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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20240731BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B60C11/00 F
B60C13/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020067932
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021160699
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】荻田 剛彦
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181990(JP,A)
【文献】特開2002-059711(JP,A)
【文献】特開平11-001103(JP,A)
【文献】特開2015-054618(JP,A)
【文献】特開2019-098983(JP,A)
【文献】特開2017-222243(JP,A)
【文献】特開2017-128267(JP,A)
【文献】特開2013-001333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤサイド部のタイヤサイド面に複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されており、前記凸部の各々が少なくとも2種以上の曲率を有する曲面部から構成され、前記凸部の長手方向がタイヤ周方向に対して傾斜し、
正規内圧を付与した無負荷状態のタイヤ子午断面視で、両接地端間のタイヤプロファイルが、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して20%以上35%以下のタイヤプロファイルに沿った寸法を有する2つのタイヤ外側プロファイルと、前記2つのタイヤ外側プロファイル以外のタイヤ内側プロファイルと、から構成され、前記タイヤ外側プロファイルが、少なくとも4つの異なる形状の曲線から構成され、
トレッドゴム最大厚みが4mm以上12mm以下であり、
前記タイヤ外側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向最内側の曲線の曲率半径が、前記タイヤ内側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向最外側の曲線の曲率半径の0.40倍以上0.60倍以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ外側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向内側から2番目の曲線の曲率半径が、前記タイヤ外側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向最内側の曲線の曲率半径の0.70倍以上0.90倍以下である、請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記タイヤ外側プロファイルを構成する各曲線のタイヤプロファイルに沿った寸法が、トレッド展開幅の2.0%以上5.0%以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記凸部の最大高さが1.0mm以上10.0mm以下である、請求項1からのいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
正規内圧を付与した無負荷状態でのタイヤ最大幅位置におけるタイヤ厚みが2.5mm以上6.5mm以下である、請求項1からのいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
周方向主溝の深さが5.0mm以上10.0mm以下である、請求項1からのいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行時の騒音の発生を低減するとともに、軽量化と、操縦安定性の改善とをバランスよく実現した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に対する騒音規制が厳しくなっており、自動車の走行時に発生する騒音を低減することが要請されている。
【0003】
このような要請に伴い、例えば、特許文献1には、タイヤサイド部のタイヤサイド面にタイヤ周方向に沿って間隔を空けて複数の凸部を設けることによって走行時の空気抵抗の低減効果を向上することができ、上記複数の凸部がタイヤ周方向において特定の高さ変動量又は質量変動量を有する場合に凸部から発生する騒音を低減することができることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-181990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、タイヤサイド部のタイヤサイド面にタイヤ周方向に沿って間隔を空けて複数の凸部を設けると、凸部が加わったことによりタイヤの重量が増加して燃費が低下する。そのため、特許文献1の技術においては、タイヤの軽量化に関して改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両の走行時の騒音(以下、通過騒音(PBN)ともいう。)の発生の低減と、軽量化と、操縦安定性能の改善とをバランス良く実現した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、タイヤサイド部のタイヤサイド面に複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されており、上記凸部の各々が少なくとも2種以上の曲率を有する曲面部から構成され、上記凸部の長手方向がタイヤ周方向に対して傾斜し、正規内圧を付与した無負荷状態のタイヤ子午断面視で、両接地端間のタイヤプロファイルが、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して20%以上35%以下のタイヤプロファイルに沿った寸法を有する2つのタイヤ外側プロファイルと、上記2つのタイヤ外側プロファイル以外のタイヤ内側プロファイルと、から構成され、上記タイヤ外側プロファイルが、少なくとも4つの異なる形状の曲線から構成され、トレッドゴム最大厚みが4mm以上12mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤでは、タイヤサイド部に特定形状の凸部を配置することを前提に、タイヤ外側プロファイルとトレッドゴム厚みについて改良を加えている。その結果、本発明に係る空気入りタイヤによれば、車両の走行時の騒音発生の低減と、軽量化と、操縦安定性能の改善とをバランス良く実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤを示すタイヤ子午断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの側面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る凸部の短手方向に沿った断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る他の例の凸部の短手方向に沿った断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る他の例の凸部の短手方向に沿った断面図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る凸部の側面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの作用の説明図である。
図8図8は、図1に示す本発明の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部を示すタイヤ子午断面図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係るタイヤ最大幅位置におけるタイヤ厚みを説明するためのタイヤ子午断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態(以下に示す、基本形態及び付加的形態1から6)を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。また、当該実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、当該実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。
【0011】
基本形態
以下に、本発明に係る空気入りタイヤについて、その基本形態を説明する。以下の説明において、「タイヤ径方向」とは、空気入りタイヤの回転軸と直交する方向を指し、「タイヤ径方向内側」とは、タイヤ径方向において回転軸に向かう側を指し、「タイヤ径方向外側」とは、タイヤ径方向において回転軸から離れる側を指す。また、「タイヤ周方向」とは、上記回転軸を中心軸とする周り方向を指す。さらに、「タイヤ幅方向」とは、上記回転軸と平行な方向を指し、「タイヤ幅方向内側」とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)に向かう側を指し、「タイヤ幅方向外側」とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から離れる側を指す。なお、「タイヤ赤道面」とは、空気入りタイヤの回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面を指す。「タイヤ赤道線」とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤを示すタイヤ子午断面図である。なお、図1に示す例は、正規リムに組んで正規内圧を付与した無負荷状態を示すものである。
【0013】
ここで、正規リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、又はETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、又はETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。
【0014】
空気入りタイヤ1は、図1に示すように、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4及びビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト7と、ベルト補強層8とを備えている。
【0015】
トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の表面は、空気入りタイヤを装着する車両(図示せず)が走行した際に路面と接触する面であるトレッド表面21として形成されている。同図に示す例では、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向両側において、4本の周方向主溝12、14、16、18によって、5つの陸部22、24、26、28、30が区画形成されている。なお、周方向主溝12、14、16、18の溝幅(図1に示すトレッドプロファイルの基準輪郭線L(溝が無いとした場合の輪郭線)の両端部間のタイヤ幅方向寸法)は、1.0~30.0mmとすることができ、溝深さ(当該基準輪郭線Lから溝底までの最短距離)は5.0~10.0mmとすることができる。
【0016】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出した部位である。さらに、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
【0017】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向にある角度を持って複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。カーカス層6は、少なくとも1層で設けられている。カーカス層のタイヤ径方向内側にインナーライナー(図示せず)が設けられる。
【0018】
ベルト7は、少なくとも2層のベルト層71、72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト層71、72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20°~30°)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルト層71、72は、互いのコードが交差するように配置されている。
【0019】
ベルト補強層8は、ベルト7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5°)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。図1で示すベルト補強層8は、ベルト7のタイヤ幅方向端部を覆うように配置されている。ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、ベルト7全体を覆うように配置された構成、または、例えば2層の補強層を有し、タイヤ径方向内側の補強層がベルト7よりもタイヤ幅方向で大きく形成されてベルト7全体を覆うように配置され、タイヤ径方向外側の補強層がベルト7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成、あるいは、例えば2層の補強層を有し、各補強層がベルト7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成であってもよい。すなわち、ベルト補強層8は、ベルト7の少なくともタイヤ幅方向端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
【0020】
図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤの側面図である。図3図5は、凸部の短手方向に沿った断面図である。図6は、凸部の短手方向の断面図である。
【0021】
以下の説明において、タイヤサイド部Sとは、図1に示すように、トレッド部2の接地端E1、E2からタイヤ幅方向外側であってリムチェックラインRからタイヤ径方向外側の範囲で一様に連続する面をいう。また、接地端E1、E2とは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、かつ正規内圧を充填するとともに正規荷重の70%をかけたとき、空気入りタイヤ1のトレッド部2のトレッド表面21が路面(水平面)と接地する領域において、タイヤ幅方向の両最外端をいい、タイヤ周方向に連続する。また、リムチェックラインRとは、タイヤのリム組みが正常に行われているか否かを確認するためのラインであり、一般には、ビード部5の表側面において、リムフランジよりもタイヤ径方向外側であってリムフランジ近傍となる部分に沿ってタイヤ周方向に連続する環状の凸線として示されている。
【0022】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1及び図2に示すように、少なくとも一方のタイヤサイド部Sの表面のプロファイルであるタイヤサイド面Saに複数の凸部9がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されている。凸部9の各々は少なくとも2種以上の曲率を有する曲面から構成されている。凸部9の長手方向はタイヤ周方向に対して傾斜しており、凸部9は、タイヤサイド面Saよりタイヤの外側に突出している。凸部9は、タイヤサイド部Sを構成するゴム材と同じ又は異なるゴム材とすることができる。上記のようにタイヤサイド面Saに複数の凸部9が設けられていることによって、以下で詳細に説明するように、車両走行時に凸部9の周辺に乱流が発生して、タイヤハウスの外側で車両の側面から離れる空気の広がりが抑えられ、車両に生じる空気抵抗を低減することができ、その結果、通過騒音(PBN)の発生を低減することができる。
【0023】
本実施形態において、凸部9は、例えば、図2に示すように、空気入りタイヤ1の側面視で円弧状に形成されている。凸部9は、円弧状に限らず、空気入りタイヤ1の側面視で延在方向(長手方向)に沿って直線状に形成されていても、くの字に屈曲して形成されていても、S字状に形成されていても、蛇行して構成されていても、ジグザグ状に形成されていてもよい。なお、凸部9の長手方向(延在方向)LDは、タイヤサイド面Saと平行であり、かつ、タイヤ周方向に対して傾斜している方向(すなわち、凸部9の長手方向(延在方向)LDはタイヤ周方向及びタイヤ径方向に交差している方向)である。凸部9の短手方向は、タイヤサイド面Saと平行であり、かつ、長手方向(延在方向)LDと垂直な方向である。なお、凸部9の配置は、図2に示すものに限定されない。
【0024】
図3図5は、タイヤサイド面Saからタイヤ外側に突出する凸部9の長手方向の任意の位置における短手方向に沿った断面形状の例を概略的に示す断面図である。図3図5において、凸部9は、短手方向における各端9E、9Eの間で、曲率の異なる複数の曲面部を含む。凸部9は、短手方向における長さとして規定される幅wを有し、図3図5において、曲面部S1の短手方向における長さとして規定される幅w1は曲面部S2の短手方向における長さとして規定される幅w2よりも短い。図3及び図4に示す凸部の例において、曲面部S1と曲面部S2とが接続部9Pで接続されている。図5には、凸部9の例において、曲面部S1と曲面部S2との間に幅w3(短手方向における長さ)の曲面部S3を有する凸部9の例が示されている。曲面部S1と曲面部S3とは接続部9P1で接続されており、曲面部S2と曲面部S3とは接続部9P2で接続されている。なお、図5において、曲面部S3は直線状に示されているが、曲面部S3は長手方向において曲率がゼロでない曲面状の表面を有する。本実施形態の空気入りタイヤ1では、図には明示しないが、凸部9は4つ以上の曲面部から構成されていてもよい。凸部9を構成する曲面部は、任意の曲率を有することができる。
【0025】
凸部9を構成する曲面部は、例えば、図3図5における曲面部S1、S2図4における曲面部S2により示されているように、タイヤサイド面Saよりもタイヤ内側に曲率円の中心が配置されてタイヤ外側に向けて膨出する曲率円をなしていてもよい。また、凸部9を構成する曲面部は、例えば、図4における曲面部S1により示されているように、タイヤサイド面Saよりもタイヤ外側に曲率円の中心が配置されてタイヤ内側に向けて凹む曲率円をなしていてもよい。凸部9は、曲率0である稜線を含んでもよい。
【0026】
図6は、凸部9の側面図の例を示す。図6において、凸部9は、延在方向における端9D、9Dの両方から中央部9Cに向かって徐々に高くなり、中央部9Cにおいて最大高さhを有する。ここで、凸部の最大高さhは、タイヤのショルダー部又はサイドウォール部の外表面において、凸部が存在しないと仮定した場合の仮想表面プロファイルに対する法線方向での凸部の最大寸法として定義される。凸部の最大高さhは好ましくは1.0mm以上10.0mm以下である。凸部の最大高さhが1.0mm未満であると、周辺の空気を案内する作用が得難くなる。一方、凸部の最大高さが10mmを超えると、凸部9に衝突する空気の流れが増加することで空気抵抗が増加する傾向となる。凸部の最大高さhを1.0mm以上10.0mm以下とすることで、空気抵抗を増加させずに走行時の騒音の発生を低減することができる。なお、本実施形態の空気入りタイヤ1では、凸部が最大高さを有する位置は、凸部の各々が少なくとも2種以上の曲率を有する曲面部から構成される限り、図6の例に限定されないが、凸部9は、凸部9の延在方向の長さlの中央部9Cから延在方向の両側に長さlの25%(l×0.25)の範囲の部分である中間部9Aにおいて1.0mm以上10mm以下の最大高さhを有することが好ましい。凸部9の延在方向の長さlは、凸部9の各端9D間の最短距離である。
【0027】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図7に示すように、リム50に組み込んで車両100に装着することで車両100のタイヤハウス101内に配置される。この状態において、空気入りタイヤ1が回転方向Y1で回転すると、車両100は方向Y2に向かって走行する。この車両100の走行時に、回転方向Y1に回転移動する凸部9が、その周辺の空気を乱流化させて上述した空気の流れのよどみを改善する。具体的に、空気入りタイヤ1の回転時の上部(回転軸Pより上側)では、乱流境界層が発生し、空気入りタイヤ1における空気の流れが促進される。この結果、タイヤハウス101の外側で車両100の側面102から離れる空気の広がりが抑えられ、車両100に生じる空気抵抗を低減することができる。この空気抵抗の低減は、車両100の燃費の向上に寄与するとともに、走行時の騒音の発生を低減する。
【0028】
特に、本実施形態の空気入りタイヤ1では、凸部の各々が少なくとも2種以上の曲率を有する曲面部から構成され、凸部の長手方向がタイヤ周方向に対して傾斜していることで、異なる曲率の曲面部に沿う空気の流れが曲面部間の接続部、稜線、変曲点又は変曲面において変化し、渦流を生じることで乱流境界層の発生を助勢する。このため、タイヤサイド部に沿う空気の流れの広がりが抑制され、車両100に生じる空気抵抗の低減効果を向上することができるとともに、走行時の騒音の発生を低減することができる。
【0029】
タイヤサイド部に沿う乱流境界層の発生を最大限に高めることができるため、凸部9の曲面部間の接続部(図3図4における9P、図5における9P1及び9P2)が凸部9の長手方向に延在する稜線を成していることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図2において、正規リムに組み込んで、正規内圧を充填し、正規荷重を加えて水平面をなす路面Gに接地し(図2では荷重0(無負荷)の状態で示している)、路面G上を回転方向Yで回転して図2中の左方向に転動するとき、タイヤサイド部Sと路面Gとの相対速度UをU[m/s]=V×r/Qで表し、レイノルズ数ReをRe=U×Q/νで表し、Vが空気入りタイヤ1の転動方向に対向する主流速度(車両走行速度に相当する)[m/s]であり、Qが路面Gから回転軸Pに至る距離[m]であり、rが路面Gから回転軸Pに向かう距離[m]であり、νが空気入りタイヤ1に接触する空気の動粘性度[m2/s]であって、主流速度V[m/s]が27.8の場合、レイノルズ数Reが、2000<Re<4×105の範囲となる位置に凸部9が設けられていることが好ましい。すなわち、本実施形態の空気入りタイヤ1は、主流速度V[m/s]において、レイノルズ数Reが、2000<Re<4×105の範囲となるような距離r[m]の位置に凸部9が設けられていることが好ましい。
【0031】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、凸部9を有さない空気入りタイヤと比較した場合に、図7に示すように、回転方向Y1で回転し、車両100が方向Y2に向かって走行するとき、回転方向Y1に回転移動する凸部9により、凸部9の周辺の空気のガイド効果(排斥効果)が大きくなり、路面と車両底面との空間の圧力を低減する。具体的には、空気入りタイヤ1の回転時の下部である接地部(レイノルズ数Reが、2000<Re<4×105の範囲となるような距離r[m]の位置)では、凸部9による空気のガイド効果(排斥効果)が大きく、空気入りタイヤ1の接地部において前端からタイヤサイド部Sへ回り込む空気量が増え、路面と車両底面との空間の圧力が低下し、車両100が上方に持ち上げられる力であるリフトが低減される。リフトの低減(リフト低減性能)は、ダウンフォースを増加させることになり、空気入りタイヤ1の接地性を向上させ、車両100の走行性能である操縦安定性能の向上に寄与する。
【0032】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、車両装着時の回転方向が指定されており、上述したレイノルズ数Reの範囲において、図2に示すように、凸部9の少なくとも1つは、回転方向Yに沿う始端から終端への延在方向がタイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向けて傾斜していることが好ましい。ここで、回転方向の指定は、図には明示しないが、例えば、トレッド部2のタイヤ幅方向外側であって、タイヤの側面にあらわれるサイドウォール部4に設けられた指標(例えば、車両前進時に向く矢印)により示される。すなわち、この構成により、空気入りタイヤ1の接地部において前端上方から下方に向けて空気を案内するため、凸部9によるガイド効果(排斥効果)が大きくなり、空気入りタイヤ1の接地部において前端からタイヤサイド部Sへ回り込む空気量がより増えるため、路面と車両底面との空間の圧力がより低下し、リフトをより低減することができる。
【0033】
以上は、タイヤサイド面に複数の凸部を設けることについての事項であるが、当該事項は、本実施形態の前提となる事項であり、以下に本実施形態の特徴的な発明特定事項について詳述する。即ち、上述のように、タイヤサイド部のタイヤサイド面に複数の凸部を設けると、車両走行時の騒音の発生を低減することができるが、空気入りタイヤに凸部が加わることによって、空気入りタイヤの重量が増加してしまう。そのため、本発明者は、凸部が加わることによる空気入りタイヤの重量増加を抑制することを検討し、タイヤ外側プロファイルと、トレッドゴムの厚みと、について改良を加えた。以下、これらの改良点について説明する。
【0034】
図8は、図1に示す本発明の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部を拡大して示すタイヤ子午断面図である。本実施形態の空気入りタイヤでは、図1に示すように、両接地端E1、E2の間のタイヤプロファイル(具体的には、溝が形成されていないと仮定した場合の仮想プロファイル(同図における基準輪郭線L))が、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して20%以上35%以下のタイヤプロファイルに沿った寸法を有する2つのタイヤ外側プロファイルPo1、Po2と、2つのタイヤ外側プロファイルPo1、Po2以外のタイヤ内側プロファイルPiと、から構成されている。図1においては、陸部26、28、30の表面プロファイルが内側プロファイルPiに帰属する。ここで、内側プロファイルPiに帰属するとは、タイヤ子午断面視で、陸部のタイヤ幅方向位置の全部が内側プロファイルPiと重複する場合(例えば、図1の陸部28)はもとより、陸部のタイヤ幅方向位置の一部が内側プロファイルPiと重複する場合(例えば、陸部26、30)も含むことを意味する。
【0035】
さらに、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤでは、図8に示すタイヤ外側プロファイルPo1、Po2が、少なくとも4つの異なる形状の曲線(同図においては7つの異なる形状の曲線Po104~Po110(曲線Po204~Po210))から構成されている。ここで、曲線Po104~Po110(曲線Po204~Po210)は、いずれもタイヤ幅方向最外側の周方向主溝18(20)よりも、タイヤ幅方向外側に位置するものとする。
【0036】
次に、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤでは、トレッドゴム最大厚みが4mm以上12mm以下である。ここで、トレッドゴム最大厚みとは、両接地端間の任意のタイヤ幅方向位置における、タイヤ径方向に測定したアンダートレッドゴムゲージとキャップトレッドゴムゲージとの和の最大値をいう。
【0037】
特許文献1に開示されているように、タイヤサイド部のタイヤサイド面にタイヤ周方向に沿って間隔を空けて特定の高さ変動量又は質量変動量を有する複数の凸部を設けた場合には、上述のとおり、走行時に凸部から発生する騒音を低減することができる。しかしながら、凸部を設けた場合には、タイヤ重量の増加を招き、近年におけるタイヤの軽量化の要請に応えることは容易でない。
【0038】
そこで、本発明者は、上記要請に応えるため、タイヤ外側プロファイルを、少なくとも4つの異なる形状の曲線から構成することに着目した。具体的には、例えば、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2を構成する曲線について、タイヤ幅方向内側の曲線から外側の曲線に向けて曲率半径を徐々に小さくすることに着目した。これにより、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2を構成する曲線のうち、タイヤ幅方向最内側の曲線に適用する曲率半径を、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2全体に適用して、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2を1つの曲線とした場合に比べて、接地端近傍領域を含むいわゆるショルダー陸部(本明細書では、タイヤ幅方向最外側の周方向主溝よりもタイヤ幅方向外側に位置する陸部をいうものとする。)の材料を低減させることができることから、タイヤの軽量化を実現することができる(作用効果1)。
【0039】
また、本実施形態における空気入りタイヤでは、トレッドゴム最大厚みを4mm以上12mm以下としている。ここで、トレッドゴム最大厚みとは、タイヤ子午断面視で、静荷重時のトレッドゴムをタイヤ径方向において測定した最大値をいう。
【0040】
トレッドゴム最大厚みを4mm以上とすることで、トレッド部の剛性を高めることができ、操縦安定性能を改善することができる。これに対し、トレッドゴム最大厚みを12mm以下とすることで、さらに軽量化を図ることができる(作用効果2)。トレッドゴム最大厚みを5mm以上11mm以下とした場合には、上記効果がそれぞれ高いレベルで奏されるため好ましく、6mm以上10mm以下とした場合には、上記効果がそれぞれさらに高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0041】
以上に示すように、タイヤサイド部に特定形状の凸部を配置することを前提に、タイヤ外側プロファイルと、トレッドゴムの厚みと、について改良を加えることで、上記作用効果1及び作用効果2が相まって軽量化が図られ、ひいては車両走行時に発生する騒音の低減及び軽量化をバランス良く実現することができる。
【0042】
なお、トレッドゴム最大厚みを上記のとおり12mm以下として比較的薄くすると、当該トレッドに形成し得る溝が浅くなる傾向になり、優れた排水性能、ひいては優れたウェット制動性が実現できなくなる可能性がある。そのため、本実施形態では、ショルダー陸部における接地圧の平準化を図るべく、図8に示すように、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2を、少なくとも4つの異なる形状の曲線(同図においては7つの異なる形状の曲線Po104~Po110(曲線Po204~Po210))から構成している。これにより、トレッド部のタイヤ幅方向全体での接地性をさらに改善することができ、たとえ排水性が劣化したとしてもウェット制動性を高めることができる。なお、少なくとも4つの異なる形状の曲線(同図においては7つの異なる形状の曲線Po104~Po110(曲線Po204~Po210))については、タイヤ幅方向内側の曲線から外側の曲線に向けて曲率半径を徐々に小さくすることが、トレッド部のタイヤ幅方向全体での接地性を改善する作用効果を効率的に得ることができる点で好ましい。
【0043】
また、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2がそれぞれ少なくとも4つの部分に分割されている上記基本形態において、タイヤ外側プロファイルの寸法を、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して20%以上としたのは、タイヤ外側プロファイルを十分に確保して、ドライ操安性とウェット制動性を高めるためである。このような効果は、当該タイヤ外側プロファイルの寸法を、当該両接地端間寸法に対して23%以上とした場合にさらに高いレベルで奏され、25%以上とした場合に極めて高いレベルで奏される。
【0044】
これに対し、タイヤ外側プロファイルの寸法を、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して35%以下としたのは、タイヤ内側プロファイルを十分に確保して、ウェット路面での操縦安定性能(ウェット操安性)を高めるためである。このような効果は、当該タイヤ外側プロファイルの寸法を、当該両接地端間寸法に対して32%以下とした場合にさらに高いレベルで奏され、30%以下とした場合に極めて高いレベルで奏される。
【0045】
また、基本形態において、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2が2つ又は3つの部分にしか分割されていない場合には、タイヤ幅方向における接地圧の平準化を行うにあたって接地圧低減のために改良したプロファイル部分とそれに隣り合うプロファイル部分との形状が著しく異なることとなる。そのため、このよう場合には、いわゆるバックル(トレッド表面がウェーブ状に湾曲する現象)が生ずるおそれがある。従って、本実施形態では、このような意味においても、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2の分割後のプロファイル部分の数を4以上としている。
【0046】
基本形態に係る空気入りタイヤの構造は以上のとおりであるが、当該空気入りタイヤは、通常の各製造工程、即ち、タイヤ材料の混合工程、タイヤ材料の加工工程、グリーンタイヤの成型工程、加硫工程及び加硫後の検査工程等を経て得られるものである。本実施形態に係る空気入りタイヤを製造する場合には、加硫用金型の内壁に、例えば、図1に示す溝等に対応する凸部及び凹部を形成し、この金型を用いて加硫を行う。
【0047】
付加的形態
次に、本発明に係る空気入りタイヤの上記基本形態に対して、任意選択的に実施可能な、付加的形態1から6を説明する。
【0048】
付加的形態1
基本形態においては、図1におけるタイヤ外側プロファイルPo1、Po2の少なくともいずれかを構成する部分(曲線)のうちタイヤ幅方向最内側の曲線(同図では、プロファイル部分Po104及び/又はプロファイル部分Po204)の曲率半径(以下、「曲率半径1」と称する場合がある。)が、タイヤ内側プロファイルPiを構成する部分(曲線)のうちタイヤ幅方向最外側の曲線(図1に示す例では陸部26のプロファイル及び/又は陸部30のプロファイル)の曲率半径(以下、「曲率半径2」と称する場合がある)の0.40倍以上0.60倍以下であること(付加的形態1)が好ましい。
【0049】
曲率半径2に対する曲率半径1の比(曲率半径1/曲率半径2)を0.40以上とすることで、プロファイル部分Po104及び/又はプロファイル部分Po204と、それらのタイヤ幅方向内側に隣り合う陸部26、30のプロファイルとの形状を過度に異ならせることなく、これら隣り合う曲線同士の間の任意の点においてバックルの発生をさらに抑制することができる。
【0050】
これに対し、曲率半径2に対する曲率半径1の比(曲率半径1/曲率半径2)を0.60以下とすることで、接地圧の比較的低いセンター領域に相当するタイヤ内側プロファイルPiの曲率半径に対して、接地圧の比較的高いショルダー領域に相当するタイヤ外側プロファイルPo1(Po2)の曲率半径を、さらに異ならせることができる。これにより、タイヤ全体としてみた場合に、いずれのタイヤ幅方向領域についても接地圧が著しく異なる部分が生ずることをさらに抑制することができ、ひいてはドライ操安性とウェット制動性をさらに高めることができる。
【0051】
なお、曲率半径2に対する曲率半径1の比(曲率半径1/曲率半径2)を0.42以上0.58以下とした場合には、上記各効果がより高いレベルで奏されるためさらに好ましく、0.45以上0.55以下とした場合には、上記各効果がさらに一層高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0052】
付加的形態2
基本形態又は基本形態に付加的形態1を加えた形態においては、図1に示すタイヤ外側プロファイルPo1(タイヤ外側プロファイルPo2)を構成する曲線のうちタイヤ幅方向内側から2番目のプロファイル部分Po105(Po205)の曲率半径(以下、「曲率半径3」と称する場合がある。)が、タイヤ外側プロファイルPo1(タイヤ外側プロファイルPo2)を構成する曲線のうちタイヤ幅方向最内側のプロファイル部分Po104(Po204)の曲率半径1の0.70倍以上0.90倍以下であること(付加的形態2)が好ましい。
【0053】
曲率半径1に対する曲率半径3の比(曲率半径3/曲率半径1)を0.70以上とすることで、プロファイル部分Po105(プロファイルPo205)と、それに隣り合うプロファイル部分Po104(プロファイルPo204)との形状を過度に異ならせることなく、これら曲線同士の接点においてバックルの発生を抑制することができる。
【0054】
これに対し、曲率半径1に対する曲率半径3の比(曲率半径3/曲率半径1)を0.90以下とすることで、ショルダー領域の中でも接地圧の比較的低いタイヤ幅方向最内側のプロファイル部分Po104(プロファイルPo204)の曲率半径1に対して、接地圧の比較的高いタイヤ幅方向外側のプロファイルPo105(プロファイルPo205)の曲率半径3を、さらに異ならせることとなる。これにより、ショルダー領域全体としてみた場合に、いずれのタイヤ幅方向領域についても接地圧が著しく異なる部分の発生がさらに抑制され、ひいてはドライ操安性とウェット制動性をさらに高めることができる。
【0055】
なお、曲率半径1に対する曲率半径3の比(曲率半径3/曲率半径1)を0.72以上0.88以下とした場合には、上記各効果がより高いレベルで奏されるためさらに好ましく、0.75以上0.85以下とした場合には、上記各効果がより一層高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0056】
付加的形態3
基本形態又は基本形態に付加的形態1、2の少なくともいずれかを加えた形態においては、図1に示すタイヤ外側プロファイルPo1(Po2)を構成する各プロファイル部分Po104~Po110(各プロファイル部分Po204~Po210)の寸法(各曲線の寸法)が、トレッド展開幅の2.0%以上5.0%以下であること(付加的形態3)が好ましい。ここで、トレッド展開幅とは、図1における接地端E1、E2間のタイヤ幅方向寸法TDWをいう。
【0057】
各曲線の寸法をトレッド展開幅の2.0%以上とすることで、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2の各プロファイル部分への分割数を過度に多くすることを抑制できる。これにより、使用する金型の構成要素数の増大を抑制するとともに、タイヤ製造時の工数の増大を抑制し、その結果タイヤ製造コストを低減することができる。
【0058】
また、各曲線の寸法をトレッド展開幅の5.0%以下とすることで、タイヤ外側プロファイルPo1、Po2の各プロファイル部分への分割数を十分に確保することができる。タイヤ外側プロファイルPo1、Po2のそれぞれの、タイヤ幅方向内端と外端とでは接地圧の均一化を図るべく、タイヤ径方向位置を相当に異ならせることが必要であるところ、上記のような分割数の十分な確保により、隣り合うプロファイル間において曲率半径を極端に異ならせる必要がなく、ひいては隣り合う曲線同士の接続点においてバックルを効率的に抑制することができる。
【0059】
なお、各プロファイル部分の寸法をトレッド展開幅の2.2%以上4.8%以下とした場合には、上記各効果がより高いレベルで奏されるためさらに好ましく、2.5%以上4.5%以下とした場合には、上記各効果がより一層高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0060】
付加的形態4
基本形態又は基本形態に付加的形態1から3の少なくともいずれかを加えた形態においては、タイヤサイド部のタイヤサイド面にタイヤ周方向に間隔を空けて配置された複数の凸部の最大高さhは1.0mm以上10.0mm以下であることが好ましい。凸部の最大高さhが1.0mm未満であると、周辺の空気を案内する作用が得難くなる。一方、凸部の最大高さが10mmを超えると、凸部9に衝突する空気の流れが増加することで空気抵抗が増加する傾向となる。凸部の最大高さhを1.0mm以上10.0mm以下とすることで、空気抵抗を増加させずに走行時の騒音の発生を低減することができる。
【0061】
付加的形態5
図9は、タイヤ最大幅位置におけるタイヤ厚みを説明するためのタイヤ子午断面図である。図9では、インナーライナーが参照番号10で示されている。基本形態又は基本形態に付加的形態1から4の少なくともいずれかを加えた形態においては、正規内圧を付与した無負荷状態でのタイヤ最大幅位置におけるタイヤ厚みTが2.5mm以上6.5mm以下であること(付加的形態5)が好ましい。なお、タイヤ最大幅位置におけるタイヤ厚みTとは、タイヤ子午断面視で、静荷重時のタイヤ幅Wを規定する際に用いられるタイヤ表面位置同士を結んだ線分上において測定されるタイヤ厚みをいう。
【0062】
タイヤ厚みTを2.5mm以上とすることで、荷重付与時にサイドウォール部の撓みを抑制し、ひいては当該撓みによってビード部まで荷重が過度に伝搬してビード部が故障することを回避することができる。一方、タイヤ厚みTを6.5mm以下とすることで、さらに軽量化を図ることができる。なお、タイヤ厚みを3.0mm以上6.0mm以下とした場合には、上記各効果がさらに高いレベルで奏されるためさらに好ましく、3.5mm以上5.0mm以下とした場合には、上記各効果がさらに一層高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【0063】
付加的形態6
基本形態又は基本形態に付加的形態1から5の少なくともいずれかを加えた形態においては、図9に示す周方向主溝の深さDが5.0mm以上10.0mm以下であること(付加的形態6)が好ましい。ここで、周方向主溝の溝深さDとは、図2に示す基準輪郭線Lから溝底までの寸法をいう。深さDを5.0mm以上とすることで、排水性能を高め、ひいてはウェット制動性をさらに高めることができるのに対し、10.0mm以下とすることで、浅溝化を図って陸部剛性をさらに高め、ドライ操安性をさらに高めることができる。なお、深さDを5.5mm以上9.5mm以下とした場合には、上記各効果がさらに高いレベルで奏されるためさらに好ましく、6.0mm以上9.0mm以下とした場合には、上記各効果がさらに一層高いレベルで奏されるため極めて好ましい。
【実施例
【0064】
タイヤサイズを155/65R14(JATMAにて規定)とし、トレッド表面に複数の周方向主溝が形成され、正規内圧を付与した無負荷状態のタイヤ子午断面視で、両接地端間のタイヤプロファイルが、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して20%以上35%以下のタイヤプロファイルに沿った寸法を有する2つのタイヤ外側プロファイルと、これら2つのタイヤ外側プロファイル以外のタイヤ内側プロファイルと、から構成される発明例1から7の空気入りタイヤ及び従来例の空気入りタイヤを作製した。なお、これらの空気入りタイヤの細部の諸条件については、以下の表1に示すとおりである。
【0065】
なお、表1中、タイヤサイド部のタイヤサイド面に設けられる複数の凸部の有無、タイヤ外側プロファイル、トレッドゴム最大厚み、曲率半径1、曲率半径2、曲率半径3、各曲線の寸法、トレッド展開幅、凸部の最大高さh、タイヤ厚みT、周方向主溝の深さD、及びPBNについては、本明細書の記載に準拠するものである。発明例1~7のタイヤでは、タイヤサイド面のタイヤバットレス部に同一形状の12個の凸部が均等に配置されていた。凸部は、長手方向(延在方向)に延在する1本の稜線を有し、長手方向中央部付近に最大高さ(h)及び最大幅(w)を有し、最大高さ(h)及び最大幅(w)はそれぞれ5mmであった。凸部の長手方向の長さは25mmであり、凸部の長手方向に延在する稜線は凸部の長手方向中央部において、タイヤ側面視でタイヤ周方向に対して角度45°で傾斜していた。凸部は、長手方向における端(9D、9D)の両方から長手方向中央部付近に向かって徐々に高くなり、そして、タイヤ側面視で長手方向中央部付近から端(9D、9D)側に向かうにつれて徐々に短手方向における長さ(幅)が短くなる略紡錘形の形状を有していた。
【0066】
このように作製した、発明例1から7の空気入りタイヤ及び従来例の空気入りタイヤについて、以下の要領に従い、通過騒音、質量及び操縦安定性についての評価を行った。
【0067】
通過騒音(PBN)についての評価
上記試験タイヤセットをリムサイズ5JのJATMA標準リムに装着し、空気圧を240kPaとして排気量約650ccの乗用車の総輪に取り付け、速度50km/hでの通過騒音の音圧レベル(dB)を欧州騒音規制条件(ECE R117)に準拠して計測した。評価結果は、従来例のタイヤセットを取り付けた乗用車の通過騒音の音圧レベル測定値の逆数を100とし、各実施例のタイヤセットを取り付けた乗用車の測定値の逆数を指数で表した。指数が大きいほど通過騒音のレベルが低いことを示す。評価結果を表1に記載する。
【0068】
質量についての評価
各試験タイヤの質量を測定し、各発明例のタイヤの質量は従来例のタイヤの質量を100とする指数で表した。指数が大きいほど軽量化が図られていることを示す。評価結果を表1に記載する。
【0069】
ドライ操安性についての評価
上記試験タイヤをリムサイズ5JのJATMA標準リムに装着し、空気圧を230kPaとして、排気量約650ccの乗用車の総輪に取り付けた。そして、平坦な周回路を有するドライ路面のテストコースを、試験車両によって10km/hから180km/hで走行し、テストドライバーがレーンチェンジ時及びコーナリング時における操舵性、及び直進時における安定性についての官能評価を行った。ドライ操安性は、従来例を100とする指数で表した。指数が大きいほどドライ操安性が優れていることを示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1によれば、本発明の技術的範囲に属する(即ち、タイヤサイド部に特定形状の凸部を配置することを前提に、タイヤ外側プロファイルとトレッドゴム厚みについて改良を加えた)発明例1から発明例7の空気入りタイヤについては、いずれも、本発明の技術的範囲に属さない従来例の空気入りタイヤに比べて、走行時の騒音の低減と、軽量化と、操縦安定性の改善がバランス良く実現されていることが判る。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[実施形態1]
タイヤサイド部のタイヤサイド面に複数の凸部がタイヤ周方向に間隔を空けて配置されており、前記凸部の各々が少なくとも2種以上の曲率を有する曲面部から構成され、前記凸部の長手方向がタイヤ周方向に対して傾斜し、
正規内圧を付与した無負荷状態のタイヤ子午断面視で、両接地端間のタイヤプロファイルが、タイヤプロファイルに沿った両接地端間寸法に対して20%以上35%以下のタイヤプロファイルに沿った寸法を有する2つのタイヤ外側プロファイルと、前記2つのタイヤ外側プロファイル以外のタイヤ内側プロファイルと、から構成され、前記タイヤ外側プロファイルが、少なくとも4つの異なる形状の曲線から構成され、
トレッドゴム最大厚みが4mm以上12mm以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
[実施形態2]
前記タイヤ外側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向最内側の曲線の曲率半径が、前記タイヤ内側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向最外側の曲線の曲率半径の0.40倍以上0.60倍以下である、実施形態1に記載の空気入りタイヤ。
[実施形態3]
前記タイヤ外側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向内側から2番目の曲線の曲率半径が、前記タイヤ外側プロファイルを構成する曲線のうちタイヤ幅方向最内側の曲線の曲率半径の0.70倍以上0.90倍以下である、実施形態1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[実施形態4]
前記タイヤ外側プロファイルを構成する各曲線のタイヤプロファイルに沿った寸法が、トレッド展開幅の2.0%以上5.0%以下である、実施形態1から3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
[実施形態5]
前記凸部の最大高さが1.0mm以上10.0mm以下である、実施形態1から4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
[実施形態6]
正規内圧を付与した無負荷状態でのタイヤ最大幅位置におけるタイヤ厚みが2.5mm以上6.5mm以下である、実施形態1から5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
[実施形態7]
前記周方向主溝の深さが5.0mm以上10.0mm以下である、実施形態1から6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0072】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 ショルダー部
4 サイドウォール部
5 ビード部
6 カーカス層
7 ベルト
8 ベルト補強層
9 凸部
10 インナーライナー
21 トレッド表面
12、14、16、18 周方向主溝
22、24、26、28、30 陸部
50 リム
51 ビードコア
52 ビードフィラー
71,72 ベルト層
h 凸部の最大高さ
CL タイヤ赤道面
L 基準輪郭線
E1、E2 接地端
Pi タイヤ内側プロファイル
Po1、Po2 タイヤ外側プロファイル
TDW トレッド展開幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9