(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】張力情報取得装置、ワイヤ放電加工機および張力情報取得方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/10 20060101AFI20240730BHJP
B23H 7/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23H7/10 D
B23H7/02 R
(21)【出願番号】P 2022535386
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025787
(87)【国際公開番号】W WO2022009951
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020118467
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】西川 亮
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-077438(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068679(WO,A1)
【文献】特開2003-266247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/10
B23H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得装置であって、
ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、前記送りローラの回転を制御する送りモータと、前記ワイヤボビンにかかる回転トルク
が所定の大きさに維持されるように前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータとを備え、
張力情報取得装置は、
前記トルクモータを制御することで、前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記回転トルクを下げるバックテンション調整部と、
前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクに基づいて
、前記回転トルクが前記所定の大きさに維持されているときの前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得部と、
を備える、張力情報取得装置。
【請求項2】
ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得装置であって、
ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、前記送りローラの回転を制御する送りモータと、前記ワイヤボビンにかかる回転トルクを制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータとを備え、
張力情報取得装置は、
前記トルクモータを制御することで、前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記回転トルクを下げるバックテンション調整部と、
前記送りモータの外乱推定値または出力トルクのうち、前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクのみに基づいて前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得部と、
を備える、張力情報取得装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の張力情報取得装置であって、
前記取得部は、前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記外乱推定値または前記出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極の張力を推定する推定部を有し、推定した張力を前記張力情報とする、張力情報取得装置。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の張力情報取得装置であって、
前記張力情報に基づいて前記送りモータを制御することで前記ワイヤ電極の張力を調整する張力調整部をさらに備える、張力情報取得装置。
【請求項5】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の張力情報取得装置であって、
前記送りローラは、前記ワイヤ電極の送出経路において加工対象物の上流側に設けられ、
前記ワイヤ放電加工機は、前記送りローラの回転にブレーキをかけるパウダーブレーキをさらに備え、
前記張力情報取得装置は、前記張力情報に基づいて前記パウダーブレーキを制御することで前記ワイヤ電極の張力を調整する張力調整部をさらに備える、張力情報取得装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の張力情報取得装置を備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項7】
ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、
前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、
前記送りローラの回転を制御する送りモータと、
前記ワイヤボビンにかかる回転トルクを制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータと、
前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得装置と、
を備え、
張力情報取得装置は、
前記トルクモータを制御することで、前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記回転トルクを下げるバックテンション調整部と、
前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得部と、
を備え、
少なくとも前記バックテンションの大きさがゼロである間に前記ワイヤボビンと前記送りローラとの間の前記ワイヤ電極を押圧することで前記ワイヤ電極の経路長を伸長させるクッションローラをさらに備える、ワイヤ放電加工機。
【請求項8】
ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得方法であって、
ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、前記送りローラの回転を制御する送りモータと、前記ワイヤボビンにかかる回転トルク
が所定の大きさに維持されるように前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータとを備え、
張力情報取得方法は、
前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記トルクモータの前記回転トルクを下げるバックテンション調整ステップと、
前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクに基づいて
、前記回転トルクが前記所定の大きさに維持されているときの前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得ステップと、
を含む、張力情報取得方法。
【請求項9】
ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得方法であって、
ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、前記送りローラの回転を制御する送りモータと、前記ワイヤボビンにかかる回転トルクを制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータとを備え、
張力情報取得方法は、
前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記トルクモータの前記回転トルクを下げるバックテンション調整ステップと、
前記送りモータの外乱推定値または出力トルクのうち、前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクのみに基づいて前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得ステップと、
を含む、張力情報取得方法。
【請求項10】
請求項
8または9に記載の張力情報取得方法であって、
前記取得ステップでは、前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記外乱推定値または前記出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極の張力を推定することにより、推定した張力を前記張力情報として取得する、張力情報取得方法。
【請求項11】
請求項
8~10のいずれか1項に記載の張力情報取得方法であって、
前記張力情報に基づいて前記送りモータを制御することで前記ワイヤ電極の張力を調整する張力調整ステップをさらに含む、張力情報取得方法。
【請求項12】
請求項
8~10のいずれか1項に記載の張力情報取得方法であって、
前記送りローラは、前記ワイヤ電極の送出経路において加工対象物の上流側に設けられ、
前記ワイヤ放電加工機は、前記送りローラと前記送りモータとの間に設けられることで前記送りローラの回転にブレーキをかけるパウダーブレーキをさらに備え、
前記張力情報取得方法は、前記張力情報に基づいて前記パウダーブレーキを制御することで前記ワイヤ電極の張力を調整する張力調整ステップをさらに含む、張力情報取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力情報取得装置、ワイヤ放電加工機および張力情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機は、ワイヤ電極の張力を検出するテンションセンサを備えることが一般的である。テンションセンサの一例として、例えば特開2002-340711号公報には「ワイヤ電極張力センサ」が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
一般的なワイヤ放電加工機では、ワイヤ電極に取り付けるテンションセンサによってワイヤ電極の張力を検出している。また、ワイヤ放電加工機では、テンションセンサが検出する張力に基づいて、ワイヤ電極の送出制御を行っている。
【0004】
ここで、仮に、テンションセンサなしでワイヤ電極の張力を示す情報(以下、これを「張力情報」と呼ぶ)を取得することができれば、ワイヤ放電加工機の構成からテンションセンサを省略することが可能になる。また、ワイヤ放電加工機の構成からテンションセンサを省略することができれば、ワイヤ放電加工機の機械的構造の簡素化および部品の低コスト化の面で有利になる。
【0005】
そこで、本発明は、ワイヤ放電加工機が備えるワイヤ電極を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得することを可能とする張力情報取得装置、ワイヤ放電加工機および張力情報取得方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の第1の態様は、ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得装置であって、ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、前記送りローラの回転を制御する送りモータと、前記ワイヤボビンにかかる回転トルクを制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータとを備え、張力情報取得装置は、前記トルクモータを制御することで、前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記回転トルクを下げるバックテンション調整部と、前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得部と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様は、ワイヤ放電加工機であって、第1の態様に示す張力情報取得装置を備える。
【0008】
本発明の第3の態様は、ワイヤ放電加工機のワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する張力情報取得方法であって、ワイヤ放電加工機は、前記ワイヤ電極が巻かれたワイヤボビンと、前記ワイヤボビンから引き出される前記ワイヤ電極を回転により送出方向に送る送りローラと、前記送りローラの回転を制御する送りモータと、前記ワイヤボビンにかかる回転トルクを制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンションを前記ワイヤ電極に発生させるトルクモータとを備え、張力情報取得方法は、前記ワイヤ電極の前記バックテンションの大きさがゼロになるまで前記トルクモータの前記回転トルクを下げるバックテンション調整ステップと、前記バックテンションの大きさがゼロのときの前記送りモータの外乱推定値または出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得する取得ステップと、を含む。
【0009】
本発明によれば、ワイヤ放電加工機が備えるワイヤ電極を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極の張力を示す張力情報を取得することを可能とする張力情報取得装置、ワイヤ放電加工機および張力情報取得方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態のワイヤ放電加工機の全体構成図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の張力情報取得方法の流れを例示するフローチャートである。
【
図5】
図5は、変形例1の送り機構の構成図である。
【
図6】
図6Aは、バックテンションの大きさがゼロでないときのワイヤ電極とクッションローラとを例示する模式図である。
図6Bは、バックテンションの大きさがゼロであるときのワイヤ電極とクッションローラとを例示する模式図である。
【
図7】
図7は、
図5のクッションローラの配置を変更した場合の一例である。
【
図8】
図8は、変形例3の送り機構の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る張力情報取得装置、ワイヤ放電加工機および張力情報取得方法について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0012】
[実施の形態]
図1は、実施の形態のワイヤ放電加工機10の全体構成図である。
【0013】
まず、
図1に示した方向軸について説明しておく。
図1に示すX軸、Y軸およびZ軸は、各々が互いに直交する方向軸であり、三次元の直交座標系を構成している。本実施の形態では、X軸およびY軸を水平の方向軸とし、Z軸を重力の方向軸として説明する。例えば、本実施の形態で単に「水平方向」と記載されるときは、特に断らない限り「X軸方向およびY軸方向」のことを指す。
【0014】
以下、本実施の形態のワイヤ放電加工機10について説明する。ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12と加工対象物Wとが形成する極間g(
図2参照)に放電を発生させることで該加工対象物Wに放電加工を施す産業機械である。本実施の形態のワイヤ放電加工機10は、放電加工を行う加工機本体14と、加工機本体14を制御する制御装置16とを備える。
図1に示すように、加工機本体14と制御装置16とは、相互に接続される。
【0015】
また、ワイヤ放電加工機10は、本実施の形態においてワイヤ電極12の張力F
Tを示す張力情報を取得する張力情報取得装置18をさらに備える。
図1に示すように、張力情報取得装置18は制御装置16に接続される。
【0016】
ワイヤ放電加工機10のうち、加工機本体14は、加工槽20と、テーブル22と、送り機構24と、回収箱26とを備える。これらのうち、加工槽20は、加工液を貯留する槽である。加工液は誘電性を有する液体であり、限定されないが例えば脱イオン水が用いられる。また、テーブル22は、加工槽20内で加工対象物Wを支持する台座である。
【0017】
図示は割愛するが、テーブル22には、テーブル22を水平方向に移動させるためのモータが接続される。これにより、テーブル22は、加工槽20内で加工対象物Wを支持したままワイヤ電極12に対して相対移動することができる。
【0018】
【0019】
送り機構24は、テーブル22に支持された加工対象物Wをワイヤ電極12が通過するように、送出方向に沿ってワイヤ電極12を送る機構である。送出方向とは、以下で説明するワイヤボビン32から回収箱26までを辿るワイヤ電極12の送出経路において、ワイヤ電極12が送られる方向である。
図2に示すように、送り機構24は、加工対象物Wよりも上流側の供給系統28と、加工対象物Wよりも下流側の回収系統30とを有する。供給系統28と、回収系統30とは、ワイヤ電極12の送出経路の一部を構成する。
【0020】
なお、
図2ではワイヤ電極12と加工対象物Wとが単に隣接しているように図示しているが、実際の放電加工の際には
図1のように、ワイヤ電極12は加工対象物Wに予め形成された貫通孔に通される。
【0021】
供給系統28は、送り機構24のうち、ワイヤボビン32から加工対象物Wの方へとワイヤ電極12を送る系統である。供給系統28は、ワイヤボビン32と、複数の補助ローラ34Aと、送りローラ36Aと、上ガイド38Aとを備える。これらは
図2に示すように、ワイヤ電極12の送出経路に沿ってこの順序で設けられる。ワイヤボビン32は、ワイヤ電極12が引き出し可能に巻かれる回転可能なボビンである。送りローラ36Aは、ワイヤボビン32から引き出されたワイヤ電極12が架け渡される回転可能なローラであって、ワイヤ電極12を回転により送出方向に送るものである。補助ローラ34Aは、ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間でワイヤ電極12が撓むことを抑止するために設けられる回転可能なローラである。
図2に例示した構成では補助ローラ34Aを2つ設けているが、補助ローラ34Aの数はこれに限定されるわけではない。また、
図2に例示した構成では補助ローラ34Aと送りローラ36Aとでワイヤ電極12を挟持している。これにより、送りローラ36Aに架け渡されたワイヤ電極12が送りローラ36Aから外れるおそれを低減することができる。上ガイド38Aは、ワイヤ電極12を送りローラ36Aから加工対象物Wの方へと案内するワイヤガイドである。
【0022】
図示は割愛するが、上ガイド38Aには上ガイド38Aを水平方向に沿って移動させるためのモータが接続される。これにより、上ガイド38Aを水平方向に移動させることが可能となる。また、上ガイド38Aの水平方向の移動によって、上ガイド38Aと、後述する回収系統30の下ガイド38Bとの間におけるワイヤ電極12のZ軸に対する傾斜角度を調整することが可能となる。
【0023】
供給系統28は、トルクモータ40と、送りモータ42Aとをさらに備える。これらのモータは、ワイヤ電極12を張架させつつ送るためにワイヤ放電加工機10に備わるアクチュエータである。トルクモータ40は、ワイヤボビン32にかかる回転トルクTqを一定に制御することで、送出方向とは反対方向のバックテンションFBTをワイヤ電極12に発生させるモータである。ワイヤ電極12にバックテンションFBTをかけることで、ワイヤ電極12が撓むおそれが低減される。送りモータ42Aは、例えばサーボモータである。送りモータ42Aは送りローラ36Aに接続されることで、送りローラ36Aの回転を制御する。
【0024】
回収系統30は、送り機構24のうち、加工対象物Wから回収箱26の方へとワイヤ電極12を送る系統である。回収系統30は、下ガイド38Bと、補助ローラ34Bと、送りローラ36Bおよびピンチローラ44とを備える。これらは
図2に示すように、ワイヤ電極12の送出経路に沿ってこの順序で設けられる。下ガイド38Bは、加工対象物Wを通過したワイヤ電極12を送りローラ36Bの方へと案内するワイヤガイドである。補助ローラ34Bは、下ガイド38Bと送りローラ36Bとの間でワイヤ電極12が撓むことを抑止するために設けられる回転可能なローラである。補助ローラ34Bの数は、補助ローラ34Aと同様に、
図2に例示した数に限定されない。送りローラ36Bは、下ガイド38Bを通過したワイヤ電極12が架け渡される回転可能なローラであって、ワイヤ電極12を回転により回収箱26の方へと送るものである。ピンチローラ44は、送りローラ36Bと共にワイヤ電極12を挟持する回転可能なローラである。
図2のように送りローラ36Bとピンチローラ44とでワイヤ電極12を挟持することで、ワイヤ電極12が撓むおそれが低減される。
【0025】
図示は割愛するが、上ガイド38Aにモータが接続されることと同様に、下ガイド38Bにも下ガイド38Bを水平方向に沿って移動させるためのモータが接続される。これにより、下ガイド38Bの水平方向の移動によって、上ガイド38Aと下ガイド38Bとの間におけるワイヤ電極12のZ軸に対する傾斜角度を調整することが可能となる。
【0026】
回収系統30は、送りモータ42Bをさらに備える。送りモータ42Bは、ワイヤ電極12を張架させつつ送るためにワイヤ放電加工機10に備わるアクチュエータの1つである。送りモータ42Bは、例えばサーボモータである。送りモータ42Bは送りローラ36Bに接続されることで、送りローラ36Bの回転を制御する。
【0027】
以上の構成を有する送り機構24は、トルクモータ40の駆動により生じる前述のバックテンションFBTと、送りモータ42Aおよび送りモータ42Bの駆動により生じる張力FTとをワイヤ電極12にかけることができる。そして、これらの力により、ワイヤ電極12を送出方向に沿って送りつつ、送りローラ36Aと送りローラ36Bとの間で張架させることができる。
【0028】
張架したワイヤ電極12は、加工対象物Wと共に極間gを形成する。この極間gに電圧を印加すると、放電を発生させることができる。ワイヤ放電加工機10は、この放電によって加工対象物Wを加工する。これに関し、図示は割愛するが、ワイヤ放電加工機10は極間gに電圧を印加するための電源をさらに備える。
【0029】
続いて、制御装置16について説明する。制御装置16は、図示しないがプロセッサおよびメモリを備える。制御装置16のプロセッサおよびメモリは、協働してトルクモータ40、送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御することにより、ワイヤ電極12を張架させつつ送出方向に沿って送る送出制御を行う。なお、後で詳しく説明するが、本実施の形態の送出制御は、ワイヤ電極12に取り付ける形態のいわゆるテンションセンサを用いることなく行われる。
【0030】
また、制御装置16は、送出制御の他にも、テーブル22の移動制御(ワイヤ電極12の相対移動制御)、極間gに電圧を印加する電源の制御(放電制御)、および上ガイド38Aならびに下ガイド38Bの移動制御(ワイヤ電極12の傾斜制御)を行う。これらの制御は、前述したテーブル22、上ガイド38Aならびに下ガイド38Bの各々に接続されるモータ、および極間gに電圧を印加する電源を適宜制御することで実現される制御である。
【0031】
以下、送出制御についてさらに説明する。送出制御において、制御装置16は、一定の回転トルクTqがワイヤボビン32に付与されるようにトルクモータ40を制御する。また、制御装置16は、本実施の形態において外乱推定値VDと呼ぶ情報を送りモータ42Aの制御情報に基づいて取得する。そして、制御装置16は、その外乱推定値VDを一定に維持するように送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御する。
【0032】
外乱推定値VDとは、送りモータ42Aにかかる外乱(外力)の大きさに相関する数値情報のことである。外乱推定値VDは、送りモータ42Aが外乱の影響を受けることなく指令通りの速度で回転するときの該指令に基づく駆動電流と、送りモータ42Aが外乱の影響を受けている場合において指令通りの速度で回転するときの駆動電流との差分に基づいて算出される。例えば、送りモータ42Aの回転速度が、外乱によって、制御装置16の指令に基づく回転速度から乖離したとする。この場合には、送りモータ42Aが指令に基づく回転速度で回転できるように、送りモータ42Aに供給する駆動電流を制御装置16が調整する。送りモータ42Aの外乱推定値VDは、このときの駆動電流の調整量に基づいて求めることができる。
【0033】
本実施の形態において、送りモータ42Aにかかる外乱は、ワイヤ電極12に発生しているバックテンションFBT、および張力FTである。この場合、外乱推定値VDは送りモータ42AにかかるバックテンションFBTと張力FTとの合力に相関する。したがって、一定のバックテンションFBTがワイヤ電極12に発生しているとの前提の下であれば、外乱推定値VDを一定に保つことにより、ワイヤ電極12の張力FTを一定に保つことができる。
【0034】
外乱推定値VDは、例えば送りモータ42Aを定速回転させつつ送りモータ42Bの回転速度を適宜調整することで、一定に保つことができる。あるいは、送りモータ42Bを定速回転させつつ送りモータ42Aの出力トルクを適宜調整することでも、外乱推定値VDを一定に保つことができる。制御装置16は、外乱推定値VDを調整するにあたっては、これらのうちの何れの制御を行ってもよい。
【0035】
ただし、以上の送出制御のみでは、ワイヤ放電加工機10の実際の運用時においてワイヤ電極12の張力F
Tを一定に保ち続けることは難しい。つまり、以上の送出制御では、仮にバックテンションF
BTが一定であれば、外乱推定値V
Dを一定にすることで張力F
Tを一定にできる。しかしながら、実際には、バックテンションF
BTはワイヤ電極12の送出が進行するにつれて増大する。これはバックテンションF
BTと、ワイヤボビン32に巻かれたワイヤ電極12の外径R
12(
図2参照)と、トルクモータ40の回転トルクTqとの間に、数1の数式で表される関係が成立しているためである。数1の数式において、「a」は係数である。
【数1】
【0036】
すなわち、前述した送出制御ではワイヤボビン32からワイヤ電極12が送出されることに伴い外径R12は徐々に減少するが、回転トルクTqは一定に制御され続けるので、バックテンションFBTが徐々に増大する。したがって、バックテンションFBTと張力FTとの合力を表す外乱推定値VDを一定に保ち続ける送出制御では、バックテンションFBTが徐々に増大する一方で、張力FTは徐々に減少することになる。
【0037】
張力FTの減少は、張力FTが放電加工を好適に実行できる許容範囲に収まっているうちであれば、無視してもひとまずは問題無い。しかしながら、仮に許容範囲を逸脱するほどに張力FTが減少してしまうと、ワイヤ電極12を好適に張架させつつ送出方向に送ることが困難になる。
【0038】
したがって、テンションセンサが不要なワイヤ放電加工機10を提供するためには、テンションセンサに代わる張力FTの把握手段を併せて提供することが必要である。その手段が提供されれば、変化した張力FTを調整する制御(ワイヤ電極12の張力制御)をワイヤ放電加工機10において適宜実行することが可能となる。以上を踏まえ、以下、本実施の形態の張力情報取得装置18について説明する。
【0039】
【0040】
張力情報取得装置18は、送り機構24のアクチュエータから得られる情報に基づいてワイヤ電極12の張力FTを示す張力情報を取得、延いてはその取得結果に基づいて張力FTを制御することを可能とするために提供される電子装置(コンピュータ)である。張力情報取得装置18は、表示部46と、操作部48と、記憶部50と、演算部52とを備える。
【0041】
表示部46は、例えば液晶画面を有する表示機器である。なお、表示部46の画面は液晶に限定されない。例えば、表示部46は有機EL(OEL:Organic Electro-Luminescence)の画面を備えてもよい。
【0042】
操作部48は、例えばキーボード、マウス、あるいは表示部46の画面に設けられるタッチパネルにより構成され、張力情報取得装置18に対する情報入力を受け付けるために提供される。これにより、オペレータは、自分の指示を張力情報取得装置18に対して適宜入力することができる。
【0043】
記憶部50は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリにより構成され、情報を記憶するために提供される。
図3に示すように、記憶部50は、張力情報取得プログラム54を記憶する。張力情報取得プログラム54は、送り機構24のアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極12の張力F
Tを推定することを可能とする張力情報取得方法を張力情報取得装置18が実行できるように予め用意される所定のプログラムである。張力情報取得方法については、張力情報取得装置18の構成例を一通り説明した後で詳しく説明する。
【0044】
演算部52は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサにより構成され、情報を演算によって処理するために提供される。演算部52は、トルクモータ40を制御することでバックテンションFBTの大きさをゼロにするバックテンション調整部56と、そのときの外乱推定値VDに基づいて張力FTを示す張力情報を取得する取得部58とを備える。また、演算部52は、取得された張力情報に基づいて送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御する張力調整部62をさらに備える。これらの各部は、記憶部50の張力情報取得プログラム54を演算部52が読み取って実行することで実現される。
【0045】
バックテンション調整部56は、トルクモータ40がワイヤボビン32に付与する回転トルクTqを小さくすることで、ワイヤ電極12のバックテンションFBTをゼロにする。バックテンション調整部56は、例えばトルクモータ40の駆動を停止させることで、バックテンションFBTをゼロにする。ただし、バックテンションFBTをゼロにする方法はこれに限定されない。例えば、バックテンションFBTをゼロにすることは、バックテンションFBTの成分が外乱推定値VDに含まれなくなるまでトルクモータ40の出力を下げることでも達成可能である。したがって、バックテンション調整部56は、例えば外乱推定値VDの単位時間当たりの減少量が所定の閾値以下になるまで(外乱推定値VDが底打ちするまで)トルクモータ40の出力を下げることで、バックテンションFBTをゼロにしてもよい。こちらの場合、バックテンション調整部56は、トルクモータ40を必ずしも停止させなくてもよい。
【0046】
トルクモータ40の制御は、張力情報取得装置18が制御装置16に代わってトルクモータ40を制御することで実現してもよいし、張力情報取得装置18が制御装置16にトルクモータ40の制御を要求することで間接的に実現してもよい。本実施の形態では後者とする。すなわち、本実施の形態では、バックテンション調整部56が制御装置16に向けてトルクモータ40を出力低下させる旨の要求Req1を出力する。そして、制御装置16は、この要求Req1を受けて、トルクモータ40がワイヤボビン32に付与する回転トルクTqを小さくする。
【0047】
取得部58は、バックテンションFBTがゼロであるときの外乱推定値VDを制御装置16から取得する。バックテンションFBTがゼロになったタイミングは、バックテンション調整部56がトルクモータ40の出力を低下させた後で取得部58に通知すればよい。取得部58は、その通知があった後に、外乱推定値VDを取得すればよい。
【0048】
前述の通り、外乱推定値VDはバックテンションFBTと張力FTとの合力に相関する数値情報である。これは換言すれば、バックテンションFBTがゼロであるときの外乱推定値VDは、張力FTに相関する数値情報である。
【0049】
取得部58は、
図3に示すように、推定部60を有する。推定部60は、取得された外乱推定値V
Dに基づいてワイヤ電極12の張力F
Tを推定するものである。この推定により、取得部58は、張力F
Tを示す張力情報(張力F
Tの推定値)を得ることができる。推定部60は、外乱推定値V
Dと張力F
Tとの相関関係に基づく演算により、バックテンションF
BTがゼロのときの外乱推定値V
Dから張力F
Tを精度よく推定することができる。
【0050】
張力調整部62は、推定部60により推定された張力FTが許容範囲に収まるように、送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御する。張力調整部62は、制御装置16に代わって送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御してもよいし、制御装置16に送りモータ42Aおよび送りモータ42Bの制御を要求することで、これらのモータを間接的に制御してもよい。本実施の形態では後者とする。すなわち、本実施の形態では、張力調整部62が制御装置16に向けて張力FTを調整する旨の要求Req2を出力する。そして、制御装置16は、この要求Req2を受けて、張力FTを調整する制御(張力制御)を実行する。
【0051】
要求Req2を受けた制御装置16は、推定された張力FTを参照しながら送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御することで張力制御を実現すればよい。このとき、張力情報取得装置18は、張力FTを随時推定すると共に、その推定結果を制御装置16に適宜通知することで、制御装置16に精度よく張力制御を行わせることができる。この場合の張力制御は、張力FTが張力情報取得装置18により推定されたものである点は異なるが、テンションセンサが検出する張力FTを参照しながら行っていた従来と同様の制御手順で実行可能である。
【0052】
なお、本実施の形態では、張力FTではなく外乱推定値VDに基づく張力制御を行うことも可能である。つまり、バックテンションFBTがゼロのときの外乱推定値VDを収めるべき範囲は、張力FTを収めるべき許容範囲に対応して定まる。この場合、制御装置16は、バックテンションFBTがゼロのときの外乱推定値VDを該範囲に収めるように送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御すれば、結果的に、張力FTを許容範囲に収めることができる。この場合は張力FTを推定することなく外乱推定値VDをそのまま張力情報として利用すればよいので、張力情報取得装置18の構成から推定部60を省略してよい。なお、外乱推定値VDの調整方法は本実施の形態の送出制御の説明において前述した通りなので、ここでは改めて説明しない。
【0053】
以上が、本実施の形態の張力情報取得装置18の構成例である。張力情報取得装置18によれば、いわゆるテンションセンサを用いることなく、ワイヤ電極12の張力FTを示す張力情報を取得することができる。さらには、張力調整部62を備える本実施の形態の張力情報取得装置18によれば、取得された張力情報に基づいてワイヤ電極12の張力FTを好適且つ容易に調整することができる。
【0054】
図4は、実施の形態の張力情報取得方法の流れを例示するフローチャートである。
【0055】
以下、張力情報取得装置18が実行する張力情報取得方法について説明する。
図4に示すように、張力情報取得方法は、バックテンション調整ステップS1と、取得ステップS2と、張力調整ステップS3とをこの順序で含む。以下、これらの各ステップについて説明する。
【0056】
バックテンション調整ステップS1は、ワイヤ電極12のバックテンションFBTの大きさがゼロになるまでトルクモータ40の回転トルクTqを下げるステップである。バックテンション調整ステップS1はバックテンション調整部56により実行される。
【0057】
なお、このように張力情報取得方法ではワイヤ電極12のバックテンションFBTをゼロにするので、張力情報取得方法は放電加工が行われていない状態(事前あるいは中断した状態)で実行されることが望ましい。
【0058】
取得ステップS2は、バックテンションFBTがゼロであるときの送りモータ42Aの外乱推定値VDに基づいて張力FTを示す張力情報を取得するステップである。取得ステップS2は取得部58により実行される。張力情報は、外乱推定値VDから換算した張力FTの推定値として得ることができる。ただし、張力情報はこれに限定されない。例えば取得された外乱推定値VDをそのまま張力情報として利用することもできる。
【0059】
張力調整ステップS3は、取得ステップS2で取得された張力情報に基づいて送りモータ42Aおよび送りモータ42Bを制御することでワイヤ電極12の張力FTを調整するステップである。張力調整ステップS3は張力調整部62により実行される。張力調整ステップS3を行うことで、ワイヤ電極12の張力FTを好適に調整することができる。
【0060】
以上が、本実施の形態の張力情報取得方法の構成例である。なお、張力調整ステップS3の実行により張力FTを調整した後で放電加工を行うときは、トルクモータ40の出力をバックテンション調整ステップS1の実行前の水準まで戻せばよい。また、その後は、トルクモータ40の出力を戻した直後の外乱推定値VD(調整した張力FTとバックテンションFBTとの合力)に基づいて前述した送出制御を行いながら、放電加工を実行すればよい。
【0061】
以上の通り、本実施の形態によれば、ワイヤ電極12を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極12の張力FTを示す張力情報を取得することを可能とする張力情報取得装置18、ワイヤ放電加工機10および張力情報取得方法が提供される。
【0062】
張力情報取得装置18を備えるワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12にテンションセンサを取り付ける必要がないため、機械的構造の簡素化および部品の低コスト化の面で有利である。また、張力情報取得装置18を備えるワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12にテンションセンサを取り付ける作業自体が不要であるため、例えばオペレータの作業工数の削減という面でも有利である。
【0063】
[変形例]
以上、本発明の一例として実施の形態が説明された。上記実施の形態には、多様な変更または改良を加えることが可能である。また、その様な変更または改良を加えた形態が本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、請求の範囲の記載から明らかである。
【0064】
以下、実施の形態に係る変形例を具体的にいくつか説明する。ただし、以下では、実施の形態で既に説明した要素については同名同符号を付し、その説明を適宜割愛している。
【0065】
(変形例1)
実施の形態では、バックテンション調整部56によってバックテンションFBTの大きさをゼロにすることを説明した。ここで、バックテンションFBTが小さくなると、ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間でワイヤ電極12が撓みやすくなる。ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間でワイヤ電極12が撓むと、ワイヤ電極12が補助ローラ34Aや送りローラ36Aから外れてしまうといった問題が生じやすくなる。これを踏まえ、以下、本変形例を説明する。
【0066】
【0067】
ワイヤ放電加工機10は、
図5に示すようなクッションローラ64をさらに備えてもよい。クッションローラ64は、ローラ部64aと、クッション部64bとを有する。ローラ部64aはワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間のワイヤ電極12に接する回転可能なローラである。クッション部64bは、ローラ部64aを支持する弾性の部材であり、加工機本体14に固定して設けられる。クッション部64bは、
図5の例示ではバネ部材であるが、これに限定されるわけではない。
【0068】
図6Aは、バックテンションF
BTの大きさがゼロでないときのワイヤ電極12とクッションローラ64とを例示する模式図である。
【0069】
図6Aに示すように、バックテンションF
BTの大きさがゼロでないとき(少なくともトルクモータ40によってワイヤボビン32に一定の回転トルクTqが付与されているとき)には、クッション部64bはワイヤ電極12に押圧されることで収縮する。ローラ部64aが回転可能であるため、ワイヤ電極12の送出はクッションローラ64に阻害されない(
図6A参照)。
【0070】
図6Bは、バックテンションF
BTの大きさがゼロであるときのワイヤ電極12とクッションローラ64とを例示する模式図である。
【0071】
一方、
図6Bに示すように、バックテンションF
BTの大きさがゼロであるとき(ゼロに近づいたとき)は、ワイヤ電極12からクッションローラ64にかかる力が弱まるために、クッション部64bが伸長してワイヤ電極12を押圧する。これにより、ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間において、ワイヤ電極12の経路長が伸長する。なお、ローラ部64aが回転可能であるためにワイヤ電極12の送出が阻害されない点は
図6Aのときと同様である。
【0072】
このように、本変形例では、クッションローラ64があることにより、少なくともバックテンションFBTの大きさがゼロである間、ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間においてワイヤ電極12の経路長が伸長する。その結果、バックテンションFBTがゼロである間において、ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間でワイヤ電極12が撓むおそれが低減される。そして、ワイヤ電極12が撓むおそれを低減することで、結果として、ワイヤ電極12が補助ローラ34Aや送りローラ36Aから外れてしまうおそれを低減することができる。
【0073】
図7は、
図5のクッションローラ64の配置を変更した場合の一例である。
【0074】
クッションローラ64を配置する位置は、ワイヤボビン32と送りローラ36Aとの間においてワイヤ電極12の経路長が伸長することができれば、
図5に示す位置に限定されない。例えば、クッションローラ64は、
図7に示す位置に配置されてもよい。
【0075】
(変形例2)
実施の形態で説明したように、送りモータ42Aの外乱推定値VDは、送りモータ42Aの出力トルクを制御することで調整される。すなわち、送りモータ42Aの外乱推定値VDは、送りモータ42Aの出力トルクに相関するものである。
【0076】
したがって、張力情報取得装置18は、バックテンションFBTがゼロのときの送りモータ42Aの出力トルクに基づいてワイヤ電極12の張力FTを推定してもよい。すなわち、取得ステップS2の実行時において、張力情報取得装置18の取得部58は、バックテンションFBTがゼロのときの送りモータ42Aの出力トルクを取得してもよい。また、推定部60は、バックテンションFBTがゼロのときの送りモータ42Aの出力トルクに基づいてワイヤ電極12の張力FTを推定してもよい。
【0077】
(変形例3)
送りモータ42Aの外乱推定値VDは、送りローラ36Aの回転を制御することで調整される。これはつまり、ワイヤ電極12の張力FTは、送りローラ36Aの回転状態に応じて変化するということである。これを踏まえ、以下、本変形例を説明する。
【0078】
【0079】
本変形例の送り機構24は、送りモータ42Aと送りローラ36Aとの間に設けられるパウダーブレーキ66をさらに備える。パウダーブレーキ66は、送りモータ42Aから送りローラ36Aに付与される回転トルクを低減することで、送りローラ36Aの回転にブレーキをかける。
【0080】
送りローラ36Aの回転にブレーキをかけるパウダーブレーキ66がある場合、張力情報取得装置18の張力調整部62は、張力調整ステップS3において、パウダーブレーキ66を制御してもよい。すなわち、本変形例の場合、張力調整部62は送りモータ42Aの他にもパウダーブレーキ66を制御することで、送りローラ36Aの回転状態、延いてはワイヤ電極12の張力FTを調整することができる。なお、ここで言う張力調整部62によるパウダーブレーキ66の制御には、張力調整部62が制御装置16にパウダーブレーキ66を制御させることも含まれる。
【0081】
(変形例4)
実施の形態では、張力情報取得装置18はワイヤ放電加工機10の制御装置16とは異なる電子装置であるものとして説明した。張力情報取得装置18は、これに限定されない。張力情報取得装置18と制御装置16とを1つの電子装置として構成してもよい。例えば、張力情報取得装置18の構成要素を制御装置16に適用することで、張力情報取得装置18を兼ねる制御装置16を構成してもよい。
【0082】
これにより、ワイヤ電極12を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極12の張力FTを示す張力情報を取得することを可能とするワイヤ放電加工機10の制御装置16が提供される。
【0083】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0084】
<第1の発明>
ワイヤ放電加工機(10)のワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得する張力情報取得装置(18)であって、ワイヤ放電加工機(10)は、前記ワイヤ電極(12)が巻かれたワイヤボビン(32)と、前記ワイヤボビン(32)から引き出されるワイヤ電極(12)を回転により送出方向に送る送りローラ(36A)と、前記送りローラ(36A)の回転を制御する送りモータ(42A)と、前記ワイヤボビン(32)にかかる回転トルク(Tq)を制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンション(FBT)を前記ワイヤ電極(12)に発生させるトルクモータ(40)とを備え、張力情報取得装置(18)は、前記トルクモータ(40)を制御することで、前記ワイヤ電極(12)の前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロになるまで前記回転トルク(Tq)を下げるバックテンション調整部(56)と、前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロのときの前記送りモータ(42A)の外乱推定値(VD)または出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得する取得部(58)と、を備える。
【0085】
これにより、ワイヤ電極(12)を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得することを可能とする張力情報取得装置(18)が提供される。
【0086】
前記取得部(58)は、前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロのときの前記外乱推定値(VD)または前記出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を推定する推定部(60)を有し、推定した張力(FT)を前記張力情報としてもよい。これにより、テンションセンサが検出する張力(FT)を参照しながら行っていた従来と同様に張力制御を実行できる。
【0087】
張力情報取得装置(18)は、前記張力情報に基づいて前記送りモータ(42A)を制御することで前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を調整する張力調整部(62)をさらに備えてもよい。これにより、ワイヤ電極(12)の張力(FT)を好適に調整することができる。
【0088】
前記送りローラ(36A)は、前記ワイヤ電極(12)の送出経路において加工対象物(W)の上流側に設けられ、前記ワイヤ放電加工機(10)は、前記送りローラ(36A)の回転にブレーキをかけるパウダーブレーキ(66)をさらに備え、前記張力情報取得装置(18)は、前記張力情報に基づいて前記パウダーブレーキ(66)を制御することで前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を調整する張力調整部(62)をさらに備えてもよい。これにより、ワイヤ電極(12)の張力(FT)を好適に調整することができる。
【0089】
<第2の発明>
ワイヤ放電加工機(10)であって、第1の発明に示す張力情報取得装置(18)を備える。
【0090】
これにより、ワイヤ電極(12)を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得することを可能とするワイヤ放電加工機(10)が提供される。
【0091】
ワイヤ放電加工機(10)は、少なくとも前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロである間に前記ワイヤボビン(32)と前記送りローラ(36A)との間の前記ワイヤ電極(12)を押圧することで前記ワイヤ電極(12)の経路長を伸長させるクッションローラ(64)をさらに備えてもよい。これにより、バックテンション(FBT)がゼロである間において、ワイヤボビン(32)と送りローラ(36A)との間でワイヤ電極(12)が撓むおそれが低減される。
【0092】
<第3の発明>
ワイヤ放電加工機(10)のワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得する張力情報取得方法であって、ワイヤ放電加工機(10)は、前記ワイヤ電極(12)が巻かれたワイヤボビン(32)と、前記ワイヤボビン(32)から引き出されるワイヤ電極(12)を回転により送出方向に送る送りローラ(36A)と、前記送りローラ(36A)の回転を制御する送りモータ(42A)と、前記ワイヤボビン(32)にかかる回転トルク(Tq)を制御することで前記送出方向とは反対方向のバックテンション(FBT)を前記ワイヤ電極(12)に発生させるトルクモータ(40)とを備え、張力情報取得方法は、前記ワイヤ電極(12)の前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロになるまで前記トルクモータ(40)の前記回転トルク(Tq)を下げるバックテンション調整ステップ(S1)と、前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロのときの前記送りモータ(42A)の外乱推定値(VD)または出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得する取得ステップ(S2)と、を含む。
【0093】
これにより、ワイヤ電極(12)を送るためのアクチュエータから得る情報に基づいてワイヤ電極(12)の張力(FT)を示す張力情報を取得することを可能とする張力情報取得方法が提供される。
【0094】
前記取得ステップ(S2)では、前記バックテンション(FBT)の大きさがゼロのときの前記外乱推定値(VD)または前記出力トルクに基づいて前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を推定することにより、推定した張力(FT)を前記張力情報として取得してもよい。これにより、テンションセンサが検出する張力(FT)を参照しながら行っていた従来と同様に張力制御を実行できる。
【0095】
張力情報取得方法は、前記張力情報に基づいて前記送りモータ(42A)を制御することで前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を調整する張力調整ステップ(S3)をさらに含んでもよい。これにより、ワイヤ電極(12)の張力(FT)を好適に調整することができる。
【0096】
前記送りローラ(36A)は、前記ワイヤ電極(12)の送出経路において加工対象物(W)の上流側に設けられ、前記ワイヤ放電加工機(10)は、前記送りローラ(36A)と前記送りモータ(42A)との間に設けられることで前記送りローラ(36A)の回転にブレーキをかけるパウダーブレーキ(66)をさらに備え、前記張力情報取得方法は、前記張力情報に基づいて前記パウダーブレーキ(66)を制御することで前記ワイヤ電極(12)の張力(FT)を調整する張力調整ステップ(S3)をさらに含んでもよい。これにより、ワイヤ電極(12)の張力(FT)を好適に調整することができる。