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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】冷媒輸送用ホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20240731BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240731BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240731BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240731BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20240731BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240731BHJP
   B32B 3/10 20060101ALI20240731BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
F16L11/08 B
C08L101/00
C08L101/12
C08K5/053
C08K5/16
B32B1/08 Z
B32B3/10
B32B27/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020014203
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120584
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】若林 健太
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189129(JP,A)
【文献】特開2013-228081(JP,A)
【文献】特開2010-184403(JP,A)
【文献】特開平06-294485(JP,A)
【文献】特開平06-294484(JP,A)
【文献】特開2007-032725(JP,A)
【文献】特開2007-009171(JP,A)
【文献】特開2014-095093(JP,A)
【文献】特開2006-063280(JP,A)
【文献】特開2002-212342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
C08L 101/00
C08L 101/12
C08K 5/053
C08K 5/16
B32B 1/08
B32B 3/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と補強層と外層とからなる冷媒輸送用ホースであって、外層が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Aを含み、内層が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Bを含み、熱可塑性樹脂組成物Aの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数が2.3~10.0g・mm/(m ・24h)であり、熱可塑性樹脂組成物Bの温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.0006~0.0500cm ・mm/(m ・day・mmHg)であり、冷媒輸送用ホースの水蒸気透過量が1.2~6.0mg/(240h・cm であり、冷媒輸送用ホースのフロンHFO-1234yf透過量が8~163g/(m ・72h)であり、冷媒輸送用ホースの外表面積1mあたりの質量が801~3204g/m である、冷媒輸送用ホース。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物Aの温度25℃における10%モジュラスが5.9~9.4MPaであり、熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における10%モジュラスが3.9~9.6MPaである、請求項1に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bがドメインを50体積%以上含む、請求項1または2に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物Aの温度25℃における破断伸びが350~541%、破断強度が15.1~52.7MPaであり、温度150℃における破断伸びが111~400%、破断強度が3.6~8.1MPaであり、熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における破断伸びが114~502%、破断強度が10.4~52.7MPaであり、温度150℃における破断伸びが111~290%、破断強度が3.3~9.0MPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物Aの水蒸気透過係数が熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数よりも小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項6】
加硫工程が必要なゴム層を含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bが150℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項8】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスに含まれる熱可塑性樹脂がポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコールおよびポリケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bのドメインに含まれるエラストマーがオレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項9】
熱可塑性樹脂組成物Aがマトリックスにナイロン12を、ドメインに変性ブチルゴムを含み、熱可塑性樹脂組成物Bがマトリックスにナイロン6を、ドメインに変性ブチルゴムを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【請求項10】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bが、フェニレンジアミン系もしくはキノリン系老化防止剤またはトリアジン骨格を有する3価のアルコール、少なくとも1種の加工助剤、および少なくとも1種の粘度安定剤を含み、粘度安定剤の50質量%以上がマトリックスに含まれる、請求項1~9のいずれか1項に記載の冷媒輸送用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷媒輸送用ホースに関する。本発明は、特に、自動車のエアコンディショナーの冷媒輸送用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化要求が高まる中、これまで自動車に使われていたゴム製のホースを、ゴムに代えてバリア性の高い樹脂で作製し、薄肉化することにより、軽量化を実現しようとする取り組みがある。特に、現行の自動車のエアコンディショナーの冷媒輸送用ホースは主材料がゴムであり、その主原料をバリア性の高い樹脂で置き換えることができれば、軽量化が実現できる。
【0003】
たとえば、特開平3-51594号公報(特許文献1)には、内管、補強層および外管からなるホースにおいて、内管をポリアミド樹脂よりなる内層と、ポリアミド樹脂を連続相とする熱可塑性エラストマーよりなる外層から構成したことを特徴とする冷媒用ホースが記載され、さらに外管にオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いた例も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-51594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車等のエアーコンディショナーに用いられる冷媒輸送用ホースにおいて、ホース外側からの水蒸気の透過は、エアーコンディショナー内部での水分の凍結を生じる原因となるため、水蒸気の低透過性に優れる材料が必要とされるが、オレフィン系熱可塑性エラストマーは水蒸気の低透過性が十分ではない。
本発明は、低ガス透過性および低水蒸気透過性に優れ、柔軟かつ軽量な冷媒輸送用ホースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内層と補強層と外層とからなる冷媒輸送用ホースであって、外層が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Aを含み、内層が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Bを含み、熱可塑性樹脂組成物Aの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数が10.0g・mm/(m・24h)以下であり、熱可塑性樹脂組成物Bの温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.05cm・mm/(m・day・mmHg)以下であり、冷媒輸送用ホースの水蒸気透過量が6.0mg/(240h・cm)以下であり、冷媒輸送用ホースのフロンHFO-1234yf透過量が170g/(m・72h)以下であり、冷媒輸送用ホースの外表面積1mあたりの質量が3000g/m以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]内層と補強層と外層とからなる冷媒輸送用ホースであって、外層が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Aを含み、内層が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物Bを含み、熱可塑性樹脂組成物Aの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数が10.0g・mm/(m・24h)以下であり、熱可塑性樹脂組成物Bの温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数が0.05cm・mm/(m・day・mmHg)以下であり、冷媒輸送用ホースの水蒸気透過量が6.0mg/(240h・cm)以下であり、冷媒輸送用ホースのフロンHFO-1234yf透過量が170g/(m・72h)以下であり、冷媒輸送用ホースの外表面積1mあたりの質量が3000g/m以下である、冷媒輸送用ホース。
[2]熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における10%モジュラスが10.0MPa以下である、[1]に記載の冷媒輸送用ホース。
[3]熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bがドメインを50体積%以上含む、[1]または[2]に記載の冷媒輸送用ホース。
[4]熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における破断伸びが100%以上、破断強度が10MPa以上であり、温度150℃における破断伸びが100%以上、破断強度が3MPa以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
[5]熱可塑性樹脂組成物Aの水蒸気透過係数が熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数よりも小さい、[1]~[4]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
[6]加硫工程が必要なゴム層を含まない、[1]~[5]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
[7]熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bが150℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
[8]熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスに含まれる熱可塑性樹脂がポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコールおよびポリケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bのドメインに含まれるエラストマーがオレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
[9]熱可塑性樹脂組成物Aがマトリックスにナイロン12を、ドメインに変性ブチルゴムを含み、熱可塑性樹脂組成物Bがマトリックスにナイロン6を、ドメインに変性ブチルゴムを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
[10]熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bが、フェニレンジアミン系もしくはキノリン系老化防止剤またはトリアジン骨格を有する3価のアルコール、少なくとも1種の加工助剤、および少なくとも1種の粘度安定剤を含み、粘度安定剤の50質量%以上がマトリックスに含まれる、[1]~[9]のいずれかに記載の冷媒輸送用ホース。
【発明の効果】
【0008】
本発明の冷媒輸送用ホースは、低ガス透過性および低水蒸気透過性に優れ、柔軟かつ軽量である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、冷媒輸送用ホースに関する。冷媒輸送用ホースとは、エアコンディショナー等の冷媒を輸送するためのホースをいう。本発明の冷媒輸送用ホースは、特に、自動車のエアコンディショナーの冷媒を輸送するためのホースに好適に用いられる。エアコンディショナーの冷媒としてはハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、炭化水素、二酸化炭素、アンモニアなどを挙げることができ、HFCとしてはR410A、R32、R404A、R407C、R507A、R134aなどが挙げられ、HFOとしてはR1234yf、R1234ze、1233zd、R1123、R1224yd、R1336mzzなどが挙げられ、炭化水素としてはメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、イソブタン、ヘキサフルオロプロパン、ペンタンなどが挙げられる。
【0010】
冷媒輸送用ホースは、内層と補強層と外層とからなる。
外層は熱可塑性樹脂組成物Aを含む。熱可塑性樹脂組成物Aはマトリックスとドメインとからなる海島構造を有する。マトリックスは熱可塑性樹脂を含む。ドメインはエラストマーを含む。
内層は熱可塑性樹脂組成物Bを含む。熱可塑性樹脂組成物Bはマトリックスとドメインとからなる海島構造を有する。マトリックスは熱可塑性樹脂を含む。ドメインはエラストマーを含む。
補強層は、限定するものではないが、たとえば編組した繊維の層である。
【0011】
熱可塑性樹脂組成物Aの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数(以下「P(HO)」ともいう。)は、10.0g・mm/(m・24h)以下であり、好ましくは8.0g・mm/(m・24h)以下であり、より好ましくは5.0g・mm/(m・24h)以下である。P(HO)が高すぎると、外気中の湿気が冷媒輸送用ホースの中に浸透し、エアーコンディショナー内部での水分の凍結を生じる原因となる。本発明は、外層を構成する材料に水蒸気を透過しにくい材料を用いることにより、外からの水分の侵入を効果的に遮断する。
【0012】
水蒸気透過係数は次のように定義される。
水蒸気透過係数は規定の温度・湿度条件下で、面積1mあたりで厚さが1mmでの24時間に透過する水蒸気量である。
【0013】
熱可塑性樹脂組成物Bの温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数(以下「P(O)」ともいう。)は、0.05cm・mm/(m・day・mmHg)以下であり、好ましくは0.03cm・mm/(m・day・mmHg)以下であり、より好ましくは0.02cm・mm/(m・day・mmHg)以下である。P(O)が高すぎると、冷媒輸送用ホース中の冷媒がホースを構成する材料中を浸透し、外に漏出しやすくなる。本発明は、内層を構成する材料に酸素透過係数の小さい材料を用いることにより、外への冷媒の漏出を効果的に遮断する。
【0014】
酸素透過係数は次のように定義される。
酸素透過係数は規定の温度・湿度条件下で、圧力1mmHgあたり、面積1mあたりで厚さが1mmでの1日に透過する酸素量である。
【0015】
熱可塑性樹脂組成物Aの温度21℃および相対湿度50%における酸素透過係数(以下「P(O)」ともいう。)は、限定するものではないが、好ましくは0.05cm・mm/(m・day・mmHg)以下であり、より好ましくは0.03cm・mm/(m・day・mmHg)以下であり、さらに好ましくは0.02cm・mm/(m・day・mmHg)以下である。P(O)が前記範囲内にあることにより、内層とともに、外層も冷媒の漏出防止に寄与しうる。
【0016】
熱可塑性樹脂組成物Bの温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数(以下「P(HO)」ともいう。)は、限定するものではないが、好ましくは10.0g・mm/(m・24h)以下であり、より好ましくは8.0g・mm/(m・24h)以下であり、さらに好ましくは5.0g・mm/(m・24h)以下である。P(HO)が前記範囲内にあることにより、外層とともに、内層も水分の侵入防止に寄与しうる。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物Aの水蒸気透過係数は熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数よりも小さいことが好ましい。外層に水蒸気バリア層を配置することにより、内層のガスバリア層の物性低下を防ぐことができる。
熱可塑性樹脂組成物Bの酸素透過係数は熱可塑性樹脂組成物Aの酸素透過係数よりも小さいことが好ましい。冷媒輸送用ホース中の冷媒がホースを構成する材料中を浸透し、外に漏出するのを防止するためには、外層よりも内層に酸素透過係数の小さい材料を用いることが効果的である。
【0018】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における10%モジュラス(以下「M10」ともいう。)は、好ましくは10.0MPa以下であり、好ましくは9.4MPa以下であり、より好ましくは6.0MPa以下である。M10が前記範囲内にあることにより、柔軟な冷媒輸送用ホースを実現できる。本発明は、冷媒輸送用ホースの外層および内層の材料として、一般的な熱可塑性樹脂ではなく、海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、冷媒輸送用ホースの柔軟性を実現したものである。
【0019】
10%モジュラスは次のように定義される。
10%モジュラスは、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に準拠して測定することができ、柔軟性の指標となる。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物BのM10は、熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bに含まれるエラストマーの含有量(換言すればドメインの体積比率)を変えることにより制御することができる。
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは、好ましくは、ドメインを50体積%以上含む。熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物B中のドメインの割合は、より好ましくは50~80体積%であり、さらに好ましくは65~75体積%である。ドメインの割合が前記範囲内にあることにより、低ガス透過性を維持しつつ柔軟な冷媒輸送用ホースを実現することができる。冷媒輸送用ホースの外層および内層の材料として、一般的な熱可塑性樹脂ではなく、海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物を用い、かつ島(ドメイン)の体積比率を高くすることにより、低ガス透過性を維持しつつ冷媒輸送用ホースの柔軟性を向上することができる。
【0021】
本発明は、内層と補強層と外層とからなる冷媒輸送用ホースにおいて、内層に低ガス透過性と柔軟性と海島構造を有する熱可塑性エラストマーを使用し、外層に低水蒸気透過性と柔軟性と海島構造を有する熱可塑性エラストマーを使用することにより、低ガス透過性および低水蒸気透過性に優れ、柔軟かつ軽量な冷媒輸送用ホースを実現したものである。
【0022】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における破断伸びは、好ましくは100%以上であり、より好ましくは150%以上であり、さらに好ましくは300%以上である。
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における破断強度は、好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは12MPa以上であり、さらに好ましくは15MPa以上である。
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度150℃における破断伸びは、好ましくは100%以上であり、より好ましくは150%以上であり、さらに好ましくは200%以上である。
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度150℃における破断強度は、好ましくは3MPa以上であり、より好ましくは4MPa以上であり、さらに好ましくは5MPa以上である。
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bの温度25℃における破断伸びおよび破断強度ならびに温度150℃における破断伸びおよび破断強度が前記範囲内にあることにより、冷媒輸送用ホースの耐熱性および耐熱老化性が向上する。
【0023】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは150℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。換言すれば、熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂が150℃以上の融点を有すること、熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスが複数の熱可塑性樹脂を含む場合には、複数の熱可塑性樹脂のうちの少なくとも1種が150℃以上の融点を有することが好ましい。150℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂を含むことにより、冷媒輸送用ホースの耐熱性が向上する。熱可塑性樹脂の融点は、より好ましくは155~250℃であり、さらに好ましくは170~235℃である。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物Aのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂組成物Aの水蒸気透過係数および10%モジュラスが前記範囲内にある限り限定されないが、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコールおよびポリケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数および10%モジュラスが前記範囲内にある限り限定されないが、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコールおよびポリケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0026】
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンMXD6などが挙げられるが、なかでもナイロン6が好ましい。
【0027】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられるが、なかでもポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0028】
ポリビニルアルコールとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、なかでもエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0029】
ポリケトンとしては、ケトン-エチレンコポリマー、ケトン-エチレン-プロピレンターポリマーなどが挙げられるが、好ましくはケトン-エチレン-プロピレンターポリマーである。
【0030】
熱可塑性樹脂組成物Aのドメインを構成するエラストマーは、熱可塑性樹脂組成物Aの水蒸気透過係数および10%モジュラスが前記範囲内にある限り限定されないが、好ましくは、オレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物Bのドメインを構成するエラストマーは、熱可塑性樹脂組成物Bの水蒸気透過係数および10%モジュラスが前記範囲内にある限り限定されないが、好ましくは、オレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0032】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などが挙げられるが、なかでも無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましい。
【0033】
ブチル系エラストマーとしては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴム、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体などが挙げられるが、なかでもハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂組成物Aのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂として、ポリアミドを使用する場合は、アミド基濃度が3.0~8.0mmol/gのポリアミドを使用することが好ましい。アミド基濃度が3.0~8.0mmol/gのポリアミドとしては、ナイロン12などが挙げられる。
熱可塑性樹脂組成物Bのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂として、ポリアミドを使用する場合は、アミド基濃度が4.0~10.0mmol/gのポリアミドを使用することが好ましい。アミド基濃度が4.0~10.0mmol/gのポリアミドとしては、ナイロン6などが挙げられる。
ここで、アミド基濃度は、構成成分であるアミノ酸やラクタム、ジアミン、ジカルボン酸の残基の構造式を、通常の分析方法により特定し、その分子量を算出し、次式により表される。
アミド基濃度(mol/g)=(構造単位のアミド基数/構造単位の分子量)
上式において、構造単位の分子量とは、ポリアミドを構成する繰り返し構造単位の分子量を指す。アミノ酸を構成成分とするポリアミドの場合は、構造単位の分子量は、アミノ酸の分子量から水分子1つ分の分子量を差し引いた値に等しい。ラクタムを構成成分とするポリアミドの場合は、構造単位の分子量は、ラクタムの分子量に等しい。ジアミンとジカルボン酸の残基を構成成分とするポリアミドの場合は、構造単位の分子量は、ジカルボン酸の分子量とジアミンの分子量の和から水分子2つ分の分子量を差し引いた値に等しい。
【0035】
熱可塑性樹脂組成物Aは、もっとも好ましくは、マトリックスにナイロン12を、ドメインに変性ブチルゴムを含む。なお、変性ブチルゴムとは、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合ゴムをいう。ナイロン12のマトリックスと変性ブチルゴムのドメインからなる熱可塑性樹脂組成物を外層に用いることにより、低水蒸気透過性かつ柔軟性があるという利点がある。
熱可塑性樹脂組成物Bは、もっとも好ましくは、マトリックスにナイロン6を、ドメインに変性ブチルゴムを含む。ナイロン6のマトリックスと変性ブチルゴムのドメインからなる熱可塑性樹脂組成物を内層に用いることにより、低ガス透過性かつ柔軟性があるという利点がある。
【0036】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは、好ましくは、フェニレンジアミン系もしくはキノリン系老化防止剤またはトリアジン骨格を有する3価のアルコールを含む。フェニレンジアミン系もしくはキノリン系老化防止剤またはトリアジン骨格を有する3価のアルコールを含むことにより、オレフィン系エラストマーおよびブチル系エラストマーの架橋に寄与することにより、加工性改善につながる。
フェニレンジアミン系老化防止剤とは、二級アミンを置換基として2つ有する芳香族環を分子構造に持つ老化防止剤をいうが、好ましくは、N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンおよびN,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはN-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンである。
キノリン系老化防止剤とは、キノリン骨格を分子構造に持つ老化防止剤をいうが、好ましくは、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体である。
トリアジン骨格を有する3価のアルコールは、特に限定するものではないが、好ましくは、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである。
フェニレンジアミン系老化防止剤またはキノリン系老化防止剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物の合計を100質量部を基準として、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.1~5.0質量部である。
トリアジン骨格を有する3価のアルコールの配合量は、熱可塑性樹脂組成物の合計100質量部を基準として、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.1~5.0質量部である。
【0037】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは、好ましくは、少なくとも1種の加工助剤を含む。加工助剤は、粘度安定剤とともに、熱可塑性樹脂組成物の押出加工性の改善に寄与する。
加工助剤は、特に限定するものではないが、好ましくは、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドから選ばれる少なくとも1種である。
脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられるが、好ましくはステアリン酸である。
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウムなどが挙げられるが、好ましくはステアリン酸カルシウムである。
脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノステアレート、ソルビタンステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールジステアレートなどが挙げられる。
脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸モノアミド、オレイン酸モノアミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。
加工助剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、好ましくは0.2~10質量%であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。
【0038】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは、好ましくは、少なくとも1種の粘度安定剤を含む。粘度安定剤を含むことにより、熱可塑性樹脂組成物を押出成形する際に粘度の上昇が抑えられ、滞留物発生を効果的に減らすことができるので、加工性が良好になる。
粘度安定剤としては、2価金属酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩などが挙げられる。
2価金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化カルシウム、酸化鉄などが挙げられるが、好ましくは酸化亜鉛または酸化マグネシウムであり、より好ましくは酸化亜鉛である。
アンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、アルキルアンモニウムなどが挙げられる。
カルボン酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸亜鉛、酢酸銅、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸鉄などが挙げられる。
粘度安定剤は、もっとも好ましくは酸化亜鉛である。
粘度安定剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは0.5~20質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。
粘度安定剤の50質量%以上がマトリックスに含まれることが好ましい。粘度安定剤の50質量%以上がマトリックスに含まれることにより、熱可塑性樹脂組成物を押出成形する際に粘度の上昇が抑えられ、滞留物発生を効果的に減らすことができるので、加工性が良好になる。
【0039】
熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは、前記した成分以外に、種々の添加剤を含むことができる。
【0040】
冷媒輸送用ホースの水蒸気透過量は、6.0mg/(240h・cm)以下であり、好ましくは3mg/(240h・cm)以下であり、より好ましくは2.0mg/(240h・cm)以下である。水蒸気透過量が多すぎると、外気中の湿気が冷媒輸送用ホースの中に浸透し、エアーコンディショナー内部での水分の凍結を生じる原因となる。
【0041】
ホースの水蒸気透過量は次のように定義される。
ホースの水蒸気透過量は規定の温度・湿度条件下で外表面積1cmあたりの240時間の水蒸気透過量である。
【0042】
冷媒輸送用ホースのフロンHFO-1234yf透過量(以下単に「フロン透過量」ともいう。)は、170g/(m・72h)以下であり、好ましくは120g/(m・72h)以下であり、より好ましくは20g/(m・72h)以下である。フロン透過量が多すぎると、冷媒輸送用ホース中の冷媒がホースを構成する材料中を浸透し、外に漏出しやすくなる。
【0043】
ホースのフロン透過量は次のように定義される。
ホースのフロン透過量は規定の温度・湿度条件下で外表面積1mあたりの72時間のフロン透過量である。
【0044】
冷媒輸送用ホースの外表面積1mあたりの質量は、3000g/m以下であり、好ましくは2000g/m以下であり、より好ましくは1700g/m以下である。冷媒輸送用ホースの外表面積1mあたりの質量が前記範囲内にあることにより、自動車の軽量化要求に応えることができる。本発明は、冷媒輸送用ホースの外層の材料を、ゴムに代えて、海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物にすることにより、冷媒輸送用ホースの軽量化を実現したものである。
【0045】
冷媒輸送用ホースは、好ましくは、加硫工程が必要なゴム層を含まない。加硫工程が必要なゴム層を含まないことにより、加硫工程なしのホース製造が可能となり、冷媒輸送用ホースの製造の手間および費用を下げることができる。
【0046】
冷媒輸送用ホースの内層の厚さは、好ましくは0.05~2mmであり、より好ましくは0.1~1.8mmであり、さらに好ましくは0.1~1.5mmである。
冷媒輸送用ホースの外層の厚さは、好ましくは0.05~2mmであり、より好ましくは0.1~1.8mmであり、さらに好ましくは0.1~0.8mmである。
冷媒輸送用ホースの内層および外層の厚さが前記範囲内にあることにより、低ガス透過性と低水蒸気透過性と軽量化が両立できる。
【0047】
冷媒輸送用ホースは、好ましくは、内層と補強層の間におよび/または補強層と外層の間に接着層を含むことができる。接着層はウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、変性シリコン系接着剤、酸変性ポリオレフィン系接着剤などの接着剤で形成することができる。
【0048】
冷媒輸送用ホースの製造方法は、特に限定されないが、次のようにして製造することができる。まず内層を押出成形によりチューブ状に押出し、次いでそのチューブ上に補強層となる繊維を編組し、さらにその繊維上に外層を押出成形により被覆することで製造することができる。
【実施例
【0049】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
(熱可塑性樹脂)
ナイロン11: アルケマ社製ナイロン11「RILSAN」(登録商標)BESNO TL、融点187℃
ナイロン6: 宇部興産株式会社製ナイロン6「UBEナイロン」1011FB、融点225℃
ナイロン6/12: 宇部興産株式会社製ナイロン6/12共重合体「UBEナイロン」7024B、融点201℃
ナイロン6/66: 宇部興産株式会社製ナイロン6/66共重合体「UBEナイロン」5023B、融点195℃
ナイロン12: 宇部興産株式会社製ナイロン12「UBESTA」(登録商標)3012U、融点176℃
EVOH: 日本合成化学工業株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン量48%)「ソアノール」(登録商標)H4815、融点158℃
PBT: 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリブチレンテレフタレート「ノバデュラン」(登録商標)5010R、融点224℃
(エラストマー)
ブチル系ゴム: エクソンモービル・ケミカル社製臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体ゴム「EXXPRO」(登録商標)3745
オレフィン系ゴム: 三井化学株式会社製マレイン酸変性α-オレフィン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7020
TPEE: 東レ・デュポン株式会社製ポリエステル系熱可塑性エラストマー「ハイトレル」(登録商標)SB754
(粘度安定剤)
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製酸化亜鉛3種
(加工助剤)
ステアリン酸: 千葉脂肪酸株式会社製工業用ステアリン酸
ステアリン酸カルシウム: 堺化学工業株式会社製ステアリン酸カルシウムSC-PG
(老化防止剤)
フェニレンジアミン系老化防止剤: Solutia社製N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン「SANTOFLEX」(登録商標)6PPD
【0050】
[実施例1~16]
表1~表3に示す熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bは次の方法にて調製した。まず、ハロゲン化ブチルゴムをゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。次いで、熱可塑性樹脂と酸化亜鉛を酸化亜鉛含有量が50質量%となるように混合し、粘度安定剤マスターバッチを作製した。このとき複数の熱可塑性樹脂を用いる配合においては、配合量の多いものでマスターバッチを作製した。次に、各原料を、表1~表3に示す配合比率で、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に投入し、235℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。このとき粘度安定剤(酸化亜鉛)はマスターバッチで所望の配合量になるように添加した。一旦熱可塑性樹脂とマスターバッチ化して添加することで、粘度安定剤はマトリックスに存在する。
得られた熱可塑性樹脂組成物Aおよび熱可塑性樹脂組成物Bについて、水蒸気透過係数、酸素透過係数および10%モジュラスを測定した。測定結果を表1~表3に示す。
予め離型剤を塗布したマンドレル上に、熱可塑性樹脂組成物Bを、押出機により表1~表3に示す厚さのチューブ状に押出した。その上に編組機を使用してポリエステルの補強糸を編組し、その上に、熱可塑性樹脂組成物Aを押出機により表1~表3に示す厚さのチューブ状に押出して、マンドレルを抜き取ることで、内層/補強層/外層からなるホースを作製した。作製したホースについて、水蒸気透過量、フロン透過量および外表面積1mあたりの質量を測定した。測定結果を表1~表3に示す。
【0051】
[比較例1]
表4に示す配合にて、バンバリーミキサーにてゴム組成物を調製し、予め離型剤を塗布したマンドレル上に、押出機により肉厚1.9mmのチューブを押出した。これを内層として、その上に編組機を使用してポリエステルの補強糸を編組し、その上に、表5に示す配合にてバンバリーミキサーにて調製したゴム組成物を押出した。その後、160℃で60分間スチーム加硫を行い、マンドレルを抜き取ることで、内層/補強層/外層からなるホースを作製した。
作製したホースについて、水蒸気透過量、フロン透過量および外表面積1mあたりの質量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0052】
[比較例2]
実施例1~16と同様な方法でペレット状の熱可塑性樹脂組成物Bを得た。得られた熱可塑性樹脂組成物Bについて、水蒸気透過係数、酸素透過係数および10%モジュラスを測定した。測定結果を表3に示す。
予め離型剤を塗布したマンドレル上に、熱可塑性樹脂組成物Bを、押出機により表3に示す厚さのチューブ状に押出した。その上に編組機を使用してポリエステルの補強糸を編組し、その上に、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)SB754)を押出機により厚さ0.4mmのチューブ状に押出して、マンドレルを抜き取ることで、内層/補強層/外層からなるホースを作製した。作製したホースについて、水蒸気透過量、フロン透過量および外表面積1mあたりの質量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0053】
[水蒸気透過係数の測定]
熱可塑性樹脂組成物またはゴム組成物の試料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を試料組成物中の最も融点の高いポリマー成分の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの条件で平均厚み0.2mmのシートに成形した。
得られたシートを切り出し、GTRテック株式会社製水蒸気透過試験機を用いて、温度60℃、相対湿度100%で測定した。
【0054】
[酸素透過係数の測定]
水蒸気透過係数の測定において作製したシートを切り出し、MOCON社製OXTRAN1/50を用いて、温度21℃、相対湿度50%で測定した。
【0055】
[10%モジュラス、破断強度および破断伸びの測定]
水蒸気透過係数の測定において作製した平均厚み0.2mmのシートを、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に準拠して、温度25℃、速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から10%伸張時における応力(10%モジュラス)、破断したときの応力(破断強度)、破断したときの伸び(破断伸び)を求めた。
また、高温150℃、速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から破断したときの応力(破断強度)、破断したときの伸び(破断伸び)を求めた。
【0056】
[押出加工性の評価]
調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、Tダイシート成形装置(トミー機械工業株式会社製)を使用して235℃で押出し、金属の冷却ロール上に引き落とし、ピンチロールで引取り、巻取機で巻き取ることにより、熱可塑性樹脂組成物のフィルムを作製した。いずれのフィルムも厚みは100μmとし、問題なく成形できる場合を○、軽微な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生する場合は△、深刻な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生する場合を×として評価した。
【0057】
[ホースの水蒸気透過量の測定]
50℃のオーブンに5時間放置した試料ホースを用い、この試料ホースの内容積の80%に相当する体積の乾燥剤を充填し、密封した。このホースを温度50℃、相対湿度95%の雰囲気下に放置し、120時間後から360時間後の乾燥剤の質量の増加量を測定し、240時間分の質量の増加量を試料ホース外表面積で除して、水分の透過量を示す水分の透過係数[mg/(240h・cm)]を算出した。
【0058】
[ホースのフロン透過量の測定]
JRA規格(日本冷凍空調工業会規格)のJRA2001に準じて測定を行った。長さ0.45mの試料ホースに、ホース内容積1cmあたり0.6±0.1gの冷媒(HFO-1234yf)を封入した。このホースを100℃で96時間放置し、24時間後と96時間後の間の質量の減少量(ガス透過量)を測定し、72時間分の質量の減少量をホース外表面積で除して、フロンガスの透過係数[g/(m・72h)]を算出した。
【0059】
[ホースの外表面積1mあたりの質量の測定]
試料ホースの長さ1mあたりの質量を測定し、外表面積で割ることにより算出した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の冷媒輸送用ホースは、特に、自動車のエアコンディショナーの冷媒を輸送するためのホースに好適に用いられる。