(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20240730BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16L59/02
C04B38/00 301Z
(21)【出願番号】P 2023207190
(22)【出願日】2023-12-07
【審査請求日】2023-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴賀 俊光
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】森清 義則
(72)【発明者】
【氏名】永吉 厚志
(72)【発明者】
【氏名】福井 一生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 久史
(72)【発明者】
【氏名】佐々山 博亘
(72)【発明者】
【氏名】延原 薫
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-82216(JP,A)
【文献】特開2019-78337(JP,A)
【文献】特開2016-40226(JP,A)
【文献】特開2016-61421(JP,A)
【文献】特開2013-49610(JP,A)
【文献】特開2013-1596(JP,A)
【文献】特開2012-81701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
F16L 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フュームドシリカを62~86質量%、赤外線不透過材を10~30質量%含有する混合物を成形して得られる断熱材であって、
細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径が
8.9nm以上15.8nm以下、全細孔数が
4.4×10
16
個/g以上12.1×10
16
個/g以下であり、
かつ800℃における熱伝導率が
0.057W/(m・K)以下、圧縮強度が
0.44MPa以上、硬度が
77以上である、断熱材。
【請求項2】
前記フュームドシリカのDBP吸収量が
378mL/100g以上449mL/100g以下である、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記フュームドシリカのBET比表面積が300~
450m
2/gである、請求項1又は2に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルへの取組みとして、製鋼用炉等の熱ロス低減や燃料電池の発電効率向上等のために断熱材の断熱性能、特に高温下での断熱性能の向上が求められている。一方で、断熱材の施工や組立て時のハンドリング性、高温下使用時における内容物の熱膨張に対する耐圧縮性、輸送時等における耐振動性のために、高強度、高硬度であることも求められている。一般的に断熱性能と強度、硬度は相反関係にあり、それらの両立は難しい。
【0003】
従来、断熱材の原料としては、フュームドシリカ等のシリカの超微粉末が汎用されており、例えば特許文献1には、シリカの超微粉末を多孔体に単独で成形するために、その粉末特性、成形体の微構造、成形方法等に工夫を凝らすことにより、良好な断熱性や成形性を持つシリカ成形体を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、シリカの超微粉末を単独で成形しているため、輻射の影響が大きくなる高温下(400℃以上)では断熱性能が急激に低下してしまう懸念がある。すなわち、特許文献1の技術で得られるシリカ成形体(断熱材)では、特に高温下での断熱性能に問題があった。また、特許文献1の技術で得られるシリカ成形体(断熱材)の強度及び硬度はシリカ単独での成形を前提としているため、他の原料との混合物の成形体とした場合は十分とはいえない場合があった。なお、特許文献1の技術では、シリカの超微粉末に添加物(繊維や赤外線不透過材等)を混合して圧縮成形することをそもそも想定しておらず、添加物を混合すれば成形性が悪化してしまうことが想像される。
【0006】
以上に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高温下での断熱性能に優れ、しかも高い強度と硬度を具備する断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、次の断熱材が提供される。
フュームドシリカを62~86質量%、赤外線不透過材を10~30質量%含有する混合物を成形して得られる断熱材であって、
細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径が8.9nm以上15.8nm以下、全細孔数が4.4×10
16
個/g以上12.1×10
16
個/g以下であり、
かつ800℃における熱伝導率が0.057W/(m・K)以下、圧縮強度が0.44MPa以上、硬度が77以上である、断熱材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温下での断熱性能に優れ、しかも高い強度と硬度を具備する断熱材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明(実施例1)による断熱材の細孔分布を示したグラフ。
【
図2】比較例1における断熱材の細孔分布を示したグラフ。
【
図3】フュームドシリカの製造過程を示した模式図。
【
図4】フュームドシリカにおけるストラクチャーの違いを示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
室温における空気中の分子の平均自由行程は約70nmである。したがって直径70nm以下の空隙を有する多孔質体内では空気の対流や伝導による伝熱が抑制されるため、このような多孔質体は優れた断熱性を示すことが知られている。本発明では、断熱材を従来よりも格段に低熱伝導化並びに高強度化及び高硬度化するために、多孔質体における70nm以下の範囲における細孔の分布や断熱材内部の細孔数に着目し、鋭意検討した。
【0011】
超微粉末からなる断熱材の場合、その細孔径の分布は概ね以下3つに分類される。
(1)100nm以下
一次凝集体における鎖状の一次粒子によって囲われる細孔(
図1、2に示すモード径A)
(2)100nm~10μm
二次凝集体における一次凝集体同士の隙間や、繊維同士の隙間にできる細孔(
図1、2に示すモード径B)
(3)10μm以上
二次凝集体同士の隙間や成形体の欠陥、クラック等による比較的大きな空間(
図1、2の試料の場合は無し)
【0012】
本発明において断熱材の主原料として用いるフュームドシリカは純度が高く、耐熱性が800℃以上と高い材料であり、
図3に模式的に示すように、四塩化ケイ素を酸素、水素と火炎中(1000℃以上)で燃焼させることによりシリカの超微粒子を生成させることで得られる(火炎加水分解法)。一次粒子(粒径約5~30nm)は火炎中で他の粒子と結合し、複雑な鎖状構造を持つ一次凝集体(粒径約100~400nm)を形成する。一次凝集体を一次粒子にまで分解することは困難であり、一次凝集体が粉体としての実質的な最小単位となる。本発明者らは、この一次凝集体の70nm以下の範囲における細孔径(モード径)を極力小さくし、更には凝集体の鎖状構造の絡み合いや凝集体同士の隙間等により形成される細孔の数を増加させることで、断熱材を従来よりも低熱伝導化並びに高強度化及び高硬度化できることを見出した。
【0013】
一次凝集体の細孔径を極力小さくするには、例えばフュームドシリカの比表面積を大きくして一次粒子を小さくすることにより実現できる。一次粒子を小さくするためには、例えば四塩化ケイ素の供給量や燃焼時間等の製造条件を調整して一次粒子が成長する前に結合させ、一次凝集体にする等が挙げられる。一次粒子径が小さくなった一次凝集体における細孔径はより小さくなるため、細孔分布におけるモード径は小さくなる。また、一次凝集体の鎖状構造の複雑さ(分岐の数や鎖の長さ(ストラクチャー)、表面性状(表面シラノール基の数など))も細孔径や細孔数に影響すると考えられ、これらが複合して断熱材の断熱性能や強度、硬度が決定されると考えられる。
【0014】
細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径を極力小さくすることが断熱材の低熱伝導化に寄与している理由として、細孔といっても一次凝集体における鎖状の一次粒子の緩やかな空間であるため、分子の振動、回転、並進、収縮、伸長等の運動により、部分的に細孔の大きさが変化することで、気体分子による伝熱を完全に抑制することができないからであると推察している。そのため、より小さい細孔径(モード径)を有しているほど(特に20nm以下の場合)、細孔の大きさが多少変化したとしても、空気中の分子の平均自由行程よりは小さくなることで気体分子の伝熱抑制に貢献することが考えられる。
また、一次凝集体が更に他の凝集体とvan der Waals力により物理的に結合することで二次凝集体(粒径約10~50μm)が形成される。その結合力は比較的強くなく、強いせん断力等をかけて解砕することにより分散されて一次凝集体となるが、再凝集を起こしやすい。そのため、主に二次凝集体内に形成される100nm以上の細孔を完全に排除することは難しい。そこで、一次凝集体における鎖状構造をより大形化かつ複雑化することで、一次凝集体又は二次凝集体における細孔数を増加させることが有効である。これにより、鎖状の一次粒子による空間の仕切り数が増えることで、空気の対流や伝導による伝熱がより抑制され、断熱性が向上する。更には、仕切り数が増えれば細孔が緻密化して粒子間における点接触が増えるため、構造的に硬度や強度が向上する。
【0015】
本発明では前述の技術的考察の下、具体的に以下のような構成とすることで、断熱材の低熱伝導化並びに高強度化及び高硬度化を実現した。すなわち、本発明の断熱材は、微細気孔を作るためのフュームドシリカを62~86質量%、高温域の輻射熱を反射するための赤外線不透過材を10~30質量%含有する混合物を成形して得られ、細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径が20nm以下、全細孔数が3.5×1016個/g以上の超微細多孔質材である。これにより、800℃における熱伝導率が0.06W/(m・K)以下、圧縮強度が0.4MPa以上、硬度が75以上である断熱材を得ることができる。
【0016】
混合物中の各原料の含有率は、断熱材の低熱伝導化並びに高強度化及び高硬度化のためにフュームドシリカが70~86質量%、赤外線不透過材が10~25質量%であることがより好ましい。
ここで、本発明において混合物とは、断熱材の各原料と後述するバインダーとを混合した物のことをいい、混合物中の各原料の含有率は、断熱材の各原料とバインダーの固形分との合量100質量%に占める割合のことをいう。
【0017】
更に本発明では、細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径を16nm以下、全細孔数を4.5×1016個/g以上とすることで、800℃における熱伝導率が0.055W/(m・K)以下である断熱材を得ることができる。
なお、本発明において熱伝導率は、熱線法、具体的にはJIS R 2251-1に準拠して測定する。
【0018】
本発明において断熱材の主原料として用いるフュームドシリカは、そのDBP吸収量が370mL/100g以上であることが好ましく、390mL/100g以上であることがより好ましい。DBP吸収量の大小はフュームドシリカにおけるストラクチャーの大小に相当する。ストラクチャーとは、複数の一次粒子同士の連結による鎖状、分岐構造であり、一次凝集体の大きさや構造の広がり等に関係する。ストラクチャーが大きい(長い)場合は、
図4で示すように、一次凝集体における鎖状構造の絡み合いがより多くなることで平均細孔直径がより小さくなり、かつ細孔数が増加すると考えられ、これにより、前述の通り断熱材の断熱性と強度、硬度の向上に寄与する。したがって、このような凝集構造を調整するのにストラクチャーの制御は有効と考えられる。
また、フュームドシリカの比表面積(BET法、N
2吸着:BET比表面積)は300~500m
2/gであることが好ましく、400~450m
2/gであることがより好ましい。前述の通り、比表面積は大きい方が低熱伝導化し、硬度や強度も高くなる。すなわち、比表面積が小さいと気孔径が大きくなり熱伝導率が高くなる。ただし、比表面積が大きすぎると、凝集力が強いために凝集体が分散しづらくなると共に、一次粒子が小さいために焼結が進みやすくなることで耐熱性が低下する懸念がある。なお、焼結抑制による耐熱性の向上等のために、混合物中にはフュームドアルミナや沈降アルミナなどを含んでいてもよい。
【0019】
高温下(400℃以上)での断熱では、輻射による伝熱が熱伝導や対流と比較して格段に大きくなるため、高温下での伝熱抑制としては輻射低減が有効である。そのため本発明では、混合物中に、赤外線を反射、吸収等する材料として赤外線不透過材を含有する。赤外線不透過材としては、炭化けい素や酸化鉄、ケイ酸ジルコニウム、酸化チタン等の屈折率の高い材料を使用できる。効率的に輻射熱を反射させるために、赤外線波長を考慮して、赤外線不透過材の平均粒径(D50)を1~5μmとすることが好ましく、2~4μmとすることがより好ましい。また、赤外線(輻射)の遮蔽には混合物中の含有率と分散性も重要であり、赤外線不透過材の含有率を10~30質量%として、ミキサー等でフュームドシリカと混合して互いを衝突等させることで極力解砕し、分散と混合をさせるのがよい。なお、赤外線不透過材の含有率が10質量%を下回ると、輻射による伝熱が増大し、熱伝導率が高くなる。また、赤外線不透過材の含有率が30質量%を上回ると、フュームドシリカの含有率が低下することで細孔が粗大化し、強度や硬度が低下するだけでなく、熱伝導率も高くなる。
【0020】
また、成形体である断熱材の保形性を向上するために、混合物中には無機質繊維を含んでいてもよい。無機質繊維は無機物からなる繊維であり、シリカ繊維やガラス繊維、アルミナ繊維等を使用できる。耐熱性とコストを考慮すると、シリカ繊維(SiO2含有率95質量%以上)を用いることが好ましい。無機質繊維の混合物中の含有率は、成形性や加工性の観点から1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。また、無機質繊維の形状としては、平均繊維径を4~12μm、平均繊維長を3~10mmとすることが好ましい。さらに好ましい範囲は、無機質繊維の平均繊維径が5~9μm、平均繊維長が5~8mmである。
【0021】
断熱材のかさ密度は高い方が硬度や強度が得られるが、高すぎると断熱性が悪化するおそれがあり、低すぎると強度が低下するおそれがあることから、240~350kg/m3であることが好ましく、260~310 kg/m3であることがより好ましい。
【0022】
本発明の断熱材は、以下の工程を含む製造方法により得ることができる。
(1)混合工程:断熱材の原料、すなわち、フュームドシリカ、赤外線不透過材、無機質繊維等をミキサーにて乾式混合し、更に無機質バインダー(コロイダルシリカ溶液等)を噴霧しながらミキサーにて乾式混合して粉状の混合物を作製する。
(2)成形工程:混合工程で得られた混合物を用い、多数の孔が設けられた上下のプレス部を有するプレス成形機による乾式一軸加圧成形を行う。
【0023】
前述の混合工程では、比表面積やストラクチャーの大きなフュームドシリカを十分に解砕、分散、混合する。これにより、細孔径をより小さくし、細孔数を増加させることができる。その結果、熱伝導率が低減し、更には強度や硬度が向上する。また、赤外線遮蔽効果の高い赤外線不透過材も併せて十分に解砕、分散、混合されるため、高温下であっても高い断熱性が得られる。
混合工程で用いるミキサーは粉体(特に凝集体)を解砕するのに適切なせん断力、衝撃力等を有していれば、特に限定されない。ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、スパルタンミキサー等が使用できる。ミキサーに用いる羽根の形状については高いせん断力を発揮できる形状であればよく、適切なものを選定する。
【0024】
なお、本発明の断熱材は、前述の成形工程で得られる成形体を加熱する加熱工程を含むことなく製造することができる。よって、短いタクトタイムでの製造が可能であり、かつ加熱設備が不要なため、イニシャルコスト、ランニングコスト共に抑制することができることから、総合的に製造コストを低減できる。更には製造時におけるCO2排出量が少なくて済むため、カーボンニュートラルにも貢献する。
以上説明したように、本発明の断熱材の製造方法では熱処理等の後処理が不要なため、低コストであるだけでなく、製造が簡便でタクトタイムが早いにもかかわらず、高耐熱、低熱伝導率で高強度の断熱材を得ることができる。
【0025】
本発明の断熱材の用途は特に限定されないが、例えば、取鍋,混銑車,タンデッシュ等の製鋼用炉、均熱炉,加熱炉等の圧延炉、浸炭炉,金属焼結炉,誘導処理炉等の熱処理用炉、溶解炉,燃料加熱炉等の非鉄金属用炉、ガラス溶解炉,セメント焼成炉,耐火物焼成炉等の窯業用炉、あるいは二次電池のセル間やモジュール間、燃料電池の改質器やセルスタック等の高温部の断熱に用いることができる。
【実施例】
【0026】
表1に、本発明の実施例及び比較例について、それぞれの原料配合と得られた断熱材の物性値を示している。
【0027】
【0028】
表1に示した各物性値の測定方法は以下の通りである。なお、特に断りがなければ室温(約20~25℃)で測定する。
[フュームドシリカのDBP吸収量(吸油量)]
断熱材の原料であるフュームドシリカのDBP(フタル酸ジブチル)吸収量(吸油量)を吸収量測定装置(あさひ総研製S410E、JIS K 6217-4準拠)により測定した。オイルの滴下速度を4mL/minとして最大トルクの70%でのDBP滴下量(mL)を算出し、試料100gあたりに換算した値をDBP吸収量(mL/100g)とした。
[細孔分布]
断熱材の細孔分布をJIS R1655に基づいて水銀ポロシメーター(Micromeritics製Autopore IV 9520)により測定した。試料はホルダーに投入可能なサイズ(長さ・幅・厚さ各10mm以下)に加工し、測定条件は表面張力を0.480 N/m、接触角を140°とした。測定範囲を0.004~500μmとし、Log微分細孔容積分布(dV/d(logD))において、70nm以下の範囲内に見られるピークにおける細孔径を「細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径」(以下、「モード径(≦70nm)」という。)とした。全細孔数(個/g)については、細孔の形を球状に代表して、水銀ポロシメーターでの測定で得られる平均細孔直径(4V/A)より球の体積の公式(4/3×π×(半径)3)を用いて細孔1個当たりの容積(mL/個)を求めたうえで、全細孔容積(mL/g)を細孔1個当たりの容積で除すことで求めた。
[熱伝導率]
断熱材の熱伝導率(W/(m・K))を熱線法(直交法)による熱伝導率測定装置(有限会社スペインラボ製HWM-15、JIS R 2251-1準拠)により測定した。測定雰囲気は大気、温度設定は室温(25℃)又は800℃とした。試料サイズは長さ230mm、幅114mm、厚さ20mmであり、2枚一組とした。
[圧縮強度]
断熱材の圧縮強度を島津製作所製オートグラフにより測定した。試料サイズを長さ50mm、幅50mm、厚さ20mmとし、圧縮速度は0.5mm/minとした。このとき、初期の厚みから10%圧縮した時点での試験力(N)を圧縮面の面積(mm2)で除した値を圧縮強度(MPa)とした。
[硬度]
断熱材の硬度をデュロメータ(タイプC、JIS K 7312/JIS S 6050準拠)により測定した。試料サイズは長さ50mm、幅50mm、厚さ20mmであり、任意の5点を測定して、その平均値を算出した。
[かさ密度]
断熱材のかさ密度(kg/m3)については、熱伝導率測定用試料の寸法と質量を測定し、質量を寸法から求まる体積で除して算出した。
【0029】
実施例1では、以下のようにして断熱材を試作した。
断熱材の原料として、フュームドシリカ(BET比表面積400m2/g、DBP吸収量437mL/100g)2.88kg(72質量%)、フュームドアルミナ(BET比表面積100m2/g)0.16kg(4質量%)、赤外線不透過材(炭化けい素(平均粒径(D50)約3μm))0.8 kg(20質量%)、無機質繊維(シリカ繊維(平均繊維径約7μm、平均繊維長約6mm))0.12kg(3質量%)を準備した。また、バインダーとして、コロイダルシリカ(シリカゾル)溶液(固形分30質量%)0.133kg(1質量%(固形分))を準備した(各原料とバインダー固形分との合計4kg)。
まず、フュームドシリカ、フュームドアルミナ、赤外線不透過材、無機質繊維の全量をヘンシェルミキサー(回転数 約3000rpm)にて14分間乾式混合し、次いで、バインダーの全量をスプレーノズルでの噴霧により添加しながらミキサー(前記同条件)にて6分間乾式混合して粉状の混合物を得た(計20分間混合)。
その後、プレス成形機における金枠のプレス面のうち、底面側に網を設置し、混合物を約0.92kg投入し、上面側にも網を設置して、多数の孔が設けられた上下のプレス部により混合物を約1MPaの成形圧で脱気しながら1分間乾式一軸加圧成形して断熱材試料の原板(長さ400mm、幅300mm、厚さ26mm)を得た。
次いで、原板の表面をマシニングセンターによるフライス加工により平滑化し、厚さを20mmまで削減した上で所定の寸法にカットして各試験片を得た。
【0030】
実施例2~7及び比較例1~3についても、実施例1と同様にして断熱材を試作し、各試験片を得た。なお、実施例2~7及び比較例1~3における、実施例1との相違点は以下の通りである。
実施例2では、フュームドシリカとして、BET比表面積300m2/g、DBP吸収量394mL/100gのものを用いた。
実施例3では、フュームドシリカとして、BET比表面積450m2/g、DBP吸収量449mL/100gのものを用いた。
実施例4では、フュームドシリカと赤外線不透過材の含有率をそれぞれ62質量%、30質量%とした。
実施例5では、フュームドシリカと赤外線不透過材の含有率をそれぞれ82質量%、10質量%とした。
実施例6では、フュームドシリカ、フュームドアルミナ、赤外線不透過材の含有率をそれぞれ86質量%、0質量%、10質量%とした。
実施例7では、フュームドシリカとして、BET比表面積380m2/g、DBP吸収量378mL/100gのものを用いた。
比較例1では、フュームドシリカとして、BET比表面積200m2/g、DBP吸収量354mL/100gのものを用いた。
比較例2では、フュームドシリカと赤外線不透過材の含有率をそれぞれ92質量%、0質量%とした。
比較例3では、フュームドシリカと赤外線不透過材の含有率をそれぞれ52質量%、40質量%とした。
【0031】
一方、比較例4では、市販のシリカ系断熱材であるニチアス製のロスリムボードGH(「ロスリム」は登録商標)の原板(長さ500mm、幅500mm、厚さ25mm)をマシニングセンターによるフライス加工により平滑化し、厚さを20mmまで削減したうえで所定の寸法にカットして各試験片を得た。
【0032】
表1には、実施例1~7及び比較例1~4における各物性値の測定結果を示している。また表2には、実施例1~7における比較例1~4に対する熱伝導率の低減率(実施例の熱伝導率を比較例の熱伝導率で除し、1を引いて得られる値の割合)を示している。
【0033】
【0034】
表1に示す通り、実施例1では、モード径(≦70nm)11.2nm、全細孔数6.0×1016個/g、熱伝導率(800℃)0.047W/(m・K)、圧縮強度0.58MPa、硬度81の断熱材が得られた。また、比較例1~4と比較すると、表2に示す通り、23~83%にまで至る大幅な熱伝導率(800℃)の低減が見られた。更に、断熱性能が高いにもかかわらず、圧縮強度も硬度も高く、比較例1、3の断熱材よりもハンドリング性は良かった。なお、比較例1、3の断熱材では、成形時や断熱材試料の取扱い時にボロツキや欠け等がみられた。実施例1では、比表面積が高くストラクチャーの大きいフュームドシリカにより、一次凝集体における細孔径がより小さくなり、かつ細孔数が多くなっていると推察される。これにより、モード径(≦70nm)が従来技術や市販品と比較して一層低減し、更には、全細孔数が比較例1に対し7.5倍となったことで、全細孔容積や細孔分布の70nm以下の範囲における細孔容積(細孔容積(≦70nm))が比較例1と同程度であるにもかかわらず、断熱性能と圧縮強度、硬度が向上したと考えられる。
【0035】
実施例2~7についても、モード径(≦70nm)8.9~15.8nm、全細孔数4.4~12.1×1016個/g、熱伝導率(800℃)0.046~0.057W/(m・K)、圧縮強度0.44~0.92MPa、硬度77~85の断熱材が得られた。実施例1と同様に、比較例1~4に対して優位な差異を得ることができ、高い断熱性能と高い圧縮強度、硬度との両立を実現することができた。
【要約】
【課題】高温下での断熱性能に優れ、しかも高い強度と硬度を具備する断熱材を提供する。
【解決手段】 フュームドシリカを62~86質量%、赤外線不透過材を10~30質量%含有する混合物を成形して得られる断熱材であって、細孔分布の70nm以下の範囲におけるモード径が20nm以下、全細孔数が3.5×10
16個/g以上であり、かつ800℃における熱伝導率が0.06W/(m・K)以下、圧縮強度が0.4MPa以上、硬度が75以上である、断熱材。
【選択図】
図1