(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】捩じり振動低減装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/123 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
F16F15/123 A
(21)【出願番号】P 2024529425
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2023001704
【審査請求日】2024-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】筧 大輝
(72)【発明者】
【氏名】村田 豊
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤
(72)【発明者】
【氏名】森 竜太
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-0888141(KR,B1)
【文献】特開2013-249890(JP,A)
【文献】特開2005-195119(JP,A)
【文献】特開2010-43651(JP,A)
【文献】特開昭61-7040(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114992279(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/123
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側への回転連結のための入力部材と、入力部材と回転中心線を同じくし、従動側への回転連結のための出力部材と、入力部材と出力部材間に円周方向に配置された弾性体とを備え、駆動側の入力部材による従動側の出力部材の駆動時の回転変動を弾性体の周方向の弾性変形により低減する捩り振動低減装置であって、
入力部材と出力部材の一方は弾性体を径外方より臨み、入力部材及び出力部材と回転中心線を同じくし円弧状に延びたガイド部を備え、入力部材と出力部材の他方は、中心の支持板と、支持板より円周方向に隣接した弾性体間に延出する張出板と、を具備し、ガイド部は夫々が径内方に延設される係止部を円周方向両端に形成し、張出板は夫々が円周方向両端に径外方に延設される加圧部を形成しており、
更に、弾性体の円周方向の両端夫々に配置され、入力部材及び/若しくは出力部材に対する軸方向及び径方向における支持構造を備え、かつガイド部に沿った円周方向移動は可能なリテーナを具備し、リテーナは弾性体の円周方向の対向する端部を、夫々、収容する有底凹部を有し、リテーナは有底凹部と円周方向離間側端である受圧部においてガイド部の近接する係止部及び張出板の近接する加圧部と対向配置され、
弾性体は、リテーナの少なくとも一端においては、低剛性の第1弾性部材と、高剛性の第2弾性部材と、第1弾性部材と第2弾性部材とを直列に連結する中間部材とを具備しており、かつ第1弾性部材、中間部材及び第2弾性部材の中間部材近接側端部が対応のリテーナの有底凹部に収容され、かつ中間部材はリテーナの有底凹部の径方向における対向面に対して摺動可能に支持され、
対をなすリテーナにおいて、トルク伝達方向における上流側に位置するリテーナは、円周方向に近接する加圧部との当接により、トルク伝達方向における下流側に位置しガイド部の近接する係止部に係止されたリテーナに向けて、常用より低い伝達トルク域にあっては第1弾性部材の弾性率と第2弾性部材の弾性率との直列合成値に依拠する低弾性力、常用伝達トルク域にあっては第2弾性部材単独による高弾性率値に依拠する高弾性力、に抗してガイド部に沿って円周方向に移動される回転変動低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、第1弾性部材及び第2弾性部材は夫々第1コイルスプリング及び第2コイルスプリングとして構成され、第1コイルスプリングの保持を、第2コイルスプリング単独動作への移行に先立ち底付きさせることなく行う第1保持部と、直列動作時及び単独動作時における中間部材のリテーナの摺動に際し第2コイルスプリングの第1コイルスプリング近接側端部の保持を行う第2保持部とを具備する回転変動低減装置。
【請求項3】
請求項2に記載の発明において、第1保持部は、リテーナの有底凹部の底面における中心部に形成され、第1コイルスプリングの一端を外径側より収容する小径部と、中間部材の第2コイルスプリング離間側面に形成され、第1コイルスプリングの他端に挿入される突起とを具備して成る回転変動低減装置。
【請求項4】
請求項2に記載の発明において、第1保持部は、リテーナの有底凹部の底面における中心部に形成され、第1コイルスプリングの一端を収容する小径部と、中間部材の第2コイルスプリング離間側面に形成され、第1コイルスプリングの他端を収容する凹部とを具備する回転変動低減装置。
【請求項5】
請求項2に記載の発明において、第1保持部は、リテーナの有底凹部の底面における中心部に中間部材に向け突出するように形成され、第1コイルスプリングの一端に挿入される突起部と、中間部材の第2コイルスプリング離間側面に形成され、第1コイルスプリングの他端を収容する凹部とを具備する回転変動低減装置。
【請求項6】
請求項2に記載の発明において、第2保持部は中間部材の第1コイルスプリング離間側において第2コイルスプリングの第1コイルスプリング近接側端部に内径部において当接することにより第2コイルスプリングを保持し、かつリテーナの有底凹部に内面に周方向に摺動自在に当接する庇部である回転変動低減装置。
【請求項7】
請求項2に記載の発明において、第2保持部は中間部材の第1コイルスプリング離間側において第2コイルスプリングの中心開口部に挿入される円錐台状突起である回転変動低減装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項記載の発明において、中間部材及び第1リテーナ及び第2リテーナのうち少なくとも第1リテーナ及び第2リテーナは合成樹脂を素材とする射出成型による成型品である回転変動低減装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項記載の発明において、前記支持構造は、第1リテーナ及び第2リテーナの入力部材及び出力部材との対向面間に形成され、第1リテーナ及び第2リテーナ自らを入力部材及び出力部材に対し軸方向及び径方向に支持させるための溝-突起嵌合構造及び面-面当接構造より成る自己完結型の支持構造として構成され、回転変動に応じた入力部材及び出力部材の相対移動は、自己完結型の支持構造により支持された第1リテーナと第2リテーナ間の弾性力に応じた円周方向相対移動を惹起させる回転変動低減装置。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項記載の発明において、前記支持構造は、第1リテーナ及び第2リテーナを軸方向及び径方向の支持のため入力部材若しくは出力部材の一方は、入力部材若しくは出力部材の他方を中間においた、複数板材の軸方向合わせ構造として構成され、回転変動に応じた入力部材及び出力部材の他方の入力部材若しくは出力部材の一方に対する相対移動は、入力部材若しくは出力部材の一方に支持された第1リテーナと第2リテーナ間の弾性体の弾性力に応じた円周方向相対移動を惹起させる回転変動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は原動機の回転軸の捩じり振動を低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングと直列接続した方式の捩じり振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アイドリング時の騒音低減等の目的で低剛性の状態での広い捩じり角度範囲を得るための技術として、低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングとを直列配置した方式の2段動作の捩じり振動低減装置(トーショナルダンパ)が公知である(特許文献1及び特許文献2)。低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングとの直列配列はエンジン側の回転プレートとトランスミッション側の回転プレート間において回転方向対向面間に配置され、入-出力軸間の捩じり角度が小さい状態においては低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングとが直列で動作し、合成値としての捩じり剛性は小さくなるため捩じり角度の増大に対するトルクの増大が小さくなり、広い捩じり角度範囲にわたり捩じりトルクの増大を抑えることができる。
【0003】
アイドリング運転から通常走行のための常用トルクでの運転に移行し、捩じりトルクが限界値(完全圧潰若しくは密着に至る少し手前)まで増大したときに、低剛性のコイルスプリングは無効化され、捩じりトルクに対しては高剛性のコイルスプリングが単独で動作し、捩じり角度に対する捩じりトルクの増大はコイルスプリングの直列接続の場合と比較して急となる。
【0004】
上述動作の実現のため、特許文献1の技術では低剛性のコイルスプリングは径内方に、高剛性のコイルスプリングは径外方に夫々位置され、低トルク域においては内径側のハブの回転を低剛性のコイルスプリングを介してクラッチプレートに伝達し、低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングの直列接続による低捩り剛性を得るようにし、高トルク域ではハブをクラッチプレートに対し回転拘束することにより、低剛性のコイルスプリングを無効とし、高剛性のコイルスプリングのみの減衰動作とすることにより高捩り剛性を得るようにしている。特許文献2の技術も低トルク域は低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングがサポートプレートを介しての直列接続、高トルク域ではサポートプレートの入力側若しくは出力側へのロックにより低剛性のコイルスプリングを無効とし、高剛性のコイルスプリングの単独動作では特許文献1と同様であるが、低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングとは同一円周上に位置していることにおいて構成上相違がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-42311号公報
【文献】特開2015-161371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングとの連結制御のためのハブやサポートプレートは入-出力軸に同軸に全周を占有して配置される金属製の本体部品であり、ダンパ装置全体における無視し得ない大きな空間を占有することになり、低剛性のコイルスプリングに加えてその取り付けや位置決めのための専用部品が追加的に必要となり、部品点数増や組付け工数大によるコスト増の問題が避けられない。また、低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングの直列接続から高剛性のコイルスプリングの単独動作に切替時における低剛性のコイルスプリングの無効化はハブとクラッチプレート係合やサポートプレートの入力側若しくは出力側の回転部材との係合に依拠し、金属同志の直接的当接により大きな異音発生を伴うことになる。
【0007】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みなされたものであり、低剛性のコイルスプリングと高剛性のコイルスプリングとの直列接続のダンパを最低限の部品増により実現し、かつ騒音対策に対する適合性を高め得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の捩り振動低減装置は、駆動側への回転連結のための入力部材と、入力部材と回転中心線を同じくし、従動側への回転連結のための出力部材と、入力部材と出力部材間に円周方向に配置された弾性体とを備え、駆動側の入力部材による従動側の出力部材の駆動時の回転変動を弾性体の周方向の弾性変形により低減するためのものであり、
【0009】
入力部材と出力部材の一方は弾性体を径外方より臨み、入力部材及び出力部材と回転中心線を同じくし円弧状に延びたガイド部を備え、入力部材と出力部材の他方は、中心の支持板と、支持板より円周方向に隣接した弾性体間に延出する張出板と、を具備し、ガイド部は夫々が径内方に延設される係止部を円周方向両端に形成し、張出板は夫々が円周方向両端に径外方に延設される加圧部を形成しており、
【0010】
更に、弾性体の円周方向の両端夫々に配置され、入力部材及び/若しくは出力部材に対する軸方向及び径方向における支持構造を備え、かつガイド部に沿った円周方向移動は可能なリテーナを具備し、リテーナは弾性体の円周方向の対向する端部を、夫々、収容する有底凹部を有し、リテーナは有底凹部と円周方向離間側端である受圧部においてガイド部の近接する係止部及び張出板の近接する加圧部と対向配置され、
【0011】
弾性体は、リテーナの少なくとも一端においては、低剛性の第1弾性部材と、高剛性の第2弾性部材と、第1弾性部材と第2弾性部材とを直列に連結する中間部材とを具備しており、かつ第1弾性部材、中間部材及び第2弾性部材の中間部材近接側端部が対応のリテーナの有底凹部に収容され、かつ中間部材はリテーナの有底凹部の径方向における対向面に対して摺動可能に支持され、
【0012】
対をなすリテーナにおいて、トルク伝達方向における上流側に位置するリテーナは、円周方向に近接する加圧部との当接により、トルク伝達方向における下流側に位置しガイド部の近接する係止部に係止されたリテーナに向けて、常用より低い伝達トルク域にあっては第1弾性部材の弾性率と第2弾性部材の弾性率との直列合成値に依拠する低弾性力、常用伝達トルク域にあっては第2弾性部材単独による高弾性率値に依拠する高弾性力、に抗してガイド部に沿って円周方向に移動される。
【0013】
第1弾性部材及び第2弾性部材は夫々第1コイルスプリング及び第2コイルスプリングとして構成され、第1コイルスプリングの保持を、第2コイルスプリング単独動作への移行に先立ち底付きさせることなく行う第1保持部と、直列動作時及び単独動作時における中間部材のリテーナの摺動に際し第2コイルスプリングの第1コイルスプリング近接側端部の保持を行う第2保持部とを具備する。
【0014】
第1保持部は、リテーナの有底凹部の底面における中心部に形成され、第1コイルスプリングの一端を外径側より収容する小径部と、中間部材の第2コイルスプリング離間側面に形成され、第1コイルスプリングの他端に挿入される突起とより構成することができる。大体手段として、第1保持部は、リテーナの有底凹部の底面における中心部に形成され、第1コイルスプリングの一端を収容する小径部と、中間部材の第2コイルスプリング離間側面に形成され、第1コイルスプリングの他端を収容する凹部とから構成することもできる。更なる代替手段として、第1保持部は、リテーナの有底凹部の底面における中心部に中間部材に向け突出するように形成され、第1コイルスプリングの一端に挿入される突起部と、中間部材の第2コイルスプリング離間側面に形成され、第1コイルスプリングの他端を収容する凹部とから構成してもよい。
【0015】
第2保持部は中間部材の第1コイルスプリング離間側において第2コイルスプリングの第1コイルスプリング近接側端部に内径部において当接することにより第2コイルスプリングを保持し、かつリテーナの有底凹部に内面に周方向に摺動自在に当接する庇部とすることできる。この代替方式として、第2保持部は中間部材の第1コイルスプリング離間側において第2コイルスプリングの中心開口部に挿入される円錐台状突起とすることできる。
第1リテーナ及び第2リテーナは合成樹脂を素材とする射出成型による成型品とすることが好ましい。
【0016】
本発明において、第1リテーナ及び第2リテーナの支持構造の実現のため、第1リテーナ及び第2リテーナの入力部材及び出力部材との対向面間に形成され、第1リテーナ及び第2リテーナ自らを入力部材及び出力部材に対し軸方向及び径方向に支持させるための溝-突起嵌合構造及び面-面当接構造を設けることができる。この場合において、回転変動に応じた入力部材及び出力部材の相対移動は、自己完結型の支持構造により支持された第1リテーナと第2リテーナ間の弾性力に応じた円周方向相対移動を惹起させる。
【0017】
前記支持構造は、第1リテーナ及び第2リテーナを軸方向及び径方向の支持のための入力部材若しくは出力部材の一方は、入力部材若しくは出力部材の他方を中間においた、複数板材の軸方向合わせ構造として構成することができ、この場合においても回転変動に応じた入力部材及び出力部材の他方の入力部材若しくは出力部材の一方に対する相対移動は、入力部材若しくは出力部材一方に支持された第1リテーナと第2リテーナ間の弾性体の弾性力に応じた円周方向相対移動を惹起させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の捩り振動低減装置にあっては、低剛性の第1弾性部材及び第1弾性部材を第2弾性部材に連結する中間部材が第1リテーナ及び/若しくは第2リテーナに収容されており、第1弾性部材及び/第2弾性部材の変形に対しては中間部材のリテーナ対向面の摺動により賄うことができ、従来技術における変速機回転中心と同軸配置の金属性回転部材や弾性部材の係止のための付加的な金属部品が不要となり部品点数の大巾削減と工数短縮による大巾なコスト低減を得ることができる。
【0019】
第1リテーナ及び第2リテーナは弾性部材の端部を収容する構造であるため比較的大型であり、適宜の素材選択により樹脂部品とすることができまた連結部材については金属製でも良いが適正な素材の選択によりこれも樹脂部品化が可能であるため、低剛性と高剛性との切替時の連結部材の着座時に樹脂対金属若しくは樹脂対樹脂の当接とすることができるため、切替時の衝撃による異音の大巾低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は第1の実施形態の捩り振動低減装置を変速機側より見た正面図である。
【
図2】
図2は第1の実施形態の捩り振動低減装置を原動機側より見た背面図である。
【
図3】
図3は
図1のIII-III線に沿った矢視断面図である。
【
図4A】
図4Aは分解状態における第1の実施形態の捩り振動低減装置の斜視図の左半分を示す。
【
図4B】
図4Bは分解状態における第1の実施形態の捩り振動低減装置の斜視図の右半分を示す。
【
図5A】
図5Aは第1の実施形態の捩り振動低減装置における対をなす第1リテーナ及び第2リテーナ並びに第1コイルスプリング、第2コイルスプリング及びその間の中間リテーナから成るコイルスプリングセットの断面図であり、コイルスプリングセットは初期セット状態にて示す。
【
図5B】
図5Bは
図5Aと同様の第1リテーナ及び第2リテーナ並びにコイルスプリングセットの断面図であるが、コイルスプリングセットは低剛性第1コイルスプリングから高剛性第2コイルスプリングへの切替時の状態を示す。
【
図6】
図6は第1の実施形態におけるコイルスプリングセットの捩り角-捩りトルクの関係を模式的に示すグラフである。
【
図7】別実施形態における対をなす第1リテーナ及び第2リテーナ並びに第1コイルスプリング、第2コイルスプリング及びその間の中間リテーナから成るコイルスプリングセットの断面図であり、コイルスプリングセットは初期セット状態にて示す。
【
図10】
図10は第2の実施形態の捩り振動低減装置を変速機側より見た正面図である。
【
図13】
図13は第2の実施形態の捩り振動低減装置における対をなす第1リテーナ及び第2リテーナ並びに第1コイルスプリング、第2コイルスプリング及びその間の中間リテーナから成るコイルスプリングセットの断面図であり、コイルスプリングセットは初期セット状態にて示す。
【発明の実施の形態】
【0021】
以下図面を参照しながら説明すると、
図1-
図3は入力部材と出力部材とを共に一枚の鋼板からのプレス成形品とし、コイルスプリング端部保持用のリテーナに自身のみで入力部材及び出力部材に対する支持機能を持たせるようにした第1の実施形態の捩り振動低減装置を組立状態にて示し、内燃機関(原動機)のクランク軸(本発明の駆動側)に連結されるフライホイール(その一部を
図3において想像線11にて示す)に連結される入力部材10と、変速機(本発明の従動側)に連結される出力部材12と、円周方向に等間隔に複数(本実施形態では3個)配置されたコイルスプリングセット14(本発明の弾性体)と、各コイルスプリングセット14の長さ方向(円周方向)の一端に設置された第1リテーナ16と、コイルスプリングセット14の長さ方向(円周方向)の他端に設置された第2リテーナ18とを備える。従って、コイルスプリングセット14の数に合わせて第1リテーナ16と第2リテーナ18とは3組設けられる。
【0022】
各コイルスプリングセット14は、低剛性で短尺の第1コイルスプリング32(本発明の第1弾性部材)と高剛性で長尺の第2コイルスプリング34(本発明の第2弾性部材)とを中間リテーナ36(本発明の中間部材)を介して直列接続して構成される。
【0023】
第1リテーナ16及び第2リテーナ18はナイロン樹脂等のプラスチックの成形品であり、夫々、コイルスプリングセット14の端部を保持するという本来の機能を損なうことなく、自身にて入力部材10及び出力部材12に対して軸方向にも径方向にも支持させることができる後述の自己完結型の支持構造を備えたものである。中間リテーナ36についてはコストの観点では適当な厚みの金属板よりプレス品とすることができるが、素材や肉厚の適切選定により樹脂製とすることは可能であり、これは低剛性と高剛性との切替が樹脂-樹脂の衝突となるので異音の低減の観点では有利である。
【0024】
入力部材10は鋼板を素材としたプレス成形品であり環状円板として構成される。入力部材10は外周部に円周方向に等間隔に6個配置されたフライホイールに固定のためのボルト孔20と、ボルト孔20より径が小さく、直径対立位置に配置された2個のノックピン孔21とを形成する(煩雑を避けるため各一つのみ図番表示)。
【0025】
入力部材10の内周面に円周方向に等間隔に円弧状の所定深さの凹刻部であるガイド部22を形成する。
図1及び
図2に示すように第1リテーナ16, 18の組はガイド部22の夫々に設けられる。ガイド部22を形成する入力部材10の内周凹刻面は、回転中心を入-出力軸の回転中心線Оと同じくし、後述するように入-出力軸間の捩り振動時における第1リテーナ16, 18の摺動案内面となる。各組の第1リテーナ16, 18は対応のガイド部22の円周方向の両端部に近接かつ対向して配置される。
【0026】
出力部材12(形状については
図4A参照)も入力部材10と同様鋼板を素材としたプレス成形品であり、
図1に示すように丸みを帯びた疑三角形状(おにぎり形状)の支持板24と、支持板24の三角形状の頂点における外周凸部24-2より一体に曲折形成された3個の張出板28とを備える。各張出板28は円周方向に隣接するコイルスプリングセット14間に配置される。出力部材12は、更に、張出板28の中心部に入-出力軸の回転中心線Оと同軸の一体のスプライン軸30を形成しており、スプライン軸30は図示しない内周スプラインにより図示しない変速機入力軸に連結可能となっている。張出板28は外径側においては径外方に延出するが、内周側においては軸方向延出板26を介して支持板24の外周部24-2に一体に連なっている(
図3)。
【0027】
出力部材12は、円周方向に隣接した張出板28間に夫々のコイルスプリングセット14の収容のための窪み部分を形成する。窪み部分の底面を支持板24の疑三角形状における幾分外周に張出された各一辺である外周面24-1が形成する。ガイド部22と張出板28の窪み部分とは、外周面24-1とで3個のコイルスプリングセット14のうち対応の一つのコイルスプリングセット14を収容する窓枠様開口部15を形成する。
【0028】
次に、捩り振動低減装置の詳細構成を
図4A及び
図4Bの分解斜視図により説明する。第1リテーナ16及び18は3組設置され、また第1リテーナ16及び18の組毎にコイルスプリングセット14(各々が低剛性の第1コイルスプリング32、高剛性の第2コイルスプリング34、及び中間リテーナ36から成る)が設けられる。これらの3組を夫々A, B, Cにて表示する。また、入力部材10のガイド22も組毎に設けられることから夫々(A), (B), (C)を追加的に付して表す。ガイド22の両端における係止部22-1, 22-2 も組毎に設けられることからこれについても夫々(A), (B), (C)を付す。他方、出力部材12の張出板28は円周方向両端面が駆動部28-1, 28-2を形成するが、円周方向に隣接する張出板28の対向する駆動部28-1, 28-2が組をなすので、これも夫々(A), (B), (C)を追加的に付して表す。
【0029】
以下、
図4A及び
図4Bにより第1リテーナ16及び18の夫々の構成並びに第1リテーナ16及び18の夫々の入力部材10及び出力部材12に対する組付け構造を組Aを主体に説明する。しかしながら、斜視図の性質上、組Aのみにより全ての構造を隈なく図示することはできないことからかつ適宜他の組B及びCも参照し説明する。先ず、第1リテーナ16と入力部材10との関係を説明すると、第1リテーナ16は入力部材10における該当組(組Aと想定)のガイド部22に対向する外周面において、円周方向の全長にわたり延設されるガイド溝16-1(
図3も参照)を備え、ガイド溝16-1は径外方に開口した断面コの字状をなし、入力部材10のガイド部22において入力部材10の厚み部分に適切なクリアランスをもって円周方向摺動可能に収容され、第1リテーナ16を入力部材10に対し円周方向に相対回転可能とし、かつガイド溝16-1のガイド部22との係合は、円滑な摺動に支障無しに軸方向に実質的にガタが無く、第1リテーナ16の入力部材10に対する軸方向支持のため機能する。またそして、円周方向に延設されたガイド溝16-1の底面は第1リテーナ16を入力部材10に対して径外側において支持する支持面として役立てることができる。
【0030】
第1リテーナ16は、近接した張出板28と対向する円周方向端部において回転中心線Оと平行に径方向に延設される平坦面16-2(本発明の受圧部)を形成する。平坦面16-2に対して、円周方向に近接する張出板28の対向した端面28-1(形状は
図4A及び
図4Bからは分かり難いが、組となる第2リテーナ18の円周方向に対向した端面28-2の形状を参照)に当接し、平坦面16-2は正転方向(矢印f1方向)の回転変動における張出板28からのトルク受け面となる。
【0031】
平坦面16-2から板状突起16-3が一体に樹立され、板状突起16-3は、外周側は第1リテーナ16の外周面と面一に延びているが、内周側は途中で終端している。板状突起16-3は、変速機側(本発明における従動側)に回転中心線Oと直交し径方向に延設される軸方向支持面16-4を形成する。組み立て状態においては、軸方向延出板26が板状突起16-3の径内側を通されることで、張出板28は変速機側において軸方向支持面16-4と軸方向に面対面にて当接され、軸方向支持面16-4は変速機側への第1リテーナ16の軸方向支持面として役立つことになる。
【0032】
平坦面16-2からは板状突起16-3から軸方向における原動機側(本発明における駆動側)に離間して台状突起16-5が樹立され、台状突起16-5は第1リテーナ16の外周面とも原動機側の側面とも面一であるが、径内方には板状突起16-3と整列して終端している。そして、板状突起16-3と台状突起16-5間には、底面が平坦面16-2の一部でかつ外周面のガイド溝16-1と湾曲部16-6’を介して連なる縦溝16-6が残される。縦溝16-6の湾曲部16-6’は円周方向に対向するガイド部22の端面22-1の付根のR形状に合わせるため付されたものである。即ち、縦溝16-6、湾曲部16-6’は回転変動の無い中立状態において、ガイド部22の端面22-1を収容し、このとき入力部材10は平坦面16-2によって出力部材12に対する相対回転を拘束される。
【0033】
内周部16-7の内径面16-10より幅の狭い内周壁16-14が円周方向の全長にわたり径内方に向け直立するように形成される。内周壁16-14の形状は組Aの第1リテーナ16については分かり難いが、組B及びCの第1リテーナ16よりその形状は理解されよう。内周部16-7は内周壁16-14の原動機側においては内径面16-10と面一の支持面16-10’を形成する。入力部材10及び出力部材12に対する第1リテーナ16の組付け状態においては、支持面16-10’において支持板24の外周面24-1に径外側より対向し、内周壁16-14において支持板24に軸方向における変速機側より対向する。また、第1リテーナ16の支持面16-10’が支持板24(の外周面24-1)に径方向に対向し、かつ内周壁16-14が支持板24の変速機側に軸方向に対向する構成は
図3にも示される。
【0034】
内周部16-7は、対応の張出板28側においては板状突起16-3及び台状突起16-5から径内方に間隔をおいて平坦面16-2から樹立された弧状突起16-8をなしている。即ち、弧状突起16-8は内周部16-7の張出板28側延長部となっている。弧状突起16-8は、支持板24を張出板28に連接する軸方向延出板26に内周側から入り込むようになっている(弧状突起16-8が軸方向延出板26に内周側から入り込む様子については
図1に描かれている)。この構造により、弧状突起16-8の外周面16-9は、第1リテーナ16を軸方向延出板26、即ち、出力部材12に対して径内側より支持する支持面となり、ガイド溝16-1の底面である径外側からの支持面とで第1リテーナ16の径方向の支持構造が提供される。板状突起16-3及び弧状突起16-8との間は、組み立て状態において、出力部材12の軸方向延出板26を通すための隙間部分となる。弧状突起16-8は原動機側に軸方向に直交しかつ径方向に延設される軸方向支持面16-11を原動機側に形成する。軸方向支持面16-11は、組み立て状態(中立状態)においては、支持板24に対向かつ当接し、出力部材12に対する第1リテーナ16の原動機側への軸方向支持面として機能する。即ち、軸方向支持面16-11は軸方向支持面16-4とで第1リテーナ16を出力部材12に対し軸方向における両側での支持を行う支持面として働くことになる。軸方向支持面16-11の支持板24(外周凸部24-2)に対する当接構造は組Aの第1リテーナ16では分かり難いが組Bの第1リテーナ16の軸方向支持面16-11と支持板24の外周凸部24-2との位置関係から理解されよう。上述のように弧状突起16-8は内周部16-7の対応張出板28側端部となっており、弧状突起16-8の軸方向支持面16-11は内周壁16-14と面一の円周方向の延長部を呈している。
【0035】
図4Aに示すように、第1リテーナ16は平坦面16-2の設置側の円周方向端部、即ち、張出板28の端面28-1と当接側とは離間側の円周方向端部に対応のコイルスプリングセット14の第1リテーナ16側端部、即ち、第1コイルスプリング32及び中間リテーナ36及び第2スプリング34の中間リテーナ36近接側端部の収容のための有底凹部40を形成する。有底凹部40については組A及びBについては
図4Aでは構造が分り難いが、組Cにおいては、深さが相違する底面40-1a, 40-2aを備え、大径部40-1と小径部40-2との2段に形成された有底凹部40の構造が良く分る。そして、第1リテーナ16の両側壁部にコイルスプリングセット14近接面側から切欠部16-13が形成されるが、これは組立時に取付のためスプリングを縮ませる治具(組立ロボット)の凹部40の内側への挿入孔として役立てることができる。また、中間リテーナ36における内径側の支持突起36-2及び径外側に第2コイルスプリング34を臨むように設けた庇部36-3(第2コイルスプリング34の保持(ガイド)のための本発明の第2保持部を構成する)の構造も備えている。
【0036】
第2リテーナ18については、入力部材10及び出力部材12に対する自己完結型の支持構造を提供する構造については、第1リテーナ16と対称配置である以外は同一であり、組A及びBの第2リテーナ18を参照すると、ガイド溝18-1によるガイド部22に対する円周方向摺動構造及び内周部18-7の円周方向内面18-10より内周壁18-14が径内方に直立形成されていることがわかる。また、組Cの第2リテーナ18を見ると、平坦な受圧面18-2に樹立される板状突起18-3及び板状突起18-3により形成される軸方向支持面18-4、更には台状突起18-5及びその間に形成される縦溝18-6、更には内周部18-7の先端の弧状突起18-8、弧状突起18-8により形成される軸方向支持面18-11が分る。また、組Aの第2リテーナ18について、第2スプリング34の端部を収容するための有底凹部42の形状および両側に形成される切欠部18-13の形状が良くわかる。
【0037】
入力部材10及び出力部材12に対する第1リテーナ16, 18の取り付けについて説明すると、第1リテーナ16, 18の取り付けは、入力部材10のピン孔21をフライホイール11のノックピンに装着することにより位置決めし、ボルト孔20に通されるボルトによりフライホイール11に固定し、他方出力部材12についてはスプライン軸30を変速機入力軸にスプライン嵌合により固定した状態にて行われる。入力部材10におけるガイド部22に対向する出力部材12における支持板24の外周面24-1との間隔は組となる円周方向に隣接した張出板28の対向端面28-1, 28-2間の中央部で最大となっているため(
図1若しくは
図2参照)、入力部材10に対して第1リテーナ16を適宜傾けることにより、段差面16-10の側から第1リテーナ16をガイド部22と支持板24間(窓枠様開口部15)に導入し、入力部材10と第1リテーナ16とを真っ直ぐに治すことによりガイド溝16-1をガイド部22に嵌めることができる。同様に第2リテーナ18についても、段差面18-10側から窓枠様開口部15に導入し、ガイド溝18-1をガイド部22に嵌めることができる。第1リテーナ16, 18は、ガイド部22に嵌めた状態では、段差面16-10, 18-10において支持板24の円周方向外面24-1に径方向に対向し、内周壁16-14, 18-14において変速機側より軸方向に支持板24に対向する。そのため、変速機側より軸方向には第1リテーナ16, 18は直立支持された状態になる。そして、ガイド部22に既に嵌っている第1リテーナ16をガイド部22の対向した端面22-1に向けて円周方向に押し込んでゆくと、入力部材10においては、第1リテーナ16の縦溝16-6がガイド部22の端面22-1に嵌ると同時に、出力部材12においては、張出板28が変速機側において板状突起16-3に係合し、軸方向延出板26は台状突起16-5と弧状突起16-8との間に導入され、弧状突起16-8の軸方向支持面16-11が支持板24の外周凸部24-2に当たり、かつ弧状突起16-8は軸方向延出板26に内側より嵌る。そして、最終的な押込完了状態では、縦溝16-6が端面22-1に嵌合し、張出板28の端面28-1が第1リテーナ16の平坦面16-2に当接された状態に至る。この状態においては、第1リテーナ16の円周方向内面(底面)16-10は、出力部材12の支持板24の円周方向外面24-1に密接対向する(
図3参照)。第2リテーナ18についても同様な操作により、縦溝18-6にガイド部22の端面22-2が嵌った状態において、張出板28の端面に第2リテーナ18の平坦面18-2が当接された状態に至る。この状態においては、第2リテーナ18の円周方向内面18-10は、出力部材12の支持板24の円周方向内面24-1に密接対向しており、第2リテーナ18は入力部材10及び出力部材12に対して軸方向にも径方向にも支持される。このとき、各組の第1リテーナ16, 18間で切欠部16-13, 18-13が対向位置しており(
図1参照)、コイルスプリングセット14は、第1コイルスプリング32と第2コイルスプリング34とを中間リテーナ36により直列連結し、治具により両側より縮めた上、切欠部16-13, 18-13を介して治具を挿入することで第1リテーナ16, 18間に導入し、治具を切欠部16-13, 18-13を介して後退し抜去させることで、コイルスプリングセット14をその弾性下一端においては第1リテーナの有底凹部40に収容し、他端においては第2リテーナの有底凹部42に収容された
図1及び
図2の組立状態を得ることができる。
【0038】
図5Aは組立完了後における初期セット状態における一対の第1リテーナ16, 18間における第1コイルスプリング32と、第2コイルスプリング34と、中間リテーナ36とから成る対応の一つコイルスプリングセット14の収容状態を入力部材10及び出力部材12との係合状態は煩雑を回避するため図示を省略した状態にて断面図にて示す。第1コイルスプリング32は所期の低剛性(捩じり角度に対する相対的に小さなトルク値)を得ることができる小さな線径の鋼線を素材とする短尺型にて成形され、第2コイルスプリング34は所期の高剛性(捩じり角度に対する相対的大きなトルク値)を得るため大きな線径の鋼線を素材とする長尺型に構成される。各コイルスプリングセット14において、中間リテーナ36から長さ方向に離間側における第1コイルスプリング32の端部は第1リテーナの有底凹部40に収容され、中間リテーナ36から長さ方向に離間側における第2コイルスプリング34の端部は第2リテーナ18の有底凹部42に収容される。
【0039】
第1リテーナ16及び第2リテーナ18による第1コイルスプリング32、第2コイルスプリング34の夫々の収容構造を更に詳細に説明すると、第1リテーナ16は、第1コイルスプリング32及び中間リテーナ36の収容のための円周方向における第2リテーナ18側に開口した有底凹部40は開口端からの大径部40-1と、大径部40-1の底面から更に深く筒状に凹設された小径部40-2との2段に形成される(有底凹部40の2段形状については
図4Aも参照)。第1コイルスプリング32は、長手方向における一端は小径部40-2の底面40-2aに当接され、他端は中間リテーナ36の対向面36-1に当接するようにされる。初期セット状態において、大径部40-1の底面40-1aと中間リテーナ36の対向面36-1間に隙間αが残されており、この隙間αのストローク分だけ初期セット状態から第1コイルスプリング32の変形が可能となり、隙間αの消失後は第2コイルスプリング34が単独で回転変動の抑制に関与することになる。即ち、第1コイルスプリング32のガイドのため中間リテーナ36は中心部に第1コイルスプリング32にその内側に向け一体に突出する第1コイルスプリング32のための支持突起36-2(有底凹部40の小径部40-2とで第1コイルスプリング32の保持(ガイド)のための本発明の第1保持部を構成する)を備えるが、底面36-1からの支持突起36-2の突出高さは、底面40-1aと底面36-1間の隙間αの大きさより小さくなっており、第1コイルスプリング32が巻線同志の密着に至る前に中間リテーナ36は大径部40-1の底面40-1aに着座し、第1コイルスプリング32が無効化された後、中間リテーナ36は第2コイルスプリング34による動作に移行するようになっている。第1コイルスプリング32の一端を支持突起36-2に挿入し、他端を小径部40-2に収容した構成は、そのガイド作用により、捩り振動時における第1コイルスプリング32のスムースな変形にも役立てることができる。
【0040】
また、第2コイルスプリング34の変形時の案内若しくは規制のため中間リテーナ36は、径外側に第2コイルスプリング34を臨むように庇部36-3を備える(庇部36-3の形状については
図4B参照)。庇部36-3に対向して、第1リテーナ16は有底凹部40においてガイド面40-1bを形成しており、遠心力により第2コイルスプリング34は半径外方に付勢されるため回転変動時の第1コイルスプリング32の変形に際しては、中間リテーナ36は庇部36-3が対向した第1リテーナ16のガイド面40-1bの案内を受けることにより有底凹部40の対向面40-1aに向けたスムースな移動が確保される。有底凹部40におけるガイド面40-1bより開口端側は、組立時における第2コイルスプリング34との干渉が生じないように軸方向に拡開された内周面40-1cを呈している。庇部36-3は第2コイルスプリング34の端部を保持すると共に捩り振動により第2コイルスプリング34の変形に対して中間リテーナ36を第1リテーナ16の内周に対して円滑に案内するガイドとして機能する。
【0041】
図5Aに示すように、第2リテーナ18は第1リテーナ16側に開口した筒状有底開口42を備える。筒状有底開口42は
図4Bの組Aに示すように筒形状体から両側壁を切除し、円弧状の内周面を形成した壁部が上下に残された形状をなす。第2コイルスプリング34の中間リテーナ36からの離間側端部は筒状有底開口42の底面42-1に当接している。筒状有底開口42の径外方の内周面42-1cが第2の遠心力により径外方変位に対するコイルスプリング34の案内面となる。
【0042】
図4A及び
図4Bで説明した第1リテーナ16及び第2リテーナ18の入力部材10の対向外面及び出力部材12の対向外面における各突起部、各溝部及び支持面等の構造は断面図である
図5A及び
図5Bにおいて見える部位については対応の参照符号にて示し、重複回避のため機能についての説明も省略する。
【0043】
本実施形態において第1リテーナ16, 18は、コイルスプリング14の円周方向両端での保持という本来の機能を損なうことなく、リテーナ自らが入力部材10及び出力部材12に対し軸方向及び径方向に支持されるという言わば自己完結型の支持構造を具有している。即ち、この支持構造に関し、第1リテーナ16について説明すると、第1リテーナ16は
図4Aについて説明のように、ガイド溝16-1が入力部材10のガイド部22に嵌合しており、ガイド溝16-1の軸方向に離間した対向面が入力部材10に軸方向に支持される。また、第1リテーナ16の出力部材12に対する軸方向支持は、張出板28が第1リテーナ16の板状突起16-3(軸方向支持面16-4)に変速機側より当接し、支持板24(外周凸部24-2)が第1リテーナ16の軸方向支持面16-11 (弧状突起16-8に形成される)に原動機側より当接することにより行われる。また、第1リテーナ16の径方向支持は、径方向外側からは、入力部材10のガイド部22が第1リテーナ16のガイド溝16-1の底面に当接し、径方向内側からは、弧状突起16-8の外周面16-9が出力部材12の軸方向延出板26の内周面に当接することにより行われる。
【0044】
また、第2リテーナ18の入力部材10及び出力部材12に対する支持も同様であり、ガイド溝18-1の軸方向対向側面との当接により第2リテーナ18は入力部材10に軸方向支持され、出力部材12に対しては、第2リテーナ18は板状突起18-3(軸方向支持面18-4)と弧状突起18-8(軸方向支持面18-11)間において軸方向支持が行われる。また、第2リテーナ18の径方向支持は、径方向外側からは、入力部材10のガイド部22が第2リテーナ18のガイド溝18-1の底面に当接し、径方向内側からは、弧状突起18-8の外周面18-9が出力部材12の軸方向延出板26に当接することにより行われる。
【0045】
第1リテーナ16, 18は入力部材10及び出力部材12に対する自己完結型の支持構造により、入力部材10も出力部材12もいずれも鋼板からのプレス成型品の一枚物であるにも関わらず第1リテーナ16は、自らが入力部材10と出力部材12に軸方向にも径方向にも支持されかつコイルスプリングセット14の保持という第1リテーナ16, 18本来の機能は損なわれることがなく、通常のように入力部材10を2枚構造としその間にコイルスプリングセット14の保持を行う構成との比較でプレス成形部品を最低でも一枚節約でき、また、2枚構造の一体化のためのリベットが不要となり、この点でも部品点数を抑えることができ作業性の観点からも有利である。またリベットがないことからその分外径側での設計の自由度を高めることができる。
【0046】
次に第1の実施形態の捩り振動低減装置の回転変動抑制動作を
図4A及び
図4Bにより説明すると、出力部材12が入力部材10に対して正転方向 (矢印f1方向)に捩りトルクを生じた場合にあっては、張出板28はその端面28-1の第1リテーナ16(捩りトルク印加方向の上流側に位置するリテーナ)の対向する平坦面16-2との当接により第1リテーナ16はガイド溝16-1を介しガイド部22に沿って矢印f1方向に摺動させ、第1リテーナ16はガイド部22の端面22-1との当接状態から外れ、他方組となる第2リテーナ18はその平坦面18-2が回転変動方向下流側のガイド部端面22-2との当接状態を維持するため、回転変動方向下流側の張出板28の端面28-2は対向した第2リテーナ18の平坦面18-2から外れ、第1リテーナ16, 18間でのコイルスプリングセット14の更なる圧縮を惹起する。入力部材10に対する出力部材12の正転方向(矢印f1方向)への捩りトルクの増大により、やがては、出力部材12の回転変動方向f1下流側における張出板28が第2リテーナ18(縦溝18-6)から外れかつ軸方向延出板26が弧状突起18-8(円周方向外周面16-9)から外れるに至り、このとき第2リテーナ18は平坦面18-2においてガイド部端面22-2に弾性力下係止されているため第2リテーナ18は入力部材10に対して保持固定される。また、コイルスプリングセット14に生ずる弾性力の径外方成分及びクランク軸の回転により第2リテーナ18に生ずる遠心力も入力部材10に対する第2リテーナ18の確実な保持に寄与することになる。
【0047】
逆に、出力部材12が入力部材10に対して中立状態から逆転方向(矢印f2方向)に回転変動を生じた場合は、張出板28は端面28-2が平坦面18-2に当接することにより第2リテーナ18(捩りトルク印加方向の上流側に位置するリテーナ)をガイド溝18-1を介しガイド部22に沿って逆転方向(矢印f2方向)に摺動させ、このとき第2リテーナ18の平坦面18-2はガイド部22の端面22-2との当接状態から外れ、組となる回転変動方向の下流側に位置する第1リテーナ16の平坦面16-2がガイド部22の端面22-1に係止保持されていることから、張出板28の端面28-1は第1リテーナ16から離間されつつ第2リテーナ18はガイド溝18-1を介しガイド部22に沿って 円周方向に対向した第1リテーナ16に向け摺動され、コイルスプリングセット14の更なる圧縮を惹起する。このような回転変動の方向に応じたコイルスプリングセット14の圧縮動作により回転変動の低減を実現することができる。
【0048】
この実施形態におけるコイルスプリングセット14のトルク変化に応じた動作を説明すると、捩りトルクの印加が無い状態(中立状態)においては、コイルスプリングセット14における第1コイルスプリング32と第2コイルスプリング34との中間リテーナ36を介しての直列連結下の弾性力にて対となる第1リテーナ16, 18は入力部材10のガイド部22の近接対向する係止部22-1, 22-2及び出力部材12の張出板28の近接対向する駆動部28-12, 28-2に当接される(
図1及び
図2)。変動トルクが無い状態(捩りトルク=0)におけるコイルスプリングセット14の状態は
図5Aに示す。
【0049】
入力部材10と出力部材12との間にかかる正転方向(
図1の矢印f1)のトルク変動は第1リテーナ16の第2リテーナ18に向けた移動を、負転方向(
図1の矢印f2)のトルクは第2リテーナ18の第1リテーナ16に向けた移動を惹起させるが、これは、トルクが小さい状態においては中間リテーナ36を第1リテーナ16の内径に沿って摺動させる。中間リテーナ36と第1リテーナ16の摺動を惹起させるトルクは原動機のアイドル運転域等の低トルクに設定される。中間リテーナ36のこのような摺動は
図5Aに示すように中間リテーナ36が対向面40-1aに対して隙間を有しているときに得られ、この時の第1コイルスプリング32と第2コイルスプリング34による捩じり剛性値K
damp1は、第1コイルスプリング32,第2コイルスプリング 34のばね剛性をk
1, k
2としたとき
K
damp1=k
1k
2/(k
1+k
2)
となる。
【0050】
アイドル運転域からのトルク上昇による常用トルクでの運転域に入ることによる第1リテーナ16, 18間の円周方向の相対移動の増大はやがては
図5Bに示すように中間リテーナ36を対向面40-1aに着座させ、第1コイルスプリング32はスプリングとしての機能を消失し、更なるトルク増大による第1リテーナ16, 18間の円周方向の相対移動は第2コイルスプリング34の弾性力にのみ抗して行われ、このときの捩じり剛性値K
damp2は
K
damp2=K
2
により表すことができる。中間リテーナ36の着座面40-1aへの着座に先立つ第1コイルスプリング32の無効化(第1コイルスプリング32の密着(完全圧潰)の防止)のため第1コイルスプリング32の密着(完全圧潰)が起こらないように、中間リテーナ36の内径側の支持突起36-2の対向面42-2aに対する当接に至る前に中間リテーナ36が40-1aに着座するようになっている。
【0051】
図5Cは捩りトルクの更なる増大により第1リテーナ16, 18が対向面同志で当接に至った状態を示しており、このとき第2コイルスプリング34も機能を喪失する。このときも、第2コイルスプリング34の密着(完全圧潰)の前に第1リテーナ16, 18の外径側の対向面16-15, 18-15同士の当接が起こるようにされている。尚、
図5B及び
図5Cでは煩雑回避のため関係する部番のみ表示している。
【0052】
図6は捩り角と捩りトルクの関係を模式的に示すグラフであり、相対捩り角が隙間αより小さい領域(θ<θ
1)では第1コイルスプリング32と第2コイルスプリング34との直列動作により入力部材から伝達される変動トルクの制振が行われる。
【0053】
トルク変動による相対捩り角度が隙間αより大きくなる常用トルク領域(θ
1<θ<θ
2)では中間リテーナ36と第1リテーナ16との隙間αは完全に解消され、第1リテーナ16の有底凹部40の底面40-1aと中間リテーナ36の底面36-1が当接し(
図5B)、第1コイルスプリング32は密着に至らない圧縮状態で第1リテーナ16の収容部内に収容されるため、作動も底付きしない。
【0054】
変動トルクが最大となる領域(θ>θ
2)では第1リテーナ16の上部に設けられた対向面16-15及び第2リテーナ18の第1リテーナ側の上端部に設けられた対向面18-15が当接する(
図5C)ことで過大トルクを分散させ第2コイルスプリング34の底付きによる影響を緩和させる。
【0055】
以上のコイルスプリングセット14のトルク変化に応じた動作において低トルクから常用トルクに移行する際における中間リテーナ36の第1リテーナ16(面40-1a)との当接による衝撃は第1リテーナ16が樹脂製であることから、中間リテーナ36を、前述のように金属製とした場合においては、金属対樹脂の接触であるため、運転者にとっては異音としてあまり気にならないように抑制することができ、また、素材や肉厚の適切選定により中間リテーナ36も樹脂製とした場合には樹脂同志の接触となるため異音の更なる低減が可能となる。
【0056】
図7は別実施形態の中間リテーナ36を示しており、第1の実施形態における庇部36-3を有さず、代わりに、円錐台状部36-4(本発明の第2保持部を構成する)を備えており、円錐台状部36-4は第2コイルスプリング34の中心開口部に第1コイルスプリング32側より挿入される。即ち、この実施形態においては、中間リテーナ36は円錐台状部36-4 にて内径側より第2コイルスプリング34の端部を支持する構造となっている。
【0057】
この実施形態において、第1コイルスプリング32近接側において中間リテーナ36に設けられた支持突起36-2に第1コイルスプリング32の一端部を収容・案内し、中間リテーナ36に設けられた支持突起36-2及び第1リテーナ16の有底凹部40における小径部40-2より成るガイド構造、更には中間リテーナ36の着座時に支持突起36-2を対向面に非当接とすることによる第1コイルスプリング32の無効化機構は第1の実施形態のそれ(
図5A-
図5C)と同様である。第2リテーナ18による第2コイルスプリング34の収容のための凹部の構成は第1実施形態と同様であるため詳細説明は省略する。
更には、第1及び第2第1リテーナ16, 18の外面に形成され、面-面対向、溝-突起嵌合による入力部材及び/若しくは出力部材に対する支持構造は第1実施形態と同様に備えるが構造説明は省略する。
【0058】
図8は別の実施形態を示しており、中間リテーナ36は第2コイルスプリング34の収容のための円錐台状部36-4を設けた構成は同様であるが、第1コイルスプリング32のガイドのため一端を中間リテーナ36の凹部36-5に収容し、他端を第1リテーナ16の有底凹部40における小径部40-2(凹部36-5とで本発明の第1保持部を形成)に収容している。第1コイルスプリング32の密着に至る以前に第1コイルスプリング32を非作動とするため、第1リテーナ16を有底凹部40における小径部40-2の対向面40-1aに着座させる構成は同様である。
【0059】
図9は更に別の実施形態の中間リテーナ36を示しており、第2コイルスプリング近接側に設けられ、第2コイルスプリングの端部を支持するための円錐台状部36-4を設けた構成は
図7及び
図8と同様である。相違点は第1コイルスプリング32の案内のため、中間リテーナ36は第2コイルスプリング34離間側に第1コイルスプリング32の一端を収容する凹部36-5を設け、かつ第1リテーナ16の有底凹部40の底面に第1コイルスプリング32の他端の収容のための突起部36-6を設けた構成である。この実施形態においても、突起部36-6は、中間リテーナ36の有底凹部40(突起部36-6とで本発明の第1保持部を構成)の対向面40-1aへの着座時に第1コイルスプリング32の底付きが起こらないような長さに設定されている。
【0060】
図10-
図13はこの発明の第2の実施形態の捩り振動低減装置を示しており、第1実施形態における自己完結支持型のリテーナに変えて入力部材に支持される通常型のリテーナを備えたタイプに対する本発明の実現手段を示すものである。
入力部材110は円周方向に等間隔に離間した4個の窓枠様開口部115を形成しており、各窓枠様開口部115にコイルスプリングセット114が収容される。コイルスプリングセット114は、各々が第1の実施形態と同様に、低剛性で短尺の第1コイルスプリング132(本発明の第1弾性部材)と高剛性で長尺の第2コイルスプリング134(本発明の第2弾性部材)とを中間リテーナ136(本発明の連結部材)を介して直列接続して構成される。各窓枠様開口部115にコイルスプリングセット114の両端部の収容のための合成樹脂の射出成型品である第1リテーナ116及び第2リテーナ118が配置される。
図13は一対をなす第1リテーナ116及び第2リテーナ118に対するコイルスプリングセット114の配置を示しており、第1の実施形態と同様第1リテーナ116は第1コイルスプリング132及び中間リテーナ136の収容のための有底凹部140を備え、第2リテーナ118は第2コイルスプリング134の収容のための有底凹部142を備える。この実施形態においては、前述の通り、第1リテーナ116及び第2リテーナ118は入力部材110により軸方向及び径方向支持されるものであるため、第1リテーナ116及び第2リテーナ118は外周面がまっさらであり、第1の実施形態における
図5A-
図5Cの第1リテーナ16, 18との比較から明らかなように突起部やガイド溝等の自己保持動作のための係合部は備えていない。
【0061】
図11に示すように入力部材110は軸方向に離間した一対の本体板160と外周円板162とのリベット164による合体構造であり、入力部材110の外周円板162は第1の実施形態と同様ボルト締結によりノックピン及びボルト締結によりフライホイール(原動機側)に連結され、
図10においてボルト孔は120、ノックピン孔は121にて示す。入力部材110における2枚の本体板160の各々は
図10に示すように中心の支持板部160-1を円周方向に等間隔の張出板部160-2を介して外周円板部160-3により連結した構造をなす
【0062】
図10において入力部材110の一対の本体板160における図面上側の本体板160は切断線a,bの間の部位が切除されており、その間において出力部材112が見えており、第1の実施形態と同様に出力部材112は中心の支持板124と支持板124の外周部に円周方向に間隔をおいて配置された張出板128とを備え、張出板128の個数は第1の実施形態と同様4個であるが、張出板128はそのまま径外方に延出するべく構成される点が第1の実施形態と相違する(第1実施形態における軸方向延出板26に相当する部分は備えない)。
図11に示すように出力部材112は入力部材110の本体板160間に軸線方向における両側から挟まれるように配置され、中心のスプライン軸130が変速機の入力軸にスプライン嵌合される。張出板128は、
図10に示す本実施形態のダンパのセット状態においては、入力部材110を構成する2枚の本体板160の各々における張出板部160-2と上下に重なる配置となっており、この状態は
図10からは直接には分からないが、切断線a,bの間の切除部における張出板128の配置状態から理解することができよう。
【0063】
入力部材110による第1リテーナ116及び第2リテーナ118の径方向及び軸方向における支持方式は周知構造のものであるが簡略化して説明すると、第1リテーナ116、第2リテーナ118の入力部材118に対する径方向支持は、入力部材110対応の窓枠様開口部115における径外側面及び径内側面に当接することにより行われる。また、第1リテーナ116、第2リテーナ118の軸方向の支持のため、入力部材110の本体板160の外周円板部160-3は窓枠様開口部115の外周縁部において軸方向の両側に第1リテーナ116、第2リテーナ118の対向面に沿設される庇部160-3aを形成しており、
図11から分るように庇様支持部160-3aは第1リテーナ116、第2リテーナ118の摺動範囲に沿って第1リテーナ116、第2リテーナ118を軸方向の両側から幾分であるが被るように延設されており、第1リテーナ116、第2リテーナ118の軸方向の両側での支持を確保することができ、このようにして第1リテーナ116、第2リテーナ118の径方向及び軸方向での支持が行われ、第1リテーナ116、第2リテーナ118は脱落することなく窓枠様開口部115に沿った移動が可能となる。
【0064】
図13において窓枠様開口部115における一つコイルスプリングセット114の構成は第1の実施形態のコイルスプリングセット14と同様であり、コイルスプリングセット114は第1コイルスプリング132と、第2コイルスプリング134と中間リテーナ136とから構成され、第1リテーナ116は、第1コイルスプリング132及び中間リテーナ136の収容のための有底凹部140を備え、有底凹部140は開口端からの大径部140-1と、小径部140-2との2段に形成される。第1コイルスプリング132は、一端は小径部140-2の底面140-2aに当接され、他端は中間リテーナ136の対向面136-1に当接するようにされる。初期セット状態における大径部140-1の底面140-1aと中間リテーナ136の対向面136-1間に残される隙間は、第1コイルスプリング132の保持のため第1コイルスプリング132に挿入される中間リテーナ136の突起部136-2の高さより幾分大きくされる。そのため、第1及び第2のリテーナ116, 118間の移動量が少ないときは、第1コイルスプリング132と第2コイルスプリング134とが直列動作し、トータルとしては低剛性となる。中間リテーナ136が第1のリテーナ116の対向面140-1aに着座後は第2コイルスプリング34が単独で回転変動の抑制に関し高剛性が得られる。また、中間リテーナ136は径外側に庇部136-3を備える。庇部136-3は第2コイルスプリング134の端部の保持を行うと共に、変形に応じた中間リテーナ136の円滑な摺動に役立てることができる。また、第2リテーナ118は第1リテーナ116側に開口した筒状有底開口142を備える。第2コイルスプリング134の中間リテーナ136からの離間側端部は筒状有底開口142の底面142-1に当接している。
【0065】
窓枠様開口部115における回転変動時における第1リテーナ116、第2リテーナ118の摺動動作について説明すると、入力部材110を構成する2枚の本体板160の内周円弧状面が第1リテーナ116、第2リテーナ118のガイド部122(第1の実施形態のガイド部22に相当)となるが、これは切断線a,bの間の切除部においてのみ見ることができる。ガイド部122の角度範囲は
図4Aにおけるガイド部22のそれと同様であるが、
図10には上流側係止部122-1及び隣接するガイド部122の下流側係止部122-2が見えている(
図12も参照)。係止部122-1, 122-2は入力部材110を構成する本体板160の一体部分である。
【0066】
捩り振動時における第1リテーナ116、第2リテーナ118の動作は第1の実施形態と同様であり、無トルク状態においては第1リテーナ116、第2リテーナ118は、ガイド部122の近接対向する係止部122-1, 122-2,張出板128の近接対向する駆動部128-1, 128-2に当接するコイルスプリングセット114の弾性下での変形を惹起させ、回転変動の抑制を行う。低トルク時におけるコイルスプリングセット114を構成する第1コイルスプリング132、第2コイルスプリング134の直列動作による低ねじり剛性下、常用トルク時における第1コイルスプリング132の無効化(底付防止)下での高捩り剛性下での回転変動の抑制は第1の実施形態と同様である。即ち、
図13は第1リテーナ116と第2リテーナ118間における無トルク状態でのコイルスプリングセット114の状態を示している。
【0067】
第1リテーナ116と第2リテーナ118間の捩りトルクの増大は第1コイルスプリング132の第2コイルスプリング134の直列配置において低捩り剛性下弾性変形を惹起させる、直列配置による低捩り剛性の広域化によりアイドル運転域等の低トルク時の作動騒音低減を確実に得ることができる。
【0068】
捩りトルクの増大は最終的には中間リテーナ136を第1リテーナ116の有底凹部140の大径部140-1の対向面140-1aに着座させ、第1コイルスプリング132を無効化させる。初期セット状態において、中間リテーナ136の突起部136-2の長さ<中間リテーナ136と対向面140-1aとのクリアランスに設定されているため、第1コイルスプリング132の無効化時に底付きしないため第1コイルスプリング132の保護を図ることができる。
このようにして低トルク運転より常用トルク運転域に移行後は第2コイルスプリング134単独による高捩り剛性下での制振動作が行われる。
【0069】
第2の実施形態において、第1及び第2リテーナ116, 118の支持のための窓枠様開口部115を出力部材112に形成することも可能である。この場合、出力部材が軸方向に離間した2枚の板材の合わせ構造となり、一枚構成の入力部材110が2枚の板材の合わせ構造の間に配置される。
【0070】
以上の実施形態及び変形例を通じて、スプリングセット14, 114一端のみが短尺の第1コイルスプリング32, 132を長尺の第2コイルスプリング34、134に連結し、第1リテーナ16, 116を摺動する中間リテーナ36, 136を備えるように構成されるが、スプリングセット14, 114の別の一端にも,即ち両端に、短尺スプリング及び短尺スプリングを長尺スプリングに連結し、第2リテーナ18, 118を摺動する中間リテーナを設けた構成も図示はしないが可能であり、かかる構成は、低剛性領域における捩り角度をより広く確保し得るため捩り角度を分散させ、また、夫々の中間リテーナの摺動距離が相対的に短縮化可能であるという有利性を具有する。
【0071】
更に、短尺の第1コイルスプリング32, 132 (本発明の第1弾性部材)については皿ばねにより代替することができ、皿ばねは、一端が第1及び/若しくは第2リテーナの有底凹部の底面に当接し、他端が中間リテーナに当接するように配置される。
【符号の説明】
【0072】
10; 110…入力部材
12; 112…出力部材
14; 114…コイルスプリングセット
16, 18 …リテーナ
16-1, 18-1…ガイド溝
16-2, 18-2…平坦面
16-3, 18-3…板状突起
16-4, 18-4…軸方向支持面
16-5, 18-5…台状突起
16-6, 18-6…縦溝
16-7, 18-7…内周部
16-8, 18-8…弧状突起
16-11, 18-11…軸方向支持面
16-14, 18-14…内周壁
22; 122…ガイド部
22-1, 22-2; 122-1, 122-2…ガイド部の端面
24; 124…支持板
24-1; 124-1…支持板の外周面
28; 128…張出板
28-1, 28-2; 128-1, 128-2…張出板の加圧部
30; 130…スプライン軸
32…第1コイルスプリング
34…第?コイルスプリング
36…中間リテーナ
36-2…支持突起
36-3…庇部
36-4…円錐台状部
40…第1リテーナの有底凹部
40-1…大径部
40-1a…大径部の底面
40-2…小径部
40-2a…小径部の底面
42…第2リテーナの有底凹部
42-1…底面
О…回転中心線
【要約】
回転変動低減装置は、円周方向に離間した共に樹脂素材の第1リテーナ16と第2リテーナ18の対の間に低剛性の第1コイルスプリング32と高剛性の第2コイルスプリング34の中間リテーナ36を介しての直列接続を配置する。第1コイルスプリング32及び中間リテーナ36は第1リテーナ16の有底凹部40に配置され、変形時に中間リテーナ36は第1リテーナ16の有底凹部40に対して径外部において摺動される。第2コイルスプリング34は第2リテーナ18の有底凹部42に収容される。制振制御は、低トルク域では第1コイルスプリング32と第2コイルスプリング34の直列接続による低捩り剛性下、常用トルク域では第2コイルスプリング34単独による高捩り剛性下行われる。アイドル運転の低騒音かつ切替が樹脂-金属接触になることによる低異音化を実現する。