(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20240730BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20240730BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240730BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A01M7/00 S
A01N25/06
A01P7/04
A01N53/06 110
(21)【出願番号】P 2023097809
(22)【出願日】2023-06-14
(62)【分割の表示】P 2019549301の分割
【原出願日】2018-10-16
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2017203735
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿南 鋭三郎
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特許第7297668(JP,B2)
【文献】特開2014-152132(JP,A)
【文献】特開2006-325489(JP,A)
【文献】特開2000-178101(JP,A)
【文献】特開2014-019674(JP,A)
【文献】特開2004-215662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
A01N 25/06
A01P 7/04
A01N 53/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填され、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成され、
前記エアゾール組成物は、前記噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子が20%以上含まれるよう噴射され、
前記噴口から20cm離れた位置における前記エアゾール組成物の噴射荷重は、16~50gfであり、
1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLである、害虫防除用定量噴射型エアゾール製品。
【請求項2】
原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物を、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成されたエアゾール製品を用いて、
1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLとなるよう噴射し、かつ、
前記噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子を20%以上含み、かつ、前記噴口から20cm離れた位置における噴射荷重が、16~50gfとなるよう噴射する、害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法に関する。より詳細には、本発明は、噴射されたエアゾール組成物が視認されやすく、かつ、揮散性化合物を広範囲に拡散させることができ、優れた害虫防除効果を得ることのできる害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、殺虫剤等を室内空間に拡散する手段として、燻煙剤や全量噴射型のエアゾール製品が知られている。しかしながら、燻煙剤は、熱を発生するものがある。また、全量噴射型のエアゾール製品は、室内の壁面や床面等を溶剤により汚染する可能性がある。そこで、殺虫剤を微量噴射し、室内において殺虫効果を持続させることを意図したエアゾール製品が知られている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、噴射されたエアゾール組成物の視認性が充分でなく、かつ、揮散性化合物が広範囲に拡散されにくい。そのため、特許文献1に記載の方法は、薬効の得られる範囲が狭く、かつ、薬効の得られる範囲を判別しにくい。また、もし仮に、1回の噴射によって充分な薬効を付与し得る量が噴射されていた場合であっても、使用者は、噴射されたエアゾール組成物を充分に視認できないため、必要回数以上に噴射し、エアゾール製品を使用し過ぎる可能性がある。
【0005】
ところで、噴射されたエアゾール組成物の視認性を向上させるために、1回あたりの噴射量を多くすることが考えられる。しかしながら、1回あたりの噴射量が多くなると、噴射範囲に偏りが生じやすく、かつ、床面を汚染しやすい。
【0006】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、噴射されたエアゾール組成物が視認されやすく、かつ、揮散性化合物を広範囲に拡散させることができ、優れた害虫防除効果を得ることのできる害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するための条件について鋭意研究し、以下の知見を得た。すなわち、原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物を、粒子径および噴射荷重が特定の範囲となるよう噴射し、かつ、1回の噴射量を特定量に調整することにより、噴射されたエアゾール組成物の視認性を高めつつ、噴射されたエアゾール組成物を広範囲に拡散させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
上記課題を解決する本発明の害虫防除用定量噴射型エアゾール製品は、原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填され、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成され、前記エアゾール組成物は、前記噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子が20%以上含まれるよう噴射され、前記噴口から20cm離れた位置における前記エアゾール組成物の噴射荷重は、16~50gfであり、1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLである、害虫防除用定量噴射型エアゾール製品である。
【0009】
また、上記課題を解決する本発明の害虫防除方法は、原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物を、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成されたエアゾール製品を用いて、1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLとなるよう噴射し、かつ、前記噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子を20%以上含み、かつ、前記噴口から20cm離れた位置における噴射荷重が、16~50gfとなるよう噴射する、害虫防除方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、噴射されたエアゾール組成物が視認されやすく、かつ、揮散性化合物を広範囲に拡散させることができ、優れた害虫防除効果を得ることのできる害虫防除用定量噴射型エアゾール製品および害虫防除方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、視認性評価において○と評価された実施例5のエアゾール組成物の噴射状態を説明する写真である。
【
図2】
図2は、視認性評価において×と評価された比較例1のエアゾール組成物の噴射状態を説明する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<害虫防除用定量噴射型エアゾール製品>
本発明の一実施形態の害虫防除用定量噴射型エアゾール製品(以下、エアゾール製品ともいう)は、原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、エアゾール容器に取り付けられるエアゾール定量バルブと、エアゾール定量バルブに取り付けられるステム機構と、ステム機構およびエアゾール定量バルブを操作するとともに、エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成された噴射ボタンとを主に備える。本実施形態のエアゾール製品により噴射されたエアゾール組成物は、噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子が20%以上含まれる。また、本実施形態のエアゾール製品によれば、噴口から20cm離れた位置におけるエアゾール組成物の噴射荷重は、16~50gfとなるよう調整されている。さらに、本実施形態のエアゾール製品の1回あたりの噴射量は、1.0~3.0mLである。以下、それぞれの構成について説明する。なお、本実施形態のエアゾール製品は、噴射されたエアゾール組成物の粒子径および噴射荷重、および、エアゾール組成物の1回あたりの噴射量が上記特定の種類および範囲となるよう調整されていることを特徴とする。そのため、その他の構成(たとえば原液の種類、エアゾール製品の形状、他の成分および配合量、容器内圧等の各種物性等)は、上記範囲を満たすものであればよく、特に限定されない。したがって、以下の詳細な説明のうち、噴射されたエアゾール組成物の粒子径および噴射荷重、および、エアゾール組成物の1回あたりの噴射量が上記特定の種類および範囲となるよう調整されていること以外は、いずれも例示である。
【0013】
(原液)
原液は、拡散すべき所望の成分を配合し得る。このような成分は特に限定されない。一例を挙げると、原液は、蒸気圧が1.0×10-5mmHg(25℃)以上の揮散性化合物を好適に含む。
【0014】
蒸気圧が1.0×10-5mmHg(25℃)以上の揮散性化合物は特に限定されない。揮散性化合物の蒸気圧は、1.0×10-5mmHg(25℃)以上であることが好ましく、1.5×10-5mmHg(25℃)以上であることがより好ましく、2.0×10-5mmHg(25℃)以上であることがさらに好ましい。また、揮散性化合物の蒸気圧は、1.5×10-3mmHg(25℃)以下であることが好ましく、1.0×10-3mmHg(25℃)以下であることがより好ましい。揮散性化合物の蒸気圧が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、空間への広がり性が優れる。
【0015】
揮散性化合物は、害虫防除効果を奏するものであれば、特に限定されない。一例を挙げると、揮散性化合物は、ピレスロイド系化合物、カーバメート系化合物、オキサジアゾール系化合物等の殺虫化合物を含む。これらの揮散性化合物は、併用されてもよい。
【0016】
ピレスロイド系化合物は、メトフルトリン(蒸気圧:1.5×10-5mmHg(25℃))、プロフルトリン(蒸気圧:7.7×10-5mmHg(25℃))、トランスフルトリン(蒸気圧:2.7×10-5mmHg(25℃))、テラレスリン(蒸気圧:6.6×10-4mmHg(25℃))等である。これらの中でも、殺虫効果が高い点から、ピレスロイド系化合物は、トランスフルトリンを含むことが好ましい。
【0017】
カーバメート系化合物は、プロポクスル(蒸気圧:2.1×10-5mmHg(25℃))、カルバリル(蒸気圧:4.1×10-5mmHg(23.5℃))等である。これらの中でも、蒸気圧が高く、殺虫活性が高いという理由から、カーバメート系化合物は、プロポクスルであることが好ましい。なお、カルバリルの蒸気圧は、25℃において4.1×10-5mmHg以上である。
【0018】
オキサジアゾール系化合物は、メトキサジアゾン(蒸気圧:1.1×10-3mmHg(25℃))等である。殺虫化合物は、これら以外にも、有機リン剤系としてジクロルボス(蒸気圧:1.6×10-2mmHg(25℃))や幼若ホルモン様物質である、ハイドロプレン(蒸気圧:1.9×10-4mmHg(25℃))、アミドフルメト(蒸気圧:1.1×10-3mmHg(20℃))などであってもよい。なお、アミドフルメトの蒸気圧は、25℃において1.1×10-3mmHg以上である。
【0019】
揮散性化合物としてこれら殺虫化合物が用いられることにより、たとえば、クロゴキブリ、チャバネゴキブリ、ヤマトゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ等のゴキブリ、クモ、ムカデ、アリ、ゲジ、ヤスデ、ダンゴムシ、ワラジムシ、シロアリ、ケムシ、ダニ、ノミ、トコジラミ、シラミ等の匍匐害虫、カ、ハエ、ガ、ハチ、カメムシ、カツオブシムシ、シバンムシ、キクイムシ、イガ、コイガ等の飛翔害虫等が好適に防除され得る。
【0020】
揮散性化合物の含有量は特に限定されない。揮散性化合物の含有量は、揮散性化合物の種類によって、適宜調整され得る。一例を挙げると、揮散性化合物が上記殺虫化合物である場合、殺虫化合物の含有量は、原液中、0.3w/v%以上であることが好ましく、1w/v%以上であることがより好ましい。一方、殺虫化合物の含有量は、原液中、100w/v%であってもよい。殺虫化合物の含有量が0.3w/v%未満である場合、エアゾール製品は、所望する殺虫効果を充分に発揮できないか、広範囲に拡散されにくい可能性がある。
【0021】
原液は、適宜溶媒を含んでもよい。溶媒は、上記揮散性化合物を適宜溶解させて、エアゾール容器内で噴射剤と混合させやすくしたり、揮散性化合物の室内への拡散の補助するために、含有され得る。
【0022】
溶媒は、特に限定されない。一例を挙げると、溶媒は、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)等である。これらの中でも、溶媒は、揮散性化合物を溶解しやすく、安価であり、取り扱い易い点から、エタノール、IPMであることが好ましい。
【0023】
溶媒が含まれる場合、溶媒の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶媒の含有量は、原液中、0容量%を超えることが好ましく、10容量%以上であることがより好ましい。一方、溶媒の含有量は、原液中、99容量%以下であってもよい。溶媒の含有量が99容量%を超える場合、エアゾール製品は、有効成分の配合量が少なくなり、有効成分を配合することによる効果が充分に得られない可能性がある。
【0024】
原液は、好適に配合される上記揮散性化合物や溶媒のほかに、任意成分が含まれてもよい。一例を挙げると、任意成分は、不揮散性または難揮散性化合物;各種香料;抗菌剤;非イオン、陰イオンまたは陽イオン界面活性剤;ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤;タルク、珪酸等の無機粉体、消臭剤、色素等である。
【0025】
(噴射剤)
噴射剤は、原液とともにエアゾール容器に加圧充填される内容物である。噴射剤は、後述するエアゾール定量バルブが作動されることにより、原液とともに後述する噴射ボタンの噴口から噴射される。その際、噴射剤は、原液を噴射する際の推進力を付与するとともに、エアゾール組成物を微粒子化し、空間中に拡散させる。
【0026】
噴射剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、噴射剤は、液化ガスである。液化ガスとしては、液化石油ガス、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン等の炭素数3~5個の脂肪族炭化水素、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン、トランス-2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン等のハイドロフルオロオレフィン、ジメチルエーテルおよびこれらの混合物等が例示される。液化ガスは、圧縮ガスが併用されてもよい。圧縮ガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス、圧縮空気等が例示される。これらの中でも、噴射剤は、圧力がプロパンやブタン等の成分配合比により調整可能である液化石油ガスであることが好ましい。
【0027】
本実施形態のエアゾール製品は、20℃における原液と噴射剤との配合割合(体積比)が50/50~0.5/99.5に調整されることが好ましく、30/70~5/95に調整されることがより好ましく、20/80~10:90に調整されることがさらに好ましい。噴射剤の配合割合(体積比)が、99.5体積%を超える場合、エアゾール組成物は、エアゾール容器から漏洩する可能性がある。一方、噴射剤の配合割合(体積比)が、50体積%未満である場合、エアゾール組成物は、噴射後に、噴口から液ダレする可能性がある。
【0028】
原液および噴射剤が充填された状態において、25℃におけるエアゾール定量バルブの内圧は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.25MPa以上であることがより好ましい。また、25℃におけるエアゾール定量バルブの内圧は、0.8MPa以下であることが好ましく、0.6MPa以下であることがより好ましい。エアゾール定量バルブの内圧が0.2MPa未満である場合、エアゾール組成物は、噴射後に、噴口から液ダレする可能性がある。一方、エアゾール定量バルブの内圧が0.8MPaを超える場合、エアゾール組成物は、エアゾール容器から漏洩する可能性がある。なお、エアゾール定量バルブの内圧は、たとえば、25℃でWGA-710C計装用コンディショナ((株)共和電業製)に取り付けたPGM-E小型圧力センサ((株)共和電業製)をエアゾール定量バルブに接続することにより測定することができる。
【0029】
エアゾール製品全体の説明に戻り、上記した原液および噴射剤を含むエアゾール製品は、エアゾール容器に加圧充填される。エアゾール容器は、特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール容器は、上部に開口が形成された略円筒状の耐圧容器である。開口は、エアゾール組成物を充填するための充填口であり、原液が充填されたのち、後述するエアゾール定量バルブによって閉止される。
【0030】
エアゾール容器の材質は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール容器の材質は、アルミニウムやブリキ等の金属、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂、耐圧ガラス等である。
【0031】
エアゾール定量バルブは、エアゾール容器内に充填されたエアゾール組成物を取り出すための機構であり、エアゾール容器の開口に取り付けられ、開口を閉止する。また、本実施形態のエアゾール定量バルブは、エアゾール容器から取り出されたエアゾール組成物を一時的に貯留するための定量室が形成されている。定量室の容積は、1回の噴射によって噴射されるエアゾール組成物の容量に相当する。本実施形態の定量室の容積は、1.0~3.0mLである。
【0032】
ステム機構は、エアゾール定量バルブに取り付けられる部位であり、エアゾール定量バルブに取り込まれた原液および噴射剤を、後述する噴射ボタンに送るための内部通路が形成されている。内部通路は、ステム機構のステムラバーによって適宜開閉される。
【0033】
噴射ボタンは、エアゾール容器から、エアゾール定量バルブによってステム機構を介して取り込まれた原液を、噴射剤とともに噴射するための部材である。噴射ボタンには、エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成されている。
【0034】
噴口の数、寸法および形状は特に限定されない。一例を挙げると、噴口の数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、噴口の寸法(噴口直径)は、0.3mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましく、1.2mm以上であることがさらに好ましい。また、噴口直径は、3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましく、1.8mm以下であることがさらに好ましい。これらであることにより噴口周りの濡れがほとんどなく、また噴射時間も凡そ1秒以内となり操作性も良い。噴口の形状(断面形状)は、円形、楕円形、角形、各種不定形であってもよい。
【0035】
本実施形態のエアゾール製品は、使用者によって噴射ボタンが操作されることにより、ステム機構およびエアゾール定量バルブが作動し、エアゾール容器内と外部とが連通する。これにより、エアゾール容器内のエアゾール組成物は、エアゾール容器内と外部との圧力差に従ってエアゾール容器から一定量が取り出され、噴射部材の噴口から噴射される。
【0036】
本実施形態のエアゾール製品によって噴射されるエアゾール組成物は、測定温度25℃において、噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子を20%以上含む。このような粒子径が88μm以上である粒子は、噴口から20cm離れた位置において、30%以上含まれることが好ましく、40%以上含まれることがより好ましい。また、このような粒子径が88μm以上である粒子の割合は、噴口から20cm離れた位置において、100%であってもよい。粒子径が88μm以上である粒子の割合が20%未満である場合、エアゾール製品は、害虫防除効果が低下する傾向がある。また、粒子径が88μm以上である粒子の割合が上記範囲内となるよう噴射されることにより、エアゾール製品は、噴射されたエアゾール組成物の視認性を向上させつつ、揮散性化合物を広範囲に拡散させやすい。なお、噴射されたエアゾール組成物の粒子径は、たとえばレーザー光回折式粒度測定装置(LDSA-1400A マイクロトラック・ベル(株)製)を用いて測定し得る。本実施形態において、噴口から20cm離れた位置における、粒子径が88μm以上である粒子の割合が20%以上となるよう調整する方法は特に限定されない。このような粒子径の割合は、エアゾール組成物の種類、内圧、噴口の数、形状等により適宜調整され得る。
【0037】
本実施形態のエアゾール製品によって噴射されるエアゾール組成物は、測定温度25℃において、噴口から20cm離れた位置における噴射荷重が、16gf以上であり、20gf以上であることが好ましく、25gf以上であることがより好ましい。また、エアゾール組成物は、噴口から20cm離れた位置における噴射荷重が50gf以下であり、45gf以下であることが好ましく、40gf以下であることがより好ましい。噴射荷重が16gf未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、広範囲に拡散されにくい。一方、噴射荷重が50gfを超える場合、噴射されたエアゾール組成物は、噴射力が強すぎて、直接殺虫したときの効力が弱まる傾向がある。本実施形態のエアゾール製品は、噴射荷重が上記範囲内となるよう調整されることにより、噴射されたエアゾール組成物の視認性を向上させつつ、揮散性化合物を広範囲に拡散させやすい。なお、噴射されたエアゾール組成物の噴射荷重は、たとえばデジタルフォースゲージ(DS2-2N、(株)イマダ製)を用いて測定し得る。本実施形態において、噴口から20cm離れた位置での水平方向における、噴射荷重が16~50gfとなるよう調整する方法は特に限定されない。このような噴射荷重は、エアゾール組成物の種類、内圧、噴口の数、形状等により適宜調整され得る。
【0038】
本実施形態のエアゾール製品は、1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLとなるよう調整されている。1回あたりの噴射量は、1.0mL以上であればよい。また、1回あたりの噴射量は、3.0mL以下であればよく、2mL以下であることが好ましく、1.5mL以下であることがより好ましい。1回あたりの噴射量が1.0mL未満である場合、噴射されたエアゾール組成物は、視認されにくい。一方、1回あたりの噴射量が3.0mLを超える場合、噴射されたエアゾール組成物は、粒子径が大きくなり、広範囲に拡散せず落下しやすい。1回あたりの噴射量を調整する方法は特に限定されない。1回あたりの噴射量は、たとえば、エアゾール定量バルブにおける定量室の容量、噴射ボタンを操作した際に、エアゾール容器内と外部とが連通する時間等を適宜調整することにより、調整され得る。なお、本実施形態のエアゾール製品は、噴射回数が1回であっても所望の効果が得られるが、要すれば、噴射回数が2回以上であってもよい。
【0039】
本実施形態のエアゾール製品は、上記した噴射されたエアゾール組成物の粒子径および噴射荷重を特定し、かつ、1回あたりの噴射量を1.0~3.0mLとなるよう調整することにより、噴射されたエアゾール組成物の視認性を向上させつつ、揮散性化合物を広範囲に拡散させることを達成している。
【0040】
本実施形態のエアゾール製品の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール製品は、エアゾール容器に原液を充填し、定量室の設けられたエアゾール定量バルブによってエアゾール容器の開口を閉止し、ステム機構を介して噴射剤を加圧充填することによって製造することができる。一例を挙げると、噴射ボタンとしては、トリガーボタン、プッシュダウンボタン等であってもよい。
【0041】
以上、本実施形態のエアゾール製品によれば、噴射されたエアゾール組成物が視認されやすく、かつ、揮散性化合物が広範囲に拡散される。その結果、本実施形態のエアゾール製品によれば、広範囲において、優れた害虫防除効果が得られる。
【0042】
<害虫防除方法>
本発明の一実施形態の害虫防除方法は、原液と、噴射剤とを含むエアゾール組成物を、エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成されたエアゾール製品を用いて、1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLとなるよう噴射し、かつ、噴口から20cm離れた位置において、粒子径が88μm以上である粒子を20%以上含み、かつ、噴口から20cm離れた位置における噴射荷重が、16~50gfとなるよう噴射する方法である。
【0043】
本実施形態の害虫防除方法を実施するにあたり、エアゾール組成物およびエアゾール製品は、いずれも上記実施形態において説明したものと同様のものを使用し得る。
【0044】
本実施形態において、噴射回数は、1回であってもよい。本実施形態の害虫防除方法によれば、1回あたりの噴射量が1.0~3.0mLであるため、噴射回数が1回であっても、使用者は、噴射されたエアゾール組成物が視認しやすい。また、噴射回数が1回であっても、噴射されたエアゾール組成物は、拡散しやすく、広範囲に薬効が付与され得る。なお、本実施形態の害虫防除方法によれば、噴射回数が1回であっても所望の効果が得られるが、要すれば、噴射回数が2回以上であってもよい。
【0045】
以上、本実施形態の害虫防除方法によれば、噴射されたエアゾール組成物が視認されやすく、かつ、揮散性化合物が広範囲に拡散される。その結果、本実施形態の害虫防除方法によれば、広範囲において、優れた害虫防除効果が得られる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0047】
<エアゾール製品>
使用したエアゾール製品の詳細を以下に示す。
噴射ボタン1:噴口径:φ0.6mm
噴射ボタン2:噴口径:φ1.8mm
噴射ボタン3:噴口径:φ1.2mm
噴射ボタン4:噴口径:φ1.4mm
定量バルブ1:1回吐出量:0.2mL
定量バルブ2:1回吐出量:1.0mL
定量バルブ3:1回吐出量:1.6mL
定量バルブ4:1回吐出量:2.2mL
【0048】
(実施例1)
原体として5.88gのトランスフルトリン(蒸気圧:2.7×10-5mmHg(25℃))に適量のミリスチン酸イソプロピル(IPM)を加え100mLにメスアップし調合した原液15.3mLをエアゾール缶(満中容量142mL)に充填、定量バルブ2を装着した後、噴射剤(液化石油ガス(LPG) 飽和蒸気圧:0.34MPa(25℃))74.7mLを加圧充填し、噴射ボタン2を取り付けエアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(バルブの内圧。以下同様)(25℃)は、0.31MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0049】
(実施例2)
噴射剤(LPG 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を加圧充填した以外は、実施例1と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.47MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0050】
(実施例3)
原体として19.72gのトランスフルトリンに適量のエタノールを加え100mLにメスアップし調合した原液4.5mLおよび噴射剤(LPG 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))85.5mLを加圧充填した以外は、実施例1と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.47MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0051】
(実施例4)
原体として1.97gのトランスフルトリンに適量のエタノールを加え100mLにメスアップし調合した原液45mLおよび噴射剤(LPG 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))45mLを加圧充填した以外は、実施例3と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.38MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0052】
(実施例5)
原液にIPMの代わりに適量のエタノールを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.31MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0053】
(実施例6)
噴射ボタン3を用いた以外は、実施例5と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.31MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0054】
(実施例7)
原体として5.52gのメトフルトリン(蒸気圧:1.5×10-5mmHg(25℃))を用いた以外は、実施例5と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.31MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、9.1mgが噴射される。
【0055】
(実施例8)
噴射ボタン4を用いた以外は実施例5と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.31MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0056】
(実施例9)
原体として3.75gのトランスフルトリンに適量のエタノールを加え100mLにメスアップした原液34mLをエアゾール缶(満注容量287mL)に充填、定量バルブ3を装着した後、噴射剤(液化石油ガス(LPG) 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))166mLを加圧充填し、噴射ボタン3を用いエアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.39MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0057】
(実施例10)
原体としてトランスフルトリンの配合量を9.1gとし、定量バルブ4、噴射ボタン2を用いた以外は実施例9と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.56MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0058】
(比較例1)
原体として29.4gのトランスフルトリンに適量のIPMを加え100mLにメスアップした原液6.8mLをエアゾール缶(満注容量59mL)に充填、定量バルブ1を装着した後、噴射剤(液化石油ガス(LPG) 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))33.2mLを加圧充填し、噴射ボタン1を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.46MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0059】
(比較例2)
トランスフルトリンの配合量を58.8gとした以外は、比較例1と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.46MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、20mgが噴射される。
【0060】
(比較例3)
トランスフルトリンの配合量を47gとした以外は、比較例1と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.46MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、16mgが噴射される。
【0061】
(比較例4)
噴射剤(LPG 飽和蒸気圧:0.20MPa(25℃))を加圧充填した以外は、実施例5と同様の方法により、エアゾール製品を作製した。このエアゾール製品の内圧(25℃)は、0.23MPaであった。このエアゾール製品を用いることにより、原体は、1回あたり、10mgが噴射される。
【0062】
得られた実施例1~10および比較例1~4のエアゾール製品について、以下の方法により、噴口から20cm離れた位置における粒子径が88μm以上である粒子の割合(粒子比率)および噴口から20cm離れた位置における噴射荷重を測定した。また、以下の評価方法に従って、害虫防除効果を評価した。結果を表1または表2に示す。
【0063】
<粒子比率>
レーザー光回折式粒度測定装置(LDSA-1400A マイクロトラック・ベル(株)製)を用いて、噴口から20cm離れた位置における粒子径が88μm以上である粒子の割合を測定温度25℃にて測定した。
【0064】
<噴射荷重>
デジタルフォースゲージ(DS2-2N、(株)イマダ製、φ:60mm円盤)を用いて噴口から20cm離れた位置での水平方向における噴射荷重(gf)を測定温度25℃にて測定した。
【0065】
<害虫防除効果>
8畳チャンバー(寸法:横幅360cm、奥行き360cm、高さ240cm)の中央にて、それぞれのエアゾール製品を1回噴射した。24時間後、供試虫(アカイエカ雌成虫を100匹)を放逐した。60分後、ノックダウン(KD)数を計数し、KD率(ノックダウンした供試虫数/全供試虫数)を算出した。試験温度は25℃とした。ノックダウンした供試虫を清潔なカップに回収し、水で湿らせた脱脂綿を入れ、24時間後の致死数を計数し、致死率(致死した供試虫数/全供試虫数)を算出した。なお、比較例3は、未実施であり、表2では、「-」と表記されている。
【0066】
<視認性>
エアゾール製品を1回噴射し、目視にて、視認可能であるか確認した。試験温度は25℃とした。
図1は、視認性評価において○と評価された実施例5のエアゾール組成物の噴射状態を説明する写真である。
図2は、視認性評価において×と評価された比較例1のエアゾール組成物の噴射状態を説明する写真である。
(評価基準)
○:エアゾール組成物は、目視にて視認可能であった。
×:エアゾール組成物は、目視にて視認することができなかったか、困難であった。
【0067】
【0068】
【0069】
表1および表2に示されるように、実施例1~10のエアゾール製品を用いた場合、比較例1~4のエアゾール製品を用いた場合に比べ、害虫防除効果が優れ、8畳チャンバー内に分布するほぼすべての供試虫をノックダウン、致死させることができた。また、実施例1~10のエアゾール製品は、いずれも、噴射時に視認可能であった。これにより、本発明のエアゾール製品は、1回噴射により、噴射されたエアゾール組成物が視認されやすく、かつ、原液中の成分を広範囲に拡散させ得ることが分かった。なお、比較例1~3のエアゾール製品を用いた場合、噴射時に、噴射されたエアゾール組成物を視認することが困難であった。