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特許7529742セグメント化された周波数依存位相キャンセレーションを用いたノイズキャンセレーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】セグメント化された周波数依存位相キャンセレーションを用いたノイズキャンセレーション
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G10K11/178 100
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022167349
(22)【出願日】2022-10-19
(62)【分割の表示】P 2019563330の分割
【原出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2022191431
(43)【公開日】2022-12-27
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】62/455,180
(32)【優先日】2017-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/497,417
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519285031
【氏名又は名称】サイレンサー デバイシズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シーグリフ,ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャンクア,ジャン-クロード
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-260419(JP,A)
【文献】特表2018-520391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0154950(US,A1)
【文献】米国特許第08718291(US,B2)
【文献】国際公開第2016/195239(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
G10L 21/0208-21/0264
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズと呼ばれる不要な信号を含む信号ストリーム内のノイズを軽減する方法であって、
前記信号ストリームが存在する環境から、デジタル化ノイズ信号を取得し、
デジタルプロセッサ回路によって、前記デジタル化ノイズ信号を一組の異なる周波数範囲に分割し、
前記一組の周波数範囲の少なくとも1つの周波数範囲を、複数のノイズセグメントにさらに小さく分割し、
別のデジタルプロセッサ回路によって、前記デジタル化ノイズ信号に対する周波数ドメイン表現を計算し、
前記デジタルプロセッサ回路を使用して、前記デジタル化ノイズ信号を含む前記複数のノイズセグメントのうちの1つ以上のノイズセグメントの前記周波数ドメイン表現の時間シフトを個別に行い、
前記デジタル化ノイズ信号の各々のノイズセグメントに対する前記周波数ドメイン表現を、時間ドメインに変換して、アンチノイズ信号を形成し、
前記アンチノイズ信号を前記信号ストリームに出力して、減殺的干渉によって前記ノイズを軽減することを含み、
前記周波数ドメイン表現の前記計算は、前記分割する工程と前記さらに小さく分割する工程の前または後になされ、
時間シフトの量は、前記周波数ドメイン表現における選択された周波数に依存し、信号が入力マイクロフォンからフィードバックマイクロフォンに空気を通して伝わる通過時間である前記デジタル化ノイズ信号の空中伝搬時間と、前記デジタルプロセッサ回路および付随する機器のスループット速度に付随するシステム伝搬時間との両方を考慮している、方法。
【請求項2】
ある周波数範囲についてのノイズセグメントの数が、前記一組の周波数範囲の周波数範囲間で変動し得るように、前記一組の周波数範囲の各々の周波数範囲をさらに小さく分割することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デジタル化ノイズ信号を含む前記複数のノイズセグメントのうちの1つ以上に対して選択的に位相補正を適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記一組の周波数範囲における、ある1つの周波数範囲の複数のノイズセグメントの前記周波数ドメイン表現をシフトすることなく、別の1つの周波数範囲の複数のノイズセグメントの前記周波数ドメイン表現をシフトすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記デジタル化ノイズ信号を含む前記複数のノイズセグメントのうちの1つ以上に対して選択的に振幅スケーリングを適用することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記一組の周波数範囲における、ある1つの周波数範囲で振幅スケーリングをせずに、別の1つの周波数範囲で振幅スケーリングをすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アンチノイズ信号をアナログ信号に変換し、前記アンチノイズ信号を、前記信号ストリーム内の前記ノイズとミキシングすることによって前記信号ストリームに出力することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記信号ストリーム内に配置された増幅スピーカーまたは他のトランスデューサーを使用して、前記アンチノイズ信号を前記信号ストリーム内の前記ノイズとミキシングすることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ノイズ信号を含むオーディオ信号ストリーム内のノイズを軽減するシステムであって、
前記オーディオ信号ストリームが存在する環境から、ノイズ信号を取得するように構成されたマイクロフォンと、
前記マイクロフォンから前記ノイズ信号を受信するように構成されるとともに、前記ノイズ信号をデジタル化ノイズ信号に変換する動作をするように構成されたアナログ/デジタル変換器と、
前記アナログ/デジタル変換器から前記デジタル化ノイズ信号を受信するように構成されるとともに、
デジタルプロセッサ回路によって、前記デジタル化ノイズ信号を一組の異なる周波数範囲に分割し、
前記一組の周波数範囲の少なくとも1つの周波数範囲を、複数のノイズセグメントにさらに小さく分割し、
周波数ドメインにおいて前記デジタル化ノイズ信号の周波数ドメイン表現を計算し、
前記デジタル化ノイズ信号を含む1つ以上のノイズセグメントの前記周波数ドメイン表現の時間シフトを行うことにより、前記デジタル化ノイズ信号のシフトされた周波数ドメイン表現を生成し、かつ、
前記デジタル化ノイズ信号の各々のノイズセグメントに対する前記シフトされた周波数ドメイン表現を、時間ドメインに変換して、アンチノイズ信号を形成することによって、
前記デジタル化ノイズ信号を処理するように構成されたデジタル信号プロセッサと、
前記デジタル信号プロセッサから前記アンチノイズ信号を受信するように構成されるとともに、前記アンチノイズ信号をアナログアンチノイズ信号に変換する動作をするように構成されたデジタル/アナログ変換器と、を含み、
前記周波数ドメイン表現の前記計算は、前記分割する工程と前記さらに小さく分割する工程の前または後になされ、
前記時間シフトの量は、前記周波数ドメイン表現における選択された周波数に依存し、信号が前記マイクロフォンからフィードバックマイクロフォンに空気を通して伝わる通過時間である前記デジタル化ノイズ信号の空中伝搬時間と、前記デジタルプロセッサ回路のスループット速度に付随するシステム伝搬時間との両方を考慮している、システム。
【請求項10】
ある周波数範囲についてのノイズセグメントの数が、前記一組の周波数範囲の周波数範囲間で変動し得るように、前記一組の周波数範囲の各々の周波数範囲をさらに小さく分割することをさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記デジタル信号プロセッサは、前記デジタル化ノイズ信号を含む前記複数のノイズセグメントのうちの1つ以上に対して選択的に位相補正を適用する、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記デジタル信号プロセッサは、前記デジタル化ノイズ信号を含む前記複数のノイズセグメントのうちの1つ以上に対して選択的に振幅スケーリングを適用する、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記オーディオ信号ストリームと前記アナログアンチノイズ信号とを受信するように構成されるとともに、前記オーディオ信号ストリームを前記アナログアンチノイズ信号と合成する動作をするように構成されたミキサーをさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、2017年4月26日に出願された米国特許出願第15/497,417号および2017年2月6日に出願された米国特許仮出願第62/455,180号の優先権の利益を主張するものである。上記出願の開示内容全体を本明細書に援用する。
【0002】
本開示は、広義には電子的な自動ノイズキャンセレーション技術に関する。特に、本開示は、システムおよび用途に合わせて正確に計算された複数のスペクトルセグメントで周波数依存のアンチノイズ成分を生成するノイズキャンセレーション技術に関する。
【背景技術】
【0003】
科学者および技術者らは、数十年にわたって、電子的な自動ノイズキャンセリング(ANC)の問題に取り組んできた。波伝搬の基本的な物理学では、ノイズ信号と位相が180度ずれた「アンチノイズ」波を作り、減殺的干渉によってノイズを完全になくせることが示唆される。これは、単純で反復性の低周波音では確かにうまく機能する。しかしながら、動的で急激に変化する音、高めの周波数を含む音の場合は、うまく機能しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(フィードフォワードとフィードバックを組み合わせたハイブリッド設計を採用している)現時点で最良のシステムでは、出力時に実用的な最小ノイズを発生することになる伝達関数を繰り返し推定することによってアンチノイズ信号を生成するのに、LMS(最小二乗平均)適応フィルタリングを改変したものを使用して、2kHzまでの周波数で反復性のノイズ(エンジンまたはファンなど)を低減することができる。企業はANCの結果の改善に投資しつづけているが、その活動はこれら既存の手法の改善に焦点を当てているようである。さらに、大きな処理能力を利用できるにもかかわらず、さまざまな適応フィルターを使用するANCの周波数上限は4kHz未満であり、信号を10dBから30dB減衰させる機能があるとされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の手法とは対照的に、開示されたシステムは、現在使用されている方法よりも効果的に、オフラインモードで実質的にあらゆる周波数範囲をキャンセルし、商業的に一般的な処理速度で少なくとも全オーディオスペクトルをリアルタイムでキャンセルすることができる。
【0006】
処理速度および計算能力は、一貫して急速に大きくなり続けている(たとえば、1965年以来、ムーアの法則は正しい)。商業市場および軍事市場の中には、(ほとんどの消費者製品用途よりも)コストに鈍感であり、現在の最高速度/電力のより高いコストに対応できる。また、量子コンピューティングの並外れた力が用いられる兆しがみえている。したがって、本発明者らは、時間の経過とともにいずれは商業的に実行可能になると予想される、開示されたシステムおよび方法の実施形態を想定し、包含している。したがって本開示では、簡単にするために、本発明者らは実施形態の数を、本発明の無数の用途を実現するのに必要な最小数の異なるハードウェアシステム構造によって定義される5つの主要な実施形態におさえた。ハードウェアシステム構造は、本発明者らが「コアエンジン」信号処理方法と呼ぶもののバリエーションに特定の方法で統合されるという点で、発明の一部である。これらの5つの実施形態の主要な要素を、図1から図5に示す。大まかに言
うと、5つの実施形態を、空中システム、テレコミュニケーションおよび個人使用システム、オフライン信号処理システム、暗号化/解読システムおよび信号シグネチャの認識、検出ならびに受信システムと説明することができる。
【0007】
開示された技術は、リアルタイムで信号スペクトルに必要とされる正確なアンチノイズを構築、利用および適用する。システム/アルゴリズムは柔軟性があり、用途の必要性に応じてより高いまたは低い解像度と制御を可能にする(あるいは実際には、処理能力のコスト的な制約または本発明を利用する製品エンジニアに課される他の律速因子を考慮する)。この汎用性の高い効果的な手法を特定のハードウェアおよびソフトウェアシステム構造に統合すると、さまざまな用途が容易になる。本発明者らは、これまでに想定したシステム構造に基づいて、これらを次の5つの領域に大まかに分類している。空中システム、テレコミュニケーションおよび個人使用システム、オフライン信号処理システム、暗号化/解読システムおよび信号シグネチャの認識、検出ならびに受信システム。システムの可能性を表すこのリストは、本開示の範囲を限定することを意図していないため、考慮することを推奨する。
【0008】
開示された技術はオーディオスペクトルに有用であることに加えて、この技術を電磁信号にも同様に用いることができる。したがって、開示された技術は、現在市販されているプロセッサを使用して、オフラインモードで実質的にあらゆる周波数範囲をキャンセルし、商業的に一般的な処理速度で少なくとも全オーディオスペクトルをリアルタイムでキャンセルすることができる。プロセッサの速度が増すにつれて、あるいは、複数のプロセッサの能力を集約することにより、どのような電磁信号でも本発明を用いてリアルタイム処理が可能になると予想される。
【0009】
このアルゴリズムは、システムまたは用途に合う理想的なアンチノイズを計算することにより、個別の周波数セグメントを個々に処理し、オーディオスペクトル全体に対するノイズキャンセリング性能を大幅に向上させる。実際、このアルゴリズムは、オフラインおよび信号処理アプリケーションで、オーディオスペクトル全体をうまくキャンセルすることができる。また、ヘッドフォンおよび空中システムのオーディオスペクトル全体で一層効果的であり、利用されている他のどのシステムよりも高い周波数を処理できる。個別の周波数セグメントを処理する(および後述するように、周波数の範囲または帯域をグループ化できるようにする)と、オーディオスペクトル内またはそれをはるかに超える特定の用途で適切に実行できるようにアルゴリズムをカスタマイズすることができる。
【0010】
個別の周波数セグメントを処理することにより、時間とともに急速に変化する動的ノイズ源に対するアンチノイズを作成することが可能になる。(商業的に利用されている現在の方法は、エンジンノイズなどの周期性のある定常状態の音に限られる。)個別の周波数セグメントを処理することで、ヘッドフォン/イヤホン用の複数の入力マイクロフォンの必要性も減る。
【0011】
オーディオ用途において、このアルゴリズムによって、マイクロフォンノイズキャンセリングに必要なマイクロフォンの数が削減され、周囲ノイズから所望のスピーチを識別するための複雑な「ビーム形成」アルゴリズムの必要性も減る。これは特に、テレコミュニケーションヘッドセットの場合である。なぜなら、イヤピース用に作られたアンチノイズは、わずかな遅延調整でマイク入力信号に加えられたときに不要な信号を効果的にキャンセルする必要があるため、(おそらく、必要な遅延を提供するために受動部品を使用する)。必要に応じて、フィードバック処理を調整してプリセットに保存することができる。
【0012】
較正モードによって、製品開発段階および大量生産の両方において、さまざまな物理システムに対するシステムの高価な調整の必要性が減る。
【0013】
アルゴリズムのバージョンにおける周波数帯域または範囲の使用は、以下の利点をはじめとしてさまざまな利点を提供する
【0014】
i.必要な処理能力とメモリの量を減らす。
【0015】
ii.特定の用途向けのシステムパフォーマンスの最大化を迅速かつ簡単に促進する。
【0016】
iii.さまざまな種類のノイズ、環境などのプリセットの作成と利用を可能にする。
【0017】
iv.アルゴリズムの使用を有効にして、ノイズの多い環境で特定の信号の明瞭度を高める。これにより、このアルゴリズムを、聞くことの支援(ノイズの多いレストランで会話を認識しやすくするなど)、オーディオサーベイランスの用途(周囲のノイズからの会話の解析)、ネットワークまたはノイズフィールドでの装置のシグネチャの認識、暗号化/解読の用途に利用することができるようになる。
【0018】
本明細書で提供される説明から、適用可能性があるさらに別の領域が明らかになるであろう。この概要の説明および特定の例は、例示のみを目的とするものであり、本開示の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本明細書で説明する図面は、選択された実施形態の例示のみを目的としており、すべての可能な実施の形態ではなく、本開示の範囲を限定することは意図されていない。
図1図1は、空中システムにおいて、ノイズを軽減またはノイズをキャンセルするのに有用なサイレンサー装置の第1の実施形態のブロック図である。
図2図2は、テレコミュニケーションマイクロフォン、テレコミュニケーションヘッドセットまたはヘッドフォン/イヤホンシステムにおいて、ノイズを軽減またはノイズをキャンセルするのに有用なサイレンサー装置の第2の実施形態のブロック図である。
図3図3は、信号処理システムにおいて、ノイズを軽減またはノイズをキャンセルするのに有用なサイレンサー装置の第3の実施形態のブロック図である。
図4図4は、機密通信の暗号化および解読に有用なサイレンサー装置の第4の実施形態のブロック図である。
図5図5は、電磁伝送からノイズを除去し、電力線のバックグラウンドノイズから特定の機器シグネチャまたは通信を分離するのに有用なサイレンサー装置の第5の実施形態のブロック図である(電力線通信およびスマートグリッドでの用途など)。
図6図6は、サイレンサー装置で用いられるコアエンジンアルゴリズムを実行するためにデジタルプロセッサ回路をプログラミングする方法を示すブロック図である。
図7図7は、サイレンサー装置で使用されるコアエンジンアルゴリズムを実行するためにデジタルプロセッサ回路をプログラミングする方法をさらに示すフローチャート図である。
図8図8は、図6のコアエンジンアルゴリズムにより実施される処理技術を示す信号処理図である。
図9図9は、コアエンジンアルゴリズムに関連して使用される較正モードを示す詳細な信号処理図である。
図10図10は、コアエンジンプロセス図である。
図11図11は、デスクトップパーソナルクワイエットゾーンシステムとして構成された例示的な低電力単一ユニット空中サイレンサーシステムである。
図12図12は、窓に取り付けられたユニットとして構成された例示的な低電力単一ユニット空中サイレンサーシステムである。
図13図13は、空気プレナムに取り付けられたパッケージとして構成された例示的な低電力単一ユニット空中サイレンサーシステムである。
図14図14は、高速道路のノイズ軽減用に構成された例示的な高出力マルチユニット空中サイレンサーシステムである。
図15図15は、車両のノイズを軽減するように構成された例示的な高出力マルチユニット空中サイレンサーシステムである。
図16図16は、私的な会話を他人に聞かれないようにするための無感円錐域を生むように構成された例示的な高出力マルチユニット空中サイレンサーシステムである。
図17図17は、例示的なスマートフォンインテグレーションの実施形態である。
図18図18は、例示的なノイズキャンセリングヘッドフォンの実施形態である。
図19図19は、別の例示的なノイズキャンセリングヘッドフォンの実施形態である。
図20図20は、プロセッサ実装例を示す。
図21図21は、例示的な暗号化-解読の実施形態を示す。
図22図22は、例示的なシグネチャ検出概念を示す。
【0020】
対応する参照符号は、図面のいくつかの図において対応する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して、例示的な実施形態をより完全に説明する。
【0022】
開示されたサイレンサー装置を、さまざまな異なる用途に利用することができる。例示の目的で、ここでは一例としての5つの実施形態を詳細に説明する。これらの例によって、サイレンサー装置を採用できる異なる使用法のいくつかを理解できることがわかるであろう。添付の特許請求の範囲内で、他の使用法および他の用途も可能である。
【0023】
図1を参照すると、サイレンサー装置の一例としての第1の実施形態が示されている。この実施形態は、空中システムのノイズキャンセレーション用に設計されている。ここでは、入ってくる環境ノイズを検知し、ノイズキャンセリング信号を生成し、周囲のエリアに広く伝搬させる。図示のように、本実施形態は、デジタル信号プロセッサ回路10を含み、デジタル信号プロセッサ回路10にはメモリ12が付随している。このメモリ12に、本明細書では用途に合わせたプリセットと呼ぶコンフィギュレーションデータが格納される。デジタル信号プロセッサ回路を実装するには、Broadcom BCM2837
Quad Core ARM Cortex A53プロセッサなどの市販のマルチメディアプロセッサ集積回路を使用すればよい。デジタル信号プロセッサ回路がどのようにプログラムされるかの詳細については後述する。好ましい実施形態では、ラズベリーパイ3モデルBなどのラズベリーパイコンピューターを使用して、デジタル信号プロセッサ回路を実装することができる。このデバイスには、信号プロセッサ回路10ならびに、VideoCore IV GPU、オンボードSDRAM、WiFiおよびBluetoothトランシーバー回路、802.11n無線LAN回路、Bluetooth 4.1通信のサポートが含まれる。また、26個のGPIOポートならびに、4個のUSB 2ポート、100Base-Tイーサネットポート、DSI/CSIポート、4極コンポジットビデオ/オーディオポート、HDMI 1.4ポートも設けられている。これらのポートを使用して、図1から図4のブロック図に示すように、信号プロセッサ回路10への入力と出力との間の接続性を提供することができる。
【0024】
図1の空中ノイズキャンレーションシステムは、キャンセルするのが望ましいノイズ源を検知できる物理位置に配置される1つ以上の入力マイクロフォン14を含む。マイクロフォン14は各々、サンプリングなどにより、結合されたマイクロフォンからのアナログ
信号波形をデジタルデータに変換するデジタルオーディオ変換器すなわちDAC16に結合される。タスクに適した異なるサンプリングレートを用いてもよいが、図示の実施形態では、サンプリングレートとして48kHzを使用する。サンプリングレートは、雑音エネルギーの大部分が占める周波数範囲、入力マイクロフォンとフィードバックマイクロフォンとの間の距離ならびに、特定の用途や目標に関連する他の要素を考慮して選択される。
【0025】
DAC16とデジタル信号プロセッサ回路10との間に結合されるのは、所定の閾値を超えるノイズエネルギーを通過させ、その閾値未満のエネルギーを遮断するオプションのゲート回路18である。ゲート回路18は、プロセッサ上で実行されるソフトウェアを使用して、あるいはスタンドアロンのノイズゲート集積回路を使用して実装すればよい。ゲート回路の目的は、不快であるとされない周囲のバックグラウンドノイズレベルと、不快なノイズに関連するより高いノイズレベルを区別することである。たとえば、付近の高速道路からの断続的なロードノイズを軽減するように空中ノイズキャンセレーションシステムが設けられている場合、ゲートの閾値は、車両が行き交う音のエネルギーが検出されたときに開き、付近の森林で葉のカサカサ音がするだけのときは閉じるように構成されるであろう。このようにして、ゲートはデジタル信号プロセッサ10の負荷を軽減し、望ましくないポンピングを防ぐ一助となる。
【0026】
ゲートはユーザーが構成可能であり、閾値を超える音だけがノイズとして扱われるようにユーザーがノイズ閾値を設定できるようになっている。たとえば、静かなオフィスでは、周囲のノイズレベルが約50dB SPLになる場合がある。このような環境では、60dB SPLを超える信号にのみ作用するようにユーザーがノイズ閾値を設定することもあろう。
【0027】
デジタル信号プロセッサ回路10の出力に結合されるのは、デジタル/アナログ変換器すなわちADC20である。ADCは、デジタル信号プロセッサ回路10の出力をアナログ信号に変換するDAC16と対になって機能する。アナログ信号は、入力マイクロフォン14によって検出されたノイズをキャンセルするように設計された、特別に構成されたノイズキャンセレーション信号を表す。このノイズキャンセレーション信号は、適切な増幅器22およびスピーカーまたはトランスデューサーシステム24によって空中に送り出されるか広く伝搬され、空中で、スピーカーまたはトランスデューサーシステム24の有効な送信エリア内の見晴らしの良い場所から聞こえるノイズ源と合成されて、それをキャンセルする。本質的に、スピーカーシステム24はノイズ源と聞き手または受信地点との間に配置されるため、聞き手/受信側では、スピーカーまたはトランスデューサーシステム24からのノイズキャンセレーション信号によってノイズ源からの信号が打ち消される場合を除いて、自分または自装置まで達する信号を受信することができる。
【0028】
望ましければ、回路には、所定量のホワイトノイズまたはピンクノイズを(ADC20を介して)デジタル信号処理回路10からのアナログ信号と本質的にミキシングする増幅器22に送信されるホワイトノイズ源またはピンクノイズ源も含んでもよい。このノイズ源は、マスクしなければノイズキャンセレーション信号がスピーカーよりも下流のノイズ源信号と合成される際に聞こえるトランジェントをマスクすることにより、ノイズキャンセレーション信号の影響を和らげる上での一助となる。
【0029】
スピーカーシステム24の前(下流)には、フィードバックマイクロフォン26が配置される。フィードバックマイクロフォンは、ストリームにアンチノイズを導入後に信号ストリームをサンプリングするのに使用される。このマイクロフォンは、デジタル信号プロセッサ回路がどのように適切なノイズキャンセル信号を生成するかを制御するアルゴリズムを適合させるのに使用されるデジタル信号プロセッサ回路10に、フィードバック信号
を提供する。図1には示してないが、フィードバックマイクロフォンの出力を適切な増幅回路および/またはアナログ/デジタル変換器回路で処理し、ノイズキャンセルアルゴリズムで使用されるフィードバック信号を提供することができる。ノイズキャンセレーション信号に対するノイズの振幅のみが使用される一部の用途では、フィードバックマイクロフォンの出力をアナログドメインで処理して振幅電圧信号を取得し、必要に応じてこれを平均化するか、他の手段で処理することができる。ノイズ対ノイズキャンセレーション信号をさらに厳密に評価することが望まれる他の用途では、入力マイク信号との位相比較を行ってもよい。このようなシステムの実施形態を実現する場合、ほとんどは、フィードバック信号の個別のセグメントの位相と振幅の両方が、入力マイク信号またはその用途で望ましい結果との比較で分析されることになる(個別のセグメントの作成と処理については、本明細書で後述する)。フィードバックマイクロフォンの出力をサンプリングし、A/D変換器を使用してデジタルドメインに変換してもよい。フィードバックマイクについては、デジタル信号プロセッサ回路のビデオ/オーディオポートに接続されたマイク入力またはライン入力のいずれかに接続すればよい。
【0030】
図1のノイズ軽減システムの別の例については、以下の「異なる使用事例の実施形態」という見出しの項を参照のこと。
【0031】
サイレンサー装置の第2の実施形態を図2に示す。以下に説明するように、この実施形態は、2本の信号経路、すなわちユーザーのイヤホン、ヘッドフォンまたはスピーカー24aのノイズを軽減する受信オーディオ信号経路と、電話34のマイクロフォンによって捕捉される音が、同じく電話34のマイクロフォンによって捕捉される周囲雑音を軽減するように処理される送信オーディオ信号経路とを特徴とする。したがって、受信オーディオ信号経路は、環境内の周囲音を低減または除去することにより、ユーザーがイヤホン、ヘッドフォンまたはスピーカーで聞くものを改善するのに用いられるであろう。これによって、音楽を聴いたり電話での会話を聞いたりしやすくなる。送信オーディオ信号経路は、ユーザーの電話34のマイクロフォンに入ってくる風の雑音などの周囲音を部分的または完全にキャンセルするのに用いられるであろう。もちろん、電話にかぎらず、ライブ録音マイク、放送用マイクなど、他のシステムでも同じノイズキャンセレーション技術を使用することができる。
【0032】
図2を参照すると、図示された一例としての実施形態は、ヘッドセットシステムで使用するのにふさわしく、いくつかの構成要素が図1の実施形態と同一である。この実施形態では、入力マイクロフォンは、ヘッドセットまたはヘッドフォン/イヤホンの外側に配置されたノイズ検知マイクロフォン14aを1つ以上用いて実現される。各ノイズ検知マイクロフォンに付随するか一体化されたアナログ/デジタル回路が、周囲のノイズを、デジタル信号処理回路10に送信されるデジタル信号に変換する。フィードバックマイクロフォン26は、ヘッドフォンスピーカー24aとのオーディオカップリングでヘッドフォン/イヤホン内に配置されるか、あるいは、フィードバックマイクロフォン全体を省いてしまうこともできる。なぜなら、これがより厳密に制御された物理的な実施形態であるためである。フィードバックマイクロフォンを含むシステムでは、フィードバックマイクデータには、所望のエンターテインメントコンテンツ(音楽、オーディオ/ビデオサウンドトラックなど)および/または音声信号に加えてノイズおよびアンチノイズを含む場合があり、ノイズおよびアンチノイズ信号と比較される場合もある複合信号の成分、あるいは、入力信号と所望の信号とを合成したものが含まれる。
【0033】
このシステムでは、2000Hzよりも高い周波数成分を持つ音を効果的にキャンセルする機能がゆえ、従来のノイズキャンセリングヘッドフォンに用いられる音響分離方法の必要性が減るため、従来のシステムとは著しく異なる点に注意されたい。これによって、より軽量かつ安価な製品の製造が可能になり、「イヤホン」フォームファクターでの効果
的な展開が容易になる。
【0034】
この実施形態では、サイレンサー装置のノイズ処理を、各イヤピースについて独立して実施することができる。低価格のヘッドフォン/イヤホン/ヘッドセット製品の場合、ステレオシステムの両方のイヤピースに対して処理をまとめて行うことが可能であり、あるいは、スマートフォンやその他のデバイスに搭載されているアウトボードプロセッサで扱うこともできよう。
【0035】
この実施形態における別の重要な違いは、各周波数帯域範囲に必要な適切な振幅調整を計算して周囲の/望ましくないノイズが耳に届く前にこれらのノイズに対してヘッドフォンまたはイヤホン構造の物理的特性がおよぼす影響を補償するのに、較正モードも用いられることである(較正モードおよび周波数帯域範囲については、本明細書で後述する)。
【0036】
同様に、この実施形態のシステムによって生成されるアンチノイズは、ミキサー30を介して所望の音楽または音声信号と合成され(所望の音楽または音声信号は、電話30、音楽プレーヤー、通信装置などによって与えられる)、これら2つが共通のスピーカーから一緒に出力されることも多い。その使用事例では、フィードバックマイクロフォンは較正モードのときにのみ機能することになり、状況によっては製造ユニットで省略される場合がある。あるいは、本実施形態のマルチスピーカー用途(たとえば、VRおよびゲーム用ヘッドセットなど)であれば、フィードバックマイクロフォンが継続的に機能することができる。
【0037】
音声マイクロフォンを含むヘッドセットシステムでは、デジタル信号プロセッサ回路10の出力を、音声マイクロフォン回路だけでなく、上述したようなヘッドフォンスピーカー回路にも送信することができる。これは図2に示されており、図中、デジタル信号プロセッサ回路10から第1のミキサー30に第1の出力信号が送信され、第1のミキサー30がこれをオーディオ再生システム(アンプ22およびヘッドフォンスピーカー24a)に供給する。第2の出力信号は、デジタル信号プロセッサ回路10から第2のミキサー32に送信され、第2のミキサー32がこれを電話34または他の音声処理回路に供給する。周囲のノイズ信号は、通信/音声マイクロフォンの位置から離れた場所でサンプリングされるため、所望の音声信号がキャンセルされることはない。この別のアンチノイズ信号については、用途に応じて、上述したような較正モードの間に周波数帯域振幅の調整がなされる場合となされない場合がある。
【0038】
メディア放送または戦闘機通信などの重要な通信用途のために、別個の信号処理回路が望まれてマイクロフォンノイズキャンセルに用いられることがある。これによって、既知のノイズシグネチャの正確なキャンセルが可能になり、重要な情報周波数帯域をキャンセルしない機能が提供され、ユーザーによるコンフィギュレーションまたはプリセットを介してこれらのミッションクリティカルな用途の他のカスタマイズが容易になる。
【0039】
図2のノイズ軽減システムの別の例については、以下の「異なる使用事例の実施形態」という見出しの項を参照のこと。
【0040】
より一般化された第3の実施形態を図3に示す。この実施形態では、入力信号はどのような信号源から送られてくるものであってもよく、出力信号も入力信号を通常処理する回路または装置(図示せず)と結合されればよい。したがって、図3の実施形態は、信号処理装置または伝送にインラインで配置されるか、その中に挟まれるように設計されている。この実施形態では、通常はフィードバックを使用しない。システムパラメーター(「プリセット」12と表記した設定を用いて設定)によって、既知のノイズ特性を補正することが可能である。それらの特性が不明である場合、マテリアルのうちノイズはあるが信号
を含まないセグメントを処理することにより、ノイズをキャンセルするようにシステムを調整することができる(たとえば、ビデオセグメントの「プレロール」部分を用いて、ノイズシグネチャにシステムを較正することができる)。この実施形態の用途には、イベントまたはオーディオサーベイランスのレコーディングからノイズを除去すること、または、ライブ放送の間に冒涜的な言葉の検閲を可能にするために現在使用されている「7秒」遅延などの適切な量の「ブロードキャスト遅延」を伴う「ライブ」の状況でノイズを除去することが含まれる。
【0041】
上記の例ではスタンドアロンのデジタル信号プロセッサ回路10を示したが、スマートフォンなどのモバイルデバイス内のプロセッサを使用して信号処理アルゴリズムを実行できることや、コアエンジンをソフトウェアスイートの「プラグイン」として実装したり、別の信号処理システムに統合したりできることは、自明であろう。したがって、本明細書の説明では、スタンドアロンのデジタル信号プロセッサ回路やスマートフォンやその他のデバイスに組み込まれたプロセッサなどのプロセッサで実行される、以下でより詳細に説明する信号処理アルゴリズムをいうのに、コアエンジンという用語を使用するものとする。図3の実施形態で示すように、オフラインモードで、あるいは入力マイクロフォン、出力増幅スピーカー、フィードバックマイクロフォンが不要な場合もある信号処理用途で、ノイズを処理するのにコアエンジンを使用することができる。
【0042】
図3のノイズ軽減システムの別の例については、以下の「異なる使用事例の実施形態」という見出しの項を参照のこと。
【0043】
第4の実施形態を図4に示す。この実施形態では、ファイル、ブロードキャスト、信号伝送または他の手段を介して互いに情報を共有し、その情報に対するアクセスを制限することを望む当事者の数が2である。この実施形態では、「エンコードする当事者」および「デコードする当事者」の両方が、本発明を含む機器にアクセスする必要がある。
【0044】
情報をエンコードするのに用いられる周波数帯域範囲を設定するための秘訣に、暗号化/解読「キー」がある。暗号化と解読のための「キー」の設定は、情報が埋め込まれるノイズまたは他の信号の特性を考慮して作成され、これらの周波数帯域範囲の設定には、周波数と振幅の両方の情報が含まれる。これにより、エンコードされた信号を、たとえば他のマテリアルの無害な広帯域伝送または「ホワイトノイズ」信号のように見える伝送の極めて狭いセグメントに埋め込むことができる。ホワイトノイズと思われるものにインテリジェンス伝送を埋め込む例では、暗号化には、メッセージ全体を運ぶのに適切な長さのホワイトノイズレコーディングが必要であろう。このホワイトノイズレコーディングは、非常に狭い周波数範囲または一組の範囲に対してのみ本発明で処理され(つまり、ノイズの非常に狭いスライスがコアエンジンによって「切り分けられる」ことになろう)、この定義された一組の範囲に含まれない周波数は、変更されずにシステムに渡される(暗号化側の周波数帯域の定義に含まれていない周波数のデフォルトの振幅は1に設定されよう)とともに、インテリジェンスを含むことになる周波数範囲の振幅を調整して、ノイズ内に隠しやすくすることができる。共有される情報は、周波数変調または他の技術(暗号化の別のレイヤーを提供)を使用して狭い周波数範囲内の「キャリア信号」にエンコード可能であり、これがシステム出力(「切り分けられた」スライスのあるノイズ)と合成されることになろう。これによって、本例では、ランダムホワイトノイズ信号のように見える情報(または必要に応じて別の種類のブロードバンドまたは信号伝送)に、効果的に情報を埋め込むことになる。
【0045】
「解読」側では、「解読キー」として機能するように、情報が記録された場所を示す周波数帯域範囲の周波数および振幅の設定を知る必要がある。解読側では、周波数帯域範囲の定義に含まれない周波数のデフォルトの振幅を0に設定する必要がある。これは、周波
数帯域の定義に含まれない周波数の出力は、このシステムで生成されないため、デコードされる所望の信号のみが出力されることを意味する。
【0046】
定義された周波数帯域範囲に含まれない周波数のデフォルト振幅を選択する機能は、この実施形態の決定的な特性の1つである。
【0047】
暗号化/解読「キー」が交換手段によって当事者間で共有される場合、情報転送のセキュリティは大幅に強化されるが、これを、タイムスタンプまたはその他の設定などに基づいて計算される伝送またはファイルの「キャリブレーションヘッダー」に含めることもできるであろうと考えられる。
【0048】
図4のノイズ軽減システムの別の例については、以下の「異なる使用事例の実施形態」という見出しの項を参照のこと。
【0049】
第5の実施形態を、図5に示す。この実施形態では、本発明を用いて、送電線などに固有の、主要都市やその他の地域における密な電磁界に存在するノイズフィールドなどのノイズフィールドにおける伝送またはデバイスシグネチャの認識、検出または受信を支援する。
【0050】
本発明を使用して、ターゲット信号のみを通過させるように設計された周波数帯域範囲の設定のプリセットを作成することにより、そのようなノイズにおける信号の検出、認識または受信を支援することができる。これらの周波数帯域範囲の設定には、事前の分析で決定された、バックグラウンドノイズの特性に対するターゲット信号の「指紋」または「シグネチャ」を識別するのに必要な周波数と振幅の両方の情報が含まれる。これらの設定は、周波数帯域の設定からターゲット信号の周波数成分を除外し、帯域の設定に含まれない周波数にデフォルトの振幅0を使用して、システムにターゲット信号のみを効果的に通過させること、隣接する周波数または高調波の振幅と周波数を適切に調整して、ターゲット信号をさらに強化することで実現されるであろう。これは、そのような処理をしなければノイズフィールドで気づかれない微弱な信号を検出する上での支援となるであろう。
【0051】
たとえば、空調システムのコンプレッサーがオンになると、特有のインパルスがグリッドに与えられる。電力会社の変電所では、システムに本発明を利用して、さまざまな製品からのインパルスをカウントすることによりピーク負荷を予測する一助とすることができる。電力線通信の用途では、「通常の」ノイズと変動の特性を最小限に抑えることができ、そのタスク用に設計されたプリセットを利用することにより、所望の通信信号を強化することができる。プリセットは、遠隔地での電磁通信または微弱な電磁通信を検出または強化するように設計することもできる。同様に、プリセットは、あるタイプのオブジェクトまたは他の潜在的な脅威で識別されるノイズフィールドの妨害を検出するように設計することができる。
【0052】
この実施形態では、コアエンジンの複数のインスタンスをサーバ(または他のマルチコアまたはマルチプレックスデバイス)で利用して、単一ノードでのさまざまな信号またはシグネチャタイプの認識、検出または受信を容易にすることができる。
【0053】
図5のノイズ軽減システムの別の例については、以下の「異なる使用事例の実施形態」という見出しの項を参照のこと。
【0054】
コアエンジンノイズキャンセリングアルゴリズムの概要
コアエンジンノイズキャンセリングアルゴリズムの本質は、ノイズ信号を含む多くの小さな個別のセグメントに対して完全なアンチノイズを作成することである。デジタル信号
処理回路10(スタンドアロンの回路として実装されるか、スマートフォンなどの別のデバイスのプロセッサを使用するかのいずれか)は、ターゲットノイズ信号またはその一部を含む個別の周波数セグメントの集合各々について、セットごとに個々に調整されたノイズキャンセル信号のセットを正確に生成する信号処理アルゴリズムを実行するようにプログラムされる。
【0055】
図6に、コアエンジンノイズキャンセリングアルゴリズムの基本的なアーキテクチャを示す。図示のように、取得されたノイズ信号40は、異なる周波数帯域セグメントに細分化される。現時点で好ましい実施形態では、様々な周波数範囲におけるこれらのセグメントの幅(いくつかの実施形態では、アンチノイズに適用される振幅スケーリング係数)を、異なる周波数帯域42の各々について異なるように設定することが可能である。周波数帯域に対するこれらのパラメーターは、さまざまな実施形態において、ユーザーインタフェースやプリセットを介して、あるいは基準に基づいて動的に、設定することができる。それぞれの周波数帯域範囲は、選択した幅の周波数帯域セグメントにさらに細分化される。次に、それぞれの周波数帯域セグメントについて、デジタル信号処理回路は、セグメント化されたノイズ信号の選択される周波数によって決まる量だけ、そのセグメントの位相をシフトする。たとえば、選択される周波数は、帯域セグメントの中心周波数であってもよい。したがって、特定の帯域セグメントが100Hzから200Hzまでである場合、選択される中心周波数は150Hzとなり得る。
【0056】
入ってくるノイズ信号を複数の異なる周波数セグメントにセグメント化することにより、デジタル信号処理回路は、ノイズキャンセリングアルゴリズムを所与の用途での特定の要件に適合させることができる。これは、特定の用途に合うように各セグメントの大きさを選択的に制御することにより行われる。例として、入ってくるノイズ信号の全周波数範囲にわたる各セグメントを、非常に小さくすることができる(1Hzなど)。あるいは、その周波数範囲の異なる部分を、最も重要な情報コンテンツが存在するか、短波長が必要とするより小さな(高解像度の)セグメントを使用したり、情報の伝達が少ない周波数や波長の長い周波数で、より大きな(低解像度の)セグメントを使用したりして、より大きなセグメントまたはより小さなセグメントに細分化することも可能である。いくつかの実施形態では、プロセッサは、周波数範囲全体をセグメントに細分化するだけでなく、周波数帯域範囲の設定に基づいて、所与のセグメント内の振幅を別々に操作することもできる。
【0057】
極めて高いノイズキャンセレーション精度が望まれる場合、ノイズ信号は、必要に応じて、スペクトル全体またはノイズ信号のスペクトル全体にわたって小さなセグメント(たとえば、1Hzまたは他の大きさのセグメント)に分割される。このようなきめ細かな細分化には、かなりの処理能力が必要である。したがって、低電力、低コストのプロセッサが必要な用途では、コアエンジンノイズキャンセレーションアルゴリズムは、信号を周波数帯域または範囲に分割するように構成されている。周波数帯域の数は、用途ごとの要件に合わせてコアエンジンのソフトウェアコードで調整できる。必要に応じて、ウェーブレット分解を適用して取得したノイズ信号を異なる周波数帯域セグメントに細分化し、それにより複数のセグメント化ノイズ信号を生成することにより、取得したノイズ信号を細分化するようにデジタルプロセッサをプログラムすることができる。
【0058】
所与の用途ごとに、セグメントの大きさと、その大きさがスペクトル全体で変化するか否か/どのように変化するかは、システムの初期条件であり、様々な周波数範囲のパラメーターを定義することによって決定される。これらのパラメーターは、ユーザーインタフェースを介して設定可能であり、用途ごとのプリセットとしてメモリ12に格納される。
【0059】
デジタル信号処理回路によって確立されたセグメンテーション計画に従ってノイズ信号
が(自動的におよび/またはユーザーコンフィギュレーションに基づいて)セグメント化されると、各セグメントに位相補正が選択的に適用され、減殺的干渉により、そのセグメントの周波数帯域内のノイズ信号を実質的に無効にするセグメント波形が生成される。具体的には、処理回路は、セグメントの周波数を考慮し、システム伝搬または遅延時間を考慮して、周波数依存遅延時間46を計算および適用する。この周波数依存遅延時間は、個々に計算されて各セグメントに適用されるため、処理回路10は、これらの位相補正値を並列または非常に高速で直列に計算して適用する。その後、48で位相補正(位相シフト)セグメント化ノイズ信号が合成され、複合アンチノイズ信号50が生成される。この複合アンチノイズ信号50が信号ストリームに出力され、減殺的干渉によりノイズが軽減される。図6に示すように、増幅スピーカーシステムまたは他のトランスデューサー24を介して、信号ストリームにアンチノイズ信号を導入することができる。あるいは、特定の用途では、適切なデジタルミキサーまたはアナログミキサーを使用して、信号ストリームにアンチノイズ信号を導入することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、フィードバック信号を使用することにより、ノイズ軽減をさらに強化することができる。したがって、図6に示すように、フィードバックマイクロフォン26を、アンチノイズ信号が導入された場所よりも下流の信号ストリームの中に配置してもよい。このようにして、フィードバックマイクロフォンは、ノイズ信号とアンチノイズ信号との間の減殺的干渉の結果を検知する。次いで、アンチノイズ信号の振幅および/または位相を調整するのに使用するために、処理回路10にフィードバックマイクロフォンから導出されたフィードバック信号が供給される。このフィードバック処理を、図6の52で大ざっぱに示す。フィードバック処理52は、アナログ/デジタル変換によってフィードバックマイクロフォン信号を適切なデジタル信号に変換した後、ノイズを最大限に軽減できるよう、フィードバックマイクロフォン信号を基準として使用して、アンチノイズ信号の振幅および/または位相を調整することを含む。アンチノイズ信号およびノイズ信号が最適な方法で減殺的に干渉すると、ノイズエネルギーおよびアンチノイズエネルギーが互いに最適に相殺されているという事実により、フィードバックマイクロフォン信号はヌルを検出することになる。
【0061】
一実施形態では、合成されたアンチノイズ信号50の振幅を、フィードバックマイクロフォン信号に基づいて調整することができる。あるいは、各周波数帯域セグメントの振幅と位相を個々に調整することができる。これは、フィードバックポイントでの信号ストリームの振幅および位相を入力信号と比較し、アンチノイズパラメーターを調整することで実行できる。あるいは、フィードバック信号自体の周波数成分と振幅を調べ、各セグメントの振幅および周波数依存遅延時間46を微調整することで結果を改善するアンチノイズパラメーターに必要な調整を示すことも可能である。
【0062】
周波数依存遅延時間の決定
信号処理回路10は、いくつかの要素を考慮することにより、各セグメントの周波数依存時間遅延を計算する。これらの要素の1つは、個別の信号セグメント各々の所定の周波数(セグメント中心周波数など)に関連付けられた180度位相シフト時間の計算値である。
【0063】
この計算は、較正モードで行われ、用途と利用可能な処理能力に応じてメモリ12内のテーブルに格納されもよいし、リアルタイムで連続的に再計算されてもよい。各周波数「f」に適切なアンチノイズを作るのに必要な正確な時間遅延は、式(1/f)/2によって計算される。
【0064】
【数1】
ここで、fはそのセグメントの所定の周波数(中心周波数など)である。
【0065】
信号処理回路によって使用される別の要素に、システムのオフセット時間がある。これは、空中伝搬時間とシステム伝搬時間という2つの要素に左右される。
【0066】
正確なノイズキャンセリング信号を生成するために、処理回路は、信号が入力マイクロフォンからフィードバックマイクロフォンに伝わる通過時間として測定される空中音伝搬の速度についての先験的知識に依存する。本明細書で使用する場合、この通過時間を空中伝搬時間と呼ぶ。また、処理回路は、本明細書ではシステム伝搬時間と呼ぶノイズキャンセリング信号を生成するのにプロセッサ10および付随する入力コンポーネントならびに出力コンポーネント(たとえば、14、16、18、20、22、24)が要する時間についての先験的知識に依存する。これらのデータは、完全なキャンセレーションが得られるように、ノイズキャンセリング信号をノイズ信号と正確に位相整合させるのに必要である。ノイズ信号が空気中を伝搬する速度は、気温、気圧、密度、湿度などのさまざまな物理的要素に依存する。プロセッサの計算時間と回路のスループット時間は、さまざまな実施形態において、プロセッサの速度、メモリ12にアクセスするバスの速度、プロセッサ10に付随する入出力回路を介した信号遅延に依存する。
【0067】
好ましい実施形態では、これらの空中伝搬時間およびシステム伝搬時間は、較正モード中に測定され、メモリ12に格納される。較正モードについては、ユーザーインタフェースを介してユーザーが手動で要求することも可能であるし、定期的または測定された気温、気圧、密度、湿度条件に応じて自動的に較正を実行するようにプロセッサ10をプログラムすることも可能である。
【0068】
このため、好ましい実施形態では、ノイズ信号が入力マイクロフォン14で検出されてから後にフィードバックマイクロフォン26で検出されるまでの空中伝播時間を測定する。用途に応じて、これら2つのマイクロフォンを、(図2のヘッドセットの実施形態のように)永久的に一定の分離距離で配置してもよいし、フィールド内にたまたまおかれる2つのマイクロフォンの場所に応じた分離距離に配置してもよい。入力信号を処理し、スピーカーシステム24(24a)に出力し、フィードバックマイクロフォン26で受信するのにかかる時間に起因する時間遅延は、システム伝搬時間に対応する。
【0069】
較正モードで空中伝搬時間およびシステム伝搬時間が測定され、記憶されると、信号処理回路10は、空中伝搬時間とシステム伝搬時間との算術差としてシステムオフセット時間を計算する。この差の計算については、リアルタイムで計算してもよいし、メモリ12に格納してもよい。ヘッドフォンなどの固定の用途では、生産ラインで較正がなされるか、ヘッドフォンの既知の決まったジオメトリに基づいて確立されるため、オンボード較正モードが必要ない場合がある。このシステムオフセット時間を、本明細書で説明するノイズ低減計算で使用される定数として格納(またはいくつかのアプリケーションで動的に計算)してもよい。
【0070】
処理される個別の周波数セグメント各々に対して、処理された信号を、その個別の周波数セグメントの180度位相シフト時間からシステムオフセット時間を引いた絶対値に等しい時間だけ遅延させることにより、アンチノイズ信号が生成される。本明細書では、この値を、適用される時間遅延と呼ぶ。各周波数セグメントに対する適用される時間遅延については、テーブルに格納することもできるし、アルゴリズムのさまざまな実装で継続的に計算することも可能である。
【0071】
図7は、コアエンジンノイズキャンセリングアルゴリズムを実施するように信号処理回路をプログラムできる方法をより詳細に示している。プログラムされたプロセスは、メモリ12内の一組のデータ構造59を埋める一連の工程で始まり、ここでは必要に応じて、アルゴリズムで使用されるパラメーターがアクセスできるように格納される。コアエンジンプロセスの詳細については、図10に関連して後述する。
【0072】
図7を参照すると、まず、選択されたチャンクサイズを含むレコードがデータ構造59に格納される。チャンクサイズは、データのグループまたは「チャンク」として処理されるサンプル数によって表される、コアエンジンによって実行される各反復で処理されるタイムスライスの長さである。チャンクサイズは主に、用途(処理される周波数範囲と必要な解像度)、システム伝搬時間、空中またはその他で送信されるノイズ信号の入出力間の移動時間に基づいている(処理は完了し、元の信号がアンチノイズ出力ポイントを通過する前にアンチノイズが信号ストリームに挿入されなければならない)。
【0073】
たとえば、オーディオスペクトル全体、入力マイクロフォンと出力マイクロフォンとの間の距離5.0インチ、サンプリングレート48kHz、システム伝搬時間0.2msを処理する空中システムの場合、チャンクサイズは16が適切であろう(48kHzのサンプリングレートでは、サンプル数16は時間にして約0.3333ミリ秒に相当し、標準の温度と気圧では、その時間で音は空中で約4.5インチ移動する)。システムコールと状態の変更をチャンクごとに1回に制限することにより、所望のチャンクサイズでの効率的な処理のためにプロセッサの動作を最適化できる。
【0074】
ノイズキャンセレーション装置が所与の用途に合わせて構成されている場合、このチャンクサイズレコードは一般に、立ち上げ時に格納される。ほとんどの場合、コアエンジンノイズキャンセリングアルゴリズムの動作中にチャンクサイズレコードを変更する必要はなく、あるいは変更は望ましくない。
【0075】
周波数帯域範囲、各周波数帯域範囲内のセグメントサイズ、各周波数帯域の出力スケーリング係数は、用途に応じた初期条件として設定され、データ構造59に格納される。これらのパラメーターを、ユーザーインタフェースで設定してもよいし、システムにプリセットとして含めたり、動的に計算したりしてもよい。
【0076】
次に、62の処理回路は、ノイズ軽減プロセスを実行するために、処理回路およびこれに付随する入力回路および出力回路によって消費される時間に対応するシステム伝搬時間を測定し、データ構造59に格納する。これは、ノイズ信号が処理回路に供給され、処理回路によってアンチノイズ信号および出力を生成するように作用される、以下で説明する較正モードで処理回路を動作させることによって行われる。ノイズ信号の入力からアンチノイズ信号の出力までの経過時間がシステム伝搬時間を表す。この値は、データ構造59に格納される。
【0077】
また、64の処理回路は、空中伝搬時間を測定し、データ構造59に格納する。この動作も、以下で説明する較正モードの処理回路によって実行される。この場合、処理回路は出力を生成しないモードに切り替えられる。入力マイクロフォンで信号を受信してからフィードバックマイクロフォンで信号を受信するまでの経過時間が測定され、空中伝搬時間として格納される。
【0078】
次に、66の処理回路は、空中伝搬時間からシステム伝搬時間を引いたものとして定義されるシステムオフセット時間を計算し、データ構造59に格納する。この値は、後に処理回路が、適用される遅延時間を計算するときに必要である。
【0079】
このように計算および格納された上述の較正パラメーターにより、コアエンジンノイズキャンセリングアルゴリズムは、セグメント固有の事前計算を実行することができる(あるいは、十分な処理能力を利用できるのであれば、リアルタイムでこれらの計算を行うことができる)。
【0080】
図示のように、工程68および後続の工程70および72は、周波数帯域の設定に従って、セグメントごとに並列に(または高速で直列に)実行される。所与の用途で1000個のセグメントがある場合、工程68~70が好ましくは並列に1000回実行され、データがデータ構造59に格納される。
【0081】
工程70で、セグメントごとに過去に格納されたシステムオフセット時間を減算することにより、180度位相シフト時間が調整される。プロセッサ回路は、この値の絶対値を適用される遅延時間として計算して格納する。したがって、適用される遅延時間は正の数であり、対応するセグメントに適用される位相シフトの量を表す。
【0082】
コアエンジンは、この格納されたデータを使用して、(すべての周波数セグメントに対して事前に計算された時間的なシフトを事前に適用することにより)周波数セグメントをより迅速に処理する。工程72で、プロセッサ回路は、セグメントノイズ信号の位相シフトを実行するが、このとき、そのセグメントに適用される遅延時間として格納された量だけ、セグメントノイズ信号を時間的にシフトすることにより、位相シフトを実行する。また、周波数範囲の設定またはフィードバック処理52(図6)に従って振幅調整(または位相調整の微調整)が必要な場合、その調整もここで適用される(一部の実施形態では、情報をベクトルとして格納することにより、位相シフトと振幅調整を同時に適用することが可能である)。システムアーキテクチャに応じて、すべてのセグメントが並列または高速で直列に処理される。
【0083】
特定のチャンクのすべてのセグメントが適切に調整されると、74の処理回路は、処理されたすべてのセグメントを再結合して、信号ストリームに出力するためのアンチノイズ波形を生成する。
【0084】
処理回路によって実行されるプロセスをさらに理解するために、図8を参照すると、ノイズ信号がどのように処理されるかについてのより物理的な表現が示されている。工程80から始まり、ノイズ信号82が取得される。図8では、ノイズ信号は、多くの異なる周波数成分または高調波を含む経時変化する信号としてプロットされている。
【0085】
工程84では、図7に関連して説明したパラメーター59に従って、ノイズ信号スペクトルのチャンクがセグメント86に細分化される。説明のために、図7では、経時変化するノイズ信号82は周波数ドメインで表現され、そこでは最も低い周波数成分がスペクトルプロット86の最も左側に割り当てられ、最も高い周波数成分または高調波はスペクトルプロットの最も右側に割り当てられると仮定している。たとえば、スペクトルプロット86は、一般的に受け入れられている人間の聴覚の全範囲をカバーする、20Hzから20,000Hzまでおよぶ場合がある。もちろん、用途に応じて、異なる方法でスペクトルを割り当てることができる。
【0086】
ノイズ信号がスペクトル86の周波数ドメインで表されているが、ノイズ信号は本質的に経時変化する信号であることを認識すべきである。したがって、各周波数ドメインセグメントのエネルギー量は、時間とともに変動する。この変動を説明するために、時間の経過とともに、各周波数セグメント内のエネルギーが垂直軸に沿ってどのように変化するかを示すウォーターフォールプロット88も図示してある。
【0087】
各セグメントに対して個々に、工程90でなされているように、周波数依存の位相シフト(すなわち、適用される遅延時間)が適用される。これを説明するために、波形92は、シフト前のセグメント内のノイズ周波数を表す。波形94は、システムオフセット時間適用後の同じノイズ周波数を表す。最後に、波形96は、180度位相シフト時間の適用後に得られるノイズ周波数を表す(これは説明のみを目的としており、実際の処理では、適用される遅延時間のみが適用され、これは180度位相シフト時間からシステムオフセット時間を減算した値の絶対値である)。この説明では、処理中のセグメントに振幅スケーリングは必要ないと仮定している。
【0088】
工程98で各セグメントからの時間的にシフトされた成分を合成することにより、アンチノイズ信号100が構築される。工程102でなされているように、このアンチノイズ信号が信号ストリームに出力されると、アンチノイズ信号100は元のノイズ信号104とミキシングされ、これら2つのノイズ信号を減殺的に干渉させ、ノイズ信号を効果的にキャンセルまたは軽減する。残っているのは、工程106で取得できる情報搬送信号108である。
【0089】
較正モード
図9は、測定が行われる際にコアエンジンアルゴリズムを選択的に有効化および無効化することにより、処理回路10、入力マイクロフォン14、増幅スピーカー24およびフィードバックマイクロフォン26を、どのように較正に利用できるかを示す。
【0090】
現時点での好ましい実施形態では、空中伝搬時間は、コアエンジンのアンチノイズシステムおよび出力を無効にして計算される。この状態では、空中伝搬時間は、入力マイクロフォン14の入力で入力ノイズが捕捉される時刻とフィードバックマイクロフォン26でノイズが捕捉される時刻との時間差として計算される。システム伝搬時間は、コアエンジンのアンチノイズシステムを有効にして測定される。同じ入力が、再び入力マイクロフォン14に導入される。今回は、コアエンジンによって処理され、フィードバックマイクロフォン26の前に配置されたスピーカー(たとえば、スピーカーシステム24または他の適切なキャリブレーションスピーカーまたはトランスデューサー)を介して出力される。入力信号をコアエンジンで処理している間に、その周波数を、出力インパルスと入力インパルスノイズとが区別されるように変更することが可能である(または2つの信号のタイミング/位相を使用して、システム出力を元のノイズと区別することができる)。空中およびシステムで生成された信号の両方が、フィードバックマイクロフォンに到達することになる。これで、入力インパルス信号がフィードバックマイクロフォンに到達する時刻と出力信号がフィードバックマイクに到達する時刻から、システム伝搬時間を計算することができる。
【0091】
この較正モードでは、使用されるマイクロフォン同士の物理的な形状のわずかな違いもしくは、ノイズキャンセリングヘッドフォンまたはイヤホンシステムにおける物理的な形状のわずかな違いを考慮して、システムを「調整」するのに必要なエンジニアリング時間を大幅に削減することができる点に留意されたい。これにより、製品開発のコストを大幅に削減することができる。また、較正モードでは、初期チューニングを自動化した方法を提供することにより、個々のコンポーネントの製造公差とばらつき(特にマイクロフォン)に起因する製造ラインでの個々のセットのチューニングという物理的な課題が解決される。これは、製造時におけるもう1つの劇的なコスト削減となる。
【0092】
システムオフセット時間を使用して、プロセッサは、各セグメントに適用される特定のセグメント時間遅延を計算し、セグメントに必要な正確なアンチノイズを生成する。正確なセグメント時間遅延を計算するために、プロセッサは特定の周波数セグメントの中心周
波数で180度位相シフトを生成するのに必要な時間を確認し、それをシステムオフセット時間で調整する。具体的には、セグメント時間遅延は、[180度位相シフト時間からシステムオフセット時間を減算した値]の絶対値として計算される。
【0093】
すべてのアンチノイズセグメント時間遅延が計算された後、各セグメントのデジタル信号が、そのセグメントに対して計算された量だけ時間遅延され、そのように生成されたすべてのアンチノイズセグメントが1つのアンチノイズ信号としてアセンブルされ、これが(スピーカーシステムなどに)出力される。
【0094】
フィードバックマイクロフォンまたは他のフィードバック信号源を使用する実施形態では、プロセッサ10は、位相および振幅の両方で、フィードバックマイクロフォンの入力信号を入力マイクロフォンの入力信号と比較する。プロセッサは、適用される遅延時間の調整に位相比較を使用し、生成されたノイズキャンセル信号の振幅の調整にはアンチノイズ振幅を使用する。振幅を調整する際、プロセッサは周波数帯域範囲内の各セグメントの振幅を個々に操作することができる(したがって、各セグメントの振幅を効果的に制御できる)。あるいは、フィードバック信号自体の周波数構成と振幅を使用して、各セグメントの振幅と位相に必要な調整を決定することができる。
【0095】
コアエンジンプロセスの詳細
ここで図10を参照すると、信号処理回路10がコアエンジンプロセスをどのように実施するかの詳細な説明が示されている。具体的には、図10には、好ましい実施形態において信号処理回路によって実施されるソフトウェアアーキテクチャが詳述されている。ユーザーは、さまざまな方法でコアエンジンプロセスを実行しているプロセッサと対話することができる。必要に応じて、ユーザーは、120でなされているように、消音装置のコンフィギュレーションモードを起動することができる。そうすることにより、ユーザーは、周波数帯域と対応するセグメントの幅と振幅ならびにノイズ閾値ゲートパラメーター(データ構造59(図7も参照)を任意に構成することもできる。チャンクの大きさを、ユーザーインタフェースのパラメーターとして設定することもできる。
【0096】
あるいは、ユーザーは、132でなされているように、単にサイレンサー装置を始動するだけでもよい。そうすることで、ユーザーは、134でなされているように、装置を較正するようコアエンジンプロセスに命令することができる。較正プロセスは、信号処理回路で実行されているコアエンジンソフトウェア124の一部であるキャリブレーションエンジン126を呼び出すことで、コアエンジンソフトウェア124に較正プロセスを実行させ、上記にて詳細に説明した較正プロセスを実行し、これによって、空中伝搬時間、システム伝搬時間およびその他の計算パラメーターをデータ構造59に設定する。その後、同じくコアエンジンソフトウェア124の一部を形成するアンチノイズ生成エンジン128によって、これらの格納されたパラメーターが使用される。図示のように、アンチノイズ生成エンジン128はスピーカーに信号を供給し、スピーカーが、130でなされているように、アンチノイズ信号を信号ストリームに導入する。
【0097】
使用中の較正プロセスの一部として、またはノイズ軽減プロセスの一部として必要とされるかどうかにかかわらず、コアエンジンは、136でなされているように、入力マイクロフォンおよびフィードバックマイクロフォンからの信号を入力する。使用時にノイズを軽減するために、ユーザーは、138でなされているように、ユーザーインタフェースを介してノイズを抑制するよう装置に命令する。図示のように、これによって、信号ストリームに(たとえば、空気140に)アンチノイズ信号が導入される。使用する場合、142でなされているように、信号ストリームにホワイトノイズまたはピンクノイズを導入することもできる。
【0098】
コアエンジンアルゴリズムを実行する信号処理回路が例示的な入力データに対してどのように動作するかをさらに説明するために、以下の表を参照されたい。以下の表には、例示的なユーザー定義の周波数範囲を具体的に示してある。ここからわかるように、適用される時間遅延は、秒単位の遅延時間に対応する浮動小数点数として表すことができる。データが示すように、適用される時間遅延のうち典型的なものは非常に小さい場合があるが、それでも、適用される時間遅延はそれぞれ所与の周波数セグメントごとに正確に計算される。
【表1】
【0099】
従来のノイズキャンセレーション技術とは対照的に、このコアエンジンノイズキャンセレーションアルゴリズムでは、2,000Hzを超える周波数で例外的な結果が可能になり、オーディオスペクトル全体(最大20,000Hz)およびそれ以上(ただし、十分な処理速度がある場合)で良好な結果を達成しやすくなる。現在利用されている従来の手法は、最大約2,000Hzまでについてのみ合理的に有効であり、3,000Hzを超えると基本的に無効になる。
【0100】
異なる使用事例の実施形態
上記で開示した基本技術は、多岐にわたる用途に供することができる。以下、これらの使用事例のいくつかについて説明する。
空中サイレンサーシステム(オーディオ)の実施形態
【0101】
空中サイレンサーシステムは、図1に示して上述したように実現することができる。いくつかの異なる実施形態が可能である。これには、個人の静かなゾーンを提供するために最適化された低電力単一ユニットシステムが含まれる。図11に示すように、図1に示す構成要素は、ユーザー向けの増幅スピーカーを含むデスクトップまたはテーブルトップボックスに取り付けられている。フィードバックマイクロフォン26が、スピーカーの音場内に配置されていることに注意されたい。これは固定構成にしてもよいし、マイクスタンドとしても機能する取り外し可能な延長アームを利用して、ユーザーがフィードバックマイクロフォンを自分のいる場所の近くに配置できるようにしても構わない。別の考えられる実施形態として、サイレンサーシステムをスマートフォンにエンコードするか、スマートフォンアプリとして追加することがある。この実施形態では、電話機の内蔵マイクとスピーカーならびにヘッドセットのマイクを利用して、システムを構築することができる。
【0102】
図12は、図1の構成要素が部屋の窓に合うようにされた取り付けフレームで利用される別の実施形態を示し、窓枠をWで示す。この実施形態では、入力マイクロフォン14が窓の外からの音を捕捉し、増幅スピーカー24がアンチノイズオーディオを部屋の中に導入する。フィードバックマイクロフォンについては、延長アームに配置してもよいし、ユーザーの近くに適宜配置してもよい。望ましければ、フィードバックマイクロフォンは、ブルートゥースまたは他の無線プロトコルを使用して処理回路10と無線で通信することができる。この実施形態では、壁と窓が元のノイズに影響を与える過程がゆえに、較正モデルで決定されたさまざまな周波数帯域範囲の振幅調整が(ヘッドフォンの実施形態のように)おそらく重要であろう。
【0103】
図13は、図1の構成要素が、HVACシステムの空気ダクト内またはファンシステム(たとえば、浴室の天井ファン、キッチンの換気扇、産業用換気扇など))内にはまるようにされたプレナム取り付け用パッケージで利用される別の実施形態を示す。この実施形態では、HVACシステムまたはファンシステムによって発生する音は、入力マイクロフォン14によってサンプリングされ、アンチノイズ信号がエアダクトシステムに送られる。この実施形態では、必要に応じて、いくつかのスピーカーシステムを家屋または建物全体の換気通風装置に配置することができるため、それぞれの場所でHVACまたはファンシステムのノイズがさらに軽減される。そのようなマルチスピーカーの実施形態では、各通風装置に隣接するなど、それぞれの部屋の中で個々のフィードバックマイクロフォン26を使用してもよい。処理回路10は、各増幅スピーカーに個々に増幅器音量制御信号を供給し、各部屋のアンチノイズ信号の音圧レベルを調整することができる。ノイズを発生する送風機に近い部屋には、遠くにある部屋よりもアンチノイズ信号の増幅を高くする必要がある場合がある。あるいは、個々のデバイスを個々の通風装置に取り付けて、位置固有の制御を提供することもできる。
【0104】
空中サイレンサー装置の第2のクラスは、高エネルギー源から来るノイズを軽減するように設計された高出力のマルチユニットシステムを含む。これには、建設現場で発生するノイズ、賑やかな通りや高速道路で発生するノイズ、近くの空港で発生するノイズを軽減するシステムが含まれる。これらの同じ高出力マルチユニットシステムを、学校の境界やスタジアムのノイズ軽減にも合わせることができる。また、高出力マルチユニットシステムを使用して、車両の室内(車、トラック、軍用戦車、ボート、飛行機など)のロードノイズを軽減することができる。
【0105】
図14は、高速道路のノイズ軽減用に利用される例示的な高出力マルチユニットシステムを示す。図1に示すように実装された個々のサイレンサー装置は、それぞれの入力マイクロフォン14を使用して高速道路のノイズをとらえ、アンチノイズオーディオエネルギーを環境に送るように配置されるため、遠くにある区画で高速道路のノイズが減殺的干渉によってキャンセルされる。あるいは、サイレンサー装置を家の庭に直接配置して、より
直接的なカバレッジを提供することもできる。
【0106】
高速道路のノイズ軽減の実施形態では、個々のサイレンサー装置は、好ましくは、垂直スタンドまたは他の適切な構造に取り付けられているため、スピーカーは、近くに立っている人の頭よりもかなり上にある。フィードバックマイクロフォン26は、処理回路にフィードバック情報を送信するのにWiFi通信または他の無線通信プロトコルを使用して、サイレンサー装置からかなり距離をあけて配置されてもよい。
【0107】
また、必要に応じて、個々のサイレンサー装置は、メッシュネットワークまたはローカルエリアネットワークなどのネットワークに無線で加わって、各サイレンサー装置ユニットで得られるローカル音入力信号およびフィードバック信号に関する情報を共有することができる。高速道路のノイズの場合、大きなノイズ源は、それぞれのサイレンサー装置の入力マイクロフォンによって追跡できる。したがって、サイレンサー装置の集音システムは、トレーラートラックのエアブレーキや、ノイズ保護された高速道路に沿った効果のないマフラーモーターを備えたオートバイとして互いに通信し、それぞれのアンチノイズ信号を採用することで、それがないとアンチノイズ信号ではなく個々の入力マイクロフォンおよびフィードバックマイクロフォンを使用して可能であることを強化するようにすることができる。これは、(a)フィードバックマイクロフォン源と、(b)メッシュネットワークまたはローカルエリアネットワークを介して共有される集音入力マイクロフォンという2種類の数学的に直交する情報源が使用されているという事実によって可能になるダイバーシティノイズキャンセレーションの形式を実現する。
【0108】
図15は、高出力マルチユニットシステムを、自動車などの車両にどのように利用できるかを示している。複数の入力マイクロフォンが車内のノイズエントリ位置に配置される。これらの入力データは、マルチコアプロセッサ10の複数のコアを使用するか、複数のプロセッサ10を使用して個々に処理される(ここでは車のインフォテインメント画面にアイコンとして表示され、システムが工場でインストールされて車の電子機器に組み込まれていることを示している。各入力信号は個々に処理されるため、各信号を同じ方法でセグメント化する必要はない。実際、異なる種類のノイズ信号には、一般にそれぞれ独自のノイズシグネチャがある(たとえば、タイヤノイズはマフラーノイズとはまったく異なる)。このため各入力信号は、それぞれの乗員の位置で望ましい結果となるように、それぞれの異なるノイズ部位での周波数スペクトルと音圧レベルに最適な方法でセグメント化される。
【0109】
車両の車内で専用のアンチノイズスピーカを使用することができるが、車両に既に存在するサウンドシステムを使用することも可能である。したがって、図示の実施形態では、処理回路10は、車内のエンターテインメントシステムから来るオーディオとミキシングされるステレオまたはサラウンドサウンドオーディオ信号を供給する。ミキシングは、デジタルドメインまたはオーディオドメインで実行できる。しかしながら、いずれの場合でも、処理回路10は、ユーザーがエンターテインメントシステム用に選択した音量レベルに関する情報を処理回路に供給するデータ信号を受信する。プロセッサは、ユーザーがエンターテインメントシステムに選択した音量レベルに関係なくノイズ源が適切に中和されるように、この情報を使用してアンチノイズ信号の音量を調整する。したがって、ユーザーがエンターテインメントの音量レベルを上げると、処理回路10は、ミキサーに送られるアンチノイズ信号を減らして釣り合わせる。プロセッサは、ユーザーがエンターテインメントオーディオレベルをどのように設定したかに関係なく、車内で正しいアンチノイズ音圧レベルが生成されるようにプログラムされている。
【0110】
さらに別のクラスの空中サイレンサーシステムは、逆空中機能を提供する。このタイプのシステムでは、サイレンサーシステムが逆に構成されて、会話の内容を他人がはっきり
と聞きとれないようにして私的な会話を公の場で行うことができる「無感円錐域」を生み出す。図16に示すように、サイレンサー装置には、1つ以上の外向きスピーカーが配置されている。入力マイクロフォンは、スピーカー配置の中央に配置されているため、音声ストリームの「ノイズ入力」側で個人的な会話が行われる。この実施形態では、フィードバックマイクロフォン26は、第三者の聞き手(招待されていない聞き手)がこれらのマイクロフォンを遮って、生成されるアンチノイズ信号を変更してその会話を打ち消してしまうことが簡単にはできない場所に配置されている
【0111】
テレコミュニケーションマイク、テレコミュニケーションヘッドセット、パーソナルヘッドフォン/イヤホン(オーディオ)
テレコミュニケーション/ヘッドフォンシステムは、図2に示して上述したように実現することができる。いくつかの異なる実施形態が可能である。
【0112】
図17に示すそのような実施形態の1つは、スマートフォンのハンドヘルドアプリケーションであり、入力マイクがスマートフォンの背面にあり、スピーカーはスマートフォンのレシーバースピーカーであり、コアエンジンはスマートフォンのプロセッサを使用して実装され、フィードバックマイクは使用されない(ジオメトリが固定されているため)。この実施形態では、同一のアンチノイズをマイクロフォン伝送に追加することができる。この実施形態の別の形として、マイク/ヘッドフォンジャック、ライトニングコネクタなどに差し込まれるパッシブヘッドセットがあげられる。この別の実施形態が効果的であるためには、電話機のマイクを、ポケットや財布、リュックサックではなく、周囲ノイズにさらす必要があるだろう。
【0113】
別の消費者用の実施形態は、図18に示すように、ヘッドセット、ヘッドフォンまたはイヤホンの一部として含まれるプロセッサおよび入力マイクロフォンを使用して実行されるコアエンジン処理を伴うノイズキャンセリングヘッドセット、ヘッドフォンまたはイヤホンであろう。この実施形態(上述)において、低コスト/性能の製品ではステレオシステムの両耳に共通のプロセッサを使用することができ、高コスト/性能の製品では、それぞれの耳に個別のプロセッサを使用することができる。
【0114】
商業用および軍事用製品では、より高速なプロセッサ、イヤピースごとの個別処理、マイクロフォンのノイズキャンセリング用の別個のプロセッサが利用される可能性が高い。最も重要な用途では、追加の入力マイクロフォンを使用して、(スタジアムの混雑、風、車両、兵器などによる)激しい周囲ノイズを捕捉し、図19に示すように、マイクコアエンジンプロセッサが実際の送信マイクロフォンに近接した状態になるであろう。たとえば、F470コンバット・ラバー・レイディング・クラフトに搭乗した米海軍特殊部隊のネービーシールズは、現在使用している喉あてマイクを省くことができ、このタイプのシステムを使用してより良いコミュニケーションの利点を得ることができる。同様に、スポーツアナウンサーらは、より小さく、より軽く、目立たない、より「カメラに優しい」ヘッドセットの設計を享受するであろう。
【0115】
オフライン信号処理(オーディオ)
オフライン信号処理システムは、図3に示して上述したように実現することができる。この実施形態では、レコーディングから、あるいは行動と実際の放送との間に適切な遅延を伴うライブの状況において、既知のノイズ特性を低減または除去することができる。この実施形態では、コアエンジンは、別の信号プロセッサに組み込まれた別の編集または処理ソフトウェアシステムの「プラグイン」であってもよいし、図20に示すようなスタンドアロンの装置であってもよい。仮に除去対象となるノイズの特性(あるいは、未知のノイズ環境で通過対象となる信号の:周波数帯域範囲の設定からそれらの周波数を除外し、周波数帯域範囲の定義に含まれていない周波数の振幅スケーリング係数を1に設定するこ
とが、それらの周波数だけを通過させられる)、ノイズを効果的に除去し、ターゲット信号を通過させるためにシステムパラメーターを手動で(またはプリセットを介して)設定することができる。あるいは、較正モードを使用して、「プレロール」部分のノイズを分析し、適切なアンチノイズ設定を決定することができる。この実施形態の使用事例には、古いレコーディングからノイズを除去すること、ボイスアナウンサーの品質に悪影響を与えずに「ライブ」の状況でノイズを低減すること、サーベイランスレコーディングからノイズを除去すること、サーベイランスレコーディングのオーディオを強化することなどが含まれる。
【0116】
暗号化/解読(オーディオ帯域以上)
暗号化/解読システムは、図4に示して上述したように実現することができる。ここでの主な使用事例は、広帯域信号に有意な影響が生じない方法で広帯域送信信号またはノイズ信号の狭いセグメントに密かにエンコードすることによる、個人情報の送信である。この実施形態の別の使用事例は、広帯域送信に関する追加のデータまたは情報を含めることである。図21に示すように、暗号化「キー」には、ブロードバンドコンテンツ(ホワイトノイズなど)に実質的に影響しないであろうブロードバンド信号の個別の「チャネル」を「切り分ける」ための周波数および振幅情報が含まれるであろう。エンコードされた信号は、変調によって適切な周波数の「キャリア」に乗るため、「キャリア」がブロードバンドコンテンツに追加されると、観測者には「正常」に見える。「解読」キーは、「キャリア」を除くすべての情報がキャンセルされる結果につながる周波数帯範囲の振幅と周波数の設定を規定することになろう。これらの情報は、後に復調およびデコードすることが可能であろう。これは、周波数帯域の定義から「キャリア」周波数を除外し、除外された周波数からデフォルトの振幅を0に設定することで、最も頻繁に達成されると予想される。「解読キー」の定義の一部として「キャリア」周波数のすぐ隣に作られたアンチノイズの振幅を適切にスケーリングすることによって、「キャリア」信号の保存を、さらに強化することもできる。
【0117】
別の実施形態では、暗号化/解読システムは、ブロードバンド信号内の個別のチャネルを「切り分ける」工程を省くことができる。むしろ、これらの個別のチャネルは、周波数スペクトルのどの部分を選択するかという私的な先験的知識に基づいて、プロセッサによって単純に識別される。これらの選択されたチャネルについてのこのような先験的知識は、プロセッサによってアクセスされるメモリに格納され、また、秘密の手段または私的な手段によって意図されたメッセージ受信者に通知される。その後、送信対象となるメッセージは、これらの個別のチャネルにメッセージを乗せる適切なキャリアに変調されるが、そうでなければ存在するノイズ信号とミキシングされる。その後、広帯域信号全体(ノイズでマスクされた個別のチャネルを含む)が送信される。受信時、広帯域信号がデコード側で処理されるが、このとき、ブロードバンド信号を複数のセグメントに細分化して(チャネル周波数についての先験的な知識に基づいて)メッセージを運ぶ個別のチャネルを識別し、メッセージを搬送するチャネルのノイズ軽減を実行するようにプログラムされたプロセッサが用いられる。
【0118】
信号シグネチャの認識、検出または受信の強化(オーディオ帯域以上)
信号シグネチャの認識、検出または受信の強化は、図5に示して上述したように実現することができる。コアエンジンのこの実施形態は、ノイズフィールド内の特定タイプの伝送またはデバイスシグネチャの認識、検出または強化を容易にする。図22は、コアエンジンの複数のインスタンスを利用してそのフィールドを調べることにより、単一のノイズまたはデータ送信フィールドでさまざまなシグネチャを認識または検出する可能性を示す。入ってくるノイズ信号を捕捉するのにマイクロフォンを使用する他の実施形態とは異なり、この実施形態では、特定の装置によって発生するノイズが所定の期間にわたって捕捉され、捕捉されたデータは、その装置のノイズシグネチャを開発するために、コンピュー
タで移動平均を計算するか他の統計的平滑化操作を行うことによって処理される。装置の性質に応じて、このノイズシグネチャはオーディオ周波数シグネチャ(たとえば、送風機のモーターファンの音を表す)の場合もあれば、電磁周波数シグネチャ(たとえば、整流モーターまたは電子的に切り替えられるモーターによって生じる無線周波数干渉を表す)の場合もある。その後、その装置のノイズシグネチャを使用して、アンチノイズ信号が生成される。この方法で開発されたノイズシグネチャをメモリ(または他のシステムからアクセスするためのデータベース内)に格納し、必要に応じて信号処理回路からこれにアクセスして、特定の装置またはあるクラスの装置のノイズを軽減することができる。
【0119】
特定の装置でのノイズ軽減に有用であることに加えて、格納されたノイズシグネチャのデータベースは、生成されるノイズのシグネチャだけを通過させるようにコアエンジンを設定することにより、それらのシグネチャによってデバイスを識別するのにも役立つ可能性がある。使用事例の1つには、電力会社が非スマートグリッド製品の通電を検出できるようにして、レガシー製品(HVACシステム、冷蔵庫など)によるグリッド負荷の予測を助けることがあろう。別の使用事例は、特性がわかっている遠隔または弱い電磁通信を検出または強化することであろう。あるいは、伝送またはノイズフィールドを横切る無人ドローンまたは他の物体によって引き起こされる可能性のある電磁干渉、サーベイランスまたはカウンターサーベイランス機器の起動、伝送またはフィールド源の改ざん、天体または地上のイベントなどの特定の出来事に付随する伝送またはノイズフィールドの妨害を検出するために、周波数帯域範囲の周波数および振幅パラメーターを設定することができよう。
【0120】
上述した実施形態の説明は、例示および説明の目的のために提供されたものである。網羅的であることや開示を限定することは意図されていない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は、一般にその特定の実施形態に限定されないが、適用可能な場合は入れ替えが可能であり、具体的に図示や説明がなくても、選択された実施形態で使用することができる。同じことが多くの点で異なる場合もある。そのような変形は、本開示からの逸脱とみなされるべきではなく、そのようなすべての改変は本開示の範囲に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22