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特許7529891冠微小血管抵抗スコアを判定する電子演算デバイスの作動方法およびデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】冠微小血管抵抗スコアを判定する電子演算デバイスの作動方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20240730BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61B5/026 110
A61B5/0215 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023505384
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 NL2021050470
(87)【国際公開番号】W WO2022019765
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】2026137
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】523026846
【氏名又は名称】メディス アソシエイテッド ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Medis Associated B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エスカネド-バルボサ,ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】メヒア レンテリア,エルナン ダビド
(72)【発明者】
【氏名】レイベル,ヨハン ヘンドリクス クリスティアーン
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-509820(JP,A)
【文献】特表2016-528969(JP,A)
【文献】特開2018-061883(JP,A)
【文献】特開平03-184531(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0032097(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0246034(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0000559(US,A1)
【文献】特表2017-510412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の体内の心筋組織の潅流を示す微小血管抵抗スコアを判定する電子演算デバイスの作動方法であって、
前記電子演算デバイスが、前記哺乳動物が非充血状態である第1の生理状態にある間に得られる、前記心筋組織に血液を供給する心臓血管の近位部、大動脈圧、又は、腕の血圧を示す血圧データを取得し、
前記電子演算デバイスが、前記哺乳動物が前記第1の生理状態にある間に得られる、前記心臓血管内の血液の流データを取得し、
前記電子演算デバイスが、前記心臓血管における圧力低下を示すスルーフローデータを取得し、
前記電子演算デバイスが、取得した前記血圧データおよび前記第1の生理状態に基づいて、充血状態である第2の生理状態に対応する調整血圧データを生成し、
前記電子演算デバイスが、取得した流データおよび前記第1の生理状態に基づいて、第2の生理状態に対応する調整流データを生成し、
前記電子演算デバイスが、前記調整血圧データ、前記調整流データ、および前記スルーフローデータを少なくとも用いて前記微小血管抵抗スコアを生成し、
前記電子演算デバイスが、電子ディスプレイモジュール上に表示するために、電子出力信号を介し、前記微小血管抵抗スコアを提供する、電子演算デバイスの作動方法。
【請求項2】
前記調整血圧データの生成では、前記第1の生理状態における第1血圧データと前記第2の生理状態における第2血圧データとの間のマッピング関係の取り出しが行われる、請求項1に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項3】
前記関係は、表および曲線の少なくとも一方によって記述される、請求項2に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項4】
前記調整流データの生成では、前記第1の生理状態における第1流データと前記第2の生理状態における第2流データとの間のマッピング関係の取り出しが行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項5】
前記関係は、表および曲線の少なくとも一方によって記述される、請求項4に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項6】
前記第1の生理状態は非充血状態であり、前記第2の生理状態は充血状態である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項7】
前記血圧データは、収縮期圧、拡張期圧、前記収縮期圧の経時的な平均値、前記拡張期圧の経時的な平均値、または経時的な平均血圧のうちの少なくとも1つからなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項8】
前記流データの取得では、
前記電子演算デバイスが、前記心臓血管の近位点から遠位点までの長さを取得し、
前記電子演算デバイスが、前記心臓血管の前記近位点から前記遠位点までの流体の通過時間を取得し、
前記電子演算デバイスが、前記長さを前記通過時間で除算することによって前記流データを算出する、請求項1~7のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項9】
前記流データの取得では、
前記電子演算デバイスが、時間的に連続して得られる一連の画像を取得し、
前記電子演算デバイスが、流体部分が前記血管の近位点にある第1画像を判定し、
前記電子演算デバイスが、流体部分が前記血管の遠位点にある第2画像を判定し、
前記電子演算デバイスが、前記第1画像と前記第2画像との間の画像数を判定し、
前記電子演算デバイスが、1秒間に得られる画像のフレームレートを取得し、
前記電子演算デバイスが、前記画像数を前記フレームレートで除算することによって前記流データを算出する、請求項1~7のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項10】
前記スルーフローデータは、前記血管の冠血流予備量比を示す、請求項1~9のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項11】
前記スルーフローデータは、前記血管の形状モデルおよび前記流データに基づいて取得される、請求項10に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項12】
前記微小血管抵抗スコアは、微小血管抵抗指標IMRである、請求項1~11のいずれか一項に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項13】
前記IMRは、前記心臓血管の遠位端での冠血流予備量比と、調整血圧データと、調整通過時間とを乗算することによって取得され、前記流データは血流速度からなり、前記調整通過時間は、前記心臓血管の長さを調整血流速度で除算することによって取得される、請求項12に記載の電子演算デバイスの作動方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されたプロセッサを備えるデータ処理デバイス。
【請求項15】
コンピュータによりプログラムが実行されると、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を前記コンピュータに実行させる命令からなるコンピュータプログラム製品。
【請求項16】
コンピュータにより実行されると、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を前記コンピュータに実行させる命令からなる非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明にかかる様々な態様およびその実装は、冠微小血管抵抗スコアを算出するように構成された電子デバイス、および電子演算デバイスの作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の狭窄に起因する冠動脈の圧力低下を特徴付けるために、冠血流予備量比が定義され、循環器学会の間で広く受け入れられている。この生理学的指標は、検査下において、冠動脈に対する侵襲性の圧力測定を行うことで判定することができる。また、検査中の動脈の再構成を利用する非侵襲的な方法により、例えばCTやX線画像の処理プロトコルによって取得した画像に基づき、高度な数学的アルゴリズムと組み合わせて判定してもよい。冠血流予備量比は、冠動脈の狭窄の機能的重症度を評価するものであり、その意味で、検査下の冠動脈から供給される、心筋組織の灌流低下の尺度となるものである。
【0003】
さらに研究を進めると、冠血流予備量比の指標(すなわち、非虚血性血流予備量比の値)では説明できない心筋組織の潅流低下を示す症例が発見された。冠動脈の狭窄以外による心筋組織の灌流異常の原因を探るには、細動脈と毛細血管とで構成される冠微小循環の状態など、心臓循環における他の構成要素を評価する必要がある。そこで、数年前に開発されたのが、充血状態での冠微小血管抵抗指標(IMR)である。IMRでは、冠動脈内の圧力と流量の測定を組み合わせることにより、最大充血状態における微小血管抵抗を評価し、最終的には、最大の心筋需要下で、動脈および毛細管が心筋組織に血流を供給する能力を反映させる。IMRは、充血状態において、冠動脈の遠位の圧力の平均に、冠動脈の通過時間の平均を乗じたものと定義される。したがって、IMRは、微小循環レベルにおける血管抵抗の指標であり、また、心筋の灌流不全を引き起こす微小血管網の異常状態を反映するものであると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最小の冠微小血管抵抗を評価するためには、最大充血状態、すなわち、細動脈と毛細血管が完全に拡張している状態、したがって、血管抵抗が最小で冠動脈流量が最大である状態が必要となる。通常、身体や心臓を充血状態にするためには、アデノシンなどの強力な血管拡張薬が用いられるが、アデノシンや、アデノシンと同等または類似の効果を持つ他の血管拡張薬を使用することは、必ずしも好ましいとは限らず、または可能でさえない場合がある。また、IMRは、体内の充血状態において得られる指標またはスコアと定義されるが、実際の診療でこの侵襲的な生理学的指標を使用することには限界がある。そこで、血管拡張剤による充血状態の誘発や、専用ワイヤを用いた冠動脈器具の使用を必要としない、冠微小循環の評価方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、第1態様では、哺乳動物、特に人間の体内の冠微小循環の血管抵抗を示す冠微小血管抵抗スコアを電子演算デバイスで判定する方法が提供される。この方法では、哺乳動物が第1の生理状態にある間に得られる、心筋組織に血液を供給する心臓血管の血圧のデータ、好ましくは、冠動脈の近位部におけるデータを取得し、哺乳動物が第1の生理状態にある間に得られる、心臓血管の血液の流速のデータを取得し、心臓血管の圧力低下を示す冠血流予備量比および心臓血管の形状などのスルーフローデータを取得する。この方法では、さらに、第1の生理状態で取得した血圧値に基づき、第2の生理状態に対応する調整血圧データを生成し、第1の生理状態で取得した流量データに基づき、第2の生理状態に対応する調整流量データを生成する。調整血圧データ、調整流量データ、およびスルーフローデータに基づき、冠微小血管抵抗スコアを生成し、電子ディスプレイモジュール上に表示するために、電子出力信号を介して微小血管抵抗スコアを提供する。
【0006】
第1の生理状態、例えば、安静状態において、検査中の対象から得られる受信データ値を、第2の生理状態に対応する調整データに変換する。それにより、パラメータを得るために検査中の対象を第2の生理状態に置く必要なく、IMRまたは類似のスコアを判定することが可能になる。血管を通る血液の変位について、血管の近位端は血管の上流端、血管の遠位端は血管の下流端として理解される。
【0007】
ある実装形態において、調整血圧データの生成では、第1の生理状態における第1血圧データと第2の生理状態における第2血圧データとの間のマッピング関係の取り出しが行われる。このような実装形態では、調整値を効率的に提供することができる。
【0008】
さらなる実装形態において、上記関係は、表および曲線の少なくとも一方によって記述される。複数のデータポイントからなる表を用いることで、少ない計算量で特定の精度に達することができる。特に、曲線が数値的な関係ではなく分析的な関係で記述されている場合には、変換が非常に正確になり、したがって得られる調整データも正確なものとなる。
【0009】
さらに、他の実装形態において、調整流量データの生成では、第1の生理状態における第1流量データと第2の生理状態における第2流量データとの間のマッピング関係の取り出しが行われる。このような実装形態では、調整値を効率的に提供することができる。
【0010】
さらに、他の実装形態において、上述の関係は、表および曲線の少なくとも一方によって記述される。特に、曲線が数値的な関係ではなく分析的な関係で記述されている場合には、変換が非常に正確になり、したがって得られる調整データも正確なものとなる。
【0011】
さらに、他の実装形態において、第1の生理状態は非充血状態であり、第2の生理状態は充血状態である。このような実装形態では、IMRの判定を特に実用的に行うことができる。
【0012】
第2の態様では、第1の態様にかかる方法またはその実装形態を行うように構成されたプロセッサからなる装置・デバイス・システムが提供される。
【0013】
第3の態様では、コンピュータによりプログラムが実行されると、第1の態様にかかる方法をコンピュータに実行させる命令からなるコンピュータプログラム製品が提供される。
【0014】
第4の態様では、コンピュータにより実行されると、第1の態様にかかる方法をコンピュータに実行させる命令からなる非一時的コンピュータ可読媒体が提供される。
【0015】
第5の態様では、第1の態様とは独立して、哺乳動物の体内の心筋組織の潅流を示す微小血管抵抗スコアを電子演算デバイスで判定する方法を提供する。この方法では、非充血状態にある哺乳動物をモニタリングすることで得られる、心筋組織に血液を供給する心臓血管の近位端において心臓血管の血圧値を取得し、非充血状態にある哺乳動物をモニタリングすることで得られる、心臓血管内の血液の通過時間および流量のうち少なくとも1つを取得すると共に、心臓血管の遠位端において心臓血管の冠血流予備量比を取得する。また、この方法では、取得した血圧値および第1の生理状態に基づいて、充血状態に対応する調整血圧を生成すると共に、取得した通過時間および取得した心臓血管内の血液の流量に基づいて、充血状態に対応する調整後の通過時間および調整後の血液の流量のうち、少なくとも1つを生成する。さらに、この方法では、心臓血管の遠位端における血流予備量比、調整血圧データ、および調整通過時間の乗算、および、心臓血管の遠位端における血流予備量比、調整血圧データ、および調整血流速度の逆数の乗算のうち、少なくともの1つにより微小血管抵抗スコアを生成し、電子ディスプレイモジュール上に表示するために、電子出力信号を介し、微小血管抵抗スコアを提供する。この態様は、デバイスおよびコンピュータプログラム製品において実装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電子医療データの取得・処理システムを示す。
図2】第1の態様の一例のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
様々な態様および実施形態について、図面とともに説明する。
【0018】
図1は、第2の態様の一例としての電子医療データ取得・処理システム100を示す。システム100またはその一部は、診療所または病院の心臓カテーテル検査室に配置される。システム100には、第1X線源126および第2X線源128を備えるX線画像取得モジュールと、第1X線源126からX線データを受信するように構成される第1X線検出器122と、第2X線源128からX線データを受信するように構成される第2X線センサ124と、が設けられている。
【0019】
第1X線検出器122および第2X線検出器124は、電子演算デバイス110のデータ取得モジュール116に接続している。電子演算デバイスには、処理ユニット112と、記憶モジュール114と、周辺I/Oコントローラ118と、がさらに設けられる。マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、または他の電子データ処理デバイスとして実装される処理ユニット112は、電子演算デバイス110の様々な部分およびシステム100を制御するように構成され、第1の態様にかかる方法およびその実装形態を実行するように構成される。
【0020】
記憶モジュール114は、例えば、演算デバイス110がシステム100の様々な他の部分から取得したデータを、直接、または処理ユニット112による処理の後に、記憶するように構成される。さらに、記憶ユニット114は、少なくとも部分的に非移行性記憶媒体として実装され、処理ユニット112による第1の態様にかかる方法およびその実装形態の実行を可能にするコンピュータ実行可能コードを記憶するように構成される。
【0021】
システム100には、さらに、本実装形態では任意選択として、第1血圧測定モジュール130が設けられている。第1血圧測定モジュール130には、圧力カフ132と、パルスセンサ136および圧力カフ132を膨張および収縮させることによって圧力カフ132内の空気圧を調整するように構成された圧力調整ユニット138を備える制御ユニット134と、が設けられている。
【0022】
システム100には、別の血圧測定モジュールとして、冠動脈内の遠位圧に対応する圧力チップ148が設けられている。冠動脈用ワイヤに接続された圧力チップ148は、人間のような哺乳動物の体内に挿入されたカテーテル146を介し、冠動脈または血管全般の一例としての心血管構造180の冠動脈182から、データ取得モジュール116に対して圧力を伝達する。さらに、冠動脈カテーテル146の先端は、検査182中に冠動脈の小孔内に配置されると、大動脈圧に対応する血管への近位圧を感知する。図1に示す心血管構造180は仮想構造であってもよく、必ずしも実際の解剖学的構造を表現しているわけではない。
【0023】
周辺I/Oコントローラ118は、演算デバイス110およびその様々な構成要素を、入力デバイスに接続するように構成される。入力デバイスは、例えば、ユーザ入力などのデータを受け付けるキーボード142またはタッチスクリーンである。周辺I/Oコントローラ118は、演算デバイス110およびその様々な構成要素を、電子ディスプレイ144や他の出力デバイスなどの出力デバイスに接続する。出力デバイスは、演算デバイス110が受信する処理済みのデータまたは未処理のデータに関するデータを、ユーザに提供するように構成されたデバイスである。
【0024】
図1に示すように、カテーテル146と圧力ワイヤ148は、冠動脈182に挿入される。冠動脈182は、右側に向かって、微小血管構造184および186内にさらに展開している。主動脈には、狭窄部190が存在している。狭窄領域により、心血管構造180の様々な血管に狭窄が起こり、それにより、今度は狭窄領域において圧力降下が起こる。圧力降下は心筋組織の灌流低下を招き、結果として、被検者の体調に影響を及ぼすことになる。
【0025】
図2に示すフローチャート200に関して、上述したシステム100およびその一部のさらなる機能を以下で説明する。フローチャート200の様々な部分を、以下に簡潔にまとめる。
【0026】
202 スタート
204 第1X線画像セットを取得
206 第2X線画像セットを取得
208 第1セットから画像を選択
210 第2セットから画像を選択
212 モデルを構築
214 FFRを判定
216 調整データを取得
218 流速を調節
220 圧力を調整
222 IMRを算出
224 表示用IMRを提供
226 エンド
232 流速を判定
234 圧力データを取得
【0027】
第1ターミネータ202で開始した処理は、ステップ204に進む。ステップ204では、X線画像取得モジュール、および、第1X線源126と第2X線検出器124を特に用いて、好ましくは非充血状態、より好ましくは安静状態で、冠動脈182の第1X線画像セットを取得する。そのために、カテーテル146を用いて造影剤150を冠動脈182に注入する。造影剤150が冠動脈182内を流れる間、冠動脈182について、時間的に連続した複数の画像を取得する。データは、好ましくは、被検者の非充血状態において取得し、より好ましくは、被検者が安静状態にある間、好ましくは覚醒中に取得する。
【0028】
続いて、または並行して、ステップ206では、第2X線源128および第1X線検出器122を用いて、冠動脈について第2X線画像セットを取得する。第2X線画像セットは、第1X線画像セットを取得した方法についての角度、好ましくは20°~45°、好ましくは30°~40°の間の角度で取得する。
【0029】
並行して、第1X線画像セットまたは第2X線画像セットのいずれかから、冠動脈182内の造影剤150の流速を判定する。造影剤150が特定の距離にわたって流れるのに必要な既知のフレーム量とフレームレート、または造影剤150が特定の距離にわたって流れるのに必要な既知の時間とを用いることで、好ましくは非充血状態、より好ましくは安静状態における、時間単位あたりの距離単位の流速を取得することができる。冠動脈182の断面に対して単位で乗算することにより、体積流量を判定する。冠動脈の血液の流速の取得は、画像データ取得中に取得したデータ、または他のデータに基づいて、好ましくは非充血状態、より好ましくは安静状態で、他の方法により行ってもよい。
【0030】
例えば特許出願EP19212979.9に記載の方法、または他の方法にしたがって、ステップ208で第1X線画像セットから第1画像を選択し、ステップ210で第2X線画像データセットから第2画像を選択する。
【0031】
ステップ212では、選択した画像を用いて、検査下の血管または複数の血管の形状モデルを構築する。ステップ214では、こうして取得したモデルおよび判定した流速を用いて、動脈182に関するスルーフローデータの一例として、血流予備量比を好ましくは計算により取得する。
【0032】
上記の例では、複数のX線源と検出器を用いて取得したデータを利用し、血管の3次元モデルを判定する方法を説明したが、データ取得に他の方法を使用してもよい。他のデータ取得方法は、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)に限らず、静脈内超音波(IVUS)および単一のX線源と検出器を備えて、任意に2セットの画像、1セットの画像、または単一の画像を連続的に取得する方法、造影剤を用いてコンピュータ断層スキャン(CTスキャン)をする方法、または、それらの組み合わせなどがある。
【0033】
血管または複数の血管の解剖学的構造の形状モデルの再構成と並行して、ステップ232では、第1X線画像セット、第2X線画像セット、またはその両方に基づき、血流速度を判定する。流速は、Circulation 1996; 93: 879-888に公開されているC.Michael Gibson e.a.による「TIMI Frame Count」に記載の方法により判定してもよい。適用した画像処理技術、好ましくはX線を用いて、好ましくは処理ユニット110により、血管の近位点から血管の関心点、例えば分岐点または別の遠位点に、造影剤および特にその体積の前部がどの程度のフレームで流れているかを判定する。造影剤の体積の前部の検出には、処理ユニット110により実行される画像認識を用いてもよい。
【0034】
血管の長さやフレームレートのような更なる情報を用いて、造影剤の流速、またそれにより血管内の血液の流速を判定してもよい。血流速度を判定するための他の方法として、造影剤の体積の前部が近位点から遠位点まで移動するのに要する時間を求めてもよいし、血管の長さを求めてもよい。
【0035】
続いて、上述のように取得したモデルまたは他の形状データや、取得したデータに基づき構築したモデルまたは形状データ、および、ステップ232で判定したり、他の方法で取得したりした流速に基づき、FFR(冠血流予備量比)を算出する。同様の原理は、分岐のあるケースにも適用され、各血管内の圧力低下の算出での分岐の影響を組み込むことができる。FFRは、計算流体力学、または定量的流量比(QFR)のような解析モデルまたは計算モデルを用いて算出する。あるいは、圧力チップ148を用いて動脈182内で直接取得した圧力値に基づき、FFRを算出してもよい。
【0036】
冠血流予備量比の判定と並行して、または判定より前に、ステップ234では、被検者の血圧を取得する。好ましくは、非充血状態、より好ましくは安静状態において、冠動脈カテーテル146の先端で得られた冠動脈182の近位端の圧力を取得する。こうして取得される圧力は、通常、大動脈圧と等しいか、または非常に近い値である。この血圧の取得は、冠動脈182に挿入する圧力チップ148、または検査中の被検者の大動脈に対して使用可能なものを用いる方法に限らず、他の方法を適用してもよい。このようにして、大動脈圧の値(収縮期、拡張期、その平均値、または測定値に基づいて判定されたその他の値)を取得し、心臓血管における近位部の想定圧力として使用する。
【0037】
代替的に、または追加的に、第1血圧測定モジュール130を使用して、非侵襲的な方法で検査中の被検者の腕の血圧を取得する。取得した圧力値は、最大値(収縮期)、最大値の平均、平均、最小値(拡張期)、最小値の平均のいずれかであり、さらなる統計処理の有無にかかわらず、データ取得モジュール116またはキーボード142を介して取得する。
【0038】
IMRのような冠微小血管抵抗の生理学的指標は充血状態で得られるものであり、充血状態下では、アデノシンのような充血薬剤の使用や、専用の冠内生理ワイヤを使用する必要がある。これらのIMRのツール(ワイヤと薬剤)は常に利用可能なわけではなく、また、特定のケースでは使用が適さない場合もある。一方で、非充血状態は、覚醒または睡眠のいずれかの安静状態であって、高活性状態、スポーツ、歩行、その他、またはそれらの組み合わせのような心臓ストレス状態とは反対の状態を意味する。冠動脈内生理ワイヤやアデノシンのような充血薬剤を必要とせずにIMRを計算することを目的として、安静状態において、充血生理学パラメータ(すなわち、冠動脈圧および流量)の推定値を導出する。
【0039】
ステップ216では、取得した非充血データを調整するための調整データを取得する。調整データは記憶モジュール114に記憶され、処理ユニット112を使用して引き出せるようにしておく。調整データは、2つの単一の値のセットであって、1つは圧力データ、1つは速度データであってもよいし、曲線または複数の曲線のセット、1つまたは複数の数式、1つまたは複数の曲線、1つまたは複数の表、他のデータ、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0040】
ある実施態様では、圧力は以下の式を用いて調整される。ここで、Pa,acqは取得した圧力値であり、Pa,adjustedは検査中の血管の近位端における調整後の推定充血圧力値である。血流速度データも、同様の方法で調整することができる。
【0041】
【数1】
【0042】
曲線や表のようなより複雑なデータにより調整データが構成される場合、任意で補間や他の数値、統計演算や解析演算を用いて、取得した近位圧力値をマッピングするか、または他の方法によって調整後の近位圧力値に変換する。
【0043】
ステップ218では、取得した調整データを用いて、取得した血流速度の値または血流速度データを調整する。取得した血流速度データ、血流速度値、血管を通る流体の平均通過時間、または取得した血流速度指標の他の指標を、血圧を調整した方法と同様の方法で、QFRアルゴリズムから、上述の第2の生理状態(すなわち、充血状態)に調整する。ある実施態様では、ステップ214でのFFRの判定に調整後の血流速度を用いる。そのような実施態様では、ステップ216およびステップ218はステップ214に先行する。流速を充血状態に調整した後、検査中の血管セグメントの長さと調整後の流速の間の比から、冠動脈の平均通過時間を導出する。FFRは、冠動脈の複数の位置、特に冠動脈の遠位端で判定される。
【0044】
ステップ220では、調整データを用いて血圧値または血圧データを調整する。ステップ222では、調整後のデータに基づき、冠血流予備量比、調整後の充血冠動脈平均通過時間、および調整後の大動脈圧を用いて、IMRを算出する。ある実装形態では、IMRは以下の式を用いて算出される。ここで、FFRは、先に算出されたFFRであり、この実装形態では、該当する冠動脈の遠位点であってもよく、別の実施態様では、近位端であってもよい。IMRの算出には、さらに、モデルまたは実際に得られた血管内の物理的圧力を用いる。ここで、Pa,adjustedは調整後の大動脈または近位血管圧力であり、l/vadjustedは調整後の冠動脈平均通過時間であり、lは心筋組織への血管の侵入のような関心点への冠動脈の長さであり、vadjustedは調整後の血流速度データである。
【0045】
【数2】
【0046】
IMRの算出に、前段落に記載の式とは異なる式を使用してもよい。その場合、取得したデータを直接用いて調整データを組み込むか、造影剤150が血管内の関心点に到達するのに必要な時間フレーム数、血管の長さ並びにフレームレート、他のデータ、またはそれらの組合せを直接用いて計算される。
【0047】
値は、データセットをあるドメインから別のドメインに、例えば充血ドメインから非充血ドメインに変換するために調整される。このような調整ステップには、任意の理由により値を補正するための補正ステップを含めてもよい。代替的にまたは追加的に、補正は別途行われてもよい。任意の理由とは、データの取得または体内パラメータ自体の値に影響を与える可能性のある環境要因に対する補正、使用される特定の機器に対する補正、その他、またはそれらの組合せである。
【0048】
ステップ224では、心血管構造180の潅流の有無を、冠動脈内の狭窄190および微小血管構造186内の異常も考慮に入れて示す潅流スコアまたは(微小)血管抵抗スコアとしてのIMRを処理ユニット112によってさらに処理し、電子ディスプレイ144上にその値を表示させる。代替的にまたは追加的に、データの表示、記憶、またはさらなる処理を行うために、データを別のデータ演算構造にネットワーク接続を用いて送信する準備をする。その後、フローチャート200に示す処理は、ターミネータ226で終了する。
図1
図2