(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20240730BHJP
B23K 11/14 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K11/14 310
(21)【出願番号】P 2022066383
(22)【出願日】2022-04-13
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安田 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】武藤 祥太
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078784(JP,A)
【文献】特開2013-163212(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0080245(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0239061(US,A1)
【文献】特開2018-134670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 11/14
C21D 9/46
C21D 7/06
B24C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイテン材により構成されるワークと溶接対象物とが溶接された溶接部材の製造方法であって、
プロジェクション溶接を行うことで、前記ワークと前記溶接対象物との間に複数の溶接部が形成されるように、前記ワークと前記溶接対象物とを溶接することと、
前記プロジェクション溶接後に前記複数の溶接部に発生する前記複数の溶接部を互いに近づく方向へ引っ張るような向きに働く応力を打ち消すように、前記プロジェクション溶接後の当該溶接部材に打ち消し応力を与えることと、を備え
、
前記打ち消し応力は、前記溶接部材における荷重を加える対象部分である荷重対象部に荷重を加えることで発生させ、
前記荷重対象部は、前記ワークであり、
前記溶接対象物は、ナットであり、
前記打ち消し応力は、前記ワークにおける、前記ナットの周囲であって、かつ、前記複数の溶接部の周囲を前記ワークの厚み方向に圧縮することで発生させる、溶接部材の製造方法。
【請求項2】
ハイテン材により構成されるワークと溶接対象物とが溶接された溶接部材の製造方法であって、
プロジェクション溶接を行うことで、前記ワークと前記溶接対象物との間に複数の溶接部が形成されるように、前記ワークと前記溶接対象物とを溶接することと、
前記プロジェクション溶接後に前記複数の溶接部に発生する前記複数の溶接部を互いに近づく方向へ引っ張るような向きに働く応力を打ち消すように、前記プロジェクション溶接後の当該溶接部材に打ち消し応力を与えることと、を備え
、
前記打ち消し応力は、前記溶接部材における荷重を加える対象部分である荷重対象部に荷重を加えることで発生させ、
前記荷重対象部は、前記溶接対象物であるナットであり、
前記打ち消し応力は、前記ナットが有するねじ孔の中心軸に沿って配置される部材を用いて、前記ナットに対して、前記ナットが前記ワークから離れる方向に荷重を加えることで発生させる、溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクション溶接により、ワークの穴部の周囲に溶接ナットを溶接する技術が知られている。このプロジェクション溶接によって形成されたワークと溶接ナットとの間の溶接部には、溶接後の冷却により応力が発生する。そして、この残留した応力が要因となって溶接部に遅れ破壊が生じやすくなる場合がある。
【0003】
特許文献1には、プロジェクション溶接により溶接されたワークと溶接ナットとの間の溶接部の遅れ破壊特性に優れた自動車用構造部材及びその製造方法が開示されている。この自動車用構造部材では、ワークに溶接される側の面である溶接面に、プロジェクション溶接によって流される電流によって溶融することでワークと溶接ナットとの間の溶接部を形成する突起部を有する溶接ナットが用いられる。この溶接ナットには、プロジェクション溶接中に溶接部の遅れ破壊の要因となる残留応力を低減するために、溶接面における突起部の周囲に、合計体積が突起部の合計体積の0.7~1.3倍の範囲の凹みが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなプロジェクション溶接による溶接部の遅れ破壊の抑制方法では、プロジェクション溶接のための突起部に加え、凹部が更に形成された新規な形状の溶接ナットの使用が必須となる。しかし、上述したような特殊な形状を有しない溶接ナットを用いた場合にも、プロジェクション溶接による溶接部の遅れ破壊を抑制することが望ましい。
【0006】
本開示の一局面は、プロジェクション溶接による溶接部の遅れ破壊が抑制される新たな溶接部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、ハイテン材により構成されるワークと溶接対象物とが溶接された溶接部材の製造方法であって、プロジェクション溶接を行うことで、ワークと溶接対象物との間に複数の溶接部が形成されるように、ワークと溶接対象物とを溶接することと、プロジェクション溶接後に複数の溶接部に発生する複数の溶接部を互いに近づく方向へ引っ張るような向きに働く応力を打ち消すように、プロジェクション溶接後の当該溶接部材に打ち消し応力を与えることと、を備える。
【0008】
このような構成では、プロジェクション溶接により形成された複数の溶接部に発生する応力を打ち消す方向に働く打ち消し応力を、プロジェクション溶接後に溶接部材に発生させる。このため、溶接部の遅れ破壊の要因となる溶接部に残留する応力を打ち消し応力によって低減させることができる。その結果、プロジェクション溶接による溶接部の遅れ破壊を抑制することができる。また、プロジェクション溶接時に溶接部の遅れ破壊を抑制する場合、熱量等の複雑な条件を考慮する必要がある。これに対し、プロジェクション溶接後の工程において、打ち消し応力を与えるため、熱量等の複雑な条件を考慮する必要がなく、簡易に溶接部の遅れ破壊を抑制することができる。
【0009】
本開示の一態様では、打ち消し応力は、溶接部材における荷重を加える対象部分である荷重対象部に荷重を加えることで発生させてもよい。このような構成によれば、プロジェクション溶接後に、溶接部材の荷重対象部に直接荷重を加えるという比較的容易な方法で、打ち消し応力を発生させることができる。
【0010】
本開示の一態様では、荷重対象部は、溶接対象物であるナットであってもよい。打ち消し応力は、ナットが有するねじ孔の中心軸に沿って配置される部材を用いて、ナットに対して、ナットがワークから離れる方向に荷重を加えることで発生させてもよい。このような構成では、ナットがワークから離れる方向にナットを押す又は引っ張ることで、溶接部材における溶接部の周辺に塑性変形が生じる。具体的には、溶接部の周辺におけるワークに、下方に反り曲がるような応力が働く。その結果、溶接部材に打ち消し応力を発生させることができる。また、中心軸に沿って配置される部材を用いるため、複数の溶接部の遅れ破壊を均等に抑制可能な打ち消し応力を発生させやすい。
【0011】
本開示の一態様では、荷重対象部は、ワークであってもよい。溶接対象物は、ナットであってもよい。打ち消し応力は、ワークにおけるナットの周囲をワークの厚み方向に圧縮することで発生させてもよい。このような構成では、ワークを圧縮することで、溶接部材における溶接部の周辺に塑性変形が生じる。具体的には、溶接部の周辺におけるワークが収縮するような応力が働くことで、溶接部の周辺におけるワークに、下方に反り曲がるような応力が働く。その結果、溶接部材に打ち消し応力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ワークと溶接ナットが溶接された溶接部材を示す模式図である。
【
図3】
図3Aはプロジェクション溶接によりワーク上に溶接ナットを溶接する様子を示す模式図であり、
図3Bは溶接直後の溶接部材を示す模式図であり、
図3Cは溶接部材における上下方向を反転させた模式図である。また、
図3Dは反転させた溶接部材を受け台にセットした様子を示す模式図であり、
図3Eは荷重を加えるためのピンの下方に溶接部材を配置した様子を示す模式図であり、
図3Fは溶接部材に打ち消し応力を発生させるためにピンを用いて溶接ナットに荷重を加える様子を示す模式図である。
【
図4】ピンにより溶接ナットに荷重を加える様子を模式的に示す断面図である。
【
図5】溶接部材に発生する打ち消し応力を模式的に示す図である。
【
図6】プロジェクション溶接後に溶接部が冷却されることにより発生する応力によって溶接部の遅れ破壊が生じる様子を模式的に示す図である。
【
図7】ワークにおける溶接ナットの周囲をプレスしてワークを厚み方向に圧縮することで打ち消し応力を発生させる様子を模式的に示す図である。
【
図8】溶接ナットのねじ孔にボルトを嵌合させて、溶接ナットをワークから引き離す方向にねじを引っ張ることで打ち消し応力を発生させる様子を模式的に示す図である。
【
図9】ワークにおける溶接ナットの周囲にショットピーニング加工をしてワークを厚み方向に圧縮することで打ち消し応力を発生させる様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.構成]
<溶接部材>
図1に示す溶接部材100は、ワーク1と、溶接対象物である溶接ナット2と、がプロジェクション溶接によって溶接された部材である。
【0014】
ワーク1は、溶接ナット2が溶接される板状の部材である。ワーク1は、例えば、車両のボディを構成するための薄板である。ワーク1は、引張強度が340MPa以上である高張力鋼、すなわちハイテン材により構成されてもよい。なお、ワークは、ハイテン材の中でも、引張強度が980MPa以上である超高張力鋼、すなわち超ハイテン材により構成されることが好ましい。ワーク1は、当該ワーク1を厚さ方向に貫通する少なくとも1つの孔部11を有する。
【0015】
溶接ナット2は、例えば、鉄等の金属により構成されるプロジェクション溶接に用いられるナットである。
図1及び
図2に示すように、溶接ナット2は、ねじ孔21と、第1端面22と、第2端面23と、フランジ部24と、3つの突起部25と、テーパ部26と、を備える。
【0016】
ねじ孔21は、溶接ナット2を貫通するように設けられる。
図1では図示を省略するが、ねじ孔21の内周面には、めねじが設けられており、ボルトと締結可能となっている。
第1端面22及び第2端面23は、ねじ孔21の両端に位置する各開口を囲むように設けられる。なお、第1端面22は平面状となっている。
【0017】
フランジ部24は、第1端面22のねじ孔21の開口21Aを囲むように設けられる。
突起部25は、プロジェクション溶接により溶融される部位であり、第1端面22に設けられ、第1端面22から突出する突起である。本実施形態では、
図2に示すように、略一定の間隔を空けて開口21Aを囲むように3つ設けられる。突起部25は、平面視において三角形状を有する。以下の説明では、プロジェクション溶接によって突起部25が溶融され加圧によって潰されることにより形成されるワーク1と溶接ナット2との溶接部分を溶接部25Aと称する。
【0018】
テーパ部26は、ねじ孔21の開口21A側に設けられ、ねじ孔21の内周面と第1端面22とを繋ぐ、ねじ孔21の開口21Aに向かって拡径する傾斜面である。
<溶接部材の製造方法>
図3A~
図3Fを用いて、溶接部材の製造方法について詳細に説明する。
【0019】
まず、
図3Aに示すように、プロジェクション溶接に用いられる溶接装置が備える下部電極30Aにワーク1を配置する。そして、ワーク1の孔部11と、溶接ナット2のねじ孔21と、を重ねて、突起部25がワーク1と当接するようにワーク1上に溶接ナット2を配置する。このとき、溶接ナット2の第1端面22と、ワーク1の下部電極30Aと当接しない面と、の間には隙間が形成される。なお、ワーク1上における溶接ナット2の位置決めには、溶接装置が備え、孔部11とねじ孔21とを貫通する図示しない位置決めピン等が用いられてもよい。
【0020】
次に、ワーク1上に溶接ナット2が配置された状態で、
図3Aに示すように、下部電極30Aと上部電極30Bとにより、ワーク1及び溶接ナット2を挟み込んで加圧する。そして、下部電極30Aと上部電極30Bとを介して接合箇所である突起部25に電流を流し、突起部25を抵抗発熱によって加熱しながら圧力を加えて接合するプロジェクション溶接を行う。これにより、ワーク1と溶接ナット2との間に、3つの突起部25が溶融することにより形成される3つの溶接部25Aを有するように、ワーク1と溶接ナット2とが溶接された
図3Bに示す溶接直後の溶接部材100が得られる。
【0021】
次に、溶接装置から溶接直後の溶接部材100を取り出し、
図3Cに示すように、溶接部材100における上下方向を反転させる。そして、
図3Dに示すように、反転させた溶接部材100を受け台200上にセットする。受け台200は、ワーク1における溶接ナット2の近傍と当接することで溶接部材100を支えるように構成される。受け台200は、溶接ナット2の周囲を受け台200が囲むような筒状の形状を有してもよい。
【0022】
次に、
図3Eに示すように、荷重を加えるために用いられる負荷装置が備えるピン300の下方に溶接部材100が配置されるように、負荷装置をセットする。ピン300は、水平方向に対するフローティング機構を有してもよい。
【0023】
次に、
図3Fに示すように、溶接部材100に、ピン300を用いて荷重を加える。このとき、ピン300は、溶接ナット2が有するねじ孔21の中心軸Aに沿って配置されている。ピン300により加わる荷重は、例えば、電動機、油圧モータなどのサーボモータを用いて負荷される。
図4に示すように、ピン300の先端には、先端側に向かって縮径する傾斜面であるピンテーパ部301が設けられる。ピン300をワーク1の孔部11に挿通させ、ピン300のピンテーパ部301と、溶接ナット2のテーパ部26と、が当接した状態で、ピン300を用いて、溶接ナット2を下方に押す。これにより、中心軸Aに沿って、溶接ナット2に対して、溶接ナット2がワーク1から離れる方向に荷重W1が加わる。荷重W1は、溶接ナット2のフランジ部24又は溶接ナット2の変形しやすい部分である溶接部25Aの周辺などが塑性変形する程度の力である。溶接ナット2を下方に押して荷重W1が溶接ナット2に加わることによって、溶接部25Aの周辺におけるワーク1に、下方に反り曲がるような応力が働く。その結果、
図4及び
図5に示すように、溶接部材100に打ち消し応力F1が発生する。打ち消し応力F1は、
図6に示す後述する応力F3を打ち消す方向に働く力である。
【0024】
プロジェクション溶接後に溶接部材100に形成された3つの溶接部25Aが冷却される際、当該3つの溶接部25Aを互いに近づく方向へ引っ張るような向きに働く
図6に示す応力F2が発生する。換言すると、応力F2は、プロジェクション溶接後に溶接部材100に形成された3つの溶接部25Aが冷却されることにより発生する力であって、溶接部25Aに対して中心軸Aに向かう方向に働く力である。この応力F2は、溶接部材100における溶接部25Aの周辺に変形を生じさせるように働く。具体的には、溶接部25A周辺におけるワーク1には、応力F2によって、上方に反り上がるような応力F3が働く。ただし、ワーク1は超ハイテン材により構成されるため、当該応力F3の方向に追従しないため、ワーク1には変形が生じにくい。このため、
図6に示す割れCのような遅れ破壊が、溶接部25Aの周辺におけるワーク1に生じる場合がある。
【0025】
これに対し、本実施形態では、上述したように、ピン300を用いて溶接ナット2に荷重W1を加えて打ち消し応力F1を発生させることで、上述した応力F3を打ち消すことによって、応力F3を発生させるように働く応力F2を打ち消すことが可能である。
【0026】
[2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(2a)本実施形態では、プロジェクション溶接により形成された3つの溶接部25Aの冷却により発生する応力F2によって発生する応力F3を打ち消す方向に働く打ち消し応力F1を、プロジェクション溶接後に溶接部材100に発生させる。このため、溶接部25Aの遅れ破壊の要因となる溶接部25Aに残留する応力F2を打ち消し応力F1によって低減させることができる。その結果、プロジェクション溶接による溶接部25Aの遅れ破壊を抑制することができる。
【0027】
また、プロジェクション溶接時に溶接部25Aの遅れ破壊を抑制する場合、熱量等の複雑な条件を考慮する必要がある。これに対し、本実施形態では、プロジェクション溶接後の工程において、打ち消し応力F1を与えるため、熱量等の複雑な条件を考慮する必要がなく、簡易に溶接部25Aの遅れ破壊を抑制することができる。
【0028】
(2b)本実施形態では、ピン300によって溶接ナット2を下方に押し、荷重W1を溶接ナット2に加えることで、溶接部材100の溶接部25Aの周辺に塑性変形が生じる。具体的には、溶接部25Aの周辺におけるワーク1に、下方に反り曲がるような応力が働く。その結果、溶接部材100に打ち消し応力F1が発生する。このため、溶接部材100における溶接ナット2を下方に押すという比較的容易な方法で、打ち消し応力F1を発生させることができる。また、ねじ孔21の中心軸Aに沿って配置されるピン300を用いるため、3つの溶接部25Aの遅れ破壊を均等に抑制可能な打ち消し応力F1を発生させやすい。
【0029】
なお、本実施形態では、溶接ナット2が溶接対象物及びナットに相当し、溶接ナット2及びワーク1が荷重対象部に相当し、ピン300がねじ孔21の中心軸Aに沿って配置される部材に相当する。
【0030】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0031】
(3a)上記実施形態では、溶接ナット2が有するねじ孔21の中心軸Aに沿ってピン300を用いて荷重を加えることで、打ち消し応力F1を発生させたが、溶接部材100に打ち消し応力F1を発生させる方法は、これに限定されるものではない。
【0032】
例えば、溶接部材100において、
図7に示すように、受け台200及び押し台400によって、ワーク1における溶接ナット2の周囲をプレスしてワーク1を厚み方向に圧縮することで打ち消し応力F1を発生させてもよい。押し台400は、溶接部材100上に配置され、ワーク1における受け台200が当接する部分と対向する位置に、受け台200とは反対側の面から当接するように構成される。押し台400は、上方から溶接ナット2の周囲を囲うように、上面を有する筒状の形状を有してもよい。具体的には、ワーク1における溶接ナット2が位置する領域よりも外側の領域であって、ワーク1における溶接ナット2の近傍を、受け台200及び押し台400によって挟み込むことで、厚み方向に圧縮するように荷重W1を加える。溶接部25A周辺におけるワーク1には、荷重W1によって、ワーク1が収縮するような応力F4が働く。この応力F4は、溶接部材100における溶接部25Aの周辺に塑性変形を生じさせるように働く。具体的には、溶接部25A周辺におけるワーク1には、応力F4よって、下方に反り曲がるような応力が働く。これにより溶接部材100に打ち消し応力F1が発生する。なお、受け台の形状は、筒状の形状に限定されるものでない。例えば、受け台は、ワーク1の下面と全面において当接して溶接部材100を支えるような形状であってもよい。また、押し台の形状も、上面を有する筒状の形状に限定されるものではない。
【0033】
また、例えば、溶接部材100おいて、図示は省略するが、ワーク1を当該ワーク1の厚み方向に直交する方向に沿って圧縮させることで打ち消し応力F1を発生させてもよい。換言すると、溶接部材100において、ワーク1を溶接ナット2の中心に向かう方向に圧縮させることで打ち消し応力F1を発生させてもよい。この場合にも、上述したように、溶接部25A周辺におけるワーク1には、下方に反り曲がるような応力が働く。これにより溶接部材100に打ち消し応力F1が発生する。
【0034】
また、例えば、溶接部材100おいて、
図8に示すように、溶接ナット2に嵌合させたボルト500を用いて、溶接ナット2をワーク1から引き離す方向に引っ張ることで打ち消し応力F1を発生させてもよい。具体的には、溶接ナット2のねじ孔21にボルト500を挿入して、ボルト500をねじ孔21内に嵌合させた後、ボルト500を上方に引っ張る。これにより、中心軸Aに沿って、溶接ナット2に対して、溶接ナット2がワーク1から離れる方向に荷重W1が加わる。溶接ナット2を上方に引っ張って荷重W1が溶接ナット2に加わることによって、溶接部25Aの周辺におけるワーク1に、下方に反り曲がるような応力が働く。その結果、溶接部材100に打ち消し応力F1が発生する。
【0035】
また、例えば、溶接部材100おいて、
図9に示すように、ワーク1における溶接ナット2の周囲に、無数の鋼鉄等の小さな球体Sを高速で衝突させることで、塑性変形による圧縮残留応力を付与するショットピーニング加工をして、ワーク1を厚み方向に圧縮させることで打ち消し応力F1を発生させてもよい。
【0036】
(3b)上記実施形態では、溶接ナット2に突起部25が3つ設けられたが、突起部25の数はこれに限定されるものではない。例えば、突起部は、2つ又は4つ以上であってもよい。
【0037】
(3c)上記実施形態では、突起部25が平面視において三角形状を有したが、突起部の形状はこれに限定されるものではない。例えば、突起部は、ワーク1と点接触するような球形状であってもよい。また、ワーク1と線接触するような形状であってもよい。
【0038】
(3d)上記実施形態では、溶接ナット2がフランジ部24を有したが、溶接ナットはフランジ部を有しなくてもよい。すなわち、様々な形状の溶接ナットを用いてプロジェクション溶接を行った場合にも、上述した打ち消し応力を発生させることができる。
【0039】
(3e)上記実施形態では、溶接部材100がワーク1と溶接ナット2とが溶接された部材であったが、ワーク1に溶接される溶接対象物は溶接ナット2に限定されるものではない。
【0040】
(3f)上記実施形態及び上記(3a)に記載の他の実施形態の構成では、溶接ナット2及びワーク1のいずれかに直接荷重を加えることで打ち消し応力F1を発生させたが、打ち消し応力を発生させる方法はこれに限定されるものではない。例えば、溶接後の溶接部材100に他の処理が実行されることで間接的に荷重が加わるような方法によって、打ち消し応力を発生させてもよい。
【0041】
(3g)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0042】
1…ワーク、2…溶接ナット、11…孔部、21…ねじ孔、21A…開口、22…第1端面、23…第2端面、24…フランジ部、25…突起部、25A…溶接部、26…テーパ部、30A…下部電極、30B…上部電極、100…溶接部材、200…受け台、300…ピン、301…ピンテーパ部、400…押し台、500…ボルト、A…中心軸、F1~F4…応力、S…球体。