(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】タイヤ形状決定方法、タイヤ形状決定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60C 19/12 20060101AFI20240731BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240731BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20240731BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240731BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240731BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B60C19/12 Z
G06F30/10
G06F30/27
G06F30/10 100
G06F30/23
G06N20/00
G01M17/02
(21)【出願番号】P 2020171918
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】前田 成人
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-093693(JP,A)
【文献】特開2013-189160(JP,A)
【文献】特開2015-022320(JP,A)
【文献】特開2020-149423(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031811(WO,A1)
【文献】特開2014-051164(JP,A)
【文献】特開2013-184636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/12
G06F 30/10
G06F 30/27
G06F 30/23
G06N 20/00
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、をコンピュータ内で起動して、コンピュータがタイヤ形状を決定するタイヤ形状決定方法であって、
(A)前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いて作成したオリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するステップと、
(B)前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするステップと、
(C)前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するステップと、
(D)前記(A)~(C)のステップを繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記再現タイヤ形状の前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、抽出した前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させるステップと、
(E)所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記目標値に対応する前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定するステップと、
を有することを特徴とするタイヤ形状決定方法。
【請求項2】
タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、をコンピュータ内で起動して、コンピュータがタイヤ形状を決定するタイヤ形状決定方法であって、
(A)前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成するステップと、
(B)前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するステップと、
(C)作成した前記オリジナルタイヤ形状を、前記第1タイヤ形状作成システムで前記寸法パラメータを用いて再現した再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するステップと、
(D)前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするステップと、
(E)前記(A)~(D)のステップを繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記(B)のステップで得られる前記再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、抽出した前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させるステップと、
(F)所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記目標値に対応する前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記所望のタイヤ性能の前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定するステップと、
を有することを特徴とするタイヤ形状決定方法。
【請求項3】
前記寸法パラメータの値の抽出では、前記第1タイヤ形状作成システムで作成するタイヤ形状の輪郭線と前記オリジナルタイヤ形状の輪郭線との誤差を目的関数とし、前記寸法パラメータの値を未知変数とする最小問題として前記寸法パラメータの値を抽出する、請求項1または2に記載のタイヤ形状決定方法。
【請求項4】
前記オリジナルタイヤ形状は、タイヤの外表面の形状である、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ形状決定方法。
【請求項5】
前記(A)で用いる前記非寸法パラメータの値を、前記シミュレーションの計算結果の値が前記目標値に近づくように、前記シミュレーションを繰り返し行う度に前記シミュレーションの計算結果の値に応じて調整することにより、前記タイヤ性能の前記シミュレーションの計算結果の値と前記寸法パラメータの値の複数セットを用意する、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ形状決定方法。
【請求項6】
前記タイヤ性能の前記シミュレーションの計算は、タイヤに空気を充填することにより変形するタイヤ形状の計算、タイヤが接地したときの接地形状の計算、タイヤが接地したときの接地圧分布の計算、タイヤのばね定数の計算、及び転がり抵抗の計算の少なくともいずれか1つを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ形状決定方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ形状決定方法を、コンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、を用いて、タイヤ形状を決定するタイヤ形状決定装置であって、
前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成する形状作成部と、
作成した前記オリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成部と、
前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするシミュレーション計算部と、
前記形状作成部が作成した前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するパラメータ抽出部と、
前記タイヤモデル作成部による前記タイヤモデルの作成、前記シミュレーション計算部による前記タイヤ性能のシミュレーション、及び前記パラメータ抽出部による前記寸法パラメータの値の抽出を繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、抽出した前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させる予測モデル作成部と、
所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定する形状決定部と、
を有することを特徴とするタイヤ形状決定装置。
【請求項9】
タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、を用いて、タイヤ形状を決定するタイヤ形状決定装置であって、
前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成する形状作成部と、
前記形状作成部が作成した前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するパラメータ抽出部と、
作成した前記オリジナルタイヤ形状を、前記第1タイヤ形状作成システムで前記寸法パラメータを用いて再現した再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するモデル作成部と、
前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするシミュレーション計算部と、
前記形状作成部による前記タイヤ形状の作成、前記モデル作成部による前記タイヤモデルの作成、及び前記シミュレーション計算部による前記タイヤ性能のシミュレーションを繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させる予測モデル作成部と、
所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定する形状決定部と、
を有することを特徴とするタイヤ形状決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータがタイヤ形状を決定するタイヤ形状決定方法と、タイヤ形状の決定をコンピュータに行わせる、コンピュータが実行可能なプログラム、及びタイヤ形状の決定を行うタイヤ形状決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤ製造業者は、タイヤの複数の寸法パラメータを用いて、タイヤのタイヤ断面(タイヤ径方向に沿った断面)の輪郭線を示すタイヤ形状を作成してタイヤを設計している。寸法パラメータは、例えば、タイヤ最大外径、タイヤ最大幅、タイヤトレッド部の曲率半径、タイヤトレッド部の幅、タイヤ最大幅位置等の実測可能なパラメータを含む。このようなタイヤ形状は、タイヤ形状作成システムを用いて作成される。
【0003】
タイヤ形状は、タイヤ性能に影響を与えるため、タイヤが所望のタイヤ性能の目標値を達成するために、上記タイヤ形状作成システムにおいて寸法パラメータの各値を種々変更して種々のタイヤ形状を作成する。さらに、これらのタイヤ形状を備えたタイヤモデル(例えば、有限要素モデル)を作成し、タイヤ性能のシミュレーション計算を行うことにより、最適なタイヤ形状を探索することができる。
これに対して、従来の寸法パラメータを用いることなく、非寸法パラメータの各値を種々変更して種々のタイヤ形状を作成する場合もある。この場合、作成したタイヤ形状を有するタイヤモデル(例えば、有限要素モデル)を作成し、タイヤ性能のシミュレーション計算を行うことにより、最適なタイヤ形状を探索することができる。
【0004】
例えば、製品形状を製品性能の評価値に基づいて最適に設計する際、少ない設計変数で広い設計範囲を規定して、製品性能を最適にする最適製品形状を効率よく求める製品形状設計方法を、タイヤ形状に適用した技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記製品形状設計方法では、タイヤ形状等の製品形状の複数の基底形状を設定して、この基底形状を線型的に組み合わせて複数のサンプル製品形状を生成する形状生成過程と、この形状生成過程によって生成された前記サンプル製品形状の製品性能の評価値を求める性能評価過程と、この性能評価過程で求められた製品性能の評価値に基づき、評価値が最適値となる最適製品形状を抽出する製品形状抽出過程とを含む。
【0007】
上記製品形状設計方法の技術では、基底形状を線型的に組み合わせて複数のサンプル製品形状を生成する際に用いる基底形状に係る重み付け係数が、上記従来のタイヤ形状決定システムで用いる寸法パラメータの代わりに用いられる。この重み付け係数は、タイヤ形状を定めるが、実測できない非寸法パラメータである。
上記製品形状設計方法ではタイヤ形状を安定して作成することはできるが、非寸法パラメータの値は実測可能な寸法ではないので、タイヤ設計者にとって、非寸法パラメータの値からタイヤ性能の向上のための、理解しやすい有益な知見を得ることは難しい。また、上記基底形状に係る重み付け係数に代えて、タイヤ形状をベジェ曲線や非一様有利Bスプライン(NURBS)曲線等の自由曲線で用いる制御点を用いる場合でも、タイヤ設計者にとって、制御点の位置情報からタイヤ性能の向上のための、理解しやすい有益な知見を得ることは難しい。
【0008】
一方、上述の従来のタイヤ形状作成システムでは、実測可能な寸法パラメータを用いるので、タイヤ設計者にとって、寸法パラメータの値からタイヤ性能の向上のための、理解しやすい有益な知見を得ることはできる。しかし、寸法パラメータの各値の組み合わせによっては、タイヤ形状作成システムで行うタイヤ形状の作成プロセスが一部破綻してタイヤ形状の作成ができなくなる場合があり、タイヤ形状を安定して作成することはできない。また、寸法パラメータで定まるタイヤ形状は、自由度の制限を受けて、種々のタイヤ形状を十分な自由度をもって作成することはできない。
【0009】
そこで、本発明は、所望のタイヤ性能の目標値を達成することができるタイヤ形状であって、実測可能な寸法パラメータの値により定まるタイヤ形状を安定して作成することができるタイヤ形状作成方法、タイヤ形状作成装置、及びこのタイヤ形状の作成をコンピュータに実行させるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムをコンピュータ内で起動して、コンピュータがタイヤ形状を決定するタイヤ形状決定方法である。当該方法は、(A)前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いて作成したオリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するステップと、
(B)前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするステップと、
(C)前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するステップと、
(D)前記(A)~(C)のステップを繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記再現タイヤ形状の前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、抽出した前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させるステップと、
(E)所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記目標値に対応する前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定するステップと、
を有する。
【0011】
本発明の一態様も、タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、をコンピュータ内で起動して、コンピュータがタイヤ形状を決定するタイヤ形状決定方法である。当該方法は、
(A)前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成するステップと、
(B)前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するステップと、
(C)作成した前記オリジナルタイヤ形状を、前記第1タイヤ形状作成システムで前記寸法パラメータを用いて再現した再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するステップと、
(D)前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするステップと、
(E)前記(A)~(D)のステップを繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記(B)のステップで得られる前記再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、抽出した前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させるステップと、
(F)所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記目標値に対応する前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記所望のタイヤ性能の前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定するステップと、
を有する。
【0012】
前記寸法パラメータの値の抽出では、前記第1タイヤ形状作成システムで作成するタイヤ形状の輪郭線と前記オリジナルタイヤ形状の輪郭線との誤差を目的関数とし、前記寸法パラメータの値を未知変数とする最小問題として前記寸法パラメータの値を抽出する、ことが好ましい。
【0013】
前記オリジナルタイヤ形状は、タイヤの外表面の形状である、ことが好ましい。
【0014】
前記(A)で用いる前記非寸法パラメータの値を、前記シミュレーションの計算結果の値が前記目標値に近づくように、前記シミュレーションを繰り返し行う度に前記シミュレーションの計算結果の値に応じて調整することにより、前記タイヤ性能の前記シミュレーションの計算結果の値と前記寸法パラメータの値の複数セットを用意する、ことが好ましい。
【0015】
前記タイヤ性能の前記シミュレーションの計算は、タイヤに空気を充填することにより変形するタイヤ形状の計算、タイヤが接地したときの接地形状の計算、タイヤが接地したときの接地圧分布の計算、タイヤのばね定数の計算、及び転がり抵抗の計算の少なくともいずれか1つを含む、ことが好ましい。
【0016】
また、本発明の他の一態様は、前記タイヤ形状決定方法を、コンピュータに実行させることを特徴とするプログラムである。
【0017】
本発明のさらに他の一態様は、タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、を用いて、タイヤ形状を決定するタイヤ形状決定装置である。当該装置は、
前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成する形状作成部と、
作成した前記オリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成部と、
前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするシミュレーション計算部と、
前記形状作成部が作成した前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するパラメータ抽出部と、
前記タイヤモデル作成部による前記タイヤモデルの作成、前記シミュレーション計算部による前記タイヤ性能のシミュレーション、及び前記パラメータ抽出部による前記寸法パラメータの値の抽出を繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、抽出した前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させる予測モデル作成部と、
所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定する形状決定部と、
を有する。
【0018】
さらに、本発明のさらに他の一態様は、タイヤ断面の輪郭線を示すタイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第1タイヤ形状作成システムと、前記タイヤ形状に関して実測できない前記タイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いて前記タイヤ形状を作成する第2タイヤ形状作成システムと、を用いて、タイヤ形状を決定するタイヤ形状決定装置である。当該装置は、
前記第2タイヤ形状作成システムにより前記非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成する形状作成部と、
前記形状作成部が作成した前記オリジナルタイヤ形状を前記第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値を抽出するパラメータ抽出部と、
作成した前記オリジナルタイヤ形状を、前記第1タイヤ形状作成システムで前記寸法パラメータを用いて再現した再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを作成するモデル作成部と、
前記タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションをするシミュレーション計算部と、
前記形状作成部による前記タイヤ形状の作成、前記モデル作成部による前記タイヤモデルの作成、及び前記シミュレーション計算部による前記タイヤ性能のシミュレーションを繰り返し行うことにより、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と前記再現タイヤ形状に関する前記寸法パラメータの値のセットを複数セット用意して、前記タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と前記寸法パラメータとの関係を予測モデルに機械学習させる予測モデル作成部と、
所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した前記予測モデルを用いて前記寸法パラメータの値を算出することにより、前記目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定する形状決定部と、
を有する。
【発明の効果】
【0019】
上述のタイヤ形状作成方法、タイヤ形状作成装置、及びプログラムによれば、所望のタイヤ性能の目標値を達成することができるタイヤ形状であって、実測可能な寸法パラメータの値により定まるタイヤ形状を安定して作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態のタイヤ形状決定方法を説明する図である。
【
図2】一実施形態のタイヤ形状決定方法で用いる第1タイヤ形状作成システムが用いる寸法パラメータの一例を説明する図である。
【
図3】一実施形態のタイヤ形状決定方法で用いる第2タイヤ形状作成システムが用いる非寸法パラメータの一例を説明する図である。
【
図4】
図1に示すタイヤ形状決定方法と異なる他の一実施形態のタイヤ形状決定方法を説明する図である。
【
図5】一実施形態のタイヤ形状決定装置の構成図である。
【
図6】一実施形態のタイヤ形状決定方法のフローの一例を示す図である。
【
図7】他の一実施形態のタイヤ形状決定方法のフローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のタイヤ形状決定方法、タイヤ形状決定装置、及びプログラムについて図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態のタイヤ形状決定方法を説明する図である。
【0022】
(タイヤ形状決定方法)
図1に示すタイヤ形状決定方法は、コンピュータ内で起動する第1タイヤ形状作成システム及び第2タイヤ形状作成システムを用いてコンピュータがタイヤ形状を決定するものである。
第1タイヤ形状作成システムは、タイヤ形状に関して実測可能なタイヤの複数の寸法パラメータを用いてタイヤ形状を作成する。第2タイヤ形状作成システムは、タイヤ形状に関して実測できないタイヤ形状に関する複数の非寸法パラメータを用いてタイヤ形状を作成する。タイヤ形状は、タイヤ径方向に反って切断したタイヤ断面の輪郭線の形状である。
【0023】
図2は、第1タイヤ形状作成システムが用いる寸法パラメータの一例を説明する図である。寸法パラメータは、
図2に示すように、タイヤの外表面の輪郭線を規定する寸法である。寸法パラメータは、タイヤ最大外径DA、タイヤ内径DC、タイヤ最大幅位置DB、タイヤ最大幅WA、タイヤトレッド曲率半径RA,RB,・・・、タイヤサイド曲率半径RC,RD,・・・を少なくとも含む。
このようなパラメータは、タイヤ形状をレーザ変位計で計測することにより、値を取得することができる。このような寸法パラメータを用いてタイヤ形状を作成することができる。
【0024】
図3は、第2タイヤ形状作成システムが用いる非寸法パラメータの一例を説明する図である。第2タイヤ形状作成システムは、予め定めた複数の基底タイヤ形状を重み付け係数で平均化して得られる合成タイヤ形状を作成する。
図3では、基底タイヤ形状は、予め定めたタイヤ形状が異なるが、同じモデル構成の2つの基底タイヤモデルBM1,BM2のタイヤ形状である。基底タイヤモデルBM1,BM2は、例えば有限要素モデルであり、各節点の位置座標及び各要素を構成する節点(節点の番号)が定められている。したがって、タイヤモデルBM1とタイヤモデルBM2のそれぞれに重み付け係数を乗算して平均化する(位置座標の値を重み付け平均する)ことにより、新たなタイヤ形状を有する合成タイヤモデルCMを作成することができる。
図3に示す例では、基底タイヤモデルBM1に係る重み付け係数P1=0.2とし、基底タイヤモデルBM2に係る重み付け係数P2=0.8とした合成タイヤモデルCM1と、基底タイヤモデルBM1に係る重み付け係数P1=0.4とし、基底タイヤモデルBM2に係る重み付け係数P2=0.6とした合成タイヤモデルCM2の例が示されている。タイヤ形状の作成は、
図3に示すようにタイヤモデルを用いてタイヤ形状を作成する必要はなく、複数の基底タイヤ形状を予め揃えておき、各基底タイヤ形状に係る重み付け係数の値を自在に設定して、各基底タイヤ形状を平均化することにより、自在なタイヤ形状を作成することができる。このような重み付け係数P1,P2は、実測できない、タイヤ形状に関する非寸法パラメータである。
図3では、2つの基底タイヤ形状を用いるが、3つ以上の基底タイヤ形状を用いることができる。
【0025】
なお、
図3に示す第2タイヤ形状作成システムでは、複数の基底タイヤ形状のそれぞれに係る重み付け係数を非寸法パラメータとして用いたが、ベジェ曲線や非一様有利Bスプライン(NURBS)曲線等の自由曲線でタイヤ形状を定める場合、これらの自由曲線における制御点の位置座標を非寸法パラメータとして用いることもできる。
【0026】
図1に戻って、まず、第2タイヤ形状システムにおいて非寸法パラメータの値を定めて、例えば
図3に示すような方法によりオリジナルタイヤ形状を作成し、このオリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデル(例えば有限要素法で作成されたタイヤモデル)を作成する。このタイヤモデルを用いて、タイヤ性能を評価するためのシミュレーション計算を行う。このシミュレーション計算は、例えば、タイヤに所定の内圧を充填したときのタイヤ形状の変形計算、タイヤが接地したときの接地形状の計算、タイヤが接地したときの接地圧分布の計算、タイヤのばね定数の計算、及び転がり抵抗の計算が例示される。タイヤ形状の変形、タイヤが接地したときの接地形状、タイヤが接地したときの接地圧分布は、タイヤの耐久性能、摩耗性能、偏摩耗性脳、あるいはタイヤの運動性能に影響を与えるものであり、タイヤ性能の評価において有効な評価要素である。タイヤ形状の変形計算の場合、例えば、注目する位置におけるタイヤ変形量、歪、あるいは応力を算出する。接地形状の計算の場合、例えば、接地形状の形状をアスペクト比や形状(矩形形状、円形状)等の特徴を数値化した値を算出する。接地圧分布の計算では、例えば、2つの注目する位置の接地圧の比率を算出する。勿論、シミュレーション計算として、タイヤ性能として、タイヤを接地して転動する処理を行って、転がり抵抗、摩擦力、摩擦エネルギ、コーナリング時に発生する力やモーメント、突起を踏み込んだ時の振動等を計算してもよい。このようなシミュレーション計算は、周知の技術であるのでその説明は省略する。
【0027】
一方、第1タイヤ形状作成システムでは、第2タイヤ形状作成システムにより非寸法パラメータを用いて作成したオリジナルタイヤ形状を再現した再現タイヤを作成するとき、再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値を抽出する。寸法パラメータの値として、
図1に示すように、タイヤ最大外径DA、タイヤ内径DC、タイヤ最大幅位置DB、タイヤ最大幅WA、タイヤトレッド曲率半径RA,RB・・・、タイヤサイド曲率半径RC,RD,・・・の各値を含む。したがって、第1タイヤ形状作成システムにより作成した再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの各値を得て、シミュレーションの計算結果と寸法パラメータの各値のセットを得ることができる。
第2タイヤ形状作成システムでは、非寸法パラメータの値を種々変更することにより、異なる種々のオリジナルタイヤ形状を作成することができるので、このオリジナルタイヤ形状それぞれから得られるシミュレーションの計算結果と寸法パラメータの各値をセットとして複数セットを用意することができる。
【0028】
こうして用意された複数セットは、コンピュータ内に事前に設定された予測モデルに機械学習させるための学習データとして付与される。これにより、予測モデルに、タイヤ性能のシミュレーションの計算結果と、寸法パラメータとの関係を機械学習させることができる。予測モデルは、周知のディープラーニングに代表されるニューラルネットワークを用いたモデル、複数の決定木を使用して、「分類」または「回帰」をする、周知のランダムフォレスト法を用いたモデル、LASSO回帰を用いたモデルを含む。また、予測モデルとして、多項式あるいはクリギング、RBF(Radial Base Function)を用いた非線形関数を用いることもできる。
【0029】
こうして機械学習をした予測モデルを用いて、所望のタイヤ性能の目標値から、この目標値に対応する寸法パラメータの値を算出することにより、目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定する。さらに、決定した最適なタイヤ形状に対して、タイヤ構成部材の配置及びタイヤ構成部材の厚さや幅を定めることによりタイヤを設計することができる。
【0030】
予測モデルは、寸法パラメータの値を入力データとし、シミュレーション計算結果を予測するように構築されている場合、タイヤ性能の目標値を予測モデルに与えてもこの目標値に対応する寸法パラメータの値を予測して出力することはできない。この場合、寸法パラメータの値を種々変更して、目標値を達成するような最適な寸法パラメータの値を探索することが好ましい。このような最適な寸法パラメータの値の探索には、例えば、進化的アルゴリズムを利用することができる。進化的アルゴリズムは、Genetic Algorithm(遺伝的アルゴリズム)、Differential Evolution、Particle Swarm Optimization、Ant Colony Optimization等を含む。実験計画法やラテンハイパーキューブ法を利用することもできる。
【0031】
第1タイヤ形状作成システムでは、上述したように、寸法パラメータの各値の組み合わせによって、タイヤ形状の作成プロセスが一部破綻してタイヤ形状の作成ができなくなる場合があり、タイヤ形状を安定して作成することはできない場合があるが、第2タイヤ形状作成システムでは、非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を安定して作成することができ、このオリジナルタイヤ形状から、第1タイヤ形状作成システムにおいて最も近似した(再現した)再現タイヤ形状を、寸法パラメータを用いて作成するので、寸法パラメータの値を安定して抽出することができる。しかも、第2タイヤ形状作成システムでは、
図3に示すような基底タイヤ形状を有する基底タイヤモデルを2つ以上用いて、種々のタイヤ形状を作成する場合、タイヤ形状を自由度高く変化させることができるので、目標値に対応するタイヤ形状を確実に得ることができる。
【0032】
図4は、
図1に示すタイヤ形状決定方法と異なる他の一実施形態のタイヤ形状決定方法を説明する図である。
図4に示すタイヤ形状決定方法では、第2タイヤ形状作成システムによりオリジナルタイヤ形状を作成した後、このオリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムに付与して、付与したオリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムにより再現するための寸法パラメータの値、例えばタイヤ最大外径DA、タイヤ内径DC、タイヤ最大幅位置DB等の寸法パラメータの値を抽出して、オリジナルタイヤ形状を再現した再現タイヤ形状を作成する。
オリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムにより再現した再現タイヤ形状を有するタイヤモデル(例えば有限要素法で作成されたタイヤモデル)を作成し、このタイヤモデルを用いて、
図1に示すタイヤ形状決定方法と同様にタイヤ性能のシミュレーション計算を行う。
【0033】
第2タイヤ形状作成システムでは、非寸法パラメータの値を種々変更することにより、異なる種々のオリジナルタイヤ形状を作成することができるので、このオリジナルタイヤ形状それぞれから第1タイヤ形状作成システムにより作成される再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値と、タイヤモデルを用いたシミュレーションの計算結果をセットとして複数セットを用意することができる。
こうして用意された複数セットは、予測モデルを機械学習させるための学習データとして用いられる。
以降の流れは、
図1に示すタイヤ形状決定方法と同様であるので、その説明は省略する。
【0034】
図4に示すタイヤ形状決定方法では、第2タイヤ形状作成システムで作成したオリジナルタイヤ形状を再現するように、第1タイヤ形状作成システムにより作成した再現タイヤ形状の寸法パラメータの値とこの再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを用いたシミュレーション計算結果のセットを予測モデルの学習データとして用いるので、
図1に示すタイヤ形状決定方法において、第1タイヤ形状作成システムにより作成した再現タイヤ形状の寸法パラメータの値とオリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデルを用いたシミュレーション計算結果のセットを予測モデルの学習データとして用いる場合に比べて、予測モデルにおける予測精度を向上させることができる。
【0035】
(タイヤ形状決定装置)
図5は、
図1,4に示すタイヤ形状決定方法を行う一実施形態のタイヤ形状決定装置の構成図である。タイヤ形状決定装置10は、CPU12、RAM14、ROM16を備えるコンピュータにより構成されている。タイヤ形状決定装置10には、マウス・キーボード17及びディスプレイ18と接続されている。
タイヤ形状決定装置10は、ROM16に記憶されているプログラムを読みだして起動することにより、モジュール20が形成される。すなわち、モジュール20は、ソフトウェアモジュールである。RAM14には、以下説明する処理の途中結果等を一時記憶する。
【0036】
モジュール20は、形状作成部22、タイヤモデル作成部24、シミュレーション計算部26、パラメータ抽出部28、予測モデル作成部30、及び形状決定部32を備える。これらの機能は、主にCPU12の演算により実質的に実現される。
【0037】
形状作成部22は、第1タイヤ形状作成システム及び第2タイヤ形状作成システムをサブプログラムモジュールとして備え、CPU12からの指示により、第1タイヤ形状作成システムにより寸法パラメータを用いて再現タイヤ形状を作成し、また、第2タイヤ形状作成システムにより非寸法パラメータを用いてオリジナルタイヤ形状を作成する部分である。
【0038】
タイヤモデル作成部24は、形状作成部22で作成したタイヤ形状、すなわち、オリジナルタイヤ形状あるいは再現タイヤ形状を有するように、タイヤモデルを作成する部分である。タイヤモデルは、例えば、節点及び有限要素が規定されたモデルである。タイヤモデルは、数値計算が可能なモデルであればよく、例えば、有限要素モデルの他に、有限差分法や有限体積法等を用いてタイヤを再現した離散化モデルであってもよい。タイヤモデルは、複数のタイヤ形状に関して作成されるが、タイヤモデルにおけるタイヤ構成部材の種類、配置、及び寸法がいずれも同じになるように固定されて作成される。
【0039】
シミュレーション計算部26は、作成したタイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションの計算をする部分である。シミュレーションの計算の指定は、マウス・キーボード17からの入力により行われる。シミュレーションの計算は、タイヤに所定の内圧を充填したときのタイヤ形状の変形計算、タイヤが接地したときの接地形状の計算、タイヤが接地したときの接地圧分布の計算、タイヤのばね定数の計算、及び転がり抵抗の計算を少なくとも含み、さらに、シミュレーションの計算として、タイヤを接地して転動する処理を行って、転がり抵抗、摩擦力、摩擦エネルギ、コーナリング時に発生する力やモーメント、突起を踏み込んだ時の振動等を計算してもよい。
このようなシミュレーションの計算結果としてタイヤ性能に関する評価のための数値が算出される。
【0040】
パラメータ抽出部28は、第2タイヤ形状作成システムにより作成したオリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムにより再現することにより再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値を抽出する部分である。ここで、オリジナルタイヤ形状の再現とは、オリジナルタイヤ形状に最も近接する、あるいは一致する再現タイヤ形状を作成することをいう。
【0041】
予測モデル作成部30は、形状作成部22にて、非寸法パラメータの値に基づいて作成したオリジナルタイヤ形状あるいは再現タイヤ形状を有するタイヤモデルのシミュレーションの計算結果の数値と、パラメータ抽出部28で抽出した再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値をセットとして、非寸法パラメータの値を種々変更して処理を繰り返すことにより、上記セットを複数用意する。予測モデル作成部30は、用意した複数セットを、予測モデルを機械学習させるための学習データとして、予測モデルに付与する。学習データを作成するために、非寸法パラメータの値をどのように変更するかについては、マウス・キーボード17により適宜入力指示される。
予測モデルでは、例えばニューラルネットワークを用いたモデルの場合、階層数とノードが適宜設定されて、モデルが構築される。階層数は、例えば、マウス・キーボード17から指示入力される。ノード数は、モデルに構築に応じて変化する。こうして予測モデルは、寸法パラメータとシミュレーションの計算結果との関係を機械学習したモデルとなる。
【0042】
形状決定部32は、マウス・キーボード17から入力された所望のタイヤ性能の目標値から、機械学習した予測モデルを用いて寸法パラメータの値を算出することにより、目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定する部分である。目標値を実現する最適なタイヤ形状は、寸法パラメータで定められる。一方、予測モデルは、寸法パラメータの値を入力することによりシミュレーションの計算結果の値を出力するので、タイヤ性能の目標値からこの目標値を達成する寸法パラメータの最適値を探索する処理を行う必要がある。このため、寸法パラメータの最適値を算出するために、進化的アルゴリズムを利用することができる。このような最適値の探索方法は、マウス・キーボード17からの入力指示により設定される。
【0043】
ディスプレイ18は、モジュール20での処理結果や処理途中の情報を画面表示し、また、マウス・キーボード17から入力をするための入力設定画面を表示することができる。ディスプレイ18は、例えば、オリジナルタイヤ形状と再現タイヤ形状を画面表示し、また、形状決定部32で決定したタイヤ形状、さらには、寸法パラメータの値を画面表示する。
【0044】
図6は、
図1に示すタイヤ形状決定方法のフローの一例を示す図である。
【0045】
まず、形状作成部22は、第2タイヤ形状システムにより、非寸法パラメータの値を用いてオリジナルタイヤ形状を作成し、さらに、タイヤモデル作成部24は、作成したオリジナルタイヤ形状を有するタイヤモデルを作成する(ステップST10)。
【0046】
次に、シミュレーション計算部26は、作成したタイヤモデルを用いて設定したタイヤ性能のシミュレーション計算を行う(ステップST12)。シミュレーションの計算結果として、タイヤ性能に関する評価値が算出される。
【0047】
パラメータ抽出部28は、ステップST10で作成したオリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値を抽出する(ステップST14)。第1タイヤ形状作成システムでは、再現タイヤ形状(輪郭線)がステップST10で作成したオリジナルタイヤ形状(輪郭線)に最適に近似するように、寸法パラメータの値が種々変更されて、最適な寸法パラメータの値が抽出される。
【0048】
予測モデル作成部30は、ステップST12におけるシミュレーションの計算結果と、ステップST14における寸法パラメータの値のセットを学習データの一データとして用意する(ステップST16)。
次に予測モデル作成部30は、学習データの数(セット数)が所定数に達したか否かを判定する(ステップST18)。学習データの数が所定数に達しない場合、非寸法パラメータの値が調整されて(ステップST20)、ステップST10に戻り、第2タイヤ形状作成システムによりオリジナルタイヤ形状が作成される。こうして、学習データの数が所定数に達するまで、ステップST10~20が繰り返され、学習データが用意される。所定数は、例えば、数1000~数10000である。
【0049】
学習データ数が所定数に達すると、予測モデル作成部30は、学習データを予測モデルに供給して、予測モデルを機械学習させる(ステップST22)。
この後、機械学習した予測モデルを用いて、マウス・キーボード17から入力指示されたタイヤ性能の目標値を実現する最適なタイヤ形状を探索して決定する(ステップS24)。タイヤ性能の目標値を実現する最適なタイヤ形状を得る場合、例えば、寸法パラメータの値を種々変更しながら目標値に最も近似する最適値を求めるために、周知の進化的アルゴリズムを利用することができる。
こうして目標値を実現する最適なタイヤ形状がディスプレイ18に画面表示されるとともに、図示されないCADシステムに送られて、タイヤ構成部材の種類、タイヤ構成部材の寸法、タイヤ構成部材の配置位置等が検討され、タイヤ設計が行われる。
【0050】
図7は、
図4に示すタイヤ形状決定方法のフローの一例を示す図である。
【0051】
図7に示すフローのステップST52~54の内容は、
図6に示すフローのステップST22~24と同じであるのでその説明は省略する。
【0052】
まず、形状作成部22は、第2タイヤ形状システムにより、非寸法パラメータの値を用いてオリジナルタイヤ形状を作成する(ステップST40)。
【0053】
さらに、形状作成部22及びパラメータ抽出部28は、お互いに連動して第2タイヤ形状システムにより作成したオリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムにより再現する再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値を抽出して再現タイヤ形状を作成し、さらにタイヤモデル作成部24は、再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを作成する(ステップST42)。第1タイヤ形状作成システムにより再現タイヤ形状を作成する場合、パラメータ抽出部28は、寸法パラメータの値を抽出する。したがって、オリジナルタイヤ形状を第1タイヤ形状作成システムにより再現した場合、再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値も得ることができる。
なお、オリジナルタイヤ形状は、再現タイヤ形状と完全に一致せず、再現タイヤ形状の一部が、オリジナルタイヤ形状から変更される場合もある。このため、シミュレーションの計算では、再現タイヤ形状を有するタイヤモデルが用いられる。
【0054】
シミュレーション計算部26は、作成したタイヤモデルを用いて設定したタイヤ性能のシミュレーション計算を行う(ステップST44)。シミュレーションの計算結果として、タイヤ性能に関する評価値が算出される。
【0055】
予測モデル作成部30は、ステップST44におけるシミュレーションの計算結果と、ステップST42で得られた寸法パラメータの値のセットを学習データの一データとして用意する(ステップST46)。
こうして、予測モデル作成部30は、学習データの数が所定数に達するまで、ステップST40~50が繰り返され、学習データが用意される。所定数は、例えば、数1000~数10000である。
【0056】
こうして得られた学習データを用いて予測モデルを機械学習させ、機械学習した予測モデルを用いて、タイヤ性能の目標値を実現する最適なタイヤ形状を決定することができる(ステップST52,54)。
【0057】
このように、オリジナルタイヤ形状を再現した再現タイヤ形状に関する寸法パラメータの値と、再現タイヤ形状を有するタイヤモデルを用いたシミュレーションの計算結果の値とを学習データとして用意するので、所望のタイヤ性能の目標値を達成することができるタイヤ形状であって、実測可能な寸法パラメータの値により定まるタイヤ形状を安定して作成することができる。
【0058】
一実施形態によれば、寸法パラメータの値の抽出では、第1タイヤ形状作成システムで作成するタイヤ形状の輪郭線と第2タイヤ形状作成システムで作成したオリジナルタイヤ形状の輪郭線との誤差を目的関数とし、寸法パラメータの値を未知変数とする最小問題として寸法パラメータの値を抽出することが好ましい。この場合、寸法パラメータの値を抽出するために、例えば、Genetic Algorithm(遺伝的アルゴリズム)、Differential Evolution、Particle Swarm Optimization、Ant Colony Optimizationを含む進化的アルゴリズム、あるいは粒子群最適化法を利用する。実験計画法やラテンハイパーキューブ法を利用することもできる。輪郭線同士の誤差は、互いに最近傍位置同士の距離の二乗和、第1タイヤ形状システムにより作成するタイヤ形状の輪郭線に対して直交する方向における輪郭線同士の距離の二乗和、あるいは、輪郭線同士のタイヤ径方向の距離の二乗和とタイヤ幅方向の距離の二乗和の合計とすることができる。
【0059】
最適なタイヤ形状は、タイヤ内表面の形状あるいはタイヤ外表面の形状があるが、一実施形態によれば、最適なタイヤ形状は、タイヤの外表面の形状であることが好ましい。タイヤ外表面の形状は、タイヤを製造する時の金型に関する設計パラメータに有用な情報を提供することができる。
【0060】
一実施形態によれば、第2タイヤ形状システムによりオリジナルタイヤ形状を作成する際に用いる非寸法パラメータの値は、シミュレーションの計算結果の値が所定の目標値に近づくように、シミュレーションを繰り返し行う度にシミュレーションの計算結果の値に応じて調整することにより、タイヤ性能のシミュレーションの計算結果の値と寸法パラメータの値の複数セットを用意することが好ましい。このような処理は、遺伝的アルゴリズムを用いて非寸法パラメータの調整後の値を設定してもよい。タイヤ性能の目標値が複数ある場合、多目的遺伝的アルゴリズムを用いてもよい。
また、一実施形態では、第2タイヤ形状システムにより複数のオリジナルタイヤ形状を一度に作成することにより、複数セットからなる学習データを用意してもよい。この場合、オリジナルタイヤ形状を定める複数の非寸法パラメータの値は、実験計画法における直交表に従って設定してもよく、モンテカルロ法あるいはラテンハイパーキューブ法に従って設定してもよい。
【0061】
一実施形態によれば、タイヤ性能のシミュレーションの計算は、タイヤに空気を充填することにより変形するタイヤ形状の計算、タイヤが接地したときの接地形状の計算、タイヤが接地したときの接地圧分布の計算、タイヤのばね定数の計算、及び転がり抵抗の計算の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。これにより、タイヤ性能と寸法パラメータとの関係を構築することができる。
【0062】
このようなタイヤ形状決定方法は、コンピュータに実行可能なプログラムを実行させることにより達成することができる。
したがって、プログラムには、
図6あるいは
図7に示すフローを行う手順が記載されている。
【0063】
以上、本発明のタイヤ形状決定方法、タイヤ形状決定装置、及びプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更してもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
10 タイヤ形状決定装置
12 CPU
14 RAM
16 ROM
17 マウス・キーボード
18 ディスプレイ
20 モジュール
22 形状作成部
24 タイヤモデル作成部
26 シミュレーション計算部
28 パラメータ抽出部
30 予測モデル作成部
32 形状決定部