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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】粉砕ボールからの無機材料の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 17/18 20060101AFI20240730BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240730BHJP
   B02C 17/14 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
B02C17/18 Z
H01M10/0562
H01M10/052
B02C17/14 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022556912
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2021037335
(87)【国際公開番号】W WO2022080255
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020173895
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】菊地 昌晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 紀彦
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-024692(JP,A)
【文献】特開2013-215721(JP,A)
【文献】特開昭62-227456(JP,A)
【文献】特開2018-041671(JP,A)
【文献】特開2006-035074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 1/00- 7/18
B02C 15/00-17/24
H01M 10/0562
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料が付着した粉砕ボールからの前記無機材料の分離方法であって、
前記粉砕ボールを円筒形状の容器側面部に設けたメッシュ部材に衝突させる工程を備え
前記粉砕ボールを前記メッシュ部材に衝突させる工程は、前記粉砕ボールを前記メッシュ部材に吹き付ける工程を有する、分離方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分離方法において、
前記粉砕ボールを前記メッシュ部材に衝突させる工程は、少なくとも一部分が前記メッシュ部材によって囲まれた領域の内部で前記粉砕ボールを攪拌する工程を有する、分離方法。
【請求項3】
請求項2に記載の分離方法において、
前記メッシュ部材に形成された少なくとも1つの孔が、多角形状又は長尺状となっている、分離方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の分離方法において、
前記メッシュ部材は、前記メッシュ部材によって囲まれた前記領域に向けて突出した少なくとも1つの突起形状を有している、分離方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の分離方法において、
前記粉砕ボールを攪拌する工程は、前記メッシュ部材によって囲まれた前記領域の内部で直径が異なる少なくとも2種類の粉砕ボールを攪拌する工程を有する、分離方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の分離方法において、
前記メッシュ部材の少なくとも表面が、前記粉砕ボールを構成する材料のビッカーズ硬度より高いビッカーズ硬度を有する材料から構成されている、分離方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の分離方法において、
前記無機材料が無機固体電解質材料、正極活物質又は負極活物質である、分離方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の分離方法において、
前記無機材料が硫化物系無機固体電解質材料を含む、分離方法。
【請求項9】
請求項8に記載の分離方法において、
前記硫化物系無機固体電解質材料はリチウムイオン伝導性を有し、かつ構成元素としてLi、P及びSを含む、分離方法。
【請求項10】
請求項9に記載の分離方法において、
前記硫化物系無機固体電解質材料中の前記Pの含有量に対する前記Liの含有量のモル比Li/Pが1.0以上10.0以下であり、前記Pの含有量に対する前記Sの含有量のモル比S/Pが1.0以上10.0以下である、分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉砕ボールからの無機材料の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵等の電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。一方、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池(以下、全固体型リチウムイオン電池とも呼ぶ。)は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系固体電解質材料が知られている。
【0005】
特許文献1(特開2016-27545号公報)には、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.86°±1.00°の位置にピークを有し、Li2y+3PS(0.1≦y≦0.175)の組成を有することを特徴とする硫化物系固体電解質材料が記載されている。
【0006】
特許文献2(特開2018-140886号公報)には、五酸化バナジウムと、パラフィンワックスと、を遊星ボールミルによって粉砕して、粉砕物が付着した粉砕ボールを篩にかけることで、粉砕ボールから粉砕物を分離することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-27545号公報
【文献】特開2018-140886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば特許文献2に記載されているように、粉砕ボールに付着した無機材料を篩にかけることで、粉砕ボールから無機材料を分離する場合がある。しかしながら、この場合、粉砕ボールを篩に接触させる力が比較的弱いために、無機材料を粉砕ボールから分離する時間が比較的長くなり得る。
【0009】
本発明の目的の一例は、粉砕ボールに付着した無機材料を粉砕ボールから短時間で分離することにある。本発明の他の目的は、本明細書の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、
無機材料が付着した粉砕ボールからの前記無機材料の分離方法であって、
前記粉砕ボールをメッシュ部材に衝突させる工程を備える、分離方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記一態様によれば、粉砕ボールに付着した無機材料を粉砕ボールから短時間で分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1~2および比較例におけるボールミルの運動を説明するための模式図である。
図2】実施形態1に係る無機材料の製造方法の工程(C)で用いられる分離装置の上面模式図である。
図3図2のA-A´断面模式図である。
図4】実施形態1に係るメッシュ部材の一部分の拡大模式図である。
図5】実施形態2に係る分離装置の上面模式図である。
図6】実施形態2に係る分離装置の側面模式図である。
図7図5のB-B´断面模式図である。
図8】実施形態2に係るメッシュ部材の一部分の拡大模式図である。
図9】変形例に係る分離装置の模式図である。
図10】実施例1において粉砕ボールから分離された第2無機材料のSEM画像を示す図である。
図11】実施例2において粉砕ボールから分離された第2無機材料のSEM画像を示す図である。
図12】比較例において粉砕ボールから分離された第2無機材料のSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0014】
(実施形態1)
実施形態1に係る無機材料の製造方法は、原料となる第1無機材料を準備する工程(A)と、円筒容器と粉砕ボールからなるボールミルを用いて上記第1無機材料を粉砕することにより、上記第1無機材料を微粒子化して第2無機材料を得る工程(B)と、上記第2無機材料が付着した上記粉砕ボールから上記第2無機材料を分離する工程(C)と、を含み、上記工程(B)は、上記円筒容器内に上記第1無機材料および上記粉砕ボールを入れた後に、上記円筒容器を円筒軸を軸として回転させる工程(B1)と、上記円筒軸方向に上記第1無機材料が移動するように上記円筒容器を運動させる工程(B2)と、を含む。
【0015】
本実施形態に係る無機材料の製造方法によれば、凝集物の生成が抑制されるとともに、平均粒子径が小さい無機材料を得ることが可能である。また、第2無機材料を円筒容器の内壁よりも粉砕ボールに付着させることが可能であるとともに、粉砕ボールに付着した第2無機材料を回収することが可能である。
【0016】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
(工程(A))
はじめに、原料となる第1無機材料を準備する。第1無機材料は製造してもよいし、市販品を購入して用いてもよい。
第1無機材料は微粒子化が求められる材料であれば特に限定されないが、例えば、無機固体電解質材料、正極活物質、負極活物質等が挙げられる。
【0018】
無機固体電解質材料としては特に限定されないが、硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等を挙げることができる。これらの中でも、硫化物系無機固体電解質材料が好ましい。
また、無機固体電解質材料としては特に限定されないが、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられるものが挙げられる。
【0019】
硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiS-P材料、LiS-SiS材料、LiS-GeS材料、LiS-Al材料、LiS-SiS-LiPO材料、LiS-P-GeS材料、LiS-LiO-P-SiS材料、LiS-GeS-P-SiS材料、LiS-SnS-P-SiS材料、LiS-P-LiN材料、Li2+X-P材料、LiS-P-P材料等が挙げられる。
これらの中でも、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ広い電圧範囲で分解等を起こさない安定性を有する点から、LiS-P材料およびLiS-P-LiN材料が好ましい。ここで、例えば、LiS-P材料とは、少なくともLiS(硫化リチウム)とPとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味し、LiS-P-LiN材料とは、少なくともLiS(硫化リチウム)とPとLiNとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる無機材料を意味する。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
【0020】
上記酸化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiTi(PO、LiZr(PO、LiGe(PO等のNASICON型、(La0.5+xLi0.5-3x)TiO等のペロブスカイト型、LiO-P材料、LiO-P-LiN材料等が挙げられる。
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO、LiTaO、LiPO、LiPO4-x(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等が挙げられる。
さらに、これらの無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
【0021】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、構成元素として、Li、PおよびSを含んでいるものが好ましい。また、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、より一層小さい平均粒子径を得ることができる観点から、第1無機材料としての硫化物系無機固体電解質材料はガラス状態であることが好ましい。
【0022】
また、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性および取り扱い性等をより一層向上させる観点から、当該固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比(Li/P)が好ましくは1.0以上10.0以下であり、より好ましくは2.0以上5.0以下であり、さらに好ましくは2.5以上4.0以下であり、さらにより好ましくは2.8以上3.6以下であり、さらにより好ましくは3.0以上3.5以下であり、さらにより好ましくは3.1以上3.4以下、特に好ましくは3.1以上3.3以下である。また、上記Pの含有量に対する上記Sの含有量のモル比(S/P)が好ましくは1.0以上10.0以下であり、より好ましくは2.0以上6.0以下であり、さらに好ましくは3.0以上5.0以下であり、さらにより好ましくは3.5以上4.5以下であり、さらにより好ましくは3.8以上4.2以下、さらにより好ましくは3.9以上4.1以下、特に好ましくは4.0である。
ここで、本実施形態の固体電解質材料中のLi、P、およびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析またはX線光電子分光法により求めることができる。
【0023】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン電池に用いられることが好ましい。より具体的には、リチウムイオン電池における正極活物質層、負極活物質層、電解質層等に使用される。さらに、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池を構成する正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層等に好適に用いられ、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に特に好適に用いられる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。
【0024】
正極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウムイオン電池の正極層に使用可能な正極活物質が挙げられる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、固溶体酸化物(LiMnO-LiMO(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO)等の複合酸化物;CuS、Li-Cu-S化合物、TiS、FeS、MoS、V、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物、Li-Fe-S化合物等の硫化物系正極活物質;等が挙げられる。
【0025】
負極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウムイオン電池の負極層に使用可能な負極活物質が挙げられる。例えば、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、ガリウム合金、インジウム合金、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;リチウムチタン複合酸化物(例えばLiTi12);グラファイト系材料等が挙げられる。
【0026】
以下、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法について説明する。
ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料は、例えば、硫化リチウムおよび硫化リンを含む混合物を準備し、次いで、この混合物を機械的処理することにより、原料である硫化リチウムおよび硫化リンを化学反応させながらガラス化することにより得ることができる。
【0027】
硫化リチウムおよび硫化リンを含む混合物は、例えば、目的の硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように、各原料を所定のモル比で混合することにより得ることができる。
ここで、混合物中の各原料の混合比は、得られる硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように調整する。
各原料を混合する方法としては各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機等を用いて混合することができる。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0028】
原料として用いる硫化リチウムとしては特に限定されず、市販されている硫化リチウムを使用してもよいし、例えば、水酸化リチウムと硫化水素との反応により得られる硫化リチウムを使用してもよい。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リチウムを使用することが好ましい。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。硫化リチウムとしてはLiSが好ましい。
【0029】
原料として用いる硫化リンとしては特に限定されず、市販されている硫化リン(例えば、P、P、P、P等)を使用することができる。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リンを使用することが好ましい。硫化リンとしてはPが好ましい。
【0030】
原料としては窒化リチウムをさらに用いてもよい。ここで、窒化リチウム中の窒素はNとして系内に排出されるため、原料として窒化リチウムを利用することで、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料に対し、Li組成のみを増加させることが可能となる。
本実施形態に係る窒化リチウムとしては特に限定されず、市販されている窒化リチウム(例えば、LiN等)を使用してもよいし、例えば、金属リチウム(例えば、Li箔)と窒素ガスとの反応により得られる窒化リチウムを使用してもよい。高純度な固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない窒化リチウムを使用することが好ましい。
【0031】
つづいて、硫化リチウムおよび硫化リンを含む混合物を機械的処理することにより、原料である硫化リチウムおよび硫化リンを化学反応させながらガラス化して、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る。
ここで、機械的処理は、2種以上の無機化合物を機械的に衝突させることにより、化学反応させながらガラス化させることができるものであり、例えば、メカノケミカル処理等が挙げられる。
また、ガラス化工程において、水分や酸素を高いレベルで除去した環境下を実現しやすい観点から、機械的処理は、乾式でおこなうことが好ましく、乾式メカノケミカル処理であることがより好ましい。
メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料をより一層効率良く得ることができる。
【0032】
ここで、メカノケミカル処理とは、対象の組成物にせん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。メカノケミカル処理によるガラス化をおこなう装置としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール等が挙げられる。これらの中でも、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる観点から、ボールミルおよびビーズミルが好ましく、ボールミルが特に好ましい。また、連続生産性に優れている観点から、ロールミル;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール等が好ましい。
【0033】
また、メカノケミカル処理は非活性雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、硫化物系無機固体電解質材料と、水蒸気や酸素等との反応を抑制することができる。
また、上記非活性雰囲気下とは、真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が-30℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましく、-60℃以下であることが特に好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0034】
硫化リチウムおよび硫化リンを含む混合物を機械的処理するときの回転速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の種類や処理量によって適宜決定することができる。一般的には、回転速度が速いほど、ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほどガラスヘの転化率は高くなる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、原料由来の回折ピークが消失または低下していたら、混合物はガラス化され、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
【0035】
ここで、硫化リチウムおよび硫化リンを含む混合物をガラス化する工程では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~7MHzの測定条件における交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度が0.5×10-4S・cm-1以上、好ましくは1.0×10-4S・cm-1以上となるまで機械的処理をおこなうことが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れた硫化物系無機固体電解質材を得ることができる。
【0036】
(工程(B))
次いで、後述する図1に示す例と同様にして、円筒容器と粉砕ボールからなるボールミルを用いて、工程(A)で準備した第1無機材料を粉砕することにより、第1無機材料を微粒子化して第2無機材料を得る。
工程(B)は、円筒容器内に第1無機材料および粉砕ボールを入れた後に、円筒容器を円筒軸を軸として回転させる工程(B1)と、円筒軸方向に第1無機材料が移動するように円筒容器を運動させる工程(B2)と、を含む。
ここで、工程(B1)と工程(B2)とは同時におこなってもよいし、別々におこなってもよい。また、工程(B1)をおこないながら、工程(B2)を連続的におこなってもよいし、間欠的におこなってもよい。
【0037】
工程(B)では第1無機材料を乾式状態で粉砕することが好ましい。乾式状態で粉砕すると分散媒である有機溶媒や水が不要となり、無機材料と有機分子との反応や加水分解による劣化を防ぐことができ、さらには有機溶媒や水を分離する工程が不要となり、製造工程を簡略化することができる。
ここで、本実施形態において、円筒容器と粉砕ボールからなるボールミルは円筒軸を軸として回転するボールミルであり、遊星運動型のボールミルは含まれない。
【0038】
また、工程(B)は非活性雰囲気下でおこなうことが好ましい。これにより、無機材料と、水蒸気や酸素等との反応を抑制することができる。
また、上記非活性雰囲気下とは、真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下のことである。上記非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が-30℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましく、-60℃以下であることが特に好ましい。上記不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0039】
工程(B)における処理時間、温度、無機材料に加えられる重力加速度等の粉砕条件は、無機材料の種類や処理量によって適宜決定することができる。
【0040】
工程(B1)における円筒容器の回転速度は、無機材料の種類や処理量によって適宜決定することができるため特に限定されないが、例えば、30rpm以上200rpm以下であり、好ましくは60rpm以上120rpm以下である。
また、円筒容器の回転速度は臨界回転数以下であることが好ましい。
ここで、臨界回転数は粉砕ボールの遠心力が重力と釣り合い、円筒容器の内壁に粉砕ボールが密着して回転する速度である。臨界回転数(Nc)は、円筒容器の内径D[m]に比して粉砕ボールのボール径が無視できるとき、Nc[rpm]=42.3/√Dで表される。
【0041】
本実施形態に係る無機材料の製造方法において、工程(B2)では、例えば、円筒容器を円筒軸方向に往復運動させる、および/または円筒容器の少なくとも一方の端を円筒軸方向に対して垂直方向に往復運動させることによって、円筒軸方向に無機材料を移動させることができる。
【0042】
工程(B2)における往復運動の速度は、無機材料の種類や処理量によって適宜決定することができるため特に限定されないが、例えば、1cpm以上30cpm以下であり、好ましくは2cpm以上6cpm以下である。
【0043】
粉砕ボールの直径は、例えば0.1mm以上10.0mm以下であり、より一層小さい平均粒子径を得ることができる観点から、1.0mm以上3.0mm以下が好ましい。
【0044】
本実施形態に係る無機材料の製造方法において、粉砕ボールは、直径が異なる2種類以上の粉砕ボールを含むことが好ましく、直径が異なる3種類以上の粉砕ボールを含むことがより好ましい。これにより、平均粒子径がより一層小さい無機材料を得ることが可能となる。
また、本実施形態に係る無機材料の製造方法において、粉砕ボールは、直径が1.5mm以上2.5mm以下の範囲にある第1粉砕ボールと、直径が0.2mm以上1.5mm未満の範囲にある第2粉砕ボールと、を含むことが好ましく、第1粉砕ボールと第2粉砕ボールに加えて、直径が2.5mm超過10.0mm以下の範囲にある第3粉砕ボールをさらに含むことがより好ましい。これにより、平均粒子径がより一層小さい無機材料を得ることが可能となる。
【0045】
粉砕ボールの少なくとも表面は、セラミックス材料および金属材料から選択される少なくとも一種の材料により構成されていることが好ましい。
金属材料としては、例えば、遠心チルド鋼、SUS、CrメッキSUS、Crメッキ焼入れ鋼等が挙げられる。
また、本実施形態に係る粉砕ボールの少なくとも表面がセラミックス材料により構成されると、得られる無機材料に粉砕ボール由来の不要な金属成分が混入してしまうことを抑制することができ、純度がより一層高い無機材料を得ることが可能となる。
このようなセラミックス材料としては、例えば、安定化ジルコニア、アルミナ、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド等が挙げられる。
【0046】
本実施形態に係る無機材料の製造方法では、必要に応じて、工程(B)の前に、第1無機材料に対して分級する工程をさらにおこなってもよい。分級操作によって第1無機材料から粗粒子を除去することによって、工程(B)において、第1無機材料の微粒子化をより一層効果的におこなうことができる。上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
【0047】
本実施形態に係る無機材料の製造方法により得られる第2無機材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは0.01μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.10μm以上8.0μm以下、さらにより好ましくは0.10μm以上5.0μm以下である、さらにより好ましくは0.50μm以上4.0μm以下である。
第2無機材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共に、例えば全固体型リチウムイオン電池のエネルギー密度をより一層向上させることができる。
【0048】
(アニール処理工程)
本実施形態に係る無機材料の製造方法において、得られる無機材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上させる観点から、無機材料の少なくとも一部を結晶化するアニール処理工程をさらにおこなってもよい。アニール処理工程は工程(B)の前におこなってもよいし、工程(B)の後におこなってもよいが、より一層小さい平均粒子径を得ることができる観点から、工程(B)の後に行うのが好ましい。
アニール処理工程をおこなうことにより、ガラス状態の無機材料の少なくとも一部が結晶化して、ガラスセラミックス状態の無機材料とすることができる。こうすることにより、例えば、より一層リチウムイオン伝導性に優れた無機材料を得ることができる。
【0049】
ガラス状態の無機材料を加熱する際の温度としては十分に結晶化を進めることができる温度であれば特に限定されないが、例えば、無機材料の熱分解等を抑制しながら結晶化を効果的に進める観点から、220℃以上500℃以下の範囲内であることが好ましく、250℃以上400℃以下の範囲内であることが好ましく、260℃以上350℃以下の範囲内であることがより好ましく、270℃以上350℃以下の範囲内であることがさらに好ましい。
無機材料を加熱する時間は、所望のガラスセラミックス状態の無機材料が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは0.5時間以上8時間以下の範囲内でありより好ましくは1時間以上3時間以内の範囲内である。加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は無機材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0050】
また、無機材料の加熱は、例えば、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、無機材料の劣化(例えば、酸化)を防止することができる。
無機材料を加熱するときの不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が-30℃以下であることが好ましく、-50℃以下であることがより好ましく、-60℃以下であることが特に好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0051】
アニール処理工程では、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、ガラス状態の無機材料とは異なる回折ピークが観察されるまでアニール処理をおこなうことが好ましい。ここで、ガラス状態の無機材料とは異なる回折ピークが観察されることは、ガラス状態の無機材料の少なくとも一部が結晶化して、ガラスセラミックス状態になっていることを意味すると考えられる。
また、通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、ガラス状態の無機材料が有する回折ピークとは異なる新たな回折ピークが生成していたら、上記無機材料はアニール処理されて、ガラスセラミックス状態になっていると判断することができる。
【0052】
(工程(C))
図2は、実施形態1に係る無機材料の製造方法の工程(C)で用いられる分離装置30の上面模式図である。図3は、図2のA-A´断面模式図である。
【0053】
図2及び図3において、第1方向Xは、鉛直方向に直交する水平方向に平行な方向である。第2方向Yは、水平方向に水平な方向であり、第1方向Xに直交している。第3方向Zは、鉛直方向に平行な方向である。第1方向X、第2方向Y又は第3方向Zを示す矢印は、当該矢印の基端から先端に向かう方向が当該矢印によって示される方向の正方向であり、当該矢印の先端から基端に向かう方向が当該矢印によって示される方向の負方向であることを示している。第1方向X、第2方向Y又は第3方向Zを示す黒点付き白丸は、紙面の奥から手前に向かう方向が当該矢印によって示される方向の正方向であり、紙面の手前から奥に向かう方向が当該矢印によって示される方向の負方向であることを示している。第3方向Zの正方向は、鉛直方向の上方向となっており、第3方向Zの負方向は、鉛直方向の下方向となっている。後述する図における第1方向X、第2方向Y及び第3方向Zについても同様である。
【0054】
分離装置30は、容器310及び攪拌部320を備えている。容器310には、工程(B)後の少なくとも1つの粉砕ボール(図2及び図3において不図示)が収容されている。工程(B)後の粉砕ボールには、第2無機材料が付着している。攪拌部320は、容器310内に設けられている。攪拌部320は、軸部322及び複数の羽部324を有している。
【0055】
容器310は、上端が開いていて下端が閉じた円筒形状となっている。容器310の側面部は、メッシュ部材312となっている。メッシュ部材312は、例えば、SUS304等の金属からなっている。メッシュ部材312は、容器310の側面部の全体に設けられていてもよいし、又は容器310の側面部の一部分のみに設けられていてもよい。容器310の容積は、特に限定されないが、例えば、0.5L以上2.0L以下である。
【0056】
軸部322は、第3方向Zに平行に延伸している。複数の羽部324は、軸部322の側方に取り付けられている。第3方向Zから見て、複数の羽部324、具体的には4つの板状の羽部324が軸部322の周方向に沿って等間隔に配置されている。軸部322に取り付けられる羽部324の数および配置は、本実施形態に係る例に限定されない。軸部322が回転することで、複数の羽部324が回転して粉砕ボールが攪拌される。工程(B)と同様にして、容器310では、直径が異なる少なくとも2種類の粉砕ボールが攪拌されてもよい。軸部322の回転速度は、例えば、1500rpm以上3000rpm以下にすることができる。粉砕ボールが攪拌されることで、粉砕ボールは、メッシュ部材312に衝突する。このようにして、本実施形態では、粉砕ボールは、少なくとも一部分がメッシュ部材312によって囲まれた領域の内部で攪拌されるようになっている。
【0057】
本実施形態によれば、例えば粉砕ボールを篩にかける場合と比較して、粉砕ボールをメッシュ部材312に強い力で接触させることができる。したがって、粉砕ボールを篩にかける場合と比較して、粉砕ボールに付着した無機材料を粉砕ボールから短時間で分離することができる。
【0058】
図4は、実施形態1に係るメッシュ部材312の一部分の拡大模式図である。
【0059】
メッシュ部材312には、複数の孔314が例えばエキスパンドメタルによって格子状に配置されている。孔314の深さ方向に見て、孔314は、多角形状、具体的には菱形形状となっている。すなわち、孔314は、角部を有する形状となっている。この場合、孔314が円、楕円等の角部を有しない形状となっている場合と比較して、粉砕ボールが孔314の角部に衝突して、無機材料が粉砕ボールからより削ぎ落されやすくなり得る。なお、角部は、厳密に先鋭になっていなくてもよく、丸みを帯びていてもよい。また、孔314は、菱形形状と異なる多角形、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形形状であってもよい。或いは、孔314は、円、楕円等の角部を有しない形状となっていてもよい。
【0060】
孔314の縦幅WVは、粉砕ボールが孔314を通過しない限り特に限定されないが、例えば、1.0mm以上3.0mm以下にすることができる。孔314の横幅WHは、粉砕ボールが孔314を通過しない限り特に限定されないが、例えば、1.0mm以上3.0mm以下にすることができる。また、メッシュ部材312の厚さTは、特に限定されないが、例えば、0.50mm以上1.00mm以下にすることができる。孔314のサイズは、容器310の位置に応じて異なっていてもよく、例えば、容器310の上部における孔314のサイズと、容器310の下部における孔314のサイズと、が異なっていてもよい。
【0061】
メッシュ部材312の少なくとも表面は、粉砕ボールを構成する材料のビッカーズ硬度より高いビッカーズ硬度を有する材料からなるようにすることができる。例えば、粉砕ボールがZrOからなる場合、メッシュ部材312は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)によって被覆されたSUS304等のステンレス鋼からなるようにすることができる。仮に、メッシュ部材312の表面のビッカーズ硬度が粉砕ボールのビッカーズ硬度より低い場合、粉砕ボールがメッシュ部材312に衝突することで、メッシュ部材312の表面の一部が研削されて、第2無機材料に不純物が入り込み得る。これに対して、メッシュ部材312の表面のビッカーズ硬度が粉砕ボールのビッカーズ硬度より高い場合、第2無機材料への不純物の混入を抑制することができる。なお、メッシュ部材312の表面は、粉砕ボールを構成する材料のビッカーズ硬度より低いビッカーズ硬度を有する材料からなっていてもよい。
【0062】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る分離装置30の上面模式図である。図6は、実施形態2に係る分離装置30の側面模式図である。図7は、図5のB-B´断面模式図である。図8は、実施形態2に係るメッシュ部材312の一部分の拡大模式図である。実施形態2に係る分離装置30は、以下の点を除いて、実施形態1に係る分離装置30と同様である。
【0063】
本実施形態では、第3方向Zから見て、2つの羽部324が軸部322の周方向に沿って等間隔に配置されている。なお、羽部324の数及び配置は本実施形態に係る例に限定されない。また、羽部324は、棒状となっている。この場合、羽部324が板状である場合と比較して、羽部324の摩耗による第2無機材料への不純物の混入が抑制され得る。
【0064】
メッシュ部材312には、複数の孔314が例えばパンチングメタルによってヘリボーン状に配置されている。孔314の深さ方向に見て、孔314は、長尺状となっている。この場合、孔314が円等の長尺状でない形状となっている場合と比較して、孔の長手方向の端部に粉砕ボールが衝突して、無機材料が粉砕ボールからより削ぎ落されやすくなり得る。
【0065】
孔314の長手方向の長さLLは、粉砕ボールが孔314を通過しない限り特に限定されないが、例えば、5.0mm以上15.0mm以下にすることができる。孔314の短手方向の長さLSは、粉砕ボールが孔314を通過しない限り特に限定されないが、例えば、0.50mm以上1.50mm以下にすることができる。また、メッシュ部材312の厚さTは、特に限定されないが、例えば、0.50mm以上1.50mm以下にすることができる。
【0066】
メッシュ部材312は、メッシュ部材312によって囲まれた領域に向けて突出した少なくとも1つの突起形状316を有している。突起形状316の突起高さは、例えば、0.50mm以上1.50mm以下である。本実施形態では、複数の突起形状316が容器310の内側面に設けられている。なお、容器310に設けられる突起形状316の数は1つのみであってもよい。本実施形態では、第3方向Zに並ぶ一群の突起形状316と、上記一群の突起形状316と互い違いに第3方向Zに並ぶ他の一群の突起形状316と、が水平方向に沿って交互に並んでいる。なお、複数の突起形状316のレイアウトは、本実施形態に係る例に限定されない。突起形状316が設けられている場合、突起形状316が設けられていない場合と比較して、容器310内で攪拌される粉砕ボールの動きを複雑にし得、粉砕ボールから第2無機材料をより分離しやすくなり得る。なお、突起形状316は設けられていなくてもよい。
【0067】
(変形例)
図9は、変形例に係る分離装置30の模式図である。変形例に係る分離装置30は、以下の点を除いて、実施形態1又は2に係る分離装置30と同様である。
【0068】
分離装置30は、メッシュ部材312に向けて粉砕ボール(不図示)を吹き付ける吹き付け機330を備えている。吹き付け機330は、例えば、ショットブラスト機である。本変形例においても、粉砕ボールを篩にかける場合と比較して、粉砕ボールをメッシュ部材312に強い力で接触させることができる。したがって、粉砕ボールを篩上で水平方向に振盪させる場合と比較して、粉砕ボールに付着した無機材料を粉砕ボールから短時間で分離することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態及び変形例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態又は変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。例えば、実施形態1及び2並びに変形例において、工程(C)は、粉砕ボールをメッシュ部材に衝突させる工程を含んでいる。粉砕ボールをメッシュ部材に衝突させる工程は、実施形態1及び2並びに変形例に係る無機材料の製造方法のみならず、単に、無機材料を粉砕ボールから分離するために用いられてもよい。すなわち、本明細書によれば、無機材料が付着した粉砕ボールからの当該無機材料の分離方法も提供される。また、第1無機材料を粉砕する方法は、実施形態1に係る工程(B)の方法に限定されない。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
[1]測定方法
はじめに、以下の実施例および比較例における測定方法を説明する。
【0072】
(1)粒度分布
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて、レーザー回折法により、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料の粒度分布を測定した。測定結果から、硫化物系無機固体電解質材料について、重量基準の累積分布における50%累積時の粒径(d50、平均粒子径)を求めた。
【0073】
(2)凝集物の確認
ボールミルを用いてガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料の粉砕を所定時間おこなった後のボールミルの内部の状態を観察し、凝集物の有無を調べた。
【0074】
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)画像の確認
粉砕ボールから分離された硫化物系無機固体電解質材料をSEMで観察し、凝集物の有無を調べた。
【0075】
<実施例1>
(1)第1無機材料の作製
第1無機材料であるガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を以下の手順で作製した。
原料には、LiS(古河機械金属社製、純度99.9%)、P(関東化学社製)およびLiN(古河機械金属社製)をそれぞれ使用した。
はじめに、グローブボックス内で、LiS粉末とP粉末とLiN粉末(LiS:P:LiN=71.1:23.7:5.3(モル%))の混合をおこなうことにより、原料無機組成物を調製した。
つづいて、グローブボックス内のアルミナ製の円筒容器(内容積5L)の内部に、原料無機組成物と直径25mmのZrOボール6200gとを投入し、円筒容器を密閉した。
次いで、ボールミル機にアルミナ製の円筒容器を取り付け、100rpmで500時間メカノケミカル処理し、原料無機組成物のガラス化をおこなった。次いで、得られた無機材料を、目開きが20μmのふるいに掛けることによって、第1無機材料であるガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li1012)を得た。第1無機材料であるガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d50は4.5μm、d10は2.0μm、d90は10μmであった。
【0076】
(2)第2無機材料の作製
次いで、グローブボックス内のアルミナ製の円筒容器(内容積5L)の内部に、第1無機材料であるガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料300gと、直径2.0mmのZrOボール6200gと、直径1.0mmのZrOボール1200gと、直径5.0mmのZrOボール1200gとを投入し、円筒容器を密閉した。次いで、ボールミル機にアルミナ製の円筒容器を取り付け、50時間粉砕処理し、第1無機材料の微粒子化をおこない、第2無機材料を得た。ここで、図1に示すように、円筒容器100は回転台101の上に置き、円筒軸Xを軸として100rpmで回転させるとともに、円筒容器100を上下に搖動させることによって円筒容器100の両端を円筒軸X方向に対して垂直方向に搖動回数3cpmで往復運動させた。
【0077】
得られた第2無機材料であるガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d50は2.0μm、d10は1.0μm、d90は3.0μmであった。
また、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料(Li1012)の粉砕が終わった後のボールミルの内部には、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料の凝集物は観察されなかった。
【0078】
(3)第2無機材料の分離
分離装置として、タイガー魔法瓶株式会社製の精米機 RSF-A100を準備した。実施例1に係る精米機は、実施形態1に係る分離装置30と同様の構成を有しており、容器と、攪拌部と、を備えている。
【0079】
容器は、上端が開いていて下端が閉じた内容積1.0Lの円筒形状となっている。図4に示した例と同様にして、容器の側面部は、エキスパンドメタルによって容器の下部において縦幅が2.9mm、横幅が2.1mm、容器の上部において縦幅が2.8mm、横幅が2.5mmの菱形形状の複数の孔が格子状に配置された厚さ0.8mmのSUS304のメッシュ部材となっている。
【0080】
図2及び図3に示した例と同様にして、攪拌部は、軸部と、上記軸部の周方向に沿って等間隔に配置された板状の4つの羽部と、を有している。
【0081】
上記(2)第2無機材料の作製後における、直径2.0mmのZrOボールと、直径1.0mmのZrOボールと、直径5.0mmのZrOボールと、のうち500gを精米機の容器内に入れ、軸部を2000rpmで回転させて、ZrOボールを30秒間攪拌した。上記(2)第2無機材料の作製前におけるZrOボールの総質量と、上記(2)第2無機材料の作製後におけるZrOボールの総質量と、の比較より、ZrOボール1gあたり0.106gの第2無機材料がZrOボールに付着していると見積もられた。攪拌後、ZrOボールから分離された第2無機材料が52.7g回収された。つまり、第2無機材料の回収率は99.4%であった。
【0082】
図10は、実施例1において粉砕ボールから分離された第2無機材料のSEM画像を示す図である。図10の上段の画像は、5000倍の倍率の画像であり、図10の下段の画像は、1000倍の倍率の画像である。図10に示すように、凝集物はほとんど観測されなかった。
【0083】
<実施例2>
(1)第1無機材料の作製及び(2)第2無機材料の作製
実施例2に係る(1)第1無機材料の作製及び(2)第2無機材料の作製は、実施例1に係る(1)第1無機材料の作製及び(2)第2無機材料の作製と同様とした。
【0084】
(3)第2無機材料の分離
分離装置として、アイリスオーヤマ株式会社製の精米機 RCI-B5-Wを準備した。実施例2に係る精米機は、実施形態2に係る分離装置30と同様の構成を有しており、容器と、攪拌部と、を備えている。
【0085】
容器は、上端が開いていて下端が閉じた内容積1.0Lの円筒形状となっている。図8に示した例と同様にして、容器の側面部は、パンチングメタルによって長手方向の長さが約9mm、短手方向の長さが約1mmの長尺状の複数の孔がヘリボーン状に配置された厚さ0.8mmのSUS304のメッシュ部材となっている。図5図8に示した例と同様にして、容器の内壁には、鉛直方向に並ぶ3つの突起形状と、上記3つの突起形状に対して互い違いに鉛直方向に並ぶ4つの突起形状と、が水平方向に沿って交互に並んで設けられている。突起形状の突起高さは約1mmである。
【0086】
図5図7に示した例と同様にして、攪拌部は、軸部と、上記軸部の周方向に沿って等間隔に配置された棒状の2つの羽部と、を有している。
【0087】
上記(2)第2無機材料の作製後における、直径2.0mmのZrOボールと、直径1.0mmのZrOボールと、直径5.0mmのZrOボールと、のうち400gを精米機の容器内に入れ、軸部を2000rpmで回転させて、ZrOボールを30秒間攪拌した。上記(2)第2無機材料の作製前におけるZrOボールの総質量と、上記(2)第2無機材料の作製後におけるZrOボールの総質量と、の比較より、ZrOボール1gあたり0.106gの第2無機材料がZrOボールに付着していると見積もられた。攪拌後、ZrOボールから分離された第2無機材料が42.2g回収された。つまり、第2無機材料の回収率は99.5%であった。
【0088】
図11は、実施例2において粉砕ボールから分離された第2無機材料のSEM画像を示す図である。図11の上段の画像は、5000倍の倍率の画像であり、図11の下段の画像は、1000倍の倍率の画像である。図11に示すように、凝集物はほとんど観測されなかった。また、実施例2において観測された凝集物は、実施例1において観測された凝集物よりも少なかった。
【0089】
<比較例>
(1)第1無機材料の作製及び(2)第2無機材料の作製
比較例に係る(1)第1無機材料の作製及び(2)第2無機材料の作製は、実施例1に係る(1)第1無機材料の作製及び(2)第2無機材料の作製と同様とした。
【0090】
(3)第2無機材料の分離
上記(2)第2無機材料の作製後における、直径2.0mmのZrOボールと、直径1.0mmのZrOボールと、直径5.0mmのZrOボールと、のうち250gを篩の上に載せて、ZrOボールを目開き250μmの篩の上で水平方向に振とうした。第2無機材料の回収率が70%に達するまでに38時間を要した。
【0091】
図12は、比較例において粉砕ボールから分離された第2無機材料のSEM画像を示す図である。図12の上段の画像は、5000倍の倍率の画像であり、図12の下段の画像は、1000倍の倍率の画像である。実施例1及び2のSEM画像と、比較例のSEM画像と、を比較すると、粉砕ボールをメッシュ部材に衝突させた場合であっても、粉砕ボールを篩にかけた場合とほぼ同じ程度に、凝集物の発生を抑えることができるといえる。
【0092】
実施例1及び2と、比較例と、の比較から、粉砕ボールをメッシュ部材に衝突させた場合、粉砕ボールを篩にかけた場合と比較して、粉砕ボールに付着した無機材料を粉砕ボールから短時間で分離することができるといえる。また、粉砕ボールをメッシュ部材に衝突させた場合であっても、粉砕ボールを篩にかけた場合とほぼ同じ程度に、凝集物の発生を抑えることができるといえる。
【0093】
この出願は、2020年10月15日に出願された日本出願特願2020-173895号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0094】
30 分離装置
100 円筒容器
101 回転台
310 容器
312 メッシュ部材
314 孔
316 突起形状
320 攪拌部
322 軸部
324 羽部
X 円筒軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12