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  • 特許-機能的な機械的部品 図1
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  • 特許-機能的な機械的部品 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】機能的な機械的部品
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/14 20060101AFI20240730BHJP
   G04B 13/02 20060101ALI20240730BHJP
   G04B 1/10 20060101ALI20240730BHJP
   G04B 31/016 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G04B15/14 A
G04B15/14 B
G04B13/02 Z
G04B1/10
G04B31/016
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023129732
(22)【出願日】2023-08-09
(65)【公開番号】P2024087755
(43)【公開日】2024-07-01
【審査請求日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】22214742.3
(32)【優先日】2022-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン・コルニール
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0335078(US,A1)
【文献】特開昭62-206483(JP,A)
【文献】特表2011-515670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
F16C 29/00 - 33/66
F16H 55/00 - 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントの機械的部品(2、3)であって、
この機械的部品(2、3)には、1つの機能面があり、
前記1つの機能面は、他の機能面と摩擦接触するように意図されており、
前記機械的部品(2、3)の少なくとも前記1つの機能面は、ポリエチレンフラノエートによって作られている
ことを特徴とする機械的部品(2、3)。
【請求項2】
前記機械的部品(2、3)全体がポリエチレンフラノエートによって作られている
ことを特徴とする請求項1に記載の機械的部品(2、3)。
【請求項3】
パレット(4)、エスケープ車(6)、車セットのアーバー、ベアリング、メインばね、及び歯車の歯列から選択される機械的部品(2、3)である
ことを特徴とする請求項1に記載の機械的部品(2、3)。
【請求項4】
請求項1に記載の機械的部品(2、3)と、
他の機械的部品とを備える機能的アセンブリー(1)であって、
前記他の機械的部品には、前記機械的部品(2、3)の前記1つの機能面と摩擦接触するように意図された前記他の機能面があり、
前記他の機械的部品の少なくとも前記他の機能面は、ポリエチレンフラノエート、ルビー及び鋼から選択される材料によって作られる
ことを特徴とする機能的アセンブリー(1)。
【請求項5】
前記摩擦接触は、潤滑される
ことを特徴とする請求項4に記載の機能的アセンブリー(1)。
【請求項6】
前記摩擦接触は、油を用いて潤滑される
ことを特徴とする請求項5に記載の機能的アセンブリー(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用中に他の機能面と摩擦接触するように意図された機能面がある機械的部品に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年代に、Tissot社は、ムーブメント内に、特にポリマー製のスイス式レバーエスケープを含む、コンポーネントを備える最初のプラスチック製の携行型時計(例、腕時計、懐中時計)であるAstrolonを発売した。この携行型時計の初期の仕様は以下のように単純であった。
- ムーブメント内のコンポーネントの数を削減すること
- 潤滑の必要性をなくすこと
- 生産プロセスを改善すること
【0003】
このような状況で、その製造方法は射出成形であり、ポリマーは、その性質のおかげで、前記必要性を満足させて、この携行型時計の製造を可能にした。スイス特許文献CH334708には、射出方法と、選択される材料、すなわち、ポリアミド66(PA66)、が記載されている。
【0004】
2000年代に、Swatch社が実質的に同じ仕様に基づくSistem51を発売した。射出方法は同じであるが、選択されたポリマーは、ポリオキシメチレン(POM)である。エスケープの非常に微細な潤滑によって、要求される性能レベルをムーブメントが達成することができている。
【0005】
現在も摩擦性能を向上させる努力がなされている。また、摩擦性能で知られているPOMのようなポリマー材料は、石油ベースであり、リサイクルが難しいという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、POMと比べて摩擦性能が改善されたポリマー材料を見出すことである。
【0007】
本発明の別の目的は、摩擦用途に一般的に用いられている材料に代わる、生物由来の代替物質、すなわち、非石油由来の代替物質、を見出すことである。
【0008】
この目的のために行われた多くの試験によって、ポリエチレンフラノエート(PEF)であるポリマーに注目することとなった。
【0009】
特に、本発明は、他の機能面と摩擦接触するように意図されている1つの機能面がある機械的部品に関し、前記機械的部品の少なくとも前記1つの機能面は、ポリエチレンフラノエート(PEF)によって作られる。
【0010】
PEFの機械的性質は、POMと同様であり、POMと同様にPEFを射出することができるが、PEFには、生物由来でありリサイクル可能であるという付加的な利点がある。いくつかの摩擦試験は、とりわけ、計時器用部品にポリマーであるPEFを用いることによって、接触に起因する摩耗の影響を受けることなく、POMと比べて、潤滑された接触領域の性能を改善し、平均動的摩擦係数を低下させることを示した。
【0011】
本発明の別の態様は、上記の機械的部品と、他の機械的部品とを備える機能的アセンブリーに関し、前記他の機械的部品には、前記機械的部品の前記1つの機能面と摩擦接触するように意図された機能面があり、前記他の機械的部品の少なくとも前記機能面は、ポリエチレンフラノエート、ルビー及び鋼から選択される材料によって作られる。
【0012】
添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点を明確に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】PEF/PEF対及びPOM/POM対の負荷に応じた摩擦の平均動的係数の曲線を示している。
図2】PEF/PEF対、PEF/ルビー対及びPEF/鋼対の負荷に応じた平均動的摩擦係数の曲線を示している。
図3】2つの部品、特に、本発明に係るPEF製の車を備えるエスケープ車及びパレットレバーのパレット、を備える機能的アセンブリーを部分的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、いわゆる機能面又は接触面のうちの1つ又は複数において、他の部品又は同じ部品の1つ又は複数の機能面との摩擦を受ける機械的部品に関する。この機械的部品は、摩擦が懸念される任意のシステムにおいて用いることができる。利用可能な用途は、自動車又は電子部品などを含むことができる。特に、この機械的部品は、計時器用分野において用いられる部品であることができ、特に、ムーブメントの部品であることができる。部品の例としては、パレット、エスケープ車、車セットのアーバー、ベアリング、メインばね、及び歯車の歯列がある。前記部品は、他の部品と接触する場合がある。例として、計時器の分野において、図3に示している機能的アセンブリー1は、パレットレバー5のパレット4である第1の部品2と、エスケープ車6である第2の部品3とを含むことができる。特に、パレット4には、エスケープ車6の歯7の休み用平面Cとインパルス用平面Dとそれぞれ連係する、休み用平面Aとインパルス用平面Bがある。これらの平面A、B、C及びDは、高レベルの摩擦及び/又は接触を受ける大きな応力が与えられる機能面であり、摩擦を低減させるために特別な材料を用いる必要がある。典型的には、この車は、摩擦性能を改善するために、少なくともPEFによって作られる。代わりに、部品の1つの機能面は、同じ部品の別の機能面と接触することができる。例えば、その部品は、ばねの一方の面がばねの他方の面と接触するように意図されているような、ブレードによって形成されるメインばねであることができる。
【0015】
本発明によると、機械的部品は、少なくとも部分的にポリエチレンフラノエート(PEF)によって作られる。このようにして、少なくとも前記一又は複数の機能的表面は、PEFによって作られる。好ましくは、前記部品は、全体的にPEFによって作られる。POMとの摩擦比較試験を行い、その結果を図1に示した。接触領域を時計技師用の油を用いて潤滑して、直径2mmのボールを用い交番線形モードでボールオンフラット型のトライボメーターを用いて試験を行った。ボールと平面は、1対ではPEF、他の対ではPOMで作られている。15mの距離にわたって、最大正弦波速度10mm/s、振幅4mm、垂直力1、5、10、25、50及び100mNで、試験を行った。運動中の様々な可能性のある接触領域を反映するように、特に、様々な解放相とインパルス相におけるエスケープの接触領域の進展を反映するように、負荷を広い範囲にわたって動かした。
【0016】
PEF/PEF対の摩擦係数(CoF)は、POM/POM対の基準の係数と比べて、少なくとも等価ないし低いことがわかる。負荷が十分になるとすぐに、流体力学的摩擦において典型的に認められる極めて低い値まで油はCoFを低下させる。PEFを用いることによって、CoFをさらに低下させ、0.05未満の値を得ることができる。また、摩擦係数を改善したが、摩耗の劣化は認められなかった。
【0017】
計時器の産業において典型的に用いられる他の対抗物、特にルビーや鋼、との摩擦を同じ試験条件下で評価した。ボールは試験中にその材料によって作った。図2に結果を示し、比較のためにPEF/PEF対を与えた。概して、対抗物の弾性変形が抑えられ、したがって摩擦力が抑えられるので、CoFがさらに低くなっている。達成した値は、かなり広範囲の負荷にわたって0.05を大幅に下回った。これらの対抗物の硬度及び大きい負荷の使用は、PEFを劣化させず、摩耗も認められなかった。
【0018】
結論として、PEFによって作られた部品に対して行った摩擦試験の結果は、POMによって作られた部品に対して行った結果と少なくとも同等であった。
【符号の説明】
【0019】
1 機能的アセンブリー
2、3 機械的部品
4 パレット
6 エスケープ車
7 歯
A、C 休み用平面
B、D インパルス用平面
図1
図2
図3