(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ロボットシステム及びワーク供給方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240730BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
B25J15/08 T
(21)【出願番号】P 2022580607
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004451
(87)【国際公開番号】W WO2022172873
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2021020699
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】弁理士法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多湖 瑞起
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-136860(JP,A)
【文献】特開2016-084838(JP,A)
【文献】特開2016-168651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/08
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に対してワークを供給するためのロボット装置と、
前記ロボット装置のアーム先端に取り付けられるワーク把持機構と、
前記ワーク把持機構にかかる外力を検出するための力覚センサと、
前記ロボット装置を制御する制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、
前記力覚センサの出力に基づいて、
前記工作機械のチャック機構のチャック面の垂直中心線に直交する方向にかかる力を減少するように前記工作機械に対する前記ワーク把持機構の位置と姿勢とを補正するために前記ロボット装置を制御する制御部と、
前記補正された前記ワーク把持機構の位置と姿勢とに関するデータを記憶する記憶部とを有する、ロボットシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記記憶された前記ワーク把持機構の位置と姿勢とに関するデータに基づいて前記工作機械に対する前記ワーク把持機構のアプローチ位置とアプローチ姿勢とを計算するアプローチ位置姿勢計算部をさらに有し、
前記記憶部は、前記計算されたアプローチ位置とアプローチ姿勢とに関するデータを記憶する、請求項1記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記記憶されたアプローチ位置とアプローチ姿勢とを、前記ワークに続く他のワークに対して適用するために前記ロボット装置を制御する、請求項2記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記力覚センサの出力に基づいて前記ロボット装置を制御し、前記工作機械のチャック機構のチャック面の垂直中心線に平行に前記ワーク把持機構を移動し前記チャック面に前記ワークを所定の力で押し付けながら前記垂直中心線に直交する方向にかかる力を減少するように前記ワーク把持機構の姿勢を補正するとともに、前記チャック機構の閉動作に伴って前記垂直中心線に直交する方向にかかる力を減少するように前記垂直中心線に直交する方向に沿って前記ワーク把持機構の位置を補正する、請求項1乃至3のいずれか一項記載のロボットシステム。
【請求項5】
ロボット装置と、前記ロボット装置のアーム先端に取り付けられるワーク把持機構と、前記ワーク把持機構にかかる外力を検出するための力覚センサと、前記ロボット装置を制御する制御装置とを有するロボットシステムにより工作機械に対してワークを供給するためのワーク供給方法において、
前記制御装置が前記力覚センサの出力に基づいて前記ロボット装置を制御して、前記工作機械のチャック機構のチャック面の垂直中心線に平行に前記ワーク把持機構を移動し前記チャック面に前記ワークを所定の力で押し付ける工程と、
前記制御装置が前記力覚センサの出力に基づいて前記ロボット装置を制御して、前記チャック面に前記ワークを押し付けながら前記垂直中心線に直交する方向にかかる力を減少するように前記ワーク把持機構の姿勢を補正する工程と、
前記制御装置が前記力覚センサの出力に基づいて前記ロボット装置を制御して、前記チャック機構の閉動作に伴って前記垂直中心線に直交する方向にかかる力を減少するように前記垂直中心線に直交する方向に沿って前記ワーク把持機構の位置を補正する工程とを備えた、ワーク供給方法。
【請求項6】
前記制御装置が前記補正された前記ワーク把持機構の位置と姿勢とに基づいて前記工作機械に対する前記ワーク把持機構のアプローチ位置とアプローチ姿勢とを計算する工程と、
前記制御装置が前記ロボット装置を制御して、前記計算されたアプローチ位置とアプローチ姿勢とを前記ワークに続く他のワークに対して適用する工程とをさらに備える、請求項5記載のワーク供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステム及びワーク供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械が装備するチャック機構に、加工対象であるワークをロボット装置により供給することが多い。チャック機構へロボット装置がワークを供給する際、ロボット装置は事前に教示された姿勢で、教示された位置まで移動し、チャック面に対してワークを突き当てて、チャック完了を待機する。
【0003】
しかし、ワーク外形の公差により、ワークが大きければ工作機械のチャック面とハンドが把持するワーク間で過大な外力が働き、ワークが小さければチャック面とワークとの間に隙間が生じてしまう。また、ハンドが把持したワークの中心線がチャックの中心線に対して一致していない場合にはチャックを閉じた際にワークを把持しているハンドが押さえつけられ、ロボット装置のアームのリンク及び回転関節、ハンド、さらにチャック機構に過大な外力が生じる。それにより、ロボット装置のリンク及び回転関節、ロボットハンド、工作機械のチャック機構が損傷するおそれがある。また、チャック面とワークの間に隙間があると加工の際にワークが振動し、高精度な加工が行えないという問題も生じる。
【0004】
そのためロボットのハンドが把持したワークをカメラで撮像し、チャック面に対するワークの姿勢を補正する方法が存在する。しかし、この補正方法では、ワークが鋳物である等の理由により、検出されたワークが真円でない場合に、チャックの中心線とワークの中心線とが一致しない可能性が考えられる。また、ワークの把持位置からチャックへの突き当て面までの距離やワークの底面の傾きはカメラでは正確に検出出来ないためチャック面とワークの間に過大な外力や隙間が生じる可能性がある。
【0005】
また、ロボット機構部のモータの電流値を監視し、電流値から検出した外乱値に基づいてロボットの姿勢を補正する方法が存在する。しかし、この補正方法ではワークの外力をモータの電流値で検出した場合には多少の誤差が含まれるので、完全にハンドとチャックの間の力を最小限に抑えるのは難しい。また、ロボットの姿勢によってモータの電流値の検出しやすさが変化するので、決まった姿勢でしかワークの保持が行えなくなる欠点も存在する。
【0006】
一般的に、教示されたアプローチ位置や姿勢にワークをセットした後にワークを工作機械のチャック機構に接近させるが、その際に上述のチャック面に対するワークの位置や姿勢の調整が必要とされるので、調整時間に応じてサイクルタイムが長期化してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワークの位置や姿勢の補正に要する時間を短縮してワーク供給のサイクルタイムの短縮を図ることが望まれている。
【0008】
さらに、ハンドによるワークの把持ズレ及びワーク外形の公差によりハンド等が受ける外力を小さくし、工作機械のチャック面に対するワークの隙間を低減して両者の密接性を向上ことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係るロボットシステムは、工作機械に対してワークを供給するためのロボット装置と、ロボット装置のアーム先端に取り付けられるワーク把持機構と、ワーク把持機構にかかる外力を検出するための力覚センサと、ロボット装置を制御する制御装置とを具備する。制御装置は、力覚センサの出力に基づいて、工作機械のチャック機構のチャック面の垂直中心線に直交する方向にかかる力を減少するように工作機械に対するワーク把持機構の位置と姿勢とを補正するためにロボット装置を制御する制御部と、補正されたワーク把持機構の位置と姿勢とに関するデータを記憶する記憶部とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本態様によれば、補正されたワーク把持機構の位置と姿勢とに関するデータを記憶するので、この記憶された位置と姿勢とを再現できるので、位置と姿勢との補正にかかる時間を短縮してサイクルタイムの短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は一実施形態に係るロボットシステムのロボット装置の斜視図である。
【
図2】
図2は
図1のハンドをワーク及び工作機械のチャック機構とともに示す図である。
【
図3】
図3は一実施形態に係るロボットシステムの機構ブロック図である。
【
図4】
図4は
図1の動作制御部の制御によるワーク供給手順を示す流れ図である。
【
図8】
図8は本実施形態の変形例として力覚センサを関節に設置したロボット装置の斜視図である。
【
図9】
図9は本実施形態の変形例として力覚センサを基台に設置したロボット装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態を説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るロボットシステムを構成するロボット装置1は、多関節アーム機構10を有する。多関節アーム機構10は、例えば6軸の自由度を有する垂直多関節型により提供され、基台11に旋回用の回転関節12が設置される。この回転関節12には、回転関節14と、リンク13と、回転関節16と、リンク15と、回転関節17と、直交3軸の回転関節18-1,18-2,18-3から構成される手首部18とが順次接続される。多関節アーム機構10としては垂直多関節型に限定されることはなく、極座標型やスカラ型の他の型の回転関節機構であってもよい。基台11を基準とした座標系をロボット座標系(X0,Y0,Z0)と称する。
【0014】
手首部18にはマウント20が取り付けられる。マウント20には、力覚センサ4を介してエンドエフェクタとしてのワーク把持機構(以下、ハンドと称する)2が取り付けられる。
【0015】
ハンド2は、一対のフィンガ22、23と、一対のフィンガ22、23を連動して開閉自在に支持するハンド本体21とを有する。ここで、ハンド2を基準とした直交座標系をハンド座標系(X1,Y1,Z1)と称する。ハンド座標系(X1,Y1,Z1)は例えばフィンガ22、23の把持中心をその原点として、ハンド2の前後方向と平行にZ1軸が規定され、Z1軸に直交する2軸にX1軸,Y1軸が規定される。
【0016】
後述の動作制御部は例えばロボット座標系(X0,Y0,Z0)で記述されたタスクプログラムに従って回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の変位角度及び手先基準点(例えばハンド座標系の原点)の軌道を計算して回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の回転を制御し、またチャック機構3のチャック開閉を制御するとともに、ハンド座標系(X1,Y1,Z1)上での位置や姿勢をロボット座標系(X0,Y0,Z0)上での表現に変換する等の各種処理を実行する。タスクプログラムにはワーク供給手順が記述され、例えばワークWのピックアップ、チャック機構3へのアプローチ位置への移動及びアプローチ姿勢への姿勢設定、チャック機構3のチャック面34へのワークWの押し付け、ハンド2と共にワークWの姿勢補正、チャック機構3のチャック閉動作、ワークWの位置補正、チャック機構3からハンド2の離脱の各動作がその順番で実行される。
【0017】
力覚センサ4は、ハンド2にかかる外力を、X1軸に平行にかかる外力成分、Y1軸に平行にかかる外力成分、Z1軸に平行にかかる外力成分に分離して検出する。力覚センサ4は、ハンド2にかかる外力としてX1軸、Y1軸、Z1軸の各軸周りのトルクを検出するものであってもよい。
【0018】
上述の力覚センサ4は必ずマウント20とワーク把持機構2の間にある必要はなく、後述のハンド座標系のX1軸に平行にかかる外力成分、Y1軸に平行にかかる外力成分、Z1軸に平行にかかる外力成分を直接的または座標変換処理を介して間接的に取得できる限りにおいて、多関節アーム機構10の回転関節12,14,16,17,18-1,18-3の少なくとも一若しくは複数に設置してもよく、または基台11上に取り付けていてもよい。例えば力覚センサ4は
図8に示すように多関節アーム機構10の回転関節12,14,16,17,18-1,18-3のフォースセンサFS1-FS6の近傍位置の一箇所もしくは複数個所各々に設置される。また、力覚センサ4は
図9に示すように基台11上のフォースセンサFS7の近傍位置に取り付けられる。
【0019】
図2(a)、
図2(b)、
図2(c)に示すように、フィンガ22、23を閉じることによりワークWを把持することができる。フィンガ22、23で把持したワークWは多関節アーム機構10の動作により移動され、工作機械5のチャック機構3に供給される。チャック機構3は3つの爪部31、32、33がベース30に連動して接近・離反自在に支持される。チャック機構3を基準とした直交座標系をチャック座標系(X2,Y2,Z2)と称する。チャック座標系(X2,Y2,Z2)は3つの爪部31、32、33の移動中心線が交差する中心を原点として、Y2軸がチャック面34に垂直に既定され、Y2軸に対して原点において直交するようにX2軸,Z2軸が既定される。説明の便宜上、ワークWを基準としたワーク座標系(Xw,Yw,Zw)が既定される。例えばワークWが円柱形であれば、ワークWの中心を原点、中心線をZw軸として、Zw軸に直交するようにXw軸,Yw軸が既定される。ここでは説明の便宜上ワークWは円柱形であると仮定する。
【0020】
ワークWを工作機械5のチャック機構3に供給するに際して、理想的には、ワークWのXw-Yw面がチャック機構3のX2-Y2面に平行、つまりワークWの端面がチャック機構3のチャック面34に平行になる姿勢(アプロ―チ姿勢)で、ワークWのZw軸がチャック機構3のZ2軸に重なった位置(アプローチ位置)に移動し、そのままチャック機構3のZ2軸と平行にワークWとともにハンド2をチャック機構3のチャック面34に接近させ、ワークWの端面をチャック面34に押し付けて密接させた状態で、爪部31,32,33を閉じてワークWをチャック機構3で拘止する。
【0021】
ワークWの端面をチャック面34に押し付けた際、ワークWのXw-Yw面がチャック機構3のX2-Y2面に平行でなかったとき、力覚センサ4によりチャック面34に垂直なZ1軸に平行にかかる外力成分EF(Z1)とともに、X1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)とY1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)とが検出される。外力成分EF(X1)に基づいてそれに直交するY1軸回りにハンド2を回転させ、外力成分EF(Y1)に基づいてそれに直交するX1軸回りにハンド2を回転させることにより、外力成分EF(X1)を減少させ、また外力成分EF(Y1)を減少させることができる。典型的には外力成分EF(X1)と外力成分EF(Y1)とが共にゼロ値又は所定の閾値未満になるように、ハンド2の姿勢を補正する。
【0022】
姿勢補正によりワークWの端面がチャック面34に平行な状態になる。その状態でワークWの端面をチャック面34に押し付ける。このときワークWの端面は、チャック面34に密接する。そしてチャック機構3の爪部31,32,33を中心に向かって連動移動(チャック動作)させた際、ワークWの中心線(Zw軸)がチャック面34に垂直なZ2軸に対してずれていたとき、ワークWは爪部31,32,33により均等に押されること無く偏心して押される。従って力覚センサ4によりX1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)とY1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)とが検出される。外力成分EF(X1)に基づいてハンド2をX1軸と平行に移動させることで外力成分EF(X1)を減少させ、外力成分EF(Y1)に基づいてハンド2をY1軸と平行に移動させることで外力成分EF(Z1)を減少させることができる。典型的には外力成分EF(X1)と外力成分EF(Y1)とが共にゼロ値又は所定の閾値未満になるように、ハンド2の位置を補正する。この状態で正しい位置及び姿勢でチャックが完了する。
【0023】
本実施形態では、上述のように姿勢補正し、そして位置補正して、チャックが完了した時の姿勢(チャック完了姿勢)と、チャックが完了した時の位置(チャック完了位置)とに基づいてハンド2のアプローチ位置、アプローチ姿勢を計算する。直線的にワークWをチャック面34に接近可能な簡易的なケースでは、アプローチ姿勢はチャック完了姿勢に一致し、アプローチ位置はチャック完了位置に対してZ2軸に平行にチャック面34から離れる方向に所定距離だけシフトさせた位置として計算される。
【0024】
当該ワークWに対して次に供給されるべきワークW、さらにそれ以降のワークWに対してチャック完了姿勢に基づいて求めたアプローチ姿勢で、チャック完了位置に基づいて求めたアプローチ位置に移動し、ワークWをチャック面に押し付けることにより、ハンド2の位置及び姿勢の補正が不要になり、又は教示されたアプローチ姿勢、教示されたアプローチ位置に移動した後にハンド2の位置及び姿勢を補正する場合よりもそれら補正に要する時間を少なくとも短縮することができる。したがって、ワーク供給のサイクルタイムの短縮を図ることができるようになる。さらにワークW、ハンド2、多関節アーム機構10、さらにチャック機構3に加わる外力を小さくすることができ、また工作機械5のチャック面34に対するワークWの隙間を低減することができる。
【0025】
図3に示すように、本実施形態に係るロボットシステムは、上述のロボット装置1と、ロボット装置1を制御するロボット制御装置6とからなる。ロボット装置1は、多関節アーム機構10、ハンド2、力覚センサ4及びロータリエンコーダ40を有する。ロータリエンコーダ40は、多関節アーム機構10の回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の回転角を個別に検出する。ロータリエンコーダ40で検出した回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の回転角から順運動学によりロボット座標系上でのハンド座標系の原点位置を計算することができる。ここでは説明の便宜上、ロータリエンコーダ40で検出した回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の回転角又はそれを表すデータのセットを単に位置データと称する。この位置データは、多関節アーム機構10の動作を制御する動作制御部61に供給される。
【0026】
動作制御部61は、図示しないワークストッカにハンド2を移動し、ワークWをハンド2で把持してワークストッカからピックアップし、ハンド2をアプローチ位置にアプローチ姿勢で移動し、ワークWをチャック面34に押し付けるようにハンド2を移動し、さらにチャック機構3の爪部31,32,33を閉じ、そしてハンド2からワークWをリリースし、ハンド2をチャック機構3から離脱するまでの一連の動作が位置、姿勢、軌道とともに記述されたタスクプログラムに従って位置データ及び力データを用いたフィードバック制御のもとで回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3を回転させ、またチャック機構3を開閉させる。
【0027】
また位置データは記憶部65に供給され、動作制御部61から供給されるチャック完了等のステータスコードを付帯され、記憶される。アプローチ位置姿勢計算部64は、記憶部65に記憶されたチャック完了姿勢とチャック完了位置のデータとに基づいてハンド2のアプローチ位置とアプローチ姿勢とを計算する。
【0028】
力覚センサ4はハンド2にかかる外力を直交3軸(X1、Y1、Z1)の各軸ごとに検出し、その外力成分EF(X1)、EF(Y1)、EF(Z1)を表すデータ(これらを力データと総称する)を出力する。力データは動作制御部61,姿勢補正計算部62、位置補正計算部63に供給される。
【0029】
姿勢補正計算部62は、X1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)を減少させるようにX1軸に直交するY1軸回りに外力成分EF(X1)の極性に応じた方向にハンド2を微小な単位角度(ΔθY1)だけ回転させる姿勢補正データと、同様にY1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)を減少させるようにY1軸に直交するX1軸回りに外力成分EF(Y1)の極性に応じた方向にハンド2を微小な単位角度(ΔθX1)だけ回転させる姿勢補正データとを決定し、動作制御部61に供給する。動作制御部61は、ロボット座標系上でのハンド座標系の原点を維持した状態でハンド2のΔθY1の回転及びΔθX1の回転を実現させる回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の回転角を計算し、計算した回転角だけ回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3が回転するように回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3各々のアクチュエータを制御する。外力成分EF(X1)及び外力成分EF(Y1)がゼロ値又は所定の閾値未満になるまで単位角度(ΔθY1)及び単位角度(ΔθX1)の回転が繰り返される。
【0030】
位置補正計算部63は、X1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)を減少させるようにX1軸に平行であって外力成分EF(X1)がかかる方向にハンド2を微小な単位距離(ΔX1)だけ移動させる位置補正データと、同様にY1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)を減少させるようにY1軸に平行であって外力成分EF(Y1)がかかる方向にハンド2を微小な単位距離(ΔY1)だけ移動させる位置補正データとを決定し、動作制御部61に供給する。動作制御部61は、ロボット座標系上でのハンド座標系が並進するようにハンド2をΔX1の移動とΔY1の移動を実現させる回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3の回転角を計算し、計算した回転角だけ回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3が回転するように回転関節12,14,16,17,18,19各々のアクチュエータを制御する。外力成分EF(X1)及び外力成分EF(Y1)がゼロ値又は所定の閾値未満になるまで単位距離(ΔX1)及び単位距離(ΔY1)の移動が繰り返される。
【0031】
図4には動作制御部61によるワーク供給の手順が示されている。動作制御部61は、回転関節12,14,16,17,18―1,18-2,18-3を制御して図示しないワークストッカにハンド2を移動し、ハンド2でワークWを把持する(S1)。
図5(a)示すようにハンド2を予め教示されたアプローチ位置(X00,Y00,Z00)に、予め教示されたアプローチ姿勢(θX00,θY00,θZ00)で移動する(S2)。
図5(b)示すようにハンド2をZ2軸と平行にチャック面34に接近する方向に移動し、ワークWをチャック面34に押し付ける(S3)。このときワークWがチャック面34に過度に強い力で押し付けられることのないように、Z1軸に平行にかかる外力成分EF(Z1)が危険閾値を超えないように力制御が実施される。
【0032】
この押し付けに際して、動作制御部61は、外力成分EF(Z1)、EF(X1)、EF(Y1)からZ2軸と平行な力(押し付け力)を、上記危険閾値よりも低く設定される適正閾値と比較し、押し付け力が適正閾値以上であるか否かを判定する。またワークWがチャック機構3に衝突してハンド2が停止したときのハンド2の位置と押し付け完了の予定位置との間の距離(突き当て距離)Dを計算して突き当て距離Dが所定の許容範囲内であるか否かを判定する(S4)。押し付け力が適正閾値に達しないとき、ハンド2によるワークWの把持角度が予定角度に比して過大である事態やワークWの形状寸法等の交差が過大である事態等が想定される。また突き当て距離Dが所定の許容範囲DAから外れているとき、
図5(c)に例示するようにハンド2によるワークWの把持位置が予定位置や角度に比して過大である事態やワークWの形状寸法等の交差が過大である事態が想定される。押し付け力が適正閾値に達しない、突き当て距離Dが許容範囲DAから外れている、のいずれか一方又は両方が判定されたとき(S4;NO)、動作制御部61の制御により図示しないディスプレイにワークWがNGである等のエラーメッセージを表示し(S5)、当該動作を一旦終了して、ユーザからの再稼働の指示を待機する。押し付け力が適正閾値以上であり、且つ突き当て距離Dが許容範囲DA内であるとき(S4;YES)、次の工程S6に移行する。
【0033】
工程S6において、
図5(b)に例示したようにワークWの端面がチャック面34に平行でなかったとき、力覚センサ4によりX1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)とY1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)とが検出される。姿勢補正計算部62では、X1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)を減少させるように、X1軸に直交するY1軸回りに外力成分EF(X1)の極性に応じた方向にハンド2を微小な単位角度(ΔθY1)だけ回転させる姿勢補正データを発生して、動作制御部61に供給する。動作制御部61は供給された姿勢補正データに従って多関節アーム機構10を制御してハンド2をY1軸回りに単位角度(ΔθY1)だけ回転させる。同様に、姿勢補正計算部62では、Y1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)を減少させるように、Y1軸に直交するX1軸回りに外力成分EF(Y1)の極性に応じた方向にハンド2を微小な単位角度(ΔθX1)だけ回転させる姿勢補正データを発生して、動作制御部61に供給する。動作制御部61は供給された姿勢補正データに従って多関節アーム機構10を制御してハンド2をX1軸回りに単位角度(ΔθX1)だけ回転させる。この姿勢補正の処理は、外力成分EF(X1)及び外力成分EF(Y1)がゼロ値又は所定の閾値未満になるまで繰り返される。それにより
図6(a)に示すようにワークWの端面がチャック面34に平行になり、ワークWの端面がチャック面34に密接する。
【0034】
次の工程S7において、動作制御部61からチャック機構3へチャック閉の制御信号が供給される。それによりチャック機構3の爪部31,32,33が連動して中心に向かって移動する。このとき、
図6(a)に示すように、チャック面34に対してワークWが芯ズレを生じているとき、つまりワークWの中心線(Zw軸)がチャック機構3のZ2軸に対してずれていたとき、ワークWは爪部31,32,33により均等に押されず、偏心して押される。それにより力覚センサ4によりX1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)とY1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)とが検出される。位置補正計算部63では、X1軸に平行にかかる外力成分EF(X1)を減少させるようにX1軸に平行であって外力成分EF(X1)がかかる方向、つまり芯ズレを吸収する方向にハンド2を微小な単位距離(ΔX1)だけ移動させる位置補正データを発生して、動作制御部61に供給する。
図6(b)に示すように、動作制御部61は供給された位置補正データに従って多関節アーム機構10を制御してハンド2をX1軸と平行に単位距離(ΔX1)だけ移動させる。同様に、位置補正計算部63では、Y1軸に平行にかかる外力成分EF(Y1)を減少させるようにY1軸に平行であって外力成分EF(Y1)がかかる方向、つまり芯ズレを吸収する方向にハンド2を微小な単位距離(ΔY1)だけ移動させる位置補正データを発生して、動作制御部61に供給する。動作制御部61は供給された位置補正データに従って多関節アーム機構10を制御してハンド2をY1軸と平行に単位距離(ΔY1)だけ移動させる。この位置補正の処理は、外力成分EF(X1)及び外力成分EF(Y1)がゼロ値又は所定の閾値未満になるまで繰り返される。それにより
図6(b)に示すようにワークWの中心線(Zw)がチャック機構3のZ2軸に一致する。このように芯ズレが吸収され、チャック機構3からチャック閉端の検出信号を受信したとき(S9)、動作制御部61はワークWのチャック機構3への供給の完了を判定する(S10)。
【0035】
ワークWのチャック機構3への供給が完了したとき、動作制御部61から記憶部65にチャックのステータスコードが供給される。その時の位置データはチャック完了のステータスコードを付帯され、記憶部65に記憶される(S11)。
図6(c)に示すように、動作制御部61はハンド2を制御して、ワークWを開放させるとともに、多関節アーム機構10を制御して、チャック機構3に拘止されたワークWからハンド2を離脱させる(S12)。
【0036】
次に、工程S13において、
図7に示すように、アプローチ位置姿勢計算部64により、記憶部65に記憶されたチャック完了時の位置データ(関節角度データセット)に基づいてロボット座標系上のチャック完了位置(X01,Y01,Z01)とチャック完了姿勢(θX01,Y01,Z01)とが求められ、チャック完了位置(X01,Y01,Z01)とチャック完了姿勢(θX01,Y01,Z01)とからハンド2のアプローチ位置とアプローチ姿勢とが計算され、記憶部65に記憶される。アプローチ姿勢としては例えばチャック完了姿勢(θX01,Y01,Z01)が維持される、また、アプローチ位置としては、例えばチャック完了位置(X01,Y01,Z01)を、チャック面34に垂直なZ2軸と平行にチャック面から離反する方向に所定距離だけシフトさせた位置に計算される。
【0037】
工程S14において、動作制御部61によりワークWの供給数が予定数に達しているか否か判定され、ワークWの供給数が予定数に達していればタスク完了として(S14;YES)、当該処理が終了される。ワークWの供給数が予定数に達していないとき(S14;NOS)、次のワークWをハンド2で把持する(S15)。例えばワークWのロット番号を読み取り、当該ワークWが、姿勢補正や位置補正をされた最初のワークWと同じロット番号であるか否かが判定される。同じロット番号はそれらワークWが同じ条件で製造されたものであることを表しており、ワークWの外形寸法や素材等が比較的均一である可能性が高い。
【0038】
当該次のワークWが、姿勢補正や位置補正をされた最初のワークWと同じロット番号であるとき(S16;YES)、教示されたアプローチ位置及びアプローチ姿勢に代えて、位置補正及び姿勢補正されたチャック完了位置及びチャック完了姿勢に基づいて工程S13で計算されたアプローチ位置及びアプローチ姿勢が適用される。ワークWを把持したハンド2は、当該計算されたアプローチ位置にアプローチ姿勢で移動される(S17)。そして工程S3にリターンして、その位置及び姿勢からハンド2がチャック面34に接近し、ワークWがチャック面34に押し付けられる。
【0039】
当該次のワークWは位置補正及び姿勢補正されたワークWと同じロットであるので、外形寸法の交差は比較的近似しており、またストッカには同じ状態で整然と並んでいて把持ズレも近似していることが多いので、工程S6の姿勢補正や工程S8の位置補正が実質的に不要になる。または、教示されたアプローチ姿勢、教示されたアプローチ位置に移動した後にハンド2の位置及び姿勢を補正する場合よりもそれら補正に要する時間が少なくとも短縮される。従ってワーク供給のサイクルタイムの短縮を図ることができる。さらに位置補正及び姿勢補正が行われた場合であっても、教示されたアプローチ姿勢、教示されたアプローチ位置に移動した後にハンド2の位置及び姿勢を補正するよりも、補正量は小さくなる。それにより、ワークW、ハンド2、多関節アーム機構10、さらにチャック機構3に加わる外力が小さくなり、それらの消耗を抑えることができる。また、工作機械5のチャック機構3のチャック面34に対するワークWの隙間を低減して加工精度の低下を解消することができる。
【0040】
つまり、教示されたアプローチ姿勢、教示されたアプローチ位置はマスターのワークWを用いて予め設定されており、教示に用いたマスターのワークWが実際の量産に用いられるワークWの公差の中央にいる保証はなく、マスターのワークWが量産に用いられるワークの公差の中央になかった場合は、量産時にその誤差をその都度補正する必要があり、その補正時間分だけサイクルタイムが延びてしまう。しかしワークWで位置補正及び姿勢補正した以降は、それと同じロットで製造されたワークWに対してはアプローチ位置及びアプローチ姿勢として、当該補正したチャック完了位置及びチャック完了姿勢から計算したアプローチ位置及びアプローチ姿勢を適用することにより、補正時間の短縮を図ることができる。
【0041】
工程S16において、当該ワークWのロット番号が、位置補正及び姿勢補正したワークWのロット番号と異なるとき、つまり別ロットで製造されているとき、公差や把持ズレが位置補正及び姿勢補正したワークWに対するそれらと相違する可能性が高いものとして、工程S2にリターンし、教示されたアプローチ姿勢で、教示されたアプローチ位置に移動し、それら位置及び姿勢からの位置補正及び姿勢補正を実行する。
【0042】
同一ロットのワークWに対しては同じアプローチ姿勢及びアプローチ位置を適用するものとしたが、それに限定されることはなく、直前のワークWのチャック完了位置及びチャック完了姿勢に基づいてアプローチ姿勢及びアプローチ位置を計算し、当該アプローチ姿勢及びアプローチ位置を今回のワークWに適用し、このように繰り返しアプローチ姿勢及びアプローチ位置を計算し適用するものであってもよい。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
1…ロボット装置、2…ハンド、3…チャック機構、4…力覚センサ、5…工作機械、6…ロボット制御装置、10…多関節アーム機構、12,14,16,17,18―1,18-2,18-3…回転関節、18…手首部、61…動作制御部、62…姿勢補正計算部、63…位置補正計算部、64…アプローチ位置姿勢計算部、65…記憶部。