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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20240731BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20240731BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20240731BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C9/00 B
B60C9/22 C
B60C9/22 D
B60C9/22 A
B60C1/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020071568
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021167158
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-073245(JP,A)
【文献】特開2020-015381(JP,A)
【文献】特開2019-093888(JP,A)
【文献】特開2015-209198(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022158(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139084(WO,A1)
【文献】特開2019-73245(JP,A)
【文献】特開2010-242284(JP,A)
【文献】特開2022-12311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトカバー層はコートゴムで被覆された有機繊維コードをタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回することで構成され、前記有機繊維コードは100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)~5.5cN/(tex・%)の範囲にあるポリエチレンテレフタレート繊維コードであり、前記有機繊維コードの前記ベルト層と重複する領域におけるコード張力が0.9cN/dtex以上であり、
前記トレッド部の内面に多孔質材料からなりガラス転移温度が-60℃~-45℃である吸音材が設置され、前記吸音材の断面積がタイヤ内腔の断面積に対して10%~30%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記吸音材の密度が10kg/m3 ~30kg/m3 であり、前記吸音材のセル数が30個/25mm~80個/25mmであることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記吸音材がタイヤ周方向の少なくとも一箇所に欠落部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記吸音材のタイヤ周方向に沿った総長さがタイヤ最大内周長の75%~95%であることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記吸音材の硬度x[N/314cm2 ]と前記吸音材の破断伸度y[%]とが、130≦y≦500、y≦-21x+2770、およびx≧60の関係を満たすことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記吸音材がポリウレタン発泡樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内面に多孔質材料からなる吸音材を備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤに起因する騒音には、発生源や音域によって様々な種類が存在する。例えば、タイヤ空洞部に充填された空気の振動によって発生する空洞共鳴音や、高速走行中にタイヤが路面の凹凸を拾った振動が車軸を通して車室内を共振させることによって発生する中周波ロードノイズが挙げられる。このような騒音のうち、空洞共鳴音を低減させる方法として、タイヤ内面(トレッド部の内周面)にスポンジ等の多孔質材料からなる吸音材を装着することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、トレッド部の内周面に吸音材が装着されると、高速走行時に吸音材の蓄熱による温度上昇が生じて、高速耐久性が低下する虞があった。また、上述の吸音材では、空洞共鳴音を低減することはできても、中周波ロードノイズに対する効果は必ずしも十分ではなく、これに対する対策も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5267288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、タイヤ内面に多孔質材料からなる吸音材を設けて騒音性能を得るにあたって、高速耐久性の低下を抑制し、且つ、騒音性能の更なる向上を図ることを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りタイヤにおいて、前記ベルトカバー層はコートゴムで被覆された有機繊維コードをタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回することで構成され、前記有機繊維コードは100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)~5.5cN/(tex・%)の範囲にあるポリエチレンテレフタレート繊維コードであり、前記有機繊維コードの前記ベルト層と重複する領域におけるコード張力が0.9cN/dtex以上であり、前記トレッド部の内面に多孔質材料からなりガラス転移温度が-60℃~-45℃である吸音材が設置され、前記吸音材の断面積がタイヤ内腔の断面積に対して10%~30%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、上述のように、トレッド部の内面に適度な大きさの吸音材が設置されているので、空洞共鳴音を抑制し、騒音性能を向上することができる。一方で、上述の有機繊維コードからなるベルトカバー層を設けているので、吸音材によって低減することが懸念される高速耐久性を補うことができる。具体的には、本発明者は、PET繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りタイヤについて鋭意研究し、PET繊維コードのディップ処理を適正化し、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率を所定の範囲に設定することにより、ベルトカバー層として好適なコードの耐疲労性とタガ効果が得られることを知見した。そのため、上記のように、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードとして、100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)~5.5cN/(tex・%)の範囲にあるPET繊維コードを使用することで、吸音材によって低減することが懸念される高速耐久性を維持・改善することが可能になる。更に、このような低弾性のPET繊維コードからなるベルトカバー層は、その物性によって、中周波ロードノイズを低減する効果も見込めるので、騒音性能の更なる向上を図ることができる。
【0008】
本発明においては、上記のように、有機繊維コードの前記ベルト層と重複する領域におけるコード張力が0.9cN/dtex以上である。これにより、発熱を抑制してタイヤの耐久性を向上するには有利になる。
【0009】
本発明においては、吸音材の密度が10kg/m3 ~30kg/m3 であり、吸音材のセル数が30個/25mm~80個/25mmであることが好ましい。これにより、吸音材が低密度となって蓄熱の抑制を図ることができ、高速耐久性の向上に繋がる。また、吸音材のセル数を適度に確保することで、気泡を細かくすることができ、吸音材による吸音効果を良好に発揮することが可能になる。
【0010】
本発明においては、吸音材がタイヤ周方向の少なくとも一箇所に欠落部を有することが好ましい。これにより、吸音材の放熱が促進されるので、走行中の蓄熱を抑制して、高速耐久性を向上するには有利になる。また、タイヤのインフレートによる膨張や、接地転動に起因する接着面のせん断ひずみに長期間耐えることが可能になる。
【0011】
このとき、吸音材のタイヤ周方向に沿った総長さがタイヤ最大内周長の75%~95%であることが好ましい。このように吸音材の総長さを十分に確保することで、吸音効果を向上するには有利になる。
【0012】
本発明においては、吸音材の硬度x[N/314cm2 ]と吸音材の破断伸度y[%]とが、130≦y≦500、y≦-21x+2770、およびx≧60の関係を満たすことが好ましい。このように吸音材の硬度と破断伸度の関係を適切にすることで、高荷重時または低温時であっても、吸音材の剥離や破断を効果的に防止することができる。
【0013】
本発明においては、上記のように、吸音材のガラス転移温度が-60℃~-45℃である。また、吸音材がポリウレタン発泡樹脂で構成されていることが好ましい。このような材料で吸音材を構成することで、吸音性能を効果的に高めることができる。尚、吸音材のガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。
【0014】
本発明において、吸音材の硬度、吸音材の破断伸度、吸音材の密度及び吸音材のセル数は、JIS-K6400に準拠して測定されるものである。吸音材の硬度について、吸音材の硬さ試験ではD法を採用する。また、タイヤの各種寸法や内腔体積は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で測定したものである。特に、タイヤの内腔体積は、この状態におけるタイヤとリムとの間に形成される空洞部の体積である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。但し、タイヤが新車装着タイヤの場合には、このタイヤが組まれた純正ホイールを用いて空洞部の体積を求めることとする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが新車装着タイヤの場合には、車両に表示された空気圧とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す赤道線断面図である。
図3】本発明の空気入りタイヤに用いる吸音材において硬度x[N/314cm2 ]と破断伸度y[%]との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0018】
図示の例では、トレッド部1の外表面にタイヤ周方向に延びる複数本(図示の例では4本)の主溝が形成されているが、主溝の本数は特に限定されない。また、主溝の他にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を含む各種の溝やサイプを形成することもできる。
【0019】
左右一対のビード部3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)を含むカーカス層4が装架されている。各ビード部には、ビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面略三角形状のビードフィラー6が配置されている。カーカス層4は、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。これにより、ビードコア5およびビードフィラー6はカーカス層4の本体部(トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分)と折り返し部(各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分)とにより包み込まれている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、例えばポリエステルコードが好ましく使用される。
【0020】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(ベルトコード)を含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7を構成するベルトコードとしては、例えばスチールコードが好ましく使用される。
【0021】
更に、ベルト層7の外周側には、後述の吸音材10の蓄熱に起因して低下する虞がある高速耐久性を補うことや、中周波ロードノイズの低減を目的として、ベルトカバー層8が設けられている。ベルトカバー層8は、タイヤ周方向に配向する補強コード(カバーコード)を含む。本発明では、カバーコ―ドとして有機繊維コードが使用される(以下の説明では、このカバーコ―ドを「有機繊維コード」という場合がある)。ベルトカバー層8において、カバーコードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。本発明では、ベルトカバー層8は、ベルト層7の全域を覆うフルカバー層8aを必ず含み、任意でベルト層7の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bを含む構成にすることができる(図示の例では、フルカバー層8aおよびエッジカバー層8bの両方を含む)。ベルトカバー層8は、少なくとも1本の有機繊維コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0022】
本発明では、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)~5.5cN/(tex・%)の範囲にあるポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)が使用される。このようにベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして、特定のPET繊維コードを用いることで、後述の吸音材10の蓄熱に起因して低下する虞がある高速耐久性を補って、これを良好に維持しながら、中周波ロードノイズを効果的に低減することができる。このPET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)未満であると、中周波ロードノイズを十分に低減することができない。PET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が5.5cN/(tex・%)を超えると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する。尚、本発明において、100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率[N/(tex・%)]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重‐伸び曲線の荷重2.0cN/dtexに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出される。
【0023】
更に、この有機繊維コード(PET繊維コード)は、ベルトカバー層8として用いるにあたって、ベルト層7と重複する領域におけるコード張力が好ましくは0.9cN/dtex以上、より好ましくは1.5cN/dtex~2.0cN/dtexであるとよい。このようにタイヤ内におけるコード張力を設定することで、発熱を抑制し、タイヤの耐久性を向上することができる。この有機繊維コード(PET繊維コード)のベルト層7と重複する領域におけるコード張力が0.9cN/dtex未満であると、tanδのピークが上昇してしまい、タイヤの耐久性を向上する効果が充分に得られない。尚、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コード(PET繊維コード)のベルト層7と重複する領域におけるコード張力は、ベルトカバー層8を構成するストリップ材の末端よりも2周以上タイヤ幅方向内側において測定するものとする。
【0024】
ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして用いるPET繊維コードは、更に、100℃における熱収縮応力が0.6cN/tex以上であることが好ましい。このように100℃における熱収縮応力を設定することで、より効果的に空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/texよりも小さいと走行時のタガ効果を充分に向上することができず、高速耐久性を十分に維持することが難しくなる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力の上限値は特に限定されないが、例えば2.0cN/texにするとよい。尚、本発明において、100℃での熱収縮応力(cN/tex)は、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件100℃×5分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの熱収縮応力である。
【0025】
上述のような物性を有するPET繊維コードを得るために、例えばディップ処理を適正化すると良い。つまり、カレンダー工程に先駆けて、PET繊維コードには接着剤のディップ処理が行われるが、2浴処理後のノルマライズ工程において、雰囲気温度を210℃~250℃の範囲内に設定し、コード張力を2.2×10-2N/tex~6.7×10-2N/texの範囲に設定することが好ましい。これにより、PET繊維コードに上述のような所望の物性を付与することができる。ノルマライズ工程におけるコード張力が2.2×10-2N/texよりも小さいとコード弾性率が低くなり、中周波ロードノイズを十分に低減することができず、逆に6.7×10-2N/texよりも大きいとコード弾性率が高くなり、コードの耐疲労性が低下する。
【0026】
本発明の空気入りタイヤでは、図1に示すように、タイヤ内面のトレッド部1に対応する領域に、タイヤ周方向に沿って吸音材10が装着されている。吸音材10は、例えば、接着剤や両面接着テープからなる接着層11を介してタイヤ内面に固定される。吸音材10は、連続気泡を有する多孔質材料から構成され、その多孔質構造に基づく所定の吸音特性を有している。吸音材10を構成する多孔質材料としては、例えばポリウレタン発泡樹脂(発泡ポリウレタン)を用いるとよい。吸音材10のガラス転移温度は、低温下でもポリウレタン発泡樹脂の柔軟性を維持し、吸音効果を発揮して空洞共鳴音を低減する観点から好ましくは-60℃~-45℃であるとよい。また、タイヤ内面に対する接着性の観点から吸音材10は撥水剤を含有しないことが望ましい。図1の実施形態において、吸音材10は、長方形の断面形状を有する1枚の帯状体からなる。
【0027】
吸音材10の体積は、タイヤとリムとの間に形成される空洞部の体積(内腔体積)に対して10%~30%、好ましくは10%~20%である。また、吸音材10の幅は、タイヤ接地幅に対して好ましくは30%~90%、より好ましくは40%~70%であるとよい。これにより、吸音材10の吸音効果を十分に確保することでき、静穏性の向上に繋がる。このとき、吸音材10の体積がタイヤの内腔体積の10%未満であると、吸音効果を適切に得ることができない。吸音材10の体積がタイヤの内腔体積の30%を超えると、走行時の蓄熱が多くなり、高速耐久性が低下する虞がある。
【0028】
吸音材10の密度は、好ましくは10kg/m3 ~30kg/m3 であり、より好ましくは15kg/m3 ~25kg/m3 である。また、吸音材10のセル数は、好ましくは30個/25mm~80個/25mm、より好ましくは40個/25mm~70個/25mmである。このように吸音材10の密度を設定することで、吸音材10が低密度となって蓄熱が抑制されるので、高速耐久性の維持・向上に繋がる。また、吸音材10が低密度になると軽量化を図ることもできるので、転がり抵抗を低減することも可能になる。一方、吸音材10のセル数を上記のように適度に確保することで、気泡を細かくすることができるので、吸音材の吸音性能を効果的に発揮することができる。吸音材10の密度が10kg/m3 未満であると、吸音材10自体の耐久性が低下する虞がある。吸音材10の密度が30kg/m3 を超えると、低密度化を図ることができず、蓄熱を抑制する効果が十分に得られない。吸音材10のセル数が30個/25mm未満であると、気泡を十分に細かくすることができず、吸音性能の更なる向上が見込めなくなる。吸音材10のセル数が80個/25mmを超えると、個々の気泡が細かくなりすぎて、却って吸音性能が確保しにくくなる虞がある。
【0029】
吸音材10を設けるにあたって、図2に示すように、タイヤ周方向の少なくとも1箇所に欠落部12を設けることが好ましい。欠落部12とはタイヤ周上で吸音材10が存在しない部分である。このように欠落部12を設けることにより、欠落部12からの放熱が期待できるので、吸音材10の蓄熱を抑制して、高速耐久性を向上するには有利になる。また、タイヤのインフレートによる膨張や接地転動に起因する接着面の剪断歪みに長時間耐えることができ、吸音材10の接着面に生じる剪断歪みを効果的に緩和することが可能になる。このような欠落部12はタイヤ周上で1箇所または3~5箇所設けるとよい。欠落部12をタイヤ周上の2箇所に設けると質量アンバランスに起因してタイヤユニフォミティの悪化が顕著になり、欠落部12をタイヤ周上の6箇所以上に設けると製造コストの増大が顕著になる。
【0030】
このように欠落部12を設ける場合、吸音材10のタイヤ周方向に沿った総長さがタイヤ最大内周長の好ましくは75%~95%、より好ましくは80%~90%であるとよい。このように欠落部12が存在する場合であっても、吸音材10の総長さを十分に確保することで、吸音効果を確実に確保することができる。尚、複数の欠落部12が存在する場合は、欠落部12によって分断された個々の吸音材10のタイヤ周方向に沿った長さの総和が「総長さ」である。吸音材10のタイヤ周方向に沿った総長さがタイヤ最大内周長の75%未満であると、吸音材10の総量が減少するため、吸音性能を十分に確保することが難しくなる。吸音材10のタイヤ周方向に沿った総長さがタイヤ最大内周長の95%を超えると、欠落部12が十分に確保できず、欠落部12からの放熱によって蓄熱を抑制する効果が十分に見込めなくなる。
【0031】
本発明では、吸音材10の硬度x[N/314cm2 ]と吸音材10の破断伸度y[%]とが、130≦y≦500、y≦-21x+2770、およびx≧60の関係を満たすことが好ましい。より好ましくは、80<x≦120、140≦y≦490、および/またはy≦-21x+2700の関係を満たすとよく、更に好ましくは、80<x≦100、150≦y≦480、および/またはy≦-21x+2600の関係を満たすとよい。これら吸音材10の硬度xおよび破断伸度yは、標準状態(温度23℃、相対湿度50%)において測定された硬度および破断伸度である。
【0032】
具体的には、図3に示す斜線部の領域Sが、上述の吸音材10の物性として好ましい範囲を示している。図3において、吸音材10の硬度xが、上記関係式により特定される上限値を超えると荷重耐久時においてタイヤの変形に追従することができず、吸音材10の剥離を生じる傾向があり、80N/314cm2 以下であると高速走行時において吸音材10が圧縮永久歪により変形し、吸音効果を十分に得ることができない。また、吸音材10の破断伸度yが130%より小さくなると、タイヤの高変形時において吸音材10の破断が生じ易くなる傾向があり、特に、低温下においてはその傾向が顕著になる。
【0033】
本発明は、上述のベルトカバー層8と吸音材10との協働によって、高速耐久性と騒音性能をバランスよく高度に両立するものである。即ち、本発明は、吸音材10によって空洞共鳴音に起因する騒音を抑制する一方で、吸音材10の蓄熱で低下することが懸念される高速耐久性をベルトカバー層8によって維持・向上し、更に、ベルトカバー層8の物性によって中周波ロードノイズを抑制する(騒音性能の更なる向上を図る)ものである。そのため、上述のベルトカバー層8および吸音材10のそれぞれの好適な物性や構造等の特徴は、適宜組み合わせて採用することができる。
【0034】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0035】
タイヤサイズが225/60R18であり、図1に例示する基本構造を有し、ベルトカバー層を構成する有機繊維コード(ナイロン繊維コード(表中は「N66」と表示)またはポリエチレンテレフタレート繊維コード(表中は「PET」と表示))の100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率[cN/(tex・%)]、およびベルト層と重複する領域におけるコード張力[cN/dtex]、タイヤ内腔の断面積に対する吸音材の断面積の割合[%]、吸音材の密度[kg/m3 ]、吸音材のセル数[個/25mm]、間欠部の数を表1~2のように異ならせた従来例1、比較例1~6、実施例1~6のタイヤを製作した。
【0036】
いずれの例においても、ベルトカバー層は、1本の有機繊維コード(ナイロン繊維コードまたはポリエチレンテレフタレート繊維コード)をコートゴムで被覆してなるストリップをタイヤ周方向に螺旋状に巻回したジョイントレス構造を有している。ストリップにおけるコード打ち込み密度は50本/50mmである。また、有機繊維コードはいずれの場合も1100dtex/2の構造を有する。
【0037】
各例において、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率[cN/(tex・%)]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重‐伸び曲線の荷重2.0cN/dtexに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出した。また、タイヤ内におけるコード張力[cN/dtex]は、トレッド部1からトレッドゴムを取り除いてベルトカバー層を露出させ、ベルトカバー層の所定の長さ範囲から有機繊維コードを引き剥がし、その採取後の長さを測定し、採取前の長さに対する収縮量を求めた。特に、最外側のベルト層のセンター部に位置する5本の繊維コードについて収縮量の平均値を求めた。そして、その収縮量(%)に対応する荷重をS-S曲線から求め、1dtex当たりの値に換算することにより測定した。
【0038】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ロードノイズ、高速耐久性を評価し、その結果を表1,2に併せて示した。
【0039】
ロードノイズ
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、排気量2.5Lの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、運転席の窓の内側に集音マイクを設置し、アスファルト路面からなるテストコースを平均速度50km/hの条件で走行させた際の周波数315Hz付近の音圧レベルを測定した。評価結果としては、従来例1を基準とし、その基準に対する変化量(dB)を示した。変化量の数値が負の値であればロードノイズが低減していることを意味する。
【0040】
高速耐久性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付け、内圧230kPaを充填し、鋼製で表面が平滑な直径1707mmのドラムを備えたドラム試験機に装着し、周辺温度を38±3℃に制御し、速度120km/hから24時間に50km/hずつ加速し、タイヤに故障が生じるまでの走行距離を計測した。評価結果は、走行距離の測定値を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、故障が生じるまでの走行距離が長く、高速耐久性が優れていることを意味する。尚、指数値が「105」未満では、高速耐久性を向上する効果が不十分である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1,2から判るように、実施例1~6のタイヤは、基準となる従来例1との対比において、ロードノイズを低減し、且つ、高速耐久性を向上した。一方、比較例1,2のタイヤは、ベルトカバー層を構成するポリエチレンテレフタレート繊維コードの100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率が高く、且つ、吸音材の断面積の割合が大きいため、高速耐久性が低下した。比較例3のタイヤは、ベルトカバー層を構成するポリエチレンテレフタレート繊維コードの100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率が小さいため、ベルトカバー層によるロードノイズ低減効果が見込めず、吸音性能が十分に得られなかった。また、吸音材の断面積の割合が大きいため、高速耐久性が低下した。比較例4のタイヤは、吸音材の断面積の割合が小さいため、吸音性能が十分に得られなかった。比較例5のタイヤは、吸音材の断面積の割合が大きいため、高速耐久性を向上する効果が十分に得られなかった。比較例6のタイヤは、ベルトカバー層がナイロン繊維コードで構成されるため、ベルトカバー層による高速耐久性の向上効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0044】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
8a フルカバー層
8b エッジカバー層
10 吸音材
11 接着層
12 間欠部
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3