZ粉末の代わりにアルミナ粉末18.28gを用いた以外は実施例2と同様にして、アルミナ担体にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒粉末(Pd-4Ce/Al粉末)を得た。この触媒粉末において、アルミナ粉末に担持されたCeとPdとのモル比はCe/Pd=4である。
【0062】
<エネルギー分散型X線分析>
実施例及び比較例で得られた触媒粉末について、エネルギー分散型X線分析装置を備える走査透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F NEOARM」)を用い、加速電圧:200kV、視野倍率:1.2×106倍の条件でエネルギー分散型X線(EDX)分析を行い、縦512ピクセル×横512ピクセルのEDX元素マッピング像を取得し、Al、Ce、Zr、Pd、Oの各元素の分布図を得た。
【0063】
<Pd-Ce近接度α>
前記EDX分析により得られたPd分布図及びCe分布図に基づいて、下記式(1):
【0064】
【0065】
〔式(1)中、I(i,j)は前記Pd分布図(M=512、N=512)における横方向にi番目かつ縦方向にj番目のピクセルの輝度値を表し、I
aveは前記Pd分布図における平均輝度値を表し、T(i,j)は前記Ce分布図(M=512、N=512)における横方向にi番目かつ縦方向にj番目のピクセルの輝度値を表し、T
aveは前記Ce分布図における平均輝度値を表す。〕
により、酸化物担体に担持されたPdとCeとの近接度α(Pd-Ce近接度α)を求めた。具体的には、前記Pd分布図及び前記Ce分布図について、画像処理ソフトウェアImageJ又はMatlabを用いて算出したゼロ平均正規化相互相関(ZNCC:Zero-means Normarized Cross-Correlation)の係数値を前記Pd-Ce近接度αとした。その結果を表1及び
図1に示す。
【0066】
<Pdナノ粒子近傍のCe濃度β>
前記EDX分析により得られたEDX元素マッピング像において、Pdナノ粒子を中心とする縦162.0nm×横162.0nmの領域を無作為にn=50~100点抽出し、抽出した各領域におけるPd、Al、Ce及びその他の金属Mの各元素の濃度をEDX元素マッピングデータに基づいて算出した。得られた各元素の濃度を用いて、下記式(2):
【0067】
【0068】
〔式(2)中、nは抽出した領域の総数であり、C
Ce、C
Pd、C
Al、C
Mはそれぞれ抽出した各領域におけるCe、Pd、Al、その他の金属Mの濃度を表す。〕
により、Pdナノ粒子近傍のCe濃度β[%]を求めた。その結果を表1及び
図2に示す。
【0069】
<初期Pd分散度>
実施例及び比較例で得られた触媒粉末を大気中、500℃で5時間焼成した。焼成後の触媒粉末0.5gをU字型石英製試料管に充填し、O2(100%)を流通させながら300℃で15分間加熱した後、H2(100%)を流通させながら400℃で15分間加熱して前処理を行った。前処理後の触媒粉末をドライアイスで-78℃に冷却しながら、COを0.0188ml/パルスで複数回パルス流通させた。この間、熱伝導検出器を用いて触媒粉末に吸着されなかったCOの量を測定し、パルス回数と吸着とが飽和した時のCO吸着量を求めた。得られたCO吸着量とPd担持量とから、下記式:
Pd分散度[%]=CO吸着量[mol]/Pd担持量[mol]×100
により、初期Pd分散度を算出し、また、下記式(3):
【0070】
【0071】
〔式(3)中、fmは形状因子(=6)を表し、MPdはPdの原子量(=106.4g/mol)を表し、ρPdはPdの密度(=12.02g/cm3)を表し、NAはアボガドロ数を表し、rPdはPdの原子半径(=1.37×10-8cm)を表し、Dは初期Pd分散度を表す。〕
により、Pdナノ粒子の初期の平均粒径を算出した。それらの結果を表1に示す。
【0072】
<耐熱試験>
実施例及び比較例で得られた触媒粉末10gを静水圧プレス装置(日機装株式会社製「CK4-22-60」)を用いて1tの圧力で1分間、冷間静水圧プレス(CIP)し、得られた成型体を0.5~1.0mm径のペレット状となるように粉砕した。この触媒ペレット2.0gを反応管に充填し、リッチガス(H2(2vol%)+CO2(10vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とリーンガス(O2(1vol%)+CO2(10vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とを0.5L/分の流量で5分間毎に交互に切替えて流通させながら、1050℃で25時間加熱して耐熱試験を行った。
【0073】
<耐熱試験後のPd分散度>
耐熱試験後の触媒粉末0.5gをU字型石英製試料管に充填し、O2(100%)を流通させながら300℃で15分間加熱した後、H2(100%)を流通させながら400℃で15分間加熱して前処理を行った。前処理後の触媒粉末をドライアイスで-78℃に冷却しながら、He(100%)の雰囲気下において、COを0.0188ml/パルスで複数回パルス流通させた。この間、熱伝導検出器を用いて触媒粉末に吸着されなかったCOの量を測定し、パルス回数と吸着とが飽和した時のCO吸着量を求めた。
【0074】
得られたCO吸着量とPd担持量とから、下記式:
Pd分散度[%]=CO吸着量[mol]/Pd担持量[mol]×100
により、耐熱試験後のPd分散度を算出した。その結果を表1及び
図3に示す。
【0075】
また、下記式(3):
【0076】
【0077】
〔式(3)中、fmは形状因子(=6)を表し、MPdはPdの原子量(=106.4g/mol)を表し、ρPdはPdの密度(=12.02g/cm3)を表し、NAはアボガドロ数を表し、rPdはPdの原子半径(=1.37×10-8cm)を表し、Dは初期Pd分散度を表す。〕
により、耐熱試験後のPdナノ粒子の平均粒径を算出した。その結果を表1に示す。
【0078】
<耐熱試験後の固相反応物>
耐熱試験後の触媒粉末について粉末X線回折測定を行い、耐熱試験により生成した固相反応物を同定した。その結果を
図4及び表1に示す。
【0079】
<酸素放出速度>
耐熱試験後の触媒粉末0.5gを10mm径のサンプルホルダに封入し、固定床流通式触媒活性評価装置(ベスト測器株式会社製「CATA-5000-7SP」)に装着した。この触媒床に、リッチガス(CO(2vol%)+N
2(残部))とリーンガス(O
2(1vol%)+N
2(残部))とを10L/分の流量で3分間毎に交互に切替えて流通させながら、触媒入りガス温度600℃で12分間加熱して前処理を行った。その後、触媒入りガス温度を400℃に保持し、定常状態において、流通ガスをリーンガスからリッチガスへ切替えたときのCO
2生成量を測定し、このCO
2生成量から酸素放出速度を算出した。その結果を表2及び
図5に示す。
【0080】
<冷間始動時触媒活性(C3H6浄化率)>
耐熱試験後の触媒粉末1.5gを18mm径のサンプルホルダに封入し、固定床流通式触媒活性評価装置(ベスト測器株式会社製「CATA-5000-7SP」)に装着した。この触媒床に、リッチガス(CO2(10vol%)+O2(0.646vol%)+CO(1.121vol%)+NO(1200ppm)+C3H6(1600ppmC)+H2(0.374vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とリーンガス(CO2(10vol%)+O2(0.748vol%)+CO(0.7vol%)+NO(1200ppm)+C3H6(1600ppmC)+H2(0.233vol%)+H2O(3vol%)+N2(残部))とを20L/分の流量で10秒間毎に交互に切替えて流通させながら、触媒入りガス温度600℃で5分間加熱して前処理を行った後、N2ガスを流通させて触媒温度が50℃になるまで冷却した。
【0081】
次に、750℃に加熱した活性評価用ガス(CO
2(14vol%)+O
2(0.55vol%)+CO(0.52vol%)+NO(3000ppm)+C
3H
6(3000ppmC)+H
2O(3vol%)+N
2(残部))を20L/分の流量で触媒床に流通させ、触媒温度が400℃になった時点の触媒出ガス中のC
3H
6濃度を測定し、C
3H
6浄化率を算出した。その結果を表2及び
図6に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
表1及び
図1~
図3に示したように、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(実施例1~3)は、Pd-Ce近接度α、Pdナノ粒子近傍のCe濃度β、初期及び耐熱試験後のPd分散度が所定の範囲内にあることが確認された。
【0085】
一方、Pd/ACZ粉末とセリア粉末とを物理混合した触媒(比較例1~2)、ACZ粉末にBaOナノ粒子又はLa2O3ナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例4~5)、ACZ粉末にPd系ナノ粒子のみが担持した触媒(比較例6)、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが同時に担持した触媒(比較例7)、及びアルミナ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例8)は、Pd-Ce近接度α及びPdナノ粒子近傍のCe濃度βが小さくなることがわかった。さらに、ACZ粉末にBaOナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例4)及びACZ粉末にPd系ナノ粒子のみが担持した触媒(比較例6)は、初期のPd分散度が小さくなることがわかった。また、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが同時に担持した触媒(比較例7)は、初期及び耐熱試験後のPd分散度が小さくなることがわかった。
【0086】
また、ACZ粉末にセリアとPdとの共沈物が担持した触媒(比較例3)は、Pd-Ce近接度α及びPdナノ粒子近傍のCe濃度βが所定の範囲内にあるものの、初期及び耐熱試験後のPd分散度が小さくなることがわかった。
【0087】
表1及び
図4に示したように、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(実施例1~3)、Pd/ACZ粉末とセリア粉末とを物理混合した触媒(比較例1~2)、ACZ粉末にセリアとPdとの共沈物が担持した触媒(比較例3)、ACZ粉末にPd系ナノ粒子のみが担持した触媒(比較例6)、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが同時に担持した触媒(比較例7)、及びアルミナ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例8)においては、耐熱試験を行っても、固相反応物は生成していなかったが、ACZ粉末にBaOナノ粒子又はLa
2O
3ナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例4~5)においては、耐熱試験により、BaやLaと担体のアルミナやジルコニアとの固相反応が起こり、BaAlO
xやBaZrO
3、LaAlO
3が生成することがわかった。
【0088】
表2及び
図5に示したように、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(実施例1~3)は、Pd/ACZ粉末とセリア粉末とを物理混合した触媒(比較例1~2)、ACZ粉末にセリアとPdとの共沈物が担持した触媒(比較例3)、ACZ粉末にBaOナノ粒子又はLa
2O
3ナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例4~5)、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが同時に担持した触媒(比較例7)、及びアルミナ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例8)に比べて、酸素放出速度が速いことがわかった。
【0089】
また、表2及び
図6に示したように、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(実施例1~3)は、Pd/ACZ粉末とセリア粉末とを物理混合した触媒(比較例1~2)、ACZ粉末にセリアとPdとの共沈物が担持した触媒(比較例3)、ACZ粉末にBaOナノ粒子又はLa
2O
3ナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例4~5)、ACZ粉末にPd系ナノ粒子のみが担持した触媒(比較例6)、ACZ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが同時に担持した触媒(比較例7)、及びアルミナ粉末にセリアナノ粒子とPd系ナノ粒子とが逐次担持した触媒(比較例8)に比べて、冷間始動時のC
3H
6浄化率が高く、優れた触媒活性を有するものであることがわかった。
【0090】
以上の結果に基づいて、耐熱試験後のPd分散度をPd-Ce近接度αに対してプロットした。その結果を
図7に示す。また、400℃におけるC
3H
6浄化率を酸素放出速度に対してプロットした。その結果を
図8に示す。
図7と
図8とを対比すると明らかなように、Pd-Ce近接度α及び耐熱試験後のPd分散度がともに大きい触媒(実施例)は、Pd-Ce近接度α及び耐熱試験後のPd分散度の少なくとも一方が小さい触媒(比較例)に比べて、酸素放出速度及びC
3H
6浄化率がともに優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明によれば、低温での触媒活性に優れるとともに、高温に曝された後の酸素吸放出能にも優れた排ガス浄化用触媒を得ることが可能となる。したがって、本発明の排ガス浄化用触媒は、自動車エンジン等の内燃機関から排出させるガスに含まれる炭化水素(HC)等の有害成分を浄化するための触媒として有用である。