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特許7529976マレイン酸変性ロジンエステル又はマレイン酸変性ロジンアミドを含むフラックス用組成物、及びそれを含むフラックス、並びにはんだペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】マレイン酸変性ロジンエステル又はマレイン酸変性ロジンアミドを含むフラックス用組成物、及びそれを含むフラックス、並びにはんだペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20240731BHJP
   B23K 35/26 20060101ALI20240731BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20240731BHJP
   C22C 13/02 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310A
C22C13/00
C22C13/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020091559
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021079442
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019098775
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109586
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 浩由
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 正人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕
(72)【発明者】
【氏名】宮城 奈菜子
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-042419(JP,A)
【文献】特開2016-120507(JP,A)
【文献】特開2019-042805(JP,A)
【文献】特開2005-059028(JP,A)
【文献】特開2014-054663(JP,A)
【文献】特開2017-186324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/26
C22C 13/00
C22C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイン酸変性ロジンエステル、マレイン酸変性ロジンアミド、前記マレイン酸変性ロジンエステルの水添物、及び前記マレイン酸変性ロジンアミドの水添物からなる群より選ばれる1種以上を含み、
前記マレイン酸変性ロジンエステル又はマレイン酸変性ロジンアミドが、以下の式(1)~(7)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上である、
フラックス用組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
(式中、Rは各々独立して、置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルキレングリコール基、又は末端変性ポリアルキレンオキシド基を示し、R’は各々独立して、置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキレン基、又は2価のアルキレングリコール基を示す。)
【請求項2】
請求項記載のフラックス用組成物を含む、はんだ合金をはんだ付けするためのフラックス。
【請求項3】
前記マレイン酸変性ロジンエステル及び/又はマレイン酸変性ロジンアミドの含有量が、フラックス全体に対して0wt%超60wt%以下である、請求項記載のフラックス。
【請求項4】
前記フラックスはチキソ剤をさらに含む、請求項又はに記載のフラックス。
【請求項5】
前記フラックスは、さらに、
アミンを0wt%以上20wt%以下、
有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、
アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上2wt%以下、又は
酸化防止剤を0wt%以上5wt%以下
樹脂を0wt%以上80wt%以下、
含む、請求項のいずれか1項に記載のフラックス。
【請求項6】
請求項のいずれか1項記載のフラックスと、はんだ合金と、を含むはんだペースト。
【請求項7】
前記はんだ合金が、
As:25~300質量ppm、Bi:0質量ppm以上25000質量ppm以下、Pb:0質量ppm超え8000質量ppm以下、及び残部がSnからなる合金組成を有し、下記(1)式及び(2)式:
275≦2As+Bi+Pb (1)
0<2.3×10-4×Bi+8.2×10-4×Pb≦7 (2)
[上記(1)式及び(2)式中、As、Bi、及びPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す]
を満たす、請求項記載のはんだペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイン酸変性ロジンエステル又はマレイン酸変性ロジンアミドを含むフラックス用組成物、及びそれを含むフラックス、並びにはんだペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板への電子部品の実装といった、電子機器における電子部品の固定と電気的接続は、コスト面及び信頼性の面で最も有利なはんだ付けにより一般に行われている。
この種のはんだ付けに一般に採用されている方法は、溶融はんだにプリント基板及び電子部品を接触させてはんだ付けを行うフローソルダリング法、並びにソルダペースト、ソルダプリフォーム又はソルダボールの形態のはんだをリフロー炉で再溶融してはんだ付けを行うリフローソルダリング法である。
【0003】
このはんだ付けにおいては、プリント基板及び電子部品にはんだが付着し易くなるようにする補助剤であるフラックスが使用される。フラックスは、(1)金属表面清浄作用(プリント基板及び電子部品の金属表面の酸化膜を化学的に除去して、はんだ付けが可能となるように表面を清浄化する作用)、(2)再酸化防止作用(清浄になった金属表面をはんだ付け中に覆って酸素との接触を遮断し、加熱により金属表面が再酸化されるのを防止する作用)、(3)界面張力低下作用(溶融したはんだの表面張力を小さくして、金属表面のはんだによる濡れ性を高める作用)、などの多くの有用な作用を果たしている。
【0004】
特許文献1には、ロジン系カルボキシル基含有樹脂と、ダイマー酸誘導体柔軟性アルコール化合物とを脱水縮合してなるロジン誘導体化合物を、はんだ付け用のフラックスとして用いることが記載されている。
さらに、特許文献2には、ロジンエステルを短時間で収率よく製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-185298号公報
【文献】特開2017-186324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたフラックスは、はんだ付け後のフラックス残渣に残渣割れが発生し、信頼性に劣る。
一方で、特許文献2に記載されたロジンエステルをフラックスとして用いた場合、活性が低く、はんだ濡れ性に劣るという問題がある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、フラックス残渣の残渣割れを抑制し、且つ、はんだ濡れ性にも優れたはんだ付け用のフラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、マレイン酸変性ロジンエステル、マレイン酸変性ロジンアミド、前記マレイン酸変性ロジンエステルの水添物、及び前記マレイン酸変性ロジンアミドの水添物からなる群より選ばれる1種以上を含むフラックス組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]
マレイン酸変性ロジンエステル、マレイン酸変性ロジンアミド、前記マレイン酸変性ロジンエステルの水添物、及び前記マレイン酸変性ロジンアミドの水添物からなる群より選ばれる1種以上を含むフラックス用組成物。
[2]
前記マレイン酸変性ロジンエステル又はマレイン酸変性ロジンアミドが、以下の式(1)~(7)で表される化合物からなる群より選ばれる1種以上である、上記[1]に記載のフラックス用組成物。
【0010】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
(式中、Rは各々独立して、置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルキレングリコール基、又は末端変性ポリアルキレンオキシド基を示し、R’は各々独立して、置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキレン基、又は2価のアルキレングリコール基を示す。)
[3]
上記[1]又は[2]記載のフラックス用組成物を含む、はんだ合金をはんだ付けするためのフラックス。
[4]
前記マレイン酸変性ロジンエステル及び/又はマレイン酸変性ロジンアミドの含有量が、フラックス全体に対して0wt%超60wt%以下である、上記[3]記載のフラックス。
[5]
前記フラックスはチキソ剤をさらに含む、上記[3]又は[4]に記載のフラックス。
[6]
前記フラックスは、さらに、
アミンを0wt%以上20wt%以下、
有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、
アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上2wt%以下、又は
酸化防止剤を0wt%以上5wt%以下
樹脂を0wt%以上80wt%以下、
含む、上記[3]~[5]のいずれかに記載のフラックス。
[7]
上記[3]~[6]のいずれか記載のフラックスと、はんだ合金と、を含むはんだペースト。
[8]
前記はんだ合金が、
As:25~300質量ppm、Bi:0質量ppm以上25000質量ppm以下、Pb:0質量ppm超え8000質量ppm以下、及び残部がSnからなる合金組成を有し、下記(1)式及び(2)式:
275≦2As+Bi+Pb (1)
0<2.3×10-4×Bi+8.2×10-4×Pb≦7 (2)
[上記(1)式及び(2)式中、As、Bi、及びPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す]
を満たす、上記[7]記載のはんだペースト。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フラックス残渣の残渣割れを抑制し、且つ、はんだ濡れ性にも優れたはんだ付け用のフラックスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[フラックス]
本実施の形態のはんだ合金をはんだ付けするためのフラックスは、マレイン酸変性ロジンエステル、マレイン酸変性ロジンアミド、前記マレイン酸変性ロジンエステルの水添物、及び前記マレイン酸変性ロジンアミドの水添物からなる群より選ばれる1種以上を含むフラックス用組成物と、溶剤とを含有する。
本実施形態のフラックス用組成物を使用することにより、フラックス残渣の残渣割れを十分に抑制し、且つ、はんだ濡れ性を向上させることができる。はんだ付けは、フローはんだ付け及びリフローはんだ付けのいずれにも用いることができるが、本発明の効果がより顕著となるため、リフローはんだ付けに用いることが好ましい。
【0014】
[マレイン酸変性ロジンエステル/マレイン酸変性ロジンアミド]
本実施形態のフラックス組成物は、マレイン酸変性ロジンエステル、マレイン酸変性ロジンアミド、前記マレイン酸変性ロジンエステルの水添物、及び前記マレイン酸変性ロジンアミドの水添物からなる群より選ばれる1種以上を含む。
【0015】
マレイン酸変性ロジンエステルとしては、特に限定されず、例えば、マレイン酸変性ロジンモノメチルエステル、マレイン酸変性ロジンモノエチルエステル、マレイン酸変性ロジンモノイソプロピルエステル、マレイン酸変性ロジンモノエチレングリコールエステル等のマレイン酸変性ロジンモノエステル;マレイン酸変性ロジンジメチルエステル等のマレイン酸変性ロジンジエステル等が挙げられる。これらの中でも、フラックス活性や相溶性の観点から、カルボン酸が残存するモノエステルが好ましく、イソプロピルエステルが特に好ましい。
【0016】
マレイン酸変性ロジンエステルとしては、例えば、以下の式(1)又は(2)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
【化8】
【化9】
【0018】
(式中、Rは置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキル基、アルキレングリコール基、又は末端変性ポリアルキレンオキシド基を示す。)
【0019】
ただし、アルキレングリコール基は、以下の式(i)で表される1価の基を示し、式(i)中、R1は各々独立に炭素数1~4の直鎖若しくは分岐のアルキレン基を示し、nは1~500の整数を示す。
H-(OR1n- (i)
【0020】
また、末端変性ポリアルキレンオキシド基は、以下の式(ii)で表される1価の基を示し、式(ii)中、R1は各々独立に炭素数1~4の直鎖若しくは分岐のアルキレン基を示し、Xはアミノ基、炭素数1~40の直鎖若しくは分岐のアルキルエステル基、又は炭素数1~40の直鎖若しくは分岐のアルキルエーテル基を示し、nは0~500の整数を示す。
X-R1-(OR1n- (ii)
【0021】
Rで示されるアルキル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1~54である。Rで示されるアルキレングリコール基、及び末端変性ポリアルキレンオキシド基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1~500である。また、式(i)及び式(ii)中、Xのアルキル部の炭素数は好ましくは1~24であり、R1の炭素数は好ましくは1~3である。また、式(i)及び式(ii)中、nは好ましくは1~500であり、より好ましくは1~100であり、更に好ましくは1~10である。末端変性ポリアルキレンオキシド基としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体等のポリアルキレングリコールの水酸基末端に、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びベへニルアルコールのような炭素数1~40のアルコール、又は、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸のような炭素数1~40のカルボン酸が付加した基;及び、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体等のポリアルキレングリコールの水酸基末端がアミノ基に変性された基等が挙げられる。
【0022】
また、マレイン酸変性ロジンエステルとしては、以下の式(3)で示されるマレイン酸変性ロジンエステル2量体やマレイン酸変性ロジンエステル多量体等の、マレイン酸変性ロジンエステルが2種以上縮合もしくはアルコール等を介して結合した化合物も含まれる。
【0023】
【化10】
【0024】
(式中、R’は置換されていてもよい、直鎖若しくは分岐のアルキレン基、又は2価のアルキレングリコール基を示す。)
【0025】
ただし、2価のアルキレングリコール基は、以下の式(iii)で表される2価の基を示し、式(iii)中、R2、及びR3は各々独立に炭素数1~4の直鎖若しくは分岐のアルキレン基を示し、nは0~500の整数を示す。)
-R2-(OR3n- (iii)
【0026】
R’で示されるアルキレン基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1~54である。R’で示される2価のアルキレングリコール基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1~500である。また、式(iii)中、R2、及びR3の炭素数は好ましくは1~3である。また、式(iii)中、nは好ましくは1~500であり、より好ましくは1~100であり、更に好ましくは1~10である。
【0027】
マレイン酸変性ロジンアミドとしては、特に限定されず、マレイン酸変性ロジンとシクロヘキシルアミンの脱水縮合物や、マレイン酸変性ロジンとシクロヘキシルアミンの脱水縮合物のシクロヘキシルアミン塩等が挙げられる。具体的には、例えば、以下の式(4)又は(5)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、フラックス活性や相溶性の観点から、マレイン酸変性ロジンモノシクロヘキシルアミド、マレイン酸変性水添ロジンシクロヘキシルアミドが好ましい。
【0028】
【化11】
【化12】
(式中、Rは上記と同義である。)
【0029】
また、マレイン酸変性ロジンアミドとしては、以下の式(6)で示されるマレイン酸変性ロジンアミド2量体やマレイン酸変性ロジンアミド多量体等の、マレイン酸変性ロジンアミドが2種以上縮合もしくはアミン等を介して結合した化合物も含まれる。
【0030】
【化13】
(式中、R’は上記と同義である。)
【0031】
さらに、マレイン酸変性ロジン酸アミドとしては、以下の式(7)で示されるマレイン酸変性ロジンアミドとマレイン酸変性ロジンエステルが直接もしくはアミンやアルコール等を介して結合した化合物も含まれる。
【0032】
【化14】
(式中、R’は上記と同義である。)
【0033】
また、マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドとしては、上述した化合物の各種異性体(構造異性体、光学異性体等)や、上述した化合物の塩(アミン塩等)も含まれる。
【0034】
マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドの水添物とは、これらの化合物中に存在する炭素-炭素2重結合が水素添加された化合物を意味する。例えば、上記式(1)で表されるマレイン酸変性ロジンエステルの水添物は、以下の式(8)で表される構造を有する。
【0036】
【化15】
(式中、Rは上記と同義である。)
【0037】
また、上述した各種マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドは、公知の方法を用いて製造することができる。公知の方法としては、例えば、特開2017-186324号公報の実施例1に記載の無溶剤系の反応や、実施例6の疎水性溶剤中での反応を採用することができる。マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドの合成に用いられる原料ロジンとしては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン及びウッドロジン並びにそれらの精製物(精製ロジン)等が挙げられる。また、原料ロジンとしては、例えば、「D.F.Zinkel, J.Russell 編 長谷川吉弘 訳(1993), 松の化学 生産・化学・用途, 361-362」に記載されているような生松ヤニや市販ガムロジンを用いてもよい。すなわち、本実施形態のマレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドは、上述した各種原料ロジン及び(水添)マレイン酸変性ロジン等の原料ロジンから得られるロジン誘導体をエステル化若しくはアミド化することにより得られる化合物を含んでいてもよい。
【0038】
マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドの含有量は、フラックス全体に対して、好ましくは0wt%超60wt%以下であり、より好ましくは5wt%以上、更に好ましくは10wt%以上、更により好ましくは20wt%以上、特に好ましくは30wt%以上であり、上限としては、より好ましくは50wt%以下であり、更に好ましくは40wt%以下である。マレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミドの含有量が多いほど、フラックス残渣の残渣割れの抑制効果がより顕著となる傾向にある。
【0039】
本実施形態のフラックスは、上述したマレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミド、並びにそれらの水添物以外の樹脂を含んでいてもよい。樹脂としては、従来はんだ付け用フラックスに使用されている各種樹脂を使用することができる。このような樹脂としては、例えば、ロジン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、スチレン-マレイン酸共重合体、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及び、これらの混合物が挙げられ、この中でも、ロジン系樹脂が一般的によく用いられている。ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン等の天然ロジンや、その誘導体(重合ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、酸変性ロジン、ロジンエステル等)が挙げられる。
【0040】
フラックス中の樹脂の含有量に限定はなく、リフロー用はんだ付けのフラックスとして用いる場合、例えば、10~80質量%の範囲内とすることができ、20~70質量%の範囲内としてもよいし、30~60質量%の範囲内としてもよい。フロー用はんだ付けのフラックスとして用いる場合は、例えば、3~18質量%の範囲内とすることができ、6~15質量%の範囲内としてもよいし、9~12質量%の範囲内としてもよい。
【0041】
本実施形態のフラックスに含まれる溶剤としては、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはイソプロピルアルコール、1,2-ブタンジオール、イソボルニルシクロヘキサノール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)エタン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2,2’-オキシビス(メチレン)ビス(2-エチル-1,3-プロパンジオール)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、ビス[2,2,2-トリス(ヒドロキシメチル)エチル]エーテル、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、エリトリトール、トレイトール、グアヤコールグリセロールエーテル、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、ヘキシルジグリコール、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0042】
本実施の形態のフラックスは、活性剤として、さらに、有機酸、アミン、ハロゲン(有機ハロゲン化合物、アミンハロゲン化水素酸塩)を含んでもよい。
本実施の形態のフラックスは、リフロー用はんだ付けのフラックスとして用いる場合、有機酸を0wt%以上10wt%以下含むことが好ましい。本実施の形態のフラックスは、リフロー用はんだ付けのフラックスとして用いる場合、アミンを0wt%以上20wt%以下含むことが好ましく、より好ましくは、アミンを0wt%以上5wt%以下含む。本実施の形態のフラックスは、リフロー用はんだ付けのフラックスとして用いる場合、ハロゲンとして有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下含むことが好ましく、アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上2wt%以下含むことが好ましい。
本実施の形態のフラックスは、フロー用はんだ付けのフラックスとして用いる場合、活性剤を0.1wt%以上12.0wt%以下含むことが好ましく、より好ましくは0.3wt%以上8.0wt%以下、さらに好ましくは0.5wt%以上4.0wt%以下含む。
【0043】
有機酸としては、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコサン二酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、サリチル酸、ジグリコール酸、ジピコリン酸、ジブチルアニリンジグリコール酸、スベリン酸、セバシン酸、チオグリコール酸、テレフタル酸、ドデカン二酸、パラヒドロキシフェニル酢酸、フェニルコハク酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、ラウリン酸、安息香酸、酒石酸、イソシアヌル酸トリス(2-カルボキシエチル)、グリシン、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジエチルグルタル酸、2-キノリンカルボン酸、3-ヒドロキシ安息香酸、リンゴ酸、p-アニス酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0044】
また、有機酸としては、ダイマー酸、トリマー酸、ダイマー酸に水素を添加した水添物である水添ダイマー酸、トリマー酸に水素を添加した水添物である水添トリマー酸が挙げられる。
【0045】
例えば、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とメタクリル酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とメタクリル酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸の反応物であるトリマー酸、リノール酸の反応物であるダイマー酸、リノール酸の反応物であるトリマー酸、リノレン酸の反応物であるダイマー酸、リノレン酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とオレイン酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とオレイン酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とオレイン酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とオレイン酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、リノール酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、リノール酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、上述した各ダイマー酸の水添物である水添ダイマー酸、上述した各トリマー酸の水添物である水添トリマー酸等が挙げられる。
【0046】
アミンとしては、モノエタノールアミン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジン、エチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、エポキシ-イミダゾールアダクト、2-メチルベンゾイミダゾール、2-オクチルベンゾイミダゾール、2-ペンチルベンゾイミダゾール、2-(1-エチルペンチル)ベンゾイミダゾール、2-ノニルベンゾイミダゾール、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-tert-オクチル-6’-tert-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1-(1’,2’-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2,3-ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-[(2-エチルヘキシルアミノ)メチル]ベンゾトリアゾール、2,6-ビス[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]-4-メチルフェノール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0047】
有機ハロゲン化合物としては、trans-2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、トリアリルイソシアヌレート6臭化物、1-ブロモ-2-ブタノール、1-ブロモ-2-プロパノール、3-ブロモ-1-プロパノール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール、1,4-ジブロモ-2-ブタノール、1,3-ジブロモ-2-プロパノール、2,3-ジブロモ-1-プロパノール、2,3-ジブロモ-1,4-ブタンジオール、2,3-ジブロモ-1,4-ブタンジオール、2,3-ジブロモ-2-ブテン-1,4-ジオール、イソシアヌル酸トリス(2,3-ジブロモプロピル)、無水クロレンド酸等が挙げられる。
【0048】
アミンハロゲン化水素酸塩は、アミンとハロゲン化水素を反応させた化合物である。
アミンハロゲン化水素酸塩のアミンとしては、上述したアミンを用いることができ、エチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジン、メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。ハロゲン化水素としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素の水素化物(塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、フッ化水素)が挙げられる。また、アミンハロゲン化水素酸塩に代えて、あるいはアミンハロゲン化水素酸塩と合わせてホウフッ化物を含んでもよく、ホウフッ化物としてホウフッ化水素酸等が挙げられる。
アミンハロゲン化水素酸塩としては、アニリン塩化水素、シクロヘキシルアミン塩化水素、アニリン臭化水素、ジフェニルグアニジン臭化水素、ジトリルグアニジン臭化水素、エチルアミン臭化水素等が挙げられる。
【0049】
本実施の形態のフラックスは、更に、酸化防止剤を含んでもよく、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられ、リフロー用はんだ付けフラックスとして用いる場合、酸化防止剤を0wt%以上5wt%以下含むことが好ましく、フロー用はんだ付けフラックスとして用いる場合、酸化防止剤を0wt%以上5wt%以下含むことが好ましく、より好ましくは0wt%以上2wt%以下である。
【0050】
本実施形態のフラックスは、チキソ剤を含んでいてもよい。
チキソ剤としては、ワックス系チキソ剤、アマイド系チキソ剤、ソルビトール系チキソ剤等が挙げられる。ワックス系チキソ剤としては例えばヒマシ硬化油等が挙げられる。アマイド系チキソ剤としては、モノアマイド系チキソ剤、ビスアマイド系チキソ剤、ポリアマイド系チキソ剤が挙げられ、具体的には、ラウリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、飽和脂肪酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、不飽和脂肪酸アマイド、p-トルエンメタンアマイド、芳香族アマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、飽和脂肪酸ビスアマイド、メチレンビスオレイン酸アマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイド、m-キシリレンビスステアリン酸アマイド、芳香族ビスアマイド、飽和脂肪酸ポリアマイド、不飽和脂肪酸ポリアマイド、芳香族ポリアマイド、置換アマイド、メチロールステアリン酸アマイド、メチロールアマイド、脂肪酸エステルアマイド等が挙げられる。ソルビトール系チキソ剤としては、ジベンジリデン-D-ソルビトール、ビス(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール等が挙げられる。
【0051】
また、本実施の形態のフラックスは、チキソ剤としてエステル化合物を含んでいてもよい。エステル化合物としては、例えば、ヒマシ硬化油等が挙げられる。
【0052】
フラックスに含まれるチキソ剤の合計量は、リフロー用はんだ付けフラックスとして用いる場合、0wt%以上15wt%以下であることが好ましく、0wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。また、アマイド系チキソ剤の含有量は、リフロー用はんだ付けフラックスとして用いる場合、好ましくは0wt%以上12wt%以下であり、エステル化合物の含有量は好ましくは、リフロー用はんだ付けフラックスとして用いる場合、0wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは0wt%以上4.0wt%以下である。
フラックスに含まれるチキソ剤の合計量は、フロー用はんだ付けフラックスとして用いる場合、0wt%以上3wt%以下であることが好ましく、0wt%以上1wt%以下であることがより好ましい。
【0053】
[はんだペースト]
本実施形態のフラックスは、フローはんだ付け、リフローはんだ付けのいずれにも用いることができるが、本発明の効果がより顕著になる傾向にあるため、リフローはんだ付けに用いることが好ましい。
【0054】
本実施形態のはんだペーストは、上述したフラックスと、はんだ合金とを含む。
はんだ合金としては、特に限定されないが、
As:25~300質量ppm、Bi:0質量ppm以上25000質量ppm以下、Pb:0質量ppm超え8000質量ppm以下、及び残部がSnからなる合金組成を有し、下記(1)式及び(2)式:
275≦2As+Bi+Pb (1)
0<2.3×10-4×Bi+8.2×10-4×Pb≦7 (2)
[上記(1)式及び(2)式中、As、Bi、及びPbは各々前記合金組成での含有量(質量ppm)を表す]
を満たすことが好ましい。
【0055】
Asは、はんだペーストの粘度の経時変化を抑制することができる元素である。Asはフラックスとの反応性が低く、またSnに対して貴な元素であるために増粘抑制効果を発揮することができると推察される。Asが25質量ppm未満であると、増粘抑制効果を十分に発揮することができない。As含有量の下限は25質量ppm以上であり、好ましくは50質量ppm以上であり、より好ましくは100質量ppm以上である。一方、Asが多すぎるとはんだ合金の濡れ性が劣化する。As含有量の上限は300質量ppm以下であり、このましくは250質量ppm以下であり、より好ましくは200質量ppm以下である。
【0056】
Bi及びPbはフラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素である。また、これらの元素は、はんだ合金の液相線温度を下げることで、Asによる濡れ性の劣化を抑えることができる元素である。
【0057】
Bi及びPbの少なくとも1元素が存在すれば、Asによる濡れ性の劣化を抑えることができる。本実施形態に係るはんだ合金がBiを含有する場合、Bi含有量の下限は0質量ppm超えであり、好ましくは25質量ppm以上であり、より好ましくは50質量ppm以上であり、さらに好ましくは75質量ppm以上であり、特に好ましくは100質量ppm以上であり、最も好ましくは250質量ppm以上である。本実施形態に係るはんだ合金がPbを含有する場合、Pb含有量の下限は0質量ppm超えであり、好ましくは25質量ppm以上であり、より好ましくは50質量ppm以上であり、さらに好ましくは75質量ppm以上であり、特に好ましくは100質量ppm以上であり、最も好ましくは250質量ppm以上である。
【0058】
一方、これらの元素の含有量が多すぎると、固相線温度が著しく低下するため、液相線温度と固相線温度との温度差であるΔTが広くなりすぎる。ΔTが広すぎると、溶融はんだの凝固過程において、BiやPbの含有量が少ない高融点の結晶相が析出するために液相のBiやPbが濃縮される。その後、さらに溶融はんだの温度が低下すると、BiやPbの濃度が高い低融点の結晶相が偏析してしまう。このため、はんだ合金の機械的強度等が劣化することになる。特に、Bi濃度が高い結晶相は硬くて脆いため、はんだ合金中で偏析すると機械的強度等が著しく低下する。
【0059】
このような観点から、本実施形態に係るはんだ合金がBiを含有する場合、Bi含有量の上限は25000質量ppm以下であり、好ましくは10000質量ppm以下であり、より好ましくは1000質量ppm以下であり、さらに好ましくは600質量ppm以下であり、特に好ましくは500質量ppm以下である。本実施形態に係るはんだ合金がPbを含有する場合、Pb含有量の上限値は8000質量ppm以下であり、好ましくは5100質量ppm以下であり、より好ましくは5000質量ppm以下であり、さらに好ましくは1000質量ppm以下であり、特に好ましくは850質量ppm以下であり、最も好ましくは500質量ppm以下である。
【0060】
本実施形態に係るはんだ合金は、下記(1)式を満たすことが好ましい。
【0061】
275≦2As+Bi+Pb (1)
上記(1)式中、As、Bi、及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【0062】
As、Bi及びPbは、いずれも増粘抑制効果を示す元素である。これらの合計量は230質量ppm以上であることが好ましい。(1)式中、As含有量を2倍にしたのは、AsがBiやPbと比較して増粘抑制効果が高いためである。
【0063】
(1)式が275未満であると、増粘抑制効果が十分に発揮されない。(1)式の下限は275以上であり、好ましくは300以上であり、より好ましくは700以上であり、さらに好ましくは900以上である。一方、(1)の上限は、増粘抑制効果の観点では特に限定されることはないが、ΔTを適した範囲にする観点から、好ましくは25200以下であり、より好ましくは15200以下であり、さらに好ましくは10200以下であり、特に好ましくは8200以下であり、最も好ましくは5300以下である。
【0064】
上記好ましい態様の中から上限及び下限を適宜選択したものが、下記(1a)式及び(1b)式である。
【0065】
275≦2As+Bi+Pb≦25200 (1a)
275≦2As+Bi+Pb≦5300 (1b)
上記(1a)及び(1b)式中、As、Bi、及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【0066】
本実施形態に係るはんだ合金は、下記(2)式を満たすことが好ましい。
【0067】
0<2.3×10-4×Bi+8.2×10-4×Pb≦7 (2)
上記(2)式中、Bi、及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【0068】
Bi及びPbは、Asを含有することによる濡れ性の劣化を抑制するが、含有量が多すぎるとΔTが上昇してしまうため、厳密な管理が必要である。特に、Bi及びPbを同時に含有する合金組成では、ΔTが上昇しやすい。本実施形態では、BiとPbの含有量に所定の係数を乗じた値の合計を規定することにより、ΔTの上昇を抑制することができる。(2)式ではPbの係数がBiの係数より大きい。PbはBiと比較してΔTへの寄与度が大きく、含有量が少し増加しただけでΔTが大幅に上昇してしまうためである。
【0069】
(2)式が0であるはんだ合金は、Bi及びPbの両元素を含有しないことになり、Asを含有したことによる濡れ性の劣化を抑制することができない。(2)式の下限は0超えであり、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.03以上であり、さらに好ましくは0.05以上であり、特に好ましくは0.06以上であり、最も好ましくは0.11以上である。一方、(2)式が7を超えるとΔTの温度域が広くなりすぎるため、溶融はんだの凝固時にBiやPbの濃度が高い結晶相が偏析して機械的強度等が劣化する。(2)の上限は7以下であり、好ましくは6.56以下であり、より好ましくは6.40以下であり、さらに好ましくは5.75以下であり、さらにより好ましくは4.18以下であり、特に好ましくは2.30以下であり、最も好ましくは0.90以下である。
【0070】
上記好ましい態様の中から上限及び下限を適宜選択したものが、下記(2a)式である。
【0071】
0.02≦2.3×10-4×Bi+8.2×10-4×Pb≦0.9 (2a)
上記(2a)式中、Bi及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
【0072】
Agは、結晶界面にAg3Snを形成してはんだ合金の機械的強度等を向上させることができる任意元素である。また、Agはイオン化傾向がSnに対して貴な元素であり、As、Pb、及びBiと共存することによりこれらの増粘抑制効果を助長する。Ag含有量は好ましくは0~4%であり、より好ましくは0.5~3.5%であり、さらに好ましくは1.0~3.0%である。
【0073】
Cuは、はんだ継手の接合強度を向上させることができる任意元素である。また、Cuはイオン化傾向がSnに対して貴な元素であり、As、Pb、及びBiと共存することによりこれらの増粘抑制効果を助長する。Cu含有量は好ましくは0~0.9%であり、より好ましくは0.1~0.8%%であり、さらに好ましくは0.2~0.7%である。
【0074】
本実施形態に係るはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。また、後述するように、本実施形態では含有しない元素が不可避的不純物として含有されても前述の効果に影響することはない。Inは、含有量が多すぎるとΔTが広がるため、1000質量ppm以下であれば前述の効果に影響することはない。
【0075】
はんだペースト中のはんだ合金及びフラックスの含有量に限定はなく、例えば、はんだ合金を5~95wt%、フラックスを5~95wt%とすることができる。
【0076】
本実施形態に係るはんだペーストは、酸化ジルコニウム粉末を含有することが好ましい。酸化ジルコニウムは、経時変化に伴うペーストの粘度上昇を抑制することができる。これは、酸化ジルコニウムを含有することにより、はんだ粉末表面の酸化膜厚がフラックス中に投入する前の状態を維持するためと推測される。詳細は不明であるが、以下のように推察される。通常、フラックスの活性成分は常温でもわずかに活性を持っているため、はんだ粉末の表面酸化膜が還元により薄くなり、粉末同士が凝集する原因になっている。そこで、はんだペーストに酸化ジルコニウム粉末を添加することで、フラックスの活性成分が酸化ジルコニウム粉末と優先的に反応し、はんだ粉末表面の酸化膜が凝集しない程度に維持されると推察される。
【0077】
このような作用効果を十分に発揮するためには、はんだペースト中の酸化ジルコニウム粉末の含有量ははんだペーストの全質量に対して0.05~20.0%であることが好ましい。0.05%以上であると上記作用効果を発揮することができ、20.0%以下であると金属粉末の含有量を確保することができ、増粘防止効果を発揮することができる。酸化ジルコニウムの含有量は好ましくは0.05~10.0%であり、より好ましい含有量は0.1~3%である。
【0078】
はんだペースト中の酸化ジルコニウム粉末の粒径は5μm以下であることが好ましい。粒径が5μm以下であるとペーストの印刷性を維持することができる。下限は特に限定されることはないが0.5μm以上であればよい。上記粒径は、酸化ジルコニウム粉末のSEM写真を撮影し、0.1μm以上の各粉末について画像解析により投影円相当径を求め、その平均値とした。
【0079】
酸化ジルコニウムの形状は特に限定されないが、異形状であればフラックスとの接触面積が大きく増粘抑制効果がある。球形であると良好な流動性が得られるためにペーストとしての優れた印刷性が得られる。所望の特性に応じて適宜形状を選択すればよい。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0081】
以下の表1~6に示す組成で実施例A1~45と比較例A1~3のフラックスを調合し、このフラックスを使用してはんだペーストを調合して、フラックスの濡れ速度について検証した。
なお、以下の表における組成率は、フラックスの全量を100とした場合のwt(質量)%である。
【0082】
はんだペーストは、フラックスが11wt%、金属粉が89wt%である。また、はんだペースト中の金属粉は、Agが3.0wt%、Cuが0.5wt%、残部がSnであるSn-Ag-Cu系のはんだ合金であり、金属粉の粒径の平均はφ20μmである。
【0083】
<フラックスの検討>
(1)はんだ濡れ性(濡れ速度)の評価
(検証方法)
はんだペーストの濡れ速度は、メニスコグラフ試験の方法に準拠し、幅5mm×長さ25mm×厚さ0.5mmの銅板を150℃で1時間酸化処理し、試験板である酸化銅板を得て、試験装置としてSolder Checker SAT-5200(RHESCA社製)を用い、はんだとしてSn-3Ag-0.5Cu(各数値はwt%)を用いて、次のように評価した。
まず、ビーカーに測り取った実施例及び比較例それぞれのフラックスに対して、試験板を5mm浸漬させ、試験板にフラックスを塗布した。続いて、フラックスを塗布後、速やかにフラックスが塗布された試験板をはんだ槽に浸漬させ、ゼロクロスタイム(sec)を得た。続いて、実施例及び比較例それぞれのフラックスにつき5回の測定を行い、得られた5個のゼロクロスタイム(sec)の平均値を算出した。試験条件を以下のように設定した。
はんだ槽への浸漬速度:5mm/sec(JIS Z 3198-4:2003)
はんだ槽への浸漬深さ:2mm(JIS Z 3198-4:2003)
はんだ槽への浸漬時間:10sec(JIS Z 3198-4:2003)
はんだ槽温度:245℃(JIS C 60068-2-69:2019)
ゼロクロスタイム(sec)の平均値が短いほど、濡れ速度は高くなり、はんだ濡れ性が良いことを意味する。
【0084】
(判定基準)
〇:ゼロクロスタイム(sec)の平均値が6秒以下である。
×:ゼロクロスタイム(sec)の平均値が6秒を超える。
【0085】
(2)残渣割れ抑制の評価
1.5x0.25mmの大きさの電極パッドが0.4mmピッチで64列並んだ基板に0.15mmの厚さのメタルマスクを使ってペーストを印刷し、リフロー炉を使用してはんだ付けをした(リフローピーク温度は240℃)。リフロー後、24時間以上常温環境で放置した後、パッド間に存在するフラックス残渣の中にあるクラックの数をカウントし、以下に従って評価した。
〇:残渣割れが15個以下
×:残渣割れが15個超
【0086】
なお、表中のマレイン酸変性ロジンエステル及びマレイン酸変性ロジンアミド化合物は、いずれもその異性体(構造異性体・立体異性体)を含む。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
本実施形態のフラックスは、マレイン酸変性ロジンエステル、マレイン酸変性ロジンアミド、前記マレイン酸変性ロジンエステルの水添物、及び前記マレイン酸変性ロジンアミドの水添物からなる群より選ばれる1種以上を含有することで、フラックス残渣の残渣割れが抑制され、且つ、はんだ濡れ性にも優れていた。
【0094】
<はんだ合金の検討>
実施例A1で調整したフラックスと、表7~表12に示す合金組成からなりJIS Z 3284-1:2014における粉末サイズの分類(表2)において記号4を満たすサイズ(粒度分布)のはんだ合金とを混合してはんだペーストを作製した。フラックスとはんだ合金との質量比は、フラックス:はんだ粉末=11:89である。各はんだペーストについて、粘度の経時変化を測定した。また、はんだ粉末の液相線温度及び固相線温度を測定した。さらに、作製直後のはんだペーストを用いて濡れ性の評価を行った。詳細は以下のとおりである。
【0095】
(3)経時変化
作製直後の各はんだペーストについて、株式会社マルコム社製:PCU-205を用い、回転数:10rpm、25℃、大気中で12時間粘度を測定した。12時間後の粘度がはんだペーストを作製後30分経過した時の粘度と比較して1.2倍以下であれば、十分な増粘抑制効果が得られたものとして「○」と評価し、1.2倍を超える場合には「×」と評価した。
【0096】
(4)ΔT
フラックスと混合する前のはんだ合金について、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型番:EXSTAR DSC7020を用い、サンプル量:約30mg、昇温速度:15℃/minにてDSC測定を行い、固相線温度及び液相線温度を得た。得られた液相線温度から固相線温度を引いてΔTを求めた。ΔTが10℃以下の場合に「○」と評価し、10℃を超える場合に「×」と評価した。
【0097】
(5)濡れ性
作製直後の各はんだペーストをCu板上に印刷し、リフロー炉でN2雰囲気中、1℃/sの昇温速度で25℃から260℃まで加熱した後、室温まで冷却した。冷却後のはんだバンプの外観を光学顕微鏡で観察することで濡れ性を評価した。溶融しきれていないはんだ粉末が観察されない場合に「○」と評価し、溶融しきれていないはんだ粉末が観察された場合に「×」と評価した。
【0098】
(6)総合評価
〇:上記の各評価が全て〇
×:上記の各評価において×あり
【0099】
【表7】
【0100】
【表8】
【0101】
【表9】
【0102】
【表10】
【0103】
【表11】
【0104】
【表12】
【0105】
表7~12に示すように、実施例A1のフラックスと、実施例B2のはんだ合金とを含むはんだペーストについて評価した結果、増粘抑制効果、ΔT、及び濡れ性のいずれにおいても良好な結果が得られた。
【0106】
これに対して、比較例B1、B10、B19、B28、B37、及びB46は、Asを含有しないため、増粘抑制効果が発揮されなかった。
【0107】
比較例B2、B11、B20、B29、B38、及びB47は、(1)式が下限未満であるため、増粘抑制効果が発揮されなかった。
【0108】
比較例B3、B4、B12、B13、B21、B22、B30、B31、B39、B40、B48、及びB49は、As含有量が上限値を超えているため、濡れ性が劣る結果を示した。
【0109】
比較例B5、B7、B9、B14、B16、B18、B23、B25、B27、B32、B34、B36、B41、B43、B45、B50、B52、及びB54は、Pb含有量及び(2)式が上限値を超えているため、ΔTが10℃を超える結果を示した。
【0110】
比較例B6、B15、B24、B33、B42、及びB51は、(2)式が上限値を超えているため、ΔTが10℃を超える結果を示した。
【0111】
比較例B8、B17、B26、B35、B44、及びB53は、Bi含有量及び(2)式が上限値を超えているため、ΔTが10℃を超える結果を示した。
【0112】
<フラックスとはんだ合金の組み合わせ>
【0113】
実施例A1のフラックスに代えて、実施例A2~A45の各種フラックスをそれぞれ使用し、実施例Bの各種はんだ合金をそれぞれ組み合わせた場合も、増粘抑制効果、ΔT、及び濡れ性において良好な結果が得られた。
【0114】
<フローはんだ付け用フラックス組成物の調製>
以下の表13~15に示す組成で参考例C1~C36のフローはんだ付け用フラックス組成物を調合した。
【0115】
【表13】
【表14】
【表15】
【0116】
本実施形態のフラックスは、フローはんだ付け用フラックスとした場合でも、フラックス残渣の残渣割れが抑制され、且つ、はんだ濡れ性にも優れていた。