(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/06 20060101AFI20240731BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20240731BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240731BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240731BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C08L9/06
C08L25/08
C08K3/013
C08K3/04
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019162887
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-08-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】土方 健介
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508815(JP,A)
【文献】特開2006-124601(JP,A)
【文献】特開2001-098036(JP,A)
【文献】特開2018-095702(JP,A)
【文献】特開2006-232922(JP,A)
【文献】特開2016-175968(JP,A)
【文献】国際公開第2019/115954(WO,A1)
【文献】特開昭59-164312(JP,A)
【文献】特開2014-205804(JP,A)
【文献】特開2019-112598(JP,A)
【文献】特開2019-052222(JP,A)
【文献】特開2019-104780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
スチレン-ブタジエン共重合体ゴム100質量部からなり、かつ重量平均分子量が20,000を超えるジエン系ゴム100質量部に対し、(B)スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂(ただし、60%から90%のピペリレンと、5%から15%の環状化合物と、5%から20%のスチレン系化合物とを含む炭化水素ポリマー添加剤を含むものは除く)を3~80質量部配合してなり、(D)重量平均分子量2,000~20,000でありかつガラス転移温度が-40℃以上の芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを5~65質量部配合してなり、さらに、(C)窒素吸着比表面積(N
2SA)が100~500m
2/gであるカーボンブラックを50~200質量部配合してなる
ことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムは、スチレン量が30質量%以上のスチレン-ブタジエン共重合体を含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、ドライグリップ性能および操縦安定性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイパフォーマンスタイヤは、とくにドライグリップ性能が重視されている。そのため、高比表面積のフィラーや高軟化点樹脂の多量配合がなされている。しかし、高比表面積のフィラーを多量配合すると、破断強度が悪化し、耐摩耗性が悪化してしまう。一方、高軟化点樹脂を多量配合すると、操縦安定性が悪化し、また耐摩耗性が悪化するという問題点がある。
【0003】
下記特許文献1には、スチレン-ブタジエン共重合体と、カーボンブラックと、スチレン、エチレンおよびジシクロペンタジエンの各単位を含む樹脂とを含有するゴム組成物が開示されている。しかし、該ゴム組成物は、下記で説明するスチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂を使用するものではないため、ドライグリップ性能、操縦安定性および耐摩耗性を同時に改善することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、ドライグリップ性能および操縦安定性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに対し、スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂を特定量でもって配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
1.(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、(B)スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂を3~80質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
2.前記ジエン系ゴム100質量部に対し、さらに、(C)窒素吸着比表面積(N2SA)が100~500m2/gであるカーボンブラックを50~200質量部配合してなることを特徴とする前記1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
3.前記ジエン系ゴムは、スチレン量が30質量%以上のスチレン-ブタジエン共重合体を含むことを特徴とする前記1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
4.前記ジエン系ゴム100質量部に対し、さらに、(D)ガラス転移温度が-40℃以上の芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを5~65質量部配合してなることを特徴とする前記1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
5.前記1~4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂を3~80質量部配合してなることを特徴としているので、ドライグリップ性能および操縦安定性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れるタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
とくに前記熱可塑性樹脂は、スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合してなるものであり、これらの3つのモノマー成分を同時に使用しない場合や、これらの3つのモノマー成分を共重合させずに単に混合した場合は、本発明の上記効果を奏することができない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(A)ジエン系ゴム
本発明で使用される(A)ジエン系ゴムは、通常のゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらのジエン系ゴムの中でも、本発明の効果の点からジエン系ゴムはSBRが好ましい。SBRは、ジエン系ゴム中、70~100質量%を占めるのが好ましい。
【0011】
またSBRは、スチレン量が30質量%以上であることにより、本発明の効果をさらに高めることができる。その理由は、コンパウンドのガラス転移温度を向上させるためである。該スチレン量は、33~55質量%が好ましい。
【0012】
(B)熱可塑性樹脂
本発明で使用される(B)熱可塑性樹脂は、スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンの共重合物である。
本発明の効果向上の観点から、(B)熱可塑性樹脂は、次の条件の1つ以上を具備するものが好ましい。
(1)該熱可塑性樹脂は、スチレンが5~90モル%、インデンが5~90モル%、ジシクロペンタジエンが5~90モル%の範囲で構成されるのが好ましい。
(2)該熱可塑性樹脂のGPC法による重量平均分子量は、800~3000が好ましく、1000~2500がさらに好ましい。
(3)該熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、60~130℃が好ましく、70~120℃がさらに好ましい。
(4)該熱可塑性樹脂の軟化点は、100~160℃が好ましく、110~150℃がさらに好ましい。
【0013】
本発明で使用される(B)熱可塑性樹脂は、市販されているものを利用することもでき、例えば日本ゼオン株式会社製商品名Quintone2940、JXTGエネルギー株式会社製商品名EP-140等が挙げられる。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、(A)ジエン系ゴム100質量部に対し、(B)スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂を3~80質量部配合してなることを特徴とする。(B)熱可塑性樹脂の配合量が3質量部未満であると配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に80質量部を超えると操縦安定性および耐摩耗性が悪化する。
(B)熱可塑性樹脂の配合量は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、8~75質量部が好ましく、15~65質量部がさらに好ましい。
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ドライグリップ性能が向上するという観点から、(C)窒素吸着比表面積(N2SA)が100~500m2/gであるカーボンブラックを配合するのが好ましい。
該窒素吸着比表面積(N2SA)は、120~450m2/gであるのがさらに好ましい。
また、(C)カーボンブラックの配合量は、前記(A)ジエン系ゴム100質量部に対し50~200質量部が好ましく、70~180質量部であるのがさらに好ましい。
なお窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0016】
また本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ドライグリップ性能をさらに高めるという観点から、(D)ガラス転移温度が-40℃以上の芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを配合するのが好ましい。
(D)芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムは、重量平均分子量が2,000~20,000、スチレン量が20~40質量%およびビニル量が40~70質量%のものが好ましい(以下、低分子量SBRと言うことがある)。なお、前記(A)ジエン系ゴムに含まれるSBRは、通常重量平均分子量が20,000を超えるものであるので、低分子量SBRとは区別される。
低分子量SBRは、市販されているものを利用することができ、例えばCray Valley社製 RICON 100、クラレ(株)製L-SBR 820等が挙げられる。
(D)芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムの配合量は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、5~65質量部が好ましく、15~55質量部がさらに好ましい。
【0017】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0018】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに適しており、トレッド、とくにキャップトレッドに適用するのがよい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0020】
標準例、実施例1~5および比較例1~5
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、ゴムをミキサー外に放出して室温冷却した。次いで、該ゴムを同ミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0021】
tanδ(60℃):JIS K6394に準拠して、(株)東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で60℃におけるtanδを測定した。結果は標準例の値を100として指数表示した。指数が大きいほどドライグリップ性能に優れることを示す。
硬度(20℃):JIS K6253に準拠して20℃にて測定した。結果は、標準例の値を100として指数表示した。指数が大きいほど硬度が高く操縦安定性に優れることを示す。
破断強度:JIS K6251に準拠して、上記加硫ゴム試験片から3号ダンベル状のサンプル片を打ち抜き、500mm/分の引張速度にて引張試験を行い、破断伸び(%)を測定した。結果は標準例の値を100として指数表示した。この指数が大きいほど破断強度に優れ、耐摩耗性に優れることを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0022】
【0023】
*1:SBR-1(ZSエラストマー株式会社製Nipol NS460、スチレン量=25質量%、油展量=SBR100質量部あたり37.5質量部)
*2:SBR-2(ZSエラストマー株式会社製Nipol NS522、スチレン量=39質量%、油展量=SBR100質量部あたり37.5質量部)
*3:カーボンブラック-1(キャボットジャパン社製ショウブラックN339、N2SA=94m2/g)
*4:カーボンブラック-2(東海カーボン株式会社製シースト9、N2SA=142m2/g)
*5:樹脂-1(JXTGエネルギー株式会社製ネオポリマー140S、C9樹脂(スチレンおよびインデンを含むが、ジシクロペンタジエン(DCPD)を含まない))
*6:樹脂-2(三井化学株式会社製FTR2140、C9樹脂(スチレンを含むが、インデンおよびDCPDを含まない))
*7:樹脂-3(丸善石油化学株式会社製マルカレッツM-890A、DCPD樹脂(DCPDを含むが、スチレンおよびインデンを含まない))
*8:樹脂-4(JXTGエネルギー株式会社製EP-140、C9/DCPD樹脂(スチレン、インデンおよびDCPDを共重合した熱可塑性樹脂))
*9:樹脂-5(日本ゼオン株式会社製Quintone 2940、C9/DCPD樹脂(スチレン、インデンおよびDCPDを共重合した熱可塑性樹脂))
*10:低分子量SBR(Cray Valley社製 RICON 100、重量平均分子量=4,500、スチレン量=25重量%、ビニル量=70質量%、Tg=-15℃)
*11:オイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S)
*12:ステアリン酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸YR)
*13:酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種)
*14:老化防止剤(フレキシス社製6PPD)
*15:加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーCZ-G)
*16:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*17:樹脂-6(東ソー社製商品名ペトロタック100V、DCPDを含まない、C5/C9樹脂共重合体)
【0024】
表1の結果から、実施例1~5のゴム組成物は、ジエン系ゴムに対し、スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂を特定量でもって配合したので、標準例に比べて、ドライグリップ性能、操縦安定性および耐摩耗性が同時に向上していることが分かる。
これに対し、比較例1はC9樹脂(スチレンを含むが、インデンおよびDCPDを含まない)を使用した例であるので、操縦安定性および耐摩耗性が悪化した。
比較例2は、DCPD樹脂(DCPDを含むが、スチレンおよびインデンを含まない)を使用した例であるので、操縦安定性および耐摩耗性が悪化した。
比較例3は、樹脂-1であるC9樹脂(スチレンおよびインデンを含むが、DCPDを含まない)と、樹脂-3であるDCPD樹脂(DCPDを含むが、スチレンおよびインデンを含まない)とを単に混合した例であるので、操縦安定性および耐摩耗性が悪化した。
比較例4は、スチレン、インデンおよびジシクロペンタジエンを共重合した熱可塑性樹脂の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、操縦安定性および耐摩耗性が悪化した。
比較例5は、DCPDを含まない、C5/C9樹脂共重合体を配合した例であるので、操縦安定性及び耐摩耗性が悪化した。