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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】歯車対
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/08 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023554116
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038579
(87)【国際公開番号】W WO2023067685
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 士龍
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慎弥
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-082851(JP,A)
【文献】特表2019-500562(JP,A)
【文献】特開2012-082893(JP,A)
【文献】特開2002-147573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1歯車(G1)と、前記第1歯車(G1)よりも歯数が多い第2歯車(G2)とが、相互に噛み合う歯の噛み合いライン(L)を共有する歯車対において、
前記噛み合いライン(L)の少なくとも一部に圧力角(α)が一定でない領域が含まれており、
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯先側の端点(Pe2)までの区間の圧力角(α)が単調減少となり、
前記第1,第2歯車(G1,G2)の歯形曲線は、前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯先側の端点(Pe2)までの区間の相対曲率(κ)が、前記ピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間の相対曲率(κ)の最大値(κr,κ)以下となることを特徴とする歯車対。
【請求項2】
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間の圧力角(α)が広義単調増加となることを特徴とする、請求項1に記載の歯車対。
【請求項3】
第1歯車(G1)と、前記第1歯車(G1)よりも歯数が多い第2歯車(G2)とが、相互に噛み合う歯の噛み合いライン(L)を共有する歯車対において、
前記噛み合いライン(L)の少なくとも一部に圧力角(α)が一定でない領域が含まれており、
前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯先側の端点(Pe2)までの区間の圧力角(α)が一定であると共に、前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間の圧力角(α)が単調増加となり、
前記第1,第2歯車(G1,G2)の歯形曲線は、前記噛み合いライン(L)におけるピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯先側の端点(Pe2)までの区間の相対曲率(κ)が、前記ピッチ点(Pp)から前記第1歯車(G1)の歯元側の端点(Pe1)までの区間の相対曲率(κ)の最大値(κ)以下となることを特徴とする歯車対。
【請求項4】
前記噛み合いライン(L)の全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動することを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の歯車対。
【請求項5】
前記噛み合いライン(L)の全域で圧力角(α)が0度よりも大きいことを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の歯車対。
【請求項6】
前記第1,第2歯車(G1,G2)は、鍛造成形された傘歯車であることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の歯車対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1歯車と、第1歯車よりも歯数が多い第2歯車との歯車対に関する。
【0002】
本発明及び本明細書において、「相互に噛み合う歯の噛み合いライン」とは、相互に噛み合う歯の接触点(噛み合い点)の移動軌跡に相当する線分をいう。また「噛み合いラインを共有」とは、前記接触点が、噛み合い始点から終点に至るまでの過程において、ひと繋がりの噛み合いライン上で連続的に移動することをいい、例えば、噛み合いラインが分岐(即ち相互に噛み合う歯が2点以上で同時に接触)する事態や不連続となる(即ち接触が途切れる)事態が発生しないことをいう。また「噛み合いライン長さ」とは、噛み合いラインの噛み合い始点からの線分の長さをいう。
【0003】
また本明細書において、「相対曲率」とは、相互に噛み合う歯の接触点における一方の歯の歯形曲線の曲率と他方の歯の歯形曲線の曲率との和として定義され、この相対曲率が小さいほど、接触点における接触応力が低くなって歯面強度が高まる傾向がある。またその相対曲率が大きいほど、噛み合い長さが延びて噛み合い率が高まる傾向がある。即ち相対曲率に関し歯面強度と噛み合い率とは相反する関係にある。
【背景技術】
【0004】
歯車対における各歯車の歯形曲線を定めるに当り、例えば、相互に噛み合う歯の接触点(噛み合い点)における接触応力を低減するために、歯元側の凹部と歯先側の凸部との間を特定形態の移行ゾーンで接続する技術が、例えば特許文献1に開示されるように従来より知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特許第4429390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが特許文献1の歯車対では、歯形曲線を定めるに当って圧力角をどのように定めるのか何も配慮されておらず、またその歯車対が噛み合いラインを共有するか否かについても明確ではない。従って、その歯車対を滑らかに噛み合わせ且つ各歯の強度を高める上での工夫が十分になされているとは言えない。
【0007】
ところで従来周知のインボリュート歯車の歯車対では、相互に噛み合う歯の噛み合いラインが噛み合い始点から終点までひと繋がりとなる(即ち噛み合いラインを共有する)ため、噛み合いが滑らかとなる利点がある。その反面、圧力角が一定であるインボリュート歯車では、噛み合い率を高めるために圧力角を小さくしたり歯丈を大きくしようとすると、歯面面圧の増加に因る歯面強度の低下や、歯元モーメントの増加に因る歯元強度の低下を招いてしまう。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、上記問題を一挙に解決可能とした歯車対を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、第1歯車と、前記第1歯車よりも歯数が多い第2歯車とが、相互に噛み合う歯の噛み合いラインを共有する歯車対において、前記噛み合いラインの少なくとも一部に圧力角が一定でない領域が含まれており、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯先側の端点までの区間の圧力角が単調減少となり、前記第1,第2歯車の歯形曲線は、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯先側の端点までの区間の相対曲率が、前記ピッチ点から前記第1歯車の歯元側の端点までの区間の相対曲率の最大値以下となることを第1の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯元側の端点までの区間の圧力角が広義単調増加となることを第2の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1歯車と、前記第1歯車よりも歯数が多い第2歯車とが、相互に噛み合う歯の噛み合いラインを共有する歯車対において、前記噛み合いラインの少なくとも一部に圧力角が一定でない領域が含まれており、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯先側の端点までの区間の圧力角が一定であると共に、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯元側の端点までの区間の圧力角が単調増加となり、前記第1,第2歯車の歯形曲線は、前記噛み合いラインにおけるピッチ点から前記第1歯車の歯先側の端点までの区間の相対曲率が、前記ピッチ点から前記第1歯車の歯元側の端点までの区間の相対曲率の最大値以下となることを第3の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記噛み合いラインの全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動することを第4の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記噛み合いラインの全域で圧力角が0度よりも大きいことを第5の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第5の何れかの特徴に加えて、前記第1,第2歯車は、鍛造成形された傘歯車であることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1歯車とそれよりも歯数が多い第2歯車とからなる歯車対において、相互に噛み合う歯が噛み合いラインを共有するので、第1,第2歯車は滑らかな噛み合いを実現可能となる。その上、噛み合いラインの少なくとも一部に圧力角が一定でない領域が含まれるため、上記のように噛み合いラインを共有しながらも、その噛み合いラインに関連付けて両歯車の圧力角を種々の変化態様に定めることが可能となり、その定めに応じた所望の特性(例えば、歯面強度)と、滑らかな噛み合いとの両立を図ることが可能となる。
【0016】
また第1の特徴によれば、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の端点までの区間で圧力角が単調減少となり、第1,第2歯車の歯形曲線は、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の端点までの区間の相対曲率が、ピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間の相対曲率の最大値以下となる。つまり、噛み合いラインの全域で圧力角一定の歯車(例えばインボリュート歯車)であれば歯先側の歯面強度が歯元側に比べ余剰となる点を踏まえ、歯先側の圧力角を減少(従って相対曲率を増加)させることで、歯先側の歯面強度の余剰分を噛み合い率の向上に充てることが可能となる。また、第1の特徴の如く歯先側の相対曲率を歯元側の相対曲率の最大値以下とすることで、歯先側の歯面強度が低くなり過ぎないようにする(即ち歯先側の歯面強度を歯元側以上に確保する)ことが可能となる。これにより、歯先側の必要な歯面強度を確保しながら、噛み合い率を両立的に高めることができる。特に、第1の特徴の如く大歯数歯車(即ち第2歯車)に比べ荷重負担が大きい小歯数歯車(即ち第1歯車)の圧力角を定義することで、強度を効果的に高めることができる。
【0017】
また第2の特徴によれば、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間で圧力角が広義単調増加となるので、第1歯車の歯元側では相対曲率を小さくできて歯面強度を高めることができる。しかも歯元側において歯形曲線が負の曲率に近づく或いは負の曲率となることで、歯形が歯元に向かって末広がりとなるため、曲げ強度を高めることができる。従って、特に荷重負担が大きい小歯数歯車(即ち第1歯車)の歯元側の強度を効果的に増大させることができる。
【0018】
また第3の特徴によれば、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の端点までの区間で圧力角が一定であると共に、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間で圧力角が単調増加となり、第1,第2歯車の歯形曲線は、噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯先側の端点までの区間の相対曲率が、ピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間の相対曲率の最大値以下となる。つまり、荷重負担が大きい小歯数歯車(即ち第1歯車)の歯元側の強度を、圧力角の単調増加(従って相対曲率の減少)により高めながら、歯先側の区間では圧力角を一定とすることで噛み合い率を高めることができる。また、歯先側の相対曲率を歯元側の相対曲率の最大値以下とすることで、歯先側の歯面強度が歯元側よりも低くならないようにする(即ち歯先側の歯面強度を歯元側以上に確保する)ことが可能となる。これにより、歯元側及び歯先側の必要な歯面強度を確保しながら、噛み合い率を両立的に高めることができる。
【0019】
また第4の特徴によれば、噛み合いラインの全域で、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動するので、相互に噛み合う歯の接触点における相対曲率も噛み合い中に常に変動する。これにより、噛み合い歯数変動に伴う歯面の噛み合い剛性変化を緩和させるような歯形曲線に設定する(例えば1歯噛み合い領域の相対曲率を小さく、2歯噛み合い領域の相対曲率を大きくする)ことで、ヘルツ接触による歯面の変形を利用して噛み合い剛性変化を相殺し、歯面全域における噛み合い剛性の均一化を図ることが可能となる。
【0020】
また第5の特徴によれば、噛み合いラインの全域で圧力角が0度よりも大きいので、相互に噛み合う歯の接触点における相対曲率が平均的に小さくなり、歯面強度を高めることができる。
【0021】
また第6の特徴によれば、第1,第2歯車は、鍛造成形された傘歯車であるので、傘歯車の複雑な球面歯形でも鍛造により容易且つ精度よく成形可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は第1実施形態に係る歯車対を示すもので、(A)は相互に噛み合う歯の歯面及び噛み合いラインを示し、(B)は噛み合いライン長さに対する圧力角の変化を示し、(C)は噛み合いライン長さに対する歯形曲線の曲率の微分値及び相対曲率の変化を示す図である。
図2図2は第2実施形態に係る歯車対を示すもので、(A)は相互に噛み合う歯の歯面及び噛み合いラインを示し、(B)は噛み合いライン長さに対する圧力角の変化を示し、(C)は噛み合いライン長さに対する歯形曲線の曲率の微分値及び相対曲率の変化を示す図である。
図3図3は第3実施形態に係る歯車対を示すもので、(A)は相互に噛み合う歯の歯面及び噛み合いラインを示し、(B)は噛み合いライン長さに対する圧力角の変化を示し、(C)は噛み合いライン長さに対する歯形曲線の曲率の微分値及び相対曲率の変化を示す図である。
図4図4はEular-Savaryの式を説明するための説明図である。
図5図5はEular-Savaryの式を誘導するための説明図である。
図6図6は第4実施形態に係る歯車対における球面歯形の圧力角の定義を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0023】
G1,G2・・第1,第2歯車
κ・・・相対曲率
κ・・噛み合いラインにおける第1歯車の歯元側の端点での相対曲率(第1実施形態での噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間の相対曲率の最大値)
κ・・噛み合いラインにおけるピッチ点での相対曲率(第2,第3実施形態での噛み合いラインにおけるピッチ点から第1歯車の歯元側の端点までの区間の相対曲率の最大値)
L・・・・・噛み合いライン
Pe1・・・噛み合いラインにおける第1歯車の歯元側の端点
Pe2・・・噛み合いラインにおける第1歯車の歯先側の端点
Pp・・・・噛み合いラインにおけるピッチ点
α・・・・・圧力角
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【第1実施形態】
【0025】
先ず、図1を参照して、第1実施形態の歯車対について説明する。この歯車対は、各々の回転軸線が平行な平歯車よりなり且つ相互に噛み合う第1,第2歯車G1,G2の対である。具体的には、図1(A)で下側の第1歯車G1は、歯数が少ない小径歯車であり且つ駆動歯車として機能する。また上側の第2歯車G2は、第1歯車G1よりも歯数が多い大径歯車であり且つ被動歯車として機能する。尚、小歯数の第1歯車G1と、大歯数の第2歯車G2の何れを駆動側・被動側とするかは任意である。
【0026】
また図1(A)では、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯について、その接触点(以下、「噛み合い点」という)が、太い点線で示す噛み合いラインL上のピッチ点Ppにあるときの歯面相互の噛み合い態様(太い実線が第1歯車G1の歯面、太い鎖線が第2歯車G2の歯面)を示し、併せて、第1歯車G1が噛み合い開始時・終了時にあるときの歯面を示す。
【0027】
尚、第1,第2歯車G1,G2の、噛み合い側と反対側の歯面は、図示されないが、本実施形態では噛み合い側の歯面の形状とは左右対称形である。また図1(A)において、第1歯車G1は反時計方向に、第2歯車G2は時計方向にそれぞれ回転する。
【0028】
第1,第2歯車G1,G2は連動回転し、それに伴い、相互に噛み合う歯の噛み合い点は、連続的に移動する。その移動軌跡、即ち噛み合いラインLは、図1(A)の太い点線で示すように滑らかな曲線となっている。即ち、第1,第2歯車G1,G2の噛み合いラインLは、インボリュート歯車の噛み合いラインのような直線ではない。即ち、第1,第2歯車G1,G2は、インボリュート歯車ではない。
【0029】
また本実施形態の歯車対では、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯が噛み合いラインLを共有する関係にある。
【0030】
より具体的に言えば、相互に噛み合う歯の噛み合い点が、噛み合い始点から終点(即ち第1歯車G1の歯元側の端点Pe1から歯先側の端点Pe2)に至るまでの過程において、ひと繋がりの噛み合いラインL上で連続的に移動する。即ち、噛み合いラインLが分岐(即ち相互に噛み合う歯が2点以上で同時に接触)する事態や不連続となる(即ち接触が途切れる)事態が発生しない。
【0031】
また本発明の歯車対では、図1(B)で示すように、噛み合いラインLの一部領域で圧力角αが一定でない。ここで圧力角αについて説明すると、各々の回転軸線が平行な歯車対の場合、図1(A)で示すように、相互に噛み合う歯の任意の噛み合い点において、ピッチ円のピッチ点における共通接線Laと、噛み合いラインLのピッチ点における接線Lbとの、鋭角側の交差角度αを、該噛み合い点における圧力角と定義する。
【0032】
第1実施形態の歯車対では、噛み合いライン長さに対する圧力角αの変化態様は、図1(B)の太い実線で示される。即ち、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で圧力角αが一定であると共に、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で圧力角αが減少する。ここで「噛み合いライン長さ」とは、前述のように噛み合いラインLの噛み合い始点(即ち第1歯車G1の歯元側の端点Pe1)からの線分の長さをいう。
【0033】
而して、第1実施形態の第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、図1(C)でも明らかなように、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値(即ち第1歯車G1の歯元側の端点Pe1での相対曲率κ)以下となる。
【0034】
ここで、図4で示すように、第1,第2歯車G1,G2の噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppを原点とし且つ両歯車G1,G2のピッチ円の共通接線・共通法線をそれぞれx軸・y軸とした場合のxy座標系において、噛み合いラインL上の任意の噛み合い点Cの座標を(x,y)、当該噛み合い点Cと原点(ピッチ点)とを結ぶ直線長さをr,その直線のy軸に対する鋭角側の交差角度をθとし、第1,第2歯車G1,G2のピッチ円半径をそれぞれR,Rとすると、噛み合い点Cでの第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線の相対曲率κは、相対曲率に関して従来より知られたEular-Savaryの式から、次の式(1)のように表記可能である。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、この式(1)の誘導過程を図5を併せて参照して、次に説明する。図5は、図4と同様、噛み合いラインLをxy座標系で表示したものであり、C点は、噛み合い点(図4の噛み合い点Cに対応)である。そして、第1,第2歯車G1,G2の噛み合いに応じて直線CPが運動することで、C点が噛み合いラインLを描き、且つ第2歯車G2に対し歯形曲線を描くと考える。
【0037】
この場合、第2歯車G2のxy座標系に対する瞬間中心は、第2歯車G2の回転中心Oと一致する。また直線CPについて、C点での運動方向は噛み合いラインLのC点での接線の方向であり、一方、C点に追従するP点での運動方向は、直線CPの方向である。従って、図5で明らかなように、直線CPのxy座標系に対する瞬間中心Qは、噛み合いラインLのC点での法線と、直線CPに対するP点での法線とが交差する点となる。
【0038】
ところで第2歯車G2に対する直線CPの瞬間中心は、周知の三瞬間中心の定理によれば、第2歯車G2のxy座標系に対する瞬間中心Oと、直線CPのxy座標系に対する瞬間中心Qとを結ぶ直線の延長線上に存する。しかもC点での歯面相互の噛み合いはC点での転がり運動と見做されるため、第2歯車G2に対する直線CPの瞬間中心は、直線CPの延長線上に存する。従って、上記した両方の延長線の交点が、第2歯車G2に対する直線CPの瞬間中心Mとなる。
【0039】
以上説明した図5において、直線CQとy軸との交点をSとし、Sから直線CPと平行に引いた直線と直線PQとの交点をHとし、S点のy座標をsとしたときに、直線SHと直線CPが平行である関係で、SH/CP=QS/QCであることから、次の式(2)が成立する。
【0040】
【数2】
【0041】
一方、△SCPにメネラウスの定理を適用して、次の式(3)が導かれる。
【0042】
【数3】
【0043】
ここで、直線OPの長さはRに相当し、また直線PSの長さはsに相当し、また直線CPの長さはrに相当し、また直線CMの長さは、C点での第2歯車G2の歯形曲線の曲率半径ρに相当し、また直線PMの長さは、ρとrの和に相当する。従って、それらの長さ関係と前記式(2)とを前記式(3)に代入、整理することで、次の式(4)が得られる。
【0044】
【数4】
【0045】
この式(4)は、第2歯車G2の、C点での歯形曲線の曲率1/ρを表している。
【0046】
一方、第1歯車G1についても、上記と同様にして、第1歯車G1に対する直線CPの瞬間中心は、図5においてNとなる。そして、第1歯車G1のC点での歯形曲線の曲率半径ρとすれば、上記と同様にして、次の式(5)が導かれる。
【0047】
【数5】
【0048】
この式(5)は、第1歯車G1の、C点での歯形曲線の曲率1/ρを表している。
【0049】
かくして、第1,第2歯車G1,G2の、噛み合い点Cでの歯形曲線の相対曲率κは、前述のように噛み合い点Cでの各歯形曲線の曲率1/ρ,1/ρの和として定義されるため、前記式(4)(5)を足し合わせて整理することで、前述の式(1)が導かれる。
【0050】
以上の誘導過程で得られたEular-Savaryの式(1)に対し、
r=(x+y1/2
cosθ=|y|/r
を代入、整理することにより、相対曲率κは、次の式(6)で表される。
【0051】
【数6】
【0052】
かくして、第1実施形態において、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値以下となる関係式は、次の式(7)で表される。
【0053】
【数7】
【0054】
なお、式(7)では、第1歯車G1を基準として、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから歯先側の区間の相対曲率κが最大となる点をCとすると共にその点Cでの相対曲率をκとし、ピッチ点Ppから歯元側の区間の相対曲率κが最大となる点をCとすると共にその点Cでの相対曲率をκとしている。即ち上記した関係式はκ≧κで表される。また、式(7)では、C点の座標を(x,y)とすると共にC点の座標を(x,y)とし、図5と同様、直線CQとy軸との交点のy座標をsとすると共に直線CQとy軸との交点のy座標をsとしている。
【0055】
第1実施形態の歯車対では、噛み合いラインLの全域で、圧力角αが0度よりも大きく(好ましくは10度以上と)なるよう設定される。また図1(B)でも明らかなように、噛み合いラインLの全域で圧力角αが一定または連続して変化しており、歯形曲線に曲率の発散する点が存在しない。
【0056】
また図1(C)の太い実線は、第1歯車G1の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値(即ち曲率微分値)が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示しており、これによれば、その曲率微分値が歯形曲線全域で一定でないこと、即ち、常に変動することが判る。尚、図示は省略するが、第1,第2歯車G1,G2は、噛み合いラインLを共有するため、第2歯車G2の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値についても同様に、歯形曲線全域で一定でなく、即ち、常に変動する。
【0057】
また図1(C)の太い点線は、歯形曲線の相対曲率が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示している。ここで「相対曲率」とは、前述のように相互に噛み合う歯の噛み合い点における一方の歯の歯形曲線の曲率と他方の歯の歯形曲線の曲率との和として定義され、この相対曲率が小さいほど噛み合い点における接触応力が低くなって歯面強度が高まる傾向がある。
【第2実施形態】
【0058】
次に図2を参照して、第2実施形態の歯車対について説明する。
【0059】
第2実施形態の歯車対においても、第1,第2歯車G1,G2は連動回転し、それに伴い、相互に噛み合う歯の噛み合い点は、連続的に移動する。その移動軌跡、即ち噛み合いラインLは、図2(A)の太い点線で示すように滑らかな曲線となっている。即ち、第1,第2歯車G1,G2の噛み合いラインLは直線ではなく、第1,第2歯車G1,G2はインボリュート歯車ではない。また第2実施形態においても、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯が噛み合いラインLを共有する関係にある。
【0060】
この第2実施形態において、噛み合いライン長さに対する圧力角αの変化態様は、図2(B)の太い実線で示される。また図2(C)の太い実線は、第1歯車G1の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した曲率微分値が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示しており、更に図2(C)の太い点線は、歯形曲線の相対曲率が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示している。
【0061】
第2実施形態では、図2(B)で明らかなように、圧力角αが、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で増加し且つピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で僅かに減少する。
【0062】
而して、第2実施形態の第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、図2(C)でも明らかなように、噛み合いラインLにおける第1歯車G1の歯元側の端点Pe1からピッチ点Ppに近づくにつれて、相対曲率κが漸増していてピッチ点Ppでの相対曲率κが最大となり、且つピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2に至る区間では、相対曲率κが僅かに減少している。即ち、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値(即ちピッチ点Ppでの相対曲率κ)以下となる。
【0063】
ここで、前述のxy座標系(図4を参照)において、第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線の相対曲率κは、前記したEular-Savaryの式(1)に基づいて前記式(6)で表される。また特にピッチ点Ppでの相対曲率κは、前記式(6)で表される相対曲率κの、xを限りなく0に近づけた場合の極限値に相当するため、その相対曲率κは、次の式(8)で表される。
【0064】
【数8】
【0065】
かくして、第2実施形態において、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値(即ちピッチ点Ppでの相対曲率κ)以下となる関係式は、次の式(9)で表される。
【0066】
【数9】
【0067】
なお、式(9)では、第1歯車G1を基準として、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから歯先側の区間の相対曲率κが最大となる点をCとすると共にその点Cでの相対曲率をκとし、ピッチ点Ppでの相対曲率κをκとしている。即ち、上記した関係式はκ≧κで表される。また、式(9)では、C点の座標を(x,y)とし、図5と同様、直線CQとy軸との交点のy座標をsとしている。
【第3実施形態】
【0068】
次に図3を参照して、第3実施形態の歯車対について説明する。
【0069】
第3実施形態の歯車対においても、第1,第2歯車G1,G2は連動回転し、それに伴い、相互に噛み合う歯の噛み合い点は、連続的に移動する。その移動軌跡、即ち噛み合いラインLは、図3(A)の太い点線で示すように滑らかな曲線となっている。即ち、第1,第2歯車G1,G2の噛み合いラインLは直線ではなく、第1,第2歯車G1,G2はインボリュート歯車ではない。また第3実施形態においても、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯が噛み合いラインLを共有する関係にある。
【0070】
この第3実施形態において、噛み合いライン長さに対する圧力角αの変化態様は、図3(B)の太い実線で示される。また図3(C)の太い実線は、第1歯車G1の歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した曲率微分値が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示しており、更に図3(C)の太い点線は、歯形曲線の相対曲率が噛み合いライン長さに応じてどのように変化するかを示している。
【0071】
第3実施形態では、図3(B)で明らかなように、圧力角αが、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間で増加し且つピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で一定となる。
【0072】
而して、第3実施形態の第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、図3(C)でも明らかなように、噛み合いラインLにおける第1歯車G1の歯元側の端点Pe1からピッチ点Ppに近づくにつれて、相対曲率κが漸増していてピッチ点Ppでの相対曲率κが最大となり、且つピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2に至る区間では、相対曲率κが減少している。即ち、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値(即ちピッチ点Ppでの相対曲率κ)以下となる。
【0073】
ここで、前述のxy座標系(図4を参照)において、第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線の相対曲率κは、前記したEular-Savaryの式に基づいて前記式(6)で表される。また特にピッチ点Ppでの相対曲率κは、前記式(6)で表される相対曲率κの、xを限りなく0に近づけた場合の極限値に相当するため、その相対曲率κは、前記式(8)で表される。
【0074】
かくして、第3実施形態において、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値(即ちピッチ点Ppでの相対曲率κ)以下となる関係式は、前記式(9)で表される。
【0075】
次に以上説明した第1~第3実施形態の歯車対の作用を説明する。
【0076】
各々の実施形態の第1,第2歯車G1,G2は、例えば、両歯車G1,G2の基本設計データ(例えば歯数、ピッチ円半径、歯元円・歯先円の直径等)と、噛み合いラインL上の各噛み合い点において設定すべき圧力角α(図1図3の各(B)参照)及び相対曲率κ(図1図3の各(C)参照)のデータとに基づいてコンピュータで演算可能となっており、その演算結果から歯形曲線が一義的に決定可能である。そして、その決定された歯形曲線に基づいて、鍛造成形又は精密機械加工により形成される。
【0077】
かくして製造された第1~第3実施形態の歯車対では、相互に噛み合う歯が噛み合いラインLを共有するので、第1,第2歯車G1,G2は滑らかな噛み合いを実現可能となり、伝動効率アップが図られる。その上、噛み合いラインLの少なくとも一部に圧力角αが一定でない領域が含まれるため、上記のように噛み合いラインLを共有しながらも、その噛み合いラインLに関連付けて両歯車G1,G2の圧力角αを種々の変化態様に定めることが可能となり、その定めに応じた所望の特性(例えば歯面強度)と、滑らかな噛み合いとの両立を図ることが可能となる。
【0078】
また第1~第3実施形態の歯車対では、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の圧力角αが広義単調増加(より具体的には第1実施形態では一定、第2,第3実施形態では増加)となる。これにより、第1歯車G1の歯元側では相対曲率を小さくできて歯面強度を高めることができる。しかも歯元側において歯形曲線が負の曲率に近づく或いは負の曲率となることで、歯形が歯元に向かって末広がりとなるため、曲げ強度を高めることができる。従って、特に歯元側で荷重負担が大きい小歯数歯車(第1歯車G1)における歯元側の強度を効果的に増大させることができる。
【0079】
また特に第1実施形態の歯車対では、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の圧力角αがインボリュート歯車と同様に一定であるのに対して、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間で圧力角αが単調減少となり、第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値以下となる。つまり、噛み合いラインの全域で圧力角一定の歯車(例えばインボリュート歯車)であれば歯先側の歯面強度が歯元側に比べ余剰となるのに対し、第1実施形態の歯車対の如く小歯数歯車(即ち第1歯車G1)の歯先側の圧力角αを減少(従って歯先側では相対曲率κを増加)させることで、歯先側の歯面強度の余剰分を噛み合い率の向上に充てることが可能となる。
【0080】
また第1実施形態の第1歯車G1では、歯先側の相対曲率κを歯元側の相対曲率κの最大値(即ち歯元側の端点Pe1での相対曲率κ)以下とすることで、第1歯車G1の歯先側の歯面強度が低くなり過ぎないようにする(即ち歯先側の歯面強度を歯元側以上に確保する)ことが可能となる。これにより、歯先側の必要な歯面強度を確保しながら、噛み合い率を両立的に高めることができる。特に、大歯数歯車(即ち第2歯車G2)に比べ荷重負担が大きい小歯数歯車(即ち第1歯車G1)の圧力角を定義することで、強度を効果的に高めることができる。
【0081】
また第2実施形態の歯車対では、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の圧力角αが単調増加である一方で、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の圧力角αが僅かに減少となり、第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値以下となる。つまり、荷重負担が大きい小歯数歯車(即ち第1歯車G1)の歯元側の強度を、圧力角αの単調増加(従って相対曲率κの減少)により高めながら、歯先側の区間では圧力角αを減少とすることで噛み合い率を高めることができる。また、歯先側の相対曲率κを歯元側の相対曲率κの最大値(即ちピッチ点Ppでの相対曲率κ)以下とすることで、歯先側の歯面強度が低くなり過ぎないようにする(即ち歯先側の歯面強度をピッチ点Pp以上に確保する)ことが可能となる。これにより、歯元側及び歯先側の必要な歯面強度を確保しながら、噛み合い率を両立的に高めることができる。
【0082】
また第3実施形態の歯車対では、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車Gの歯元側の端点Pe1までの区間の圧力角αが単調増加である一方で、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の圧力角αが一定であり、第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、噛み合いラインLにおけるピッチ点Ppから第1歯車G1の歯先側の端点Pe2までの区間の相対曲率κが、ピッチ点Ppから第1歯車G1の歯元側の端点Pe1までの区間の相対曲率κの最大値以下となる。つまり、第2実施形態と同様、荷重負担が大きい小歯数歯車(即ち第1歯車G1)の歯元側の強度を、圧力角αの単調増加(従って相対曲率κの減少)により高めながら、歯先側の区間では圧力角αを一定とすることで噛み合い率を高めることが可能となる。また、歯先側の相対曲率κを歯元側の相対曲率κの最大値(即ちピッチ点Ppでの相対曲率κ)以下とすることで、歯先側の歯面強度が低くなり過ぎないようにする(即ち歯先側の歯面強度をピッチ点Pp以上に確保する)ことが可能となる。これにより、歯元側及び歯先側の必要な歯面強度を確保しながら、噛み合い率を両立的に高めることができる。
【0083】
また第1~第3実施形態の歯車対では、図1図3の各(C)で示すように、歯形曲線の曲率を噛み合いライン長さによって微分した値が常に変動する。これにより、相互に噛み合う歯の噛み合い点における相対曲率も噛み合い中に常に変動し、噛み合い歯数変動に伴う歯面の噛み合い剛性変化を緩和させるような歯形曲線に設定する(例えば1歯噛み合い領域の相対曲率κを小さく、2歯噛み合い領域の相対曲率κを大きくする)ことで、ヘルツ接触による歯面の変形を利用して噛み合い剛性変化を相殺し、歯面全域における噛み合い剛性の均一化を図ることが可能となる。而して、IPベベルギヤ或いはコルナックスギヤ(登録商標)と異なることは明らかである。
【0084】
また第1~第3実施形態の歯車対によれば、図1図3の各(B)で示すように、噛み合いラインLの全域で圧力角が0度よりも大きく(好ましくは10度以上と)なるよう設定される。これにより、相互に噛み合う歯の噛み合い点における相対曲率κが平均的に小さくなり、歯面強度が高められる。しかも、噛み合いラインLの全域で圧力角αが連続して変化しており、歯形曲線に曲率の発散する点が存在せず、即ち、面圧が理論上無限となる点が存在しないことから、この点によっても歯面強度が向上する。而して、サイクロイドギヤと異なることは明らかである。
【0085】
以上説明した第1~第3実施形態では、歯車対をなす第1,第2歯車G1,G2を回転軸線が平行な平歯車としたものを示したが、本発明の歯車対を構成する第1,第2歯車G1,G2としては、回転軸線が交差する傘歯車であってもよく、その傘歯車の対(歯形の図示は省略)を、次に説明する第4実施形態の歯車対とする。
【第4実施形態】
【0086】
第4実施形態の傘歯車対は球面歯形であり、その圧力角は、図6を参照して次のように定義される。
【0087】
即ち、傘歯車対のうち歯数が少ない小径歯車を第1歯車G1、第1歯車G1よりも歯数が多い大径歯車を第2歯車G2とした場合、噛み合いラインL(図6で太い点線)を含む球面を基準の球面としたときに、その基準の球面の中心Oと噛み合いラインL上のピッチ点Ppとを含む平面で基準の球面を切断したときにできるピッチ大円Aと、相互に噛み合う歯の任意の噛み合い点Cにおいて噛み合いラインLに接する平面で前記基準の球面を切断したときにできる小円Bとの、鋭角側の交差角度αを、噛み合い点Cにおける圧力角と定義する。
【0088】
而して、第4実施形態においても、第1,第2歯車G1,G2は、第1~第3実施形態で説明したのと同様の、本発明に係る方法で歯形曲線が決定され、その決定された歯形曲線に基づいて、鍛造により成形される。かくして、第1,第2歯車G1,G2は、これらが複雑な球面歯形であっても、鍛造により比較的容易に且つ精度よく成形可能となる。
【0089】
第4実施形態に係る傘歯車対の一例としては、例えば、差動歯車機構における傘歯車よりなるピニオンギヤを第1歯車G1とし、またこれと噛合する傘歯車よりなるサイドギヤを第2歯車G2とする実施形態も実施可能である。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0091】
例えば、第1~第3実施形態では、歯車対をなす第1,第2歯車G1,G2を、各々の回転軸線が平行な平歯車であるものを例示したが、各々の回転軸線が平行な斜歯歯車であってもよい。
【0092】
また本発明に従う第1,第2歯車G1,G2の歯形曲線は、第1~第3実施形態により幾つかの具体例を示したが、この具体例に限らず種々の歯形曲線を設定可能であり、例えば、(1)歯元側の凹面と歯先側の凸面とが繋がるもの、(2)歯元側の凹面から所定の移行ゾーンを経て歯先側の凸面に繋がるもの、(3)歯元側の凹面から歯先まで直線状に延びるもの、(4)歯元側の凹面と歯先側の凸面との間で複数パターンの移行ゾーンが介在するもの等の設定が可能である。尚、上記した何れの歯形曲線においても、第1,第2歯車G1,G2の相互に噛み合う歯の噛み合いラインLは共有され、且つその噛み合いラインLの少なくとも一部に、圧力角αが一定でない領域が含まれることを条件として、歯形曲線が決定される。
【0093】
また第4実施形態のような傘歯車の球面歯形となる歯形曲線においても、第1~第3実施形態の平歯車の上記歯形パターンと同様に、例えば、(1)歯元側の凹面と歯先側の凸面とが繋がるもの、(2)歯元側の凹面から所定の移行ゾーンを経て歯先側の凸面に繋がるもの、(3)歯元側の凹面から歯先まで直線状に延びるもの、(4)歯元側の凹面と歯先側の凸面との間で複数パターンの移行ゾーンが介在するもの等の設定が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6