(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】構造体とその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20240730BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/58 508P
E04B1/58 505P
(21)【出願番号】P 2022576999
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2021042645
(87)【国際公開番号】W WO2022158103
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021008170
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シング ラヴィ
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特許第5518346(JP,B2)
【文献】特開平04-080444(JP,A)
【文献】特開2005-061081(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108222280(CN,A)
【文献】特開2019-143422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/30
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱、
前記柱上の接合部、および
前記接合部に連結される少なくとも一つの鉄骨梁を備え、
前記接合部は、
コンクリート、
前記コンクリートを囲む第1の補強材、および
前記コンクリートを囲み、前記第1の補強材の上に位置する第2の補強材を有し、
前記第1の補強材と前記第2の補強材の各々は、
前記コンクリートを囲むバンドプレート、および
前記バンドプレートに囲まれ、前記バンドプレートと前記鉄骨梁に接合され、主面が鉛直方向に平行に配置される少なくとも一つのリブプレートを有し、
前記第1の補強材と前記第2の補強材の少なくとも一方はさらに、前記鉛直方向に垂直な主面を有する少なくとも一つの保護プレートを有し、
前記保護プレートは、前記リブプレートが前記保護プレートと前記鉄骨梁の間に配置されるように前記リブプレートに接合される構造体。
【請求項2】
前記少なくとも一つのリブプレートは、第1から第4のリブプレートを含み、
前記第1のリブプレートと前記第2のリブプレートは互いに対向し、
前記第3のリブプレートと前記第4のリブプレートは互いに対向し、
前記第1から第4のリブプレートは、前記第1のリブプレートと前記第2のリブプレートを結ぶ直線が前記第3のリブプレートと前記第4のリブプレートを結ぶ直線と交差するように配置される、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第1の補強材と前記第2の補強材において、前記保護プレートは、前記バンドプレートから離隔する、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記保護プレートは、鉄を含む板状部材である、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記リブプレートの高さと前記保護プレートの厚さの和は、前記バンドプレートの高さよりも大きい、請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
一対の柱を構築すること、
鉄骨梁と前記鉄骨梁の両端に連結される一対の接合部を有する梁ユニットを、前記一対の接合部がそれぞれ前記一対の柱上に位置するように前記一対の柱に取り付けること、および
前記
一対の接合部にコンクリートを打設して前記鉄骨梁と前記一対の柱を固定することを含み、
前記一対の接合部の各々は、
前記コンクリートを囲むように構成される第1の補強材、および
前記コンクリートを囲むように構成され、前記第1の補強材の上に位置する第2の補強材を有し、
前記第1の補強材と前記第2の補強材の各々は、
前記コンクリートを囲むように構成されるバンドプレート、および
前記バンドプレートに囲まれ、前記バンドプレートと前記鉄骨梁に接合され、主面が鉛直方向に平行になるように配置される少なくとも一つのリブプレートを有し、
前記第1の補強材と前記第2の補強材の少なくとも一方はさらに、前記鉛直方向に垂直な主面を有する少なくとも一つの保護プレートを有し、
前記保護プレートは、前記リブプレートが前記保護プレートと前記鉄骨梁の間に配置されるように前記リブプレートに接合される、構造体の施工方法。
【請求項7】
柱、前記柱上の接合部、および前記接合部に連結される梁ブラケットをそれぞれ有する一対の柱ユニットを構築すること、および
前記一対の柱ユニットの前記梁ブラケットに鉄骨梁を接続することを含み、
前記一対の接合部の各々は、
コンクリート、
前記コンクリートを囲む第1の補強材、および
前記コンクリートを囲み、前記第1の補強材の上に位置する第2の補強材を有し、
前記第1の補強材と前記第2の補強材の各々は、
前記コンクリートを囲むバンドプレート、および
前記バンドプレートに囲まれ、前記バンドプレートと前記梁ブラケットに接合され、主面が鉛直方向に平行に配置される少なくとも一つのリブプレートを有し、
前記第1の補強材と前記第2の補強材の少なくとも一方はさらに、前記鉛直方向に垂直な主面を有する少なくとも一つの保護プレートを有し、
前記保護プレートは、前記リブプレートが前記保護プレートと前記梁ブラケットの間に配置されるように前記リブプレートに接合される、構造体の施工方法。
【請求項8】
前記少なくとも一つのリブプレートは、第1から第4のリブプレートを含み、
前記第1のリブプレートと前記第2のリブプレートは互いに対向し、
前記第3のリブプレートと前記第4のリブプレートは互いに対向し、
前記第1から第4のリブプレートは、前記第1のリブプレートと前記第2のリブプレートを結ぶ直線が前記第3のリブプレートと前記第4のリブプレートを結ぶ直線と交差するように配置される、請求項
6または7に記載の施工方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つの保護プレートは第1から第4の保護プレートを含み、
前記第1から第4の保護プレートは、それぞれ前記第1から第4のリブプレートに接合される、請求項
8に記載の施工方法。
【請求項10】
前記第1の補強材と前記第2の補強材において、前記保護プレートは、前記バンドプレートから離隔する、請求項
6または7に記載の施工方法。
【請求項11】
前記保護プレートは、鉄を含む板状部材である、請求項
6または7に記載の施工方法。
【請求項12】
前記リブプレートの高さと前記保護プレートの厚さの和は、前記バンドプレートの高さよりも大きい、請求項
6または7に記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、建築物に例示される構造体、およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、倉庫などの物流施設、事務所ビルやショッピングセンターに例示される商業施設、病院やスポーツセンターなどの広い室内空間が要求される構造体(建築物)において、柱に鉄筋コンクリートを用い、柱と柱を連結する梁として鉄筋コンクリートを含まない鉄骨を用いることが多い。このような柱-梁構造はRC柱-S梁ハイブリッド構造(以下、単にハイブリッド構造と記す)と呼ばれる。ハイブリッド構造では梁にコンクリートが含まれないため、梁全体を鉄筋コンクリートで施工する構法や鉄骨の梁の両端を鉄筋コンクリートで覆う構法と比較し、より高い天井高さと大きなスパン長さを確保できるだけでなく、短い工期で構造体を低コストで施工することができる。例えば特許文献1には、ハイブリッド構造を有する構造体の柱と梁を連結する接合部にバンドプレートを設けることで、高い耐震性能を有する構造体を提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、ハイブリッド構造を有する構造体の施工時に接合部や柱にひび割れが発生することを抑制するための構造、およびこの構造が適用された構造体を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、当該構造体の施工方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、構造体である。この構造体は、柱、柱上の接合部、および接合部に連結される少なくとも一つの鉄骨梁を備える。接合部は、コンクリート、コンクリートを囲む第1の補強材、およびコンクリートを囲み、第1の補強材の上に位置する第2の補強材を有する。第1の補強材と第2の補強材の各々は、バンドプレートと少なくとも一つのリブプレートを有する。バンドプレートはコンクリートを囲む。少なくとも一つのリブプレートは、バンドプレートに囲まれ、バンドプレートと鉄骨梁に接合され、主面が鉛直方向に平行に配置される。第1の補強材と第2の補強材の少なくとも一方はさらに、鉛直方向に垂直な主面を有する少なくとも一つの保護プレートを有する。保護プレートは、リブプレートが保護プレートと鉄骨梁の間に配置されるようにリブプレートに接合される。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、構造体の施工方法である。この施工方法は、一対の柱を構築すること、鉄骨梁と鉄骨梁の両端に連結される一対の接合部を有する梁ユニットを、一対の接合部がそれぞれ一対の柱上に位置するように一対の柱に取り付けること、および接合部にコンクリートを打設して鉄骨梁と一対の柱を固定することを含む。一対の接合部の各々は、第1の補強材と第2の補強材を有する。第1の補強材は、上記コンクリートを囲むように構成される。第2の補強材は、上記コンクリートを囲むように構成され、第1の補強材の上に位置する。第1の補強材と第2の補強材の各々は、バンドプレート、および少なくとも一つのリブプレートを有する。バンドプレートは上記コンクリートを囲むように構成される。少なくとも一つのリブプレートは、バンドプレートに囲まれ、バンドプレートと鉄骨梁に接合され、主面が鉛直方向に平行になるように配置される。第1の補強材と第2の補強材の少なくとも一方はさらに、鉛直方向に垂直な主面を有する少なくとも一つの保護プレートを有する。保護プレートは、リブプレートが保護プレートと鉄骨梁の間に配置されるようにリブプレートに接合される。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、構造体の施工方法である。この施工方法は、柱、柱上の接合部、および接合部に連結される梁ブラケットをそれぞれ有する一対の柱ユニットを構築すること、および一対の柱ユニットの梁ブラケットに鉄骨梁を接続することを含む。一対の接合部の各々は、コンクリート、コンクリートを囲む第1の補強材、およびコンクリートを囲み、第1の補強材の上に位置する第2の補強材を有する。第1の補強材と第2の補強材の各々は、バンドプレートと少なくとも一つのリブプレートを有する。バンドプレートはコンクリートを囲む。少なくとも一つのリブプレートは、バンドプレートに囲まれ、バンドプレートと梁ブラケットに接合され、主面が鉛直方向に平行に配置される。第1の補強材と第2の補強材の少なくとも一方はさらに、鉛直方向に垂直な主面を有する少なくとも一つの保護プレートを有する。保護プレートは、リブプレートが保護プレートと梁ブラケットの間に配置されるようにリブプレートに接合される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る実施形態により、ハイブリッド構造を有する構造体の施工時に接合部や柱にひび割れが発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的斜視図。
【
図2】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図3】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図4A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図4B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的側面図。
【
図5A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図5B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的端面図。
【
図6A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図6B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図6C】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図6D】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図6E】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図7A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図7B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的側面図。
【
図8A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図8B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的端面図。
【
図9A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図9B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図10】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図11A】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図11B】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図12】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的端面図。
【
図13】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図14】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図15A】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的側面図。
【
図15B】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的側面図。
【
図16】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図17】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図18A】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的側面図。
【
図18B】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的側面図。
【
図19】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図20】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図21】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的斜視図。
【
図22A】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的斜視図。
【
図22B】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的上面図。
【
図23】本発明の実施形態の一つである構造体の一部の模式的側面図。
【
図24A】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式側面図。
【
図24B】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。符号が付された要素の一部を表記する際には、符号に小文字のアルファベットが添えられる。同一または類似の構造を有する複数の要素をそれぞれ区別して表記する際には、符号の後にハイフンと自然数を付す。同一または類似の構造を有する複数の要素を纏めて表記する際には、符号のみを用いる。
【0012】
以下、「ある構造体が他の構造体から露出するという」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。
【0013】
以下、コンクリートとは、原料の一つであるセメントが水と反応して生成する水和物が硬化し、流動性を示さないものを指す。一方、セメントと水を含む混合物が完全に硬化せずに流動性を有する状態はレディーミクストコンクリート(生コンクリートとも呼ばれる)と記す。
【0014】
<第1実施形態>
本実施形態では、本発明の実施形態の一つである構造体100の構造について説明する。以下に示す図面においては、便宜上、水平面をxy平面とし、xy平面に垂直な鉛直方向がz軸であるとして説明を行う。
【0015】
1.構造体の構造
構造体100の全体の模式的斜視図を
図1に示す。
図1に示すように、構造体100は、鉛直方向(z方向)に延伸する複数の柱110、柱110に連結され、水平方向に延伸する複数の梁120、および梁120の上に設けられる床スラブ170を基本的な構成として備える。
図1では、見やすさを考慮し、床スラブ170は一部のみが示されている。
【0016】
2.柱
柱110の数は4以上であれば特に制約はなく、構造体100の大きさや形状に応じ、その数や配置を適宜決定すればよい。柱110は図示されない杭の上に設けられ、基礎梁と接続される。柱110の形状(xy平面における端面形状)も任意であり、四角形、円形、楕円形などから適宜選択すればよい。柱110の長さも構造体100の大きさ、各階層の高さに応じて適宜設計される。
【0017】
図2と
図3に梁120と柱110の接合部140の斜視図を示す。
図2と
図3は、それぞれ接合部140を上と下から観察した斜視図である。これらの図に示すように、柱110は鉛直方向に延伸する複数の柱主筋112、柱主筋を囲むように水平方向に延伸する複数の帯筋114などの鉄骨ユニットを備え、この鉄骨ユニットが図示しないコンクリートに埋め込まれる。柱主筋112は鉛直方向において接合部140を貫通する。
【0018】
3.梁
各梁120は一対の柱110と接続される。構造体100に設けられる梁120の少なくとも一つは、鉄骨梁である。すなわち、構造体100に設けられる梁120の少なくとも一つは鉄骨122を有する鉄骨梁であり、その両端部が柱110上の接合部140を介して柱110に接合される。図示しないが、梁120のうち、一部は全体が鉄筋コンクリートで構成された鉄筋コンクリート梁(RC梁)でもよく、あるいは鉄骨、および鉄骨の両端を覆う鉄筋コンクリートで構成された梁(ハイブリッド梁)でもよい。例えば、スパンの短い梁120(
図1では、y方向に延伸する梁120)にRC梁またはハイブリッド梁を用い、スパンの長い梁120(
図1ではx方向に延伸する梁)に鉄骨梁を用いてもよい。鉄骨梁はRC梁やハイブリッド梁よりも軽量であるため、スパンの長い梁120に鉄骨梁を用いることで、構造体100内部に広い室内空間を確保しつつ、構造体100に高い強度を付与することができる。以下、梁120が鉄骨梁である場合について説明する。
【0019】
梁120を構成する鉄骨122は鉄を含み、その端面形状はH型形状、I型形状、T型形状、L型形状などでもよい。鉄骨122は、長手方向に垂直な端面が円、または正方形や長方形を含む多角形を有する鋼管でもよい。典型的には、
図2や
図3に示すように、端面(xy平面に垂直な端面)がH形形状を有するH鋼を用いることができる。H鋼を用いる場合には、ウェブを挟む二つのフランジが水平面と平行になるように鉄骨122が配置される。各梁120の鉄骨122は、少なくとも一部が接合部140に挿入されるように配置される。図示しないが、鉄骨122は組み合わされた複数の斜材が上弦材と下弦材で挟まれた構造を有するトラス梁でもよい。
【0020】
4.床スラブ
床スラブ170は各層の床面を構成する鉄筋コンクリートであり、梁120の上に設けられる。床スラブ170は各階層に設けてもよく、あるいは一部の階層には設けなくてもよい。詳細な説明は割愛するが、床スラブ170は、床面を形成するデッキプレート、およびデッキプレート上に設けられる鉄筋トラスやスラブ筋を含む鉄筋ユニットを含み、デッキプレート上に鉄筋ユニットを埋め込むようにコンクリートを打設することで施工することができる。
【0021】
5.接合部
5-1.全体構造
接合部140は、梁120と柱110および梁120同士を連結する機能を有するユニットであり、柱110上に配置される。接合部140は、構造体100の構造や柱110の配置位置に応じて二つ、三つ、四つ、またはそれ以上の梁120を互いに連結する。
図2と
図3では、四つの梁120を一つの柱110に連結するための接合部140が示されている。この場合、四つの梁120をそれぞれ一つの鉄骨122で構成してもよく、あるいは
図2と
図3に示すように、互いに対向する二つの梁120を接合部140を貫通する一つの鉄骨122-1で構成し、鉄骨122-1に交差する二つの鉄骨122-2と122-3を鉄骨122-1と溶接および/またはボルト留めなどによって固定してもよい。
【0022】
接合部140は、後述するように柱主筋112の一部と鉄骨122の一部を埋め込むコンクリート142を含み、さらにこのコンクリート142の上部と下部をそれぞれ囲むように構成される補強材150、160の少なくとも一つを含む。接合部140は補強材150、160の両者を有してもよい。補強材150、160はコンクリート142と接し、接合部140の外面の一部を構成する。
【0023】
接合部140は、さらに任意の構成として、コンクリート142の側面を覆うように設けられる囲み板144を含んでもよい。囲み板144は鉄などの金属を含む板状の部材であり、コンクリート142、鉄骨122、および補強材150と160の少なくとも一方と接するように設けられる。囲み板144を設けることで、コンクリート142を拘束し接合部140の耐力を向上させることができ、また、施工時に型枠を省略することができ、施工性が向上する。
【0024】
5-2.補強材
(1)補強材160
図4Aと
図4Bに接合部140の上面図と側面図を、
図5Aに補強材160の一部の斜視図を、
図4Aの鎖線A-A´に沿った端面の模式図を
図5Bに示す。理解の促進のため、
図4Aでは囲み板144や補強材150は示されておらず、
図4Bでは囲み板144は一部だけが示されている。また、
図5Aではコンクリート142は図示されていない。これらの図に示すように、補強材160は、コンクリート142を囲むバンドプレート162、バンドプレート162に囲まれ、バンドプレート162に接合される少なくとも一つのリブプレート166、リブプレート166に接合される少なくとも一つの保護プレート164を含む。
【0025】
バンドプレート162は環状形状を有し、鉄などの金属を含む。接合部140に設けられるコンクリート142の少なくとも一部は、バンドプレート162の環状形状が形成する空間内に位置する。バンドプレート162は、接合部140においてせん断抵抗部材として機能し、構造体100の荷重に起因する接合部140や柱110に含まれるコンクリートのひび割れを防止する。また、鉄骨122の梁120から柱110に力が伝達される際に、バンドプレート162が支圧力を負担する。これにより、柱110のひび割れを抑制することができ、コンクリート142の支圧破壊を防止することができる。
【0026】
リブプレート166は、鉄などの金属を含む板状の部材である。リブプレート166は、少なくとも一部がコンクリート142内に埋め込まれるように配置される(
図5B)。リブプレート166はバンドプレート162に囲まれ、バンドプレート162の内側の側面に溶接またはボルト留めによって接合される(
図4A、
図5A)。リブプレート166はさらに、その主面166aが鉛直方向に平行となり、バンドプレート162との接合位置からバンドプレート162の内側に向けて延伸するように配置される(
図5A)。リブプレート166は一つの鉄骨122と重なり、溶接またはボルト留めによって鉄骨122に固定される。鉄骨122がH鋼またはトラス梁である場合、リブプレート166はそれぞれ下側のフランジと下弦材に固定される。これにより、バンドプレート162がリブプレート166を介して鉄骨122と一体化されるため、リブプレート166がバンドプレート162の面外せん断抵抗部材として機能する。すなわち、リブプレート166は、コンクリート142を面外方向において拘束しているバンドプレート162を拘束し、バンドプレート162の孕みを抑制することによって、鉄骨122と柱110との間の分離を防止することができる。
【0027】
少なくとも一つのリブプレート166は複数のリブプレート166を含んでもよく、例えば柱110に接合される梁120と同数のリブプレート166を含むことができる。例えば四つのリブプレート166を設ける場合、互いに対向する一対のリブプレート166を結ぶ直線が互いに対向する他の一対のリブプレート166を結ぶ直線と交差するよう、リブプレート166を対応する鉄骨122に重ねて接合すればよい。
【0028】
上述したように、補強材160はさらに少なくとも一つの保護プレート164を備える(
図3、
図4Aから
図5B)。保護プレート164も鉄などの金属を含む板状部材であり、その主面164aが水平方向と平行になるよう、リブプレート166に溶接および/またはボルト留めによって接合される。したがって、リブプレート166の主面166aと保護プレート164の主面164aは互いに直交する。保護プレート164もバンドプレート162に囲まれ、保護プレート164と鉄骨122の間にリブプレート166が位置するように配置される。保護プレート164は接合部140の最も下に位置するため、柱110と接し、かつ、コンクリート142に埋め込まれる(
図4B、
図5B)。
【0029】
少なくとも一つの保護プレート164も複数の保護プレート164を含むことができる。この場合、複数のリブプレート166の各々に一つの保護プレート164を設ければよい。リブプレート166と同様、四つの保護プレート164を設ける場合、互いに対向する一対の保護プレート164を結ぶ直線が、互いに対向する他の一対の保護プレート164を結ぶ直線と交差するように保護プレート164を配置することができる。したがって、柱110に四つの梁120が接合される場合では、各保護プレート164が対応する鉄骨122と重なることができる(
図4A)。
【0030】
ここで、補強材160は、z方向において、鉄骨122の下面からバンドプレート162の下端までの距離が、鉄骨122の下面から保護プレート164の下端までの距離よりも小さくなるように構成される。例えば、補強材160は、リブプレート166の高さ(z方向における長さ)H
2と保護プレート164の厚さ(z方向における長さ)T
1の和がバンドプレート162の高さH
1よりも大きくなるように構成される(
図5B)。リブプレートの高さH
2はバンドプレート162の高さH
1より小さくても大きくてもよい。このように補強材160を構成することで、接合部140を柱110上に配置する際、柱110に最も近い部分がバンドプレート162やリブプレート166ではなく保護プレート164となる。詳細は後述するが、バンドプレートの高さH
1、リブプレート166の高さH
2、保護プレート164の厚さT
1が上述した関係を満たすことにより、柱110上に接合部140を設ける際に柱110と接合部140が当接する部分が水平方向に平行な保護プレート164の主面164aとなるため、当接時の衝撃が分散され、その結果、柱110のひび割れを効果的に防止することができる。したがって、柱110の交換や補修が不要となり、このことは構造体100の品質の向上、施工するためのコストの低減に寄与する。
【0031】
保護プレート164は、バンドプレート162と溶接やボルト留めなどによって固定されてもよいが、
図5Aや
図5Bに示すように、バンドプレート162から離隔してもよい。後者の場合、
図4Aに示すように、z方向においてバンドプレート162と保護プレート164が互いに重ならないように補強材160を構成してもよい。バンドプレート162と保護プレート164を直接接合せず、互いに離隔するように配置することで、接合部140の施工時において保護プレート164に加えられる衝撃が直接バンドプレート162に伝わらず、リブプレート166が緩衝材として機能するため、バンドプレート162の変形や破損を防止することができる。
【0032】
保護プレート164の形状、すなわち、xy平面における主面164aの形状に制約はない。好ましくは、リブプレート166の先端、すなわち、バンドプレート162との接合部に対して反対側のリブプレート166の端部が鉛直方向において保護プレート164によって覆われるように保護プレート164の大きさと形状が選択される。例えば
図6Aに示すように、保護プレート164の形状は矩形でもよく、図示しないが正方形、三角形、あるいは5つい以上の角を有する多角形でもよい。あるいは
図6B、
図6Cに示すように台形でもよく、
図6Dや
図6Eに示すように、楕円でも円でもよい。あるいは、図示しないが、保護プレート164はxy平面における輪郭が直線と曲線によって構成される形状を有してもよい。
【0033】
(2)補強材150
図7Aと
図7Bに接合部140の上面図と側面図を、
図8Aに補強材160の一部の斜視図を、
図7Aの鎖線B-B´に沿った端面の模式図を
図8Bに示す。
図7Bでは、補強材150とともに補強材160も示されている。理解の促進のため、
図7Bでは囲み板144は一部だけが示されている。また、
図8Aではコンクリート142は図示されていない。これらの図に示すように、補強材150は、コンクリート142を囲むように構成されるバンドプレート152、バンドプレート152に囲まれ、バンドプレート152に接合される少なくとも一つのリブプレート156、リブプレート156に接合される少なくとも一つの保護プレート154を含む。
【0034】
バンドプレート162と同様、バンドプレート152も環状形状を有し、鉄などの金属を含む。バンドプレート152は、鉄骨122と交差するよう鉄骨122の上に配置される。コンクリート142の少なくとも一部は、バンドプレート152の環状形状が形成する空間内に位置する(
図8B)。バンドプレート152はバンドプレート162と同一の形状を有していてもよい。バンドプレート152も接合部140のせん断抵抗部材として機能し、構造体100の荷重に起因する接合部140のひび割れを防止する。また、鉄骨122の梁120から柱110に力が伝達される際に、バンドプレート152が支圧力を負担する。これにより、柱110のひび割れを抑制することができ、コンクリート142の支圧破壊を防止することができる。
【0035】
リブプレート156も鉄などの金属を含む板状の部材である。リブプレート156の少なくとも一部は、コンクリート142内に埋め込まれる(
図8B)。リブプレート156は、バンドプレート152に囲まれ、バンドプレート152の内側の側面に溶接および/またはボルト留めによって接合される。リブプレート156はさらに、その主面156aが鉛直方向に平行となり、バンドプレート152との接合位置からバンドプレート152の内側に向けて延伸するように配置される。リブプレート156は一つの鉄骨122と重なり、溶接および/またはボルト留めによって鉄骨122に固定される。鉄骨122がH鋼である場合、リブプレート156は上側のフランジに固定される。これにより、バンドプレート152がリブプレート156を介して鉄骨122と一体化されるため、リブプレート156がバンドプレート152の面外せん断抵抗部材として機能する。すなわち、リブプレート166は、コンクリート142を面外方向において拘束しているバンドプレート152を拘束し、バンドプレート152の孕みを抑制することによって、鉄骨122とその上に設けられる柱110との間の分離を防止することができる。
【0036】
少なくとも一つのリブプレート156は複数のリブプレート156を含んでもよく、例えば柱110に接合される梁120と同数のリブプレート156を含むことができる。例えば四つのリブプレート156を設ける場合、互いに対向する一対のリブプレート156を結ぶ直線が互いに対向する他の一対のリブプレート156を結ぶ直線と交差するよう、リブプレート156を対応する鉄骨122に重ねて接合すればよい。
【0037】
補強材160と同様、補強材150も少なくとも一つの保護プレート154を備える(
図3、
図7Aから
図8B)。保護プレート154も鉄などの金属を含む板状部材であり、その主面154aが水平方向と平行になるよう、リブプレート156に溶接および/またはボルト留めによって接合される(
図8A)。したがって、リブプレート156の主面156aと保護プレート154の主面154aは互いに直交する。保護プレート154もバンドプレート152に囲まれ、保護プレート154と鉄骨122の間にリブプレート156が位置するように配置される。保護プレート154は、接合部140の最も上に位置する。このため、第2実施形態で述べるように、接合部140の上に柱110を固定する際に使用されるコンクリートやモルタルなどのグラウトに埋め込まれる。なお、保護プレート154は接合部140内のコンクリート142と接してもよい。
【0038】
少なくとも一つの保護プレート154も複数の保護プレート154を含むことができる。この場合、複数のリブプレート156の各々に一つの保護プレート154を設ければよい。リブプレート156と同様、四つの保護プレート154を設ける場合、互いに対向する一対の保護プレート154を結ぶ直線が、互いに対向する他の一対の保護プレート154を結ぶ直線と交差するように保護プレート154を配置することができる。したがって、柱110に四つの梁120が接合される場合、各保護プレート154が対応する鉄骨122と重なることができる(
図7A)。
【0039】
ここで、補強材150は、z方向において、鉄骨122の上面からバンドプレート152の上端までの距離が、鉄骨122の上面から保護プレート154の上端までの距離よりも小さくなるように構成される。例えば、補強材150は、リブプレート156の高さ(z方向における長さ)H
4と保護プレート154の厚さ(z方向における長さ)T
2の和がバンドプレート152の高さH
3よりも大きくなるように構成される(
図8B)。このように補強材160を構成することで、接合部140の上にさらに新たに上層階の柱110を配置する際、上層階の柱110に最も近い部分がバンドプレート152やリブプレート156ではなく保護プレート154となる。詳細は後述するが、バンドプレートの152の高さH
3、リブプレート156の高さH
4、保護プレート154の厚さT
2が上述した関係を満たすことにより、上層階の柱110が当接する部分が水平方向に平行な保護プレート154の主面154aとなるため、接合部140や上層階の柱110のひび割れを効果的に防止することができる。その結果、上層階の柱110や接合部140の交換や補修が不要となり、このことは構造体100の品質の向上、施工するためのコストの低減に寄与する。
【0040】
なお、バンドプレート152の高さH3、またはリブプレート156の高さH4と保護プレート164の厚さT2の和は、床スラブ170の厚さ(z方向における長さ)よりも小さいことが好ましい。これにより、リブプレート156や保護プレート164を床スラブ170内に埋め込むことができ、床全体をフラットにすることができる。
【0041】
保護プレート154は、バンドプレート152と溶接および/またはボルト留めによって固定されてもよいが、
図8Aや
図8Bに示すように、バンドプレート152から離隔してもよい。後者の場合、
図7Aに示すように、z方向においてバンドプレート152と保護プレート154は重ならないように補強材150を構成してもよい。バンドプレート152と保護プレート154を直接接合せず、互いに離隔するように配置することで、接合部140上に上層階の柱110を設置する際、保護プレート154に加えられる衝撃が直接バンドプレート152に伝わらず、リブプレート156が緩衝材として働くため、バンドプレート152の変形、接合部140や上層階の柱110の破損を効果的に防止することができる。
【0042】
保護プレート154の形状、すなわち、xy平面における主面154aの形状に制約はなく、保護プレート164と同様、種々の形状を取ることができる。この点についての説明は保護プレート164と同様であるため、割愛する。
【0043】
図22Aと
図22Bにそれぞれ示す模式的斜視図と上面図、およびバンドプレート152の内側から見た模式的側面図である
図23から理解されるように、補強材150はさらに、より強固に鉄骨122と固定するための構成としてベースプレート158を有してもよい。ベースプレート158もバンドプレート152の環状形状が形成する空間内に位置し、バンドプレート152の側面とリブプレート156に溶接および/またはボルト留めによって固定される。ベースプレート158は、その主面の法線が鉛直方向となるようにリブプレート156の下に配置される。ベースプレート158には、ボルト159のネジ部が貫通するボルト孔が設けられ、ボルト159を用いて鉄骨122にベースプレート158を固定することができる。
【0044】
図23に示すように、補強材160もベースプレート168を有してもよい。ベースプレート158と同様、バンドプレート162の環状形状が形成する空間内に位置し、バンドプレート162の側面とリブプレート166に溶接および/またはボルト留めによって固定される。ベースプレート168は、その主面の法線が鉛直方向となるようにリブプレート166の上に配置される。ベースプレート168には、ボルト169のネジ部が貫通するボルト孔を設けることができ、ボルト169を用いて鉄骨122にベースプレート168を固定することができる。なお、ボルト169の向きはボルト159の向きと同一でもよく、反対でもよい。補強材160と150に上述し構成を有するベースプレート168、158をそれぞれ設けて鉄骨122に固定することで、構造体100の施工時にベースプレート168、158の位置ずれを防止することができる。
【0045】
6.変形例
上述した例では、囲み板144が補強材150、160、および鉄骨122から露出したコンクリート142の側面を覆うように設けられ、コンクリート142の鉛直方向に平行な隣接する面の間で連続する(
図2参照)。接合部140の構造はこれに限られず、囲み板144に替わり、接合部140は、鉄骨122と重なる部分のコンクリート142を選択的に覆い、他の部分を露出するスティフナー145を含んでもよい。スティフナー145は、例えば鉄骨122がH鋼である場合、上下のフランジの間のコンクリート142を覆い、他の部分を露出するように設けることができる(
図9A)。この場合、接合部140の強度を維持するため、接合部140内に柱主筋112を囲む複数の横補強筋146を設けてもよい。横補強筋146は鉄骨を貫通する環状鉄筋である。横補強筋146は一つの鉄筋で構成してもよく、あるいは
図9Bに示すように、L字形状を有する複数の鉄筋を組み合わせ、これらを互いに溶接などによって接合して形成してもよい。接合部140において、横補強筋146もコンクリート142に埋設される。
【0046】
あるいは
図10に示すように、横補強筋146とともに、あるいは横補強筋146の替わりに複数の差し筋148を用いてもよい。差し筋148は、互いに直交する二つの鉄骨122の間に配置される複数の柱主筋112を囲むU字形状を有する鉄筋であり、各差し筋148も互いに直交する二つの鉄骨122の間に配置される。
【0047】
第2実施形態で詳述するように、構造体100の施工は、例えば梁120などが接続された接合部140を柱110上に固定することで行うことができる。この工程では、接合部140はクレーンなどの揚重機で吊り上げられて所定の場所に設置されるが、この時、柱110または接合部140に大きな衝撃が加わることがあり、その結果、柱110または接合部140が破損することがある。このような破損が生じると、柱110や接合部140の強度が低下するのみならず、破損の修復が必要となり、破損の程度によっては柱110や接合部140の交換作業が必要となる。このことは、工期の遅延や施工コストの増大の原因となる。
【0048】
しかしながら、補強材150、160にそれぞれ保護プレート154、164を設けることで、柱110または接合部140に加えられる衝撃を緩和することができるため、施工時に柱110と接合部140の衝突に起因する不良発生を防止することができる。したがって、本発明の実施形態を適用することにより、工期遅延や施工コストの増大を招くことなく、ハイブリッド構造を有する構造体100を施工することが可能となる。
【0049】
<第2実施形態>
本実施形態では、構造体100の施工方法の一例について、
図11Aから
図21、
図24A、
図24Bを用いて説明する。第1実施形態で述べた構成と同様または類似する構成については説明を割愛することがある。
【0050】
まず、地面に打ち付けられた杭180上に柱110-1を設置する(
図11A、
図11B)。杭180の杭頭には、それぞれ複数の杭頭定着筋182が設けられ、これらの杭頭定着筋182が挿入できるように構成される柱110-1が杭180上に設けられる。具体的には、
図12の模式的端面図に示すように、各柱110-1には、柱主筋112と重なるように柱主筋112の下に開口が形成され、開口にスリーブ継手116が設けられる。杭頭定着筋182をこの開口とスリーブ継手116に挿入した後、柱110-1の側面からスリーブ継手116に達するグラウト注入口118にレディーミクストコンクリートやモルタルなどのグラウトを注入し、硬化させることで杭180と柱110-1が固定される。
【0051】
引き続き、梁ユニット190-1、すなわち、接合部140が両端に接合された鉄骨122-1を予め作製し、これをクレーンなどの揚重機を用いて吊り上げ、二つの接合部140が一対の柱110-1の上に位置するように移動する(
図13)。各接合部140には、一対の接合部140を連結する鉄骨122-1のほか、鉄骨122-2(後述)と接続されるように構成される一つまたは複数の梁ブラケット124が接合されていてもよい。各梁ブラケット124は、その延伸方向が他の梁ブラケット124または鉄骨122-1の延伸方向と交差するように設けられる。その後、梁ユニット190を徐々に降下し、柱主筋112が接合部140を貫通するように接合部140を柱110-1の上に設置する(
図14)。
【0052】
この時の接合部140を中心とする模式的側面図を
図15A、
図15Bに示す。これらの図では、見やすさを考慮し、囲み板144は一部だけが示されている。
図15Aに示すように、接合部140には、バンドプレート162や保護プレート164などによって構成される補強材160、およびバンドプレート152や保護プレート154などによって構成される補強材150が設けられる。補強材160、150は上述したベースプレート168、158を有してもよく、この場合、ボルト169、159によって鉄骨122-1や梁ブラケット124と補強材160、150が固定される。
図15Aの矢印で示すように、接合部140内を柱主筋112が貫通するように梁ユニット190を徐々に降下させ、柱110-1上に接合部140を設置する(
図15B)。あるいは、
図24A、
図24Bに示すように、接合部140を柱110-1上に設けた後に補強材150を設置してもよい。すなわち、補強材150は設けられず、補強材160が設けられた梁ユニット190を柱110-1上に設置する。その後、補強材150を梁ユニット190上に設置してもよい。補強材150がベースプレート158を備える場合には、補強材150を梁ユニット190上に設置した後、ボルト159によって補強材150が鉄骨122-1や梁ブラケット124と固定される。
【0053】
梁ユニット190を設置する際、揚重機の操作や施工時の外部環境によっては、必ずしも十分に低い速度で梁ユニット190を柱110-1上に降下することができない場合がある。比較的大きな速度で梁ユニット190を柱110-1に降下させると、強い衝撃が柱110-1に加えられ、柱110-1のコンクリートの強度がこの衝撃に耐えることができないと、柱110-1が破損して不良が発生する。
【0054】
しかしながら、接合部140に補強材160を配置することにより、接合部140が柱110-1と当接する部分は補強材160に設けられる保護プレート164となる。このため、xy平面における面積が小さいバンドプレート162やリブプレート166と柱110-1との当接が防止され、梁ユニット190-1の設置時における衝撃は、保護プレート164の鉛直方向に垂直な主面164aに分散される。その結果、保護プレート164は衝撃によって変形し得るものの、バンドプレート162や柱110-1の破損が防止される。
【0055】
引き続き、接合部140にレディーミクストコンクリートを流し込み硬化させることで、梁ユニット190-1が柱110-1上に固定される。この時、保護プレート164はコンクリート142に埋設される(
図15B)。図示しないが、コンクリート142の一部が囲み板144から露出される接合部140を採用する場合には(
図9、
図10参照)、図示しない型枠を接合部140の周囲に設け、その中にコンクリート142を打設すればよい。
【0056】
同様に他の一対の柱110-2上にも梁ユニット190-2を設置・固定する(
図16)。その後、梁ユニット190-1と190-2の梁ブラケット124に鉄骨122-2を固定すればよい。鉄骨122-2の固定は溶接および/またはボルト留めによって行えばよい。
【0057】
さらに高層化する場合には、接合部140上に柱110-3を設置する(
図17)。柱110-3の設置は杭180上への柱110-1の設置と同様に行えばよい。具体的には、柱110-3を揚重機で柱110-1上の接合部140上に移動する。その後、柱110-1の柱主筋112を柱110-3に設けられる図示しないスリーブ継手116に挿入するように柱110-3を接合部140上に設置する。
【0058】
この時の接合部140を中心とする模式的側面図を
図18A、
図18Bに示す。これらの図では、見やすさを考慮し、囲み板144は一部だけが示されている。
図18Aの矢印に示すように、柱110-1の柱主筋112を柱110-3に挿入しながら柱110-3を徐々に降下させ、接合部140上に柱110-3を設置する。この時、比較的大きな速度で柱110-3を接合部140に降下させると、強い衝撃が接合部140に加えられ、接合部140のコンクリート142やバンドプレート152、柱110-3の破損が生じうる。
【0059】
しかしながら、本発明の実施形態の一つに係る構造体100の接合部140には、接合部140のコンクリートの上部を囲むように構成される補強材150を設けることができる。この場合、接合部140が柱110-3と当接する部分は補強材150に設けられる保護プレート154となる。このため、xy平面における面積が小さいバンドプレート152やリブプレート156と柱110-3との当接が防止され、柱110-3から受ける衝撃は、保護プレート154の鉛直方向に垂直な主面154aに分散される。その結果、保護プレート154は衝撃によって変形し得るものの、バンドプレート152や柱110-3、コンクリート142の破損が防止される。
【0060】
引き続き、柱110-1の固定と同様に、柱110-3の側面に設けられる開口(図示しない)からスリーブ継手にグラウトを注入し、硬化させることで柱110-3と接合部140が固定される(
図18B)。以下、上述した工程を繰り返すことで構造体100が施工される。
【0061】
なお、上述した構造体100の施工では、予め作製された柱110が杭180や接合部140の上に設置されるが、柱110は所謂現場打と呼ばれる方法で作製してもよい。すなわち、杭180または接合部140上に型枠を設け、型枠内にレディーミクストコンクリートを流し込み、硬化させることで柱110を作製してもよい。
【0062】
あるいは、梁ユニット190を用いず、梁ブラケット124が接合された接合部140と柱110がコンクリート142によって予め固定された柱ユニット192を杭180上に設置してもよい(
図19)。あるいは、柱110を杭180に固定した後に梁ブラケット124が接合された接合部140を柱110上に設置し、その後接合部140にコンクリート142を打設することで柱110上に接合部140を施工してもよい(
図20)。これらの工法では、柱ユニット192を施工した後、または柱110の上に接合部140を施工した後、鉄骨122を一対の柱110の梁ブラケット124に固定する(
図21)。その後、同様の工程を繰り返すことで構造体100を施工することができる。
【0063】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係る構造体100では、柱110上に設けられ、柱110と梁120および梁120同士を接合する接合部140は、接合部140に打設されるコンクリート142の上部と下部をそれぞれ囲む補強材150、160の少なくとも一方が設けられる。補強材150と160のいずれにも鉛直方向に垂直な主面を有する保護プレート154、164が設けられるため、構造体100の施工時における柱110と接合部140の衝突に起因する不良発生を防止することができる。このため、不良修復に伴う工期遅延が防止され、低コストで構造体100を施工することが可能となる。
【0064】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0065】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0066】
100:構造体、110:柱、110-1:柱、110-2:柱、110-3:柱、112:柱主筋、114:帯筋、116:スリーブ継手、118:グラウト注入口、120:梁、122:鉄骨、122-1:鉄骨、122-2:鉄骨、124:梁ブラケット、140:接合部、142:コンクリート、144:囲み板、145:スティフナー、146:横補強筋、148:筋、150:補強材、152:バンドプレート、154:保護プレート、154a:主面、156:リブプレート、156a:主面、158:ベースプレート、159:ボルト、160:補強材、162:バンドプレート、164:保護プレート、164a:主面、166:リブプレート、166a:主面、168:ベースプレート、169:ボルト、170:床スラブ、180:杭、182:杭頭定着筋、190:梁ユニット、190-1:梁ユニット、190-2:梁ユニット、192:柱ユニット