(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】捩り振動低減装置のための組立体
(51)【国際特許分類】
F16F 15/123 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
F16F15/123 D
(21)【出願番号】P 2024528487
(86)(22)【出願日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2023015019
(87)【国際公開番号】W WO2024018707
(87)【国際公開日】2024-01-25
【審査請求日】2024-05-14
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/028327
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】筧 大輝
(72)【発明者】
【氏名】村田 豊
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤
(72)【発明者】
【氏名】森 竜太
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-304341(JP,A)
【文献】特開2012-97848(JP,A)
【文献】特開2012-159111(JP,A)
【文献】特開2017-110715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/123
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の発明において、入力部材及び出力部材は鋼板のプレス成型品である組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は捩り振動低減装置のための組立体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を原動機とする車両において、捩り振動低減装置として円周方向に間隔をおいて配置されたコイルスプリングの弾性変形に依拠するものが公知である。各コイルスプリングは原動機側の入力部材と車輪側の出力部材との間に円周方向対向面間に配置され、入力部材と出力部材との間の回転変動に応じてコイルスプリングの弾性変形を惹起させ、回転変動の増大に応じて大きくなるコイルスプリングの弾性力が回転変動(捩り振動)の抑制に寄与する。
【0003】
従来のこの種の捩り振動低減装置においては、入力部材と出力部材は鋼板のプレス成型品であり、入力部材は対向面間で各コイルスプリングの収容部を形成するべく、2枚を合わせ、外周部をリベット等により締結し、中間に出力部材を配置した基本的には3枚の鉄板(より多数枚の鋼板部材により構成する場合もある)により構成している。各コイルスプリングは円周方向の両端部の夫々にリテーナを装着しており、コイルスプリングは両端のリテーナを介して入力部材のコイルスプリング収容部に初期荷重下にて保持され、出力部材はコイルスプリングの円周方向の夫々の端部に対向するコイルスプリング駆動部を有しており、入力部材と出力部材間の回転変動はその方向に応じてコイルスプリング駆動部はコイルスプリングに更なる弾性変形を惹起させ、回転変動を低減することができる(特許
文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-13547号公報
【文献】特開2002-257195号公報
【文献】特開2012-159111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術は入力側を最低2枚の鋼板のプレス品とし、その間に円周方向に等間隔にコイルスプリングの収容部を形成しリベット等により締結し、入力部材として一体化する構造となっている。そのため部品点数が増えるのみならず、製造工程の煩雑化という欠点がある。またリベットの使用は製品の外径寸法の抑制の観点からも不利であり、更には、リベットの採用は捩り角度(抑制可能な回転変動の大きさ)の制限となるため、この点でも欠点となりうる。
本発明は以上の従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり、リテーナに、その本来のコイルスプリングの支持機能を損なうことなく、入力部材及び出力部材に対する支持構造を兼備させることにより、入力部材及び出力部材を夫々一枚の構造とし、部品点数の大巾削減を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を、駆動側への回転連結のための入力部材と、入力部材と回転中心線を同じくし、従動側への回転連結のための出力部材と、入力部材と出力部材間に円周方向に間隔をおいて複数配置されたコイルスプリングとを備え、駆動側の入力部材による従動側の出力部材の駆動時の出力部材の回転変動をコイルスプリングの周方向の弾性変形により低減する捩り振動低減装置のための組立体として実現したものである。本組立体において、入力部材と出力部材の一方は、円周方向に等間隔に夫々のコイルスプリングを臨み、入力部材及び出力部材と回転中心線を同じくし、円周方向両端に係止部を備えた円弧状ガイド部を内周に有した環状円板を具備し、入力部材と出力部材の他方は、中心の支持板と、支持板の径外部における片側に軸方向に延出すべく形成された軸方向延出板と、支持板の径外部において円周方向に近接するコイルスプリング間に延出し、円周方向両端に加圧部を備えた張出板と、各コイルスプリングの円周方向両端部に取り付けられたリテーナとを具備する。各リテーナは、対応の張出板と円周方向離間側端部に形成され、コイルスプリングの近接側の円周方向端部を収容しかつ支持する有底凹部と、外周側において円周方向に延設され、軸方向に対向した一対の円周方向の側面と円周方向の底面とを有し、円弧状ガイド部に対し周方向摺動自在に嵌合されるガイド溝と、内周側において支持板の軸方向延出板設置側と軸方向同一側に支持板外周面との対向面を残して偏倚し、かつ支持板に軸方向に対向して形成される円周方向壁部と、張出板と近接側における円周方向端部に平坦面状に形成される受圧部と、前記受圧部に樹立される第1の軸方向支持面を形成する第1軸方向支持面形成部と、該第1軸方向支持面形成部から軸方向に離間して前記受圧部に樹立され、かつ円周方向壁部の支持板対向面の延長上の第2の軸方向支持面を形成する第2軸方向支持面形成部と、径内側に偏倚しかつ支持板に対する軸方向延出板の設置側と軸方向同一側に偏倚しつつ前記受圧部に樹立され、径外側に円周方向支持面を形成する円周方向支持面形成部とを備える。各リテーナは受圧部において対向する係止部及び加圧部に当接しつつ支持板に対し、軸方向の一方側より第1の軸方向支持面において当接されると共に、軸方向の他方側より第2の軸方向支持面において当接され、更に、前記円周方向支持面が前記軸方向延出板に内径側より当接され、かつ円周方向において対向するリテーナ間において各コイルスプリングは設定荷重に圧縮され、これによりリテーナは自身にて入力部材および出力部材の支持を行うことができる。
【0007】
本発明の1実施形態の組立体においては、張出板は軸方向延出板から径外方に延出するように形成され、第1軸方向支持面形成部は前記受圧部より樹立され、リテーナ外周面より径内方に途中で終端するべく形成される板状突起として形成され、板状突起の支持板から軸方向離間側面が第1の軸方向支持面を形成し、第2軸方向支持面形成部と円周方向支持面形成部とは一体化されて、前記板状突起と径内方に離間してかつ支持板から軸方向離間側に偏倚して受圧部に樹立された弧状突起として形成され、弧状突起の支持板の軸方向近接側端面が第2の軸方向支持面を形成し、弧状突起の径外側面が前記円周方向支持面を形成し、張出板は前記板状突起における第1の軸方向支持面に当接し、支持板は弧状突起における第2の軸方向支持面に当接し、かつ弧状突起は内径側より軸方向延出板に入り込み、円周方向支持面が軸方向延出板の内周面に当接される。この実施形態において、板状突起と径方向に平行にかつ支持板近接側に偏倚してリテーナの外周面より中途で終端するように台状突起が受圧部に樹立され、板状突起と台状突起間にガイド溝に開口する縦溝が形成され、縦溝に、入力軸と出力軸間に回転変動が無い中立状態において、環状円板の円弧状ガイド部の対応の円周方向端部が収容され、受圧部に当接されるようにできる。
【0008】
本発明の別の実施形態の組立体においては、入力部材と出力部材との他方における前記張出板(以下第1の張出板)は軸方向延出板(以下第1の軸方向延出板)と兼用すべく第1の張出板から離間側に向けて軸方向に延出され、入力部材と出力部材との前記一方は前記環状円板に加えて前記支持板(以下第1の支持板)と軸方向に整列する第2の支持板と、入力部材と第1の張出板と軸方向に整列する第2の張出板と、第2の支持板を環状円板における円周方向に隣接する円弧状ガイド部間の径方向張出内縁部に一体連接する第2の軸方向延出板とを備え、第1軸方向支持面形成部は、前記受圧部に、径内方に偏倚してかつ第1の支持板近接側に軸方向に偏倚して樹立された台状突起として形成され、台状突起の第1の支持板と離間側面が第1の軸方向支持面を形成し、第2軸方向支持面形成部と円周方向支持面形成部とは一体化されて、台状突起と軸方向に離間してかつ第1の支持板と離間側に偏倚して受圧部に樹立された弧状突起として形成され、弧状突起の第1の支持板と近接側面が第2の軸方向支持面を形成し、弧状突起の径外側面が前記円周方向支持面を形成し、第1の支持板は外周側端部が台状突起と弧状突起間において第1の軸方向支持面と第2の軸方向支持面とに夫々当接されると共に、弧状突起は内径側より第1の軸方向延出板に入り込み、円周方向支持面が軸方向延出板の内周面に当接される。この実施形態において、台状突起(以下第1の台状突起)と径方向に整列しかつ間隔をおいて第2の台状突起がリテーナの外周面と面一にて終端するように受圧部に樹立され、第1の台状突起と第2の台状突起間に軸方向溝が形成され、この軸方向溝に、入力軸と出力軸間に回転変動が無い中立状態において第2の軸方向延出板が収容されるようにできる。
【0009】
本発明の更に別の実施形態においては、張出板間の支持板の外周面は、張出板の端縁から円周方向に対向する端縁に対する中間部に至るまで円周方向に離間する程対応の円弧状ガイド部の内周面から離間するようにでき、リテーナに軸方向における少なくとも片側の壁面において前記有底凹部の開口端縁から受圧部側に向けて延設された切欠部を形成することができる。更には入力部材及び出力部材は鋼板のプレス成型品とし、リテーナは射出成型によるプラスチック一体成型品とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
リテーナはコイルスプリングを保持する本来の機能を損なうことなく、自身が入力部材及び出力部材に対する軸方向及び径方向の支持構造を具有している。そのため、入力部材及び出力部材が双方共に一枚物の部品であるにも関わらず捩り振動低減装置のための組立体に構成することができる上、リベットなどの2部品若しくは複数部品の接合部材を省略することができ、トータルとしての部品点数の大巾削減を実現することができる。
リベットが必要ないため、径方向の小型化若しくは径方向のスペースの有効活用が可能となり、例えば、同一外径においてコイルスプリングをより外径側に設置することが可能であり、捩り角の拡大による性能向上を図ることができる。
また、リテーナは合成樹脂の射出成型品とすることができ、作動時にリテーナの相手面に対する当接が金属同志で無い分騒音の低減が可能であり、静粛性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1はこの発明の第1の実施形態の捩り振動低減装置のための組立体の変速機側より見た正面図である。
【
図3】
図3はこの発明の第1の実施形態の組立体を原動機側より見た背面図である。
【
図5】
図5はこの発明の第1の実施形態の組立体における入力部材の単品正面図である。
【
図6】
図6はこの発明の第1の実施形態の組立体における出力部材の単品正面図である。
【
図8】
図8はこの発明の第1の実施形態の組立体の各部を分解状態にて表す斜視図である。
【
図9】
図9は
図1の部分図であるが、回転変動時におけるこの発明の第1の実施形態の組立体を捩り振動低減装置として構成したときの動作を説明するものである。
【
図10】
図10はこの発明の第2の実施形態の捩り振動低減装置のための組立体を変速機側より見た正面図である。
【
図11】
図11はこの発明の第2の実施形態の組立体を原動機側より見た背面図である。
【
図13】
図13はこの発明の第2の実施形態の組立体における入力部材の単品正面図である。
【
図14】
図14はこの発明の第2の実施形態の組立体における出力部材の単品正面図である。
【
図16】
図16はこの発明の第2の実施形態の組立体の各部を分解状態にて表す斜視図である。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下図面を参照しながら説明すると、この発明の第1の実施形態の捩り振動低減装置のための組立体は、
図1において、内燃機関(原動機)のクランク軸(図示しない)に連結されたフライホイール(その一部を
図4において想像線11にて示す)に連結のための入力部材10と、変速機(図示しない)に連結のための出力部材12と、円周方向に等間隔に複数(本実施形態では3個)配置されたコイルスプリング14と、各コイルスプリング14の長さ方向の一端に設置されたリテーナ16と、各コイルスプリング14の長さ方向の他端に設置されたリテーナ18とを備える。リテーナ16, 18は対応のコイルスプリング14を挟んで対称な形状をなし、コイルスプリング14の数に合わせて3組設けられる。
リテーナ16, 18はナイロン等の機械的強度のある合成樹脂を素材とし、射出成型による成型品とすることができる。
本発明においてリテーナ16, 18は以下詳述するように、自身による入力部材10及び出力部材12に対する支持構造を具備しており、入力部材10も出力部材12も単品物であるにも関わらず、しかもリベット等の連結具の使用無しに、コイルスプリング14を含めた組立体としての自立構造を得ることができる。そして、組立体を入力部材10において原動機側(クランク軸)に連結し、出力部材12において変速機に連接することにより捩り振動低減装置に仕立てることができる。
【0013】
本実施形態の組立体において、入力部材10は鋼板を素材としたプレス成形品であり、
図5及び
図8に示すように環状円板をなす。入力部材10は外周部にフライホイール固定のためのボルト孔20と、内周面における円周方向に等間隔に3個形成され、かつ円弧状の所定深さの凹刻部であるガイド部22(
図8では3個のガイド部22に夫々A, B, Cを
付することにより区別)とを形成する。
図1に示すようにリテーナ16, 18の組はガイド部22の夫々に設けられる。
図5においてガイド部22は回転中心を入-出力軸の回転中心線О(
図4も参照)と同じくし、後述するように入-出力軸間の回転変動時におけるリテーナ16, 18の摺動案内面となる。入力部材10をクランク軸に連結し、出力部材12において変速機に連結することにより捩り振動低減装置に構成した場合において、各ガイド部22の円周方向の両端における径内方に最内周面まで延出された端面22-1, 22-2(本発明
の係止部)は、入力部材10と出力部材12間に回転変動が無い中立状態では、後述のよ
うにリテーナ16, 18がガイド部22の端面22-1, 22-2夫々により相対回転を阻止され、このときコイルスプリング14は初期荷重にセットされる。図示しないクランク軸の回転方向は時計方向(
図8の矢印f)であるが、クランク軸の回転方向fと同一方向(以下正転方
向)の回転変動に対しては端面22-1は回転方向上流側、端面22-2は回転方向下流側に位置
している。回転変動は正転方向fと反対方向(以下逆転方向)にも生ずるので、逆転方向の回転変動の場合は端面22-1は下流側、端面22-2は上流側となり、本明細書において下流側、上流側はその意味するところは相対的である。
【0014】
出力部材12も入力部材10と同様鋼板を素材としたプレス成形品であり、
図6及び
図8にて示すように、丸みを帯びた擬三角形状(おにぎり形状)の支持板24と、支持板24の三角形状の頂点における外周凸部24-2より一体に曲折形成された軸方向延出板26(本発明の第1の軸方向延出板)を介して再度曲折され径外方に延設された3個の張出板28とを備える(
図8を参照)。各張出板28は、夫々が径外方に延び、円周方向に対向した端面28-1, 28-2(本発明の加圧部)を備える(
図8も参照)。円周方向に隣接する張出板28の端面28-1, 28-2が組(ガイド部22に合わせて3組設けられ、ガイド部22(A), 22(B), 22(C)に対応するように夫々の組にA, B, Cを付している)となり、ガイド部22の円周方向端面22-1, 22-2とで、回転変動に応じて対応のコイルスプリング14の圧縮変形を行わせる。即ち、円周方向に隣接した張出板28の端面28-1, 28-2から成る各組において、正転方向(矢印f方向)の回転変動に対しては端面28-1が上流側に位置し、端面28-2は下流側に位置し、逆転方向(矢印fと反対方向)の回転変動に対しては端面28-1は下流側に位置し、端面28-2は上流側に位置し、端面28-1, 28-2についても下流側、上流側はその意味するところは相対的である。
図8の分解斜視図の後述詳細説明より明らかとなろうが、入力部材10と出力部材12間に回転変動が無い中立状態では、リテーナ16, 18は各ガイド部22の対向した端面22-1, 22-2に夫々当接されると共に、円周方向に隣接した張出板28の対向した端面28-1, 28-2に夫々当接され、このときコイルスプリング14は初期荷重にセットされる。入力部材10と出力部材12間の回転変動において、回転変動方向における上流側と下流側とで対向したガイド部22(入力部材10側)の端面22-1, 22-2と円周方向に隣接した張出板28(出力部材12側)の端面28-1, 28-2間においてセット荷重からのコイルスプリング14の更なる加圧が行われる。即ち、入力部材10に対し出力部材12が正転方向(矢印f方向)に回転変動した場合は、張出板28の端面28-1による加圧により、回転変動の上流側のリテーナ16がガイド部22の端面22-1から離れ、ガイド部22の端面22-2により係止された下流側の組となるリテーナ18に向かってガイド部22に沿って摺動され、逆に、入力部材10に対し出力部材12が逆転方向(矢印fと反対方向)に回転変動した場合は、張出板28の端面28-2による加圧により、逆転方向の回転変動における上流側のリテーナ18がガイド部22の端面22-2から離れ、端面22-1により係止された逆転方向の回転変動におげる下流側の組となるリテーナ16に向かってガイド部22に沿って摺動される。このような、リテーナ16, 18の摺動によりコイルスプリング14の更なる圧縮が惹起され、回転変動の抑制が行われる。中立状態におけるリテーナ16, 18、ガイド部22、張出板28の位置関係については
図1も参照。
【0015】
出力部材12は、更に、支持板24に入-出力軸の回転中心線Оと同軸の一体のスプライン軸30を形成しており、スプライン軸30は図示しない内周スプラインにより図示しない変速機入力軸に連結可能となっている。
【0016】
図6に示すように、出力部材12は、円周方向に隣接した張出板28間に夫々のコイルスプリング14の収容のための窪み部分を形成する。窪み部分の底面を支持板24の擬三角形状における幾分外周に張出された各一辺である外周面24-1が形成する。入-出力軸間の中立状態(入-出力軸間に回転変動が無い場合)の入力部材10のガイド部22を一点鎖線にて示し、ガイド部22と張出板28間の窪み部分とは、3個のコイルスプリング14のうち対応の一つのコイルスプリング14を収容する窓枠様の収容開口を形成する(
図1も参照)。窓枠様開口の底面となる支持板24の外周面24-1は、回転中心線Оと中心を共
有する入力部材10のガイド部22(内周面)に対して、張出板28の端面28-1, 28-2側から円周方向の中央部に向かって間隔を些少ではあるが徐々に増大させる。この構造は、組立時のリテーナ16, 18の装着を容易しつつ、組み立て状態における回転変動に応じたガイド部22に対するリテーナ16, 18の所期の摺動動作を得ることができる。張出板28の端面28-1, 28-2は軸方向延出板26の端面26-1, 26-2と共に支持板24の外周凸部24-2に面一に連接していることが分る。また、入-出力軸間の中立状態において、張出板28の端面28-1, 28-2はガイド部22の端面22-1, 22-2夫々に滑らかに連なるようにされる(
図6参照)。
【0017】
リテーナ16及び18は一つのコイルスプリング14を挟んで対向するものが一つの組みをなし、リテーナ16及び18及びコイルスプリング14からなる3組を
図8において夫々A, B, C(この組み分けも、ガイド部22及び張出部の端部28-1, 28-2についての組み分けと対応するようにされている)にて表示する。以下、
図8によりリテーナ16及び1
8の夫々の構成並びにリテーナ16及び18の夫々の入力部材10及び出力部材12に対する組付け構造を説明する。以下、リテーナ16及び18の構造について説明するが、一組のリテーナ16及び18は対称構造であるため、また斜視図として理解し易いことから組Aのリテーナ16を中心に、また一つの斜視図により全ての構造を隈なく図示することはできないことからかつ適宜他の組B及びCも参照し、また
図7A-
図7Dのリテーナ16の単品図も適宜参照して説明する。先ず、リテーナ16と入力部材10との関係を説明すると、リテーナ16は入力部材10における該当組(この場合はA)のガイド部22に対向する外周面において、円周方向の全長にわたり延設されるガイド溝16-1(
図7A,
図7B)を備え、ガイド溝16-1は径外方に開口した断面コの字状をなし、入力部材10のガイ
ド部22において入力部材10の厚み部分に適切なクリアランスをもって円周方向摺動可能に収容され、リテーナ16を入力部材10に対し円周方向に相対回転可能とする。そして、円周方向に延設されたガイド溝16-1の底面はリテーナ16を入力部材10に対して径外側において支持する支持面として役立てることができる。
図2はガイド溝16-1に対するガイド部22 (入力部材10)の嵌合状態を示しており、ガイド溝16-1の両側面に対して
ガイド部22の側面が面対面にて対向し、ガイド溝16-1の底面に対してガイド部22の底面が面対面にて対向する。
【0018】
リテーナ16は、近接した張出板28と対向する円周方向端部において回転中心線Оと平行に径方向に延設される平坦面16-2(本発明の受圧部)を形成する。平坦面16-2に対して、円周方向に近接する張出板28の対向した端面28-1(形状は
図8からは分かり難いが、組となるリテーナ18の円周方向に対向した端面28-2の形状を参照)に当接し、平坦面16-2は正転方向(矢印f方向)の回転変動における張出板28からのトルク受け面となる。
【0019】
図8において、平坦面16-2から板状突起16-3が一体に樹立され(
図7A)、板状突起16-3は、外周側はリテーナ16の外周面と面一に延びているが、内周側は途中で終端している。板状突起16-3は、変速機側(本発明における従動側)に回転中心線Oと直交し径方向に延設される軸方向支持面16-4(
図7A,
図7C)を形成する(板状突起16-3は軸方向支持面16-4とで本発明の第1軸方向支持面形成部を構成する)。後述するように、組み立て状態においては、張出板28は変速機側において軸方向支持面16-4と軸方向に面対面にて当接され、軸方向支持面16-4は変速機側へのリテーナ16の軸方向支持面として役立つことになる。組み立て状態における張出板28と軸方向支持面16-4との面対面の当接は、
図1及び後述
図9における、張出板28と軸方向支持面16-4との軸方向(紙面直交方向)の位置関係より理解することができよう。
【0020】
平坦面16-2からは板状突起16-3から軸方向における原動機側(本発明における駆動側)に離間して台状突起16-5が樹立され、台状突起16-5はリテーナ16の外周面とも原動機側の側面とも面一であるが、径内方には板状突起16-3と整列して終端している。そして、板状突起16-3と台状突起16-5間には、底面が平坦面16-2の一部でかつ外周面のガイド溝16-1と湾曲部16-6’を介して連なる縦溝16-6が残される。縦溝16-6の湾曲部16-6’は円周方向に対向するガイド部22の端面22-1(
図5)の付根のR形状に合わせるため付されたものである。即ち、縦溝16-6、湾曲部16-6’は回転変動の無い中立状態において、ガイド部22の端面22-1を収容し、このとき入力部材10は平坦面16-2によって出力部材12に対する相対回転を拘束される。
【0021】
図8において、リテーナ16は径内側では変速機側に面一となるように軸方向に偏倚され、幅が狭まった内周部16-7(本発明の円周方向壁部を構成)が内周面に至るまで径方向に延在する (内周部16-7の全体形状については組Bのリテーナ16参照)。内周部16-7は変
速機側では面一の平坦側面をなすが、原動機側においては縦溝16-6は超えているが途中で終端し段差を呈しており、この段差構造により、原動機側に径外方に後退し、支持板24の外周面24-1に径方向に対向する底面16-10と、変速機側から支持板24に対し軸方向に
対向する壁面16-14(内周部16-7の支持板24対向面)とが形成される(段差構造は
図8においては組B, Cのリテーナ16参照)。また、リテーナ16における円周方向内面側の段
差構造についてはリテーナ16の単品図である
図7Bも参照されたい。
【0022】
内周部16-7は、対応の張出板28側においては板状突起16-3及び台状突起16-5から径内方に間隔をおいて平坦面16-2から樹立された弧状突起16-8をなしている。即ち、弧状突起16-8は内周部16-7の張出板28側延長部となっている。弧状突起16-8は、支持板24を張出板28に連接する軸方向延出板26に内周側から入り込むようになっている(弧状突起16-8が軸方向延出板26に内周側から入り込む様子については
図1を参照)。この構造により、弧状突起16-8の外周面16-9(
図7Cも参照)は、リテーナ16を軸方向延出板26、即ち、出力部材12に対して径内側より支持する支持面となり、ガイド溝16-1の底面である径外側からの支持面とでリテーナ16の径方向の支持構造が提供される(弧状突起16-8に
外周面16-9を形成した構成は本発明における円周方向支持面形成部に相当する)。板状突
起16-3及び弧状突起16-8との間は、組み立て状態において、出力部材12の軸方向延出板26を通すための隙間部分となる。弧状突起16-8は原動機側に軸方向に直交しかつ径方向に延設される軸方向支持面16-11(
図7Bも参照)を原動機側に形成する。軸方向支持面16-11は、組み立て状態(中立状態)においては、支持板24に対向かつ当接し、リテーナ16の原動機側への軸方向支持面として機能する。即ち、軸方向支持面16-11は軸方向支
持面16-4とでリテーナ16を軸方向における両側での支持を行う支持面として働くことになる。軸方向支持面16-11の支持板24(外周凸部24-2)に対する当接構造は組Aのリテ
ーナ16では分かり難いが組Bのリテーナ16の軸方向支持面16-11と支持板24の外周
凸部24-2との位置関係から理解されよう。弧状突起16-8に軸方向支持面16-11を形成した
構成は本発明における第2軸方向支持面形成部に相当する。上述のように弧状突起16-8は内周部16-7の対応張出板28側端部となっており、弧状突起16-8の軸方向支持面16-11は
内周部16-7の壁面16-14と面一の円周方向の延長部を呈しており、これは
図7B,
図7Dからも分る。
内周部16-7はこの実施形態では変速機側端面が面一を呈しているが、内周部16-7の内径部を原動機側に適宜の軸厚で後退させる(
図4の想像線m)ことにより薄板状の径内方向きの突起部として形成することができ、この薄板状の突起部の原動機側面(支持板24と
の対向面)が本発明の軸方向支持面を構成する。
【0023】
リテーナ16は平坦面16-2の設置側の円周方向端部、即ち、張出板28の端面28-1と当接側とは離間側の円周方向端部に対応のコイルスプリング14の端部14-1の収容のための本実施形態においては筒状をなす有底凹部16-12を備え、これは
図8において組Cのリテ
ーナ16に明確に図示されている。そして、リテーナ16の変速機側の側壁部にスプリング14端面側からの切欠部16-13が形成されるが、これは組立時に取付のためスプリング
14を縮ませる治具(組立ロボット)の有底凹部16-12の内側への挿入孔として役立てるこ
とができる。
【0024】
組Aにおいて対になるリテーナ18についてはリテーナ16と対称構造である以外は同一であり、ガイド溝18-1によるガイド部22に対する円周方向摺動構造及び内周部18-7及び内周部18-7による段差構造(面18-10及び18-11)及び弧状突起18-8及び有底凹部18-12
更には切欠部18-13が設置され、内周部18-7による段差構造により形成される円周方向内
面18-10及び壁面18-14(内周部18-7の支持板24対向面)を備えていることがわかる(組
Bのリテーナ18も参照)。また、組Cのリテーナ18を見ると、平坦な受圧面18-2に樹
立される板状突起18-3及び台状突起18-5及びその間に形成される縦溝18-6、更には内周部18-7の先端の弧状突起18-8、弧状突起18-8により形成される軸方向支持面18-11が分る。
また、リテーナ18の段差面18-10が支持板24の外周面24-1に対向する構成は
図3に示
され、リテーナ18の弧状突起18-8が軸方向延出板26(出力部材12)を径内側より支持する構成は
図1に示される。壁面18-14についても内周部18-7はこの実施形態では変速機側端面が面一を呈しているが、内周部16-7と同様に(
図4の破線mに準じて)内周部18-7の支持板24離間側面を原動機側に適宜の軸厚で後退させることにより薄板状の径内方向きの突起部として形成することができる。
【0025】
入力部材10及び出力部材12に対するリテーナ16, 18の取り付けについて説明すると、リテーナ16の取り付けについては、
図8の組Aのリテーナ16を想定して説明すると、
図6に関連して説明したように、入力部材10におけるガイド部22に対向する出力部材12における支持板24の外周面24-1との間隔は組となる円周方向に隣接した張出板28の対向端面28-1, 28-2間の中央部で最大となっており、入力部材10に対してリテーナ16を適宜傾けることにより、高さが低い円周方向内面(段差面)16-10の側からリテー
ナ16をガイド部22と支持板24間(窓枠様開口部)に導入し、入力部材10とリテーナ16とを真っ直ぐに治すことによりガイド溝16-1をガイド部22に嵌めることができる。同様にリテーナ18についても、段差面18-10側から窓枠様開口部に導入し、ガイド溝18-1をガイド部22に嵌めることができる。リテーナ16, 18は、ガイド部22に嵌めた状態
では、段差面16-10, 18-10において支持板24の円周方向外面24-1に径方向に対向し、壁面16-14, 18-14において変速機側より軸方向に支持板24に対向する(
図4も参照)。そのため、変速機側より軸方向にはリテーナ16, 18は支持された状態になる。そして、ガイド部22に既に嵌っているリテーナ16をガイド部22の対向した端面22-1に向けて円周方向に押し込んでゆくと、入力部材10においては、リテーナ16の縦溝16-6がガイド部22の端面22-1に嵌ると同時に、出力部材においては、張出板28が変速機側において板状突起16-3に係合し、軸方向延出板26は台状突起16-5と弧状突起16-8との間に導入され、弧状突起16-8の軸方向支持面16-11が支持板24の外周凸部24-2に当たり、かつ弧状突
起16-8は軸方向延出板26に内側より嵌る。そして、最終的な押込完了状態では、縦溝16-6が端面22-1に嵌合し、張出板28の端面28-1がリテーナ16の平坦面16-2に当接された状態に至る。この状態においては、リテーナ16の円周方向内面(底面)16-10は、出力部
材12の支持板24の円周方向外面24-1に密接対向する(
図3参照)。リテーナ18についても同様な操作により、縦溝18-6にガイド部22の端面22-2が嵌った状態において、張出板28の端面にリテーナ18の平坦面18-2が当接された状態に至る。この状態においては、リテーナ18の円周方向内面18-10は、出力部材12の支持板24の円周方向内面24-1
に密接対向しており、リテーナ18は入力部材10及び出力部材12に対して軸方向にも径方向にも支持される。このとき、各組のリテーナ16, 18間で切欠部16-13, 18-13が対向位置するが(
図1参照)、治具により縮めたコイルスプリング14を切欠部16-13, 18-13を介して治具を挿入することでリテーナ16, 18間に導入し、治具を切欠部16-13, 18-13を介して後退させることで、コイルスプリング14の両端部14-1, 14-2はリテーナ16, 18の夫々の有底凹部16-12, 18-12に装着される。
このようにして入力部材10と出力部材12間における円周方向対向面間にリテーナ16, 18を介してコイルスプリング14を保持した本実施形態における組立体とすることができる。
【0026】
本実施形態の組立体においてリテーナ16, 18は、コイルスプリング14の円周方向両端での保持という本来の機能を損なうことなく、リテーナ自らが夫々が一枚の板材からなる入力部材10及び出力部材12に対し軸方向及び径方向に支持されるという言わば自己完結型の支持構造を具有している。即ち、この支持構造に関し、リテーナ16について説明すると、リテーナ16はガイド溝16-1が入力部材10のガイド部22に嵌合しており、ガイド溝16-1の軸方向に離間した対向面が入力部材10に軸方向に支持される(
図2)。また、リテーナ16の出力部材12に対する軸方向支持は、張出板28がリテーナ16の板状突起16-3(軸方向支持面16-4)に変速機側より当接し、支持板24(外周凸部24-2)がリテーナ16の軸方向支持面16-11 (弧状突起16-8に形成される)に原動機側より当接することにより行われる。また、リテーナ16の径方向支持は、径方向外側からは、入力部材10のガイド部22がリテーナ16のガイド溝16-1の底面(
図2)に当接し、径方向内側からは、弧状突起16-8の外周面16-9が出力部材12の軸方向延出板26の内周面に当接(
図1も参
照)することにより行われる。
【0027】
また、リテーナ18の入力部材10及び出力部材12に対する支持も同様であり、ガイド溝18-1の軸方向対向側面との当接によりリテーナ18は入力部材10に軸方向支持され、出力部材12に対しては、リテーナ18は板状突起18-3と弧状突起18-8(軸方向支持面18-11)間において軸方向支持が行われる(
図8の組Cのリテーナ18参照)。また、リテー
ナ18の径方向支持は、径方向外側からは、入力部材10のガイド部22がリテーナ18のガイド溝18-1の底面に当接し、径方向内側からは、弧状突起18-8の外周面18-9が出力部材12の軸方向延出板26に当接することにより行われる。
【0028】
リテーナ16, 18は入力部材10及び出力部材12に対する自己完結型の支持構造により、入力部材10も出力部材12もいずれも鋼板からのプレス成型品の一枚物であるにも関わらずリテーナ16は、自らが入力部材10と出力部材12に軸方向にも径方向にも支持されかつコイルスプリング14の保持というリテーナ16, 18本来の機能は損なわれることがなく、通常のように入力部材10を2枚構造としその間にコイルスプリングの保持を行う構成との比較でプレス成形部品を最低でも一枚節約でき、また、2枚構造の一体化のためのリベットが不要となり、この点でも部品点数を抑えることができ作業性の観点からも有利である。またリベットがないことからその分外径側での設計の自由度を高めることができる。
以上の実施形態においてリテーナ16, 18は軸方向の片側にのみ切欠部16-13, 18-13(組
立時のスプリング(14)圧縮用治具導入孔)を形成しているが、このような切欠部16-13, 18-13をリテーナ16, 18における軸方向の両側に形成することもできる。
【0029】
第1の実施形態の組立体を入力部材10においてフライホイール11 (クランク軸側)
に連結し、出力部材12側において変速機に連結することにより捩り振動低減装置に構成した場合の動作を説明すると、入力部材10と出力部材12間に回転変動が無い場合(中
立状態)は、リテーナ16については、ガイド溝16-1がガイド部22に嵌合した状態で、
平坦面16-2に対して入力部材10におけるガイド部22の端面22-1及び出力部材12における張出板28の端面28-1において当接する。また、組となるリテーナ18については、ガイド溝18-1がガイド部22に嵌合した状態で、平坦面18-2に対して入力部材10におけるガイド部22の端面22-2及び出力部材12に対して張出板28の端面28-2において当接する。このときコイルスプリング14は設定荷重にて圧縮され、この中立状態を
図1に示す。
【0030】
図9は第1の実施形態の組立体から成る捩り振動低減装置において、出力部材12が入力部材10に対して正転方向 (
図9の矢印f方向)に回転変動を生じた場合を示しており
、張出板28はその端面28-1のリテーナ16の対向する平坦面16-2との当接によりリテーナ16をガイド溝16-1を介しガイド部22に沿って
図9の矢印f方向(時計方向)に摺動させ、リテーナ16はガイド部22の端面22-1との当接状態から外れ、張出板28の端面28-1とリテーナ16の平坦面16-2との係合は深まり、他方組となるリテーナ18はその平坦面18-2が回転変動方向下流側のガイド部端面22-2との当接状態を維持するため、回転変動方向下流側の張出板28の端面28-2は対向したリテーナ18の平坦面18-2から外れ、リテーナ16, 18間でのコイルスプリング14の更なる圧縮を惹起する。入力部材10に対する出力部材12の正転方向(矢印f方向)への相対回転の増大により、やがては、出力部材12の回転変動方向f下流側における張出板28がリテーナ18(
図8の縦溝18-6)から外れかつ軸方向延出板26が弧状突起18-8(円周方向外周面16-9)から外れるに至り、このときリテーナ18は平坦面18-2においガイド部端面22-2に弾性力下係止されているためリテーナ18は入力部材10に対して保持固定される。また、コイルスプリング14に生ずる弾性力の径外方成分及びクランク軸の回転によりリテーナ18に生ずる遠心力も入力部材10に対するリテーナ18の確実な保持に寄与することになる。
【0031】
逆に、出力部材12が入力部材10に対して中立状態から逆転方向(矢印fと反対方向)に回転変動を生じた場合は、張出板28は端面28-2が平坦面18-2に当接することによりリテーナ18をガイド溝18-1を介しガイド部22に沿って逆転方向に摺動させ、このときリテーナ18の平坦面18-2はガイド部22の端面22-2との当接状態から外れ、組となるリテーナ18の平坦面18-2に対する張出板28の端面28-2の係合は深まり、リテーナ16の平坦面16-2がガイド部22の端面22-1に係止保持されていることから、張出板28の端面28-1はリテーナ16から離間されつつリテーナ18はガイド溝18-1を介しガイド部22に沿って 円周方向に対向したリテーナ16に向け摺動され、コイルスプリング14の更なる
圧縮を惹起する。このような回転変動の方向に応じたコイルスプリング14の圧縮動作により回転変動の低減を実現することができる。
【0032】
図10-
図16は本発明の第2の実施形態の捩り振動低減装置のための組立体を示し、入力部材110と、出力部材112と、コイルスプリング114と、リテーナ116, 118とを備え、リテーナ116, 118はA, B, Cの3組設けられる。入力部材110はスプライン支
持であることが第1の実施形態と相違する。即ち、入力部材110は、原動機の出力軸(
図示しない)とのスプライン嵌合のための中心のスプライン軸131(
図13も参照)と、
スプライン軸131の変速機側端に一体化された支持板132(本発明の第2の支持板)と、支持板132の凸状の外周部132-1より円周方向に等間隔に変速機側端に軸方向に一
体に延出する軸方向延出板136(本発明の第2の軸方向延出板)と、軸方向延出板136に一体連結された外周の環状円板138とを備える。円周方向に隣接する軸方向延出板136の間における環状円板138の円弧状内周面がリテーナ116, 118のためのガイド部122となる。ガイド部122は、円周方向に等間隔に3個設けられ、ガイド部122の各々は円周方向に離間し、径方向に延在する一対の端面122-1, 122-2(本発明の係止部)を形成している。
【0033】
出力部材112は変速機入力軸へのスプライン嵌合のためのスプライン軸130を備えていることは第1の実施形態と同様であるが、支持板124(本発明の第1の支持板)の外周部124-2からの変速機側への曲折部である張出板128(本発明の第1の軸方向延出
板を兼ねる)が変速機側に向け軸方向に延出していることにおいて第1の実施形態と相違する。各張出板128は、夫々が径外方に延び、円周方向に対向した端面128-1, 128-2(
本発明の加圧部)を備える。
【0034】
図16に示すようにリテーナ116(
図15A-
図15Dも参照)はガイド溝116-1を
外周面に形成し、円周方向の一端に平坦面として形成された平坦面116-2(本発明の受圧部)を備え、変速機側に面一に偏倚され、幅が狭まった内周部116-7を形成し、内周部116-7
から原動機側に外径方向に後退し段差面116-10(
図12参照)を呈し、内周部116-7の張出
板128対向側の端部は平坦面116-2よりの弧状突起116-8を呈し、弧状突起116-8の径外
側に段差面116-10 (
図12参照) を形成し、弧状突起116-8の原動機側端面に軸方向に直
交し、径方向に延在する軸方向支持面116-11を形成する構成は第1の実施形態におけるリテーナ16と実質上相違するところはない。また、軸方向支持面116-11が段差面116-10との境界となる壁面116-14の延長となっている(面116-11と面116-14とが同一面上に位置する)ことも同様であり、これは
図15B,
図15Dからも分る。
【0035】
第2の実施形態のリテーナ116の第1の実施形態のリテーナ16との相違点は、原動機側の台状突起116-5を径内方側に短縮し、リテーナ16の板状突起16-3の代わりに台状
突起116-5に径内外に整列するように台状突起116-3を平坦面(受圧面)116-2より樹立させ
、台状突起116-3の変速機側の側面に軸方向支持面116-4を形成し、台状突起116-3と台状
突起116-5間に軸方向溝116-6を呈していることである。
【0036】
第2の実施形態において、リテーナ116の組み立て状態ではガイド溝116-1は、入力
部材110の対応のガイド部122に嵌合される。出力部材112の支持板124の外周突部124-2は、リテーナ116の台状突起116-3と弧状突起116-8間を径外方に通され、出
力部材112の張出板128はその一方の端面128-1においてリテーナ116の平坦面116-2に当接する。また、リテーナ116の弧状突起116-8は、出力部材112の張出板12
8に内周側より入り込み(
図10参照)、弧状突起116-8の円周方向外面116-9は張出板128の内周面に当接する。
また、リテーナ116は内周面における原動機側に段差面116-10(組Bのリテーナ11
6も参照)が入力部材110における支持板132の外周面132-2(
図11及び
図13参照)及び出力部材112における支持板124の外周面124-1に対向配置される。また、第2
の実施形態の組立体を捩り振動低減装置に構成した場合において、入力部材110と出力部材112間に回転変動が無い中立状態においては、入力部材110の軸方向延出板136(本発明の第?の軸方向延出板)がリテーナ116の軸方向溝116-6を通され、かつガイド部122の一方の端面122-1が平坦面116-2に当接される。また、組Cのリテーナ116を見るとリテーナ116は支持板124の変速機側に切欠部116-13を有し、張出板128と離間側端部においてコイルスプリング114の端部を収容するための筒状の有底凹部116-12を備えることが分る。
【0037】
リテーナ116の対となるリテーナ118の構造についてはリテーナ116と対称である以外は同じである。組Aにおけるリテーナ118についてはガイド溝118-1、内周部118-7、弧状突起118-8、段差面118-10、コイルスプリング収容凹部118-12は良く見えている
。また、組Cのリテーナ118には、平坦面118-2及び平坦面118-2に樹立される台状突起118-3, 118-5も見えている。また、第2の実施形態の組立体を捩り振動低減装置に構成した場合において、入力部材110と出力部材112間に回転変動が無い中立状態においては、入力部材110の軸方向延出板136がリテーナ118の軸方向溝118-6を通され、
かつガイド部122の他方の端面122-2が平坦面118-2に当接される。
【0038】
第2の実施形態の組立体におけるリテーナ116の支持は入力部材110に対してはガイド溝116-1に対しガイド部122が嵌合し、ガイド溝116-1の軸方向対向面によりリテーナ116は入力部材110に軸方向支持される。出力部材112に対しては支持板124の外周部124-2がリテーナ116の台状突起116-3と弧状突起116-8間に嵌合し、台状突起116-3の第1の軸方向支持面116-4により原動機側から、弧状突起116-8の第2の軸方向支持面116-11により変速機側から支持される。径方向支持は、環状円板138がガイド溝116-1の底面に当接し、弧状突起116-8が張出板128に径内側から入り込み、円周方向外周面116-9が張出板128に径内側より当接し、入力部材110及び出力部材112が径外側
と径内側とから挟み込まれることにより行われる。即ち、この 第2の実施形態においては、張出板128は本発明の軸方向延出板としても機能する。
リテーナ118による入力部材110及び出力部材112の軸方向及び径方向支持についても同様に行われる。
【0039】
第2の実施形態の組立体を入力部材110側においてクランク軸に連結し、出力部材112側において変速機に連結することにより捩り振動低減装置に構成した場合の動作を説明すると、入力部材110と出力部材112間に回転変動が無い中立状態の場合は、リテーナ116については、平坦面116-2に対して入力部材110におけるガイド部122の
端面122-1が当接する。この際、軸方向延出板136は台状突起116-3, 116-5間の溝116-6に収容される。リテーナ118についても、同様であり、平坦面118-2に対してガイド部
122の端面122-2が当接され、軸方向延出板136は台状突起118-3, 118-5間の溝118-6に収容され、このときコイルスプリング114にかかる荷重は設定値となる。中立状態においてリテーナ116の平坦面116-2に張出板128の端面128-1が当接し、リテーナ118の平坦面118-2に張出板128の端面128-2が当接する状態は
図10にも示される。
【0040】
出力部材112が入力部材110に対して正転方向(矢印f方向)に回転変動を生じた場合は、出力部材112の張出板128は回転変動方向における上流側に位置する端面128-1がリテーナ116の平坦面116-2に当接し、組となるリテーナ118は平坦面118-2が入
力部材110のガイド部122の端面122-2に当接した状態を維持することからリテーナ
116(ガイド溝116-1においてガイド部122に嵌合状態にある)をガイド部122に
沿って正転方向(矢印f方向)に摺動させ、リテーナ116によるコイルスプリング114
の設定値からの更なる圧縮を惹起する。逆に、出力部材112が入力部材110に対して逆転方向(矢印fと反対方向)に回転変動を生じた場合は、出力部材112の張出板128は回転変動方向の上流側に位置する端面128-2がリテーナ118の受圧面118-2に当接し、組となるリテーナ116は平坦面116-2が入力部材110のガイド部122の端面122-1に当接した状態を維持することからリテーナ118(ガイド溝118-1においてガイド部12
2に嵌合状態にある)をガイド部122に沿って逆転方向(矢印fと反対方向)に摺動させ、リテーナ118はコイルスプリング114を設定値から更に圧縮する。
【0041】
本実施形態においては、入力部材110が支持板132を有しているため支持板132のリテーナ116, 118との対向面をリテーナ116, 118の軸方向支持面として機能させる構成も可能である。
また、第1及び第2の実施形態についての説明を通じて、入力部材10, 110が外周にて
円板状部を呈し、出力部材12, 112が中央の支持板24, 124と外周の張出板28, 128とから
成る構成を記載するが、入力部材を中央の支持板と外周の張出板とから構成し、逆に、出力部材を外周にて円板状部に形成する入れ替え的な構成も実現可能であることは当業者には自明であり、このような改変も本発明の範囲に包摂されることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
10; 110…入力部材
12; 112…出力部材
14; 114…コイルスプリング
16, 18; 116, 118 …リテーナ
16-1, 18-1; 116-1, 118-1…ガイド溝
16-2, 18-2; 116-2, 118-2…平坦面(本発明の受圧部)
16-3, 18-3…板状突起(本発明の第1軸方向支持面形成部)
116-3, 118-3…台状突起(本発明の第1軸方向支持面形成部)
16-4, 18-4; 116-4, 118-4…軸方向支持面
16-5, 18-5; 116-5, 118-5…台状突起
16-6, 18-6…縦溝
116-6, 118-6…軸方向溝
16-7, 18-7; 116-7, 118-7…内周部(本発明の円周方向壁部)
16-8, 18-8; 116-8, 118-8…弧状突起(本発明の第1軸方向支持面形成部及び円周方
向支持面形成部)
16-11, 18-11; 116-11, 118-11…軸方向支持面
16-12, 18-12; 116-12, 118-12…有底凹部
16-13, 18-13; 116-13, 118-13…切欠部
16-14, 18-14; 116-14, 118-14…内周部の支持板対向壁面
22; 122…ガイド部
22-1, 22-2; 122-1, 122-2…ガイド部の端面(本発明の係止部)
24; 124…支持板(本発明の第1の支持板)
24-1; 124-1…支持板の外周面
26…軸方向延出板(本発明の第1の軸方向延出板)
28; 128…張出板(本発明の第1の軸方向張出板)
28-1, 28-2; 128-1, 128-2…張出板の端面(本発明の加圧部)
30; 130…スプライン軸
131…スプライン軸
132…支持板(本発明の第2の支持板)
136…軸方向延出板(本発明の第2の軸方向延出板)
138…環状円板
О…回転中心線