(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20240731BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240731BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240731BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B9/00 A
B32B27/32 E
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2022165966
(22)【出願日】2022-10-17
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】亀山 雄司
(72)【発明者】
【氏名】野村 高教
(72)【発明者】
【氏名】砂押 和志
(72)【発明者】
【氏名】森田 里穂
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-146912(JP,A)
【文献】特開2022-044189(JP,A)
【文献】特開2021-091765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非浸透性基材(I)と、
前処理層(II)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する積層体であって、
前記前処理層(II)が、凝集剤と、前記凝集剤を除く樹脂(IIR)とを含む前処理液から形成されてなる層であり、
前記樹脂(IIR)の酸価が、4~60mgKOH/gであり、
前記前処理層(II)の単位面積あたりの、前記凝集剤の含有量が、0.02~1g/m
2
であり、
前記インキ層(III)が、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む、水性インクジェットインキが印刷されてなる層であり、
前記インキ層(III)の単位面積あたりの、前記シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の含有量が、1~500mg/m
2であり、
前記接着剤層(IV)が、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを含む無溶剤型接着剤組成物の硬化膜からなる層であり、
前記
無溶剤型接着剤組成物が、酸基含有成分を含み、
前記接着剤層(IV)の酸価が、3~30mgKOH/gであり、
前記蒸着フィルム(V)が、樹脂フィルムと、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層とを含む、積層体。
【請求項2】
前記前処理層(II)の単位面積あたりの、前記樹脂(IIR)の含有量が、0.05~1g/m
2である、請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート化合物が、芳香族ポリイソシアネート化合物を含み、
前記接着剤層(IV)の単位面積あたりの、前記芳香族ポリイソシアネート化合物の含有量が、0.05~2.0g/m
2である、請求項
1に記載の積層体。
【請求項4】
前記非浸透性基材(I)がポリオレフィンフィルムであり、かつ、前記樹脂フィルムがポリオレフィン樹脂のフィルムである、請求項
1に記載の積層体。
【請求項5】
前記シリカ及び/またはアルミナの蒸着層が、前記接着剤層(IV)と接触している、請求項
1に記載の積層体。
【請求項6】
非浸透性基材(I)と、前処理層(II)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する積層体の製造方法であって、下記工程0、1’、2、3、4を含む、積層体の製造方法。
工程0:非浸透性基材(I)上に、凝集剤
と、前記凝集剤を除く樹脂(IIR)とを含
み、前記樹脂(IIR)の酸価が4~60mgKOH/gである前処理液を、乾燥及び/または硬化後の前処理層(II)の単位面積あたりにおける、前記凝集剤の含有量が、0.02~1g/m
2となるように付与したのち、乾燥及び/または硬化して、前記前処理層(II)を得る工程、
工程1’:非浸透性基材(I)上に、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む水性インクジェットインキを、乾燥後のインキ層(III)の単位面積あたりにおける、前記シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の含有量が、1~500mg/m
2となるように、かつ、少なくとも一部が前記前処理層(II)に重なるように印刷したのち、乾燥して、前記インキ層(III)を得る工程、
工程2:前記インキ層(III)、及び/または、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む樹脂フィルムである、蒸着フィルム(V)上に、
ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを含み、かつ、酸基含有成分を含む無溶剤型接着剤組成物を、前記接着剤層(IV)の酸価が、3~30mgKOH/gとなるように付与し、接着剤層前駆体を形成する工程、
工程3:前記接着剤層前駆体を介して、前記インキ層(III)と前記蒸着フィルム(V)とを重ね合わせる工程、
工程4:前記接着剤層前駆体を硬化して、接着剤層(IV)とする工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非浸透性基材、水性インクジェットインキ、接着剤組成物、及び、蒸着フィルムを用いて製造される積層体、ならびに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、洗剤、化粧品、医薬品の容器等のパッケージに用いられる軟包装材料では、プラスチックフィルムに、必要に応じて、金属蒸着フィルムや金属箔等を貼り合わせた積層体が使用されている。このような積層体は、一般には、あらかじめ印刷層を形成したプラスチックフィルム(以下、単に「フィルム」ともいう)に対し、別個準備した、金属蒸着フィルム、金属箔等を貼り合わせることで製造されており、この加工方法は「ラミネート加工」と呼ばれている。また、上記印刷層を形成するため、従来から、プラスチックフィルムに対してグラビア印刷またはフレキソ印刷が行われている。グラビア印刷、フレキソ印刷ともに、あらかじめ用意した版を使ってインキを転移させる印刷方法であり、高速印刷及び大量生産に適している方法といえる。
【0003】
一方で近年、軟包装材料が使用される商品の市場では、消費者ニーズの変化や多様化に伴い、上記商品の多品種化、短納期対応、商品サイクルの短期化が進んでいる。しかしながら上記印刷方法を採用する限り、印刷するための版が必要となるため、少量多品種生産では採算が合わないことが多い。また、版の作成にも時間を要するため、短納期で対応するのは難しい、というのが現状であった。
【0004】
上記印刷方法に対して、デジタル印刷方法は、版を必要としないため、コスト削減や短納期対応が可能であり、今後広く普及することが期待されている。デジタル印刷方法の一種であるインクジェット印刷方法は、非常に微細なノズルからインキ液滴を基材に吐出し、付着させることで文字や画像を形成する。インクジェット印刷方法には、使用する印刷装置の騒音が小さい、操作が簡便である、カラー化が容易である等の利点もあり、産業用途においても、利用の拡大が進んでいる。また従来、産業用途におけるインクジェット印刷方法で用いられるインキは、溶剤型やUV(紫外線)硬化型であったが、環境及び労働安全に対する配慮から、その水性化が行われている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
軟包装材料を製造する際にインクジェット印刷方法を利用する場合、フィルムに対する印刷及び文字・画像形成が必須となる。インクジェット印刷方法で用いる水性型のインキ(本願では、「水性インクジェットインキ」とも呼ぶ)は、従来、普通紙や専用紙(例えば、写真光沢紙)のような浸透性の高い基材に対して印刷するためのものであった。このような水性インクジェットインキを、フィルムのような非浸透性の基材に対して印刷した場合、当該フィルムに付着した後の水性インクジェットインキの液滴が、基材中に全く浸透しない。そのため、浸透による乾燥が起きず、混色滲みや色ムラが発生する、文字や画像の鮮明性及び視認性が悪化する、といった問題が発生する。
【0006】
また一般に、非浸透性の基材には水性インクジェットインキが全く浸透しないため、水性インクジェットインキの層が擦れ等により剥がれやすい。このような剥がれに限らず、隣接する層同士の間の境界において剥離が生じる現象を「層間剥離(デラミネーション)」と言い、軟包装材料として使用する際に致命的な問題になり得る。また積層体では、層内部で発生した破壊による剥離が起こることもある。このような現象を「凝集破壊」と呼び、やはり実用上問題となる。例えば、印刷物を巻き取った状態または積み重ねた状態で保管した際、印字面に圧力がかかり、当該圧力により、層間剥離や凝集破壊が発生することで、ブロッキング(印刷面に貼り付いた基材等をはがす際に、インキの一部が当該基材に取られる現象)と呼ばれる現象が発生してしまう。
【0007】
水性インクジェットインキでは一般に、混色滲みや色ムラの発生を防ぎ、鮮明性及び視認性に優れる印刷物を得るため、水性インクジェットインキに表面調整剤を添加し、濡れ性を制御することが行われている。しかしながら、このような水性インクジェットインキを単に使用して積層体を製造すると、上記表面調整剤が、印刷物表面や、他の層との界面及び当該他の層の内部にブリード(対象となる物質が、別の層との界面、当該別の層の内部、積層体表面等に染み出す現象)し、層間剥離や凝集破壊の原因となってしまう。
【0008】
更に、フィルム等の非浸透性基材に対する印刷物から製造した積層体を包装材料(例えばパウチ包装体)として使用した場合、内容物の一部や外部の水蒸気等が積層体を透過するために、例えば長期保管した後、層間剥離や凝集破壊が発生しやすくなる、という問題点も存在する。従って、例えば包装材料としての使用を考えた場合、長期保管後における、層間剥離及び凝集破壊防止は必須の課題といえる。
【0009】
上述した、内容物や水蒸気等の透過を解決する方法の例として、積層体を構成する層に、酸素や水蒸気等の透過を抑制する効果(ガスバリア効果)を有する層を組み込む方法がある。一般に、ガスバリア効果を高めるため、プラスチックフィルムに金属(酸化物)成分を蒸着させることで製造される蒸着フィルムが使用される。上記金属(酸化物)成分としてアルミニウムを使用したもの(アルミニウム蒸着フィルム)は、蒸着フィルムの代表例として知られている。その一方、金属(酸化物)成分として、シリカやアルミナを使用することで、透明な蒸着フィルム(透明蒸着フィルム)が得られる。このような透明蒸着フィルムには、ガスバリア効果が高い、パウチ包装体等を作製した際に内容物が視認できる、といった利点がある一方で、折り曲げ等により、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層の表面にクラックが生じやすく、酸素や水蒸気等のバリア性が悪化する、という問題点が存在する。
【0010】
インクジェットインキを使用して製造され、透明蒸着フィルムの層を有する積層体の例として、特許文献2には、透明バリア層として酸化ケイ素や酸化アルミニウムを蒸着させたフィルムを用い、かつ、グラビア印刷等により形成した白色インキ層の上に、インクジェットインキで印刷された層を有する包装容器が開示されている。しかしながら、上記インクジェットインキの構成やその印刷方法については具体的な記載がなく、上述した課題が解決できるのかどうかは不明確である。また、特許文献3にも、シリカやアルミナを蒸着させたフィルムを用いたバリア層と、インクジェットインキで印刷された層とを有する包装袋が開示されている。しかしながら、上記特許文献3において、好ましいとされているインクジェットインキは油性(非水性)インクジェットインキであり、やはり、水性インクジェットインキを用いた例は開示されていない。
【0011】
以上のように、非浸透性基材及び透明蒸着フィルムを用い、かつ、水性インクジェットインキを使用した際に、印刷画質に優れ、層間剥離及び凝集破壊が起こらず、ガスバリア性も良好である積層体を得る方法は、これまでに開示されていない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-94495号公報
【文献】特開2004-67219号公報
【文献】特開2016-60534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、混色滲みや色ムラがなく鮮明性及び視認性に優れ、層間剥離及び凝集破壊が起こらず、ガスバリア性も良好である積層体であって、折り曲げ、ねじり、伸縮等の所作を加えた後や、長期保管後であっても、上記層間剥離及び凝集破壊が起こらず、かつ、ガスバリア性が良好なまま維持される積層体を提供することにある。また本発明の更なる目的は、上述した特性に加えて、リサイクル性にも優れる積層体を提供することにある。
【0014】
なお本願では、「混色滲みや色ムラがなく鮮明性及び視認性に優れる」ことを、単に「印刷画質に優れる」ともいう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、非浸透性基材、特定の水性インクジェットインキ層、接着剤層とシリカ及び/またはアルミナを蒸着させた蒸着フィルムを用いて製造された積層体であって、インキ層内に存在する、特定の表面調整剤の量を規定した前記積層体によって、前記課題が好適に解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち本発明は、以下の[1]~[9]に関する。
[1]非浸透性基材(I)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する積層体であって、
前記インキ層(III)が、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む、水性インクジェットインキが印刷されてなる層であり、
前記インキ層(III)の単位面積あたりの、前記シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の含有量が、1~500mg/m2であり、
前記蒸着フィルム(V)が、樹脂フィルムと、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層とを含む、積層体。
[2]前記非浸透性基材(I)と、前記インキ層(III)との間に、更に前処理層(II)を有し、
前記前処理層(II)が、凝集剤を含む前処理液から形成されてなる層であり、
前記前処理層(II)の単位面積あたりの、前記凝集剤の含有量が、0.02~1g/m2である、[1]記載の積層体。
[3]前記前処理層(II)が、更に、前記凝集剤を除く樹脂(IIR)を含み、
前記前処理層(II)の単位面積あたりの、前記樹脂(IIR)の含有量が、0.05~1g/m2である、[2]に記載の積層体。
[4]前記接着剤層(IV)が、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを含む無溶剤型接着剤組成物の硬化膜からなる層である、[1]または[2]に記載の積層体。
[5]前記ポリイソシアネート化合物が、芳香族ポリイソシアネート化合物を含み、
前記接着剤層(IV)の単位面積あたりの、前記芳香族ポリイソシアネート化合物の含有量が、0.05~2.0g/m2である、[4]に記載の積層体。
[6]前記非浸透性基材(I)がポリオレフィンフィルムであり、かつ、前記樹脂フィルムがポリオレフィン樹脂のフィルムである、[1]または[2]に記載の積層体。
[7]前記シリカ及び/またはアルミナの蒸着層が、前記接着剤層(IV)と接触している、[1]または[2]に記載の積層体。
[8]非浸透性基材(I)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する積層体の製造方法であって、下記工程1~4を含む、積層体の製造方法。
工程1:非浸透性基材(I)上に、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む水性インクジェットインキを、乾燥後のインキ層(III)の単位面積あたりにおける、前記シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の含有量が、1~500mg/m2となるように印刷したのち、乾燥して、前記インキ層(III)を得る工程、
工程2:前記インキ層(III)、及び/または、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む樹脂フィルムである、蒸着フィルム(V)上に、接着剤層前駆体を形成する工程、
工程3:前記接着剤層前駆体を介して、前記インキ層(III)と前記蒸着フィルム(V)とを重ね合わせる工程、
工程4:前記接着剤層前駆体を硬化して、接着剤層(IV)とする工程。
[9]非浸透性基材(I)と、前処理層(II)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する積層体の製造方法であって、下記工程0、1’、2、3、4を含む、積層体の製造方法。
工程0:非浸透性基材(I)上に、凝集剤を含む前処理液を、乾燥及び/または硬化後の前処理層(II)の単位面積あたりにおける、前記凝集剤の含有量が、0.02~1g/m2となるように付与したのち、乾燥及び/または硬化して、前記前処理層(II)を得る工程、
工程1’:非浸透性基材(I)上に、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む水性インクジェットインキを、乾燥後のインキ層(III)の単位面積あたりにおける、前記シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の含有量が、1~500mg/m2となるように、かつ、少なくとも一部が前記前処理層(II)に重なるように印刷したのち、乾燥して、前記インキ層(III)を得る工程、
工程2:前記インキ層(III)、及び/または、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む樹脂フィルムである、蒸着フィルム(V)上に、接着剤層前駆体を形成する工程、
工程3:前記接着剤層前駆体を介して、前記インキ層(III)と前記蒸着フィルム(V)とを重ね合わせる工程、
工程4:前記接着剤層前駆体を硬化して、接着剤層(IV)とする工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、混色滲みや色ムラがなく鮮明性及び視認性に優れ、層間剥離及び凝集破壊が起こらず、ガスバリア性も良好である積層体であって、折り曲げ、ねじり、伸縮等の所作を加えた後や、長期保管後であっても、上記層間剥離及び凝集破壊が起こらず、かつ、ガスバリア性が良好なまま維持される積層体を得ることができる。また本発明により、上述した特性に加えて、リサイクル性にも優れる積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、好ましい形態を上げて、本発明の実施形態である(以下、単に「本実施形態の」ともいう)積層体について説明する。
【0019】
<積層体>
上述した通り、本実施形態の積層体は、非浸透性基材(I)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する。また、上記非浸透性基材(I)と、上記インキ層(III)との間に、前処理層(II)を有していてもよい。なお、以下に例示したような、構成の一部が上述したものになっている積層体であっても、本実施形態の積層体に属するものとする。ただし下記例示中、各々の前処理層は存在してもよいし存在しなくてもよい。
・非浸透性基材(蒸着フィルムを除く)/第1の前処理層/第1のインキ層/第1の接着剤層/第1の蒸着フィルム/第2の前処理層/第2のインキ層/第2の接着剤層/第2の蒸着フィルム
・第1の非浸透性基材(蒸着フィルムを除く)/第1の前処理層/第1のインキ層/第1の接着剤層/蒸着フィルム/第2の前処理層/第2のインキ層/第2の接着剤層/第2の非浸透性基材(蒸着フィルムを除く)
・第1の非浸透性基材(蒸着フィルムを除く)/第1の前処理層/第1のインキ層/接着剤層/蒸着フィルム/第2の前処理層/第2のインキ層/第2の非浸透性基材(蒸着フィルムを除く)
・第1の蒸着フィルム/第1の前処理層/第1のインキ層/第1の接着剤層/第2の蒸着フィルム/第2の前処理層/第2のインキ層/第2の接着剤層/第3の蒸着フィルム
【0020】
<非浸透性基材(I)>
本実施形態の積層体を構成する非浸透性基材(I)として、例えば、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のフィルムが挙げられ、好ましくは熱可塑性樹脂のフィルムである。また熱可塑性樹脂として、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリルニトリル樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合(AS)樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アセタール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合(EVOH)樹脂、繊維素系樹脂が挙げられる。
【0021】
より詳細には、非浸透性基材(I)として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィン樹脂のフィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)のようなポリエステル樹脂のフィルム;ナイロン6、ナイロン12、ポリ-p-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)のようなポリアミド樹脂のフィルム;ポリスチレン樹脂のフィルム;ポリカーボネート樹脂のフィルム;ポリアクリルニトリルのフィルム;アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂のフィルム;ポリイミド樹脂のフィルム;セロハンのようなセルロース樹脂のフィルム;ならびに、これらのフィルムの積層体(例えば、ナイロン6/MXD6/ナイロン6積層体や、ナイロン6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ナイロン6積層体)や上記列挙した樹脂の混合体からなるフィルム;が使用できる。これらの中でも、機械的強度や寸法安定性を有するもの、具体的には、ポリオレフィン樹脂のフィルムのうちの延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(例えば、一軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム及び二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルム)、ポリエステル樹脂のフィルムのうちのポリエチレンテレフタレートフィルム、及び、ポリカーボネートのフィルムが好ましく使用できる。
【0022】
非浸透性基材(I)が、複数の樹脂基材の積層体である場合、樹脂基材同士は接着剤層を介して積層されていることが好ましい。上記接着剤層の形成方法は制限されず、従来既知の接着剤組成物を用い、従来既知の方法で形成することができる。
【0023】
非浸透性基材が樹脂基材である場合、必要に応じて帯電防止剤、紫外線防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。また、非浸透性基材(I)として蒸着フィルムを使用してもよく、当該蒸着フィルムとして、アルミニウム蒸着フィルム、ならびに、シリカ、アルミナ等の蒸着層を備える透明蒸着フィルムが好適に使用できる。更に、非浸透性基材(I)の表面(後述する前処理層(II)及び/またはインキ層(III)と接触する面)は、コロナ処理またはプラズマ処理されていてもよい。
【0024】
非浸透性基材(I)の厚さは、特に限定するものではないが、好ましくは5μm以上200μm以下、より好ましくは10μm以上100μm以下、更に好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0025】
<前処理層(II)>
本実施形態の積層体における、前処理層(II)の役割は、水性インクジェットインキの画像形成を補助し、長期に渡って印刷画質を向上させること、ならびに、非浸透性基材(I)と前処理層(II)との間の密着力、及び、インキ層(III)と前処理層(II)との間の密着力をそれぞれ高め、更に上記非浸透性基材(I)と上記インキ層(III)との接着力を向上させることである。また、水性インクジェットインキによる画像形成後は、接着剤層(IV)と非浸透性基材(I)との接着力向上にも効果を発揮する。
【0026】
なお本願において「接着力」とは、任意の層を介して、当該任意の層の両側の層同士を接合させる力を表す。従って、接着力が高ければ、上記任意の層と、上記両側の層との間での層間剥離が抑制できる。上記任意の層は、2層以上の積層体であってもよい。
また本願において「密着力」とは、ある層と、当該ある層と隣接する層とを接合させる力を表す。従って、密着力が高ければ、上記ある層と、上記隣接する層との間での層間剥離が抑制できる。
【0027】
前処理層(II)の層厚は、0.1~1.6μmであることが好ましい。前処理層(II)の層厚が0.1μm以上であると、非浸透性基材(I)に対する密着力が良好となり、また長期に渡って、優れた印刷画質を有する積層体を得ることができる。また層厚が1.6μm以下であると、非浸透性基材(I)と接着剤層(IV)との間の接着力と、非浸透性基材(I)と前処理層(II)との間の密着力との差が小さくなるため、当該接着剤層(IV)と当該非浸透性基材(I)との間に歪みが生じ難く、ラミネート加工後の層間剥離を防止することが可能となる。加えて、前処理層(II)内の凝集力が保持されることで、当該前処理層(II)内での凝集破壊が抑制でき、結果として、積層体全体の接着力向上につながる。
【0028】
<前処理液>
上記前処理層(II)は、凝集剤を含む前処理液から形成されてなる層である。一般に、水性インクジェットインキとともに使用される前処理液として、当該水性インクジェットインキを内部に浸透させるインキ受容層を形成するものと、当該水性インクジェットインキ中の成分を凝集及び/または増粘させるインキ凝集層を形成するものとがある。本実施形態の積層体を構成する前処理層(II)はインキ受容層であってもインキ凝集層であってもよいが、上記前処理層(II)の膨潤が起こりにくく、インキ層(III)における混色滲みや色ムラを好適に抑え、優れた印刷画質を有する積層体を得ることができ、また、層厚を上記範囲内に収めやすく、ラミネート加工時及び経時後に層間剥離を防止することが容易である観点から、インキ凝集層を形成する前処理液を使用して、前処理層(II)を形成することが好ましい。
【0029】
インキ凝集層を形成するという観点から、前処理層(II)の形成に使用される前処理液は、凝集剤を含むことが好ましい。また上記凝集剤として、金属塩、カチオン性高分子化合物、有機酸等が使用できる。中でも金属塩は、凝集剤としての機能が特に強く、少量であっても、水性インクジェットインキ中に含まれる、顔料やその他成分の凝集及び/または増粘に有効であるため、混色滲みや色ムラが低減された、印刷画質に特段に優れる積層体が得られる点、更には積層体としたときのリサイクル性にも優れる点から、好適に使用される。なお凝集剤は1種類のみ用いてもよく、2種類以上の凝集剤を併用してもよい。
【0030】
金属塩は、金属イオンと、当該金属イオンと結合する陰イオンとから構成されるものであれば、その種類は特に限定されない。その中でも、後述する水性インクジェットインキ中に存在する顔料やその他成分と瞬時に相互作用を起こすことで、混色滲みを抑制し、また色ムラのない鮮明な画像を得ることができる点から、上記金属イオンが多価金属イオンであることが好ましい。更に、混色滲みや色ムラが低減され、印刷画質に特段に優れた積層体が得られる点から、上記多価金属イオンとして、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+、Fe2+ 、及び、Fe3+からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、Ca2+、Mg2+、及び、Al3+からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが特に好ましい。一方、上記陰イオンの具体例として、例えば、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機陰イオン、ならびに、アスコルビン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン等の有機酸イオンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態の積層体を構成する前処理層(II)の形成に使用される前処理液では、他の成分との相溶性が高く、層間剥離の抑制に有効である観点から、金属塩として、有機酸の金属塩を選択することが好ましい。中でも、水への溶解度に優れる点、及び、水性インクジェットインキ中の成分との相互作用の強さの点から、ギ酸及び/または乳酸のカルシウム塩を使用することが特に好ましい。なお上記金属塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
一方、上記カチオン性高分子化合物についても、水性インクジェットインキ中の、顔料やその他成分の凝集及び/または増粘に有効であり、好適な溶解性を有し、更に、前処理液中での拡散性を有するものであれば、従来既知のものを任意に用いることができる。また、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお本願において「カチオン性高分子化合物」とは、下記に例示するカチオン基を有するが、アニオン基を有しない樹脂(複数の単量体が重合してなる化合物であって、後述する方法によって測定される重量平均分子量が1,000以上である化合物)を表す。
【0032】
カチオン性高分子化合物に含まれるカチオン基の例として、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、イミノ基、ヒドラジノ基、ウレイド基等が挙げられる。また、カチオン性高分子化合物中に上記カチオン基を導入するために使用される材料として、例えば、ビニルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、ジアリルアミンアンモニウム、メチルジアリルアミン、エチレンイミン等のアミン化合物;アクリルアミド、ビニルホルムアミド等のアミド化合物;ジシアンジアミド等のシアナミド化合物;エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、メチルエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等のエピハロヒドリン化合物;ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルイミダゾール等の環状ビニル化合物;アミジン化合物;ピリジニウム塩化合物;イミダゾリウム塩化合物等を挙げることができる。
【0033】
上記の中でも、カチオン性高分子化合物が、アリルアミン構造単位、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、エピクロロヒドリン構造単位から選択される1種類以上の構造単位を含む化合物であることが好ましい。上記の樹脂はいずれも強電解質であり、前処理液中における樹脂の溶解安定性が良好であるとともに、水性インクジェットインキ中の、顔料やその他成分の凝集及び/または増粘能力に優れている。
【0034】
また、有機酸を凝集剤として使用する場合、例えば、乳酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸等のモノヒドロキシ(ポリ)カルボン酸;グリセリン酸、酒石酸等のジヒドロキシ(ポリ)カルボン酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フマル酸等のその他(ポリ)カルボン酸;等が使用できる。これらの中でも、好適な溶解性と、前処理液中での拡散性を有する点から、モノヒドロキシ(ポリ)カルボン酸及び/またはジヒドロキシ(ポリ)カルボン酸が好適に使用できる。なお、上記列挙した有機酸は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また上記「(ポリ)カルボン酸」とは、モノカルボン酸及びポリカルボン酸を表す。
【0035】
本実施形態の積層体を構成する前処理層(II)中に含まれる凝集剤の量は、0.02~1g/m2であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.6g/m2である。凝集剤の含有量を上記範囲内に収めることで、混色滲みや色ムラを抑制しながら、非浸透性基材(I)に対する前処理液の濡れ性を確保し、当該非浸透性基材(I)との密着力を向上させることができる。更に、積層体のリサイクル性も向上させることが可能となる。
【0036】
前処理液は、非浸透性基材(I)に対する密着性、及び、前処理層(II)の強度の観点から、上記カチオン性高分子化合物等の凝集剤を除く樹脂(IIR)(本願では「その他樹脂(IIR)」とも呼ぶ)を含むことが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお本願において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを表す。また、上記「(メタ)アクリル樹脂」を構成する単量体には、スチレン、メチルスチレン、アミノスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体も含まれるものとする。
【0037】
前処理液に含まれるその他樹脂(IIR)の形態は、水溶性樹脂、及び、樹脂粒子のどちらであってもよいが、特に樹脂粒子が好ましい。樹脂粒子は非浸透性基材(I)への密着性、ならびに、印刷物の耐ブロッキング性、ラミネート適性、及び、耐擦過性を向上させることができる。また、混色滲みや色ムラがなく、印刷画質にも優れた積層体が得られる点からも好適である。
【0038】
なお、本願における「水溶性樹脂」とは、25℃環境下において、対象となる樹脂の1質量%水混合液が、肉眼で見て透明であるものを指す。また「樹脂粒子」とは、水不溶性樹脂(水溶性樹脂ではない樹脂)の一形態であり、動的光散乱粒度分布測定機(例えば、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPAEX-150)を用いて測定した、対象となる樹脂の水混合液の累積50%径値(D50)(体積基準)が、5~1,000nmであるものを指す。
【0039】
一方、上記凝集剤を除く樹脂(IIR)の酸価を好適に調整することで、凝集剤の機能発現を阻害することがなく印刷画質の向上が可能となる。また、その他樹脂(IIR)と、非浸透性基材(I)及びインキ層(III)とが相互作用を起こすことで、これらの層との密着性が向上する。更に、好適な酸価を有するその他樹脂(IIR)を含む前処理層(II)は、塩基性溶液に浸漬させた際に容易に溶解または膨潤するため、当該前処理層(II)を含む積層体から非浸透性基材(I)を容易に分離させることが可能となる。
以上のように、印刷画質、層間剥離防止、及び、リサイクル性の全てに優れた積層体を得るという観点から、上記その他樹脂(IIR)の酸価は、1~60mgKOH/gであることが好ましく、2~50mgKOH/gであることがより好ましく、3~40mgKOH/gであることが更に好ましく、4~30mgKOH/gであることが特に好ましく、5~25mgKOH/gであることが極めて好ましい。
【0040】
本願において「(樹脂の)酸価」とは、当該樹脂1g中に含まれる酸基を中和するために必要となる水酸化カリウムのmg数である。本願では、樹脂を得る際の反応に酸基が関与しない場合(例えば、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン系樹脂等)、当該樹脂の酸価として、以下方法により算出した理論値を使用する。一方で、樹脂を得る際の反応に酸基が関与する場合(例えば、ポリエステル樹脂等)、当該樹脂の酸価として、以下方法により測定した実測値を使用する。
【0041】
酸価の理論値を算出する方法の例として、樹脂が、1分子中にva価の酸基をna個有し、分子量がMaである重合性単量体を、当該樹脂を構成する重合性単量体中Wa質量%含む場合、その酸価(mgKOH/g)は下記式1によって求められる。
【0042】
式1:
(酸価)={(va×na×Wa)÷(100×Ma)}×56.11×1000
【0043】
上記式1において、56.11は水酸化カリウムの分子量である。
【0044】
一方、酸価の実測値は、例えば電位差滴定法により測定される。具体的には、京都電子工業社製「電位差自動滴定装置AT-610」を使用し、樹脂をエタノール/トルエン混合溶媒に溶解させたのち、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線から酸価を算出する。
【0045】
酸価を有するその他樹脂(IIR)を使用する場合、当該その他樹脂(IIR)の親水性を高め、前処理液の保存安定性を向上させる目的で、塩基性化合物を中和剤として使用することができる。上記塩基性化合物として、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等のアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物;等が使用できる。
【0046】
なお、積層体から非浸透性基材(I)を分離する際に、前処理層(II)の塩基性溶液への溶解を好適に進行させ、リサイクル性が向上できるという観点から、上記中和剤として、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等の、1気圧下における沸点が100℃以上であるアミン類;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の、アルカリ金属の水酸化物が好適に使用できる。
【0047】
上記前処理液がその他樹脂(IIR)を含む場合、前処理層(II)に含まれる当該その他樹脂(IIR)の量は、非浸透性基材(I)への塗工性、当該非浸透性基材(I)との密着力、及び、リサイクル性の観点から、0.05~1g/m2であることが好ましい。
【0048】
また、非浸透性基材(I)上に均一に塗布するため、上記前処理液は、表面調整剤を1種、または2種以上併用して使用することができる。上記表面調整剤として、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、アセチレンジオール系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系等が挙げられる。ある好ましい実施形態では、前処理液の表面張力を制御し、非浸透性基材(I)上における優れた濡れ性を付与し、積層体における混色滲みや色ムラの抑制、及び印刷画質の向上にもつながるという観点から、シロキサン系表面調整剤、及び/または、アセチレンジオール系表面調整剤を使用することが好ましく、アセチレンジオール系表面調整剤を含むことが特に好ましい。
【0049】
上記前処理液が表面調整剤を含む場合、非浸透性基材(I)上での塗工ムラを少なくし均一な塗工を実現することで、混色滲みや色ムラが抑制された、印刷画質が向上した積層体を得るという観点から、その配合量は、前処理液全量に対して0.01~8質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましく、特に好ましくは0.1~3質量%である。
【0050】
本実施形態の積層体を構成する前処理層(II)の形成に使用される前処理液の表面張力は、上述した表面調整剤の配合量の場合と同様の観点から、20~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがより好ましく、特に好ましくは20~35mN/mである。これらの好適な表面張力を有した前処理液となるように、上記界面活性剤の種類及び配合量、更には、後述する低表面張力溶剤の種類及び配合量を調整することが好適である。なお、本願における表面張力とは、25℃の環境下において、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)により測定された静的表面張力を指す。
【0051】
上記前処理液では、非浸透性基材(I)へ付与する際の塗工または印刷適性に優れた前処理液を得るとともに、表面張力を所望の値とするために、低表面張力溶剤を用いることもできる。本願における「低表面張力溶剤」とは、25℃における表面張力が18~40mN/mである有機溶剤を指す。具体的には、イソプロパノール(2-プロパノール)、n-ブタノール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、3-エチル-1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等が挙げられる。
【0052】
また、前処理液の塗工または印刷装置に使用される部材へのダメージを抑制するとともに、経時でのpH変動を抑え、上記前処理液の性能を長期的に維持することを目的として、上記前処理液にpH調整剤を添加することができる。上記pH調整剤としては、pH調整能を有する材料を任意に選択することができ、塩基性化させる場合は、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンに加え、上記低表面張力溶剤にも該当するジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等が含まれるアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等を使用することができる。また酸性化させる場合は塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を使用してもよいし、凝集剤とpH調整剤とを兼ねる材料として、上述した有機酸を使用してもよい。これらのpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
また、上記前処理液は、所望の物性値とするために、必要に応じて架橋剤、熱重合開始剤、光重合開始剤、増粘剤、防腐剤等の添加剤を適宜添加することができる。例えば上記架橋剤として、ブロックイソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物等が使用できる。これらの添加剤を使用する場合、その配合量は前処理液全量に対して0.01~8質量%とすることが好ましく、0.01~5質量%とすることが更に好ましい。
【0054】
<インキ層(III)>
次に、本実施形態の積層体を構成するインキ層(III)について説明する。上記インキ層(III)は、水性インクジェットインキ(本願では、単に「インキ」ともいう)が印刷されてなる層であり、また当該水性インクジェットインキは、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む。
【0055】
<水性インクジェットインキ>
<顔料>
上記水性インクジェットインキに使用できる顔料は、無機顔料であってもよいし、有機顔料であってもよい。また、無機顔料と有機顔料とを併用することもできる。
【0056】
上記無機顔料の一例として、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、アルミナホワイト等の白色の無機顔料;カーボンブラック、黒色酸化鉄等の黒色の無機顔料;赤色酸化鉄等のマゼンタの無機顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー等のイエローの無機顔料;ならびに、アルミニウム、インジウム、銀等の金属無機顔料;等が挙げられる。
【0057】
白色の無機顔料としては、上記列挙したもののうち酸化チタンが好適に用いられる。酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用することができるが、印刷物の隠蔽性を上げるためにもルチル型を用いることが好ましい。また、塩素法、硫酸法等いずれの方法で製造したものでもよいが、塩素法にて製造された酸化チタンを使用したほうが、白色度が高いことから好ましい。
【0058】
更に酸化チタンは、無機化合物及び/または有機化合物により表面を処理したものであることが好ましい。無機化合物の例として、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、及び、アンチモンの、化合物や酸化物を挙げることができる。また有機化合物の例として、多価アルコールまたはその誘導体、アルカノールアミンまたはその誘導体、高級脂肪酸またはその金属塩、有機金属化合物等を挙げることができる。これらの中でも、多価アルコールまたはその誘導体は、酸化チタン表面を高度に疎水化し、分散安定性を向上させることが可能であるため、好ましく用いられる。
【0059】
黒色の無機顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラック(C.I.Pigment Black 7)が好適に用いられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11~40nm、BET法による比表面積が50~400m2/g、揮発分が0.5~10質量%、pHが2~10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品として、具体的には、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学社製);RAVEN1080、1255(以上、ビルラカーボン社製);REGAL330R、400R、660R、MOGUL L、ELFTEX415(以上、キャボット社製);NIPex90、150T、160IQ、170IQ、75、PrinteX35、85、95、90(以上、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)等があり、いずれも好ましく使用することができる。
【0060】
金属無機顔料としては、アルミニウム及びインジウムが好適に用いられ、例えば、国際公開第2013/011772号、及び、特開2020-132998号公報に開示されたものが好適に使用できる。また、光輝性を有する積層体が得られる観点から、薄膜状の金属無機顔料を使用することが好ましく、具体的には、平均粒子径が0.1~2μm、かつ、厚さが1~50nmである金属無機顔料を使用することが好適である。なお上記「平均粒子径」とは、動的光散乱法によって測定される、体積基準での累積50%径であり、上述した樹脂粒子の場合と同様に、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPA-EX150を使用し、必要に応じて水で希釈した試料から測定することができる。また上記「厚さ」とは、例えば下記方法によって測定される値である。まず、金属無機顔料をアセトンと混合し、当該金属無機顔料の希薄分散液を作製する。次いで、ガラスプレート上に上記希薄分散液を少量塗布し自然乾燥させたものを、走査型電子顕微鏡を用いて真横から観察する。そして、無作為で30個の粒子の厚みを測定し、それらの平均値を算出したものを、上記金属無機顔料の「厚さ」とする。
【0061】
一方有機顔料の例として、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
【0062】
具体的にカラーインデックスで例示すると、シアン色の有機顔料として、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64等が挙げられる。
【0063】
また、マゼンタ色の有機顔料として、C.I.Pigment Red 5、7、12、31、48、49、52、53、57、112、120、122、146、147、149、150、168、170、184、185、188、202、209、238、242、254、255、264、268、269、282;C.I.Pigment Violet 19、23、29、30、37、40、50等が挙げられる。
【0064】
また、イエロー色の有機顔料として、C.I.Pigment Yellow 10、11、12、13、14、16、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213等が挙げられる。
【0065】
また、黒色の有機顔料として、アニリンブラック、ペリレンブラック、アゾメチンアゾブラック等が挙げられる。なお、上記シアン色の有機顔料、マゼンタ色の有機顔料、イエロー色の有機顔料、ならびに、後述するブラウン色の有機顔料、オレンジ色の有機顔料等を複数使用し、黒色顔料とすることもできる。
【0066】
また、白色の有機顔料として、中空樹脂粒子を使用することができる。中空樹脂粒子は、酸化チタン等と比較して比重(見かけ密度)が小さく、経時における沈降を抑制しやすいため、保存安定性に優れた水性インクジェットインキが得られる。なお、保存安定性と隠蔽性とが両立したホワイトインキを得るため、顔料として、中空樹脂粒子と酸化チタンとを併用してもよい。
【0067】
また、上記列挙した有機顔料以外にも、オレンジ色の有機顔料、グリーン色の有機顔料、ブラウン色の有機顔料等を使用することもできる。具体的には、C.I.Pigment Orange 16、36、38、40、43、62、63、64、71、C.I.Pigment Green 7、10、36、Pigment Brown 23、25、26等を挙げることができる。
【0068】
本実施形態の積層体の製造に使用される水性インクジェットインキでは、得られる積層体の色相や発色性を好適な範囲に収めるため、上記列挙した顔料を複数混合して用いることができる。例えば、カーボンブラックを使用したブラックインキに対し、低印字率における色味を改善するため、シアン色の有機顔料、マゼンタ色の有機顔料、オレンジ色の有機顔料、ブラウン色の有機顔料から選択される1種以上の顔料を少量添加することができる。
【0069】
これらの顔料は、ホワイトインキの場合及び金属無機顔料を含む水性インクジェットインキの場合を除き、水性インクジェットインキ全量に対して2~20質量%の範囲で含まれることが好ましく、2.5~15質量%の範囲で含まれることがより好ましく、3~10質量%の範囲で含まれることが特に好ましい。また、ホワイトインキの場合、顔料の含有量は、当該ホワイトインキ全量に対して5~40質量%であることが好ましく、8~30質量%であることがより好ましい。また、金属無機顔料を含む水性インクジェットインキの場合、当該金属無機顔料の含有量は、当該水性インクジェットインキ全量に対して0.2~8質量%であることが好ましく、0.3~6質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。顔料の含有率を2質量%以上(ホワイトインキの場合は5質量%以上、金属無機顔料を含む水性インクジェットインキの場合は0.2質量%以上)にすることで、1パス印刷であっても十分な発色性(ホワイトインキの場合は隠蔽性、金属無機顔料を含む水性インクジェットインキの場合は光輝性)を得ることができる。また、顔料の含有率を20質量%以下(ホワイトインキの場合は40質量%以下、金属無機顔料を含む水性インクジェットインキの場合は8質量%以下)とすることで、水性インクジェットインキの粘度をインクジェット印刷に適した範囲に収めることができるとともに、当該水性インクジェットインキの保存安定性も良好なまま維持でき、結果として長期の吐出安定性を確保することができる。
【0070】
<樹脂>
本実施形態の積層体を構成するインキ層(III)に含まれる樹脂、すなわち、上記水性インクジェットインキに含まれる樹脂として、上述した顔料の分散状態を、水性インクジェットインキ中で安定的に保持するための顔料分散樹脂、及び、インキ層(III)の耐擦過性、ならびに、非浸透性基材(I)及び接着剤層(IV)の間の接着力を向上させるためのバインダー樹脂が好ましく使用できる。その際、互いに構造が異なる2種類の樹脂を、顔料分散樹脂及びバインダー樹脂としてそれぞれ使用してもよいし、1種類の樹脂に、顔料分散樹脂としての機能及びバインダー樹脂としての機能の両方を併せ持たせてもよい。
【0071】
<顔料分散樹脂>
一般に、顔料を水性インクジェットインキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)水溶性樹脂を顔料表面に吸着させる方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させる方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、樹脂や界面活性剤なしで水性インクジェットインキ中に分散する方法(自己分散顔料)、(4)水不溶性樹脂で顔料を被覆し、必要に応じて更に、別の水溶性顔料分散樹脂や界面活性剤を用いて水性インクジェットインキ中に分散させる方法、等を挙げることができる。
【0072】
本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インクジェットインキでは、上記のうち(1)または(4)の方法、すなわち、樹脂(顔料分散樹脂)を使って顔料を分散させる方法が好適に選択される。
【0073】
上記(1)の方法に関して、水溶性樹脂が吸着した顔料を含む顔料分散液を製造する方法として、例えば以下の方法Aを挙げることができる。
(方法A)
水溶性の顔料分散樹脂と、水と、必要に応じて水溶性有機溶剤とを、混合及び攪拌し、顔料分散樹脂水溶液を作製する。この顔料分散樹脂水溶液に、顔料、及び、必要に応じて、水溶性有機溶剤、表面調整剤、防腐剤等を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、従来既知の分散機を用いて分散処理を行う方法。
なお上記分散処理後に、遠心分離、濾過等を行い、粗大成分を除去してもよい。
【0074】
また上記(4)の方法に関して、水不溶性樹脂で被覆された顔料を含む顔料分散液を製造する方法として、例えば以下の方法B、C、及び、Dを挙げることができる。
(方法B)
メチルエチルケトン等の有機溶媒に水不溶性の顔料分散樹脂を溶解させ、必要に応じて当該顔料分散樹脂を中和した、顔料分散樹脂溶液を作製する。この前記顔料分散樹脂溶液に、顔料と、水と、必要に応じて、水溶性有機溶剤、表面調整剤、防腐剤等とを添加し、混合及び攪拌(プレミキシング)した後、従来既知の分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により上記有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過等を行い、粗大成分を除去する方法。
なお、有機溶媒の留去後に、架橋剤(例えば、ポリエポキシ化合物、ポリカルボジイミド化合物)の添加による架橋処理を施してもよい。また上記架橋処理後に、(再度)粗大成分を除去してもよい。
(方法C)
カルボキシ基を有する水溶性の顔料分散樹脂と、水と、必要に応じて水溶性有機溶剤とを、混合及び攪拌し、顔料分散樹脂水溶液を作製する。この顔料分散樹脂水溶液に、顔料、及び、必要に応じて、水溶性有機溶剤、表面調整剤、防腐剤等を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、従来既知の分散機を用いて分散処理を行う。その後、架橋剤(例えば、ポリエポキシ化合物やポリカルボジイミド化合物)の添加による架橋処理によって、上記水溶性の顔料分散樹脂を水不溶化させる方法。
なお上記架橋処理後に、遠心分離、濾過等を行い、粗大成分を除去してもよい。
(方法D)
顔料分散樹脂を構成する疎水性単量体の混合物に、顔料を添加し、混合及び攪拌した後、従来既知の分散機を用いて分散処理を行い、顔料が分散した単量体混合物を作製する。次いで、この顔料が分散した単量体混合物と、あらかじめ作成しておいた乳化剤水溶液とを混合し、更に疎水性材料(ハイドロホーブ)を添加することで、上記単量体混合物を水中に分散させる(O/W型ミニエマルジョン)。その後、重合開始剤を添加して上記単量体を重合させる方法。
なお、上記重合ののち、遠心分離、濾過等を行い、粗大成分を除去してもよい。
【0075】
上記(1)の方法で使用される、水溶性の顔料分散樹脂の酸価は30~375mgKOH/gであることが好ましい。酸価を上記の範囲内に収めることで、上記水溶性の顔料分散樹脂が接着剤層(IV)中に存在するポリイソシアネート成分と反応するうえ、水性インクジェットインキに対する溶解性が確保できるため、インキ層(III)内部での顔料分散樹脂の偏りを抑制し、当該インキ層(III)の凝集破壊、及び、隣接する層との層間剥離を抑制することができる。また、水溶性の顔料分散樹脂分子間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液及び水性インクジェットインキの粘度を抑え、かつ、保存安定性を向上させることができる点からも好ましい。更に、酸価が375mgKOH/g以下であれば、前処理層(II)と組み合わせた際に過度の凝集を抑制し、色ムラがなく鮮明性に優れた積層体が得られる。上述した効果がより好適に発現することから、上記(1)の方法で使用される、水溶性の顔料分散樹脂の酸価は、65~350mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは100~300mgKOH/gであり、特に好ましくは125~280mgKOH/gである。
【0076】
一方上記(4)の方法で使用される、水不溶性の顔料分散樹脂の酸価は、1~70mgKOH/gであることが好ましい。酸価を上記の範囲内に収めることで、上記水不溶性の顔料分散樹脂が水性インクジェットインキに溶解することがなく、またインキ層(III)内部での顔料分散樹脂の偏りも抑制されるため、当該インキ層(III)の凝集破壊を抑制することができる。また、前処理層(II)と組み合わせた際に、凝集剤との相互作用を好適に起こすことができるため、混色滲みや色ムラがなく鮮明性に優れた積層体が得られる。上述した効果がより好適に発現することから、上記(4)の方法で使用される、水不溶性の顔料分散樹脂の酸価は、3~60mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは5~50mgKOH/gである。
【0077】
なお、上記方法Cによって水不溶性樹脂で被覆された顔料を含む顔料分散液を製造する場合、架橋処理前の水溶性の顔料分散樹脂の酸価は、80~400mgKOH/gであることが好ましく、120~375mgKOH/gであることが更に好ましく、150~350mgKOH/gであることが特に好ましい。架橋処理前の水溶性の顔料分散樹脂の酸価を上記範囲内に収めることで、架橋処理後の水不溶性の顔料分散樹脂の酸価を上記範囲内に収めやすく、上述した、凝集破壊の抑制、及び、前処理層(II)と組み合わせた際の積層体の印刷画質の向上が実現できる。更には、顔料分散樹脂分子間での相互作用が好適なものとなることで、分散処理後の顔料表面への吸着量を均一化させることができ、結果として、積層体の印刷画質の更なる向上、及び、水性インクジェットインキの保存安定性の良化が可能となる。
【0078】
なお、顔料分散樹脂の酸価の算出及び測定方法は、上述したその他樹脂(IIR)の場合と同様である。
【0079】
上記顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸共重合樹脂、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を使用することができる。中でも、材料選択性の大きさや合成の容易さの点で、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を使用することが特に好ましい。またこれらの顔料分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。なお本明細書において「(無水)マレイン酸」とは、マレイン酸及び無水マレイン酸を表す。
【0080】
上記顔料分散樹脂は、芳香環構造を含むことが好ましい。これにより、顔料分散樹脂中に含まれる芳香環と、後述する無溶剤型接着剤組成物に含まれる、ウレタン結合中の窒素原子とがπ-カチオン相互作用を形成し、インキ層(III)と接着剤層(IV)との相関剥離を抑制できること、水性インクジェットインキ中での顔料の分散安定性が確保及び向上できること、及び、前処理層(II)と組み合わせた際に過度の凝集発生を抑制し、色ムラや、ベタ画像等における抜けを防止することが可能となる。芳香環構造の量は、顔料分散樹脂全量に対し、10~80質量%であることが好ましく、15~75質量%であることがより好ましく、20~70質量%であることが特に好ましい。芳香環構造の量を上記範囲に収めることで、π-カチオン相互作用を利用した相関剥離の抑制効果や、顔料の分散安定性の確保及び向上の効果が好適なものとなる。なお上記「芳香環構造の量」とは、顔料分散用樹脂を構成する単量体の全量中に占める、芳香環構造を有する単量体の質量比率である。
【0081】
また、上記顔料分散樹脂は、芳香環構造に加えて炭素数8~30のアルキル基を含むことが好ましい。アルキル基の炭素数を8~30とすることにより、顔料分散液の低粘度化、分散安定化、インキ層(III)の凝集破壊の抑制、ならびに、印刷画質の更なる向上が同時に実現できるためである。なおアルキル基の炭素数として、好ましくは炭素数12~24であり、更に好ましくは炭素数18~22である。またアルキル基は炭素数8~30の範囲であれば、直鎖アルキル基であっても分岐アルキル基であってもよい。その中でも、炭素数が多い(具体的には、炭素数が12以上である)場合は直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数が少ない(具体的には、炭素数が11以下である)場合は分岐アルキル基(例えば、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、イソノニル基、イソデシル基)であることが好ましい。
【0082】
また一実施形態において、顔料分散樹脂が、芳香環構造に加えて、アルキレンオキサイド基を含むことも好適である。アルキレンオキサイド基を導入することで、顔料分散樹脂の親水・疎水性を任意に調整し、顔料の分散安定性が向上できるうえ、インキ層(III)中で顔料分散樹脂を均一に存在させることができるため、当該インキ層(III)の凝集破壊の抑制が可能となる。
【0083】
上記顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、インキへの溶解度を上げるため、当該顔料分散樹脂中の酸基を塩基で中和することが好ましい。しかしながら過剰に塩基を投入してしまうと、前処理液層(II)中の凝集剤が中和されてしまい、十分な効果を発揮することができないため、その添加量には注意を払う必要がある。塩基の添加量が過剰かどうかは、例えば水溶性の顔料分散樹脂の10質量%水溶液を作製し、当該水溶液のpHを測定することにより確認することができる。中でも、前処理液の機能を十分に発現させるために、上記水溶液のpHが7~11であることが好ましく、7.5~10.5であることがより好ましい。
【0084】
なお、本願におけるpHは25℃における値であり、従来既知の方法、例えば堀場製作所社製卓上型pHメータF-72にて、スタンダードToupH電極またはスリーブToupH電極を使用して測定することができる。
【0085】
顔料分散樹脂を中和するための塩基としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;アンモニア水;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等を挙げることができる。
【0086】
顔料分散樹脂の重量平均分子量は、1,000~200,000の範囲内であることが好ましく、5,000~100,000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、また水性インクジェットインキに適用した際の粘度調整等が行いやすい。特に、重量平均分子量が1,000以上であると、水性インクジェットインキ中に存在する水溶性有機溶剤等に対して顔料分散樹脂が溶解しにくいため、分散安定性が優れる。また、重量平均分子量が200,000以下であると、顔料分散液及び水性インクジェットインキの粘度が低く抑えられるとともに、インクジェットヘッドからの吐出安定性が優れ、長期にわたって安定な印刷が可能になる。
【0087】
なお本願において、樹脂の重量平均分子量は、例えばJIS K 7252に準じた方法によって測定できる、ポリスチレン換算値である。具体的な測定方法の例として、東ソー社製TSKgelカラムと、RI検出器とを装備したGPC測定装置(東ソー社製HLC-8120GPC)を用い、また展開溶媒としてTHFを使用して測定する方法が挙げられる。
【0088】
バインダー樹脂としての機能を有しない顔料分散樹脂を使用する場合、当該顔料分散樹脂の配合量は、顔料に対して1~50質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の配合量を、顔料に対して1~50質量%とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、当該顔料分散液や水性インクジェットインキの、粘度安定性及び分散安定性が良化するとともに、前処理液と併用した場合は、速やかな分散機能の低下を引き起こすことができ、印刷画質に優れた積層体が得られる。この場合、顔料の含有量に対する顔料分散樹脂の含有量の比率として、より好ましくは2~45質量%、更に好ましくは3~40質量%であり、最も好ましくは4~35質量%である。
【0089】
一方、バインダー樹脂としての機能を有する顔料分散樹脂を使用する場合、当該顔料分散樹脂の配合量は、顔料に対して50~250質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の配合量を上記範囲内に収めることで、上述した、粘度安定性及び分散安定性、ならびに、印刷画質の向上が実現できるだけでなく、後述する、インキ層(III)の凝集破壊の抑制、及び、耐擦過性の向上も可能となる。なお、これらの効果が更に向上できる観点から、上記配合量は、70~220質量%であることがより好ましく、80~200質量%であることが特に好ましい。
【0090】
<バインダー樹脂>
上述したように、一般に樹脂の形態として、水溶性樹脂及び樹脂粒子が知られている。本実施形態の積層体を構成するインキ層(III)の形成のために使用される水性インクジェットインキがバインダー樹脂を含む場合、当該バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用してもよいし、樹脂粒子を使用してもよいし、両者を併用してもよい。また、樹脂粒子の形態として、ハイドロゾル及びエマルジョンがあり、バインダー樹脂として樹脂粒子を使用する場合、どちらを使用してもよい。なお本願において「エマルジョン」とは、乳化剤を樹脂粒子表面に吸着及び/または結合させ、分散媒中に分散させた形態を指し、「ハイドロゾル」とは、樹脂中に存在する酸性及び/または塩基性の官能基を中和し、乳化剤を使用することなく分散媒中に分散させた形態を指す。
【0091】
エマルジョンは、重量平均分子量の大きな樹脂を含むことができること、また水性インクジェットインキの粘度を小さくすることができ、より多量の樹脂を当該水性インクジェットインキ中に配合することができることから、インキ層(III)の印刷物の耐擦過性及び凝集破壊抑制性、ならびに、積層体の耐ブロッキング性を高めるのに適している。
【0092】
また、ハイドロゾル及び/または水溶性樹脂を用いる場合、重量平均分子量が10,000以上80,000以下の範囲内である樹脂を使用することが好ましく、20,000以上50,000以下である樹脂を使用することがより好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、印刷物の耐擦過性及び凝集破壊抑制性を好適なものとできるため好ましい。重量平均分子量が80,000以下であれば、インクジェットヘッドからの吐出安定性を好適な状態で維持できるため好ましい。
【0093】
バインダー樹脂として使用される樹脂の種類としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0094】
バインダー樹脂の場合も、顔料分散樹脂の場合と同様に、芳香環構造を含むことが好ましい。これにより、芳香環と、後述する無溶剤型接着剤組成物に含まれる、ウレタン結合中の窒素原子とがπ-カチオン相互作用を形成し、インキ層(III)と接着剤層(IV)との相関剥離を好適に抑制できる。また芳香環同士の間の相互作用により、インキ層(III)の強度が増し、当該インキ層(III)の凝集破壊もまた抑制することができる。芳香環構造の量は、バインダー樹脂全量に対し、3~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、7~35質量%であることが特に好ましい。芳香環構造の量を上記範囲に収めることで、水性インクジェットインキの粘度を過度に増加させることなく、π-カチオン相互作用を利用した相関剥離の抑制や、インキ層(III)の凝集破壊の低減が可能となる。
【0095】
上述したバインダー樹脂配合による効果を好適に発現させる観点から、当該バインダー樹脂の、水性インクジェットインキ全量中における含有量は、固形分換算で1質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは2質量%以上15質量%以下の範囲であり、特に好ましくは3質量%以上10質量%以下の範囲である。
【0096】
<表面調整剤>
本実施形態の水性インクジェットインキは、その表面張力を調整することで、非浸透性基材(I)及び前処理層(II)上での濡れ性を確保し、印刷画質を向上させる、という目的で、表面調整剤を使用する。一方で、過剰量の表面調整剤を添加して表面張力が低くなりすぎる、あるいは、特定の種類の表面調整剤を使用すると、インクジェットヘッドのノズル面が水性インクジェットインキで濡れてしまい、吐出安定性が損なわれるだけでなく、インキ層(III)-接着剤層(IV)間、ならびに、接着剤層(IV)-蒸着フィルム(V)間の密着力にも悪影響を及ぼす恐れがある。
【0097】
上記の課題を解決し、良好な密着力を発現させるという観点から、本実施形態の水性インクジェットインキでは、表面調整剤として、シロキサン系及び/またはアセチレンジオール系の表面調整剤を使用する。その要因は不明であるものの、シロキサン系及び/またはアセチレンジオール系の表面調整剤は、その他表面調整剤と比較して、界面への配向速度が好適であるため、後から付与される接着剤組成物が弾かれることがなく、均一な接着剤層(IV)が形成できること;シロキサン系及び/またはアセチレンジオール系の表面調整剤は、他の層との親和性が高いため、隣接する層との密着力に影響を与えにくいこと;ならびに、シロキサン系及び/またはアセチレンジオール系の表面調整剤を介した化学的相互作用により密着力が補強されること; 等が推測される。
【0098】
また、本発明では、蒸着フィルム(V)として、シリカ及び/またはアルミナを蒸着させた、透明蒸着フィルムを用いる。しかしながら上述したように、透明蒸着フィルムには、折り曲げ等により、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層の表面にクラックが生じ、酸素や水蒸気等のバリア性が悪化する、という問題点が存在する。それに対して本発明では、インキ層(III)中に、一定量のシロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤を配合することで、上述した問題点を解決している。その原理は定かではないが、インキ層(III)中のシロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の一部が、接着剤層(IV)を経由して、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層までブリードすると考えられる。このシロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤が、クラックの発生を抑制し、酸素や水蒸気等のバリア性の悪化を防ぐことができると考えられる。
【0099】
上述した、良好な印刷画質の実現、各層間での層間剥離の抑制、及び、ガスバリア性の保持のため、インキ層(III)の単位面積あたりの、シロキサン系及び/またはアセチレンジオール系の表面調整剤の含有量は、1~500mg/m2とし、1~480mg/m2とすることがより好ましく、25~450mg/m2とすることが更に好ましく、100~400mg/m2とすることが最も好ましい。インキ層(III)中に含まれる表面調整剤が上記範囲内であれば、印刷画質が良化するだけでなく、接着剤組成物を弾くことがなく接着剤層(IV)とインキ層(III)との親和性が向上するうえ、蒸着フィルム(V)内のシリカ及び/またはアルミナの蒸着層へのブリード量が好適なものとなり、クラックの抑制も可能となりガスバリア性が良好となる。更に、例えば積層体を包装材として長期保管した際であっても、インキ層(III)-接着剤層(IV)間、ならびに、接着剤層(IV)-蒸着フィルム(V)間の密着力が悪化することがない。
【0100】
本願において「表面調整剤」とは、分子構造中に親水性部位と疎水性部位を有する化合物であって、添加した水性インクジェットインキの表面張力を調整することができる化合物を指す。例えば、対象となる化合物を外割で1.0質量%添加した水性インクジェットインキと、当該化合物を添加していない水性インクジェットインキとで、表面張力の差が3mN/m以上生じる場合、上記化合物は、本願における「表面調整剤」である。なお、上述した前処理液に含まれる表面調整剤についても同様である。
【0101】
上記アセチレンジオール系表面調整剤として、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、ならびに、そのエチレンオキサイド及び/またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、層間剥離が起こらず、ガスバリア性が良好な積層体が得られる観点から、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、及び、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオールのエチレンオキサイド付加物からなる群から選択される1種以上が、特に好適に使用できる。なお、これらのアセチレンジオール系表面調整剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0102】
また上記シロキサン系表面調整剤として、例えば、東レ・ダウコーニング社製の8032ADDITIVE、FZ-2104、FZ-2120、FZ-2122、FZ-2162、FZ-2164、FZ-2166、FZ-2404、FZ-7001、FZ-7002、FZ-7006、L-7001、L-7002、SF8427、SF8428、SH3748、SH3749、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、SH8400、ビックケミー・ジャパン社製のBYK-331、BYK-333、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3530、BYK-UV3570、エボニック社製のTEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 260、TEGO Wet 270、TEGO Wet 280、TEGO Glide 410、TEGO Glide 432、TEGO Glide 435、TEGO Glide 440、TEGO Glide 450、TEGO Twin 4000、TEGO Twin4100、信越化学工業社製のKF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-640、KF-642、KF-643、KF-644、KF-945、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017、KF-6020、KF-6204、X-22-4515、日信化学工業社のシルフェイスSAGシリーズ等が挙げられる。特に、1個以上のエチレンオキサイド基及び/またはプロピレンオキサイド基を、ポリジメチルシロキサン鎖の側鎖及び/または両末端に導入したシロキサン系表面調整剤が好適に使用でき、少なくとも側鎖にエチレンオキサイド基及び/またはプロピレンオキサイド基が導入されたシロキサン系表面調整剤が、特に好適に使用できる。これらのシロキサン系表面調整剤に関しても、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0103】
上述した界面への配向速度、及び、蒸着フィルム(V)へのブリードの観点から、シロキサン系表面調整剤及びアセチレンジオール表面調整剤は、あまり大型の分子ではないことが好適である。具体的には、分子量が100~5,000である表面調整剤を選択することが好ましく、180~3,000である表面調整剤を選択することがより好ましく、220~2,000である表面調整剤を選択することが特に好ましい。また、分子の大きさを粘度によって表現することも可能であり、具体的には、25℃における動粘度が10~450mm2/sである表面調整剤を選択することが好ましく、20~400mm2/sである表面調整剤を選択することがより好ましく、40~300mm2/sである表面調整剤を選択することが特に好ましい。上述した分子量や動粘度を有する、シロキサン系表面調整剤及びアセチレンジオール表面調整剤を使用することで、隣接する層との密着力が向上し、層間剥離が起きにくい積層体が得られるうえ、伸縮等の所作を加えた後や、長期保管後であっても、上記層間剥離が起こらず、かつ、ガスバリア性が良好なまま維持される積層体となる。なお上記動粘度は、例えばウベローデ粘度計を使用して測定することができる。
【0104】
また、シロキサン系表面調整剤及びアセチレンジオール表面調整剤を併用する場合、アセチレンジオール表面調整剤の含有量を100質量%としたときの、シロキサン系表面調整剤の含有量は、20~500質量%とすることが好ましく、25~400質量%とすることが更に好ましく、35~300質量%とすることが特に好ましい。詳細な理由は不明ながら、含有量の比を上述した範囲内とすることで、層間剥離抑制性やガスバリア性維持性を損なうことなく、印刷画質に優れた積層体が得られる。
【0105】
本実施形態の水性インクジェットインキでは、印刷画質吐出安定性や隣接する層との密着力を損なわない範囲で、シロキサン系表面調整剤及びアセチレンジオール表面調整剤系以外の表面調整剤を用いても良い。シロキサン系表面調整剤及びアセチレンジオール表面調整剤系以外の表面調整剤として、アクリル系表面調整剤、フッ素系表面調整剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系表面調整剤等が挙げられる。
【0106】
表面調整剤の添加量の総量は、水性インクジェットインキ全量に対して、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。0.05質量%以上とすることで上述した表面調整剤の機能を十分に発揮させることができ、また、5質量%以下とすることで水性インクジェットインキの保存安定性及び吐出安定性を好適なレベルに維持できる。
【0107】
<水溶性有機溶剤>
本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インクジェットインキは、水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。水溶性有機溶剤を含む水性インクジェットインキは、非浸透性基材(I)及び前処理層(II)に対する濡れ性に優れるため、鮮明性及び視認性に優れ、ベタ画像等における抜けもない印刷画像が得られるうえ、隣接する層との層間剥離を抑制することも可能となる。更に、顔料分散樹脂が、水溶性有機溶剤を含む水性インクジェットインキ内で均一に存在できるため、インキ層(III)の凝集破壊も抑制できる。加えて、水性インクジェットインキの保存安定性を好適なものとすることができ、結果として、吐出安定性も向上する。なお本願における「水溶性有機溶剤」とは、25℃の水に対する溶解度が1質量%以上である有機溶剤を指す。
【0108】
水性インクジェットインキ中に含まれる水溶性有機溶媒の種類は、特に限定されるものでなく、従来既知のものを任意に用いることができる。中でも、表面調整剤、ならびに、必要に応じて添加される、顔料分散樹脂、バインダー樹脂等の成分との相溶性及び親和性の観点から、分子構造中に水酸基を1個以上含む水溶性有機溶剤を使用することが好ましく、グリコールモノエーテル系溶剤及び/またはポリオール系溶剤を使用することが特に好ましい。これらの水溶性有機溶剤では更に、水酸基と、後述する無溶剤型接着剤組成物中のポリイソシアネート成分とが反応することにより、接着剤層(IV)とインキ層(III)との間の層間剥離を抑制することもできる。
【0109】
好適に用いられるグリコールモノエーテル系溶剤として、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0110】
また、好適に用いられるポリオール系溶剤として、例えば、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等のアルカンジオール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール等のその他ポリオール類が挙げられる。
【0111】
中でも、水性インクジェットインキの優れた吐出安定性、保湿性、及び、乾燥性、ならびに、積層体の印刷画質、及び、隣接する層との層間剥離防止を両立することができる点で、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルを選択することが好ましい。
【0112】
また、上記列挙した化合物以外にも、水溶性有機溶剤として、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のモノオール系溶剤;ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、等のグリコールジエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン等のピロリドン系溶剤;ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン系溶剤等が使用できる。なお上記列挙したうち、ピロリドン系溶剤やアルカノールアミン系溶剤は、上述した前処理液の場合と同様、水性インクジェットインキのpH調整剤としても機能する化合物である。
【0113】
水溶性有機溶剤の1気圧下における沸点は、100℃以上240℃以下であることが好ましい。100℃以上の水溶性有機溶剤を使用することで、水性インクジェットインキの吐出安定性、分散安定性、保湿性が良好になる。また、沸点が240℃以下である水溶性有機溶剤を使用することで、水性インクジェットインキの乾燥性が向上するうえ、積層体における混色滲みの防止、耐ブロッキング性の向上、隣接する層との層間剥離及びインキ層(III)の凝集破壊の抑制が可能になる。なお、上記1気圧下における沸点は、DSC(示差走査熱量分析)等の熱分析装置を用いることにより測定できる。
【0114】
本実施形態の積層体の製造に用いられる水性インクジェットインキに含まれる、水溶性有機溶剤の総量は、上記水性インクジェットインキ(A)全量に対し、3~40質量%であることが好ましい。更に、インクジェットヘッドからの吐出安定性の向上、及び、隣接する層との層間剥離の抑制という観点から、5~35質量%であることがより好ましく、8~30質量%であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の総量を3質量%以上にすることで保湿性、及び、吐出安定性が優れた水性インクジェットインキとなり、更に、非浸透性基材(I)及び前処理層(II)に対する濡れ性が向上するためにこれらの層との層間剥離が抑制できる。また水溶性有機溶剤の含有量の合計を40質量%以下にすることで、乾燥性良好となるうえ、積層体の混色滲み及び耐ブロッキング性が防止できる。
【0115】
<その他成分>
水性インクジェットインキは、上述した成分の他に、必要に応じて、架橋剤、熱重合開始剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、防腐剤、増粘剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量は、水性インクジェットインキの全質量に対して、0.01~10質量%であることが好適である。
【0116】
<接着剤層(IV)>
本実施形態の積層体を構成する接着剤層(IV)は、インキ層(III)上、及び/または、蒸着フィルム(V)上に接着剤組成物を付与することで接着剤層前駆体を形成したのち、当該接着剤層前駆体を乾燥及び/または硬化することで得られる層である。上記接着剤組成物として、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを含む無溶剤型接着剤組成物、及び、熱融着性を有する樹脂と液体成分とを含む乾燥型接着剤組成物を用いることができる。
【0117】
<無溶剤型接着剤組成物>
無溶剤型接着剤組成物は、乾燥機を使用する必要がない。また、実質的に溶剤を含まないため、当該溶剤によるインキ層(III)の印刷画質の劣化が生じないという利点も持つ。
【0118】
<ポリイソシアネート成分>
上記ポリイソシアネート成分として、芳香族イソシアネート化合物を用いることが好ましい。脂肪族イソシアネート化合物や脂環族イソシアネート化合物と比べ、芳香族イソシアネート化合物は反応性が高く、その結果として、無溶剤型接着剤組成物を用いて形成される接着剤層(IV)とインキ層(III)、ならびに、当該接着剤層(IV)と蒸着フィルム(V)との間での層間剥離を抑制することができる。また、インキ層(III)の製造に使用される水性インクジェットインキが樹脂を含む場合(特に、樹脂が芳香環構造を有する場合)、芳香族イソシアネート化合物を含む無溶剤型接着剤組成物は、上記樹脂との親和力が高く、更に、芳香族イソシアネート化合物中に存在する芳香環構造内のπ電子が、インキ層(III)と分子間相互作用を形成すると考えられるため、上記インキ層(III)と接着剤層(IV)との層間剥離を強固に防止することも可能となる。更に、インキ層(III)に含まれる、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤のブリードを過度に抑制することがなく、蒸着フィルム(V)内に存在する蒸着層のクラックの発生を抑制し、ガスバリア性の悪化を防ぐことが可能となる。
【0119】
芳香族イソシアネート化合物の具体的な例として、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ナフタリン-1,5-ジイソシアネート、テトラヒドロナフチレン-1,5-ジイソシアネート、4,4-ジベンジルイソシアネート、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。印刷画質を損なうことなく、より外観が良好で、かつ、層間剥離や、接着剤層(IV)の凝集破壊が起こらない積層体となることから、上記芳香族イソシアネート化合物は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート(以上の化合物を総称して「ジフェニルメタンジイソシアネート」とも呼ぶ)、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(以上の化合物を総称して「トリレンジイソシアネート」とも呼ぶ)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0120】
無溶剤型接着剤組成物中に含まれる芳香族イソシアネート化合物の割合は、当該無溶剤型接着剤組成物全量に対して5~70質量%であることが好ましい。芳香族イソシアネート化合物の含有量が上記範囲内にあることで、積層体におけるインキ層の塗工外観が良化するうえ、隣接する層との層間剥離を抑制できる。上記割合は、より好ましくは10~60質量%であり、更に好ましくは15~50質量%である。また、インキ層(III)に含まれるシロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤のブリードを過度に抑制することがなく、包装容器として長期保管された後も、蒸着フィルム(V)内に存在する蒸着層のクラックの発生を抑制し、ガスバリア性の悪化を防ぐ観点、更には、リサイクル性にも優れた積層体が得られる観点から、接着剤層(IV)の単位面積あたりに含まれる、芳香族イソシアネート化合物の含有量は0.05~2.0g/m2であることが好ましく、0.1~2.0g/m2であることが特に好ましい。
なお上記「芳香族イソシアネート化合物の量」とは、無溶剤型接着剤組成物が芳香族イソシアネート化合物を含む場合は、当該芳香族イソシアネート化合物の質量であり、また、当該無溶剤型接着剤組成物が重合体を含む場合、当該重合体を構成する単量体の全量中に占める、芳香族イソシアネート化合物の量の質量比率と、上記重合体の含有量とを掛け合わせた値である。
【0121】
なお、上記芳香族イソシアネート化合物として、当該芳香族イソシアネート化合物から得られるアダクト体、及び/または、イソシアヌレート体等を使用してもよい。ここで「アダクト体」とは、芳香族イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンとの付加体であり、「イソシアヌレート体」とは、芳香族イソシアネート化合物の三量体である。
【0122】
また、上記芳香族ポリイソシアネート化合物として、上記列挙した芳香族イソシアネート化合物とポリオールとの反応生成物であって、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートを使用してもよい。この場合、上記ポリオールとして、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールを使用することが好ましい。これにより、後述するポリオール成分との相溶性が良好になり、接着剤層(IV)の凝集破壊を防止することができる。またその結果、無溶剤型接着剤組成物の付与性が良好になり、積層体における、層間剥離及び凝集破壊の抑制につながる。なお、上記ポリオールとして、ポリエーテルポリオールを使用することが特に好ましい。
【0123】
上記ポリエーテルポリオールとして、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等を開始剤として重合して得られる化合物が挙げられる。また、官能基数の異なるオキシラン化合物を複数組み合わせて用いることもできる。上記ポリエーテルポリオールとして、数平均分子量が100以上5,000以下であるものを使用することが好ましい。
【0124】
また、上記ポリエステルポリオールとして、多価カルボン酸成分とグリコール成分とを反応させて得られる化合物が挙げられる。多価カルボン酸成分として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸等の多価カルボン酸、若しくはそれらのジアルキルエステル、またはそれらの混合物が挙げられる。またグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類、若しくはそれらの混合物が挙げられる。
【0125】
また、上記芳香族ポリイソシアネート化合物として、上記列挙した芳香族イソシアネート化合物と、低分子ジオールである、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、等との反応生成物を用いることもできる。
【0126】
上記ポリイソシアネート成分全体としての数平均分子量は、200~1,500であることが好ましく、より好ましくは250~1,200であり、特に好ましくは300~800である。なおポリイソシアネート成分として複数のポリイソシアネート化合物を含む場合、「ポリイソシアネート成分全体としての数平均分子量」とは、それぞれの上記ポリイソシアネート化合物の数平均分子量の加重平均値を指すものとする。上述した通り、例えばポリイソシアネート成分として、芳香族イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールとの反応生成物を使用する場合、当該ポリエーテルポリオールの数平均分子量は100以上5,000以下であることが好ましいが、この場合、上記反応生成物とともに、分子量の小さい芳香族イソシアネート化合物を併用することで、全体としての数平均分子量を上記範囲に調整することが好適である。
【0127】
ポリイソシアネート成分としては、上記に例示したポリイソシアネート化合物を1種のみ使用してもよいし、2種以上併用してもよい。また、ポリイソシアネート化合物を2種以上使用する場合、そのうちの1種以上が芳香族ポリイソシアネート化合物であることが好適である。
【0128】
<ポリオール成分>
次に、無溶剤型接着剤組成物に含まれるポリオール成分について説明する。
【0129】
ポリオール成分として、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール等の高分子ポリオール(ただしいずれも末端に水酸基を有する);エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等の低分子ジオール;トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子トリオール;等が使用できる。中でも、印刷画質を損なわず、より外観が良好で、かつ、隣接する層との層間剥離を防止する観点から、上記ポリオール成分が、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオールからなる群から選ばれる1種以上の高分子ポリオールを含むことが好ましい。
【0130】
上記ポリエステルポリオール(ただし末端に水酸基を有する)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の多価カルボン酸、若しくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類、若しくはそれらの混合物との反応生成物;あるいは、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β-メチル-γ-バレロラクトン)等のラクトン類の開環重合反応物;等が挙げられる。また、ポリエステルポリオールとして、ヒマシ油等の植物油、ならびに、当該植物油由来のポリエステル化合物を使用することもできる。
【0131】
更に、上記例示したポリエステルポリオール中の水酸基の一部に、無水トリメリット酸等の酸無水物を反応させたものを用いることもできる。酸無水物を付加したポリエステルポリオールを用いることにより、隣接する層との層間剥離、及び、接着剤層(IV)の凝集破壊を防止できる。なお無水トリメリット酸を付加させる場合、その使用量は、反応前のポリエステルポリオール100質量%中、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0132】
一方、上記ポリエーテルポリオール(ただし末端に水酸基を有する)としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子量ポリオールを開始剤として重合して得られる化合物が挙げられる。
【0133】
また、上記ポリエーテルエステルポリオールとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の二塩基酸若しくはそれらのジアルキルエステルまたはそれらの混合物と、上記ポリエーテルジオールを反応させて得られる化合物が挙げられる。
【0134】
本実施形態の積層体の製造に使用される無溶剤型接着剤組成物の場合、ポリオール成分の数平均分子量は、300~5,000であることが好ましく、より好ましくは500~3000である。
【0135】
ポリオール成分としては、上記に例示したポリオールを1種のみ使用してもよいし、2種以上併用してもよい。特に、本実施形態の積層体の製造に使用される無溶剤型接着剤組成物の場合、ポリオール成分として、数平均分子量が異なる2種以上のポリオールを含むことが好ましい。具体的には、数平均分子量が100~500であるポリオールと、数平均分子量が500超3,000以下であるポリオールと、数平均分子量が3,000超10,000以下であるポリオールとを含む場合、または、数平均分子量が100~1,000であるポリオールと、数平均分子量が1,000超10,000以下であるポリオールとを含む場合、等が好適である。これらのうち、数平均分子量が1,000以下であるポリオールは、インキ層(III)に対する浸透性に優れるうえ、上述したポリイソシアネート成分との反応性も良好であるため、上記インキ層(III)との層間剥離の抑制に寄与する。また、数平均分子量が1,000より大きいポリオールは、無溶剤型接着剤組成物の硬化膜の凝集力を高めるのに有効であり、結果として接着剤層(IV)の凝集破壊の抑制や、積層体のガスバリア性向上に寄与する。
【0136】
本実施形態の積層体の製造に使用できる無溶剤型接着剤組成物の場合、ポリオール成分中の水酸基のモル数を100モルとした場合、併用するポリイソシアネート成分中のイソシアネート基のモル数を120モル以上300モル以下とすることが好ましい。ポリオール成分中の水酸基のモル数に対する、ポリイソシアネート成分中のイソシアネート基のモル数を上記範囲内に収めることで、長期間に渡って、隣接する層との層間剥離及び接着剤層(IV)の凝集破壊が抑制される積層体を得ることができ、例えば積層体を高湿度環境下でエージング処理したとしても、層間剥離や凝集破壊が起こることがない。
【0137】
<酸基含有成分>
後述する塩基性溶液への浸漬工程によって、蒸着フィルム(V)の分離が可能となり、リサイクル性が向上するという観点から、本実施形態の積層体の製造に使用される無溶剤型接着剤組成物は、酸基含有成分を含むことが好適である。当該酸基含有成分として、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、あるいはこれら化合物のアルキレンオキサイド付加物(なお以上の成分は、上述したポリオール成分を兼ねる);酸基を有するポリエーテルポリオール;酸基を有するポリエステルポリオール;酸基及び水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂;水酸基を有する変性スチレン-(無水)マレイン酸共重合樹脂;等が使用できる。
【0138】
上記列挙した酸基含有成分は、生成される接着剤層(IV)の酸価が1~60mgKOH/gとなるように配合することが好ましく、2~50mgKOH/gとなるように配合することがより好ましく、3~40mgKOH/gであることが更に好ましく、5~30mgKOH/gであることが特に好ましい。
【0139】
なお、接着剤組成物の酸価の算出及び測定方法は、上述したその他樹脂(IIR)の場合と同様である。
【0140】
<その他成分>
本実施形態の積層体の製造に使用できる無溶剤型接着剤組成物には、更に、平均粒子径が0.1~0.4μmである粒子成分を含有させることができる。上記範囲内の平均粒子径を有する粒子成分を含有した無溶剤型接着剤組成物を使用した場合、積層体のガスバリア性が高くなるとともに、高速で積層体を製造した場合であっても、印刷画質が良く、層間剥離や凝集破壊の起こらない上記積層体を得ることができる。なお、上述した粒子成分の平均粒子径は、上述した金属無機顔料の平均粒子径と同様の方法によって測定できる。
【0141】
上記粒子成分を構成する化合物は、無機化合物であっても有機化合物であってもよい。例えば、粒子成分として無機化合物を含む場合、当該無機化合物として、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、アルミナホワイト、硫酸カリウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、ゼオライト、活性炭、カオリン、タルク、ロウ石クレー、けい石、マイカ、グラファイト、セリサイト、モンモリロナイト、セリサイト、セピオライト、ベントナイト、パーライト、ゼオライト、ワラストナイト、蛍石、ドロマイト等が使用できる。
【0142】
また、粒子成分として有機化合物を含む場合、当該有機化合物として、上述した、水性インクジェットインキに含まれ得る樹脂粒子が好適に使用できるほか、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、セルロース樹脂等の樹脂粒子を使用してもよい。上記列挙したなかでも、ベンゾグアナミン樹脂粒子が好適に使用できる。
【0143】
上記列挙した粒子成分の含有量は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との合計量を100質量%としたとき、0.01~10質量%とすることが好ましい。上記範囲とすることによって、印刷画質が良く、層間剥離や凝集破壊の起こらない積層体を得ることができる。
【0144】
また、無溶剤型接着剤組成物には、シランカップリング剤が添加されていてもよい。当該シランカップリング剤として、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基等の官能基と、メトキシ基、エトキシ基等の官能基とを有するものが好適に使用できる。好適に使用できるシランカップリング剤として、例えば、ビニルトリクロルシラン等のクロロシラン;N-(ジメトキシメチルシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン等のアミノシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン;ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン;等が挙げられる。シランカップリング剤の添加量は、無溶剤型接着剤組成物全量に対して0.1~5質量%であることが好ましい。
【0145】
その他、上記無溶剤型接着剤組成物には、更に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、防黴剤、増粘剤、可塑剤、表面調整剤、顔料、充填剤等の添加剤を、必要に応じて使用することができる。また、隣接する層との層間剥離を更に抑えるために、チタネート系カップリング剤、リン酸、リン酸誘導体、酸無水物、粘着性樹脂等の助剤を使用することができる。更に、硬化反応を調節するため、従来既知の触媒、添加剤等を使用することもできる。
【0146】
本実施形態の積層体を構成する接着剤層(IV)の形成のために無溶剤型接着剤組成物を使用する場合、あらかじめ準備しておいた、ポリイソシアネート成分を含む組成物と、ポリオール成分を含む組成物とを、使用直前に混合して、無溶剤型接着剤組成物とすることが好適である。また、無溶剤型接着剤組成物が上述した粒子成分を含む場合、当該粒子成分は、ポリオール成分を含む組成物に含まれていることが好ましい。
【0147】
また、ポリイソシアネート成分を含む組成物とポリオール成分を含む組成物との混合は、流動性が確保できる範囲で、できるだけ低温で行うことが好ましく、具体的には25~80℃環境下で混合することが好ましい。更に、調製した直後の無溶剤型接着剤組成物の、60℃での粘度は、好ましくは50~5,000mPa・sであり、更に好ましくは50~3,000mPa・sである。60℃における粘度が5,000mPa・s以下であれば、インキ層(III)上、及び/または、蒸着フィルム(V)上への塗工を容易に行うことができ、良好な作業性を確保できるうえ、塗装外観も良化する。また、60℃における粘度が50mPa・s以上であれば、初期凝集力が十分高いため、隣接する層との層間剥離を抑制することができ、更には塗工時の厚みが均一になるため外観不良を生じることもなく、また反りが発生することもない。なお本願において「調製した直後」とは、ポリイソシアネート成分を含む組成物とポリオール成分を含む組成物とを混合し均一化してから1分以内であることを意味する。また上記の、無溶剤型接着剤組成物の粘度は、B型粘度計により測定した値を示す。
【0148】
<乾燥型接着剤組成物>
乾燥型接着剤組成物は接着力が高いため、本実施形態の積層体を構成する接着剤層(IV)の製造に使用する場合、隣接する層との層間剥離の抑制が容易となる。また乾燥型接着剤組成物を構成する材料として使用可能なものが多く、凝集破壊の防止が可能なうえ、耐溶剤性、耐ボイル・レトルト性といった種々の特性のうち、希望するものを容易に発現させることができる。
【0149】
乾燥型接着剤組成物は、熱融着性を有する樹脂と液体成分とを含む。当該液体成分として、有機溶剤及び/または水が使用可能であるが、環境負荷低減の観点、労働安全に対する配慮の観点、インキ層(III)との親和性の高さに起因した、当該インキ層(III)との層間剥離の抑制の観点から、少なくとも水を含む(乾燥型水性接着剤組成物)ことが好ましい。
【0150】
一方、上記熱融着性を有する樹脂として、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、オレフィン樹脂等が好ましく使用できる。また、乾燥型水性接着剤組成物を使用する場合、上記熱融着性を有する樹脂は樹脂粒子の形態であることが好ましい。その場合、乾燥型水性接着剤組成物内で安定的に存在できる観点から、好ましくは、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及び、オレフィン樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を使用することが好ましい。
【0151】
また、隣接する層との層間剥離の抑制効果をより高めるとともに、接着剤層(IV)の凝集破壊を防止する観点から、乾燥型接着剤組成物は、更に架橋剤を含んでいてもよい。当該架橋剤として、例えば、ポリイソシアネート化合物、ヒドラジン化合物等が使用できる。
【0152】
乾燥型接着剤組成物は、必要に応じて更に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、可塑剤、表面調整剤、滑剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0153】
<蒸着フィルム(V)>
本実施形態の積層体を構成する蒸着フィルム(V)は、樹脂フィルムと、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層とを含む。上述したように、樹脂フィルムにシリカ及び/またはアルミナを蒸着させた透明蒸着フィルムを用いることで、積層体のガスバリア効果が高まる。また、蒸着層と接着剤層(IV)とが接するように構成された積層体では、当該蒸着層と接着剤層(IV)とが強固に接合し、コロナ処理等の表面改質方法だけでは実現できなかった、長期保管後の層間剥離の発生や印刷画質の悪化を防ぐことができる。蒸着フィルム(V)を構成する樹脂フィルムとして、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂のフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂のフィルム;ナイロン6、ナイロン12、ポリ-p-キシリレンアジパミド等のポリアミド樹脂のフィルム;ポリスチレン樹脂のフィルム;ポリカーボネート樹脂のフィルム;アクリロニトリル-スチレン共重合(AS)樹脂のフィルム;塩化ビニル樹脂のフィルム;ABS樹脂のフィルム;エチレン-ビニルアルコール共重合(EVOH)樹脂のフィルム;ならびに、これらのフィルムの積層体や上記列挙した樹脂の混合体からなるフィルム;が使用できる。
【0154】
また例えば、コーティング処理を施した樹脂フィルムに、シリカ及び/またはアルミナを蒸着させたものを蒸着フィルム(V)として使用することもできる。その際、金属酸化物(例えば、アルミナ、シリカ、チタニア等)の微粒子、ならびに、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(無水)マレイン酸共重合樹脂、オレフィン-(無水)マレイン酸共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、及び、ポリオール樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂とを含むコーティング液が、上記コーティング処理に好適に使用できる。これらの成分を含むコーティング液は、シリカ及び/またはアルミナや、樹脂フィルムとの親和性が高いため、蒸着フィルム(V)内部での凝集破壊を起こすことなく、ガスバリア性の一層の向上が実現できる。
【0155】
上記列挙した樹脂フィルムに、シリカ及び/またはアルミナを蒸着させる方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、酸化反応蒸着法、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、蒸着層の厚みは50~1000Åであることが好ましい。
【0156】
上記シリカ及び/またはアルミナの蒸着層は、接着剤層(IV)と接していてもよいし、接していなくてもよいが、上述した観点、すなわち、当該蒸着層と接着剤層(IV)とが強固に接合し、長期保管後の層間剥離の発生や印刷画質の悪化を防ぐことができるという観点から、蒸着層は、接着剤層(IV)と接していることが好ましい。
【0157】
本実施形態の積層体では、上述した非浸透性基材(I)と、蒸着フィルム(V)を構成する樹脂フィルムが、両方ともにポリオレフィン樹脂のフィルムであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂のフィルムは柔軟性が高く、積層体を強く折り曲げても、ポリオレフィン樹脂のフィルムが当該折り曲げ方向に追随するため、前処理層(II)、インキ層(III)、及び、接着剤層(IV)が層間剥離を起こすことがない。また特に、ポリオレフィン樹脂のフィルムとして延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(例えば、一軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム及び二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルム)を使用すると、積層体に機械的強度も付与することができるため、外部からの力に対して内部の層を保護することができ、層間剥離及び凝集破壊の更なる防止が可能となる。
【0158】
<積層体の製造方法>
上述した、非浸透性基材(I)と、インキ層(III)と、接着剤層(IV)と、蒸着フィルム(V)とを、この順で有する積層体の製造方法として、以下工程1~4を含む方法が挙げられる。また、積層体が前処理層(II)を含む場合、工程1の代わりに、工程0及び工程1’を含む。
【0159】
<工程0:前処理層(II)形成工程>
積層体が前処理層(II)を含む場合、工程0として、非浸透性基材(I)上に、上述した、凝集剤を含む前処理液を付与したのち、乾燥及び/または硬化して、前記前処理層(II)を得る(前処理層(II)形成工程)。その際、乾燥及び/または硬化後の前処理層(II)の単位面積あたりにおける、前記凝集剤の含有量が、0.02~1g/m2となるように、前処理液を付与する。
なお本願において「前処理液の付与」は、非接触での前処理液の印刷、及び、基材に当接させての前処理液の塗工、を総称する用語として使用される。
また本願において「乾燥」とは、加熱等の手段(詳細は後述する)により、液膜から液体成分を除去する所作を指し、「硬化」とは、加熱や活性エネルギー線照射等の手段により、液膜中の成分同士の重合及び/または架橋を進行させる所作を指す。
【0160】
<前処理液の付与方法>
上記工程0において、非浸透性基材(I)上に前処理液を付与する方法として、後述するインクジェット印刷方法のように、非浸透性基材(I)に対して非接触で印刷する方式と、当該非浸透性基材(I)に対して前処理液を当接させて塗工する方式のどちらを採用してもよい。また、前処理液の付与方法として、前処理液を当接させて塗工する方式を選択する場合、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーター等の形式が好適に使用できる。
【0161】
<付与した前処理液の乾燥方法>
非浸透性基材(I)に付与した前処理液を乾燥させる際、当該非浸透性基材(I)上の前処理液を完全に乾燥させたのち、次の工程(工程1または工程1’)に進んでもよいし、上記非浸透性基材(I)上の前処理液が完全に乾燥する前に、次の工程に進んでもよい。一実施形態において、水性インクジェットインキを印刷する前に前処理液を完全に乾燥させる、すなわち、次の工程(工程1または工程1’)の開始段階において、非浸透性基材(I)上の前処理層(II)には液体成分が実質的に残っていない状態とすることが好ましい。前処理液を完全に乾燥した後で水性インクジェットインキを印刷することで、前処理層(II)内での凝集破壊が抑制できるうえ、当該水性インクジェットインキが乾燥不良を起こすことなくなり、印刷画質、ラミネート適性、及び、耐擦過性に優れた印刷物が得られるためである。
【0162】
また、前処理液の乾燥方法にも特に制限はなく、例えば加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線(例えば波長700~2500nmの赤外線)乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法等、従来既知の方法を挙げることができる。上記乾燥方法は、単独で用いてもよいし、複数を続けて使用してもよいし、同時に併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、インキを乾燥させることができる。特に、非浸透性基材(I)へのダメージを軽減し、効率よく乾燥できるため、熱風乾燥法を用いることが好ましい。また、基材へのダメージや前処理液中の液体成分の突沸を防止する観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~150℃とすることが好ましい。
【0163】
また上記乾燥方法は、単独で用いてもよいし、複数を続けて使用してもよいし、同時に併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法を併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、インキを乾燥させることができる。
【0164】
<付与した前処理液の硬化方法>
一方、非浸透性基材(I)に付与した前処理液を硬化させる際、硬化反応を開始及び/または促進する方法として、従来既知の方法、例えば、加熱、及び、活性エネルギー線照射等が使用できる。なおこれらの方法は2種以上組み合わせもよい。また、上記加熱の方法に関しては、上述した前処理液の乾燥方法と同様の方法が利用できる。一方、活性エネルギー線の発生源に関しても特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーレーザーランプ、キセノンランプ等の紫外線ランプ;紫外線発光ダイオード(UV-LED);及び、紫外線レーザーダイオード(UV-LD)等が使用できる。これら活性エネルギー線の発生源は単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0165】
<工程1、工程1’:インキ層(III)形成工程>
工程1及び工程1’として、非浸透性基材(I)上に、上述した、顔料と、樹脂と、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤とを含む水性インクジェットインキを印刷したのち、乾燥して、前記インキ層(III)を得る(インキ層(III)形成工程)。その際、乾燥後のインキ層(III)の単位面積あたりにおける、前記シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の含有量が、1~500mg/m2となるように、水性インクジェットインキを印刷する。また、積層体が前処理層(II)を含む、すなわち、工程1’の場合、少なくとも一部が前記前処理層(II)に重なるように、水性インクジェットインキを印刷する。
【0166】
<インクジェット印刷方法>
インクジェットヘッドから吐出された上記水性インクジェットインキの液滴が、非浸透性基材(I)または前処理層(II)に着弾することで、印刷が行われる(インクジェット印刷方法)。なお上述したように、工程0において、前処理液を非浸透性基材(I)上に印刷する方法として、インクジェット印刷方法を採用してもよいし、後述する工程2において、接着剤組成物を印刷する方法として、インクジェット印刷方法を採用してもよい。その場合、後述するインクジェット印刷方法の説明において「水性インクジェットインキ」とあるものを、「前処理液」「接着剤組成物」にそれぞれ読み替えるものとする。
【0167】
上記インクジェット印刷方法として、非浸透性基材(I)や前処理層(II)に対し、水性インクジェットインキを1回だけ吐出して記録するシングルパス方式、及び、上記非浸透性基材(I)の搬送方向と直行する方向に、短尺のシャトルヘッドを往復走査させながら吐出・記録を行うシリアル方式、のどちらを採用してもよい。ただし、シリアル方式の場合、インクジェットヘッドの動きを加味して吐出タイミングを調整する必要があり、着弾位置のずれが生じやすい。そのため、本発明の積層体を製造する際は、シングルパス方式、特に、固定されたインクジェットヘッドの下部に非浸透性基材(I)を通過させる方式が好ましく用いられる。
【0168】
水性インクジェットインキを吐出する方式にも特に制限は無く、従来既知の方式、例えば、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、水性インクジェットインキを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等が利用できる。
【0169】
また、インクジェットヘッドから吐出される水性インクジェットインキの液滴量は、色再現性やその他の印刷画質の向上という点から、0.2~30ピコリットルであることが好ましく、1~20ピコリットルであることがより好ましい。更に、乾燥負荷の軽減効果の観点から、水性インクジェットインキの単位面積当たりの印刷量は、1~50mg/m2であることが好ましく、1~30mg/m2であることがより好ましい。
【0170】
<付与した水性インクジェットインキの乾燥方法>
水性インクジェットインキの乾燥方法は、上述した前処理液の場合と同様である。また、上述した乾燥方法を単独で用いてもよいし、複数を続けて使用してもよいし、同時に併用してもよい。水性インクジェットインキの乾燥にあたっては、当該水性インクジェットインキ中の液体成分の突沸を防止し、色再現性や印刷画質に優れた印刷物を得る観点から、加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50~250℃とすることが、それぞれ好ましい。また同様の観点から、赤外線乾燥法を採用する場合は、赤外線照射に用いる赤外線の全出力の積算値の50%以上が、700~1500nmの波長領域に存在することが好ましい。
【0171】
<工程2:接着剤層前駆体形成工程>
工程2として、上記インキ層(III)、及び/または、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む樹脂フィルムである、蒸着フィルム(V)上に、上述した接着剤組成物を付与して、接着剤層前駆体を形成する(接着剤層前駆体形成工程)。
【0172】
工程2において、接着剤組成物を付与する方法として、上述したインクジェット印刷方法のように、インキ層(III)、及び/または、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む樹脂フィルムに対して非接触で印刷する方式と、当該インキ層(III)、及び/または、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む樹脂フィルムに対して、接着剤組成物を当接させて塗工する方式のどちらを採用してもよい。なお、インクジェット印刷方法、及び、接着剤組成物を当接させて塗工する方式の詳細については、上述した、水性インクジェットインキ及び前処理液の場合とそれぞれ同様である。また、接着剤組成物は、インキ層(III)、及び/または、蒸着フィルム(V)の一部にのみ付与されてもよいし、当該インキ層(III)、及び/または、蒸着フィルム(V)の全面(ベタ)に付与されてもよい。更に、蒸着フィルム(V)に接着剤組成物を付与する場合、当該接着剤組成物は蒸着層に付与(すなわち、接着剤層(IV)を挟んで、インキ層(III)と蒸着層とが向かい合う)してもよいし、蒸着層の存在しない面に付与(すなわち、接着剤層(IV)を挟んで、インキ層(III)と蒸着層とは向かい合わない)してもよい。ただし、上述したように、長期保管後の層間剥離の発生や印刷画質の悪化を防ぐことができるため、蒸着フィルム(V)に接着剤組成物を付与する場合、当該接着剤組成物は蒸着層に付与することが好ましい
【0173】
ある好ましい実施形態では、工程1または工程1’に続けて、インラインで接着剤層前駆体が形成できるという点、印刷画像等に応じて接着剤組成物の付与量等をつど変更できる点等から、接着剤組成物を付与する方法としてインクジェット印刷方法を採用することが好ましい。一方で、付与装置の単純性、全面(ベタ)印刷における均一塗工性、経済性等の観点からは、接着剤組成物を当接させて塗工する方式が好適に用いられる。
【0174】
接着剤組成物の付与量は、好ましくは0.5g/m 2 以上10.0g/m 2 以下であり、より好ましくは1.0g/m 2 以上7.5g/m 2 以下である。
【0175】
<工程3:蒸着フィルム(V)重ね合わせ工程>
<工程4:接着剤層(IV)形成工程>
接着剤組成物を付与した後、ラミネータ等により、インキ層(III)と蒸着フィルム(V)とを重ね合わせる(蒸着フィルム(V)重ね合わせ工程)。そして、1日程度静置(エージング)することで、接着剤層前駆体が硬化して十分な接着力が発現し、本実施形態の積層体となる(接着剤層(IV)形成工程)。
【0176】
<包装容器>
本実施形態の積層体は、例えば、包装容器として使用される。当該包装容器の種類及び用途は、特に限定されるものではないが、例えば、食品容器、洗剤容器、化粧品容器、医薬品容器等に好適に用いることができる。包装容器の形状としても限定されず、内容物に応じた形状に成形することができ、例えばパウチ等に好適に用いられる。
【0177】
<積層体及び包装容器のリサイクル方法>
本実施形態の積層体を構成する非浸透性基材(I)が熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のフィルムであり、かつ、当該積層体が上述した前処理層(II)を有する場合、当該積層体、及び、当該積層体を使用して製造された包装容器は、リサイクルが可能である。
【0178】
上記リサイクルの方法として、本実施形態の積層体、及び、当該積層体を使用して製造された包装容器から、当該積層体を構成する非浸透性基材(I)を分離し、分離後の非浸透性基材(I)を再利用する、あるいは、当該分離後の非浸透性基材(I)を使用して再生プラスチック製品を製造する方法が挙げられる。
【0179】
また、上記非浸透性基材(I)を分離する方法として、例えば、塩基性溶液への浸漬工程を含む方法が使用できる。当該浸漬工程では、積層体(または当該積層体を使用して製造された包装容器)を塩基性溶液に浸漬し、非浸透性基材(I)をプラスチック基材から分離させる。また上記塩基性溶液は、少なくとも、塩基性材料と液体媒体(好ましくは水性媒体である)とを含む。なお、分離効率の向上のため、事前に破砕、粉砕等した積層体(または当該積層体を使用して製造された包装容器)を使用してもよい。
【0180】
上記塩基性材料として、例えばアルカリ金属の水酸化物が使用でき、塩基性の強さ(pKb値の大きさ)、水性媒体に対する溶解性の高さ、入手容易性等の観点から、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好適に使用できる。またその量は、塩基性溶液全量中0.2~15質量%とすることが好ましく、0.5~12質量%とすることがより好ましく、1~10質量%とすることが特に好ましい。濃度が上記範囲内にあることで、塩基性溶液が分離に充分な塩基性を保持することが可能となる。また、プラスチック基材内部への塩基性溶液の浸漬がなくても、例えば印刷物の表面や端部からの浸透により、十分な分離性を発現させることが可能となる。
【0181】
また、塩基性溶液への浸漬工程時の混合物の温度は20~120℃とすることが好ましく、25~110℃とすることがより好ましく、28~90℃とすることが更に好ましく、30~80℃とすることが特に好ましい。更に、上記好適な温度範囲で実施する浸漬工程の時間は1分~24時間とすることが好ましく、1分~12時間とすることが更に好ましく、1分~6時間とすることが特に好ましい。
【0182】
なお、浸漬時には攪拌をしながら分離を行うことが好ましい。例えば、回転羽根で攪拌する場合、その回転数は80~250rpmであることが好ましく、80~200rpmであることが更に好ましい。
【0183】
また、塩基性溶液の使用量は、積層体(または当該積層体を使用して製造された包装容器)の質量の100~100万倍量とすることが好ましい。なお、塩基性溶液の使用量を削減するため、当該塩基性溶液の循環が可能な分離装置を使用してもよい。
【0184】
リサイクル時に塩基性溶液の影響を受けにくく、リサイクルに適した積層体(または当該積層体を使用して製造された包装容器)が得られる、という観点から、非浸透性基材(I)として、ポリオレフィン樹脂のフィルムを使用することが好ましく、当該ポリオレフィン樹脂のフィルムの中でも、延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(例えば、一軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム及び二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルム)を使用することが特に好ましい。また、蒸着フィルム(V)として、アルミナの蒸着層を含む蒸着フィルム(V)を使用する場合、塩基性溶液への溶解性を有するアルミナが、上述した浸漬工程において溶解し、当該蒸着フィルム(V)を構成する樹脂フィルムのみを抽出することが可能である。従って、リサイクル性の観点では、蒸着フィルム(V)がアルミナの蒸着層を含むことが好適である。更にその際、分離した非浸透性基材(I)と蒸着フィルム(V)を構成する樹脂フィルムとを一括して、再生プラスチック製品の製造等に利用でき、リサイクル時の効率に優れる観点から、上記非浸透性基材(I)と上記樹脂フィルムとが、同一種の樹脂であることが好ましい。この観点から、蒸着フィルム(V)を構成する樹脂フィルムとしてポリオレフィン樹脂のフィルムを使用することが好ましく、当該ポリオレフィン樹脂のフィルムの中でも、延伸ポリプロピレン樹脂フィルム(例えば、一軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム及び二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルム)を使用することが特に好ましい。
【実施例】
【0185】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態である積層体及びその製造方法、ならびに、上記積層体の製造に用いる、前処理液とその付与方法、水性インクジェットインキとその印刷方法、接着剤組成物とその塗工方法について、更に具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0186】
<前処理液の製造例>
<樹脂粒子PE1の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌器を備えた反応容器に、イオン交換水124部と、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製ラテムルE-150)1.2部とを仕込んだ。一方、攪拌機を備えた別の混合容器を準備し、アクリル酸0.5部、メチルメタクリレート30.0部、n-ブチルアクリレート15.0部、n-ブチルメタクリレート54.5部、イオン交換水64部、及び、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製ラテムルE-150)0.8部を順次加えたのち、攪拌混合して乳化液とした。
【0187】
上記乳化液を8部分取し、上記の反応容器内に加えた。添加後、内温を80℃に昇温し十分に容器内を窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液を4部と、無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液を8部とを添加し、重合反応を開始した。重合反応の開始後、内温を80℃に保ちながら、上記で作製した乳化液の残りと、過硫酸カリウムの5%水溶液を1.2部と、無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液を2.5部とを、1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、更に2時間攪拌を継続したのち、内温が30℃以下になるまで冷却した。そして、ジメチルアミノエタノールを添加して、内容物のpHを8.5としたのち、イオン交換水を加えて固形分を30%に調整することで、酸価が4mgKOH/gである(メタ)アクリル樹脂粒子1(PE1)の水分散液(固形分30%)を得た。
【0188】
<樹脂粒子PE2~10の製造>
表1に記載の材料を使用した以外は、樹脂粒子PE1と同様の方法により、(メタ)アクリル樹脂粒子2~10(PE2~10)を製造した。
【0189】
【0190】
なお、表1には、PE1~10の酸価も併せて記載した。
【0191】
<前処理液1の製造>
下記材料を、攪拌機を備えた混合容器内に投入し、室温(25℃)下で1時間混合したのち、混合物を50℃に加温し、更に1時間混合した。その後、上記混合物を室温まで冷却したのち、孔径100μmのナイロンメッシュにて濾過を行うことで、前処理液1を得た。なお、下記材料の詳細については後述する。
・NeoCryl XK-190 11.1部
・ギ酸カルシウム 2.5部
・乳酸カルシウム 2.5部
・2-プロパノール 5.0部
・サーフィノール440 1.0部
・プロキセルGXL 0.05部
・イオン交換水 77.84部
【0192】
<前処理液2~16の製造>
表2に記載の材料を使用した以外は、前処理液1と同様の方法により、前処理液2~19を製造した。
【0193】
【0194】
【0195】
なお、表2に記載した商品名及び略称の詳細は、以下の通りである。
・カチオマスターPDT-2:四日市合成社製ジメチルアミン・エピクロルヒドリン縮合物第4級アンモニウム塩、固形分60%
・PAA-HCL-3L:ニットーボーメディカル社製ポリアリルアミン塩酸塩、固形分50%
・酢酸:富士フイルム和光純薬社製、純度99.7%(氷酢酸)
・XK-190:NeoCryl XK-190(DSM Coating Resins社製(メタ)アクリル樹脂粒子、固形分45%)
・IPA:イソプロピルアルコール(低表面張力溶剤、1気圧下における沸点=83℃)
・サーフィノール440:日信化学工業社製アセチレンジオール系表面調整剤
・プロキセルGXL:1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オンのジプロピレングリコール溶液(アーチケミカルズ社製防腐剤、固形分20%)
【0196】
<水性インクジェットインキの製造例>
<顔料分散樹脂1の製造>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール95部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱したのち、重合性単量体としてのスチレン45部、アクリル酸30部、ラウリルメタクリレート25部、ならびに、重合開始剤としてのV-601(富士フイルム和光純薬社製)6部、の混合物を、2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応容器内を110℃に維持したまま3時間重合反応を継続させた後、更にV-601を0.6部添加し、110℃下で1時間重合反応を続けた。その後、反応容器内を室温(25℃)まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを添加して、反応生成物中の酸基を完全に中和したのち、水を100部添加した。その後、反応生成物を含む混合物を100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させブタノールを留去し、更に、水を加えて固形分が30%になるように調整することで、顔料分散樹脂1の水性化溶液(水性溶媒と、当該水性溶媒に分散及び/または溶解した成分とを含む溶液)を得た。なお、上記式1により算出した、顔料分散樹脂1の酸価は234mgKOH/gであった。
【0197】
<ブラック顔料分散液の製造>
カーボンブラック(オリオンエンジニアドカーボンズ社製「PrinteX85」)を15部と、上記顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を10部と、水を75部とを、攪拌機を備えた混合容器中に投入し、1時間プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填したダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製、容積0.6L)を用いて循環分散を行い、ブラック顔料分散液を製造した。
【0198】
<シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液の製造>
以下に示した顔料を使用した以外は、上記ブラック顔料分散液1と同様の方法により、シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液を得た。
・シアン:トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)
・マゼンタ:DIC社製FASTGEN SUPER MAGENTA RG(C.I.ピグメントレッド122)と、東京色材工業社製トーシキレッド150TR(C.I.ピグメントレッド150)とを等量ずつ混合したもの
・イエロー:BASF社製Paliotol Yellow D 1155(C.I.ピグメントイエロー185)
【0199】
<ホワイト顔料分散液の製造>
酸化チタン(石原産業社製「タイペークCR-60」)を45部と、上記顔料分散樹脂1の水性化溶液(固形分30%)を18部と、水を37部とを、攪拌機を備えた混合容器中に投入し、1時間プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填したダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製、容積0.6L)を用いて循環分散を行い、ホワイト顔料分散液を製造した。
【0200】
<バインダー樹脂1の合成>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてのスチレン25部、メタクリル酸5部、メタクリル酸メチル70部、ならびに、重合開始剤としてのV-601(富士フイルム和光純薬社製)6部、の混合物を、2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応容器内を110℃に維持したまま3時間重合反応を継続させた後、更にV-601を0.6部添加し、110℃下で1時間重合反応を続けた。その後、反応容器内を室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを37.1部添加したのち、水を100部添加した。その後、反応生成物を含む混合物を100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、更に、水を加えて固形分が30%になるように調整することで、バインダー樹脂1の水性化溶液を得た。上述した方法で測定した、バインダー樹脂1の重量平均分子量は18,000であった。またバインダー樹脂1の酸価は32mgKOH/gであった。
【0201】
<インクジェットインキのセット1の製造>
攪拌機で混合容器内の内容物を攪拌しながら、下記記載の材料を混合容器へ順次投入し、十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行うことで、インクジェットインキK1を得た。
ブラック顔料分散液 33.3部
バインダー樹脂1(固形分30%) 13.3部
1,2-プロパンジオール 20.0部
サーフィノール 440 1.0部
TEGO WET 280 1.0部
プロキセルGXL 0.05部
イオン交換水 31.28部
また、上記ブラック顔料分散液を、シアン顔料分散液、マゼンタ顔料分散液、イエロー顔料分散液、及び、ホワイト顔料分散液にそれぞれ変更した以外は、上記インクジェットインキK1と同様の材料及び方法により、それぞれ、インクジェットインキC1、インクジェットインキM1、インクジェットインキY1、インクジェットインキW1を得た。そして、これまでに得られた、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ホワイトの5色のインクジェットインキを、インクジェットインキのセット1とした。
【0202】
<インクジェットインキのセット2~10の製造>
表3記載の材料を使用した以外は、インクジェットインキのセット1と同様の方法により、インクジェットインキのセット2~10(それぞれ、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ホワイトの5色からなる)を得た。
【0203】
【0204】
表3に記載した商品名うち、表2で使用していないものの詳細は、以下の通りである。
・サーフィノール104:日信化学工業社製アセチレンジオール系表面調整剤
・サーフィノール485:日信化学工業社製アセチレンジオール系表面調整剤
・TEGOWet280:エボニックジャパン社製シロキサン系表面調整剤
・BYK-349:ビックケミー・ジャパン社製シロキサン系表面調整剤
・KF-6011:信越化学工業社製シロキサン系表面調整剤
・サーフロンS243:AGCセイミケミカル社製フッ素系表面調整剤
【0205】
<無溶剤型接着剤組成物の製造例>
<イソシアネートK1の合成>
下記材料を、攪拌機を備えた反応容器内に投入した。次いで、当該反応容器内に窒素ガスを流しながら、また内容物を攪拌しながら70℃~80℃に加温した。そして、反応容器内の温度を70~80℃に維持しながら3時間ウレタン化反応を継続し、芳香族イソシアネート化合物とポリオールとの反応生成物(ポリイソシアネートK-1)を含む混合溶液を得た。
ポリプロピレングリコール(数平均分子量約400) 300部
ポリプロピレングリコール(数平均分子量約2,000) 300部
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート 400部
2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート 600部
【0206】
<ポリイソシアネートK-2~9の合成>
表4に示した原料を使用した以外は、ポリイソシアネートK-1と同様の方法を用いることで、芳香族イソシアネート化合物とポリオールとの反応生成物(ポリイソシアネートK-2~3、5~9)を含む混合溶液、及び、非芳香族イソシアネート化合物とポリオールとの反応生成物であって、末端にイソシアネート基を有する非芳香族イソシアネート化合物(ポリイソシアネートK-4)を含む混合溶液を得た。
【0207】
【0208】
なお、表4に記載された略語及び商品名の詳細は、以下の通りである。
・PPG-400:ポリプロピレングリコール(数平均分子量約400)
・PPG-2000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量約2,000)
・TL2464:テスラック2464(昭和電工マテリアルズ社製ポリエステルポリオール、数平均分子量約1,000)
・HS2F-136P:豊国製油社ポリエステルポリオール(数平均分子量約1,000).
・PePOH1:特開2013-43936号公報の製造例1に記載された材料及び方法により製造した、酸基(カルボキシ基)を有するポリエステルポリオール(数平均分子量約520、酸価96mgKOH/g)
・4,4’-MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
・2,4’-MDI:2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
【0209】
<ポリオールM-1の製造>
特開2017-177800号公報に記載の、合成例201と同様の方法により、ポリオール(ポリオールM-1とする)を製造した。
【0210】
<無溶剤型接着剤組成物1~9の製造>
上記で得られたポリイソシアネートK-1を含む混合溶液を100部と、上記で得られたポリオールM-1を50部とを60℃下で混合し、無溶剤型接着剤組成物1を得た。また、表5に示した材料を使用した以外は、無溶剤型接着剤組成物1と同様の方法を用いることで、無溶剤型接着剤組成物2~9を得た。なお、酸価を有するポリエステルポリオールであるポリイソシアネートK-7、8を使用して製造した無溶剤型接着剤組成物8、9は、酸価を有しており、その酸価は、それぞれ、11mgKOH/g、5.5mgKOH/gであった。
【0211】
【0212】
<乾燥型接着剤組成物10の製造>
アローベースSB-1230N(ユニチカ社製ポリオレフィン樹脂の樹脂粒子溶液、固形分27%)を800部と、イソプロピルアルコール(IPA)を62部と、水を218部とを混合し、乾燥型接着剤組成物10(固形分20%)を得た。
【0213】
<積層体の製造例>
<前処理液の付与>
オーエスジーシステムプロダクツ社製ノンワイヤーバーコーター250-OSP-02または50-OSP-04を用い、表6に記載の非吸収性基材(I)に、上記で作成した前処理液1~19を、ウェット膜厚2μmまたは4μmとなるように塗工したのち、塗工後のフィルムを70℃のエアオーブンに投入して2分間乾燥させることで、前処理層(II)を有するフィルムを作製した。
【0214】
<水性インクジェットインキの印刷>
印刷基材を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B-1200(京セラ社製、解像度1200dpi、最大駆動周波数64kHz)を5個設置し、上記で作製したインクジェットインキのセット1~10を、上流側から、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、W(ホワイト)の順番となるよう、それぞれ充填した。次いで、非浸透性基材(I)、または、上記で作製した前処理層(II)を有するフィルムを、上記コンベヤ上に設置したのち、当該コンベヤを50m/分で駆動させた。そして、上記非浸透性基材(I)または上記フィルムが、上記インクジェットヘッドの設置部を通過した際に、水性インクジェットインキを吐出し、以下に示した画像3種類の印刷を行った。なおインクジェットヘッドからの水性インクジェットインキのドロップボリュームは、1滴あたり1.5pL~5pLの範囲とし、所望の層厚となるように調整した。その後速やかに、印刷後のフィルムを70℃のエアオーブンに投入して3分間乾燥させることで、インキ層(III)(及び前処理層(II))を有するフィルムを作製した。
【0215】
上記画像として、下記3種類の画像を準備し、表6に記載したそれぞれの組み合わせについて、印刷を行い、更に、後述する方法及び表6に記載した材料を用いて積層体を製造した。
グレースケール印刷物:印刷直後のフィルム上の水性インクジェットインキの量が、表6に記載した値になるように、印字率を調整し、かつ、それぞれの水性インクジェットインキが互いに重なり合わないように配置及び印刷した画像
ベタ印刷物:印字率100%、かつ、それぞれの水性インクジェットインキが互いに重なり合わないように配置及び印刷した画像
文字印刷物:平仮名と漢字とが混ざった、4ポイント・6ポイント・8ポイントのMS明朝体からなる文字を、色ごとに、かつ、互いに重なり合わないように配置及び印刷した画像
【0216】
<接着剤組成物の付与、及び、積層体の製造>
テストコーターを用い、上記で作製したインキ層(III)(及び前処理層(II))を有するフィルムの、当該インキ層(III)の表面に、上記で作成した無溶剤型接着剤組成物1~9または乾燥型接着剤組成物10を、表6に記載した塗布量になるように、温度60℃、塗工速度50m/分の条件にて塗布し、接着剤層前駆体を形成した。この接着剤層前駆体に、以下に示したフィルムを重ね合わせたのち、25℃、80%RHの環境下にて、1日間エージングすることで、上記接着剤組成物を硬化させ、積層体とした。
【0217】
なお、表6で使用したフィルムの詳細について、以下に記載する。
・OPP:三井化学東セロ社製2軸延伸ポリプロピレンフィルム「OPU-1」(厚さ20μm)
・PE:フタムラ化学株式会社性ポリエチレンフィルム「PE3M」(厚さ25μm)
・PET:フタムラ社製ポリエチレンテレフタレートフィルム「FE2001」(厚さ12μm)
・VMCPP:東レ社製アルミ蒸着ポリプロピレンフィルム「2203」(厚さ25μm)
・アルミナ蒸着PP:凸版印刷社製アルミナ蒸着ポリプロピレンフィルム「GL-LP」
・アルミナ蒸着PET:東レ製アルミナ蒸着ポリエステルフィルム「バリアロックス1011HG」
・シリカ蒸着PP:凸版印刷社製シリカ蒸着ポリプロピレンフィルム「GL-BP」
・シリカ蒸着PET:三菱ケミカル社製シリカ蒸着ポリエステルフィルム「テックバリアTX」
・二元蒸着PET:東洋紡社製シリカ/アルミナ蒸着ポリエステルフィルム「エコシアールVE100」
なお、後述する比較例1~3では、「蒸着フィルム(V)」として、上記VMCPP、OPP、及び、PPを使用しているが、これらはいずれも、シリカ及び/またはアルミナの蒸着層を含む蒸着フィルムではない。
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
【0225】
表6には、グレースケール印刷物作成時の、印刷直後のフィルム上の水性インクジェットインキの量;作製直後のインキ層(III)に含まれる、シロキサン系表面調整剤及び/またはアセチレンジオール系表面調整剤の量;単位面積当たりの接着剤組成物の塗布量;接着剤層(IV)に含まれる芳香族イソシアネート化合物の含有量;接着剤層前駆体と重ね合わせたフィルムの種類;及び、積層体となった際に接着剤層(IV)と接触している上記フィルムの面につても、併せて記載した。
【0226】
[実施例1~62、比較例1~6]
上記で製造した積層体について、以下に示す評価を行った。またその評価結果は、上表6に示した通りであった。
【0227】
<評価1:層間剥離・凝集破壊の評価>
直径15cmの円筒形のガラス容器内に95%エタノールを100mL加え、更に、グレースケール印刷物を用いて作製した積層体を、非浸透性基材(I)側が下側かつ上記95%エタノールに接触するように設置し、60℃、80%RHの環境下に10日間静置した。その後、上記95%エタノールと接触していた部分を、長さ100mm、幅15mmの大きさに切り取り、テストピースとした。このテストピースを、インストロン型引張試験機内に設置し、25℃の環境下、かつ、300mm/分の剥離速度で引張ることで、非浸透性基材(I)/蒸着フィルム(V)間の接着力を、T型剥離強度(N)として測定した。そして、以上の試験を5回行い、その平均値を求め、層間剥離・凝集破壊の評価とした。なお、上記剥離強度の値が大きいほど、層間剥離及び凝集破壊が起きにくいことを表す。評価基準は以下の通りとし、3以上を実使用可能領域とした。
5:接着力1.5N以上
4:接着力1.0N以上、1.5N未満
3:接着力0.6N以上、1.0N未満
2:接着力0.3N以上、0.6N未満
1:接着力0.3N未満
【0228】
<評価2:折り曲げ後の層間剥離・凝集破壊の評価>
グレースケール印刷物を用いて作製した積層体を、ゲルボフレックス試験機(BE-1005、テスター産業株式会社製)を用いて、ストローク155mm、屈曲動作440°/90mm、屈曲速度40cpmの条件、かつ、25℃、80%RHの環境下にて10往復屈曲させた後、評価1と同様の手順により、非浸透性基材(I)/蒸着フィルム(V)間のT型剥離強度(N)を測定した。この試験を5回行い、その平均値を求めることで、折り曲げ後の層間剥離・凝集破壊の評価を行った。評価基準及び実使用可能領域の判定基準は、評価1と同様とした。
【0229】
<評価3:ガスバリア性(水蒸気透過度)の評価>
直径15cmの円筒形のガラス容器内に無水塩化カルシウムを15g加え、更に当該ガラス容器の口部を覆うように、グレースケール印刷物を用いて作製した積層体を、非浸透性基材(I)側が下側を向くように設置した。次いで、上記口部の周縁部を完全に密閉したのち、密閉後のガラス容器を、40℃、90%RHの環境下に10日間静置した。そして、静置開始時、及び、当該静置開始から一日ごとに、上記ガラス容器の質量を測定し、その増加分から、水蒸気透過度を算出し、ガスバリア性の評価に使用した。評価基準は以下の通りとし、3以上を実使用可能領域とした。
5:水蒸気透過度が2g/m2・day未満
4:水蒸気透過度が2g/m2・day以上、5g/m2・day未満
3:水蒸気透過度が5g/m2・day以上、10g/m2・day未満
2:水蒸気透過度が10g/m2・day以上、30g/m2・day未満
1:水蒸気透過度が30g/m2・day以上
【0230】
<評価4:折り曲げ後のガスバリア性(水蒸気透過度)の評価>
グレースケール印刷物を用いて作製した積層体を、ゲルボフレックス試験機(BE-1005、テスター産業株式会社製)を用いて、ストローク155mm、屈曲動作440°/90mm、屈曲速度40cpmの条件、かつ、25℃、80%RHの環境下にて10往復屈曲させた後、評価3と同様の手順により、折り曲げ後のガスバリア性の評価を行った。評価基準及び実使用可能領域の判定基準は、評価3と同様とした。
【0231】
<評価5:色ムラ・混色滲みの評価>
ベタ印刷物を用いて作製した積層体の色ムラの程度を、非浸透性基材(I)側から目視で観察することで、色ムラ及び混色滲みの評価を行った。評価基準は以下の通りとし、2以上を実使用可能領域とした。なお表6には、印刷を行った色のうち、最も悪かった色の結果のみを示した。
4:目視及び光学顕微鏡50倍で観察し、ベタ部の色ムラが見られなかった
3:目視で色ムラが見られないが、光学顕微鏡50倍で観察するとわずかに色ムラが見られた
2:目視でわずかに色ムラが見られた
1:目視で明らかな色ムラが見られた
【0232】
<評価6:鮮明・視認性の評価>
文字印刷物を用いて作製した積層体を、非浸透性基材(I)側から目視で観察することで、鮮明・視認性の評価を行った。評価基準は以下の通りとし、3以上を実使用可能領域とした。なお表6には、印刷を行った色のうち、最も悪かった色の結果のみを示した。
5:4ポイント、6ポイント、8ポイントのいずれの文字も鮮明で、明瞭に判読できた。
4:4ポイントの文字がやや鮮明性に劣るものの十分に判読でき、また6ポイント及び8ポイントの文字は鮮明で、明瞭に判読できた。
3:4ポイントの文字は鮮明性に劣り判読できなかった。また6ポイントの文字はやや鮮明性に劣るものの、十分に判読でき、8ポイントの文字は鮮明で、明瞭に判読できた。
2:4ポイント及び6ポイントの文字は鮮明性に劣り判読できなかった。一方8ポイントの文字は鮮明性に劣るものの、判読できるレベルであった。
1:4ポイント、6ポイント及び8ポイントの文字を鮮明性に劣り判読できなかった。
【0233】
実施例1~62で評価を行った積層体は、上述した本願発明の構成を有するため、評価を行った項目の全てが実用可能領域であった。
【0234】
[実施例63~93]
上記実施例1、16~37、50、54、56、58~62で製造した積層体に関しては、以下方法により、リサイクル性(積層体からの非浸透性基材(I)の分離性)についても評価を行った。またその評価結果は、下表7に示した通りであった。
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
<評価7:リサイクル性の評価>
積層体を4cm×4cm角に切り出したのち、2質量%の水酸化ナトリウム水溶液50gに浸し、70℃に加温したのち所定時間攪拌した。その後、水酸化ナトリウム水溶液から積層体を取り出し、水洗及び乾燥した後、非浸透性基材(I)がどの程度分離したかを目視で確認することで、リサイクル性を評価した。評価基準は下記の通りとし、2以上を実使用上可能領域とした。
4:20分間攪拌することで、非浸透性基材(I)が80%以上分離した
3:60分間攪拌することで、非浸透性基材(I)が80%以上分離した
2:180分間攪拌することで、非浸透性基材(I)が80%以上分離した
1:180分間攪拌しても、非浸透性基材(I)の分離率は80%未満であった