(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】左右輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240730BHJP
F16H 57/08 20060101ALI20240730BHJP
F16H 48/11 20120101ALI20240730BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16H57/04 Q
F16H57/08
F16H57/04 J
F16H48/11
F16H1/06
(21)【出願番号】P 2023576674
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2022045142
(87)【国際公開番号】W WO2023145268
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2022011500
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
(72)【発明者】
【氏名】柳原 祐貴
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/039966(WO,A1)
【文献】特開2021-63537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/08
F16H 48/11
F16H 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する二つの電動機と前記二つの電動機のトルク差を増幅して左右輪の各々にトルクを伝達する遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置であって、
前記二つの電動機の各々に設けられて同軸に配置され、各々がモータギヤを有する一対のモータ軸と、
前記モータ軸と平行かつ同軸に一対設けられ、各々が前記モータギヤに噛み合う第一カウンタギヤと前記第一カウンタギヤよりも小径の第二カウンタギヤとを有する一対のカウンタ軸と、
前記カウンタ軸と平行かつ同軸に一対設けられ、前記遊星歯車機構が介装されるとともに前記左右輪の各々に接続される一対の出力軸と、
前記出力軸に対して回転可能に設けられ、前記第二カウンタギヤの各々に噛み合い、前記二つの電動機の駆動力を個別に前記遊星歯車機構に伝達する一対のドリブンギヤと、
前記ドリブンギヤの各々の外周に沿って筒面状に形成され、前記出力軸の下方に溜まる潤滑油が前記カウンタ軸の下方へ移送される流路となる一対の第一筒面部と、
前記第一カウンタギヤの各々の外周に沿って筒面状に形成され、前記カウンタ軸の下方に潤滑油を溜める一対の第二筒面部と、
前記第一カウンタギヤの各々の外周に沿って筒面状に形成され、前記ドリブンギヤの各々の第一軸受と前記第一カウンタギヤの各々との間に配置され、前記第二筒面部に溜まる潤滑油が前記出力軸の上方へ移送される流路となる一対の第三筒面部と、
前記第三筒面部の上端に繋がる面状に形成され、前記第一軸受の各々の上部に配置され、前記第一軸受の各々に潤滑油を供給するための第一油孔を有する一対の上面部とを備える
ことを特徴とする、左右輪駆動装置。
【請求項2】
前記第一油孔の一方に接続されて前記第一軸受の一方に潤滑油を供給する第一油路と、
前記第一油路に交差する形状を有し、前記第一油孔の他方に接続されて前記第一軸受の他方に潤滑油を供給する第二油路とを備える
ことを特徴とする、請求項1記載の左右輪駆動装置。
【請求項3】
前記ドリブンギヤの回転面に対して略垂直な向きで前記第一油孔の上方に配置される面状の第一板部材を備える
ことを特徴とする、請求項1または2記載の左右輪駆動装置。
【請求項4】
各々の前記カウンタ軸の端部で前記ケーシングに固定され、各々が第二軸受を介して前記カウンタ軸を支承する一対のサポート部材を備え、
前記サポート部材の各々が、
内側に前記第二軸受が固定される円筒状に突設され、前記第二軸受に潤滑油を供給するための第二油孔を有するボス部と、
前記ボス部とは逆方向に向かって突設され、前記モータ軸の表面から飛散する潤滑油が回収されうる器状に形成されるとともに、前記第二軸受に潤滑油を供給するための第三油孔を有する回収壁部とを備える
ことを特徴とする、請求項1
または2記載の左右輪駆動装置。
【請求項5】
前記第二カウンタギヤの回転面に対して略垂直な向きで前記第二油孔の上方に配置される面状の第二板部材を備える
ことを特徴とする、請求項4記載の左右輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、車両を駆動する二つの電動機とこれらの電動機のトルク差を増幅して左右輪の各々に伝達する遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、独立した二つの電動機(モータ)で生成される駆動トルクを車両の左右の駆動輪に伝達する左右輪駆動装置として、各電動機のトルク差を増幅して伝達する遊星歯車機構を備えたものが知られている。この種の左右輪駆動装置では、遊星歯車機構の働きにより車両旋回時における左右輪の差動性能を確保しつつ、左右輪に大きなトルク差を付与することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された左右輪駆動装置では、遊星歯車機構のサイズが比較的大きく、構造も複雑であることから、各所に配置される軸受を潤滑するための油路を配置しにくいという課題がある。例えば、電動機の駆動力を遊星歯車機構に伝達するためのドリブンギヤが出力軸に対して回転可能に設けられるため、出力軸の周囲に存在する固定部材(ケーシング)とドリブンギヤとの間の狭い範囲に軸受が介装されることになり、軸受に対する良好な潤滑性能が得られないことがある。また、カウンタ軸がモータ軸と出力軸との間に配置されるため、モータ軸の周囲に存在する固定部材(ケーシング)とカウンタ軸との間の狭い範囲に軸受が介装されることになり、軸受に対する良好な潤滑性能が得られないことがある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成で軸受の潤滑性能を改善できるようにした左右輪駆動装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の左右輪駆動装置は、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の左右輪駆動装置は、車両を駆動する二つの電動機と前記二つの電動機のトルク差を増幅して左右輪の各々にトルクを伝達する遊星歯車機構とをケーシングに収容してなる左右輪駆動装置である。
【0007】
この左右輪駆動装置は、前記二つの電動機の各々に設けられて同軸に配置され、各々がモータギヤを有する一対のモータ軸と、前記モータ軸と平行かつ同軸に一対設けられ、各々が前記モータギヤに噛み合う第一カウンタギヤと前記第一カウンタギヤよりも小径の第二カウンタギヤとを有する一対のカウンタ軸と、前記カウンタ軸と平行かつ同軸に一対設けられ、前記遊星歯車機構が介装されるとともに前記左右輪の各々に接続される一対の出力軸と、前記出力軸に対して回転可能に設けられ、一対の前記第二カウンタギヤの各々に噛み合い、前記二つの電動機の駆動力を個別に前記遊星歯車機構に伝達する一対のドリブンギヤとを備える。
【0008】
また、この左右輪駆動装置は、前記ドリブンギヤの各々の外周に沿って筒面状に形成され、前記出力軸の下方に溜まる潤滑油が前記カウンタ軸の下方へ移送される流路となる一対の第一筒面部と、前記第一カウンタギヤの各々の外周に沿って筒面状に形成され、前記カウンタ軸の下方に潤滑油を溜める一対の第二筒面部と、前記第一カウンタギヤの各々の外周に沿って筒面状に形成され、前記ドリブンギヤの各々の第一軸受と前記第一カウンタギヤの各々との間に配置され、前記第二筒面部に溜まる潤滑油が前記出力軸の上方へ移送される流路となる一対の第三筒面部と、前記第三筒面部の上端に繋がる面状に形成され、前記第一軸受の各々の上部に配置され、前記第一軸受の各々に潤滑油を供給するための第一油孔を有する一対の上面部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
開示の左右輪駆動装置は、第一筒面部,第二筒面部,第三筒面部,上面部を備えたことにより、簡素な構成で軸受の潤滑性能を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例としての左右輪駆動装置の構成を説明する断面図である。
【
図2】
図1の左右輪駆動装置のスケルトン図である。
【
図3】
図1の左右輪駆動装置の要部(ドリブンギヤ周辺)の斜視図である。
【
図4】
図1の左右輪駆動装置の要部(ドリブンギヤ周辺)の拡大断面図である。
【
図5】(A),(B)は、
図1の左右輪駆動装置の要部(サポート部材周辺)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示の左右輪駆動装置が適用された実施例を以下に説明する。以下の実施例はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施例の構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。以下の説明では、車両の前進方向を前方(車両前方)とし、前方を基準に左右を定め、車両の左右方向を車幅方向ともいう。
【実施例】
【0012】
[1.動力伝達機構]
図1は実施例としての左右輪駆動装置30の断面図であり、
図2は左右輪駆動装置30のスケルトン図である。左右輪駆動装置30は、少なくともAYC(アクティブヨーコントロール)機能を持った車両用のディファレンシャル装置であり、左右輪(駆動輪)の間に介装される。AYC機能とは、左右輪における駆動力(駆動トルク)の分担割合を主体的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施例の左右輪駆動装置30は、AYC機能だけでなく、駆動トルクを左右輪に伝達して車両を走行させる機能と、車両旋回時に発生する左右輪の回転数差を受動的に吸収する機能とを併せ持つ。
【0013】
左右輪駆動装置30は、
図1,
図2に示すように、車両を駆動する二つの電動機1とこれらのトルク差を増幅して左右輪の各々にトルクを伝達する遊星歯車機構10とをケーシング20に収容してなる。本実施例で数字符号に付加される接尾符号L,Rは、当該符号にかかる要素の配設位置(車両の左側や右側にあること)を表す。例えば、1Lは左側(Left)に位置する電動機(左電動機)を表し、1Rは右側(Right)に位置する電動機(右電動機)を表す。また、ケーシング20は、左ケーシング20Lと右ケーシング20Rと中間ケーシング20Mとに三分割される。接尾符号Mは、車幅方向の中間(Middle)に位置することを表す。以下の説明において、各種要素の配設位置を特定する必要がない場合には接尾符号L,R,Mを適宜省略する。
【0014】
電動機1は、図示しないバッテリの電力で駆動される交流モータまたは直流モータである。二つの電動機1は、好ましくは出力特性(最大出力,最大トルク,最大回転速度等)がほぼ同一とされる。二つの電動機1の各々には、モータギヤ3(左モータギヤ3L,右モータギヤ3R)を有するモータ軸2が設けられる。左電動機1Lに設けられる左モータ軸2Lは、右電動機1Rに設けられる右モータ軸2Rと同軸に配置される。以下、モータ軸2の回転中心を第一軸C1と呼ぶ。各々のモータ軸2は、円筒状に配置された固定子の内側に挿入される回転子に対して固定される。なお、モータ軸2,モータギヤ3の二者を一体に形成してもよい。
【0015】
モータ軸2の近傍には、一対のカウンタ軸6(左カウンタ軸6L,右カウンタ軸6R)が設けられる。カウンタ軸6は、モータ軸2と平行かつ同軸に一対設けられる。以下、カウンタ軸6の回転中心を第二軸C2と呼ぶ。第二軸C2は、例えば第一軸C1よりも車両前方かつ下方に配置される。各々のカウンタ軸6は、モータギヤ3に噛み合う第一カウンタギヤ4(左第一カウンタギヤ4L,右第一カウンタギヤ4R)と第一カウンタギヤ4よりも小径の第二カウンタギヤ5(左第二カウンタギヤ5L,右第二カウンタギヤ5R)とを有する。第一カウンタギヤ4は、第二カウンタギヤ5よりも車幅方向内側に配置される。第一カウンタギヤ4は、好ましくはモータギヤ3よりも大径の歯車とされ、モータ軸2の回転速度を減速してカウンタ軸6に伝達するように機能する。第一カウンタギヤ4,第二カウンタギヤ5,カウンタ軸6の三者について、これらの一部または全体を一体に形成してもよい。
【0016】
各々のカウンタ軸6の両端部について、左右輪駆動装置30の内側に位置する端部は、例えば軸受を介して中間ケーシング20Mに支承される。一方、左右輪駆動装置30の外側に位置する端部は、後述するカウンタ軸受33(第二軸受)を介してサポート部材7(左サポート部材7L,右サポート部材7R)に支承される。サポート部材7は、各々のカウンタ軸6の外側端部において、中間ケーシング20Mに固定されるプレート状の部材である。
【0017】
カウンタ軸6の近傍には、一対の出力軸9(左出力軸9L,右出力軸9R)が設けられる。出力軸9は、カウンタ軸6と平行かつ同軸に一対設けられる。各々の出力軸9は、左右輪の各々に接続される。以下、出力軸9の回転中心を第三軸C3と呼ぶ。第三軸C3は、例えば第二軸C2よりも車両前方かつ下方に配置される。また、出力軸9には、遊星歯車機構10が介装される。なお、
図1に示す例では、右出力軸9Rが二本の軸状部材から構成されているが、これらを一体に形成してもよい。
【0018】
出力軸9の周囲には、二つの電動機1の駆動力を個別に遊星歯車機構10に伝達するための一対のドリブンギヤ8(左ドリブンギヤ8L,右ドリブンギヤ8R)が設けられる。これらのドリブンギヤ8は、出力軸9に対して回転可能な歯車であり、第二カウンタギヤ5に噛み合うように設けられる。ドリブンギヤ8は、好ましくは第二カウンタギヤ5よりも大径の歯車とされ、カウンタ軸6の回転速度を減速して遊星歯車機構10に伝達するように機能する。ドリブンギヤ8は、後述するドリブン軸受27を介して中間ケーシング20Mに支承される。なお、
図1に示す右ドリブンギヤ8Rは、中間ケーシング20Mだけでなく右サポート部材7Rに対しても軸受を介して支承されているが、本実施例では説明を省略する。
【0019】
遊星歯車機構10には、第一サンギヤ11,リングギヤ13,第二サンギヤ14,キャリア15,ピニオンギヤ17が設けられる。第一サンギヤ11は、ドリブンギヤ8の一方に駆動される外歯歯車であり、出力軸9に対して所定の隙間を空けて同軸に配置される。
図1,
図2に示す第一サンギヤ11は、筒状部12を介して右ドリブンギヤ8Rに固定(例えばスプライン結合)されており、右ドリブンギヤ8Rと一体に回転するようになっている。筒状部12は、出力軸9に対して所定の隙間を空けて同軸に配置される円筒状の部材である。
【0020】
リングギヤ13は、ドリブンギヤ8の一方に駆動される内歯歯車であり、出力軸9と同軸に配置される。
図1,
図2に示すリングギヤ13は、左ドリブンギヤ8Lと一体に形成されている。第一サンギヤ11とリングギヤ13との間には、遊星歯車(プラネタリギヤ)として機能する複数の大径歯部18が噛合した状態で介装される。また、第二サンギヤ14は、左右輪の一方に駆動力を出力する外歯歯車であり、出力軸9と同軸に配置される。
図1,
図2に示す第二サンギヤ14は、右出力軸9Rに接続されている。
【0021】
第二サンギヤ14の外周には、複数の小径歯部19が噛合した状態で配置される。小径歯部19は、大径歯部18と一体に形成されるとともに、ピニオン軸16に対して回転可能に軸支される。
図1に示す例では、大径歯部18及び小径歯部19を具備するピニオンギヤ17が示されており、ピニオンギヤ17の回転中心にピニオン軸16が遊挿されている。ピニオン軸16の両端は、出力軸9と同軸に配置されるキャリア15に固定される。
図1,
図2に示すキャリア15は、左出力軸9Lに接続されている。なお、ピニオン軸16,大径歯部18,小径歯部19の三者を一体に形成してもよいし、これらの一部のみを一体に形成してもよく、大径歯部18及び小径歯部19を別体に形成してもよい。
【0022】
[2.潤滑構造]
[A.ドリブン軸受の潤滑]
図3は第二カウンタギヤ5(左第二カウンタギヤ5L)とドリブンギヤ8(左ドリブンギヤ8L)との噛み合い箇所の周辺構造を示す斜視図であり、
図4はその周辺構造を拡大して示す断面図である。ドリブンギヤ8の周囲には、ドリブンギヤ8の歯面外周に沿って内向きの筒面状に形成された第一筒面部21が設けられる。第一筒面部21は、例えばドリブンギヤ8の歯面の下半分を覆う程度の大きさに形成される。本実施例の第一筒面部21は、出力軸9の下方に溜まる潤滑油がカウンタ軸6の下方へ移送される流路となる。なお、
図3には左ドリブンギヤ8Lの歯面外周に沿って筒面状に形成された左第一筒面部21Lが示されているが、右ドリブンギヤ8Rの歯面外周にも同様の右第一筒面部21Rが設けられる。
【0023】
図3に示すように、第一カウンタギヤ4及び第二カウンタギヤ5の周囲には、第一カウンタギヤ4の歯面外周に沿って内向きの筒面状に形成された第二筒面部22が設けられる。第二筒面部22は、例えば第一カウンタギヤ4及び第二カウンタギヤ5の歯面の下半分を覆う程度の大きさに形成される。本実施例の第二筒面部22は、カウンタ軸6の下方であって第一筒面部21よりも高い位置に潤滑油を一時的に溜めるプールとして機能する。第一筒面部21及び第二筒面部22は、連続する曲面をなしている。なお、
図3には左第一カウンタギヤ4Lの歯面外周に沿って筒面状に形成された左第二筒面部22Lが示されているが、右第一カウンタギヤ4Rの歯面外周にも同様の右第二筒面部22Rが設けられる。
【0024】
ドリブンギヤ8は、少なくとも一つ以上のドリブン軸受27(第一軸受)を介して中間ケーシング20Mに支承される。
図1,
図4に示す例では、左ドリブンギヤ8Lが二個の左ドリブン軸受27Lによって支承され、右ドリブンギヤ8Rが一個の右ドリブン軸受27Rによって支承されている。ドリブン軸受27の位置は、そのドリブン軸受27が支承するドリブンギヤ8よりも左右輪駆動装置30の内側に設定される。ここでいう「ドリブンギヤ8よりも内側」とは、そのドリブンギヤ8と噛み合っている第二カウンタギヤ5を基準として、第一カウンタギヤ4が存在する方向である。
図3に示す例では、ドリブンギヤ8よりも紙面左上かつ奥へ向かう方向に、ドリブン軸受27が配置される。
【0025】
図3に示すように、ドリブン軸受27と第一カウンタギヤ4との間には、第一カウンタギヤ4の歯面外周に沿って内向きの筒面状に形成された第三筒面部23が設けられる。第三筒面部23の曲率半径は、第二筒面部22の曲率半径と同一でもよいし相違してもよい。また、第三筒面部23は、第二筒面部22とは不連続に形成してもよいし、連続する曲面をなすように形成してもよい。本実施例の第三筒面部23は、第二筒面部22に溜まる潤滑油が出力軸9の上方へ移送される流路となる。なお、
図3には左第一カウンタギヤ4Lの歯面外周に沿って筒面状に形成された左第三筒面部23Lが示されているが、右第一カウンタギヤ4Rの歯面外周にも同様の右第三筒面部23Rが設けられる。
【0026】
ドリブン軸受27の上部には、第三筒面部23の上端に繋がる面状(平面状または曲面状)に形成された上面部24が設けられる。上面部24には、ドリブン軸受27に潤滑油を供給するための第一油孔25が設けられる。本実施例の上面部24は、第三筒面部23の上端から第一油孔25に向かって下り勾配となる形状に形成される。これにより、上面部24の上に移送された潤滑油は、第一油孔25を通ってドリブン軸受27へと導入される。なお、
図3には左ドリブン軸受27Lの上部に形成された左上面部24L及び左第一油孔25Lが示されているが、右ドリブン軸受27Rの上部にも同様の右上面部24R及び右第一油孔25Rが設けられる。また、第一油孔25は、好ましくは上面部24のうち最も低い位置に配置される。
【0027】
図4に示すように、左第一油孔25Lには第一油路28が接続され、右第一油孔25Rには第二油路29が接続される。本実施例の第一油路28及び第二油路29は、各々が略直線状に形成されるとともに、中途で交差する形状に形成される。また、第一油路28及び第二油路29の下り勾配は、ドリブン軸受27の配置に合わせて設定される。第一油路28及び第二油路29を交差させることで、左第一油孔25L及び右第一油孔25Rから流入する潤滑油量がアンバランスになったとしても、右ドリブン軸受27R及び左ドリブン軸受27Lに対してバランスよく潤滑油が供給されるようになる。
【0028】
図3に示すように、第一油孔25の上方には、上面部24やドリブンギヤ8の上方へ飛散した潤滑油を回収して第一油孔25の近傍に落下させるための第一板部材26が設けられる。第一板部材26は、面状(平面や曲面の板面状)に形成された部材であり、ドリブンギヤ8の回転面に対して略垂直な向きで配置される。第一板部材26の下端部は、板面に付着した潤滑油を一箇所に集まりやすくするために、下向きに尖った形状に形成してもよい。なお、
図3には左第一油孔25Lの上方に配置された左第一板部材26Lが示されているが、右第一油孔25Rの上方にも同様の右第一板部材26Rが設けられる。
【0029】
[B.カウンタ軸受の潤滑]
図5(A)はサポート部材7の内面側(左右輪駆動装置30の内側を向いた面)を示す斜視図であり、
図5(B)はその裏側である外面側(左右輪駆動装置30の外側を向いた面)を示す斜視図である。
図5(A)に示すように、サポート部材7の内面側にはボス部31と第二板部材34とが設けられる。ボス部31は、その内側にカウンタ軸受33(第二軸受)が支承される部位であり、円筒状に突設される。
図4に示す例では、右カウンタ軸6Rが右カウンタ軸受33Rによって右サポート部材7Rに支承され、左カウンタ軸6Lが左カウンタ軸受33Lによって左サポート部材7Lに支承されている。ボス部31の上面には、カウンタ軸受33に潤滑油を供給するための第二油孔32が設けられる。これにより、ボス部31の上面に付着した潤滑油は、第二油孔32を通ってカウンタ軸受33へと導入される。
【0030】
第二油孔32の上方には、ボス部31や第二カウンタギヤ5の上方へ飛散した潤滑油を回収して第二油孔32の近傍に落下させるための第二板部材34が設けられる。第二板部材34は、面状(平面や曲面の板面状)に形成された部材であり、第二カウンタギヤ5の回転面に対して略垂直な向きで配置される。第二板部材34の下端部は、板面に付着した潤滑油を一箇所に集まりやすくするために、下向きに尖った形状に形成してもよい。なお、
図5(A)には左サポート部材7Lの左ボス部31L,左第二油孔32L,左第二板部材34Lが示されているが、右サポート部材7Rにも同様の右ボス部31R,右第二油孔32R,右第二板部材34Rが設けられる。
【0031】
図5(B)に示すように、サポート部材7の外面側には、カウンタ軸6に隣接するモータ軸2や電動機1から飛散する潤滑油を捕捉してカウンタ軸受33に供給するための回収壁部35が設けられる。回収壁部35は、ボス部31とは逆方向に向かってサポート部材7から突設された部位であり、モータ軸2の表面から飛散する潤滑油が回収されうる器状に形成される。本実施例では、第二軸C2に沿ってサポート部材7を左右輪駆動装置30の外側から眺めたときに、モータ軸2がカウンタ軸6よりも車両後方かつ上方に位置する。これに対応して、回収壁部35の側面視形状は、車両後方かつ上方〔
図5(B)中の右上〕に向かって拡開した椀形状(お椀のような下に凸の形状)とされる。
【0032】
回収壁部35の内部には、カウンタ軸受33に潤滑油を供給するための第三油孔36が設けられる。第三油孔36は、好ましくは回収壁部35の内部のうち最も低い位置に配置される。これにより、回収壁部35の内部に回収された潤滑油は、第三油孔36を通ってカウンタ軸受33へと導入される。なお、
図5(B)には左サポート部材7Lに形成された左回収壁部35L及び左第三油孔36Lが示されているが、右サポート部材7Rにも同様の右回収壁部35R及び右第三油孔36Rが設けられる。
【0033】
[3.作用,効果]
(1)上記の左右輪駆動装置30は、一対のモータ軸2と一対のカウンタ軸6と一対の出力軸9と一対のドリブンギヤ8とを備える。モータ軸2は、二つの電動機1の各々に設けられて同軸に配置され、各々がモータギヤ3を有する。カウンタ軸6は、モータ軸2と平行に一対設けられて同軸に配置され、各々がモータギヤ3に噛み合う第一カウンタギヤ4と第一カウンタギヤ4よりも小径の第二カウンタギヤ5とを有する。出力軸9は、カウンタ軸6と平行に一対設けられて同軸に配置され、遊星歯車機構10が介装されるとともに左右輪の各々に接続される。ドリブンギヤ8は、出力軸9に対して回転可能に設けられ、一対の第二カウンタギヤ5の各々に噛み合い、二つの電動機1の駆動力を個別に遊星歯車機構10に伝達する。
【0034】
また、上記の左右輪駆動装置30は、一対の第一筒面部21と一対の第二筒面部22と一対の第三筒面部23と一対の上面部24とを備える。第一筒面部21は、ドリブンギヤ8の各々の外周に沿って筒面状に形成され、出力軸9の下方に溜まる潤滑油がカウンタ軸6の下方へ移送される流路となる。第二筒面部22は、第一カウンタギヤ4の各々の外周に沿って筒面状に形成され、カウンタ軸6の下方に潤滑油を溜める。第三筒面部23は、ドリブンギヤ8の各々の外周に沿って筒面状に形成され、ドリブンギヤ8の各々のドリブン軸受27と第一カウンタギヤ4の各々との間に配置され、第二筒面部22に溜まる潤滑油が出力軸9の上方へ移送される流路となる。上面部24は、第三筒面部23の上端に繋がる面状に形成され、ドリブン軸受27の各々の上部に配置され、ドリブン軸受27の各々に潤滑油を供給するための第一油孔25を有する。
【0035】
図3に示すドリブンギヤ8が図中において反時計回りに回転しているとき、第一カウンタギヤ4及び第二カウンタギヤ5は図中において時計回りに回転する。出力軸9の下方に溜まる潤滑油の一部は、ドリブンギヤ8に掻き上げられて上方へ飛散し、上面部24へと移送される。また、潤滑油の一部は、ドリブンギヤ8から第二カウンタギヤ5へと付着し、第二カウンタギヤ5の回転により上方へ飛散して、上面部24へと移送される。さらに、ドリブンギヤ8に掻き上げられた潤滑油の一部は、第一筒面部21の表面を流れて第二筒面部22へ移送された後、第一カウンタギヤ4に掻き上げられて第三筒面部23の表面を流れ、上面部24へと移送される。このように、ドリブンギヤ8のドリブン軸受27の潤滑に際し、第一カウンタギヤ4及び第二カウンタギヤ5の双方を利用して潤滑油の移送経路を複数設定しておくことで、安定的に潤滑油を上面部24の第一油孔25に流入させることができ、潤滑性能を向上させることができる。
【0036】
(2)上記の左右輪駆動装置30では、
図4に示すように、左第一油孔25Lに接続された第一油路28と右第一油孔25Rに接続された第二油路29とが交差するように形成される。第一油路28は、左第一油孔25Lから右ドリブン軸受27Rに向かって延設され、第二油路29は、右第一油孔25Rから左ドリブン軸受27Lに向かって延設される。ここで仮に、第一油路28及び第二油路29が交差していなかったとすれば、第一油路28及び第二油路29は、右ドリブン軸受27R及び左ドリブン軸受27Lを個別に潤滑する流路となる。したがって、例えば左右輪駆動装置30の傾斜(車体のロール方向の傾斜)によって第一油路28及び第二油路29から流入する潤滑油量がアンバランスになると、右ドリブン軸受27R及び左ドリブン軸受27Lのいずれかに供給する潤滑油が不足する可能性がある。これに対し、本実施例では第一油路28及び第二油路29が交差しているため、第一油路28及び第二油路29の片方に流入した潤滑油が右ドリブン軸受27R及び左ドリブン軸受27Lの両方に分配される。したがって、潤滑油の供給バランスを安定させることができ、ドリブン軸受27の潤滑性能を向上させることができる。
【0037】
(3)上記の左右輪駆動装置30には、
図3に示すように、ドリブンギヤ8の回転面に対して略垂直な向きで第一油孔25の上方に配置される面状の第一板部材26が設けられる。このような構成により、出力軸9の上方に飛散した潤滑油を第一板部材26に付着させて回収し、第一油孔25の近傍に落下させることができる。したがって、ドリブン軸受27の潤滑性能を向上させることができる。
【0038】
(4)上記の左右輪駆動装置30では、ケーシング20に固定された一対のサポート部材7によってカウンタ軸6が支承される。サポート部材7には、
図5(A),(B)に示すように、ボス部31と回収壁部35とが設けられる。ボス部31は、内側にカウンタ軸受33が支承される円筒状に突設され、カウンタ軸受33に潤滑油を供給するための第二油孔32を有する。また、回収壁部35は、ボス部31とは逆方向に向かって突設され、モータ軸2の表面から飛散する潤滑油が回収されうる器状に形成されるとともに、カウンタ軸受33に潤滑油を供給するための第三油孔36を有する。このように、カウンタ軸受33の潤滑に際し、潤滑油の移送経路を複数設定しておくことで、安定的に潤滑油をカウンタ軸受33に供給することができ、カウンタ軸受33の潤滑性能を改善できる。また、モータ軸2や電動機1の回転子などから飛散する潤沢な潤滑油を有効活用してカウンタ軸受33を効率的に潤滑することができる。
【0039】
(5)上記の左右輪駆動装置30には、
図5(A)に示すように、第二カウンタギヤ5の回転面に対して略垂直な向きで第二油孔32の上方に配置される面状の第二板部材34が設けられる。このような構成により、カウンタ軸6の上方に飛散した潤滑油を第二板部材34に付着させて回収し、第二油孔32の近傍に落下させることができる。したがって、カウンタ軸受33の潤滑性能を向上させることができる。
【0040】
[4.その他]
上記の実施例では、第一軸C1が第二軸C2よりも車両後方かつ上方に位置し、第二軸C2が第三軸C3よりも車両後方かつ上方に位置する左右輪駆動装置30を例示した。しかし、左右輪駆動装置30の具体的な内部構造はこのような構造に限定されない。左右輪駆動装置30は、その潤滑構造に着目すれば、少なくとも一対のモータ軸2,一対のカウンタ軸6,一対の出力軸9,一対のドリブンギヤ8を備えたものであって、一対の第一筒面部21,一対の第二筒面部22,一対の第三筒面部23,一対の上面部24を備えたものであればよい。このような構成により、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0041】
1 電動機
2 モータ軸
3 モータギヤ
4 第一カウンタギヤ
5 第二カウンタギヤ
6 カウンタ軸
7 サポート部材
8 ドリブンギヤ
9 出力軸
10 遊星歯車機構
11 第一サンギヤ
12 筒状部
13 リングギヤ
14 第二サンギヤ
15 キャリア
16 ピニオン軸
17 ピニオンギヤ
18 大径歯部
19 小径歯部
20 ケーシング
21 第一筒面部
22 第二筒面部
23 第三筒面部
24 上面部
25 第一油孔
26 第一板部材
27 ドリブン軸受(第一軸受)
28 第一油路
29 第二油路
30 左右輪駆動装置
31 ボス部
32 第二油孔
33 カウンタ軸受(第二軸受)
34 第二板部材
35 回収壁部
36 第三油孔
C1 第一軸
C2 第二軸
C3 第三軸