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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】左右輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/021 20120101AFI20240730BHJP
   F16H 57/08 20060101ALI20240730BHJP
   F16H 48/11 20120101ALI20240730BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20240730BHJP
   B60K 17/12 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16H57/021
F16H57/08
F16H48/11
F16H1/06
B60K17/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023576673
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2022045141
(87)【国際公開番号】W WO2023145267
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2022011499
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】水谷 年寿
(72)【発明者】
【氏名】尾張 大樹
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/039966(WO,A1)
【文献】特開2018-84315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/021
F16H 57/08
F16H 48/11
F16H 1/06
B60K 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する二つの電動機と、前記二つの電動機のトルク差を増幅して前記車両の左右輪の各々にトルクを伝達する遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置であって、
前記二つの電動機は、互いに離隔し、且つ、各回転軸が同一軸心上に配置され、
前記遊星歯車機構は、入力用の第一サンギヤと出力用の第二サンギヤと出力用のキャリアとピニオンギヤと入力用のリングギヤとを備え、前記回転軸と平行且つ異なる軸心上であって前記ケーシング内において軸方向の一方側に片寄って配置されるものであり、
前記左右輪駆動装置は、
前記二つの電動機の各回転軸と同一軸心を持ち、前記二つの電動機間に位置しモータギヤがそれぞれ固定された一対のモータ軸と、
前記モータ軸と平行配置され、各々の前記モータギヤと噛合する第一カウンタギヤ及び前記第一カウンタギヤよりも小径の第二カウンタギヤがそれぞれ固定された一対のカウンタ軸と、
前記モータ軸と平行且つ前記遊星歯車機構よりも前記一方側に配置され、前記軸方向の他方側の端部に前記キャリアが固定された第一出力軸と、
前記第一出力軸と同一軸心上に配置され、前記第一出力軸よりも長く、且つ、前記一方側の端部に前記第二サンギヤが固定された第二出力軸と、を備え、
前記第二出力軸は、前記他方側の端部、及び、前記他方側の前記第二カウンタギヤと噛合するドリブンギヤよりも前記他方側の位置において、転がり軸受で回転自在に支持されている
ことを特徴とする、左右輪駆動装置。
【請求項2】
前記ドリブンギヤ及び前記第一サンギヤは、前記第二出力軸が内部に挿通された中空軸部により互いに連結されており、
前記中空軸部の内周面と前記第二出力軸の外周面とは非接触である
ことを特徴とする、請求項1に記載の左右輪駆動装置。
【請求項3】
前記キャリアにおける前記第二サンギヤに対向する面に凹設された凹部と、
前記凹部の内部に固定されたブッシュと、
前記第二出力軸における前記一方側の端面から突設され、前記ブッシュに対し回転自在に支持される凸部と、をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の左右輪駆動装置。
【請求項4】
前記第二出力軸は、同一軸心上に配置された中間軸がスプライン結合されることで構成されている
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の左右輪駆動装置。
【請求項5】
前記ケーシングに固定され、前記他方側の前記カウンタ軸の前記他方側の端部を回転支持する軸受が固定されたサポート部材をさらに備え、
記第二出力軸の前記位置における前記転がり軸受は、前記サポート部材に貫設された孔部に固定されたニードルベアリングである
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の左右輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を駆動する二つの電動機と、これらの電動機のトルク差を増幅して左右輪の各々に伝達する遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、独立した二つの電動機(以下「モータ」ともいう)からの駆動トルクを左右の駆動輪に伝達する際に、二つの駆動トルクの差(トルク差)を増幅して伝達する遊星歯車機構を含む駆動装置を備えた車両が知られている。遊星歯車機構を備えることで、大きなトルク差を左右輪に与えられるというメリットがある一方、駆動装置全体が大型化するというデメリットがある。これに対し、遊星歯車機構を二つの電動機の一方と軸方向の配置領域が重なるように配置することで、駆動装置の径方向寸法の大型化を抑制する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2021/039966号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1のように、駆動装置のケーシング内において、遊星歯車機構を軸方向の一方に寄せて配置すると、遊星歯車機構の出力要素に接続される左右の出力軸のうち、軸方向の他方側に位置する出力軸の方が一方側の出力軸よりも長くなる。特許文献1の例えば図6には、図中左側の長い第2出力部材(出力軸)の図中左端部をボールベアリングで支持する構成が開示されているが、この第2出力部材の一端側の支持構造が開示されていない。
【0005】
当該第2出力部材の一端側の周囲には、第2連結部材や第2連結軸が配置されておりスペースが狭いため、狭いスペースに配置可能なスライドベアリング(メタル)により回転自在に支持することが考えられる。しかし、第2出力部材の両端側の支持構造を異なるものとすると、支持構造の違いによりフリクション差が生じてしまう。このようなフリクション差がある場合、左右の出力軸のトランスファレシオに差が発生してしまい、左右旋回特性の差に繋がってしまう。
【0006】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、二つの電動機と遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置において、長い出力軸における二箇所の支持部においてフリクション差を生じさせず、直進性の安定や左右旋回性能の同一性を担保することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の左右輪駆動装置は、以下に開示する態様又は適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の左右輪駆動装置は、車両を駆動する二つの電動機と、前記二つの電動機のトルク差を増幅して前記車両の左右輪の各々にトルクを伝達する遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置である。前記二つの電動機は、互いに離隔し、且つ、各回転軸が同一軸心上に配置される。前記遊星歯車機構は、入力用の第一サンギヤと出力用の第二サンギヤと出力用のキャリアとピニオンギヤと入力用のリングギヤとを備え、前記回転軸と平行且つ異なる軸心上であって前記ケーシング内において軸方向の一方側に片寄って配置されるものである。
【0008】
前記左右輪駆動装置は、前記二つの電動機の各回転軸と同一軸心を持ち、前記二つの電動機間に位置しモータギヤがそれぞれ固定された一対のモータ軸と、前記モータ軸と平行配置され、各々の前記モータギヤと噛合する第一カウンタギヤ及び前記第一カウンタギヤよりも小径の第二カウンタギヤがそれぞれ固定された一対のカウンタ軸と、前記モータ軸と平行且つ前記遊星歯車機構よりも前記一方側に配置され、前記軸方向の他方側の端部に前記キャリアが固定された第一出力軸と、前記第一出力軸と同一軸心上に配置され、前記第一出力軸よりも長く、且つ、前記一方側の端部に前記第二サンギヤが固定された第二出力軸と、を備える。前記第二出力軸は、前記他方側の端部、及び、前記他方側の前記第二カウンタギヤと噛合するドリブンギヤよりも前記他方側の位置において、転がり軸受で回転自在に支持されている。
【発明の効果】
【0009】
開示の左右輪駆動装置によれば、長い出力軸における二箇所の支持部においてフリクション差が生じないため、第一出力軸及び第二出力軸のトランスファレシオに差が生じない。このため、直進性の安定や左右旋回性能の同一性を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る左右輪駆動装置の構成を説明する断面図である。
図2図1の左右輪駆動装置のスケルトン図である。
図3図1に示す左右輪駆動装置の要部拡大図である。
図4図1に示す左右輪駆動装置の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態としての左右輪駆動装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。各実施形態の構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。以下の説明では、車両の前進方向を前方(車両前方)とし、前方を基準に左右を定め、車両の左右方向を車幅方向ともいう。
【0012】
[1.構成]
本実施形態の左右輪駆動装置(以下「駆動装置10」という)を図1に示し、スケルトン図を図2に示す。この駆動装置10は、AYC(アクティブヨーコントロール)機能を持った車両用のディファレンシャル装置であり、左右輪の間に介装される。AYC機能とは、左右駆動輪における駆動力(駆動トルク)の分担割合を主体的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施形態の駆動装置10は、AYC機能だけでなく、駆動トルクを左右輪に伝達して車両を走行させる機能と、車両旋回時に発生する左右輪の回転数差を受動的に吸収する機能とを併せ持つ。なお、図2に示すジョイント部8は、図示しない左右輪に連結される。
【0013】
駆動装置10は、左右輪を駆動する二つの電動機1,2と、二つの電動機1,2のトルク差を増幅して左右輪の各々にトルクを伝達する遊星歯車機構3(以下「歯車機構3」という)とをケーシング4に収容してなる。一方の電動機1(以下「左モータ1」という)は車両の左側に配置され、他方の電動機2(以下「右モータ2」という)は車両の右側に配置される。
【0014】
左右のモータ1,2は、図示しないバッテリの電力で駆動される交流モータであり、好ましくは出力特性がほぼ同一とされる。左右駆動輪のトルクは可変であり、左モータ1と右モータ2とのトルク差が、歯車機構3において増幅されて、左右輪の各々にトルクが伝達される。なお、本実施形態の駆動装置10は、各モータ1,2の回転速度を減速しながら伝達する減速ギヤ列を含む。
【0015】
左モータ1には、回転軸1Aと一体で回転するロータ1Bと、第一ケース部4Aに固定されたステータ1Cとが設けられる。同様に、右モータ2には、回転軸2Aと一体で回転するロータ2Bと、第二ケース部4Bに固定されたステータ2Cとが設けられる。左モータ1及び右モータ2は、各回転軸1A,2Aの軸方向が車幅方向に一致する姿勢で、互いに離隔して対向配置される。各回転軸1A,2Aは、同一の軸心C1(以下「第一軸心C1」という)上に配置される。
【0016】
歯車機構3は、所定の増幅率でトルク差を増幅する機能を持ち、例えば差動機構や遊星歯車機構等で構成される。図1及び図2に示すように、歯車機構3は、入力用の第一サンギヤ3S1と、出力用の第二サンギヤ3S2と、出力用のキャリア3Cと、ピニオンギヤ3Pと、入力用のリングギヤ3Rとを備える。すなわち、第一サンギヤ3S1及びリングギヤ3Rが入力要素であり、第二サンギヤ3S2及びキャリア3Cが出力要素である。
【0017】
歯車機構3は、各回転軸1A,2Aの第一軸心C1と平行且つ異なる軸心C3(以下「第三軸心C3」という)上であって、ケーシング4内において軸方向の一方側に片寄って配置される。本実施形態の歯車機構3は、車両左側に片寄って配置されている。つまり、本実施形態でいう「軸方向の一方側」は車両左側に対応し、これと逆側、すなわち軸方向の他方側は車両右側に対応する。なお、本実施形態の歯車機構3は、軸方向に直交する方向からみて、左モータ1のロータ1B及びステータ1Cと重なる位置に配置されている。
【0018】
駆動装置10は、各回転軸1A,2Aと同一の軸心C1を持つ(すなわち、第一軸心C1上に配置された)一対のモータ軸11と、モータ軸11と平行配置された一対のカウンタ軸12と、モータ軸11及びカウンタ軸12と平行配置された二本の(左右の)出力軸13,14とを備える。これらのモータ軸11,カウンタ軸12,出力軸13,14は、各モータ1,2から左右輪への動力伝達経路の上流側からこの順に配置される。
【0019】
本実施形態では一対のモータ軸11が互いに左右対称に構成される。各モータ軸11は左右のモータ1,2間に位置し、モータギヤ21が固定される。なお、図1では、左のモータ軸11及び回転軸1Aが一体ものであり、右のモータ軸11及び回転軸2Aも一体ものである場合を例示しているが、各モータ軸11と各回転軸1A,1Bとが別体を一体化させたものでもよい。
【0020】
本実施形態では、一対のカウンタ軸12が、左右のモータ1,2間において第一軸心C1と平行な第二軸心C2上に配置され、互いに左右対称に構成される。各カウンタ軸12には、各モータギヤ21と常時噛合するとともにモータギヤ21よりも大径の第一カウンタギヤ22と、第一カウンタギヤ22よりも小径の第二カウンタギヤ23とが固定される。二つのカウンタギヤ22,23は互いに近接配置されることが好ましく、小径の第二カウンタギヤ23の方が大径の第一カウンタギヤ22よりもモータ1,2に近接して配置される。モータギヤ21と第一カウンタギヤ22とで、一段目の減速ギヤ列が構成される。なお、カウンタ軸12と二つのカウンタギヤ22,23とは一体回転する構成であればよく、一体ものであるか別体を固定したものであるか特に限られない。
【0021】
二本の出力軸13,14は同一軸心C3に配置され、互いに左右非対称に構成される。以下、歯車機構3が片寄って配置されている一方側(左側)の出力軸13を「第一出力軸13」と呼び、他方側(右側)の出力軸14を「第二出力軸14」と呼ぶ。第一出力軸13は歯車機構3の一方側に位置し、その他方側の端部(右端部)にキャリア3Cが固定される。第一出力軸13は、ケーシング4の第一ケース部4Aに対し、転がり軸受34(例えばボールベアリング)によって回転自在に支持される。
【0022】
第二出力軸14は、第一出力軸13よりも長く、歯車機構3の他方側に位置して、その一方側の端部(左端部)に第二サンギヤ3S2が固定される。第二出力軸14は、後述するように、軸方向の二箇所において転がり軸受35,36により回転自在に支持される。第二出力軸14の軸方向寸法は、歯車機構3の配置によって決まるが、少なくとも駆動装置10の第三軸心C3周辺における車幅方向の寸法の半分よりも大きい。そのため、図1に示すように、第二出力軸14が同一軸心C3上に配置された中間軸15がスプライン結合されることで構成されたものであってもよい。このような構成にすることで、第二出力軸14の組み付け性が向上する。
【0023】
本実施形態の歯車機構3について説明する。歯車機構3では、左モータ1のトルクがリングギヤ3Rに入力され、右モータ2のトルクが第一サンギヤ3S1に入力され、キャリア3Cから左輪にトルクが出力され、第二サンギヤ3S2から右輪にトルクが出力される。リングギヤ3Rには、一方側(左側)の第二カウンタギヤ23と常時噛合する第一ドリブンギヤ24が一体で設けられる。本実施形態の歯車機構3では、リングギヤ3R及び第一ドリブンギヤ24が、有底円筒部16に形成される。
【0024】
具体的には、有底円筒部16が、その開口を一方側(左側)に向けた姿勢で第三軸心C3上に配置されており、有底円筒部16の内周面における開口寄りの部分にリングギヤ3Rとなる歯部が形成され、有底円筒部16の外周面における底部寄りの部分に第一ドリブンギヤ24となる歯部が形成されている。そして、有底円筒部16の底面を貫設して小径の円筒部17が一体的に設けられており、この円筒部17がケーシング4の中央ケース部4Cに対し回転自在に支持される。
【0025】
リングギヤ3Rの径方向内側には、第三軸心C3回りに回転する第一サンギヤ3S1と、リングギヤ3R及び第一サンギヤ3S1の双方に噛合するピニオンギヤ3Pの大径部3Paとが配置される。第一サンギヤ3S1は、他方側に向かって軸方向に延設されるとともに内部に第二出力軸14が挿通された中空軸部18と一体化される。中空軸部18の一方側の端部には第一サンギヤ3S1があるが、他方側の端部には、他方側(右側)の第二カウンタギヤ23と常時噛合する第二ドリブンギヤ25のハブがスプライン結合される。つまり、第一サンギヤ3S1と第二ドリブンギヤ25とは一体で回転する。
【0026】
中空軸部18の内周面と第二出力軸14の外周面とは非接触であり、隙間が設けられている。また、中空軸部18の外周面と円筒部17の内周面との間も非接触であり、隙間が設けられている。これらの隙間には、オイルが入り込むことができる。なお、一方側の第二カウンタギヤ23及び第一ドリブンギヤ24と、他方側の第二カウンタギヤ23及び第二ドリブンギヤ25とのそれぞれにより、二段目の減速ギヤ列が構成される。上記の各ギヤ21~25は、左右のモータ1,2から左右輪への動力伝達経路上に位置する。
【0027】
ピニオンギヤ3Pは、上記の大径部3Paと、大径部3Paの一方側に配置された小径部3Pbとを有し、キャリア3Cに対し回転自在に支持される。第二サンギヤ3S2は、第一サンギヤ3S1の一方側(左側)に近接配置され、ピニオンギヤ3Pの小径部3Pbと常時噛合する。キャリア3Cには、第三軸心C3と同心であって第二サンギヤ3S2の一方側に配置された円板部が含まれる。第一出力軸13は、キャリア3Cの円板部に固定される。なお、第一出力軸13とキャリア3Cの円板部が一体ものであってもよい。
【0028】
次に、ケーシング4について説明する。図1に示すように、本実施形態の駆動装置10では、ケーシング4が三つの部品から構成される。具体的には、左モータ1の一方側及び歯車機構3の一方側を覆う第一ケース部4Aと、右モータ2の他方側を覆う第二ケース部4Bと、これら二つのケース部4A,4Bの間に配置される中央ケース部4Cとが組み合わされて一つのケーシング4となる。隣接するケース部4A及び4Cとケース部4B及び4Cとは、それぞれ図示しない締結具により固定される。
【0029】
中央ケース部4Cは、ケーシング4内を左右の空間に分ける仕切壁4Dを有する。この仕切壁4Dには、モータ軸11やカウンタ軸12等を回転自在に支持する軸受が固定されるとともに、第二出力軸14や中空軸部18等が挿通される貫通孔が形成される。なお、ケーシング4の構成は一例であって、図1に示す構成に限定されない。例えば、二部品から構成されるケーシングであってもよいし、四つ以上の部品が組み合わされるケーシングであってもよい。
【0030】
本実施形態の駆動装置10は、ケーシング4の内部においてケーシング4に固定される二つのサポート部材5,6を有する。各サポート部材5,6は、平板状の部品であって、図示しない締結具により軸方向に直交する方向に延在するようにケーシング4に固定される。一方側の第一サポート部材5は、軸方向に直交する方向からみて、有底円筒部16と重なる位置であって、左モータ1のロータ1B及びステータ1Cよりも他方側に配置される。第一サポート部材5には、一方側のカウンタ軸12の一端部を支持する軸受が固定される。
【0031】
他方側の第二サポート部材6は、第二ドリブンギヤ25よりも他方側であって、右モータ2のロータ2B及びステータ2Cよりも一方側に配置される。第二サポート部材6には、少なくとも、他方側のカウンタ軸12の他端部を支持する軸受33と、第二ドリブンギヤ25のハブを支持する軸受とが固定される。
【0032】
次に、第二出力軸14の支持構造について説明する。図1図3に示すように、第二出力軸14は、他方側の端部(右端部)において、ケーシング4の第二ケース部4Bに対し、転がり軸受35としてのボールベアリングにより回転自在に支持される。また、第二出力軸14は、第二ドリブンギヤ25よりも他方側の位置において、ケーシング4に固定された第二サポート部材6に対し、転がり軸受36としてのニードルベアリングにより回転自在に支持される。転がり軸受36は、第二サポート部材6に貫設された孔部に固定される。
【0033】
第二ドリブンギヤ25よりも一方側には、第二ドリブンギヤ25のハブ,中空軸部18,円筒部17といった筒状の部品が配置されていてスペースが狭いが、第二ドリブンギヤ25よりも他方側は、歯車機構3が片寄って配置されたことにより比較的広いスペースが確保されている。このため、この広いスペースに面した位置に転がり軸受36が配置されることで、転がり軸受36に十分なオイルが供給され、潤滑性能が向上する。
【0034】
本実施形態の第二出力軸14は、上記の二箇所の転がり軸受35,36に加え、一方側の端部においても回転自在に支持される。具体的には、図1及び図4に示すように、駆動装置10は、キャリア3Cの円板部における第二サンギヤ3S2に対向する面に凹設された凹部3Caと、凹部3Caの内部に固定されたブッシュ39と、第二出力軸14の一方側の端面から突設されてブッシュ39に対し回転自在に支持される凸部14aとをさらに備える。凹部3Caは、第三軸心C3を中心とした円柱状の空間を形成する部位であり、ブッシュ39はこの凹部3Caの内周面に固定される。ブッシュ39は、例えば無潤滑ブッシュである。ブッシュ39により第二出力軸14の一方側の端部に設けられた凸部14aを支持するため、第二出力軸14の傾きが抑制される。
【0035】
[2.作用,効果]
(1)上述した駆動装置10では、歯車機構3が軸方向の一方側に片寄って配置されたことで長くなった第二出力軸14を、軸方向に離隔した二箇所の転がり軸受35,36で回転自在に支持する。このため、例えば、軸方向の二箇所のうちの一方を転がり軸受で支持し、他方をメタル支持する構成(すなわち、二箇所の支持構造が異なる場合)と比較して、二箇所の支持部におけるフリクション差が生じない。これにより、左右の出力軸13,14のトランスファレシオに差が生じることを防止でき、直進性の安定や左右旋回性能の同一性を担保することができる。また、転がり軸受36は、第二出力軸14における第二ドリブンギヤ25よりも他方側の位置で第二出力軸14を支持することから、比較的広いスペースのケースおよびサポートに面しており、オイルが十分に供給されるため、潤滑性能を高めることができる。
【0036】
(2)上述した駆動装置10によれば、第一サンギヤ3S1と第二ドリブンギヤ25とを繋ぐ中空軸部18の内周面と第二出力軸14の外周面とが非接触で設けられているため、回転による焼き付きを防止できる。また、第二出力軸をメタル支持する構成の場合、三軸構造となり、オイルをメタル支持部に潤沢に供給することが困難であるが、転がり軸受36により支持する構成とし、中空軸部18と第二出力軸14との間に隙間を確保することで、オイルの供給が不要なため、潤滑性能確保のための潤滑穴が廃止できる。
【0037】
(3)ところで、第二出力軸14の軸方向中間部を、上述したように転がり軸受36(例えばニードルベアリング)で支持し中間軸15をスプラインで結合とする構成とした場合、中間軸15の端部に固定された第二サンギヤ3S2も傾き、第二サンギヤ3S2とピニオンギヤ3Pとの噛み合いがノンバックラッシュ状態となりうる。
【0038】
噛み合うギヤ同士に適切なバックラッシュを確保できないと、歯の干渉発生によりプラネタリの調芯作用が働きにくくなるため、歯面の摩耗や強度低下を招く。なお、プラネタリの調芯作用とは、噛み合い箇所のそれぞれで反力が生じて、サンギヤやリングギヤが反力により自動的に芯出しを行い、力が釣り合うまでセンター出しを自動的に行う遊星歯車機構の特徴である。この調芯作用がうまく働かないと、片当たりの発生やピニオンギヤ3Pへの負荷が不均一となり、第二サンギヤ3S2やピニオンギヤ3Pへの入力が大きくなって強度低下を招く。
【0039】
このような課題に対し、上述したように、第二出力軸14の先端に凸部14aが設けられ、キャリア3Cに凹部3Caが設けられ、凹部3Ca内のブッシュ39で凸部14aを回転自在に支持する構成であれば、第二出力軸14の傾きを防止できる。これにより、第二出力軸14の端部に固定された第二サンギヤ3S2とピニオンギヤ3Pとの噛み合いで適切にバックラッシュを確保できるため、プラネタリはスムーズに調芯でき、片当たりや噛み合いの不均一がなく、期待通りの強度を確保することができる。
【0040】
(4)また、第二出力軸14が、図1に示すように、中間軸15がスプライン結合されることで構成されている場合、すなわち、長い第二出力軸14が組み立て式である場合には、組み付け性を向上させることができる。
(5)また、上述した駆動装置10では、他方側のカウンタ軸12の軸受33が固定される第二サポート部材6に転がり軸受36としてのニードルベアリングが固定されることから、新たな部材の追加なく、狭いスペースであっても転がり軸受36を配置することができる。
【0041】
[3.変形例]
上述した駆動装置10の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、転がり軸受36の固定先は第二サポート部材6以外の部品(例えばケーシング4を構成する部品)であってもよいし、他のサポート部材であってもよい。また、転がり軸受36の種類はニードルベアリングに限られず、転がり軸受35の種類もボールベアリングに限られない。
【0042】
第二出力軸14が、中間軸15とスプライン結合されたものではなく、一本の軸部材で構成されていてもよい。また、第二出力軸14の先端の凸部14a及びキャリア3Cの凹部3Caによる支持構造は必須ではなく省略可能である。
上述した駆動装置10では、一対のモータ軸11及び一対のカウンタ軸12が左右対称に構成されているが、これらは必ずしも左右対称形状でなくてもよい。
なお、上述した駆動装置10では、歯車機構3が車両左側に片寄って配置されているが、歯車機構3が車両右側に片寄って配置されてもよい。この場合、他方側(車両左側)の出力軸が長くなることから、上述した構成を左右反転させて適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 左モータ(電動機)
1A 回転軸
2 右モータ(電動機)
2A 回転軸
3 歯車機構(遊星歯車機構)
3C キャリア
3Ca 凹部
3P ピニオンギヤ
3R リングギヤ
3S1 第一サンギヤ
3S2 第二サンギヤ
4 ケーシング
6 第二サポート部材(サポート部材)
10 駆動装置(左右輪駆動装置)
11 モータ軸
12 カウンタ軸
13 第一出力軸
14 第二出力軸
14a 凸部
15 中間軸
18 中空軸部
21 モータギヤ
22 第一カウンタギヤ
23 第二カウンタギヤ
24 第一ドリブンギヤ
25 第二ドリブンギヤ(ドリブンギヤ)
35 転がり軸受
36 転がり軸受(ニードルベアリング)
39 ブッシュ
図1
図2
図3
図4