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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電池制御装置及び電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20240730BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240730BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022571569
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047651
(87)【国際公開番号】W WO2022138745
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020212976
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛文
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117755(JP,A)
【文献】特開2012-85452(JP,A)
【文献】特開2011-61947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の使用履歴、容量維持率、及び内部抵抗上昇率の少なくとも何れか1つに基づいて前記電池の第1の劣化状態を推定すると共に、前記電池の種別ごとの電池内部の構成要素の第2の劣化状態を推定する電池劣化状態推定部と、
前記電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧に関する情報を保存する記憶部と、
前記情報に基づいて前記電池の充電可能電力の上限電圧を推定する上限電圧推定部と、を有し、
前記上限電圧推定部は、
前記第1の劣化状態及び前記第2の劣化状態に基づいて前記情報を更新する
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池制御装置において、
前記第1の劣化状態は、前記容量維持率及び前記内部抵抗上昇率で表され、
前記第2の劣化状態は、前記電池の正極劣化率、負極劣化率、及び前記電池の副反応による劣化率で表される
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電池制御装置において、
前記電池劣化状態推定部は、
少なくとも前記容量維持率が閾値より小であり、前記正極劣化率が閾値より大かつ前記副反応による劣化率が前記負極劣化率より大である場合に、前記電池の電解質の副反応による劣化率を前記負極劣化率で除算した商に基づく指標値を算出して前記上限電圧推定部へ送信し、
前記上限電圧推定部は、
前記指標値に基づいて前記情報を更新する
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の電池制御装置において、
前記情報は、
前記電池の温度ごとに、第1の電圧閾値未満の前記上限電圧が対応付けられている領域を前記電池の電解液中の金属イオンの析出を抑制可能な第1の領域とし、前記第1の電圧閾値を超過する前記上限電圧が対応付けられている領域を前記金属イオンの析出を抑制不可能な第2の領域とし、前記第1の電圧閾値と等しい前記上限電圧が対応付けられている領域を前記金属イオンの析出を抑制可能な閾値領域とするマップであり、
前記上限電圧推定部は、
前記第1の領域を拡大しかつ前記第2の領域を縮小する、又は、前記第1の領域を縮小しかつ前記第2の領域を拡大するように前記マップを更新する
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧推定部は、
前記第1の電圧閾値と、前記電池の電解質の副反応による劣化率を前記電池の負極劣化率で除算した商に基づく指標値と、の積を第2の電圧閾値として算出し、
前記マップにおいて、前記電池の温度ごとに、前記第2の電圧閾値未満の前記上限電圧が対応付けてられている領域を前記金属イオンの析出を抑制可能な新たな前記第1の領域とし、前記第2の電圧閾値を超過する前記上限電圧が対応付けられている領域を前記金属イオンの析出を抑制不可能な新たな前記第2の領域とし、前記第2の電圧閾値と等しい前記上限電圧が対応付けられている領域を前記金属イオンの析出を抑制可能な新たな前記閾値領域とするように前記マップを更新する
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の電池制御装置において、
前記上限電圧推定部は、
更新した前記情報に基づいて前記電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧を推定し設定する
ことを特徴とする電池制御装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の電池制御装置と、
前記電池が複数接続された組電池と、を有し、
前記電池制御装置は、更新された前記情報に基づいて前記電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧を設定して、前記電池及び前記組電池を制御する、
ことを特徴とする電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池制御装置及び電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV:Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)等に搭載される電池システムは、一般的に、直列もしくは並列に複数接続された二次電池と、様々な電気部品から構成される。電気部品には、二次電池と電流負荷を電気的に接続してオンオフ制御するリレーや、二次電池の電流や電圧を測定するセンサ類、二次電池の充放電を制御する電池制御装置などが含まれる。
【0003】
電池制御装置は、二次電池を適切な範囲で使用するために、二次電池の電圧に対して制限値を設定し、その制限された電圧の範囲内において、二次電池の充放電制御を行う。このような制御により、二次電池の過充電、もしくは過放電を防止して、二次電池の劣化を抑制している。
【0004】
例えば二次電池の上限電圧の制御方式に関して、特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1では、電圧の移動平均を各平均時間毎に算出し、各移動平均時間毎に予め定められた上限電圧、及び温度からなる上限電圧マップに基づいて、当該平均時間毎に上限電圧を設定し、各平均時間毎に設定された上限電圧の最小値を上限電圧として設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/158182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池内部の劣化状態に応じて、適切に上限電圧を設定することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の従来技術の問題を解決するため、本発明による電池制御装置は、電池の使用履歴、容量維持率、及び内部抵抗上昇率の少なくとも何れか1つに基づいて前記電池の第1の劣化状態を推定すると共に、前記電池の種別ごとの電池内部の構成要素の第2の劣化状態を推定する電池劣化状態推定部と、前記電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧に関する情報を保存する記憶部と、前記情報に基づいて前記電池の充電可能電力の上限電圧を推定する上限電圧推定部と、を有し、前記上限電圧推定部は、前記第1の劣化状態及び前記第2の劣化状態に基づいて前記情報を更新することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二次電池の劣化状態に応じて上限電圧を可変制御することで、安全かつ二次電池の充電性能を最大限に引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電池システムの機能ブロック図。
図2】実施形態に係る単電池制御部の機能ブロック図。
図3】実施形態に係る組電池制御部の機能ブロック図。
図4】実施形態に係る上限電圧演算部の機能ブロック図。
図5】実施形態に係る電池劣化状態推定部による診断処理を示すフローチャート。
図6】実施形態に係る上限電圧マップ及び上限電圧マップの更新を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に関して、図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、ハイブリッド自動車の電源を構成する電池システムに対して本発明を適用した場合を説明する。但し、以下に説明する実施形態の構成はこれに限らずプラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの乗用車、ハイブリッドトラックなどの産業用車両の電源を構成する蓄電装置の蓄電器制御回路などにも適用できる。
【0011】
また、以下の実施形態では、リチウムイオン電池を採用した場合を例に挙げて説明するが、充放電可能な二次電池であれば、鉛電池、ニッケル水素電池、多価カチオン電池などにも用いることができる。更に、以下の実施形態では、複数の単電池を直列に接続して組電池を構成しているが、複数の単電池を並列接続したものを複数個直列に接続した組電池で構成したシステムや、直列接続した複数の単電池を複数個並列に接続した組電池で構成したシステムにも適用できる。
【0012】
図1は、実施形態に係る電池システム100の機能ブロック図である。電池システム100は、リレー300,310を介してインバータ400に接続される。電池システム100は、組電池110、単電池管理部120、電流検知部130、電圧検知部140、組電池制御部150、及び記憶部180を含んで構成される。
【0013】
組電池110は、複数の単電池111から構成される。単電池管理部120は、単電池111の状態を監視する。電流検知部130は、電池システム100に流れる電流を検知する。電圧検知部140は、組電池110の総電圧を検知する。組電池制御部150は、組電池110の状態を検知し、状態の管理等も行う。
【0014】
組電池110は、電気エネルギーの蓄積及び放出(直流電力の充放電)が可能な複数の単電池111を電気的に直列に接続して構成されている。各単電池111には、例えば出力電圧が3.0~4.2V(平均出力電圧:3.6V)のリチウムイオン電池が用いられる。なお、これ以外の電圧仕様のものでも構わない。
【0015】
組電池110を構成する単電池111は、状態の管理及び制御を実施する上で、所定の単位数にグループ分けされている。グループ分けされた単電池111は、電気的に直列に接続され、単電池群112a,112bを構成している。単電池群112を構成する単電池111の個数は、全ての単電池群112において同数でもよいし、単電池群112毎に単電池111の個数が異なっていてもよい。
【0016】
単電池管理部120は、組電池110を構成する単電池111の状態を監視する。単電池管理部120は、単電池群112毎に設けられた単電池制御部121を備える。図1では、単電池群112aと112bに対応して、単電池制御部121aと121bがそれぞれ設けられている。単電池制御部121は、単電池群112を構成する単電池111の状態を監視及び制御する。
【0017】
本実施形態では、説明を簡略化するために、4個の単電池111を電気的に直列接続して単電池群112aと112bを構成し、単電池群112aと112bを更に電気的に直列接続して合計8個の単電池111を備える組電池110とした。
【0018】
組電池制御部150には、単電池管理部120から出力される単電池111の電池電圧や温度の計測値、電流検知部130からの電流値、電圧検知部140から出力される組電池110の総電圧値、記憶部180に格納された単電池111の電池特性情報などが入力される。
【0019】
また、単電池管理部120は、単電池111が過充電もしくは過放電であるかの診断を行う機能や、単電池管理部120に通信エラーなどが発生した場合に異常信号を出力する機能を有しており、それらの診断結果や異常信号も組電池制御部150に入力される。更に、上位の制御装置である車両制御部200からも信号が入力される。
【0020】
組電池制御部150は、入力された情報、及び記憶部180に予め記憶されている電流制限値や単電池111の電池特性に基づいて、組電池110の充放電を適切に制御するための演算を行う。例えば、各単電池111に対する充放電電力の制限値の演算や、各単電池111の充電状態(SOC:State Of Charge)及び劣化状態(内部抵抗増加率(SOHR(State Of Health based on Resistance))及び容量維持率(SOHC(State Of Health based on Capacity)))の演算や、各単電池111の電圧均等化制御を行うための演算などを実行する。組電池制御部150は、これらの演算結果や、その演算結果に基づく指令を、単電池管理部120や車両制御部200に出力する。
【0021】
記憶部180は、組電池110、単電池111、及び単電池群112の電池特性に関する情報を格納する。なお、本実施形態では、記憶部180は組電池制御部150又は単電池管理部120の外部に設置されている構成としたが、組電池制御部150又は単電池管理部120が記憶部を備える構成とし、これに上記情報を格納してもよい。
【0022】
また、記憶部180は、組電池に対して充放電された時の電流負荷、もしくは電力負荷情報とその時の温度、及びSOCに滞在した時間を組合せたマップからなる車両運転履歴や、車両停止時に温度及びSOCに滞在した時間を組合せたマップからなる車両停止履歴を情報として格納する。
【0023】
組電池制御部150と単電池管理部120は、フォトカプラに代表される絶縁素子170及び信号通信手段160を介して信号を送受信する。絶縁素子170を設けるのは、組電池制御部150と単電池管理部120は、動作電源が異なるためである。すなわち、単電池管理部120は、組電池110から電力をうけて動作するのに対して、組電池制御部150は、車載補機用のバッテリ(例えば14V系バッテリ)を電源として用いている。絶縁素子170は、単電池管理部120を構成する回路基板に実装してもよいし、組電池制御部150を構成する回路基板に実装してもよい。システム構成によっては、絶縁素子170を省略することもできる。
【0024】
組電池制御部150と、単電池管理部120を構成する単電池制御部121a及び121bとの間の通信手段について説明する。単電池制御部121a及び121bは、それぞれが監視する単電池群112a及び112bの電位の高い順にしたがって直列に接続されている。
【0025】
組電池制御部150が単電池管理部120に送信した信号は、絶縁素子170及び信号通信手段160を介して単電池制御部121aに入力される。単電池制御部121aの出力は信号通信手段160を介して単電池制御部121bに入力され、最下位の単電池制御部121bの出力は絶縁素子170及び信号通信手段160を介して組電池制御部150へと伝送される。
【0026】
本実施形態では、単電池制御部121aと単電池制御部121bの間は絶縁素子170を介していないが、絶縁素子170を介して信号を送受信することもできる。
【0027】
車両制御部200は、組電池制御部150が送信する情報を用いて、リレー300と310を介して電池システム100と接続されるインバータ400を制御する。車両走行中には、電池システム100はインバータ400と接続され、組電池110が蓄えているエネルギーを用いて、モータジェネレータ410を駆動する。
【0028】
電池システム100を搭載した車両システムが始動して走行する場合には、車両制御部200の管理のもと、電池システム100はインバータ400に接続され、組電池110が蓄えているエネルギーを用いてモータジェネレータ410を駆動し、回生時はモータジェネレータ410の発電電力により組電池110が充電される。充電によって組電池110に蓄えられたエネルギーは、次回の車両走行時に利用されるか、車両内外の電装品等を動作させるためにも利用される。
【0029】
図2は、実施形態に係る単電池制御部121の機能ブロック図である。単電池制御部121は、電圧検出回路122、制御回路123、信号入出力回路124、及び温度検知部125を含んで構成される。電圧検出回路122は、各単電池111の端子間電圧を測定する。制御回路123は、電圧検出回路122及び温度検知部125から測定結果を受け取り、信号入出力回路124を介して組電池制御部150に送信する。なお、単電池制御部121に一般的に実装される、自己放電や消費電流ばらつき等に伴い発生する単電池111間の電圧やSOCのばらつきを均等化する回路構成は、周知のものであるとして記載を省略した。
【0030】
図2における単電池制御部121が備える温度検知部125は、単電池群112の温度を測定する機能を有する。温度検知部125は、単電池群112全体として1つの温度を測定し、単電池群112を構成する単電池111の温度代表値としてその温度を取り扱う。温度検知部125が測定した温度は、単電池111、単電池群112、又は組電池110の状態を検知するための各種演算に用いられる。図2はこれを前提とするため、単電池制御部121に1つの温度検知部125を設けた。単電池111毎に温度検知部125を設けて単電池111毎に温度を測定し、単電池111毎の温度に基づいて各種演算を実行することもできるが、この場合は温度検知部125の数が多くなる分、単電池制御部121の構成が複雑となる。
【0031】
図2では、簡易的に温度検知部125を示した。実際は温度測定対象に温度センサが設置され、設置した温度センサが温度情報を電圧として出力し、これを測定した結果が制御回路123を介して信号入出力回路124に送信され、信号入出力回路124が単電池制御部121の外に測定結果を出力する。この一連の流れを実現する機能が単電池制御部121に温度検知部125として実装され、温度情報(電圧)の測定には電圧検出回路122を用いることもできる。
【0032】
図3は、実施形態に係る組電池制御部150の機能ブロック図である。組電池制御部150は、電池制御装置に相当する機能を担う部分である。組電池制御部150は、車両走行中に検出された各単電池111の温度、電流値、及び電圧値をもとに、組電池110における各単電池111の状態や各単電池111に入出力可能な電力を決定する部分である。組電池制御部150は、その1つの機能構成要素として、各単電池111の充電電力を制限するための充電可能電力(充電電力制限値)の演算を行う機能を有する。
【0033】
なお、組電池制御部150は充電可能電力の演算機能以外にも、組電池110の制御に必要な各種機能、例えば各単電池111の放電制御を行う機能や、各単電池111の電圧均等化制御を行う機能などを有しているが、これらは周知の機能であり、また本発明とは直接関係がないため、以下では詳細な説明を省略する。
【0034】
図3に示すように、組電池制御部150は、その機能として、電池状態検知部151、上限電圧演算部152、及び充電可能電力演算部153の各機能ブロックを有する。組電池制御部150は、これらの機能ブロックにより、電流検知部130が検知した組電池110の電流や、電圧検知部140が検知した組電池110の電圧及び温度に基づいて、各単電池111の充電可能電力を演算する。
【0035】
なお、上記では組電池制御部150が組電池110の充電可能電力を演算することとして説明したが、複数の単電池111をまとめて充電可能電力を算出してもよい。例えば、単電池群112a,112bごとに算出したり、単電池管理部120が検知する単電池111毎の電圧をもとに算出したりすることができる。これらの場合でも、組電池110と同様の処理で充電可能電力を算出できる。また、各単電池111の充電可能電力は、同様の処理によって算出できる。そのため以下では、充電可能電力の算出対象を単に「電池」と称して、組電池制御部150における充電可能電力の演算機能を説明する。
【0036】
電池状態検知部151は、組電池制御部150に入力される電池の電流、電圧、及び温度の情報をもとに、電池のSOC、SOHC、及びSOHRを演算する。なお、SOC、SOHC、及びSOHRの演算方法については、公知であるものとして説明を省略する。
【0037】
上限電圧演算部152は、電池の電圧及び温度の時系列データ、SOHC、ならびにSOHRを入力とし、これらに基づいて電池の電圧履歴を演算する。そして上限電圧演算部152は、電池の電圧履歴に基づいて、電池の充電可能電力の上限電圧を演算して出力する。なお、上限電圧演算部152による上限電圧の具体的な演算方法については後述する。
【0038】
充電可能電力演算部153は、電池状態検知部151が演算した電池のSOC、SOHC、及びSOHRと、組電池制御部150に入力される電池の温度と、上限電圧演算部152が演算した電池の上限電圧をもとに、電池の充電可能電力を演算して出力する。ここで充電可能電力は、充電時に電池に流すことができる充電可能電流と、充電可能電流が通電したときの電池の電圧との積によって演算される。充電可能電流は、電池の電圧が上限電圧に至るまでに流すことができる電流値と、電池システム100を構成する構成部材(リレー、ヒューズなど)によって決まる電流制限値とのうち、小さい方の電流値として算出できる。
【0039】
続いて、上限電圧演算部152による上限電圧の具体的な演算方法について、図4図7を参照して説明する。
【0040】
図4は、実施形態に係る上限電圧演算部152の機能ブロック図である。本実施形態において、上限電圧演算部152は、電池劣化状態推定部1521及び上限電圧推定部1522を含んで構成される。
【0041】
電池劣化状態推定部1521は、SOHC、SOHR、ならびに記憶部180に保存されている車両運転履歴及び車両停車履歴から電池の劣化状態を推定し、上限電圧マップMを更新する比率αを演算する。上限電圧マップMは、Li析出を抑制可能な各単電池111の充電可能電力の上限電圧の範囲を示す。上限電圧マップMの説明は、後述する。
【0042】
上限電圧推定部1522は、記憶部180に保存されている温度と上限電圧の情報を含んだ上限電圧マップMに対して、電池劣化状態推定部1521で演算した上限電圧マップMを更新する比率αに基づいて、上限電圧マップMを更新する。
【0043】
具体的には上限電圧推定部1522は、上限電圧マップMに保存されている温度Tごとの上限電圧Vが、単電池111のLi析出を抑制できる上限電圧であるか否かを判定する閾値V_thを、電池劣化状態推定部1521で演算した比率αを乗算して更新し、更新後の閾値V_thを以って上限電圧マップMを更新する。
【0044】
上限電圧推定部1522は、更新した上限電圧マップMを参照し、温度に応じた電池の上限電圧を推定する。
【0045】
図5は、実施形態に係る電池劣化状態推定部1521による診断処理を示すフローチャートである。ステップS1では、電池劣化状態推定部1521は、例えば車両制御部200から車両起動時の信号を受信した後、電池劣化状態の診断を開始する。
【0046】
次にステップS2では、電池劣化状態推定部1521は、電池状態検知部151で演算したSOHR及びSOHCを取得する。ここでSOHRのみ取得し、SOHRとSOHCの相関関係から間接的に算出したSOHCを用いてもよい。又はSOHCのみ取得し、SOHRとSOHCの相関関係から間接的に算出したSOHRを用いてもよい。
【0047】
次にステップS3では、電池劣化状態推定部1521は、電池状態検知部151で取得したSOHR及びSOHCと、閾値SOHR_th及び閾値SOHC_thとをそれぞれ比較する。そして、SOHRが閾値SOHR_thより高く、かつSOHCが閾値SOHC_thより低い場合(ステップS3Yes(電池が劣化状態にある))にステップS4に処理を移し、それ以外の場合(ステップS3No(電池が劣化状態にない))の場合はステップS7に処理を移して本診断処理を終了する。
【0048】
なおステップS3では、電池劣化状態推定部1521は、SOHR及びSOHCの値と、閾値SOHR_th及び閾値SOHC_thとの比較に限らず、SOHCと、閾値SOHC_thとの比較のみとしてもよい。この場合、電池劣化状態推定部1521は、SOHCが閾値SOHC_thより低い場合(ステップS3Yes)にステップS4に処理を移し、それ以外の場合(ステップS3No)の場合はステップS7に処理を移すとする。
【0049】
またステップS3では、電池劣化状態推定部1521は、記憶部180に記憶されている電池の使用履歴(又は車両運転履歴及び車両停車履歴の少なくとも1つ)、SOHR、及びSOHRの少なくとも何れか1つに基づいて電池の劣化状態を判定してもよい。
【0050】
ステップS4では、電池劣化状態推定部1521は、電池システム100のライフモデルに基づいて、記憶部180に保存されている車両運転履歴及び車両停止履歴から電池の電池内部の劣化状態を推定し、正極劣化率Cp、負極劣化率Cn及び副反応による劣化率Csrを算出する。そして電池劣化状態推定部1521は、ステップS5に処理を移す。
【0051】
ライフモデルは電池内部の各構成要素の劣化率を定義する。ライフモデルは電池種別によって異なるが、例えばLiイオン電池などの電解質を用いる二次電池である場合、ライフモデルによって、正極劣化率Cp、負極劣化率Cn、及び副反応による劣化率Csrという3つの劣化指標が定義される。正極劣化率Cpは、新品時からの電池の正極の劣化状況を表し、当該劣化率時点での正極容量を示す。負極劣化率Cnは、新品時からの電池の負極の劣化状況を表し、当該劣化率時点での負極容量を示す。副反応による劣化率Csrは、新品時からの電池の副反応による電解液中の金属イオン(本実施形態ではリチウム)の析出状況を表し、当該劣化率時点でのリチウムの損失量を示す。正極劣化率Cp、負極劣化率Cn、及び副反応による劣化率Csrは、例えば車両運転履歴及び車両停止履歴から推定される電池の使用状況(全体時間に対する走行時間割合や停車時間割合など)から、所定の算出方法により推定される。
【0052】
ステップS5では、電池劣化状態推定部1521は、ステップS4で算出した、各劣化率と各劣化率の閾値を比較する。具体的には、電池劣化状態推定部1521は、正極劣化率Cpが閾値Cp_thより高く、副反応による劣化率Csrが負極劣化率Cnより高い場合(ステップS5Yes)にステップS6に処理を移し、それ以外の場合(ステップS5No)はステップS7に処理を移して診断処理を終了する。
【0053】
ステップS6では、電池劣化状態推定部1521は、式(1)に従って、負極劣化率Cnと副反応による劣化率Csrから上限電圧マップMを更新する比率αを演算し、演算した比率αの値を上限電圧推定部1522に送信する。そして電池劣化状態推定部1521は、ステップS7に処理を移して診断処理を終了する。
α=k×(Csr/Cn)・・・(1)
ただし、kは所定の定数
【0054】
図6は、実施形態に係る上限電圧マップM及び上限電圧マップMの更新を示す図である。図6では、説明の簡単のため、上限電圧マップMにおいて、横軸をV=1から5までの上限電圧、縦軸をT=1から5までの温度とし、温度T及び上限電圧Vに対応する領域R(T,V)(T=1~5、V=1~5)の5次のマトリックスで表しているが、横軸及び縦軸の粒度は更に細かくてもよい。図6は、各領域R(T,V)が“OK”、“閾値”、及び“NG”の何れかであることを示している。
【0055】
領域R(T,V)が“OK”とは、当該上限電圧Vが閾値V_th未満であり、当該領域R(T,V)が電池の電解液中の金属イオンの析出を抑制しつつ充電可能な上限電圧の第1の領域であることを意味する。領域R(T,V)が“閾値”とは、当該上限電圧Vが閾値V_thと等しく、電池の電解液中の金属イオンの析出を抑制しつつ充電可能な上限電圧の閾値領域であることを意味する。領域R(T,V)が“NG”とは、当該上限電圧Vが閾値V_thを超過し、充電の際に電池の電解液中の金属イオンの析出させてしまう上限電圧の第2の領域であることを意味する。第1の領域と第2の領域は、閾値領域を境界として上限電圧マップMを二分している。
【0056】
以下、更新前の上限電圧Vの閾値をV_th_1、更新後の上限電圧Vの閾値をV_th_2とする。
【0057】
図6の上方図に示すように、領域R(1,1)、R(1,2)、R(1,3)、R(1,4)、R(2,1)、R(2,2)、R(2,3)、R(3,1)、R(3,2)、R(4,1)、R(4,2)、R(4,3)、R(5,1)、R(5,2)、R(5,3)、R(5,4)の各上限電圧が閾値V_th_1未満である。よって各温度Tにおいてこれらの上限電圧が“OK”であり、電池の上限電圧の第1の領域を定める。
【0058】
また図6の上方図に示すように、領域R(1,5)、R(2,4)、R(3,3)、R(4,4)、R(5,5)の各上限電圧が閾値V_th_1と等しい。よって各温度Tにおいてこれらの上限電圧が“閾値”であり、電池の上限電圧の閾値領域を定める。
【0059】
また図6の上方図に示すように、領域R(2,5)、R(3,4)、R(3,5)、R(4,5)の各上限電圧が閾値V_th_1を超過する。よって各温度Tにおいてこれらの上限電圧が“NG”であり、電池の上限電圧の第2の領域を定める。
【0060】
次に上限電圧推定部1522は、図5に示す診断処理によって決定された比率αを用いて、式(2)に基づいて、各温度Tの上限電圧の閾値V_th_1を閾値V_th_2へ変更する。
V_th_2=V_th_1×α・・・(2)
【0061】
例えばα>1であると、V_th_2>V_th_1となる。上限電圧推定部1522は、この更新された閾値V_th_2を以って、各領域R(T,V)を再評価する。
【0062】
すると、図6の下方図に示すように、領域R(1,1)、R(1,2)、R(1,3)、R(1,4)、R(2,1)、R(2,2)、R(2,3)、R(2,4)、R(3,1)、R(3,2)、R(3,3)、R(4,1)、R(4,2)、R(4,3)、R(4,4)、R(5,1)、R(5,2)、R(5,3)、R(5,4)の各上限電圧が閾値V_th_2未満となる。よって各温度Tにおいてこれらの上限電圧が“OK”であり、電池の上限電圧の第1の範囲が拡大されていることになる。
【0063】
また図6の下方図に示すように、領域R(1,5)、R(2,5)、R(3,4)、R(4,5)、R(5,5)の各上限電圧が閾値V_th_2と等しい。よって各温度Tにおいてこれらの上限電圧が“閾値”であり、電池の上限電圧の閾値領域を定める。
【0064】
また図6の下方図に示すように、領域R(3,5)の上限電圧が閾値V_th_2を超過する。よって温度T=3においてこの上限電圧が“NG”であり、電池の上限電圧の第2の領域が縮小されることになる。
【0065】
なおα<1であると、V_th_2<V_th_1となる。この更新後の閾値V_th_2を以って、各領域R(T,V)の上限電圧を再評価すると、第1の領域が縮小され、第2の領域が拡大される。
【0066】
そして上限電圧推定部1522は、更新された上限電圧マップMの第1の領域から、現在の電池の温度Tに対応する上限電圧を推定し、推定した上限電圧を充電可能電力演算部153に設定する。
【0067】
このように上限電圧の閾値V_thが変更されることで、上限電圧マップMにおける電池の上限電圧の範囲が増減される。
【0068】
なお上記実施形態で述べた上限電圧マップMは、温度に対して電池の上限電圧の範囲が対応付けられた情報の一例であり、マップに限らず、テーブルや関数などでもよい。
【0069】
以上のように、上記実施形態によれば、二次電池の劣化状態に応じて、上限電圧を可変に制御することで、安全かつ、二次電池の充電特性を最大限引き出す制御をすることができる。
【0070】
上記実施形態では、電池内部の劣化状態に応じて、電池の電解液中の金属イオンの析出を防止しつつより大きな電力量を充電できるように、電池の充電可能電力の上限電圧を可変制御する。電池は、上限電圧を高くするほど金属イオンが析出し易いが、金属イオンの析出を防止できる上限電圧は、電池の内部の劣化状態によって異なる。電池の内部の劣化状態に応じて、金属イオンの析出を防止しつつ電池の上限電圧を高くすることで、電池の劣化が進行しても充電可能な電力量を確保し、電池を搭載する車両の回生可能な電力量の減少及び燃費低下を抑制できる。
【0071】
また上記実施形態では、電池の使用履歴、容量維持率、及び内部抵抗上昇率の少なくとも何れか1つに基づく第1の劣化状態と、ライフモデルに基づく電池の種別ごとの電池内部の構成要素の第2の劣化状態(電池の正極劣化率、負極劣化率、及び電池の副反応による劣化率)とに基づいて電池の充電可能電力の上限電圧を可変制御する。第2の劣化状態は、記憶部180に保存されている車両運転履歴及び車両停止履歴から推定される。よって電池の使用履歴、容量維持率、及び内部抵抗上昇率という一般的なデータを利用した簡易な処理で、電池の電解液中の金属イオンの析出という電池内部の劣化の程度を推定できる。
【0072】
また上記実施形態では、少なくとも容量維持率、正極劣化率、及び副反応による劣化率が所定条件を充足する場合に、電池の電解質の副反応による劣化率を負極劣化率で除算した商に基づく指標値を算出する。そしてこの指標値に基づいて、電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧に関する情報を更新する。よって定量的に電池内部の劣化状況を把握する指標に基づいて、電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧に関する情報を適切に更新し、より最適な上限電圧を推定できるので、電池のライフスパンにわたって電池の性能を最大限に利用することができる。
【0073】
また上記実施形態では、電池の温度ごとに、電池の電解液中の金属イオンの析出を抑制可能な上限電圧の第1の領域、抑制可能な上限電圧の閾値となる閾値領域、及び抑制不可能な上限電圧の第2の領域を表すマップを、第1の領域を拡大しかつ第2の領域を縮小、又は、第1の領域を縮小しかつ第2の領域を拡大するように更新する。よって現在の電池の温度に対応する上限電圧を、第1の領域及び閾値領域で定められる範囲から選択して設定できるので、電池の電解液中の金属イオンの析出抑制を考慮しつつ充電性能を安全に最大限まで引き出すことができる。
【0074】
また上記実施形態では、更新前の電圧閾値と、電池の電解質の副反応による劣化率を負極劣化率で除算した商に基づく指標値との積を、更新後の第2の電圧閾値として算出し、第2の電圧閾値と各上限電圧との比較結果に基づいて電池の上限電圧のマップを更新する。よって簡易な処理で、電池の劣化状態に応じて電池の上限電圧のマップを更新できる。
【0075】
また上記実施形態では、電池内部の劣化状況に応じて更新した電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧に関する情報に基づいて、電池の上限電圧を推定し設定する。よってこの情報を参照するという簡易な処理で、電池内部の劣化状況に応じた電池の上限電圧を推定し設定できる。
【0076】
また上記実施形態では、電池制御装置と、電池が複数接続された組電池と、を有する電池システムにおいて、電池内部の劣化状況に応じて更新した電池の温度ごとの充電可能電力の上限電圧に関する情報を参照するという簡易な処理で、電池内部の劣化状況に応じた電池の上限電圧を推定し設定できる。
【0077】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明は上記実施形態の構成に何ら限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、各実施形態の処理における各ステップは、同一結果を得ることができる限りにおいて適宜順序を入れ替えて実行されてもよい。
【符号の説明】
【0078】
100:電池システム、110:組電池、111:単電池、112,112a,112b:単電池群、120:単電池管理部、121:単電池制御部、121a,121b:単電池制御部、122:電圧検出回路、123:制御回路、124:信号入出力回路、125:温度検知部、130:電流検知部、140:電圧検知部、150:組電池制御部(電池制御装置)、151:電池状態検知部、152:上限電圧演算部、153:充電可能電力演算部、180:記憶部、1521:電池劣化状態推定部、1522:上限電圧推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6